1: 2008/08/29(金) 20:32:17.84 ID:mzpi7cyv0
ローゼンSSはっじまっるよー\(^o^)/

2: 2008/08/29(金) 20:33:03.63 ID:mzpi7cyv0



7月も半ばを過ぎ。
うだるような暑さが続いていた。

のりの部屋のドアを開け、それにもたれかかるジュンの頬には一滴、汗が流れている。


「だらしのないやつだな・・・」

ベッドの上でぐっすりとのりが眠っている。
時刻は11時をまわり、もうおはよう、は通じない時間帯になっていた

「おい。洗濯のり!もう昼だぞ!夏休みだからっていくらなんでも寝すぎだろ」

「・・・・・へぇ?・・・・ふぁ・・・・あ、おはよぅ~ジュン君」

「おはようじゃない。あいつらが腹すかしてるからなんか作ってやってくれよ」

「・・・・あ!あらあら・・・もうこんな時間?えへへ、寝坊しちゃったぁ」

「・・・・・・・・」

はぁ、と眉間に皺を寄せ、ジュンが大きくため息をついた


金糸雀
4: 2008/08/29(金) 20:36:43.36 ID:mzpi7cyv0




「のり!貴女淑女として恥ずかしくないの!?こんな時間まで眠っているなんて!!」

リビングのドアを開けるなり、真紅の怒声が響く。
まるで鬼神のようだ

「ご、ごめんねぇ~真紅ちゃん。すぐに作るからね」

「真紅のお腹ぐーぐーいってたのよ・・・・あうっ!!」


笑いながら話す雛苺の頭を真紅の巻き髪が叩く。
なるべく今は真紅に関わらないほうがよさそうだと思い

ジュンは真紅の隣には座らず、割とおとなしくしている翠星石の隣の椅子に腰を下ろした。

いや、割と、というより翠星石は異常におとなしかった。落ち込んでいるようだった
そして下を向いて、もごもごと口を動かしている

6: 2008/08/29(金) 20:40:04.26 ID:mzpi7cyv0

「・・・・? 何を食べてるんだ?性悪人形。」

「・・・・・・・・真紅たちに・・・朝ごはんを作ってやろうと・・・・・
 とりあえずトーストを焼いたです・・・・・・・」

「ほぉ」
翠星石の目の前には真っ黒なトーストが3枚重ねられている。

「それが全て残らず、真っ黒くろすけになったですから、処理をしてるですよ・・・」

「・・・・・」

涙目で真っ黒なトーストをほお張る翠星石を見て、さすがに可哀想になったので
ジュンは残りのトーストを全て食べてあげた。


7: 2008/08/29(金) 20:43:37.04 ID:mzpi7cyv0

テレビを見ると、サングラスの初老の男性がマイクを持って颯爽と登場していた
お昼の定番番組だ。

ジュンは、もうそんな時間か、と、こげトーストを牛乳で流し込み思う。


「・・・・せんたくのりー。僕の分はいらないぞー。部屋に戻るからな」

パジャマのままキッチンに向かっているのりに声をかける
トーストで膨れた腹具合だと、お昼は入らないなと思ったからだ


「あ、チビ人間・・・」

翠星石が言いかけるも、ジュンはすでにリビングを出ていた。

10: 2008/08/29(金) 20:47:17.76 ID:mzpi7cyv0





「・・・さて、と通販通販。」
パソコンの電源をつける。

飯時は人形達がいなくなるので、ジュンにとってこの時間は唯一の安息の時となっていた


「・・・・・買い、買い・・・・うふふ」

「・・・・・ジュンくん・・・・・・」

「!!! 蒼星石!!いつの間に!?」

ガタガタと椅子を揺らし顔を真っ赤にしながらジュンが言う
開け放していた窓から蒼星石が入り込んできていた


「ジュン君はもっと明るい趣味を見つけるべきだと思うんです。
 お茶の煎れ方なら教えられますけど・・・」

「余計なお世話だ。真紅たちなら下だぞ」

「どうも。お邪魔します」


「・・・・・・はぁ。」

12: 2008/08/29(金) 20:52:15.18 ID:mzpi7cyv0


再びパソコンに向き直る。
「・・・・買い、と・・・今日は豊作だな・・・・うふふ」

「ジュン・・・・・・気味悪いかしら・・・」

「!!!!!! 金糸雀ぁ!!勝手に入ってくるな!!」


ベッドの上で金糸雀が座って傘を折りたたんでいる。
金糸雀もまた開け放たれた窓から入り込んできていた


「ジュンはもっと明るい趣味を見つけるべきかしら。みっちゃんと一緒に洋服づくりやるかしら!」

「うるさいやつだなぁ・・・僕の勝手だろ?」

「みっちゃんも心配してたかしら。」 

「・・・・はぁー・・・真紅たちは下だぞ。ほら、さっさと行け。」


パタパタと階段を金糸雀が駆けていった。
開け放たれた窓からは蝉の鳴き声が響いている。

「・・・・はぁ」

本日4度目のため息をついて
ジュンは窓を閉めた。

14: 2008/08/29(金) 20:57:08.14 ID:mzpi7cyv0







青い空が、茜色に変わり始めた頃。


「さて、そろそろ帰るかしら。」

「あら。もうそんな時間?」

ソファーから金糸雀が立ち上がり、ドレスをパッパっと伸ばす。
玄関に向かう金糸雀を真紅たちが見送る。


「それじゃーまた来るかしらー」

金糸雀が傘を広げ、軽々と飛翔する
あっという間にその姿は空で点になり、消えていった


「あーやっとうるさいのが減った。」

「ジュン。紅茶を淹れて頂戴。」

見送りを終えた面々はいつもどおり、思い思いに行動を始める。
その時だった

16: 2008/08/29(金) 21:00:42.14 ID:mzpi7cyv0





ピリリリリリリリリリリ!




「!?・・・・・・」
テーブルの上で、ぶるぶると振動しながら、のりの携帯が着信を知らせている

「騒々しいですぅ!のり!その小箱を黙らせるですぅ!!」

「あらあら。誰かしらねぇ」

のりが手を拭きながらキッチンから出てきて
折りたたみ型のそれを広げる

「?・・・・草笛さん?
 はい。のりです」


18: 2008/08/29(金) 21:03:43.69 ID:mzpi7cyv0


「もしもし!こちら有栖川大学病院です!草笛みつさんの着信履歴の一番上にあったので
 連絡させていただきました!草笛さんのご家族の方ですか?」


「へ?病院?・・・あ・・いえ、私は草笛さんの友達で・・・」

昨晩、みつと長電話していたことを思い出す。
朝寝坊の原因も、思えばこれだった。


「そうですか。草笛さんが交通事故にあって、現在意識不明の重態です!
 至急病院の方へ来ていただけますか!?


「事故!!?」



「・・・・・事故?」



のりの大声にソファーに座っていたジュンが反応した。





20: 2008/08/29(金) 21:09:40.80 ID:mzpi7cyv0
>>19
大不評の欝SS
ジュンとのりがセクロスしてどうのこうのってやつ

21: 2008/08/29(金) 21:10:43.93 ID:mzpi7cyv0






「ふんふんふ~ん♪」

高層マンションのベランダに、金糸雀が軽やかに着地する
ここは金糸雀のミーディアム、草笛みつの部屋だ。

「みっちゃーん!!ただいまかしらー!!・・・・って・・・あらら?」

ベランダの窓が開かない。
鍵がかかっているようだ

「まだお仕事なのかしら。」

とため息をついて、金糸雀は窓ガラスを背に、ベランダに座り込む。

「ちぇっ。お腹すいたかしら~」




空の茜色は少しずつ減り、黒くなった空には一つ二つ、星が輝いていた。


24: 2008/08/29(金) 21:18:19.19 ID:mzpi7cyv0







「こっちです!!」

看護師に案内され、ジュンとのりが病院内を走る。

赤く灯った手術室のランプの下には、みつの家族らしき人たちが集っていた
皆、俯いて、祈るようにしている


「あの・・・いったい・・・何が?」

ジュンがヒソヒソと看護師に聞く。

「・・・車同士の事故です。・・・・交差点で信号無視をした車に衝突したそうです。
 ・・・草笛さんは意識不明の重態。現在手術中です」

看護師もヒソヒソと返す。
その語調から、ジュンはみつが生と氏の際にいることがわかった。



26: 2008/08/29(金) 21:25:16.81 ID:mzpi7cyv0

「・・・・・大丈夫よ・・・ジュン君。」

「・・・・・・」







結局。
手術はその日のうちには終わらなかった。




後から伝わったことだが
6時間に及ぶ大手術で、みつは一命を取り留めたらしい。



27: 2008/08/29(金) 21:29:48.46 ID:mzpi7cyv0



チュンチュンと雀の声。




「・・・・・あふ・・・・あ。朝かしら。」

眩しい日の光に当てられて、金糸雀が目を覚ます
ベランダで寝てしまっていたらしい

「・・・・・みっちゃん。帰ってこなかったかしら・・・・」

相変わらず開かないベランダの窓に手をあて、金糸雀がつぶやいた

「~~~・・・仕方ないかしら。真紅たちのところにお邪魔するかしら」


バサッと傘を広げる。
階段でも下りるかのように、ベランダから飛び降りると
金糸雀は桜田家へと飛んでいった


28: 2008/08/29(金) 21:33:24.99 ID:mzpi7cyv0




――――――――――――――・・・・・・・




「みっちゃんが・・・・事故!!?」

「・・・・一命は取り留めたらしいから・・・」

桜田家、玄関にて
金糸雀がジュンの言葉に耳を疑う。


「・・・・・っ!! カナ・・・いかなくちゃ・・・!」

「金糸雀!!落ち着け!・・・今は面会謝絶で、病院にいっても草笛さんには会えない」

「そ・・・そんな・・・」

ぺたん、と玄関にへたりこむ
金糸雀の目からボロボロと涙が零れ落ちている


「カナちゃん・・・・」
のりが金糸雀を抱きかかえ、リビングに連れて行った
現状ではジュンたちにはどうすることも出来なかった

30: 2008/08/29(金) 21:37:51.93 ID:mzpi7cyv0

「ジュン。私は金糸雀の傍にいるわね」

「ああ。」

真紅がリビングに入る。
オロオロしていた雛苺もそれに続く



「ジュン・・・デカ人間は大丈夫なんですか・・・?」

ジュンと一緒に玄関に残っていた翠星石が聞いてきた。
その隣では蒼星石が険しい表情で立っている

「・・・・・平気だよ。きっと。心配するな」

と、言い終えると同時に桜田家の電話が鳴った。



31: 2008/08/29(金) 21:40:10.08 ID:mzpi7cyv0

プルルルルルルルルル!

「・・・・・」

「・・・・電話ですよ。」

「うん・・・」

ジュンが受話器を取る


「・・・はい。桜田です」

「・・・・もしもし。草笛です。先日は大変ご迷惑をおかけしました」

「!! あ!・・・いえ・・・・」


昨晩、のりがみつの母親に家の電話番号を教えていたことを思い出す。

32: 2008/08/29(金) 21:46:11.94 ID:mzpi7cyv0

「あの・・・・・草笛さんは・・・?」

ジュンがおどおどと聞く
足元では翠星石と蒼星石が耳を澄ましている


「・・・・・・・・あの子、明日もう一度手術をすることになりました」

「!! え!?」

「~~~~~~~~~~~~~~~」

「・・?・・??」


「・・・?? 聞こえんですぅ・・」
電話の声は翠星石には届かない
ジュンの表情がみるみるうちに曇っていく

みつのことを話しているのだろうか


「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」

「・・・・ッ!!!」




34: 2008/08/29(金) 21:54:12.33 ID:mzpi7cyv0

ジュンの表情が大きく変わる。
翠星石と蒼星石はその異変を察知した

ジュンは固まったまま動かない。
電話口の向こうからも、少しも声は聞こえてこない


「・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・あの子」

長い長い受話器越しの沈黙の後、みつの母親が口を開いた


35: 2008/08/29(金) 21:57:21.90 ID:mzpi7cyv0


「・・・・あなた方のこと、よく話してくれていました。
 ・・・・・面会が許されたら・・・・・お見舞いに行って上げてください
 ・・・・・・おねがいします。」

「・・・・・・・・・・」


受話器越しの震えた声。
しばらくすると「失礼します」と、電話を切られた


電話が切れた後も、ジュンは受話器を握ったまま立ち尽くしていた



41: 2008/08/29(金) 22:08:27.84 ID:mzpi7cyv0





――――――――――――――――――・・・・・・・・




「・・・・・・」



目を開けると、真っ暗な部屋の中にいた
趣味の人形達が並んでいないところをみると、ここはどうやら自室ではないらしい

眼球を動かし、左右を見る。
見慣れない機械がおいてあった。

それはピッピッと音を出し、一定のリズムで波を描いている。

このあたりで、ここが病院であるということに気づいた。


ベッドの上に寝ているのは草笛みつ
金糸雀のミーディアムだ



42: 2008/08/29(金) 22:13:44.61 ID:mzpi7cyv0


「・・・・・・・・・・」

体の感覚がふわふわしている。
何があったのかうまく思い出せない。


眼球を再び動かし、下を見た。


違和感。



「・・・・・・・・・・・・・・」

頭がぼんやりして何も考えられなかったので
とりあえず、みつは再び目を閉じた




45: 2008/08/29(金) 22:18:30.86 ID:mzpi7cyv0





―――――――――・・・・・一週間後


「金糸雀ー。行くぞー」

「はいかしら!ちょっと待つかしら!」

玄関先でばたばたと騒がしい金糸雀。
ようやくみつとの面会が出来るようになり、さっそくお見舞いに行くことになったのだ



「ジュンーヒナたちは行かなくていいのー?」

「おバカ苺!大勢でいっても迷惑になるだけですよ!おとなしくお留守番しておくです」


この日、お見舞いに行くのはジュンと金糸雀、二人だけだ
大きなバスケットを用意して、ジュンは玄関に腰掛けている



47: 2008/08/29(金) 22:22:47.30 ID:mzpi7cyv0


「ジュン。」

心配そうな表情で真紅が見つめてくる

「・・・・・・・・」

「よしっ!準備オッケーかしら!ジュン!」

金糸雀がバスケットに乗り込んだところで
ジュンは無言で立ち上がった



「いってらっしゃい。」

のりの声に送られて、ジュンと金糸雀は
有栖川大学病院に向けて出発した



51: 2008/08/29(金) 22:29:15.08 ID:mzpi7cyv0




「ふんふんふふ~ん♪」

「ご機嫌だな。金糸雀。」

「あったりまえかしら!!みっちゃんに久しぶりにあえるんだもの」

「・・・・・・・・・そうか」


浮かれる金糸雀とは対照的に、ジュンは暗い表情。


金糸雀は、みつの今の状態のことを、まだ聞かされていなかった


ジュンがみつの母から電話を受けた後
みんなで話し合った結果だ。


その時泣きじゃくって不安定だった金糸雀に
このことを伝えるのは、あまりに酷だ、と。


そうして今日の日まで、みつのことは金糸雀の耳には入らなかったのだ

53: 2008/08/29(金) 22:36:44.79 ID:mzpi7cyv0

「あ!病院が見えたわよ!ジュン!!」

「・・・・・・・・」









目の前には威圧感を与える大きな病院がそびえ立っている

ジュンは、一つ、深呼吸をして
自動ドアをくぐった




「・・・・あの、草笛みつさんに・・・・」

「・・・・? ああ!はい。草笛さんは416号室です」

受付の看護師ににこやかに案内され、ジュンがエレベーターに向かう
平日の昼、ご飯時だったせいか、ロビーにはほとんど人がいなかった



54: 2008/08/29(金) 22:41:20.01 ID:mzpi7cyv0


4階のボタンを押し、扉の前で待つ

7・6・5
光の点滅が降りてくる


「ジュン!なかなか自然に聞けたかしら!引きこもりにしてはいい仕事をしたかしら!」

「おい。いいか。僕は引きこもりじゃないぞ!外に出る必要がないだけだ」


4・3・2・・・1

ポーンと音を立ててエレベーターの扉が開いた。
中には誰も乗っていなかった



[閉]ボタンを押し、再度4階のボタンを押す。
嫌な浮遊感と共にエレベーターが上昇を始めた


55: 2008/08/29(金) 22:46:24.11 ID:mzpi7cyv0



「・・・・・・・・」

ジュンは悩んでいた。
草笛さんの今の状況を金糸雀に伝えるべきか、否か

心の準備なしに今の草笛さんに会ったら、金糸雀はどう思うのだろうか


「あ!着いたかしら」

考えているうちに4階へ到着する


エレベーターを降りて、少し歩くと
416号室はすぐに見つかった

入り口には『草笛みつ』とプレートが貼ってある


57: 2008/08/29(金) 22:51:27.77 ID:mzpi7cyv0

「・・・・・・」

「・・・・? ほら!ジュン、早く開けるかしら!」

「・・・・・・・・おう」



ドアを開ける。
白い壁、白い床、白い天井
病室が視界に広がる

59: 2008/08/29(金) 22:55:32.70 ID:mzpi7cyv0

「あっ!ジュンジュン!」

「どうも」

意外と元気そうな声。
みつはいつもは束ねている髪を下ろしていた
頭に巻かれた包帯が痛々しかった


「みっちゃーーーん!!」

金糸雀がバスケットから飛び出し、みつの胸にダイブする

「! カナ!!
 っだ・・・あだだだだだだ・・・カナ!私、怪我人だからー!!」



63: 2008/08/29(金) 23:01:29.57 ID:mzpi7cyv0

「あ・・・ごめんかしら・・・
 
 ・・・・・・・・・・・・・?」




違和感。

あるはずのものが・・・・ない


「・・・・・・・・・みっちゃん?」


「・・・ごめんね。カナ。
 






 みっちゃんの足。失くなっちゃったんだ」





67: 2008/08/29(金) 23:06:58.95 ID:mzpi7cyv0










「・・・・・・・・・」

パタン。とジュンが静かにドアを閉める
ドア一枚隔てた向こう側。416号室では金糸雀の泣き声が響いている


みつの両足切断。


一週間前。
みつの母親から電話で教えられたことだ。


翠星石と蒼星石が
足元で盗み聞きしていて、電話を持つ手がひどく汗ばんでいたことを
はっきりと覚えている


68: 2008/08/29(金) 23:11:02.01 ID:mzpi7cyv0




――――――――――――――――・・・・・・・・・・・・・


「・・・あの・・・・草笛さんは・・・?」

ジュンがおどおどと聞く
足元では翠星石と蒼星石が耳を澄ましている


「・・・・・・・・あの子、明日もう一度手術をすることになりました」

「!! え!?」

「・・・・・破壊された車に圧迫されて、みつの両足は壊氏してしまっていたんです」

「・・?・・??」


「・・・このままでは、他の部位に影響が出てしまうということで
 両足の切断手術をすることに決まりました」

「・・・・ッ!!!」


―――――――――――――・・・・・・・・・・

69: 2008/08/29(金) 23:17:42.17 ID:mzpi7cyv0





体の一部を失うというのはどういう気分なんだろうか
話を聞いただけで、その晩ジュンは眠れなかった

ということは、本人が受けた衝撃は
ジュンのそれとは比べ物にならないくらいだろう


10分、20分くらいだろうか、あまり長い時間には感じられなかったが
ジュンはそのまま416号室の前で立ち尽くしていた



すると

「ジュンジューン?」

中からみつの声が聞こえてきた。
ドアを開ける。


71: 2008/08/29(金) 23:25:13.67 ID:mzpi7cyv0

金糸雀が鼻をすすりながら、みつに抱かれている光景が目に入る。


「カナ?ちょっと屋上行って落ち着いてきな?」

「・・・・・・」


金糸雀は無言でうなずくと、窓から飛び降り
傘を広げて上昇していった



「・・・・・・・・草笛さん・・・」

「まぁまぁ、座って座って」

手のひらに案内され、ベッドの横の椅子に腰をかける
近くで見ると、みつの顔にはまだ生々しい傷が残っていた



73: 2008/08/29(金) 23:26:22.63 ID:mzpi7cyv0

「・・・」

「あははー。災難だよねー私って。これが痛いのなんのって」

「・・・・でも、無事でよかったじゃないですか」

「ま、無事じゃないんだけどね」

「・・・・・・・・」


沈黙。
バツが悪そうにみつが頭を掻く。


「・・・・・あと何ヶ月か・・・・入院して、リハビリしたら退院する予定。
 ゴメンだけど、ジュンジュンその間カナを頼んでいいかな?」

「・・・はい。まかせてください」

「・・・・ははは・・・ほんと・・・・まいったよね・・・」

「・・・・・・・」

「こんなんじゃ自分のお店なんか開けないっつーの・・・」

「・・・・・・・・・・・・」


74: 2008/08/29(金) 23:31:54.79 ID:mzpi7cyv0


俯いたその顔は、長い、黒い髪に隠れてみることが出来なかった
ただ、体が震えているのははっきりと分かった

ジュンは、こんなみつの姿を見たことが無かった
みつは常に明るくて、元気で、夢を持っていた。
ジュンにとっては眩しいくらいだった



今、目の前にいるみつは、弱りきってて
まるで、別人のようだ




長い長い静寂の後



「・・・・金糸雀、迎えに行きますね」

「・・・・・・・・」



ジュンが部屋を出た。
どうすればいいのか、全く分からなかった。

76: 2008/08/29(金) 23:35:35.88 ID:mzpi7cyv0





「・・・・・・ぐすっ」

金糸雀が屋上のフェンスに座り、鼻をすする

ローゼンメイデン第二ドール。
という肩書きを持ってはいるが
ローゼンメイデンの中では雛苺に次いで幼い金糸雀にとって

マスターの両足の切断。という事実は相当ショッキングなものだった


「・・・なんで・・・なんでみっちゃんがこんな目に遭わなくちゃいけないのかしら・・・」


ぶつけようの無いその感情で
涙が止まらない。


「・・・・あらぁ?金糸雀?」

「!!」


81: 2008/08/29(金) 23:44:53.75 ID:mzpi7cyv0

上から聞き覚えのある声。
金糸雀が顔を上げる。


「・・・・・水銀燈!」


真っ黒なドレスに身を包んだ
ローゼンメイデン第一ドール。水銀燈がそこにいた


「・・・うふふ・・・ボロボロ泣いちゃって・・・みっともなぁーい・・・・」


水銀燈が翼を折りたたみ、軽やかに屋上に着地する。
金糸雀もフェンスから飛び降り、臨戦態勢をとる。


「・・・・!うるさいかしら!水銀燈!!
 あんたなんかにカナの気持ちが分かるわけないかしら!!」

「・・・・・・・・・・」

水銀燈がギロッと金糸雀を睨みつける。
ピリピリと緊迫した空気が流れる

83: 2008/08/29(金) 23:47:52.92 ID:mzpi7cyv0

「・・・・・・金糸雀ー。 !! って水銀燈!?」


その時。ジュンが屋上のドアを開け、現れた。
水銀燈が流し目でジュンを見る。


「・・・真紅のミーディアム・・・今日はあのおバカさんは一緒じゃないのぉ?」


「真紅は留守番だ・・・・。今はお前と戦ってる暇なんて無いんだよ
 金糸雀!行くぞ!」


「・・・・・・・・・・・」

金糸雀が水銀燈を睨みながら、その横を通り抜ける。



ガチャン、と屋上のドアが閉まったのを見て

「フン・・・」
水銀燈は再び、翼を広げた。

84: 2008/08/29(金) 23:51:22.68 ID:mzpi7cyv0

水銀燈がすいすいと泳ぐように飛ぶ。
とある窓の近くで翼を折りたたみ、その下のスペースに腰を下ろした。


それとほぼ同時に窓が開く。

「こんにちわ、天使さん。」

「天使じゃないっていってるでしょ・・・」

316号室の患者。
柿崎めぐだ。




85: 2008/08/29(金) 23:55:22.86 ID:mzpi7cyv0


「ねぇ天使さん。今日はどんなことがあった?」

「・・・・・・別にぃ・・・さっき屋上で姉妹にあったぐらいね」

「へぇ~!ここの屋上で? ね、何話したの?」

「何も。・・・・あの子泣いてたわ」

「・・・ふぅーん・・・・・だれか知り合いが入院してるのかな」

窓際の水銀燈。ベッドの上のめぐ
水銀燈がめぐのところを訪れる時は大抵、こうして話をしていた


86: 2008/08/30(土) 00:00:16.91 ID:xEBfbyk60


「・・・・この真上にね、交通事故の患者さんが入ったんだって。」

「?」

「両足切断だって。可哀想よね」

「・・・・・ジャンクね。完全に。」
フンと水銀燈が鼻で笑う。


「・・・・私は氏ぬときは綺麗なままがいいわ。ね、水銀燈
 だから、早く私の命使ってね。」


「・・・・・・・・・・・」


87: 2008/08/30(土) 00:02:30.35 ID:xEBfbyk60



416号室。


「失礼します。」

ジュンがドアを開ける。
その隣には金糸雀もいる

「・・・それじゃ、金糸雀。僕は下で待ってるからな」

「うん」

みつに向かって軽く会釈をして、ジュンが部屋を出る。
みつも何も言わず、会釈を返す。

「・・・・・みっちゃん・・・」

「・・・・おいで。カナ」

みつが両手を広げて、にっこりと微笑む。
金糸雀はベッドをよじ登り、みつの隣に座る。


89: 2008/08/30(土) 00:05:49.53 ID:xEBfbyk60

「・・・・・・」

「カナ。みっちゃん平気だから、そんな顔しないで。」

「・・・・・・・」

「こんななっても、玉子焼きは作れるし、カナをギュ―ってもできるわよ」

「・・・・・・」
金糸雀の目には涙がたまっている。
その理由は二つ。
自分ではどうすることも出来ないという、怒りと悔しさ。
もう一つは

指輪を通して伝わってくる、みつの悲しみからだった


90: 2008/08/30(土) 00:07:57.86 ID:xEBfbyk60

「・・・さすがに・・・もうドレスは作れないかもだけど・・・」

「みっちゃん・・・・」

「カナ。しばらくジュンジュンにお世話になってね。ちゃんとお願いしますって言うのよ?
 のりちゃんに玉子焼き作ってもらってね。みっちゃんのより美味しいかもよ!
 あ、ついでにジュンジュンにドレスでも作って貰って。
 みっちゃんに見せてくれるとうれしいな~なんて・・・・・」

「・・・・う・・・みっちゃん・・・うぅ・・」

「・・・・・・・・」





西日が、416号室の窓から差し込む。
その光がベッドに座るみつと、それにしがみつく金糸雀の影を
くっきりと描き出していた。

93: 2008/08/30(土) 00:12:14.98 ID:xEBfbyk60

――――――――・・・・・・・・



夜。
有栖川大学病院一階ロビー。

夜の病院はいつも不気味だが、こう何年も入っていると
さすがに慣れるものである

柿崎めぐが暗いロビーで唯一明るい場所。
自動販売機の前に立っている。


「・・・・水銀燈ってどんなジュース飲むのかしら
 ・・・・・・・・・・・・・うーん・・・・・・」

水銀燈が喉が渇いたというので、ジュースを買いに来たのだ
悩んだ結果とりあえず、適当にカルピスを二本買う。


それを両手にエレベーターに乗り込みボタンを押す。


「あ。しまった」

間違えて、4階のボタンを押してしまった。


94: 2008/08/30(土) 00:15:31.19 ID:xEBfbyk60


「も~・・・めんどくさいなぁ・・・・」

独り言を言っている間に、昼間。自分が言ったことを思い出す

「両足切断の患者・・・416号室・・・・」

自室でこのまま眠ってしまうのも退屈だと思い。
めぐは4階へと上っていった






416号室。



「・・・・・・・い・・・・・たッ!!!!」



96: 2008/08/30(土) 00:19:32.23 ID:xEBfbyk60


激痛にみつが目を覚まし、声を上げ
反射的に痛みの元に手を伸ばす



触れない。

痛みの元は、あるはずのない両足。
膝から下だった。



「・・・・・はぁ・・・はぁ・・・・・い・・ッ・・・たたたた ・・・・・ん?」



ベッドの横の棚にメモが置いてある。

眠ってる間に誰かがおいていったのか?
手にとり、それを読む。




99: 2008/08/30(土) 00:23:37.09 ID:xEBfbyk60


「・・・・・・。」


長々と、業務の引継ぎ、保険、今後のことが書かれている
仕事関係の者からの伝言だった


今後のこと。
どう仕事に復帰するか、とかは一切書いてはいなかった

はっきりと文からは分からないように書かれているが
自分が仕事場から切り捨てられたことは、嫌というほど伝わってきた。


「・・・・・・・・・・・・はぁ。

 ・・・・・・・!!・・・・・・いった・・・!!」



足が、痛む。



「・・・・・あの・・・・大丈夫ですか?」

「!!!!!!」

101: 2008/08/30(土) 00:25:02.92 ID:xEBfbyk60


ドアから髪の長い可愛らしい女の子が覗いている
突然の来訪者にみつは心臓が口から出そうになる


「(ゆゆゆゆゆゆ・・・幽霊!?)」

「あ・・・・柿崎っていいます・・」
そう、言いながら部屋に入ってくる。

「(・・・・人間?)・・・・あ・・・・ごめんね。うるさかった?」

「いえ・・・その・・・足・・・大丈夫ですか?」

後ろ手でドアを静かに閉め、めぐが部屋の中に入ってくる

「あ・・・ああ。大丈夫よ。しばらくしたら治まるから」

「・・・・・・」

「?」


めぐはベッドの脇に立ち、みつの顔を見る
みつは訳がわからず、目をぱちくりさせている


105: 2008/08/30(土) 00:34:23.93 ID:xEBfbyk60


「・・・こうなってしまっても・・・生きたいと思いますか?」

「・・・・・・?」

めぐが静かに口を開く

「・・・・・こんなふうになっても、希望はあるんですか?」

「え・・・・・?」

悲しげなめぐの表情。
みつは言葉がでない。



「・・・・・あの。また来てもいいですか?」


「??」

「柿崎めぐです。下の階に入院してます」


「あ、ああ。私、草笛みつ。よろしくね。」


107: 2008/08/30(土) 00:39:09.59 ID:xEBfbyk60



「・・・それじゃあ・・・また。あ、これよかったらどうぞ。」


カルピスを一本、手渡される。

にこり、と微笑むと
黒い長髪を揺らして、めぐが部屋が部屋を出て行った


「・・・・・・・・・・・・・」

みつは固まったまま。

少し落ち着くと
自分の心臓の音が外にまで聞こえそうなくらい大きく聞こえた。

http://rozeen.rdy.jp/up/vipww29012.jpg

109: 2008/08/30(土) 00:44:10.88 ID:xEBfbyk60


316号室。
水銀燈がベッドに座って、窓の外を眺めている

「! ちょっとぉ・・・遅いわよぉ」

「ごめんごめん。」

めぐがドアを開けて、部屋に入る。

「はい。飲み物。」

「・・・・カルピス・・・・まぁいいわ
 ヤクルトには劣るけど・・・・乳酸菌的な意味で」

「?」


有栖川大学病院の夜が更けていった。







110: 2008/08/30(土) 00:47:07.80 ID:xEBfbyk60




―――――――――――・・・・・・次の日


相変わらず外は暑く、病室にいると感覚が麻痺するが
窓を開けると外と代わらない熱気が入り込んできた


「・・・・あつ・・」

目を細めてみつが窓を閉める。
窓はなんとか手が届く距離にあって、開け閉めは自在に出来た


「こんにちわ。」
コンコンと416号室のドアをノックして、返事が返る前にめぐがドアを開ける。

「あ、めぐちゃん。」
みつも大して気にしていない様子

「もー、昨日はびっくりしちゃったわ~
 私幽霊がでたのか・・・・と・・・・・・・・・」

みつが目を見開く。
その視線の先には


111: 2008/08/30(土) 00:50:48.82 ID:xEBfbyk60


「・・・なんで私まで連れて行くのよ!ちょっとぉ!翼をはなしなさぁい!」

色白銀髪、真っ黒翼の生えたドールがいた。

めぐにその翼を引っ張られて一緒に病室に入ってくる。


「あ、この子水銀燈っていいます。ローゼンメイデンって・・・・草笛さん?」



「・・・・・・・・・そ・・・・その人形・・・・・・

 ちょーーーーー可愛いからーーー!!ローゼンメイデン!?ローゼンメイデンよね!?
 あー!!抱っこさせてー!!あっと!その前にカメラカメラ!!
 今度カナと一緒に写真撮らせてね!!あぁもう!フィルムが!!」




「・・・・・・・・・・ちょっと、めぐ。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」


水銀燈を見るなり豹変したみつに
二人は引いていた。

113: 2008/08/30(土) 00:55:00.06 ID:xEBfbyk60





「いやーごめんごめん、興奮しちゃって」

「・・・・・いえ・・・・・
 草笛さんもローゼンメイデンを知ってたなんて意外でした。」

「知ってるどころじゃないわ。そいつは金糸雀のミーディアムよ。指輪つけてるでしょ」

「そうそうカナの・・・。水銀燈ちゃんはカナのお友達?」

「冗談じゃないわ。」

みつがカメラのフィルムを入れ替えながら、めぐ、水銀燈と話す。


「あんなバカな子――・・」
パシャパシャパシャ

「・・・・・・・・」

「そのクールな表情がたまらなーい!」

「・・・水銀燈。落ち着いて。」

引きつった顔の水銀燈の肩をポンッと叩き、めぐが口を開く

115: 2008/08/30(土) 00:59:37.95 ID:xEBfbyk60


「草笛さんって写真のお仕事してるんですか?」

「ん。ううん。私はお洋服作るお仕事。・・・・・・だったけど」

「けど・・・? あ・・・」

「こんなことになっちゃったからねぇー・・・・もう、つくれない・・・かな」

「・・・・・・・・・・・」



俯く二人を見て、水銀燈が眉間に皺を寄せる

「はぁ?」

「?」

大きく口をゆがめて、水銀燈が声を上げる



「なんで足がなくなったら洋服を作れないのよ?」



117: 2008/08/30(土) 01:04:27.58 ID:xEBfbyk60



「・・・・それは」


「あんたは足で服を作るの?」

「・・・・・!」



「・・・・・ばっかみたい。あんたもめぐも
 人間は諦めるのが得意ね。」


そう吐き捨てると、窓に向かって歩き
水銀燈は翼を広げて飛び立っていった






「・・・・あ。すみません!あの子・・・・」

水銀燈が去った後、ぽかんとしていためぐが
思い出したかのように口を開く

「・・・・・・うん。」

119: 2008/08/30(土) 01:09:17.62 ID:xEBfbyk60



「あ・・・でも、諦めないでください。両手は怪我がないんだし
 また服を作れるようになりますよ!」



めぐは自分でも
らしくないことを言っているな、と思った。

すでに生きることを諦めている自分がこんなこと言ったって説得力なんか
あるはずないのに

でも、義務感だか、なんだか分からないが、目の前の人の表情を見て
励まさなければいけない衝動に駆られたのだ


「だから・・・」

「ごめん。めぐちゃん。今日はもう帰ってもらえる?」


みつが苦々しい笑みで、めぐを見る。


120: 2008/08/30(土) 01:14:52.80 ID:xEBfbyk60

めぐがみつに出逢ったのは昨日。
それでも、めぐはみつに惹かれるものがあった

こんな顔をしてほしくないと思っていた


「・・・草笛さん。諦めないでください・・・」


「・・・・めぐちゃんには分からないよ。元気そうだもんね」

「・・・・・・・・・・・・・」


「でてって。」

「・・・・・・・・・失礼・・・しました。」



しょんぼりと、頭をさげて
めぐが416号室をでた。



121: 2008/08/30(土) 01:18:46.40 ID:xEBfbyk60



ひとりになった416号室。



みつが険しい表情で窓の外を眺め
ぶつぶつと独り言を言っている



「子供にはわからないわよ・・・・・
 単純じゃないのよ、大人の世界は。
 足手まといは切り捨てられるのよ・・・・」



言ってるうちになんだか虚しくなってきて

みつは、布団にもぐって、目を閉じた。



123: 2008/08/30(土) 01:24:56.25 ID:xEBfbyk60








―――――――――・・・・・・・数日後、桜田家ジュンの部屋。



「金糸雀。今日もお見舞い行かないのか?」

「・・・うん。」

「どうして?」

「みっちゃんが辛そうな顔するから・・・」


ジュンのベッドの上、壁の方を向いて、金糸雀が体育座りをしている
最近はご飯のとき、寝るとき以外は大抵こうしている。

ジュンは、金糸雀なら玉子焼きを与えていれば元気にしてるだろうと
楽観視していたが、こうまで元気がないとさすがに心配になる


みつのお見舞いにも、あれ以来一度もいっていない。

134: 2008/08/30(土) 01:33:20.52 ID:xEBfbyk60
構わず続けるね☆
透明あぼーん推奨☆

137: 2008/08/30(土) 01:34:50.82 ID:xEBfbyk60


「金糸雀、それは誰が行っても同じだわ。」

「そうですよぅ。翠星石が行ってあげた時もしょぼくれてたですよ!」

「・・・・・・でも・・・」

「・・・無理に行かなくてもいいんじゃないかな。
 みっちゃんさんも金糸雀のそんな顔見たくないと思うよ。」

「ヒナが代わりに行ってあげるのよー」


体育座りの金糸雀を真紅、翠星石、蒼星石、雛苺が囲んで
励ましている。


だが

「・・・・・・・・」

金糸雀は動こうとしない

139: 2008/08/30(土) 01:37:38.09 ID:xEBfbyk60


「むぅ、しかたねーです。ジュン、蒼星石。今日は私達が行くですよ」

「うん、そうだね、翠星石。」

「それじゃあ、いってくるぞ。金糸雀」


「・・・・・・はい、かしら。」



パタン、とジュンの部屋の扉が閉められる

部屋には真紅、雛苺
それに、涙目でうつむいている金糸雀が残された。



146: 2008/08/30(土) 01:48:50.32 ID:xEBfbyk60


「・・・カナは・・・みっちゃんに元気になってもらいたいかしら。」

「・・・私もよ。金糸雀。」

「ヒナもー」

「ねぇ真紅!どうしたらいいのかしら!?みっちゃんが元気になるためには!」

「そ、そんなこと急に言われても・・・」


「カナ!お見舞いといったら花束なのよ!
 これを見て可愛いお花をえらぶのよー」


雛苺が大きな本を抱えて、トコトコと歩いてくる。
金糸雀の前までくると座り、本を置いた。


「・・・植物図鑑・・・・?」

「・・・まぁ、たしかに。まだお花は贈ってないわね」

「・・・・・・」


149: 2008/08/30(土) 01:54:03.25 ID:xEBfbyk60

ぱらぱらとページをめくる。
色とりどりの花の名前。写真や花の説明、花言葉まで載っている。

「・・・う・・・うぇえん。どれにすればいいかわからないかしら~」

「ヒナはチューリップすきなのよ。」

「やっぱり薔薇だわ。」


「ん? ・・・・この花・・・」

金糸雀があるページでめくるのを止め、声を上げる。

「・・・これかしら!!」

「金糸雀!?」

図鑑を放り投げると
どたどたと階段を駆け下り、リビングに向かった


152: 2008/08/30(土) 01:58:00.28 ID:xEBfbyk60

「のり!!」

「はいっ!?」

ドアを開けるなり、大声でのりを呼びつける。
のりはお昼ご飯の片づけをしていた。

「近くに花畑はあるかしら!?」

「花畑!? え・・・っと・・・花畑とはいえないかも知れないけど
 病院の裏手に小さな公園があってね。そこに沢山お花が植えてあるわよぅ。」

ニコニコと返事を返す。

「・・・・あるかしら・・・。行ってみないとわからないわね!
 ちょっと出かけるかしらー!!」

「カナちゃん!?」


傘を握り締め、玄関を飛び出すと
金糸雀は全力で駆けていった。


http://rozeen.rdy.jp/up/vipww29013.jpg

155: 2008/08/30(土) 02:01:22.76 ID:xEBfbyk60

―――――――――・・・・・・




「ジュンー?早くいくですよー」

「ぜぇ・・・ぜぇ・・・」


有栖川大学病院が視界に入る距離にいながら
ジュンはベンチで一休みしていた。

両脇においたバスケットから翠星石が顔を出し、声をかけている。
蒼星石も、ひょこっと顔を出す


「翠星石。ジュン君は引きこもりなんだ。僕達二人を抱えて長距離を歩かせるなんて
 無茶だったんだよ」

「・・・・蒼星石。いいか僕は――――・・・」

「あ!」

翠星石が何かを閃いた!といわんばかりに手を叩き声を上げる。


159: 2008/08/30(土) 02:06:41.93 ID:xEBfbyk60


「・・・なんだよ?」

「心の樹ですよ!
 私の如雨露と蒼星石の鋏があればデカ人間を元気にするのなんて簡単ですぅ!」

「あ、そういえば忘れてたね、僕らの能力。」

「・・・その手があったなそういえば。 よし、じゃあ急ぐぞ!」


よっこいしょ、と爺くさい声を漏らして
ジュンが立ち上がり、駆けていく。

ゆれるバスケットからはキャーっと二人の声が聞こえていた。




161: 2008/08/30(土) 02:09:57.70 ID:xEBfbyk60

「こんにちわー」

416号室。
両手がふさがっているジュンは器用にひじを使って
スライド式のその扉を開ける。


「あら、ジュンジュン。今日は誰を連れてきたのかしら?」
にやりと微笑み、カメラを片手に取るみつ。


その瞬間

「先手必勝ですぅ!!」


翠星石がバスケットから飛び出し夢の扉を開く。
「えっ!?」
みつは短く悲鳴のように声を上げ、眠らされる。

翠星石は何事も無かったかのように、つかつかとみつに歩み寄っていった
蒼星石も苦笑いをしながら後に続く

「さ、いくですよ。蒼星石、チビ人間。」

「・・・・・まるで強盗だな。」


顔が引きつったまま、ジュンは夢の扉へ飛び込んでいった。

162: 2008/08/30(土) 02:10:28.61 ID:xEBfbyk60
>>160
wwwwwwwwwwww

163: 2008/08/30(土) 02:15:42.51 ID:xEBfbyk60






絵に描いたような空と雲が視界に広がる。
どうやらどんな人の夢も、大抵この背景らしい。


「これがデカ人間の心の樹です」

「これが!?」

ジュンの背丈より何倍も高い、葉の生い茂った
樹を指差して、翠星石が言う。

「僕のとは大違いじゃないか!?」

「あたりめーです。チビ人間のは特別チビ樹ですからね」

「・・・・・・・」

「落ち込まないでくださいジュン君。みつさんの樹は普通の人と比べても相当大きいです。
 この樹を見れば、あの人柄も納得できますよ」

「・・・そうなのか。」



167: 2008/08/30(土) 02:19:49.47 ID:xEBfbyk60


しょんぼりとするジュンを尻目に翠星石と蒼星石は淡々と準備を進める

「さ、早速はじめるですよ」

「まずは僕の鋏で余計な枝を・・・・・・?」

「どうした?蒼星石」


「いえ・・・・翠星石、あそこを。」

「どうしたっていうですか? あ!」

蒼星石が樹の上の方を指差す。
ジュンもその指の動きにつられて上を見る。

「あ。」
無意識に声がでた。



「枝が折れてる・・・・」



171: 2008/08/30(土) 02:23:46.56 ID:xEBfbyk60

「・・・・あれは・・・。心の一部を失ったことを意味しています。
 きっと・・・目標?・・・いや・・・夢を」

「だ・・・大丈夫なのか!?」
言葉に詰まりながら、蒼星石に聞く。

「これだけ大きな樹なら、樹自体はあの程度で駄目になることはありません。
 でも・・・アレだけぽっきりと折れてしまっては・・・
 もうあの枝は元には・・・・」

「・・・・あれが元に戻らないと・・・草笛さんは元気になれないのか?」

「いえ。みっちゃんさんなら、きっと他の枝葉を伸ばして立ち直れます。
 でも、きっと長い年月がかかるだろうし・・・それに」

「それに?」

「みっちゃんさんが望む自分、とは違う姿になってしまうと思います」

「・・・・・そんな・・・」


「・・・・・・しかたないことです。翠星石達にできるのは、邪魔な枝葉を切ることと
 心に養分を与えることだけです。
 ・・・・・・だから、翠星石は自分のできることを精一杯やるです。」



174: 2008/08/30(土) 02:26:40.62 ID:xEBfbyk60


険しい表情で、翠星石が歩み出る。
如雨露が瞬く間に光り輝く水でいっぱいになる



「デカ樹さん・・・翠星石にはこんなことしか出来ないですけど・・・頑張ってくださいです」

「・・・・・・・・・・・・」



翠星石が水をやっている間。
ジュンと蒼星石はずっとだまってその様子を見つめていた




176: 2008/08/30(土) 02:30:07.93 ID:xEBfbyk60



――――――――・・・・・有栖川大学病院裏。


「はぁはぁ・・・ここね!確かにお花いっぱいかしらー
 ここならきっとあの花もあるわね・・・」


病院の裏の薄暗い公園。
金糸雀が息を切らしながらたどり着く。

色とりどりの花が植えてあって、とても綺麗な場所だが
そこは夏だというのにどこかひんやりしていて、少し不気味な雰囲気が漂っていた

そのせいか、そこには誰も人がいなかった

「ちょっと怖いかしらー・・・」

「・・・・金糸雀?」

「ぴゃあ!!」


飛び上がる。
恐る恐る声のしたほうを見ると

「水銀燈!?」

177: 2008/08/30(土) 02:32:36.91 ID:xEBfbyk60

「あんたよく会うわねぇ・・・何してるのよこんな所で」

「・・・・・水銀燈には関係ないかしら!!どっかいってー!かしら!!」

「・・・・・・ほんっと・・・むかつくわねぇ・・・ 
 少し痛い目に遭わないと分からないのかしら・・・」

「!!」


ゴオっと突風が吹き、漆黒の羽が舞う。
水銀燈が翼を大きく広げ、威嚇している。

「ひ・・・ひえぇぇ・・・」

「・・・・ぷっ・・・もう駄目になっちゃったのぉ?
 ミーディアム同様。ほんと駄目ね、貴女って。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・今、なんていったかしら?」

「え!? きゃっ!!?」


178: 2008/08/30(土) 02:35:41.79 ID:xEBfbyk60

バチィンッ

と激しい炸裂音がして、水銀燈がひるむ、
金糸雀がバイオリンを出現させ、水銀燈の羽根を弾き返したのだ


その衝撃で、地面はえぐれ、花吹雪が舞っている


「みっちゃんをバカにするのだけは・・・許せないかしら」


「・・・・・・・へぇ・・・」

金糸雀の目に怒りと敵意が宿っている。
それを見て、水銀燈も本格的に臨戦態勢に入る。

「!!!」

ドンッと爆発音にも似た音が鳴り響き、二人が激突する
金糸雀が弓を弦に触れさせたのがスタートの合図となった


水銀燈が金糸雀の胸倉をつかむ、が
すかさず金糸雀がバイオリンを鳴らし、水銀燈を弾く

大きく旋回し、体勢を立て直す


180: 2008/08/30(土) 02:42:09.37 ID:xEBfbyk60

「ちっ!!あのミーディアムみたいに、ジャンクになりなさいよぉ!!」

水銀燈の羽が打ち出される

ドドドドドドドドドっとマシンガンを打ったかの様な音と共に
地面が土煙を上げる。それに伴って、植えてある花達が散り、花吹雪が舞う


「みっちゃんは・・・!!必氏で戦ってるかしら!!
 それをバカにするのは・・・氏んでも許さないかしらー!!」

金糸雀も全力で弦を鳴らす。
飛んでくる羽を打ち落としつつ、水銀燈に向かって音の弾丸を飛ばす。


その時

「あ!!」

花が目に入った。
図鑑に載っていた、金糸雀が捜していた花だった

ドドドドドドドドドっと破壊がその花の近くまで迫っていた



181: 2008/08/30(土) 02:47:16.67 ID:xEBfbyk60

あーーーー!!危ないかしら!!」

飛び込み、その花の上に覆いかぶさる


「はっ!おばかさぁん!!」

「ううっ!」

羽が背中を傷つける。
しかし、避けるわけにはいかない。
ここをどいては、お見舞いの花が駄目になってしまう

水銀燈の攻撃は続く。


182: 2008/08/30(土) 02:49:46.84 ID:xEBfbyk60

「・・・・っち・・・しぶといわね・・・・
 ・・・・・・・(これ以上やったらめぐが・・・)」


「うぅ・・・・ あ!!」
急に攻撃が止み、疑問に思った金糸雀が顔を上げる


「ばいばぁい」

「・・・こらー!!水銀燈!逃げるのかしらー!!」


返事を返すことなく、水銀燈は左手をひらひら振って、空へ飛んでいってしまった

「・・いたたたた・・やれやれかしら・・・・・・・あ!!」


183: 2008/08/30(土) 02:51:19.94 ID:xEBfbyk60



戦場の跡。
ここに花畑が在ったと言って、誰が信じるだろうか

地面にできた無数のクレーター。
無残に散った花びら


「ああ・・・・あああああ・・・・・」
膝を突いて、金糸雀が頭を抱える。

「みっちゃんの・・・お見舞いのお花がぁ・・・・」


金糸雀の体の下にあった花も、ぐしゃぐしゃになって、散ってしまっていた

「う・・・うぅ・・・・」

ボロボロと涙が零れ落ちる。
不甲斐なかった。
自分のマスターが苦しんでいるのに、自分は花の一つも届けてあげることができないなんて

いっそのこと野良乙女に成り下がってしまおうかと、考えた


その時


190: 2008/08/30(土) 03:01:14.28 ID:xEBfbyk60


「あ!」


一瞬見えた、黄色い花びら。


「あ!あ!あー!!」

四つん這いでその位置まで這っていく



「・・・あ・・・あったかしらー!!!」

少し離れたところ、図鑑に載っていた花は
奇跡的に、戦闘に巻き込まれることなく、綺麗に花を咲かせていた


「お花さん。ちょっと失礼するかしら。」

話しかけながら
地面に群生するその花を数本摘む。

「・・・えへへ。これでみっちゃんも元気になるか・・・・し・・・・ら・・・?」

 あれ・・・?」


193: 2008/08/30(土) 03:10:27.35 ID:xEBfbyk60
ギッギッと体の動きが鈍くなる。
螺子が切れかけている

「(水銀燈との戦いで力を使いすぎたせいかしら・・・!)
 びょ・・・い・・・ん・・・すぐ・・・そこ・・・なのに・・・」


ギッ・・・ギッ・・・と動きが更に鈍くなる。

「みっ・・・ちゃ・・・・ん・・・・」


花を握ったまま金糸雀が地面に倒れた。









「・・・・・・・・・・・・・・・はぁ。」

「・・・・・・・・・・」

「・・・ちっ。」

バサッと羽ばたく音。
薄暗い公園、金糸雀の上に更に濃い影が落ちた

194: 2008/08/30(土) 03:17:52.32 ID:xEBfbyk60






「・・・・・・・とりあえず、おわりですぅ」

水を出し切った如雨露をスィドリームに収め
翠星石がふぅ、とため息をつく

「お疲れ様。翠星石。」

「・・・・・・大丈夫かな・・・草笛さん。」

「・・・あとはデカ人間が頑張るしかないです・・・・
 ・・・・さ!帰るですよ」


渦を巻く夢の扉に翠星石が飛び込んでいく
それにジュンが蒼星石と共に続く


ジュンの視界に白い床が飛び込んできた。

「!・・・・っとっと・・・」

よろよろとふらつきながらも
なんとかうまく着地する。

195: 2008/08/30(土) 03:23:19.42 ID:xEBfbyk60

「・・・みっちゃんさん。まだ寝てますね。」

「すぐ起きるですよ。あせらず待つです、蒼星石。
 林檎でもむいておくです・・・・って・・・チビ人間。林檎は?」

「あ・・・・・・」

「~~~~!なんて気の利かない人間ですか!!さっさととってくるです!」

「翠星石!いいよ。僕が行ってくる。」

「蒼星石・・・」

にっこりと微笑んで、蒼星石が病室の鏡に飛び込んでいく。
翠星石はじとーっとジュンを睨みつける

「ほんと・・・私の偉い偉い妹に感謝するです!!」

「・・・・く・・・この・・」



コンコン

窓を叩く音がした。

「? 水銀燈!?」

197: 2008/08/30(土) 03:29:52.98 ID:xEBfbyk60

「はぁい。ぞろぞろと群れちゃって。お見舞い?」

窓を開けて水銀燈が室内に入る。

「何しに来たですか!!・・・!! 金糸雀!?」

水銀燈が片手に金糸雀を抱いている。
その金糸雀はぐったりとして、動かない

「水銀燈!金糸雀に何をした!?」


「うるさいわねぇ・・・喧嘩しかけてきたのはこいつよぉ。
 ただ螺子が切れて止まってるだけだから、安心しなさい」

「・・・なんで・・・ローザミスティカを奪わなかったですか・・・」

「・・・ふん。」

ぽいっと金糸雀をみつのベッドに投げ捨てる。
「うっ!!」
と声を上げて、みつが目を覚ました


199: 2008/08/30(土) 03:34:50.06 ID:xEBfbyk60

「・・・気分じゃなかっただけよぉ・・・
 それに、私の昼寝場所で倒れられると困るからここに持ってきただけ
 深い意味はないわ・・・・それじゃ」

「あ・・・水銀燈」


開けた窓から、再び外へ飛び出る。
水銀燈はそのまま下のほうへ飛んでいってしまった



「・・・う・・・ってててて・・・カナ!?どうしたの!?」

「あ・・・安心してください。螺子が切れてるだけです」


ジュンがみつを落ち着かせる。
金糸雀に目をやると、体中ボロボロで泥だらけだった

「・・・こんなになるまで何やってるんだか・・・こいつは」

ジュンがため息をついて、ベッドの横の椅子に座る。


202: 2008/08/30(土) 03:40:06.65 ID:xEBfbyk60

「ん?何か持ってるぞ」

「え?」

金糸雀が花を握り締めている
翠星石はそれに気づくとぴょんっとベッドに飛び乗った

「・・・この花は・・・」





黄色い花弁の花。
それは窓から入る太陽の光で透けて
黄金に輝いているようにも見えた。

「・・・・お見舞いのつもりか・・・?泥だらけだぞ、この花」
ジュンがまじまじと花を見ながらこぼす

「ねぇ、翠星石ちゃん。この花何ていうの?」

みつが聞く。

翠星石は金糸雀の手から、そっとその花をとって
口を開いた

204: 2008/08/30(土) 03:47:01.45 ID:xEBfbyk60

「・・・・この花の名は 『金糸梅』。
 おしべが金色の糸のように見えて、梅のように5枚花弁があることから
 この名が付けられたと言われています。」

「『金糸梅』?」

「・・・・金糸雀のやつ、自分と名前が似てるってだけでこの花持ってきたんじゃないだろうな
 単純すぎるぞ・・・」

呆れたようにジュンが言う。
みつは、ふふふ、と笑って、止まっている金糸雀の頭を撫でる

「いえ・・・たぶん、それだけじゃないです。」

「?」

「金糸梅の花言葉は・・・・・


 ・・・・・・・ 『悲しみを止める』。」


「・・・え・・・?」

「デカ人間・・・これは金糸雀の気持ちそのものです。
 金糸雀はデカ人間に元気なってもらいたかったんです。」

「・・・・・・・!」

205: 2008/08/30(土) 03:54:46.08 ID:xEBfbyk60

そっと、翠星石が金糸梅をみつに手渡す

「・・・・・カナ・・・・」

眠ったようにしている金糸雀の顔には泥がついている。


「・・・・・・・足が無くなったって、デカ人間を支えてくれる人は沢山いるです。
 ・・・・必氏に思ってくれる人はちゃんといるですよ
 金糸雀はこんなにボロボロになってまでデカ人間のためにこの花をとってきたです
 ・・・金糸雀の気持ちを・・・わかってやってほしいです」


「・・・・翠星石ちゃん・・・」

「・・・・・それじゃ、翠星石は金糸雀のゼンマイを取りに帰るです!
 チビ人間!デカ人間をよろしくです」


「お、おう」

「・・・・・・・・・」


ぴょんっと翠星石も鏡の中に飛び込んでいく
病室にはジュンとみつ、動かない金糸雀が残された



207: 2008/08/30(土) 04:01:31.65 ID:xEBfbyk60

沈黙。
みつはだまって微笑んだまま金糸雀の頭を撫でている

「・・・ジュンジュン」

「はい。」

唐突に、みつが口を開いた

「このお花、花瓶に生けて。」

「あ、はい。」
せっせとその黄色い花を花瓶に生ける。
「ん。」とみつが笑顔でうなずき、話し始める。

「私ね・・・・この事故のせいで、たぶん仕事は辞めなくちゃいけなくなるとおもう」

「・・・・・・・そう、ですか」

「だからね!今思いついたんだけど、独立しちゃおっかなぁなんて!」

「・・・・・・はい?」

「保険とか慰謝料とかで腐るほどお金があるし、幸い、私が独立するときはついていきます
 って言ってくれる後輩もいるし」

「・・・・・・ほ、本気ですか・・・?」

ジュンはポカンとしている

209: 2008/08/30(土) 04:06:24.71 ID:xEBfbyk60

「・・・私どうにかしてたわ。前にも言われたのよね。
 『足がなくなったからなに?あんたは服を足で作るの?』って」

「・・・強烈ですね。」

「・・・・でも、ほんとに。無くなったのが足でよかった。
 もし、無くなったのがこの、両手だったら・・・私はきっと氏んでる」

「・・・・・・・・・・」

「・・・私さ、今の会社入って、5キロ痩せたのよ」

「・・・は?」

「それだけきつかったってこと。精神的にね。
 でも・・・カナが来てから、頑張れるようになった。
 カナは・・・・・・私を支えてくれる、大切な家族よ。


 カナがいてくれれば、私は頑張れる。
 忘れてたわ、マイナスにマイナスにばかり考えて」


「草笛さん・・・」


210: 2008/08/30(土) 04:11:19.92 ID:xEBfbyk60

二カッと歯を見せて、みつが大きく笑う




「足が無いからなんだっての!
 布と、糸と、針と。この両手があれば、そこが私のメゾンよ!」





眩しい

ジュンは思った。
前までの、輝いてるみつだ


なんだか、無性に嬉しくて、笑みがこぼれる

「・・・・・・・そんなに世間は甘くないぞ?
 あの腕前じゃあ・・・・」


211: 2008/08/30(土) 04:18:03.60 ID:xEBfbyk60

にやにやと意地悪な笑みを浮かべてジュンがみつを見る
みつは顔を赤くして

「~~~!!これからすぐに上達するから!今インスピレーションが凄い湧いてきてるの!
 ・・・・・・それに~・・・ジュンジュンにも手伝ってもらうつもりだし~」

「!? なっ・・!?誰が・・・」

「はぁー、開店が楽しみだわ。天才ジュンジュンとのコラボ・・・」

「勝手に決めるなー!!」



みつの横。
花瓶飾られた金糸梅は、キラキラと小さな太陽のように輝いていた

212: 2008/08/30(土) 04:23:36.58 ID:xEBfbyk60





有栖川大学病院。
316号室。


めぐが体を起こして、ぼんやりと外を眺めている
リンリンと鈴虫が泣いていて、心地のいい涼しさの夜だ


「ねぇ、水銀燈。私ね、草笛さんに、こんな風になっても生きたいと思う?って聞いたの」

「・・・・・・・・・・」
水銀燈は窓の外。
そこにいることを教えたわけではないが、めぐは平然と水銀燈に話しかけた


「・・・なんでだろうね。仲間を探したかったのかな」

「めぐ・・・」

「水銀燈。早く私の命を使い切って。このまま生きていてもしょうがないわ」

「・・・・・・・・・・」



214: 2008/08/30(土) 04:28:52.04 ID:xEBfbyk60

コンコン。
ノックの音

「こんばんわー」
みつが入ってきた。

「あ・・・草笛さん・・・」

「驚いたー?これ、ちょっと前から練習しだしたんだ、車椅子。
 これなら来週には退院できるかもって」

「そうですか・・・」


「・・・・この前はゴメンね。私なんかおかしかったみたいで・・・」
みつが苦笑いを浮かべながら頭を掻く

「いえ・・・こちらこそ」

「・・・・・めぐちゃん、幻肢痛って知ってる?」

「? いえ?」

「私が毎晩悩まされていたアレ。 あるはずのない足が痛むの。
 脳が、心が、失ってしまったことを認めてしまいたくなくて起こる痛み」

「・・・・・・・・・・」


215: 2008/08/30(土) 04:34:20.47 ID:xEBfbyk60

「でもね、もうピタッと痛まなくなったんだ。」

「え?」

「事故にあって、職場から切り捨てられて自分は一人だって思ってた。

 でも、私の周りには支えてくれる人が沢山いた。
 失った足を補って余りあるほど、私は沢山のものを貰った

 だから、怖くなくなった。足がなくなったってことを受け入れられるようになったの。

 ・・・・・・・・感謝してもしたりないわ。ほんと・・・・」


「・・・・・・草笛さん・・・」

「めぐちゃんにもね。」

「!!?」

「励ましてくれて、ほんっとありがとう!あの時はあんな態度とっちゃったけど
 本当に嬉しかった・・・・・・
 それを・・・それだけは言いたくて・・・・」

「・・・いえ・・・私は・・・」

何故か涙が出てきた。
こんなに誰かから感謝されたことなんてあっただろうか
顔を見られたくなくて、めぐは俯く

217: 2008/08/30(土) 04:40:55.99 ID:xEBfbyk60
「・・・・・私ね、今の会社辞めて、独立しようかと思って。」

「え!?」

「水銀燈ちゃんの言うとおりよね。足が無くても手があれば服は作れる」

「・・・・・・」
めぐもジュン同様、ポカンとしている

「水銀燈ちゃんのドレスも作ってプレゼントしてあげるから!お店来てね?」

「え・・・あ・・・」

「来てくれたら、めぐちゃんのウェディングドレス、全力でサービスして作るわ!!」

「ウェ・・・ウェディングドレス!?」

「めぐちゃん可愛いから、きっとどんなドレスも似合うわよ!!どんな男もイチコロよ!!」

「そ・・・そんな・・・」

鼻息を荒くして、みつが拳を握る
めぐは顔を赤くしている

「あはは。めぐちゃん可愛いー!顔真っ赤!」

「・・・・・!!」

「あはははは・・・あー・・・夜中に騒がしくしてゴメンね。
 そろそろ戻るね。」

219: 2008/08/30(土) 04:45:11.68 ID:xEBfbyk60

「あ・・・・・」

「水銀燈ちゃんにもよろしく言っておいて。」

みつがドアに手をかける
すると、何かを思い出したかのように首を回してめぐを見た


「あれ?めぐちゃんは何で入院してるんだっけ?」

「・・・・・・・!!」




224: 2008/08/30(土) 05:02:19.69 ID:xEBfbyk60
窓の外の水銀燈もピクッと反応する
めぐは布団をぎゅうっと握り



「・・・・・ただの夏風邪です。ちょっとこじらせちゃって」


にっこりと笑って答えた。
立ち上がろうとしていた水銀燈がピタッと止まる

「・・・・そう。お大事にね。お見舞いちょくちょく来るから」

「いえ・・・」

「?」

「次に草笛さんに会うのは・・・水銀燈のドレスが出来てからです
 ドレスを取りに・・・水銀燈とお店にうかがいます」


再び笑顔。
つられて、みつもにっこりと笑う。


「そう。じゃあ・・・それまで」

「はい。・・・おやすみなさい」

みつは軽く手を振って316号室を後にした。

226: 2008/08/30(土) 05:08:10.42 ID:xEBfbyk60






「・・・・・・・水銀燈。」

「・・・・・・・・・・・・・・」

「やっぱり・・・もうちょっとだけ、私の命使うの待ってくれる?」

「・・・・・・・・・・・どうしたの?急に」



「・・・あと少しだけ、頑張って生きて、あの人に素敵なドレスを作ってもらいたい。
 もう一度会って、こうやって、話したい。それだけ。」


「・・・・・・・・・」

水銀燈が窓からひょこっと顔を出す
めぐは

嬉しそうに微笑んでいた。




228: 2008/08/30(土) 05:12:40.74 ID:xEBfbyk60






「・・・・・・あったです。」


夢の世界。
翠星石がみつの樹の前で立ち止まる。

深夜、もうみんな寝静まった頃
みつの夢の中に一人入り込んでいた


「心優しい翠星石がこれからちょくちょくお水をあげるです
 感謝するですデカ人間」

如雨露を出現させ、水を与える


「・・・ん?あれ?」

見上げる、そこには

230: 2008/08/30(土) 05:16:20.34 ID:xEBfbyk60

「枝が・・・また生え始めてるです・・・・」

折れた枝のすぐ傍から、小さな枝が力強く伸びようとしている


「・・・ほんとに強い樹ですね・・・翠星石いらずですぅ」
にんまりと笑って、腰を下ろす。


樹の根元には、黄色い花が樹を支えるように咲いていた


231: 2008/08/30(土) 05:19:57.60 ID:xEBfbyk60




数週間後。

「ヒナがフルーツを持つのよ」

「大丈夫?雛苺。」

「チビチビに持たせるとつまみ食いするですからね」

「ジュン。こんなに大勢で行ったら迷惑じゃなくって?」

「いいんだよ。というより草笛さんならむしろ喜ぶ」

「そうよぅ。それに、ようやく退院なんだから賑やかにしなきゃ」




ぞろぞろと桜田家一行が鏡の部屋に入る。

232: 2008/08/30(土) 05:22:17.68 ID:xEBfbyk60


今日はみつの退院の日。
待ちに待った日だ

「うぅ~・・・」

「金糸雀?何やってるんだ?」

「どのドレスにしようか・・・まよって・・・・」

「どれでもいいだろ、ほら、いくぞ」


金糸雀を手を引っ張って、ジュンが鏡に入った。




234: 2008/08/30(土) 05:26:46.75 ID:xEBfbyk60

――――――――・・・・・・有栖川大学病院


みつが車椅子の上できゅっと黒い髪を縛る。
「よし・・・・」
準備は万端。

医者が治りの早さに驚いていた。

金糸雀は何も言わなかったが、きっと力を逆に送って
怪我の治りを早めてくれていたんだろう

まだ度々、通院することになるだろうけど
とりあえずは退院。

草笛みつの新しいスタートだ


「・・・・これから忙しくなるわよー!」
ひとりでガッツポーズをした

その瞬間

ドタドタドタドタッ

「うぇ!!?」


235: 2008/08/30(土) 05:31:27.58 ID:xEBfbyk60


「~~~~~~っ!!いったーーーかしら!!」

「おまえら~~・・・同時に鏡に入るな!!詰まったじゃないか!!」

「うるせーです!おまえがチビのくせに面積とりすぎなのです!」

「リボンがみだれたわ」

「あー!!林檎が・・・林檎がつぶれちゃったのー!!」

「あてて・・・あ。草笛さん。退院おめでとうございますぅ」


「ジュンジュン!?カナ!?」

もみくちゃの団子状態になった桜田家一行が病室の小さな鏡から飛び出してきた。
痛そうな音がしたが、どうやら元気そうだ

「退院祝いに来ました・・・。」

「みんな・・・・ぷっ・・・あはは。ありがと」

「笑うなですー!!」



236: 2008/08/30(土) 05:35:49.54 ID:xEBfbyk60




「みっちゃん・・・」

「! カナ。」

「・・・・・・・」

もじもじとする金糸雀の手には、束になった金糸梅が
日の光を浴びて金色に輝いている


みつがにっこりと笑って、両手を大きく広げる

「――――――ただいま!カナ!」








http://rozeen.rdy.jp/up/vipww29015.jpg

238: 2008/08/30(土) 05:38:41.71 ID:xEBfbyk60
――――――――――――・・・・・・・・・・

とあるドレスショップ。

「店長ー。柿崎さんからお電話ありましたよー
 午後からドレス取りに来ますってー」

若い女の店員が大声で叫ぶ
すると、奥から返事が返ってくる。

「はーい。わかりましたー」

「店長。そこ、ずれてる」

「・・・うっ・・・やっぱりジュンジュンは厳しいわね・・・」

「プロですからね」

「・・・めぐちゃんも結婚かぁ・・・うふふ・・・」

「・・・店長はいき遅れちゃいましたね・・・あ、またずれた」

「・・・・・・・・・!!・・・・・・ジュンジュン減給するわよ」

「!!?」


これはもう少し、先のお話・・・・。

                            おしまい。

242: 2008/08/30(土) 05:45:14.14 ID:OjeCOoqk0
おつかれかしらー!
おもしろかったかしらー!!

245: 2008/08/30(土) 06:00:42.52 ID:xEBfbyk60
>>239
ありがとう
なによりです

>>240
ありがとー^p^
あうあうあー

>>241
ローゼンのSSは面白いの多いからお勧めするよ
挿絵はリアルタイムで描いてるのよ
だから投下が遅いの

>>242
ありがとうかしら

>>243
もう欝は絶対かかねーと決意した 最近。


もう、ネタないし

しばらく書かないと思うけど・・・・
いままでありがとう

おやすみ^p^

引用: ローゼンメイデン 「金糸雀アンチお断り」