627: 2006/07/12(水) 00:20:37.16 ID:0ccNxgBnO
ある日のこと、部室に行くとそこには誰もおらず、俺一人だった。一人だと何もやることがないので、時間を置いてから出直そうとしたのだった。

キョン「ん?」

出るときにふと目についたものがあった。部屋の片隅に捨てられるように放置されてあった、いつかの笹の葉である。
葉も短冊も随分汚れており、何が書かれてあるかなんて全くわからなかった。

しかし、よく見ると一つだけ新しい短冊があった。誰かが付け足したのだろうか。

636: 2006/07/12(水) 00:27:53.15 ID:0ccNxgBnO
本来ならば人の願い事を覗くのはルール違反なのだろうが、どうしても気になってしまったので、俺は見てしまった。

そこに書かれていた名前は、「涼宮ハルヒ」だった。意外なような…予想通りのような…。

663: 2006/07/12(水) 00:39:49.06 ID:0ccNxgBnO
さてさて、ハルヒが新たに何と書いてあったか見せてもらおう。多少の罪悪感はあったといえばあったが、好奇心には勝てなかった。悪いなハルヒ…でも隠すならもっと見付かりにくい場所に隠すべきだぜ。

それにしても、ハルヒにしては随分無用心というか、迂濶だったな。古泉や朝比奈さん、長門なら見付けても何も言わなかっただろうが、残念ながら見付けたのは俺だ。

運が悪かったな、ハルヒ。

一応念のために警戒しておこう。え~っと、廊下には誰もいない、来る気配もなし。

よし、じゃあ拝見させてもらいますよ~ハルヒさん。



俺がこのあと激しく後悔するなんて、誰が予想できただろう…いいや、誰もできやしないね

676: 2006/07/12(水) 00:45:46.22 ID:0ccNxgBnO
短冊に書かれていたのはこうだった。

「キョンが(消した跡がある)、キョンと…幸せになれますように 涼宮ハルヒ」

俺は頭が真っ白になった。つまりこれの意味するところは、ハルヒが…俺を…。

690: 2006/07/12(水) 01:02:15.22 ID:0ccNxgBnO
正直俺は困った。いや、ハルヒが嫌いだから困ったわけじゃない。ハルヒが俺をそんな風に思ってるなんて、考えたこともなかったのだ。そもそも俺にとってハルヒは、俗に言う友達以上恋人未満な存在で、恋愛対象として認識していなかった。
見なければよかった…明日から、いや今からどんな顔して接したらいいんだ…。
こういうとき俺以外の第3者なら、軽々しく「今まで通りでいいじゃないか」といったことを言うだろう。
俺だって当事者じゃなかったらそう言う。

だが今は違う。俺がその当事者なのだ。少なくとも俺にとって、今まで接するというのは困難である。

そうこうしてるうちに足音が近付いてきた。まずい、笹の葉を隠さないと…!

なんとか笹の葉を元の場所に戻し、見えないように隠すことができた。さぁ誰だ、誰が来るんだ…ハルヒか…今来られるとちと厳しいが…

ガチャ

693: 2006/07/12(水) 01:12:13.11 ID:0ccNxgBnO
長門だ…よかった。今のこの状況では一番安心できる。

キョン「よう、ハルヒ達ならまだ来てないぞ」
長門「休み」
キョン「えっ?」
長門「先程涼宮ハルヒに会った。今日は彼女の都合で休み。私はあなたへの伝言を頼まれた」
キョン「ああ、そうか…わざわざありがとな」
長門「いい」

休み…か。今はそのほうがありがたいな。

キョン「じゃあな長門、また明日な」

長門は小さく頷いた。あいつなりの挨拶だったんだろう。


俺は振り返ることができなかった、長門の視線を感じたからだ。あいつに見つめられると、隠し事を全部話してしまいそうになるからだ。


さて、明日からどうする…俺

700: 2006/07/12(水) 01:26:25.08 ID:0ccNxgBnO
翌朝、こんなに学校へ行くのが憂鬱なのは久々だ。できることなら昨日に戻って、あのときの俺を引き止めたいところだ。しかし、休む訳にもいかないのでしぶしぶ俺は、学校へ行った。

教室のドアを開けると、ハルヒが待ってましたと言わんばかりに

ハルヒ「おっはよーキョン!今日もシケた面してるわね~朝御飯ちゃんと食べてんの?」
最近のハルヒは、以前に比べ随分社交的になり、クラスの男子や女子と普通に会話するくらいになっていた。
しかも以前までの奇人変人ぶりもピタリと止まっており、男子にも女子にも人気が出てきたようだ。
まぁ性格以外は完璧だったからな、こいつは。

703: 2006/07/12(水) 01:37:15.01 ID:0ccNxgBnO
ハルヒ「聞いてキョン!今日は弁当箱も新しいのに変えたのよー」
前に中庭で食べて以来、俺とハルヒは毎日一緒に昼食をとっていた。人気急上昇中のハルヒと弁当を食べている俺は、谷口曰く「羨ましい」の一言だそうだ。
しかし今日の俺は一緒に食べる気にはなれなかった。

キョン「すまん、ハルヒ。悪いが今日は一緒に食べれそうにない」
ハルヒ「え?……どうして……」
キョン「昼休み、少し用事ができてしまってな、だから今日は…すまん」ハルヒ「うん…わかった…仕方ないわね」

ハルヒはすでに普通の女の子となっていた。それだけに、このときの悲し気で寂し気な表情は、直視できなかった。

708: 2006/07/12(水) 01:44:33.69 ID:0ccNxgBnO
俺はその日から、ハルヒを避けるようになってしまった。授業中、休み時間、部活に関しては適当に理由をつけてずっと休んでいた。最初の頃はハルヒも問いつめてきたのだが、次第にそれもなくなり、会話すらもしなくなった。

そんなある日のこと、ハルヒは学校を休んでいた。会話はほとんどしていなかったが、いないとなると寂しい気もする。

国木田「キョン、お客さんだよ」

お客とは古泉、朝比奈さん、長門だった。

717: 2006/07/12(水) 02:01:53.54 ID:0ccNxgBnO
古泉「最近姿を見せませんね、どうしたんですか?」
みくる「涼宮さんがすごく心配してましたよ…それに、悲しそうでした…」
長門「あなた…なぜ…?」
キョン「それは…ちょっと理由があって…」
長門「嘘」

たしかに下手な嘘だったが、俺はとっさに

キョン「嘘じゃねぇよ、証拠でもあんのか?」
ある、今ムキになっている俺自体がその証拠だ。
長門「ならどうして、私達を見ない?嘘じゃないのなら、どうして私の目を見ない?」

みくる「長門さんの言う通りですよ。キョン君、本当のことを教えてください。」

キョン「………」

古泉「言えませんか。ということは、もう気付いてしまったのですね、涼宮さんのこと…」

古泉は何もかもお見通しのようだった。俺のことも、ハルヒのことも。

古泉「長門さん、頼みます」
長門「了解」

古泉がそう言うと、いきなり長門は例の呪文を唱え始めた。

キョン「な、なにをするつもりだ!古泉!」
古泉「知ってもらおうと思いましてね、最近の涼宮さんを」

727: 2006/07/12(水) 02:18:23.88 ID:0ccNxgBnO
キョン「ハルヒを?どういう意味だ…!?」古泉「あなたがいないときの涼宮さん。その情報をあなたの脳に送ってるんですよ。ほら?だんだん見えてきたでしょう?」


ハルヒ『キョンは…また来ないの…?どうして?』
『お弁当がマズかった…?』
『最近は話してもくれない…見てもくれない…』『グスッ…嫌われちゃったの…あたし…。もしそうなら、謝るから…グスッ…あたし、謝るから…。グスッ…キョンに…会いたい…話がしたい…キョン…どこ行っちゃったの?…戻ってきてよ…』

部室の机に伏して泣いているハルヒ、朝比奈さんに泣きついているハルヒ…俺がいない間の、ハルヒの記録だった。

752: 2006/07/12(水) 02:31:35.74 ID:0ccNxgBnO
古泉「機関や閉鎖空間、そんなのは抜きにして言わせてもらいます。涼宮さんを助けてあげて下さい。ここまで彼女の心を弱くしたのはあなたです。追い詰めたのもあなたです。だから助けてあげて下さい」

みくる「キョン君…わたしからも、お願いします。私もあんな悲しそうな涼宮さん、見てられません」

長門「あなたには責任がある。義務がある。拒否は認められない」
そんなに言わないでくれよ、泣いてるあいつを見たとき、もう決心してたさ。

キョン「あいつは今、どこにいるんだ?」

長門「自宅。じゅう…しょ…は…」
言い終わる前に長門の体は消滅した。

キョン「長門!?」

古泉「閉鎖空間ですね、しかも今までに類を見ないほどの速さです。この速さだと、さすがにぼ…くも…」

続いて古泉が消えた。
みくる「キョンくん…涼宮さんのこと、よろしくお願いします。」
そう言って朝比奈さんは、笑顔で消滅した。

763: 2006/07/12(水) 02:45:41.22 ID:0ccNxgBnO
背後ですさまじい轟音が聞こえた。振り返るそこにいたのは…神人だ…しかも数が尋常じゃない。古泉達に気をとられていたが、クラスの連中も消滅していた。

俺は急いで崩壊する学校から脱出した。ハルヒに会いに行くために。だが住所がわからない、教える前に長門が消えてしまったからな。仮に聞いたとしても、この状況だと住所の確認なんかしていられない。

俺はただ走った…崩壊する街を…崩壊する世界を…。ここで世界を、いやハルヒを助けられなきゃ、俺はただの屑だ…。

ハルヒの居場所はわからない、だけど闇雲に走っているわけでもない。あいつの居場所は、神人が教えてくれる。神人が唯一壊していない、きれいな道…俺はその道をただひたすらに走った。

こんなときでも俺の体は消えていない…ハルヒが、俺を必要としてくれているんだな…ありがとう、ハルヒ

769: 2006/07/12(水) 02:56:14.81 ID:0ccNxgBnO
そして俺は、ハルヒを見つけた。周囲にいるのは神人だけ…それ以外は何もない、寂しい場所だった。

キョン「ハルヒ…」

座ってうずくまっていたハルヒがゆっくり顔を上げる。

ハルヒ「キョン?どうしたの?そんなに血相変えて…」

今にも消えかかりそうな声と、弱々しい表情でハルヒは言った。

キョン「帰ろう、元の世界へ」
ハルヒ「元の世界?何言ってるの?」
キョン「いいから。こっちへ来るんだ、ハルヒ。」
ハルヒ「……イヤ…」
キョン「ハルヒ?」
ハルヒ「イヤ…行きたくない。」
キョン「どうして!?」ハルヒ「だって…そこには誰もいないもの…有紀もみくるちゃんも、古泉くんも…」
キョン「俺がいるじゃねぇか!」
ハルヒ「いないわよ!あんたは今、目の前に立ってるけど…どこにも…いないわよ…」

776: 2006/07/12(水) 03:05:33.07 ID:0ccNxgBnO
キョン「ハルヒ…」
ハルヒ「もう帰って…誰も見たくない、誰とも話したくない…みんな消えちゃばいいわ…」
キョン「嘘つくなよ…」ハルヒ「嘘じゃないわよ!」
キョン「嘘だ!じゃあ俺はどうして消えてないんだ!?お前が本当にみんな消えちまえって思ってるんなら、俺はここにはいない」
ハルヒ「それは…」
キョン「お前はわかってるはずだ、何もかも。だから…」
ハルヒ「うるさいうるさい!もうあたしに構わないで!ほっといて!」

その瞬間、俺の体が…足元からゆっくりと消え始めた

784: 2006/07/12(水) 03:16:25.05 ID:0ccNxgBnO
キョン「はは…まいったな…どうやら本当に必要なしと判断されたらしい」

ハルヒは俺を睨みつけている。敵意を剥き出しにして…

キョン「ハルヒ…実は俺、お前が新しく書いた短冊…見ちまったんだ」
ハルヒ「えっ?」
キョン「それで、お前の気持ち…知ってしまったんだ。そのせいで俺、どんな顔してお前に接したらいいかわかんなくてさ…悪かったな。」
ハルヒ「キョン…」
キョン「お前が誰も必要としてなくてもいい。ただ覚えててくれ、俺達SOS団は…最期まで団長のお前を必要としていたってこと」

798: 2006/07/12(水) 03:24:13.99 ID:0ccNxgBnO
ハルヒ「キョン…ダメ…行っちゃダメ…」

ハルヒは立ち上がり、目からは大粒の涙を流していた。そして消えかかる俺に近付いてくる…

ハルヒ「わたしを置いて…どこ行っちゃうの…?もうどこにも行かないで…独りは寂しいの…」

キョン「俺だって…寂しいさ…すごくな…」
ハルヒ「どうして…どうしてこれ止まらないのよ…あたしが止まれって命令してんのよ…キョンは消さないでよ…。世界の終わりに、独りはイヤなの…」

819: 2006/07/12(水) 03:38:06.06 ID:0ccNxgBnO
キョン「ハルヒ…もうそろそろ限界みたいだ…」ハルヒ「ダメ…ダメ…!あんたが消えるなら…あたしも消える!」

ハルヒの体が消え始める…すごい速さで…

キョン「バカなことはやめろ、ハルヒ!!」
ハルヒ「いいの…ごめんね…最期までワガママな女で…素直になるのってむずかしいね…」

ハルヒの体は俺と同じくらい消えかかり、速度も俺と同じになった。

キョン「今のお前は…充分素直だよ…」
ハルヒ「でも、遅すぎたわね…こんなギリギリで…」
キョン「お互い様だ」ハルヒ「……キョン…?」
キョン「なん……」

ハルヒは自分の唇と俺の唇を重ね合わせた。前の閉鎖空間とは逆になっちまったな。

ハルヒ「好き……よ、キョ………ン…」
キョン「ああ、お…れ……も……だ……」


そして俺達は消えた。世界と共に

827: 2006/07/12(水) 03:44:47.64 ID:0ccNxgBnO
目が覚めた。
どこだ?
部室だ
どうして?
俺とハルヒは確かに消滅した。
なのに体は元通り…どうなってる…?

ハルヒが倒れている…まさか氏んでるなんてことはないよな…

キョン「おい、ハルヒ。ハルヒ!」
頼む、目を覚ましてくれ

ハルヒ「う……ん……キョン?」

836: 2006/07/12(水) 03:50:00.16 ID:0ccNxgBnO
キョン「よかった…一瞬氏んでんじゃないかと思ったぜ。でも、どうして…俺達部室にいるんだ…あのときたしかに…」
ハルヒ「消滅したわよ…あたしも、あんたも…」
キョン「じゃあ何で…?」
ハルヒ「それは…その…」
キョン「もしかして、お前がやったのか…?」
ハルヒ「うん……。完全に消えちゃう前に、一つだけ願い事したの…」

843: 2006/07/12(水) 03:54:57.10 ID:0ccNxgBnO
キョン「願い事?なんて?」
ハルヒ「何てって…あんたも知ってるじゃない…」

ハルヒはもじもじしてそう言った。

キョン「知るわけないだろ。あの状況でどうやってお前の思考を読みとるってんだ」

ハルヒ「そ、そうじゃないわよ…!」
キョン「じゃあ一体どういう意味なんだ?」

862: 2006/07/12(水) 04:06:20.40 ID:0ccNxgBnO
ハルヒ「だ、だからぁ…」
こんなときに何考えてんだって思うかもしれないが、もじもじしながら下を向いて、耳まで真っ赤にしているハルヒはかなり可愛かった。

ハルヒ「見たんでしょ?あの短冊?」
キョン「短冊?ああ…見たな」
ハルヒ「だからあたし、それをお願いしたのよ…。キョンと一緒に…幸せになれますように…って…」

俺と幸せになる…俺の幸せって何だ?元の世界に戻ること?違う。ハルヒと一緒に生きること?違う

元の世界に戻って、ハルヒと一緒に生きることだ。

そうか……だからか。だから戻って来られたのか…。

キョン「ハルヒ」
ハルヒ「何よ……あっ……」

俺はハルヒを抱き締めた。

キョン「これからはずっと一緒だ。もうどこにも行かない。」
ハルヒ「……約束よ?」
キョン「約束だ」
ハルヒ「破ったら…氏刑なんだからね…」
キョン「望むところだ」
ハルヒ「バカ…キョン」

912: 2006/07/12(水) 04:23:06.57 ID:0ccNxgBnO
それからしばらくして、古泉と朝比奈さん、長門とも再会できた。朝比奈さんは号泣し、古泉はいつものスマイルで「よかったですね」、長門に関しては…

キョン「世話かけたな」長門「ええ」

てっきり「いい」って言うと思ったんだがな。

キョン「長門」
長門「なに?」
キョン「えーっと、その…」
長門「おかえりなさい」キョン「えっ?」
長門「おかえりなさい、キョン…お疲れ様」
キョン「何だか新婚の奥さんみたいだな」
長門「そうね。ふふっ」

長門が初めて笑った。カメラがあれば…カメラがあれば…!!

俺達はそのまま鍋パーティーをした。材料等は『機関』と鶴屋さんがどうにかしてくれた。

俺はこれから、ハルヒの側にいようと思う。閉鎖空間なんて発生させない。もし発生してしまっても、そのときは俺がなんとかしてやる。

俺の隣にはハルヒが、ハルヒの隣には俺がいる。俺達は手を握りあった、もう二度と離れないように…いつも一緒にいられるように…

ハルヒ「幸せに…なれますよーーにっ!!」

引用: ハルヒ「ちょっとキョン!あたしのプリン食べたでしょ!?」