1: 2014/02/21(金) 17:51:24 ID:N8KC24fE
669: 2014/02/27(木) 01:31:51 ID:niZiz24I
2: 2014/02/21(金) 17:54:06 ID:N8KC24fE
「お前は勇者と魔王の争いに疑問を持たないのか?」
勇者「なにがだ?」
「歴史を紐解いていけばわかる。勇者と魔王は最終的に必ず頃し合っている」
勇者「勇者と魔王が争うのは自然なことじゃないのか」
「過去の結果だけを見ればな。だが、本当にその争いは必要だったか?」
勇者「必要じゃなかったら、争いは起きなかっただろ」
「まだ、魔物に知性がなく、本能のままに生きていた時代なら理解もできる」
勇者「……」
「だが、魔物たちも時代の流れの中で知性を得た。言語も理解できるようになった」
勇者「なにが言いたいんだ?」
「勇者と魔王の争いは仕組まれていた」
3: 2014/02/21(金) 17:54:56 ID:N8KC24fE
勇者「仕組まれていた?」
「魔王は勇者には勝てない。それは歴史が証明している」
勇者「そのことに魔物たちが気づかないわけがない、か」
「おそらく人類側にもいた。勇者対魔王という対立構造に疑問をもつ者が」
勇者「……」
「魔物は人類の敵と、俺たちは生まれたときから刷り込まれていた。ある種の洗脳と言ってもいい」
勇者「洗脳」
「そう、みんな洗脳にかかっていた」
「――かつて勇者だった俺も含めて」
5: 2014/02/21(金) 17:56:13 ID:N8KC24fE
♪
魔法使い「……ぷはっ。やっぱりお酒はこういうとこで飲んだほうがうまいわね」
僧侶「飲むペース、早くないか?」
魔法使い「酒場に来るのなんて久々だったから、ついね。ふふっ、おいしい」
僧侶「研究のほうが忙しいのか?」
魔法使い「仕事はたいしたことないわ。個人的な調べ物が、ちょっとね。あなたは?」
僧侶「私も報告するようなことは特にないな。赤ん坊の洗礼式が昨日あったが……って、興味ないか」
魔法使い「幼児洗礼ね。教会の権威が失墜したと言われて五百年……。
個人的な意見だけど、国民に洗礼の義務がなかったら、教会そのものが廃れていたんじゃないかしら?」
僧侶「たしかに社会的な求心力や世俗的権威は昔に比べれば堕ちた。だが、信仰そのものが消えたわけじゃない」
6: 2014/02/21(金) 17:57:02 ID:N8KC24fE
魔法使い「勇者と魔王が生きていた時代の教会は、その権威もすごかったそうね」
僧侶「教会がなかったら、人類は魔族に滅ぼされていたと言われてるからな」
魔法使い「ところでひとつ疑問が浮かんだのだけど」
僧侶「なんだ?」
魔法使い「勇者は生まれる前から決まっているのか。あるいは、生まれてから決まるのか、どっちだと思う?」
僧侶「私は……前者だ」
魔法使い「生まれる前から勇者として選ばれている、ね」
僧侶「『この世界は勇者と魔王のためだけに存在している』って言い伝えもあるくらいだ」
7: 2014/02/21(金) 17:57:37 ID:N8KC24fE
魔法使い「ふふっ、なるほど。あら、もう空になっちゃったわね。ここのお酒薄くない?」
僧侶「飲んでないから知らない。でも、見たところしっかり酔ってるぞ」
魔法使い「そう? でもまあ……勇者は生まれる前から決まっている方が色々納得よね」
僧侶「歴代の勇者が、勇者と認められる過程は様々だ。だが、彼らはなるべくしてなったんだと思う」
魔法使い「勇者って偉大よね」
僧侶「偉大?」
魔法使い「だって、記録によれば魔王を絶対に倒してるんでしょ」
8: 2014/02/21(金) 17:58:31 ID:N8KC24fE
魔法使い「私たちの今の生活があるのは勇者が魔王より強いおかげ。感謝しないとね」
僧侶「そうだな」
戦士「お待たせー。って、すっかり魔法使いはできあがっているね」
魔法使い「ふふっ、まあね」
僧侶「ずいぶんと遅かったな」
戦士「ホントにごめんよ。ていうか久しぶりだねー、僧侶ちゃん」
僧侶「ああ。遅くなったのは仕事のせいか?」
戦士「仕事のせいっていうか、趣味のせいかな?」
9: 2014/02/21(金) 17:59:27 ID:N8KC24fE
僧侶「演劇のほうか」
戦士「いやあ、スケジュール管理に、上演作品の時間決めとか、全然うまくいかなくてね」
僧侶「そうか」
戦士「しかも当時の管理者たちに施設の機材について聞いたら、使い方がわからないって言い出すんだ」
僧侶「使い方がわからないって、自分たちの施設だったのに?」
戦士「開館のときにしか援助金が出ないからって、無理に機材を買ったのが祟ったんだ。困ったもんだよ」
僧侶「大変だな」
戦士「でしょ? ほかにも……」
僧侶「戦士。お前の愚痴を聞きにきたんじゃないぞ、私は」
魔法使い「そうね。そこらへんにしておいたら?」
10: 2014/02/21(金) 18:00:12 ID:N8KC24fE
戦士「ごめんごめん。ここらへんにしておこうか」
僧侶「それで、私と魔法使いを呼び出した理由はなんだ?」
戦士「理由はふたつある」
魔法使い「ふたつ?」
戦士「『彼』が遠征から帰ってきてる」
僧侶「……帰ってきてる?」
戦士「そう。二日前にね」
魔法使い「あら。もう帰ってきてから二日も経っているの?」
戦士「うん。帰ってからもドタバタしていたみたいだね」
魔法使い「まあ、敵が敵だからね」
僧侶「それで?」
戦士「ん?」
11: 2014/02/21(金) 18:01:16 ID:N8KC24fE
僧侶「『ん?』じゃなくて。アイツとはいつ会えるんだ?」
戦士「うんうん、そうだよね。やっぱり僧侶ちゃんは早く会いたいよね?」
僧侶「なんだその顔は?」
戦士「いやいやべつに?」
魔法使い「ふふふっ。少し顔が赤いわよ?」
僧侶「…………勝手に言ってろ」
戦士「で、ふたつ目の呼び出し理由は――」
戦士「悪いねふたりとも。今からおシゴトだ」
12: 2014/02/21(金) 18:06:14 ID:N8KC24fE
♪
「お前はどこまで知っていた?」
勇者「勇者と魔王の争いが、仕組まれていたことはある手記で知った」
「ならば、その争いを仕組んだのが人類側だってこともわかってるはずだ。
俺は勇者である以前に単なるピ工口だったんだ」
勇者「……」
「愚かな俺は、結局真相に気づけなかった」
勇者「けど、もう終わった話だろ?」
「終わっていない。過ちは延々と続いている」
勇者「なにを言っている……?」
「真実を知りたいか、勇者?」
勇者「オレは……」
薬師「勇者様!」
「……追っ手か。またいつか会おう――勇者」
13: 2014/02/21(金) 18:07:43 ID:N8KC24fE
♪
薬師「勇者様、お怪我はありませんか……って、だ、大丈夫ですか?」
勇者「なんとかな……イテテ」
薬師「も、申し訳ありません。私がかけつけるのが遅れたばかりに……!」
勇者「お前は悪くないし、こうして生きてる。結果オーライだ」
薬師「肩を貸します。立てますか?」
勇者「大丈夫だよ。からだの頑丈さには自身ありだぜ」
薬師「そう言って毎回、むやみやたらにケガしてませんか?」
勇者「まあ、たしかに。あ、ほかのみんなはどうした?」
薬師「この付近に教会があったため、そちらへ向かわせました」
14: 2014/02/21(金) 18:09:12 ID:N8KC24fE
勇者「とりあえずオレたちも合流す……!?」
ウルフ「……」
薬師「完全に囲まれてますね、私たち」
勇者「気づかなかった。気配はあったか?」
薬師「いいえ。それにこのウルフたち、私たちを襲う気満々です」
勇者「なんで魔物が……って、今は考えてもしょうがないか。いけるか?」
薬師「私は大丈夫です。しかし、勇者様は大丈夫ですか? なんなら私が囮になって……」
勇者「そんなことさせられるわけないだろ? 」
15: 2014/02/21(金) 18:10:34 ID:N8KC24fE
薬師「……そう言うと思ってました」
勇者「これが終わったら今日はしっかり休む。ただし、このウルフたちを倒したら、だけどな!」
薬師「もう! 少しは 自分をいたわってくださいよね!」
「ほーんと、そちらのお嬢さんの言うとおりだと思うよ」
一体のウルフが勇者に飛びかかろうとしたときだった。
そのウルフは青い火球によって大きく吹っ飛んだ。
勇者「……へ?」
僧侶「この森が私の教会の近くでよかった」
魔法使い「……そのおかげで、早く見つけれた」
勇者「お前ら……」
戦士「半年ぶりかな。元気かい――勇者くん?」
16: 2014/02/21(金) 18:11:58 ID:N8KC24fE
♪
僧侶「意外とあっさり片づいたな」
戦士「まあ、魔物の群れとは言ってもしょせんはウルフだからね」
勇者「みんなが来てくれて助かった」
薬師「本当にありがとうございました」
戦士「まったく。久々の再開だから、ちょっとしたサプライズでもしようと思ったら、こっちが驚かされたよ」
勇者「ていうか、どうしてお前らがこんなとこにいるんだ?」
戦士「陛下からキミたちのバックアップを頼まれてね」
魔法使い「……急いできた」
勇者「そういうことか。いやあ、しかし本当に久々だな!」
僧侶「半年ぶりか。少しはなにか変化もあるかと思ったけど……」
魔法使い「……特に、見当たらない」
17: 2014/02/21(金) 18:13:31 ID:N8KC24fE
戦士「むしろ少しバカっぽくなってない?」
勇者「お前らな!」
僧侶「ふっ……」
勇者「……僧侶?」
僧侶「いや。たった半年なのに、このパーティの会話がずいぶんと懐かしい感じがしたんだ」
魔法使い「……そうね」
勇者「……半年、ぶりか」
勇者(オレが戦士、僧侶、魔法使いと魔界へ行ってから半年以上になるのか)
勇者(あっという間だったな)
18: 2014/02/21(金) 18:14:41 ID:N8KC24fE
♪
勇者(半年前。魔界から帰ってきたオレたちは真っ先に王様のもとへ行った)
戦士『ただいま帰還しました』
王『無事でなによりだ。ご苦労だったな』
戦士『はっ』
王『魔界について色々聞きたいことはあるが。魔王とは接触できたのか、僧侶?』
僧侶『あ、は、はい! その件につきましてですが! 魔界におきまして私たちは魔王その人と親しく……』
戦士『陛下、その前に一つお尋ねしたいことが』
僧侶『……?』
王『なんだ?』
戦士『勇者のことでお尋ねしたいことがあります』
勇者『……!』
19: 2014/02/21(金) 18:15:24 ID:N8KC24fE
王『すでにこの勇者の正体はつかんでいるか』
戦士『はい。彼の処置についてはどうなさるつもりでしょうか?』
王『そういうことか。報告書がこちらに届いてなかったが……この勇者の今後を案じてのことだったか』
勇者『どういうことだ?』
王『よかったな、勇者。卿のパーティはとても仲間思いだったということだ』
勇者『はあ……』
王『安心しろ。勇者にはこれからやってもらいたいことがあるからな』
勇者『会話がよく見えないんだが、えっと……』
僧侶『勇者様。今は静観なさっていてくださいまし』
勇者『え、ああ……わかった』
20: 2014/02/21(金) 18:16:22 ID:N8KC24fE
戦士『陛下。その言葉は彼に対してなにもしないと、受け取ってよいということでしょうか?』
王『そうだ。その代わりにこれから新たな任務についてもらう』
勇者『新たな任務?』
王『卿は自分の正体を知ったな。自分が造られた存在だと』
勇者『……はい』
王『実は卿らがこの国を出てから、封印された『本物の勇者』を復活させた』
勇者『本物の勇者!?』
王『最後まで聞け。その『本物の勇者』……『真勇者』とでも呼ぼうか。
彼を復活させたのは、戦況をひっくり返すためにどうしても必要だったからだ』
21: 2014/02/21(金) 18:17:33 ID:N8KC24fE
王『だが、真勇者は一週間前に消息を絶った』
魔法使い『やはり本当の勇者は生きていた、か……』
王『真勇者は余の側近を一人頃して逃走した。今のところ、手がかりらしい手がかりもない』
勇者『ほ、本物の勇者が人頃しをしたっていうのか!?』
王『そうだ。だがそれは肝要なことではない。卿には真勇者の捕獲任務に就いてもらう』
勇者『ひとりで本物の勇者を追うんですか?』
王『そんなわけはなかろう』
僧侶『わたくしたちが随行するということでしょうか、陛下?』
王『ちがう。僧侶、戦士、魔法使い。卿らには魔界について聞くことが山ほどある』
22: 2014/02/21(金) 18:18:08 ID:N8KC24fE
勇者『他のヤツらと、ってことですか?』
王『余が選出した者たちとだ。実力、経験ともに優れた者たちだ』
勇者『……』
戦士『陛下、個人的な疑問が色々と残っているのですが』
王『……この任務に卿らは一切関係ない。今回の件は場合によっては大事に至る可能性もある』
戦士『我々に教える情報はなにもない、ということですね』
王『そうだ。無論、このことは他言無用だ。それと――』
王『戦士、魔法使い、僧侶。三人には以降、監視をつけさせてもらう……以上だ』
23: 2014/02/21(金) 18:19:11 ID:N8KC24fE
♪
戦士「まあ色々あったけど、とりあえずおかえり勇者くん! カンパーイ!」
勇者「おう! サンキュー!」
戦士「ところで勇者くん」
勇者「なんだよ、急にマジメな顔して」
戦士「そちらのお嬢さんを紹介してくれないかい?」
薬師「あ、私ですか? そういえばきちんとした紹介をしていませんでしたね、失礼しました」
24: 2014/02/21(金) 18:20:37 ID:N8KC24fE
薬師「私は薬師というものです。勇者様の護衛、及び監視として例の追跡任務に就いております」
戦士「ほほう。ちなみに勇者くん。ボクは今、並々ならぬ怒りを感じているとこだよ」
勇者「なんかオレ、したっけ?」
戦士「キミも知ってのとおり、ボクや僧侶ちゃんにも魔界から戻って以降は監視がついてるのは知ってるよね?」
勇者「うん。それがどうしたんだ?」
戦士「ボクの監視役は調べたところ、むさくるしいオジサマだったわけだよ」
勇者「うん」
戦士「うん、じゃない。どうしてキミの監視役はこんな可憐なレディなんだい?」
薬師「そ、そんな……可憐だなんてやめてください、恥ずかしいです」
戦士「まさに淑女といった風情。この人が勇者くんの護衛って……うん」
勇者「結局なにが言いたいんだよ?」
戦士「おかしいだろ! どうしてボクとキミでこんなに監視役にちがいがあるんだい!?」
勇者「知らねーよ。ていうか監視役ってだけで、べつにそのオッサンと関わりはないんだろ?」
戦士「まあね。でも、どうせなら美女に見守ってもらいたいというのが、男の性でしょ?」
25: 2014/02/21(金) 18:21:16 ID:N8KC24fE
戦士「しかも可憐なだけじゃない。そのプロポーション……すばらしいの一言だね」
薬師「ど、どこ見てるんですか!?」
戦士「ボクとしたことが、失礼。とにかく勇者くん。ボクはキミが憎いよ。
こんなイタイケなお嬢さんと旅ができただなんて……」
薬師「……あの、お言葉ですけど私のほうが戦士様より年上ですよ」
戦士「え、そうなの?」
薬師「よく間違えられるんですけどね」
戦士「いや、これは申し訳ない。ボクとしたことが一生の不覚だったね」
勇者「薬師はすごい頭いいんだ。なんでも知ってるし」
戦士「へえ……薬師ちゃんは普段はなにやってるんだい?」
薬師「私、薬師であると同時に図書館司書もやっておりまして」
26: 2014/02/21(金) 18:21:54 ID:N8KC24fE
戦士「それはまた変わってるね」
薬師「と言うより、もと薬師だったと言ったほうが正解もしれませんね。現在は司書の仕事一本ですね」
戦士「へえ。どこの図書館に勤務してるの? 今度遊びにいっちゃおうかな?」
薬師「国立中央図書館の第三番館です」
戦士「……え!?」
勇者「どうしたんだよ、そんなにのけぞって?」
戦士「……国立図書館に勤めているだけでも、普通にすごいことなんだよ」
勇者「そうなのか。あんまりすごさがわからないな」
戦士「しかも、一般ではまずお目にかかれない蔵書が保管されていると言われる第三番館で働いているなんて……」
勇者「そんなにすごいのか?」
戦士「第三番館の資料は本当に貴重なんだ。
だから魔法による窃盗とかを防ぐために、魔術プロテクトが建物自体に施されている」
27: 2014/02/21(金) 18:22:33 ID:N8KC24fE
戦士「ただ美人なだけじゃなく、頭脳明晰だなんて……ますます勇者くんが憎いよ」
勇者「薬師がすごいのは知ってたけど、戦士が褒めるってことはよっぽどなんだな」
薬師「そんなに褒められるのはちょっと……あ、そういえば」
勇者「ん?」
薬師「勇者様のかつてのパーティメンバーだった、僧侶様と魔法使い様は?」
勇者「魔法使いはなんか用事があるとか言って帰っちゃったな」
戦士「僧侶ちゃんは……真勇者が侵入した教会で勤めていることもあって、ずっと取り調べを受けているね」
勇者「真勇者のことを調べるためとはいえ、もう一日経つのにな……」
戦士「それだけ真勇者を捕まえるのに必氏ってことだよ」
28: 2014/02/21(金) 18:23:22 ID:N8KC24fE
薬師「真勇者様は、いったいなにを考えられているんでしょう?」
戦士「さあね? 同じ勇者としてどうだい、勇者くん」
勇者「わかってたら、とっくに捕まえてるよ。だいたいオレは勇者じゃない」
戦士「ああ、そうだったね。普通より頭の悪い勇者だったね」
勇者「んだとお! ていうかさっきから戦士、全然飲んでないだろ!」
戦士「それがどうしたの?」
勇者「飲み比べ勝負だ」
戦士「へえ。いいのかい? 魔界でゴブリンとやりあったとき、ボクは圧勝してるんだよ?」
勇者「自分でイカサマして勝ったって言ってただろ?」
29: 2014/02/21(金) 18:24:16 ID:N8KC24fE
戦士「まさか勇者くんが、そのことを覚えているなんて……驚いたよ」
勇者「絶対にバカにしてるだろ! もういい、とにかく勝負だ!」
戦士「いいよ。その勝負、受けてあげるよ」
薬師「ゆ、勇者様も戦士様も飲み過ぎはよくありませんよ」
勇者「いや、これだけは譲れない」
薬師「というか勇者様、飲み比べとかしたことないんじゃあ……」
戦士「漢の勝負……正々堂々勝負!」
勇者「おう!」
30: 2014/02/21(金) 18:24:49 ID:N8KC24fE
♪
勇者「うぅー、ダメだ……ぎもぢわるい…………トイレぇ……」
戦士「はっはっは。まったく、ボクに勝とうなんて無理難題を自分に課すとはねえ」
勇者「くっそぉ……おぼえてろょ…………」
薬師「もおっ。 勇者様ったら無理しちゃダメってあれほど言ったのに……」
戦士「ホントだね。しかもボクがイカサマできるって知ってたのに引っかかてるしね」
薬師「い、イカサマしてたんですか?」
戦士「まあね。勝負っていうのは正々堂々卑怯な手を使って勝つものなんだよ」
薬師「……はあ」
31: 2014/02/21(金) 18:25:33 ID:N8KC24fE
薬師「それにしても勇者様が、あんなに生き生きしてる姿は久々に見ました」
戦士「そういえば、遠征任務中はどうだったんだい?」
薬師「勇者様に同行したのは私を含めて五人だったんです。ターゲットがターゲットなだけによりすぐりの人材で構成されてたんですが……」
戦士「どういう人間が選出されてたかは、想像がつくね」
薬師「ええ。腕利きではありましたが、性格的に勇者様と合わない方たちでした」
戦士「色々と苦労をしいられたようだね」
薬師「ええ。でも、あなたや僧侶様や魔法使い様のことを話してるときの勇者様はとても楽しそうでした」
戦士「……そっか」
薬師「ええ。早く真勇者様をつかまえて、みんなに会いたいって言ってました」
32: 2014/02/21(金) 18:26:07 ID:N8KC24fE
戦士「薬師ちゃん、キミを呼び出したのにはきちんとした理由があるんだ」
薬師「……交流を深めることが目的でないことはわかっていました」
戦士「さすがだね。実は真勇者捕獲のことなんだけど」
薬師「はい」
戦士「真勇者によって、キミたちの部隊で任務続行が不可能になったものもいるね?」
薬師「ええ。三名脱落しました」
戦士「そして、うちのギルドの連中がいくつかのルートを閉鎖をしたり、主要幹線の検問を行っている」
薬師「……それでも、ターゲットを捕まえるのは困難でしょうね」
戦士「もちろん。転移の魔法陣とかを使われていたらそんなものも意味がない」
33: 2014/02/21(金) 18:26:57 ID:N8KC24fE
戦士「ほかにも色んな要素を考慮して、真勇者捕獲のメンツは変更になった」
薬師「そのメンバーを言い当ててみましょうか?」
戦士「どうぞ」
薬師「勇者様、戦士様、僧侶様、魔法使い様、そして――私ですね」
戦士「そういうこと。というわけでよろしく頼むよ」
薬師「こちらこそよろしくおねがいしますね」
34: 2014/02/21(金) 18:27:53 ID:N8KC24fE
♪
勇者「……ううぅ…………これが、酔うってことか……」
勇者(まいったな。薬師も戦士も明日早いらしかったから、帰ってもらったけど……)
薬師『本当に大丈夫ですか? 宿まで送っていきますよ?』
勇者『ま、まだ……仕事残ってるんだろ……?』
薬師『そうですが……』
戦士『まあ今後はボクに飲み勝負なんて挑もうと思わないことだね』
薬師『……戦士様』
勇者「こんなときに魔法使いがいてくれればなあ……とっ、おっと……」
勇者(これがうわさの『千鳥足』か……ううぅ……)
僧侶「こんなところでどうなさいましたか、勇者様?」
勇者「……僧侶?」
35: 2014/02/21(金) 18:28:41 ID:N8KC24fE
僧侶「まあ! お酒臭いですわ、勇者様」
勇者「それは……今まで飲んでたからなんだけど、口調が変だぞ」
僧侶「……すまない。今の今まで信徒の方と話していたから口調が……飲みすぎたのか?」
勇者「ちょっと調子に乗りすぎた」
僧侶「仕方ないな。ほら、肩を貸してやる」
勇者「っと、サンキュ」
僧侶「こんな時間だ。さすがに今日はもうやることもないだろ?」
勇者「うん。あとは宿に帰って寝るだけだ」
36: 2014/02/21(金) 18:29:42 ID:N8KC24fE
僧侶「送っていく」
勇者「なんか申し訳ないな」
僧侶「まったくだ。泥酔することほどバカなこともないぞ」
勇者「そうだな」
僧侶「…………」
勇者「僧侶?」
僧侶「……あー、その、なんだ」
勇者「なんだ、ってなんだよ?」
僧侶「……その、もし迷惑じゃなかったら……なんだが……」
勇者「うん」
僧侶「私の家に寄ってかないか?」
37: 2014/02/21(金) 18:31:19 ID:N8KC24fE
♪
勇者「ここが僧侶の家なのか?」
僧侶「借家だ。狭いところだが、ひとりで暮らすには十分すぎるサイズだ」
勇者「なんか、魔界で最初に借りた家を思い出すな」
僧侶「そういえば、そんなこともあったな」
勇者「んー、夜風に当たったらだいぶ楽になったよ」
僧侶「そうか……あっ!」
勇者「うわっ!? 急にどうした?」
僧侶「…………勇者」
勇者「なんだ?」
僧侶「連れてきておいてなんなんだが、少々ここで待っていてくれないか?」
38: 2014/02/21(金) 18:32:09 ID:N8KC24fE
勇者「どうして?」
僧侶「それは……ちょっと家が人を迎え入れられる状態じゃない気がして……」
勇者「気にするなよ。オレと僧侶の仲だろ?」
僧侶「……ダメだ。今の状態ではとても客をもてなすことなどできない」
勇者「いや、客って……」
僧侶「頼む。私がいいって言うまでそこで待っていてくれ」
勇者「わ、わかった」
勇者(なんだろ? なんかオレに見られると困るもんでもあるのかな?)
39: 2014/02/21(金) 18:33:12 ID:N8KC24fE
♪
勇者(結局一時間近く、家の外で待ってようやく僧侶の家に入ることが許された)
勇者(途中ですごい物音が聞こえたり、悲鳴が聞こえた気がしたけど……)
僧侶「さあ、入ってくれ」
勇者「へえ、ここが僧侶の家かあ」
僧侶「狭いし、なにもない部屋だけどな」
勇者「いや、でもキレイだしなんか落ち着くな」
僧侶「……ありがとう。とりあえずソファにでもかけてくれ」
勇者「おう。でもなんで僧侶がひとり暮らししてるんだ? 教会の寮は?」
僧侶「魔界から戻って以降は、魔界についての報告のせいで街に来ることが増えてな。
私の勤めている教会は、山にあるだろ?」
40: 2014/02/21(金) 18:33:45 ID:N8KC24fE
勇者「ああ、そういうことか。たしかにあそこから毎回通ってたら大変だもんな」
僧侶「だから街と教会、両方に通いやすいここで下宿することにしたんだ。もちろん、許可をもらって」
勇者「そうか。色々と大変なんだな」
僧侶「寮生活とちがって気楽だが、その分色々と自分のだらしなさに気づかされるな」
勇者「僧侶ってだらしないのか?」
僧侶「…………」
41: 2014/02/21(金) 18:34:19 ID:N8KC24fE
勇者「そういや、今日ってずっと取り調べを受けてたんじゃないのか?」
僧侶「そうだが、取り調べそのものは夕刻には終わっていたんだ。だけど……」
勇者「なにかあったのか?」
僧侶「信徒の方と会ったって、さっき話しただろ?」
勇者「うん」
僧侶「それで色々と話を聞いていたら、あんな時間になって……」
勇者「僧侶って教会とかで働いているときは、そんなしゃべり方じゃないんだよな?」
僧侶「シスターがこんな話し方をしていたら、それだけで色々言われてしまう。お前も最初、私の口調で質問してきただろ?」
勇者「あー、そう言われてみればそうだな」
42: 2014/02/21(金) 18:34:55 ID:N8KC24fE
僧侶「常に演技しているようで疲れるが、こういう職に就いてしまった以上は仕方がない」
勇者「シスターやめて、ギルドの仕事だけやればいいのに」
僧侶「簡単に言うな……そういう勇者、お前はどうだったんだ?」
勇者「なにが?」
僧侶「遠征任務のことだ。この半年、ずっと真勇者を追っていたわけだろ」
勇者「んー、色々ありすぎてうまく言えないんだけどさ。世の中には色んな人がいるんだなって思ったよ」
僧侶「……感慨深げな口調だな。やっぱり大変だったのか?」
勇者「まあ大変だったんだろけど、必氏すぎてそれすら実感できなかったな」
僧侶「この街に帰ってきて落ち着いて、ようやく実感できたってところか」
勇者「そんな感じだな。でも、いい経験になったよ」
43: 2014/02/21(金) 18:35:49 ID:N8KC24fE
僧侶「…………真勇者、か」
勇者「僧侶?」
僧侶「いや、真勇者は陛下が蘇らせたらしいが……色々と引っかかることがある」
勇者「引っかかること?」
僧侶「なぜ真勇者は封印されていたのか。そもそも、そいつはいつの時代の勇者だったのかとかな」
勇者「そこらへんはオレたちも教えられていない」
僧侶「お前は真勇者と接触したことがあるんだったな?」
勇者「うん、昨日も含めて三回。でもまともに言葉を交わしたのは昨日が初めてだった」
僧侶「なにを話したんだ?」
勇者「アイツは魔王と勇者の争いは仕組まれていたって言っていた」
44: 2014/02/21(金) 18:37:36 ID:N8KC24fE
僧侶「仕組まれていた?」
勇者「この手記を見てほしいんだ」
僧侶「これは……お前が魔界から持ち帰ったものだったな」
勇者「この手記によると、人間と魔物は裏でつながりがあったみたいだ」
僧侶「……少し読ませてくれないか?」
勇者「うん」
45: 2014/02/21(金) 18:38:09 ID:N8KC24fE
僧侶「勇者も魔王も時代の流れとともに強くなって、いずれは世界を滅ぼす可能性がある……これは以前にも聞いた話だったな。
勇者が自身の力扱えるようにするために、国側は勇者たちに冒険させた」
勇者「魔物側はこれを知っていて、勇者が自分の力を制御できるようにするためのお膳立てをした」
僧侶「教会を襲わなかったり、最初から魔王自ら勇者たちを襲わないのもこのためか」
勇者「でも、最初からこんな自作自演じみたことがあったわけじゃないみたいだ」
僧侶「そうだな。手記に書かれていることが真実なら、途中からこのような形になったようだな」
勇者「そして、それを知ってるのは王様とかそういうえらい人のごく一部と魔王たちだけ」
僧侶「真勇者はこのことを知っているってことか」
勇者「うん。それに、アイツはこんなことも言っていた」
46: 2014/02/21(金) 18:38:58 ID:N8KC24fE
勇者「『過ちは延々と続いている』って」
僧侶「……よくわからないな」
勇者「うん」
僧侶「過ちは今も続いているというが、勇者はずっと生まれていなかった」
勇者「だいたい五百年ぐらい、だっけ?」
僧侶「ああ。どうして勇者が生まれなかったのか、その謎は今なお解明されていない」
勇者「うーん、なんか頭痛くなってきた」
僧侶「大丈夫か? 酒を飲んだときは水を飲むといいらしいが」
勇者「いや、そっちじゃない。難しい話をずっとしてたから……」
僧侶「……お前らしいな。作り置きしたスープがあるがいるか?」
勇者「僧侶の手作りだったら飲みたいな」
僧侶「そうか、ちょっと待ってろ」
47: 2014/02/21(金) 18:39:32 ID:N8KC24fE
♪
勇者「うまい……!」
僧侶「牡蠣と刻んだ人参、それから鶏肉、あとコンソメなども使っているんだが、どうだ?」
勇者「いやあ、からだに染みる感じがしていいな」
僧侶「口にあったなら、なによりだ」
勇者「……うまく言えないんだけどさ」
僧侶「うん?」
勇者「なんか久しぶりに本当においしいものを食べたって気がする」
僧侶「……そうか。まだあるから、よかったらおかわりしてくれ」
勇者「おう」
48: 2014/02/21(金) 18:41:28 ID:N8KC24fE
♪一週間後
戦士「さて、ようやく真勇者の足取りを掴めた。ボクら五人でこれから調査に行くわけだけど、質問はあるかい?」
僧侶「向かう場所はいったいどこなんだ?」
戦士「ある教会だよ。ここからけっこう遠いところだから、特別に魔法陣を使って現地まで行く」
勇者「真勇者が教会で目撃されたってことなのか?」
戦士「そのとおりだね」
薬師「あの、すみません。私からもひとつ質問いいですか?」
戦士「いいよいいよ、バンバン質問しちゃって薬師ちゃん」
薬師「ありがとうございます。教会というのはいったいどちらの教会なんでしょうか?」
戦士「――っていう街の教会だよ」
僧侶「どこかで聞いたことがある名前だな」
49: 2014/02/21(金) 18:41:58 ID:N8KC24fE
魔法使い「……昔は名所だった」
勇者「魔法使い?」
戦士「そう、そのとおり。全世界でも唯一と言っていい珍しい教会だよ」
勇者「どう珍しいんだよ?」
魔法使い「……勇者と魔王が、同時に氏んだ教会」
50: 2014/02/21(金) 18:42:53 ID:N8KC24fE
♪
戦士「実は最近、脚本作りのためにあるルートからいくつか『冒険の書』を手に入れたんだ」
僧侶「『冒険の書』ならそこらへんの書店でも購入できるだろ?」
戦士「僧侶ちゃんの言うとおりなんだけどね。でも市販のってかなり内容がかたよってるんだよ」
僧侶「私は子供のころに、生々しく事実が綴られていた冒険の書を読んだことあるが……」
戦士「それ違法なヤツなんじゃないの?」
僧侶「ありえるかもな」
戦士「個人的に一番知りたい旅の後のこととか、絶対に記載されてないしね」
勇者「冒険の書ってどんなことが書かれてるんだ?」
51: 2014/02/21(金) 18:45:17 ID:N8KC24fE
♪
戦士「実は最近、脚本作りのためにあるルートからいくつか『冒険の書』を手に入れたんだ」
僧侶「『冒険の書』ならそこらへんの書店でも購入できるだろ?」
戦士「僧侶ちゃんの言うとおりなんだけどね。でも市販のってかなり内容がかたよってるんだよ」
僧侶「私は子供のころに、生々しく事実が綴られていた冒険の書を読んだことあるが……」
戦士「それ違法なヤツなんじゃないの?」
僧侶「ありえるかもな」
戦士「個人的に一番知りたい旅の後のこととか、絶対に記載されてないしね」
勇者「冒険の書ってどんなことが書かれてるんだ?」
52: 2014/02/21(金) 18:46:01 ID:N8KC24fE
戦士「市販のものは基本的に旅行記みたいな感じかな。勇者くんが期待しているようなものじゃないよ」
勇者「魔物との戦いについて書かれてるわけじゃないのか」
戦士「そういうこと」
僧侶「魔物と言えば、先日のウルフたちはなぜ勇者たちを襲ったんだろうな」
薬師「たしかに。おかしいですね」
勇者「ん? なんで?」
魔法使い「……現代において、魔物は魔術による、施しを受けている」
勇者「ああ、そういえば初期の初期に聞いた気がするな」
薬師「そこにいるスライムなどは完全にしつけを受けておりますので、基本的になにもしてきません」
スライム「……」
53: 2014/02/21(金) 18:47:14 ID:N8KC24fE
勇者「なんていうか平和だな」
戦士「急に立ち止まってなにやってるんだい、勇者くん?」
勇者「……いや、本当に襲ってこないのかなって思って……って、痛ええっ!」
薬師「だ、大丈夫ですか勇者様!? 鼻血が出てます!」
勇者「ツンツンし続けただけなのに、顔面にタックルしてきたぞ……!」
戦士「そりゃあ魔物にも感情はあるからね。勇者くんだって、ボクにバカって言われ続けたら殴りたくもなるでしょ?」
勇者「そういうことか……」
薬師「でも、なにもしないかぎりは、魔物が人を襲うことはありません」
魔法使い「……そのとおり」
54: 2014/02/21(金) 18:50:20 ID:N8KC24fE
僧侶「薬師は魔物に関連した薬に携わっているのか?」
薬師「いえ、私自身は基本的に人体に効くものしか扱っておりません」
勇者「薬師の薬は本当によく効くんだよ」
戦士「まあうちの国の医療技術は、他国の追随を許さないしね」
勇者「そうなのか?」
薬師「ヒト由来の血液製剤の製造をはじめ、慢性的な病に対する治療法が私たちの国ほど確立されている国は、そうないでしょうね。
ほかにも因子補充療法や、それに伴ってできるインヒビターの対策などもすでに研究されてますしね」
勇者「えーと……」
薬師「それに、私たちの国が最初なんですよ」
勇者「なにが?」
薬師「魔術による肉体治療の欠陥について発見したことです」
55: 2014/02/21(金) 18:54:57 ID:N8KC24fE
魔法使い「……ほかにも、魔物研究においても、他国より、優れている点は多い」
戦士「そうだね。魔物のしつけが行き渡りすぎているせいで、チキンしかいないって揶揄する連中もいるからね」
僧侶「…………」
勇者「僧侶?」
僧侶「ん? ああ……」
勇者「どうした、急に黙りこんで」
僧侶「いや、少し考えてた。仮に昔の勇者が現状を知ったらどう思うのか」
勇者「らくでいいなあ、とか?」
魔法使い「……単純」
56: 2014/02/21(金) 18:56:50 ID:N8KC24fE
僧侶「それに、なんだか自分たちの国なのに奇妙な違和感を覚えてな」
戦士「違和感? なにが奇妙なんだい?」
僧侶「アンバランスというか……うまく言えないが、不自然な気がしてならない」
戦士「不自然、ねえ」
薬師「あっ、目的地が見えてきましたね」
勇者「なんだかんだ魔法陣を出てからも、けっこう歩いたよなあ」
魔法使い「……ここが、例の教会のある、街」
57: 2014/02/21(金) 18:57:31 ID:N8KC24fE
♪
勇者「これが、かつての名所って言われた教会なのか?」
戦士「そうだよ。なんだか不服そうだね」
勇者「もっとすごい教会なのかなって思ってたからな。いたって普通だな」
戦士「この教会はかなり昔に建て直されたものなんだ。とんでもないことが発覚したせいでね」
薬師「とんでもないこととはなんですか?」
僧侶「この教会の地下で、五体バラバラにされた氏体が大量に冷凍保存されていたらしい」
勇者「……え」
薬師「そんな恐ろしいことが……」
戦士「しかも人間の氏体だけじゃなく、魔物の氏体まで保管されていたそうだよ」
魔法使い「……その事件が、発覚して、教会は一度、取り壊された」
勇者(あれ? この話ってどこかで聞いたことがあるような……)
58: 2014/02/21(金) 19:00:27 ID:N8KC24fE
薬師「こぢんまりとした教会という印象ですが、ここにはなにかあるんですか?」
戦士「わりと急な話だったから、完全には調べられてないんだけど、ちょっとだけ資料が用意できたから見てほしい」
勇者「なんだこの絵?」
戦士「当時の兵士たちの目撃証言をもとに書かれた絵だよ」
勇者「なんとなく戦士と魔法使いと僧侶が描かれてるのはわかるけど……」
僧侶「この地面に倒れているのは、女性っぽいな。あと神父らしき男もいるな」
魔法使い「……魔物も描いてある」
戦士「実はその倒れている女性は魔王なんだよ。そして、その魔物は勇者」
勇者「はあ? 魔王はともかく、このへんてこりんな魔物が勇者?」
59: 2014/02/21(金) 19:03:36 ID:N8KC24fE
戦士「そういう反応をするだろうとは思ったよ。勇者くん、例の手記はもってるかい?」
勇者「ああ。これがどうかしたのか?」
戦士「ちょっと貸して。ええっと、このページを見て」
『教会神父が逮捕された事件のようだが、その内容と見出しは実にセンセーショナルだった。
この神父の教会の地下には五体バラバラの人間の氏体が冷凍保存されていたらしい。
しかも、人間だけでなく魔物の氏体までも。
さらに驚きなのはこの教会はかつての勇者と魔王が争い息絶えた、いわゆる名所らしかった』
勇者「思い出した! 今の話、どこかで聞いた覚えあると思ったら、姫様の手記に載ってたんだ!」
僧侶「伯爵邸でこの内容を全員で読んだな」
薬師「話に割りこんですみません。その手記はいったいなんなんですか?」
60: 2014/02/21(金) 19:06:12 ID:N8KC24fE
勇者「そういえば、薬師には一度も見せたことなかったな。これ、ある姫様の手記なんだ」
薬師「そうだったんですか」
戦士「ちなみに続きはこんなふうになっている」
『しかし、内容は明らかに隠蔽されていた。
私は側近の人に頼んで、その神父の資料を集めてもらうことにした。
そうして私が辿り着いた真実は、あまりにも恐ろしいものだった。
この神父は勇者と魔王を篭絡し、見事に頃してしまった。あまりにも鮮やか過ぎる犯行』
僧侶「この手記が正しいのだとすれば、この魔物は勇者ということか?」
戦士「おそらくね。この絵画資料の裏付けとして、ほかの記録も引っ張ってきた」
僧侶「……特に齟齬なども見当たらない、か」
戦士「手記に書かれてるとおり、記録は隠蔽されてるみたい。この事件の全容はわからないんだ」
61: 2014/02/21(金) 19:08:13 ID:N8KC24fE
薬師「事件の詳細がわかれば、真勇者様の手がかりもつかめるかもしれませんね」
戦士「その可能性はかなりあるね」
勇者「んー」
魔法使い「……どうしたの?」
勇者「なんかおかしくないか、この絵?」
僧侶「特におかしなところは見当たらないが」
戦士「魔物の姿をした勇者。魔王。当時の戦士と魔法使いと僧侶。そして神父……」
魔法使い「……記録とも一致、している」
勇者「いや、記録との矛盾とかそういうことじゃなくて……」
市警「た、大変です!」
62: 2014/02/21(金) 19:09:24 ID:N8KC24fE
戦士「えらく騒がしいね。どうしたんだい?」
市警「ま、魔物が……! 見たこともない魔物が街付近まで来てるんですっ!」
僧侶「魔物?」
市警「すでにその魔物のせいで、怪我人が何名か出ています……! 我々ではとても……っ!」
勇者「とにかくその場所に向かおう!」
戦士「薬師ちゃんと魔法使いは念のため、街の市警と協力して一般人の避難を!」
薬師「わかりました!」
戦士「キミ! その魔物が出たって場所まで案内して!」
市警「は、はい!」
63: 2014/02/21(金) 19:11:44 ID:N8KC24fE
♪
戦士「案内ご苦労だったね。キミも避難の方に回ってくれて構わないよ」
市警「はい! あとはよろしくおねがいします!」
勇者「この魔物って……ゴーレム?」
僧侶「魔界にしかいないはずのコイツらがなぜ……」
戦士「考えるのはあとだよ。全部で八体、さっさと片づけようか!」
僧侶「なにがなんでも、街への侵入だけは避けるぞ!」
勇者「言われなくても!」
64: 2014/02/21(金) 19:14:07 ID:N8KC24fE
すでに勇者は剣を鞘から抜いていた。
並みの大人よりもずっと大きな土の魔物へと突進する。
魔力を込めた剣を渾身の力で振り下ろす。ゴーレムの腕が地面を転がる。
勇者「このゴーレム、魔界でやりあったヤツよりずっと弱い!」
僧侶「どうやらそうみたいだな」
ゴーレムの腕が、勇者に向かって振り下ろされる。
勇者はそれをなんなく避けると、剣を振るってゴーレムの胴体を薙いだ。
65: 2014/02/21(金) 19:16:34 ID:N8KC24fE
勇者「これなら楽勝……のわぁっ!?」
勇者の鼻先を青い炎が掠めた。炎はそのままゴーレムに直撃して、胴体に大きな風穴を作る。
唸り声をあげて魔物が地面へと倒れ伏す。
勇者「なにすんだよ!?」
戦士「ごめんごめん、わざとじゃないよ?」
僧侶「しゃべってる場合じゃないっ」
戦士「そうだね。あと五体か。やっぱりゴーレムは火に弱いみたいだね」
軽口を叩きつつも、戦士は次々と魔術による炎をゴーレムへと飛ばしていく。
火によって巨体がのけ反った隙をついて、僧侶がゴーレムの懐に飛びこむ。
炎の拳がゴーレムに直撃する。巨体は仰向けに倒れてしばらく痙攣したが、やがて動かなくなった。
66: 2014/02/21(金) 19:17:31 ID:N8KC24fE
僧侶「『ほのおのパンチ』……魔界から帰って以降は、使ってなかったが問題はないな」
勇者「よし! あと四体!」
残りのゴーレムを全部倒すのに、時間はさほどかからなかった。
最期の一体は三人がかりだったせいか、あっさりと終わった。
僧侶「ずいぶんとあっけなかったな」
戦士「そうだね。魔物じたいはボクらの敵じゃなかったけど、問題はそこじゃないね」
勇者「なんで魔界にしかいないはずのゴーレムが、この街にいるのか、ってことか」
?「――気になるかい?」
勇者「……おまえは!」
67: 2014/02/21(金) 19:24:49 ID:N8KC24fE
戦士「どこかで見たことあるなと思ったら、例の赤ローブのひとりだね」
?「久しぶりだねえ。私のことを覚えていてくれたんだねえ」
勇者「忘れるわけないだろ。こっちは危うく殺されかけたんだ」
戦士「そうなの?」
勇者「魔界で牢屋に捕まった時があっただろ?」
戦士「懐かしいね。全員、牢屋に入れられちゃったんだよね」
勇者「あのときオレだけ牢屋から脱出したよな。その際にコイツとやりあったんだ」
?「あのときは逃げられたけど、今度はそうはさせないんだよねえ」
68: 2014/02/21(金) 19:25:41 ID:N8KC24fE
僧侶「そもそもなぜここにいる?」
?「答える義理はないねえ。それにキミのような尼僧は好みじゃないし」
勇者「話が長いっ! とにかく捕まえればいいんだろ!」
勇者が赤ローブに飛びかかろうとしたときだった。低い唸り声。
倒したはずのゴーレムたちが、のっそりとからだを起こしはじめる。
僧侶「なに……?」
?「ゴーレムは魔物というより、むしろ兵器といったほうがいいコイツらは魔力を注げばいくらでも復活できるしねえ」
戦士「そういえば魔界でもそうだったね。勇者くん、もうやることはわかったね?」
勇者「ああ! コイツを叩く!」
69: 2014/02/21(金) 19:27:31 ID:N8KC24fE
?「ふっ、軽口叩いてる場合か?」
赤ローブの人差し指の先端が光り輝く。眩い光は瞬く間に光弾と化し、勇者めがけて放たれる。
横っ飛びに飛んでこれを避ける。光の球が地面を深くうがつ。
まともに当たっていれば、ただではすまなかっただろう。
勇者「あぶなっ!」
ゴーレムと交戦している戦士と僧侶の力を借りることはできない。
次々と繰り出される光球をなんとかやりすごす。
?「防戦一方だねえ……哀れな勇者だ」
遠距離攻撃が使えない勇者にとって、赤ローブはまさに天敵だった。
70: 2014/02/21(金) 19:28:05 ID:N8KC24fE
勇者「なめんなよっ!」
光の球の間隙をぬって、剣を敵に向かって投擲する。普通の人間には真似できない芸当だった。
赤ローブの男の目が驚愕に見開かれる。
?「なっ……!?」
赤ローブの男が咄嗟に剣を避けたことで、大きな隙ができた。
跳んで距離をつめる。剣の代わりに、右足を思いっきり振り上げた。
はっきりとした手応えが足に伝わってくる。赤ローブが後方へと吹っ飛んだ。
?「……っ!」
勇者「どうだ、少しはオレも成長しただろ」
?「ふっ……成長ねえ」
71: 2014/02/21(金) 19:29:36 ID:N8KC24fE
赤ローブの男の指が、再び勇者に向けられる。
敵の攻撃をかわそうとして、男の視線が自分の背後へと向けられていることに気づく。
勇者「しまった……!」
赤ローブの狙いがゴーレムと交戦している僧侶だと理解し、無意識に射線上に飛び出していた。
?「ねえ? 本当に甘いよねえ?」
勇者「ぐっ……」
放たれた光弾を避ける術が勇者にはなかった。だが、勇者に光球が当たることはなかった。
勇者の目の前で光がはじける。淡い影がふたつ、にじむように現れた。
72: 2014/02/21(金) 19:30:38 ID:N8KC24fE
薬師「この前のことといい、度重なる遅参、まことに申し訳ございません勇者様」
魔法使い「……お待たせ」
勇者「薬師に魔法使い!」
戦士「やっぱり保険はかけておくものだね」
魔法使い「……魔法陣の仕込み、しといて、正解だった」
?「なぜだ……なぜキサマが……」
光の球の進行を阻んでいたのは、薬師が身にまとうローブだった。
独自の意識を持っているかのように、ローブははためいて光弾を受け止めていた。
73: 2014/02/21(金) 19:31:26 ID:N8KC24fE
薬師「勇者様に手出しはさせません」
僧侶「お前のゴーレムは倒した。この人数差でまだやるか?」
戦士「おとなしく投降してくれると嬉しいんだけどなあ」
?「ふっ、今回のところは私が引いてあげよう。だが、次はない――」
勇者「待てっ……!」
僧侶「魔法陣……前もって準備はしてあったか」
勇者「だあぁもうっ! また逃げられた……!」
74: 2014/02/21(金) 19:32:05 ID:N8KC24fE
♪
僧侶「んっ……怪我人の手当は終わったのか?」
薬師「はい。市警の方々も手伝ってくださったので、助かりました」
魔法使い「んっ……ぅんっ」
薬師「……この宿のミートパイ、おいしいですね」
僧侶「……そうだな」
魔法使い「……」
僧侶「……」
薬師「……えっと、勇者様と戦士様はどちらに?」
僧侶「あの二人なら、おそらく訓練でもしてると思う」
薬師「なんだかんだ仲がいいですよね、勇者様と戦士様」
魔法使い「……うん」
75: 2014/02/21(金) 19:34:13 ID:N8KC24fE
僧侶「……」
薬師「あっ。あと二、三日はこの街に滞在するみたいですね?」
僧侶「……真勇者のこともあるが、今回のゴーレムのこともあるしな」
魔法使い「……」
薬師「……」
僧侶「……」
僧侶(なぜか会話が続かない。気まずい……どっかに消えてしまいたい)
76: 2014/02/21(金) 19:35:03 ID:N8KC24fE
薬師「そ、そういえば、おふたりは付き合いは長いんですか?」
魔法使い「……半年」
薬師「じゃあそこまで長いわけではないんですね」
僧侶「急ごしらえのパーティだったからな、私たち……魔法使い」
魔法使い「……なに?」
僧侶「アルコールの類はもってるだろ?」
魔法使い「……飲みたいの?」
僧侶「今さら飲みたいって、私が言うと思うか?」
魔法使い「……ちがうの?」
薬師「お言葉ですが、いちおう今も任務中ですよ?」
僧侶「そうなんだが……魔術でアルコール分解できるんだから飲んでくれないか?」
77: 2014/02/21(金) 19:38:06 ID:N8KC24fE
魔法使い「喜んで……んっ」
薬師「……あの、どのようなお酒かは知りませんが、勢いよく飲み過ぎでは?」
僧侶「大丈夫。それに……」
魔法使い「……ふふっ、僧侶。気まずいからって、私にお酒を飲ませるなんてね」
薬師「ま、魔法使い様?」
僧侶「魔法使いはこのとおり、酒を摂取すると豹変する」
魔法使い「豹変ではないわ。ただ、お酒を飲むと、言葉が脳みそにぷかぷか浮いてくるの」
薬師「ようは、アルコールで気分がよくなって、普段より舌が回るということですね」
魔法使い「身も蓋もない言い方をするわね」
薬師「すみません……」
78: 2014/02/21(金) 19:39:53 ID:N8KC24fE
魔法使い「気にしないで。事実そのものだから。それより、ひとつ聞いていい?」
薬師「はい、なんですか?」
魔法使い「例の赤いローブの男の魔術を防いだワザは、なんだったのかしら?」
薬師「怪我した人の傷口の縫合に糸を使いますよね? ただ、太い糸だとどうしても傷が残ってしまうんです」
僧侶「たしかに下手な医者にやられると、傷口もけっこう残るな」
魔法使い「最近では細い糸による縫合もできるんでしょ?」
薬師「ええ。でも切れてしまうことがあるんです。だから、魔力を注入して補強してあげるんです」
魔法使い「あのときは、それの応用でローブの繊維に魔力を流しこんだってことね」
僧侶「糸に魔力を流しこむって……そんなことができるのか?」
薬師「簡単ではありませんけど、不可能ではないですよ。そうですね……えいっ」
79: 2014/02/21(金) 19:41:25 ID:N8KC24fE
魔法使い「あら。キレイで長い髪なのにもったいない」
薬師「今、一本だけ抜いたこの髪に魔力を流し込むと、こんな感じになります」
魔法使い「面白いわね。まるで生物みたい。あっちこっちに動くのね」
僧侶「そういえば、まだあのときのお礼を言ってなかったな」
薬師「そんなお礼だなんて……」
僧侶「ありがとう。薬師がいなかったら、私も勇者も大怪我を負っていた」
薬師「お役に立てたなら、よかったです。あの、私からも質問いいですか?」
魔法使い「なにかしら?」
薬師「…………えっと、やっぱりいいです」
魔法使い「聞きにくいことなの?」
80: 2014/02/21(金) 19:43:02 ID:N8KC24fE
薬師「い、いえ。ただ、あまりにくだらない質問だったので……」
魔法使い「ひょっとして勇者のこととか?」
僧侶「!?」
薬師「え、ええ!? な、なんでわかったんですか? 魔法ですか?」
魔法使い「そんなに驚かなくても。まあ、魔法と言えば魔法かもね」
薬師「魔法による読心術、ということでしょうか?」
魔法使い「いいえ。女のカンよ」
薬師「当てずっぽうってことですか?」
魔法使い「正解。なんとなく言ってみたのだけど、図星だったみたいね」
薬師「……まあ、そうですね」
魔法使い「でも、私たちも彼のこと詳しいわけじゃないわよ」
81: 2014/02/21(金) 19:43:57 ID:N8KC24fE
僧侶「むしろ、勇者のことに関しては薬師のほうが知ってるんじゃないか?」
薬師「一緒にいる時間はみなさんより長いですけど……」
魔法使い「長いけど?」
薬師「みなさんと再開してからの勇者様は、すごく生き生きしてるので、気になったんです」
僧侶「でも、この前勇者とふたりで話したとき、薬師のことをけっこう話していたよ」
薬師「なにを話されたんでしょう?」
僧侶「いや、色々と話したが、自分の妹でも褒めるような感じだったな」
薬師「妹って、私のほうが年上なのに……」」
魔法使い「僧侶、なんだかつまらなそうな顔してるわね」
僧侶「……もとからこういう顔だ」
82: 2014/02/21(金) 19:44:43 ID:N8KC24fE
魔法使い「そう。逆にあなたは嬉しそうね。心なしか顔も赤いわよ」
薬師「そ、そうですか……」
魔法使い「ふふっ、彼ったらモテモテね。
そうそう、せっかく話もはずんできたし、もうひとつ聞いてもいい?」
薬師「私ですか?」
魔法使い「ええ。薬師のあなたが、なぜ今は図書館勤務をしてるのか、少し気になったの」
薬師「それは……」
僧侶「答えづらい質問だったら、答えなくていい。誰にだって秘密はある」
薬師「いえ、そんな大した話でもないんです。ただ、挫折しただけですから」
魔法使い「挫折?」
薬師「本当は医者になりたかったんです。でも、私には才能がなくて諦めたんです」
83: 2014/02/21(金) 19:45:21 ID:N8KC24fE
薬師「学費を稼ぐために、図書館で働いていたんですけど気づいたら……」
魔法使い「なるほど。目的と手段が入れ替わってしまったってことね」
薬師「そうですね。でも、今の仕事もすごくやりごたえありますし、こちらのほうが断然、向いていたようなので」
僧侶「すごいな」
薬師「え?」
僧侶「私は中途半端な人間だから。あの図書館で働けるってことはそれだけで、すごいことだ」
薬師「そんな中途半端だなんて……僧侶様の炎の攻撃はすごかったですよ!」
僧侶「あの『ほのおのパンチ』がまさしく中途半端の証なんだけどな」
薬師「そうなんですか?」
魔法使い「この子、一見真面目で勤勉そうに見えるけど、けっこう面白いのよ。ねえ?」
84: 2014/02/21(金) 19:46:14 ID:N8KC24fE
薬師「そうなんですか?」
僧侶「……いや、まあ、否定はできないかも」
薬師「よかったらその話、聞かせてもらえませんか!」
僧侶「いや、聞いても時間を浪費するだけだぞ」
薬師「そんなことないです!
……って、すみません。急に聞かれても困りますよね」
僧侶「そんなことはないけど」
薬師「私、仕事の関係とかで同年代の友達がほとんどいなくて……だから楽しくて、つい」
僧侶「……いいよ、話す」
薬師「本当ですか!?」
魔法使い「ふふっ、よかったじゃない。恥ずかしい話を聞いてもらえて」
僧侶「うるさい」
85: 2014/02/21(金) 19:46:52 ID:N8KC24fE
♪
戦士「少しは腕をあげたようだけど、まだまだボクには及ばないね」
勇者「くっ……今回こそは、と思ったのに」
戦士「まあもっと修練を積むことだね」
勇者「も、もう一回だ! 次やればたぶん勝てる!」
戦士「勘弁してよ。ボクはもうヘトヘトだよ」
勇者「オレはまだ全然余裕あるぞ」
戦士「勇者くんは無駄に体力はあるからね」
勇者「……体力はあればあるほどいいんだよ」
戦士「うん?」
勇者「半年間、真勇者を追ってわかったよ。旅って本当に大変なんだって」
戦士「……そうだね」
86: 2014/02/21(金) 19:47:54 ID:N8KC24fE
勇者「冒険とかってもっと楽しいものかと思ったけど、本当につらかった」
戦士「珍しいね。勇者くんがそんなことを言うなんて」
勇者「ん、ああ……ちょっとな」
戦士「まあ、キミも色々と思うことがあったんだね」
勇者「…………」
戦士「ところで勇者くん、キミのもってる例の手記を見せてくれないかい?」
勇者「ん? べつにいいけど。ほい」
戦士「ありがとう」
勇者「手記になにかあるのか」
戦士「ごめん。ちょっと黙ってくれるかい」
勇者「……はい」
87: 2014/02/21(金) 19:49:18 ID:N8KC24fE
勇者(五分ぐらい沈黙したところで、戦士が手記を閉じた)
戦士「やっぱり」
勇者「なにがやっぱり、なんだよ」
戦士「勇者くん。手記のこの例のページは見たことあるかい?」
勇者「ひととおりは読んだけど、これは……」
『……XXX年、魔王と勇者激しく争う。
……XXX年、新たな魔王と勇者、激闘する。両者の争いにより争いにより小さな集落が滅ぶ。
……XXX年、魔王と勇者この世に生を受け、村を舞台に闘う。氏者数百人。
……XXX年、魔王と勇者また復活、街で氏闘を繰り広げその地を破滅に追い込む。氏者数千人。
……XXX年、何度目の復活か不明、勇者と魔王因縁の争いにより山を二つ消滅させる。
……XXX年、ひたすら続く争い、勇者と魔王、魔王が建設させた魔王城にて決闘。魔王城とともに魔王を、勇者が滅ぼす』
88: 2014/02/21(金) 19:49:48 ID:N8KC24fE
戦士「今回調べた教会はね、勇者と魔王が争った際に一回崩壊したんだ」
勇者「勇者と魔王が戦ったのが理由か?」
戦士「うん。だけどね、教会の崩壊以外はこれといって、被害はなかったんだ」
勇者「……それが問題あるのか?」
戦士「おかしくないかい? この手記の記録によれば、勇者は山とか吹っ飛ばしてるんだよ」
勇者「……教会が壊れるぐらいの被害しかないってことは、おかしいってことか」
戦士「うん」
勇者「そういえば、魔王も似たようなことを言ってたな。でも、これってどういうことなんだ?」
戦士「この勇者と魔王がたまたま弱かったのか……」
勇者「……待てよ」
戦士「なにかわかったのかい?」
勇者「関係あるかわからないけど、手記に昔の魔王と姫様の会話が載ってるんだ」
89: 2014/02/21(金) 19:51:18 ID:N8KC24fE
※
『魔王対勇者……この対立構造ってある意味、もっとも 犠牲の出ない形なの。
軍隊は街を守る。そういう名目で動かない。そして、勇者たち一行だけが、魔王たちを倒しに行く』
『まるで魔王への貢物のようだな。それだけを聞いていると』
『ある意味そうなのかもね。それに色々と奇妙よね……』
『どういう意味だ?』
『だって、少人数でパーティを組ませているのは、本来勇者一行の存在を魔物たちに知られないためよね?』
『……そーなんだろうな』
『でも国民は勇者という存在がなければ、不満が出る……絶対に存在する回復魔法を使える者の存在……確実にそろう勇者パーティ……』
近年、回復魔法について疑問の声があがっている。魔法による回復の人体への影響。
勇者様と魔王の戦いはまるで誰かに仕組まれているようだ。
しかも、なるべく犠牲を出さない形をとっている。
90: 2014/02/21(金) 19:52:24 ID:N8KC24fE
『よく、これだけ、きちんと勇者様たちの記録が残ってるわよね』
『ん、そうだな。誰が記録を残しているんだろうな』
戦い続ける勇者様と魔王。
犠牲を出さない最小限の戦争。
半永久的な争い。
誰かによって記され続ける記録。
『そう、まるで誰かが勇者様と魔王の争いを仕組んでるみたい』
積み上げられた記録を私は見た。なにかが、おかしい。
※
91: 2014/02/21(金) 19:53:13 ID:N8KC24fE
勇者「今回のことと関係があるかな?」
戦士「……」
勇者「戦士?」
戦士「……女王はなにかに気づいていたんだ」
勇者「真勇者も、勇者と魔王の争いが仕組まれているって言っていたな」
戦士「ふうむ。謎は解決するどころか、さらに増えたね」
勇者「勇者と魔王の記録って、冒険の書のことじゃないのか?」
戦士「いや。おそらく、それとはまたちがう記録が存在してたんだよ」
勇者「なんのために?」
戦士「ボクが知ってるわけないでしょ。そういえば、勇者くん」
勇者「なんだ?」
92: 2014/02/21(金) 19:54:07 ID:N8KC24fE
戦士「例の絵画資料を見たとき、なにかがおかしいって言ってたじゃん。なにがおかしいと思ったんだい?」
勇者「大したことじゃないぞ。あの絵に書かれていたのって、たしか……」
戦士「魔物化した勇者。魔王の氏体。当時の戦士と魔法使いと僧侶。あとは神父だね」
勇者「そうそう、それ」
戦士「それで、この中のなにがおかしいんだい?」
勇者「いや、この中におかしなものなんてないぞ」
戦士「どういうこと?」
勇者「逆だよ。本来なきゃいけないものが、ないんだよ」
戦士「なにが?」
勇者「勇者の本当のからだ」
戦士「……あっ」
93: 2014/02/21(金) 19:55:34 ID:N8KC24fE
勇者「記録の方にも書かれてなかったんだろ? 勇者のからだはどこ行ったんだ?」
戦士「……たしかに。記録では勇者のからだについて、一切触れていない」
勇者「それにしても、戦士」
戦士「なんだい?」
勇者「バカなオレでも気づけたのに、お前は気づくことできなかったんだな?」
戦士「……ほほう、それはボクをバカにしているのかな?」
勇者「いやいや、バカなオレが頭脳明晰な戦士をバカにするわけないだろ?」
戦士「普段から頭を酷使していると、簡単なことを見落とすものなんだよ」
勇者「……それは普段、オレが頭を使っていないってことか?」
94: 2014/02/21(金) 19:56:30 ID:N8KC24fE
戦士「いやいや、戦闘専門の勇者くんがこの事実に気づいたことは見事だよ、本当に」
勇者「っんだとお!」
戦士「まあでも、なにを調べるべきか、少し見えてきたよ」
勇者「オレのおかげで、だろ?」
戦士「そういうことにしておいてあげよう」
95: 2014/02/21(金) 19:59:32 ID:N8KC24fE
戦士「まあ、小難しいことを考えるのはここらへんにしておこうか」
勇者「腹減ったな。アイツら先にご飯食べてるよな?」
戦士「その前に勇者くん」
勇者「ん?」
戦士「さっきよりも、もっとマジメな話をしよう」
勇者「さっきよりマジメな話?」
戦士「勇者くんは『女の子』には興味ないのかい?」
勇者「は?」
戦士「キミとはこの手の話はしてこなかっただろ。気になるんだよねえ」
勇者「女かあ。そこらへんはよくわからないんだよなあ」
96: 2014/02/21(金) 20:00:37 ID:N8KC24fE
戦士「はあ……勇者くん、キミはそれでも男なのかい?」
勇者「そんなこと言われてもなあ」
戦士「男の人生の半分を決めるのは女だよ?」
勇者「そ、そうなのか?」
戦士「僧侶ちゃんなんてどうだい? 彼女は料理上手だし、シスターだしなかなかいいと思うけど」
勇者「どうだい、とか言われてもなあ。よくわからん」
戦士「情けない。じゃあ、薬師ちゃんは?」
勇者「薬師?」
戦士「半年近く、苦楽をともにしてきたんでしょ? それなりになにかあったでしょ?」
勇者「うーん。そういや、一回、裸を見かけたな」
戦士「な、なんだって!? あのナイスバディを生で拝んだのかい!?」
97: 2014/02/21(金) 20:03:13 ID:N8KC24fE
勇者「いや、完全にってわけじゃないぞ。チラッ……ぐらい?」
戦士「……感想は?」
勇者「うーん、胸が大きかったとか?」
戦士「いいなあ! 勇者くんもときめいただろ?」
勇者「珍しく薬師に怒られたから、それどころじゃなかった」
戦士「信じられない。ボクが勇者くんの立場ならなあ……」
勇者「女とか恋とかってそんなに重要なのか?」
戦士「人生を豊かにするもので、大人になるために必要なものだよ」
勇者「ほほう。お前も恋とかそういうのをしてるのか?」
戦士「ボクはモテるからね。まあ、恋とかって無理してするものじゃないけどね」
勇者「……恋愛か」
98: 2014/02/21(金) 20:06:09 ID:N8KC24fE
戦士「そうだ、勇者くん」
勇者「なんだ、そのニヤニヤ顔は?」
戦士「さっきの薬師ちゃんの話で、ある有名なクイズを思い出したんだよ」
勇者「クイズ? どんなクイズなんだ?」
戦士「問題。胸が大きい女性はお尻も大きい。なぜでしょうか?」
勇者「……なんでだ」
戦士「実に簡単なクイズだし、立派な大人なら誰でも答えられるものだよ」
勇者「むぅ……」
戦士「ああ、そうそう。ちょっとこの手記借りるね。一通り、内容に目を通しておきたい」
99: 2014/02/21(金) 20:06:49 ID:N8KC24fE
♪
僧侶「……というわけなんだ」
薬師「なんだか意外ですね。僧侶様が勇者になることに憧れていたなんて」
僧侶「なぜか今は教会で祈りを捧げているけどな」
魔法使い「……あら、彼が戻ってきたわね」
勇者「やっぱり先に食べてたか」
僧侶「戦士はどうしたんだ?」
勇者「自分の部屋に戻るって。なんか考えたいことがあるって」
薬師「勇者様、擦り傷がまた増えていますよ?」
勇者「戦士にボコボコにされたんだよ」
魔法使い「魔界にいたときも、ずっと手合わせをしてたわね」
100: 2014/02/21(金) 20:07:36 ID:N8KC24fE
僧侶「……」
勇者「どうした、僧侶?」
僧侶「ん……いや、べつに……」
勇者「?」
魔法使い「ふふっ……どうしちゃったのかしらね」
勇者(しっかし、戦士が出してきたクイズの答えが全くわからないな)
薬師「難しい顔されていますけど、なにか考えごとですか?」
勇者「……うん、ちょっとな」
101: 2014/02/21(金) 20:09:15 ID:N8KC24fE
♪
勇者「……ごちそうさま、っと」
魔法使い「食べながらもずっと考えごとをしてたようだけど。なんなら相談に乗るわよ?」
勇者「でも、戦士に言われたんだよな」
魔法使い「なんて?」
勇者「このクイズは立派な大人なら、誰にだってわかるって」
薬師「どんなクイズなんですか?」
勇者「『胸が大きい女性はお尻も大きい、なぜでしょうか?』って、クイズなんだけど」
薬師「……な、なんて会話をしてるんですか!」
魔法使い「また戦士も、くだらないこと言ってるわね」
勇者「考えているんだけど、わかんないんだよな。僧侶」
僧侶「……なんだ」
102: 2014/02/21(金) 20:09:53 ID:N8KC24fE
勇者「僧侶はわかるか?」
僧侶「なぜ私に聞く……?」
勇者「特に理由はないけど……って、僧侶にわかるわけないか」
僧侶「……は?」
勇者「だって僧侶ってちっさいじゃん」
薬師「ゆ、勇者様……!」
勇者「へ?」
僧侶「……部屋に戻って寝る」
勇者(その後、薬師に謝罪をしてください、と言われて十分ほど黙りこむ僧侶に謝り続けた)
勇者(なにがダメだったんだろ?)
103: 2014/02/21(金) 20:10:39 ID:N8KC24fE
休憩
104: 2014/02/21(金) 21:28:14 ID:zoCZL9y6
♪
王「卿の持っている手記を余に渡せ」
勇者(例の教会から帰ってきたら、王様に呼び出されてそんなことを言われた)
勇者「え……?」
王「卿が持っている姫の手記だ」
勇者「あれ? オレ見せてませんでしたっけ?」
王「とぼけるな」
勇者「……」
王「どうした? なにか不服なことでもあるのか?」
勇者「いや、そういうわけじゃないけど」
王「複写を終わらせしだい、手記は卿に返す」
勇者「……わかりました」
王「安心しろ。この手記の複写に関しては、薬師に託す」
王「卿の持っている手記を余に渡せ」
勇者(例の教会から帰ってきたら、王様に呼び出されてそんなことを言われた)
勇者「え……?」
王「卿が持っている姫の手記だ」
勇者「あれ? オレ見せてませんでしたっけ?」
王「とぼけるな」
勇者「……」
王「どうした? なにか不服なことでもあるのか?」
勇者「いや、そういうわけじゃないけど」
王「複写を終わらせしだい、手記は卿に返す」
勇者「……わかりました」
王「安心しろ。この手記の複写に関しては、薬師に託す」
105: 2014/02/21(金) 21:29:08 ID:zoCZL9y6
♪
戦士「勇者くん」
勇者「なんだよ?」
戦士「あの手記を赤の他人に渡すことに抵抗があるのかい?」
勇者「よくわかんないけど、なんかイヤだなあと思ったんだよ」
戦士「だからって陛下相手にあの態度はまずいよ」
勇者「わかってるよ」
戦士「だったらいいんだけどね」
勇者「あの手記のこと、王様には話したことないのに。なんでバレたんだろ?」
戦士「……監視のせいかもね」
勇者「監視?」
戦士「魔界から帰ってきてからは、ボクらには監視がついてるでしょ」
106: 2014/02/21(金) 21:29:59 ID:zoCZL9y6
勇者「そいつらに見られていたってことか?」
戦士「断言はできないけどね。可能性としてはあると思う」
勇者「むぅ……」
戦士「まあいいじゃん。薬師ちゃんの手に渡ったんだし」
勇者「そーだな。ていうか戦士、これからの予定は?」
戦士「なんだい? ボクの予定を聞いてどうする気だい?」
勇者「真勇者が現れない限りは、今は休暇ってことになってるんだよ」
戦士「つまり暇なわけね」
勇者「そういうこと。もう今日は王様への報告もすんだし、用事もないんだ」
戦士「生憎だけどボクは忙しいんだよ。ギルドの方の報告書のまとめの時期だしね」
勇者「ふうん、大変なんだな」
107: 2014/02/21(金) 21:31:47 ID:zoCZL9y6
戦士「ほかにも個人的な用事もあるしね」
勇者「せっかくだから一緒に昼飯でも食おうと思ったのに」
戦士「なにが悲しくて男とふたりっきりで、食事しなきゃならないんだい」
勇者「そういや、あのクイズの答えって結局なんなんだ?」
戦士「ああ、アレ? 勇者くん。あの程度のクイズをまだ解けていなかったのかい?」
勇者「…………やっぱり自力で解く」
戦士「はははは、がんばりたまえ」
108: 2014/02/21(金) 21:32:37 ID:zoCZL9y6
♪
勇者(……それにしても、ひとりだとなにしていいか、わからないな)
勇者(とりあえずはご飯食べに行って……それからどうしよ)
勇者「暇だけど、暇のつぶしかたがわからない……」
薬師「お暇なんですか?」
勇者「のわあっ!?」
薬師「そんなに驚かなくても……突然、背後からすみません」
勇者「び、びっくりした」
薬師「ふふっ。こんなところで立ち止まってどうしたんですか?」
勇者「ちょっとこれからどうしようか、考えてたんだ」
薬師「ひょっとして用事でもあるんですか?」
109: 2014/02/21(金) 21:34:06 ID:zoCZL9y6
勇者「ぜんぜんっ。暇すぎて困ってんだ」
薬師「偶然ですね。私も今日は休暇を頂いたんです」
薬師「もし時間があるのでしたら、そこのカフェでお食事しませんか?」
勇者「……カフェか」
薬師「カフェはダメなんですか……?」
勇者「ちがうちがう。ただ、魔界に行ったときのことを少しだけ思い出したんだ」
薬師「どうしてですか?」
勇者「魔界ではじめて入った店もカフェだったんだよ」
勇者「よし、せっかくだし行こうぜ」
110: 2014/02/21(金) 21:34:57 ID:zoCZL9y6
♪
薬師「うーん……」
勇者「……」
薬師「こっちのほうが……でも、こっちも捨てがたい…………いっそふたつとも……」
勇者「薬師?」
薬師「あ、はい! どうしました?」
勇者「いや、なんかメニュー見て、ずっとうなってるから」
薬師「すみません。どれにしようか決められなくて……」
勇者「これってデザートメニューだよな?」
薬師「はい。今日のお昼は、パンケーキにしようと思いまして……ふたつ」
勇者「え? ふたつ食べるのか?」
薬師「料理の代わりに、パンケーキふたつを食べようと思ったんですけど……」
111: 2014/02/21(金) 21:37:43 ID:zoCZL9y6
薬師「食べすぎ……ですよね、やっぱり」
勇者「食べれるなら、食べればいいんじゃないか?」
薬師「うーん、そうなんですけど……」
勇者「……そんなに自分の胸を見てどうしたんだ?」
薬師「ち、ちがいます! お腹を見てたんですっ」
勇者「あ、そっか」
薬師「……食べ過ぎると、その、お腹にお肉がついてしまいますので」
勇者「腹に肉がつくのがダメなのか?」
薬師「ダメというか、イヤというか、まあできるなら回避したいです」
勇者「じゃあ食べるのをやめればいいじゃん」
薬師「……それができたら人間は苦労しません」
112: 2014/02/21(金) 21:39:32 ID:zoCZL9y6
薬師「……で、結局ふたつ頼んじゃいましたけど」
勇者「すごいなあ、このパンケーキ」
薬師「そうですね。ホイップクリームの多さがすごいですね」
勇者「これ、クリームの高さが二十センチぐらいあるよな」
薬師「はい……んっ、甘くておいしい……幸せです」
勇者「本当に嬉しそうだな」
薬師「私、こういう店、知らなかったんです。でも僧侶様が教えてくださって」
勇者「僧侶もこういうのを食べるんだな、なんか意外だ」
薬師「とっても幸せです……ふふっ」
勇者「そんなにおいしいのか?」
113: 2014/02/21(金) 21:40:23 ID:zoCZL9y6
薬師「食べてみますか?」
勇者「いいの?」
薬師「はい。それにもう一個のパンケーキがあとからきますし」
勇者「じゃあお言葉に甘えて」
薬師「えっと……はい」
勇者「……なんだ?」
薬師「……そ、その……いわゆる『あーん』というものです」
勇者「あーん?」
薬師「細かいことはいいので、はい!」
勇者「んぐっ!?」
薬師「あ、す、すみませんっ! い、勢いが……」
勇者「ゲホッゲホ……ちょ、ちょっとびっくりしたぞ」
薬師「も、申し訳ありません」
114: 2014/02/21(金) 21:41:03 ID:zoCZL9y6
勇者「でも甘いものっておいしいんだな」
薬師「せっかくだからコーヒーもいかがですか?」
勇者「コーヒーは……あんまり好きじゃない」
薬師「好き嫌いしない勇者様が珍しいですね」
勇者「オレには苦いだけの液体にしか思えないんだよ」
薬師「……試しに今、飲んでみてください」
勇者「えー……」
薬師「大丈夫ですから。たぶん、普段よりちょっとだけおいしく思えますよ」
勇者「……わかった」
薬師「はい、どうぞ」
勇者「……本当だ。よくわからないけど、普段よりおいしい」
115: 2014/02/21(金) 21:41:57 ID:zoCZL9y6
薬師「コーヒーって、甘いものと一緒に飲んだほうがおいしく飲めるんです」
勇者「不思議だな。でも、普段よりおいしく感じるな」
薬師「甘すぎて食べられないものも、コーヒーがあると食べられるんです」
勇者「へえ」
薬師「特に甘いものには、飲みやすいドリップコーヒーをおすすめします」
勇者「コーヒーの種類はよくわかんないな」
薬師「じゃあ今度は、一緒においしい水出しコーヒーがある店に行きますか?」
勇者「オレと?」
薬師「……勇者様以外に誰がいるんですか?」
勇者「いや、そうなんだけどさ」
薬師「いや、ですか?」
勇者「そんなことないよ。むしろ暇なときは誘ってほしい」
116: 2014/02/21(金) 21:43:11 ID:zoCZL9y6
薬師「よかった」
勇者「ん?」
薬師「いえ、もし断られたらどうしよかと思いまして」
勇者「なんでオレが断ると思ったんだ?」
薬師「ある種の心理の働き、です」
勇者「へ?」
薬師「……なんでもです」
勇者「どういうことか気になるぞ」
薬師「き、気にしないでください。ほら、早く食べないと冷めますよ」
勇者「ん、そうだな」
117: 2014/02/21(金) 21:44:50 ID:zoCZL9y6
勇者「それにしてもさ」
薬師「?」
勇者「料理ひとつにしても、オレにはわからないことだらけだ」
薬師「勇者様?」
勇者「オレってなんにも知らないんだって、なにかある度に思うんだ」
薬師「それは勇者様だけではありませんよ」
勇者「そんなことないだろ。薬師は頭いいし」
薬師「たしかに勉強は人並み以上にできるかもしれません」
勇者「オレは勉強をしたことすらないからな」
薬師「でも、私も間違いなく知らないことのほうが、知ってることより多いですよ」
勇者「薬師でも?」
118: 2014/02/21(金) 21:45:42 ID:zoCZL9y6
薬師「みんなそうです。人生って知らないことを知るための時間だと思うんです」
勇者「知らないことを知る……」
薬師「もちろん、人が生きていく理由は、人の数だけあると思いますけど」
勇者「薬師にもあるのか、その生きる理由っていうのが」
薬師「……あるとは思います。はっきりとは、わかりませんけど」
勇者「どうしてだ? 自分のことだろ」
薬師「自分のことだから、と言ったほうがいいかもしれません」
勇者「…………」
薬師「私には成し遂げたいことがあるんです」
勇者「夢ってことか?」
薬師「夢とはちょっとちがうかもしれません」
119: 2014/02/21(金) 21:46:47 ID:zoCZL9y6
薬師「でも、生きているうちには果たしたいことです」
勇者「どんなことなんだ?」
薬師「……秘密です」
勇者「ええー、教えてくれないのか」
薬師「ごめんなさい。でも……ときどき、迷うことがあるんです」
勇者「迷う?」
薬師「はい。自分のしようとしていることは本当に正しいことなのかって。
でも、そんな疑問を抱きながらも、そこへ進むことをやめられないんです」
勇者「……誰でもそうなのかな?」
薬師「え?」
勇者「オレは自分がどういう存在なのかを知らない」
120: 2014/02/21(金) 21:47:51 ID:zoCZL9y6
勇者「だからってわけじゃないけど、なんて言うのかな……。
普通の人もそうやって自分自身のことがわからないってことあるんだな」
薬師「そうですよ」
勇者「そうなのか」
薬師「誰だって色んなことに迷いながら、前に向かって生きてるんです」
勇者「……オレもどんどん進んでいかなきゃな」
薬師「そのとおりです……あっ、次のパンケーキがきましたね」
勇者「しかし、ホントにすごい量の生クリームだな。食べきれるのか?」
薬師「困ったことにたぶん、ペロッと食べられると思います。でも……」
勇者「でも?」
薬師「いいえ! これも葛藤の末に導き出した選択肢です……!」
勇者(明日から減らせば大丈夫、と言って薬師は宣言通りペロッとパンケーキを食べきった)
121: 2014/02/21(金) 21:49:13 ID:zoCZL9y6
♪
勇者(薬師は用事を思い出したため、途中でわかれた)
勇者(それで、現在オレは書店で本を探していた)
勇者「って言っても、べつになにか目的の本があるわけじゃないんだよな」
女の子「なんでブツブツ言ってるの?」
勇者「えっと、キミは?」
女の子「お兄ちゃんが立ってるとこが、あたしの見たいコーナーなの」
勇者「……つまり?」
女の子「どいて」
勇者「お、おう」
勇者(なんて失礼な子どもなんだ……って、この程度のことで怒っちゃダメだな)
勇者「大人の対応、大人の対応っと」
122: 2014/02/21(金) 21:50:07 ID:zoCZL9y6
女の子「ねえ、お兄ちゃん」
勇者「なんだよ?」
女の子「手が届かないから取って」
勇者「どれだよ?」
女の子「そこじゃない……そう、それ」
勇者「なんだこれ……小説みたいだけど」
女の子「そう。娯楽小説。恋愛についての」
勇者「恋愛ねえ。誰が読むんだよ?」
女の子「私に決まってるでしょ」
勇者「え!? 子どもが恋愛についての本を読むのか?」
女の子「これぐらい普通よ」
123: 2014/02/21(金) 21:51:05 ID:zoCZL9y6
勇者「でも、どうせ恋愛とか言われても、わからないだろ?」
女の子「なんでわからないの?」
勇者「……だって難しいんだろ、恋愛って」
女の子「そうだね。恋愛における心の機微とか、お兄ちゃんには理解できないかもね」
勇者「……ば、バカにしてるのか?」
女の子「ほら。自分が馬鹿にされているかどうかすら、判別ついてないし」
勇者「じゃあキミは恋愛というものを経験したことがあるのか?」
女の子「それは……」
勇者「なんだ? キミも経験がないんじゃあ、えらそうに語っちゃダメだろ」
女の子「さいてー」
勇者「は?」
124: 2014/02/21(金) 21:51:48 ID:zoCZL9y6
女の子「レディに対して普通そういうことを聞く?」
勇者「レディって……キミ、明らかに子どもだろ」
僧侶「勇者様、こんなところでなにをなさっているんですか?」
勇者「僧侶……なんでここに?」
僧侶「わたくしは使徒職の関係でこれから……」
女の子「あっ! シスターだ!」
僧侶「お久しぶりですわね」
女の子「えへへ、久しぶり。最近全然会わないから、寂しかったんだよ」
僧侶「最近はべつの仕事で忙しくて……元気でしたか?」
女の子「うんっ。またシスターのお話を聞きたいなあ」
僧侶「また時間が空いているときにでも、教会へいらしてください」
125: 2014/02/21(金) 21:52:45 ID:zoCZL9y6
勇者「……ふたりは知り合いなのか?」
女の子「そうだよ。ていうかお兄ちゃんこそ、シスターと知り合いなの?」
勇者「まあな」
女の子「こんな人がシスターみたいな素敵な人と知り合いだなんて……変なの」
勇者「はあ?」
僧侶「今日は本を買いにきたのですか?」
女の子「うんっ。シスターのおすすめしてくれた本を買いにきたの」
勇者(それからしばらく、女の子と僧侶が話しているのをオレは眺めていた)
126: 2014/02/21(金) 21:53:31 ID:zoCZL9y6
♪
勇者「あんな女の子でも恋愛について、興味があるんだな」
僧侶「むしろあの年頃の子どもだからこそだろう」
勇者「恋愛なんてオレでもまったく理解できないのに」
僧侶「……ひとつ言っておくが、私は恋愛小説を彼女に薦めたわけじゃないからな」
勇者「え?」
僧侶「恋愛のことを扱った神話についての本を薦めたんだ」
勇者「……そうか」
僧侶「勘違いするなよ」
勇者「勘違い?」
僧侶「……べつに。ただ、恋愛小説を読んでいるわけじゃないと言いたかっただけだ」
勇者「はあ……」
僧侶「もういい。今の話は忘れて」
127: 2014/02/21(金) 21:54:03 ID:zoCZL9y6
勇者「ていうか、今は仕事の途中か?」
僧侶「ああ。使徒職のほうでちょっとした訪問をしていたんだ」
勇者「そうか。オレと話していて大丈夫か?」
僧侶「予定よりだいぶ仕事が早く進んでいるから、多少は大丈夫だ」
勇者「ならいいんだけどさ」
僧侶「勇者は本でも探していたのか?」
勇者「まあ、そんなとこ」
僧侶「どんな本を探していたんだ?」
勇者「いや、目的の本があったわけじゃないんだ」
僧侶「おすすめの本でも教えようか?」
勇者「そうだなあ……そうだ。恋愛についてわかる本ってあるか?」
僧侶「……どうしたんだ、勇者?」
128: 2014/02/21(金) 21:55:24 ID:zoCZL9y6
勇者「なにがだよ?」
僧侶「お前が恋愛についての本を読みたいなんて……す、好きな人でもできた……とか?」
勇者「いや、あんな子どもでも、恋愛に興味をもつんだと思ったら気になってきた」
僧侶「そ、そうか……」
勇者「……?」
僧侶「そうだな。おすすめならいくつか……」
勇者「あれ? 僧侶って恋愛の本とか読まないんだっけ?」
僧侶「それは……」
勇者「今そうやって言ったもんな」
僧侶「……」
129: 2014/02/21(金) 21:56:13 ID:zoCZL9y6
僧侶「というか、どうして恋愛なんてものにお前が興味をもつんだ?」
勇者「どうしてとか言われてもなあ。なんとなく?」
僧侶「なんとなく、か」
勇者「オレって知らないことだらけだろ」
僧侶「……そうかもな」
勇者「だから、とりあえず興味をもったことから知ろうかなって思ったんだ」
僧侶「恋愛に興味をもったってことか?」
勇者「ああ」
僧侶「……まあ、いいんじゃないか」
130: 2014/02/21(金) 21:56:56 ID:zoCZL9y6
僧侶「……ひとつ、戦士からの伝言があることを忘れていた」
勇者「戦士から?」
僧侶「お前と会う前に遭遇したんだが、二日後に魔界から密使が来るらしい」
勇者「魔界から遣いのヤツが来て、なにするんだ?」
僧侶「忘れたのか? 例の街を襲ったゴーレムのことを」
勇者「あっ」
僧侶「もともと、訪問は前から決まっていたそうだ。
だが来てもらう日を急遽早くしてもらったらしい」
勇者「もとからオレたちの国に来ることは決まっていたってことか」
僧侶「おそらく、本来は答礼訪問のようなものだったのだろう」
勇者「でも、オレたちの国には存在しないゴーレムが出て、予定変更したってことか」
僧侶「そういうことだ」
勇者「……魔界か。懐かしいな」
131: 2014/02/21(金) 21:57:51 ID:zoCZL9y6
僧侶「まだ半年しか経ってないぞ」
勇者「半年でも、オレにはすごく長い時間に感じるよ」
僧侶「そのうち、その半年が短く感じるようになる」
勇者「短くなるって……半年は半年だろ?」
僧侶「十年前の半年と、今の半年では長さがまったくちがう」
勇者「そうなのか」
僧侶「少なくとも私の場合はそうだった」
勇者「オレもそうなるのかな」
僧侶「……どうだろうな」
132: 2014/02/21(金) 21:59:29 ID:zoCZL9y6
勇者「今ので思い出したけど、僧侶が前に言ってたことってなんなんだ?」
僧侶「なんのことだ?」
勇者「前に行った街に入る前に、違和感がどうとか言ってただろ?」
僧侶「医療のことや魔物のことを話したときのことか」
勇者「そうそう」
僧侶「……あくまで個人的な感想だ」
勇者「どういうことだ?」
僧侶「私たちの国は、もともと魔術によって繁栄した国だ」
勇者「それぐらいならオレも知ってるよ」
僧侶「だから、化学兵器やその類の技術は決して進んではいない」
133: 2014/02/21(金) 22:00:42 ID:zoCZL9y6
僧侶「私たちが魔界を訪問したのも、彼らの技術を自分たちのものにするためだ」
勇者「そうだったな」
僧侶「魔術に頼りきっていたからこそ、このような状況に陥った」
勇者「自然な流れだな」
僧侶「ここまではな。では、どうして医療技術だけは異様に発達している?」
勇者「……なんでだ?」
僧侶「私にもわからない」
勇者「僧侶にもわからないのか」
僧侶「わからないからこそ、違和感を覚えるんだ」
134: 2014/02/21(金) 22:01:21 ID:zoCZL9y6
僧侶「私たちが魔界を訪問したのも、彼らの技術を自分たちのものにするためだ」
勇者「そうだったな」
僧侶「魔術に頼りきっていたからこそ、このような状況に陥った」
勇者「自然な流れだな」
僧侶「ここまではな。では、どうして医療技術だけは異様に発達している?」
勇者「……なんでだ?」
僧侶「私にもわからない」
勇者「僧侶にもわからないのか」
僧侶「わからないからこそ、違和感を覚えるんだ」
135: 2014/02/21(金) 22:02:52 ID:zoCZL9y6
僧侶「魔術大国である国が、医療に関してはそれの使用を禁止された。
それにも関わらず、医術の進歩は凄まじいものだ」
勇者「でも、薬師が言ってたぞ。最近は魔術を使った治療が見直されてるって」
僧侶「おそらくそれは、薬品の精製に魔術を用いるということだろう」
僧侶「どちらにしよう、うちの医療発達の初期段階に魔術は使われてないはずだ」
勇者「じゃあ、魔物についての違和感はなんなんだ?」
僧侶「同じような理由だ。うちの国だけなんだ」
勇者「なにが?」
僧侶「ここまで魔物の管理がきちんとしているのは」
勇者「ほかの国はちがうのか」
僧侶「少なくとも、私たちの国のような魔物体制の国はない」
136: 2014/02/21(金) 22:05:07 ID:zoCZL9y6
勇者「でも、医術の発達は悪いことじゃないだろ?」
僧侶「もちろんだ。だから先に言ったとおりだ」
勇者「個人的な感想ってことか」
僧侶「そうだ、ただの尼僧の戯言だ」
勇者「戯言ではないと思うけどな。言われてみれば、そのとおりかもって思った」
僧侶「本当か?」
勇者「その顔は信用してないだろ」
僧侶「……どんな顔をしている、私」
勇者「なんかニヤけるのをこらえている、みたいな感じだ」
僧侶「……たぶんそれは、嬉しいからだと思う」
勇者「え?」
僧侶「今のは忘れてくれ」
138: 2014/02/21(金) 22:07:06 ID:zoCZL9y6
勇者「まあ、でも僧侶が言っていたアンバランスっていうのは……」
僧侶「そう、医療技術と兵器技術の発展スピードの差のことだ」
勇者「やっぱりすごいな僧侶。こんなことに気づけるなんてさ」
僧侶「たいしたことじゃないし、褒めなくていい」
勇者「本当に褒められるのが苦手なんだな……ん、アンバランス?」
僧侶「勇者?」
勇者「ちょっと待ってくれ。アンバランス……もしかして……」
僧侶「どうした?」
勇者「ああぁっ! わかった! そういうことだったんだ!」
僧侶「なにかわかったのか?」
勇者「おう! 戦士の出したクイズの答えがわかったんだ!」
僧侶「は……?」
139: 2014/02/21(金) 22:08:11 ID:zoCZL9y6
僧侶「戦士が出したクイズって……」
勇者「そうだ。胸が大きい女性は尻も大きい、その理由はなにか!」
僧侶「……」
勇者「そう、バランスだったんだ!」
僧侶「…………」
勇者「胸が大きいとその分、前に体重がかかるだろ?」
僧侶「………………」
勇者「だからバランスをとるために、尻を大きくしなきゃならないっ!」
僧侶「……………………」
140: 2014/02/21(金) 22:10:22 ID:zoCZL9y6
僧侶「……で? それは本当に正解なのか?」
勇者「たぶん間違いない」
僧侶「嬉しそうだな」
勇者「戦士のヤツを見返せるからな。でもなあ……」
僧侶「……なんだ?」
勇者「これが本当の正解じゃない可能性もあるな。そうだ、僧侶」
僧侶「?」
勇者「僧侶って尻小さいか? 僧侶の尻が小さければ……」
勇者(オレは言葉を失った。僧侶の顔があまりにもコワかったからだ)
勇者(オレは二十分ほど説教を受けた。僧侶は途中からなぜか敬語になっていた)
勇者(今後、僧侶の前ではからだのことを言うのだけは絶対にやめようとオレは誓った)
141: 2014/02/21(金) 22:11:50 ID:zoCZL9y6
♪
戦士「相変わらず、パッと見はなにもないように見える部屋だね」
魔法使い「……はい。頼まれていたもの」
戦士「これ一冊しかないのかい?」
魔法使い「……これしか、ない」
戦士「まあ記録があっただけよかった。帰ってから読ませてもらうよ」
魔法使い「うん」
戦士「ここのところ、ずっと研究室に通ってるみたいだけど?」
魔法使い「表向きは、個人的な研究をしている……ということになっている」
戦士「実際は?」
魔法使い「……陛下からの勅命で、五百年前の災厄時の魔物について、調べている」
戦士「具体的にはなにを調べてるの?」
魔法使い「……具体的には、どのように魔物たちが、暴走したか」
142: 2014/02/21(金) 22:12:55 ID:zoCZL9y6
戦士「なぜ今さらそんなことを……」
魔法使い「……」
戦士「あの王様もホント、考えていることがわからないね」
魔法使い「……研究についている者は、私以外にも、かなりいる」
戦士「五百年前のことに、そこそこの人員を割いているってことか」
魔法使い「うん」
戦士「謎は増えていくばかりだ。これ見てよ」
魔法使い「……この用紙は?」
戦士「災厄が起きる以前の教会の資料だよ」
魔法使い「……これだけの額が、教会に使われていた?」
戦士「建設や維持、その他諸々の教会にかけられた費用なんだけどね」
魔法使い「……多すぎる」
戦士「素人目に見ても多いってわかる額……明らかにおかしいよね」
143: 2014/02/21(金) 22:14:06 ID:zoCZL9y6
魔法使い「かつての教会の権力は、凄まじかった。けど……」
戦士「独立した機関だった教会は、災厄以降は国の傘下に入った。
災厄がなかったら、今の教会はもっとすごかったかもね」
魔法使い「……戦士も、色々調べものを?」
戦士「まあね。それと、二日後に魔界から使者が来る」
魔法使い「そう」
戦士「それでね、ボクらがその使者を迎えにいくことになった」
魔法使い「……魔界に関わりが、あるから?」
戦士「おそらく。おっと、そろそろ時間だ」
魔法使い「……仕事?」
戦士「今も仕事の合間を縫って魔法使いの家に来たんだよ」
魔法使い「……がんばって」
戦士「キミも体調に気をつけてよ」
魔法使い「……お互い様」
144: 2014/02/21(金) 22:14:56 ID:zoCZL9y6
♪二日後
勇者「潮風が気持ちよかったあ。やっぱり船はいいな」
僧侶「相変わらず、この港の船はひどい有様だがな」
勇者「半年前よりボロボロになってないか?」
魔法使い「……」
勇者(魔界の使者を迎えに行く任務。パーティはオレと僧侶と魔法使いの三人)
勇者(いちおう極秘任務らしい)
勇者(だから、この任務について知っているのは、オレたちのパーティとごく一部)
145: 2014/02/21(金) 22:16:07 ID:zoCZL9y6
勇者「前回使った転移用魔法陣を使うのか?」
魔法使い「……ちがう。アレは、もう、使い物にならない」
勇者「あ、そっか。アレは壊したんだったな」
僧侶「この街には魔物が経営するダミー会社がある。前回とはちがう会社を使うそうだ」
勇者「魔物が経営する会社って何件あるんだよ」
魔法使い「……五本の指で足りる程度、だと思う」
勇者「ふうん。まあそんなもんか」
146: 2014/02/21(金) 22:17:24 ID:zoCZL9y6
勇者「で、その会社はどこに……」
露天商「お兄さん、お姉さんたち」
勇者「ん?」
露天商「よかったらなにかどうですか? 潮風を浴びながらの食事はいいものですよ」
勇者「ドライマンゴーか……って、港のそばなのに魚介類関係ないんだな」
魔法使い「イヤ」
勇者「魔法使い?」
魔法使い「ドライマンゴー、きらい」
勇者「だ、そうだ。悪いね」
露天商「こりゃあ残念。街の陰気臭さが私の運気を下げてるようですなあ」
147: 2014/02/21(金) 22:18:06 ID:zoCZL9y6
露天商「私は旅商いなんですがね。港に期待して足を運んだのにこのざまですわ」
勇者「たしかに、歩いている人も少ないな」
露天商「老朽船しかない港ですからね」
勇者「改めて見てみると、本当にボロボロだな」
露天商「それに『陸にあがった海の者』が溢れてるせいで、潮風もしょっぱいですわ」
勇者「ん?」
僧侶「船がこれでは、海兵も活躍できないってことだ」
勇者「なるほど」
露天商「そのせいか、本当に殺伐としてますよ、この街。
さっきもおっかない雰囲気の人が私の目の前を横切っていきました」
勇者「そうなのか」
露天商「ええ。あんなに恐ろしい雰囲気の持ち主を見たのは、はじめてです」
148: 2014/02/21(金) 22:19:41 ID:zoCZL9y6
♪
勇者(オレたちは予定通り、ダミー会社へ行き魔法陣を展開した。だけど……)
魔法使い「おかしい」
ハーピー「な、なにがでしょうか?」
魔法使い「魔法陣は、もう展開しているはずなのに……」
僧侶「予定時刻をだいぶ過ぎているな。なにか聞いているか?」
ハーピー「い、いえ。あたしたちはなにも聞いていないです」
魔法使い「……」
勇者「どうした? 食い入るように魔法陣を見てるけど」
魔法使い「これは……」
僧侶「魔法使い?」
ハーピー「な、なんでしょうか?」
魔法陣を観察していた魔法使いは、立ち上がると杖をハーピーの額へと突きつける。
149: 2014/02/21(金) 22:20:18 ID:zoCZL9y6
勇者「な、なにをやってんだ!?」
魔法使い「この魔法陣。一度、展開している可能性が、ある」
僧侶「なに?」
ハーピー「あ、あたしは本当になにも……し、信じてくださいっ!」
魔法使い「手荒な真似はしたくない」
勇者「ちょ、ちょっと待った魔法使い! もしかしたら手違いの可能性もあるだろ!?」
勇者は室温が急激に下がっていることに気づいた。霜が室内全体を覆っている。
唯一の出口である扉は、完全に凍りついていた。
魔法使い「本当に、なにも知らない?」
ハーピー「は、はい! あ、あたしたちはしょせん末端ですし……!」
僧侶「どうする魔法使い?」
魔法使い「……本当に知らない?」
ハーピー「ほ、本当ですっ! 我らが魔王様に誓います!」
150: 2014/02/21(金) 22:21:37 ID:zoCZL9y6
僧侶「魔王に誓われてもな」
勇者「魔法使い、オレから提案がある」
魔法使い「……どんな?」
勇者「とりあえずハーピーたちにはここにいてもらう。で、オレたちは街で使者を探す」
僧侶「彼女にはどうしてもらうんだ?」
ハーピー「あ、あの……」
勇者「手荒な真似はしない。魔法使いの氷の魔法で、扉を塞いでおけばいいだろ」
魔法使い「それだけでは不安。私が、見張っている」
僧侶「……それが妥当か。それにしても」
勇者「ん? なんだ?」
僧侶「少しはそういうふうに、脳みそを使えるようになったんだな」
151: 2014/02/21(金) 22:22:29 ID:zoCZL9y6
勇者「……脳みそ?」
僧侶「ついでに、発言についても少しは脳みそを使ってくれると嬉しいな」
勇者「えっと、はい……?」
僧侶「まあいい。魔法使い、ここを頼む」
勇者「そ、そうだな。オレたちは使者を探しにいこう!」
魔法使い「……勇者、手を出して」
勇者「なんだ?」
魔法使い「保険を、かけておく」
勇者(そう言うと、魔法使いはオレの手のひらに、自分のそれを重ねた)
152: 2014/02/21(金) 22:23:04 ID:zoCZL9y6
♪
僧侶「手分けして探そう。勇者は港付近を頼む」
勇者「了解。……僧侶」
僧侶「どうした?」
勇者「いや、やっぱりなんでもない」
僧侶「なんだ。珍しく歯切れが悪いな」
勇者「ていうか、こんなとこで話をしてる場合じゃないな」
僧侶「ああ。一時間経過したらお互い、さっきの場所に戻る。それでいいな?」
勇者「わかった」
153: 2014/02/21(金) 22:24:40 ID:zoCZL9y6
♪
勇者(道歩いてる人がホント、全然いないな)
勇者(ていうか、手分けして探そうとか言ったけど、いったいどう探せばいいんだ)
勇者「どうするかな……ぅおっ!?」
児女「イタタ……ご、ごめんなさいっ……!」
勇者「こっちこそ、よそ見しててごめんな。立てる?」
児女「あ、すみません」
勇者「あとこれ……」
児女「あ、お父さんに届けるお弁当。ありがとうございます!」
154: 2014/02/21(金) 22:25:52 ID:zoCZL9y6
勇者「今ので中身、崩れてないかな」
児女「たぶん、大丈夫だと思います」
勇者「お父さんに届ける弁当って……」
児女「お父さんがお弁当を忘れちゃって。だから仕事場に届けてあげるんです」
勇者「……どんな仕事をしてるの、お父さん」
児女「船を造るお仕事してるんです」
勇者「船って……あの港の船?」
155: 2014/02/21(金) 22:26:49 ID:zoCZL9y6
児女「そうですよ。
あっ、今あんなにボロボロなのにって思いましたね?」
勇者「……い、いや? そんなことないよ?」
児女「ウソつかなくていいですよ」
勇者(なんで女ってそういうのがわかるのかな)
勇者「……そうだ。ここらへんで魔物を見たりしなかった?」
児女「魔物ですか?」
勇者「うん」
児女「あたしもさっき、外に出たばっかりだから……」
勇者「そっか……」
156: 2014/02/21(金) 22:27:46 ID:zoCZL9y6
児女「でも、魔物さんは街には入ってこないんですよね?」
勇者「そうなんだけど……あ、いや、そうだな」
勇者(いかんいかん。迂闊なこと言って、今回のことがバレたら大惨事なんだ)
勇者「引き止めてごめんね。ありがとう」
児女「ううん。あたしの方こそぶつかってごめんなさい」
勇者「じゃあオレ、そろそろ……っ!?」
児女「どうかしましたか?」
勇者(なんだこの感覚……覚えがある……これは…………)
勇者「お父さんに仕事ガンバレって伝えといて!」
児女「え? ……あ、はい?」
勇者(この感覚……まさか……!)
157: 2014/02/21(金) 22:28:24 ID:zoCZL9y6
♪
戦士「ふぅ……」
側近「陛下への謁見はキミでも神経を使うみたいだね」
戦士「ええ、まあ」
側近「成長したとはいえ、まだまだ青いね」
戦士「そうですね」
側近「かつては僕の教え子だった君が、今ではギルドの統括をしているなんてね」
戦士「……その節はご指導御鞭撻賜りありがとうございました」
側近「そこまで畏まらなくていい。昔みたいに普通に話してくれて構わない」
戦士「では、お言葉に甘えさせてもらうついでに、ひとつ聞いてもいいですか?」
側近「なにかな?」
戦士「真勇者についてです」
158: 2014/02/21(金) 22:29:30 ID:zoCZL9y6
側近「ふむ。現在血眼で探している存在だね」
戦士「その真勇者が殺害したという、陛下の側近について聞きたいのですが」
側近「理由を聞かせてもらってもいいかな?」
戦士「真勇者の捕獲任務を現在任されていますが、正直わからないことだらけです」
側近「君にしては珍しく、弱気な表情をしているじゃないか」
戦士「ここのところ、つまづいているからかもしれません」
側近「人生なんてそんなもんだろう。君は恵まれているよ」
戦士「…………。
そうかもしれませんね」
側近「しかし僕に聞かなくても、君のことだ。ある程度は調べがついてるだろ?」
戦士「いちおうは」
159: 2014/02/21(金) 22:30:59 ID:zoCZL9y6
戦士「その人、ある開発室の責任者だそうですね」
側近「……相変わらず君は回りくどいな。僕もそれほど暇ではないんだよ?」
戦士「すみません、回りくどいのは性分です。
で、その人は陛下の側近であり、魔物学研究所の責任者だそうですね。
ほかにも人事の采配も、一部はその人が担っていたらしいですね」
側近「ああ」
戦士「調書も見ました。氏体は粉砕機にかけられたみたいに刻まれていたらしいですね」
側近「そのとおり。個人の判別が不可能なほどの有様だった。
まあ彼が身につけていたメダイのおかげで、特定できたがね」
戦士「その人が真勇者に殺害された理由に、心当たりはありますか?」
側近「ないね。そもそも彼とは事務的な会話しかしたことがない」
戦士「そうですか。はぁ……」
160: 2014/02/21(金) 22:31:33 ID:zoCZL9y6
側近「ため息をつくのは感心しないな」
戦士「申し訳ありません。ただ、アテが外れたものですから……」
側近「これぐらいでへこたれるなよ、親愛なる我が弟子よ」
戦士「わかってます」
側近「しかし、その側近のことなら僕に聞くより陛下に聞くべきだろう」
戦士「それはそうですが……」
側近「ほう。これまた珍しい顔をしているね」
戦士「……なんだか嬉しそうですね、先生」
側近「そうかい? まあ、僕もそろそろ戻るよ」
戦士「今日はありがとうございました」
戦士(まったく、情報が足りなすぎる……)
161: 2014/02/21(金) 22:32:50 ID:zoCZL9y6
♪
勇者「教会、か」
勇者(とりあえず勢いに任せて走ってたら、教会にたどり着いたけど)
勇者(しかし、ここの教会は船に似てすごいボロいな)
勇者(…………やっぱり)
勇者(この感覚……『ヤツ』がいるのか?)
『――入ってきたらどうだ?』
勇者「!!」
勇者(一瞬だけ迷ってから、オレは教会の扉を開いた)
キイイイィ――
真勇者「来たか」
勇者「やっぱりお前だったか」
162: 2014/02/21(金) 22:33:58 ID:zoCZL9y6
真勇者「よく俺がここにいるとわかったな」
勇者「まあな」
真勇者「お前の能力か……まあ、そんなことはどうでもいいか」
勇者「…………」
真勇者「だが、ひとりで俺の前にのこのこ現れた理由がわからんな」
勇者「……オレもそう思うよ」
真勇者「今すぐここを去るなら、見逃してやる」
勇者「ここでなにをする気だ? いや、そもそもこの教会にいた人たちは?」
真勇者「……忠告無視か。まあいい」
勇者は息をのんだ。真勇者がゆったりとした動作で鞘から剣を引き抜く。
ステンドグラスの窓から差し込んだ陽をまとって、剣が鈍く輝いた。
真勇者「とりあえず、おとなしくなってもらおうか」
163: 2014/02/21(金) 22:35:43 ID:zoCZL9y6
♪
防戦一方だった。勇者は真勇者の攻撃を受けきるだけで精一杯だった。
真勇者の剣が地面を穿つ。
とっさに飛び退いてやり過ごしたが、あまりの衝撃に足もとがふらつく。
真勇者「いつまでそうやって逃げているつもりだ」
勇者「……くっ!」
真勇者が地面に着地すると同時に、片足を軸にからだと剣を大きく旋回させる。
これも、かろうじて勇者はかわした。いや、ちがう。
敵の長剣が、帯電してることに気づく。静電気の弾ける音。
目の前が真っ白に染まる。
勇者「――っ!」
164: 2014/02/21(金) 22:36:41 ID:zoCZL9y6
つま先から頭頂部まで、電流が突き抜ける。
全身を襲う強烈な痺れに勇者は、地面にくずおれる。
真勇者「弱い。やはり偽物は偽物でしかないな」
勇者「ぐっ……」
真勇者「今はお前に構っている暇はない」
勇者(くそっ……からだが痺れて…………)
キイイイィ――
165: 2014/02/21(金) 22:37:44 ID:zoCZL9y6
??「おやおや、思いのほかあっさりと決着がつきましたねえ」
真勇者「遅かったな」
勇者(誰だ……?)
??「さすがは本物の勇者様。見事な手並みだったようですね」
真勇者「……これからこの教会に例のものがあるか、確認する」
??「ええ。おねがいしますよ」
真勇者「……」
勇者(なにをやっている? 剣を……地面に突き刺してる……?)
真勇者「…………ダメだな」
166: 2014/02/21(金) 22:38:19 ID:zoCZL9y6
??「どうやらそのようですね」
真勇者「ここにもないか」
??「先に戻っていてくれて構いませんよ」
真勇者「お前は?」
??「現在の勇者様のご尊顔を拝見してきます」
真勇者「……」
勇者(真勇者が……いなくなった。魔法陣か?)
167: 2014/02/21(金) 22:39:34 ID:zoCZL9y6
??「なんて挨拶するのが正解なんですかね?」
勇者(くそっ……からだの痺れのせいで舌が……)
??「とりあえず、こんにちは」
勇者「……」
??「ずいぶん、あっさりとやられたようですね。本当に君そのものは弱すぎる」
勇者(なんなんだコイツ? 赤いローブ……まさか、あの連中の仲間?)
??「しかし君が中で飼っているアレを開放すれば、彼にも勝てるかもしれませんよ?」
勇者(なんなんだこの男? オレの額に指を当てて…………)
??「当初の予定通り、君には覚醒してもらいますよ」
勇者「……っ!」
勇者(……からだが、熱い……血がたぎるようなこの感覚は……)
??「……?
おかしいですね。では、もうひとつの布石を」
168: 2014/02/21(金) 22:41:15 ID:zoCZL9y6
不意に視界の片隅で光が弾ける。遅れて、低い唸り声が教会に響く。
??「私はお暇させていただきます。あとは、せいぜい頑張ってください」
足音が遠のいていく。からだの痺れに逆らって無理やり顔をあげる。
目の前にいたのは単眼の巨人――サイクロプスだった。
勇者(なんで魔物が!? さっきの光は転移の魔法陣のものだったのか)
どうにかして、からだを起こそうとするが、指先がかろうじて動く程度だった。
サイクロプスの隻眼が勇者をとらえる。
勇者(やばい――)
魔物の口の端がもちあがる。サイクロプスが地面を蹴った。
魔物の鋭い爪が、地面に倒れ伏す勇者の背中目がけて振り下ろされる。
勇者「……っ!」
だが、魔物の爪が勇者の背中を貫くことはなかった。
目の前で光が弾けた。勇者はその光の眩しさに思わず目を閉じる。
169: 2014/02/21(金) 22:42:43 ID:zoCZL9y6
「――私、前にもこんな感じの登場の仕方をしましたね」
勇者「え……?」
まぶたを持ち上げた。その長い髪には、見覚えがあった。
勇者(なんで、薬師がここに?)
薬師「……間一髪でしたね、勇者様」
さらに不可解なことが起きていた。
魔物は、時が止まったかのように、勇者を襲おうとした体勢で静止していた。
薬師「お怪我はありませんか? ……勇者様?」
勇者(からだが熱い上に、痺れのせいで喋れない……!)
薬師「すみません、失礼します。
……たぶん、すぐにからだの状態もよくなると思います」
勇者(薬師の言ったとおり、一分もしないうちに痺れと熱が引いていった)
170: 2014/02/21(金) 22:43:38 ID:zoCZL9y6
薬師「……よかった。立てますか?」
勇者「あ、ああ。なんとか。薬師がいなかったら、オレ、氏んでたかも」
薬師「魔法使い様のおかげです」
勇者「魔法使い?」
薬師「勇者様の手のひらに、魔法陣を仕込んでいてくれたんです」
勇者「あれはそういうことだったのか」
薬師「もともと、私は後から合流する予定だったんです。
それで、魔法使い様から事情を聞いて、魔法陣を利用して勇者様のもとへ来たんです」
勇者「あの状況で、よくとっさに対応できたな……」
薬師「はい、自分でもよくできたなって思います」
勇者「ていうか、この魔物はどうなってんだ? ピクリとも動かないぞ」
薬師「ちょっと劇薬を注入しました」
勇者「……劇薬?」
薬師「はい」
勇者「どうやって……」
171: 2014/02/21(金) 22:44:34 ID:zoCZL9y6
サイクロプス「うおおおおおおおおおおおぉっ――!!」
勇者「!!」
薬師「なぜ……!? 薬は完全に回っていたはずなのに……!」
糸のようなものが切れる音を、サイクロプスの雄叫びがかき消す。
勇者「薬師、下がってい……」
勇者の言葉はそこで途切れた。すでにサイクロプスの拳が迫っていた。
身を低くして、これを避ける。魔物の拳がなにもない空間を薙ぐ。
勇者は剣を勢いよく振り上げた。肉が避ける音。
魔物の悲鳴が狭い教会にこだまする。魔物が床に倒れ伏す。
172: 2014/02/21(金) 22:45:24 ID:zoCZL9y6
薬師「お見事……」
勇者「ああ……っと、まだふらつくな」
薬師「もとの状態になるには、まだ時間がかかりますね」
勇者「とりあえず、一回みんなと合流しよう」
薬師「――勇者様ふせて!」
薬師が頭を押さえつけなかったら、勇者の顔は消し飛んでいたかもしれない。
勇者の頭上を、再び起き上がったサイクロプスの腕が通過する。
173: 2014/02/21(金) 22:47:21 ID:zoCZL9y6
勇者「なんでだ!? たしかに倒したはずなのに!」
サイクロプスの傷口は完全に塞がっていた。魔物が大きく跳躍する。
頭上から蹴りが来る、と思ったがその予想は大きく外れた。
大きく開かれた口から、巨大な火の塊が吐き出された。
火球が地面に叩きつけられる。熱風が勇者の全身を叩く。
勇者(しまった、今の炎はおとりだったのか!)
勇者「くそっ、逃げられた! 早くヤツを捕まえないと街の人たちが危ない!」
薬師「ええ、急ぎましょう」
勇者(オレと薬師は逃げた魔物を追って、教会を飛び出した)
勇者「だけど、なんでサイクロプスが火を吐くんだ」
薬師「わかりません。本来ならありえないんですが」
勇者「いや、とにかく今は追おう」
薬師「はいっ!」
174: 2014/02/21(金) 22:47:55 ID:zoCZL9y6
♪
勇者「なんだよ、これ」
薬師「あぁ……」
勇者(港が火の海になっていた。すでに怪我している人が何人かいた)
勇者「……コイツはオレが引きつける。
だから薬師は怪我してる人を運ぶのと手当を頼む」
薬師「わかりました。……無理だけはしないように」
勇者「それこそ無理だ」
薬師「じゃあ……絶対にまたあとで会いましょう」
勇者「了解!」
175: 2014/02/21(金) 22:49:39 ID:zoCZL9y6
♪
はっきりとした手応えがあった。
勇者の剣はたしかにサイクロプスの腕を切り裂いた。
勇者「なんだよこれ!?」
魔物の腕の切り裂かれた部分が、不自然に盛り上がる。
切断面から液状化した腕が生えると、のたくって膨れ上がった。
サイクロプスの腕は一瞬で再生していた。ただし、本来のものよりも遥かに肥大化している。
ことごとく自分の知っているサイクロプスとは異なっている。
また、魔物が炎を吐き出してくる。横転して避ける。
怪我人の救助をしている薬師のために、ひたすら敵を引きつけていたのが祟ったらしい。
すでに体力が限界に来ていた。再び火球が勇者目がけて放たれる。
勇者「……っ!?」
もう一度避けようとしたときだった。
足がなにかにつかまれて、地面につんのめりそうになる。触手だった。
いったいどこから? その疑問を焼き払うように勇者の眼前に火の塊が迫る。
176: 2014/02/21(金) 22:52:16 ID:zoCZL9y6
勇者(避けきれない――!)
「情けないなあ、お兄さん」
勇者「……え?」
激しい空気の渦が、炎の進行を阻んでいた。
それどころか、空気の奔流は火球をサイクロプスへと跳ね返す。
直撃。地の底から響くような唸り声。
火だるまと化した魔物は、のたうち回るとやがて、沈黙した。
「こんなのに手こずるなんてね。それでよく私を倒したよね」
振り返ると小柄な少女が、得意げな顔をしていた。
まだ幼さの残る声。爛々と輝く赤い瞳。
太陽の光を鮮やかにはじく黄金の髪。
少女「久しぶりだね、お兄さん」
魔族たちの長であり、魔界の統治者である少女はにっこりと微笑んだ。
177: 2014/02/21(金) 22:53:22 ID:zoCZL9y6
勇者「なんでお前がここに……?」
少女「だって、魔界からの使者って私なんだもん」
勇者「で、でも魔王であるお前が……」
少女「理由を説明するのはあと。
それより、お兄さんはパーティのもとへ行ったほうがいい」
勇者「そうだ、怪我人の手当を手伝わなきゃ……!」
少女「このサイクロプスは私が見張っておく」
勇者「ありがとう!」
少女「……相変わらずみたいだね」
178: 2014/02/21(金) 22:54:02 ID:zoCZL9y6
♪
魔法使い「……応急処置はこれでいい?」
薬師「あとは怪我している部分を、心臓より高い位置で固定してくださいっ!」
魔法使い「わかった」
僧侶「薬師! すまないっ、今すぐこっちに来てくれ!」
薬師「今行きますっ!」
僧侶(私たちは、魔物によって怪我した人たちの手当を手伝っていた)
僧侶「この子なんだが……」
児女「……」
僧侶「出血が酷い上に、医者もまだ……」
薬師「……まずい」
179: 2014/02/21(金) 22:55:15 ID:zoCZL9y6
僧侶「薬師?」
薬師「この子、息が……早くお医者様を呼ばないと危険です!」
僧侶「だが、医者は今は……」
薬師「……私たちでなんとかするしかない、か」
僧侶「だけどどうすれば……し、止血か?」
薬師「止血はあとです! とにかく今は心臓マッサージを……いや、血中酸素のことを考えれば……」
僧侶「私は……?」
薬師「なにか布をもってきてください! ただし脱脂綿のような繊維の残るものではダメです!」
僧侶「わ、わかった」
薬師「絶対に氏なせない……絶対に……!」
180: 2014/02/21(金) 22:56:07 ID:zoCZL9y6
♪
僧侶「……止血開始時間はこれであっているか?」
薬師「はい。あと包帯とガーゼをもう一度おねがいします」
僧侶「わかった。とってくる」
勇者「た、助かったんだよな?」
薬師「……おそらく。ただ……出血が酷いので早く輸血をしないと……」
魔法使い「……なんとか間に合った」
僧侶「魔法使い?」
魔法使い「医者の手配が完了した。魔法陣でこれから彼女を運ぶ」
薬師「よかった……ありがとうございます、魔法使い様!」
魔法使い「……あなたのほうこそ。お手柄」
181: 2014/02/21(金) 22:57:01 ID:zoCZL9y6
男性「あ、あの……」
薬師「……あなたは?」
男性「娘を助けてくださってありがとうございます! ほ、本当になんとお礼を言ったら良いのか……」
薬師「お父さんだったんですね」
男性「あなたがいなければ、娘は……」
薬師「そんな……顔をあげてください。
それより、今は娘さんについていてあげてください」
男性「はい……! 本当にありがとうございました!」
勇者(薬師が助けた女の子のお父さんは、もう一度頭を下げて去っていった)
182: 2014/02/21(金) 22:59:06 ID:zoCZL9y6
薬師「……ぁ」
勇者「だ、大丈夫か、薬師?」
薬師「……ごめんなさい。安心したみたいで……まだ完全に終わっていないのに」
僧侶「いや、薬師がいなかったら彼女は助からなかったかもしれない」
勇者「僧侶はずっとうろたえてたもんな」
僧侶「……うるさい」
魔法使い「勇者も、テンパってた」
勇者「それはそうなんだけど……」
少女「ねえねえ、私のこと忘れてない?」
勇者「うわっ!? きゅ、急に現れるなよ」
少女「予想より時間がかかったからね。それと、サイクロプスは王都へ搬送されたよ」
薬師「あなたは……先ほど、手当を手伝ってくれていた方ですよね?」
少女「そうだよ」
183: 2014/02/21(金) 23:00:08 ID:zoCZL9y6
勇者「ん? どういうことだ? ていうか、僧侶と魔法使いは驚かないのか?」
魔法使い「……驚いた。けど」
僧侶「私たちはさっき、会っているからな」
少女「そういうこと」
勇者「そうか……って、そうかじゃねえよ」
少女「なに? 相変わらずテンション高いね」
勇者「お前、なんで予定時刻にここに来なかったんだよ?」
少女「この国の現状が気になってね。迎えが来たら、自由に観光もできないでしょ?
だから三日前からこっちに滞在してたんだ」
魔法使い「三日前……」
僧侶「その話が本当だとしたら、フライングどころじゃないな」
184: 2014/02/21(金) 23:01:07 ID:zoCZL9y6
薬師「話がまったく見えないんですが……」
勇者「どう説明したらいいのかな……」
少女「市警とかも出てきて落ち着いたようだし、そろそろ皇帝のもとへ案内してくれる?」
勇者「使者ってお前だけなのか?」
少女「ああ、そうだった。実は同伴者がいるんだよ。出ておいで」
「……初めまして」
勇者(あれ? 普通の男にしか見えないんだけど、これが魔界からの使者なのか)
僧侶「とりあえず、街を出よう」
185: 2014/02/21(金) 23:02:09 ID:zoCZL9y6
♪
勇者「竜人っていうのか?」
竜人「ええ、そうです」
勇者「その、人間にしか見えないんだけど、本当に魔族なんだよな?」
竜人「これを見ていただければ」
勇者「わっ! 腕にウロコが……」
魔法使い「へえ……」
僧侶「使者としてこちらに来ているのは二人だけなのか?」
少女「この国がいつかやったプロパガンダ遠征とちがって、魔法陣で移動できるからね」
勇者「プロパ……なんだそれ?」
僧侶「二年前、戦意高揚と海兵訓練を目的とした、軍艦での遠征が行われたんだ。
結局失敗し、前皇帝が引きずり下ろされるきっかけになっただけで終わったが」
186: 2014/02/21(金) 23:02:51 ID:zoCZL9y6
勇者「船で旅か。なんか大変そうだな」
少女「その遠征については、悲惨すぎて魔界にまで、色々と噂が流れたからね」
薬師「……」
勇者「薬師?」
薬師「は、はい。……なんですか?」
勇者「いや、さっきからなんか気分が悪そうだし、ずっと黙ってるから……」
薬師「心配かけてすみません。少し疲れちゃって」
勇者「そうか。疲れたんなら、言えよ。おぶってやるからさ」
薬師「それはちょっと……じゃあ、どうしてもって場合は、おねがいします」
勇者「おう」
187: 2014/02/21(金) 23:03:47 ID:zoCZL9y6
僧侶「ひとつ思ったんだが」
少女「なに?」
僧侶「魔王であるお前が、この国に直接来るってまずくないか?」
少女「ああ、そのこと?」
竜人「……」
少女「そこらへんは気にしなくていいよ」
勇者「そうなのか?」
少女「うん。私、魔王やめたから」
188: 2014/02/21(金) 23:04:29 ID:zoCZL9y6
♪
側近「今回の謁見、使者の者たちと勇者に限らせてもらう」
僧侶「なぜ私たちは……」
側近「陛下がそうおっしゃったからだ」
勇者「ていうか、オレが話に参加するの?」
少女「まあ、なんでもいいけどね」
竜人「……」
勇者「とりあえず行ってくる」
薬師「はい。お待ちしております」
勇者(魔界から帰ってきたオレたちは、竜人たちを連れて宮廷まで来た)
勇者(なんでこれにオレが参加するんだろ)
戦士「……」
勇者(しかも、なぜか戦士もいるし……)
189: 2014/02/21(金) 23:05:27 ID:zoCZL9y6
勇者「王様、使者を連れてきました」
王「ご苦労だった。話は既に聞いている。色々と大変だったようだな」
勇者「まあ……はい」
勇者(よくよく考えたら、魔王がうちの国の王様と対面するってすごいことかも)
王「そなたが魔界からの使者か」
竜人「はじめまして。ご尊顔を拝し奉り、恐懼の極みにございます」
王「らくにしてくれていい。それにしても……久しぶりだな」
勇者「え?」
少女「そうだね。最後に会ったのはいつだっけ?」
王「二百年……いや、もっと前か」
勇者「え? え? どういうことだよ、ふたりは知り合いなのか?」
190: 2014/02/21(金) 23:06:11 ID:zoCZL9y6
少女「知り合い……というよりは同族って言ったほうが正しいかな」
勇者「同族?」
王「まあ、わかるわけねえか」
勇者「お、王様?」
王「ったく、本当なら国王なんざ俺の柄じゃないんだけどな」
勇者(な、なんだ? 普段と口調が全然ちがうぞ)
王「驚いたか、勇者?」
勇者(普段の仏頂面とは全然ちがう。なんでこの人、こんなにニヤニヤしてんだ)
勇者「……よくわからないんですけど、つまりどういうことなんですか?」
王「説明めんどくせえな」
勇者「は? いや、説明してもらわなきゃわからないんだけど」
王「……冗談だ。お前、俺の代わりに説明してくれよ」
少女「なんで私が、と言いたいところだけど。お兄さん」
191: 2014/02/21(金) 23:12:26 ID:zoCZL9y6
勇者「ん?」
少女「そもそも疑問に思うことはない?」
勇者「なにを?」
少女「この国と私の国……つまり、魔界のつながりについて」
勇者「……そういえば、どうやって魔界とうちの国がつながったのかは気になってたな。
ああ、あと魔界の魔物が経営する会社も」
少女「それらの答えは簡単。最初のパイプを築いたのは、私と彼だから」
王「もうずっと、遥か昔だがな」
勇者「築いた? 王様は……いったいなにものなんですか?」
王「わからねえかなあ」
勇者「うーんと、えっと……」
王「じゃあ、俺から質問だ。その女の正体はなんだ?」
192: 2014/02/21(金) 23:13:43 ID:zoCZL9y6
勇者「正体?」
少女「……そう、私の正体」
勇者「魔王……大昔にオレと同じで人工的に造られた」
王「そうだ。勇者、お前は例の女王の手記を読んでいるな?」
勇者「読みましたけど。なにか関係があるんですか?」
王「『災厄の女王』が、勇者と魔王の混合体を作ろうとしたことは知っているな?」」
勇者「もちろん」
王「そしてそれが失敗して、代案としてできたのがその偽魔王だ」
少女「……」
王「女王が造ろうとしたのは魔王だけか? そんなわけないよなあ」
勇者「じゃあ、王様の正体は……」
王「そう。お前の同類だ。人工勇者、あるいは偽勇者とでも言おうか」
193: 2014/02/21(金) 23:14:53 ID:zoCZL9y6
王「当時、一切国交がなかった魔界との交流を念の為に作っておいた」
少女「私たちでね。まあ具体的な説明は省かせてもらうけど」
王「俺もコイツもメタモルフォーゼの能力があるから、それをうまく利用したとだけ言っておく
勇者「はあ……」
戦士「私からも質問いいですか?」
王「そんな堅苦しくなくていいぞ。今だけは、だが」
戦士「……どうして、あなたは今になって国王なんてものをやっているんですか?」
王「勇者がこの五百年間、一度も現れていない謎を解くためだ」
戦士「それで魔法使いや、その他の人間に、例の災厄について調べさせているんですね」
王「真勇者を復活させたのも、謎の解明のためだ」
戦士「だけど、逃げられてしまった」
勇者「そうだ、真勇者の正体を王様は本当に知らないのか?」
194: 2014/02/21(金) 23:15:49 ID:zoCZL9y6
王「さあな」
少女「……素直じゃないなあ。協力者である彼らに隠す理由はないはずだよ」
王「……」
戦士「真勇者の正体は五百年前の勇者……最後の勇者じゃないんですか?」
王「ほう。単なる当てずっぽうってわけでもなさそうだな。根拠を言ってみろ」
戦士「魔法使いに、五百年前に起きた災厄について調べさせていること。
そして、陛下が『災厄の女王』の手記を読みたがったこと。以上のふたつです」
王「……正解だ。真勇者の正体は、五百年前の勇者だ」
勇者「じゃあ、あの女王の時代の勇者ってことか」
王「そうだ」
195: 2014/02/21(金) 23:16:24 ID:zoCZL9y6
王「だが、わからないことばかりだ。どうしてヤツは記憶を失っていたのか。
なぜヤツは逃げ出したのか、俺の側近を頃した理由も全くわからない」
戦士「その殺された側近は、ある研究機関の責任者だったそうですね」
王「そのとおりだ」
勇者「ある研究機関ってなんだ?」
戦士「魔物研究や生態研究。そのほかにも、勇者や魔王の研究も行っていたとこだよ」
勇者「じゃあ! その人なら、オレのことも知っていた可能性があるのか?」
戦士「断言はできないけど、ありえることだとは思う」
王「俺も国王になってからは公務に追われていて、しばらくは勇者どころじゃなかった。
おそらく最も真実を知っていた側近だ。そのせいで殺害されたのかもしれない」
少女「ずいぶんとその側近を買っていたみたいだね」
王「ヤツには色々と助けられたからな」
196: 2014/02/21(金) 23:17:05 ID:zoCZL9y6
王「魔界へ行くメンバーの采配をしたのも、あの男だった。
というか、人事なんかに関してはほとんどヤツにまかせていたんだ」
少女「こりゃダメな王様だね」
王「うるせえ」
戦士「じゃあ、例の新興宗教団体の連中をボクらのバックアップに指定したのも……」
王「もちろんヤツだ。だが、どうしてあのような者たちを、選択したかは不明だ」
少女「すべては闇の中ってことだね」
勇者「ちょっと待った。新興宗教団体ってなんだよ?」
戦士「忘れたのかい? あの赤ローブの連中のことだよ。説明したでしょ?」
勇者「そういや、魔界で説明されたような……そうだ、赤いローブで思い出した!」
王「……なんだ?」
勇者「オレ、あの街の教会で真勇者と戦ったんだ」
王「なんだと?」
197: 2014/02/21(金) 23:17:40 ID:zoCZL9y6
勇者(オレは真勇者と戦ったことと、そのあと、赤いローブの男が現れたことを話した)
王「これでヤツに仲間がいることが確定したな」
勇者「知っていたのか?」
戦士「街の市警の警備を平気でかいくぐって現れたりしてたからね」
王「そして、また教会か」
戦士「そちらの予想も、ほぼ当たっていると考えていいと思います」
勇者「どういうことだ?」
戦士「勇者くんが今回真勇者と交戦したのは?」
勇者「……教会」
戦士「前回、真勇者の目撃証言があったのは?」
勇者「……教会だ」
戦士「勇者くんが国に帰ってきてすぐ、真勇者と会った森の付近にあったのは?」
勇者「……教会ですな」
198: 2014/02/21(金) 23:18:26 ID:zoCZL9y6
勇者「ってことは、真勇者はずっと教会を調べているってことか」
戦士「どういう理由で、そうしてるのかはわからないけどね」
王「謎だらけだ」
勇者「その側近の人以外にも、研究に関わっているヤツらに聞くのは?」
戦士「研究の根幹に関わっていた賢者は、爆発事故で全員亡くなっている」
勇者「え……?」
戦士「前にも説明したでしょ?」
勇者「……したっけ?」
戦士「魔界に行くメンバーの選ばれた理由を、勇者くんが質問してきたときにね」
勇者「お前、記憶力いいな」
戦士「勇者くん、ニワトリ頭は髪型だけにしなよ」
勇者「どういう意味だよ!」
199: 2014/02/21(金) 23:19:12 ID:zoCZL9y6
王「ほかになにか、報告するべきことはあるか?」
勇者「えっと……サイクロプスはどうなった?」
戦士「すでに機関に回されてるよ」
勇者「あの魔物、異様に強かったし色々変だったんだ」
少女「私がいなかったら危なかったもんね」
勇者「あのときは助かったよ。あと、気になることがもうひとつある」
王「どんな小さなことでもいい、言ってくれ」
勇者「真勇者とその赤ローブのヤツは、オレが教会に来たことに驚かなかったんだよ」
戦士「どういうことだい?」
勇者「なんていうか、まるでオレがあの街に来ることを知っていたような……」
戦士「今回の任務は極秘で、知ってる者はほぼいないってこと、覚えてるよね?」
勇者「だからこそ、言ったんだよ」
少女「その話が本当だとしたら……」
王「厄介ごとは増えてく一方だな、めんどくせえ」
200: 2014/02/21(金) 23:19:54 ID:zoCZL9y6
♪
勇者(その後、オレと戦士と魔王は謁見が終わって王の間を出た)
勇者「竜人に全部まかせちゃったけど、よかったのか?」
少女「はじめから私はオマケだよ。言ったでしょ、魔王はやめたって」
戦士「魔王をやめたってどういうことなんだい?」
少女「皇帝をやめたってこと。今はただの女の子ってわけ」
戦士「女の子って……」
少女「見た目がこれなんだから、ウソではないでしょ?」
勇者「なんで魔王をやめたんだ?」
少女「前にも言ったとおり、寿命が近づいているからだよ」
勇者「氏ぬ、のか?」
少女「まあ、まだ大丈夫だよ」
勇者「勇者の本当の敵は魔王じゃなかったのかもしれない」【2】
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