692: 2013/12/23(月) 00:37:08.01 ID:aWllO/4h0
次の短編はキノの旅×まどか☆マギカのクロスになります
クロス物を載せるのはどうなんだろうと迷った結果、
「キノを知らなくてもそんな問題ないかな」「雰囲気でゴリ押せばいいか」「それよりそろそろ投下しないと存在を忘れられる」
との結論に至ったので載せます
一応叛逆の物語を観ていないと意味不明だと思います
クロス物を載せるのはどうなんだろうと迷った結果、
「キノを知らなくてもそんな問題ないかな」「雰囲気でゴリ押せばいいか」「それよりそろそろ投下しないと存在を忘れられる」
との結論に至ったので載せます
一応叛逆の物語を観ていないと意味不明だと思います
693: 2013/12/23(月) 00:38:57.46 ID:aWllO/4h0
穏やかな日差しの春の日です。
キノはパラパラと台本を捲っていました。横にいるモトラド(注・二輪車。空を飛ばないものだけを指す)にも見せてやります。
「もう、ページを捲るのが早いよキノ。それじゃあ台詞を覚えられない」
「台詞って言っても、ボク達に台詞なんてないじゃないか」
二人は入国して早々に分厚い台本を渡されました。一日分を何十冊もです。
しかし台本の中身は真っ白でした。
「三日分だけにしてもらえてよかったね。この国に住むことになったら、あれを全部覚えなきゃならなくて大変だよ」
「多分、全部白紙だろうけどね」
聞くところによると、この国では掟により、誰もが与えられた役を演じなければならないというのです。
理由を尋ねると、この国の主がそう決めたから、だそうです。
主役たちは既に決まっており、この国の住人ほぼ全ては脇役です。入国した二人も掟に従って役を演じることになりました。
二人に与えられた役割は、そのものずばり"旅人"です。旅の準備をするために訪れただけという設定でした。なので、台詞は必要ないのです。勿論主役たちに声を掛けることは禁止されました。
「キノなら立派な悪役になれたんじゃないかな。この国にはパースエイダーを持ってる人全然いないんだもん」
「ボクにはそういうの向いてないと思う」
細い腰に巻いた太いベルトにぶら下げているホルスターを押さえながら答えます。中にはハンド・パースエイダー(注・パースエイダーは銃器。この場合は拳銃)が収まっています。
「おっと、そろそろ出番みたいだよ」
二人は主役の少女達を遠巻きに見つめながら道を走ります。
それほど広い国ではなかったので、同じ場所を何度もぐるぐる回っていました。主役たちのいないところでは観光も許されていましたが、特に面白いものは見当たりませんでした。
一日目が終わりました。
694: 2013/12/23(月) 00:40:24.86 ID:aWllO/4h0
翌日も二人は昨日と同じ道を走っていました。
時々、主役達のいない舞台裏では休みが貰えました。その間に必要な食料や燃料などを揃えます。他の住人達はキノ達を気にもとめません。声を掛けても無視されます。
「誰かにぶつかってみようか」
「やめなよ」
エルメスが制止します。
しかしエルメスも同じ景色ばかり見ていたので、次第に飽きてきました。
「ねえ、他にやることないの?」
「仕方ないよ。これがボク達の役なんだから。食料も燃料も泊まるところもタダなんだし、我慢しようよ」
「主役の子達に話しかけちゃ駄目かな」
「怒られると思うよ」
裏方をしているらしき黒いドレスの少女が、大きな画用紙を掲げてこちらを見ています。紙にはただ一言、"自分の役を演じろ"と書かれています。
「この国の人達は同じことの繰り返しで嫌にならないのかな」
「彼らは多分、"日常を演じる"っていう役なんだよきっと」
「そうだキノ、この国の住人になろうよ。そうすれば普通に暮らせるよ」
「昨日自分で言ったこと忘れたの? 何十冊もある台本を覚えなきゃならないんだよ」
「そりゃ勘弁だ。まあでも」
「白紙だろうけど」「白紙だろうね」
二日目が終わりました。
695: 2013/12/23(月) 00:43:34.70 ID:aWllO/4h0
三日目、キノ達は出国の準備を整え最後の舞台に立ちます。
「一つ気になってたんだけどさ」
「なんだい」
「このお芝居は一体誰が見ているんだろうね」
「そりゃこの国の主じゃないの?」
「せっかくだから挨拶しておけばよかった」
「案外誰も見てなかったりしてね。ボクが観客だったら、こんなお芝居絶対見ないよ。毎日同じようなことの繰り返ししかしないなんて」
「でも、大切なのは主役であって、脇役じゃないからね。彼女達には何かドラマが起きてるんじゃないかな」
「主役ばっかりずるいよ、エゴひのきだ!」
「……エコヒイキ?」
「そうそれ」
二人はまた同じ道を走っていました。すると突然、脇から少女が飛び出してきたので、慌ててブレーキを掛けます。
「危ないなあ。モトラドは急に止まれないんだよ」
「いやあごめんごめん。ちょっと急いでてさ」
「おや、あなたは確か主役の方でしたよね」
薄いベージュのブレザーと黒のチェックスカートに身を包んだ少女を見てキノが尋ねます。鮮やかな空色の髪を靡かせ、少女は答えます。
「主役ってほどでもないよ。本当の主役はこの国の主、一人だけだから」
「どういうこと? てっきりこの国の主は、お芝居を見てる方なのかと思ってた」
「あいつはこの世界を壊したくないだけなんだよ。この変わらない日常が好きでたまらないから、自らメガホンをとって役者を揃えて舞台を整えたの。
そうやって楽しんでるんだけなんだ。誰も傷付かない、平和な世界をね。この国の主は、役者兼脚本兼監督ってところかな」
「それは一体何の為に……」
「おっと、あたしもそろそろ出番だから! じゃあね、旅人さん!」
「あの、最後に一つ聞きたいことが」
「何?」
「観客は一体誰なんです?」
少女は僅かに黙って、答えます。
「……さあ、白いネズミとかじゃないかな」
少女は駆けていきました。
少女が見えなくなった途端、黒いドレスの少女達が怒りだし、キノ達は国外に追い出されてしまいました。
仕方なく走り出すと、視界が濃い霧に包まれます。振り返っても、もはや何も見えません。
慎重に道を進んでいくと、やがて霧が晴れ、見晴らしのいい荒野に辿り着きました。
「なんとか抜け出せたね」
「うん……でも、不思議な国だったね。食料と燃料がタダだったのは嬉しいし、食事も美味しかったけど」
「あれを見て楽しんでる観客はいないね。断言できるよ。あんな平和なだけの世界、面白いわけないって」
「それは人それぞれ、モトラドそれぞれだね」
「あんな何の変哲もない日常を楽しめる人がいるのかな……なんだか怖いね」
「だから、それはボク達が知らないだけで、主役の彼女達にはドラマが起きてるんだよ。観客もそっちを見て楽しんでるんじゃないかな」
「ところでキノ、女優になってみてどうだった? 主役になってみたいと思った?」
「そうだなあエルメス、ボクにはやっぱり役者は向いてないと思う。主役なんてもってのほかだね。白紙じゃない台本なんて、覚えられる気がしないよ」
キノはエルメスを再び走らせ始めました。
二人を見送る、白い体毛の観客がいたことには気付きませんでした。
696: 2013/12/23(月) 00:46:00.97 ID:aWllO/4h0
うちの地域は叛逆公開終了してしまったから、そろそろ叛逆ネタも普通に投下する予定
次回はいつになるか…
次回はいつになるか…
引用: まどか「魔法少女の短編集」
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