450: 2013/07/21(日) 23:17:49.64 ID:O8T45POS0
こっそりエイプリルフールネタ、IFバージョン投下します。
完全にIFなので、時系列は12巻後の4月1日です。

451: 2013/07/21(日) 23:19:33.86 ID:O8T45POS0
今日は4月1日、エイプリルフール。

去年までならどうともなかったこの日だが、今年は例外で、少しだけだが警戒しないといけない日となっている。

というのも、最近になって桐乃は妙に俺に絡んでくるからだ。 それは当然、あの高校の卒業式の後のことが絡んでいるのは言うまでもあるまい。

んで、どうせあいつのことだ。 何かしらの嘘を俺に吐いて高笑いでもしようと企んでいるに違いねえ。 今、この時にでも「家が火事になってる!」と俺の部屋に飛び込んできてもおかしくは無いはず。

……ふむ。 となると、先手を打って俺が先に嘘を吐くか? いや、それだと逆手に取られて妹に酷い嘘を吐く奴のレッテルを貼ってきそうだし。
俺の妹がこんなに可愛いわけがない
452: 2013/07/21(日) 23:20:56.72 ID:O8T45POS0
ううむ。

やはりここは、冷静に大人の対応として、素直に騙されておくのも良いのかもしれない。 あいつはそれで喜ぶだろうしな。

とにかく、ここでこうして考えているだけでは何も分かるまい。 一度、様子見も兼ねてリビングに赴いてみることにしよう。

そう思い、俺は自室から出るとリビングへと向かった。

453: 2013/07/21(日) 23:22:03.00 ID:O8T45POS0
桐乃「あやせ? 今日さぁ、丁度空いてるんだケドぉ。 この前ゆってた洋服見に行かない?」

リビングに入ると、いつものポジションで電話をしている桐乃が視界へと入る。 別段、変わった様子は無い。

桐乃「え~? 今日ダメなんだぁ……分かった。 え? 良いよ良いよ、そんな謝ることじゃないし」

しっかし、俺に対する態度とあやせに対する態度のこの差は何なんだろうな。 あんな一件があったにも関わらず、桐乃は相変わらず桐乃だし。

桐乃「うん……うん。 おっけ。 じゃあまた今度ね」

会話が終わったのか、桐乃は電話を切ると俺の方へと顔を向け、ひと言。

454: 2013/07/21(日) 23:22:42.16 ID:O8T45POS0
桐乃「なにじっとみてんの?」

おいおい、今はまだ午前9時だぜ? とりあえず朝の挨拶が先じゃねえのかよ。

とは思いながらも、それを口にすることはしない。 言ったとしても、何かしらの反論が飛んでくるのは間違い無いから。

京介「……別に、なんでもねーよ」

そう答え、俺は冷蔵庫に向かうと麦茶を取り出す。 桐乃はそれ以上何も言う気は無かったのか、テーブルの上に置いてある雑誌へと手を伸ばした。

桐乃「……そーゆえばさぁ」

京介「ん?」

455: 2013/07/21(日) 23:23:12.71 ID:O8T45POS0
視線をこちらに向けることもしない桐乃に対し、俺も視線を桐乃の方へやったのは一瞬で、麦茶をコップに注ぎながら次の言葉を待った。

桐乃「この前貸したゲーム、クリアした?」

……なんか借りてたっけ、俺。

京介「……えっと」

桐乃「チッ……どーせやってないんでしょ。 暇な大学生の癖に」

京介「大学生が全員暇みたいな言い方をするんじゃねえよ……俺だってなぁ」

桐乃「なに? あたしが貸したゲームより優先してやることとかあんの?」

それに限定するとしたら、他のこと全てが優先してやるべきことになるんじゃね? 妹に借りた工口ゲーを速攻でやり込む兄貴とか、どこを探しても居ないだろうよ。

456: 2013/07/21(日) 23:23:57.10 ID:O8T45POS0
京介「俺も色々忙しいんだよ。 やることだってあるし」

麦茶を注いだコップを片手に、ソファーの空いている部分に座りながら、俺はそう言う。

桐乃「じゃあ質問。 昨日はなにしてたの?」

京介「……家で、ごろごろしてた」

桐乃「一昨日は?」

京介「……部屋で音楽聴きながら漫画読んでた」

桐乃「今日これからの予定は?」

京介「……特に無いっす」

桐乃「ぜんっぜん暇じゃん!! なに偉そうにやることがあるとかゆってんの!?」

457: 2013/07/21(日) 23:24:48.35 ID:O8T45POS0
京介「す、すんません」

いやはや、確かにこれには言い返せないな。 でも、妹に工口ゲーをやっていないって理由でキレられるこの状況は、ちっとばかし理解しがたいぜ。

桐乃「ったく……ほら」

言いながら、桐乃はテーブルの上を指差す。 俺はつられて視線を移したが……当然ながら、そこには何も無い。

京介「……テーブル、がどうかしたか?」

桐乃「じゃなくて。 あたしが見てあげるからノーパソ持って来いっつってんの。 今日はお母さんもお父さんも家に居ないし」

京介「あ、ああ。 はは、そういうことね……」

桐乃「なに。 ヤダってゆーわけ?」

京介「……滅相もありません」

458: 2013/07/21(日) 23:25:19.86 ID:O8T45POS0
桐乃「だーかーらー! そこの分岐の意味、しっかり考えてよ! 今までのこと考えれば、そっちの選択肢はありえないっしょ!?」

確かにな。 どこでどう間違えたら休日の真昼間っから妹とリビングで工口ゲーをする展開になるんだろう。 こっちの選択肢はありえなかったぜ。 やれやれ。

桐乃「……ほらあ、バッド直行じゃん。 あんたそれでやる気あんの?」

京介「あると思う?」

桐乃「無いっつったら氏刑だから」

マジかよ。 高坂家では工口ゲーのやる気が無かったら氏刑なのか……? いや、高坂家っていうよりは桐乃法って感じか。 独裁政治すぎる。

京介「分かった分かった……やる気はめっちゃある。 これでいいか?」

459: 2013/07/21(日) 23:25:46.28 ID:O8T45POS0
桐乃「チッ……ほら、次いくよ」

カチカチと慣れた操作で桐乃はマウスを動かし、先ほどバッドエンドになってしまったルートの選択肢まで戻る。

京介「ってことは……一番下がバッドエンドだったから、真ん中か」

横で真剣な顔付きの桐乃の顔を伺いながら、俺は独り言のように呟き、真ん中を。

桐乃「だああああかあああらあああああ!!! なんでそうなんのっ!? そんなの選んだらまた同じじゃん!!」

460: 2013/07/21(日) 23:28:56.68 ID:O8T45POS0
京介「する前に言えよ!? そうすればこうはならなかった!!」

桐乃「はぁあああ!? そーしたら意味ないっしょ!! ったく……」

やべえ、なんか泣きたくなってきた。 工口ゲー始めてから横に座る妹にもう10回以上は舌打ちされてるぞ……。

なんで俺は、妹に怒られて妹と工口いことをするゲームを妹に見られながらやっているのだろう。 すげえ羞恥プレイじゃねえか、これ。

で、結局その羞恥プレイはお袋が帰ってくる夕方まで続くのだった。

461: 2013/07/21(日) 23:29:26.97 ID:O8T45POS0
京介「……なんか忘れてるな、俺」

夕飯を食べ終え、風呂にも入り、今は自室。

ベッドの上に寝転び、天井を見つめながら俺は一人呟く。

京介「……ううむ」

時計に目をやると、時刻は23時30分。 大分遅い時間になってきた。

京介「あれ」

ああそうだ! 思い出した! 今日はエイプリルフールじゃねえか!! すっかり忘れてたぜ……。

462: 2013/07/21(日) 23:29:57.69 ID:O8T45POS0
とは言っても、未だに桐乃からは嘘っぽいのは言われてないんだよなぁ。 あいつも忘れてるのかね?

……いや、まだそう決め付けるのは早計だな。 30分も残っているんだ、4月1日は。

京介「桐乃、どこにいんのかな」

行動を起こしてくるとしたら、残り30分の内だろう。 一応まだ警戒は解かない方が良いはずだ。 その為にも、やはり桐乃の姿を捉えておく必要がある。

そう思い、俺はリビングへと向かう。

463: 2013/07/21(日) 23:30:23.78 ID:O8T45POS0
ソファーの上では桐乃が座り、ファッション雑誌を眺めていた。 特に変わった様子は、やはり無い。

リビングの時計を見ると、時刻は23時40分。 ふむ……残り20分か。

麦茶で喉を潤し、桐乃に声でも掛けてみようか。

京介「桐乃」

桐乃「んー?」

やはり俺の方には顔を向けず、だがそれでも返事はあった。

464: 2013/07/21(日) 23:32:01.36 ID:O8T45POS0
京介「……また、ゲーム貸してくれよ」

桐乃「お、なに? 京介もやっと良さに気づいた?」

京介「まーな。 おすすめの今度でいいから、頼むぜ」

桐乃「おっけ! ひひ。 何本か貸したげるね」

……うむ。 こいつ、多分忘れてるな。 まあ、それはそれで良いんだけどさ。

京介「んじゃ、俺は寝るわ。 おやすみ」

桐乃「ん。 おやすみ」

言い、俺は自室へと戻る。

465: 2013/07/21(日) 23:32:27.58 ID:O8T45POS0
その途中、なんとなく歩きながら携帯を開いた。

……ん?

ちょっと待てよ。 これって……。

ベッドの上に座り、確認。

間違いねえ。 あいつは忘れていたわけじゃなかったんだ。 ってことは、俺の考えが当たっているとするならば。

部屋の時計を確認。 時刻は23時55分。

……来るな、あいつ。

そう思ったと同時、部屋がノックされる。

466: 2013/07/21(日) 23:32:53.87 ID:O8T45POS0
京介「んー」

返事をするとドアは開き、姿を現したのは俺の予想通り、桐乃だった。

京介「どした? なんか用事か?」

俺がいつもの様にそう返すと、桐乃は口を開く。

桐乃「……あの、さ」

桐乃「一応……ゆっときたくて」

京介「なんだよ?」

467: 2013/07/21(日) 23:33:21.19 ID:O8T45POS0
桐乃「あたし、その……あんたのこと、京介のこと……まだ、好きだから。 あの時と、気持ちは変わってないから」

桐乃はすっかり顔を赤く染め、そう言った。

俺はしっかりと、その言葉にこう返す。

京介「どうしたんだよ、急に。 俺だって一緒だぜ。 お前のこと、好きだから」

桐乃はそれを聞き、先ほどまでとは違い、馬鹿にする様に笑って言う。

桐乃「ぷ。 あははははは!! 京介ぇ、今日って何月何日ぃ? ひひ」

468: 2013/07/21(日) 23:34:07.70 ID:O8T45POS0
京介「ん……ああ、それか」

桐乃「反応うっす! もっと面白いリアクションとってよ」

京介「……悪かったな。 まあ、なんとなくそんなことだとは分かってたからさ」

桐乃「ふうん。 ま良いや。 そうゆーことだから、おやすみ~」

満足したのか、ドアを閉めようとする桐乃に、俺はひとつの言葉をプレゼントする。

469: 2013/07/21(日) 23:34:37.00 ID:O8T45POS0
京介「ところで桐乃」

京介「時計、しっかり直しとけよ」

その言葉を聞くと、桐乃は目を見開き、声にもならない声をあげながら勢い良くドアを閉めた。

やれやれ。 どうやらまだ眠れそうには無いらしい。 桐乃とは話さなければならないことが出来てしまったから。

俺は小さく溜息を吐き、桐乃の部屋へと向かうのだった。


4月の一日 終

470: 2013/07/21(日) 23:35:10.99 ID:O8T45POS0
以上で終わりです。
乙、感想ありがとうございます。

引用: 京介「ただいま」 桐乃「おかえり」