1: ◆doBINqA5W6 2013/01/10(木) 23:58:05.46 ID:K9QxRI9Ro
最初にお断りしておきます

長くなりそうです…



2: 2013/01/10(木) 23:59:01.48 ID:K9QxRI9Ro
シスター ペラッ

リー リー…

シスター「…おや?もうこんな時間ですか…」

リー リー…

シスター「つい読書に熱中してしまいました」

シスター「人間の書物もなかなかに面白いですね」

シスター「…続きは明日にして、もう寝ましょう」

キィ パタン

リー リッ シーン…

シスター「…おや?」

3: 2013/01/10(木) 23:59:40.94 ID:K9QxRI9Ro
…ガサッ ガサッ

シスター(こんな夜中に…誰か来たのですかね…)

シスター(旅人でしょうか…でもこの足音は森のほうから聞こえてますね…)

ガサッ ガサッ

シスター(とりあえず様子を伺いましょう…)ソー…

ガサッ ガサッ…ドサッ!

?『ほぎゃあ…ほぎゃあ…』

シスター「赤子の声!?」

バタン! タタタタ…

4: 2013/01/11(金) 00:00:14.78 ID:CasTSGYNo
シスター(これは!?女性と…赤子ではないですか!!)ヒョイ

赤子「ほぎゃあ…ほぎゃあ…」

シスター(赤子は元気なようです…女性のほうは…っ!?)

シスター(酷い怪我…それに出血量も多い…これは…)

??「はあ…はあ…ぼ…坊やを…」

シスター「お静かに。あなた達を家の中に連れて行きます」ヒョイ

??「はあ…はあ…」
  ・
  ・
  ・

5: 2013/01/11(金) 00:01:01.49 ID:CasTSGYNo
~家の中~

シスター(母親のほうはおそらく助からない…人間で言うとまだ二十歳前後の若さなのに…)

??「はあ…はあ…」

シスター「…出来るだけの手当てはしました」

??「はあ…はあ…」

シスター「赤子は隣のベッドで寝ています。あまりキレイではないので申し訳ないのですが」

??「はあ…はあ…」

シスター「…あなたはエルフですね?しかも…この真っ白な髪と肌に赤い目は…ダークエルフ」

ダークエルフ「はあ…んっ…はあ…」


6: 2013/01/11(金) 00:01:28.46 ID:CasTSGYNo
シスター(膨大な魔力をもちながらも太陽の日に当たると衰弱するため行動するのは夜のみ。日中外に出るときは常に黒いマントを纏わなければならない…)

シスター(そのため“ダークエルフ”と呼ばれてエルフ族の中で忌み嫌われる存在…初めて見ました)

シスター「会話も辛そうですね…念を使います」

ダークエルフ コクン

シスター「では…」

7: 2013/01/11(金) 00:02:04.61 ID:CasTSGYNo
~~~~~念話~~~~~

ダークエルフ:

私はエルフの町はずれに住んでいたダークエルフです。

この子は私の子供で、父親は人間です。

5年前、人間達がエルフの町に立ち寄られたときに契りを交わしました。

そのときに出来たのがこの子です。

この子の父親は必ず戻ってくるとおっしゃりましたが、結局戻っては来ませんでした。

風の噂では旅の途中で軍隊に殺されたと…

8: 2013/01/11(金) 00:02:48.33 ID:CasTSGYNo
私は一人でもこの子を育てる決心をしましたが村人達は猛反対しました。

元々私がエルフ族の中でも異端のダークエルフだったことも理由の一つですが、エルフと他の生き物との混血はほぼ間違いなく異常能力児が生まれるのです。

この子の場合は転移と念動でした。

村人達は私達親子を亡き者にしようと機会を伺っていたのでしょう。

私の両親が交易に出かけ、家には私たち二人しかいないときに襲い掛かってしました。

私はこの子を守るため必氏で逃げました。

でも、産後の身体で…しかも生後3か月のこの子を抱いて逃げるのは限界がありました。

魔法で解毒や回復をしながら逃げていたのですが魔力も尽きたところに追手が迫ってきて…

そのとき目の前が真っ白になって…おそらくこの子の力なのでしょう…見たことの無い森の中にいたのです。

あたりの様子を伺っていると竜の臭いがしたので…それを頼りにここまで来たのです。

9: 2013/01/11(金) 00:03:46.60 ID:CasTSGYNo
シスター:

分かりました。

今は静かにおやすみなさい。

そして早く身体を直して…


ダークエルフ:

いいえ。自分の体のことは自分が一番分かっています。

…御迷惑は承知でお願いします。

どうか…どうかこの子を…育てていただけないでしょうか


シスター:

…分かりました。

10: 2013/01/11(金) 00:04:19.12 ID:CasTSGYNo
ダークエルフ:

ああ…この子の成長が見れないのは心残りですが…最後にあなたに出会えたことを感謝します…

…この子を私の隣に寝かせてくれませんか?


シスター「…」ヒョイ

赤子「う?」

ソッ…


シスター:

…これでいいですか?


ダークエルフ:

ええ。ありがとうございます。

最後に坊やにおっOいを飲ませてあげたくて…

~~~~~~~~~~

11: 2013/01/11(金) 00:04:47.05 ID:CasTSGYNo
シスター「…」

赤子 チュパチュパ

ダークエルフ ナデ…ナデ… ポロッ

赤子 チュウチュウ

ダークエルフ ナデ…ナデ… ポロポロ…

…フッ パタ…

シスター「…」

赤子 チュパチュパ

シスター「…庭の陽のあたる場所にお墓を作りましょう」

13: 2013/01/11(金) 00:08:10.56 ID:CasTSGYNo
~シスターのベッド~

シスター「よしよし…」

赤子「だぁーあー」

シスター(エルフの寿命は竜と同じぐらい…つまり人間の10倍程度あります。妊娠期間は約4年半…)

シスター(この子の母親の言うことを信じると、あの時期に妖精の国にまで行くような人間は勇者様一行しか…)

シスター(となると…この子の父親は先代勇者様一行のうちの勇者様か盗賊様ですか…)

15: 2013/01/11(金) 00:09:32.16 ID:CasTSGYNo
赤子「うーあー」パタパタ

シスター「おなかがすいたのですか?いまミルクを…」

赤子「うー」ペシペシ

シスター「…私のおっOいは見掛けは立派ですが母乳は出ませんよ?」

赤子「うー!」

シスター「仕方がないですねぇ…ちょっとだけですよ?」

赤子「だー」

ポロリ

赤子 チュパチュパ

16: 2013/01/11(金) 00:10:01.50 ID:CasTSGYNo
シスター「…出ないでしょう?」

赤子 チュパチュパ

シスター「ミルクを準備しますから、そろそろ離して下さい」

赤子 チュウチュウ

シスター「…まさか…出てるんですか?」

赤子 チュパッ

シスター「あ…白い液体が…」

ジワァ…

シスター「…これが母乳ですか…」

17: 2013/01/11(金) 00:10:29.78 ID:CasTSGYNo
~家の中~

赤子 スヤスヤ

ペラッ ペラッ

シスター「…母乳の出が悪いときはおっOいをマッサージするといいと聞きましたが…」

ヌギヌギ

シスター「こうですか…」モミモミ

シスター「乳Oの回りも…」クリクリ

ジワァ

シスター「あ」

ゴソゴソ

シスター「…パンツ変えなきゃ//」

18: 2013/01/11(金) 00:11:04.83 ID:CasTSGYNo
~庭~

パンパン

シスター「これで洗濯も終わりですね」

シュイン

赤子「うー」

シスター「…また転移してきたんですか?仕方がないですね…」

ヒョイ

シスター「よしよし」

赤子「あきゃきゃ」

シスター「ふふふ」

「その子が例の子ですね?」

19: 2013/01/11(金) 00:11:33.57 ID:CasTSGYNo
シスター「あ!賢者様!!お帰りなさいませ!!」

賢者「ただいま帰りました」

赤子「うきゃあ」

賢者「かわいいですね」

シスター「ええ」

賢者「…」

シスター「…なにか?」

賢者「いえ、そうやってあやしているところを見ると…本当の母親のようですね」

シスター「そう見えますでしょうか」

賢者「それにその洗濯されたオムツ…おや?」

20: 2013/01/11(金) 00:12:28.86 ID:CasTSGYNo
シスター「どうなさいました?」

賢者「貴女の下着もたくさん干されていますが…あれは?」

シスター「あ、あれは…母乳の出が悪いので母乳マッサージをしていたらパンツが濡れて…」

賢者「…え?」

シスター「どうして母乳ではなく粘液が出るのでしょうか…」

賢者「…その前にどの本を見てマッサージをしているんですか?」

シスター「家の中にありますが」


21: 2013/01/11(金) 00:12:57.20 ID:CasTSGYNo
~家の中~

シスター「これです」パサッ

賢者「こ、これですか!?」

シスター「はい」

賢者「…まず最初に言っておきます。これは確かにO房を揉みますが、これでは母乳は出ません」

シスター「え?」

賢者「これは性感マッサージの本です」

シスター「あ…//」

22: 2013/01/11(金) 00:14:17.95 ID:CasTSGYNo
賢者「…はぁ。母乳マッサージの本はこちらです」パサッ

シスター「私はまたなんて恥ずかしい間違いを!//」

賢者「まったく…貴女の慌て者ぶりは竜だったときから変わっていないようですね」

シスター「あぅ…//」

賢者「それにしても…なぜこんな本がここに?」

シスター「それはその…以前道に迷っておられた旅人を泊めたことがあるのですが…」

シスター「その人が置いていかれたものの中にそれが…」

23: 2013/01/11(金) 00:14:44.63 ID:CasTSGYNo
賢者「…まあいいです。それより今度からはそっちの本を見てマッサージなさい」

シスター「えっと…読んでもよく分かりません…」

賢者「しょうがないですね…後で私が手本を見せますから、そんなに落ち込まないでください」

シスター「はい…」
  ・
  ・
  ・

24: 2013/01/11(金) 00:15:16.32 ID:CasTSGYNo
賢者「なるほど…手紙では相談できないことと言うのはそのことなのですね」

シスター「はい。母親は転移と念動と言っていましたが…」

シスター「今はまだ私のいるところに転移してきたり、ミルクのビンを動かしたり、私が部屋を出ようとすると軽く引き止められるぐらいなのですが…」

賢者「そうですか。しかし…不思議な能力ですね。いくらダークエルフの子供とはいえ…」

シスター「どういうことでしょうか?」

25: 2013/01/11(金) 00:15:47.75 ID:CasTSGYNo
賢者「エルフは元々幻聴や幻覚、催眠術などの特技を持っています」

賢者「念動は催眠術の応用と考えると説明が付かないことは無いのですが…」

賢者「転移については魔力の消費が激しいのです。それなのにこの子は疲れた様子もない…」

赤竜「この子の母親は転移はできなかったようです」

賢者「であれば、転移については父親の能力を受け継いでいるのではないかと思うのです」

シスター「父親ですか…」

26: 2013/01/11(金) 00:16:25.33 ID:CasTSGYNo
賢者「貴女は父親のことについて、何か聞いてはいないのですか?」

シスター「…」

賢者「…どうしました?」

シスター「いえ…母親から聞いたのはその…父親は5年前にエルフの町に来た人間だと…」

賢者「えっ!?」

シスター「すみません…」

賢者「…なぜ貴女が謝るのですか?」

シスター「父親のことを黙っていたので…」

賢者「それは気にすることではないですよ?それより…これは厄介ですね」

27: 2013/01/11(金) 00:16:52.46 ID:CasTSGYNo
シスター「…なにがですか?」

賢者「ひとつはこの子の素質についてです」

シスター「素質…ですか?」

賢者「はい。5年前と言うと魔界、しかもエルフの町のような、交易では行かないような魔界の奥にまで行くような人間は私たちぐらいでしたから…」

シスター「では、やはり…」

賢者「わかりませんが…その可能性は否定できないですね…」

シスター「…」

28: 2013/01/11(金) 00:17:33.76 ID:CasTSGYNo
賢者「…しかし、腑に落ちないところもあります」

シスター「なにがですか?」

賢者「私たちは確かにエルフの町に寄りましたが…二日ほどですぐに出発したのですよ」

賢者「それに、ダークエルフは見かけたことすら無かったのです」

賢者「ですので、勇者か盗賊がダークエルフとそのような関係になる期間はなかったはずです」

シスター「では父親は誰なんでしょうか?」

賢者「それは…いえ…勇者ならば転移呪を習得していたので、もし面識が有るのならダークエルフの元に夜な夜な通うことはできたでしょうが…エルフの結界もありますし…」

29: 2013/01/11(金) 00:18:03.21 ID:CasTSGYNo
シスター「では…」

賢者「…もし父親が勇者ならば…今後もいろいろな能力に目覚める可能性があります」

シスター「勇者様はそんなに優れた能力を持っておられたのですか?」

賢者「ええ。ただ…それらを熟練する前に魔王討伐に出立されましたので…」

シスター「…」

賢者「それともうひとつは…あの小娘が勇者に子供が居たことを知ると…」

シスター「小娘って…魔法使い様のことですか?」

賢者「それはまあ…なるようにしかならないのでほっときましょう」

賢者「それに…あの娘とは連絡が取れないままですし。まったくあの小娘は…」

30: 2013/01/11(金) 00:18:36.34 ID:CasTSGYNo
シスター「は、はい…ではこの子については…」

賢者「…今後どんな能力に目覚めるか分かりません。なるべく目を離さないことですね」

シスター「はい」

賢者「それと…今までと変わらず面倒を見ることです」

シスター「それは…はい。私もこの子が本当に自分の子のように思えて…」フッ

賢者「…言葉が分かるようになったらその力の制御方法を教えたほうがいいですね」

シスター「分かりました」

賢者「…」

31: 2013/01/11(金) 00:19:02.82 ID:CasTSGYNo
シスター「…なんでしょうか?」

賢者「いえ…この森で結界に捕まっていた貴女を助けてからもう10年が過ぎました。そろそろ竜に戻って自分の世界に帰ってほしいと思っていたのですが…」

シスター「…今はこの子の成長を見るのが楽しいのです。ですから…」

賢者「私も女ですからその気持ちも分かります。でも貴女は…」

賢者「…いえ、無粋なだけですね。何でもありません」

シスター「…はい」

32: 2013/01/11(金) 00:19:36.36 ID:CasTSGYNo
~家の前~

ホー ホー…

賢者「では、そろそろ出発します」

シスター「せめて今夜だけでもお泊りになったほうが…」

賢者「…やめておきます。私はお尋ね者ですから、長居をすると迷惑をかけることになります」

シスター「でもあれは!」

賢者「どう言い訳をしても私が勇者を見捨てたことには変わりはありません。それに…」

賢者「私も自身を許せていないのですよ」

シスター「賢者様…」

33: 2013/01/11(金) 00:20:06.20 ID:CasTSGYNo
賢者「二度と会えないわけではありません。手紙ならまたいつでも使い魔を使ってやり取りできますから」

シスター「はい…でも、こんなことは間違っています!」

シスター「5年前、賢者様は勇者様とともに旅立ち、それこそ命がけで戦ってらっしゃったのに!!」

シスター「勇者様が賢者様たちを安全なところに避難させるために!自らお残りになったというのに!!」

シスター「それを!お国の方々は勇者様を見捨てた極悪人などと!!」

シスター「これでは賢者様や勇者様が御可愛そうではありませんか!!」

賢者「…いいのですよ」

シスター「よくないです!」

34: 2013/01/11(金) 00:20:37.07 ID:CasTSGYNo
賢者「人は弱いものです…希望が潰えたとき、何かのせいにしないと心が壊れてしまうのです」

シスター「でもっ!」ポロッ

ギュッ

シスター「!?」

賢者「私は、私のために涙を流してくれる、貴女がいるだけで十分なのですよ」ナデナデ

シスター「うぅ…」

賢者「…ありがとう、赤竜。私のために泣いてくれて」

シスター「うぅ…けんじゃさまぁ…」グスッ

35: 2013/01/11(金) 00:21:07.14 ID:CasTSGYNo
賢者「あ、そういえば」

シスター「なんでしょうか」

賢者「その子の名前はなんと言うのですか?」

シスター「あ…まだ決めていません」

賢者「そうですか…では、名前を決めてあげてください」

シスター「あの…賢者様に決めていただきたいのですが…」

賢者「私がですか?」

シスター「はい。お願いします」

36: 2013/01/11(金) 00:21:42.30 ID:CasTSGYNo
賢者「では…『男』というのはどうでしょう?」

シスター「『男』ですか…呼びやすくていい名前です」

賢者「ふふふ。私もついに名付け親ですか」

シスター「ええ。ですから賢者様もここで一緒に…」

賢者 フルフル

賢者「…また帰ってきますから」

シスター「…はい。お待ちしております」

賢者「…では。“転移呪”」

シュイン

シスター「賢者様…」


37: 2013/01/11(金) 00:22:39.27 ID:CasTSGYNo
~森の南の峠~

シュタッ

賢者「…勇者」

~~~~~賢者の回想~~~~~

  賢者「勇者!もう魔力も尽きました!!」

  勇者「くそっ!こいつら次々と沸いてきやがるっ!!」

  ザシュッ!

  魔族兵1「ぐああ!!」

38: 2013/01/11(金) 00:23:06.62 ID:CasTSGYNo
  賢者「もう…ここまでですか…」

  勇者「まだだっ!まだ諦めるな!!」

  賢者「でも!盗賊と魔法使いはもう動けないんですよ!?」

  勇者「まだいけるっ!」

  キィン!ザクッ

  魔族兵2「うがあ!!」

  賢者「逃げようにももう道具もありません!」

39: 2013/01/11(金) 00:23:46.11 ID:CasTSGYNo
  勇者「これを使え!」ピラッ

  賢者「これは…転移符!?」

  勇者「俺がこいつらを引き付けておく!その隙に行くんだ!!」

  賢者「勇者も一緒に!」

  勇者「俺も後から行く!盗賊と魔法使いを頼む!!」

  ガキッ!ブォン!

  賢者「わ、わかりました!先に“辺境の港”に行って…後ろ!!」

  勇者「!?」

  ザクッ!

  勇者「…ぐうっ」ポタポタ

40: 2013/01/11(金) 00:24:12.83 ID:CasTSGYNo
  賢者「勇者!!腕が!!」

  勇者「は…早く行け!!」ドンッ ザシュッ

  賢者「くっ…て、“転移”ぃ!!!」

  シュイン…シュタ

  ドサドサッ

  賢者「くぅ…な、何とか辺境の港に転移できたようですね…」

  賢者「とりあえず村に行って盗賊と魔法使いを手当てしないと…」ヨロッ

  賢者「勇者…すぐに行きますから…どうか御無事で…」

~~~~~~~~~~

41: 2013/01/11(金) 00:24:45.63 ID:CasTSGYNo
賢者(それから3日…体力が回復した私達は再び魔界のあの場所へ行きました)

賢者(そこにはおびただしい血の跡と、勇者のものと思われる切り落とされた腕が…)

賢者(その腕を持ち帰り王様に報告すると、勇者を見頃しにした極悪人だと罵られ…)

賢者(私たち3人は逃げるように王都を後にして…)

賢者(そのあと手配書が貼られているのを見て3人で行動するのは危険だからといってバラバラになり…)

賢者(盗賊とは今でも連絡が取れていますが小娘…魔法使いとは連絡が取れなくなって…)

賢者(あの子は勇者に惚れていましたから…勝手に魔界に行って勇者を探しているのでしょうね…)

賢者(勇者を探しているのは私達も同じですが…)

42: 2013/01/11(金) 00:25:13.34 ID:CasTSGYNo
賢者「でも…あの子が勇者の子供かもしれないとは…」

賢者「…ならば私達はあの子を命を懸けて守りましょう」

賢者「それで罪滅ぼしになるとは思いません。自己満足だと分かっています。でも…」

賢者「…赤竜、しばらくその子を頼みます」


43: 2013/01/11(金) 00:25:56.40 ID:CasTSGYNo
~5年後・家~

幼男「ねーねーシスター」

シスター「なんですか?」

幼男「これ!」

フワッ

シスター「これは…桔梗ではないですか」

幼男「うん!」

シスター「…この花が咲いているところまでは大人の足でも1日はかかります…」

シスター「あなたはまた転移を使ったのですね?」

幼男「う…ごめんなさい…」

44: 2013/01/11(金) 00:26:31.13 ID:CasTSGYNo
シスター「あなたのその力は人から恐れられるものです」

シスター「だから本当に必要な時にしか使ってはいけないとあれほど…」

幼男 シュン…

シスター「…どうしてこの花を取ってこようと思ったのですか?」

幼男「だって…」

シスター「叱らないから言って御覧なさい」

幼男「…きょうはおかーさんの日でしょ?」

シスター「あ…」

45: 2013/01/11(金) 00:28:09.50 ID:CasTSGYNo
シスター(すっかり忘れていました…今日はこの子の母親…ダークエルフの命日でした)

幼男「だから…おかーさんにあげようと思って…」

シスター「!?」

ギュッ

幼男「いたいよぉ」

シスター「男、あなたは優しい子ですね…」グスッ

幼男「…ないてるの?どこかいたいの?」

シスター「いえ…嬉しいのです…」

幼男「うれしいのになくの?へんなの?」

シスター「あなたもいずれわかるときが来ますよ…」

シスター(ダークエルフ…あなたの子供は優しい子に育っていますよ)


46: 2013/01/11(金) 00:28:59.01 ID:CasTSGYNo
~数日後・森の中~

幼男「あ、ミツバチだ」

ブーン

幼男「あの木の洞のなかに入ってっちゃった」

幼男「あそこにミツバチさんのおうちがあるんだ…」

幼男「そうだ!ハチミツもってかえったらシスターよろこぶかな?」

幼男「よいしょ、よいしょ…」

幼男「ミツバチさん、ハチミツをちょっとちょうだいね」

47: 2013/01/11(金) 00:29:25.57 ID:CasTSGYNo
ブーン

幼男「わわっ!ごめんなさい!!ごめんなさい!!」

ブーンブーン

幼男「…もう!とまれっ!!」

ブーン ピタッ

幼男「よし、いまうのうちに…」

シュイン

幼男「ふぅ…もうちょっとでミツバチさんにさされるとこだった…」

シスター「どうしたのですか?」

幼男「あ、シスター!」

48: 2013/01/11(金) 00:29:52.54 ID:CasTSGYNo
シスター「…なにを持っているのですか?」

幼男「えへへー。はい!」

シスター「これは…ミツバチの巣の欠片ではありませんか」

幼男「うん!」

シスター「…また転移を使いましたね?」

幼男「う、うん…ごめんなさい…」

シスター「…」

幼男「…ごめんなさい。ねんどーもつかっちゃった…」

49: 2013/01/11(金) 00:30:19.55 ID:CasTSGYNo
シスター「やっぱり念動も使っていましたか…」

幼男「うん…」

シスター「…今日は大目に見ます。帰って蜂蜜茶を飲みましょう」

幼男「うん!わーい!!」

テクテク トテトテ

幼男「はっちみっつはっちみっつうれしいなー♪」

シスター「ふふふ」

50: 2013/01/11(金) 00:30:58.26 ID:CasTSGYNo
~家の中~

シスター「はい、どうぞ。熱いから気をつけて」

幼男「うん!いただきまーす!!」

幼男「ふーっふーっ…あちっ…おいしー!」

シスター「…ふぅ。おいしいですね」ニコッ

幼男「…ねえ、シスター」

シスター「なんですか?」

幼男「きょうは…おこらないの?」

シスター「なぜ?」

幼男「だって…てんいもねんどーもつかっちゃったのに…」

51: 2013/01/11(金) 00:31:25.54 ID:CasTSGYNo
コトッ

シスター「男、あなたはこの蜂蜜を取るときに蜜蜂を殺そうとしましたか?」

幼男「ううん」

シスター「なら怒る必要はありません」ニコッ

幼男「…よくわかんない…」

シスター「では…例え話をしましょう」

幼男「おはなし!?」ワクワク

52: 2013/01/11(金) 00:31:55.84 ID:CasTSGYNo
シスター「…あるところに小さな村がありました」

シスター「その村では開拓民と呼ばれる人々が家畜を飼い、畑を耕し、一生懸命生きていました」

シスター「人々の働きもあり、村は大きく、豊かになりました」

シスター「ところがそこに大きな竜がやってきました」

幼男「竜が!?」

シスター「…竜は抵抗する人々を炎の息と尻尾で払い除け…」

シスター「家畜の豚や牛をたくさん食べて帰っていきました」

幼男「…」

53: 2013/01/11(金) 00:32:24.01 ID:CasTSGYNo
シスター「人々は落胆し悲しみましたが…被害は家畜が殆んどで畑もほとんどが無事だったため、また一生懸命働いています」

幼男「…りゅうってひどいことするね…」

シスター「そうでしょうか?」

幼男「だって!ぶたさんやうしさんたべちゃったんだよ!?」

シスター「でも人の被害はごく僅かですよ?」

幼男「でも…」

54: 2013/01/11(金) 00:32:53.51 ID:CasTSGYNo
シスター「…では、人を蜜蜂に、竜を男、あなたに置き換えてみましょう」

幼男「…え?」

シスター「蜜蜂は一生懸命巣を作り、蜜を集めてきました」

シスター「そこへあなたがやってきたのです」

幼男「あ…」

シスター「あなたは蜜蜂の巣の一部を取り、帰っていきました」

幼男「うぅ…」

55: 2013/01/11(金) 00:33:21.28 ID:CasTSGYNo
シスター「…男、私はあなたを非難しているのではないのです」

シスター「生きるためには食べ物が必要です。あなたや竜のしたことは生きるために必要なことなのです」

幼男「うん…」

シスター「だから叱らないのですよ」ニコッ

幼男「でも…ミツバチさんにわるいことしちゃった…」

シスター「あなたは必要以上に蜜蜂を殺さなかったのでしょう?」

幼男「うん…」

56: 2013/01/11(金) 00:33:49.72 ID:CasTSGYNo
シスター「なら大丈夫ですよ。蜜蜂は働き者ですから、あなたが取ってきた分ぐらいはすぐに修復します」

幼男「…そうかな?」

シスター「ええ。ですから思い悩むのはおやめなさい」

幼男「…うん!」

シスター「それと、無益な殺生はしないことです」

幼男「うん!わかった!!」

シスター「いい返事です」ニコッ

57: 2013/01/11(金) 00:34:15.72 ID:CasTSGYNo
~数日後・近くの村~

ヒソヒソ ヒソヒソ…

幼男「?」

ヒソヒソ ヒソヒソ…

幼男「…ねえ、シスター」

シスター「どうしたのですか?」

幼男「なんかこっちをみてるひとがいるよ?」

シスター「…気にしてはいけません」

幼男「でも…」

シスター「大人しくしていましょう」

幼男「うん…」
   ・
   ・
   ・

58: 2013/01/11(金) 00:35:23.64 ID:CasTSGYNo
肉屋のおばちゃん「いつもありがとね。あんたのベーコン、評判いいんだよ」

シスター「ありがとうございます」

幼男「シスターはイノシシベーコンつくるの、じょうずだもんね」

肉屋のおばちゃん「あははは。お礼を言うのはこっちだよ。あんたのおかげで売上上がってんだからね」

シスター「こちらも助かります。いつもいいお値段で買っていただいてますから」

シスター「賢者様のこともあるのにこんなによくしていただいて…」

肉屋のおばちゃん「…気にしなくていいんだよ。賢者様にはあたしらも随分助けてもらったんだ」

肉屋のおばちゃん「賢者様が理由もなしにあんなひどいことするわけない。きっとそうするしかなかったんだよ」

シスター「…」

59: 2013/01/11(金) 00:35:52.72 ID:CasTSGYNo
幼男「…ねえ、おばちゃん」

肉屋のおばちゃん「ん?なんだい?」

幼男「賢者様ってなにしたの?」

シスター「こ、これっ!」

肉屋のおばちゃん「いいんだよ。坊や、賢者様はなーんにも悪いことはしてないんだよ?」

幼男「ふーん…じゃあ賢者様はいいひとなんだね!」

肉屋のおばちゃん「そうだよ。賢者様はいい人さ。あははは」

幼男「そうだよね!いっつもおみやげくれるもんね!!」

60: 2013/01/11(金) 00:36:20.68 ID:CasTSGYNo
シスター「…ありがとうございます。それでは」ペコッ

肉屋のおばちゃん「ああ。またベーコン持ってきておくれよ」

幼男「おばちゃん、ばいばーい!」

シスター「…じゃあ、必要なものを買って帰りましょう」

幼男「うん!」

シスター「ふふっ…え?」

チンピラ1「へっへっへー。とおせんぼ♪」

61: 2013/01/11(金) 00:37:06.74 ID:CasTSGYNo
シスター「…なにか用ですか?」

チンピラ2「へへっ。ちょっと付き合ってくんねーかなあ?」

チンピラ3「金持ってんだろ、金」

チンピラ4「いい体してんじゃん。俺たちと楽しもうぜ」

幼男「!?」

シスター「心配しなくてもいいですよ」

幼男「でも…」

62: 2013/01/11(金) 00:37:42.62 ID:CasTSGYNo
シスター「私に任せなさい。そこの石を拾ってくれませんか?」

幼男「…これ?」ヒョイ

シスター「はい。…あなた達」

チンピラ‘s「なんだよ」ニヤニヤ

シスター スッ…ゴキッガキガキ…

幼男「すごい!石をにぎったら砂になっちゃった!!」

チンピラ‘s「…」ゴクリ…

63: 2013/01/11(金) 00:38:23.35 ID:CasTSGYNo
シスター「私たちに手を出すなら、手加減はしませんよ?」

チンピラ‘s「き、今日はこのぐらいにしといてやる!!!」ダダダダ…

シスター「…逃げましたか。それが賢明です」

幼男「んー…あ、あった!」

シスター「なにをしているのですか?」

幼男「んー!」

64: 2013/01/11(金) 00:38:51.24 ID:CasTSGYNo
シスター「あなたには石を砕くのは無理ですよ」

幼男「んんーっ!!」ゴキッ

幼男「「…はあ。われたけど砂にはならないや」

シスター(な、なんという…私は竜の力がありますがこの子は…)

シスター「あなたには驚かされますね」

幼男「え?」

シスター「…なんでもありません。さ、帰りましょう」

幼男「うん!」


65: 2013/01/11(金) 00:39:20.44 ID:CasTSGYNo
~数日後の夜~

バサバサバサ

シスター「…賢者様の使い魔ですか。ご苦労様です」

梟(使い魔) ホーホー

カサカサ…

66: 2013/01/11(金) 00:39:53.87 ID:CasTSGYNo
  赤竜へ

  お元気ですか?

  貴女の手紙にあった男の力について私なりに考察してみました。

  貴女は勇者の素質の一つと思っているようですが、

  勇者にはそれほどの腕力はなかったように思います。

  ですので、他の要因が考えられます。

  これは私の推測ですが、貴女は男に母乳を与えていましたね。

  その結果、男は母乳を通し貴女の力を身につけたと考えられないでしょうか?

  あくまで推測なので断定はできませんが、その可能性が高いと思いますよ。

  
  追伸:男も5歳になったことですし、そろそろ男に読み書き計算を教えてやってください。


67: 2013/01/11(金) 00:40:22.42 ID:CasTSGYNo
パサッ

シスター「…」

シスター「私の母乳で男があんなに強くなるなんて…」

シスター「…ふふふ。これが成長する喜びなのですね」


68: 2013/01/11(金) 00:40:50.05 ID:CasTSGYNo
~3年後・森の中~

童男「…」

ガサガサッ ブヒィ!

童男「…っ!」

ガッ ザシュッ ドサッ

童男「やったー!」

シスター「長鉈の扱いにも慣れてきましたね」

童男「あ!シスター!!やったよ!!イノシシを仕留めたよ!!」

シスター「はい。よくやりましたね。これはまた…大きなイノシシですね」

童男「へへへ」

69: 2013/01/11(金) 00:41:17.71 ID:CasTSGYNo
シスター スッ…

シスター「森の神よ。お恵みに感謝します」

童男「感謝します…」

シスター「…さ、家に帰って捌きましょう」

童男「うん!これでまたベーコンを作れるね!!」ニコッ

シスター「ふふふ。男は本当に食いしん坊ですね」

童男「い、いいでしょ!?シスターの作るベーコン、美味しいんだもん!」

70: 2013/01/11(金) 00:41:59.46 ID:CasTSGYNo
シスター「では…」

童男「あ、僕が持ってかえるよ」グイッ

シスター「じゃあ、お願いします」

トテトテトテ

童男「ねえねえ、シスター」

シスター「なんですか?」

童男「この鉈、すごいね!木でも岩でも、このイノシシでもなんでも切れちゃうよ!!」

シスター「なんでも切れるのは男、あなたの腕です」

童男「そっかなー?そうじゃなくてこの鉈が良く切れるからだよ、きっと」

71: 2013/01/11(金) 00:42:27.26 ID:CasTSGYNo
シスター「…その長鉈は私が作ったものですから、そんなにいいものではありませんよ?」

童男「ううん。この鉈がすごいんだよ!」

シスター「じゃあ、そういうことにしておきましょう」

シスター(この子も大分腕が上がってきましたね)

男「今日は庭で採れた玉葱とお肉で串焼きにしようよ!」

シスター「そうですね」クスッ

72: 2013/01/11(金) 00:43:09.29 ID:CasTSGYNo
~2年後・ダークエルフの墓~

シスター「…」

男「…」

スッ

シスター「…お墓参りはこれぐらいにして、男の10歳の誕生日をお祝いしましょう」

男「うん。でもなんで今日が僕の誕生日なの?」

シスター「それはあなたのお母さんから誕生日を聞いていたのですよ」

男「ふーん。だから今日が誕生日なんだ」ニコッ

シスター(本当は私が決めた日なんですが)フッ…

73: 2013/01/11(金) 00:43:36.71 ID:CasTSGYNo
男「どうしたの?」

シスター「なんでもありませんよ?」

シスター(それにしても…ダークエルフによく似てきましたね…きれいな顔立ちです)

男「でも…なんだか寂しそうに見えるよ?大丈夫?」

シスター「…男、あなたは本当に優しい子に育ちましたね」

男「そっかなー?もしそうだと嬉しいな♪」

74: 2013/01/11(金) 00:44:07.08 ID:CasTSGYNo
シスター「どうしてですか?」

男「だってシスターが喜んでくれるでしょ?シスターは僕のもう一人のお母さんだもん」ニコッ

シスター「!?」

ダキッ

男「どうしたの?」

シスター「男…ありがとうございます…」ポロッ

男「え?泣いてるの?」

シスター「ええ…嬉しくて…」


75: 2013/01/11(金) 00:44:35.09 ID:CasTSGYNo
~その日の午後・村~

肉屋のおばさん「はい。今日はこれだけね」チャリン

シスター「いつもすみません」

肉屋のおばさん「こっちも儲けさせてもらってるんだからお互い様だよ。あははは」

シスター「それでは、失礼します」

肉屋のおばさん「またよろしくね」

男「おばちゃんばいばーい」

76: 2013/01/11(金) 00:45:28.99 ID:CasTSGYNo
シスター「小麦粉と卵…砂糖も買わないといけませんね」

男「ねえねえ!おっきいケーキにしようよ。ねえ!!」

シスター「ふふふ。男は本当に食いしん坊ですね」

男「だ、だってケーキなんて久しぶりなんだもん!」

シスター「早く買い物を済ませて帰りましょう」

ズズーン…


 

77: 2013/01/11(金) 00:46:16.01 ID:CasTSGYNo
男「な、なに?なんの音!?」

キョロキョロ

シスター「あ、あれは…黒竜!」

男「すごい…3階建ての教会と同じぐらいの大きさだ…」

リュウダー!! ニゲロー!! タスケテー!! コワイヨー!!

黒竜 クンクン…

男「なにしてるんだろ…」

78: 2013/01/11(金) 00:46:43.89 ID:CasTSGYNo
シスター「食べられそうなもののにおいを探しているのかもしれませんね…」

男「…じゃあ牧場のほうに行くのかな…」

シスター「おそらく…」

黒竜 ギロッ

シスター「!!」

シスター(目が合いました…目的は私ですか!?)

79: 2013/01/11(金) 00:47:11.19 ID:CasTSGYNo
シスター「…男、よく聞きなさい」

男「なに?」

シスター「私は森に向かいます」

男「森に逃げるの?」

シスター「いえ…あの黒竜が探しているのは私です」

男「…え?」


80: 2013/01/11(金) 00:47:44.34 ID:CasTSGYNo
シスター「だから私が囮になってあの竜を森に誘き寄せますから、村人を安全なところに非難させてください」

男「あ、安全なところって!?」

シスター「街道の方です!時間がありません。行きますよ!」

シスター ダッ!

男「あ!シスター!!」タッ

タタタタ…

シスター(やっと森に入りました。ここならば誰にも見られずに変化が…え?)

男 タタタタ


81: 2013/01/11(金) 00:48:14.60 ID:CasTSGYNo
シスター(くっ!なぜ男が!!)

シスター「ついてきてはダメ!早く村人を非難させて!!」タタタタ…

男「いやだあ!シスターと一緒に行くー!!」タタタ…

シスター「男!あなたが来ると足手まといです!!早く戻りなさい!!」

男「いやだー!!」

シスター「…戻れと言ってるんだ!!」ゴウッ!

男「!?」ズサー

82: 2013/01/11(金) 00:48:45.64 ID:CasTSGYNo
男「ひどいよ!火の玉なんか投げて!!」

シスター「早く戻れ!」ギロッ

男(こ、怖い…こんな怖いシスターを見たのは初めてだ…)

男「わ、わかったよ…戻るよお…」

バッサバッサ

男「!!」

シスター「くっ…遅かったか」

黒竜 ジー


83: 2013/01/11(金) 00:49:50.77 ID:CasTSGYNo
男「こ、このお!」ブンッ

シスター「男!やめろ!!」

黒竜『…ふん』ブォン!

男「尻尾!?うわぁあああ!」ズサアー

シスター「男!?大丈夫ですか!?」

男「うぅ…」

84: 2013/01/11(金) 00:50:40.44 ID:CasTSGYNo
シスター「…よくも…男にっ!手を出したなぁああ!!」

ズズズ…メリメリメリメリ!!

男「し、シスターが赤い竜に!?」

赤竜 グォオオオ…

赤竜『…早く村に戻れ』ジロッ

男「う、うん!転移!!」

シュイン

85: 2013/01/11(金) 00:51:14.70 ID:CasTSGYNo
赤竜『…』

黒竜『…久しぶりだな』

赤竜『まだ諦めていなかったのか』

黒竜『お前以上の雌などいなくてな』

赤竜『それでわざわざこんなところまで探しに来たのか。ご苦労なことだ』

黒竜『…赤竜よ。我が妻となれ』

赤竜『笑止!貴様も竜ならその力で我を従えさせればよかろう』

黒竜『貴様も変わらぬな…致し方なし…か』

赤竜『そっちが来ぬなら…行くぞ!!』


86: 2013/01/11(金) 00:52:06.24 ID:CasTSGYNo
~村の中~

シュイン

男「ふぅ…」

ドケドケー! ハヤクニゲロー!!

男「みんなー!竜は森に行ったよー!!だから街道のほうに逃げるんだよー!!」

エッ? モリガドウシタッテ!? リュウガ2ヒキイルゾー! モウダメダー!!

男「みんなー!落ち着いてー!!街道のほうにー!!」

カイドウダッテ!? ハヤクイコウ!! ドケドケー!!

男(みんなようやく街道のほうに逃げ出した…)

男「…よし!」

シュイン


87: 2013/01/11(金) 00:52:34.15 ID:CasTSGYNo
~森~

シュイン

男(竜は…いた!)

黒竜『我とともに帰るのだ!』ブォンッ!

赤竜『我は誰の命も受けない!』ゴォオオオ!!

男(すごい…近づけない…)

グォオオオ!! ガァアアア!!

男「…シスター頑張れ!」

赤竜『!?』

88: 2013/01/11(金) 00:53:06.04 ID:CasTSGYNo
黒竜『隙ありッ!』

グワッ!

男「あっ!黒い竜が喉に噛み付いた!!」

赤竜『しまっ…!!』

黒竜『落ちろぉおお!!』

ブォンブォン!! ブォン!…バタバタ…ビクッ ビクッ…ドサァ…

黒竜『…やっと落ちたか…』

89: 2013/01/11(金) 00:53:43.64 ID:CasTSGYNo
男「うわぁああっ!シスターっ!!」

黒竜『やめろ』

男「シスターを返せぇええ!!」シュイン

黒竜(消えた!?)

シュイン

男「うおおおお!!」シュン!

黒竜『なっ!早い!!しかし無駄だ!人間の刃物ごときで我が切れるとでも』

ザクッ!

黒竜『なっ!?腕に傷が!?』

男「あ…当たった!」


90: 2013/01/11(金) 00:54:17.93 ID:CasTSGYNo
黒竜『…貴様ぁああ!!』ブォン!!バチーン!!

男「うわぁあああ!!!」ズザザー!!

黒竜『…ふん。しかし…我に傷をつけるとはこやつ…』

男「うぅ…」

黒竜『…いや、今は我が妻となるものを連れ帰らねば』グイ

バサッ バッサバッサ…

男「し…シスタぁ…」


91: 2013/01/11(金) 00:57:04.56 ID:CasTSGYNo
~3日後・家~

男「…今日は…市の日か…」

男「ベーコン売りに行かなきゃ…」

男「…よいしょ」

ガチャ

男「…いってきます」

パタン


92: 2013/01/11(金) 00:57:34.68 ID:CasTSGYNo
~村~

男「…あれ?」

オーイ ニバシャガキタゾー ヨシ、コレヲツンデクレ

男「…みんなどうしたのかな。家から荷物を運び出して…」

男「それより、早くベーコンを売りに行こう」

タタタ…

93: 2013/01/11(金) 00:58:03.83 ID:CasTSGYNo
男「おばちゃーん!」

肉屋のおばちゃん「…おや、男かい。今日はどうしたんだい?」

男「うん、ベーコンを売りにきたんだ」

肉屋のおばちゃん「そうかい。ちょっと見せてみな」

男「はいこれ」

肉屋のおばちゃん「これは…シスターが作ったヤツだね?」

男「うん…これで終わりなんだ。後は僕が作ったやつしか…」

94: 2013/01/11(金) 00:58:32.69 ID:CasTSGYNo
肉屋のおばちゃん「そうかい…今日はこれで引き取らせてもらうよ」チャリン

男「こんなに…ありがとうおばちゃん!」

肉屋のおばちゃん「いいんだよ。うちもあんたからベーコンを買うのはこれで最後だからねぇ…」

男「…え?」

肉屋のおばちゃん「…ほら、この間竜が2匹出ただろ?それで駐在兵が逃げ出しちゃってさあ…」

肉屋のおばちゃん「あ、駐在兵を責めてるんじゃないよ?あんな竜が2匹も出たんじゃあねえ…」

男(かたっぽはシスターなんだけどな…)

95: 2013/01/11(金) 00:59:05.48 ID:CasTSGYNo
肉屋のおばちゃん「それでさ、役人がこの村を放棄しろって言ってきてさ」

男「え?なんで!?」

肉屋のおばちゃん「この先また竜が出るかもしれないからって…」

肉屋のおばちゃん「だからここを捨てて、もっと安全なところにみんなで引っ越せってさ」

男「…おばちゃんも?」

肉屋のおばちゃん「…ああ。この村は結構好きだったんだけどねぇ。みんな越しちまうし…仕方がないさね」

男「そう…」


96: 2013/01/11(金) 00:59:35.24 ID:CasTSGYNo
肉屋のおばちゃん「…どうだい?あんたも一緒に来ないかい?」

男「…え?」

肉屋のおばちゃん「あんたもひとりじゃ大変だろ?だからさ…」

男「…いいの?」

肉屋のおばちゃん「うちも大変だけどさ…毎日御飯が食べられるくらいには蓄えもあるしね」

肉屋のおばちゃん「もしその気ならさ、明日の昼頃にここに来なよ」

肉屋のおばちゃん「兵隊さんが護衛についてくれるっていうんでさ、みんな一緒に出発するんだ」

男「…お昼だね。分かった。ありがとう、おばちゃん」

タタタタ…

肉屋のおばちゃん「…ホンットに素直ないい子だねえ…」

97: 2013/01/11(金) 01:01:35.88 ID:CasTSGYNo
~翌日・朝~

男「…」

男「じゃあ、いってきます。落ち着いたら時々帰ってくるから…」

男「…待っててね。お母さん」

男「あとはシスターに置手紙しとかなきゃ」


98: 2013/01/11(金) 01:02:04.09 ID:CasTSGYNo
  シスターへ

  肉屋のおばちゃんと一緒に、ちょっと離れたところに引っ越します。

  場所がはっきりしたらまた書置きしにきます。

  もしそれまでに帰ってきてたら待っていてください。

  男より


99: 2013/01/11(金) 01:02:31.34 ID:CasTSGYNo
男「これでよし」

男「じゃあ…」

男(…この家ともしばらくお別れだね…)

男「…いってきます!」

100: 2013/01/11(金) 01:03:00.17 ID:CasTSGYNo
~村・昼前~

ガヤガヤ オーイ、モウコレデゼンインソロッタノカー?

肉屋のおばちゃん「あんまりいい馬車じゃないけど我慢しておくれよ?」

男「ううん。いい馬車だね!」

村人A「…おい、そのガキも連れて行くのか?」

男「え?」

101: 2013/01/11(金) 01:03:28.45 ID:CasTSGYNo
肉屋のおばちゃん「そうだよ。何か文句でもあるのかい!」

村人B「そいつは森の一軒家のシスターんとこのガキじゃねーか!連れてくんじゃねーよ!!」

肉屋のおばちゃん「何言ってんだい!こんな子供をほったらかしていくなんて、気が知れないね!!」

村人A「何言ってやがる!シスターって言ったら赤い竜になった化け物じゃねーか!!」

男「!!」

肉屋のおばちゃん「…へ?」

102: 2013/01/11(金) 01:03:57.67 ID:CasTSGYNo
村人B「そいつも竜に化けるんじゃねーのか!?そんなやつを連れて行くなんて正気じゃねえ!!」

肉屋のおばちゃん「な、なにいってんだい!シスターが竜に化けるなんて…寝言は寝てからいいな!」

村人A「俺ぁこの目で見たんだ!シスターが森に入ったすぐあとに森の中から赤い竜が出てきたんだぜ!」

村人A「だからあの2匹目の竜はシスターが化けたに違いないんだ!その証拠にあれからシスターを見たヤツはいねえだろ!!」

肉屋のおばちゃん「じゃあ実際に化けるとこを見たわけじゃないじゃないか!」

103: 2013/01/11(金) 01:04:28.38 ID:CasTSGYNo
村人A「じゃ、じゃあ!シスターはどこに行ったんだよ!!竜に化けて黒いのと一緒にどっかいっちまったに違いねえ!!」

村人B「そうだそうだ!そのガキはシスターんとこにいたから、そいつも竜に違いねえ!!」

肉屋のおばちゃん「じゃあこの子が竜に化けるって言う証拠はあるのかい!!」

村人A「じゃあ竜に化けないって言う証拠があるのかよ!!」

男「…」

104: 2013/01/11(金) 01:04:56.39 ID:CasTSGYNo
騎士「何をもめているんだ!」

村人A「あ、騎士様!こいつ、竜の仲間なんですよ!!」グイッ

男「あっ」ヨロッ

騎士「…どこから見ても人間の子供じゃないか」

村人B「で、でも!コイツが世話になってたシスターは竜になって…」

騎士「…酔っているのか?暢気なもんだな」スタスタ…

村人A、B「「あっ!き、騎士様!!」」

105: 2013/01/11(金) 01:05:25.72 ID:CasTSGYNo
肉屋のおばちゃん「ふんっ!証拠もないのに騒ぐんじゃないよ!!」

男「…ねえ、おばちゃん」

肉屋のおばちゃん「あんたはなーんにも、心配しなくていいんだよ?あたしがついてるからね!」

男「僕…やっぱりここに残るよ」ニコッ

肉屋のおばちゃん「…へ?」

106: 2013/01/11(金) 01:05:53.03 ID:CasTSGYNo
男「僕、やっぱりあの家にいたいから。じゃあねー!」タタタ…

肉屋のおばちゃん「あ!ちょっと!!お待ちよおー!!」

男「ばいばーい」ノシ タタタ…

肉屋のおばちゃん「あ…くっ!」ガバッ

村人A、B ビクッ

肉屋のおばちゃん「あんたたち!あんな子供に気を使わせて!恥ずかしくないのかい!!」

村人A「おおお、俺たちゃ間違っちゃいねえ!」

村人B「そそ、そうだ!あいつは竜の仲間なんだ!!いなくなってほっとしたぜ!!なあ!?」

村人A「そうだそうだ!」

107: 2013/01/11(金) 01:06:24.77 ID:CasTSGYNo
肉屋のおばちゃん「あんたたちぃ!」

騎士「やめておけ」グイ

肉屋のおばちゃん「き、騎士様!」

騎士「さっきから見ていたが、あの子は立派じゃないか」

騎士「自分がいればお前達が争う。だから自分はこの村に残る。また竜が来るかもしれないのにだ」

村人A「だってあいつは!竜の仲間なんですぜ!?」


108: 2013/01/11(金) 01:07:40.88 ID:CasTSGYNo
騎士「…証拠はあるのか?」

村人B「だ、だから!それはあいつが世話になっていたシスターが竜に化けたんでさあ!!」

騎士「ではそのシスターとやらは何をしたのだ?」

村人A「な、なにって…」

騎士「私は、黒い竜が村に現れたあと森の中に赤い竜が現れ、黒い竜と共にどこかへ飛んで行ったと聞いているが?」

村人B「だからその赤い竜がシスターで!」

109: 2013/01/11(金) 01:08:14.36 ID:CasTSGYNo
騎士「…だとしたらシスターとやらは村を守るために竜に変化したのではないか?」

村人A「そ、そんなの聞いたことねえ!人が竜になるなんて!!なあ!?」

村人B「あ、ああ!そうだそうだ!!」

騎士「お前らが知らないのは無理もない。とうの昔に失われた秘術だからな」

村人A、B「「へ?」」

騎士「…手配中の賢者は優秀だったと聞く…もしかしたらその秘術を復活させていたのかもしれない…」

村人A、B「「…」」

110: 2013/01/11(金) 01:08:47.89 ID:CasTSGYNo
肉屋のおばちゃん「あんたたち!わかったろ!!さっさとあの子を迎えにいきな!!」

村人A、B「「ひぇっ!」」

騎士「…いや、もう時間がない」

肉屋のおばちゃん「…え?」

騎士「出発の時間だ」

肉屋のおばちゃん「そ、そんな…」

騎士「悪いな。あの子一人のために村人全員を危険な目に合わすわけにはいかないのだ」

村人A、B((ほっ…))

111: 2013/01/11(金) 01:09:14.69 ID:CasTSGYNo
騎士「…さ、行くぞ」

肉屋のおばちゃん「ちょ、ちょっと待ってよ!書き置きだけ置いてくるからさ…」

騎士「…早くするんだぞ?」

村人A「お、俺たちは悪くない…」ブツブツ…

村人B「そ、そうだ…あのガキは竜の仲間なんだ…」ブツブツ…


112: 2013/01/11(金) 01:09:45.36 ID:CasTSGYNo
~家・ダークエルフの墓~

男「えへへ…帰ってきちゃった…」

男「今日から一人…ううん、お母さんと二人だね。あはは…」

男「…おばちゃんたちを見送りに行ってくるね」

シュイン…


113: 2013/01/11(金) 01:10:13.87 ID:CasTSGYNo
~村はずれの木の上~

男「…」

ヒヒーン ガラガラガラ…

男「おばちゃん…ばいばい…」

ガラガラ…ヒュー…

男「行っちゃった…」

ポロッ

114: 2013/01/11(金) 01:10:41.01 ID:CasTSGYNo
男「!!」グイッ

男「な、泣いてない!これは汗!汗なんだから!!」ゴシゴシ

グゥ…

男「…こんなときでもおなかはすくんだなぁ」

男「…村に何かないかな?」


115: 2013/01/11(金) 01:11:09.91 ID:CasTSGYNo
~無人の村~

男「…あはは。肉屋のおばちゃんちに来ちゃった…あれ?」

ヒラヒラ

男「何か貼ってある…なんだろ?」


116: 2013/01/11(金) 01:11:36.93 ID:CasTSGYNo
  男ちゃんへ

  連れて行けなくてごめんなさい。

  せめてもの償いに、店の中に食べ物を置いておきました。

  あと、畑の野菜は自由に食べていいですから。

  あんたを置いていくことは残念ですが、精一杯生きてください。

  さようなら。


117: 2013/01/11(金) 01:12:03.71 ID:CasTSGYNo
男「おばちゃん…」グスッ

男「これは…ハムに干し肉に玉ねぎにパンに…すごい…いっぱいあるよ」

男「ありがとうおばちゃん…僕、頑張るからね」


118: 2013/01/11(金) 01:12:39.05 ID:CasTSGYNo
~1週間後・ダークエルフの墓~

男「…」

男「じゃあ、村の畑に行ってくるね。おかあさん」

賢者「ここに居たのですか」

ビクッ

男「…あ、賢者様!」

賢者「久しぶりですね」

トテテテテ ギュッ

賢者「どうしたのですか?」

男「うぅ…うわぁああああん!!うわぁあああん!!!」

賢者「…」ナデナデ
  ・
  ・
  ・

119: 2013/01/11(金) 01:13:05.85 ID:CasTSGYNo
男「ヒック…ヒック…」

賢者「…落ち着きましたね」

男「…うん…ヒック」

賢者「使い魔が赤竜宛の手紙を持って戻ってきたので気になってきたのですが…何があったのですか?」

男「うん…あのね?」
  ・
  ・
  ・

120: 2013/01/11(金) 01:13:36.85 ID:CasTSGYNo
賢者「そうですか…黒い竜が赤竜を連れて行ってしまったのですね…」

男「うん…」

賢者「…」

男「…ねえ賢者様」

賢者「はい?」

男「シスターは…竜…なの?」

賢者「…ええ。シスターはこの森で罠に掛かっていた赤竜です」

121: 2013/01/11(金) 01:14:05.16 ID:CasTSGYNo
賢者「それを私が見つけ、彼女を罠から解放したんです」

賢者「すると彼女は恩返しだと言って人に変化し、私といっしょに暮らすようになったのです」

男「そうなんだ…」

賢者「…ショックですか?」

男「うん。でも…竜だったけどシスターはシスターだもん…」

男「僕のもう一人のお母さんだもん…」

賢者「男…」

122: 2013/01/11(金) 01:15:53.20 ID:CasTSGYNo
男「もう村にはだれもいないの…ひとりぼっちなんだ、僕…」

賢者(先ほどの男の話では、もうこの付近に人間はいないとのことですね…)

賢者「…私がいますよ?」

男「え?」

賢者「…ここはもともと私の家なのです。訳あって私は村を出ましたが…」

賢者「そのあと赤竜がこの家を守っていたのですよ」

男「…一緒に住んでくれるの?」

賢者「嫌ですか?」

男「ううん!」ダキッ

123: 2013/01/11(金) 01:16:20.61 ID:CasTSGYNo
賢者「今日からは私が母親代わりです。いいですか?」

男「うん!」

賢者「いい返事です」

男「えへへ…あのね?」

賢者「なんですか?」

男「…ありがと」ニコッ

賢者「はい」ニコッ


124: 2013/01/11(金) 01:17:32.30 ID:CasTSGYNo
~数日後~

ザクッ ザクッ

男「こんなもんかな?」

男「…おばちゃん、野菜を残してくれてありがとう」

賢者「…男、こんなところにいたのですか」

男「あ、賢者様!」

賢者「…ここは村人の畑ですか?」

男「うん。肉屋のおばちゃんが残してくれた畑なんだ」


125: 2013/01/11(金) 01:18:01.61 ID:CasTSGYNo
賢者「勝手に収穫しているのですか?」

男「ううん。あそこに張り紙がしてあるよ。もって行っていいよって」

賢者「そうですか。良かったですね」

男「うん!」

賢者「それはそうと…男、私はこれから出かけてきます」

男「おでかけ?」

賢者「はい。盗賊…仲間のところに行ってきます」

男「はーい…」

126: 2013/01/11(金) 01:18:33.99 ID:CasTSGYNo
賢者「どうしたのですか?元気が無いようですが?」

男「…帰ってくる?」

賢者「ええ。ちゃんと帰ってきますよ」

男「だったら…うん。いってらっしゃい」

賢者「はい。いってきます。“転移呪”」

シュイン

男「…」


127: 2013/01/11(金) 01:19:00.86 ID:CasTSGYNo
~盗賊がいる町~

シュイン

賢者「人を隠すには人の中…とはいうものの…」

ヒラヒラ

賢者「手配書がそこここに張られていますね…まったく、肝が据わっていると言うか…」

賢者「…あまりゆっくりしては居られないですね。フードをしっかり被って急ぐとしましょう」


128: 2013/01/11(金) 01:19:28.27 ID:CasTSGYNo
~盗賊の家~

賢者「…ここですね」

コンコン

ギィ…

賢者「久しぶりですね盗賊。また随分髭を伸ばしたんですね」

盗賊「ああ。変装するより楽だからな。ま、入ってくれ」

賢者「はい。お邪魔します」パタン

129: 2013/01/11(金) 01:19:56.36 ID:CasTSGYNo
盗賊「で?迎えにくると言っていたが…どこに行くんだ?」

賢者「私の家です」

盗賊「ほう」

賢者「貴方に紹介したい人がいます」

盗賊「誰だ?まさか…勇者か!?」

賢者「いいえ」

盗賊「じゃあ…誰だ?」

賢者「…まずは会ってもらったほうが早いと思いまして」

130: 2013/01/11(金) 01:20:22.53 ID:CasTSGYNo
盗賊「連れてきていないのか?」

賢者「ええ。今あの子を村から連れ出すのは得策ではないと思うので」

盗賊「わかった。荷物を取ってくるからちょっと待ってくれ」

賢者「はい」

131: 2013/01/11(金) 01:20:51.49 ID:CasTSGYNo
~町中~

テクテク

盗賊「で、相手はどんな人物なんだ?」

賢者「そうですね。見かけは子供です」

盗賊「中身は大人なのか?」

賢者「いえ、中身も子供です」

盗賊「ただの子供じゃねえか」

賢者「ええ。一見どこにでもいる普通の子供です」

132: 2013/01/11(金) 01:21:22.06 ID:CasTSGYNo
盗賊「ん?やけに含みを持たせた言い方じゃないか」

賢者「ええ。実は…」

クイニゲダー!アソコダー!ニガスナー!

?「ひぃいいい!!」トテテテテ

ドンッ!

?「あっ!」ズササー

賢者「あっ!フードが」パサ…

町人1「おいあんた!そのガキをこっち…に?」

133: 2013/01/11(金) 01:22:00.97 ID:CasTSGYNo
?「ひゃっ!」ビクビク

ヒソヒソ ヒソヒソ…

町人2「お、おい…あれは手配書の…」

町人3「ああ。“賢者”に間違いない…俺たちの敵う相手じゃ…」

町人4「ど、どうすんだよ…兵隊呼ばないとやべえよ…」

ザワザワ…

盗賊「…どうする?」

賢者「決まってるでしょう?…“転移呪”」

?「え?きゃあああ!!」

シュイン…

町人‘s「「「「…い、いっちまった…助かった…」」」」


134: 2013/01/11(金) 01:22:33.24 ID:CasTSGYNo
~男の家の近く~

シュイン シュタッ ドサッ

?「みぎゃっ!」

賢者「大丈夫ですか?」

?「うぅ…いたいよお…」

盗賊「…連れてきたのか?」

賢者「ええ、呪式の展開範囲の関係でしかたなく。いけませんか?」

盗賊「いや…」ジー

?「…な、なに?」


135: 2013/01/11(金) 01:23:33.25 ID:CasTSGYNo
賢者「盗賊、そんなに見つめると嫌われますよ?」

盗賊「あ、ああ…けど…」

賢者「…普通の女の子ですよ?角と羽と尻尾が生えて耳が長いだけの」

?「…え?」ペタペタ

?「あっ!…あっ!でてる!!変化が解けちゃってる!!」アタフタ

盗賊「…慌ててるみたいだぞ?」

賢者「そうですね。どうしたんでしょう?」

?「はわわ…はわ…あ、あれ?」

136: 2013/01/11(金) 01:24:07.99 ID:CasTSGYNo
盗賊「で、家はどっちだ?」

賢者「そうですね…あっちに行けば家があります」

盗賊「よし。行くぞ。荷物はこれで全部だな」

賢者「ええ。荷物を持たせてすみません」

盗賊「へへへ。俺は力仕事も得意なんだぜ?」

賢者「ふふふ。貴女も…なんて呼べばいいかしら?」

?「え?あ、はい…魔娘…です…」

賢者「…では魔娘もいっしょに行きましょう」

?改め魔娘「…え?」


138: 2013/01/11(金) 01:24:42.87 ID:CasTSGYNo
賢者「大したものはありませんが食事もありますから。食い逃げするほどおなかが空いていたんでしょう?」

魔娘「う、うん…」

賢者「立てますか?」

魔娘「あ、うんっしょ…っ!いたっ!」

賢者「…足をくじいたみたいですね。ほら」スッ

魔娘「え?」

賢者「肩を貸しますよ」

魔娘「い、いいの?」

賢者「ええ」

ヒョコ ヒョコ

140: 2013/01/11(金) 01:26:42.34 ID:CasTSGYNo
魔娘「…へんなの」

賢者「なにがですか?」

魔娘「だって…私は人間じゃないのに…」

賢者「些細なことです」

魔娘「え?だって…」

賢者「…私は以前、竜と一緒に暮らしていたことがあるんですよ?」

魔娘「え!?」

141: 2013/01/11(金) 01:27:20.35 ID:CasTSGYNo
賢者「意思の疎通が出来るのであれば、むやみに怖がる必要はないでしょう?」ニコッ

魔娘(側近は “人間”のこと、ずるがしこくて、隙があれば騙そうとする油断できない相手だって言ってたけど…)チラッ

賢者「…なんですか?」

魔娘「あ、ううん!…あの…」

魔娘「あなた達は人間から逃げてるみたいだけど…どうして?」

賢者「…私達は仲間を見捨てたお尋ね者なのですよ」

142: 2013/01/11(金) 01:27:59.92 ID:CasTSGYNo
魔娘「罪人なの?」

賢者「ある意味そうですね…」

魔娘「そうは見えないけどなぁ…」

賢者「…罪か否かは人が定めた法によって決まるのですよ」

賢者「私達はその法によってお尋ね者になったのです」

魔娘「でも、仲間を見捨てたのだって何か理由があるんじゃ…」

賢者「結果がすべてなのです。理由は意味がないのですよ」

魔娘「そんなの…法が間違ってるよ…」

143: 2013/01/11(金) 01:28:32.74 ID:CasTSGYNo
賢者「…貴女は優しいのですね」

魔娘「そ、そんなことない!」

賢者「ふふふ。私は貴女が気に入りました。もし行く宛てがないのなら…一緒に暮らしませんか?」

魔娘「え?」

賢者「やっぱり罪人といっしょでは嫌ですか?」

魔娘「あなた達は罪人じゃないと思うから…でも…いいの?私、人間じゃないよ?」

賢者「かまいませんよ。大勢のほうが賑やかでいいですから」

魔娘「…やっぱり変なの」クスッ

賢者「ふふふ。ほら、見えてきましたよ」

144: 2013/01/11(金) 01:29:10.95 ID:CasTSGYNo
~男の家~

男「…はぁ」

コンコン

ピクッ

男「…」

ガチャ

賢者「ただいま帰りました」

男「!」ダキッ

145: 2013/01/11(金) 01:29:46.84 ID:CasTSGYNo
賢者「すみません。ちょっと手違いがあって遅くなってしまいました」ナデナデ

男 ギュッ

賢者「…帰ってこないと思っていましたか?」

男「…うん」

盗賊「ほう…見た目は完全に人間だな。よいしょっと」ドサッ

男「え?誰?」

魔娘「あ…」

男「え?え?」

146: 2013/01/11(金) 01:30:23.73 ID:CasTSGYNo
賢者「ああ。このふたりは今日からここで一緒に暮らすことになった盗賊と魔娘です」

盗賊「盗賊だ。よろしくな、坊主」

魔娘「…魔娘…です」

男「あ、男です」ペコッ

盗賊「うむ」

魔娘「?」クンクン

男「な、なに?」


147: 2013/01/11(金) 01:30:51.54 ID:CasTSGYNo
魔娘「…ふうん…そっか」

男「な、なにが?」

賢者「食事の用意が出来ましたよ。と言ってもパンとハムとチーズですが」

魔娘「わーい!あ、ちょっと肩貸して?」

男「う、うん。いいよ」

ヒョコヒョコ フワッ

男「!?」

魔娘「どうしたの?」

男「な、なんでもない!」ブンブン

男(女の子っていい匂いがするんだな…)
  ・
  ・
  ・

148: 2013/01/11(金) 01:31:20.79 ID:CasTSGYNo
賢者「…さ、もう夜も遅いですから寝なさい」

男「はーい」

魔娘「おやすみ」

賢者「貴女もですよ?」

魔娘「え?あ、私はまだ…」

賢者「貴女は見たところ男とそう変わらない年に見えます。ですからもう寝たほうがいいですよ?」

魔娘「…はーい」

男「…あ、でもベッドが二つしかないよ?」

賢者「足りない分は明日村から調達しましょう。今夜は男と魔娘は一緒に寝てください」


149: 2013/01/11(金) 01:31:58.71 ID:CasTSGYNo
魔娘「え?」

男「ぼ、僕はいいけど…」チラッ

魔娘「…いいわ」

男「…へ?」

賢者「それじゃ二人とも、おやすみなさい」

魔娘・男「「はーい」」


150: 2013/01/11(金) 01:32:25.33 ID:CasTSGYNo
~男の部屋・ベッドの上~

魔娘「もうちょっとそっちにいってよ」モゾモゾ

男「無理。落ちちゃうもん」

魔娘「もう!しょうがないわね…」

男「…」

魔娘「…ねえ」

男「…なあに?」

魔娘「あなたも驚かないのね…」

男「なにが?」

151: 2013/01/11(金) 01:32:54.46 ID:CasTSGYNo
魔娘「だってほら」ピコピコ

魔娘「私、人間じゃないのよ?角も尻尾もあるし…」

男「…僕も半分は人間じゃないからね」

魔娘「…そうね」

男「え?知ってたの?」ガバッ

魔娘「ええ。匂いで分かるわ。男、あなた…エルフと人間のハーフでしょ?しかも竜の血も混ざってる」

男「ふーん…よくわかるね。でも竜の血は混ざってるんじゃなくて…小さい頃、竜のお乳で育ったらしいから…」

魔娘「竜のお乳?そんなの出るの?」

男「出るみたいだよ?」

魔娘「ふーん…そっか」

152: 2013/01/11(金) 01:33:30.48 ID:CasTSGYNo
男「…ねえ」

魔娘「なあに?」

男「きみ、いくつ?」

魔娘「れでぃーに年を聞くのは失礼よ?」

男「れでぃーって…子供じゃん」

魔娘「なっ!?失礼ねー。あなたも子供じゃん」

男「…」

魔娘「…」

魔娘「…ま、いいわ。9歳よ」

153: 2013/01/11(金) 01:33:57.23 ID:CasTSGYNo
男「年下だね。僕は10歳」

魔娘「その割には私より幼稚ね」

男「そうなの?」

魔娘「そうよ。友達にも言われない?幼稚だって」

男「友達…居ないんだ」

魔娘「え?」

男「僕はずっとここでシスターと暮らしてたからね。村には時々しか行かなかったから…」


154: 2013/01/11(金) 01:34:24.37 ID:CasTSGYNo
魔娘「…そっか。私と同じね」

男「そうなの?」

魔娘「私、小さいころからお城の中で暮らしてたし、友達なんて…」

男「そっか…じゃあさ、友達にならない?」

魔娘「は?」

男「だって初めてなんだもん。同じぐらいの子とこんなに話したのは」

魔娘「そう言えば…私もそうね」


155: 2013/01/11(金) 01:34:50.87 ID:CasTSGYNo
男「ね?いいでしょ?」

魔娘「…嫌よ」

男「え?なんで?」

魔娘「だって私とあなたじゃ身分が違うもの。私はしゅお…っ!」

男「なあに?」

魔娘「な、なんでもない!とにかく、私はあなたと友達になる気はないの」

156: 2013/01/11(金) 01:35:24.49 ID:CasTSGYNo
魔娘「…でも、どうしてもって言うなら…この家に居る間は友達になってあげてもいいわよ?」

男「うん!ありがとう!!」

魔娘「ベ、別にお礼を言われるようなことじゃないわ!」

男「あははは。じゃあ僕のことは“男”って呼んでよ」

魔娘「分かったわ。じゃあ私のことは“魔娘”って呼んでいいわよ」

ドアの外:賢者(気になってきてみましたが…仲良くなったみたいですね)


169: 2013/01/11(金) 23:40:34.56 ID:CasTSGYNo
~別室~

パタン

賢者「ようやく寝たようです」

盗賊「そうかい。あいつらは仲良くやれそうだな」

賢者「分かりますか?」

盗賊「ああ。大きな声も聞こえなかったしどちらかが部屋から出てくることもなかった」

盗賊「と言うことはとりあえず問題はないということだろ?」

賢者「そうですね」クスッ

盗賊「ん?」

170: 2013/01/11(金) 23:41:01.44 ID:CasTSGYNo
賢者「いえ。貴方が魔娘をすんなり受け入れたことがちょっと信じられなくて」

盗賊「まあ俺も…魔族のことを知っているからな」

賢者「ええ。彼等も私たち人間と変わりません」

盗賊「ああ。知性も理性もあるし、ケンカも仲直りだってできる」

盗賊「魔界に行ってみて、こっちの“魔族”のイメージってのがどんだけ歪んでいるか分かったからな」

盗賊「それに相手は子供だぜ?いくら魔族とはいえ、子供に手を出しちゃダメだろ」

賢者「ええ。そうですね」

171: 2013/01/11(金) 23:41:28.74 ID:CasTSGYNo
盗賊「…ところで」

賢者「はい?」

盗賊「俺は何をしたらいいんだ?」

賢者「…分かっているでしょう?」

盗賊「ま、大体な。男を鍛えるんだろ?」

賢者「それも大事なことですが…貴方には男の父親になってほしいのです」

盗賊「はぁ?」

172: 2013/01/11(金) 23:42:09.46 ID:CasTSGYNo
賢者「…あの子は今まで赤竜と二人で暮らしてきました」

賢者「ですから、“漢”として見本になる男性に接することがなかったのです」

賢者「盗賊、貴方には父親らしく振舞っていただき、そして“漢”を男に教えてほしいのです」

盗賊「…まったくえらいことを言うもんだ。ま、あんたは仲間だし頼まれりゃなんでもやるけどよ」

賢者「お願いします」

盗賊「ああ。それと…魔娘のことなんだが…」

賢者「あの子は私が淑女の嗜みを教えますよ」

盗賊「いや、そうじゃなくてよ…あの子の正体についてなんだが…」

173: 2013/01/11(金) 23:42:40.20 ID:CasTSGYNo
盗賊「…あの子は今まで見たどの魔族とも違う姿をしている」

盗賊「…赤い髪に緑の目、黄色の角に白い肌と羽と尻尾とは…」

盗賊「賢者にはあの子がどんな魔族かわかるか?」

賢者「私にも皆目見当がつきません…ただ…」

盗賊「ただ?」

賢者「人間に変化することは出来ても、追ってくる町人を振り切ることが出来ないのですから、そんなに強い魔族ではないと思うのです」

174: 2013/01/11(金) 23:43:13.58 ID:CasTSGYNo
盗賊「そうかい…あの子に直接聞いてみるか…」

賢者「それは私がします。貴方がすると脅しているように見えますから」

盗賊「そんなに人相が悪いか?」

賢者「ええ。貴方は眼つきが悪いですから」

盗賊「えらい言われようだな」

175: 2013/01/11(金) 23:43:40.32 ID:CasTSGYNo
賢者「…さ、そろそろ私達も寝ましょう」

盗賊「そうだな。賢者はベッドを使え」

賢者「貴方はどうするのですか?」

盗賊「俺は床の上でも平気だ」

賢者「…一緒に寝ましょうか」

盗賊「へへへ。俺の理性を信じてくれるのは嬉しいが…」

賢者「あら、そんなものは信じていませんよ?」

盗賊「…それは誘っていると取るぞ?」

賢者「かまいませんよ?ねえ、旅をしてた頃みたいに…」

盗賊「…今夜は寝かせねえぞ?」

賢者「そんな体力があるんですか?」

盗賊「…言ったな?」ニヤッ

176: 2013/01/11(金) 23:44:09.68 ID:CasTSGYNo
~翌朝~

チュンチュン…

男「…ん…んんーっ!」

男 ネボケー

魔娘「…スー…スー…」

男「…起こさないように…」ソロー…

パタン

男「…ん?この匂いは…」クンクン

177: 2013/01/11(金) 23:44:36.07 ID:CasTSGYNo
ガチャ

盗賊「よう。おはよう」

男「あ、おはようございます…」

盗賊「ホットミルクならあるぞ。飲むか?」

男「あ、はい。ありがとうございます…このミルク、どこから持ってきたんですか?」

盗賊「ああ。下の村跡を見に行ってきたんだが、そこに牛が何頭かいてな」

男「そうなんですか。その牛はどうしたんですか?」

盗賊「連れてきた。庭にいるぞ」

男「うわー!すごいなぁ!!」

178: 2013/01/11(金) 23:45:22.81 ID:CasTSGYNo
盗賊「これでしばらくはミルクには困らないだろ」

男「いえ、そうじゃなくて…僕だったら牛を連れて帰ることなんて出来なかっただろうなって…」

盗賊「…後で牛の扱い方を教えてやるよ」

男「ホントですか?」

盗賊「ああ。牛は農作業や荷物の運搬にも使うんだ。扱いを覚えておいて損はねえだろ」

男「ありがとうございます!」

盗賊「他にも知りたいことがあるなら、俺で分かることなら教えるぜ」

男「はい!お願いします!!」

盗賊「へっ。いい返事だ」

179: 2013/01/11(金) 23:45:50.71 ID:CasTSGYNo
ガチャ

賢者「…おはようございます…」

盗賊「ああ、おはよう」

男「おはようございます…どうしたんですか?」

賢者「なんでもありません…ちょっと腰が痛いだけです」トントン

盗賊「ははは…」

男「?」

180: 2013/01/11(金) 23:46:17.37 ID:CasTSGYNo
賢者「それより男。魔娘を起こしてくれませんか」

男「あ、はい」

パタン

賢者「…いい感じでしたね」

盗賊「何のことだ?」

賢者「先ほどふたりで話していたでしょう?」

盗賊「見てたのかよ」

181: 2013/01/11(金) 23:46:47.10 ID:CasTSGYNo
賢者「ええ。正直驚きましたよ」

盗賊「なんでだ?」

賢者「盗賊は子供が苦手だと思っていましたからね。それより昨夜のことなんですが…」

賢者「少しは加減してくださいよ。久しぶりなんですから」

盗賊「わるいわるい。今まで溜め込んでいたもんが一気に爆発しちまった」

賢者「まったく…おかげで腰痛ですよ…」

182: 2013/01/11(金) 23:47:26.83 ID:CasTSGYNo
~朝食中~

モグモグ…

盗賊「食べ終わったら村に行って良さそうなベッドを取ってこようぜ」

男「はい」

盗賊「牛車の手綱は男に任せるからな」

男「え?」

盗賊「頼んだぞ」

男「あ、はい!」

魔娘「私も行くー!」

賢者「そうですね。一緒に行ってらっしゃい」

男「賢者様は?」

賢者「私は掃除と洗濯がありますし、お昼の準備もしないといけませんからね」

賢者(本当は腰を休めたいんです)

184: 2013/01/11(金) 23:48:46.57 ID:CasTSGYNo
~村~

ガラガラガラ…

魔娘「…どの家も蛻の殻ね。全然壊れてないのに…」

男「…」

盗賊「この村は竜に襲われたらしいな。それでここに住む人たちはこの村を捨てたそうだ」

魔娘「でも何も壊れてないように見えるわ」

盗賊「なんでも別の竜が森に誘導したんだってよ。そして竜は2頭ともどこかに飛んでいってしまったそうだ」

魔娘「ふーん…」

魔娘(その竜は何しにこんなところまで来たのかしら…)

186: 2013/01/11(金) 23:51:47.90 ID:CasTSGYNo
盗賊「…よし、この辺でいいだろ」

男「どうどう…」

魔娘「この家に入るの?」

盗賊「ああ。この家のベッドを頂くとしよう。男、牛車をそこに繋いどいてくれ」

男「はい」

ギュッ

男「はぁ…緊張した…」

187: 2013/01/11(金) 23:52:15.00 ID:CasTSGYNo
盗賊「鍵が掛かってるな…ちまちま開けんのもめんどくせえし…男、その鉈を貸してくれ」

男「え?これですか?」

盗賊「ああ」

男「…はい」

盗賊「おう----なっ!?」ガクッ!

男「だ、大丈夫ですか?」

盗賊「あ、ああ…大丈夫だ。けど…なんだこの鉈は?」

盗賊(見た目ではせいぜい1、2kgほどなのに…こりゃあ5kg以上あるぞ!)

188: 2013/01/11(金) 23:52:42.75 ID:CasTSGYNo
男「シスターが作った鉈です」

盗賊「シスターが作った?」

男「ええ」

盗賊「竜が鍛えた鉈…それでこの重さなのか。…ふんっ!」

ガキン

盗賊「よし、開いた…男、運び出すのを手伝ってくれ」

男「あ、はい」

189: 2013/01/11(金) 23:53:11.48 ID:CasTSGYNo
~帰り道~

ガラガラガラ…

男「~♪」

盗賊「牛の扱いも大分なれてきたな」

男「そ、そうですか?」

盗賊「ああ」

魔娘「そうそう♪行きはよく揺れたけど今はそんなに揺れないしねー」

男「そう?っていうか、魔娘って行きも帰りもずっと牛車に乗ってない?」

魔娘「あら。私はか弱い女の子ですもの♪」

盗賊「ははは。男、オンナって言うのは我侭な生き物だ。少しぐらいなら我慢しろ」

男「は、はい…」

190: 2013/01/11(金) 23:53:39.20 ID:CasTSGYNo
~昼食後~

一同「「「ごちそうさま」」」

賢者「はい。おそまつさま」

盗賊「…ふたりとも。ちょっと休んだら外に出てきてくれ」

男「あ、はい」

魔娘「いいけど…なにをするの?」

賢者「貴方達の力を見せてもらいたいのですよ」

魔娘・男「「ちから?」」

191: 2013/01/11(金) 23:54:06.78 ID:CasTSGYNo
~家の前~

ガチャ

盗賊「お、出てきたな」

魔娘・男「「…」」

賢者「そんなに緊張しなくてもいいですよ」クスッ

魔娘「は、はい」

賢者「では…どんな特技があるか教えてください。まずは魔娘から」

魔娘「え?私?」

192: 2013/01/11(金) 23:54:33.40 ID:CasTSGYNo
賢者「そうです。貴女は“変化呪”が出来ますよね。あとは何が出来ますか?」

魔娘「あとは…“回復呪”とか“解毒呪”とか…」

賢者「なるほど…白魔法ですか。ちょっと頭に手を置きますよ?」

ボワン

魔娘「え?え?」

賢者「…魔娘。貴女は…」

魔娘 ギクッ

193: 2013/01/11(金) 23:55:02.95 ID:CasTSGYNo
賢者「…貴女には強力な封印がしてありますね」

賢者「…そのせいで魔法が制限されています」

魔娘「…」

盗賊「封印がとけたらどうなるんだ?」

賢者「それは分かりませんが…回復魔法が全体全回復ぐらいまで使えるようになるかもしれませんね」

男「すごいや…」

194: 2013/01/11(金) 23:55:32.18 ID:CasTSGYNo
盗賊「ふうん。他に使える魔法はないのか?」

賢者「それは分かりません。そもそもこの封印自体、完全ではないのです」

盗賊「どういうことだ?」

賢者「普通封印は例外を作らないものなのです」

賢者「ところがこの封印は“変化呪”と“回復呪”、それに“解毒呪”の三つだけは封印していないのですよ」

盗賊「なるほど…妙だな…」

賢者(こんな封印を張れるなんて…どんな術者でしょうか。いえ、それより…)

賢者(術者から離れると魔力の供給が止まり術が解けるはずなのですが…この封印はどうなっているのでしょう…)

195: 2013/01/11(金) 23:56:11.32 ID:CasTSGYNo
賢者「…とにかく、今は“変化呪”と“回復呪”の二つについて鍛えていきましょう」

魔娘「…え?」

賢者「“解毒呪”は鍛えようがありませんが“変化呪”と“回復呪”は鍛えることでより強い効果が得られるようになります」

魔娘「そう…なのかしら?」

賢者「今まで貴女の身を助けてきた魔法です。鍛えておいて損は無いでしょう」

魔娘「う、うん…」

196: 2013/01/11(金) 23:56:44.36 ID:CasTSGYNo
盗賊「…次は男。お前にはどんな特技があるんだ?」

男「あ、僕は“転移”と“念動”です」

賢者「もうひとつ、“力”ですね」

盗賊「ま、まあ…“転移”は分かるんだが…“念動”と“力”というのはよく分からねえんだが…」

賢者「そうですね…男、できますか?」

男「う、うん。じゃあ…ここからあの道のずっと先に転移します」

シュイン

魔娘・賢者・盗賊「「「!?」」」

197: 2013/01/11(金) 23:57:18.86 ID:CasTSGYNo
魔娘「なに今の!?呪文も唱えずに…あんな“転移呪”、見たことないわ」

賢者「いいえ…あれは“転移呪”ではありません」

魔娘「え?今のはどうみても“転移呪”でしょ?」

盗賊「あれは…“物質入替え”か?」

賢者「…そうですね」

魔娘「“物質入替え”?なにそれ?」

賢者「普通の”転移呪“は術者を目的地まで運ぶんですが男の場合は…」

賢者「転移先の物質と男を入替えてるのです。つまり、二つの物質を瞬時に交換しているのですよ」

賢者「…それと魔力を感じないのは…」

198: 2013/01/11(金) 23:58:03.07 ID:CasTSGYNo
シュイン

男「はぁ…どうですか?」

魔娘・賢者・盗賊「「「…」」」

男「…どうしたの?」

賢者「…男、その“転移”は…どれぐらいの距離まで出来ますか?」

男「え?えっと…試したことはないんですけどかなり遠くまでいけると思います」

賢者「そうですか」

199: 2013/01/11(金) 23:59:08.21 ID:CasTSGYNo
男「…シスターには見える範囲内でしか使っちゃいけないって言われましたけど…」

賢者「それでは…例えば、その“転移”でそこの川に行けますか?」

男「…え?」

賢者「確かめたいことがあるのです。やってくれますか?」

男「う、うん…でも、あそこの川、浅いけど水があるから足が濡れちゃうよ?」

賢者「確かめるために必要なのです。お願いします」

男「うん…」

シュイン バシャッ

200: 2013/01/11(金) 23:59:35.59 ID:CasTSGYNo
魔娘「え?なんで水が!?」

賢者「やはり…」

盗賊「…」

シュイン

男「はぁ…これでいいですか?」

賢者「ええ」

盗賊「…やっぱりな」

男「え?」

201: 2013/01/12(土) 00:00:06.08 ID:Xs2jh4y4o
賢者「…男、その特技はあまり使わないほうがいいかもしれませんね」

男「どうして?」

賢者「…貴方が体力を消耗しているのが気になるのです。魔力を消費しない分、体力を消費しているのではないですか?」

男「うん、ちょっと…疲れてるかな?」

賢者「疲労度はおそらく転移先の物質の密度や距離に比例すると思われます」

賢者「つまり、何もない所だと疲労は少なく、水や岩などの密度の高い所だと疲労が激しいのではないでしょうか」

賢者「ですから、“転移”については目で見える範囲でしか使用しないほうがいいでしょう」

男「よくわかんないけど…はーい」

202: 2013/01/12(土) 00:00:33.18 ID:Xs2jh4y4o
賢者「…続いて“念動”ですか」

男「はーい。じゃあ…魔娘、僕に向かって石を投げてよ」

魔娘「え?いいの?当たったら怪我するわよ?」

男「そのときは魔娘の“回復呪”で直してね。でも当たらないけど」

魔娘「言ったわねぇ!?もう手加減してやんないから!えいっ!」

ビュン

男「むんっ!」

ピタッ

魔娘「…え?石が…浮いてる?」

203: 2013/01/12(土) 00:01:00.35 ID:Xs2jh4y4o
盗賊「これは…おもしれえな」

賢者「“防壁”に似ていますね…しかしこれも…体力を消費するようですね」

男「え?これは使っても疲れないよ?」

賢者「それは消費する体力量が少ないと言うことですよ」

男「そっか。えいっ!」

ヒュー…ン

魔娘「…石が…飛んでっちゃった…」

盗賊「止めるだけじゃなく、動かすこともできるのか…」

204: 2013/01/12(土) 00:01:38.22 ID:Xs2jh4y4o
賢者「最後に、“腕力”ですね。男、お願いします」

男「じゃあこの石で…ふんっ!」

がキッゴリゴリ…パラパラパラ…

盗賊「石が砂に!?」

魔娘「すごい…男は怒らせちゃダメね…」

男「えへへへ。やっとシスターと同じぐらいになったよ」ニコッ

賢者「この力は赤竜の母乳で育ったために身についた赤竜の力なのでしょう」

盗賊「話には聞いていたけど…すごいな」

205: 2013/01/12(土) 00:02:06.79 ID:Xs2jh4y4o
賢者「盗賊」

盗賊「なんだ?」

賢者「男の能力を生かすため、鍛錬をお願いします」

盗賊「俺は教えるのは苦手だって言ってんだろ」

賢者「このままだと男は能力を無駄にしてしまいます」

賢者「…私達はいつ何が起こるかわかりません」

賢者「ですから、せめてこの二人が一人でも生きていけるように、出来る限りのことをしてあげたいのです」

206: 2013/01/12(土) 00:02:34.23 ID:Xs2jh4y4o
盗賊「わかったわかった。おい、お前たち」

魔娘・男「「は、はい」」

盗賊「これから俺達がお前たちを鍛える。いいな?」

魔娘・男「「よろしくお願いします」」

盗賊「よしよし」

賢者「…では、明日から勉強と鍛錬をがんばりましょう」

魔娘「うぅ…勉強はイヤ…」

男「僕も…」

207: 2013/01/12(土) 00:05:03.13 ID:Xs2jh4y4o
~夜~

ガチャ

賢者「子供達は寝ましたよ」

盗賊「そうか。なあ…」

賢者「今夜は堪忍してくださいな」

盗賊「そうか…いや、そうじゃなくてだな」

賢者「違うのですか?あら残念…」

盗賊「…え?」

賢者「え?」

208: 2013/01/12(土) 00:05:48.39 ID:Xs2jh4y4o
盗賊「…はぐらかそうとしてるだろ」

賢者「…」

盗賊「賢者、お前、魔娘の状態を調べた後、明らかにおかしかったぞ?」

賢者「…ばれていましたか」

盗賊「何があったんだ?」

賢者「…仕方ないですね。黙っておこうと思ったのですが…」

盗賊「そうやって一人で抱え込むのは昔からの悪い癖だぞ?」

盗賊「話すことで楽になることもあっからよ。言ってみろよ」

209: 2013/01/12(土) 00:06:40.10 ID:Xs2jh4y4o
賢者「それでは…封印に隠されて分かりづらかったんですが…魔娘の魔力は膨大です。私に匹敵するぐらいに」

盗賊「なんだって!?」

賢者「そして封印についてですが…ある条件で封印が壊れる。そんな気がするのです」

盗賊「条件?」

賢者「そうです。不思議な、そして不可解なことですか…封印の今の状態は、特定の魔法のみ魔力を使うことが出来る状態なのです」

賢者「誰が、一体なんの目的でこんな手の掛かることをしたのか分かりませんが…」

賢者「封印を破る、その鍵となるのが“変化呪”と“回復呪”、“解毒呪”の魔法なのではないかと」

盗賊「ふーん…」

210: 2013/01/12(土) 00:07:12.77 ID:Xs2jh4y4o
賢者「もうひとつ、私が気になるのは使える魔法の種類です」

盗賊「魔法の種類がなんか関係あるのか?」

賢者「“回復呪”は初級者でも使える魔法ですが、“解毒呪”や“変化呪”は上級者で無いと扱えない魔法なんです」

盗賊「ほう。つまり、魔娘は上級魔法が使える呪者だってことか。てことは封印した呪者はかなりの使い手だな」

賢者「そう言うことです」

盗賊「…魔王か?」

賢者「可能性は否定できません。彼女は私達が知るところの魔族とは異なる容姿をしていますから、魔王の血縁者かもしれませんね」

盗賊「…ヤバくないか?それ」

賢者「それはそれで運命ですよ」ニコッ

盗賊「お前…すげえな…」

211: 2013/01/12(土) 00:08:38.01 ID:Xs2jh4y4o
~~~~~魔娘の夢~~~~~  

  モクモクモク…

  魔娘「げほっげほっ…なんで煙が?」

  ガチャ

  魔娘「…なにこれ」

  チャキーン ボワッ カキーン…

  魔娘「…なんで?なんでみんな頃し合いしてるの!?」

  ボウッ

  魔娘「ひっ!」ビクッ

212: 2013/01/12(土) 00:09:05.54 ID:Xs2jh4y4o
  トテテテテ

  魔娘「ヒック…お父様ーっ!そっきーん!どこー!!」グスッ

  側近「姫様!」

  魔娘「側近!お父様はどこ!?」

  側近「今お連れします!失礼!!」ヒョイ

  タタタタタ…

  側近「この部屋です!」

  バタン

  主王「魔娘っ!」

  魔娘「お父様!」

213: 2013/01/12(土) 00:09:33.48 ID:Xs2jh4y4o
  トテテテ ダキッ

  主王「無事であったか…怪我は無いか?」

  魔娘「うん…お父様…」

  主王「ん?」

  魔娘「なにがあったの?なんでみんな頃し合いしてるの?」

  主王「…反乱だ」

  魔娘「反乱?」

  側近「軍の過激派が反乱軍に寝返りました」

  魔娘「なんで!?」

214: 2013/01/12(土) 00:10:15.71 ID:Xs2jh4y4o
  側近「主王様は人間界に干渉することを禁じておられます」

  側近「しかし、それを不服とする軍の過激派が反乱軍と手を組んだのです」

  魔娘「え?」

  側近「彼らは人間界に侵攻したがっていましたから…」

  主王「…」

  側近「場内の兵士の中にも寝返ったものがいるようです。いつの間に勢力を広げたのか…すみません。私のミスです」

  主王「…よい。私の監督不行き届きだ。すまぬ」

215: 2013/01/12(土) 00:11:18.32 ID:Xs2jh4y4o
  魔娘「…そんなの!お父様の魔法でやっつけちゃえばいいのよ!!」

  主王「…そうもいかないのだ。奴らはゴブリン族などの弱い魔族を人質にしておるゆえな」

  主王「…我の魔法では人質まで殺めてしまうのだ」

  魔娘「そんなの!人質なんて関係ないでしょ!?」

  主王「そうはいかん。支えてくれる民があってこその王なのだ。民を犠牲にして何が王か」

  側近「…姫。ここから一刻も早く脱出してください」

  魔娘「…え?」

216: 2013/01/12(土) 00:11:51.80 ID:Xs2jh4y4o
  側近「主王様と私は反逆者と戦います。しかし姫は…」

  魔娘「いや!お父様と一緒にいる!!」

  側近「姫!」

  魔娘「いやだもん!」

  主王「…娘よ。我はこの戦乱を治めるため先頭に立って戦わねばならん」

  主王「お前を守るほど余裕は無いのだ…」

  魔娘「うぅ…」

217: 2013/01/12(土) 00:12:26.12 ID:Xs2jh4y4o
  主王「この国はしばらくは戦乱が続くであろう。しばらくは人間界で過ごすがよい」

  魔娘「…え?」

  側近「姫の魔力を検知されないとも限りません。念のため姫の魔力に制限を設けましょう」フィン…

  魔娘「え?ちょっ!ちょっと!!なにするの!?」

  側近「…“変化呪”と“回復呪”、“解毒呪”は使えますが、他の魔法は使えませんのでお気をつけください」

  魔娘「いや!わたしもここに残る!!」

  主王「言うことを聞くのだ。娘よ」

  魔娘「いやよ!ずっとお父様と一緒に居るの!!」

  主王「聞くのだ!!」

  魔娘 ビクッ

218: 2013/01/12(土) 00:13:08.65 ID:Xs2jh4y4o
  主王「…すぐに迎えに行く。それまでの辛抱だ」

  魔娘「…絶対迎えに来てね?」

  主王「うむ。約束しよう」

  側近「…では。“転移呪”!」

  魔娘「え?きゃぁあああ!!」

  シュイン

  魔娘「おとうさまぁぁぁぁぁ…」
    ・
    ・
    ・

219: 2013/01/12(土) 00:13:46.44 ID:Xs2jh4y4o
  シュイン ドサッ

  魔娘「いった~い…」サスサス…

  側近「大丈夫ですか?」

  魔娘「いたいよぉ…ここどこ?」キョロキョロ

  側近「ここは以前、私が調査に来たことのある町です」

  魔娘「ふーん…」

  側近「…姫様、これから先は人変化を解かずにお過ごしください」

  魔娘「え?」

220: 2013/01/12(土) 00:14:16.04 ID:Xs2jh4y4o
  側近「この町では人の子であれば、教会で衣食住を保障してくれるみたいなのです」

  魔娘「え?きょうかい?え?」

  側近「…では、御無事で」

  シュイン

  魔娘「え?側近!そっきーん!!」

  シーン…

  魔娘「…どうしよう…とりあえずきょうかいのほうに行ってみようかな…」
    ・
    ・
    ・

221: 2013/01/12(土) 00:14:42.66 ID:Xs2jh4y4o
  魔娘「…あ、あそこじゃないかな?」

  サア、ミチクサヲセズニカエリマショウ ハーイ

  魔娘「あ!こっちに来る!?」サッ

  コソコソ…

  魔娘(あれは本で見たことがあるわ…人間の子供ね!)

  魔娘(茂みの中に隠れて…見つからないように…え!?)

  モブ幼女 ジー

222: 2013/01/12(土) 00:15:09.95 ID:Xs2jh4y4o
  魔娘(み…見つかった!もう終わりだわ!!)

  モブ幼女『…おねーちゃん、つのとはねがみえてぅよ?』コソッ

  魔娘「はわわ…え?」

  モブ幼女 ジー

  魔娘「…と、とりあえず変化で…」フォン

  魔娘「…これでどう?」

  モブ幼女「…うん。だいじょーぶ」トテトテトテ

  魔娘「あ…いっちゃった…きょうかいにはもう誰も居ないみたい…」

  グゥウ…

  魔娘「おなか空いた…町に行けば食べるものがあるかな?」
    ・
    ・
    ・

223: 2013/01/12(土) 00:16:14.83 ID:Xs2jh4y4o
  ガヤガヤガヤ…

  魔娘「うー…人がいっぱい…ん?」クンクン

  魔娘「これは…りんごの匂い!」

  トテテテテ

  魔娘「あ、あの馬車にいっぱいりんごが!」

  コロリン

  魔娘「あ!落ちた」トテテテ ヒョイ

  シャリ

  魔娘「…すっぱい…でも…おいしい…」

224: 2013/01/12(土) 00:16:41.84 ID:Xs2jh4y4o
  町人1「おい!」

  魔娘 ビクッ

  町人1「そのりんごはうちのだ。食べたんなら御代を払ってもらおうか」

  魔娘「か、“火炎呪”!」

  シーン…

  町人1「なんだあ?お前、金持ってないのか?ああ?」

  魔娘「”火炎呪“!”火炎呪“!!”かーえーんーじゅーっ“!!」

  シーン…

225: 2013/01/12(土) 00:17:10.58 ID:Xs2jh4y4o
  町人1「…てめえ、親どこよ?」

  魔娘「ひぃいい!!!」トテテテテ

  町人1「あ!おい逃げるな!!食い逃げだー!」

  アソコダー!ニガスナー!

  魔娘「ひぃいいい!!」トテテテテ

  ドンッ!

  魔娘「あっ!」ズササー

  魔娘(リンゴが…)

  賢者「あっ!フードが」パサ…

226: 2013/01/12(土) 00:17:39.36 ID:Xs2jh4y4o
  町人1「おいあんた!そのガキをこっち…に?」

  魔娘「ひゃっ!」ビクビク

  ヒソヒソ ヒソヒソ…

  町人2「お、おい…あれは手配書の…」

  町人3「ああ。“賢者”に間違いない…俺たちの敵う相手じゃ…」

  町人4「ど、どうすんだよ…兵隊呼ばないとやべえよ…」

  魔娘(…え?みんなこの人を見てる…じゃあ今のうちに逃げれば!)

  コソコソ

  シュイン

  魔娘「え?きゃあああ!!」

~~~~~~~~~~

227: 2013/01/12(土) 00:18:06.18 ID:Xs2jh4y4o
魔娘「!?」ガバッ

魔娘(ゆ…夢…)

魔娘(嫌な…怖い夢…)

チラッ

男「スー…スー…」

魔娘「…ちょっとでいいから一緒に…ね?」

モゾモゾ

魔娘「…おやすみ」

228: 2013/01/12(土) 00:18:33.35 ID:Xs2jh4y4o
~翌朝~

男「んー…ん?」ネボケー

魔娘「スゥ…スゥ…」

男「…なんで一緒に寝てるの?」

229: 2013/01/12(土) 00:19:00.03 ID:Xs2jh4y4o
~午後~

魔娘「ねむかったぁ…」

男「あ、頭が痛い…賢者様のお勉強、難しかったね…呪文の種類っていっぱいあるんだ…」

賢者「ほら。二人とも午後の鍛錬の時間ですよ」

魔娘・男「「はーい」」
  ・
  ・
  ・

230: 2013/01/12(土) 00:19:27.32 ID:Xs2jh4y4o
盗賊「んじゃあ午後の鍛錬を始める。男はこっちだ」

魔娘「え?私は?」

賢者「貴女はこっちです」

魔娘「はーい…」
  ・
  ・
  ・

231: 2013/01/12(土) 00:19:53.87 ID:Xs2jh4y4o
盗賊「男、お前の柄物はその長鉈だけか?」

男「はい。なんでも切れて便利がいいんですよ」ニコッ

盗賊「そうか…ちょっと構えてみな」

男「はい」

スッ

盗賊(なんだあの構えは!?地面すれすれまで姿勢を低くして…)

男 フッ

盗賊(気配を消した!?)

カッ ブオン!

盗賊「!?」

232: 2013/01/12(土) 00:20:21.13 ID:Xs2jh4y4o
男「…こんな感じですけど」

盗賊「…」

盗賊(あのくそ重たい鉈で衝撃波を出しやがった…勇者でさえ旅の終盤でやっと習得した技だってぇのに…)

男「…あの、盗賊さん?」

盗賊「ん?ああ、わるいわるい。お前、そのかまえは誰に教わった?」

男「あ、シスターに教わったんです。いつもこうやって熊やイノシシを捕まえてたんですよ」

盗賊「なるほどねぇ。それであの居合いか…」

233: 2013/01/12(土) 00:20:57.09 ID:Xs2jh4y4o
盗賊「ところで、その一撃をかわされたらどうすんだ?」

男「そういう時は逃げます」

盗賊「やっぱりな。一撃を放った後は殆んど無防備だもんな」

男「でも、今まで大丈夫でしたよ?」

盗賊「そりゃ相手が動物だからな」

男 ピクッ

234: 2013/01/12(土) 00:21:23.83 ID:Xs2jh4y4o
盗賊「まあ、男の動きも大体分かったし、鍛錬の方針も大体決まった」

盗賊「まずは防御を覚えないとな」

男「防御?」

盗賊「ああ。今のお前は目の前の相手を一撃で倒すことはできても、人間や魔族が相手の乱戦だとすぐにやられちまう」

盗賊「まずは防御だ。それができるようになりゃあ逃げ回ることもねーだろ」

男「は、はあ…」

盗賊「最初は気配を読む練習からだ。敵や味方がどこに居るか、ちゃんと分かるようになんねーとな」

男「は、はい!」

235: 2013/01/12(土) 00:21:50.49 ID:Xs2jh4y4o
~木の下~

魔娘「木陰涼しー♪」

賢者「そうですね」

魔娘「…あの…」

賢者「なんですか?」

魔娘「鍛錬…しないんですか?」

賢者「…もうそろそろですかね」

盗賊「おーい」

賢者「さ、行きましょう」

魔娘「え?は、はい」

236: 2013/01/12(土) 00:22:27.61 ID:Xs2jh4y4o
盗賊「さっそくだけど頼むわ」

魔娘「え?おと…こ?」

男 グター…

賢者「…やりすぎじゃないですか?」

盗賊「こんぐらいやんなきゃ上達しねーだろ?」

賢者「…まあいいです。では魔娘、男を回復してやってください」

魔娘「あ、はい…“回復呪”」

ぱぁ…

男「…あ、痛くなくなった」

237: 2013/01/12(土) 00:23:02.74 ID:Xs2jh4y4o
賢者「…今度は回復度を大きくしてみてください」

魔娘「う、うん。“中回復呪”」

…プスン

魔娘「…あら?」

賢者「…魔娘。貴女は“中回復呪”の練習からですね」

魔娘「…はい…あ、“変化呪”のほうは…」

賢者「失念していました。そうですね。では…貴女は何に変化できますか?」

魔娘「今は人間だけです…」

238: 2013/01/12(土) 00:23:30.14 ID:Xs2jh4y4o
賢者「そうですか。変化については私も詳しくは無いのですが…」

魔娘「賢者様は何に変化できるんですか?」

賢者「私は竜に変化できますよ?」

魔娘「りゅ、竜!?」

賢者「貴女にもそこまで出来るようになって欲しいのですが」

魔娘「無理です…」

賢者「やる前から諦めたら、出来るものも出来ませんよ?」

魔娘「…」

239: 2013/01/12(土) 00:23:57.16 ID:Xs2jh4y4o
賢者「貴女には天賦の才があります。私はそれを延ばすお手伝いをしたいのです」

賢者「ですが、貴女がそれを望まないのであれば…私は無理強いはしません」

魔娘「…」

魔娘(もし私に力を使いこなす能力があれば…お父様の傍にいられたのかな…)

賢者「…どうですか?」

魔娘「…お願いします」

賢者「分かりました」ニコッ

賢者「それから男」

男「は、はい」

賢者「貴方も“回復呪”、“火炎呪”、“雷撃呪”、“凍結呪”等の基本的な呪文は覚えておきなさい。きっと役に立ちますから」

男「はーい…」

240: 2013/01/12(土) 00:24:35.10 ID:Xs2jh4y4o
~6年後~

男「…」

…ヒュン!

男「ナイフ!」ヒョイ カカカカ

盗賊「甘い甘い!」シュシュシュシュッ

男「連投!?衝撃波で吹っ飛べ!ふんっ!!」ブォン!カチャカチャン…

盗賊「まだまだあ!それ!」ヒュンヒュン

男「弓矢!?横に飛んで!」ズザサー

賢者「“大雷撃呪”!!」

男「な!?“転移”!」シュイン

バリバリバリズズゥウウン!!!

241: 2013/01/12(土) 00:25:02.25 ID:Xs2jh4y4o
賢者「…」

盗賊「…っ!後ろかっ!」シュッ

男「爆弾!?あっち行け!」バシィ!

ヒュー…

魔娘「…え?ちょっ!ちょっとお!!へ、“変化呪”!!」

男「あ」

ズズゥウウウン…パラパラパラ…

賢者「…直撃ですね」

男「みたいですね。あははは…」

魔娘「こらっ!」ペシッ!

男「いてっ!」

242: 2013/01/12(土) 00:25:35.24 ID:Xs2jh4y4o
魔娘「『あははは』じゃないわよ!」ペシッ

男「いてっ!ご、御無事で何より…」

魔娘「無事じゃないわよ!見てよ!!髪の毛がちょっと焦げちゃったじゃない!!」

賢者「魔娘も油断大敵ですよ?怪我はありませんか?」

魔娘「あ、はい。メタルスライムに変化するタイミングがちょっと遅れたけど何とか」

賢者「よかったです。にしても…あの爆弾はやり過ぎではないですか?あんな大きな穴をあけてますよ?」

盗賊「よく言うぜ。賢者だって都市攻撃魔法の“大雷撃呪”まで使ったくせに」

ヤイノヤイノ

243: 2013/01/12(土) 00:26:02.27 ID:Xs2jh4y4o
男「ふたりともやりすぎだって。なあ?」

魔娘「ええ。別の意味でもヤリ過ぎだけどね」

男「あー。確かにな…」チラッ

男(魔娘も結構でかい胸になったなぁ。シスターには負けるけど…)

男(…シスター、どうしてるんだろ…ん?)

魔娘 ジトー

男「な、なんだよ…」

魔娘「えOち」

244: 2013/01/12(土) 00:26:28.68 ID:Xs2jh4y4o
男「な!?誤解だ!!」

魔娘「よく言うわよ!さっきから私の胸元見てるじゃない!!」

男「それはシスターのこと思い出してっ!!」

魔娘「…シスター?」

男「あ…な、なんでもない!さあて、ちょっとぶらついてくるかなー(棒)」スタッ

魔娘「…」

245: 2013/01/12(土) 00:26:55.92 ID:Xs2jh4y4o
~夜~

魔娘「スー…スー…」

男「…」ムクッ

ミシッ ミシッ… パタン

男(荷物荷物っと…あった。あとは…)

コソコソ

キィ… パタン


246: 2013/01/12(土) 00:27:37.02 ID:Xs2jh4y4o
~家の前~

男「…ふぅ。見つからなかったみたいだな」

盗賊「誰にだ?」

男「え!?」ドキッ

盗賊「こんな夜中に、どこに行こうってんだ?」

男「いやその…ちょっとそこまで?」

盗賊「…」

男「あの…」

盗賊「…魔界か?」

男「…」

247: 2013/01/12(土) 00:28:03.79 ID:Xs2jh4y4o
賢者「まったく…どうして黙って行こうとするのですか?」

男「あ」

賢者「…赤竜を探しに行くのですよね?」

男「…はい」

賢者「もう…生きていないかもしれませんよ?」

男「…」

賢者「それでも行くのですか?」

男「…はい」

248: 2013/01/12(土) 00:28:55.22 ID:Xs2jh4y4o
賢者「…そうですか。では、この使い魔を連れて行きなさい」

男「え?反対しないんですか?」

盗賊「かわいい子にゃあ旅をさせろってな。ほれ、地図だ。」

男「あ、ありがと…」

盗賊「それと…これも持ってけ」

男「…これは?」

盗賊「俺が使ってたお守りだ。鉈の柄にでもつけてろ」

男「…はい」

249: 2013/01/12(土) 00:29:24.62 ID:Xs2jh4y4o
賢者「…私は反対なんですが…盗賊が行かせろと五月蝿いのですよ」

男「盗賊さんが?」

盗賊「まあ、アレだ。ヤバくなったらさっさと帰って来い。命あっての物だねだからな。それと…」

トテテテ

魔娘「はあ…はあ…間に合った…」

男「え?魔娘!?」

魔娘「あなたねえ!私に黙ってどこに行こうって言うのよ!!」

男「え…あ…」

250: 2013/01/12(土) 00:30:50.19 ID:Xs2jh4y4o
盗賊「シスターを探しに、魔界に行くんだとよ」

魔娘「やっぱり…で?魔界のどこに行けば竜に会えるか知ってるの?」

男「う、ううん…」

魔娘「ったく…しょうがないから私も一緒に行ってあげるわ!」

男「え?いやそれは」

魔娘「どうせ魔界のことロクに知らないんでしょ?そんなんじゃ竜のところに着く頃には爺さんになってんじゃない?」

男「うっ」

251: 2013/01/12(土) 00:32:23.55 ID:Xs2jh4y4o
魔娘「だからよ。どう?いいでしょ?賢者様」

賢者「…くれぐれも危険なことをしてはいけませんよ?貴女はレディーなのですからね?」

魔娘「はい。わかりました」

盗賊「シッカリ守るんだぜ?お姫様をよ!」バシン

男「痛いって」

252: 2013/01/12(土) 00:33:07.64 ID:Xs2jh4y4o
賢者「魔娘」

魔娘「はい」

賢者「この旅の間、貴女は人に変化したままでいなさい。そのほうが面倒が無いでしょう」

魔娘「分かりました」

賢者「それから…」チョイチョイ

魔娘「なあに?」

賢者『男も年頃ですから注意なさい』コソコソ

魔娘「なっ!何言ってるんですか!!//」

賢者『もしそうなっても慌てないで-----』コソコソ

男「あのふたり…何話してるんだ?」

253: 2013/01/12(土) 00:33:36.86 ID:Xs2jh4y4o
賢者「いいわね?」

魔娘「…//」コクン

盗賊「…よーし!行って来い!!」

賢者「時々でいいですから使い魔を使って手紙をよこしなさい」

男「はい!」

魔娘「じゃあ、いってきまーす!!」ノシ
  ・
  ・
  ・

254: 2013/01/12(土) 00:34:03.35 ID:Xs2jh4y4o
賢者「…ようやく旅立ちましたね」

盗賊「ああ。ようやくだな」

賢者「男も魔娘も…立派に育ってくれました」

盗賊「よく頑張ったな賢者」

賢者「貴方が協力してくれたおかげですよ」

盗賊「よせやい」

賢者「寂しくなりますね…」

盗賊「そうだな…」

255: 2013/01/12(土) 00:34:35.63 ID:Xs2jh4y4o
コテン

盗賊「賢者?」

賢者「ちょっとこのままで…」

盗賊「ん…」

賢者「…」

盗賊「…なあ」

賢者「なんですか?」

盗賊「奴等が帰ってくるまで…ここで待ってようぜ?二人でよお…」

賢者「…はい」

256: 2013/01/12(土) 00:35:10.45 ID:Xs2jh4y4o
~無人の村の家~

魔娘「ねえ!なんでこんな近くで休むのよ!!」

男「いやまあ…もう賢者様達にもばれてるし…ここならベッドで休めるからさ」

魔娘「夜通し歩くのかと思ってたのに…」

男「まあまあ。明日からはテントで寝たりすることになるんだし、今日ぐらいはさ」

男「それにここは…小さい頃に世話になった肉屋のおばちゃんの家なんだ」

魔娘「それで?」

男「だから…村を出る前にここに来たかったんだ」

魔娘「…しょうがないわね」

男「ゴメンな?」

魔娘「いいわよ。もう寝ましょう?」

男「ああ。じゃ、おやすみ」

魔娘「おやすみー」

257: 2013/01/12(土) 00:36:09.90 ID:Xs2jh4y4o


引用: 男「…へ?」 魔娘「だから…」