1: 2018/08/12(日) 00:09:06.422 ID:Os8YPHFJ0.net
女頃し屋「子犬を拾ってきたよ」
子犬「クゥ~ン……」
少年「わっ、可愛い!」
女頃し屋「それじゃこのナイフで頃して」
少年「えっ」
女頃し屋「犬ぐらい殺せなきゃ、人を殺せるようにはならないよ」
少年「だ、だけど……」
女頃し屋「殺らなきゃ意味ないよ」
少年「ううう……で、できないよ……」
子犬「クゥ~ン……」
少年「わっ、可愛い!」
女頃し屋「それじゃこのナイフで頃して」
少年「えっ」
女頃し屋「犬ぐらい殺せなきゃ、人を殺せるようにはならないよ」
少年「だ、だけど……」
女頃し屋「殺らなきゃ意味ないよ」
少年「ううう……で、できないよ……」
4: 2018/08/12(日) 00:13:04.560 ID:Os8YPHFJ0.net
女頃し屋「あんたは両親の仇を捜して、仇を討とうとしてる」
女頃し屋「つまり、殺そうとしてる」
女頃し屋「それで私に弟子入りを申し込んできたわけだけど」
女頃し屋「たしかに、体を鍛えてナイフ術もある程度覚えたけど、それだけじゃダメだ」
女頃し屋「頃しをする上で最も重要なのは、頃しという経験を重ねていくことなんだからね」
少年「でも……!」
女頃し屋「……」
女頃し屋「つまり、殺そうとしてる」
女頃し屋「それで私に弟子入りを申し込んできたわけだけど」
女頃し屋「たしかに、体を鍛えてナイフ術もある程度覚えたけど、それだけじゃダメだ」
女頃し屋「頃しをする上で最も重要なのは、頃しという経験を重ねていくことなんだからね」
少年「でも……!」
女頃し屋「……」
7: 2018/08/12(日) 00:15:31.697 ID:Os8YPHFJ0.net
女頃し屋「ふぅ……もういい」
少年「!」
女頃し屋「ご飯にしよう。さっさと支度して」
少年「う、うん!」
少年(よかった……犬を殺さずに済んだ……)
子犬「クゥ~ン……」フリフリ
少年「さ、君はあっち行ってな」
女頃し屋「……」
少年「!」
女頃し屋「ご飯にしよう。さっさと支度して」
少年「う、うん!」
少年(よかった……犬を殺さずに済んだ……)
子犬「クゥ~ン……」フリフリ
少年「さ、君はあっち行ってな」
女頃し屋「……」
9: 2018/08/12(日) 00:17:22.570 ID:Os8YPHFJ0.net
~
ベチョッ…
少年「なにこれ……」
少年「この赤いのは……血!?」
少年「お父さん……! お母さん……!?」
少年「うわあああああああああああああああっ!!!」
~
少年「ああああああああああああああああっ!!!!!」ガバッ
ベチョッ…
少年「なにこれ……」
少年「この赤いのは……血!?」
少年「お父さん……! お母さん……!?」
少年「うわあああああああああああああああっ!!!」
~
少年「ああああああああああああああああっ!!!!!」ガバッ
11: 2018/08/12(日) 00:20:17.555 ID:Os8YPHFJ0.net
少年「はぁっ、はぁっ、はぁっ」
少年「夢か……」
子犬「クゥ~ン」ペロペロ
少年「あっ……ありがとう……」
少年(あの日、お父さんとお母さんは首を切られて、血まみれで倒れてて……)
少年(気づいたら、ぼくは身寄りのない子供達が集まる施設にいた……)
少年(その後、ぼくは施設を抜け出し、女頃し屋さんのところに……)
少年(――絶対仇を討ってみせる!)
少年「夢か……」
子犬「クゥ~ン」ペロペロ
少年「あっ……ありがとう……」
少年(あの日、お父さんとお母さんは首を切られて、血まみれで倒れてて……)
少年(気づいたら、ぼくは身寄りのない子供達が集まる施設にいた……)
少年(その後、ぼくは施設を抜け出し、女頃し屋さんのところに……)
少年(――絶対仇を討ってみせる!)
12: 2018/08/12(日) 00:22:25.667 ID:Os8YPHFJ0.net
女頃し屋「仕事に行ってくる」
少年「仕事って、頃し?」
女頃し屋「頃し屋の仕事がそれ以外にあるのかい?」
女頃し屋「今日は遅くなるから、これで適当に飲み食いしな」チャリンッ
少年「う、うん」
少年「よーし、今日は酒場に行こうか!」
子犬「ワン!」
少年「仕事って、頃し?」
女頃し屋「頃し屋の仕事がそれ以外にあるのかい?」
女頃し屋「今日は遅くなるから、これで適当に飲み食いしな」チャリンッ
少年「う、うん」
少年「よーし、今日は酒場に行こうか!」
子犬「ワン!」
13: 2018/08/12(日) 00:25:08.337 ID:Os8YPHFJ0.net
―酒場―
少年「マスター、ミルクください!」
マスター「あいよ」
マスター「ったく、ここでそんな注文するの、坊やぐらいのもんだぜ」
少年「へへへ……」
少年「君はこの肉食べな」サッ
子犬「ワン!」ハグハグ
少年「マスター、ミルクください!」
マスター「あいよ」
マスター「ったく、ここでそんな注文するの、坊やぐらいのもんだぜ」
少年「へへへ……」
少年「君はこの肉食べな」サッ
子犬「ワン!」ハグハグ
15: 2018/08/12(日) 00:28:36.223 ID:Os8YPHFJ0.net
チンピラ「よぉ、小僧」
少年「おじさん! お久しぶり!」
チンピラ「おめえが女頃し屋のとこに転がり込んでから、どんぐらい経つか……」
チンピラ「すっかり逞しくなったな」
少年「どうもありがとう!」
チンピラ「女頃し屋はどうしてる?」
少年「相変わらず。今日も“仕事”で」
チンピラ「仕事一筋ってかぁ! 大したキャリアウーマンぶりだぜ!」
少年「おじさん! お久しぶり!」
チンピラ「おめえが女頃し屋のとこに転がり込んでから、どんぐらい経つか……」
チンピラ「すっかり逞しくなったな」
少年「どうもありがとう!」
チンピラ「女頃し屋はどうしてる?」
少年「相変わらず。今日も“仕事”で」
チンピラ「仕事一筋ってかぁ! 大したキャリアウーマンぶりだぜ!」
16: 2018/08/12(日) 00:30:52.710 ID:Os8YPHFJ0.net
チンピラ「だが、昔はあいつにも……男がいたんだよなぁ……」
少年「えっ、そうなの?」
チンピラ「おうよ」
少年「もしかして……おじさん?」
チンピラ「ぶふっ! んなわけねえだろう! あの女が俺みたいな三流になびくかよ!」
チンピラ「……にしても」ジーッ
少年「なに?」
少年「えっ、そうなの?」
チンピラ「おうよ」
少年「もしかして……おじさん?」
チンピラ「ぶふっ! んなわけねえだろう! あの女が俺みたいな三流になびくかよ!」
チンピラ「……にしても」ジーッ
少年「なに?」
17: 2018/08/12(日) 00:33:17.594 ID:Os8YPHFJ0.net
チンピラ「おめえのツラぁ、どことなく女頃し屋に似てる気がするぜ」
少年「そ、そうかな?」
少年「一緒に暮らしてると、顔も似てくるものなのかな……」
チンピラ「かもな!」グビグビ
チンピラ「おめえの親父とお袋を頃した奴、見つかればいいな! 頑張れよ!」
少年「うん!」
少年「そ、そうかな?」
少年「一緒に暮らしてると、顔も似てくるものなのかな……」
チンピラ「かもな!」グビグビ
チンピラ「おめえの親父とお袋を頃した奴、見つかればいいな! 頑張れよ!」
少年「うん!」
19: 2018/08/12(日) 00:36:15.005 ID:Os8YPHFJ0.net
―女頃し屋のアジト―
女頃し屋「今日はどこ行ってたんだい?」
少年「酒場でご飯食べてきたよ」
女頃し屋「どうせチンピラの奴がいただろう」
少年「うん、酔っ払ってた」
女頃し屋「相変わらずだね、あのバカも」
少年「でね、おじさんに……お前と女頃し屋さんは似てるっていわれたよ」
少年「一緒に暮らしてると、似てくるものなのかな?」
女頃し屋「!」
女頃し屋「今日はどこ行ってたんだい?」
少年「酒場でご飯食べてきたよ」
女頃し屋「どうせチンピラの奴がいただろう」
少年「うん、酔っ払ってた」
女頃し屋「相変わらずだね、あのバカも」
少年「でね、おじさんに……お前と女頃し屋さんは似てるっていわれたよ」
少年「一緒に暮らしてると、似てくるものなのかな?」
女頃し屋「!」
21: 2018/08/12(日) 00:38:22.486 ID:Os8YPHFJ0.net
女頃し屋「私とあんたが似てる? そんなわけないだろうッ!」
少年「!」ビクッ
女頃し屋「一緒に暮らしてると似てくるなんて、そんなこと……あるはずないんだよ!」
少年「ご、ごめんなさい。変なこといって……」
女頃し屋「……」コホン
女頃し屋「さ、訓練を始めるよ!」
少年「!」ビクッ
女頃し屋「一緒に暮らしてると似てくるなんて、そんなこと……あるはずないんだよ!」
少年「ご、ごめんなさい。変なこといって……」
女頃し屋「……」コホン
女頃し屋「さ、訓練を始めるよ!」
24: 2018/08/12(日) 00:40:24.333 ID:Os8YPHFJ0.net
少年「てやぁっ!」シュッ
女頃し屋「遅い!」ギンッ
女頃し屋「ダメだダメだダメだ! そんなんじゃ到底仇なんか討てっこないよ!」
女頃し屋「かかってきな!」
少年「だああああっ!」
ドガッ!
少年「ぐあっ!」ドサッ
女頃し屋「遅い!」ギンッ
女頃し屋「ダメだダメだダメだ! そんなんじゃ到底仇なんか討てっこないよ!」
女頃し屋「かかってきな!」
少年「だああああっ!」
ドガッ!
少年「ぐあっ!」ドサッ
25: 2018/08/12(日) 00:42:34.748 ID:Os8YPHFJ0.net
女頃し屋「ふぅ……今日はこれまで」
少年(なんだか今日の女頃し屋さんはおかしいな)
少年(いや、思い返してみれば、このところおかしいことが多い)
少年(いきなり犬を殺せ、なんてことをいうタイプじゃなかったのに……)
少年(なにか……焦ってるような感じだ……)
少年(なんだか今日の女頃し屋さんはおかしいな)
少年(いや、思い返してみれば、このところおかしいことが多い)
少年(いきなり犬を殺せ、なんてことをいうタイプじゃなかったのに……)
少年(なにか……焦ってるような感じだ……)
26: 2018/08/12(日) 00:46:08.166 ID:Os8YPHFJ0.net
そんなある日――
女頃し屋「……」
少年(今日の女頃し屋さんは、朝からすごい殺気だ)
少年(仕事の日はいつもピリピリしてるけど、今日は特にすごい)
子犬「……」ビクビク
少年(まるで、今日は大仕事が待ってるような――)
女頃し屋「……」
少年(今日の女頃し屋さんは、朝からすごい殺気だ)
少年(仕事の日はいつもピリピリしてるけど、今日は特にすごい)
子犬「……」ビクビク
少年(まるで、今日は大仕事が待ってるような――)
28: 2018/08/12(日) 00:49:05.736 ID:Os8YPHFJ0.net
少年「あの……」
女頃し屋「ん?」
少年「今日、女頃し屋さんの身になにが起こるの? どうしてそんなに殺気立ってるの?」
女頃し屋「……今日は訓練はなしだ。あの犬と一緒にどこかに遊びに行ってきな」
少年「どうして?」
女頃し屋「いいから」
少年「イヤだ! 話してくれなきゃ行かない!」
女頃し屋「いいから、行くんだ! 両親みたいに首をかっ切られたくなきゃね!」
少年「!」
女頃し屋「ん?」
少年「今日、女頃し屋さんの身になにが起こるの? どうしてそんなに殺気立ってるの?」
女頃し屋「……今日は訓練はなしだ。あの犬と一緒にどこかに遊びに行ってきな」
少年「どうして?」
女頃し屋「いいから」
少年「イヤだ! 話してくれなきゃ行かない!」
女頃し屋「いいから、行くんだ! 両親みたいに首をかっ切られたくなきゃね!」
少年「!」
29: 2018/08/12(日) 00:51:29.942 ID:Os8YPHFJ0.net
少年「どうして……どうして知ってるの? お父さんとお母さんが首を切られて氏んだって」
女頃し屋「……」
少年「ぼくは両親を殺されたってことしか話してなかったのに……」
少年「まさか、あなたが……!」
女頃し屋「だったらどうする? 目の前に仇がいるってことになるねえ」
女頃し屋「殺らなきゃあんたの両親は浮かばれない……殺らなきゃ意味ないよ」
少年「ぐ……!」
少年「うわぁぁぁぁぁっ! 頃してやるぅぅぅぅぅっ!」
女頃し屋「……」
少年「ぼくは両親を殺されたってことしか話してなかったのに……」
少年「まさか、あなたが……!」
女頃し屋「だったらどうする? 目の前に仇がいるってことになるねえ」
女頃し屋「殺らなきゃあんたの両親は浮かばれない……殺らなきゃ意味ないよ」
少年「ぐ……!」
少年「うわぁぁぁぁぁっ! 頃してやるぅぅぅぅぅっ!」
30: 2018/08/12(日) 00:54:14.676 ID:Os8YPHFJ0.net
バキィッ!
少年「ぐはっ!」ドザッ
女頃し屋「悪いけど、今はあんたの相手をしてる余裕はない」
少年「ぐ……」
女頃し屋「最悪の相手を待たせてるからね……」
女頃し屋「もし私が生きて帰ってこれたら、改めて相手してあげるよ」
少年(生きて帰ってこれたら……?)
少年(凄腕の頃し屋であるこの人を、殺せる人なんて……)
少年「ぐはっ!」ドザッ
女頃し屋「悪いけど、今はあんたの相手をしてる余裕はない」
少年「ぐ……」
女頃し屋「最悪の相手を待たせてるからね……」
女頃し屋「もし私が生きて帰ってこれたら、改めて相手してあげるよ」
少年(生きて帰ってこれたら……?)
少年(凄腕の頃し屋であるこの人を、殺せる人なんて……)
31: 2018/08/12(日) 00:57:56.930 ID:Os8YPHFJ0.net
バリィンッ!
女頃し屋「!」ハッ
暗殺者「よう」
暗殺者「気配を隠さなきゃならねえ仲でもねえし、荒っぽく入らせてもらったぜ」
女頃し屋「どうしてここが……果たし状では別の場所を指定していただろうに」
暗殺者「昔の女から誘いを受けて、どうしても興奮が抑え切れなくてな」
暗殺者「それに敵が指定した場所に、のこのこ出向くアホがいるかよ」
暗殺者「どうせ決闘場所になってた広場には、罠が仕掛けてあるんだろ?」
暗殺者「だからこっちからこのアジトを探し出して、来てやったんだよ」
女頃し屋「くっ!」
少年(なんだこの男……! 恐ろしい殺気を放ってる!)
少年(さっきまでの女頃し屋さんと同じぐらい……いや、それ以上だ……)
女頃し屋「!」ハッ
暗殺者「よう」
暗殺者「気配を隠さなきゃならねえ仲でもねえし、荒っぽく入らせてもらったぜ」
女頃し屋「どうしてここが……果たし状では別の場所を指定していただろうに」
暗殺者「昔の女から誘いを受けて、どうしても興奮が抑え切れなくてな」
暗殺者「それに敵が指定した場所に、のこのこ出向くアホがいるかよ」
暗殺者「どうせ決闘場所になってた広場には、罠が仕掛けてあるんだろ?」
暗殺者「だからこっちからこのアジトを探し出して、来てやったんだよ」
女頃し屋「くっ!」
少年(なんだこの男……! 恐ろしい殺気を放ってる!)
少年(さっきまでの女頃し屋さんと同じぐらい……いや、それ以上だ……)
32: 2018/08/12(日) 01:00:26.357 ID:Os8YPHFJ0.net
暗殺者「お、お前……懐かしいなぁ~」
少年「!?」
暗殺者「でかくなったなぁ~」
少年「だ、誰だ! 誰だお前!」
暗殺者「なんだお前、まだ話してなかったのか?」
女頃し屋「……」
暗殺者「お前はな、俺ら二人のガキだよ」
少年「え……」
少年「!?」
暗殺者「でかくなったなぁ~」
少年「だ、誰だ! 誰だお前!」
暗殺者「なんだお前、まだ話してなかったのか?」
女頃し屋「……」
暗殺者「お前はな、俺ら二人のガキだよ」
少年「え……」
34: 2018/08/12(日) 01:03:39.466 ID:Os8YPHFJ0.net
少年「なにいってんだ! ぼくの両親は――」
暗殺者「首をかっ切られて殺されたんだよな? 二人とも……この俺に」
少年「……!?」
暗殺者「おいおい混乱しちゃってるじゃねえか。可哀想に。お前から説明してやれよ」
女頃し屋「いいかい、よく聞くんだ」
少年「……」
女頃し屋「私たちがあんたの実の両親ってのは本当だ。あんたは私がお腹を痛めて産んだ子だ」
少年「……!」
暗殺者「首をかっ切られて殺されたんだよな? 二人とも……この俺に」
少年「……!?」
暗殺者「おいおい混乱しちゃってるじゃねえか。可哀想に。お前から説明してやれよ」
女頃し屋「いいかい、よく聞くんだ」
少年「……」
女頃し屋「私たちがあんたの実の両親ってのは本当だ。あんたは私がお腹を痛めて産んだ子だ」
少年「……!」
35: 2018/08/12(日) 01:06:32.325 ID:Os8YPHFJ0.net
女頃し屋「かつて、私たち二人は頃し屋同士――恋人同士で、いつしか子供ができた」
女頃し屋「子供ができたとたん、こいつは私たちのもとを去った」
女頃し屋「だが、別にかまわなかった。こいつにまともな子育てなんてできっこなかったから」
暗殺者「ハハ」
女頃し屋「私は“仕事”をこなしつつ女手一つで、あんたを育てた」
女頃し屋「だけどある日、あんたは二人組の男女に誘拐されてしまったんだ」
少年「それがまさか……」
女頃し屋「あんたが両親だと思ってた二人……だよ」
女頃し屋「少し目を離したスキに……ってやつだった。本当にうかつだったよ」
女頃し屋「子供ができたとたん、こいつは私たちのもとを去った」
女頃し屋「だが、別にかまわなかった。こいつにまともな子育てなんてできっこなかったから」
暗殺者「ハハ」
女頃し屋「私は“仕事”をこなしつつ女手一つで、あんたを育てた」
女頃し屋「だけどある日、あんたは二人組の男女に誘拐されてしまったんだ」
少年「それがまさか……」
女頃し屋「あんたが両親だと思ってた二人……だよ」
女頃し屋「少し目を離したスキに……ってやつだった。本当にうかつだったよ」
36: 2018/08/12(日) 01:09:27.013 ID:Os8YPHFJ0.net
女頃し屋「私は手を尽くしてあんたを捜したが、どうしても見つからなかった」
女頃し屋「そこで背に腹は代えられないと、暗殺者に捜すのを手伝って欲しいと頼んだ」
暗殺者「その時のこいつ、可愛かったぜぇ……泣きそうなツラしてよぉ」
少年「……」
女頃し屋「暗殺者はあっという間に誘拐犯たちを捜し出して、二人でそこへ乗り込むことにした」
女頃し屋「私としては穏便にあんたを取り戻すつもりだったんだが、こいつは乗り込むなり」
女頃し屋「誘拐犯を二人とも頃してしまった。止める暇もなかったよ」
女頃し屋「だが、私はそれも仕方ないと思った……」
女頃し屋「なにより、自分の子供のためにこいつが動いてくれたのが嬉しかった」
女頃し屋「だけど、こいつは――」
女頃し屋「そこで背に腹は代えられないと、暗殺者に捜すのを手伝って欲しいと頼んだ」
暗殺者「その時のこいつ、可愛かったぜぇ……泣きそうなツラしてよぉ」
少年「……」
女頃し屋「暗殺者はあっという間に誘拐犯たちを捜し出して、二人でそこへ乗り込むことにした」
女頃し屋「私としては穏便にあんたを取り戻すつもりだったんだが、こいつは乗り込むなり」
女頃し屋「誘拐犯を二人とも頃してしまった。止める暇もなかったよ」
女頃し屋「だが、私はそれも仕方ないと思った……」
女頃し屋「なにより、自分の子供のためにこいつが動いてくれたのが嬉しかった」
女頃し屋「だけど、こいつは――」
37: 2018/08/12(日) 01:12:40.327 ID:Os8YPHFJ0.net
女頃し屋「まだ幼かったあんたも殺そうとしたんだ」
少年「え……」
女頃し屋「理由を聞くと――」
暗殺者『え、だってこいつ、俺らのガキだろ?』
暗殺者『いうなれば頃し屋のサラブレッドだ』
暗殺者『こんな奴生かしておいたら、将来強敵になりかねないだろ』
女頃し屋「そう、こいつが私に協力したのは、子供や私への愛情のためなんかじゃなかった」
女頃し屋「危険な芽を摘み取るためだったんだ」
少年「え……」
女頃し屋「理由を聞くと――」
暗殺者『え、だってこいつ、俺らのガキだろ?』
暗殺者『いうなれば頃し屋のサラブレッドだ』
暗殺者『こんな奴生かしておいたら、将来強敵になりかねないだろ』
女頃し屋「そう、こいつが私に協力したのは、子供や私への愛情のためなんかじゃなかった」
女頃し屋「危険な芽を摘み取るためだったんだ」
40: 2018/08/12(日) 01:16:30.880 ID:Os8YPHFJ0.net
女頃し屋「私はあんたを連れて逃げた。逃げて逃げて逃げまくった」
女頃し屋「急いで知り合いのやってる施設にあんたを預け、私も行方をくらました」
女頃し屋「そしたら数年後、仇討ちに燃えるあんたが私に弟子入りを志願してきた……」
女頃し屋「……これが私の知ってる、私から話せる全てだ」
少年「……」
暗殺者「あの時のお前の逃げっぷりは見事だったぜ」
暗殺者「この俺が殺そうとした相手を取り逃がすなんて、後にも先にもあれ一回きりだ」
暗殺者「母の愛のなせるワザってやつか? 泣かせるねえ」
暗殺者「だが、どうして今になって、俺に果たし状なんざ送ってきた?」
暗殺者「このガキと出会えたなら、そのまま二人で暮らしてりゃよかったろうに」
女頃し屋「決まってるだろう、この手であんたを討つためさ」
女頃し屋「あんたが生きてる限り、この子に安全な未来はないからね」
暗殺者「ハハ、よく分かってるじゃねえか」
女頃し屋「急いで知り合いのやってる施設にあんたを預け、私も行方をくらました」
女頃し屋「そしたら数年後、仇討ちに燃えるあんたが私に弟子入りを志願してきた……」
女頃し屋「……これが私の知ってる、私から話せる全てだ」
少年「……」
暗殺者「あの時のお前の逃げっぷりは見事だったぜ」
暗殺者「この俺が殺そうとした相手を取り逃がすなんて、後にも先にもあれ一回きりだ」
暗殺者「母の愛のなせるワザってやつか? 泣かせるねえ」
暗殺者「だが、どうして今になって、俺に果たし状なんざ送ってきた?」
暗殺者「このガキと出会えたなら、そのまま二人で暮らしてりゃよかったろうに」
女頃し屋「決まってるだろう、この手であんたを討つためさ」
女頃し屋「あんたが生きてる限り、この子に安全な未来はないからね」
暗殺者「ハハ、よく分かってるじゃねえか」
41: 2018/08/12(日) 01:18:10.584 ID:Os8YPHFJ0.net
暗殺者「今日はいい日だ……」
暗殺者「かつての女と自分の実の子を殺せるんだからなァ!」シュバァッ
女頃し屋「ぐっ!」ギンッ
暗殺者「どうした、どうしたァ!」
キィンッ! ギィンッ!
少年(戦いが始まった……!)
暗殺者「かつての女と自分の実の子を殺せるんだからなァ!」シュバァッ
女頃し屋「ぐっ!」ギンッ
暗殺者「どうした、どうしたァ!」
キィンッ! ギィンッ!
少年(戦いが始まった……!)
42: 2018/08/12(日) 01:20:10.833 ID:Os8YPHFJ0.net
ザシッ!
女頃し屋「ぐっ!」ブシュッ
女頃し屋「くそっ!」ヒュッ
暗殺者「昔のお前はもっとキレがあったぞ? ガキのせいでぬるくなったか? 俺を失望させるな!」
少年(ものすごい頃し合いだ……)
少年(だけど、だけど……女頃し屋さんより相手の方が何枚も上だ!)
女頃し屋「ぐっ!」ブシュッ
女頃し屋「くそっ!」ヒュッ
暗殺者「昔のお前はもっとキレがあったぞ? ガキのせいでぬるくなったか? 俺を失望させるな!」
少年(ものすごい頃し合いだ……)
少年(だけど、だけど……女頃し屋さんより相手の方が何枚も上だ!)
43: 2018/08/12(日) 01:22:11.663 ID:Os8YPHFJ0.net
ガキンッ!
女頃し屋(しまっ――ナイフが!)
暗殺者「これで終いだ」
ドシュッ!
女頃し屋「が、は……っ!」ガクッ
少年「あああっ!!!」
女頃し屋(しまっ――ナイフが!)
暗殺者「これで終いだ」
ドシュッ!
女頃し屋「が、は……っ!」ガクッ
少年「あああっ!!!」
44: 2018/08/12(日) 01:25:11.673 ID:Os8YPHFJ0.net
暗殺者「ナイフはなくなり、その傷は明らかに致命傷……勝負は見えたな」
女頃し屋「く……」ドクドク…
暗殺者「最後に一つだけ。お前はいい女だったよ」
女頃し屋「心にも、ないことを……」
女頃し屋「あんたはいつだって……自分と、頃しのことしか、考えてないだろ……」
暗殺者「ハハ、バレたか」
暗殺者「じゃあな」
女頃し屋「く……」ドクドク…
暗殺者「最後に一つだけ。お前はいい女だったよ」
女頃し屋「心にも、ないことを……」
女頃し屋「あんたはいつだって……自分と、頃しのことしか、考えてないだろ……」
暗殺者「ハハ、バレたか」
暗殺者「じゃあな」
46: 2018/08/12(日) 01:27:21.563 ID:Os8YPHFJ0.net
――ドスッ!
暗殺者「ぐ……!?」
少年「ハァ、ハァ……」
暗殺者(あのガキ……女頃し屋のナイフを投げて……)
女頃し屋(今だっ!)ガシッ
暗殺者(首を!)
暗殺者「このアマ――」
女頃し屋「せぇやぁぁっ!」グイイッ
ボキッ!
暗殺者「ぐ……!?」
少年「ハァ、ハァ……」
暗殺者(あのガキ……女頃し屋のナイフを投げて……)
女頃し屋(今だっ!)ガシッ
暗殺者(首を!)
暗殺者「このアマ――」
女頃し屋「せぇやぁぁっ!」グイイッ
ボキッ!
47: 2018/08/12(日) 01:29:32.400 ID:Os8YPHFJ0.net
暗殺者「ぐ……おぉ……」
暗殺者「や、やっぱり……そのガキ、頃しとくべき……だった、な……」
ドサッ…
女頃し屋「ぐ……」ドサッ
少年「しっかり!」ダッ
暗殺者「や、やっぱり……そのガキ、頃しとくべき……だった、な……」
ドサッ…
女頃し屋「ぐ……」ドサッ
少年「しっかり!」ダッ
48: 2018/08/12(日) 01:32:19.977 ID:Os8YPHFJ0.net
女頃し屋「すまなかったね……」
女頃し屋「あんたには、内緒にしといたことが、多すぎた……」
少年「ううん、もういいよ!」
女頃し屋「わ、私は……あんたには普通の人生を歩んで、欲しかった……」
女頃し屋「だけど、あんたが、私の噂を知ってか、弟子入りしに来た時……」
女頃し屋「やっぱり、あんたも、頃しの道を歩むのかって思った……」
女頃し屋「頃し屋の血からは、逃れられないって……」
少年「……」
女頃し屋「あんたには、内緒にしといたことが、多すぎた……」
少年「ううん、もういいよ!」
女頃し屋「わ、私は……あんたには普通の人生を歩んで、欲しかった……」
女頃し屋「だけど、あんたが、私の噂を知ってか、弟子入りしに来た時……」
女頃し屋「やっぱり、あんたも、頃しの道を歩むのかって思った……」
女頃し屋「頃し屋の血からは、逃れられないって……」
少年「……」
49: 2018/08/12(日) 01:34:28.373 ID:Os8YPHFJ0.net
女頃し屋「だから、私は……あいつと決着をつけると決意した時……」
女頃し屋「子犬を拾ってきて、殺せと命じた……」
女頃し屋「犬も殺せないようじゃ、私が氏んだ後、到底生きてけるわけない、から……」
女頃し屋「だけど、あんたは殺せなかった……殺さなかった」
女頃し屋「あの時、私は、本当にうれし、かった……」
女頃し屋「あんたは私やあいつとは、違うって……。うっ、ゲホ、ゲホ!」
少年「!」
女頃し屋「子犬を拾ってきて、殺せと命じた……」
女頃し屋「犬も殺せないようじゃ、私が氏んだ後、到底生きてけるわけない、から……」
女頃し屋「だけど、あんたは殺せなかった……殺さなかった」
女頃し屋「あの時、私は、本当にうれし、かった……」
女頃し屋「あんたは私やあいつとは、違うって……。うっ、ゲホ、ゲホ!」
少年「!」
53: 2018/08/12(日) 01:37:16.507 ID:Os8YPHFJ0.net
少年「お母さんっ!」
女頃し屋「お母さん、と呼んでくれるのかい……」
女頃し屋「あ、ありがと……」
女頃し屋「どうか、幸せに生きて、ね……」
女頃し屋「……」
少年「お母さん……」
少年「おかあさぁぁぁぁぁん!!!」
女頃し屋「お母さん、と呼んでくれるのかい……」
女頃し屋「あ、ありがと……」
女頃し屋「どうか、幸せに生きて、ね……」
女頃し屋「……」
少年「お母さん……」
少年「おかあさぁぁぁぁぁん!!!」
54: 2018/08/12(日) 01:39:19.659 ID:Os8YPHFJ0.net
少年「うっ、うっ……おかあ、さん……」
子犬「クゥ~ン」ペロペロ
少年「……ありがとう。慰めてくれるんだね」
少年(さようなら……お母さん)
少年(お母さん、ぼくはこの子と強く生きるよ……!)
子犬「クゥ~ン」ペロペロ
少年「……ありがとう。慰めてくれるんだね」
少年(さようなら……お母さん)
少年(お母さん、ぼくはこの子と強く生きるよ……!)
55: 2018/08/12(日) 01:42:48.481 ID:Os8YPHFJ0.net
……
……
青年(あれから――どれだけの月日が流れただろうか)
犬「ワン、ワン」
青年「おお、よしよし。いつまでも長生きしてくれよ」
青年「じゃあ、次の患者さんを呼んできてくれるかい」
犬「ワン!」
……
青年(あれから――どれだけの月日が流れただろうか)
犬「ワン、ワン」
青年「おお、よしよし。いつまでも長生きしてくれよ」
青年「じゃあ、次の患者さんを呼んできてくれるかい」
犬「ワン!」
57: 2018/08/12(日) 01:45:44.351 ID:Os8YPHFJ0.net
青年(お母さん、俺は猛勉強して医者になったよ)
青年(人を頃す仕事じゃなく、生かす仕事についたんだ。喜んでくれるかい?)
患者「どうも~、先生」
青年「……聞いたよ。最近、リハビリサボってるって」
患者「あっちゃ~、バレちゃったか。すみません」
青年「せっかく怪我はよくなったんだから、あとはきっちりリハビリしないと」
青年「リハビリは、やらなきゃ意味ないよ」
おわり
青年(人を頃す仕事じゃなく、生かす仕事についたんだ。喜んでくれるかい?)
患者「どうも~、先生」
青年「……聞いたよ。最近、リハビリサボってるって」
患者「あっちゃ~、バレちゃったか。すみません」
青年「せっかく怪我はよくなったんだから、あとはきっちりリハビリしないと」
青年「リハビリは、やらなきゃ意味ないよ」
おわり
58: 2018/08/12(日) 01:46:46.777 ID:b/V0bq3Od.net
いい話だった 乙
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