200: 2014/02/21(金) 23:19:54 ID:zoCZL9y6


勇者「勇者の本当の敵は魔王じゃなかったのかもしれない」【1】



勇者(その後、オレと戦士と魔王は謁見が終わって王の間を出た)



勇者「竜人に全部まかせちゃったけど、よかったのか?」

少女「はじめから私はオマケだよ。言ったでしょ、魔王はやめたって」

戦士「魔王をやめたってどういうことなんだい?」

少女「皇帝をやめたってこと。今はただの女の子ってわけ」

戦士「女の子って……」

少女「見た目がこれなんだから、ウソではないでしょ?」

勇者「なんで魔王をやめたんだ?」

少女「前にも言ったとおり、寿命が近づいているからだよ」

勇者「氏ぬ、のか?」

少女「まあ、まだ大丈夫だよ」

201: 2014/02/21(金) 23:21:29 ID:zoCZL9y6


少女「前にも言ったかもしれないけど、物事はなんでも移り変わってゆくべきなんだよ」

勇者「そう、なのかな……」

少女「単なる持論だけどね」

戦士「単なる持論でも、生きてる年数が年数だけに含蓄があるね」

少女「褒め言葉として受け取っておいてあげる」

勇者「……魔王をやめて、どうするんだ?」

少女「あてのない旅をするよ」

勇者「旅?」

少女「そう。人生の最期だからね。自由気ままに放浪する」
葬送のフリーレン(1) (少年サンデーコミックス)
202: 2014/02/21(金) 23:22:57 ID:zoCZL9y6

戦士「当然、新しい魔王となる存在はいるんだよね?」

少女「もちろん。この半年でなんとか、引き継ぎを終えたよ」

戦士「魔王をやめたキミにおねがいがある」

少女「なあに?」

戦士「魔界にはこちらになかった文献や資料がかなりあったよね」

少女「ふうん、なにか知りたいことがあるのかな?」

戦士「勇者に関する文献もキミなら持っているよね?」

少女「あるよ、おそらくお兄さんが予想しているより。欲しいの?」

戦士「欲しい。勇者の旅の記録の詳細が書かれているものがいい」

少女「まだあげるとは言ってないよ?」

戦士「どうしても欲しい。交換条件があるっていうなら、それを飲もう」


勇者(珍しいな。戦士がこんなふうに言うなんて)

203: 2014/02/21(金) 23:23:52 ID:zoCZL9y6


少女「私はなにかに必氏になってる人、嫌いじゃないよ」

戦士「それはオッケーと受け取っていいのかな?」

少女「……いいよ」

戦士「ありがとう。じゃあ、ついでにもうひとつお願いしていいかい?」

少女「内容による」

戦士「魔王を倒したそのあとの勇者について知りたいんだ」

勇者「魔王を倒したあとの勇者のことがなにか関係があるのか?」

戦士「ボクの予想が正しければ、ね」

少女「……本当はイヤだけど、特別にそれに関連した書籍も探してくるよ」

戦士「いやあ、さすが魔王様だ。懐が広い」

少女「がんばっている若者のために、少しだけ力を貸してあげるよ」

204: 2014/02/21(金) 23:24:33 ID:zoCZL9y6


戦士「いつごろに資料は持ってこられる?」

少女「急ぎのようだし、明日の早朝には持ってきてあげる」

戦士「オッケー……っと、ボクはこれからちょっとした調査があるから失礼するよ」

勇者「相変わらず忙しいんだな」

戦士「まあ忙しいことは幸せなことだから、……じゃあ、またね」

少女「彼も大変みたいだね。お兄さんは私と話をしていて大丈夫?」

勇者「とりあえず、報告も終わったし今日の仕事は終わりかな」

少女「ふうん、そう」

勇者「……さっきの話の続きなんだけどさ」

205: 2014/02/21(金) 23:25:24 ID:zoCZL9y6


勇者「魔王やめるって言ったけど、あの本物の魔王はどうしたんだ?」

少女「……彼はまだかろうじて生きてる。私より先に逝くだろうけどね」

勇者「見捨てたのか?  それとも実はお前が旅する理由って、実は魔王のために……」

少女「ちがうよ。私の最期の旅と彼は関係ないよ」

勇者「でも、お前は魔王を復活させることにこだわっていたじゃないか」

少女「たしかに、前まではね。けど、いいかげん解放してあげるべきだと思ったんだ」

勇者「解放……?」

少女「彼を休ませてあげようって。安らかに眠ってもらおうって思ったの」

勇者「……」

少女「今まで彼を無理やり延命させて、世界を、魔界を、私が守っていこうと思った」

206: 2014/02/21(金) 23:26:25 ID:zoCZL9y6


少女「『あの人』にもそうやって頼まれたから」

勇者「『災厄の女王』……いや、姫様か」


少女「それが生まれたときからの使命で、それは私にしかできないことだと思ってた。
   でも、そうじゃないってようやく気づけたんだ。
   あの魔界は私だけで築いたんじゃないって。
   私がいなくなっても、新しい魔王が生まれても、うまくやっていける」


少女「私はそう信じたの」

勇者「……だから、お前は旅に出るのか?」

少女「そう。自分探しの旅だよ」

勇者「自分探し?」

少女「魔王でもなく、魔界の統治者でもなく、最後に『私』として生きてみようと思う」

勇者「そういうのって世捨て人って言うのか?」

少女「ちがうけど、まあ近いものはあるかもね」

勇者「……なんか、かっこいいな」

少女「かっこいい?」

207: 2014/02/21(金) 23:26:55 ID:zoCZL9y6


勇者「オレはまだ自分がどうしたいかわからないからさ」

少女「色々と迷ってるみたいだね」

勇者「わかるのか?」

少女「何年生きてると思ってんの?」

勇者「それもそうだな」

少女「でもそんなものだよ、人生なんてものは」

勇者「そうなのか?」

少女「私もそうだったし、『あの人』もそうだった。ずっと迷い続けてた」

勇者「姫様もそうだったのか」

少女「『あの人』は泣いてばかりだった。でもね、絶対に立ち止まらなかった」

208: 2014/02/21(金) 23:27:44 ID:zoCZL9y6


少女「悩んでばかりだったけど、それでも自分の信じた道を歩き続けた。
   私も彼女にならってそうしてきたつもり」

勇者「残りの時間も、そうやって生きていくのか?」

少女「まあね。ただ……」

勇者「?」

少女「少しだけペースは落ちるかもしれないけどね」

勇者「そっか」

少女「色々とお兄さんも考えているみたいだけど、それでいいんだよ」

勇者「……そうなのかな」

少女「私たちが歩く道は、ただまっすぐ伸びているわけじゃないんだもの」



勇者(そう言って魔王だった彼女は、なにかを懐かしむように目を細めた)

209: 2014/02/21(金) 23:28:20 ID:zoCZL9y6




勇者(宮殿を出ると、薬師が出迎えてくれた)



勇者「お待たせ……あれ?  僧侶と魔法使いは?」

薬師「魔法使い様はサイクロプスの研究に駆り出されて、僧侶様は今回のことで報告へ行きました」

勇者「そっか。お前はこれからどうするんだ?」

少女「私?  私は頼まれた資料を取りに、もう一度魔界へ戻るよ……やだなあ」

勇者「めんどくさいのか?」

少女「そうじゃない。わりと感動的な別れ方をしてきたから、戻りづらい……」

勇者「……よくわかんないけど、そんなにイヤなのか」

少女「カッコつけたのが台無しになるからね」

薬師「……」

少女「なにか用かなお姉さん?」

210: 2014/02/21(金) 23:28:58 ID:zoCZL9y6


薬師「あ、いえ……」

少女「そんなに熱心に見られると困っちゃうな」

薬師「失礼しました。その、綺麗な髪だなと思って」

少女「ありがとね。
   ……さて、そろそろ戻らないと。明日の朝に間に合わなくなっちゃう」

勇者「送ってこうか?」

少女「その必要はないよ。それに……」

勇者「それに?」

少女「そっちのお姉さんがなんだか、さっきから怖いからね」

薬師「……気のせいだと思いますよ」

勇者「ん?  まあ、そう言うならここでお別れか」

少女「じゃあね。がんばって前に進みなよ――勇者」

勇者「……おう!」

211: 2014/02/21(金) 23:29:34 ID:zoCZL9y6




薬師「今日はもうこれで仕事は終わったので、よかったら一緒に食事どうですか?」

勇者「そうだな。行こうか」

薬師「はい。……あの、あの人となにを話していたんですか?」

勇者「魔王のことか?」

薬師「はい」

勇者「なんていうか……タメになる話、かな」

薬師「タメになる話ですか」

勇者「やっぱり長く生きている人ってすごいなあ、みたいな?」

薬師「……私も勇者様よりは長く生きていますよ」

勇者「それはそうだけど……あ、でもたしかに薬師はすごかったな」

薬師「え?」

212: 2014/02/21(金) 23:30:18 ID:zoCZL9y6


勇者「薬師のおかげで、魔物に襲われた人たちみんな、助かったろ?」

薬師「あれは私の力だけではありませんよ。でも、ありがとうございます」

勇者「オレなんて慌てふためくことしかできなかったし、本当にすごいと思うよ」

薬師「そんなに慌てふためいていたんですか?」

勇者「見てなかった?」

薬師「それどころじゃなかったので……」

勇者「そっか……けど、カッコ悪かったし見られなくてよかったよ」

薬師「そうかもしれませんね」

勇者「でも、本当にすごいな薬師は。ああいう手当って経験積めばできるようになるのか?」

薬師「そうですね。私の場合、一時期は医者を志していたこともあったので」

213: 2014/02/21(金) 23:31:14 ID:zoCZL9y6


薬師「それに、そういうことができなかったら、勇者様の護衛にも選ばれませんでした」

勇者「言われてみればそうだな。うん、今回のことで経験って大事なんだって思ったよ」

薬師「勇者様はこれからしていけばいいんですよ」

勇者「もちろん、これからの時間の中で色んなことを知っていくつもりだ」

薬師「色んなことを知る、ですか?」

勇者「そうだけど……どうした?」

薬師「知ることは大事だと思います。でも、知る必要のないことってあると思うんです」

勇者「知る必要のないこと?」

薬師「はい。知りたくないことや、経験したくないこと。
   もっとわかりやすく言えば、記憶から消し去りたいこと」

勇者「記憶から消し去りたいこと、か」

214: 2014/02/21(金) 23:32:03 ID:zoCZL9y6


薬師「忘れられるなら、忘れたいってことありませんか?」

勇者「オレはないな。むしろどんなことでも覚えていたい」

薬師「……そうですか」

勇者「変かな?」

薬師「わかりません」

勇者「……すまん」

薬師「なんで謝るんですか?」

勇者「いや、なんとなく薬師の顔が怖かったから」

薬師「そうですか?
   じゃあ、この話はおしまい!  おいしいものを食べに行きましょう!」

勇者「へ?」

薬師「私、お腹すいてきちゃいました。早く食べに行きましょう」


勇者(そう言うと、薬師はオレの手を引いて歩き出した)

215: 2014/02/21(金) 23:33:04 ID:zoCZL9y6

♪翌日



王「昨日でお前とは最後だと思ったんだがな」

少女「どの道、もう会うこともないし。最後に同胞の顔を見たくなったのよ」

王「……本当にすべてを放り投げちまうのか?」

少女「放り投げたんじゃない。託したのよ」

王「俺には違いがわからんな」

少女「……魔界に住む者たちは、皆私の子どもも同然。親から子へと使命を託したの」

王「自由奔放に生きてきた俺にはわからんな」

少女「そうかもね。……『勇者』をおねがい」

王「それはどっちの『勇者』だ?」

216: 2014/02/21(金) 23:33:37 ID:zoCZL9y6


少女「…………もう行く。さようなら」

王「……さらばだ、姉弟よ」


王(改めて見ると、この女の後ろ姿は『災厄の女王』そっくりだな)

王(託す、か。本当なら自分でどうにかしたかっただろうに……)


王「寿命、か」

217: 2014/02/21(金) 23:34:56 ID:zoCZL9y6




戦士「……んっ、さすがに疲れたな」

戦士(まあ、彼女には感謝しないとね)



少女『資料はこれですべてかな』

戦士『うわあ、すごい量だね』

少女『とは言っても、大半は関係あるかどうか、微妙な資料ばかりだけどね』

戦士『しかし、この量をどうやって運んだの?』

少女『転移用の魔法陣を使っただけだよ』

戦士『まあ、そうするしかないか』

218: 2014/02/21(金) 23:35:48 ID:zoCZL9y6


少女『……ひとつ、私からも頼みたいこともあるんだけどいいかな?』

戦士『もちろん。できるかぎりのお礼はするつもりだよ』

少女『勇者のからだを一回検査してほしい』

戦士『え?』

少女『それだけでいい』

219: 2014/02/21(金) 23:36:24 ID:zoCZL9y6


少女『私の勘違いかもしれない。けど、彼の力が弱まっている気がするんだ』

戦士『それはどういう……』

少女『わからない』

戦士『……なにか彼のからだにまずいことが起きているってこと?』

少女『そうとはかぎらない』

戦士『キミは彼の正体をどこまでわかっている?』

少女『ひとつ確かなのは、キメラ的な存在であるってこと』

戦士『それはボクも知っている。それ以外のことだよ』

少女『彼のからだから感じる力は、三つある』

戦士『三つ?』

少女『ふたりの勇者の力がふたつ。そして…‥魔王』

220: 2014/02/21(金) 23:37:21 ID:zoCZL9y6


戦士『キミがかつて勇者くんから力を奪おうとしたのは……』

少女『そう、彼の中に眠る魔王の力を奪おうとしたから』

戦士『そして、勇者くんには八百年前の勇者としての記憶が断片的にある』

少女『でも、それ以外にも彼の中には眠っている力がある……かもしれない』

戦士『……うーん、困ったことに謎は増えていくばかりだ』

少女『勇者の正体ってそんなに重要なこと?』

戦士『え?』

少女『勇者はキミの仲間でしょ? それでダメなの?』

戦士『……そうだね。彼はボクらの仲間で友達だ』

221: 2014/02/21(金) 23:38:03 ID:zoCZL9y6


少女『そろそろ行くね。若者よ、がんばってよ』

戦士『なにを?』

少女『なにもかも、だよ』



戦士(彼女がくれた資料のおかげだ)

戦士「勇者と魔王の仕組まれた争いの意味、見えてきたよ」

222: 2014/02/21(金) 23:39:23 ID:zoCZL9y6




勇者「勇者と魔王の争いについて、わかったことがある?」

戦士「うん。すでに陛下には報告書を渡しておいた。
   で、キミらにも話をしていいという許可も出た」

薬師「真勇者様にも関係があることなんですか?」

戦士「おそらく」

僧侶「勇者と魔王は争ってきた。しかし、それは仕組まれていたって話だったが」

戦士「順に説明していく。まず最初に、この争いを仕組んだのは人間側なんだ」

勇者「勇者と魔王はどんどん強くなるから、世界を滅ぼさないように裏でつながってたんだよな」

戦士「そのとおりだよ」

薬師「裏でつながっていたのなら、どうして両者は争っていたのでしょうか?」

戦士「魔物は危険な存在だと、当時の人たちは教えこまれていたんだよ」

戦士「ましてその魔物の頂点に君臨する魔王は、人類にとって絶対的な敵だった」

戦士「魔王を殺さないと国民から不満が出る。国にとって国民の支持は必要なもの」

戦士「だから、どうしても勇者と魔王の争いはせざるを得なかった」

223: 2014/02/21(金) 23:40:02 ID:zoCZL9y6


薬師「魔物側は人類に上手に篭絡されたってことですよね?」

戦士「そうなるね」

薬師「しかしなぜ、魔王は最初から勇者様を殺そうとしなかったのでしょうか?」

戦士「それをすると勇者が暴走する可能性があったんだ」

薬師「どういうことですか?」

戦士「もともと勇者の潜在能力は魔王を凌駕していた」

戦士「でも、勇者は自身の力を最初から上手に使うことができなかった」

僧侶「だから勇者に冒険を強いたのか」

勇者「その冒険で勇者を成長させて、力を扱えるようにしたんだよな」

戦士「当時の魔物たちっていうのは、魔王城のそばに生息するものほど強かったんだ」

魔法使い「……弱い魔物は、人類側へと押しやられていた」

薬師「勇者様たちが魔王城へと近づくごとに敵は強くなるってことですね」

戦士「そう。人類は魔物たちの秩序を上手に利用して、勇者を成長させたってわけ」

224: 2014/02/21(金) 23:40:59 ID:zoCZL9y6


僧侶「力を制御しても、山一つ吹き飛ばしたりするのに……」

戦士「勇者の力が暴走していたら、と考えると怖いよね」

魔法使い「……そのための魔王城」

戦士「そうだね。魔王城を魔術によって堅牢に作ることで、被害を減らした」

勇者「そういや、魔王の側近の中には人間もいたんだよな。手記に書いてあった」

戦士「魔物側と人間側を行き来できる人間を作ることで、争いを起こしやすくしたんだね」

僧侶「……おかしくないか?」

戦士「なにがだい?」

僧侶「そこまで人間が魔物側に関わっていたなら、制圧することもできたんじゃないか?」

僧侶「魔王に姫を誘拐させて、魔物への敵意を助長させた理由もわからないし」

薬師「たしかに。勇者様を絶対に冒険させる必要はあったんですか?」

戦士「あったんだよ。人類を守るなんて、表向きの理由にすぎなかったんだから」

225: 2014/02/21(金) 23:41:31 ID:zoCZL9y6


僧侶「力を制御しても、山一つ吹き飛ばしたりするのに……」

戦士「勇者の力が暴走していたら、と考えると怖いよね」

魔法使い「……そのための魔王城」

戦士「そうだね。魔王城を魔術によって堅牢に作ることで、被害を減らした」

勇者「そういや、魔王の側近の中には人間もいたんだよな。手記に書いてあった」

戦士「魔物側と人間側を行き来できる人間を作ることで、争いを起こしやすくしたんだね」

僧侶「……おかしくないか?」

戦士「なにがだい?」

僧侶「そこまで人間が魔物側に関わっていたなら、制圧することもできたんじゃないか?」

僧侶「魔王に姫を誘拐させて、魔物への敵意を助長させた理由もわからないし」

薬師「たしかに。勇者様を絶対に冒険させる必要はあったんですか?」

戦士「あったんだよ。人類を守るなんて、表向きの理由にすぎなかったんだから」

226: 2014/02/21(金) 23:42:07 ID:zoCZL9y6


戦士「これは彼女が魔界からもってきた資料をまとめたものだよ」

戦士「冒険の書をはじめ、うちの国の資料には絶対に書かれていないことが載っていた」

勇者「歴代の勇者の、魔王を倒したそのあとについて?」

僧侶「これは……ほぼすべての勇者が戦争に駆り出されている……!」

魔法使い「…… なるほど」

戦士「今も昔もボクらの国は魔術大国として名を馳せている。それはひとえに戦争の勝利のおかげだ」

薬師「戦争の勝利の裏には、勇者様が存在していたってことですね」

戦士「勇者魔王の争いを仕組んだ目的」








戦士「それは――勇者という最強の人間兵器を作るためだったんだ」

227: 2014/02/21(金) 23:43:20 ID:zoCZL9y6


僧侶「歴代の勇者は魔王を倒してから、ほとんどが十年も経たずに氏んでいる。そのわけは……」

戦士「一説によれば、回復魔法の副作用と言われてるね」

戦士「戦争に参加していたってことは、やっぱり回復魔法は頻繁に浴びていたはずだよ」

薬師「じゃあ、その説じたいは間違ってないってことですね」

戦士「勇者の仲間もほとんどが戦争に参加していた。だから、回復役は絶対にいたはず」

勇者「……アイツが言ってたことは、こういうことだったんだ」

戦士「勇者くん?」

勇者「真勇者が言ってた。自分はピ工口にすぎなかったって」

僧侶「ピ工口、か。たしかに当事者からすれば、そうなのかもしれないな」

勇者「勇者だから、きっと戦争からも逃げなかったんだろうな……」

228: 2014/02/21(金) 23:43:57 ID:zoCZL9y6


戦士「……ひとつ、謎が解けたかわりに、実はもうひとつ謎が増えたんだ」

戦士「歴代の勇者には戦争参加以外にも、もうひとつ共通点がある」

魔法使い「全員、一度は教会のお世話になっている……でしょ?」

僧侶「……ほんとだ。全員、一度は必ず氏んでいる」

戦士「そう、それが不思議で仕方がない。ひとりならまだしもねえ」

勇者「これも仕組まれていたってことか?」

戦士「断言はできない。
   けど、戦争の貴重な兵器を失うような真似をさせる理由が浮かばない」

戦士「たしかなのは真勇者は、なにかを知っている可能性があるってこと」

勇者「そういえば、アイツは過ちは今も続いているって言ってたな……」

戦士「もしかしたら、五百年間勇者が生まれなかったわけを彼は知っているかもしれない」

勇者「さらに真実を知るためには、アイツをつかまえなきゃいけないってことか」

229: 2014/02/21(金) 23:45:56 ID:zoCZL9y6




??「今回もアテが外れましたね」

真勇者「……次の場所へ行くぞ」

??「やはり、もっと手がかりが必要なのかもしれませんね」

真勇者「なにかあるのか?」

??「前々から調べていることがあります」

真勇者「……」

??「それにグズグズしていると、敵に我々の目的を看破されるかもしれませんしね」

真勇者「……前回訪れた教会には、すでに警備兵がいた」

??「我々が教会を調べていることは、バレていると考えていいでしょうね」

真勇者「急がなければマズイか」

??「ええ。敵の捜査の手も厳しくなっていますしね」

230: 2014/02/21(金) 23:46:32 ID:zoCZL9y6


真勇者「ひとつ聞いてもいいか?」

??「どうぞ」

真勇者「なぜお前は俺に協力する?」

??「私は間違いを是正したいだけです」

真勇者「……」

??「そして、その手段があなたの目的と一致しただけです」

真勇者「そうか」

??「私があなたに真実を教えたのも、私の目的を達成するためですから」

真勇者「……お前は何者なんだ?」

??「その質問にはお答えできません」

真勇者「どうしてだ?」

??「自分でも何者かわからないからですよ。あなたとちがってね」

真勇者「……。少し出てくる」

231: 2014/02/21(金) 23:47:23 ID:zoCZL9y6


??「あの人もからだが動かせるときは落ち着きがない」

???「報告があります」

??「おや、戻りましたか」

???「はい」

??「で、いったいなにかあったんですか?」

???「実は……」

232: 2014/02/21(金) 23:48:14 ID:zoCZL9y6





勇者「……なんで血を抜いたんだ?」

戦士「ギルドに所属する人は、血液検査を受ける義務があるんだよ」

勇者「へえ。なんか面倒だな」

戦士「魔法使いから、聞いておきたいことはないかい?」

魔法使い「……真勇者を追う旅をしていたときのこと、聞いておきたい」

勇者「旅のことなら、報告書出したぞ」

魔法使い「聞きたいのは、からだのコンディション」

勇者「そんなの覚えてないぞ」

戦士「勇者くんが健康管理をしているわけないよねえ」

勇者「うるせえ」

魔法使い「……薬師なら知ってるかも」

233: 2014/02/21(金) 23:48:45 ID:zoCZL9y6


勇者「そういえば、真勇者を追ってたときは体調とかけっこう気にしててくれたな」

魔法使い「彼女に聞くべき」

戦士「そのほうが早そうだね」

勇者「なあ」

戦士「なに?」

勇者「真勇者のことはどうなったんだ?」

戦士「焦る気持ちはわかるけど、まだあれから三日しか経ってないんだよ?」

勇者「そうだけど」

戦士「それに、勇者くんは真勇者にコテンパンにやられたんだろ?」

勇者「……それは、まあ、ねえ?」

戦士「真勇者を発見しても、今のままじゃあやられちゃうよ?」

勇者「ぐっ……」

234: 2014/02/21(金) 23:49:26 ID:zoCZL9y6


魔法使い「これ、貸してあげる」

勇者「なにこれ?」

魔法使い「……かつての勇者たちの戦闘記録」

勇者「へえ……勇者の戦い方とかが載ってるんだな」

戦士「魔王の持ってきてくれた資料なんだけど、なかなか興味深かったよ」

勇者「サンキュー。あとで読んでみるよ」

魔法使い「うん」

勇者「なんか今日の魔法使い、そわそわしてないか?」

戦士「あ、勇者くんも気づいた?」

魔法使い「……あとから、来客がある」

戦士「ちなみに誰が来るの?」

魔法使い「……竜人」

235: 2014/02/21(金) 23:51:00 ID:zoCZL9y6


戦士「ああ、そういうことね」

勇者「どういうことだ?」

戦士「彼女の趣味だよ」

魔法使い「そういうこと」

勇者「だから、どういうことだよ。というか、いつの間に竜人と交流してたんだ?」

魔法使い「昨日」

勇者「ふうん。オレも竜人とは少し話したけど、アイツ、無口だよな」

戦士「勇者くんとちがってクールだよね」

勇者「へいへい。でも、無口な竜人と魔法使いがなに話すんだ?」

魔法使い「会話が目的じゃない」

勇者「じゃあなにするんだ?」

魔法使い「……彼のからだを観察させてもらう」

236: 2014/02/21(金) 23:52:01 ID:zoCZL9y6





戦士「ボクは薬師ちゃんのとこ行ってくるから、お先に失礼するよ」

魔法使い「……バイバイ」

戦士「勇者くんもできるかぎり訓練しておくように」

勇者「おう、そのうちお前を打ち負かすためにガンバる」

戦士「ボク、おじいちゃんになるころには剣を手放してるよ」



勇者(……という、言葉を残して戦士は魔法使いの家を出ていった)

237: 2014/02/21(金) 23:52:36 ID:zoCZL9y6


魔法使い「……時間ある?」

勇者「ん、なんだ?」

魔法使い「……本の整理を頼みたい」

勇者「いいけど、この部屋に本なんてほとんどないぞ」

魔法使い「今、出す」

勇者「へ?  ……うわああぁ!?」

魔法使い「ごめん。間違えた」

238: 2014/02/21(金) 23:53:06 ID:zoCZL9y6


勇者「な、なんで急に床から大量の本が出てくるんだ!?」

魔法使い「……魔法陣で転送してきた」

勇者「ものがあんまりない部屋だなと思ってたけど……」

魔法使い「専用の書庫に移していただけ」

勇者「ていうか、すごい量だな」

魔法使い「……自分でも、そう思う」

勇者「これを整理するのか……」

魔法使い「ジャンルごとにわけてほしい」

勇者「……了解」

239: 2014/02/21(金) 23:53:48 ID:zoCZL9y6




魔法使い「早い」

勇者「おう。この量をこんなに早く整理できるとは、自分でもびっくりだ」

魔法使い「……ありがと」

勇者「ただ、さすがに少し疲れたな」

魔法使い「おつかれ」

勇者「それにしても、部屋でも個性って出るんだな」

魔法使い「……?」

勇者「こっちに帰ってきてから、僧侶の家に一度だけ行ったことがあるんだ」

魔法使い「そう」

勇者「僧侶は几帳面なのな。部屋がすごいキレイだったんだ」

魔法使い「え?」

240: 2014/02/21(金) 23:54:34 ID:zoCZL9y6


魔法使い「……彼女の部屋、キレイだったの?」

勇者「うん」

魔法使い「……部屋に入るとき、待たされたりしなかった?」

勇者「すごいな。なんでわかったんだ?」

魔法使い「女のカン」

勇者「女のカンか」

魔法使い「男には理解できないモノ」

勇者「男には理解できない、か。女って難しいよなあ」

魔法使い「……これで勉強する?」

勇者「この本は?」

魔法使い「僧侶が、私の家に忘れていった恋愛小説」



勇者(なぜかこの瞬間、魔法使いがニヤっとした気がした)

241: 2014/02/21(金) 23:56:09 ID:zoCZL9y6




僧侶「くしゅんっ……失礼」

薬師「風邪、ですか?」

僧侶「体調管理には人一倍気をつけているつもりなのに……」

戦士「おっ。本当にこのカフェにいた」

僧侶「戦士……どうしたんだ?」

戦士「僧侶ちゃんも一緒なんだね」

薬師「こんにちは、戦士様」

戦士「ふたりで食事?」

僧侶「私は魔界の件で呼び出された帰り。薬師は昼休憩で、さっきたまたま会ったんだ」

戦士「ボクもご一緒していいかな?」

薬師「もちろんです」

242: 2014/02/21(金) 23:56:57 ID:zoCZL9y6


僧侶「戦士」

戦士「ん?」

僧侶「私か薬師になにか用があるから来たんだろ?」

戦士「さすが僧侶ちゃん。実は薬師ちゃんに頼みたいことがあってね」

薬師「私でできることなら、なんでも頼まれますよ」

戦士「ありがとう。とは言っても、そんな難しい話じゃない
    勇者くんの冒険中の健康管理の記録とかってあったりする?」

薬師「はい、いちおう記録しておくように言われていたので」

僧侶「健康管理の記録って、勇者になにかあったのか?」

戦士「……魔法使いが彼の記録を見たいって言ってね。知的好奇心かな?」

僧侶「……そうか」

薬師「その記録、持ち出しに手続きがいるので時間を頂いてもいいですか?」

戦士「うん、手間をかけさせて悪いね」

243: 2014/02/21(金) 23:57:31 ID:zoCZL9y6


戦士「それと、個人的なおねがいもあるんだけどいいかな?」

薬師「個人的なおねがい?」

戦士「キミが勤めている図書館から資料を引っぱってきたりとかできる?」

薬師「……ごめんなさい。それはさすがに私では……」

戦士「国立中央図書館の第三番館の資料は、外への持ち出しは禁止されてるもんね」

僧侶「職員が中身を見ることもできないと聞いたが?」

薬師「そのとおりです。そもそもあそこに保管されてるものは、紙媒体ですらないんです」

戦士「紙媒体じゃないって……あそこにある資料はどうなってるの?」

薬師「すみません。これ以上は……」

戦士「そっか」



戦士(あそこになんらかの手がかりがあると踏んでいたけど……)

244: 2014/02/21(金) 23:58:04 ID:zoCZL9y6


女の子「あー!  シスターだ!」

戦士「ん?」

僧侶「こんにちは。あなたもここでお昼ご飯ですか?」

女の子「うんっ。シスターも?」

僧侶「ええ」

女の子「この前の変なお兄さんと今日は一緒じゃないんだね」

戦士「変なお兄さん?」

僧侶「えっと…‥あとで説明します」

女の子「さっきね、図書館の前で変な人がいたんだよ」

僧侶「変な人?」

女の子「うん。ずっと図書館の前でボーッとしてる男の人がいたんだ」

245: 2014/02/21(金) 23:58:43 ID:zoCZL9y6


薬師「図書館の前でボーッとですか……」

僧侶「心当たり、ありますか?」

薬師「いいえ。少なくとも私は見てないです」

戦士「ていうかべつに、図書館の前でボーッとするぐらい、よくないかい?」

女の子「絶対におかしいよー」

僧侶「そうですね。おかしいかも」

薬師「じゃあ、あとで私が確認してみます」

女の子「ほんと?」

薬師「はい。私は図書館勤務なので」

女の子「おねがいっ。変な人がいたら、図書館行くの怖いもんね」

246: 2014/02/21(金) 23:59:20 ID:zoCZL9y6




戦士「それにしても、一瞬でよくあんなにコロっと変われるもんだね」

僧侶「……まあな」

薬師「私も僧侶様の変化に驚いてしましました」

店員「お待たせしました。ストロベリーホイップクリームパンケーキになります」

薬師「あ、私です……どうかしましたか戦士様?」

戦士「いや、すごい量の生クリームだなと思ってね」

僧侶「ひと皿食べれば、その日はなにも食べれなくなるがおいしいぞ」

薬師「ふた皿ぐらいなら食べれちゃいますけど」

僧侶「……そうか」

戦士「ま、まあとりあえず、ボクもなにか注文しようかな」



戦士(このパンケーキをふた皿って……ボクなんて半分も食べれなさそうなのに)

247: 2014/02/21(金) 23:59:55 ID:zoCZL9y6




勇者『どうやら、これで敵は片付いたみたいだな』

戦士『また俺の獲物を奪いやがったな』

勇者『いちいち魔物と戦う度に競う必要ないだろ』

戦士『俺にはあるんだよ』

魔法使い『はいはい。ふたりとも仲良くね』

僧侶『そうですわ。魔王の城はすぐそこです。気を引き締めましょう』

戦士『わぁってるよ!  まあでも、ようやくたどり着いたんだな』

勇者『そうだな。ここまで長かった』

魔法使い『ほんとだね。なんか感慨深いね』

僧侶『これからが本番ですけどね』

248: 2014/02/22(土) 00:00:33 ID:HI5/eXOA


勇者『そうだ。俺たちで魔王を倒して姫様を取り返す』

戦士『言われるまでもねえよ』

僧侶『魔王は私たちの宿敵ですからね』

魔法使い『そうね。必ず倒さなきゃ』

勇者『…………』

魔法使い『どうしたの勇者?』

戦士『まさかここに来て、ビビってんじゃねえだろうな?』

勇者『ちがう。ひとつ、みんなに言っておこうと思ったんだ』

僧侶『道具の確認とかでしょうか?』

勇者『いや、そんなことは今さら言うまでもないだろ?』

戦士『あたりめえだろ』

勇者『おそらく、魔王城に行けば話している余裕もないだろうしな』

249: 2014/02/22(土) 00:01:13 ID:HI5/eXOA


勇者『ここまで色々ありがとう』

魔法使い『勇者、急にどうしちゃったの?』

戦士『まだ魔王倒してねえのに、礼言うなよ』

勇者『そうなんだけど、どうしても今のうちに言っておきたかったんだ』

僧侶『勇者様……』

勇者『魔王を倒して、姫様を連れ戻して、必ず生きて帰るぞ』

戦士『おう!』

魔法使い『もちろんっ!』

僧侶『はいっ!』

250: 2014/02/22(土) 00:01:54 ID:HI5/eXOA


勇者「……夢、か」


勇者(ここんとこ、この類の夢はずっと見てなかったのにな)

勇者(ていうか、いつの間に寝たんだろ)

勇者(魔法使いの家を出て、それで宿舎に帰ったんだよな)

勇者(たしか魔法使いから借りた、恋愛の本を読んで……)

勇者(そこから記憶がないから、そこらへんで寝たのか)


勇者「とりあえずからだ動かすか」

251: 2014/02/22(土) 00:02:49 ID:HI5/eXOA




勇者「竜人?」

竜人「……勇者殿か」

勇者「なんで宿舎の庭に竜神がいるんだ?」

竜人「こちらに滞在中は、この宿舎の一室を借りることになってます」

勇者「なるほど。そういえば、魔法使いには会ったか?」

竜人「……!」

勇者「どうした?  急に顔色が悪くなったぞ」

竜人「……あれは恐ろしい女だ」

勇者「へ?」

竜人「人間に畏怖の感情を抱いたのは初めてでした」

勇者「なにされたんだ?」

竜人「……言いたくありません」

252: 2014/02/22(土) 00:03:26 ID:HI5/eXOA


勇者「そんなにアレだったのか」

竜人「……ええ」

勇者(なにやったんだ、魔法使い)

竜人「勇者殿は今までなにをしていたのですか?」

勇者「恋愛小説読んでたら寝ちゃって。今起きたところ」

竜人「恋愛小説?  アレは男が読むものなのですか?」

勇者「正直言ってオレにも全然内容がわか……」



女の子『恋愛における心の機微とか、お兄ちゃんには理解できないかもね』



勇者「……」

竜人「勇者殿?」

勇者「……いや、アレは奥が深いよ。うん」

253: 2014/02/22(土) 00:04:08 ID:HI5/eXOA


竜人「はあ」

勇者「ココロノキビ?  あー、なんていうか、とにかくそんな感じの勉強になるね」

竜人「ほう。そうなんですか」

勇者「キミも読んだほうがいいぞ?」

竜人「そうかもしれませんね」

勇者「うんうん、読んだほうがいい」

竜人「よく妻に言われますしね、デリカシーがないと」

勇者「そうそう……って、つ、妻?」

勇者「奥さんがいるのか?」

竜人「はい」

254: 2014/02/22(土) 00:04:40 ID:HI5/eXOA


勇者「妻がいるってことは……恋愛の経験があるってこと?」

竜人「当然でしょう。そこそこの交際期間を経て、結婚しましたから」

勇者「……へえ」

竜人「しかし最近はいささかギスギスしているというか……」

勇者「……」

竜人「アドバイスがあるのなら是非聞きたいですね」

勇者「え?  ぁ、ぅん……」

竜人「勇者殿、汗がすごいが大丈夫ですか?」

勇者「だ、大丈夫。やっぱりさ、夫婦のことは夫婦で解決しなきゃ……じゃない?」

竜人「さすがは恋愛に熟知している勇者殿だ。そのとおりですな」

勇者「あ、あはは……」

255: 2014/02/22(土) 00:05:27 ID:HI5/eXOA


勇者「ち、ちなみに奥さんとの恋愛は楽しかった?」

竜人「まあ、特に最初は。アタックされる側でしたしね」

勇者(なんだよ、アタックって。恋愛って過激なのか?)

竜人「妻には、クールなところに惚れたと言われました」

勇者「クールか」

勇者(戦士にはクールじゃないとか、馬鹿にされることがあるなオレ)

竜人「口下手なのを、そういうふうに捉えられて最初は困りましたけどね」

勇者「なるほど。そうかそうか。それじゃあ修行するかなあ」

竜人「話の途中じゃないですか」

勇者「恋愛っていうのは、一朝一夕ではどうにもならないのさ。
    だから今は修行するんだよ」

竜人「イマイチ理解できませんが、アドバイスのお礼に付き合いましょうか?」

勇者「ああ、頼む」

勇者(クール、か)

256: 2014/02/22(土) 00:06:05 ID:HI5/eXOA





戦士「特にあやしい人は見当たらないけどね」

女の子「私がカフェ行くまではいたのに」

僧侶「また今度調べてみましょう。今日は、帰りましょう?」

女の子「……うん」

薬師「私がいちおう職員に聞いておくので、安心してください」

女の子「おねがいね、お姉ちゃん」

僧侶「では、私とこの子はこれで失礼します」

戦士「うん、まったねー」

257: 2014/02/22(土) 00:06:38 ID:HI5/eXOA


薬師「僧侶様にも戦士様にも、結局ついてきてもらっちゃいましたね」

戦士「気にしなくていいよ。もう一度ここに来るつもりだったし」

薬師「図書館には入れませんよ?」

戦士「わかってるよ。やっぱり侵入は不可能みたいだね、これ」

薬師「物騒なこと言わないでください」

戦士「冗談じゃないとしたら?」

薬師「万が一、侵入できても資料の持ち出しは不可能ですよ?」

戦士「それなんだよね。こんな立派な建物なのに、出入り口が一箇所しかないなんてね」

薬師「その唯一の出入り口には腕利きの警備の方もいます」

戦士「警備の無効化も無理っぽいし、できても次の対策も打ってありそうだね」

薬師「しかも、極めつけは魔術があの空間では使えないってことです」

258: 2014/02/22(土) 00:07:25 ID:HI5/eXOA


戦士「魔術プロテクトだね」

薬師「ひょっとしたら武器に魔力を流しこむぐらいなら、できるかもしれませんが」

戦士「そんなことができても意味はなさそうだ」

薬師「焼け石に水でしょうね」

戦士「なるほど。こっちからのアプローチはあきらめるしかないか」

薬師「ええ」

戦士「けど、真勇者と例の宗教グループは必ず捕まえてみせる」

薬師「足がかりになりそうなものはあるんですか?」

戦士「……今のところはないに等しい。
   しかも、敵にこちらの情報が漏れている可能性がある」

薬師「なんだか、状況がかえって悪いような気がしますけど」

戦士「そんなことはないよ。情報が漏れる場所があるなら、そこから敵をたどればいい」

薬師「なるほど」

259: 2014/02/22(土) 00:09:16 ID:HI5/eXOA




戦士『――真勇者と例の宗教グループは必ず捕まえてみせる』


??「……だ、そうですよ」

?「腹が立つねえ。あの戦士」

??「勇者パーティの中では一番のキレ者で、厄介かもしれません」

?「いずれは先手を取られる可能性があるかもねえ」

??「しかもタチが悪いことに腕も悪くない」

?「キレ者ねえ。私はああいう調子に乗ってるヤツが、とても気に食わない」

??「見た目や言動に騙されてませんか?  あの戦士、スキがありませんよ」

?「ならば、そのキレ者ができなかったことをしてやろう」

??「ようやく手はずが整ったのですか?」

?「ああ。あの中央図書館から例の資料を奪う」

??「間違ってもしくじらないようにお願いしまよ」

?「ふん、誰に向かってものを言っている」

260: 2014/02/22(土) 00:10:13 ID:HI5/eXOA

♪二日後



勇者「珍しいな。お前がオレをランチに誘うなんて」

戦士「そうだね」

勇者「いやあ、でもさっきまで訓練してたから腹減ったな」

戦士「先にメニュー選んじゃいなよ」

勇者「おう。でもはじめて来る店だからよくわからないな」

戦士「量が一番多いのは、Bランチだよ。ていうかそれにしなよ」

勇者「おいしいのか?」

戦士「勇者くんは量が多ければ、味なんて気にしないでしょ?」

勇者「そんなことねえ……」

勇者(……っと、クールにいかなきゃな)

勇者「……ふっ、そんなことないぜ」

戦士「ん?  ……まあいっか」

261: 2014/02/22(土) 00:10:55 ID:HI5/eXOA


勇者「それで、オレを呼び出した理由はなんだ?」

戦士「今後の方針について話しておこうと思ってね」

勇者「今後の方針?」

戦士「真勇者とその仲間をどう捕まえるか、って話」

勇者「なにか対策があるのか?」

戦士「いや、正直今は対策らしいものはないよ」

勇者「教会の警備はさせてるんだよな?」

戦士「だけど、全部じゃない」

勇者「どうして?」

戦士「数が多すぎるからだよ」

262: 2014/02/22(土) 00:11:47 ID:HI5/eXOA


勇者「そんなにあるのか?」

戦士「半分以上は機能していないけどね」

勇者「そうなのか」

戦士「それに、市警軍では真勇者やその仲間の連中を捕まえるのは不可能だ」

勇者「どうして?」

戦士「戦力としては弱すぎるし、その市警の中に敵が潜伏しているかもしれない」

勇者「そうか、下手したらオレたちの身近にいる可能性もあるもんな」

戦士「……おかしいな」

勇者「なんかあったのか?」

戦士「実は薬師ちゃんにもここに来てもらうように言ってたんだけど」

勇者「薬師が遅刻なんて珍しいな」

263: 2014/02/22(土) 00:12:35 ID:HI5/eXOA


戦士「それに、街の様子が変じゃない?」

勇者「言われてみると、なんか騒がしいような……」

戦士「とりあえず店を出ようか」

店主「あれ?  兄ちゃんたち帰っちゃうの?」

戦士「ちょっと野暮用を思い出してね」

店主「なんだよ、もうランチできちゃうよ」

戦士「そうなの? バイトの子のまかないとして出してあげれば?」



「お、おい!  やべえぞ!」

「中央図書館で爆発事故があったってよ!」



勇者「戦士!」

戦士「……急ごう!」

264: 2014/02/22(土) 00:13:14 ID:HI5/eXOA




勇者「な、なんだよこれ……」

戦士「……」



勇者(国立中央図書館、第三番館は一部が火事になっていた)



勇者「この氏んでる魔物たちは……」

戦士「キミっ!」

   「戦士殿! ご無沙汰しており……」

戦士「挨拶はいい。なにがあったのか教えて欲しい」

   「私も完全に状況を把握しているわけではありません。ただ……」


勇者(突然街に現れた巨大な魔物が、図書館を襲い始めたらしい)

勇者(たまたまギルドの連中がその場にいて、なんとか仕留めることに成功したらしい)

265: 2014/02/22(土) 00:13:49 ID:HI5/eXOA


戦士「図書館の職員の避難は?」

   「おそらく、完全に終わったと思います」

戦士「ありがとう。街の住人の避難と消火作業を引き続き頼んだ」

   「了解です!」

戦士「ボクらも住人の誘導を……勇者くん?」

勇者「あれ、職員の人たちか?」

戦士「それがどうしたの?」

勇者「薬師がどこにも見当たらない。戦士が指定した時間にも来てないんだろ?」

戦士「念のために聞いておこうか」

266: 2014/02/22(土) 00:14:25 ID:HI5/eXOA


戦士「第三番館に勤務している薬師がどうなっているかわかる?」

職員「あなたは……?」

戦士「彼女の知り合いだ」

職員1「……そういえば、見てないな」

勇者「薬師は今日、働いてたのか?」

職員2「え、ええ……そうです」

職員3「我々も逃げるのに必氏だったもので……」

戦士「勇者くん、警備兵に聞いたほうが早いかもしれない」

勇者「そうだな」

267: 2014/02/22(土) 00:15:09 ID:HI5/eXOA


勇者「あの、すみません!」

警備兵1「なんだキミたちは」

勇者「えっと……薬師っていう髪が長くて小柄で、その……」

戦士「ここの職員が全員きちんと避難したかどうか、確認できる?」

警備兵1「いや、まだゴタゴタしていて確認は取れてないが……」

戦士「リストみたいなのあるでしょ?」

警備兵2「今日の勤務リストがここにある。名前はなんて言った?」

勇者「薬師!」

警備兵2「…………まだ、ここから出ていない」

勇者「ほかの出口から脱出したとかは!?」

戦士「それはありえない。第三番館の出入り口はここしかないんだ」

268: 2014/02/22(土) 00:16:06 ID:HI5/eXOA


勇者「じゃあまだ中にいるかもしれないってことか!?」

戦士「……おそらく」

勇者「中に入らせてくれ!  仲間がいるかもしれないんだっ!」

警備兵1「……どうする?」

警備兵2「…………」

勇者「どうなんだよ!?  通さないって言うなら……!」

警備兵「入ってもいい」

勇者「本当か!?」

警備兵「ただし職員をひとり、つれていけ」

勇者「ありがとう! 戦士、急ぐぞ!」

269: 2014/02/22(土) 00:17:12 ID:HI5/eXOA




戦士「……これが第三番館」

勇者「なに口ポカンと開けてんだ。急がないと!」

戦士「わかってるよ。ちょっと様子を見てたのさ」

勇者「見た感じ、なんにもないだろ」

戦士「この館はとても丈夫に作られてるみたいだね。彼女がどこにいるかわかる?」

職員「ええ。こちらになります」


勇者(オレたちは薬師がいるところへと案内してもらった)


勇者「この部屋に薬師がいるのか?」

職員「そうです」

勇者「ぐっ……重い! なんだこの扉?」

職員「すべての部屋の扉は非常に頑丈な作りになっています。なので……」

勇者「薬師!  おい、薬師!  おいっ!」

270: 2014/02/22(土) 00:18:11 ID:HI5/eXOA


戦士「……これだけ乱暴に扉を叩いてるのに、反応がないなんて」

勇者「ほんとにここであってるのか!?」

職員「そのはずです……」

戦士「それにここに来るまでに、扉が閉まっていた部屋はここだけだったけど」

職員「ええ。本来ならこの時間帯は、扉を閉めたりはしないはずなんですが」

勇者「なんでだ!  どんなに引っ張ってもこの扉、開かないぞ」

戦士「鍵がかかってるの?」

職員「中からは鍵はかけられません。だいたいここの鍵は南京錠ですし」

戦士「その南京錠はどこにある……って、まさかこれ?」

職員「それです」

戦士「大きいな。でも魔術が使えないここでは、シンプルな鍵のほうがいいかもね」

271: 2014/02/22(土) 00:18:47 ID:HI5/eXOA


勇者「くそっ!  どうなってんだ!?」

戦士「勇者くんの力でも開けられないなんて……」

勇者「さっきから反応がない。本当にここに薬師がいるのか?」

職員「お、おそらく」

戦士「ちなみにここの扉が横引きなのは、わかってるよね?」

勇者「さすがにわかるわ!」

戦士「……ここの扉を破壊するっていうのはダメかな?」

職員「え!?」

戦士「さっさとこの扉を破壊して、中を確認したほうがいい気がするんだ」

勇者「オレもその案に賛成だ」

272: 2014/02/22(土) 00:19:27 ID:HI5/eXOA


職員「で、ですがそれは……」

戦士「責任はこちらの彼がとるから大丈夫」

勇者「おう。なにか言われたらオレがやったって言え」

戦士「…………。このように勇者くんも言っているわけだしさ」

職員「しかし……」

戦士「人の命がかかってるんだけど?」

職員「わ、わかりました……」

戦士「ありがとう。けど……無理か」

勇者「なにが無理なんだ?」

戦士「魔術を使うのが、だよ」

273: 2014/02/22(土) 00:20:05 ID:HI5/eXOA


戦士「全然魔力を操ることができない」

勇者「なんで!?」

職員「魔術による窃盗などの防衛策として、プロテクトがかかっているんです」

勇者「ぷ、プロテクト?」

戦士「ようはこの空間では一切魔術が使えないってこと」

勇者「こんな分厚い扉を、魔術なしで壊さなきゃいけないのか」

戦士「それどころか魔力を操ることも……いや、それならできるかも。勇者くん」

勇者「おう」

戦士「剣に魔力を流しこむぐらいなら、できるかもしれない」

勇者「やってみる」

274: 2014/02/22(土) 00:22:07 ID:HI5/eXOA


勇者「……っ!  魔力が上手く操れない」

戦士「やっぱりこの空間では難しいか……」

勇者(だけど、こうしてる間にもひょっとしたら薬師は……!)

勇者「――っ」

戦士「扉に触れてどうするんだ?」



勇者(集中しろ。扉に魔力を流しこんで破壊する……自分の全魔力をぶつける感覚……!)



戦士「……!  勇者くん、それならいけるっ!」

勇者「――うおおおおおおぉっ!」


勇者(扉に亀裂が走る。そして)


戦士「よし!  あとは蹴りでいっちょあが……」

勇者「なっ……」

275: 2014/02/22(土) 00:23:17 ID:HI5/eXOA


勇者(粉々に壊れた扉の先にあった部屋)

勇者(そこでオレたちが見たのは……)

勇者「あ、あぁ……」



薬師「……」



勇者(部屋の床に散らばる髪。赤い血。鉄の匂い)



勇者「な、なんだよこれ……」



勇者(オレが見たのは、長い髪を切り裂かれて、血だらけで横たわっている薬師だった)

276: 2014/02/22(土) 00:25:11 ID:HI5/eXOA




勇者(なにが起きているか、オレには理解できなかった)

勇者(薬師が氏んでいる?)

勇者(薬師――)



戦士「勇者!!」



勇者「……!」

戦士「出血はひどいけどまだ息はある!」

勇者「ぁ、あぁ…………た、助かるのか……」

戦士「ボサッとするな!」


勇者(そうだ、なにをやってるんだ!  薬師を病院へ運ばないと……)

277: 2014/02/22(土) 00:26:32 ID:HI5/eXOA




勇者『気絶した人の運び方?』

薬師『ええ。今後、真勇者様を追うときに必要になってくる知識だと思うんです』

勇者『そうなの?』

薬師『おそらくこのパーティでも、負傷者は出てくるでしょうし』

勇者『コイツらみんな強いのに?』

薬師『相手はもっと強いでしょう?』

勇者『そっか。でも、人の運び方にも決まりみたいなのがあるんだな』

薬師『搬送の仕方ひとつで、助かる命が助からなかったり……その逆もあります』

勇者『そうだな。目の前で人が氏ぬのはつらいよな』

薬師『ええ。助けられる命なら、絶対に助けたいです』

勇者『薬師。じゃあ、搬送の仕方を教えてくれ』

薬師『はい』

278: 2014/02/22(土) 00:29:22 ID:HI5/eXOA







警備兵2「……どうした、なにがあった?」

勇者「仲間が誰かに襲われたんだ!  一番近くの病院はどこ!?」

警備兵1「待て」

勇者「なんだ!?  早く病院へ運ばないと……!」

警備兵1「ここを出るには、所持品検査が必要だ」

勇者「人の命がかかってんだぞっ!  そんなことしてる場合かよ!」

警備兵1「人の命以上に重要なものがここにはあるんだ」

戦士「勇者くん。ボクらは所持品検査を受けよう」

勇者「な、なに言ってんだ!?」

戦士「その代わり、誰でもいいから彼女を病院へ搬送してくれ」

279: 2014/02/22(土) 00:31:00 ID:HI5/eXOA


警備兵1「どうします?」

警備兵2「……一刻を争う事態だ。いいだろう」

戦士「ありがとう、助かる」



勇者(薬師は職員の方たちに搬送されていった)

戦士「さっさと検査するなら、してくれるかい?」

勇者「そうだ。オレたちも薬師のとこへ……」

戦士「ちがう。彼女のことは病院側にまかせるしかない」

警備兵1「……手を挙げろ」



勇者(オレたちは持ち物検査を受けて、なにも持っていないことを証明した)

勇者「病院へ行かないなら、どうするんだよ!?」

戦士「キミの気持ちはわかる。けど、魔物を調べなければいけない」

280: 2014/02/22(土) 00:31:46 ID:HI5/eXOA


戦士「次の犠牲者を出すわけにはいかないしね」

勇者「…………わかった」

警備兵2「待て。中でなにがあった?」

戦士「ボクらの同行者である彼から聞くっていうのはダメ?」

職員「え? わ、私ですか……」

警備兵2「お前たちは重要参考人だ。全員に聞くに決まっているだろ」

勇者「オレたちが行ったときには薬師は……!」

警備兵2「無実証明がしたいなら、状況をきちんと説明しろ」

戦士「仕方ないね」


勇者(戦士は言われたとおり、警備のオッサンに状況を説明した)

281: 2014/02/22(土) 00:32:33 ID:HI5/eXOA


警備兵2「お前たちが駆けつけた時点では、扉は閉まっていたんだな」

戦士「しかもそこは、いわゆる密室だった」

警備兵2「……これから図書館の職員にも、話を聞く」

勇者「アンタらで実際に現場を見にいかないのかよ?」

警備兵2「あそこに入れるのは、限られた人間だけだ。我々も例外じゃない」

勇者「こんなときまで?」

警備兵2「こんなときだからだ。それに、こんなことは前代未聞だ」

戦士「前代未聞ねえ」

警備兵2「とにかくお前たちはここで……」



勇者「ちょっと待った。アレ……」

戦士「え?」


 不意に白い光が、勇者たちの目の前で爆ぜる。魔法陣のそれだった。
 視界がもとに戻った時には赤いウロコの大蛇が出現していた。

282: 2014/02/22(土) 00:33:16 ID:HI5/eXOA


戦士「……フレイムドラゴンか」

勇者「ドラゴン?  蛇だろ?」

戦士「ああだ名だよ。火を吐くから気をつけたほうがいい」

警備兵2「魔法陣……なぜこんな場所に」

戦士「とりあえず、コイツを片付けよう」

勇者「ああ」



勇者(ん?  なんか強烈な視線を感じるような……アレは……)

283: 2014/02/22(土) 00:34:06 ID:HI5/eXOA


勇者「戦士、あのでっかい蛇の背後」

戦士「……赤いローブだねえ。ずいぶんと目立つなあ」

勇者「今回のことに関係あるんじゃないか」

戦士「十中八九、あると見て間違いないと思うよ」

勇者「……! 赤ローブのヤツ、逃げたぞっ!」

戦士「……」

勇者「くそっ、あの蛇さえいなければすぐに追えるのに!」

戦士「ドラゴンはここにいる人たちにまかせよう」

勇者「大丈夫なのか?」

戦士「彼らだってギルドの一員だ。頭数もそろってる、なんとかなるよ」

284: 2014/02/22(土) 00:35:03 ID:HI5/eXOA


警備兵2「お前たちどこへ行く気だ?」

戦士「今回の魔物騒動の犯人と思わしき人間がいたんだよ」

警備兵2「根拠はなんだ?」

戦士「悪いけどそれは説明できない」

警備兵2「なに?」

勇者「説明はあと!  早くアイツを追うぞ!」

戦士「ボクらは逃げたりしないから安心しなよ!」

警備兵2「おいっ!  お前らっ……!」



勇者(オレと戦士は、蛇を避けて赤ローブを追った)

勇者(背後で警備のオッサンがなにかを言っていたけど、もちろん無視した)

285: 2014/02/22(土) 00:35:58 ID:HI5/eXOA




戦士「勇者くん。先に言っておく」

勇者「なんだ?」

戦士「おそらくこれは陽動の類だ」

勇者「敵の罠ってことか」

戦士「そうだ。だから場合によっては逃げるからね」

勇者「だけど、逃げてどうすんだよ?」

戦士「さすがのボクでもすぐには浮かばないよ」

勇者「もしかしたら、薬師を襲ったのは赤ローブの連中かもしれないんだ……」

戦士「ボクも勇者くんと同じ考えだ。だけど冷静に対処しないと、ボクらも危険だ」

勇者「……わかってる」

戦士「見えた!」


 ようやく赤いローブを視界にとらえる。
 戦士は敵の背中へ目がけて、青い炎を飛ばした。

286: 2014/02/22(土) 00:36:37 ID:HI5/eXOA


?「ふっ、ようやく追いついたか」

戦士「悪いけど、つかまってくれないかな?」

?「どうしようねえ」

勇者「……お前か、薬師を殺そうとしたのは?」

?「あれ?  彼女氏んでないの?  おかしいなあ」

勇者「……」

?「まあ私も人間だ。もしかしたら良心が、彼女の氏を引き止めたのかもねえ」



勇者「――ふっざけるなああああぁっ!」



戦士「よせっ!  迂闊に……」

?「予想通りすぎる反応だ。つまり、攻撃はとおらない」

勇者「ちっ……!」

ゴーレム「……うぅぅ」

287: 2014/02/22(土) 00:37:43 ID:HI5/eXOA


戦士「また魔法陣で魔物を呼び寄せるやり方か。芸がないんじゃない?」

?「身を助けるのは芸じゃない。確固たる戦術だ」

勇者「いいかげん、この展開は飽きたんだよ!」

?「そう?  まあせいぜいがんばってくれよ。私は帰る」

勇者「……逃げられた」

戦士「しかも敵の置き土産は土の魔物ときた。最悪だね」

勇者「だけどこの数なら、倒せる!」

戦士「そうだね。さっさと終わらせよう」

勇者「いくぞゴーレムっ!」

288: 2014/02/22(土) 00:38:34 ID:HI5/eXOA




戦士「ずいぶんと時間を食ったね」

勇者「ああ」



勇者(オレと戦士はゴーレムを倒し、街へと戻る道を走っていた)

勇者「結局アイツはなにが目的だったんだ」

戦士「ボクらを頃すための陽動にしては、中途半端だったしね」

勇者「街から遠ざけたかったとか?」

戦士「なんのために?」

勇者「知らん」

戦士「はあ……けど、なにかイヤな予感がする」

勇者「不吉なこと言うなよ」

戦士「仕方ないでしょ。胸騒ぎがするんだから」

289: 2014/02/22(土) 00:39:26 ID:HI5/eXOA


警備兵2「戻ってきたか」

戦士「なんとかね」

警備兵2「その様子を見るかぎり、成果はなかったようだな」

戦士「ボクたちにもよくわからないんだよ」

勇者「つか、取り調べが終わったなら、病院へ行きたいんだけど」

警備兵2「ノコノコ戻ってきてなにを言うかと思えば、そんなことか」

勇者「……?」

警備兵2「よく逃げなかったな」

戦士「……どういう意味?」

警備兵2「お前たちに報告するべきことが、三つある」

290: 2014/02/22(土) 00:40:15 ID:HI5/eXOA


勇者「報告するべきこと?」

警備兵2「ああ」

戦士「さっさと教えてくれない?  こっちも暇じゃないんだよ」

警備兵2「そうか。だったらまずひとつ、図書館の資料が盗まれた」

戦士「……なんだって?」

警備兵2「ふたつ目。ここから一番近い病院が、何者かによる襲撃を受けた」

勇者「……うそだろ?  や、薬師は!?  薬師は無事なのか!?」

警備兵2「さらわれたそうだ」

勇者「…………え?」

警備兵2「詳細はまだ不明だ。だが、何者かによってさらわれたらしい」

勇者「ちょ、ちょっと待ってくれ……!」

291: 2014/02/22(土) 00:41:57 ID:HI5/eXOA


戦士「……三つ目は?」

警備兵2「三つ目か。三つ目は……」

勇者「そんなことより、敵を追わないとっ!」

警備兵2「……お前がか?」

勇者「当たり前だろうが!  薬師は重傷だったんだぞ!  早くしないと……」

警備兵2「すでにギルドの者が追跡してる。それに、お前はなにもできない」

勇者「どういうことだ!?」

戦士「……そういうことか。やられたよ」

勇者「なにがだよ!?」

警備兵2「三つ目は、お前たち自身に関わることだ」



警備兵2「――お前たちふたりを、殺人未遂容疑で逮捕する」

292: 2014/02/22(土) 00:42:43 ID:HI5/eXOA




戦士『まさか一年で二回も牢屋に入れられるなんてね』

勇者「意味がわかんねえ。なんでオレたちが薬師を襲った犯人されてんだ!?」

戦士『ハメられたね。完全に』

勇者「敵の罠にハマったってことか?」

戦士『うん。まあ、どこまでが罠だったのかはわからないけど』

勇者「あの赤ローブの陽動も、このための罠だったのか?」

戦士『おそらく。まあけど、慌てることはない』

勇者「お前って本当にいつでも余裕だな」

戦士『いや、正直今回はそこまで余裕はないよ』

勇者「そうなのか?」

戦士『うん。ただ、うろたえるボクなんて見たくないでしょ?』

293: 2014/02/22(土) 00:43:33 ID:HI5/eXOA


勇者「いや、個人的には一度ぐらい見てみたい」

戦士『ボクが慌てふためくことがあっても、勇者くんは見れないよ』

勇者「なんでだ?」

戦士『そのときには、勇者くんも驚きすぎて目が飛び出ちゃうからね』

勇者「どういう意味だよ」

戦士『そういう意味さ。まあ、今回はそうはならないだろうけど』

勇者「なにか脱出のプランでもあるのか?」

戦士『そんなものはないけど、申し開きの機会はあるでしょ。
   不幸中の幸い、ボクらが第三番館に入ったときは職員も一緒だったでしょ?』

勇者「そうか!  そいつにオレたちの無実を証明してもらえばいいのか」

戦士『無実を証明できるかは、微妙だけどね』

294: 2014/02/22(土) 00:45:16 ID:HI5/eXOA


勇者「なんで?」

戦士『グルだとか言われたら、それまでかもしれない』

勇者「そんなことある……」


キイイイィ……


警備兵2「独房の居心地はどうだ?」

戦士『最悪だね』

勇者「……つうか、アンタ、図書館警備が仕事じゃねえのかよ?」

警備兵2「ずっと突っ立ってると腰に来るんでね」

戦士『ボクらが重要参考人から、容疑者になったわけを聞きたいんだけど』

警備兵2「とぼけたって無駄だ」

勇者「なにもとぼけてねえよ!」

295: 2014/02/22(土) 00:49:00 ID:HI5/eXOA


戦士『申し開きの機会が欲しいんだけど』

警備兵2「ほう」

戦士『第三番館に入ったとき、ボクらには同行者がいた』

警備兵2「ああ、彼のことを言っているのか」

戦士『彼がボクらの無実を証明してくれるはずだ』

勇者「そうだそうだ!」

警備兵2「それは無理な話だ」

戦士『彼もグルだとでも言いたいのかい?』

警備兵2「ちがう。氏人はなにも語らないからだ」

勇者「氏人って……」

警備兵2「お前たちの同行者は殺害されたからな」

296: 2014/02/22(土) 00:57:41 ID:Id74CajE
えっ

308: 2014/02/22(土) 01:31:57 ID:HI5/eXOA

――キイイィ


勇者「またアンタか。なんか用かよ?」

警備兵2「出ろ」

戦士『ボクは出してくれないのかい?』

警備兵2「残念ながらな」

戦士『資料は本当に盗まれたのかい?』

警備兵「……嘘を言ってどうする?」

戦士『あそこから資料を盗むのはまず無理だ』

警備兵2「……」

戦士『出入り口がひとつしかない、という極めてシンプルな構造
   しかも出入り口にはキミらがいたし、どうやって盗むんだい?』

警備兵2「自分に聞くんだな」

戦士『そっちの罪も被らなきゃいけないのかい?』

警備兵2「さあな。行くぞ」

309: 2014/02/22(土) 01:33:30 ID:HI5/eXOA




勇者「ここは……」

勇者(牢屋を出て、階段を上がってきて連れてこられた場所は、なにかの実験室だった)

警備兵2「連れてまいりました」

??「ご苦労様です。あなたは持ち場へ戻ってください」

警備兵2「はっ!」

勇者「こんな場所で申し開きするのか?」

??「こんな場所で申し開きすると思いますか?」

勇者「しないよなあ。ていうか、なんで赤ローブがいるんだよ」

勇者(戦士が言っていたことは、当たってたってことか)

??「どうしてでしょうね?」

勇者「……この手枷、外してくれたりしないよな?」

??「あなたはすぐ暴れそうなんで、ダメです」

310: 2014/02/22(土) 01:37:02 ID:HI5/eXOA


勇者「アンタ、真勇者と一緒にいたヤツだよな?」

??「覚えてくれていましたか」

勇者「薬師をどうした?」

??「知りませんねえ。誰ですかその人は?」

勇者「とぼけんな。どうせアンタらが薬師を誘拐したんだろ」

??「仮に……我々が彼女を誘拐したとしたらどうします?」

勇者「取り返すに決まってるだろうが」

??「どうやって?」


勇者(手枷をされている上に、武器もない)


??「今、あなたは私をどうやって無効化しようか考えている。そうですね?」

勇者「そうだよ」

311: 2014/02/22(土) 01:43:28 ID:HI5/eXOA


??「できれば穏便にすませたいんですよ」

勇者「だったらオレを解放しろ。そうしたら見逃してやる」

??「あなたを捕まえるために、手間暇かけたんですよ。逃すわけないでしょう」


勇者(オレが目的?)


??「ではこうしましょう。
   私の言うとおりにしてくだされば、彼女を開放してあげましょう」

勇者「なにをさせる気だ?」

??「べつに。その椅子に座るだけでいいですよ」

勇者「……アンタはオレのことをなにか知ってるのか?」

??「あなたよりは知っている、かもしれませんね」


勇者(敵の言うとおりにして、オレはどうなる?  だけど……)


??「さっさと座ってもらえますか?  彼女を早く助けたいでしょ」

勇者「……わかった」

勇者「勇者の本当の敵は魔王じゃなかったのかもしれない」【3】

引用: 勇者「勇者の本当の敵は魔王じゃなかったのかもしれない」