1: 2014/01/13(月) 21:24:32 ID:xFNGVqDA

男「なあ。俺、ずっと気になってることがあるんだけどさ」

男友「おう」

男「パスタとスパゲッティの違いってなんなの?」

男友「は?」

男「いや、だからさ、パスタとスパゲッティてさ、別物なの?」

男「別物だとしたらどういう関係なの?」

男「異母兄弟とかなの?」

男「それとも本名と偽名みたいな感じなの?」

男友「知らんがな」
ふらいんぐうぃっち(13) (週刊少年マガジンコミックス)

2: 2014/01/13(月) 21:25:14 ID:xFNGVqDA

男「知らんがなって、お前は気にならないの?」

男友「べつにどうでもいいと思うんだけど」

男「俺は気になって仕方ないよ」

男「授業中もずっとパスタとスパゲッティについて考えてる」

男「気になって授業中は眠れないし、夜も7時間しか眠れない」

男友「恋じゃね?」

男「お前阿呆なんじゃねえの?」

男友「お前に言われるとすげえ腹立つわあ」

3: 2014/01/13(月) 21:26:30 ID:xFNGVqDA

男友「でもお前、考えてみろよ」

男「なにが」

男友「パスタちゃんとスパゲッティちゃんって名前の女の子がいたとしよう」

男「うん……うん?」

男友「パスタってなんかかわいい感じがする名前だから」

男友「たぶんパスタちゃんは清楚でおっとりした女の子だ」

男「なんとなく分かる」

4: 2014/01/13(月) 21:27:20 ID:xFNGVqDA

男友「スパゲッティちゃんは多分」

男友「普段はキリッとしてるように見えるけど、褒められたら素直に喜んじゃうような女の子だ」

男「なんとなく分かる」

男友「ここでパスタとスパゲッティの事を考えてみよう」

男「おう」

男友「ほら。やっぱり恋だ」

男「ごめん。ちょっと分からない」

5: 2014/01/13(月) 21:28:48 ID:xFNGVqDA

男友「この浮気野郎が!」

男「マックでいきなりそういうこと大声で言うのやめろよ」

男友「ミスドならいいのか? スタバならいいのか? お?」

男「ほら、ハッピーセットのおもちゃ持った子がめっちゃこっち見てるじゃねえか」

男友「知るか!!!」

男「そもそもなんで浮気野郎になるんだよ」

男友「なにがパスタちゃんとスパゲッティちゃんだよ!」

男「お前が言ったんだろうが」

6: 2014/01/13(月) 21:29:46 ID:xFNGVqDA

男友「お前には幼馴染ちゃんがいるというのに!」

男「ああ、うん。そうだね」

男友「ぬあああああ! その余裕が苛つく!」

男「でも俺とあいつは付き合ってるわけじゃないし」

男友「じゃあ俺が幼馴染ちゃんを抱くって言ったらお前どうすんの?」

男友「どうすんの? んあ?」ワキワキ

男「冗談でもそんなこと言うな。頃すぞ」

男友「あ、はい。ごめんなさい」

7: 2014/01/13(月) 21:31:18 ID:xFNGVqDA

男「お前さあ、言っていいことと悪いことがあるだろ?」

男「な? 俺の言ってることの意味分かる? ぢゅのうわらいみーん?」

男友「ま、まあポテトでも食って落ち着けって」スッ

男「……」モキュモキュ

男友「……」

男友「あのさ」

男「……なに」

男友「付き合ってないってほんとうなの?」

男「多分」

男友「多分ってなんだよ」

8: 2014/01/13(月) 21:32:14 ID:xFNGVqDA

男「付き合ってるってどういう状態の事をいうんだ」

男友「お前ら昔からずっとべたべたしてるじゃねえか」

男友「S極とN極かよってくらいくっついてるじゃねえか」

男友「たまにお弁当持ってきてもらったりしてるじゃん。超うらやましい」

男「うん、まあ、そうだな」

男友「どう見ても付き合ってるじゃん。いつまでも新婚夫婦じゃん」

男「でも告白とかしたわけじゃないし」

9: 2014/01/13(月) 21:32:56 ID:xFNGVqDA

男友「嘘つけ。お前らのことだから、どうせちっちゃい頃から」

男友「『ぼく、おさななじみちゃんとけっこんするー』とか」

男友「『わたしもおとこくんとけっこんするー』みたいな事やってたんだろ?」

男「まあ、何回かはしたよ」

男友「鼻の穴にカリカリのポテト突っ込んでやろうか? んのおああああ?」

男「なんでそんなに怒ってんの?」

10: 2014/01/13(月) 21:34:09 ID:xFNGVqDA

男友「どうせ俺はお前とは違ってひとりだよぉ……孤独氏だよぉ……」グズグズ

男「ああ、そういうこと……。まあ、その、なんだ。元気だせよ」

男「俺がいるだろ。な。そういうことにしておこうぜ」

男友「男……」

男「ほら、ティッシュ」

男友「さんきゅ」チーン

11: 2014/01/13(月) 21:35:02 ID:xFNGVqDA

男友「それでさ」

男「うん」

男友「結局、どうして俺は呼ばれたわけ?」

男「相談事があって」

男友「幼馴染ちゃんに言えばいいじゃん」

男「それじゃあ意味がない」

男友「なに、相談事って幼馴染ちゃんの事?」

男「まあね」

男友「なになに。おじさんに話してご覧なさいな」

男「……」

男友「はよ」

男「……明日、あいつと一緒に水族館に行くんだけどさ」

男友「うん……うん?」

12: 2014/01/13(月) 21:36:29 ID:xFNGVqDA

男友「なんて?」

男「水族館に行く」

男友「誰と?」

男「幼馴染と」

男友「デートじゃねえか。ラブラブチュッチュベロベロ自慢かよ」

男「そう。デートなんだけどさ、こういうのはじめてだからよく分かんないんだ」

男友「はじめてって、なにが」

男「あいつとふたりきりで遠出するの」

男友「今までデートしたことないってか? 嘘だろ?」

男友「お前ピノキオだったら今のでブラジルくらいまで鼻伸びてるところだぞ?」

男「嘘じゃねえよ。見てみろ俺のイノセントな目を。ビーディ・アイだ」

13: 2014/01/13(月) 21:37:33 ID:xFNGVqDA

男友「なんだ、そのデートの約束は幼馴染ちゃんから言ってきたのか?」

男「いや、俺が言った」

男友「なんの考えもなしに言ったのか?」

男「まあ、そういうことになっちゃうかな。俺はただ海月が見たいと思っただけなんだ」

男友「くらげ? なんで? お前ってたまにわけ分かんないとこあるよな」

男「ほら、俺って海月好きじゃん?」

男友「知らんがな。はじめて聞いたわ」

14: 2014/01/13(月) 21:39:05 ID:xFNGVqDA

男友「べつに幼馴染ちゃん誘わなくても海月なんかひとりで見に行けばいいじゃん」

男「ひとりで水族館行くのって恥ずかしいじゃん」

男友「だったら俺を連れて行けばいいだろ」

男「やだよ。恥ずかしいわ」

男友「うわあ。俺ちょっと傷ついたかも」

男「べつにお前と歩くのが恥ずかしいわけじゃなくてだな」

男「お前に『水族館行こうぜー!』って言うのが恥ずかしいんだよ」

男友「ああ、そういう事ね。ちょっと救われた気分」

15: 2014/01/13(月) 21:40:03 ID:xFNGVqDA

男友「要は、結果的にデートすることになったけど」

男友「具体的にどうすればいいのかが分からない」

男友「それでどうすれば幼馴染ちゃんとチュッチュベロベロできるかを訊きたいと」

男「うん……うん? まあ、多分そういうことになるんだと思う。結果的には」

男友「お前さあ」

男友「人を見る目がないよなあ」

男「なにが?」

男友「ふつうさ、ヤマダ電機にチョコパイ買いに行かないじゃん?」

男「なに言ってんの?」

16: 2014/01/13(月) 21:41:07 ID:xFNGVqDA

男友「お前がロッテで、俺がヤマダ電機だったらさ」

男友「お前はわざわざヤマダ電機にチョコパイ買いに行かないだろ?」

男「なにいってだこいつ」

男友「ヤマダ電機にチョコパイ置いてないじゃん?」

男友「でもロッテはチョコパイ持ってるじゃん?」

男「俺にも分かるように言ってくれない?」

17: 2014/01/13(月) 21:41:50 ID:xFNGVqDA

男友「俺って女の子の友だちいないじゃん?」

男友「でもお前にはいるじゃん?」

男友「つまり、俺に恋愛の相談をするのは間違ってると思うわけ」

男友「人選ミスだろ! ばーか! って言いたいわけよ」

男「……」

男「……」

男「……たしかに」

男友「分かってたんだけどすっげえむかつく」

18: 2014/01/13(月) 21:42:58 ID:xFNGVqDA

男「だったらどうすりゃいいんだよ。お前以外に頼れる奴はいないんだよ」

男友「お前らなら大丈夫だって」

男友「どうせ流れでうまく行くに決まってんだ、どうせ……」

男「そうかな」

男友「幼馴染ちゃんってちょっとぼけっとしてるから」

男友「ふらふらとどっかに行っちまわないように手え繋いでたらいいんだよ」

男「分かった」

19: 2014/01/13(月) 21:44:22 ID:xFNGVqDA

男友「あれだな。幼馴染ちゃんはパスタちゃんにぴったりのイメージだ」

男「そんな気がする」

男友「スパゲッティちゃんはあれだ。いっつも幼馴染ちゃんの隣にいる子」

男「幼友か?」

男友「なに? お前その子とも仲いいの?」

男「まあ、それなりに?」

男友「……神様ってさ」

男「うん?」

男友「気まぐれで理不尽で、不平等だよな」

男「いきなりどうした。なに悟ってんだよ」

20: 2014/01/13(月) 21:45:47 ID:xFNGVqDA
たぶん続くと思う

23: 2014/01/14(火) 21:05:28 ID:P1wGhclU



幼馴染「やばいよ……やばいよ……これリアルなやつだよ……」

幼友「あんまり似てないね」

幼馴染「も、モノマネじゃないよ」

幼友「じゃあ何なのさ」

幼馴染「あのね、今日、男にね……」

幼馴染「……」

幼馴染「むふふふふ」ニヨニヨ

幼友「嬉しそうだね」

24: 2014/01/14(火) 21:06:10 ID:P1wGhclU

幼友「それで、愛しの男くんがどうしたの」

幼馴染「デートに誘われたの」ニヨニヨ

幼友「おおー。おめでとう。わたしはうれしいよ」

幼馴染「わたしもうれしい。爆発しそう」

幼友「爆散するにはまだ早いよ。デートって、どこ行くの?」

幼馴染「たぶん、水族館」

幼友「たぶん?」

幼馴染「『明日、いっしょに海月を見にいこう』って言ってたから、たぶん水族館だと思う」

幼友「くらげ。なんで海月?」

幼馴染「男は海月が好きなんだよ? 知らない?」

幼友「男くんのことは世間一般の常識みたいに言われてもそんなん知らんがな」

25: 2014/01/14(火) 21:07:40 ID:P1wGhclU

幼友「それで?」

幼馴染「それで、といいますと」

幼友「まさかその報告のためだけにわたしを呼んだんじゃないよね」

幼馴染「うん」

幼馴染「初デートだし、どんな服を着ていけばいいのかなあ、と思って」

幼友「それでわたしを呼んじゃったの? 人選ミスじゃない?」

幼馴染「幼友ちゃんしか頼れる人はいないんだよ!」

幼友「そ、そこまで言うのなら……」

26: 2014/01/14(火) 21:09:03 ID:P1wGhclU

幼馴染「どんな服がいいと思う?」

幼友「どんな服って、べつにいつも通りでいいんじゃないかなあ……」

幼馴染「『こいついつも通りじゃん俺のこと好きじゃないのかなあ誘わなきゃよかった』って思われたらどうするの?」

幼友「いや、そこまで心配しなくても大丈夫でしょ」

幼馴染「大丈夫かなあ……」

幼友「あんたはいつもみたいにゆるゆるふわふわした服を着ていけばいいんだよ」

幼友「それがかわいいし、あんたらしいと思うけど」

27: 2014/01/14(火) 21:09:42 ID:P1wGhclU

幼友「でも下着はいつもよりかわいいやつにしておいたほうがいいかもしれない。うん、多分」

幼馴染「わ、分かった」

幼馴染「……いつもよりかわいいやつって、どんなやつ?」

幼友「どんなって、男くんがよろこびそうなやつ?」

幼馴染「ぶふぉ」

幼馴染「く、海月みたいな?」

幼友「どんな下着だよ」

28: 2014/01/14(火) 21:11:09 ID:P1wGhclU

幼友「……それにしても、出会って16年目にして初デートとは」

幼馴染「いや、生まれた瞬間に出会ったわけではないからね?」

幼友「似たようなもんでしょ」

幼馴染「……まあ、そうかなあ?」

幼友「……」

幼馴染「……」

幼馴染「デート……むふふふふ」ニヨニヨ

幼友「どう考えても順序おかしいよね」

幼馴染「んー? なにが?」

幼友「いや、だってさ、お弁当を作ってあげてるんだよ? もう夫婦じゃん」

幼馴染「夫婦……」

幼馴染「むふふふふ」

幼友「夫婦だよ? それなのにデートに一度たりとも行ったことがないってさ、おかしくない?」

幼馴染「そうかなあ」

29: 2014/01/14(火) 21:12:26 ID:P1wGhclU

幼友「家が隣同士で? ちっちゃい頃に結婚の約束とかしちゃったりして?」

幼友「幼稚園、小学校、中学校、高校、全部おなじで?」

幼友「ほとんど毎日いっしょに登校して下校して? お弁当作ってあげて?」

幼馴染「うへへへへ」

幼友「それなのに!」バァン

幼馴染「ひっ」ビクッ

幼友「一度もデートしたことがない! これっておかしいよね? 詐欺でしょ!」

30: 2014/01/14(火) 21:15:01 ID:P1wGhclU

幼友「いったいどこまでいってるの!」

幼馴染「ど、どこまでって……」

幼友「キスか? キスなのか?」

幼馴染「……」

幼友「手を繋ぐくらいまでか? 手を繋ぐくらいまでなのか?」

幼馴染「……」

幼友「え? 嘘? 手を繋いだこともないの?」

幼馴染「……」

幼友「ま、まあ……頑張りなよ。応援してるから」

幼友「明日からだよ。ここまでがプレリュードってことだよ」

幼馴染「うん……」

31: 2014/01/14(火) 21:16:10 ID:P1wGhclU

幼馴染「……」

幼友「……」

幼友「……まあ、わらび餅でも食べて元気出しなよ」スッ

幼馴染「うん……」モキュモキュ

幼友「いい食べっぷりだね。でも食べ過ぎると太るよ」

幼馴染「いいもん。そもそもわたし太らない体質だもん」モキュモキュ

幼友「いいなあ。わたしなんて気をつけないとすぐ太っちゃうよ」

幼馴染「うそだ」モキュモキュ

幼友「ほんとうだって。気づいたらアブドーラ・ザ・ブッチャーだって」

幼馴染「こわい」

32: 2014/01/14(火) 21:17:55 ID:P1wGhclU

幼友「はーい、お茶」スッ

幼馴染「お~いお茶みたいな言い方だ」ゴクゴク

幼友「わたしが選んだのは綾鷹だけどね」

幼馴染「選ばれたのは綾鷹かあ」

幼馴染「でもわたしは爽健美茶が好きだよ」

幼友「今度からは気をつけるよ」

幼友「でもわたしは綾鷹が好きだから、うん」

33: 2014/01/14(火) 21:19:11 ID:P1wGhclU

数時間後

幼友「じゃあ、そろそろわたし帰るね」

幼馴染「うん。気をつけてね」

幼友「風邪拗らせないように、あったかくして早く寝るんだよ」

幼馴染「なにそれ。お母さんみたい」

幼友「ふふん。じゃあお母さんは今から予言をします」

幼友「あんたは今日あんまり寝れない。間違いない」

幼馴染「かもしれない」

幼友「それじゃあ、良い報告を待ってるよ」

幼馴染「うん。が、頑張るよ」

34: 2014/01/14(火) 21:20:05 ID:P1wGhclU



幼友(うわ。外暗い。しかもめっちゃ寒い)

幼友(さっさと帰ってお風呂入ろっと……)

男「あれ? 幼友?」

幼友「んあ?」

幼友「ああ、男くん。そういえば家があの子の隣の家なんだよね」

幼友「いま帰ってきたの?」

男「まあ、うん。幼友は今から帰り?」

幼友「そうだね」

35: 2014/01/14(火) 21:23:25 ID:P1wGhclU

男「幼馴染の家でなにしてたんだ?」

幼友「なにって、作戦会議?」

男「なるほど」

幼友「男くんは? 結構遅くまでどこでなにしてたの」

男「マックで、作戦会議?」

幼友「なるほど」

男友「あのさ、お前ら、俺がいるってこと忘れてないよな? 俺のこと見えてるよな?」

男友「なんかすごい疎外感を覚えるんだけど?」

36: 2014/01/14(火) 21:24:10 ID:P1wGhclU

ビュウウウウ

男「風強い。超寒い。空暗い。お外怖い。俺帰る」

男友「おう。そんじゃ、また明後日」

男「おう。明後日だな」

バタン

男友「……」

幼友「……」

男友(あれ? なんか気まずい……)

37: 2014/01/14(火) 21:24:48 ID:P1wGhclU

幼友「そいじゃ」

男友「うん」

幼友「わたしはこっちだから」

男友「俺もそっちなんだけど」

幼友「そっか」

男友「……」

幼友「……」

幼友「まあいいや。どうせだから一緒に行こう」スタスタ

男友「なんかスイマセン」スタスタ

38: 2014/01/14(火) 21:26:07 ID:P1wGhclU

男友「幼友さん?」

幼友「なんでしょう?」

男友「作戦会議って、なにをしてたの?」

幼友「それ訊いちゃうの?」

男友「訊かないほうがいい?」

幼友「男の子に言えないような内容の会議だったらどうする?」

男友「すごいテンション上がる」

幼友「……」

男友「……」

幼友「……」

男友「……ごめんなさい」

幼友「いや、いいけど」

幼友「べつにそんな内容じゃないし」

39: 2014/01/14(火) 21:28:08 ID:P1wGhclU

幼友「じゃあ、男友くん」

男友「なんですかい」

幼友「そっちの作戦会議は、なにをしてたの?」

男友「なにって……パスタとスパゲッティの違いについての議論だけど」

幼友「ふうん。おもしろそうな話だね」

男友「そうでもないんだなあ、これが」

幼友「答えは出たの?」

男友「グーグル先生は偉大だ。なんでも教えてくれる」

幼友「なるほど。じゃあ、パスタとスパゲッティはなにが違うの?」

男友「なにも違わない。どっちもかわいい」

幼友「はあ? かわいい?」

男友「ごめん。今のなしで」

40: 2014/01/14(火) 21:29:21 ID:P1wGhclU

男友「パスタってのは、イタリアの麺類の総称なんだって」

幼友「ふうん」

男友「それで、スパゲッティはそのパスタの一種で」

男友「一・八ミリくらいの太さの麺がスパゲッティっていうんだってさ」

幼友「パスタにも色々あるんだね」

男友「パスタだって頑張ってんだ」

幼友「パスタに生まれなくてよかった」

男友「そうだな。幼友さんはパスタじゃなくてスパゲッティだ、うん」

幼友「さっきから男友くんがなに言ってるのかが分かんない時があるんだけど」

男友「男にしか分からないこともあるのさ」

44: 2014/01/15(水) 22:11:24 ID:htlyGK7A

幼友「で?」

男友「で?」

幼友「ほんとうは何を話してたわけ?」

男友「何って」

男友「男と幼馴染ちゃんのデートが成功するための話?」

幼友「ほお、奇遇だね。わたしも幼馴染と一緒にそのことについて話し合ってたよ」

男友「そうか……」

男友「そんなことしなくても成功するに決まってんのに」ハァ

幼友「だよね。あの二人だもんねえ」

45: 2014/01/15(水) 22:12:03 ID:htlyGK7A

幼友「あれで付き合ってないってのがおかしいよね。詐欺だ」

男友「だよな」

幼友「あんなにいちゃいちゃしてるの見せられる立場としてはたまったもんじゃないよね」

男友「まったくだ。さっさとセッ……」

幼友「セッ?」

男友「あー……さっさと結婚しろよってなるわ、うん」

幼友「そうだね」

46: 2014/01/15(水) 22:14:35 ID:htlyGK7A

幼友「それなのに手を繋いだこともないんだってね、あのふたり」

男友「嘘だろ?」

男友「幼友さんがピノキオだったら今のでブエノスアイレスくらいまで鼻伸びてるところだよ?」

幼友「嘘じゃないんだなあ、これが」

男友「じゃあ、あのふたりって普段はなにしてんの?」

幼友「さあね」

男友「俺はてっきり、セッ……」

幼友「セッ?」

男友「えー……」

男友「口にするのも憚られるような淫らな行為が行われているものだとばかり思ってたけど」

幼友「そうではないようだね、うん。すっごいまわりくどい言い方するね、男友くん」

47: 2014/01/15(水) 22:16:24 ID:htlyGK7A

男友「幼友さんはさ」

幼友「うん」

男友「いつも幼馴染ちゃんの相談に乗るの?」

幼友「まあね。男友くんも、いつも男くんの相談に乗る?」

男友「相談に乗るっていうか、惚気話を聞かされてる、みたいな」

男友「ときどきゆるい殺意が湧く」

幼友「気持ちは分からなくもないよ、うん」

男友「ということは、幼友さんも相談というよりは惚気話だったり?」

幼友「ほとんどがね」

48: 2014/01/15(水) 22:17:24 ID:htlyGK7A

男友「俺たちはあれだよね。縁の下の力持ちってやつだ」

幼友「だね。もっと褒められてもいいよね」

男友「ふたりが目立ち過ぎなんだよなあ」

幼友「眩いばかりに目立ってるもんね」

男友「俺たちって影みたいなもんなのかね」

幼友「今はそうかもね。でも、そういう時期があってもいいんじゃないの」

男友「いやあ、べつに、今の立場が嫌ってわけではないんだよ」

男友「なんというか……うまいこと説明できんけどさあ……」

幼友「言いたいことは分かるよ。すごく」

49: 2014/01/15(水) 22:18:20 ID:htlyGK7A

男友「分かってくれますか。分かってくれますか?」

幼友「分かってあげますよ」

男友「なんなんですかそれは」

幼友「なんなんでしょうねこれは」

男友「幼友さんはそういうキャラなんですか」

幼友「幼友さんはこういうキャラですよ」

男友「俺たちは何をやっているんでしょうか」

幼友「わたし達は何をやっているんでしょうね」

50: 2014/01/15(水) 22:19:10 ID:htlyGK7A

男友「堂々巡りだ」

幼友「ドードーの」

男友「え」

幼友「なんでもない」

男友「ドードーの堂々巡り?」

幼友「不思議の国のアリス」

男友「なにが?」

幼友「なんでもないよ」

51: 2014/01/15(水) 22:20:54 ID:htlyGK7A

幼友「そいじゃ、わたしの家ここだから」

男友「ん」

幼友「おぼえた?」

男友「おぼえた」

男友「そんじゃ、また」

幼友「また? またって、どういうこと?」

男友「いや、深い意味はない」

52: 2014/01/15(水) 22:21:48 ID:htlyGK7A

幼友「男友くんの家はどこ?」

男友「あっちだけど」

幼友「あっちって、いま通ってきた道じゃん」

男友「通りすぎた」

幼友「はあ。なぜ?」

男友「女の子をひとりで行かせるのは如何なものかと思って」

幼友「紳士だね」

男友「だろう?」

53: 2014/01/15(水) 22:22:47 ID:htlyGK7A

幼友「そんじゃ、また」

男友「また?」

幼友「深い意味はない」

男友「ふうん」

幼友「また学校で」

男友「おう」

54: 2014/01/15(水) 22:24:11 ID:htlyGK7A

幼友「あ!」ピコーン

幼友「ちょっとストップ男友くん!」

男友「どうした」

幼友「わたし、良いことを思いついちゃったよ」

男友「はあ」

幼友「聞きたい?」

男友「いや、あんまり」

幼友「なぜ?」

男友「良いことを思いついたって台詞は」

男友「その思いついた本人にとっては良いことなんだろうけどさ」

男友「大抵の場合、周りの奴にとっては良いことではないと思うんだよね」

幼友「なるほど」

男友「俺から言わせてもらえばあれだよ」

男友「『行けたら行く』とか『お前のことを思って言ってやってる』並に信用出来ない言葉だね」

幼友「そういう考え方もあるか」

55: 2014/01/15(水) 22:25:32 ID:htlyGK7A

幼友「それで、話は終わり? もう発表していい?」

男友「あれ? 俺の話、聞いてた?」

幼友「ばっちりだよ。まあ、とりあえず聞いてみるだけでも」

男友「詐欺師みたいなこと言うね、幼友さん」

幼友「はーい。じゃあ発表しまーす」

幼友「ええと」

幼友「明日、わたしと一緒に水族館に行かない?」

56: 2014/01/15(水) 22:27:00 ID:htlyGK7A

男友「……」

男友「……」

男友「はい?」

幼友「え? もう一回言わせるの?」

幼友「すごい恥ずかしいんだけど。爆発しそう」

男友「ごめん。もう一回言ってくれない?」

幼友「明日、わたしと水族館に行こう」

男友「ごめん。もう一回。録音したい」

幼友「マフラーで首締めるよ?」

男友「そういう氏に方も悪くない」

57: 2014/01/15(水) 22:29:08 ID:htlyGK7A



男「ただいまー」

妹「おかえり、にいちゃん。遅かったね」

男「……」ジィー

妹「なに? わたしの事じろじろ見て。顔になにか付いてる?」

男「……お前はあれだな、ペンネ。ペンネちゃんだ」

妹「なにが? ペンネちゃんってなに?」

男「男にしか分からないこともある」

58: 2014/01/15(水) 22:30:37 ID:htlyGK7A

男「父さんと母さんは?」

妹「新年会」

男「そっか。ご飯どうすんの?」

妹「わたしが作った」

男「ペンネちゃんはちっちゃいけどしっかりものだ」

妹「だからペンネちゃんってなに?」

男「お前がパスタだったらペンネだと思うんだよね、俺は」

妹「ごめん。分かんない」

59: 2014/01/15(水) 22:31:34 ID:htlyGK7A

男「それで、夕飯はなに?」

妹「カレー」

男「カレー。なるほど、明日はカレーうどんか」

妹「もう食べる?」

男「いや、もうちょい後で食べる」

男「こたつでみかん食べたい」

妹「わたしもそうする」

60: 2014/01/15(水) 22:33:24 ID:htlyGK7A

男「なあ、ふと思ったんだけどさ」

妹「なあに?」

男「カレーとカリーってさ、なにか違うのかな」

妹「呼び方が違うだけじゃないの? コーヒーとカフェみたいな」

男「そうなんだ?」

妹「知らないよ? 多分だよ?」

男「俺の中ではさ、水っぽいのがカリーで、どろどろしてるのがカレーだったわ」

妹「分からなくはないかも」

61: 2014/01/15(水) 22:35:08 ID:htlyGK7A

男「おお、こたつぬくい」ホクホク

妹「さっきまでわたしが入ってたからね」ホクホク

男「……」

男「なあ、妹さんや」

妹「なに?」

男「なんで俺の隣に座るわけ?」

妹「え? だめ?」

男「いや、どうせ俺たち以外には誰もいないんだし、もっと広々と使えばいいじゃん」

妹「わたしはここがいい」

男「まあ、お前がいいのならいいか」

妹「そうだよ。細かいこと気にしてたらハゲるよ、にいちゃん」

男「そうだな。気にしないことにするわ」

62: 2014/01/15(水) 22:36:28 ID:htlyGK7A

男「みかん取って」

妹「うん」ヒョイ

男「皮剥いて」

妹「うん」ペリペリ

男「食べさせて」アーン

妹「ほい」ヒョイ

男「うむ」ムグムグ

男「すっぱい」

妹「あらら」

63: 2014/01/15(水) 22:38:00 ID:htlyGK7A

男「」ムグムグ

妹「」ムグムグ

男「ふう」

男「なんか眠くなってきたかも」ゴロン

妹「わたしも」ゴローン

男「……」

妹「……」

男「近すぎないか」

妹「そうかな」

男「これは恋人の距離だと思うんだよね」

妹「なにそれ」

64: 2014/01/15(水) 22:40:18 ID:htlyGK7A

男「フォークとパスタの距離だ」

妹「なんでパスタ? にいちゃんって、そんなにパスタ好きだったっけ?」

男「まあ、とにかく近すぎだ」モゾモゾ

妹「そんなことないよ」ガシッ

男「俺の脚に脚乗せないでくれない? 重いんだけど?」

妹「重い? いま重いって言った?」グググッ

男「ああっ。そんなに体重かけたら俺の踵が粉砕骨折!」

65: 2014/01/15(水) 22:41:24 ID:htlyGK7A

妹「大丈夫だよ。にいちゃんは頑丈だけが取り柄だし」グググググ

男「いたいいたい」

男「ふん」ガシッ

妹「うわ。妹の脚にしがみつくとか。へんたい」

男「お前が先にやってきたんだろうが」

男「うわ。お前の脚すべすべだな」

妹「あ、うん。ありがと」

66: 2014/01/15(水) 22:41:55 ID:htlyGK7A

男「すべすべで、俺の脚とこすり合わせると気持ちいい」スリスリ

妹「そう?」

妹「にいちゃんのはすね毛がくすぐったい」

男「あ、ごめん」

妹「でもあったかくて好きかも」

男「こたつの中だからあったかいのは当然だろ」

妹「そっか」

67: 2014/01/15(水) 22:42:52 ID:htlyGK7A

男「あー……」

男「眠い」グッテリ

妹「夕飯どうする?」

男「寝て起きてから食う」

妹「分かった」

妹「じゃあ、おやすみ」

男「お前も寝るの?」

妹「ひとりで起きててもつまんないもん」

男「そうかな」

妹「そうだよ」

72: 2014/01/16(木) 21:22:05 ID:IZyveKM.

男「あのさ」

妹「なに」

男「俺、明日、水族館に行くんだけどさ」

妹「水族館。海月?」

男「そう。海月を見に行く」

妹「好きだよね、海月」

男「なんでだろうな」

妹「ひとりで行くの?」

男「いや、幼馴染と」

73: 2014/01/16(木) 21:23:22 ID:IZyveKM.

妹「デートだ?」

男「うん」

妹「ふうん、それで?」

男「いや、それだけ」

妹「わたしも行きたいって言ったら?」

男「いつもならいいって言うところだけど、今回だけはだめな気がする」

妹「男の子みたいにかっこいいこと言うね、にいちゃん」

男「いや、俺は男の子だろ。なに言ってんだお前」

74: 2014/01/16(木) 21:24:18 ID:IZyveKM.

妹「うまくいくといいね」

男「うん」

妹「あ」

妹「わたしが後ろから見守っててあげようか?」

男「お前に見守られたところでなにも変わらんだろうに」

妹「流氷の天使と呼ばれたわたしが」

妹「にいちゃんを見守るついでに幼馴染さんの胸を矢でぐさぐさと射抜いてあげる」

男「お前クリオネだったのかよ。胸をぐさぐさって、頃す気かよ」

75: 2014/01/16(木) 21:25:51 ID:IZyveKM.

妹「ハートをぎゅっと掴む比喩みたいなもんだよ」

男「なるほど」

男「でも多分、それは必要ないかな」

妹「その心は?」

男「たぶん、お互いに同じことを思ってるはずだから」

妹「今の台詞に恥ずかしいポイント50000点あげてもいい」

妹「にいちゃんは恥ずかしい男グランプリで優勝できる逸材だよ」

妹「今から鍛錬を積めば間違いなくギネス級だ」

男「ありがとう」

妹「褒めてるわけじゃないんだけど」

76: 2014/01/16(木) 21:27:14 ID:IZyveKM.

男「ていうかお前、寝るんじゃなかったのかよ」

妹「にいちゃんがデートが云々って話し始めるから」

妹「それに、にいちゃんだって寝るって言ってたじゃん」

男「言ってない」

妹「言ったよね?」

男「言ってない。俺ぜんぜん眠くないし」

妹「うそだ」

男「これはうそじゃない。もう眠気吹っ飛んじゃった」

77: 2014/01/16(木) 21:29:31 ID:IZyveKM.

男「だからカレー食べる」

妹「分かった。今からあっためるね」

男「うん」

妹「……」モゾモゾ

妹「あー……」

妹「ああー……」

妹「んああー……」

男「妹さんや」

妹「なに……」

男「早くこたつから出てはいかがですかな」

妹「しばし待たれよ」

妹「……」モゾモゾ

妹「むむむ……さむい……」

男「……俺が温めてこようか?」

妹「おねがい」

78: 2014/01/16(木) 21:30:30 ID:IZyveKM.

男「うわ。こたつから出たら寒い」

妹「がんばってにいちゃん」

男「ういうい」

ヴヴヴヴ

男「んお?」

男「メールか」

妹「愛しの幼馴染さんから?」

男「うん」

妹「なんて?」

79: 2014/01/16(木) 21:31:40 ID:IZyveKM.

男「『明日は何時にどうすればいいの?』だってさ」

妹「もしかして、もしかしてだけど」

妹「水族館に行くってことしか決まってなかったりする?」

男「そういえばそうだ」ハッ

妹「なんか……にいちゃんらしいね」

男「なにが」

妹「にいちゃんは昔からさ、どうでもいいところにはこだわって、肝心なところは大雑把なんだよ」

妹「ペンネとかカリーとかよりもさ、もっと大事なことがあるじゃん」

男「おっしゃるとおりです」

80: 2014/01/16(木) 21:32:20 ID:IZyveKM.

妹「わたしは心配だよ」ハァー

男「ありがとう」

妹「いや、褒めてないからね」

男「心配してくれてありがとうってこと」

妹「はあ」

妹(ふたりっきりで大丈夫かなあ……)

妹(幼馴染さんには悪いけど、あのひとも大概だからなあ……)

81: 2014/01/16(木) 21:34:27 ID:IZyveKM.

* 翌日

幼友「おそい」

男友「スイマセン」

幼友「5分遅刻だよ」

男友「5分くらい許してくれよ」

幼友「5分くらい?」ジロリ

幼友「わたしが5分間で男友くんの事をどれだけ心配したと思ってるわけ?」

男友「あ、はい。スイマセン」

82: 2014/01/16(木) 21:35:17 ID:IZyveKM.

男友「まあ、俺も無傷で、どうせまだ時間はあるわけだし、な?」

幼友「はあ……」

幼友「まあいいか」

幼友「次からはちゃんと時間を守ること。分かった?」

男友「はい。スイマセンでした」

男友「……」

男友「……次?」

幼友「次があったらってこと。深い意味はない」

83: 2014/01/16(木) 21:37:55 ID:IZyveKM.

幼友「世の中にはね、守らなきゃいけないものがいっぱいあるわけよ」

男友「はあ」

幼友「いちばん大事なのは時間を守ることで」

幼友「次に信号を守ること、その次が女の子を守ること」

幼友「それで、そのまた次が約束を守ることで、最後にルールを守ること」

男友「はあ」

幼友「分かった?」

男友「常識は? 守らなくていいわけ?」

幼友「そんなものは氏ねばいい」

男友「めちゃくちゃだ」

84: 2014/01/16(木) 21:38:40 ID:IZyveKM.

男友「……それで、10時まであとどれくらい?」

幼友「20分くらい」

男友「そうか」

男友「それにしても、よく出発の時間なんか訊き出せたな」

幼友「まあ、あの子はちょっとばかだから、何の疑いもなしに教えてくれたよ」

男友「はあ」

幼友「それどころか、メール送ってみたらあの子も知らなかったみたい」

男友「は? どういうこと?」

85: 2014/01/16(木) 21:39:42 ID:IZyveKM.

幼友「あのふたりは『水族館に行く』ってことしか決めてなくて」

幼友「何時にどうするかとかはなにも決めてなかったみたい」

男友「あの間抜け男……」

幼友「それであの子も、わたしがメールを送ってからそのことに気づいたらしくて」

幼友「急いで男くんにメールを送ったみたいだね」

幼友「『明日は何時にどうすればいい?』って」

男友「間抜けカップルか……」

男友(でもまあ、そのおかげで幼友さんの電話番号とメールアドレスをゲットできたわけだけど)

幼友「だからこそわたし達が見守ってあげなくちゃね」

幼友「そいじゃあ、早速おふたりの家の前に張り付くとしよう」

86: 2014/01/16(木) 21:40:55 ID:IZyveKM.

男友「あのさ」

幼友「なにかな?」

男友「俺たちは休日の朝からなにをやっているんだろう?」

幼友「ストーカー?」

男友「うん、まあ、間違ってはないけどさ、自分で言って悲しくならない?」

幼友「ううん、わくわくするよ?」

幼友「あのふたりがえらいことになっちゃうかもしれないんだよ?」

男友「うん……うーん」

男友(もしかして、この子もちょっとあれなのか……?)

87: 2014/01/16(木) 21:43:04 ID:IZyveKM.

幼友「はーい、出発」

男友「はあ」

幼友「なに、元気ないね」

男友「元気いっぱいのストーカーってのもどうかと思うけど」

幼友「ほら、もっとシャキッと」

幼友「わたしで良ければ、デートだと思えばいいから」

男友「ストーカー同士の?」

幼友「そう」

男友「すごいシチュエーションだ」

88: 2014/01/16(木) 21:43:53 ID:IZyveKM.

男友「あ、だから地味なのか? 目立たないように」

幼友「なにが?」

男友「服装」

幼友「服装? これはいつも通りだけど」

男友「ふうん」ジロジロ

幼友「な、なに」

男友「なんか思ったよりひっそりとしてるなあ、と思って」

89: 2014/01/16(木) 21:44:42 ID:IZyveKM.

幼友「わたしが普段どんな服を着てると思ったわけ?」

男友「もっとこう、ひらひらしてる感じ?」

幼友「ないない。ありえない」

男友「意外だ」

幼友「男友くんはあれだね、ふつうって感じ」

男友「いいじゃん、ふつう」

幼友「ザ・男子高校生だ」

男友「いいじゃん、ザ・男子高校生」

90: 2014/01/16(木) 21:45:42 ID:IZyveKM.



男「じゃあ、行ってくる」

妹「ん、いってらっしゃい」

バタン

妹「……」

妹「……」

妹(大丈夫かなあ……)

妹「……」

妹「あっ」ピコーン

91: 2014/01/16(木) 21:46:54 ID:IZyveKM.

妹「もしもし?」

妹友『もしもし? 妹ちゃん? どしたの?』

妹「暇でしょ?」

妹友『え? なに、藪から棒に』

妹「どうせ暇でしょ?」

妹友『え、まあ、はい』

妹「水族館に行こう」

妹友『え?』

妹「今から迎えに行くね」

妹友『え? ちょ、ちょっと……』ブツッ

92: 2014/01/16(木) 21:47:33 ID:IZyveKM.



幼友「男くんがやっと出てきたよ。すでに10時を10分くらい過ぎてる」

幼友「時間を守らない男はだめだ。男くん、イ工口ーカード」

男友「おっとりしてるからなあ、あいつ」

幼友「男友くんだって5分遅れたじゃん」

男友「……」

男友「……」

男友「……それにしても」

男友「なにが楽しくて電柱の裏なんかに隠れなきゃならないんだ」

幼友「電柱の裏って探偵っぽいよね」

男友「分からなくはない」

幼友「でも今のわたしはサム・フィッシャー」

男友「スネークじゃなくて」

幼友「男友くんがスネークってことで」

男友「どっちでもええわ」

93: 2014/01/16(木) 21:48:35 ID:IZyveKM.

幼友「あ、幼馴染も出てきた」

男友「どれどれ」

男友「うわ、すげえ眠そうな顔。寝癖もすげえ」

幼友「楽しみすぎてまともに眠れなかったんだろうね、うん」

男友「でもかわいい」

幼友「いつも通りの服装だ」

男友「ひらひらでふわふわでもふもふだ」

幼友「ああいうのがいいんだ?」

男友「個人的にはね」

幼友「ふうん」

97: 2014/01/17(金) 21:06:10 ID:LLvFUyPg



男「おはよう」

幼馴染「お、おはよう」ドキドキ

男「すごい寝癖だな」

幼馴染「ご、ごめんね。がんばったんだけど直らなくて……」

男「ふうん」ナデナデ

幼馴染「え?」

男「ほんとだな。ぜんぜん直んないわ」ナデナデ

幼馴染「」

男「あれ、どうした? もしかして、あたま触られるのあんまり好きじゃない?」

幼馴染「す、好き……すごく好き」

98: 2014/01/17(金) 21:07:44 ID:LLvFUyPg

男「じゃあ、もうちょっとだけ」ナデナデ

幼馴染「うん」

男「髪さらさらだ」

幼馴染「うん」

男「いい匂いもする」

幼馴染「そうかな? ちょっと恥ずかしいかも……」

男(かわいい)

99: 2014/01/17(金) 21:08:27 ID:LLvFUyPg

男「おし、そんじゃあ行くか」

幼馴染「うん」

男「……」スタスタ

幼馴染「……」スタスタ

男「……」

男(『幼馴染ちゃんってちょっとぼけっとしてるから』)

男(『ふらふらとどっかに行っちまわないように手え繋いでたらいいんだよ』)

男(って男友は言ってたけど、頼りにしていいのかな)

男(たしかに幼馴染はちょっとぼけっとしてるけど)

100: 2014/01/17(金) 21:09:58 ID:LLvFUyPg

男(……)

男「……」ギュッ

幼馴染「え?」

男「手、やわらかいな。冷たいけど」

幼馴染「う、うん」

男「手を繋ぐのがいやだったらいやって言ってくれよ」

幼馴染「いやじゃないよ。すごく好き……かも」

男「そっか」

幼馴染「……」ギュッ

101: 2014/01/17(金) 21:10:58 ID:LLvFUyPg

幼馴染「男の手はごつごつしてておっきい。それに、あったかい」

男「俺の手は岩みたいで、心が冷たいってことだな」

幼馴染「そんなことないよ」

男「そうかな」

幼馴染「わたしには分かる。ぜったいに違うよ」

男「そっか。そう言ってもらえたらうれしいけど……まあ、お前は心があったかいもんな」

幼馴染「男がそう思ってるだけで、ほんとうは違うかもよ?」

男「違わない。俺には分かるよ」

幼馴染「ありがと」

102: 2014/01/17(金) 21:11:46 ID:LLvFUyPg

男「それにしても、手を繋ぐのってすげえ久しぶりだよな」

幼馴染「え? わたし達、今までに手を繋いだことあった?」

男「あった」

幼馴染「う、うそ? いつ?」

男「3歳くらいのとき?」

幼馴染「ほんとうに?」

男「ほんとうに。覚えてない?」

幼馴染「……覚えてない」

男「そっかあ。まあ、仕方ないよな」

103: 2014/01/17(金) 21:12:39 ID:LLvFUyPg

男「3歳っていったら、俺がヤンヤンつけボーでお前んちの犬をやっつけようとしてた頃だ」

幼馴染「懐かしい。それは覚えてるよ」

男「なんて名前だっけ。あの犬」

幼馴染「ゴルゴンゾーラちゃん」

男「あれ? そんな強そうな名前だったっけ? それは勝てないわ」

幼馴染「うそ。ほんとうはマカロニちゃん」

男「マカロニ。いい名前だな。でもなんでマカロニ?」

幼馴染「お姉ちゃんが好きだったから」

男「納得いくようで納得できないような理由だ」

104: 2014/01/17(金) 21:13:15 ID:LLvFUyPg

男「そっか。マカロニちゃんかあ」

幼馴染「かわいかったよね」

男「そうだなあ。勝ち逃げされちゃったけど」

幼馴染「うん……」

男「……」

幼馴染「……」

男「ごめん、なんかしんみりとした空気になっちゃった」

幼馴染「ううん、いいよ」

幼馴染「ねえ。帰りにマカロニちゃんのお墓参りをしようよ」

男「うん、行こう」

105: 2014/01/17(金) 21:14:46 ID:LLvFUyPg



男「駅ってもっと遠いような気がしてたんだけど、すぐに着いちゃったな」

幼馴染「そうだねえ」

男「でも家を出てから30分くらい経ってるな」

幼馴染「ほんとだ。もう11時前だ」

男「5分くらいしか経ってないように感じる」

幼馴染「わたしも」

男「なんかへんな感じだ」

106: 2014/01/17(金) 21:15:31 ID:LLvFUyPg

男「この調子だと、向こうに着く頃にはちょうどお昼くらいかな」

幼馴染「お昼は、なに食べる?」

男「なに食べたい?」

幼馴染「男といっしょのやつならなんでもいいよ」

男「なんだそりゃ。なんか恥ずかしいぞ」

幼馴染「わたしといっしょのものを食べるのは恥ずかしい?」

幼馴染「そうなんだ……」ショボン

男「いや、そういうことではなくて」

男「いまのお前の台詞を聞いた俺が恥ずかしくなっちゃった、みたいな感じ」

幼馴染「どういうこと?」

男「俺うれしい。俺照れる。俺恥ずかしい。そういうこと」

107: 2014/01/17(金) 21:16:35 ID:LLvFUyPg

幼馴染「照れてるの?」

男「超照れてる」

幼馴染「わたしもうれしい。照れる」

男「なんで?」

幼馴染「男が照れたから」

男「よく分からん」

幼馴染「むふふふふ」

108: 2014/01/17(金) 21:21:05 ID:LLvFUyPg

ガタンゴトン ガタンゴトン

男「思ってたよりも空いてるな、電車」

幼馴染「だね」

男「座れて良かった」

幼馴染「うん」ギュッ

男「……」

幼馴染「……」

幼馴染「……あの」

男「なに?」

幼馴染「よ、寄りかかってもいい?」

男「え? べつにいいけど……」

幼馴染「じゃ、じゃあ、失礼しまーす……」

109: 2014/01/17(金) 21:23:40 ID:LLvFUyPg

男「……」

幼馴染「……」

男(なんだこれ。めっちゃいい匂いする)

男(なんか知らんけどやわらかいし、あったかい)

男(顔熱いし心臓バクバク鳴ってるし、これだめなやつだろ……)

幼馴染(やばいよ……やばいよ……これだめなやつだよ……)

幼馴染(男のマフラー、すごくいい匂いがする)

幼馴染(あったかくて頭がぼうっとしてきた……)

幼馴染(きのうはほとんど眠れなかったから眠い……)

幼馴染(……)

110: 2014/01/17(金) 21:24:28 ID:LLvFUyPg

男「あ、あのさ、やっぱり」

幼馴染「」zzz

男「え? 幼馴染さん?」

幼馴染「んん……」zzz

男(寝てる……)

男(どうしよ。このままでいいのかな……)

男(……)

男(……)

男(……まあ、いいか)

111: 2014/01/17(金) 21:27:17 ID:LLvFUyPg

男「……」

幼馴染「」zzz

男「……」

男(ちょっとくらいいいよな……)ツンツン

男(うおお。ほっぺたやわらけえ)プニプニ

幼馴染「ん……」zzz

男「……」

男「……」ツンツン

幼馴染「んん……」zzz

男(うおおおお。おっOいやわらけええええ)プニプニ

112: 2014/01/17(金) 21:29:23 ID:LLvFUyPg



ガタンゴトン ガタンゴトン

幼友「隠れてやってるけど、あれは所謂、あれだよね」

男友「あれだな」

幼友「痴漢ってやつだよね」

幼友「イ工口ーカードとか手が滑ったとかそういうレベルじゃないよね」

幼友「愛じゃなくて故意だよね。社会的に追放されるレベルだよね」

男友「こればっかりは擁護のしようがないわ」

幼友「でも案外あの子はよろこんでるのかもしれない。実は狸寝入りしてるとかでさ」

男友「なにそれ。触れってこと? ちょっとテンション上がる」

幼友「……」

男友「……冗談だって」

幼友「ちょっとじゃなくて、すごいテンション上がるんでしょ」

男友「よく分かってるじゃないですか」

115: 2014/01/18(土) 23:30:03 ID:pgeik0Yk

幼友「ほんとうに付き合ってないの? あれ」

男友「みたいだけど」

幼友「朝からあたま撫でられて?」

幼友「ずっとおててつないで歩いて?」

幼友「今度は男くんの肩にあたま乗せて寝て?」

幼友「男くんは男くんで、あの子の胸さわったりしちゃって?」

男友「……」

幼友「うらやましい」

男友「うらやましいんだ?」

116: 2014/01/18(土) 23:30:49 ID:pgeik0Yk

幼友「あこがれちゃう」

男友「あこがれちゃうんだ?」

幼友「わたしだって女だし、あこがれたっていいじゃん」

男友「まあ、そうだけど」

幼友「男友くんは憧れないわけ? 胸さわりたくないの?」

男友「そりゃあ、憧れるだろ。超うらやましい。さわりたい」

幼友「……」

男友「さわりたい」

幼友「……」

男友「幼友さんがなんと言おうとここだけは譲れない。俺は何度でも言うよ」

男友「さわりたい」

幼友「いや、わたし何も言ってないじゃん」

117: 2014/01/18(土) 23:31:42 ID:pgeik0Yk

幼友「はあ……」

男友「もしかして、疲れてる?」

幼友「そういう風に見える?」

男友「まあ」

幼友「なぜ?」

男友「いや、朝はあのふたりがあたま撫でたり手を繋いだりする度にきゃーきゃー言ってたし」

男友「きゃーきゃー言う度に俺の背中ばしばし叩いてたし」

男友「そろそろ疲れてきてるんじゃないかなあと思って」

幼友「朝と比べたら多少は疲れてるけど、まあ若いし、まだまだ大丈夫だよ」

男友「そうですかい」

118: 2014/01/18(土) 23:33:12 ID:pgeik0Yk

幼友「男友くんはどう? 元気かい?」

男友「誰かのせいで背中痛いわー」

幼友「ごめんね?」

男友「ゆるす」

幼友「男友くんは太平洋みたいな心を持ってるね。いいと思うよ、そういうの」

男友「太平洋って」

幼友「広くて深い、みたいな感じ?」

男友「なるほど」

幼友「わたしの心はあれだから、水溜りみたいな感じ」

男友「浅くて、ちいさい?」

幼友「そう。しかも冷たい」

男友「そうかな」

119: 2014/01/18(土) 23:34:11 ID:pgeik0Yk

幼友「そうかなって、それはどういうこと?」

男友「どういうことって、べつにそんなことはないと思うってこと」

幼友「たまに氷張っちゃうよ? 冬の朝とかすごいよ? 寝起きも寝癖もすごいんだから」

男友「ぜひ見てみたいけど、それは関係なくね?」

幼友「たしかに」

男友「それに俺、あれだから。水溜りが凍ってたら、踏んで砕いちゃうようなやつだから」

幼友「なんか分かるかも」

男友「凍った水溜りに吸い寄せられちゃうんだよね」

幼友「なにそれ」

男友「べつに深い意味はない」

幼友「ふうん?」

120: 2014/01/18(土) 23:35:09 ID:pgeik0Yk

幼友「それで、どうなの? あのふたりは」

男友「どうなのって、何もないけど」

男友「この調子だと、向こうに着くまでは特に何も起こらなさそう」

男友「結局、胸をさわっただけだ」

幼友「胸をさわるのは大したことじゃないみたいな言い方してるけど、相当だからね?」

幼友「しかも電車内だよ? 一歩間違えればレッドカードだよ?」

幼友「手遅れだとしてもサリーは待ってくれないし、ライラも助けてくれないレベルだよ?」

男友「はあ」

121: 2014/01/18(土) 23:35:59 ID:pgeik0Yk

男友「あれ?」

幼友「ねえ、聞いてる?」

男友「え、うん」

男友「うーん……?」

幼友「なに、隣の車両じろじろ見て。あのふたりに何か進展があったわけ?」

男友「いや、そうじゃなくて、もうひとつ隣の車両」

幼友「ふたつ隣の車両? それがどうかしたの?」

男友「なんか見覚えのある顔が見えたような、見えなかったような……」

幼友「ふうん。まあ、休日だし、どこかに出かける知り合いがいてもおかしくはないでしょ」

男友「まあ、そうか。そうだよな」

男友「あいつの妹ちゃんが同じ電車に乗ってたって、べつにおかしいことはないよな」

122: 2014/01/18(土) 23:37:01 ID:pgeik0Yk



ガタンゴトン ガタンゴトン

妹友「ねえ、妹ちゃん」

妹「……」

妹友「あれ、ぜったいに胸さわってるよね」

妹「……」

妹友「あれはだめなやつだよね」

妹「……」

123: 2014/01/18(土) 23:37:42 ID:pgeik0Yk

妹友「妹ちゃん? 聞いてる?」

妹友「お兄さん、彼女さんの胸さわってるよ?」

妹「彼女じゃない」

妹友「そうなの?」

妹「そう。まだ」

妹友「まだ? じゃあ、いつ彼氏彼女の関係になるの」

妹「たぶん、近々」

妹友「ふうん」

124: 2014/01/18(土) 23:38:39 ID:pgeik0Yk

妹友「やっぱりお兄さんだったね」

妹「なにが」

妹友「妹ちゃんがいきなり、『水族館に行こう』だなんて、おかしいと思ったんだよ」

妹友「それで、どうせお兄さん絡みだろうなと思ったら、やっぱりそうだった」

妹「だからなに」

妹友「ブラコンめ」

妹「いいじゃん、ブラコン。にいちゃんが好きで悪いか」

妹友「べつにお兄さんを好くのはいいけどさ、わたしを巻き込むのはどうなんだろうね」

妹「妹友ちゃんしか頼れる人がいないんだよ。わたし友だち少ないし」

妹友「無愛想だもんね、妹ちゃん」

125: 2014/01/18(土) 23:39:18 ID:pgeik0Yk

妹友「でもお兄さんとふたりっきりになったら子猫みたいになっちゃったり?」

妹「しない」

妹友「しないんだ? ブラコンなのに?」

妹「わたしが良くても、にいちゃんはだめかもしれないじゃん」

妹「世間体とかいう納豆みたいにねばねばとめんどくさい言葉もある」

妹友「ブラコンなのに世間体とかそういうこと言っちゃうの?」

妹「妹友ちゃんはブラコンをなんだと思ってるの?」

妹友「それはむずかしい質問だよ。哲学だね」

妹「哲学をなんだと思ってるの?」

126: 2014/01/18(土) 23:40:22 ID:pgeik0Yk

妹友「まあ、哲学よりもお兄さんだよ」

妹(話逸らした)

妹友「ううん、彼女さんが寝ちゃってからはとくにおもしろいことはないなあ」

妹「彼女じゃない」

妹友「だったら、あの女の人は誰?」

妹「にいちゃんの幼馴染。となりの家に住んでる」

妹友「隣の家の少女……」

妹「誤解を招くような言い方するな。となりの家の幼馴染さんだって」

妹友「となりの家の幼馴染って」

妹友「そんなありがちな関係、とっくの昔に絶滅したのかと思ってた」

妹友「でも絶滅危惧種だよね。保護されるべき」

妹「そうだね」

127: 2014/01/18(土) 23:42:43 ID:pgeik0Yk

妹友「で? どうするの?」

妹「なにが?」

妹友「え? メグちゃん寝たから今がチャンスじゃないの?」

妹「メグちゃんって」

妹友「隣の家の」

妹「チャンスって?」

妹友「お兄さんを取り戻すチャンス。なにかするためにお兄さんの後をつけてるんでしょ?」

妹「違うよ、なにもしない。見守るだけ」

妹友「見守るって、神様みたい。マリア様だ。レリビィ」

128: 2014/01/18(土) 23:44:05 ID:pgeik0Yk

妹友「そうかあ。見守るだけ」

妹「そう」

妹友「妹ちゃんはあれだね。好きな人が幸せなら身を引いちゃう子だね」

妹「どうかな」

妹友「わたしがため息を吐いて世に幸せを放り出しているおかげで!」

妹友「わたしの代わりに誰かが幸せになっているんだ! みたいなことを考えちゃう子だよ」

妹「かもしれない」

妹友「なんかもったいないよね。そういう考え方」

妹「そうかな」

129: 2014/01/18(土) 23:46:02 ID:pgeik0Yk

妹「……」

妹「あれ」

妹友「どしたの」

妹友「あのふたりに何かあったの?」

妹「いや、そうじゃなくて、ふたつ隣の車両」

妹友「それがどうかしたの?」

妹「見覚えのある顔が見えたような、見えなかったような」

妹友「まあ休日だし、電車に乗って出かける知り合いがいてもおかしくはないでしょ」

妹「そうだね」

妹「べつに、にいちゃんの友だちが女の子といっしょに電車にいたって」

妹「なんの不思議もないよね」

135: 2014/01/20(月) 21:31:07 ID:epwF6gqM



男「おーい」

幼馴染「んん……」ユサユサ

男「起きろー。もうすぐ着くぞー」

幼馴染「んあ……?」ユサユサ

男「起きた?」

幼馴染「起きた……」

男「おはよう」

幼馴染「おはよう……」

136: 2014/01/20(月) 21:31:44 ID:epwF6gqM

幼馴染「わたし、寝ちゃってた?」

男「すごい寝ちゃってた。眠かったのか?」

幼馴染「う、うん。昨日はあんまり眠れなかったから……」

男「眠れなかった? なんか怖い映画でも見たとか?」

幼馴染「そうじゃなくて……その」

幼馴染「こうやって男と出かけるのが、楽しみすぎて、うまく眠れなかったの……です」

男「そ、そうなんだ?」

幼馴染「ご、ごめんね? せっかく誘ってもらったのに寝ちゃって……」

男「い、いや、大丈夫」

男(おかげで超至近距離から匂い嗅げたし。うん、大丈夫)

137: 2014/01/20(月) 21:32:18 ID:epwF6gqM

男「そんなに楽しみにしてくれてたんだ?」

幼馴染「……うん」

男「そっか。……なんかうれしいな」

幼馴染「わたしもうれしい」

男「俺がうれしいから?」

幼馴染「そう」

男「じゃあ結局のところ、お前が寝てたのは俺といるのがつまらないからってわけではないんだな」

幼馴染「そんなわけないよ」

男「よかった。ブルーになりかけてたわ」

138: 2014/01/20(月) 21:34:50 ID:epwF6gqM

男「あー……やっと着いた。電車から降りたらやっぱ寒いなあ」

幼馴染「だね」

男「それに、ずっと座りっぱなしだったからケツが痛い」

幼馴染「さすってあげようか?」

男「遠慮しとく。お前は? お尻痛くないのか?」

幼馴染「ちょっと痛いかも」

男「さすってやろうか?」

幼馴染「おねがいしてもいい?」

男「冗談だって」

幼馴染「わ、わたしはべつに男にならさすられてもいいよ?」

男「じょ、冗談だろ?」

幼馴染「むふふふふ。どうだろ?」

139: 2014/01/20(月) 21:36:29 ID:epwF6gqM

男「調子上がってきた?」

幼馴染「すごく」

男「それはよかった」

幼馴染「ご飯食べたらもっと上がるよ?」

男「じゃあ早く食べるか、といってももう正午だけど」

幼馴染「なに食べる?」

男「お前といっしょのやつならなんでもいいよ」

幼馴染「無計画だ?」

男「いいじゃん、無計画」

男「無計画、大雑把、のろのろ、ゆるゆる、だらだらが俺だ」

幼馴染「開き直っちゃって」

140: 2014/01/20(月) 21:43:15 ID:epwF6gqM

男「でも俺が、のろのろゆるゆるだらだらでも、お前はついて来てくれるだろ」

幼馴染「うん」

男「だったらそれでいいんだよ、たぶん。よく分かんないけど」

幼馴染「わたしにもよく分かんない」

男「俺の歩幅はお前の歩幅と同じくらい狭いってこと」

幼馴染「そうかな?」

男「比喩だよ」

幼馴染「どういうこと?」

男「進むのが遅いってこと。でもそれが俺のペースだから」

幼馴染「わたし達のペース」

男「そういうふうな言い方をされると照れくさかったり」

幼馴染「わたし達はゆっくりと、すこしずつ進めばいい。リルバイリル」

男「そう。たぶん、そういうこと。だから焦らなくてもいい」

141: 2014/01/20(月) 21:44:04 ID:epwF6gqM

幼馴染「でも焦らない事とお昼ごはんを食べない事は同じじゃないからね?」

幼馴染「結局、お昼はどうするの?」

男「うわ、今の言葉で一気に現実に引き戻された。まあいいや」

男「お昼ねえ……。駅前だし、何かあるんじゃないかな」

幼馴染「なにかって?」

男「なんでも」

幼馴染「たとえば?」

男「フォアグラとか、芋虫とか」

幼馴染「駅前ってすごい」

142: 2014/01/20(月) 21:45:16 ID:epwF6gqM

幼馴染「早く行こうよ」

男「そうだな。寒い。どっかの建物に入りたい」

幼馴染「わたしは男と手をつなぎたい」

男「ん」スッ

幼馴染「ん」ギュッ

幼馴染「あったかくなった?」

男「なった」

幼馴染「じゃあ行こう」

男「のろのろと、手をつなぎながら、ふたりで」

幼馴染「そう」

男「いいと思う、すごく」

143: 2014/01/20(月) 21:45:47 ID:epwF6gqM
ゆっくりと続くと思う、すごく

147: 2014/01/22(水) 21:10:07 ID:CjllC4dY



男友「で」

幼友「うん」

男友「結局はマックかよ」

幼友「まあいいじゃないの。経済的な事情からすれば無難な結果だよ」モキュモキュ

男友「俺、昨日も食べたんだけど」

幼友「でもわたしは食べてない」

男友「あいつも食べたし」

幼友「でもあの子は食べてない」

幼友「それに、わたしはポテトとマックフルーリーを食べたい気分だった」

男友「そうですかい」

148: 2014/01/22(水) 21:10:40 ID:CjllC4dY

男友「それで、幼友さん」

幼友「なにかな」

男友「なんでポテトにフルーリーつけて食べちゃうの?」

男友「ポテトにアイスっておかしくない?」

幼友「これはあれだよ。すき焼きのお肉を生卵につけるのと同じことだよ」

男友「どういうこっちゃ」

幼友「熱いものが冷えて、さらにおいしくなる、ってことじゃないかな。たぶん」

149: 2014/01/22(水) 21:11:29 ID:CjllC4dY

男友「いやあ、ポテト冷やすのはだめだと思うんだよね、俺は」

幼友「ポテトが冷えるのは副作用みたいなもんだよ」

幼友「ポテトとアイスをいっしょに食べられるのがいちばんのポイントだよ」

幼友「おいしさを追求した結果、犠牲が出ただけだ」

男友「犠牲って」

幼友「ポテトのぬくもりね」

男友「ぬくもりって」

150: 2014/01/22(水) 21:12:22 ID:CjllC4dY

男友「とんかつとカレーとかなら理解できるけど、アイスとポテトっておかしくない?」

男友「ほんとうにうまいの?」

幼友「おいしいよ」

幼友「もしかして、食べたことないの?」

男友「まあ、うん」

幼友「もったいない。男友くんは人生の80パーセントを損してるよ」

男友「ポテトとアイスに人生支配されすぎじゃないですかね」

151: 2014/01/22(水) 21:13:34 ID:CjllC4dY

幼友「まあ、そう言わずに。ひとくち食べてご覧なさいな。世界が変わるよ」

男友「ポテトとアイスで変わっちゃう世界ってなんかやだな。ダイソーに売ってそう」

幼友「はい、口開けて」

男友「それって、もしかしてあれですか? いいんですか?」

幼友「黙って開けろ。はい、あーん」

男友「あーん」

幼友「どうぞ」ヒョイ

男友「」モキュモキュ

幼友「どう?」

男友「……」

男友「……うーん」

幼友「男ならしゃっきり言う」

男友「もう一回“あーん”ってやってほしいです」

幼友「そこはしゃっきり言わなくてもいいから」

152: 2014/01/22(水) 21:15:21 ID:CjllC4dY

幼友「味を訊いてるんだよ」

男友「俺は、あくまで俺はだよ? べつべつに食べたほうがいいと思うな」

幼友「ふうん」

幼友「たぶん、男友くんはあれだよ」

幼友「“こんなもんがうまいわけないだろ”みたいな先入観があるんだよ」

幼友「それをなくしてリトライしてみようよ」

男友「この流れは俺が『うめえ!』って言うまで続くパターンのやつじゃね?」

幼友「はい、あーん」

男友「無視かよ……あーん」

幼友「へいっ」ヒョイ

男友「うむ」モキュモキュ

幼友「どう?」

男友「もっと食わせろ」

幼友「おいしかったんだね。よかった。分かってもらえてわたしはうれしいよ」

153: 2014/01/22(水) 21:16:46 ID:CjllC4dY

男友「はっ」

幼友「どしたの」

男友「恋人ごっこやっててあのふたりは放ったらかしだったけど、どうなってる?」

幼友「どうって、ふつうだけど」

男友「ふつうってどういうことだよ」

幼友「ふつうはふつうだよ」

男友「むずかしいわ」

幼友「ふつうはむずかしいということだね」

男友「わけ分からん」

154: 2014/01/22(水) 21:17:47 ID:CjllC4dY

男友「それにしても、こんなに雑な尾行しててもバレないもんなのかな」

幼友「実際のところ見つかってないし、こんなもんなんじゃないの」

男友「あのふたりだからバレてないって事はないのかな」

幼友「多少はあると思う。あのふたりって、おっとりしてるし」

男友「それにしてもここまで見つからないもんなのかな」

幼友「目の前の人に夢中なんじゃないの、お互いに」

男友「なんかそれちょっとイラッと来る」

幼友「あるいはわたし達の存在が薄すぎるとか」

男友「それはちょっとかなしい」

155: 2014/01/22(水) 21:19:22 ID:CjllC4dY

幼友「もしかすると、わたし達には才能があるとか」

男友「ストーカーの?」

幼友「そう。磨けば光るよ」

男友「あんまりうれしくないな」

幼友「これを活かして探偵でもしてみるとかどうだろう」

男友「特技は尾行って」

幼友「いや、フォックスハウンドとかサードエシュロンとかに就職したほうがいいかも」

男友「ふつうの人生を歩みたい」

幼友「ふつうとはなんぞや」

男友「わからない」

156: 2014/01/22(水) 21:20:22 ID:CjllC4dY

男友「はあ」

幼友「なに、疲れちゃった?」

男友「まあ、そんな感じ」

男友「なんかすっごい時間経ってる気がするのに、まだ昼なんだよな」

男友「俺は貴重な休日になにをやってるんだろう?」

幼友「わたしといるのが不満であると?」

男友「そういうことではなくて」

幼友「じゃあわたしといるのは不満ではないと?」

男友「不満ではないよ」

157: 2014/01/22(水) 21:21:31 ID:CjllC4dY

幼友「満足してもいない?」

男友「どちらかというと、満足してる」

幼友「ふうん? なぜ?」

男友「“あーん”ってしてもらえたから」

幼友「それだけ?」

男友「それ以外にもあると思う」

幼友「たとえば?」

男友「それは分からない」

幼友「わたしには男友くんの言ってることがよく分からないよ」

男友「俺にだって分からないさ」

158: 2014/01/22(水) 21:22:43 ID:CjllC4dY

幼友「ん。ふたりのお食事会が終わったみたいだよ」

男友「んじゃあ俺たちも行くか」

幼友「待ってよ。わたし、まだ食べきってないんだけど」

男友「ポテト一本つまんで、ちょんちょんアイスにつけてたらそりゃ時間かかるわ」

幼友「食べたいけど、ふたりがどうなるかも見たい」

男友「どうするんですかい」

幼友「しかたない。帰りにもう一回、男友くんに買ってもらう」

男友「いや、食べながら行けばいいじゃん」

幼友「右手にポテト持って左手にアイス持ったらなにもできないよ。逆もまた然り」

男友「俺の手が空いてる」

幼友「なにそれ。今のはわたしじゃなかったらドン引きされてるところだよ」

男友「そうですかい」

162: 2014/01/23(木) 21:24:07 ID:hPcl23uk



妹友「おいしかった」

妹「うん」

妹友「お外さむい」

妹「うん」

妹友「でもお兄さん達はあったかそうに見える」

妹「そうかな」

妹友「手を繋いでるからかな」

妹「どうだろ」

163: 2014/01/23(木) 21:24:38 ID:hPcl23uk

妹友「わたし達もやってみようよ」

妹「なにを」

妹友「手をつなぐ」

妹友「こうやって」ギュッ

妹「……」ギュ

妹友「妹ちゃんの手、あったかい」

妹「妹友ちゃんの手は冷たくてぬるぬるべとべとしてる。新感覚」

妹友「冷え性がポテトを食べた後の手だよ」

164: 2014/01/23(木) 21:26:01 ID:hPcl23uk

妹友「ぬるぬる、べとべと、ぷにぷに」

妹「なにそれ」

妹友「効果音」

妹「何の?」

妹友「冷え性がポテトを食べた後の手で妹ちゃんの手を握りながら揉むときの効果音」

妹「ぎゅっぎゅするな。ぬるぬるする」

妹友「どう? あったかくなった?」

妹「手がぬるぬるになった」

165: 2014/01/23(木) 21:27:37 ID:hPcl23uk

妹友「ねえ。わたし達って、尾行の才能があるんじゃないの?」

妹「なんで?」

妹友「だって、お兄さんたちにまったくバレてないよ。すごくない?」

妹「にいちゃんも幼馴染さんもちょっとぼけっとしてるから、べつにすごくはないと思う」

妹友「それにしても、こんなにバレないもんなの?」

妹「妹友ちゃんはにいちゃんの事を知らないからそう言えるんだよ」

妹友「妹ちゃんはお兄さんの事をよく知っている?」

妹「にいちゃんが寝ている間に寝返りをうつ回数くらいまでなら知ってるよ」

妹友「なんで知ってるの? こわいよ。いったいどこまで行くつもりなの?」

妹友「なにを目指してるの? 嫁か? 嫁なのか?」

166: 2014/01/23(木) 21:28:30 ID:hPcl23uk

妹「着いた」

妹友「おお。やっと着いたか水族館。長かった……」

妹「立ち止まってないでさっさと行こうよ」

妹友「ちょっと休憩しない? 歩き疲れちゃったよ」

妹「でも、はやく行かないとにいちゃん見失っちゃうよ」

妹友「お兄さんの事となると疲れ知らずになるんだね」

妹友「そんなにお兄さんが好き?」

妹「うん」

妹友「ほほう」

妹「だからはやく行こうよ」

妹友「分かった分かった」

妹友「分かったから手を引っ張らないで。脱臼しちゃうよ」

167: 2014/01/23(木) 21:29:40 ID:hPcl23uk

妹友「入館料って以外と高いんだね」

妹友「水族館なんて小学生以来だから知らなかったよ。こんな現実知りたくなかった」

妹「たしかに水族館は久しぶり」

妹友「小学生の頃はさ、いろいろとあれだったよね」

妹「あれって、どれ?」

妹友「はやく大人になりたーいとか思ってたよね」

妹「そうだね」

妹友「でも今はそう思わないよね」

妹「たしかに」

妹友「大人になったら入館料上がっちゃうよ」

妹「大人になったらにいちゃんが一人暮らしをはじめるかもしれない」

妹友「妹ちゃんのあたまの中はお兄さんでいっぱいなの?」

妹「わたしのあたまの中にはにいちゃんと夢とあんこが入ってるよ」

妹友「アンパンマンか、こげぱんか、それが問題だ」

168: 2014/01/23(木) 21:31:18 ID:hPcl23uk

妹友「おお、すごい。トンネル型の水槽だって」

妹友「きれいだねえ。すごいブルーだよ」

妹「うん」ボケー

妹友「……お兄さんが気になるのは分かるけどさ」

妹友「せっかく水族館に来たんだから、水槽を見たら?」

妹「うん……そうだね」

妹「にいちゃんならもう大丈夫だ、うん」

妹「うん、ぜったいに大丈夫。うんうん。大丈夫、大丈夫……」ギギギ

妹友「半分くらい白目になってるけど、ほんとうに大丈夫?」

178: 2014/01/24(金) 21:29:48 ID:hlMZlQ/s



幼友「想像を遥かに上回る額の入館料を払い」

幼友「ガラス張りの青いトンネルを抜けると」

男友「そこは雪国だった?」

幼友「ちがう」ベシ

男友「いたい」

幼友「雪国の書き出しのあれは“そこは雪国だった”じゃなくて、“雪国であった”だよ」

男友「そうなんだ」

男友「しかしここは雪国ではなく、水族館である」

幼友「なにそれ」

男友「川端康成っぽくない?」

幼友「川端康成にあやまれ」

169: 2014/01/23(木) 21:31:57 ID:hPcl23uk



男友「水族館って魚だけかと思ってたけど、なんかいろいろいるんだな」

幼友「だね。小学校の遠足以来だから、なんか新鮮かも」

男友「カワウソだって」

幼友「かわいい」

男友「オオサンショウウオだって」

幼友「かわいい」

男友「かわいいか?」

幼友「かわいくない?」

男友「べつになんとも」

幼友「分かってないなあ」

170: 2014/01/23(木) 21:35:01 ID:hPcl23uk

男友「どういうところがかわいいわけ?」

幼友「短い手足と、ぽこっとしたあたまと胴体のバランスかな」

男友「すげえ、ぜんぜん分かんねえ」

幼友「しかも英語だとサラマンダーだよ? サンショウウオ」

男友「だからなに」

幼友「かっこよくない? 炎とか吹きそうじゃない?」

幼友「恐怖も希望も正解も間違いもないんだよ? “過信”って言葉が似合うんだよ?」

男友「まあ、うん、名前はね」

171: 2014/01/23(木) 21:36:26 ID:hPcl23uk

男友「今度はラッコ。なんでもいるんだな、水族館って」

幼友「ラッコもかわいいね」

男友「どういうところが」

幼友「どういうところって、目と口元とお腹だ」

幼友「あと顔を洗ってる時。あれがいちばんポイント高いよ」

男友「どんなやつ?」

幼友「こう、目を瞑って手で顔をくしくしとやるやつ」

男友「やってみてよ」

幼友「こういうやつ」クシクシ

男友「かわいい」

幼友「なにが?」

男友「なにもかもが」

172: 2014/01/23(木) 21:37:51 ID:hPcl23uk

男友「幼友さんって動物が好きだったりするの?」

幼友「どちらかというと好きな方かも」

男友「ちょっと意外」

幼友「そうかな」

男友「でもそれがいい。ギャップ萌えってやつだ」

幼友「萌えちゃったの?」

男友「まあね」

幼友「素直に肯定されると返答に困るよ。しかも恥ずかしい」

173: 2014/01/23(木) 21:38:50 ID:hPcl23uk

幼友「で、次は?」

男友「いや、ちょっと待てよ」

幼友「なに」

男友「本来の目的を忘れてないか?」

幼友「ああ、ストーキング?」

幼友「なんかどうでもよくなって来ちゃった」

男友「なんだそりゃ」

幼友「どうせ大したことは起こらないって。わたし達もだらだらしようよ」

男友「幼友さんがそう言うのなら、まあいいか」

174: 2014/01/23(木) 21:40:27 ID:hPcl23uk
男と幼馴染の出番が少なくてもつづく

179: 2014/01/24(金) 21:30:55 ID:hlMZlQ/s


幼友「はい、次だよ。次行こう」

男友「アシカに、アザラシか」

幼友「どっちもいいけど、抱きまくらにするならアザラシだね」

男友「まあ、そうなるか……?」

幼友「いい体型だよね、アザラシ」

男友「中年のおっさんにしか見えないわ」

幼友「陸地で寝転んでる姿はまさしくそれだけどね」

男友「においとかすごそう」

幼友「“ザ・海”みたいなにおいだろうね」

男友「分かる」

180: 2014/01/24(金) 21:32:11 ID:hlMZlQ/s

幼友「次」

男友「なんだあれ、リスみたいな。でも鼻が微妙に長いし、尻尾もリスっぽくない」

幼友「アカハナグマだって。水族館ってなんでもありだね。もはや水と何の関係もないよ」

幼友「でもかわいいから許しちゃう」

男友「それで、水中には濃い色の魚と、ハリセンボン」

幼友「針1000本って盛り過ぎだよね。万里の長城くらい盛ってる。詐欺だよ」

男友「実際の針の本数は400本くらいなんだってさ」

幼友「思ってたより多い。やるじゃん」

181: 2014/01/24(金) 21:33:29 ID:hlMZlQ/s

幼友「じゃんじゃん行こう。次」

男友「熱帯雨林のコーナーだってさ」

幼友「あ、カピバラ」

男友「カピバラって水属性なの?」

幼友「前と後ろの足に水かきがあるよ」

男友「そうなんだ? それは知らんかった」

幼友「やればできる子なんだよ」

男友「たしかに、本気出したらすごそうな顔してる」

幼友「それはどうだろう?」

182: 2014/01/24(金) 21:34:40 ID:hlMZlQ/s

幼友「カピバラの隣には……なにあの赤い鳥」

男友「ショウジョウトキ、だってさ」

幼友「その横の緑のトカゲは」

男友「グリーンイグアナ」

幼友「ファイナルファンタジーの終盤で雑魚として出てきそう」

男友「分からなくはない」

幼友「凛々しい顔してるね」

男友「でも草食性なんだと」

幼友「あの顔で? 詐欺だ」

男友「ギャップ萌えを狙ってるんだろ」

幼友「彼はアスパラベーコン巻き系男子か、なるほど」

男友「女子かもしれない」

幼友「あの顔で? 詐欺だよ」

183: 2014/01/24(金) 21:36:35 ID:hlMZlQ/s

幼友「それで、水の中は」

男友「なんか変わった魚ばっかりだ」

幼友「アロワナにピラルクにピラニア」

幼友「あとナマズみたいなやつと……なにあれ」

男友「タイガーショベルノーズキャットフィッシュ?」

幼友「虎柄で、ショベルみたいな鼻で……キャットフィッシュってなに?」

男友「知らね」

184: 2014/01/24(金) 21:37:24 ID:hlMZlQ/s

幼友「ナマズみたいなやつの方は、レッドテールキャットフィッシュ?」

男友「またキャットフィッシュ」

幼友「両方とも髭が猫みたいだからかな?」

男友「どうなんだろ」

男友「アマゾン川にはこういうのがうじゃうじゃいたりするのかな」

幼友「カオス以外の何ものでもないね」

男友「ていうかカピバラってそんなところで頑張ってたんだ?」

幼友「見た目に依らず彼はすごいやつだ」

男友「好感度上がったわ」

185: 2014/01/24(金) 21:39:11 ID:hlMZlQ/s

幼友「次は……おお」

男友「ペンギンかあ」

幼友「ああー……アザラシもいいけどペンギンもいいなあ……」

男友「なにが」

幼友「抱きまくら」

男友「幼友さんって、抱きまくら好きなの?」

幼友「ないと眠れないんだよね」

男友「なにそれ。いいね」グッ

幼友「萌えてくれた?」

男友「すごい。半端ない。さっきの比じゃないわ」

幼友「よろこんでいいのかな?」

男友「お好きなように」

186: 2014/01/24(金) 21:39:56 ID:hlMZlQ/s

幼友「あの毛むくじゃらは赤ちゃんペンギンかあ」

男友「おお。ぜんぜんペンギン色じゃない」

幼友「かわいいね」

男友「だなあ」

幼友「……」

男友「……」

幼友「……わたし達って、何しにここに来たんだっけ?」

男友「ストーカーだろ」

幼友「だよね……でもまあ、いいよね。ストーカーにだって休みは必要だ」

男友「おお、ペンギン泳ぐのはええ」

187: 2014/01/24(金) 21:42:46 ID:hlMZlQ/s

幼友「ゆるゆると行こう。次」

男友「イルカだ」

幼友「なんか眠そうな目してるように見える」

男友「疲れてるんじゃないの、イルカも」

幼友「イルカも大変なんだね」

男友「かもしれない」

幼友「まあ、部屋の壁がガラスで出来てたら発狂ものだよね」

男友「おちおちソロでのパフォーマンスもできないとか、そりゃ疲れるわな」

幼友「なにそれ」

男友「なんでもないです」

188: 2014/01/24(金) 21:45:04 ID:hlMZlQ/s

幼友「ヘイヘイ、次だ」

男友「グレート・バリア・リーフの水槽」

幼友「うわ、目がチカチカする」

男友「自己主張激しい魚ばっかりだ。色が派手」

幼友「なんかアニメとかゲームとかの世界だよね」

男友「ほんとうにこういう魚っているんだな」

幼友「あ、ウツボだ」

幼友「身体ほとんど隠しちゃってるよ。これは完全にあれだよね」

男友「いま幼友さんがなにを考えたか当ててみせよう」

幼友「どうぞ」

男友「マリオ64だ」

幼友「正解。男友くんに1000ガバス」

191: 2014/01/28(火) 21:04:39 ID:TuPbB/9g



妹「見てよ妹友ちゃん。ジンベイザメだよ。でっかい」

妹友「ああ、うん、そうだね……」

妹友「あー……ごめん、やっぱり無理……」

妹「どしたの。ジンベイザメきらいなの?」

妹友「そうじゃなくて、大きすぎる水槽が怖いんだよね……」

妹「なんで?」

妹友「わたし、ちっちゃい頃にさ、水族館に行く夢を見たんだよ」

妹「うん」

妹友「わたしは家族といっしょに、でっかい水槽の前で、でっかい魚を見てたの」

妹友「そしたら水槽が割れて、水が吹き出して、夢の中のわたしは溺れ氏んだの」

妹友「すごい怖かった。未だに覚えてる」

妹「そうなんだ。たいへんだったね」

妹友「ほんとうにそう思ってる? なんか笑いこらえてない?」

192: 2014/01/28(火) 21:05:23 ID:TuPbB/9g

妹「いっしょにジンベイザメ見ようよ」

妹友「こわい」

妹「大丈夫だって。水槽はそう簡単には割れないって」

妹友「わかってるよ。わかってるけどさあ、割り切れないこともあるんだよ……」

妹「トンネルの方は大丈夫だったのに、ふしぎなもんだね」

妹友「わたしがこわいのは、のっぺりとしてて、尚且つ大きい水槽なんだよ」

妹「トンネルだってのっぺりとしてなかった?」

妹友「たしかにのっぺりとしてたけど、優しい感じがしたよ。でも、この水槽はよそよそしい」

妹「ごめん。わかんない」

193: 2014/01/28(火) 21:06:05 ID:TuPbB/9g

妹「目を瞑れば怖くないって。ほら、行こ。わたしが手を握ったげるから」

妹友「ほんとうに? 離したら怒るよ?」

妹「大丈夫だよ」ギュ

妹友「ん……」ギュ

妹「れっつごー」スタスタ

妹友「ああっ、目を瞑っててもでっかい水槽の気配を感じる……」

妹「すごい」

妹友「ああっ、ああー、もうだめだ、しんじゃう……」

妹「大丈夫だって」

194: 2014/01/28(火) 21:11:01 ID:TuPbB/9g

妹「もう目を開けてもいいよ」

妹友「信じていいの?」

妹「いいよ」

妹友「はっ!」パッチリ

妹友「……」

妹友「ちっちゃい水槽だ」

妹「ちっちゃい水槽だね」

妹友「タコだ」

妹「タコだね」

妹友「あいどらいくとぅびー、あんだざーすぃー」

妹友「いなのくとっぱすぃずがーでん、いんざしぇいど」

妹友「だね?」

妹「そうだね。オクトパス・ガーデンだ」

195: 2014/01/28(火) 21:11:40 ID:TuPbB/9g

妹友「でっかい水槽がないのならもう大丈夫だよ。行こう」

妹「でも振り返っちゃだめだよ」

妹友「どうして?」

妹「でっかい水槽があるから」

妹友「どうして?」

妹「そういう構造の水族館だから」

妹「通路の内側にあるでっかい水槽に沿って、通路の外側のちっちゃい水槽を見るんだよ」

妹友「だったら、わたしはずっとカニみたいに横歩きしなきゃだめなの?」

妹「でっかい水槽を見たくないんなら、そういうことになるかも」

妹「でもいいんじゃないの。カニになった気分で水族館を歩くのも」

妹友「てきとう言いすぎじゃない?」

196: 2014/01/28(火) 21:12:32 ID:TuPbB/9g

妹「カニ歩きだよ、妹友ちゃん」

妹友「これ完全に挙動不審だよね」

妹「ちょっとテンション上がって頭がおかしくなった中学生にしか見えないから大丈夫だよ」

妹友「なにが大丈夫なの? ぜんぜん大丈夫じゃないよね?」

妹「あ、見て。あの水槽の魚、きらきらしてるよ」

妹友「聞いてる?」

妹「イワシだって。光ってるね。イワシなのに」

妹友「聞いてないんだね?」

妹「イワシのくせに」

妹友「イワシになんの恨みがあるの?」

197: 2014/01/28(火) 21:13:22 ID:TuPbB/9g

妹「つぎ行こう」

妹友「待ってよー」カニカニ

妹「ふつうに歩けばいいのに」

妹友「ふつうに歩いたらでっかい水槽が嫌でも視界に入っちゃうよ」

妹「でっかい水槽が割れるのが怖いんじゃないの?」

妹「それとも、でっかい水槽を見るのが怖いの?」

妹友「どっちも」

妹「めんどくさい」

妹友「ごめん」

198: 2014/01/28(火) 21:13:57 ID:TuPbB/9g

妹「ウミガメだ」

妹友「うん」

妹友「あ、見てよあれ。あの金色の魚」

妹「うん」

妹友「ゴールデンスナッパーだって」

妹「うん」

妹友「いい名前だよね。ゴールデンスランバーみたいで」

妹「それはどうかな」

199: 2014/01/28(火) 21:15:18 ID:TuPbB/9g

妹友「ゴールデンスランバーの横を泳いでるあのピンク色の魚」

妹「ゴールデンスナッパーね、うん」

妹友「ピンクマオマオだって」

妹「マオマオ?」

妹友「現地(ニュージーランド)の言葉で魚って意味なんだって」

妹「ということは、和訳すると桃色魚ってこと?」

妹友「ひねりなさすぎだよね」

妹「じゃあ、あの青い方は」

妹友「ブルーマオマオ」

妹「やっぱりそうなんだ?」

妹友「ひねりなさすぎだよね」

200: 2014/01/28(火) 21:16:16 ID:TuPbB/9g

妹友「つぎ行こう」

妹「なにあのカニ」

妹友「タカアシガニだって」

妹「妹友ちゃんよりつよそう」

妹友「なんでわたしと比べちゃうの?」

妹「どっちもカニだもん」

妹友「じゃあどっちの方がおいしそうに見える?」

妹「妹友ちゃんかな」

妹友「よろこぶべきなのかな」

妹「勝負に勝ったんだし、よろこぶべきだよ」

201: 2014/01/28(火) 21:18:27 ID:TuPbB/9g

妹「つぎ」

妹友「あのさ」

妹「なに」

妹友「海月は?」

妹「くらげ。海月はつぎだよ。つぎで最後」

妹友「もう最後なの?」

妹「もうって、入ってから2時間近くは経ってるよ」

妹友「そんなに?」

妹「うん」

妹友「妹ちゃんといると楽しいからかな?」

妹「なにが」

妹友「楽しい時間は早く終わるんだよね」

妹「ふうん」

妹友「照れちゃって、かわいい」プニプニ

妹「べつに照れてもいいじゃん。ほっぺたつつくな」

202: 2014/01/28(火) 21:19:38 ID:TuPbB/9g

妹友「お。あの背中はお兄さんだね」

妹「うん」

妹友「海月の水槽の前で、彼女さんとべったりだ」

妹「うん……」

妹友「いつのまにか手の繋ぎ方がレベルアップしてるよ」

妹「……」

妹友「……」

妹「やっぱり」

妹友「ん」

妹「来なきゃよかったかも」

妹友「そうだね」

203: 2014/01/28(火) 21:20:40 ID:TuPbB/9g

妹友「気に入らないなら壊しちゃえばいいんだよ」

妹「どういうこと?」

妹友「ふたりの間に割って入って、お兄さんの手を掴んで走るとか、どうだろ?」

妹「だめだよ、そんなの」

妹友「もっと綿密な作戦が必要?」

妹「そうじゃなくて」

妹友「そうじゃなかったら、どうなの?」

妹「にいちゃんを困らせちゃだめってこと」

妹友「いいじゃん、どんどん困らせちゃえ」

妹「だめだって」

204: 2014/01/28(火) 21:22:49 ID:TuPbB/9g

妹友「幸せになりたいって願うだけじゃだめだよ。幸せになるためにうごかないと」

妹友「でも妹ちゃんはまた、自分が妥協することで他人が幸せになるとか考えてる」

妹友「悪い癖だと思うよ」

妹「たしかにそれは悪い癖かもしれないけど、状況は今のままでいいんだよ」

妹友「我慢はだめだよ。健康によくない」

妹「我慢じゃないよ。今のままがいい」

妹「にいちゃんが近くにいて、妹友ちゃんがいればいいんだよ」

妹友「もっと欲張ろうよ」

妹「いいんだよ、これで。わたしは幸せだよ」

妹友「むずかしい。哲学だね」

205: 2014/01/28(火) 21:23:47 ID:TuPbB/9g
べつのスレに誤爆してめっちゃ恥ずかしいけどどうにか続くはず

男「明日、いっしょに海月を見にいこう」幼馴染「う、うん」【後編】

206: 2014/01/28(火) 21:34:06 ID:i2zOpEfk

またよりにもよって多くの目があるところに誤爆しましたなー、どんまい

引用: 男「明日、いっしょに海月を見にいこう」幼馴染「う、うん」