140: 2009/04/16(木) 01:22:01 ID:2F5D9QcU
SS出来ましたので投下します。
恐らく結構珍しいと思われる、
ミーナ×ペリーヌ(?)のSSを書いてみました。
ではどうぞ。



昼食後のミーティングルーム。
その出来事は一瞬で起き、完結した。
何気なく拭いていたペリーヌの眼鏡が、遊び駆け回るルッキーニに突き飛ばされた衝撃で宙を舞い、床に落ち、
それをシャーリーが蹴っ飛ばしてしまったのだ。
「わ、わたくしの!」
ペリーヌは慌てて眼鏡を取りに、床を這い回り、見つけた。
幾度もの衝撃を受けた眼鏡は、フレームが酷く歪み、とてもではないがかけられる状態ではなかった。

141: 2009/04/16(木) 01:22:34 ID:2F5D9QcU

「……」
「ウキャー やっちゃったー」
「悪ぃ、ごめんなペリーヌ」
手で謝罪の仕草をし、ルッキーニを捕まえるシャーリー。
「ほら、ルッキーニお前も謝れって。元はと言えば……」
「こんなところで眼鏡を拭いているわたくしが悪かった、と言いたげですわね、ルッキーニさん」
「ウニュゥ 何もそこまで言ってないのに……」
「失礼します」
ペリーヌは眼鏡を持ったまま、席を立った。
「あー、何なら整備の連中に頼んでみるか? 細かい作業得意な奴が……」
「結構です。スペアならございますから」
シャーリーの提案を拒否すると、すたすたとミーティングルームから去るペリーヌ。
残された一同は、残された何とも言えぬ空気の中、はあ、と溜め息を付いた。
「ま、気にスンナ、ルッキーニ。いつもの事ダロ?」
エイラが珍しくルッキーニをフォローする。
「でも……」
「まあ、やっちゃったもんは仕方ないよな」
シャーリーは気分転換も早く、少ししゅんとしたルッキーニを連れて行く。
「ちょっと手伝って欲しい事有るんだルッキーニ。来てくれよ」
「ウシャシャ 行く行く」
様子を見ていたミーナと美緒は、ちらりと目を合わせた。
「どうしたものか」
「そうね……」
美緒はティーカップを置くと、立ち上がった。
「どれ、私が様子を見てこよう。眼鏡が壊れていては、色々支障も有るだろう」
ミーナが美緒を止めた。
「いえ、私が行きます。と言うか、ついでにね」
「ついで?」
「ええ」

渋るペリーヌを連れ、ミーナはジープを運転し、ロンドンに向かった。
「急にごめんなさいね、ペリーヌさん」
「お役に立てれば構いませんわ」
「今日はカールスラント空軍とブリタニア空軍の連絡だから、そんなに時間は掛からないわ」
「わたくし、午後は非番ですので。それに……」
ペリーヌは、ケースに入れたままにしてある眼鏡にちらっと目をやった。
今のペリーヌは眼鏡をしていない。視界が微妙にぼんやりとし、よく見えない。
一方のミーナは、スペアが有る、と言っても何故かそのスペアをしていないペリーヌの事を、疑問に思った。
やがてロンドン市街に入り、しばしの渋滞を抜けた後、軍の司令部前に到着する。
「さあ、着いたわよ。少し待っててくれる? すぐに済ませて来るから」
「こちらが書類の鞄です。どうぞ」
「有り難う。すぐ戻るから」
「お気遣い無く」
ミーナは足早に建物に向かった。
そこはロンドンの中心部。近くの通りを見る。活気が有り人の往来も激しい。
そこだけ切り取ったら、たった今も現在進行形でネウロイと戦争をしている事など、分かる筈もない。
ふう、と溜め息を付くペリーヌ。
きっかり十分経った後、ミーナは戻ってきた。
「さあ、次行きましょう。あと二箇所ね」
「あと一箇所とは?」

142: 2009/04/16(木) 01:22:58 ID:2F5D9QcU
ブリタニア空軍の用事を済ませた後やって来たのは……市街地の一角に構える眼鏡店。
「リーネさんに聞いてね。ここならうまく調整してくれるだろうって」
「お気遣い感謝します」
「行きましょう」
「わたくしだけで結構です」
「あら、上官を車で待たせるの?」
「いえ、それは……」
「なら決まりね。ちょっと見学させてね」
「分かりました」
眼鏡の入ったケースを持ち、ペリーヌは眼鏡店に向かって駆け出した。足元が危ういのか、石畳で転びそうになる。
「慌てちゃダメよ。さあ」
ミーナに連れられ……手をぎゅっと握られ、ペリーヌは店に足を踏み入れた。

「いらっしゃいませ」
店員らしき老婦人が出迎える。
「この眼鏡、衝撃で歪んでしまったのですが、直して頂けます?」
「それは勿論……さあ、どうぞお掛けなさい」
老婦人は店内の椅子に二人を招くと、紅茶を用意した。
「今、裏で直してるから、少しお待ち下さいな」
「わざわざどうも」
老婦人はペリーヌとミーナの服装をじろじろと見た後、奥へ引っ込んだ。
とりあえず手持ち無沙汰になり、紅茶に口を付けるミーナとペリーヌ。
店内は静かで……奥の作業場でかちゃかちゃと何かの作業をしている音が聞こえる以外、特にノイズらしき音は聞こえない。
「この紅茶……まあまあですわね」
「紅茶の国だから、ね」
ミーナは微笑んだ。
老婦人がペリーヌの傍らに来て、声を掛けた。
「あの、お客様」
「何か?」
「眼鏡ですが、もう少し調整にお時間頂いて大丈夫ですか?」
「あとどれ位掛かりそうですの? ……中佐、時間は?」
「そうね、まだ余裕が有るから大丈夫よ」
ミーナは腕時計を見てペリーヌに言った。
「あの、どうやったらあんなにフレームがひしゃげるのかと……」
老婦人がふと疑問を口にする。
「直して頂ければ構いませんので」
ペリーヌがそれ以上何も言うなといわんばかりの口調で、老婦人を見た。
「かしこまりました。では」
老婦人はそれだけ言うと、また奥に引っ込んでしまった。

「ペリーヌさん」
ミーナはゆっくりと語りかけた。
「どうして、スペアの眼鏡を掛けて、今のを修理に出そうとしなかったの?」
「それは……」
何故か言葉に詰まるペリーヌ。ぷいと窓の外を向き、呟いた。
「わたくしの身体の一部みたいなものですから」
「それだけ?」
「……」
無言で答えの代わりとするペリーヌ。
ミーナはふっと小さく微笑んで、言った。
「人には皆それぞれ、言いたくない事も、秘密にしておきたい事もあるわよね。それはそれで良いの」
窓の外を眺めるペリーヌに、ミーナは語りかけた。
「でもね、ペリーヌさん。私達は、仲間で、家族みたいなものでしょう?」
「……はい」
「なら、少しは胸の内を明かす事も、悪い事ではないのよ?」
「……」
「勿論、ずっと秘密にしておきたいなら、絶対に人前でそんな素振りを見せてはダメよ。
墓まで持っていくつもりで、絶対出さずに、じっと、そっとしまっておきなさい」
自らの経験談か、誰かの警句なのか。ミーナの言葉が重く響く。
しかし科白の冷たさとは別に、何か温かいものを感じる。
ペリーヌは振り返り、ミーナを見た。
いつもと変わらぬ、柔和な笑みがそこにあった。

143: 2009/04/16(木) 01:23:29 ID:2F5D9QcU
「お待たせしました。もう大丈夫です」
老婦人が、完璧に調整された眼鏡を持って現れた。
「つるの部分も少し曲がってましたから、直しておきました。如何でしょう?」
「……悪く、ないですわね」
「眼鏡は調整が悪いと視力を余計に悪くしますし、頭痛の元にもなりますから、悪いところが有ったら遠慮なくお申し付け下さい」
妙に態度が丁寧になった老婦人。その点が気になり首を捻るペリーヌに、老婦人は言った。
「ブリタニアを護って下さるガリアの軍人さんに、不自由があってはいけませんから」
「わたくしが何故ガリア出身だとおわかりに?」
「その軍服で……そちらの方はカールスラントの軍人さんでしょう? お二方ともウィッチだとお見受けしましたが……
あっと、お喋りが過ぎましたね。失礼しました」
「構いません。眼鏡の調整は問題有りませんわ」
「それはどうも」
「さて、調整の料金はお幾ら?」
「今回は無料でサービスさせて頂きます」
「それでは、わたくしの気持ちが……」
「では今度、ウチの店で眼鏡を作って下さいな」
「……分かりました」
もう一度、差し出された鏡越しに、眼鏡姿の自分を確認するペリーヌ。
歪み無し、ズレも無し。寸分の狂いも無い調整に、うん、と頷いた。
「ペリーヌさん、やっぱり眼鏡が似合ってるわね」
「そ、そうですか?」
「ええ」
ミーナは微笑んだ。そっとペリーヌの肩を持つと、ゆっくりと抱きしめた。
「あんまり無茶しちゃダメよ? 良い?」
「は、はい……」
きゅっと抱きしめられ……顔が胸に当たり……服を通して伝わる温かさを頬で感じ、少し懐かしい気分になり、呟く。
「お母様……」
「えっ?」
驚くミーナ。目と目が合う。
「あ、失礼しました中佐! 決して」
ペリーヌの弁解を聞き、くすくすと笑うミーナ。
「まだそんな歳じゃないわよ、私は」
「申し訳ありません」
必氏に謝るペリーヌを宥めるミーナ。
「もう一度、ハグしてあげましょうか? シャーリーさんの国では親愛の印でするそうだけど」
「いえ……」
「?」
「今、抱かれた時に、少し歪んだ様な……フレームが」
「あら」
「すいません、もう一度調整を」
「ええ、何度でも」
老婦人は笑って眼鏡を持って店の奥に向かった。
「ごめんなさいね、ペリーヌさん。何か今日、ちょっと元気なさそうだったから」
「すいません。こんなつもりでは……」
「良いのよ」
ミーナは眼鏡をしていないペリーヌの顔を見つめた。
「ペリーヌさん。眼鏡をしていない時の顔もステキよ?」
「ちゅ、中佐?」
ミーナはもう一度ペリーヌを抱き寄せると、そっと抱擁した。
「貴方は本当、強い子ね。でも『強い鉄程脆い』と言う言葉も有ってね……気を付けなさい」
「……」
「私達は一人じゃない。貴方も一人でないわ。それだけは、覚えておいてね」
眼鏡が無いので遠慮なく抱きしめるミーナ。
「有り難う御座います、中佐」
ペリーヌは何かこみ上げるものが有ったが、必氏に堪え、ミーナの温もりを味わった。

144: 2009/04/16(木) 01:24:12 ID:2F5D9QcU
夕食が皆に行き渡り、かしましい食堂。
「お、眼鏡もう直ったのかペリーヌ」
美緒が気付いて言った。
「ええ。中佐のお気遣いで」
「そうか。良かったな、ペリーヌ。やっぱりお前には眼鏡が有った方が引き締まって良いぞ」
「ほ、ホントですか?」
「勿論、眼鏡を取ったら取ったで、こりゃまたステキなガリア美人だがな、はっはっは!」
よく分からない所で笑う美緒。ペリーヌは一瞬返答に困る。
「ウニャー ペリーヌ、さっきはごめーん。これ」
いつ来たのか、ペリーヌの横にルッキーニが居る。何かを渡した。
「なんですの、これは?」
「ストライカーの格納庫から貰ってきたの。柔らかいウエスだから、眼鏡拭くのに良いかと思って」
「有り難う、ルッキーニさん。後で使わせて貰いますわ」
「じゃあ、それでチャラね~」
ルッキーニは笑顔に戻ると、自分の席に戻った。
ペリーヌはウエスを触って分かっていた。この布は、少し硬くて眼鏡拭きには微妙。でも、ルッキーニは一生懸命探したという事も。
それはつまり……。
「何ダ? 薄笑いカヨ」
横で見ていたエイラが突っ込む。
「何でもありませんわ」
ペリーヌは、夕食のシチューをいつもと変わらぬ様子で食べた。

end

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以上です。
ペリーヌと言えば眼鏡! 眼鏡と言えば……と言う事で書いてみました。
ミーナは501の良き“母”だと思います。“父”は勿論(ry

ではまた~。

引用: ストライクウィッチーズ避難所2