1: 2010/01/28(木) 21:51:27.85 ID:Oe+S6fV50
水銀燈「何かしら、これ」

水銀燈はふと目の前黒いノートのようなものが落ちているのを見つけ、手にとってみる。
それは黒地に不気味なフォントで白く「DEATH NOAT」と書かれているのみであった。

水銀燈「デスノート……でいいのかしら。中には何も書いていないみたいだけど、
氏のノートだなんて大げさなことね」

誇り高きローゼンメイデンのドールが道に落ちているものを拾って持って帰るなんて
あってはならないことだが、その不思議な装丁に惹かれてノートを手に取ったまま
ミーディアムである柿崎めぐが入院している病院へと飛んでいった。

2: 2010/01/28(木) 21:53:37.15 ID:Oe+S6fV50
水銀燈が来ることを見越しているのか、いつも通り開け放たれたままになっている
窓のサンに降り立ち、そのままその場所に水銀燈が座る。とりたてて話すこともない、
という素っ気ない態度で特にめぐに話しかけようとする様子もない。

めぐ「いらっしゃい、水銀燈。今日もちゃんと来てくれたのね」

そのような水銀燈の態度を全く気にすることもなくめぐは穏やかな顔で語りかける。

水銀燈「ふん、ただのきまぐれよ、貴女もいい加減学習しなさい」

そう吐き捨てる水銀燈だが、めぐはその言葉が本心ではないことは知っている。
だからこのようなやりとりはもう、恒例行事のようなものだった。
そして、めぐはふと水銀燈がノートを持っていることに気づいた。

めぐ「水銀燈、それは?」

水銀燈はちらとノートに目をやると、それを気だるそうにめぐに見せる。

4: 2010/01/28(木) 21:55:59.30 ID:Oe+S6fV50
水銀燈「あぁ、これはさっき拾ったのよ。なんとなく気に入ったから持ってきただけよぉ」

めぐはそのノートを見て一瞬怪訝な顔をするもくすりと笑い、そのノートを受け取ろうとした動作を止めた。

めぐ「DEATH……NOAT……あぁ、デスノートね」

水銀燈「なによめぐ、デスノートってなにか有名なものなの?」

めぐ「ええとね、確か氏神のノートを拾った少年が新世界の神になろうとする話だったわ」

水銀燈「何なのよそれ、全く意味が分からないわね。大体新世界の神って何よ、バッカじゃない」

めぐ「そのノートに名前を書くとその相手が氏ぬの。それを利用して悪人を全て頃し、
犯罪者のいない理想の世界を創造して、その新世界に君臨するとか考えちゃったかわいそうな
紙一重な子が主人公な漫画なの。だいたい、犯罪者のいない理想の世界なんてあり得ないのにね」

水銀燈「ちょ……め、めぐ?あの、そういうのはいいからノートについてだけ教えてちょうだい」

6: 2010/01/28(木) 22:00:44.62 ID:Oe+S6fV50
めぐ「そう、私もそんなに詳しくはしらないのだけれども、頃したい人間の名前をそのノートに
書くと氏ぬのよ、およそ40秒でね」

水銀燈「それは何?防ぐ方法はあるの?」

めぐ「さっきも言ったけど寿命を司る氏神のアイテムだから、物理的にも魔術的にも防ぐことは
出来ないはず」

水銀燈「ふ~ん、それで?」

めぐ「あとは氏因を書けばそのとおりになって氏ぬそうよ」

水銀燈「そうなの、真紅に使ってやると面白そうねぇ。間抜けな氏に様を晒すかと思うと
それだけで素敵な気分になれるわぁ♪……って漫画の話なのよね、そんなものが現実に
あるはずがないじゃない。バッカみたい」

少しだけ本気にしてしまったことの照れ隠しか、わざと乱暴にノートをしまう。

めぐ「水銀燈、かわいい」

水銀燈「うるさいわね」

その心中を全て見抜いているのか、いつも水銀燈を翻弄するようなめぐには、どうしても強気に出ることが出来ないでいた。

7: 2010/01/28(木) 22:03:09.60 ID:Oe+S6fV50
めぐ「ところで水銀燈、氏神が見える?」

水銀燈「はぁ?どういうことよ?」

めぐ「漫画だとね、ノートに触れた人間はそのノートの本来の持ち主である氏神が見えるようになるのよ」

水銀燈「え、な、そういうことは最初に教えなさいよ!だから貴女さっき受け取るのを渋ったのね」

めぐ「ねぇ、水銀燈。それで、氏神が見える?」
 
水銀燈「そういえば何もいないわね」

めぐ「当たり前よね、漫画の中のものが現実世界にあるわけがないじゃない」

水銀燈「め~ぐ~!貴女ね、人をいじって遊ぶクセはやめなさいっていつも言っているでしょう。
まぁいいわ。氏神なんかいなくても、この私、水銀燈が漆黒の氏神よ。」

めぐ「私の黒い天使さんは黒い氏神さんでもあるんだ。ね、水銀燈、私の命も早く刈り取ってね」

水銀燈「はぁ……もう今日は疲れたわ。じゃあね、めぐ」

そう言ってめぐを一瞥すると、そのまま水銀燈は飛び立った。

8: 2010/01/28(木) 22:06:10.72 ID:Oe+S6fV50
住みかとしている廃教会に戻った水銀燈は、だがどうしても先程のめぐとの話が頭から離れなかった。
じっとノートを見つめながら、独りごちる。

水銀燈「バッカみた~い。こんなノートに名前を書いたくらいで氏ぬなんて……」

下らない事と思いつつもどうしても興味を惹かれてしまう。

水銀燈「そ、そうよ。真紅の哀れな末路を辿るSSを書けばいいのよ。
別に真紅の氏を願ってるんじゃなくて、暇潰しのただの余興よ」

誰がいるわけでもないのに、言い訳がましいことを言ってしまう水銀燈。

水銀燈「そうねぇ、どうしようかしら。面白くて屈辱的な末路がいいわぁ。うふふ、どうして
くれちゃおうかしらねぇ……って、氏因ってどこまで具体的に実現するのかしら。まさか……まさか……」

とある天啓を得て柄にもなく興奮する水銀燈。やがてその最初の目的を忘れて集中し、
ノートに真紅の名前と氏因を記入する。

水銀燈「ふぅ。これでいいかしら」

9: 2010/01/28(木) 22:08:47.46 ID:Oe+S6fV50
【真紅】
特製の料理と称するダークマターを皆に渋られ、キレた真紅はそのダークマターを一気食い、
あまりの不味さに悶絶するも、持ち前の下らないプライドが邪魔して吐き出すことを拒み、
美味いと言い張りながらその毒素により命を落とす。最後の言葉は

「くんくん探偵第1期BD―BOXを水銀燈にあげてちょうだい、もう私には見られないから……」

水銀燈「うふふ、私にBD-BOXの自慢をした真紅が悪いのよ、あぁ、くんくん、くんく~ん♪ 
早く来ないかしr……」

そこでようやく我に返る水銀燈。そもそもBDプレイヤーがないという事実に遅まきながら気づいたからだ。

水銀燈「あぁもうつまんなぁ~い。私としたことが下らないことで熱くなっちゃったわぁ。
気晴らしに真紅でもいじめてこようかしら」

そう言うと水銀燈は桜田家を目指して飛び立つ。そう、それは何気ない日常の光景であった
はずだった。水銀燈は最初に真紅にあった頃のあの傲慢な振る舞いをいまだに忘れてはいない。
なにより、この時代、この日本といく国に来てから真紅によって水銀燈は一度滅ぼされている。
憎くないわけがなかった。

10: 2010/01/28(木) 22:12:31.19 ID:Oe+S6fV50
だが、水銀燈がローゼンの力で復活し、初めて相対した真紅はこれまでの真紅とは
どこか違っていた。今更ながらに罪悪感でも芽生えたのか、アリスゲームを否定するかのような
言動さえ垣間見られた。水銀燈には当然真紅のこのような変化は歓迎出来ない。
正確に言うと苛立つ、という方が正しいだろう。

これは、水銀燈本人は微塵も気付いていない、いや、気付こうとしていない自身の
内面の変化によるものだ。それは間違いなく、新たに水銀燈のミーディアムとなった
柿崎めぐがもたらした綻びであった。金糸雀、翠星石、蒼星石、真紅、雛苺。
7人の姉妹のうちなんと5人も真紅のミーディアムである桜田ジュンを中心につながっている。

それに対し、水銀燈は元々一匹狼であり孤独は怖いものではなかった。一人でいることに
寂しさを感じた事など真紅とのあの一件以来一度もなかった。だというのに、水銀燈は柿崎めぐとの
触れ合いの中でそれを知ってしまった。そしてそれは真紅と決裂する前には確かに知っていたのだ、
一人でいることは寂しい、誰かと一緒に楽しめることこそが本当に幸せなのだと。

その、素直に表出させることの出来ない思いがアリスゲームという名を借りた小競り合い、
という水銀燈の行動原理であった。フラッと訪れ、挑発し、こちらから先に手を出し、
後戻りできなくなるところに行く前になんだかんだと理由をつけて撤収する。こんな事に
戦略的意味など微塵もない。だが、そうでもしないと水銀燈は真紅達と触れ合うことが出来ない。
そして、自覚もしていない。

この滑稽な茶番劇は、だが、あっけない幕切れを迎える。

11: 2010/01/28(木) 22:15:22.40 ID:Oe+S6fV50
水銀燈「あらぁ、今日は誰もいないのぉ?」

いつも通り真紅をからかうためにジュンの部屋を訪れたが、誰の姿もない。
だが、二階に人の気配を感じたのか誰かが階段を上がってくる音がした。

翠星石「蒼星石~、来てくれたで……」

何故か泣きそうな声を出しながら扉を開けて入ってきたのは翠星石だった。
しかし、目の前にいるのがお目当ての相手ではなかったことに気付き、言葉のトーンを落とす。

翠星石「なんだ、水銀燈ですか。すまねぇですが今日のところは帰ってくれねぇですか……」

いつものように語彙の少ない罵倒で食ってかかられると思っていた水銀燈は、翠星石の悄然とした姿をいぶかしんだ。

水銀燈「はぁぁ?何を言っているの翠星石。なんで貴女に言われただけでこの私が
ホイホイ帰らないといけないのよ」

12: 2010/01/28(木) 22:18:13.41 ID:Oe+S6fV50
翠星石はしかし、水銀燈の言葉にもまるで堪えている様子がない。いやむしろ、翠星石の
ミーディアムである桜田ジュンから性悪人形とも評される所以である小悪魔的なところはおろか、
いつもの口やかましい言動すらなりを潜めている。

翠星石は、そのままジュンの部屋のうち真紅のエリアとなっている棚からとある箱を持ち出すと
それを水銀燈に差し出した。

翠星石「納得行かねーですけど、これをやるからさっさと帰れって言ってるんですぅ」

水銀燈「何よぉ……って、これはくんくん探偵第1期BD―BOX!え、私がもらってもいいの?」

翠星石「……」

つい舞い上がって醜態を晒してしまった水銀燈であったが、翠星石の目の前にいることを思い出し慌てて取り繕う。

水銀燈「なーんて言うとでも思った?相変わらず単細胞な子ねぇ。それにこれは真紅の宝物じゃないの?
私はこんな犬の探偵ごときなんの興味もないけど、そんなことしたら後で真紅がヒステリー起こして
うるさいわよ?お姉ちゃん心配だわぁ」

14: 2010/01/28(木) 22:22:01.96 ID:Oe+S6fV50
翠星石「なんかキャラがおかしいですよ、水銀燈。でもまぁそんなことはどうでもいいんです。
真紅が水銀燈に、と言ったのですから」

水銀燈「え……」

翠星石の言葉を聞き、水銀燈は絶句する。翠星石は確かに言った、真紅が水銀燈に
くんくん探偵第1期BD―BOXを上げるように言った、と。

そう、確かに水銀燈はそれを願った。だが、それはとある事象に付随したものではなかったか。
その事を思い出し水銀燈は青褪める。よく考えれば翠星石の不自然極まりない態度も、
そうだとすれば簡単に説明がつく。

水銀燈「そ、そんなことはありえないわっ。あの真紅が生命の次に大事なくんくんグッズを
無償で手放そうとするなんて」

16: 2010/01/28(木) 22:26:54.63 ID:Oe+S6fV50
翠星石「真紅は……もういなくなってしまったのです。いるのは、ただの動かないお人形」

水銀燈「ど、どういう事よ?翠星石、ちゃんと答えなさいっ!」

翠星石「真紅は、今日はジュンのために料理を作ってやるのだわ、と妙に意気込んでたんですよ。
でもみんな真紅が料理がダメなのは知っているですし、案の定食卓にはダークマターが
並んでいたのですぅ。いつもなら穏便に処理するところですけど、今日に限ってはなぜだか
おかしな雰囲気になっちゃったのです……」

水銀燈「それって……公然と真紅の料理は料理じゃなくダークマターだと指摘しちゃったの?」

翠星石「有り体に言えばそうですぅ。でも、それで真紅が意地になっちゃって、
コレは食べ物だから完食できるんだって……それで」

そこまで話し、翠星石は泣き崩れる。

水銀燈「そんなまさか……そんな事って……」

17: 2010/01/28(木) 22:30:02.33 ID:Oe+S6fV50
泣き止まない翠星石をその場に残し、水銀燈はぎこちない足取りで一階ヘと向かう。
そこには茫然自失になっているジュン、泣き伏しているのり、そして泣きつかれてしまったのか
のりの膝の上で寝ている雛苺の姿があった。

ジュン「来たのか、水銀燈……」

水銀燈「まさか、これって……」

ジュン「その通りだよ。僕が、僕が悪いんだっ!あんなことを言わなければきっと……」

いつの間にか降りてきていた翠星石がジュンをどやしつける。

翠星石「何を言ってるですかこのチビ人間!そんなことを言い出したらきりがねぇです。
それに翠星石だって……」

そんな二人を尻目に、水銀燈はふらふらと見覚えのある鞄の前まで進み、開いた。鞄の中には、
まるで寝ているかのように真紅が横たわっていたが、全く生気が感じられなかった。
いや、水銀燈はそれよりも違和感を感じた、嫌悪感といってもいいものである。

18: 2010/01/28(木) 22:33:24.71 ID:Oe+S6fV50
ローゼンメイデンのドールは、アリスゲームに敗北すればローザミスティカを奪われ、
ただの人形と身を落とす。だが、何らかの形でローザミスティカを取り戻すことができれば、
再びローゼンメイデンのドールとして復活することができる。だというのに、
今目の前にいる真紅はローザミスティカの器ですらなかったのだ。

水銀燈「翠星石、ホーリエは貴女が?」

翠星石「それが、あのダークマターにどんな力があったのかしらんですけど、
ホーリエもそのまま消滅してしまったのですぅ……うぅ」

その瞬間を思い出したのか、翠星石は再び泣き出した。

水銀燈「メソメソするんじゃないわよ、貴女は真紅の姉でしょう!」

そう翠星石を叱咤したが、水銀燈とて誰の目もなければどうなっていたかわからなかった。

それに、もし眼前に起こっていることが事実なら、氏神はドールを行動停止に追い込むばかりではなく、
その源たるローザミスティカですら消滅させ、仮りそめの命を与えることのできる他のドールの
ローザミスティカさえ受け入れることが出来ない体にしてしまったことになる。

19: 2010/01/28(木) 22:36:37.44 ID:Oe+S6fV50
つまり、水銀燈はそんなものを酷く軽い気持ちで使い、そして取り返しのつかない事態を
招いてしまったのだ。アリスゲームの結果であるなら、どんな事でも受け入れられた。だがこれは、
こんな結果は水銀燈にとって到底受け入れがたいものだ。真紅との決着が、こんな形でいいはずがない。

水銀燈「全く、いいざまね」

真紅に向けて発せられたその言葉はしかし、自らに向けて発した言葉であった。
だが、もうこれ以上真紅と一緒の空間にいるのは辛かった。鞄を閉じると水銀燈は誰知らず息を吐き、
そして最後の空元気を発して立ち上がる。

水銀燈「あぁもうこんな辛気臭いところにはいられないわぁ。興も醒めたし今日のところはここまでにしておいてあげる」

翠星石「水銀燈……くんくん探偵第1期BD―BOXは忘れずにちゃんと持って帰るですよ。
真紅の、最後の言葉なんですから」

水銀燈「わかってるわよ、うっさいわねぇ」

20: 2010/01/28(木) 22:39:55.57 ID:Oe+S6fV50
そう吐き捨てると2階のジュンの部屋へと向かう。誰も居ないはずのその部屋には、だが人影があった。

蒼星石「こんばんは、水銀燈」

水銀燈「あぁら、蒼星石じゃない。そういえば貴女は主戦派だったわね、でもこの機に乗じて私を討つつもりならその目算は甘いわよ」

蒼星石「違うんだ、今日はそんな事で来たんじゃない。まぁ、君がいたのは意外だったけど。でもそれも何かの縁なんだろうと思ってね、ここで待たせてもらったんだ」

水銀燈「ふぅん、で、なによ」

蒼星石「水銀燈、君は、本当に真紅が嫌いだったのかい?」

水銀燈「わざわざ人を待ち伏せて聞きたかったことがそんなことなのぉ?
貴女はまだ他の子達より賢いと思っていたのだけれど、そうでもなかったようね。ちなみに答えは当然、イエスよ」

21: 2010/01/28(木) 22:43:30.31 ID:Oe+S6fV50
蒼星石「うん、そういうと思っていたよ。でもね、これだけは覚えていて欲しいんだ。
真紅は、水銀燈のことが嫌いじゃなかった、ってことをね」

水銀燈「はぁ?それこそ綺麗事じゃない。そんなことで許されると思ってるの?
あの高慢ちきにふさわしい上から目線な考え方ね。反吐がでるわ」

蒼星石「そうだね、自分勝手な言い分だし自己正当化のための言い訳に過ぎなかったのかもしれない。
でもね、そんなのはどうでもいいんだ」

水銀燈「そう。でも貴女はこう言いたいだけでしょ。今の思いが本物なら、
そのきっかけがどれほど下劣で低俗なものであっても構わない、と。でもね、そんな勝手な言い分」

水銀燈が語り終える前に、蒼星石がそれを止めた。

蒼星石「僕はね、水銀燈。お父様のことを思うと、時がくれば例え相手が翠星石だろうと
立ち塞がるなら倒さないといけないと考えている。君もそうだろう?」

水銀燈「当たり前じゃない、当然よ」

23: 2010/01/28(木) 22:47:14.57 ID:Oe+S6fV50
蒼星石「でもね、僕は……翠星石が羨ましいんだ。翠星石は、お父様より僕と、いや、
僕たちと一緒にいることを選んでくれた。お父様に唯一会える手段であるアリスゲームを放棄し、
それなのに、たとえアリスゲームであれ何があろうとも僕の事を命をかけてでも守ると言ってくれたんだ。
僕にはとてもそんなことは出来ないよ、そんな『辛い』生き方は」

水銀燈「なによ、そんなのただの軟弱じゃない。結局逃げているだけよ」

蒼星石「そうかもしれない。でもね、お父様に言われるがままに戦って、
姉妹を頃す時もお父様の意向だから、アリスになるためだから、そんな言葉が免罪符になるだけの
生き方の方がよっぽど楽な生き方だと思うよ」

水銀燈「それで?それはわかったからそれがどう真紅とつながるのよ!」

水銀燈は目に見えて苛立を募らせる。

蒼星石「真紅もね、翠星石ほど割り切れてはいないけど、お父様の軛から逃れようとしているんだ。
翠星石ほど割り切れていない分、戦闘以外でのアリスゲームの決着を模索しているんだよ」

水銀燈「くっだらな~い。何よ、あのウサギを審判にでもして究極の少女コンテストでもやろうって言うの?大笑いだわ」

25: 2010/01/28(木) 22:51:53.44 ID:Oe+S6fV50

蒼星石「君ももううすうす気付いているんだろう?真紅は、ううん、翠星石も、雛苺も、僕も、
ジュン君と会うことで変わることができた。そして水銀燈、君だってあの柿崎めぐと言う子と契約してから」

水銀燈「うるさいわねっ!もういいわ、帰る」

水銀燈は蒼星石の話を遮りそう叫ぶと、窓から飛び立っていった

蒼星石「水銀燈……」

蒼星石は水銀燈を見送るかのように飛び立っていった空を眺めていた。その眼前を、
水銀燈とすれ違うように烏が降下して行く。

金糸雀「きゃあああ、お供えに持ってきたみっちゃん特製玉子焼きがまたカラスに取られたかしら~」

蒼星石「金糸雀……こんな時でもお約束なんだね……」

27: 2010/01/28(木) 22:55:44.00 ID:Oe+S6fV50
水銀燈は廃教会へと戻ると、デスノートを握り締めると、床に叩きつけた。

水銀燈「こんな、こんなもののせいで……」

やけになった水銀燈の中で、邪な考えが湧き出てくる。このノートに金糸雀、翠星石、蒼星石、
雛苺、薔薇水晶、そして得体の知れない雪華綺晶を書けば邪魔なドールは一気に消せる、
そうなれば必然的に自分がアリスなのではないかと。

だが、水銀燈はそのような思いを一刀両断にする。

「バッカじゃない、そんな姑息な事をしてアリスなんてちゃんちゃらおかしいわ。
大体、ローザミスティカごと頃してしまうなんて、お父様の意思に反しているだけじゃない」

そう一人叫ぶと、ノートを焼き払おうとするが、再び元の場所に直した。
一縷の望みがまだ残っているかもしれない、そう思ったからだ。水銀燈は、一路めぐの元へと
飛んでいった。やがて病院が見えていたがこのような夜中であるにも関わらず窓が開け放たれていた。

水銀燈「風邪でも引いたらどうするのよ、バカな子ね」

29: 2010/01/28(木) 22:58:23.20 ID:Oe+S6fV50
そのまま病室に入ろうとした水銀燈だったが、めぐが歌っていることに気付き一旦窓の横に止まり、
歌い終えるまで聴き続けることにする。

   「夢は風 光 導く 空と雲を超えていく あなたの声響け
    幸せと 嫌な思い出 優しい今が遠ざかる 静かな夜続け

    この場所に残す 足跡さえ 消えかけてゆがむ傷跡のよう

    夢の中 生まれた心 ガラス窓が 君見てる
    瞬のうちに込めて すがる気持ち捨てて
    すべて思いつなげ」

水銀燈「めぐ、こんな時間に歌なんか歌ったら迷惑よぉ」

歌い終えると同時に病室の窓のさんの上へと降り立つ。

めぐ「あら、水銀燈。今日はもう来ないんじゃなかったの?」

30: 2010/01/28(木) 23:02:30.10 ID:Oe+S6fV50
水銀燈「ちょ、ちょっとね。貴女に聞きたいことがあったのよ」

めぐ「私に?いいわ、何でも聞いて」

水銀燈「その、さっき話したデスノートのことなんだけど、あれって効果を取り消したりできるものなのかしら?
もしくは氏んだ人間に命を与えたり、とかね」

めぐ「水銀燈?まだ引きずっているのね。それともまさか……」

水銀燈「そ、そんな事あるわけ無いじゃない!さっさと答えなさいよ」

めぐ「そうよね。それでさっきの答えだけど、氏んでしまったらそれまで。
それに氏神のノートだから、人を頃すことしか出来ないわ」

水銀燈「そう……なの……」

32: 2010/01/28(木) 23:07:27.81 ID:Oe+S6fV50
めぐ「水銀燈、人はね、デスノートじゃなくても氏んだら蘇らないの。私だって、
この命が尽きた時に全てが終わってしまう。やり直しも何もない。だからね、水銀燈。
私の命を使う時は、その一番の強敵だと言う真紅を倒すときに使ってね」

水銀燈「めぐ……」

水銀燈「何を相変わらずバカなことを言っているの?そんなことを決める決定権は貴女にはないのよ。
私が決めるんだから、その時までは氏ぬなんて許さないわ」

めぐ「わかってるわ、水銀燈。だから、水銀燈も……」

水銀燈「ふん、もう夜は遅いわよ。早く寝なさい。」

その言葉に続けて、水銀燈はひっそりと呟いた。

水銀燈「それと、歌をきかせてくれてありがとう」

めぐ「今なにか言った?」

水銀燈「何も言ってないわよ、じゃ、またね」

そう言い捨てて飛び立つ水銀燈を見送りながら、めぐはクスリと笑うのであった。

34: 2010/01/28(木) 23:21:38.29 ID:Oe+S6fV50

めぐの元を離れ、再び廃教会へと舞い戻った水銀燈は、今度こそ一片の塵をも残さずデスノートを焼き払った。
だが、これからどうすべきなのかがわからない。

これまで通りアリスゲームを続けるのが最良にみえるが、残りの全員を倒したところで
ローザミスティカは6個しか集まらない。それでは最初の条件を満たしたことにはならないからだ。
そもそも、このような手段をとるドールが究極の少女に相応しい訳がない。ローゼンに認められるはずもない。

『アリスに最も近い誇り高きローゼンメイデンの第一ドール』

という肩書がすっかり剥げ落ちてしまった今、水銀燈は水銀燈としての虚勢を張る必要も無くなってしまった。
ボロボロと涙を流しながら子供のように泣いていた。これは決して真紅を追悼する涙でも贖罪のための涙でもなかった。

水銀燈「うっ……ううう……」

水銀燈は、ローゼンを、真紅を、そして何よりも自分自身を、このような短慮でダメにしてしまったことが許せなかったのだ。
ローゼンがアリスを選定するために制定したアリスゲームを壊し、例え敵であってもローゼンの生み出した
ドールの一人である真紅をローゼンの手によらない手段を持って脱落させ、そして、そのローゼンが
例え完成直前に失敗だと思い込んだのだとしても、最初の理想通りに作られたはずの自分。それら全てを
自らの手で潰してしまったからだ。

めぐ「水銀燈、もういいのよ」

水銀燈「め……めぐ!?」

35: 2010/01/28(木) 23:27:33.10 ID:Oe+S6fV50
突然現れためぐを見て、水銀燈は呆然とした。このような姿を身られてはもう弁解のしようがない。
なにより、病室で寝ているはずのめぐがこのような場所に来られるわけもない。混乱する水銀燈に、
めぐは優しく声をかけた。

めぐ「私が言えた義理じゃないと思うんだけど、いつも張り詰めている水銀燈を見るのが辛かった。
あのね、水銀燈。アリスゲームを私が否定することは出来ない。水銀燈がやりたいようにやって、
その結果がなんであれ私は受け入れられる。勝利のために私の命が尽きたとしても、ね。」

水銀燈「めぐ……私は……本当は貴女の命なんか使ってまで……ううっ」

気丈に振舞おうとするも、どうしても体がいう事をきかなかった。

めぐ「でもね、水銀燈。私は、アリスになれなかったとしても、水銀燈には幸せになって欲しいといつも思ってるの」

水銀燈「ど、どういうことよ」

めぐ「アリスゲームではどれだけ非情になっても、自分を偽っても構わない。その代わり、
それ以外の場所では本当の水銀燈の姿をさらけ出してもいいの。今日はね、それを言いに来たの。私の黒い天使さん♪」

水銀燈「な……な……何よ、私はいつも本当の自分で生きているわ、偽ってなんかない!」

水銀燈は最後の意地を振り絞言って絶叫する。

37: 2010/01/28(木) 23:32:15.35 ID:Oe+S6fV50
翠星石「ふぅ、全く困ったツンデレですぅ」

蒼星石「翠星石、君が言っても説得力がないよ」

金糸雀「カナは完璧な策士であることを隠すためにあえてドジな自分を演じているのかしら!」

ジュン「何言ってるんだ、お前はそれが素だろ」

水銀燈「あ、貴女達……なんでここに?」

翠星石「そりゃー決まっているですよ、翠星石達の大事な水銀燈お姉様が落ち込んでいると聞いては
慰めにくるのが淑女のたしなみってもんです」

水銀燈「大事……な?」

38: 2010/01/28(木) 23:36:20.04 ID:Oe+S6fV50
蒼星石「僕たちは皆お父様に生み出されたかけがえの無い姉妹なんだ。例え倒さないといけない
相手であったとしても、だからといってないがしろにしてもいい、ということにはならない」

水銀燈「そんなの、ただのなれあいじゃない」

金糸雀「違うかしら、水銀燈。カナが桜田家に馴染んでいるのは花丸ハンバーグにありつくための策略と
敵情視察のためであってなれあいではないのかしら」

ジュン「いいからお前は黙ってろ。なぁ、水銀燈。真紅だってあの時にお前にしたことを
今では本当に悔いているんだ。だから、お前からももう手打ちにしてやってくれないか」

水銀燈「真紅……そうよ、真紅をあんな目に合わせてしまった私にはそんな資格なんてないのよ」

真紅「あら、水銀燈。私がどうかしたのかしら?」

水銀燈「え?し?しん……く?」

40: 2010/01/28(木) 23:39:54.38 ID:Oe+S6fV50
真紅「亡霊でも身たような目をして失礼ね、私はちゃんとこうして生きているのだわ」

水銀燈「でも、貴女の体は私がちゃんと確認して……」

ジュン「あぁ、あれは槐先生に作ってもらったものなんだ。寸分違わない真紅の複製の球体人形だよ。
『若奥様風の衣装』と、『夕暮れの公園でひとり寂しくブランコに乗っている女の子。そこに現れる、
憧れの人。だけど、なかなか声が掛けられない。どうしようかと迷っているうちに相手は
去っていってしまう。そんな自分の勇気のなさに落ち込む少女の衣装』と『ボンテージ女王様の衣装』の
3つの人形用衣装を作ることと引換に快諾してくれたんだ」

水銀燈「あんのクソウサギ~いったい何を考えているのよ。というか、この茶番はいったいなんなのよ、説明しなさいっ!」

めぐ「ごめんなさい、水銀燈。この件の黒幕はね、私なの」

水銀燈「めぐ?貴女なんでこんな事を……」

真紅「わからないの、水銀燈。自分が大切に思う相手の幸せを願うことに、なにか理由が必要なのかしら?」

水銀燈「だって、こんなの……」

41: 2010/01/28(木) 23:45:45.91 ID:Oe+S6fV50
翠星石「私が願ったことじゃない、ですか?だからツンデレは大概にしろと言ってるのですぅ。お前の気持ちはバレバレなんですよ」

お前が言うな、その言葉が翠星石以外の全員に共有されたがそれはまた別の話である。

蒼星石「カラクリについては僕が説明するよ。まずそのノートだけどね、当然普通のノートなんだけどラプ、
もとい槐先生の店の白崎さんからもらった特別なもので、特別な魔術が施してあってね、そこに
何かを書くと対になるもう一つのノートにも同じ言葉が書かれる、ただそれだけの幼稚なものなんだ」

水銀燈「え……?」

蒼星石「それで、君の書いた内容はこちらに筒抜けだったんだよ。ただ、くんくんのBD-BOXだけは
ちょっと予想外だったからね、真紅は怒り狂っていたけどなんとかなだめすかして作戦を続行させたんだ。
デスノートのアイデアを出したのはジュン君だったけどね、君がその事について聞けるのはめぐさんしかいない。
だから多分めぐさんはちょっと的外れなことを言ってたりしたと思うんだけど、それはこのためだったんだ」

水銀燈「じゃぁ……」

蒼星石「その通り、全部演技だったってわけさ。ちなみに雛苺については、そこから何か感づかれるとまずかったからね、
君と同じく騙された側にしてしまったのは申し訳ないと思っているよ。」

42: 2010/01/29(金) 00:01:01.65 ID:TJ5bwf4j0
一通り説明を聞き終えた水銀燈は、疑問を口にする。

水銀燈「ひとつ聞きたいんだけど、その作戦にはおかしいところがあるんじゃない?『私が』『拾って』『持ち帰る』。どの行程が抜けても成立しないわ」

蒼星石「それはね、まず一点目だけど、普通の道路に置いていたわけじゃないからまず拾われないと踏んでいたんだ。もし他の誰かが持っていっても、その場合は予備の分を再度置けばいいだけだしね。」

水銀燈「それで?」

蒼星石「あとは、水銀燈がどういうルートで飛んでいるのか、ということを研究して場所を選定したから、
拾うまでは気の長い話だけどいつかは起こると踏んでいたんだ。」

水銀燈「そう、でも、私がそのまま捨てたら終わりじゃないの」

蒼星石「そこはね、どっちでも良かったんだ。なにせめぐさんがこちら方だからね。
その後にデスノートの話をすれば絶対に気になって取りに戻ったはずだよ」

43: 2010/01/29(金) 00:05:50.41 ID:TJ5bwf4j0
結局最初から最後まで自分は踊らされていただけだと知る。あまつさえ、あのような醜態まで晒してしまったのだ。

水銀燈「そうなの、よくわかったわ。私が愚弄されただけってことを。それで、こんな事をしてただですむと思っているの?」

真紅「そうね。こんな騙すようなことをしたんだもの、怒って当然だわ。だから、そのBD-BOXは貴女に本当に上げるわ」

水銀燈「な、真紅!?」

更に虚仮にされるだろうと踏んでいた水銀燈であったが、真紅の意外な答えに拍子抜けする。

ジュン「でも、お前のところだとブルーレイ見れないんだろ?うちに来てみればいいさ」

水銀燈「な、なにを……」

言っているの、と続けようとするがあまりの展開に絶句するばかりだった。

44: 2010/01/29(金) 00:11:41.00 ID:TJ5bwf4j0
翠星石「その時は、翠星石特製のスコーンを焼いて待っていてあげるですよ」

水銀燈「そんなこと、この……」

めぐ「ねぇ、水銀燈。もうわかっているでしょ?」

水銀燈「く……」

今回の謀り事は、到底許容出来るものではないはずだった。だが、首謀者がめぐであるという事実が、
水銀燈を安堵させたのもまた真実であったのだ。だからこそ、プライドを押さえてありのままの気持ちで答える。

水銀燈「しょ、しょうがないわねぇ、めぐがどうしてもっていうんなら今回は貴女達にまんまと騙されてあげる。
その代わり真紅、わかっているわね」

真紅「ええ、ジュンに厳命しておくわ。ヤクルトは切らさないように、ってね」



46: 2010/01/29(金) 00:21:53.74 ID:TJ5bwf4j0
拙い作品でお目汚しであったかもしれませんが、
最後まで読んでくださった方には心よりの感謝を。

叩かれてなんぼだと思っていますので、ここで受けた
批評は全て次の作品でいかせるよう努力する所存です。

それでは、また機会がありましたら。

50: 2010/01/29(金) 01:17:46.45 ID:k4i+d5PF0

引用: 水銀燈「デスノート?」