618: 2013/07/24(水) 12:59:49.69 ID:at5W9l6p0
少し前の話。

運というのは思いがけない場所で使われてしまう物で、使おうと思って使える物じゃあ無い。

それは場合によっては悪い方向にも動くし、良い方向に動くこともある。

それもまた、運の内なのだろう。

でもさ、そう考えると悪い方向に動いた場合は「運が悪かった」と言って、良い方向に動いた場合は「運が良かった」というのはおかしくないか?
俺の妹がこんなに可愛いわけがない
619: 2013/07/24(水) 13:00:17.03 ID:at5W9l6p0
結局はそのどっちも運のおかげな訳だし、その運自体を悪いだの良いだの言うのは少し違うと思うんだよ。

正直に言おう。 俺は軽々しく「運が良い」とか「運が悪い」という奴は嫌いなのだ!

この前置きをしたのには特に深い理由は無い。 つまりだな、何が言いたいかと言うと。

「おめでとうございます! 一等の温泉旅行、ペアでご招待です!」

商店街のくじ引き。 俺は目の前で笑顔でそう言う人に、こう言った。

京介「おおお! マジっすか! 俺、運良いな!!」

620: 2013/07/24(水) 13:00:44.52 ID:at5W9l6p0
そう言う訳で、俺と桐乃は温泉旅行へと行くことになった今日。 こういう形では珍しく、ツアーとかでは無いらしい。 時間で縛られることも無く、ゆっくりと満喫できる。

京介「……で、なんでお前は若干不機嫌なんだよ」

俺と桐乃は今、旅館へと向かって歩いている。 ここに来るまで少々新幹線での旅があったのだが、その時のこいつときたら、すっげえ楽しそうにしてたんだけどな。

ええと、確か「ねね、京介。 お弁当作ってきたから一緒に食べよ?」とか言ってきたんだぜ!? その時の仕草と来たらもう……!

よし、よし、ちょっと待てよ。 今説明するからな。

621: 2013/07/24(水) 13:01:12.63 ID:at5W9l6p0
まず、ここに桐乃が居るとするだろ? すぐ横に座る感じだ。 桐乃が窓側で、俺がその隣ってことね。 んで、それでだ。

窓の外では景色が流れていて、それをバックに桐乃はカバンから取り出した弁当を両手で持ち、俺に「一緒に食べよ?」って言いながら頭をちょこっとだけ傾げる訳だ。 ポイントとしてはそのちょこっとの部分だぜ。 この……こう、絶妙な角度。 俺は一瞬意識があの世へ行ったのかと錯覚するほどの衝撃を受けたね。 温泉旅行に行く前に氏んでどうするって話だけども。

しかし俺があの世に意識が飛びかけている時間、桐乃に待たせるのはどうしようもなく嫌だったので、俺は頑張って意識を引き戻し「おう!」と答えたんだ。 そうしたら桐乃は「えへへ」と超嬉しそうに笑いやがった。

多分、寿命が一年は縮んだと思う。 今思えば軽く五年くらいはいっているかもしれんが。

622: 2013/07/24(水) 13:01:40.64 ID:at5W9l6p0
で、そんな上機嫌だった桐乃が今はこれ。

桐乃「こんな歩くことになるなんて思わなかった」

苛立ちを隠すこともせず、素っ気無く桐乃は言う。 まあな、確かに俺もこんな歩くとは思わなかったけどさ。

目的地は山に入って少々歩いたところ。 不便なことにバスは無く、タクシーを呼ぼうにも近くにタクシー会社が無い所為で、来るのに時間が掛かるとのこと。

それに、来たとしても行けるのは途中までで、結局は歩かなきゃいけないと知って、それならばと二人で歩いているってこと。

ちなみにだが、駅から歩き始めて既に一時間が経とうとしている。 桐乃が不機嫌になるのも仕方ないか。

623: 2013/07/24(水) 13:02:38.24 ID:at5W9l6p0
これがツアーじゃないってのも少しだけ納得行ったぜ。 俺みたいに男だとか、桐乃みたいに陸上とかやってるのなら別だが、ちっとばかし年を取った人にはキツイだろうよ。 その点、この招待券が俺に当たったのは幸いなことだ。

京介「ごめんな。 ちゃんと調べとけば良かった」

桐乃「京介の所為じゃないでしょ。 だから謝らないでよ」

……いっそのこと、俺にきつく当たってくれた方が気が楽なんだが……桐乃は桐乃で、そうしないしなぁ。

京介「じゃあさ、なんかしながら歩こうぜ。 しりとりとか、グリコとか、そういった遊びしながらさ」

桐乃「……んー。 それより、もっと会話っぽいのが良いカモ」

624: 2013/07/24(水) 13:03:07.00 ID:at5W9l6p0
京介「会話っぽいの……? えっと、例えば?」

桐乃「うーん。 そだ。 良くあるヤツやろーよ。 お題を決めて、それに「はい」か「いいえ」で答えて、当てるってヤツ」

京介「あー。 聞いたことあるな。 面白そうじゃん。 試しに一回やってみようぜ」

桐乃「じゃーあ、質問は五回までで、最初はあたしが質問する側ね。 いい?」

京介「オッケーオッケー。 っていうと、俺はお題を一個考えれば良いんだよな」

桐乃「そ。 最初だし、ぱっと頭に浮かんだヤツで良いんじゃない?」

625: 2013/07/24(水) 13:04:57.91 ID:at5W9l6p0
頭に浮かんできたヤツね。 なるほど、それならすぐ出来そうだし、最初にするゲームとしては良いかもしれんな。

そう思い、俺は頭に一つ浮かべる。

京介「五回だしな、俺も桐乃も知っている様なのにしておく」

京介「……よし。 良いぜ、桐乃」

桐乃「じゃ、最初はどうしよっかなぁ」

機嫌も少し治ったのか、唇に指を当てながら、桐乃は視線を上に向ける。

桐乃「よし。 じゃあ一つ目の質問」

626: 2013/07/24(水) 13:05:55.40 ID:at5W9l6p0
桐乃「それは、生物?」

……おお、さすがの成績優秀者か。 まずは大体のところから責めてくる訳ね。 参考になるぜ。

京介「答えは「はい」だ」

桐乃「……ふむ」

腕を組み、しばし思考する桐乃。 頭を咄嗟に撫でてやりたくなる衝動に駆られるが……ここは我慢しておこう。

627: 2013/07/24(水) 13:06:21.86 ID:at5W9l6p0
桐乃「じゃあ次。 それは、動物園にいそう?」

……この場合ってどう答えれば良いんだろうな? でも、まぁ居るっていうのとは違うが……いるかいないかで言えば、居るになるのかな。

京介「多分……「はい」だな」

桐乃「多分?」

京介「ちょっと難しい質問だったから、多分ってことだ」

桐乃「……あー。 そーゆうことなのかな」

628: 2013/07/24(水) 13:06:50.06 ID:at5W9l6p0
桐乃「次の質問。 それは人間?」

さすが俺の妹だなぁ。 この妹にしてこの兄があるという訳だな。 ははは。 言ったら殴られるからやめておこう。

京介「そういうことだ。 答えは「はい」」

桐乃「よっし! でも後二回かぁ……ね、ちょっと回数増やさない?」

京介「後から増やすんじゃねえよ……後二回で頑張れ。 お前ならきっと出来る!」

桐乃「ムカつく励ましの言葉ありがとう。 う~~~ん」

629: 2013/07/24(水) 13:07:25.63 ID:at5W9l6p0
視線をあちらこちらに動かしながら、桐乃は思考する。

桐乃「……それは、京介と交友関係がある人?」

ここまで来れば、大体答えは分かっているだろう。 俺が考えたのは、桐乃だ。

京介「「はい」だな」

桐乃「ふむ。 次で最後、だよね」

京介「おう。 核心的な質問をしねえと、辿り付けないぞ~」

俺がそう煽ると、桐乃は恐る恐るといった感じで口を開く。

630: 2013/07/24(水) 13:07:52.64 ID:at5W9l6p0
桐乃「……そ、それって、京介の好きな人……とか?」

よりにもよってそう聞いてくるのか、こいつは。

まあゲームだしな。 俺は胸を張って答えてやろう。

京介「超好きだぜ! マジで! これでもかってくらい好きだ!」

桐乃「……「はい」か「いいえ」で答えてよ」

京介「あ、あー。 そうだったな。 答えは「はい」だ」

632: 2013/07/24(水) 13:09:04.20 ID:at5W9l6p0
桐乃「……」

なんで黙るんだよ。 答え言えって。

京介「で、桐乃。 答えは分かったか?」

桐乃「……あ、あたし」

京介「おう! さっすが桐乃! 正解だぞ!」

桐乃「なんであたしを思い浮かべてるのよっ! 変Oっ!!」

なんでキレてるんだよ!

633: 2013/07/24(水) 13:09:40.21 ID:at5W9l6p0
京介「仕方ねーだろ!? 最初に浮かんできたのがお前だったんだからさ!」

桐乃「……最初に?」

京介「うん。 一番最初だ」

桐乃「そ、そか」

若干嬉しそうじゃねえか。 それならそれで良いけどな。

京介「っつう訳で、次は桐乃の番だぜ。 なんか思い浮かべてくれよ」

634: 2013/07/24(水) 13:10:08.10 ID:at5W9l6p0
桐乃「え? あ、あたしか。 ……うん。 オッケ」

さて。

さてどうしよう。 俺はすごいことに気付いてしまったかもしれない。

今思い浮かべたときの桐乃の表情と仕草、それでなんと答えが分かってしまった。

……どうすんの、これ。

いや、待てよ。

635: 2013/07/24(水) 13:10:45.88 ID:at5W9l6p0
この状況、もしかしたら逆に利用できるんじゃないだろうか? 要はこのゲームは「はい」か「いいえ」で答えなきゃいけないってことだよな。

それはつまり、俺がどんな質問をしても桐乃は「はい」か「いいえ」で答えるって訳だ。

……すごい良い状況じゃね? これって。

桐乃「なに黙ってんの? 質問しないと終わらないんですケドぉ」

京介「お、わりい。 んじゃあ質問だ」

俺は答えをまずは確定させるべく、聞くことにした。

636: 2013/07/24(水) 13:11:43.34 ID:at5W9l6p0
京介「それは桐乃の兄貴か?」

桐乃「ぶっ! ちょっとタンマ!!」

京介「なんだよ?」

桐乃「あんた分かって聞いてない!? 絶っ対、答え分かってんでしょ!!」

京介「いやいや、俺は知らないぞ? ある程度決め付けて聞いてはいるけど、そんなの分かる訳無いじゃねえかよぉ」

637: 2013/07/24(水) 13:12:29.18 ID:at5W9l6p0
桐乃「う、うう……」

京介「で、返事は?」

桐乃「チッ……「はい」だケド」

俺はそれを聞き、桐乃に向けてわざと笑い、口を開く。

京介「おお、そうかそうか。 なるほどなぁ」

桐乃「……もう答え合わせでいいっしょ?」

京介「なんでだよ? まだ四つ質問が残ってるし、俺は全然答えが分からないんだよなぁ」

638: 2013/07/24(水) 13:12:56.76 ID:at5W9l6p0
桐乃「は、はぁ!? 嘘吐くなっ!」

京介「そーいうゲームじゃん。 ってことで次の質問な」

と言っても、何を聞くべきかな、これは。

普段なら100%否定するであろう桐乃が、今は二択で答えてくれるんだよな……。

京介「よし。 じゃあ、桐乃はそいつのことが好きか? 勿論、恋愛的な意味で」

桐乃「あ、あんたねえ……」

肩をぷるぷると可愛らしく震わせ、桐乃は俺の顔を睨む。

639: 2013/07/24(水) 13:13:23.16 ID:at5W9l6p0
京介「「はい」か「いいえ」だろ~? ほら早く言えよ~」

桐乃「あーもうっ!! 答えは「はい」! 文句ある!?」

……いや、文句はねえけど。

京介「そうかそうかぁ……桐乃はそいつのことが好きなのかぁ」

桐乃「……後で覚えとけ」

こ、こわ。 桐乃さんちょっと今の声は大分怖かったんですけど。

640: 2013/07/24(水) 13:14:23.33 ID:at5W9l6p0
だが! ここで退くことはできねえ……。 ここで退いたら、俺は激しく後悔することになるだろうしよ!

京介「は、はは。 つ、次の質問な」

声が少し震えてるのに情けなくなりながら、俺は勇気を振り絞って口を開く。

京介「桐乃は、そいつが居なくなったら氏にそうになるほどに、そいつが好きか?」

桐乃「ばっ! は、はぁああぁあああ!?」

京介「お、大きな声出すなよ」

641: 2013/07/24(水) 13:14:53.91 ID:at5W9l6p0
桐乃「あんたがそんな質問するからでしょ!?」

京介「まだ答えが分からないんだから仕方無いだろ? ほら、それで返事は?」

桐乃「こ、答えなきゃダメ?」

上目遣いで俺のことを見ながら、懇願するように言う桐乃。 ま、マズイ。 心が動いてしまいそうだ。 世界一可愛い生き物だろ、こいつ。

京介「……お、おう」

よし! 良く言った俺!

桐乃「……答えは「はい」」

642: 2013/07/24(水) 13:15:21.97 ID:at5W9l6p0
すっげー可愛い! マジですっげー可愛い! 桐乃が可愛すぎて俺若干壊れ始めて無いか!?

京介「そ、そっかぁ……はははは」

桐乃「……次は?」

なるようになれと思ったのか、桐乃は俺にそう尋ねる。 ほ、ほう。 上等だぜ。

京介「……よし」

俺は意を決し、質問をすることにする。 これは場合によっては大変なことになるが……それでも、今日の俺はやる! やると言ったらやってやるんだ!

643: 2013/07/24(水) 13:15:54.79 ID:at5W9l6p0
京介「桐乃はそいつと……エOチしたいか?」

桐乃「氏ねっ!!」

見事な蹴りが鳩尾に命中。 蹲る俺。 その上から鞄で俺を引っ叩く桐乃。

京介「ごめん! 今のは悪かった!! 許してください!!」

桐乃「うっさい! 変Oっ! 氏ね氏ね氏ね!!」

許しを請う俺に攻撃を加え続ける桐乃。 その攻撃はその後しばらく続くのだった。

644: 2013/07/24(水) 13:16:22.95 ID:at5W9l6p0
京介「……なぁ、マジで悪かったって」

桐乃「チッ……」

教訓としては、調子に乗りすぎるのは良くないってところだろう。 先ほどから俺の言葉に舌打ちで返事をする桐乃を見て、切実にそう思う。

京介「言う事一回必ず聞くからさ……な?」

俺が言うと、桐乃はようやく逸らし続けていた視線を俺に向け、口を開いた。

桐乃「……三回」

桐乃「三回聞くなら、許してあげてもいい」

645: 2013/07/24(水) 13:16:48.15 ID:at5W9l6p0
京介「わ、分かった! 三回だな? それで良いぜ」

超必氏だぜ。 桐乃に無視されるのは辛いから。

桐乃「じゃ、いーよ」

京介「お、おう。 ありがとな、桐乃」

桐乃「別に……あたしも、さっき叩き過ぎちゃってごめん」

京介「良いって良いって。 もうあんなのは慣れて心地良いくらいだぞ?」

646: 2013/07/24(水) 13:17:14.21 ID:at5W9l6p0
俺が言うと、桐乃は冷めた目で俺のことを見ながら言う。

桐乃「……キモッ」

言うだけ言い、すたすたと歩調を早める桐乃の後ろ姿を眺めながら、一人思う。

……うん。 確かに今のは失言だったかもしれない。 聞き様によってはな。

こんな出だしで、俺と桐乃の旅行は始まるのだった。

視界にはようやく、旅館が見えてきた。


温泉旅行 前編 終

647: 2013/07/24(水) 13:17:40.96 ID:at5W9l6p0
以上で本日の投下終わりです。

乙、感想ありがとうございます。

669: 2013/07/25(木) 10:55:07.92 ID:KHH+e1jG0
おはようございます。
乙、感想ありがとうございます。

絵師さんの件ですが、最後に短編集まとめてzipにするときについでに入れておこうと思ったんですが、見たい方も居るみたいなのでうpロダにあげました。
http://uranus.nln.jp/up/download/1374716982.txt
会社のPCからだと前回のところが使えなかったので、パス付いちゃってます。
pass 0000
でダウンロード出来ると思いますので、見たい方居ましたらどうぞ。

673: 2013/07/25(木) 13:09:21.56 ID:KHH+e1jG0
チェックインをして、現在は旅館の一室。

京介「にしても、ほんとかなり歩いたな」

桐乃「足いたーい。 疲れたぁ」

時期が時期なのか、それともこんな山奥だからか、決して豪華とは言えないが、それでも結構立派な旅館だが、あまり繁盛している様子では無い。

先ほど仲居の人に聞いた限り、俺たち以外には数人のみしか宿泊客はいないらしく、悪く言えば寂しく、よく言えば伸び伸びと過ごせそうではあるけどもな。

674: 2013/07/25(木) 13:09:49.30 ID:KHH+e1jG0
京介「早速だけど、温泉入るか? 入浴時間は自由って言ってたし」

桐乃「うん。 そーしよっかなぁ。 一回すっきりしたいかも」

京介「んじゃ、行こうぜ。 俺も入ってみたいからさ。 今なら誰も入って無いって仲居さんも言ってたから貸切だぜ」

桐乃「お、マジで? やった!」

そうして俺と桐乃は温泉へと向かって行くこととなった。

ちなみに言っておく、混浴では無いからな。 ちゃんと別々だ。

675: 2013/07/25(木) 13:11:23.41 ID:KHH+e1jG0
……どうせならそっちの方が良かったけど! でもそうだとしても、桐乃は間違いなく一緒に入ってくれないんだろうな。 嫌とかじゃなくて、恥ずかしがって。 そう考えるとやはりあいつは可愛い。

京介「んじゃ、俺はあっちだから、また後でな」

桐乃「うん。 またね~」

珍しく素直に笑顔を俺に向け、特に毒も吐かずに桐乃は脱衣所へと入っていく。 俺はその姿を見送り、別の脱衣所へと入って行った。

676: 2013/07/25(木) 13:11:55.67 ID:KHH+e1jG0
桐乃「ふうう……」

ここに来るだけでも大分歩いたから、シャワーのお湯がとても気持ち良い。

中は随分と広々としていて、京介も言っていた様に居るのはあたし一人だけ。 なんだか贅沢すぎて悪いことをしている気分になっちゃうよね。

桐乃「……あっちはどうなってるんだろ?」

そう思って、高い壁を眺める。 同じ様な作りにはなっているんだろうケド……ちょっとだけ気になる。

677: 2013/07/25(木) 13:12:26.16 ID:KHH+e1jG0
……覗かないよ? そ、そうゆうのって男の人がやりそうなことだし……。

ま、まさか京介はそんなことしないよね? で、でもするかも……しれない、よね?。

だってあいつ変Oだし……シスコンだし?

桐乃「きょ、きょーすけ?」

少し声を大きくして、壁の向こうにいる京介に話しかける。

678: 2013/07/25(木) 13:12:52.25 ID:KHH+e1jG0
程なくして、返答があった。

「んー? なんだよ、どうした?」

向こうも多分、人は居ないんだと思う。 だからこそ、こうして会話が出来るってワケだケド。

桐乃「あんた、覗かないでよ!?」

「は、はぁ!? 意味わかんねーんだけど!! なんでいきなりキレてんの!?」

桐乃「なんでも無いっつーの! ばーか!」

679: 2013/07/25(木) 13:13:26.14 ID:KHH+e1jG0
こうやって予防しておかないとヤバイよね。 京介っていつもはそれなりに格好良いケド……覗いてきてもおかしくないしね。

よし。 これで大丈夫。 あたしはゆっくりと温泉に浸かろう。

頭と体を洗い終わり、広々とした温泉にあたしは身を沈める。 少し熱いけど、それがまた疲れを癒してくれる。 そんな温度だった。

桐乃「てか……これから何するんだろ?」

ふと思う。 この辺って殆ど何も無いし……暇になっちゃうんじゃないのかな?

今回はさすがに工口ゲーとか持ってきてないしなぁ。 やること無くなっちゃうんじゃない?

680: 2013/07/25(木) 13:13:53.11 ID:KHH+e1jG0
京介だったらどうするのかな……。 うーん。

て、てかさ。 冷静に考えると京介と二人で旅行ってかなりすごいシチュエーションじゃん?

もし工口ゲーだったら、間違いなくそうゆうシーンになるよね……そ、それはマズイって!!

な、なんの準備も出来てないし? 心の準備なんて全くしてないし!!

……京介もいきなりはしてこないよね? 大丈夫だよね?

681: 2013/07/25(木) 13:14:23.59 ID:KHH+e1jG0
桐乃「き、キモッ!! キモすぎるんですケドぉ!!」

うう。 恥ずかし。 だ、だけど……もし本当になったらどうしよ。

京介があたしのことを「桐乃、ちょっと来てくれないか?」って呼んで、あたしは行くじゃん?

んで「なに?」って聞くと、あいつはいきなりどうせ変Oだからキスするじゃん?

うはあ! その時点でヤバイって! あいつマジキモイって!!

682: 2013/07/25(木) 13:15:20.45 ID:KHH+e1jG0
桐乃「え、えへへへへ!」

それで、それでその後はぁ……。 頭撫でたり、顔を触ったりしてくるじゃん? どうせしてくる、間違いないって!

もうこの時点でかなり恥ずかしいんですケドぉ! キツイキツイキツイ!!

で、あいつはあたしを抱き締めて。

桐乃「ヤバイって! それは京介マズイって!!」

これ以上はムリ! ムリムリ! あたしが氏んじゃうからっ!

683: 2013/07/25(木) 13:15:55.61 ID:KHH+e1jG0
……本気だったらどうしよ? そ、そーいえばさっきヘンなこと言ってたよね、あいつ。

エOチしたいかどうとかって。 マジありえないって! フツーそんなこと聞く!? ああああああ!!

桐乃「変O! 変O変O変O!!」

ふう。 思いっきり言ったらすっきりした。 で、ちょっと冷静になったことだし考えてみよっかな。

あいつは一体、どうゆう心境でそれを聞いたのだろう? ううん……。

た、単純に考えれば……そうなのかな? ま、マジで?

684: 2013/07/25(木) 13:16:28.80 ID:KHH+e1jG0
桐乃「ふ、ふひひ。 それはマズイよぉ!」

さすがにまだマズイって! で、でも……京介がそうしたいってゆうなら……あたしは別に?

ってなに考えてんの!? ないない!

……そーいえば。

この前のお祭りのとき。 あいつ、なんか言ってなかったっけ。

子供が欲しいとか、言ってたような?

……だとしたらマジじゃん!? や、ヤバすぎるって!! ど、どんな顔をして京介の顔を見れば良いワケ!?

桐乃「もームリ!! キモイキモイキモイよぉ!!」

685: 2013/07/25(木) 13:17:04.88 ID:KHH+e1jG0
京介「……あー。 疲れが取れるぜ」

なんだか年寄りみたいな台詞を呟きながら、シャワーを浴びる。

広々とした空間で、そこを独占するのはちっとばかし気後れする物はあるが……。

まあ、快適っちゃ快適だ。 大分疲れが回っていた体にも、このシャワーは気持ちが良い。

京介「これだけ良いところだと、歩いてきた甲斐があるってもんだなぁ」

置かれているシャンプーを手に取り、頭を洗う。 そんなとき、女子風呂と思われる壁の向こう側から声が聞こえてきた。

686: 2013/07/25(木) 13:17:32.18 ID:KHH+e1jG0
「きょ、きょーすけ?」

ん? 桐乃か? 何かあったんだろうか。

目を瞑りながら、恐らく声がしたであろう方向に顔を向け、俺は答える事にする。

京介「んー? なんだよ、どうした?」

「あんた、覗かないでよ!?」

京介「は、はぁ!? 意味わかんねーんだけど!! なんでいきなりキレてんの!?」

687: 2013/07/25(木) 13:18:00.05 ID:KHH+e1jG0
「なんでも無いっつーの! ばーか!」

意味が分からんぞ!? なんで俺はいきなり覗くことが前提で話を進められているんだ!?

もしかして、俺ってそんな風に桐乃から見られているのかな? だとしたら、ちょっと反省しなければいけないんだが。

いや、でもそれよりもいきなりそれを言うかよ……。 まあ、別に良いけどよお。

だが、桐乃の顔が見れないってのは少し損した気分になるぜ。 声だけってどんな焦らしプレイだよちくしょう。

688: 2013/07/25(木) 13:18:26.42 ID:KHH+e1jG0
……覗いてみるか?

それは駄目だ! それをしたら桐乃の想像通りの人間になってしまう! それは駄目! 絶対!

……でも、あいつの体綺麗だしなぁ。

京介「へへへ」

いかんいかん。 こんなことを想像していると桐乃に知られたら多分あいつはぷりぷりと怒るはずだ。 怒りながらも、嬉しさを隠しきれていないのだろう。 ああ、やっぱ可愛いぜくそ。

689: 2013/07/25(木) 13:18:52.49 ID:KHH+e1jG0
京介「……温泉入るか」

なんだかそんなことを考えているのが馬鹿らしくなり、俺はのそのそと歩き、温泉へと入る。

京介「……はぁあああぁああ」

やっぱり良いよな。 来て正解だわ。 これだけでも充分、価値はあると思う。

山の中腹にあるってことで、景色もかなり良いし。 緑に囲まれて、気分はどこか旅人の様な、そんな感じ。

690: 2013/07/25(木) 13:19:18.95 ID:KHH+e1jG0
「き、キモッ!! キモすぎるんですケドぉ!!」

な、なに? どうしたの? 一気に現実に引き戻されたんだけど。

あいつ……なにしてんだ?

いきなりあんな大声あげて、どうしたっつうんだ。

「え、えへへへへ!」

……なんで笑っているのだろうか。 やべ、純粋に俺の妹が心配になってきたぜ。

691: 2013/07/25(木) 13:19:55.66 ID:KHH+e1jG0
でも、あいつの笑い声可愛いなぁ! いっつも顔ばっかみてたけど、声だけでも充分可愛いな! へへへ。

「ヤバイって! それは京介マズイって!!」

俺がどうしたの!? 何がマズイの!? ちょ、ちょっと待てよ桐乃! あいつ、何を想像してんだ……?

俺の名前が出てきたことによって、不安度がすげー上がったんだが……杞憂に終わると良いけど。

「変O! 変O変O変O!!」

俺の名前が出てきて、次は変O連呼か。 少し悲しい気分になるぜ。 全く。

692: 2013/07/25(木) 13:21:01.72 ID:KHH+e1jG0
……声色が嬉しそうなのは気のせいということにしておこう。 マジで。

「ふ、ふひひ。 それはマズイよぉ!」

……無心無心。 俺は何も聞いてないし、何も知らない。

聞こえて来るのは風の音と、鳥の鳴き声。 そしてセミの鳴き声だ。 それだけ。

「もームリ!! キモイキモイキモイよぉ!!」

うるせえセミだなぁ! あっはっはっはっはっはっは。

これを聞いた俺は、一体どんな顔をして桐乃に会えば良いんだよ。 参っちまうよ、マジでさ。

693: 2013/07/25(木) 13:21:30.14 ID:KHH+e1jG0
それからようやく声は聞こえなくなり、俺は一人風呂場を後にする。 脱衣所で服を着て、外へ。

タイミングが良いのか悪いのか、丁度桐乃も出てきたところだった。

桐乃「サイテー! この変Oシスコンっ!」

京介「は、ははは」

理不尽な怒りの理由も俺には分かってしまう。 それを突っ込めばこいつは多分面白いことになるんだろうが……。

694: 2013/07/25(木) 13:22:01.48 ID:KHH+e1jG0
軽く、言ってみるか。

京介「……お前、声かなりでかかったぞ」

桐乃「き、聞いてたの!?」

京介「聞いてたというか、聞こえたというか」

さて、こいつはなんと言ってくるのだろうか。 それとも、手を出してくるのだろうか。 どっちだろう。

695: 2013/07/25(木) 13:22:58.72 ID:KHH+e1jG0
桐乃「……ばーか」

しかし桐乃は小さくそれだけ言うと、足早に先ほどまで居た部屋へと向かい、歩いて行った。

想像していた反応と違い少し驚いたが……あいつ、一人で戻りやがった。

一人残され、どうした物かね。

……何か冷たい飲み物でも買って行ってやるか。

696: 2013/07/25(木) 13:23:29.60 ID:KHH+e1jG0
ヤバイ。

ヤバイ。 聞かれてた。 どうしよう!?

桐乃「あ、ああああ。 ヤバイヤバイって」

冷静に考えればそうだよね。 普通に会話できるくらいなんだし、聞こえていても不思議じゃないのか。

……どうしよ。

部屋に戻り、座り込む。 てゆうか、京介置いてきちゃった……。

で、でも。 恥ずかしすぎてなんかふわふわするし、ぼーっとするし。

697: 2013/07/25(木) 13:24:55.89 ID:KHH+e1jG0
仕方ない! うん!

どこまであいつが気付いたのかは分からないケド……あたしが多分、勢いで言った言葉は全部聞こえてたんだよね。 あの様子だと。

きょ、京介を殴って記憶を飛ばそうか……。

いやいやダメでしょそれは! さすがにそれはダメ!

でもそうは言っても、あいつって本当に何も手を出してこないんだよね。 前にそんな感じのことは言ってたケド、それでももうちょっとスキンシップ取ってくれても良くない? キスはたまーにしてくるケドさ。

なんか……良く考えたらちょっと失礼じゃない? こんだけ可愛い彼女がいつも近くに居るってのに。 魅力無いとか不安になっちゃうじゃん。

よし。

よし、よし! 良いこと考えた。 京介がそうならあたしにも考えがあるっつうの。 これならうまく行くはず。 そうと決まったら、早速作戦開始! よ~し。

698: 2013/07/25(木) 13:25:28.09 ID:KHH+e1jG0
京介「ほら」

言いながら、部屋の床に座る込んでいる桐乃の頬に自販機で買ってきたお茶を当てる。

桐乃「あ、ありがと」

素直にそう言うこいつを見て、なんだかいつもと違い、またしても少しの違和感。 まあ、気にする程の物では無いと思うけど。

京介「俺は別に気にしてねーから、お前もそんな気にしてるなよ」

桐乃「…………うん」

699: 2013/07/25(木) 13:26:01.06 ID:KHH+e1jG0
やはりどこかぼーっとしたような、そんな目をしている。

のぼせている訳でも、酒を飲んだって訳でも無いと思うんだが……どうしたのだろうか。

京介「……大丈夫か?」

桐乃「あ、あたし? 大丈夫、うん」

……どう見たって大丈夫じゃねえんだけど。

そう言おうとした時、唐突に桐乃が口を開いた。

700: 2013/07/25(木) 13:26:34.29 ID:KHH+e1jG0
桐乃「あ~。 なんかこの部屋暑いな~」

京介「……そうか? クーラー効いてるけど」

桐乃「あっついなぁ!」

ちなみにこの時の桐乃の服装。 風呂上りの為か、ゆったりとした服を着ている。 いつもの様なビシッと決まったのとはまた違う。

そして、桐乃は突然それを脱ぎ始める。

701: 2013/07/25(木) 13:27:01.78 ID:KHH+e1jG0
京介「おまっ! 何してんだよ!!」

必氏に顔を逸らしたが。

い、一瞬だが見てしまった。 桐乃の下着姿を。 あ、あぶねえ。 いや、アウトか!?

つうかこいつは何でいきなり服を脱ぎだしているんだよ!!

桐乃「な、なにって。 あ、暑いし?」

京介「だからって服を脱ぐんじゃねえよ! 俺が居るんだからさあ!」

702: 2013/07/25(木) 13:27:30.11 ID:KHH+e1jG0
桐乃「べっつにいーじゃん。 あ、もしかしてぇ。 妹の下着姿見てコーフンしてるとかぁ?」

京介「無くは無いけどな! でもそれより良いから服を着ろっての!! 部屋着の浴衣があるだろ? それ着とけよ!」

桐乃「わ、分かったわよ……ふん」

ま、全く……折角温泉に入ったのに嫌な汗をかいちまったじゃねえか。 突然何をしてんだ、こいつは。

桐乃「……もういいケド」

未だに顔を逸らし続ける俺に、桐乃からそう声が掛かる。

703: 2013/07/25(木) 13:27:56.78 ID:KHH+e1jG0
ようやく桐乃の方を向き。

京介「……お前、やっぱそれでも似合うんだなぁ」

なんて、感心してしまった。

桐乃「そ、そう? ……じゃなくて!」

一瞬嬉しそうな顔をした後に、頭をぶんぶんと振り、桐乃は俺に詰め寄ってくる。

壁に背中を預けながら座る俺に、這うように桐乃は近づく。

704: 2013/07/25(木) 13:28:25.73 ID:KHH+e1jG0
京介「な、なんだよ?」

桐乃「い、いまあたし、浴衣だから下着着けてないんだよねぇ~」

京介「なんの情報だよ!?」

桐乃「べ、べつに。 ただ言ってみただけだし」

京介「お前、マジでどうしたんだよ? なんかおかしいぞ?」

桐乃「……そんなことないもん」

無くはねえだろ……。 いくら俺でも、お前の考えが全部分かる訳じゃないんだから言ってくれるとありがたいんだが。

言わないだろうなぁ。 このままだと。

705: 2013/07/25(木) 13:29:11.43 ID:KHH+e1jG0
京介「なあ、そうなってんのは俺の所為か? いつも通りだとは言わせないぞ」

桐乃「違う! 違う違う違う! あたしはいつも通りだっての!」

両手を振って、桐乃は俺の体を叩いてくる。

京介「お、おい! やめろって! マジで!」

桐乃「うっさいうっさい!」

数十秒、それは続いて、その後のことだった。

706: 2013/07/25(木) 13:29:41.19 ID:KHH+e1jG0
俺は腕で必氏に攻撃を防いでいた訳だが、攻撃がやがて、止まる。

不審に思い目を開けると、桐乃は悲しそうな顔をし、項垂れていた。

京介「……桐乃?」

そう聞いた瞬間、桐乃の腕が俺の首に回り。

桐乃は俺に、キスをしてきた。

……何が起こってるんだ!? ちょ、ちょっと待てよ!

慌てて桐乃の肩に手を置き、距離を取ろうと思ったが、俺はこれ以上後ろにいけない。 つまりは、桐乃を押し返さないといけないのだが……。

なんて、少しだけ迷ってしまったのがいけなかった。 桐乃の次の行動は予想外で、想定外すぎたから。

707: 2013/07/25(木) 13:30:08.56 ID:KHH+e1jG0
口の中に柔らかい感触。 暖かく、俺の口の中へと入ってくる。

桐乃は未だに俺と距離を置くことはせずにいる。 それもそうだ。 桐乃の舌が、俺の口へと入っているのだから。

……やべ、頭がぼーっとして、思考が鈍ってきた。 宙に浮いているような、そんな感じもする。

未だに口の中ではそれが動いて、俺はその度にどんどんと眠気にも似た感覚に溺れてしまう。

708: 2013/07/25(木) 13:30:34.98 ID:KHH+e1jG0
……マズイ。

そうじゃない、このままじゃマズイ!

最後の最後で正気を取り戻し、桐乃を押し返す。 思ったよりも簡単に桐乃は俺から離れ、床に倒れ込んだ。

俺が押し倒した様な形になってしまっているが……この際、話すとしたらそっちの方が都合は良いだろう。

京介「どうしたんだよ、急に。 桐乃」

桐乃「なんでも……無いって」

709: 2013/07/25(木) 13:31:00.92 ID:KHH+e1jG0
京介「なんでも無くはねーだろ。 俺に出来ることならなんでもやってやるからさ、言ってくれよ」

桐乃「……じゃあ、聞くケド」

桐乃「京介が、あたしに手を出さないのはなんで?」

そのひと言で、全てが分かった。

……この馬鹿。 最後のあれは強硬手段って訳か。 実際かなり危なかったけどな。

710: 2013/07/25(木) 13:31:35.83 ID:KHH+e1jG0
京介「それはだな……」

桐乃「あたしが妹だから? 京介と、兄妹だから?」

桐乃「……なんでも三つ聞いてくれるって言ってたよね。 なら、あたしの質問に答えて」

ったく。 まさか旅行先でこんな話し合いをするとは思ってなかったぜ。 それもまた意外っちゃ意外で、桐乃らしいっちゃ桐乃らしいんだけどさ。

京介「前にも言っただろ、お前が大切だからだ」

桐乃「……あたしは京介じゃないからわかんないケド、そうやって逃げてるだけじゃないの」

711: 2013/07/25(木) 13:32:01.29 ID:KHH+e1jG0
京介「ちげーよ。 つうかだな、俺がどれだけ頑張って我慢していると思ってるんだお前は……」

これ、真面目な話ね。 一日一回は桐乃に襲いかかりたい衝動に駆られているから、俺。

京介「もしお前に手出して、それでもし子供でも出来たらどうすんだよ。 今の俺じゃ、お前とその子供を支えることはできねえんだ」

京介「……そうなればお前を悲しませちまう。 泣かせるかもしれない。 だから、俺は絶対に手は出さない」

桐乃「……うん」

712: 2013/07/25(木) 13:32:43.35 ID:KHH+e1jG0
京介「俺はお前が悲しそうな顔をしてんのが見たくねえ。 だから、今の顔も見たくねえ。 悲しい想いをさせないように頑張ってるけどさ、こうやってうまくいかねえこともある」

京介「でも、今はまだ無理なんだ。 お前がそれで俺に怒ったとしても、だ」

京介「俺はお前が一番大切なんだよ、桐乃」

京介「……ごめんな。 分かってくれると、俺すげー嬉しいわ」

俺が言い終わると、桐乃は自身の肩にある俺の手を退け、俺の顔を両手で挟む。

713: 2013/07/25(木) 13:33:10.06 ID:KHH+e1jG0
桐乃「……分かったよ。 そんだけ言われて、分からないワケにはいかないじゃん」

桐乃「でも、抱き締めるくらいはしてくれてもいいよね?」

桐乃は先ほどまでの押し倒された格好のままで言う。

俺の頬に触れている手は暖かく、桐乃の顔は今すぐにでも壊れてしまいそうなほどに儚かった。

……ここで断れる男が居たら、そいつは多分、どうしようもねえ馬鹿だろうな。

714: 2013/07/25(木) 13:33:36.69 ID:KHH+e1jG0
俺が言う台詞なんて、それを聞いた瞬間にもう決まっていた。

京介「おう。 任せとけ」

そう言い、優しく、力強く桐乃を抱き締める。 普段ならここで桐乃は満足するんだが。

桐乃「……好きって言って」

京介「……好きだ、桐乃」

715: 2013/07/25(木) 13:34:07.98 ID:KHH+e1jG0
桐乃「もーいっかい」

京介「す、好きだ」

桐乃「もーいっかい」

京介「……まだ言うのか?」

桐乃「はやくして。 はやくはやく」

京介「わーったよ……好きだ、桐乃」

716: 2013/07/25(木) 13:34:37.11 ID:KHH+e1jG0
桐乃「ふひ。 もーいっかいいって」

別にいくらでも言うのは良いんだけど、言う度に足をばたばたとするのはやめて頂きたい。 俺の主に下半身が攻撃を受けているから。

京介「好きだ、桐乃」

桐乃「えへへへ。 もっかいもっかい」

約一時間ほど、この状況は続くのだった。


温泉旅行 中編 終

746: 2013/07/26(金) 13:03:34.87 ID:wpY9u+d00
京介「うし。 行くぞ、桐乃」

桐乃「行くってどこにー? この辺なーんも無いじゃん」

京介「何も調べなかった訳じゃねえんだよ。 ここに来るまでの道のりは見落としてただけだって。 小さいけど祭りあるみたいだしさ。 また行きたいってお前言ってたろ?」

桐乃「へえ。 ほんと、重要なとこ見落としてるよね」

京介「ほっとけ。 で、行くの? 行かないの? ちょっと歩くみたいだけどな」

桐乃「……いくケド」

747: 2013/07/26(金) 13:04:00.78 ID:wpY9u+d00
あの後、桐乃がいつもの調子を取り戻すまでに結構な時間を使い、今はもう夕方。

夏といえば……祭り、海、旅行。 色々あるが、俺は桐乃と過ごせればそんなのは割りとどうでも良かったりする。 こいつが楽しければ俺も楽しいし、こいつが幸せならば俺も幸せだ。 つまりはそういうこと。

少し前に祭りには行ったから、目新しさなんてのは無いと思うが、それでも別に良い。 俺はただ、こいつの笑っている顔が好きなのだ。

748: 2013/07/26(金) 13:04:38.08 ID:wpY9u+d00
桐乃「ふひひ」

屋台が並ぶ中、俺と桐乃は歩いている。 隣を歩く桐乃の表情は言葉通りの物で、それを見て俺は自然と声を掛けた。

京介「……嬉しそうだな」

桐乃「はぁ? そんなこと無いんですケドぉ。 暑いし~。 虫ウザイし~」

京介「でも千葉よりは涼しくねえか? 虫は仕方無いとは思うけど」

桐乃「まあね。 でもさー、花火やらないってどーゆうこと? 意味わかんない」

749: 2013/07/26(金) 13:05:10.93 ID:wpY9u+d00
京介「小さい祭りだししょうがないだろ。 でもお前嬉しそうじゃねえかよ」

桐乃「だ、だって……メルルのお面とかヤバくない? ふひ」

さっきそんなこと無いって言ってなかったっけ? こいつ。 良くある事だから突っ込まないけどさ。

しかしだな、祭りに行く度に俺と桐乃が住んでいる小さな空間にメルルグッズが増えて行くのはどうにかしねえとな……。

アキバに行く度にも増えていくし、早急に手を打たないと俺の居るスペースさえ無くなってしまいそうだ。

いっそのこと、沙織や御鏡みたいにそういうの専用の部屋があればいいんだが……無理だよなぁ。

750: 2013/07/26(金) 13:05:36.61 ID:wpY9u+d00
ま、まあまだ許容範囲内ではあるし、あまりにも増えて行く様だったらその時考えれば良いか。 思考放棄じゃないぞ。 俺は桐乃を信じているだけだからな!

……本当に大丈夫かな。

桐乃「あ、そーだ。 京介」

京介「ん? どした」

桐乃「あたし、十月に三日間くらい家空けるから」

751: 2013/07/26(金) 13:06:05.30 ID:wpY9u+d00
京介「……どういうこと?」

桐乃「だから、修学旅行があるの。 それで三日間居ないって話」

京介「そ、そっか」

三日もかよ! けどもうそんな時期か。 時が経つのは早いなぁ。

桐乃「……ひひ。 もしかしてぇ、あたしに三日会えないだけで寂しいのぉ?」

京介「……んだよ。 わりいかよ」

桐乃「べっつにー。 そかそか。 ひひ」

752: 2013/07/26(金) 13:06:35.43 ID:wpY9u+d00
そりゃあ寂しいっちゃ寂しいけどな。 だけど別に耐えられないって程でも無いだろ……多分。 仮にも一応一人暮らしをしていた訳だしな。

桐乃「ま、寂しく無いように黒猫とか沙織には言っておくからさ。 適当な遊び相手になってあげて~って」

桐乃「でも、ヘンなことしたら頃す」

京介「しねえよ……。 そんな信用無いか? 俺」

桐乃「信用はしてるって、一応。 だって」

そこまで言うと、桐乃は何故か途中で言葉を止める。 何かを口にしようとして、止めた?

754: 2013/07/26(金) 13:07:02.16 ID:wpY9u+d00
京介「だって、なんだよ?」

桐乃「な、なんでもないっ! 気にすんなっ!!」

京介「そ、そうか……? お前がそう言うならそれ以上は聞かないけど」

桐乃「……ふひひ」

な、なんだ……。 何故こいつは、今笑っているんだ……。

755: 2013/07/26(金) 13:07:35.82 ID:wpY9u+d00
桐乃「あーヤバ! マジヤバイ!」

京介「ど、どした?」

桐乃「だからこっちのハナシ!! ちょっと思い出しただけだっつーの!」

京介「……おう?」

桐乃「ま、まぁ? 京介のことは信用してるから。 それだけ」

京介「……そうかい。 ありがとな」

756: 2013/07/26(金) 13:08:01.99 ID:wpY9u+d00
どこでどの様にこの信頼を得られたのかは不明だが、桐乃がそこまで言うのなら信用してくれているってことだろうな。 理由が不明で、ちっと怖いが。

桐乃「ね。 なんか食べ物買ってさ、ちょっと座って話さない? 前みたいに」

京介「おっけ。 んじゃあ買いに行こうぜ。 一緒に」

桐乃「うんっ」

今回は、桐乃はしっかりと俺の手を握っている。 それがなんだか、少しだけ嬉しかった。

757: 2013/07/26(金) 13:08:29.38 ID:wpY9u+d00
京介「しっかし、もう夏も終わりだなぁ」

桐乃「だね。 どうだった? 今年の夏」

俺と桐乃は手頃な場所にあったベンチに座り、しばしの休憩。 距離はいつもより近い気がする。

京介「決まってんだろ。 楽しかったよ。 桐乃が居たしな?」

桐乃「……ふん。 ばーか」

758: 2013/07/26(金) 13:08:56.70 ID:wpY9u+d00
言いながら、桐乃は俺の肩に頭を預ける。 その頭を俺は、自然に撫でる。

俺に寄り掛かったまま何も言わない桐乃を見て、ふと思う。

京介「長かったな」

桐乃「……なにが?」

京介「色々とだよ、色々」

桐乃「……そっか。 そうだね」

759: 2013/07/26(金) 13:09:23.02 ID:wpY9u+d00
桐乃「これから、大変だろうね」

京介「そりゃあな。 お前と居るといっつも大変なことしか起きないからなぁ」

笑って、桐乃の顔を見る。 桐乃も自然と、笑っていた。

桐乃「いいっしょ、別に。 可愛い妹の為なんだから」

京介「仰るとおりで。 昔はそれだけだったけど、今は彼女でもある訳だし」

760: 2013/07/26(金) 13:09:49.11 ID:wpY9u+d00
桐乃「……ストップ。 今の台詞もっかい言って」

京介「……今は彼女でもある訳だし?」

桐乃「……よし。 オッケ。 いいよ、続けて」

なんかの撮影でもしてんのか、これ。

京介「……一回止められてからもう一回始めろって言われると、すげー言い辛いんだけど」

761: 2013/07/26(金) 13:10:14.84 ID:wpY9u+d00
桐乃「うっさい。 いいから続けるの。 早く」

京介「へいへい……」

京介「ええっとだな、それで」

京介「可愛い妹でも、可愛い彼女でもねえな。 超可愛い妹で、超可愛い彼女だ」

桐乃「……そ、そう?」

京介「おう」

762: 2013/07/26(金) 13:10:41.57 ID:wpY9u+d00
桐乃「ちょ、ちょっと待ってね……よし」

桐乃「も、もっかい言って。 今の」

京介「またかよ……」

桐乃「はやくする! ほら、いって」

京介「えーっと……超可愛い妹で」

桐乃「待ったストップ!!」

763: 2013/07/26(金) 13:11:08.48 ID:wpY9u+d00
京介「なんだよ!? お前が言えって言ったんじゃねえか!」

桐乃「よ、予想以上だったから、やっぱいい。 あたしが危ない」

京介「……お、おう」

桐乃「……」

京介「……」

しばしの無言。 それはなんだか、心地が良い物だった。

764: 2013/07/26(金) 13:11:47.84 ID:wpY9u+d00
桐乃「え? 終わり?」

それはどうやら、俺だけだったらしい。

京介「……まだお前を褒めなきゃいけねえの?」

桐乃「一日一回あたしを褒めないといけないってルールがあるんだけど、知らなかった? 遅れてるなぁ」

どんなルールだよ。 そんでそのルールはいつ決まったんだよ。 つか遅れてるって言うが、流行もしてねえだろ。 むしろ今日だけで何回褒めたことか。

765: 2013/07/26(金) 13:12:21.80 ID:wpY9u+d00
京介「じゃあ、一日一回桐乃は俺に好きだって言わなきゃいけないルール知ってるか?」

桐乃「そんなの知らないし、知りたくもないっつーの」

ふいっと顔を逸らす桐乃を見て、昔の面影をちょっとだけ感じる。

いや……今も昔も変わりはしないし、桐乃は桐乃だけどな。 それで、俺は俺だ。

京介「なあ、桐乃」

桐乃「んー?」

京介「そろそろ戻ろうぜ」

766: 2013/07/26(金) 13:12:49.22 ID:wpY9u+d00
桐乃「もう? まだ全然楽しめてないんですケドぉ」

京介「いいからいいから、ほら。 早く行くぞ」

桐乃「……京介がそーゆうなら、別に良いケド」

不満が残る表情をしている桐乃の手を引き、俺は旅館へと足を向ける。

知ってるぜ。 お前が物足りないと感じているのも、もう少し俺と遊んでいたいと思ってくれてるのも、知っているさ。

767: 2013/07/26(金) 13:13:21.90 ID:wpY9u+d00
桐乃「持ってきてるなら、先に言えば良いじゃん……」

俺は密かに花火を持ってきていて、旅館のすぐ横にあった空き地で二人で花火をしようと声を掛けたのだ。 んで今、桐乃は片手で花火を見ながら、そんなことを呟いていた。

京介「あ、京介花火持って来てくれたんだ。 さすがあたしの彼氏っ! 超格好良い! ってことか?」

桐乃「ば、ばかじゃん! そんなこと思ってないし! ばかばかばか!」

……結構大袈裟に言ったのだが、こいつの反応を見る限り……マジか。

768: 2013/07/26(金) 13:13:48.01 ID:wpY9u+d00
や、やめよう。 今、これ以上桐乃の考えを予想していたら全て当たってしまいそうで、若干気まずくなりそうだし。

京介「俺が馬鹿なのは分かったから花火振り回すのやめようぜ!? 普通に危ないから!!」

明言しておくと、俺の心配度的には桐乃9の俺1って割合。 お前の綺麗な肌が火傷でもしたらどうすんだ! へへへ。

……なんか変質者の思考みたいになってんな、俺。

桐乃「あ、あんたがヘンなことゆうからでしょ! チッ……」

769: 2013/07/26(金) 13:14:13.29 ID:wpY9u+d00
京介「変なことって言うけど、俺は言わないだけで頭の中でもっと変なこと考えてるかもしれないぜ? 桐乃さんよ」

桐乃「は、はぁ!? キモッ!」

京介「んだよ。 これでもお前の兄貴だぞ」

桐乃「そんなの知ってるし。 で、その兄貴はなにを考えてたワケ?」

聞くのかよ、結局。 どうすっかな、勢いでああは言ったが、俺は大して変なことなんて考えて無いし。

770: 2013/07/26(金) 13:14:49.48 ID:wpY9u+d00
京介「……うーん」

京介「桐乃は今日も綺麗だな。 肌を舐めまわしたいくらいだぜ。 とか?」

桐乃「……それはちょっとマジメにキモいかも」

京介「じょ、冗談だぞ。 さすがの俺でもそこまで思っちゃいねえって」

桐乃「さすがのって自分でゆうんだ。 ま、良かった。 本当にそんなこと思ってたらちょっと引いてた」

京介「お前はどれだけ俺のことを変Oだと思ってんだよ……」

771: 2013/07/26(金) 13:16:18.21 ID:wpY9u+d00
ショックだぜ。 一度本気だと思われていたしな。

てか、ドン引きじゃなくて「ちょっと」なんだな。 そんな突っ込みはしねえけど。

桐乃「あはは。 だってぇ、妹に結婚してくれってゆうくらい変Oじゃん?」

京介「……うっせ」

お前だって「はい」って返事したじゃねえかよ! 棚に上げやがって。

桐乃「……でもまあ、嬉しかったケドね」

京介「知ってるよ。 そんなのは」

772: 2013/07/26(金) 13:16:51.10 ID:wpY9u+d00
桐乃「多分、京介が思ってるのとはちょっと違うかな。 あたしが言ってるのは」

桐乃は線香花火に火を点け、言葉を続ける。 パチパチと火花を散らすそれを見ながら。

桐乃「……あたしはね、京介。 その初めての台詞をあたしに言ってくれたのが、嬉しかった」

京介「……そか」

桐乃「あたしは初めてのデート相手でもないし、初めての彼女でもないし、京介が初めて好きになった人でも無いケドさ」

桐乃「京介が初めてプロポーズした人になれて、良かった。 嬉しかったよ」

773: 2013/07/26(金) 13:17:22.83 ID:wpY9u+d00
こいつは急にこういうことを言うからな。 聞く俺側からしたら恥ずかしいし、照れるし、まあ、嬉しいんだけどさ。

京介「桐乃」

俺は桐乃のすぐ隣にしゃがみ込み、同じように線香花火に火を点け、話し掛ける。

京介「確かにお前の言うとおりだよ。 桐乃はそうじゃなかった。 だけどよ」

774: 2013/07/26(金) 13:17:58.91 ID:wpY9u+d00
京介「俺はお前のことをずっと知ってて、お前も俺のことをずっと知ってる。 お前は俺のたった一人の妹で、一緒に居た時間は誰にも負けねえよ。 そんで今は」

京介「俺が初めて一生一緒に居たいって思った奴で、俺が初めてこいつのことだけは他の全てを捨てても守ってやりたいって思った奴で、俺が初めて絶対に幸せにしてやりたいって思った奴だ」

京介「それじゃ、駄目か?」

桐乃はずっと黙って聞いていて、花火を見つめていた視線を俺に移し、首を振る。

桐乃「ううん。 充分。 充分すぎかも。 えへへ」

775: 2013/07/26(金) 13:18:37.32 ID:wpY9u+d00
京介「そうか。 なら、良かったよ」

京介「一応、言っとくか」

京介「桐乃。 何か悩むことあったら、すぐに相談しろよ。 お前がどんなことを言っても俺は馬鹿にしねえし、どんな相談でも真面目に聞く」

京介「もしもお前が悩んでいることを笑う奴が居たら、俺がぶっ飛ばしてやる。 お前のことを悪く言う奴が居たら、俺が言い返してやる」

桐乃「うん、うん」

京介「……ま、そういうことだ。 何語ってるんだろうな、俺」

776: 2013/07/26(金) 13:19:17.23 ID:wpY9u+d00
桐乃「いいじゃん。 京介らしくて、良いと思うケド」

桐乃「……ふう。 なんかすっきりしたかも。 ってことで相談あるんだケドぉ~」

……これはあれだ。 嫌な相談だ。 このパターンは間違いねえぞ。

桐乃「あたしぃ、喉渇いちゃってるんだよね~~。 あーあ、飲み物飲みたいなぁ~。 冷たいお茶飲みたいかも~」

京介「自販機あそこにあるぞ。 良かったな」

俺が指差す先には自動販売機。 距離にして約50メートル程だろうか。

777: 2013/07/26(金) 13:19:42.91 ID:wpY9u+d00
桐乃「知ってるし。 でもいっぱい歩いて疲れてるんだよね~」

京介「……ふむ」

京介「ああ、分かった。 お姫様抱っこして欲しいってこと?」

桐乃「ちがーう!! それは違う!!」

京介「えっと……それはって言うと」

778: 2013/07/26(金) 13:20:54.67 ID:wpY9u+d00
桐乃「な、なんでもない! 良いから早く買ってきてよ!!」

記憶を辿っても思い当たることは一つしか無いが……。 ま、まあ行くか。 俺に見える範囲内だし、な。

……ていうか金渡されてねーけど、これって俺が奢らないといけないのかね。 別に奢るのはいいけどな。

京介「分かった分かった。 ちょっと待ってろ」

779: 2013/07/26(金) 13:22:38.23 ID:wpY9u+d00
で、自販機の前に到着。

京介「うお、すげえ。 このクソ暑い中、あったかい飲み物売ってるぞ……」

……間違えた振りをして温かいのを桐乃に渡してみようか。

その場合、どうなるのだろう。 少し考えてみるとするか。

780: 2013/07/26(金) 13:23:05.72 ID:wpY9u+d00
「桐乃、買ってきてやったぞ」

「さんきゅ」

「……ってこれなんで温かいヤツなの!? 冷たいのが飲みたいって言ったんですケドぉ!」

「ははは。 ちょっと意地悪したくなっただけだって。 俺の方飲むか? 飲みかけだけど」

「あ、あんたねえ……分かった。 あやせに言いつけてやる」

「あやせに言ったってどうにもならんだろ……」

781: 2013/07/26(金) 13:23:32.15 ID:wpY9u+d00
で、後日。

「お兄さん。 桐乃に何をしたんですか?」

「え、え? 別に、何もしてないけど……」

「桐乃が冷たい飲み物を飲みたいと言ったのに温かいのを買ったらしいじゃないですか。 何故ですか」

「いや……それは、少し意地悪をしたくなったというか……」

782: 2013/07/26(金) 13:24:25.39 ID:wpY9u+d00
「はい? それで桐乃が自頃したらどうするんですか!」

「自頃するの!? 俺が買った飲み物が温かかったから!?」

「そうです。 お兄さん、この場合どうなるか分かりますか」

「……」

「氏刑です」

783: 2013/07/26(金) 13:24:53.51 ID:wpY9u+d00
俺は黙って冷たいお茶を買うことにした。 危うくあやせに殺されるところだったぜ。 あの女、なんてことを考えてやがるんだ。 まさかこんな場面でバッドエンド直行の選択肢があるなんてな……。

俺の人生、これから先も苦労は絶えなさそうだ。

てか、こういうのを氏亡フラグとかいうのかな。 なんてことを思いつつ、桐乃の元へと戻る。

京介「買ってきたぞ。 冷たいお茶」

桐乃「さーんきゅ。 なんかやたら時間かかってたケド、どうかしたの?」

784: 2013/07/26(金) 13:25:20.19 ID:wpY9u+d00
京介「いや、何でも無い。 大丈夫」

桐乃「ふうん? あ、お金後で渡すね」

京介「ああ、良いよ奢りで」

桐乃「でも、なんか悪くない?」

京介「お前が言うと軽く感動する台詞だな……。 けど、良いよ。 お礼でもあるし」

桐乃「お礼……って、なんの?」

785: 2013/07/26(金) 13:25:47.73 ID:wpY9u+d00
京介「ん? キスのお礼」

桐乃「な、ななななああ!? わっ忘れろ!!! 忘れろ忘れろ忘れろっ!!!」

京介「……あれを忘れろってのは無理な話だと思うけど」

桐乃「良いから忘れなさいって! 妹とキスしてそれのお礼とか変Oすぎだし!!」

京介「お前がしてきたんじゃねえかよ! しかも舌まで----------」

言いかけたところで、桐乃の拳が顔寸前で止まる。

786: 2013/07/26(金) 13:26:13.45 ID:wpY9u+d00
桐乃「ふう……! ふう……!」

京介「わ、分かった。 言わない。 これ以上は言わない。 は、ははは」

後で恥ずかしがるくらいなら、最初からやめておきゃいいのにな。 まあ、俺も今になってこの冷静さを取り戻している訳だけど、あの瞬間は正直ヤバかったけども。

桐乃はしばらく俺の顔を見た後、ようやく拳を下ろし、口を開く。

桐乃「……そんで、どうだったの」

京介「……どうだったって、何が?」

787: 2013/07/26(金) 13:26:45.36 ID:wpY9u+d00
桐乃「……あ、あたしとキスした感想、どうだったかって聞いてんの」

馬鹿じゃねえのこいつ!? なんで忘れろって言ったことの感想を俺に聞いてんの!? ていうか素直に感想とか言える訳ねーだろ!! どんな質問だっつーの!!!

京介「い、言わないと駄目か……?」

桐乃「……当たり前じゃん」

俺の顔を見れない程に恥ずかしがり、明後日の方向を見ながら桐乃は言う。

788: 2013/07/26(金) 13:27:17.03 ID:wpY9u+d00
京介「え、ええっと……なんというか、やばかった。 桐乃からすげえ良い匂いしたし……? 実際、普通のキスでも俺結構緊張してんだけどな。 今日はなんていうか……ぼーっとしてきて、何も考えられなくなりそうだったっつうか……そんな感じ?」

何で俺は妹の前で妹とそういうキスをした感想を言ってるんだよ!? 訂正しておこう。 俺変Oかもしれん。

桐乃「ふ、ふ~ん。 そうなんだ~」

桐乃は言いながらどんどん俺から顔を逸らす。 言い終わる頃には、俺に背中を向けていた。

桐乃「……う、嬉しかった?」

京介「……まあ」

789: 2013/07/26(金) 13:27:43.74 ID:wpY9u+d00
気まずっ! 何だよこの羞恥プレイ!? 今すぐ逃げ出したいんですけど!

桐乃「そ、そかそか。 ふうん……ふうん」

なんか一人で納得されてるってのも嫌だな……後ろ姿だけでも、どんな表情してんのかは想像付くけど。

京介「だ、だからってまたするなよ……?」

桐乃「す、するワケないでしょ!! 変O!」

……警戒はしておくべきだな。 そう何度もやられたら、いつ我慢できなくなるか分かった物じゃねえし。

790: 2013/07/26(金) 13:28:14.61 ID:wpY9u+d00
京介「……そんで、お前はどうだったの?」

桐乃「あたしが……って、なに?」

京介「いや、お前は俺とキスしてどう思ったのかって聞いてるんだけど」

桐乃「は、はぁ!? ふつーそれ聞く!? ゆうワケないっしょ! ばかじゃん!」

言いながら、桐乃は俺の横を通り過ぎて旅館へと向かっていく。

791: 2013/07/26(金) 13:28:45.22 ID:wpY9u+d00
数分前のお前にその台詞を聞かせてやりたいんだけどなぁ。

ま、その反応の一つ一つが、多分俺の中では宝物なのだろう。 宝物で、思い出で、大事な物だ。

どんどん先を進む桐乃の後ろ姿を見て、俺はこう思う。

やれやれ、仕方ねえなぁ。 全く世話が焼ける妹で、世話が焼ける彼女だぜ。 なんてな。

792: 2013/07/26(金) 13:29:12.35 ID:wpY9u+d00
よし、最後も決まったことだし俺も部屋に戻るとしよう。

夏もこれで終わりか……なんつうか、ちょっとだけ切ないな。

そんな時間の経過に少しの間だけ思い耽り、振り向き、夏の景色を眺める。

京介「……俺も戻るかな」

向き直り、一歩。

一歩進み、足を止めた。

793: 2013/07/26(金) 13:29:50.76 ID:wpY9u+d00
京介「……いや、つうかあいつ片付けしてねえじゃん」

京介「……マジか」

そんなこんなで俺は蚊に刺されながら、花火の後始末をするのだった。

今回は、そんなオチ。


温泉旅行 後編 終

794: 2013/07/26(金) 13:30:24.81 ID:wpY9u+d00
以上で本日の投下終わりです。
乙、感想ありがとうございます。

795: 2013/07/26(金) 13:41:03.94 ID:Ior8ukGPo
乙です

引用: 京介「ただいま」 桐乃「おかえり」