1: 2011/05/12(木) 00:59:07.46 ID:9i/QUb+20
ども。
禁書総合スレで垣根×固法先輩の小ネタを投下したものです。
ある程度書き溜めがまとまったので投下してみます。
以下、注意事項です。

・初SSです。過度な期待を抱かずに生ぬるい目で読んでいただけると嬉しいです。
・タイトルの通り垣根×固法先輩です。
 このCPに殺意を覚える方はそっと立ち去ってくれるとありがたいです。
・キャラ崩壊が半端じゃありません。
 クールでダークなていとくんしか認められない方は読まない方がお互いのためかも知れません。
・感想、コメントはガンガン書き込んでください!今後の励みにもなります!

では、次のレスから始まります。

2: 2011/05/12(木) 01:02:08.65 ID:9i/QUb+20
と、その前に軽くこのSSにおける人物設定を紹介しておきます。
前置きともいう。

設定
垣根帝督(17)……主人公。『未元物質』を操る超能力者の序列第二位にして暗部組織『スクール』の元リーダー。
現在は一方通行と同様「闇」から足を洗い、長点上機学園高等部に在籍している。高3。上条当麻や一方通行とはケンカ友達のような関係。「表」の生活に心底満足しているがその分「闇」にどっぷり漬かっていた過去に負い目を感じている。

固法美偉(16)……ヒロイン。第一七七支部に所属する風紀委員。高2。とあるきっかけにより垣根と知り合う。
生真面目な堅物だが男性からのアプローチには免疫がない。好物はムサシノ牛乳。

上条当麻(15)……とある高校に通う男子生徒。あらゆる異能の力を無効化する右手『幻想頃し』をもつがレベルは0.
不幸体質でフラグメイカー。垣根や一方通行とは学校・学年を超えた友人。

一方通行(??)……学園都市第一位の超能力者。暗部組織『グループ』の元構成員。現在は黄泉川家にもどり打ち止め達と暮らしている。
垣根とは顔を合わせればケンカしているが以前の険悪さはない。

では次から本当にスタートです。

3: 2011/05/12(木) 01:03:46.27 ID:9i/QUb+20
それは、ありふれた事件のはずだった。

  「第七学区の路上で不良同士が大声で争っている」
という通報を受け、“彼女”は現場へ走る。

よくある不良(スキルアウト)同士のケンカ―――
この学園都市――巨大な学生の街では日常茶飯事だ。
いつものように現場に向かい、事態を収拾し、しかる処理の後に申し送る。
それが彼女――風紀委員(ジャッジメント)・固法美偉の日常だった。

固法(あの角を曲がれば、通報のあった路地…!)

無辜の学生を危険から守る。それが風紀委員の使命。
だがそんな彼女の“常識”は、

固法「風紀委員です!!おとなし……く……」

??「あん?」

ある青年との出会いによって一変することとなる。

4: 2011/05/12(木) 01:05:02.42 ID:9i/QUb+20
現場に到着した固法が見たものは
ブレザー型(タイプ)の制服を着崩した、
――ハッキリ言えば「チャラチャラした」長身の青年と、
気絶して横たわる5~6人の不良(スキルアウト)たちだった。

青年「風紀委員か……悪いな、もう片付けちまったぜ」

不良ズ「」チーン

固法「……一七七支部の固法といいます。
   あなたかしら?通報にあった『ケンカしてる不良』というのは」

青年「は?ケンカ?おいおい…おれはコイツらが
   カツアゲなんてセコイ真似してたもんだから灸を据えただけで……」

固法「はいはいそういう見え透いた言い訳は詰所で聞きますから。
   とにかく同行願えますね?」

青年「おい、ちょっと待っ…」

??「そ、その人の言ってることは本当です!」

5: 2011/05/12(木) 01:05:50.44 ID:9i/QUb+20
固法「えっ?」

固法の氏角になっていた青年の背後から
小柄な男子生徒が顔を出した。
中学生くらいだろうか。いかにも気の弱そうな少年である。

男子生徒「ぼ、ぼくがコワイ人たちに絡まれてるところを
     そのひとが助けてくれたんです。
     ぼくのケータイにその時のやり取りが録音してあるので
     それが証拠になると思います」

固法「そ、そうだったの……」

どうやら「不良同士のケンカ」というのは
通報者の勘違いだったようだ。

青年「話は終わったか?じゃ、オレは失礼するぜ」

自らの容疑が晴れたことを確かめると
青年は踵を返して足早に歩き出す。

6: 2011/05/12(木) 01:07:02.52 ID:9i/QUb+20
固法「あっ、ちょっと待って…!」

青年「あ?何だよまだ何か用か?」

固法「えっと、その…ご、ごめんなさい!」ペコリ

青年「へ?」

固法「その…私の早とちりで疑ってしまって申し訳ありません。
   風紀委員として恥ずべきことだと思います」

青年「あー、いーっていーって、誤解が解けたんなら。
   オレがあのザコ共をボコボコにしたのは事実なんだし」

固法「ですが……」

青年「!……そうだな、どうしてもアンタの気がすまないってんなら…」

青年はなにやら愉快なことでも思いついたようにニヤリとほほ笑み、
固法に一歩、大股で詰め寄ったかと思うと、

7: 2011/05/12(木) 01:07:45.30 ID:9i/QUb+20






青年「オレと一回デートしてくれたらチャラ、ってのはどうだ?」



とんでもないことを言い出した。

8: 2011/05/12(木) 01:08:54.01 ID:9i/QUb+20
固法「なっ……///」

青年「フッ、冗談だよ、じょーだん。真っ赤になっちゃってかわいいねぇ」ニヤニヤ

固法「かっ、からかわないでください!」

青年「ハハッ、んじゃ、縁があったらまた会おうぜ、お嬢さん♪」

固法「待って!……今回の件について調書を作成しなくてはなりませんので、
   最後にお名前を伺います」

背後の固法に手を振りながら今度こそ立ち去ろうとする青年。
それを固法はできる限り平静を装いつつ呼び止める。

少女の声に青年は振り向き、
不敵とも余裕ともつかぬ笑みをうかべながらこう告げた。





青年「――――垣根」

垣根「垣根 帝督だ」

20: 2011/05/12(木) 20:16:58.44 ID:x6u5Wxpa0
------------------------------------
30分後 風紀委員活動第一七七支部

固法(ああもう!何なのかしらあの人!)

固法(人が真面目に謝ってるのに、デ、デ…デート一回だなんて…!)

固法(おまけに「お嬢さん」って何よ!私はもう高2よ!?)


初春「固法先輩どうしたんでしょう……なんだかすっごくイライラしてますけど」ヒソヒソ

黒子「さぁ…でも心なしか顔が赤い気がしますの」ヒソヒソ

初春「白井さんが言うこと聞かないから頭に血が上ってるんじゃないですか?」ヒソヒソ

黒子「何でそうなるんですの!それに今月はまだ一枚も始末書は書いてませんの!」ヒソヒソ!

21: 2011/05/12(木) 20:17:59.79 ID:x6u5Wxpa0

固法(年上……なのかな。背とかすっごく高かったし)

固法(それに私のことを……お、お嬢さんなんて呼ぶくらいだし///)

固法(……間近でみたあの人の顔すごく綺麗だったな…)

固法(まつ毛とかも女の人みたいに長くて…)

固法(……って何考えてるのよ私は!)ブンブン

初春「あ、頭ブンブンしてますよ」ヒソヒソ

黒子「……本当にどうしてしまわれたのでしょう」ヒソヒソ

固法(でも…何かひっかかる)
固法(あの人の名前……「カキネ」さん、だったわよね)

固法(どこかで聞いたことがあるような………)


22: 2011/05/12(木) 20:19:42.80 ID:x6u5Wxpa0

-----------------------------------------
翌日 第7学区 ファミレス『ジョイナス』
垣根「ってなことがあったんだけどよ、
オレってばカッコよすぎじゃない!?」

上条「垣根のドヤ顔が目に浮かぶようだな……」

一方通行「ウゼェ」

垣根「それにしてもあの風紀委員のコはかなりレベルが高かった……
正直まじめに誘えばよかったと後悔してる」

一方「ついでに生まれてきたことも後悔しやがれクソメルヘン」

垣根「うるせーな、話の腰折んなよクソモヤシ」

一方「ンだとコラァ!!!ぶっ頃すぞイカレメルヘン!!!!」ガタッ

垣根「上等だ表出ろやゴルァ!!!」ガタガタッ

上条「だぁーもうやめろって二人とも!」

一方「チッ」ガタン

垣根「クソッ」ガタン

上条「ったく、お前ら気ィ短すぎだろ…」

23: 2011/05/12(木) 20:21:06.38 ID:x6u5Wxpa0
垣根「…………オレはさ、ずっと考えてたんだよ」
垣根「オレとお前らの決定的な違いは何かってことをよ」
垣根「そして昨日ようやくその答えがわかった!」

上条「そ、それは…?」


垣根「決まってるだろ!“ヒロイン”だよ!」


一方「はァ?」

垣根「上条はシスターちゃんや第三位、モヤシは打ち止めちゃん」

垣根「オレにはお前らみたいに体を張って守るべきヒロインがいねえ!」

垣根「そしてその一点が!
お前らヒーローとオレみてえなモブを隔てる境界線だったんだよ!!」

上条「インデックスやビリビリは別にそんなんじゃ……」

一方「……打ち止めをそンな単純な枠でおしはかるンじゃねェ」ボソッ


24: 2011/05/12(木) 20:22:13.46 ID:x6u5Wxpa0

垣根「特に上条ぉ!!」

上条「は、ハイィ!?」

垣根「お前に到ってはその二人だけじゃねえ!」

垣根「お前はことあるごとにあっちこっち指数関数的にフラグを立てやがって………」

垣根「お前はあれか?歩くフラグ工場ですか?
   工場長はオレだ!って誰が工場長だ!!」テーブルバン!

上条「じ、自虐ノリツッコミ…(しかも意味が全くわからん)」

一方「あーなンかスイッチ入っちまったなァ」

垣根「だがそんな工場ちょ……じゃない、脇役ライフも終わりだ!」

垣根「オレだけのヒロインが現れれば、オレの、オレ自身の物語が始まるんだ!」

垣根「主人公《ヒーロー》に、オレはなる!!!」ドン!

上条「な、何か知らないけど燃えてるな…」
上条(垣根はもっとこう…スマートな奴だと思ってた)

一方「くっだらねェ」プイ

上条「それで?そのデートってのにはいつ誘うんだ?」

垣根「……………えっ」

上条「えっ、て」

25: 2011/05/12(木) 20:23:17.13 ID:x6u5Wxpa0

垣根「え、ちょっと待って」

垣根「何?今の流れで何でそうなるの?」

上条「何でって、そこまで気合い入ってるなら
とっくに連絡先くらい交換してるものと、てっきり」

垣根「何?お前って初めて会った女の子にその場でメアドとか訊ける人?」

上条「」

一方「やめとけ三下ァ。こンなコミュ障の童Oメルヘンに
   そんな度胸あるワケがねェ」

垣根「童Oじゃねーよ!童・貞・じゃ・ねーよ!!」

一方「じゃあメアドの一つでも訊けたのかよ」

垣根「…………………訊けませんでした」ズーン

一方「ついでに童Oじゃねェってのもウソだろ?ン?さっさと白状しやがれ」

垣根「はい…………ワタクシ垣根帝督は薄汚い童O金髪ブタ野郎です……」ズズーン

上条「なにもそこまで自分を卑下しなくても」

一方「いい薬だァ」ケケケッ

垣根「」ズゥーン


26: 2011/05/12(木) 20:25:05.42 ID:x6u5Wxpa0

上条「ま、まぁとにかく、連絡先は訊けなかったんだな?」

垣根「だってしょうがねーだろぉ!?自分で言ったセリフが急に恥ずかしくなって
   一刻も早く立ち去りたかったんだからよぉ!」

上条「あ、恥ずかしいセリフって自覚はあったのか」

一方「口癖だからなァ」

垣根「何が『真っ赤になっちゃってカワイイ』だよ!
   こちとら『冗談だよ』っつった辺りから
   赤くなりそうなのを必氏で我慢してたんだよぉ!!」

上条「すぐじゃん!ナンパしてすぐじゃん!」

一方「この純情ヘタレメルヘンがァ」

上条「ぷっ!じゅ、純情ヘタレメルヘン……」プルプル

垣根「くそっ、恥ずかしい…
恥ずかしすぎて氏ぬ…むしろ氏にてえ」

一方「『縁があったらまた会おうぜ、お嬢さん♪』」ププッ

垣根「グフッ!」

上条「『――――垣根。垣根 帝督だ』」キリッ

垣根「やぁ~めぇ~ろぉ~よぉ~!」ジタバタ


27: 2011/05/12(木) 20:27:22.60 ID:x6u5Wxpa0

一方「あァー今日で半年分くらい笑ったわ」プププ

垣根「」チーン

上条「ククッ…まあ元気出せよ垣根。お互い学園都市にいるうちは
二度と会えないってわけじゃないんだし」

垣根「そうだよな!」ガバッ

上条「立ち直り早っ!」

一方「超能力者(レベル5)ナメンなァ」

垣根「このくらいで諦めてちゃ永久に主人公になんてなれねえ!
   もとよりオレの『未元物質』に常識は通用しねえ!」キリッ

上条「ホントに復活した…」

一方「アホらし……そろそろ出るかァ」

上条「そうだな、ずいぶん長居した気がするし」

一方「っつーことで今日はメルヘンのオゴリなァ」

垣根「何でだよ!」

一方「……純情ヘタレメルヘン」ボソッ

垣根「しょうがねーな。あ、小銭切らしてっから端数だけ貸しといて?」キリッ

上条「変わり身も早っ」

一方「それも超能力者たるゆえんだァ」


28: 2011/05/12(木) 20:28:49.79 ID:x6u5Wxpa0


上条「じゃあ二人とも、また今度な」

一方「あァ」

垣根「おう!シスターちゃんと打ち止めちゃんにもよろしくな」

上条「ああ」

一方「打ち止めはお前に『しね』って言ってたけどなァ」

垣根「ウソつけよ!あの天使みたいな打ち止めちゃんが
そんなお前みたいなこと言うわけがないだろ!」

一方「ほんの冗談だろォが」

垣根「お前の冗談はいちいち心の臓に深々と突き刺さるんだよ!」

上条「ハハハっ…それじゃあな」テクテク

一方「チッ。あばよメルヘン。明日生きてたら学校でなァ。
   オレが引導渡してやっからよ」ツカツカ

垣根「モヤシてめっ……それはこっちのセリフだクソボケぇ!」


垣根「………帰るか」

29: 2011/05/12(木) 20:30:41.17 ID:x6u5Wxpa0

友人たちと別れた垣根は足取りも軽く家路をゆく。

垣根(完全下校時刻にはまだ余裕があるな)

垣根(あのCDショップにでも寄ってみるか)

先ほどのファミレスから家に帰る道の途中にあるそのCDショップは
新譜が発売日よりも前に店頭に並ぶことも多く、
垣根がひそかに贔屓にしている店でもあった。

垣根(そろそろユニ○ンの新譜が出るころだからな)
垣根(あの店なら入ってるかもしれねえ)

新たな楽しみを見つけた垣根の歩調はさらに早くなる。



垣根(なんかいいよなあ、こういうの)


30: 2011/05/12(木) 20:31:41.26 ID:x6u5Wxpa0

垣根は満足していた。

垣根(普通に学校に行って、放課後にダチとたむろって、
バカ話で盛り上がって……)
垣根(まああのモヤシはムカつくけどよ)

このひどくありふれた「表」の生活に。
垣根にとってやっと手に入れた「自由」は、
初夏の渓流のように日の光を受けてキラキラと光り輝いていた。

しかし。


垣根(『スクール』にいたころとは大違いだ……)
垣根(あの頃はオレが人並みの学生生活を送れるなんて
夢にも思わなかった)

今の満ち足りた日々に思いをはせるほどに、
過去に置いてきたはずの「闇」が頭をもたげる。

垣根(オレみてえなクズがよ…)

さながら、目を血走らせた毒蛇のように。


36: 2011/05/13(金) 17:52:43.08 ID:AT81i2F90
オマケ「とある男子の蛇足会話(ボーナストラック)」

垣根「ちょっと待て」

上条「えっ?」

一方「あァ?」

垣根「いや、冷静に考えてみたらよ」

垣根「お前らも童Oだよな?」

上条「なっ……///」

一方「童Oコジらせてトチ狂ったかイカレメルヘン」

垣根「うるせえ!」

垣根「おかしいと思ったんだよ…」

垣根「人のこと散々童O童Oってバカにしやがって」

垣根「ウツ入ってたときは気付かなかったけど
   お前らだって人のこと言えねえじゃねーか!バーカ!」

一方「バカはテメェだこのクソメルヘンがァ!」

一方「打ち止めを見てみろ!どォ見ても外見年齢小学生だろォが!」

一方「おまけに実際年齢は0歳なンだぞ!そんなガキに手ェ出してみろ!
   同居人に逮捕されるわ!」

一方「それともテメェのメルヘン脳にはそンな最低限の常識も通用しないンですかァ!?」

垣根「そういうことを言ってるんじゃねーよ!あと良識はあるわ!ナメんな!!」
………! ……!? …………!! ………‥‥・・・・・・・

男子高校生の会話はつづく。

とある男子の蛇足会話(ボーナストラック) おわり

42: 2011/05/14(土) 02:10:08.61 ID:FfjJM7h50

『スクール』
かつてこの学園都市に存在した「闇」の一つである。
垣根はその小組織のリーダーを務めていた。

『ピンセット』と呼ばれるガジェットをめぐる戦いを発端とする暗部抗争で、
一方通行の属する『グループ』によって壊滅した。
抗争に敗れ、瀕氏の重傷を負った垣根は統括理事長・アレイスターによって回収され、
自身の能力である『未元物質』を吐き出すただの肉塊になり下がった。

氏んではいない。しかし「生きている」とは到底いえない状態。
才能を最後の一滴まで絞り取られ、
用済みになればゴミのように捨てられる。
それが、この街の闇に呑まれた者の末路。


――――そのはずだった。

垣根(あいつらには本当に感謝しねぇとなあ)

白髪紅眼の少年が、黒髪の少年と共に再び垣根の前に現れるまでは。

43: 2011/05/14(土) 02:11:43.45 ID:FfjJM7h50

垣根は理解していた。
この平凡な生活が、かつての垣根が何よりも渇望したものだということを。
そしてそれを自分が手に入れられたのは、
あの二人の“悪友”たちのおかげだということを。

今の自由は垣根が自らの闘いの果てに勝ち取ったものだ。
しかし、垣根をその戦場(ステージ)へと導いたのはまぎれもなく彼らであった。
垣根があの二人を『ヒーロー』と呼ぶのは皮肉でも嫌味でもない。

垣根にとっても、あの二人の少年は間違いなくヒーローなのだ。

垣根(ま、あいつらの前じゃぜってー言わないけどな)

垣根の復活を端緒として学園都市の裏側で起こったあの「戦争」により、
全ての暗部組織は壊滅、または解散した。
もともと行くあてのない人間が寄り集まってできた組織がほとんどであるため、
現在も行動を共にしている者は少なからずいるらしい。
が、それはまた別の誰かの「物語」である。

かくして「学園都市の」闇はひそかに消滅した。
しかし過去と言う名の闇は、今でも垣根の心にまとわりついていた。

日の当たる道を歩み始めた垣根のうしろに、
色こく伸びる影のように。


44: 2011/05/14(土) 02:13:08.67 ID:FfjJM7h50


垣根(……らしくねえ、よな)

垣根(黄昏どきになるとどうもしんみりしていけねえ)

序列第二位の超能力者として強固な《自分だけの現実》(パーソナルリアリティ)をもつ垣根は
激情に身を任せることはあっても思索の海に溺れて自分を見失うことはごくまれにしかない。
有り体に言えばウジウジ悩むことがなく立ち直りが異常に早い。
『立ち直りの早さが超能力者(レベル5)たるゆえん』、
という一方通行の言はあながち間違いではない。

垣根(まあそれはそれとして)

しかしそれはあくまで垣根の「能力者としての」一面であり、

垣根「なんでオレにだけヒロインがいねえんだよォォォォォ!」

年頃の男子高校生としての悩みが尽きることは、ない。


垣根(思い出したらまた腹立ってきた…)

垣根(あいつらのまわりは女だらけなのに、
   どうしてオレにはこんなに女っ気がねえんだよおおおおおお)

垣根は銀髪碧眼の美少女シスターと暮らす黒髪の少年と、
第三位の遺伝子をもつ二人の少女、家主である巨Oの警備員、
そして元研究者の女性という女所帯で生活する少年を思い浮かべる。

垣根(リア充氏ね!チ○コもげて爆ぜろ!!)

垣根(特に一方通行!お前は代わりにモヤシでも生やせ!)

垣根(そして打ち止めちゃんに鼻で笑われろ!!)

脳内の悪友たちに垣根はあらん限りの罵倒をぶつける。
いかにヒーローといえども、ムカつくものはムカつくのである。

45: 2011/05/14(土) 02:14:44.98 ID:FfjJM7h50


垣根(しょうがねえといえばしょうがねえんだけどよ)

垣根(ガキのころから研究所暮らしで女っ気ゼロだったし)

垣根(女に興味が出始める年のころにはもう「裏」にどっぷりだったしよ)

垣根が長らく身を置いていた世界では
仕事上の付き合いはあっても男女の深い関係をもつものは皆無だった。
そうした馴れ合いが氏に直結するからである。
また垣根自身、「アレイスターとの直接交渉権」という唯一無二の目的にとりつかれ、
女性に目を向けることさえしなかった。

垣根(ちょっと待てよ)

垣根(ってことはもしかしてオレ……)






垣根(初恋もまだしたことがない、ってことになるのか?)





46: 2011/05/14(土) 02:16:07.05 ID:FfjJM7h50

垣根(だ、)

垣根(だ……、)

垣根(ダッッッセェェェェェェェェ!!!)

垣根(いくらなんでもそれはねえだろオレ!)

垣根(今いくつだと思ってんだよ!17だぞ!17!!)

垣根(今日び中坊でももっとススんだお付き合いしてるわ!)

垣根(それなのに彼女どころか初恋もまだとか!!)

垣根(あ り え ね え !!!)ジタバタジタバタ

ヤダーナニアノヒトー
ナンカヒトリデジタバタシテルー
キモーイ
デモチョットカッコヨクナーイ?
エーアンナノガイイノー?ヒクワー
クスクス・・・・・・・

垣根(!……ちょ、ちょっと取り乱しすぎたか)ゲフンゲフン

47: 2011/05/14(土) 02:16:56.94 ID:FfjJM7h50
垣根(しかしこれはちょっとした事態だ)

垣根(見た目こんなチャラチャラした野郎が童Oでしかも初恋もまだとかどんなギャグだ)

垣根(オレには上条みたいにフラグメイキングのアビリティがあるわけでも
   モヤシみたいに脳波で物理的に結ばれた相手がいるわけでもねえ)

垣根(つまり一つ一つの出会いを大事にしなくちゃならねえってことだ!)

垣根(………考えれば考えるほど惜しいことをした)ズーン

垣根(いや、いつまでも逃がした魚の話をしてても仕方がねえ)

垣根(人は常に未来を向いて生きていかなきゃならねえのさ!)

垣根(とにかく!オレはオレの物語を紡ぐために!)

垣根(一刻も早くオレだけのヒロイン……いや彼女を………
そうでなくても女友達を!)

垣根(目指せ!脱・ヘタレメルヘン!!)

途中からだんだん目標が低くなっていることにも、
自分だけのヒロインという発想がすでにメルヘンであることにも気付かない垣根であった。

48: 2011/05/14(土) 02:17:44.20 ID:FfjJM7h50
垣根(………うお、いつの間にか日がくれそうだ)

垣根(警備員に目ぇ付けられてもうぜぇしとっとと用事済ませて……ん?)

そこで垣根は街の喧騒にまぎれた“異変”に気付いた。

オイシカトシテンジャネーヨ!

イヤッ!ナニヲスルノハナシナサイ!

ウルセェコッチコイ!

垣根「チッ……この街の闇をぶっ潰したところであの手のバカは減らねえな」

垣根はそうつぶやくと声のする方へ駆けだした。
そしてその瞬間、垣根と、とある少女の「物語」が動き出したことに、
当の垣根自身、まったく気づいていなかった。




49: 2011/05/14(土) 02:18:59.35 ID:FfjJM7h50
-----------------------------------------

同時刻 第七学区 路地裏

固法(不覚…!)

風紀委員・固法美偉は腹を立てていた。
目の前の不良たちにではない。己の不甲斐なさにである。
腕章をつけた状態で、しかもパトロール中に暴漢に囲まれ、
あまつさえ拘束されるなど情けないにもほどがある。

固法(いつも白井さんにあれだけキツく言っておきながらこのザマ…風紀委員失格ね)

同じ支部の後輩である白井黒子は任務の度に独断専行に走るきらいがあり、
そのたびに固法が灸をすえている。

しかし自分の身を守れないということは、仲間を危険に晒すという意味で
任務中の単独行動と同じくらい、いやそれ以上の失態であった。

だがこうなってしまった以上仕方がない。
彼らをこれ以上増長させないよう、毅然とした態度で固法は声を張り上げる。

固法「離しなさい!あなた達自分が何をしてるかわかってるの!」

50: 2011/05/14(土) 02:19:55.03 ID:FfjJM7h50

不良A「よーく分かってるぜぇ、風紀委員さんよぉ!」

不良B「てめぇにゃあダチが世話ンなった礼をたっぷりしてやらなきゃならねえんだよぉ!」

固法「私が風紀委員だと知って……あなた達まさか昨日の!」

不良C「ご名答ォ!」

不良A「てめぇにしょっぴかれた緋襲たちの分まで存分にかわいがってやるからよ!」

腕章を外しているのならともかく、
普通スキルアウトたちは自分たちから風紀委員を狙うことはまずない。
だがそれでもわざわざ腕章をつけた風紀委員を狙って襲撃する動機は一つしかない。
―――報復。
なるほど、昨日逮捕したスキルアウトの中に
確かに緋襲蒼衣(ひがさねあおい)という名前の男がいた。
彼らはその意趣返しのため、彼らを逮捕した固法を狙ったのだ。


51: 2011/05/14(土) 02:20:42.35 ID:FfjJM7h50

固法「そう……でも残念ね。さっき詰所に緊急信号を送ったわ。
   あと五分もしないうちに応援がくるわ」

風紀委員に支給される通信端末にはある機能が追加されている。
緊急信号(エマージェンシー)。
喫緊の場合にかぎり、ボタンひとつで詰所に自分の位置情報と
あるメッセージを送信することができる。
その意味は、
『緊急事態。現場ニ急行サレタシ』
である。
このメッセージが送信された場合、
支部に詰めている他の風紀委員が至急現場へ直行することになっている。
だが。

不良B「それはコイツで呼んだのかぁ?」

固法「!それは……!!」

固法の背後で腕をねじり上げている不良が
ニヤニヤしながら取り出したのはまぎれもなく固法の端末だった。

不良B「どうせコイツのGPS機能で位置を特定するんだろうが…
    こうしちまえばどうかなぁ!!」

バキィ!
不良によって力の限り踏み砕かれた携帯は、
誰の目に見ても最早使い物にならなかった

不良A「これでアンタの居場所を知ってるお仲間はだれもいないってわけだ」


52: 2011/05/14(土) 02:21:29.64 ID:FfjJM7h50

固法「くっ…」

じわり、
と、固法の額にいやな汗がにじんだ。

不良C「仮に万一見つかったとしても、この路地の入口には見張りを立たせてある。
俺らの中でも指折りの“腕利き”をなあ!」

不良B「風紀委員をぶちのめすのは骨が折れるだろうが時間かせぎには十分すぎるだろ?
    てめぇをキズモノにすんのにはよぉ!」

不良たちをキッと睨み返しながらも、
固法の心は恐怖に蝕まれつつあった。

怖いイヤダだれかハヤクこわい
コワイ早くダレカ怖いまだなの誰かハヤク
マダ怖いコナイこわい誰かコワイはやくダレモこわいコナイ
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い
こわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわい
コワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイ


                誰か!!




??「くだらねえ真似してるじゃねえか」



53: 2011/05/14(土) 02:22:23.23 ID:FfjJM7h50


固法の心が折れそうになったその時、
路地裏に声が響いた。
それまでそこに存在しなかった声。

そしてその声の主は、
不良たちでも、応援にきた風紀委員の仲間でもなく、



垣根「その見張りってのはコイツらのことか」

昨日出会った金髪の青年だった。



54: 2011/05/14(土) 02:24:59.59 ID:FfjJM7h50


垣根「そらよっ」

ドサドサッ
青年は自分よりもさらに身長の高い大男二人を
まとめて路上に蹴り転がした。

不良C「!?湯走(ゆばしり)!皆焼(ひたつら)!!」

そう呼ばれた二人からは返事がない。
完全に気を失っているようだった。

垣根「ぬるすぎる。時間かせぎどころか準備運動にすらなりゃしねえぞ」

不良B「テメェ……自分が何したかわかってんのか!」

垣根「この程度で“腕利き”とは笑わせやがる。
今度からはマニー=パッキャオでも連れてくるんだな」

不良と青年の会話がかみ合っていない。
というより、青年が彼らの言うことを無視しているようだった。

固法「あ、あなた……こんなところで何してるの!?」

不良たちの視線が青年へ集中したことで冷静さを取り戻した固法は、
闖入者である「一般人」の青年に声を荒げる。

垣根「あぁ?…!…何だよ、昨日の風紀委員のお嬢さんじゃねーか」

この人は本当に昨日の青年だろうか。

垣根「こんなところで会うなんざよっぽど縁があるらしいな」


風体も人相も全く同じであるにも関わらず、固法にはその確信がもてなかった。
青年の浮かべる笑みが、昨日自分に向けられたものと
あまりにもかけ離れていたから。

その笑みがあまりにも、

暗い感情に満ち溢れていたから。


55: 2011/05/14(土) 02:26:18.69 ID:FfjJM7h50
-----------------------------------------


不良たちに囲まれ、片腕をねじり上げられる少女。
その光景を目の当たりにした瞬間、垣根帝督は自分の顔がカッと熱くなるのを感じた。

―――――ヤメロ

垣根「くだらねえ真似してるじゃねえか」

――――――ヤメロヨ

垣根「その見張りってのはコイツらのことか」

不良「!?―――――!―――――!!」
 
 ―――コレ以上

(失――、―嬢―ん)

垣根「ぬるすぎる。時間かせぎどころか準備運動にすらなりゃしねえぞ」

不良「―――……――――――――!」
  
―――コレ以上思イ出サセルナ

(垣――督。―――を探―て―んだ――)

不良たちが自分に向かって何かを叫んでいる。
しかし「あの日」のノイズと内から湧き上がる咆哮にかき消され、
垣根の耳に届くことはなかった。

56: 2011/05/14(土) 02:27:08.20 ID:FfjJM7h50

垣根「この程度で“腕利き”とは笑わせやがる。
今度からはマニー=パッキャオでも連れてくるんだな」

固法「―――た、――なとこ―で何してるの!?」

垣根「あぁ?…!…何だよ、昨日の風紀委員のお嬢さんじゃねーか」

垣根はそのとき初めて、その少女が昨日出会った風紀委員であることに気がついた。

垣根「こんなところで会うなんざよっぽど縁があるらしいな」

そんな軽口を叩いて見せる垣根であったが、
実際は己の中で暴れまわるどす黒い感情に呑まれまいと必氏だった。

――――同ジダ

(――いう子が―こへ行っ――知らな――な)

―――――コイツラハ同ジダ

(最終―号っ――れてる―だけ―)

――――――「アノ時」ノ……ト

(そう―ね。その前―もう少―自――探してみ―。ありが――)

57: 2011/05/14(土) 02:28:24.72 ID:FfjJM7h50
固法「くだらないことを言ってないで早く逃げなさい!
ここは一般人の出る幕じゃないわ!!」

―――ヤメロ

(ああそ―だ、お嬢さ―)

――――ソンナ強イ目ヲスルナ

(言い忘れ――とがある―だけど)

――――――――ソンナ目ヲシタラ


不良「デカい声出すんじゃねぇ!!!」

バシィっ!

固法「あぅっ!!」

垣根「!!!」




         『テメェが最終信号と一緒にいた事は分かってんだよ、クソボケ』





瞬間。
垣根の視界は白く燃え上がった。

58: 2011/05/14(土) 02:29:26.46 ID:FfjJM7h50




垣根「―――――ムカついた」

不良「あぁん?」


バサァッ!!
直後、垣根の背後に銀白色の翼が展開し、

垣根「ナメてやがるな。よほど愉快な氏体になりてえと見える」

圧倒的な破壊が、始まった。



59: 2011/05/14(土) 02:30:12.09 ID:FfjJM7h50


――――

――――――――

――――――――――――――

垣根「………他愛もねえ」

固法(強い………一瞬で………)

路地に静寂が舞い降りた。
垣根の目の前には5人の不良が気を失って転がっている。

不良A「グっ…………」

不良B「ガァ……………」

手足が不自然な方向に曲がっている者もいたが、全員息はあるようだ。

そんな中、固法は自分の目の前で繰り広げられた光景の「意味」を考えていた。

固法(この羽……本物じゃない。これがあの人の能力……?)

固法の能力はレベル3の透視能力(クレアボイアンス)。
その透視能力を以て路上に散乱している「羽」を解析したところ、
内部構造、組成、どちらも本物の羽毛とは程遠いものであった。

固法(そんな……ゼロから物質を創造する能力なんて……まさか!)

そこで固法は一つの結論にたどり着く。
『この世にあるはずのない素粒子』を創り出す能力者の存在。
そして、『カキネ テイトク』という名前。

固法「まさか…………第二位の超能力者……………」



固法「あなたが……《未元物質》……?」




60: 2011/05/14(土) 02:31:42.99 ID:FfjJM7h50


垣根「バレちまったか………まあ最初から隠すつもりはなかったんだけどよ」

垣根「……立てるか?」

地面にへたりこんでいる固法に手を差し伸べる垣根。
だがその手が固法の肩にふれるその寸前

固法「!」ビクッ

垣根「ッ………」

彼女の眼にわずかな怯えの色が浮かんだのを、垣根は見逃さなかった。



61: 2011/05/14(土) 02:32:55.21 ID:FfjJM7h50


――まただ。


垣根「悪ぃ、怖い思いさせちまったよな」

差し出した手を引っ込め、フイと固法から視線をそらす垣根

固法「あっ………」


―――また、繰り返した。


垣根「もうすぐ他の風紀委員が来るんだろ?その前にお暇させてもらうぜ」
     「ごめんなさい、そんなつもりじゃ…」


――――あの頃と何も変わってねえ。


垣根「こんなトコ見られたらどう見てもオレが暴行犯だからな」
             「おねがい、ちょっと待って……………」

―――――――――オレは、最低のクズだ。

垣根「………………………じゃ」


62: 2011/05/14(土) 02:34:06.40 ID:FfjJM7h50

垣根は路地の出口へ逃げるようにして走り出す。


――何がオレの物語だ、何がヒーローだ、何がヒロインだ!

――オレはあの頃と、『スクール』にいた頃と何一つ変わっちゃいねえ!

――暴力を振り回すことしか、恐怖で相手を蹂躙することしかできねえ!

――――――――悪党ですらねえ、ただのクズじゃねえか!!


変われると思っていた。
変われたと思っていた。
過去と、「闇」と決別し、いつかあの二人のようになれると思っていた。
悲劇という『幻想』も、絶望という『現実』も頃したあの二人のように。

だが実際はどうだ。
感情のままに暴虐を振るい、少女に恐怖を植え付けることしかできなかった。

もうやめよう。
終わりにしよう。
ヒーロー気取りも、あの少女にかかわるのも。
……自分の存在が恐怖にしかならないのなら。





             ??「待って!!!!」





63: 2011/05/14(土) 02:35:03.82 ID:FfjJM7h50


足が止まる。

バカな。

あり得ない。

誰だ?

誰がオレを呼び止める?

こんなどうしようもねえオレを呼び止めるのは、

いったいどこのどいつだ?

垣根は足が震えそうになるのを必氏でおさえ、ゆっくりと振り向いた。


固法「ハァ………ハァ………あなた……足…速すぎ……ハァ……」

そこには、先ほどの少女がひざに手をつき、肩で息をしながら立っていた。
―――――まるで、走って誰かを追いかけてきたかのように。



64: 2011/05/14(土) 02:36:17.06 ID:FfjJM7h50


垣根「アンタ……」

固法「あのあとすぐに…応援が来て……
その子にあとを任せて…追いかけてきたの…」ハァ…ハァ…

垣根「何で…………」

―――何でオレなんか追いかけてくるんだよ。

固法「だって……ハァ……お礼も言わせて…くれないんだもの…」

垣根「礼だと……」

―――自分を怖がらせた相手に何の礼をするっていうんだよ。

固法「ええ……そうよ」

そこで固法は息を整え、垣根をまっすぐ見すえてからこう告げた。

固法「先程は危ないところを助けていただき、ありがとうございます」ペコリ

その眼に、先ほどまでの恐怖は微塵も感じられなかった。

垣根「!」


65: 2011/05/14(土) 02:37:39.60 ID:FfjJM7h50

固法「それで、……あの…昨日のお詫びも兼ねて、何かお礼をさせてほしいのですが…」

垣根「…やめてくれ、別にそんなつもりでしたことじゃね…」

固法「わたしの!気が済まないんです!」

なおもしつこく断ろうとする垣根に、固法は意を決して詰め寄った。

固法「あなた昨日言ったじゃない。私の気が済まないなら、その…
で、デート一回でチャラにするって!」

垣根「そりゃアンタ言ったけどよ…」

固法「とにかく!もう私決めましたから!」

垣根「何を?」

固法「で…デートでもどこでも好きなだけお付き合いします!」

垣根「はぁ!?」


66: 2011/05/14(土) 02:38:37.50 ID:FfjJM7h50

固法「け、携帯出してください!」

垣根「何で!?」

固法「は・や・く!」

垣根「お、おぅ」スッ

固法の剣幕に押され、思わず携帯電話を差し出す垣根。
固法はその携帯をひったくると、自分の携帯とつき合わせて何かの操作をしだした。

固法「これを……こうして」ピッポッパッ

固法「はい。私の連絡先を登録しておきました。日にちや時間はまた追って連絡します」

垣根「おいアンタちょっと待っ…」

固法「では私はこれで。まだ現場検証が残ってますので」


垣根「待てって!」


67: 2011/05/14(土) 02:40:00.98 ID:FfjJM7h50

大声で呼び止めたあとに、垣根はあることに気付いた。

垣根「…アンタの名前さ。まだちゃんと聞いてなかったからもう一回教えてくれよ」

垣根「ほ、ほら!オレってダチとか知り合いとか結構多いからよ!
   電話帳でアンタの名前見つけられなかったら困るじゃねーか」

友人らしい友人などあの二人とその関係者くらいしかいないし、
電話帳など検索すれば名前などすぐに出てくることくらい分かってる。

しかし垣根は何故だか、
本当に何故だかわからないが、
彼女の口から直接名前を訊きたいと思った。

そして彼女はニッコリとほほ笑み、
垣根の言葉に答えた。

固法「――――固法」

固法「固法 美偉よ」



それは、最近どこかで聞いたような言い方だった。



68: 2011/05/14(土) 02:41:03.46 ID:FfjJM7h50
----------------------------------------
同日 20:00 垣根宅

垣根「ふう……」

最近寝床と化しているソファに身を沈め、垣根は息をついた。

垣根(今日はなかなかヘビィな一日だった)

垣根(しかし何なんだあの女)

垣根(オレのこと怖がってたくせに)

垣根(いきなりデートなんて言い出しやがったと思ったら人の携帯ひったくって
   勝手にメアドまで入れてよ……)

垣根(………)

ピッポッパッ

垣根「固法 美偉、ね」



69: 2011/05/14(土) 02:41:47.17 ID:FfjJM7h50
-----------------------------------------
同時刻 固法宅

固法「はぁ~さっぱりした」パタパタ

固法「さて、と」ガチャガチャ

風呂からあがるやいなやおもむろに冷蔵庫を開ける固法。
そして手を伸ばすのはもちろん、

固法「ン……ン……ぷはぁー!やっぱりお風呂上がりはムサシノ牛乳よねー!」

このために生きてる、と言わんばかりに固法は顔を綻ばせる。

固法(…今日は一日大変だったわ)

だが、路地裏での出来事を思い出さずにはいられない。
大の男に囲まれ、なすすべもない恐怖。今考えても身の毛がよだつ。

固法(あの人が助けに来なかったらどうなっていたか……)

そしてその窮地に現れた金髪の青年。

固法(今日のあの人の表情、昨日と全然感じが違ってた)

固法(昨日はあんなに余裕たっぷりだったのに、今日はなんだか少し……恐かった)

固法(そうかと思って追いかけたら、今度は叱られた子供みたいな顔してた)

固法(……)

カチカチコチコチ

固法「垣根 帝督さん、か」





70: 2011/05/14(土) 02:42:31.90 ID:FfjJM7h50




垣根「変な女……………」
固法「変なひと……………」





71: 2011/05/14(土) 02:50:01.04 ID:FfjJM7h50
以上です。

読んでくださってありがとうございます。

ここで本編第一部「出会い編」が終了になります。
この先第二部「接近編」、そして第三部「成就編」と続いていく予定です。
予定は未定ですが。

それと今回の投下で書き溜めが尽きたのと、
リアルの方が忙しくなってきたので
次回の投下まで時間が開いてしまうと思います。
本編の感想・雑談などを書きこみながら気長に待っていただけるとうれしいです。

【禁書目録】固法「あなたが……《未元物質》……?」【2】

引用: 固法「あなたが……《未元物質》……?」