161: 2014/05/05(月) 00:47:49 ID:96dkaxb2

男「見られてない?」イケメン「…」じぃー【前編】


図書室

男「…えっと」

眼鏡「……」

男「ど、どうも…その先日はご迷惑をお掛けしました…」

眼鏡「……」

男「色々とお騒がせしたっていうか、あの、えっと…」モゴモゴ

眼鏡「……」ガタ

男「っ!」ビクゥ

眼鏡「……」スゥ

男「えっ? 隣に? あ、ありがとうございます!」ペコォ

ストン

男「えへへ」ニマニマ
ふらいんぐうぃっち
162: 2014/05/05(月) 00:48:33 ID:96dkaxb2
眼鏡「……」じぃ

男「あっ! そのですね…! あの、実は貴方が…実はこの作品の作者様なのかって事を…」

眼鏡「……」じぃー

男「聞きたくて、です、ね…えっと…」

眼鏡「……」コクリ

男「やっぱりですかっ!? うわーぁ! やっぱりそうだったんですね! うお~…っ!!」キラキラ

眼鏡「……」スッ

男(うぉぉっ…マジかぁ…俺の予想はあたってたのかぁ…! あの時キチンと感想言っといてよかったぁ!)

眼鏡「……」サラサラ

男「この前はゴタゴタしすぎてて聞きそびれちゃってて、すみません、ご迷惑じゃなかったら…」

眼鏡「……」スッ

男「うぇ? ええええええっ!? こ、これって恋覗の新刊…ッ!? し、しゅひゃもサイン付き!?」

163: 2014/05/05(月) 00:49:21 ID:96dkaxb2
眼鏡「……」コクリ

男「なぜゆえにこのようなものをっ!?」

眼鏡「……」カチャ

男(発売日は二週間後だというのにお、俺はその新刊を手にして!? しかもサイン…!?)パァァァ

眼鏡「……」ゴソゴソ

男「と、とにかくありがとうございます…!! もう感動してて、俺あの、その、ありがとうございます…!!」

眼鏡「……」スッ

男「家宝にします──……え? なんですか、コォッ!? コココココ!? コレは!?」

眼鏡「……」コクリ

男「恋覗のツンデレ幼馴染、十六分の一ふぃぎゅあ!!!!???」

眼鏡「……」スッ

男「つ……たぁっ…なん、て…クオリティなんだ……嘘だろうっ…え、なんですかっ? …えっ? くださるんですか!?」

164: 2014/05/05(月) 00:50:14 ID:96dkaxb2
眼鏡「……」コクリ

男「ちょ、ちょっとそれは! 流石にこのようなモノをタダでもらうなんて…!」

眼鏡「……」シュン

男「!? いやっあのっ違います! 欲しくない訳じゃなくって、」

眼鏡「……」チラ

男「ううっ」

眼鏡「……」スッ

男「…い、頂いてもいいんですか?」

眼鏡「……」コクコク

男「ありがとうございますゥ…!! ぐっ、なんて素晴らしい出来なんだ…!」

眼鏡「……」ゴソゴソ

男(テレビの上に置こう。うん、そうしよう)キラキラ

165: 2014/05/05(月) 00:50:54 ID:96dkaxb2
眼鏡「……」スッ

男「っ!? なんですかそれ!? アワビの形をしたペンケース! ヒロインの持ち物じゃないですか!」

眼鏡「……!」パァァ

男「作中で一行ぐらいしか説明されてないマイナーネタを商品化したんですか…!? な、なんて無謀な…」

男(だがそんなチャレンジ精神旺盛が大好きだ!)

眼鏡「……」ぐいっ

男「んんっ!? い、頂いても…!?」

眼鏡「……──」


眼鏡「……」コックリ!


男「ありがとうございます!」

眼鏡「……」ゴソゴソ

男「うぉぉぉっ一見機能性皆無の商品なのに…凄くペンが吸い込まれるかのようにしまえる! 凄い!」

166: 2014/05/05(月) 00:51:33 ID:96dkaxb2
眼鏡「……」ヒョイ

男「それはまさか!? 主人公があまちゅを目指すために、気合を入れる証として作ったTシャツじゃあ…!?」

眼鏡「……」ゴソ!

男「ヒロインのお面!? それにこれは…互いの約束を指し示すあわびペンダント!?」

眼鏡「フンスー」ガサガサ

男「…っ…」ドキドキ

眼鏡「……」スッ

男「ッ───……!? なんだって、それはまさか作中で極秘中の極秘。主人公のあざの原因を作ったもの…?」


~~~~~


男「まさか…これを全部頂けるなんて…あ、あはは…ありがとうございます…」

眼鏡「……」コクリ

男(重い…持って帰れるかな…というか何処に持ってたんだこの量を…)

167: 2014/05/05(月) 00:52:22 ID:96dkaxb2
男「あの、何時もこんなに商品を持ち歩いてるんですか…?」

眼鏡「……」フルフル

男「えっ? じゃあなんで今日は…」

眼鏡「……」スッ


びしっ


男「お、俺? ──あ、もしかして…俺のために持ってきてくれたと…!?」

眼鏡「……」コクリ

男「嘘。本当ですか? うわわっ、なんでそこまで…?」

眼鏡「……」

男「っ…?」ワクワク

眼鏡「…~~~っ……」ボソボソ

168: 2014/05/05(月) 00:53:27 ID:96dkaxb2
男「えっ? 嬉しかったって──この前の俺の感想が……?」

眼鏡「……」

──コクリ

男「そ、そんな! 俺にとって当たり前な感想を入ったまでですし…!」

眼鏡「……」

男「あの、あんな俺の感想で喜んでいただけたのなら、えっとファン冥利に尽きますっ」ドキドキ

眼鏡「……」テレテレ

男「……」

男「…先生は凄いですね。若いのにこうやって仕事をしているなんて」

眼鏡「?」

男「あ。勝手に先生って呼んじゃってますけど、大丈夫ですか…?」

169: 2014/05/05(月) 00:54:09 ID:96dkaxb2
眼鏡「……」コクリ

男「ありがとうございます。その、先生ってまだ高校生ですよね? 図書室に居るってことは」

眼鏡「……」コクリ

男「…なのに素晴らしい作品を書いて、世間に認められて、自分の力で活躍している…」

男「自分と年がひとつしか変わらない。なんて信じられないです、むしろ同じ人間なのかって思うぐらいに…」

眼鏡「……」

男「俺は全然人とも上手く喋れなくって、考えや思いを他人に伝えるのが苦手で…」

男「…最近は色んな人と出会って、ちょっとかわれたかな、なんて思ったりするんですけど」

男「けれど色々と周りが凄いのに、自分はやっぱりいつも通りの俺なんだなぁーなんて…」


男「……結局は迷惑をかけてしまうんだなって」


眼鏡「……」

170: 2014/05/05(月) 00:56:49 ID:96dkaxb2
男「ごめんなさい、なんか愚痴っぽくなってしまって。こんなこと、言うつもりじゃなかったんですけどね」

眼鏡「……」

男「俺、先生の作品が大好きです。キャラクター皆が思い思いに生きてて、自分に嘘なんてついてない」

男「逆境も後悔も全て押しのけて、自分の幸せを追い求める姿が──俺は大好きなんです」

男「俺だったらあの時絶対に挫けてる。けど先生の書くキャラは皆乗り越える、頑張って氏に物狂いで立ち向かうんだ…」

男「だから大好きなんです…頑張ってください、大変でしょうけれど応援してますからっ」ペコリ

眼鏡「……」

男「だっ、誰よりも応援しますから!」

眼鏡「……」カチャ

男「…?」

眼鏡「……」ポロ

ポロポロ…

171: 2014/05/05(月) 01:02:39 ID:96dkaxb2
男「えっ!? ど…どうしたんですかっ!? 俺変なこと言っちゃいましたっ!?」

眼鏡「……」フルフル

男(あわわっ! お、俺が変なことを言っちゃったから…先生が泣いてしまった…!!)

眼鏡「……」ぐすっ

男「あの、そのぉ~…す、すみません! なんか、困らせてしまいましたか…?」

眼鏡「……」カチャ

ゴソガサゴソ

男「本当にごめんなさい! あーもう変なコト言わなければ良かった…っ」

眼鏡「……」スッ

男「…え? なんですかこれ、色紙───」


『正直に生きることに躊躇いを持つな!』


男「これ…主人公がライバルに言い放った名台詞……」

172: 2014/05/05(月) 01:08:44 ID:96dkaxb2
眼鏡「……」

男「俺、このセリフ超大好きなんです……無理だって解ってるのに、あまんちゅになんかなれないって…」

男「主人公が一番わかってて、それを指摘されてもなお……ライバルに言い返したシーンで…すっごく心に響いて…」

眼鏡「……」ポンポン

男「あっ……俺にくれるんですか…? でも何で俺なんかにコレを…?」

眼鏡「……」


──君に贈ろう。この言葉を…


男「……」

先生は一言も発しなかった。
けれど綺麗に整った横顔は、眼鏡の奥にある澄んだ瞳は、

そして風に流れる前髪はさらさらと音を伝えてくる。

──そして微笑んでくれた。

173: 2014/05/05(月) 01:11:50 ID:96dkaxb2
眼鏡「……」ニコ

男「あ…」


先生は応援してくれた、のだろうか。
こんなチンケな一般人を、何も出来ない一人のファンを。


男「…あ、ありがとう…ございます…」


感謝することしか出来ない。
ありがとうございますと、連呼することしか出来なかった。


眼鏡「……」ファサァ

男「え、あっ…」


彼は着ていた上着を俺に、羽織らせると。
静かに足音をさせないまま去っていった。

174: 2014/05/05(月) 01:15:19 ID:96dkaxb2
男「………」

眼鏡「……」フリフリ

段々と小さくなって、ドアに隠れて見えなくなるまで、俺は見届け続けた。

けれどその背中はいつまでも大きく見えた。


男「グス、っはぁー……なんか慰めてもらった……」


いつか先生に御礼をしなくては。
だからまた今度会えた時、沢山の感想をあの人に伝えよう。

それが唯一出来る、俺の素直な言葉なのだと思ったから。


男「──ありがとうございます、先生」


「…なにやってんの、あんた」

175: 2014/05/05(月) 01:21:14 ID:96dkaxb2
男「ん?」

女「……」ジィー

男「ああ、居たんだ…気付かなかった」

女「そう。けどその前に、あんた何やってるか教えなさいよ」

男「え?」

女「…男子生徒の上着を大切そうに抱きしめて」

女「ペアネックレスっぽいものを握りしめ、ティシャツも手袋も靴下もペアルックっぽいので」

女「しかもアワビの形した…ものにペンを何本も突っ込んでて」

女「どーして嬉しそうに笑って、ちょっと泣きそうになってるワケ?」

男「ちっちが!」

女「……」スッ

女「……変O」

176: 2014/05/05(月) 01:29:19 ID:96dkaxb2
男「待って違うこれは色々とワケがあって…!」

女「…ワケ?」

男「そうだっ! ほらこの前の眼鏡の人いただろ…っ? その人にもらっ…」ギクゥ

女「……」ソロリ

男「最後まで聞いて! 貰ったとしても理由がある!」

女「…なに?」

男「それは──」


『正直に生きることに躊躇いを持つな!』


男「───っ……それは! 眼鏡の人を俺が喜ばしたから!」

女「…悦ばした?」

男「そ、そうそう! 感想を言って、ああっえっと…今日はたまたま出会ってから…」

177: 2014/05/05(月) 01:37:31 ID:96dkaxb2
女「…感想…たまたま出会った…」

男「それからサインを書いてもらって…色々高価なプレゼントを貰って…」

女「悦ばせる…感想…サイン…高価なプレゼント…」

男「あの人はすごい人なんだ、ほら! 知ってるじゃん…っ! 俺が好きだって…!」

女「……好き?」

男「だからあの人も悦んでくれてて、俺もそういったふうに喜んでくれてたなんて思わなくて……ふふっ」

女「…そう」

男「それからあの人も応援してくれたんだ。俺のことを、こうやって」スッ

女「色紙…?」


『正直に生きることに躊躇いを持つな!』


女「……………………」

178: 2014/05/05(月) 01:43:41 ID:96dkaxb2
男「…俺も頑張ろうと思ったんだ。自分に正直に生きようって」

女「そう。そうなのね、あんたはそうなろうと決めたワケね」

男「お、おう。まぁ…難しいと思うけど…」

女「別に良いんじゃない。あんたが本当に決めたのなら、本気でそうなると思ったのなら」

女「──男性とイチャコラして感想を言い合って、その御礼にプレゼントを貰うことに躊躇いを持たないのなら」スッ

男「……」

女「けど。まぁ………」

女「……あたしは変Oだって思うけど」

スタスタスタ ガラリ パタン

男「………」

男「………あれ?」


【ファンと作家の流れを説明するべきだと気づいたのは数日後でした】


第六話『俺のツッコミ不在』

179: 2014/05/05(月) 01:46:04 ID:96dkaxb2


来週は二本立てですよろしくお願いします
質問あったら聞きます故に、

ではではノシ

185: 2014/05/12(月) 17:34:16 ID:ji48U0/o
朝 下駄箱

女「おはよー」

「おはようさん」

女「よいしょっと」ガタ

パサリ

女「ん」ヒョイ

【ラブレター】

「おっ? おやおや~?」

女「…………え?」


昼休み


男「ええっ? 今日は保健室駄目なんですか…?」

先生「身体検査の準備があるからね。ということで、今日は違う所で食べな」

186: 2014/05/12(月) 17:36:52 ID:ji48U0/o
男「…そうですか」

先生「じゃあ全学年女子のパロメーター覗き見してく?」

男「じゃあってなんですか、じゃあって。んなの見ませんよっ」

先生「残念、まぁまた明日おいでー」

男「……」フリフリ

男(はぁ~、今日は屋上で食べるか。でもあそこ時折、カップル居たりするんだよなぁ)スタスタ

男「その時は黙って教室で食べよう──」

ガチャ

男「──うっ…太陽が眩しい…」

男(お。誰も居ないじゃん、らっきー)キョロキョロ

男「…今日は一人でお昼ごはんだ」ストン

187: 2014/05/12(月) 17:39:20 ID:ji48U0/o
男(アイツ昼は用事あるって言ってたし、でも、あれ?)もぐもぐ

男「でも俺に何か言いたいことあるって言ってた気が……なんだっけ?」


イケメン『言い忘れそうだから、誰かに頼んで君に伝えるよ』


男(あー…そんなこと言ってた気がする。でも誰かって、誰だろう?)

男(話しやすい人だったら良いな。けど大丈夫だろう、アイツはそういう所配慮してくれる奴だし)

ギィ ガチャ

男「…ん」チラリ

女「……」コソコソ

男(うわぁ…またこの人かよ…)

女「っ!」ぴくっ

男(知らないふりしとこう。黙って黙々と食べていよう)モグモグ

188: 2014/05/12(月) 17:40:37 ID:ji48U0/o
女「……」キィ パタン

男「もぐもぐ」

女「……」スタスタ

男「こくっこくっ、ぷはぁ」

女「……」ストン

男「…っ」ビクゥ

女「…ちょっといいかしら」

男(なっ何で隣に座る…? なんで話しかけてくる!?)

男「な、なに?」

女「あんたしか居ないから聞くんだけど。あたしを屋上に呼び出したのって、あんたなの?」

男「えっ……呼び出してないけど……?」

189: 2014/05/12(月) 17:42:04 ID:ji48U0/o
女「……」チラリ

男「っ?」

女「そ。良かったあたしの勘違いで」プイ

男(なんだよ急に…呼び出しなんて俺がするわけ──ハッ!? もしかしてアイツからの言付け役は…この人!?)

男(なんつー人選してるんだよ! 信じた俺が馬鹿だった! アイツは何も分かってない!)ブルブル

男(くそぅぅっ……今度買ってもらったハリセンで…っ)

女「悪戯だったのかしら。うん、そうよねきっと」スッ

男「え…あ…ま、待って!」

女「なっなによ?」ビクゥ

男「その…やっぱり俺…かもしれない…かも…?」

女「えっ!? 呼び出したのあ、あんただって言うの…!?」

男「いや、正確には俺じゃないって言うか…」

190: 2014/05/12(月) 17:43:06 ID:ji48U0/o
女「なによそれ……どっち!? どっちなのハッキリしなさいよ!」

男「うっ」

女「いちいち怖がるなっ! あんたのそういう所前々からどうかと──」

女「ぐっ──違う違う…そうじゃなくって、あたしも怒るなってば…っ」イライラ

男「…ごめん」

女「えっ? い、いや別に謝らせたい訳じゃなくて…そのぉ…えっと…」

男「…ハッキリ言うから。その呼出は……多分俺だと思う」

女「え──……ちょっと多分って何よ。全然ハッキリ言ってないじゃない! どっちなのよ!?」

男「お、俺ですっ」

女「うっ」ドキッ

男(覚えとけよあの野郎…)サメザメ

女「そっそうなんだ…へぇー…」

191: 2014/05/12(月) 17:46:07 ID:ji48U0/o
男「…ごめん、迷惑だったと思うけど」

女「えっ!? まっまーねぇ! このあたしに時間を取らせるなんて、ほんっとばっかじゃないのっ?」

男「あ…うん…」シュン

女「ばっ違う違う違う!? 今のは言い過ぎたってあたしも思ったから! うん!」わたわた

男「いやそれぐらい言ってもらったほうが助かるっていうか…時間を取らせたのは悪い気分になるし…」

女「そっそこまで卑下しなくても良いんじゃない…っ?」

男「え、そう?」

女「まぁうん……そういうのって大切だと思うし、ううっ、きちんとした想いだから、何言ってるのよあたし…っ」

男「…………」じぃー

女「なっなによ!? そんなにコッチを見ないでよっ…! あたしだって変なコト言ってるのわかって…!」

男「い、いやいや…違うちょっと感動してて、いい人だなって思って」ボソッ

192: 2014/05/12(月) 17:47:22 ID:ji48U0/o
女「っ……何よそれ! あたしのこと今までどんな風に思ってたワケ!?」

男「言っちゃなんだけど……怖い人だと思ってた」

女「何時も怒鳴って悪かったわね! 生まれつきこんな性格なのよっ! というかあんたが変Oなことばっかしてるからじゃない!」

男「ぐっ…確かにそのとおりだ…けどだからこそ色々勘違いのせいもあるかなと…」

男「俺ってあんまり女子との会話が上手く出来ないし、そもそも会話自体苦手で…誤解を弁解するあれもなくて…」

男「段々と勝手なイメージが出来上がっちゃってたんだけど……そっか、そうだよな、だってアイツの幼馴染なんだもんな」

女「……」


男「──悪い人じゃないことぐらい、わかってたのにさ」


女「………あ…」ドキ

女「な…何よ急にわかったようなこと言って──そんな事言ったらまた、前みたいに勘違いされるわよあたしにっ」

193: 2014/05/12(月) 17:49:02 ID:ji48U0/o
男「え? 前みたいに?」

女「なっ………ナンデモナイワヨ…」ゴニョゴニョンニョ

男「お、俺は素直な感想を言ってるまででっ……別に勘違いされるようなこと、言ってない、と思うけど」

女「ふぇっ!?」

男「俺だって不仲な人が居るのは嫌だ……うん、嫌だって思う」

女「…………」

男「だからもう少し、嫌なら断っていいけど、その……仲良く慣れたらなぁ~って…思ったりはするんだけど…?」

女「…な、なによ…変なこと言わないでよ…っ」かぁぁ

男「…変なことだと思ったなら…ごめん」かぁぁ

女「あ、アンタはあの変Oが好きなんでしょ…?」

194: 2014/05/12(月) 17:50:19 ID:ji48U0/o
男「だっだからそれは勘違いなんだってば! 前に保健室でも言ったけど、アイツはタダの友人関係だって…!」

女「全然信用出来ないわよ!! いっつもあーんなにべったりくっつき合ってるじゃない!」

男「そう見えるだけだって! だぁーもう、さっきも言ったけど俺は単純にあんたと──」がばぁ

女「っ!」

男「──なかっよく、なりたい、って……思っただけ、なんだけど……っ?」

女「ッ…ばっかじゃないの」プイッ

男「だって俺は素直に生きるって、心がけようと決めたんだ」

女「素直にっ? ……あーあの図書室でのやつ? 色紙に書いてあった…」

男「そう。あの時もちょっとした勘違いがあって、またすれ違いが起こったんだけど…」

女(じゃあ結局あの眼鏡の上級生は誰なのよ…)

男「…けど俺はわかったんだ。勘違いも、すれ違いも、そんなのって俺がしっかりすればどうにか出来るんだって」

195: 2014/05/12(月) 17:51:14 ID:ji48U0/o
女「…どうにか…?」

男「素直になれば、ちゃんと思いの丈を言い合えば──俺が明確に言い切ればよかった話なんだよ」

女「素直に言い切ればって───」

男「………」じっ

女「あっ……」

男「…だから、さ」ポリポリ


女(うそっこれってもう告──嘘嘘嘘嘘!? えーっ!? あっやばっ顔が熱い…っ)

男(女子生徒の友達か……保健室の先生以外にやっとまともに話せる女性が出来る、のか……?)ドキドキ


女「…じゃあなによ、あ、あたしと仲良くなって…」ボソボソ

男「う、うん」

女「あんたは…それがいいって決めたワケ…? す、すすすっ素直なっ! 気持ちってワケ!?」びっしぃぃぃ

196: 2014/05/12(月) 17:52:09 ID:ji48U0/o
男「ま、まぁそうなるかな」コクリ

女「………ぉぉぉ…っ」パクパク

男「…駄目、かな」

女「づぁっ!? っ!? あのーそのーっ……えっと、ぐぬぬっ! だぁああああああああ!!」

男「!?」

女「だめだめだめだめ!! まだよく互いに知り合って無いっていうのにっ!! そういうのは早いと思うわけよ!?」

男「そ、そこまで考えることか…?」

女「ッ!? そこまで考える事でしょ!? 何言ってんのよあんたばっかじゃない!?」

男「ッ……! そうだよな、何言ってんだ俺……ごめんっ」ペコリ

女「そーでしょ…! ほらまたそうやって勘違いであたしを怒らそうとしてる!」

男「あ、ああ…そうだよな……俺が一番わかってなきゃいけないことなのにな…」

197: 2014/05/12(月) 17:53:28 ID:ji48U0/o
男(忘れてた。忘れてしまっていた、友人ってのは簡単にできるものじゃない。そんなの俺が一番理解してたことじゃん…)

女(びっくりした…付き合うってことは簡単な事じゃないでしょ! ……べ、別に付き合うって決めたワケじゃないけど…)


男「アンタの言うとおりだ。俺またやっちまうところだった、許して欲しい」

女「ま、まぁ理解してくれたのならイイケドっ? 今度またやったらゆるさないわよ…っ!」

男「うん。だからはっきり言うべきだよな、こういう時はきっちりと」

女「あぇっ?! あ、あああうんうんうん…っ」

男「…聞いてくれ。俺はアンタと仲良くしたい、けど、今がまだ駄目って言うのなら──」

男「──ど、どうか…それまで…待っててくれたら…その、嬉しいっていうか」

女「っ~~~~!」ドッドッドッドッ

男「…いいかな?

198: 2014/05/12(月) 17:55:19 ID:ji48U0/o
女「おっ…にっ……なッ……うううっ…!」

女「にゃっ! ういっいっあっ……」

男「……っ…」ドキドキ

女「…………………………ハイ」コクリ

男「ほっ本当に? 良いの!?」

女「何よ……別に良いわよ……後に決めるのはあたしだし…っ」

男「うぉぉっ……良かった、はぁー……」

女「………っ……」モジモジ

男「じゃ、じゃあさ。お近づきの印にっていうか、まぁ単純に聞きそびれたことがあるんだけど」

女「なによっ?」キッ

男「うっ。何で怒ってるんだ…?」

女「怒ってない!」

199: 2014/05/12(月) 17:58:28 ID:ji48U0/o
男「そ、そうだよな。勘違いしない勘違いしない……よし、今更申し訳ないけど聞かせて欲しいんだ」

女「えっ?! な、なにを…?」

男「え、だから──俺に言うべきことっていうか」

女「言うべきことって──……っ!? 今の気持ちを言えってこと!?」

男「気持ち? いやいや、言葉だよ言葉」

女「言葉って──このヤロウまたあたしを辱めるつもり!?」

男「アイツにどんなことを言うように頼まれたんだ!?」

女「あんたが言ったんじゃないの!!」

男「はぁっ!? 俺は別に何も頼んじゃ……もしかしてお、俺に大きく関することなの?」

女「そうに決まってるじゃない! あ、あんたがこうやって……コクハク…シテキタンダカラ…っ」

200: 2014/05/12(月) 18:05:56 ID:ji48U0/o
男「え? なに?」

女「ばぁ──言わないわよ変O!! 何言わそうとしてんのよッ!」バシッ

男「痛ぁ!? そ、そんな怒らなくてもいいだろっ? 少しだけでも仲良くなったんだから、別に怒らなくても…っ」

女「怒るわよッ!? 怒るに決まってるじゃない!! 乙女の感情もわかったもんじゃないわねほんっとばっかじゃないの!!」

男「ええー……ご、ごめん…そんなに言いにくいことを頼んだのか俺…」

女「そうよあったりまえじゃない! ったく、これじゃ先が思いやられるわねっ! なっ仲良くなんか、なれないわよ…っ」

男(女友達難しすぎない!? …気軽に言付けすら出来ないのかよ…うぅっ…本当に先が思いやられる…っ)

女「っはぁーもうやだやだ…」パタパタパタ

男「……。何も顔真っ赤にして怒ること無いのに…」ボソッ

女「べっ別に真っ赤になんてなってない!!」

男「…なってるよ」

女「ぐっ……もうサイテーよあんた! デリカシーがなさ過ぎっ! あっ…あたしだって、ちゃんと応えたいのにっ、あっ違くて、そのっ」

201: 2014/05/12(月) 18:19:35 ID:ji48U0/o
男「えっ?」

女「っ~~~~ッッ……だからぁっ! そのっ、あたしだって、このままじゃダメだと思うし…っ」

男「…え、何が?」

女「あ、ああ、あああんたがっ? きちんとこうやって想いを伝えてくれたのにっ! あたしがっ…ココで何も言わないのは、失礼だなっておもうワケ!?」

男(何のこと? 言わないとって、ああ、アイツからの伝言のことか?)

女「と、とりあえず今の気持ちを…えっと言葉だっけ…? いっ言わなくちゃなって、思うわけよ………」プッシュー

男「…どうも。じゃあ教えてくれたら」

女「っ! あ、ああうんっ……そのぉ~……」モジモジ

男「…?」

女「あっあたしはっ! こんな性格だからっ、自分でも他人に迷惑をかけてしまうってのはわかってるし…」

女「たまに感情を上手くコントロールできなくて…い、色々と間違ったことをしちゃうのは重々承知なんだけど…っ」

女「で、でも……あんたがちゃんと想いを伝えてくれたこと、ってのには……す、素直に……っ」

女「…………うれしかった、ワケよ……」

202: 2014/05/12(月) 18:31:21 ID:ji48U0/o
男「あっえっ? そ、そっか……さっきの俺の言葉、嬉しかったんだ」

女「ま、まぁね! …経験ほぼ無いからかもしれないけどッ!」

男(え、意外に友達少ないのかこの人…共感持てるな…)

女「だから別に嫌だってわけでもないしっ、これを機に色々と───気まずくなるのも嫌だって思うわけよ…っ」

男「…難しいもんだよな。俺も思う」ウンウン

女「で、でしょっ? けどね、だからこそ今ここで言わなくちゃイケナイと思うのよ。ちゃんと…しっかりと、でしょ?」

男「おおっ! そうだよな……しっかりと、だ」

女「ハッキリと言っておくわ──」


(──あんたには少しだけ興味はある)

(あいつを、幼少期から変わってしまった変Oを、今の今になってどう変えたのか)

(もう誰にだってあいつを治せないと思っていた。身の内に閉じこもったアイツを助けだした、この男は──一体何者なんだろうって)

203: 2014/05/12(月) 18:43:40 ID:ZrS1KLmg
女(──もしかしたら、あたしもまた……)


この目付きの悪い男と、付き合ってしまう未来の果てがあったとして。
そんなありえない結果から、また手が届かないと信じきっていた──思い描いた理想のあたしを。

あたしは見つけ出せるかもしれない。


女(…なんてね)

男「おーい?」

女「ううん。別に、ちょっと考えこんでただけ。何もない、けどただ一つハッキリと伝えられることはあるわ」

男「…ああ、うん。頼んだ、そろそろ聞いておきたいと思うから」

女「……」チラリ

男「………?」

女「……はぁー」


「これから弁当作ってあげよっか?」

204: 2014/05/12(月) 18:53:07 ID:ZrS1KLmg
男「……え…」

女「その、あんまり上手じゃないけど、どうかなって思う───」


男「めっちゃ気持ちわるッ!!」


女「───…………ん?」

男「なにそれっ…えっ? 言いたかったことって、それ!? 人に頼んでまでやることかよ…っ!!」ガクブル

男「何考えてんだアイツ…いやマジでごめんなさい…そんなこと言わせるぐらいなら…ちゃんと俺が聞きに行くべきだった…ッ」

男「──本当にごめんっ! 気持ち悪いから、そのこと忘れてくれ! 俺も後でちゃんと怒って───おく……から………」


女「……」ポロポロ


男「……なん、で泣いてるの……?」

女「そっか。ごめん、あたしが急にこんなことしても、ひっく……ぐすっ…よねっ? だから、忘れて、今のも、ぐしゅっ」

205: 2014/05/12(月) 18:58:04 ID:ZrS1KLmg
男「ま、待って。ちょっと待って…なに、何が起こってるんだ…?」

女「違う…あたしが悪いんじゃない、やっぱり言うんじゃなかった───」くるっ

男「あ…」

女「──もう金輪際付きまとわないから、安心して」

ダダッ

男「…………何が起こったんですか……?」



きぃ …パタン


女「ひっぐっ…ひっぐっ…ばか、ばか、ばかっ……気持ち悪いなん、て…そこまで言わなくてもいいじゃない…っ」ポタポタ

女「あたしなりに頑張って考えてっ……けど、違う、文句言うのは違うわよねっ…あたしが悪いんだもん…」カサッ

女「あ……ポケットの中に…らぶれたー……ッ…! こんなの、」

女「……………あれ? 放課後に待ってます?」

206: 2014/05/12(月) 19:04:43 ID:ZrS1KLmg
女「……」

『放課後、五時に屋上にて待ってます』カサリ

女「……………うぅんと、えぇと」


ポクポクポク チーン


女「あ~あ! 時間、間違えたんだっ!」ポン

女「って、何やってんのよあたし─────ぃぃぃぃ!!!」

女「あわわっ! あわあわあわわっ!! ちょー!? こりゃ勘違いってことで済まされる問題じゃ──ううぅー!?」

女(じゃ、なに、さっきまでのアイツとの会話、勘違い!? なによどうやってそう器用に勘違い起こる!?)

女「泣いて、出てきちゃったじゃないの……あたし……っ」

女(やばいやばいやばい)カァァァ

女「絶対に変な女子だと思われたっ! あーうー! どうしようどうしようどうしよう!」ぐしぐし

女「ッ……」グググ

女「───に、逃げないっ! あ、あああああやまりいくわよっ! 当っ然じゃない!!」

207: 2014/05/12(月) 19:10:03 ID:ZrS1KLmg
女「っ……!」くるっ

ガシッ

女「はぁーふぅー、回して開ける。回して開ける。そして謝る、謝る、謝る。……お、おっけ」グググ

女「──ご、、ごめんさっきのことなんだけど、」


ガチャッ! 


男「待ってくれ! やっぱさっきのは何処か勘違い──ごはぁっっっ!!」ズドゴン!

女「……」

男「」ピクピク…ピク…

女「……あっやぱっ凄い鼻血の量──って!? ちょっとー!?」゙ダダッ

女「ごめっごめんなさい! こんなことになるなんて、うそっ! 本気で大丈夫っ!?」ユサユサ

男「…ひと、ごろし…」

女「ちょ、しっ失礼なこというなっ! あーもう、ごめんなさいってば!」

男「」ガクリ

208: 2014/05/12(月) 19:16:44 ID:ZrS1KLmg
女「まっ…待って気を失うのはほんっとやばいと思うわあたし! 保健室に行かなくちゃ──」


イケ友「よーっす! 先生に聞いてここに居るって聞いたんだけど、男ちゃーん」


女「…」

男「」ダクダク

イケ友「イケメンが放課後はゲーセンに……行こうぜって頼まれて………」

女「…」ダラダラ

イケ友「……WINNER、女っち」びしっ

女「違うわよアホ!!!!」


【この日を境に少しだけ彼女は優しくなりました】


第七話『俺の洒落にならないところだった突っ込み』

214: 2014/05/12(月) 20:59:29 ID:ZrS1KLmg
放課後

イケメン「ラブレター?」

男「そう。貰ったらしいんだよ、どうも」

イケメン「そうか。さて何処のどいつかな、オレの男君を奪う輩は」

男「……」しらっ

イケメン(スルーなんて高等技術を使うようになったんだね君は…っ!)ゾクゾク

男「…それじゃ本題に入ろうと、思う」

女「……」

男「…本当に俺らを頼るの? なんか、間違ってないそれ?」

女「だ、だって他にお願いできる人居ないじゃない…」

男(仲の良い友達とかに頼んでもらえばいいじゃん…)

女「……」シュン

男「…えっと…」

イケメン「ふむ。とりあえず要点をまとめてから話を進めよう──女はこのラブレターの相手に、お断りを告げたい」

215: 2014/05/12(月) 21:06:10 ID:ZrS1KLmg
女「……」

イケメン「もともと断るつもりだったが、放課後になって今更怖気づいてオレらに助けを求めてきたと」

男「お、おい。もっと言葉を選べよ」

イケメン「もちろん選んでるさ。ただ、相手の想いを切る勇気を忘れかけている女には、ちょうどいいと思うけどな」

女「…うっさいわね、余計なお世話よ」

イケメン「そうか」

女「………」

イケメン「………」

男「…喧嘩するなって」

イケメン「ははっ。してないさ」

女「…はぁ。確かにあたしはお願いしたけどさ、今からでも断ってもいいのよ。明らかに面倒臭がってる奴もいるし」

イケメン「誰のことだろう?」

男(お前だお前)

「──うぇっ!? おれはめちゃくちゃ乗り気よっ!? みんなも同じっしょ!?」

イケ友「なぁなぁ告白だぜ愛のコクハク! しっかも今どきレターときたもんだ、すっげー!」

216: 2014/05/12(月) 21:14:00 ID:ZrS1KLmg
イケ友「なぁっ! 男ちゃんと女っち?」

男&女「う、うん…」

イケメン「? どうした二人共?」

男「…べ、別になんでもない」

女「……」プイッ

イケ友「おや~? おれ嫌われちゃったべか~ぁ…?」

イケメン「ともかく。幼馴染として言えることだけれども、女なら普通に断るぐらい出来るだろう?」

女「……」

イケメン「なんだその顔。初めて見るな」

女「うっうっさい!」

イケメン「そうか。うるさいなら帰るとしよう、男君ゲーセンでプリクラ撮りに行こう」

男「ま、待て待て。ちゃんと話聞いてやれって…幼馴染なら分かってやれるだろ…?」

イケメン「……。思ったんだがやけに彼女のかたを持つね、君。なにかあったのかい?」

217: 2014/05/12(月) 21:19:19 ID:ZrS1KLmg
男「なっなんでもないって……俺のことより彼女のこと、心配してやれよ。そんなつっけんどんしないでさ」

イケメン「…………………」じっ

男(めっちゃ見てる…なんだよ…!)ドキドキ

イケメン「…わかった。君がそうまで言うのなら協力しよう」コクリ

イケ友「おれも全力ですけっとするぜー?」

女「あ……ありがと」モジモジ

男「…良かったな」

女「っ……う、うん」

男「お、おう」

イケメン「………」じっ

男(だからそんな見るなってばっ…!)ドッドッドッドッ


~~~


イケ友「てぇーことでっ? 調べてきましたぜ、相手の情報!」

男「え…?」

218: 2014/05/12(月) 21:26:13 ID:ZrS1KLmg
イケメン「ありがとな。いつも助かるよ」

男(何時もってなんですか…?)

女「あ。コイツ同じクラスのやつじゃない」

イケ友「だべ。ちなおれのダチでもあるぜい」

男「…というか、そもそもなぜ手紙に名前を書いてなんだろう…」

イケメン「緊張して忘れてしまったんだろう。あるある、オレだってたまに君への思いが空回りして──」

男「面識はある感じ? いや、同じクラスならあって当然か…」

イケメン(ふぉぉぉぉっ)ゾクリ

女「…えっと」

イケ友「ちっちっちっ。男ちゃーん、その質問はなっちゃいないぜっ?」

男「えっ…なんで?」

イケ友「コイツは学校でもゆーめーな、ガチでやばめの極道モンって言われてるわけよ~」

男「えっ!?」

イケ友「…と、噂されるほどに顔が怖いやつなのだ」

男(なんだそれ…全然他人事に感じない…)

219: 2014/05/12(月) 21:34:00 ID:ZrS1KLmg
女「何度か会話したことは、ある、と思う。けどラブレターなんて貰うほど仲の良いワケじゃないけど」

男「…ラブレターなんてその程度の関係で十分じゃないか…?」

女「そ、そうなの?」

イケメン「本当に?」

イケ友「マジかーさっすが男ちゃん! ものっしりーぃ!」

男「えっ待ってなにその反応! 皆違うの…?」

女「あ、あたし全然経験ないし…告白されるなんて、今までほぼ無かったからなんとも…」

イケメン「誰からでも普通に貰ってたな」

イケ友「左に同じく!」

男(この相談解決無理な気がしてきた)

イケメン「さっきイケ友が言った通り。男君には敵わないが、彼もまた中々の凄みを持っている。それ故にか、堅物として噂は聞いてるよ」

男「おい何て言ったお前。でも、そんな人が…告白するってなると、わっ、やばいっ、すっげー想いが強そうに思えてきた…っ」

女「ちょ、ちょっと!? 不安を煽るようなこと言わないでよ…!! 今でもいっぱいいっぱいなんだから…!」

220: 2014/05/12(月) 21:40:11 ID:ZrS1KLmg
男「ご、ごめん」

女「えっ? あ、うん…」

イケメン「……。まぁ結果は決まってるんだ、ここは一つ作戦を決めよう」

イケ友「なになになにっ?」

イケメン「女は元より断るつもりだ。なら、断ることを援助する形で手伝えばいい」

男「どうやって?」

イケメン「──偽物彼氏だ!」

女「…え」

イケ友「はいはいはいっ! おれやりまーす!」

イケメン「却下。友人なら交友関係バレてる可能性がある」

イケ友「なっなるほど…っ! す、すっげーな思いつきもしなかったぜ…ッ」ゴクリ

男(今の当たり前じゃん!)

イケメン「消去法としてオレか男君。どちらかが嘘の彼氏を名乗り、堅物君をどうにか諦めさせるしか無い」

男「…待って、ちょっと待って。そういのって後腐れなく終われるものなのか…?」

221: 2014/05/12(月) 21:47:28 ID:ZrS1KLmg
イケメン「まぁ禍根は残るだろうね。偽彼氏を名乗った奴も、そして女の方にも」

男「…もっと他の方法を考えようって。なんか、そういうの嫌だ」

女「……」

イケメン「いやこれしかない。正直に言えばオレはこれしか譲歩しないつもりだよ」

男「お、おい。だからそういう風に邪険な扱いするなって…っ」

イケメン「ならオレらを頼らず友人を頼るべきだ。そもそも自分で自分のことを出来ない奴に、有無を云わせる必要はない」

男「…お前」

イケメン「違うかい? 男君?」

男「……かもしれない、けど」

女「良いわよ別に。あたしだって他人事みたいな立ち振舞するつもりなんて、これっぽっちもないし」

イケメン「……」

女「文句も言える筋合いがないのもわかってる。けど、これだけは言わせて」

イケメン「…なんだ」

女「ニセ彼氏、変Oがやりなさい。絶対にそれだけは譲れない」

222: 2014/05/12(月) 21:53:34 ID:ZrS1KLmg
男「おい…誰も特をしない作戦なんて…!」

女「あんたは黙ってて。ごめん。お願いだから」

男「…うっ」

イケメン「偽彼氏はオレをご所望か」

女「けどあんたはそれでいいの? 明らかに面倒臭いことが待ってそうだけど」

イケメン「慣れてるさ。構いやしない」

女「…そう。ありがとう、感謝するわ」ペコリ

イケメン「後でジュース奢れよ。缶じゃなく、ペットボトルだ」

女「箱買してあげる。なら、とっとと台本みたいなの決めちゃおうかしら」

男「……」

チョンチョン

男「…な、なに?」

イケ友「こっちこっち」くいくいっっ

~~~

223: 2014/05/12(月) 22:00:27 ID:ZrS1KLmg
自動販売機

ガチャコン ガタガタ

イケ友「ほい男ちゃん。珈琲好きっしょ?」ヒョイ

男「うっわっとと」

イケ友「いっひひ~おれは普通にファンタグレープだぞ~」ピッ

男「あ、ありがと」テレテレ

イケ友「いーのいーの。こーいうのって、持ちつ持ちつじゃん?」

男「…持たれず、かな」

イケ友「そうそれそれ! だぁーやっぱ頭いいよなぁ男ちゃんはっ」カシュッ

男「……」

イケ友「ぷっは~ぁっ」

男「…あの二人ってさ」

イケ友「うん?」

男「…なんであんな仲が悪いんだ?」

224: 2014/05/13(火) 02:59:11 ID:fEBk5fA2
イケ友「えっ!? 仲悪いのかアイツ等!? うっそーん!?」

男「…ごめん忘れて今の」

イケ友「そりゃないでしょ男ちゃん。仲が悪い、そりゃ駄目っしょ男ちゃん。だから聞けなかっとことにはしなーいの、わかる?」

男「うぇっ? い、いや…単純に俺の気のせいかも知れない。仲悪いならニセでも彼氏彼女なんてやらないだろうし…」

イケ友「ビンゴ。だよなー仲悪いなら、あんな風に語り合ったりしないわけなのだってばよ」

男「……」

イケ友「べつに男ちゃんが気にすることなーいんじゃない? 二人の問題、アイツ等の問題、おれら無関係だべよ」

男「…うん」コクリ

イケ友「それよりも今だぜ今! この作戦無事に終わらせてやろうぜー?」

男「…そうだよな」

男(けれど──それでいいんだろうか? なにか、上手くいかない気がする──なんて……)

225: 2014/05/13(火) 03:15:55 ID:fEBk5fA2
吹けば吹き飛ぶようなチリにも満たない、小さな予感。
たかが出会って一年にもならない俺が二人を心配しても、何ら無意味だということは理解している。

暖簾に腕押し。本当にただ空回りしてるんだと。だけど、

彼女が抱える問題。
アイツが抱える問題。

それはきっと、見て見ぬふりをして、なかったことにしてはいけない。
長年取り除かれることもなくただ溜まり続けていたモノは決して──

単純ではなくて。現実を見定めることが難解なものへと変貌する。
ただえさえ、俺が認識する世界も重くて大変なのに。辛くてキツイのに。

─このままでは簡単に失敗するんじゃないかと、そう思えてきてしょうがなかった。

男(…その時は)

俺に何が出来るだろう。
彼ら二人に、いや、彼にとって──友人の俺は。

友達として何をしてあげられるだろうか。いや、しなくちゃいけないだろうなって。

柄にもなく頑張ろうと思っている事自体、既に失敗へと近づいているんだと──今の俺は気づいては居なかった。

226: 2014/05/13(火) 03:28:44 ID:fEBk5fA2
屋上

女「居ないわね」

イケ友「相手は堅物くんだぜ。どうせ時間ピッタリに来るはずだと思う、一秒たりとも遅れたりしないなー」

女「…そう」コクリ

イケ友「つぅーこって。お二人さん頑張ってちょ、おれと男ちゃんは陰ながら見守っとくから」チェキン

イケメン「わかった。男くん、さっさと終わらせてゲーセンでも行こうな」

男「…頑張ってくれ、もし何かあったらその…早く合図を送ってくれたら、すぐに駆けつける」

イケメン「ははっ心遣い感謝するよ、きっとそうならないようオレは頑張ってみせるから」

男「……」コクリ

女「……」じっ

男「…その、頑張ってなんていうのもあれだけど…そのっ…が、頑張れ!」

女「…あ、ありがと」モジ

イケメン「…」

227: 2014/05/13(火) 03:35:54 ID:fEBk5fA2
イケ友「おっ。そろそろ時間だぜ、男ちゃんおれらは隠れて、んじゃいっちょ作戦開始だ!」ババッ

女「…? 何その手?」

イケ友「えいえいおーだっべ!? 皆で手を合わせて、空に向かってドーンする奴!」

男「ど、どーん…?」

イケメン「時間がないぞ皆。どうせなら始まる前に、もう一度気合を入れなおそう」すっ

女「はぁ!? 意味わっかんないけど…まぁそう言うなら…」すっ

イケ友「ばっちこい! 男ちゃんもほらはやくっ!」

男「…う、うん」すっ

ぴと!

女「っ~~~!?」ババッ

男「ぇっ?」ビクゥ

女「なっなによっ!? どうしてっ…い、いきなり手に触れるわけ!?」

男「いやいやしかたないじゃん…! 今のどう考えても不可抗力…!?」

228: 2014/05/13(火) 03:41:41 ID:fEBk5fA2
女「そ、そうよね……ごめん、何言ってるんだろうあたし。だーもう、さっさとやるわよ」ぐっ

男「…お、おう」すっ

イケ友「むっふふーじゃあじゃあじゃあ作戦の成功を願ってぇ~?」


えいえいおー!


男「…これでいいの?」

イケメン「案外なんとも、うん」

女「……」

イケ友「なにその微妙な空気! ったぁー乗り悪いってみなさんよー!」

男「今は隠れよう。何時来るかわかったもんじゃないし、出入口辺りの壁の裏にしとこう」

イケメン「オレ等は奥のフェンスで待ってよう」

女「わかったわ」

イケ友「なんだろなー…時代の流れつーの? 寂しいよなー悲しいよなー」トボトボ

229: 2014/05/13(火) 03:47:40 ID:fEBk5fA2
~~~~

イケメン「…惚れたのか」

女「は?」

イケメン「分からないでもない。ただあまりにも予期してたものより──早くて正直驚いてる」

女「待って。何を言ってんのよあんたは」

イケメン「男くんだよ。お前惚れてるだろう」

女「な…っ!? ば、ばっかじゃないの!? 例えそれが冗談だったとしても…あたしは絶対にゆるさないわよ!?」

イケメン「違うのか?」

女「…ち、違うわよ」

イケメン「その表情はなんだ。それにさっきから煮え返らない態度も気になるし」

女「…そんな表情に出てる? あたし?」

イケメン「不自然さは、当然のように男くんも気づいているよ。二人に何があったかは知らないけれども」

女「………」

イケメン「仲良くなることは構わない。けれど、不仲になるのは些かどうかと思う。まぁオレが言えたことじゃあないけど」

230: 2014/05/13(火) 03:53:03 ID:fEBk5fA2
女「べっ別に仲が悪くなるわけじゃないけど…っ」

イケメン「気まずくなってぎくしゃくとした関係になる可能性はあるだろう。そういうのって、彼は人より気にするはずだ」

女「あんたに言われなくたってわかってるわよ…!」

イケメン「ほう…よく男君のこと知ってるんだな女」

女「ばっ!! 違うってば!」

イケメン「くくっ」

女「チッ…馬鹿にしてるんでしょ、またあたしのこと」

イケメン「してないさ。さっきも言ったけど、初めて見るその表情は──悪いとも思ってない。むしろ面白いと思ってる」

女「馬鹿にしてるじゃない! こんの変O! 氏ねあほたりん!」

イケメン「…なぁどうした。何かあったのか?」

女「っ………べ、別に。ただちょっとした勘違いというか…その…」モジッ

イケメン「へぇーまた?」

女「またって、い・う・な。そうかもしれないけど、言うんじゃないわよ!」

231: 2014/05/13(火) 03:59:11 ID:fEBk5fA2
イケメン「……」

女「はぁ~…そうねここまで手伝って貰うんだし、言っておいても別にいっか」

イケメン「ああ。どうした」

女「…か、勘違いしちゃったのよ。昼休みに、時間間違えて屋上に来ちゃって」

女「こっこのラブレター? の相手っていうの? それを……あの目つき悪いやつが送ったんだと、思っちゃって」

イケメン「……」ぽかーん

女「色々と会話して、なんかすれ違いが起こって、そこでっ……あたしっ……ああっ…思い出しちゃった…っ」カァァァ

イケメン「…お、おお」

女「引いてんじゃないわよ! 引いちゃうのもわかるけど…っ!」

イケメン「いや。まぁ今はオレのことはどうだっていいけど、それで? 今はその誤解は解けたけれど、いまいち気まずいまんまだと?」

女「っ……怪我もさせちゃったし、ろくに顔も見れないっていうか…っ」

イケメン「実に面白いな。どうしてオレが側に居ない時に限ってそんなこと…」ボソリ

女「ちょっとー!?」

232: 2014/05/13(火) 04:08:09 ID:fEBk5fA2
イケメン「冗談じゃない。もっとオレが側位に居るときにやってくれそういうのは」

女「ここは冗談だって言っときなさいよ! サイテーよそれって!」

イケメン「ただえさえ見過ごせない人物が何人か居るっていうのに…」

女「えっ?」

イケメン「いや、なんでもない。そうか、そんなことがあったのか。それじゃあ仕方ないな」

女「…この際だから聞いておくんだけど。アイツってホ〇じゃなかったの?」

イケメン「ははっ。違う違う、彼は普通に一般的な男だよ。ただまぁ些か恥ずかしがり屋過ぎるところもあるけれど」

イケメン「勘違いしないでやって欲しい。彼は普通に優しいやつで、普通に可愛いやつだ」ニヨニヨ

女(ああ、コイツが怪しいのか。やっとわかった気がするわ)

イケメン「その気まずさ直ぐに解けるといいな」

女「…無理でしょ。互いにそんな雰囲気感じないし、このまま微妙になっていくわきっと」

イケメン「なわけない。それは流石に男くんを見くびりすぎだ」

女「…なによそれ」

イケメン「彼は意外に粘り強いってことだよ。すぐに怯えて一歩引いたところに逃げ込んでるように思えるけれど──そうじゃない」

233: 2014/05/13(火) 04:12:37 ID:fEBk5fA2
イケメン「彼はなんたって──アレがあるから」

女「あれ?」

イケメン「そう。オレが待ち望んで、それはもう長年ずっと恋い焦がれてきた──あの言葉を、彼は言える人間なんだ」

女「…それって」

イケメン「……」

女「…アンタが救われた理由?」

イケメン「ああ。そうとも、オレが彼に求めたものはそれだけだ。それだけで、たったそれだけで──」

イケメン「──世界は変わったんだよ、女」

女「……一体なによ、それって」


きぃ ガチャ


女「!」

イケメン「来たか。さて、さっさと終わらせようか」

女「…う、うん」

234: 2014/05/13(火) 04:18:11 ID:fEBk5fA2
「…時間通りに来たのだが。なにゆえ此奴が居るのだろうか」

イケメン(此奴!?)

女「……ゴクリ」

「私の恋文は読んでいただけたのだろうか。委員長」

女「読んだわ。だからこそここに居るわけじゃない」

「…なるほど、な。では一体この輩はなぜここに居る。理由を問う」

女「それは…」

イケメン「ん、話が早く済みそうで助かるよ。実はね堅物くん」

「……………なんだ」

女(えっ? コイツの名前堅物じゃないでしょ…!)

イケメン「コイツとはオレが付き合ってるんだ。すまないけれど、ラブレターの件は無かったことにして欲しい」

女「っ……」

「…。事実か委員長」

女「…そ、そうよ。今、あたしはコイツと付き合ってんのよ

235: 2014/05/13(火) 04:25:06 ID:fEBk5fA2
壁の裏

男「…」ズーン

イケ友「どったの男ちゃん?」

男「…いや、上手く聞き取れないけど。あんな風に告白された時、付き合ってる人物紹介されたら…滅茶苦茶凹むなって…」

イケ友「お~?」

男「勇気を出して手紙を出したのにさ、いざ出向いてみたら、約束の場所には──彼氏と一緒にいる。トラウマもんだなって…」

イケ友「そお? おれ別に平気だけど、そういうの?」

男「……」

イケ友「ん~っ……あのさ男ちゃん、好きになるってのは別にただ一生一人の女ってわけじゃないっしょ?」

男「…そうかもしれないけど」

イケ友「んだからよーそもそも傷つくってのを恐れてんのはさ、ハッキリ言って、今の現状を壊したくないやつが思うことのワケよ」

男「…おお?」

イケ友「それに関しては堅物君は平気。あいつは通名のとおり、駄目なものは駄目。はっきりとした答えを望んでんの」

イケ友「壊れてもいい覚悟をしてるんしょ。好きよそういった覚悟、だからダチになったわけだべっ」ニカッ

236: 2014/05/13(火) 04:38:18 ID:fEBk5fA2
男「…まるでふられる覚悟を最初からしてるみたいんだ、それって」

イケ友「イイトコつくね男ちゃん。おれっちも、最初からそう思ってたところ」

男「え? それってどういう…」

イケ友「振られるために告白したんだってば。多分、振られると分かってて女っちを呼び出したんだと思うべ?」

男「…可能性すら考えずに?」

イケ友「そうそう。曖昧で踏ん切りつけれない感情とか言葉とか、そういうの嫌うやつだから」

イケ友「今回の告白で自分に決まりをつける、なんて考えてそうだっちねぇ~……」

イケ友「やっぱ女っちは良いおんなだなぁ。良い奴に好かれるよ、ほんっと」

男「……」


なにか嫌な予感がした。
根本的に何かが異なってるような、遮蔽物を感じる決定的な壁が見えた気がした。

自分の想いに踏ん切りをつける。
告白を利用して、イベントを起こすことによって曖昧な感情に終止符を打つ。

何故だろう。なぜだかそれは─自分はとても傲慢な気がしてならない

237: 2014/05/13(火) 04:46:55 ID:fEBk5fA2
何もしないよりはマシなのだろう。
うじうじと悩み続けて終わりの見えない終わりに身をおくことが絶対的に正しいとは思えない。

やらない後悔よりやって後悔。
彼女に告白した彼は信念にも近い感情でここに出向いてるのかもしれない。

そして友人もまた美徳としてそれを捉えているのだろう。


男(…けどたまったもんじゃ無い。それじゃあやる方だけが満足だ)


じゃあふる方には何も考慮は向けないのだろうか。
告白して満足感を得られるだけに頭がいっぱいで、ただえさえラブレターを貰っただけで戸惑い、勘違いすら起こしてしまう彼女のことを。


一体誰が助けてくれるのだろう?


告白がそれだけ正義となるのだろうか。
思いを伝えることだけが、全てにおいて優先された特別なことなのだろうか。
チャンスは一度きりなんて告白する方だけが持つ特権なんかじゃない。ふる方もまた、一回限りの特別な特権なんだ。

そしてそれはきっと、告白する人間よりも重たくて辛いことなんだ。
相手の感情を無碍に断る。とても、とても、大変なことなのに。

238: 2014/05/13(火) 04:54:26 ID:fEBk5fA2
もしかしたらモテる自分に得意げになる人間だって居るだろう。
他人から察する己の価値に酔いしれることも出来るに違いない。

けど、きっと彼女は違う。
心から申し訳ないと思うはずだ。ごめんなさいって、許してくださいと。

貴方の思いを断ってしまって、なんて。

男(じゃなかったら、あそこまで俺に対して申し訳ないと思うはずがない)

他人の思いに敏感なのは、凄く共感できる。
そしてまた──俺だけじゃなく、アイツもきっと──



「…あヤバイ」

男「え? ど、どうしたの?」

イケ友「雰囲気悪くなった…なんでだ…イケメン怒ってる…?」

男「っ…!」


嫌な予感は的中した。


~~~~

239: 2014/05/13(火) 05:03:29 ID:fEBk5fA2
イケメン「…どういう意味だ?」

「最初から良い答えがもらえると思ってなかった、と言っているんだ。やはり恋文を送って正解だった」

イケメン「最初から断られるとわかった上で、告白したのか?」

「無論だ。じゃなければ、そもそも告白すらしなかった。断られると理解していたからこそ、私はここに居る」

「何も付き合えるとは思ってない。元より恋人関係になれるとも思っていない」

「ただそんなことを思い描く己に──ただいっぺん足りとも肯定する要素がなくなれば、私は決着をつけられる」

イケメン「なるほどな。自分が救われたいがために、女に告白をしたのだと」

「ああ。そして願いは達せられた、実にいい気分だ。ありがとう委員長」

女「えっ……あ、うん…」

イケメン「何かいうこと無いのか、お前には」

女「べ、別に……あたしは無事に終わればそれだけで…」

イケメン「何が良いんだ。お前はどうする、ここまで悩んで考えた全ては全部ドブに捨てるつもりなのか」

女「ちょ、ちょっと…! いいんだってば、これですませられるなら──あたしは普通に大丈夫だから…」

240: 2014/05/13(火) 05:14:41 ID:fEBk5fA2
イケメン「同じクラスなんだ。まだ数ヶ月と顔を向き合わせることになる。体育祭だって文化祭だって、イベントもまだ残ってるんだ」

女「…っ」

イケメン「振った奴とそれら全て満足に過ごせられると思ってるのか。ましてや、こんな一方的で、なんら──」

女「…違うわよ、それは違う。そういって貰ったほうがあたしだって、早く立ち直れる」

女「これで満足できた…なんて言われたら、それでいいじゃない。もうこれっきりだって思えるじゃない」

イケメン「…………」

女「ありがたいけど、そろそろやめてよ。良いから、大丈夫だから」ぎゅっ

「どうした? 何か問題でも?」

イケメン「………いや、何もない」

「そうか。最後にひとつだけ君に言いたいことがあるんだが」

イケメン「オレに?」

「噂はほんとうだったのだな。君と委員長が付き合っていることが。一つ違う噂も耳にしていたが…まぁいい」

「お幸せに願う。私はそう願っているぞ」

イケメン「………」

イケメン「……勝手に決め付けるな…」ボソリ

241: 2014/05/13(火) 05:27:58 ID:fEBk5fA2
「ん?」

イケメン「そうやってオレをお前が定めた形に収めようとするんじゃない」

「なにを…」

イケメン「他人の意見に流されていれば心底楽だろう。けど、現実はそうじゃない」

イケメン「──オレは違う。お前が考えてるような、オレじゃない」

「っ……」ぞくっ

イケメン「自分の想いすら他人の意見で踏ん切りをつける人間に──」

イケメン「──わかったような事を口にされたくはないんだよ」

女「っ……」

イケメン「君は本当に信じてないのか? ありえない未来なのだと、何一つ考慮にいれることもなかったのか?」

イケメン「女と付き合える答えを。君は少しでも信じられなかったのかい?」

イケメン「──だとしたら正真正銘の馬鹿だ。オレは心から君を軽蔑しよう。そんな奴に告白された女が可哀想で仕方ない」

イケメン「身勝手に他人の価値観に付き合わらせたんだからな。一人よがりにも程がある、そんな他人を思いやれない人間が二度と女に近づくな」

242: 2014/05/13(火) 05:34:52 ID:fEBk5fA2
~~~

イケ友「……」ぐっぐっ

男「な、なにやってるの…?」

イケ友「ん。喧嘩する準備、どっちも収まりつかないだろうし。イケメンも堅物くんも」

男「喧嘩っ? だ、だめだってそんなの!」

イケ友「んなこと言ったって…」

男「っ……」

イケ友「このままじゃ酷いことなるぜ? あそこまで言われちゃ、納得しても売られた喧嘩は買っちゃう奴だし」

男「…それでも、駄目だってば。喧嘩はよくない」

イケ友「じゃあイケメンに言ってやってくれよん。アイツ多分、やる気だぞー?」

男「そん、なこと! ない、だろ…?」

イケ友「わからん。けどありえなくは無いとおもうべ?」

男「ぼ、暴力で解決したら…それこそ、なにも上手くいかないだろ! それに彼女はこんなこと望んじゃいないっ!」

イケ友「──じゃあ答えろ男ちゃん」

男「っ…」ビクッ

243: 2014/05/13(火) 05:42:28 ID:fEBk5fA2
イケ友「男ちゃんに何が出来る? この状況であの雰囲気を割って入る程の、何かを持ってるワケか?」

男「…俺は…」

イケ友「うーん…おれっち馬鹿だからさ、殴り合いなんて慣れてるし、口争いも結構するけども」

イケ友「あはは。何が違う答えがあるっていうのなら、うん、おれっち信じてみてもイイケド?」

男「…イケ友…」

イケ友「おっ? 今はっじめて名前呼んだっしょ? やっりーイケメンより最初~!」

男「え?」

イケ友「むっふふぅ。男ちゃんに内緒にしてたんだけど、イケメンと名前呼ばれるのどっちが最初か勝負してたワケよぉ」バシバシバシ

男「あいたっいていてっ」

イケ友「なぁ男ちゃん。できるか? あの状況を変えること、できちゃったり出来る系?」ガシッ

男「……っ…」

イケ友「おれで準備運動は出来たっしょ? なら、あとはアイツの事も頼んだぜぃ。くははっ、本当にいい友達できたなぁアイツ…」

男「なっ何を言ってるんだ?」

イケ友「わかるわかる。顔にかいてんよ、んじゃ、いっちょ行って来い!」ドン!

244: 2014/05/13(火) 05:54:09 ID:fEBk5fA2
男「どぅあっは!?」だだっ たっ…たたっ

男「………うっ」


イケメン「……」

「何が言いたい。それは私にたいして喧嘩をふっかけているのか」

女「…!」


男(まだ気づいてない──今なら戻れる、けど…)

男「……っ…」ドッドッドッドッ

男(俺に何が出来る──何も出来無い、怖くて足が震えてる。喧嘩なんて嫌だ、言い争いなんて嫌だ)

男(傷つけたくない。よく知らない人相手に、何かできることなんて無い…自分は何も出来無い───)


『──だからオレを満足させてくれ!』


男「…俺に出来ること…」

男「ッ……!」ダダッ


「──おい、イケメン!!」

245: 2014/05/13(火) 06:18:34 ID:fEBk5fA2
イケメン「っ……男くん…」

男「……」

イケメン「どうして──」

男「…どうしてって、わかるだろそれぐらいっ」

イケメン「っ…オレはただ、」

男「良いから黙ってろ、ここは……その、俺に任せとけ」ぐっ

イケメン「任せとけって…」

男「っ~~…!」


やばい。何も考えてない、けれど言うしか無い。口を開くしか無い。
俺が出来ることは、これしかない、はずだから。


男「…」


信じて言ってみるんだ。大丈夫、ほら今だってアイツは──物欲しそうに、笑ってる。


男「…調子に乗ってんじゃねーよバーカ」

246: 2014/05/13(火) 06:22:40 ID:fEBk5fA2
「ッ…なにを貴様!?」

男「お前じゃない。黙っとけヘタレ野郎」

「なっ──」

男「そこの二人に言ってるんだよ。なに勝手に話し進めてるんだ? 違うだろ、そうじゃないだろ」

男「イケメンは俺のモノなのに、勝手に彼氏にするんじゃない」

女「…は?」

イケメン「…………」

男「つまりはそう…うん、そういうことだ。わかってるだろイケメン?」

イケメン「………は、はいっ」

男「違う」

イケメン「えっ?」

男「──わん、だ」

イケメン「わんわんっ!!」

女「ちょっと───!!!?」

247: 2014/05/13(火) 06:27:20 ID:fEBk5fA2
男「三回回って…」

イケメン「わん!」

女「なっ何やってんのよあんたらは!? いきなり現れて、いきなりド変Oなことっ!」

男「…変O? はっ、何言ってんだよ俺は別にふつうのコトをやってるだけだ」

女「どこをどーみて普通だと言い切れんのよばっかじゃない!?」

男「誤解がないように言っておくけれど。まぁ誤解されても仕方ないけれど」

男「…俺はしっかり事実を言ってるだけ。しっかりと、本当のことを」

女「っ……あ、あんたそれって…!」

男「だから気にしない」

女「…!」

男「こんなのは嫌だ。喧嘩だって、不仲だって、周りくどい誤解もされたくない」

男「…俺は素直に仲良くなりたい」

女「………」

男「あの時のこと。俺は嘘はいってないよ、誤解や勘違いはあったかもしれないけど……その」

男「た、互いに素直な言葉だったら……嬉しいと思ってる」

248: 2014/05/13(火) 06:33:21 ID:fEBk5fA2
女「…ばっかじゃないの…っ」プイッ

「こ、これはどういうことだ!? なにがどうなって…!?」

男「…アンタはお呼びじゃないってこと」

「なにを!?」

男「あんたの都合すら意味が無い。必要ない。着けはいる隙すら無い」

男「思いも感情も全て──解決すらならない」

男「勝手に告白して、勝手に思い破れてるだけ。彼女は振ってもなく、むしろ興味すらあんたには無い」

男「彼女はずっと今まで、俺ら変Oに興味津々だから」

「っ……」

男「あんたは一人ぼっちなんだよ。誰にも関心を持たれてない。だから自分の感情の踏ん切りは、一人でつけろ」

男「まだ説明は──必要か?」

「なっ…にを、言って…」

イケメン「へっへっへっ」

男「…よしよし」ナデナデ

女「ど変Oども! ホ〇ホ〇!! ふざけるんじゃないわよ!!」

249: 2014/05/13(火) 07:11:37 ID:H5Iv6spI
「ま、待て! 本当に意味がわからない! 私は一体何を見ているんだ…!?」

男「それは…」

イケメン「現実だ。これが本当のオレたちなんだよ」

「これが、だと…っ?」

女(しゃがみ込みながら、そんな表情されても説得力が…)

イケメン「振られていいと覚悟をしていたお前には見えなかっただろう、本当の現実だよ」

イケメン「…そんな現実を見たくないと、だからあえて告白して、振られて、見えなくさせようとしていた」

イケメン「──女の本当の姿だ」

女「ちょ、違う違う違う!」

男「…女」

女「うぇっ? あ、あああっうんうんうんっ! マジでこいつらド変Oだから! あたしが着いてないと駄目なよ!」

「……それが本当の…?」

女「…うん」

「…………そうか、そうだったのか」

250: 2014/05/13(火) 07:17:27 ID:H5Iv6spI
女「だから…ごめんなさい。正直こういうの慣れてなくて、上手く言えないけれど」

女「…そんな告白のしかた、嫌だなっておもう、から」

「……」

女「…だから、その」

「私は君をもっと知るべきだったのだろうか」

女「ふぇっ!? そ、そんなたいそれたこと求めてるわけじゃなくって、あのっ、ううっ上手く言えないっ! けど!」

女「しっつれいじゃない!? 振って当然みたいな風に思われてるのって!? なんかこー…釈然としないっていうか!」

イケメン「そうだそうだー」

男「…黙ってて」ぱしっ

イケメン「フヒヒw」

女「気持ち悪いわよそこッ!」

「………よくわからないが、多分、こういうことなんだろう」

「半端なことが嫌いで、曖昧な感情を断ち切るつもりが、どうやら最高に半端な気持ちだったようだ。」

251: 2014/05/13(火) 07:22:35 ID:H5Iv6spI
女「…あ、うん。けど…告白しようと思ってくれたことは、嬉しかったから」

「ありがとう。だけどムリだろう?」

女「…ごめんなさい」ペコリ

「了解した。面倒をかけた」ペコリ

イケメン「…一件落着か」

男「大変になったのはお前が暴走しかけたせいだけどな…」

イケメン「ああ、すまない。けれど…ありがとう男君」

男「…お、俺は別になにも…」

イケメン「わんわん」

男「ちょっ」

女「コラ変Oども! まだやってんの!?」

男「違う俺は違う! コイツが勝手にやってるだけだ!」

「ふむ。なるほどな、確かに──こう見ると」

「──確かに変Oだな、三人共」

252: 2014/05/13(火) 07:26:19 ID:H5Iv6spI
~~~

女「…」ズーン

男「ど、どうした?」

女「…やっぱ一人で頑張るか、友達頼ればよかったなって」

男(だから言ったじゃん…)

イケメン「行くのか」

イケ友「ダチが悲しんでたらカラオケ十時間コースだかんよ! んじゃなっ! あーそれと男ちゃん!」ポン

男「な、なにっ?」

イケ友「良かったぜ。しびれた、惚れちまうところだったぜい!」びっ

男「嬉しいけど、惚れるなよっ」

イケ友「なはは!ばいびー!」

イケメン「くそっ…また突っ込みを取られた…っ」ギリリ

男「もうやめて…今はそっとしておいて俺のこと…」

253: 2014/05/13(火) 07:31:48 ID:H5Iv6spI
女「あーもう、こんな時間なのね。早く帰ってお姉ちゃんに晩御飯作らないと」

男「…俺も帰って晩飯作らないとな」

イケメン「自炊なのか二人共」

女&男「まあね」

女「…なによ」

男「え? なにが…?」

イケメン「くくっ、こんなこと普段なら知り得ない情報だからな。うん、もう帰ろうか」

女「……」くいくいっ

男「…なに?」

女「……」じっ

男「ど、どうした? 今更文句言われても俺は…!」

女「ちっちがう! そうじゃなくって、その……」

女「ちゃんとあんたにはお礼行っとかなきゃなって、思って、それに…」ボソボソ

254: 2014/05/13(火) 07:35:55 ID:H5Iv6spI
男「それに?」

イケメン「ふんふーん」スタスタ

女「……、これだけ言っておこうってと思ったのよっ」キッ

男「あっハイ」ビクゥ

女「っ……えっと、その」

男「……」ドキドキ

女「こ、今度っ? お弁当作ってきてあげよっか…っ?」

男「……」

男「…ははっ」


【この日を境にもう少しだけ彼女は優しくなりました】


特別話『俺の洒落にならないところだった突っ込み、その後』

255: 2014/05/13(火) 07:37:30 ID:H5Iv6spI


まったやっちまったぜ!
すみません、猛省して今度は日付を守りたいです。

来週にまたお会いできたら。
質問は答えきれる限り随時返答しますゆえに

ではではノシ

261: 2014/05/19(月) 03:02:19 ID:Hg15RCtI
保健室

男「こんにちわ。今日も食べに来ましたー」ガラリ

イケメン「お邪魔します」

男「あれ先生居ない…珍しいいなこの時間に居ないのって…」キョロキョロ

イケメン「ふむ。今日は止めておくかい?」

男「多分大丈夫だと思う、けど。今日は平気って言ってたし」ガタ

イケメン「へぇーそうのか──おや、この机に置かれた丸い物体は…?」

男「…おにぎり?」

イケメン「みたいだね。それにしても量が多いな…一個二個…七個もある」ヒョイ

男「誰か置いていったのかな…」ヒョイ

ガララ

女「あ。もう来てたのね、あんた達」

イケメン「ん? 珍しいな君が来るなんて、それに何か用事?」

女「用事も何も、お礼よ。あんた達にお礼を改めて言いにきたの」

262: 2014/05/19(月) 03:04:16 ID:Hg15RCtI
男「昨日の件……ああ、告白の」

女「うっ、ほんっとデリカシー無いわよねあんた…! 言わなくていいのよ、口に出さなくていいのっ!」

男「すっすみません」

イケメン「約束のジュースは?」

女「…それはバイトの給料入ったら渡すから安心して。けど期間空いちゃうし、眼つき悪男との約束も兼ねて一応あんたの分も作ってきた感じね」

男「えっ? この、おにぎりってもしかして」

女「そう、あたしが作ってきたの。さっき置きに来てたってわけ」

男「…覚えててくれたんだ」

女「当たり前でしょ! あんたあたしのことバカにしてるのっ!? すぐに忘れるアホだって言いたいわけっ?」

男「違います違いますっ」

イケメン「君との約束ってなんだい?」ニコリ

男「い、色々とあるんだよっ」

263: 2014/05/19(月) 03:05:07 ID:Hg15RCtI
イケメン(またオレが知らぬ所で…)

男「それにしても凄い量…全部一人で?」

女「まぁね。いつもお弁当作ってるし、手慣れたもんよこれぐらい」ニコニコ

男「そっか。ありがとう」

女「ん、まぁ約束したしね」

男「…う、うん」コクリ

女「なーによ。嬉しそうじゃないわね、あたしが作ったのは食べたくないってワケ?」

男「いっいやいや! その、人から作ってもらうなんて経験なくてさ…その、嬉しいって思う、から」

女「そ、そお? …そっか、うん」

イケメン「エッホン」

男&女「っっっ!?」ビクゥ

イケメン「さてさてオレは何から頂こうかなぁ。なぁ女、これの中身は?」

女「えっ? あっそれはえっと~……おかか? しゃけ、だと思う……うん、しゃけよしゃけ!」

264: 2014/05/19(月) 03:05:45 ID:Hg15RCtI
イケメン「本当か~? これでもし梅だったら怒るぞ、梅苦手だから」

女「知ってるわよ! だから梅入れてないし!」

男「あ。そうなんだ……俺、好きなんだけどな梅…」

女「ふぇっ!? あっ、えっと……んなこと知らないわよ馬鹿!! だったらちゃんと言っておきなさいよ予めに!!」

男(流石にそれは理不尽過ぎると思う)

女「その……おかかじゃ、だめ?」チ、チラッ

男「全然いいよ。ありがと」ヒョイ

イケメン「それじゃいただきまーす」

男「あー…」


イケ友「ちょっと待って!! なぁオレのマッスル育成オカズおにぎりしらねっ!?!?」ガララ!




  シィ─────ン………



女「び、びっくりしたー…いきなり現れて大声出さないでよアホ!」

265: 2014/05/19(月) 03:06:44 ID:Hg15RCtI
イケ友「うぇぇ~ん女っちぃ~…怒るなってばぁ、おれ困ってんよ~っ」

女「え、なによ急に…おにぎりがなんだって言うの?」

イケ友「それがなぁー今朝に作った『筋肉育成オカズ』を入れた、おにぎりがどっか行っちゃんだぜっ!?」


男「………」

イケメン「………」


女「はぁ? 何処に置いたか検討もつかないわけ?」

イケ友「う、うーん。多分後で皆で食べようと、保健室に置いてた気がして……こうやって来たわけよ~」


男「……」ソッ…

イケメン「……」ソッ…


女「えっ? じゃあもしかしたら、あたしのと混ざって──なにそっとおにぎり戻してるの…?」

266: 2014/05/19(月) 03:07:49 ID:Hg15RCtI
男「……なんでもない」

イケメン「……なんでもないな、うん」


女「え、えらく顔が氏んでるけど大丈夫…?」

男「…ちょっと静かに」

イケメン「なあイケ友…参考までに聞きたいんだが、何個作ったんだ、そのおにぎりは…?」

イケ友「いっこ…」グスッ

男「今ここには七個──…元のおにぎりの数は?」

女「そういえば一個多いわね。気付かなかったわ、あたしが作ったのは六個よ六個」


男「………」

イケメン「………」


女「だから何なのよその間はっ!」

267: 2014/05/19(月) 03:10:10 ID:Hg15RCtI
男(彼が言うその『筋肉育成オカズ』とは──正しくはイケメンが起こした過ちの一つであろうもので、)

男(彼はイケメンがアドバイスと称して『亀ウOコ食えば筋肉育つ』というボケを心から信じる人だった)

男(つまりはそう──言わずもがな、そのオカズ入りが──可能性ではなく、絶対に)チラ

イケメン「っ……」コクリ

男(ああっわかってる。どうやらいつの間にか、俺は魔境へと足を踏み入れてしまったらしい)

女「どうしたのよ?」

男「…えっと」

女「?」

イケメン「イケ友。お前の見解ではどれが自分のおにぎりだと思う?」

男(ナイス!)グッ

イケ友「けんかい…?」

イケメン「この中で一番、イケ友のおにぎりだと思うのはどれだ」

イケ友「えーと…多分…これだと思う…?」ヒョイ

268: 2014/05/19(月) 03:11:34 ID:Hg15RCtI
男「ほっ…本当に!? 絶対にそれが自分のだと言い切れる!?」

イケ友「おおっ? なんか握り方がおれっぽいと思うわけですよ…うん、やっぱこれだ!」

女「じゃあそれなんでしょ」

イケメン「食べてみてくれ」

イケ友「うっし。んじゃいただきまーす、もぐもぐ」

男「ど、どう?」ドキドキ

イケ友「もぐ……しゃけっすなコレ」

イケメン「ぐッ!」

男「あぁ…」

女「ねぇ。このままアホに食べさせて確認させるつもり?」

男(出来ればそうしてもらいたい…)

イケメン「そうしてもらうとも」

男(言っちゃうんだ…怒るぞ絶対に…)

269: 2014/05/19(月) 03:12:19 ID:Hg15RCtI
女「ちょ、ちょっと! それじゃあ外れっぱなしだと全部食べられちゃうじゃない!」

イケメン「後は六分の一。外れるわけ無いだろ」

女「そうだとしてもよ! 次に当たる確証なんて無いし、そもそも皆で食べて確認すればいいじゃない!」

イケ友「おー? おれは別にいいぜ、こやって女っちのおにぎり食べさせてもらったし。満足満足なり」

イケメン「なんっ…そんなワケないだろう? やっぱり自分の食べたいって──」

男「イケメン。諦めよう、もう無理だ…」ポン

イケメン「諦めるんじゃない男君…! これは、これは…!」

男「…罰だと思う。今までイケ友を騙してきた、罰なんだ」

イケ友「?」

イケメン「くっ……ううっ…すまない、君まで巻き込んでしまって…っ」

男「それは良いんだけど、あのさ、女…さん?」

女「なによ?」

男「これ全部俺達が頂いてもいいかな? その…自分用の弁当とか、用意してるんじゃないの?」

270: 2014/05/19(月) 03:13:37 ID:Hg15RCtI
女「もちろん用意してるけど、出来れば皆で食べようと思って…おかずだけしか」パカ

男(やっぱりか。仕方ない)ガサゴソ

男「…はい、これ。女さんの弁当」ヒョイ

女「えっ? なっなによこれ、あんたが作ってきたの…?」

男「うん。昨日の約束から試しに自分でも作ってみたんだ。出来ればもらってほしいなって…思うんだけど、駄目?」

女「だ、駄目じゃないけど。その……あたしがもらってもいいの?」

男「もちろん」

女「えっと…隣にすっごく貰いたがってる奴が居るんだけど…?」

イケメン「ぐぬぬ」ギリギリ

男「お前は駄目。約束してないし」

イケメン「えー」

男「じゃあ…どうぞ、味付けは普段と違って凝ってみたから、その、口にあわないかもだけど」

女「あ、ありがと…」ヒョイ

271: 2014/05/19(月) 03:14:56 ID:Hg15RCtI
男(これで、よし。女さんを巻き込むことはなくなった。本当は自分の弁当だけど、致し方ない)

イケメン「あ。そういうことか、なるほど頭が良いなぁ男君」ポン

男(…なんだかコイツがイケメンらしい所見てないけど、最近大丈夫かよ…)

イケ友「おっしゃ。次は誰から頂くんだぜ?」ワクワク

男「次は俺から行く」

イケメン「!」

男「…じゃあこれだ」ヒョイ

イケメン「だ、大丈夫なのか? 絶対にそれがセーフだと言い切れるのかい…!?」

女(セーフ?)

男(っ…言い切れるわけがない! 俺だって超不安だよ! けど、いくしかないだろ!)

ぱく!

男「もぐもぐ……もぐ…」

イケメン「っ~~~…!」ドッドッドッドッ

男「、ごくん」

272: 2014/05/19(月) 03:16:16 ID:Hg15RCtI
イケメン「ど、どうなんだい?」

男「………っ」ホロリ

ポタポタ…ポタ…

男「おいひぃっ…美味しいよぉっ…ひっぐ…うぇ…っ」ポロポロ

女「なんで泣くのよっ!?」

男「昆布、なんだ…とても美味しくてっ……今まで、ぐすっ、無いってぐらい…っ」ぐしぐし

女「そ、そおなの?」

男「っ…ありがとう、こんなに美味しいおにぎり食べたの初めてだ…!」

女「ふっ! フッツーのおにぎりじゃない! 感謝しすぎでしょ!!」テレテレ

イケメン(緊張の糸が切れて、耐え切れず感情が爆発して待ったんだろう…よくやった男君)

イケメン「次はオレだな。よし」

イケメン(どれだ、どれが悪魔のおにぎりなんだ? ぱっと見全部普通のおにぎりだと思える…はっ!?)

273: 2014/05/19(月) 03:20:18 ID:Hg15RCtI
イケメン「こ、これは…」

イケメン(ひとつのおにぎりの中身が突出しているじゃないか! これはセーフだ!)スッ

イケメン(ッ──!? ち、違う! 隣のおにぎりもオカズが出ている! まさかここから付着しただけの可能性も…?)ドドドドドドド

イケ友(なんだイケメンの奴…凄いオーラを感じるぜ…!!)

イケメン(どれだッ…どれなんだッ…どちらかがセーフだということはわかっている…!!)

イケメン(コッチかっ!? それともコッチなのか!? ぐぉぉッ──神様我に救いあれ────)

イケメン「───…………ふぅ」



イケメン「オレはこれを頂こう」ヒョイ



男「ッ……本当にそれでいいのか?」

イケメン「ああ。いいんだよ男君……オレはわかったんだ。真理ってやつを」

274: 2014/05/19(月) 03:27:50 ID:Hg15RCtI
男「え、真理?」

女「何いってんのコイツ…?」

イケメン「どちらだっていいんだ。オレは受けるべき罰を、今やっと行われているだけなんだ…」

イケメン「今までずっと蔑ろにされていた…己の過ちの報いを…この瞬間に…」

男「イケメン…っ」

イケメン「…すまない君まで巻き込んでしまって。オレは本当にだめなやつだ、本当に、本当に」

ぐいっ

イケメン「──しかしこれまでなんだよ。オレは全てを受け入れて、新しい自分へとステップアップさせる」あーん

男(お前はわざと亀ウOコ入のおにぎりを…!!)クッ

イケ友「おー?」

イケメン(神よ──我に栄光あれ───)

ガラリ

先生「うぃーっす。来てるねガール&ボーイズ」

男「あ。先生」

先生「君たちもう花に水をやった? その条件はきちんとやってもらわないと───あれ? なにそのおにぎり?」

275: 2014/05/19(月) 03:36:55 ID:Hg15RCtI
イケ友「チッス先生。なんか女っちが作ってきたものらしいっすよー?」

女「先生も食べます?」

男「なん、っ!」

先生「良いの? ありがとーんじゃ遠慮無く…」ヒョイ

男「まっ──」

先生「もぐもぐ」

男(あーっ!? やってしまった!! 先生が…!)

先生「…もっく…」

男「せ…先生…?」

先生「うん。美味しいね」ニパー

男「うっ…おおっ…!?」

先生「うーん、先生はおにぎり作っても上手く三角に出来ないからね。羨ましい」

女「こういうのってコツを掴めば簡単ですよ」

先生「へぇーそうなんだ」

男(先生もセーフだったか…ふぅーじゃあこれで四分の一。あとはイケメンが持つものがあたりの可能性が濃厚に)チラリ

277: 2014/05/19(月) 12:10:22 ID:PRueHQrY
イケメン「……」

男(お前の志は立派だ。尊く、そして儚い…間違いなくこの状況はお前のせいだけど、その姿勢は褒められるべきことだと思う)

男(あとは、その握ったおにぎりを食べるだけだ…! イケメン! その意思を胸に──)

イケメン「……」ソッ…

男(──意思揺らいじゃってない!? 戻すなって!)

イケメン「お、男くんっ…どうしよっか…っ?」プルプル

男「なっ泣きそうになるなよ! つ、辛いなら……もう諦めたらいいだろ…っ?」

イケメン「ううっ…だってだって…!」ブンブン

男「だってもクソもない。いやくそはあるかもだけど…」

イケメン「ボケはオレの担当だろう…ぐすっ」

男(切り返す余裕はあるんだ…もう食べろよ…)

イケメン「じゃ、じゃあ一つオレと約束してくれないか…一個だけでいい、してくれたら…オレはちゃんと食べるから…!」

男「…なんだよ」

イケメン「今度オレにも弁当…作ってくれないか…?」

278: 2014/05/19(月) 12:26:44 ID:PRueHQrY
男「はぁ? な、なんで…!」

イケメン「だって食べたいんだもん! 女のやつが羨ましいじゃないか…っ!」

男「だもんて…そんなに俺の弁当食べたい?」

イケメン「…だめかい?」

男「うっ…別に駄目じゃないし、一人用作るよりは二人分作ったほうが楽だけど…」

イケメン「本当かい!? じゃあじゃあ! 食べさせてくれるんだね!?」

男「い、イイケド?」テレテレ

イケメン「よっしッッ! ありがとう! 楽しみに待ってるよ!」グッ

男(喜びすぎだろ…ふへへ)ニヨニヨ

女(またホ〇っぽいことを…)ジィー

イケ友(え、ええ餌付けだ!)

先生(二人共、素でこれだもんね。そりゃ誤解もされる)

男「え、なに皆して…?」

女「べっつにー。あんたのお弁当って、そんなに安売りされるもんなのねって」ツーン

男「えっ? ち、ちがっ」

279: 2014/05/19(月) 12:38:22 ID:PRueHQrY
女「違わないでしょ。あーあばっかみたい、これからのやる気が削がれちゃうわ」

先生「ん、拗ねてるの?」

女「ばっ!!? ち、違います!! 拗ねてなんかいませんってば!! このホ〇共に言ってやりたかっただけですって!!」ビシッ

男「ほ、ホ〇じゃない!」

女「あんたは黙ってなさい! てゆーか、そうやっていっつもいっつも周りを誤解されるよーなことばっかりするからじゃないの!」

男「そ、それは仕方ないことっていうか…っ…特に誤解するのはお、女さんのほうじゃないか…!」

女「はぁっ!? あたしに問題があるって言いたいワケ!? よく言えたものねこんの変Oがっ!」

先生「おやま。ふーん、ほぉ~」ジロジロ

男「うっ…な、なんですか先生?」

先生「二人、付き合ってる?」

男&女「付き合ってません!!」

先生「なるほどね。犬も喰わないってか」スタスタスタ

女「ちょ、話し聞いてください最後まで…!!」

男(分かってて楽しんでるな先生…)

280: 2014/05/19(月) 12:47:39 ID:rhU1.TA2
イケ友「およよ。イケメン、そろそろ食べないとおにぎりカピカピしちゃうぜ?」つんつくつん

男「あ…そうだイケメン、覚悟は…?」

イケメン「大丈夫だ。今、しっかりと持てた」キリッ

男「行くんだな…そしたら…!」

イケメン「ああ。オレは敢えてこのおにぎりを選ぶ」ヒョイ

男(そ、それは! 自分も一番怪しいと思っていた──この中で特別大きいおにぎり…!)

イケメン「…行くぞ、見ててくれ男君。これがオレの覚悟だ──」

男「ッ……イケメ…」


ぱくん!


イケメン「もぐもぐ」

男「あ…」

イケメン「もぐ、もぐもぐ」

男「っ…」ドキドキドキ

イケメン「ごくん」

281: 2014/05/19(月) 12:59:59 ID:rhU1.TA2
イケメン「…………………」

男「い、イケメン? どうだったんだ、中身は」

イケメン「………じだ」ぼそっ

男「えっ?」

イケメン「ッ…牛すじが入っていた! オレは外れていた…!!」

男「っ~~~!! イケメン…!!」

イケメン「ああっ…! 神様はオレを許してくれたようだよ男君…!! オレは…オレは…!!」

男「うん…うん…そうだな、よくやったよお前は…」ポンポン

イケメン「うぉぉぉっ! やったー!!」

【BGM・Gonna Fly Now】

男(──そうして俺らは魔境となる苦難を乗り越えて、無事に日常へと生還できたのだった)

男(──この事件は俺とイケメン。どちらにも深いキズを負わせるものとなったが)

男(──しかしそれもまた、終わってみれば楽しい昼休みのひと時なんだと、思えなくもないのだ…)


女「それじゃあ後3つだし。アホと変Oと目つき悪いので、わけあって食べるんでしょ?」

282: 2014/05/19(月) 13:05:59 ID:rhU1.TA2
男「…………」

イケメン「…………」


男&イケメン「えっ?」


女「え、違うの?」

イケ友「よし。じゃあおれは、これもーらい」ぱくっ

男「あぁーっ!?」

イケメン「っ……!?」

イケ友「もぐ、これって……いくらぁ!? いくらが入ってんぜ!? なんつー豪華ですか女っち!!」ガーン

女「んふふーでしょでしょ?」

男「おっ…おおっ…!?」

イケメン「じゃあオレはこれを貰おう…」スッ

男「ま、待てよイケメン! 何勝手に取ろうとしてるんだよ…!」

イケメン「………」フイッ

男「そっと目をそらすな!」

283: 2014/05/19(月) 14:42:44 ID:rhU1.TA2
女「早く食べちゃいなさいよ。昼休み終わっちゃうから」

男「うぐぐっ」

男(もう駄目だ…どちらかの手に、あの魔のおにぎりが握らている…)

イケメン「………」ダラダラダラダラ

男(そうだ、俺みたいな奴が友達を作ったからこうなったんだ。もう、もうどうしようもない…)スッ

男(これが終わったら俺…ちゃんとイケ友に謝ろう…黙っててごめんなさい、って…)


ぱくっ


男「……あれ?」モグモグ

イケメン「ん?」モグッ


男「おかかだ…」

イケメン「たらこ…」


男(ど、どういうことだっ!? なんで無事なんだ二人共!?)

284: 2014/05/19(月) 14:47:41 ID:rhU1.TA2
イケメン「っ!? っ……なぜだ、なぜ入ってないんだろう…?」

男「わからない。けど、確かにイケ友のおにぎりは入ってたはずなのに…」

先生「うッ」

女「ぇ、先生?」

先生「なんかお腹痛くなってきた…」

イケ友「大丈夫っすか!? 保健室連れて行かなきゃ…! ハッ! ここだ!」

先生「なんだろうね、何か変なもの食べたかな───んっ!?」ギュルルルルッル

女「変なもの──」サァー


男「………」

イケメン「………」


先生「うッおッ、駄目、お腹が痛く、きゅー」バタリ

イケ友「先生ぇええええええええええええ!!」


男「…そ、そういえば…先生はオカズの中身……言ってなかったな…」

イケメン「…………」ダラダラダラダラ

285: 2014/05/19(月) 14:54:23 ID:rhU1.TA2
先生「君…中々やるじゃあないか…保健室の先生を殺るなんて、ね」ガクリ

イケ友「女っち殺ったの!?」

女「やるってなによばっかじゃないの!? あたし、なにもっ…変なの入れて! ない、のにっ…うぇえええええんっ!」ポロポロ

イケ友「え、じゃあおれのおにぎりが──うぉぉおおおおおお!! すまねぇえええ先生ぃいいいいいいいいいい!!」ダバァー


男「……謝ろう」

イケメン「……うん」


【全部話したら案外許してもらえました】


第八話『俺の突っ込みロシアンルーレット』

286: 2014/05/19(月) 14:55:27 ID:rhU1.TA2


また来週に会いましょう
次回はイケ友メインです

ではではノシ

291: 2014/05/26(月) 22:06:09 ID:y6fnUqb2
コンビニ

男「店長。お疲れ様っした」

店長「はいお疲れさん。今日もがっぽり稼いでくれちゃったね」

男「俺はもう上がりですけど、店長は?」

店長「なにせ店長だからね。残らないとね、仕事だからねウフフ」

男「…そうですか、じゃあ自分はこれで」ペコリ

店長「来週もよろしくぅ~」

男(……。店長今日は非番なのにな、なんで居るんだろう?)ウィーン

男「え、暗っ」

店長「そうだよねぇ~最近はめっきり日が落ちるのも早くなっちゃったからねぇ~」

男「そ、そうですね…季節の変わり目って、ヤツですか」

店長「ウフフ」

男「……なんですか?」

店長「いやね。うんとね、君とこうやって季節のお話ができるなんて、夢みたいだよねってと思いましたね」

292: 2014/05/26(月) 22:17:35 ID:y6fnUqb2
男「うぇ、そんな節操ない人間だと思われてたんですか?」

店長「ウフフ。逆よ逆、信念やら固定概念が強うそうに見えて、店長話しかけづらいなって思ってたのよね」

男(ソッチの方が立ち悪そうに思える…)

店長「けれど、君ってば近頃とんと親しみやすくなっちゃったから、店長嬉しくなっちゃってよく話しかけちゃうのよね」

男「嬉しいだなんて、まぁ、その、ありがとうございます」

店長「良いってことよぉ~」クネクネ

男(いい人だなぁ。ムキムキマッチョの見事な逆三角形を所持し、立派な髭を蓄えた人だと忘れてしまうぐらいに…)

男(いやいやいや、人を見かけで判断するのは良くない。このような人で良いんだ、自分が言えたものじゃないしな)

店長「時間は遅くないけれど、表通りに出るまでちょっとばかしデンジャラスな通りだからね。気をつけて帰るようにね、それとも家来るぅ?」

男「えっ? いや、晩御飯作らないといけないんで。また今度お願いします」

店長「いやだもぉ~振られちゃったのねぇ~ウフフ、じゃあ気をつけてね」

男「? じゃあお疲れ様です、店長」

店長「お疲れ様~」

293: 2014/05/26(月) 22:31:54 ID:y6fnUqb2
~~~~

男「…親しみやすくなったか」

男(バイトは入学当初から続けていた。かれこれ一年以上の付き合いの人も居る。店長なんかがそうだ)

男(けれど付き合いと言っても仕事場で顔を突き合わせるだけ。自分が出来る限り支障をきたさないよう気を張っていたから)

男(会話もせず。口にするのは業務上の内容だけ、終始無言に徹し、無駄なものは極力排除していた)

男「まさにバイトマシーンと化していた──なんて、今だからこそ分かることだけど」

男(当時の自分は、それが酷く歪だと言うことも気づかなかった。周りから見れば、ただ単に取っ付きにくい奴。面倒そうなやつ、だなんて)

男(まさに店長が言ってくれた通りのこと。なんか頑固そうなやつ、面白みが無さそうで、関わった分だけ損をしそう)

男「…分かってた、わかってるんだけども。何も出来ないのが自分だった」

男「ふぅ…」

男「変われたんだろうか。あの日から自分は昔の自分よりも、明るくなった……とか」


そう、あの日のことは忘れられない。

凝り固まった世界を割って入ってきた、不躾な視線。

己でさえ怖くて手を出されなかった、新しい自分を欲しがる輩。

294: 2014/05/26(月) 22:42:31 ID:y6fnUqb2
男「…………」

その変な契約から生まれた──新しい人間関係。

男「ははっ。そりゃ変わりたくなくても、変わっちゃうか」

男(楽しいんだろうな。きっと、これが楽しいってことなんだろうな)

男(ずっとずっと続いたら良い、残りの学校生活が全て同じように続いたら、さぞ──)

男「──ううっ…それはちょっと高望みし過ぎか…?」

イケ友「タカノゾミ? なにそれ、AV 女優?」

男「どぉっうわっ!?」

イケ友「ちぃーす。男ちゃんこんな時間に、こんな場所で何やってんのー? ナハハ」

男「いっ、イケ友!」

イケ友「そうです私がイケ友さんです! なは!」

男「っ…びっくりした、急に後ろから話しかけるなよ…!」

イケ友「イっケ友さんったらイっケ友さん。ん? おーごめすごめす、久しぶりにこの通り歩いたら見覚えある背中が見えたからさ~」

295: 2014/05/26(月) 22:53:35 ID:y6fnUqb2
男「…。心臓止まるから、今度からは止めて」

イケ友「了解ぃ~! んで、どしってここに居るの? 男ちゃん、夜遊びにはお馬鹿の原因になるぜ~?」

男「ならないならない」

イケ友「おお? その感じ、信じてないだろ? じゃあ証拠材料として──おれを進呈する!」

男「え、それはちょっと怖いかも…信じざる負えない…かも」

イケ友「そうそうそう! だからこれからは気をつけるようにって、まってーい!」

男「あはは。冗談、冗談だよ」

イケ友「あの目はガチだったさ!? こっわー男ちゃんすぐにマジで受け取るんだもんよ、こっわー」

男「……」

イケ友「およ? どったの?」

男「いや、普通に俺はバイトでこの通りを使っただけなんだけど、イケ友の方はどうして…」

イケ友「ん? あー前にバイトしてるって言ってたっけ。じゃあ男ちゃんと一緒だわ。おれもバイト帰り」

男「……」

イケ友「…どったの? そんな見つめて、惚れちった?」

296: 2014/05/26(月) 23:00:54 ID:y6fnUqb2
男「…じゃあ、なんで」

イケ友「?」

男「あ。そうだ、確か店長から貰った奴が──」ガサゴソ

イケ友「なによどしたのよ。急に黙りこくっちゃって、おれにも分かるように言ってちょ?」

男「黙ってて。良いから」ヒョイ

イケ友「おぇ?」

ぴとっ

男「…血が出てる。こめかみ部分、気づいてないのかよ」ポンポン

イケ友「………」

男「バイト先で余ったポケットティッシュ持ってきてよかった…ふぅ、じゃあこれ全部あげるから。垂れてきたら使って」

イケ友「………」

男「………」

イケ友「………」

男「な、なに? 貰わないの? …余計なお世話だったら、ごめん、謝るけど…」

298: 2014/05/26(月) 23:10:56 ID:y6fnUqb2
イケ友「あっ。いや、すまん……ありがたく頂戴いたしまする、ははーっ」

男「お、おう」

イケ友「いやーまいっちんぐマチコ先生だわ。変な所見られちまったぜ、ナハハ」

男「…そっか」

イケ友「そうとも! んー男ちゃんすげーな、ほんっと。マジでリスペクトもんだわ」

男「え、なにが?」

イケ友「なんも聞かねーで、すぐさまティッシュ取り出して、他人の血なんて気にせず拭いてくれたじゃん?」

男「…いや、気にせずなんてことないけど」

イケ友「けれど手を出してくれた。だろ?」

男「まぁ、うん、だけど…気になるのは嘘じゃない。なんで血が出てるのかって、怪我した理由も聞きたいけど」

イケ友「うんうん。けど男ちゃん、んなこと咄嗟にできるやつはそう居ねえのよ。
    つかおれの周りには居なかったね、まるで祭りごとかとやんややんやと騒ぎ出すのが、目に見えてるぜ」

男「それはそれで凄いと思うけど……咄嗟というか、」

ただ単に怖くて聞けなかったのが、本音だ。
沈黙は美徳。なんて、そんなたいそれた心構えを持ってるわけじゃない。

299: 2014/05/26(月) 23:23:26 ID:y6fnUqb2
人気の少ない路地裏から、血を流して歩いてきた。
バイトは多分うそだ。そして怪我に対して無頓着な態度。

男(いくらでも想像することは出来る。けど、)

どうしたものかと、思い悩む。
けれど結局は答えなんて導き出せない。滞って、停滞するだけ。

男(あれ? そういえば…)

なにか、思い出そうと、した気がする。

けれど手がかりはするりと滑り落ちて、暗闇の中へ消えていく。
そういえば俺って、人と関わることをやめた理由は───


イケ友「こりゃお礼も兼ねて説明しなきゃだめかーふぁぁ~調度良かった、誰かに聞いて欲しかったし」ポリポリ

男「えっ?」

イケ友「ここから近くにベラボウ美味いたこ焼き屋あるんだけど、ちょっと時間ある? 無いなら断ってちょー、全然構わないからよ」

男「……教えてくれるのか?」

イケ友「あったりまえじゃん。聞きたくないなら別に構わないぜ? ナハハ」

男「…なんかその言い方は卑怯だ」

300: 2014/05/26(月) 23:33:45 ID:y6fnUqb2
イケ友「ええっ!? そおっ!? マジかー…うーん…」

男「ははっ。わかった、聞かせてもらえるなら是非とも無いよ」

イケ友「おっ? マジで! じゃあ早速行こうぜ! ほらほら!」ぐいぐいっ

男「ちょ、ちょっと押すなって…!」


~~~~


イケ友「ここよここ。これがまた美味いのなんのって、すんませーん」

店員「はいはーい。やってるよーって、何よ、あんたか」

イケ友「なによとは何だなによとは。客だぜこっちは」

店員「ろくに金払わずツケしまくってる奴が客なわけ無いっしょ。泥棒と変わんねーよアホタレ。ったく───」チラリ

男「あの、どうも」

店員「……」

男「…?」

店員「おっおっおおおおおおっ!? この前の子だぁああああああああああああ!」

301: 2014/05/26(月) 23:43:25 ID:y6fnUqb2
男「ええっ!?」

イケ友「んあ、知り合いなん?」

男「えっ? いやっ! 俺は全然見当も…っ!」

店員「あれれー? 覚えてないっ? ほらほら、駅前での!」

男「あ──もしかして、クレープ屋の?」

店員「そう! 昼間はクレープ作ってんのよ! 夜はたこ焼き!なになになに!?
   今日はどったの?! どったの?! この前の超絶イケメン君は!? まだ関係は続いてる!?」

男「えっ、あのっ、えっと」

店員「きゃーマジかぁ~再度会えるなんて思わなかった、あのねあのね、あれから知り合いとかに君たちのことを話して、」

店員「あ。知り合いってのはとある同人作家なんだけどね、こりゃまた腐りまくってるのってなんの面白いやつなんだけど──」

イケ友「ハイハイ。ストップストップ」ぐいっ

店員「むごぉ!? むぃー! むぃー!」

イケ友「姉ちゃん。明らかに姉ちゃんのトークが男ちゃんのキャパ超えちゃってるから、わかってるかー?」

男「」

店員「ぷうはぁ! あ、ごめん。ちょい興奮しすぎた、いやー参った参った。んふふ」

302: 2014/05/27(火) 00:06:21 ID:GSKQWHVQ
イケ友「大丈夫か男ちゃん? 姉ちゃん何時もこんなかんじだからよ、気にしたら負けだぜ」

男「リョウカイシマシタ」

イケ友「ほらみろ怖がってるじゃん。つーこって、今回はタダにしてちょ」

店員「なにが、つぅーこってだよ。テメーはさっさとツケ分両耳そろえて払え馬鹿野郎。あ、君はいいよ。むしろサービスしちゃうから」

男「あ、ありがとうございます…」

店員「ん。良いってことよ、なになにー? 今日は弱気なのね、タチだと思ってたけど案外ネコ?」

男「え?」

店員「ぐふふっ」

イケ友「良いから作れっての。ほらほら」

店員「言われなくても。腕によりをかけて、作らせてもらうっての」

男「………」

イケ友「ったく」

男「…あのさ、一つ聞きたいんだけど、姉ちゃんて…」

イケ友「んお? そうだぜ、こん人はおれっちの姉ちゃん」

303: 2014/05/27(火) 00:13:31 ID:GSKQWHVQ
男(全然顔が似てない…)

イケ友「ナハハ。今顔が似てないって思ったっしょ? まぁ当たり前なんだけどな、血つながって無いし」

店員「アンタと血が繋がってたら一生モンの恥だわ」クルクル

男「…そ、そうなんだ」

店員「ん? あれ、アンタこの子に【アノ事】言ってないの? めーずらし、友達できたらすぐ言うクセに」

イケ友「だって友達じゃねーもんよ」

男「っ……」ビクッ

店員「え? 違うの?」

イケ友「おうよ。男ちゃんは親友だばっきゃろい!!!」

男「…ぇ…」

店員「あーはいはい。わかったわかった、少し口閉じてな面倒臭いから」チラリ

男「……」

店員「あのね、こんな奴だけど嫌わないでやってね。案外、良いところもあるからさ」

男「…あ、はい」

304: 2014/05/27(火) 00:24:53 ID:GSKQWHVQ
イケ友「えっ!? お、男ちゃんおれってば何か嫌われることしちゃったか…?」

男「し、してないしてない! むしろ…色々と申し訳ないことしてるの、俺だと思うし」

イケ友「申し訳ないこと? あーこの前のおにぎり? ナハハハハ! ありゃおれが悪いだろー! ばっか過ぎるだろおれぇ~!」

男「わっ、笑って済ませられることじゃないだろっ?」

イケ友「あー思い出しただけで腹がいてぇ。保健室の先生には悪い子としたけど、ありゃ一生モンだわ。もう絶対に忘れないと思うわ」

男「ごめん…」

イケ友「気にしてないっつーの! つか、聞いて聞いて! 冗談だったかもだけど、マージーで! 筋肉育っちゃったから! ウOコ喰って!」

男「ぶふっっ! う、嘘だろ流石に!」

店員「うOこ…?」

男「あっ! いやっ、その、なんていうかー…!」

店員「アンタそれどういうこと? うOこって、なに?」

イケ友「前にな、ウOコ喰ったら筋肉育つって言うから喰ったら、マジで育っちまったって話」

店員「…だ、誰の?」

イケ友「えーっと、確か…」スッ

イケ友「これこれ。この写メ見てちょ」

305: 2014/05/27(火) 00:35:15 ID:GSKQWHVQ
店員「…………………………」

イケ友「およ? どったの姉ちゃん?」

男「ちょっと見せて写メ」

イケ友「おっけ。ハイ」スイッ

男「……………うん、これ俺だよね。この前遊んだ時の写メ」

イケ友「え? ちゃんと亀ちゃんだろ、あれ? 選択先間違ってるわー!」

男「………」チラリ

店員「君…」

男「違います! 絶対に違います! ええもう本当に! 常識的に考えてください!」

店員「なるほど、そういう方向性もアリ……?」

男「納得しかけてる! 凄く待ってください! いや、ほんっとに!」

イケ友「そうだぜ姉ちゃん。流石に男ちゃんのうOこは喰えないぞ!」

男「っ…そう! 流石に喰えない! 俺のうOこは!」

店員「じゃあ誰の喰ったのよ、アンタは」

イケ友「これこれ」ピッ

307: 2014/05/27(火) 15:28:45 ID:SYKmem4I
店員「………………………………………」

イケ友「あれ? どったの?」

男「もう一度みせろーっ!」ぐいっ

男「──これイケメンじゃん! イケメンの写メだぞ!」

イケ友「なはー! また間違えてしまったぜ!」

店員「三角関係……?」

男「違う!! 違うったら違います! だぁーもうっ……良いから俺に説明させろー!!」


~~~~


男「お、美味しい……」

イケ友「だろだろっ? ナハハー良かったなぁ姉ちゃん、もう一人リピーター様が付いたぜ?」

店員「ありがとねー」

男「あ。いえ、またこんど買いに来ますんで…」

イケ友「これからもタダで貰えばいいじゃん。もぐもぐ」

男「そんなワケいかないだろ。むしろお金を払いたいよ、これだけ美味しいたこ焼き食べれるなら」

308: 2014/05/27(火) 15:35:39 ID:SYKmem4I
イケ友「おー……」

店員「おー……」

男「え、なに、この反応」

店員「アンタにしちゃ珍しい友達出来たものね。いいこと言ってくれるわぁ、マジで」

イケ友「だから親友だっつの。だろだろっ? えへへー、マジ男ちゃんすっげーから」

男(良くわからないけど、照れる)モグモグ

イケ友「もぐもぐ」

男「あの、それでさ、話したいことって何?」

イケ友「おお? そうそう忘れてた、ん~~どこからはなしたもんかな」

男「俺は怪我のことを知りたいけど…」

イケ友「まっそうなるわな…怪我したのは単純明快、ちょっと喧嘩してきたからだぜ」

男「………」

イケ友「あ。怒った? 怒っちゃってる?」

男「…喧嘩は良くない、前にもそう言ったはずだけど」

イケ友「慣れてるから平気だっての! …あ、ごめんマジで怒ってんな男ちゃん。すみません、なはは~」

309: 2014/05/27(火) 15:43:13 ID:SYKmem4I
男「聞いていいなら聞くけど、その理由は?」

イケ友「んー端的に言えば、仲裁? だったけど、最後はおれ個人の問題になっちまってたなぁ」

男「仲裁…? 他人のいざこざに巻き込まれた、みたいなの?」

イケ友「………。いや他人じゃねえよ、兄弟だ」

男「兄弟の…」

イケ友「そうとも。ちっとばかしお転婆な弟が居てな、やんちゃばっかりするもんだからよ。兄として出向いてたってワケ」

男「…それで怪我をしたのか」

イケ友「あーいやいや。怪我はおれのせいだわ、なはは! 弟と相手が口論になったときによ、おれが思わず殴っちまった」

男「な、殴った? ちょ、なんで殴るのさっ?」

イケ友「ムカついたからだけど?」

男「…お前」

イケ友「そりゃ大した話じゃ手も出ねえけど。アイツは言っちゃ駄目なことを言った。だから殴った、それがおれのポリデントだから」

男「ポリシー?」

イケ友「それだそれ! まぁーびっくしりしてたよ、アイツも。急におれが暴れだしたもんだからよ。ま、どっちも悪いってことで勘弁してちょ」

310: 2014/05/27(火) 15:53:51 ID:SYKmem4I
男「…どんな理由があっても、喧嘩は駄目だと思うけど。手を出したら、そこでイケ友の負け…じゃないのか」

イケ友「おー? 面白いこと言うな男ちゃん、手を出したら負けか、んふふ、考えたことも無かったぜ」

男「……」モグモグ

イケ友「けど、違うんだ男ちゃん。オトコってもんにはよ、絶対に引いちゃなんねえところはあるモンなんだ」

男「…どんな理由で?」

イケ友「もちろん。大切なやつをバカにされた時だ」

男「…大切な、奴」

イケ友「ああ。おれはそれだけは唯一、心に決めてる。おれを馬鹿にしたっていい、あほだの間抜けだの文句をたれても手は出ない」

イケ友「けど駄目だ。おれがカッコイイと思ったやつ。面白いって思ったやつ。一生ダチで居ようと思った奴を……」


イケ友「──馬鹿にした奴は、絶対に許しはしない」


男「っ……」ビクッ

イケ友「つーこって。おれは喧嘩をしちゃったわけなんだぜ、けど、男ちゃんが言ってんのも一理あるってことも分かる」

イケ友「そいでもよ。人ってのは絶対に譲れない部分があるもんじゃね? 他人から言われてもどーしても変わる気がしないって、奴」

311: 2014/05/27(火) 16:04:11 ID:SYKmem4I
男「…そうかな」

イケ友「男ちゃんが喧嘩許せないってのも、そうだろ? 違うか?」

男「あ、うん。そう言われるとそうだと思う」

イケ友「人それぞれ、頑固な自分って奴を持ってるもんなんだ。人にどうこう説教されても、自分がこう決めたんだから勝手に解釈すんじゃねーって」

イケ友「そーいうの、なんつーんだっけ。かち、かち? カチカチ?」

男「価値観?」

イケ友「そーだよそれそれ! カァー頭いいな男ちゃん、会話がスムーズに進むわ~」

男「そ、そうかな?」

イケ友「おうよ。おれはさ、そういった価値観がめっちゃカッコイイ奴。大好きなんだ」

イケ友「自分の想いすら踏ん切りつけないとダメな奴。他人のことをずっと思いやれる優しいやつ」

イケ友「大好きな子供を作ることに躊躇いなくやってのけるやつ。喧嘩することに立派じゃねーけどポリシー持ってる奴、とかさ」

男「なんか例題がすごい人ばっかなんだけど…?」

イケ友「なっ? すげーと思うだろ? だからカッコイイんだよ、つえーと思えて、おれは心から憧れる」

イケ友「自分がやりたいことを絶対にやりきる。周りの奴らから何て言われようとも、自分がそうなんだからやる、って……かっこいいじゃんか」

312: 2014/05/27(火) 16:14:29 ID:SYKmem4I
男「……」

イケ友「なはは。分かれって言わねえけど、やっぱこういうのって分かりづらいよなぁ」

男「いや! すっごく分かる!」フンスー

イケ友「おおっ?」

男「俺も思うよそういうの。問題やら逆境やら、自分を苦しめることばかりのなかで…」

男「…自分を突き通せるのって、かっこいいし、憧れる!」

イケ友「………」

男「誰にだって言葉に出来ない瞬間、ってのはあると思うんだ。怖いとか、他人に迷惑に思われたら嫌だとか」

男「だからココで黙ってるのは何の罪でもないし、後は勝手に周りが解釈して問題は解決するんだって……」

男「そうやって楽に生きることは駄目なことじゃない。むしろ誰だって思うことだけど…」

イケ友「…そうやって自分に嘘をつけるのは、嫌だって?」

男「そうそう! それが自分の甘さだと思ってしまうんだ。けど結局は誰もそんなの望んじゃいない、きっとそれは本当に迷惑なんだ」

男「他人の意見なんて、人は望んじゃいない。なんて、そう思われてるからって、自分に言い聞かせて何もしないのが……俺はちょっと嫌だ」

男「──だからイケ友が言うこと、俺は分かるよ。やりたいことを言い切れる人ってのは、かっこいいと思う!」

313: 2014/05/27(火) 16:23:14 ID:SYKmem4I
イケ友「………はぁ~」

男「えっ、あっ! ごめん! なんか熱くなりすぎたかも…知れない」

イケ友「うんにゃ驚いてるわけじゃないのよ、呆れてるわけでもないし、ただ、うん、やっぱ男ちゃんに言ってよかったぜ…」

男「え、どういうこと?」

イケ友「…おれは自分に自信がない、って言ったらどう思う?」

男「………信じない、かな」

イケ友「だろー? なはは、けど本気で自分が強いやつだとか思ったことねーのよ。実はな、にひひっ」

男「そんなわけ…無いと思うけど、俺か見ればイケ友は色々と強いやつだと思う」

イケ友「そりゃ強くなろうと思ってんかんな。喧嘩だってするし、口論だって負ける気がしねえよ」

イケ友「だから言ったじゃん。おれは、おれを馬鹿にしたやつを本気で怒れないって」

男「あ……けど、それは」

イケ友「単純に、ああそうなんだろうなって。思っちまうんだ、おれは大切にしたい奴らよりも…馬鹿だし弱いって」

イケ友「だから普通に納得しちまう。おれは、誰よりも弱い人間だってな。カァーカッコ悪いこと言っちまったぜ、マジで」

男「…………」

314: 2014/05/27(火) 16:32:29 ID:SYKmem4I
ああ。多分、この時がそうなんだ。
分かってしまう、自分が黙ってれば正解だってことを。

人が悩んでいても迷惑にならない言葉を口にするのは難しい。
自分の常識は他人の非常識。なにが正解で、何が間違いなのか。

言葉にしてしまった時点で答え合わせが出来てしまう。

なら何も思わないまま、口を閉じて見過ごすことだけ。


人は迷う。最善で最良の答えを導き出そうと──躍起になって、失敗する。


間違えたくない。だから言葉にしないで、無言に徹する。
大切に思いたい人ほど、苦しめたくないと想いやりたいほどに、空回りしてしまう。


ああ、なんて不器用なんだろう。
言いたくても言い切れないでいる自分が、本当に道化じみている。


男(───けど、何だろうか)


思い出してしまう、あの表情を。
この瞬間に何故そんな顔を思い浮かべてしまうのか、わからないけれど。

315: 2014/05/27(火) 16:39:17 ID:SYKmem4I



『──それがオレと君との契約だ!!』



あの言い切った時の、アイツの表情は特別おかしかった。
あんなにも堂々と言い切ったのに、自信の塊のような人間が、なのに、


───どうしようもなく、不安そうだったように思えるのは、何故なんだろう。


男「……」

誰にだって怖いものはある。
信じたいけれど、信じ切れないでいる不確かなものが、誰にだって存在している。

だから、だから何でだろう。



男「…なわけない。イケ友は凄いやつだって」

自然と言葉は出てしまっていた。

316: 2014/05/27(火) 16:48:00 ID:SYKmem4I
男「俺は思うよ。イケ友は凄くて、カッコイイやつだって」

男「だって俺に持ってないものは沢山持ってる。強いし、えっと、自信も喧嘩もってこと」

男「確かにその、馬鹿かって言われれば……うん、そうかもしれない」

男「けどさ。それもまたイケ友の魅力なんだと思う」

男「……そうじゃなきゃ、誰もイケ友と仲良くなろうと思わない」

男「強すぎるのも駄目だと思うから。それじゃあ誰も寄り付かない、コイツは一人で生きられるんだって、そう勘違いされちゃうんじゃないかな?」

男「だから……俺が言うのもなんだけど、イケ友はイケ友だから。カッコイイんだ、それでいい、それだから良いんだって───」


男「──し、親友の俺は思うよ?」


イケ友「………………」

男「ほ、ほら! 分かりやすく言えばさ、大切な友達が馬鹿にされたのは嫌だから手が出るってのは……うん、凄いことだって!」

男「俺は駄目だって思うけど、けど、それはイケ友の魅力だろっ? だったら自身を持っていいと思う! …うん、それじゃあ俺の言い分が滅茶苦茶か…おう…どうしよう…」

イケ友「………………」

男「たっ、単純な話! 俺はー…そのー……そうだ、そうそう!」

男「───逆に言ってやる! イケ友が周りを凄いって言うのなら、俺はイケ友が凄いって思いたい。だから、もっと自分に自信を持って欲しい!」

317: 2014/05/27(火) 16:55:28 ID:SYKmem4I
男「じゃなきゃ、俺がバカみたいだろ? …俺に思われる程度なら、別にどうってことないだろうけども…」

イケ友「………っ……」ググッ

男「あっ…えっと…ごめん、変なこと言って…」

イケ友「っはぁ~~~~~!!! マジかぁあああああああああああああああああ!!」

男「うわっ!?」

イケ友「はぁーあ。本気で言ってくれてる? マジでおれ超かっこいいとか、思ってくれるの?」

男「う、うんうん!」コクコク

イケ友「くっくく……男ちゃん、それあんま他の奴らに言わないほうが見のためだぜ。いや本気でさ」

男「いやいや! こんなこと…! い、言うわけ無いだろ…?」

イケ友「へぇーそお? おんなじこと言って、おれみたいな奴を宥めてるとかじゃなく?」

男「ぐっ……お、俺にそんな知り合いがたくさんいると思ってんのか!」

イケ友「居ないほうがおかしいとおもったんだけど。そっか、なはは、おれが初めてか」

男「…なんか文句でもあるのかよっ」

イケ友「いーや、全然。むしろヤバイぐらい楽しいわ。おいおい、マジかよ…ダチにも兄弟にも言われたことねぇってば…」ニヤニヤ

318: 2014/05/27(火) 17:04:24 ID:SYKmem4I
男「へ、そうなの…? こういうこと、結構言われ慣れてるかと…だから別にあれかなって…」

イケ友「うんにゃ、面と向かって堂々と言われたのは初めてだっつの。カァーやることやるねぇ男ちゃん、そうやってイケメンも落としたってか」

男「ぶぅー!! ちょ、お前まで何言って…!!」

イケ友「くくっ…あははっ…」プルプル

男「イケ友…?」

店員「はいよ。おまち」ヒョイ

男「うわっ?」

店員「コイツそーなったら長いから放って置いていいよ。うん、男君でいいんだよね?」

男「え、はい、なんですか?」

店員「持って行って。お姉さんからのお礼、温かい内に食べちゃってね」

男「…これって…というか凄い量のたこ焼きなんですけど…?」

店員「んふふー出来の悪い弟持つとさ、お姉さん大変でしかたねーのよ。ま、血の繋がりもないけどさ」

店員「仲良くしてやってね。出来る範囲でいいからさ、いやほんっと、ガチで言ってるからね? 関わったら分だけ男君、絶対に大変な目に遭うから」

男「……」スッ

店員「上等。たこ焼き貰ってくれたってことは、いいや、言うまでもないね。あー若いっていいなぁ~……んじゃよろしくぅ」

319: 2014/05/27(火) 17:09:36 ID:SYKmem4I
~~~~~

イケ友「一生分笑ったかもしれねぇなこりゃ」

男「…ううっ」

イケ友「ひひっ。あんがとな男ちゃん、いやほんっとに。やっぱ言ってよかったぜ」

男「……」

イケ友「つーこって。これからもよろしく、おれのこと周りにカッコイイやべぇやつだと言いふらしても良いんだぜ?」

男「…そんなこと今更言わなくても、周りは知ってると思うけど」

イケ友「……。だぁーもうほんっと言ってくれるわー! 男ちゃん、マジラブリー!」

男「ち、ちがうっ! 本気で言ってるんだからなこっちは!? 今更って話は、自分だってわかってるだろ!?」

イケ友「わーかるわけないじゃん。やりたいようにやってるくせに、周りから好かれてるとか思わないっつーのよ」

男「うっ…!」

イケ友「けど、んふふ、男ちゃんが言ってくれるなら信用するわ。おれ、カッコイイやつだと思われてるってな!」

男「……」コクリ

イケ友「んん~~~~!! っはぁ~……あ、そうそう。言っておかなくちゃいけないこと、言わないとな」

320: 2014/05/27(火) 17:16:37 ID:SYKmem4I
男「え、なに? 言わなくちゃいけないことって」

イケ友「おれの話。ダチやもちろん、イケメンも知ってることだけど──まぁ単純な話」

イケ友「おれには二十人以上の兄弟がいまっす!」

男「は?」

イケ友「そういいますとな、おれの母親が頭がイッてるレベルの──大のこども好きで」

イケ友「十二回ほど再婚してるワケよ。その度に子供作ったり、相手方の兄弟が居たりで……」

男「……それで、兄弟が二十人…?」

イケ友「そうそう。さっきの姉ちゃんも六回目の再婚の時に居た人ってワケ」

男「おおう…それはまた…」

イケ友「あ。別におれは苦に思ってねーのよ? 兄弟増えるのはすっげー面白いし、母親の事悪く思ってもない」

男「…それは良かった」

イケ友「だからよ、今度ウチに遊びに来いって男ちゃん」ぐいっ

男「うわわっ!」

イケ友「今回の家は豪華だぜー? 高級マンションの最上階! なんとおれ専用の部屋まである!」

321: 2014/05/27(火) 17:20:54 ID:SYKmem4I
イケ友「そこで八人ぐらいの兄弟いっから、全員紹介するわ~」

男「あ、ありがと。その…本当に兄弟仲が良いんだ」

イケ友「あったりまえじゃん。仲悪い奴いたら、殴ってでも仲良くなるわ」

男(それはどうなんだろう…)

イケ友「にっひひ。面白い奴ばっかりだから、男ちゃんも気に入るぜ?」

男「……」

単純にふと、思いつきだった。
こんな奴でもあるのかと、ただひとつの、ひらめきだった。

男「…なぁイケ友でも苦手な人なんて居るの?」

イケ友「居ないな」

男「断言するのか…」

イケ友「モチロンよ。苦手なんて、むしろおれが好きになる要因だっつのよ。むしろ燃えるっていうか?」

男「…ははっ、イケ友らしいよ」

イケ友「だろだろー?」


──けど、それは予兆だったんだ。

322: 2014/05/27(火) 17:26:02 ID:SYKmem4I
イケ友「……あ。でも居たわ」

男「え?」


これからずっと続くと思っていた、楽しい学校生活。
なんら滞り無く終わると思っていた、けれど。

問題は問題のままで、見過ごすことしか出来なかったものは。


イケ友「九回目の再婚で──出来た【姉】なんだけどさ、そん人が、なんつーか、苦手だった」

男「え…どんな人だったんだ?」



──ストン、と。
音もなく静かに現れる。



イケ友「良い意味でも悪い意味でも、凄い人だったつーか。まぁ男ちゃんでも会えるとおもうべ」

イケ友「だって───」


イケ友「──同じ学校の生徒会長やってる人だもんで、しかも」

イケ友「──イケメンの元カノだしな」

323: 2014/05/27(火) 17:28:08 ID:SYKmem4I





第九話『俺の突っ込みの意味』

324: 2014/05/27(火) 17:30:04 ID:SYKmem4I


上手く話をまとめられなかった。
ただ、それだけが原因なんだ……


また来週にお会いしましょう。何があろうと月曜日です。
次は物語のラスボスが出ます。

ではではノシ

335: 2014/06/02(月) 02:25:38 ID:c5iy7Gtc
教室

男「今年の文化祭は何をするんだろう」

イケ友「お化け屋敷がいいぜおれっち!」

イケメン「どうだろうか、今年は他組での要望が多いらしいし、無難にお笑い劇場とかは?」

男「いやそれ無難じゃない。ハードル高過ぎる」

イケ友「そうなんかぁ~残念っすわ……あ、そういや去年っておれら何やったっけ?」

男「えっと…」

イケメン「…ふむ」

男&イケメン「劇?」

イケ友「あーそうそう! そうだったわ! なっつー! つか、今頃気づいたけどおれら一年も同じクラスだったべ!」

男(あぁ…忘れられてたんだ…)

イケメン「……」

イケ友「んふふー! けどけど? 今年は男ちゃんも居るし、おれっち断然楽しみが違うっしょ! ねー? 男ちゃーん?」

男「ちょ、急に肩を組むなって…! 暑苦しいっ! というか一年の時も居たから! 今年だけじゃないから!」

336: 2014/06/02(月) 02:36:06 ID:f4MmNN9k
イケメン「………」スッ

イケ友「んなこと言うなってば~、なはは。なんせおれらは互いに秘密を言い合った仲だぜ?」キラリン

男「だぁーもうっ! イケメンの方からもなにか言ってやってくれ、って……」

イケメン「………」

男「どうしたイケメン。変に浮かない顔してるけど?」

イケメン「ん? いや何でもないさ、ただ昔のことを思い出していただけだよ。一年前の文化祭のことを、少しだけね」

男「……。一年前の文化祭といえば、イケメン。あの時の劇で主人公を演じてたよな」

イケメン「ッ!?」ビクゥ

男「あの時のお前って───え、なに?」

イケメン「…ッ…今…」

男「あ、うん。だから去年の文化祭の時は主人公演じてたよなって…」

イケメン「あ、ああ、うん。確かに演じてたよ、それがどうかした?」

男「いや特に話したいことがあるわけじゃないけど、その、大丈夫? 具合悪い?」

イケメン「ははっ。そんなワケないじゃあないか、うん。オレはいつもどおり元気だよ」

337: 2014/06/02(月) 14:07:47 ID:cQN7dhlY
男「…そう?」

イケメン「勿論。おっ? 先生が来たみたいだよ」

男「……」

イケ友「うっし! じゃあじゃあ何にすっかなー!」スタスタ

~~~

「ということで、今年の文化祭実行委員はこの二人です」


イケメン「あはは」

男「えっ?」


パチパチパチパチワーパチパチパチパチ

男(いつの間にか俺が実行委員になってるーーーー!!)

イケメン「さて、今年の文化祭は二回目。一回目と違って楽しむことが前提になると思う」

イケメン「一年目は成功させようと頑張る。三年目は最後だと記憶に残そうとする」

イケメン「けれど、二年生は唯一三年間の中で──悔いなく楽しめる時期だ」

イケメン「クラスの皆! 全力を持って楽しもう!」

338: 2014/06/02(月) 14:15:38 ID:cQN7dhlY
ワーワーワーパチパチパチパチ

男「お、おおっ…?」

イケメン「一緒に頑張ろう、男君」ニコリ

男「え、あ、うんっ?」

イケメン「よし! じゃあ俺らのクラスで催すモノは───」


数時間後


イケ友「おー? 何か良くわからない内に、決まっちまったなぁ」

男「喫茶店…」

イケメン「まさかこれほどまで要望が多かったなんてね。投票の八割が喫茶店だったよ」

男「…なんか難しそうだ」

イケ友「でもでも男ちゃんならやってくれるっしょ? 信用してるぜ、おれっち!」

男「…信頼されるのは良いけど、でもさ、俺だってうまく出来るか自信が…」

イケメン「大丈夫さ。オレだっている、わからないことがあったら皆で話しあおう」

339: 2014/06/02(月) 14:25:32 ID:cQN7dhlY
男「……おう」

イケ友「うっし。明日にはおもしれーメニューとか、考えてきちゃるぜ!」

イケメン「期待してるよ。じゃあ男君、生徒会に報告をしに行こうか」ガタリ

男「え、でも喫茶店だけしか決まってないけど?」

イケメン「内容は後で十分さ。そもそもクラスごとの催しを、まず報告しとかないとね」

男「なるほど…じゃあイケ友、今日は先に帰っててくれたら」

イケ友「え? 待ってるよおれっち?」

男「そ、そお? じゃあ待っててくれたら…うん、嬉しい」

イケメン「では、ちゃっちゃと報告をしてみんなで帰ろう」


~~~~~


イケメン「……」コンコン

男(ここが生徒会…在学してながら一度も見たことなかったな、俺)


「鍵は開いてるわ。入って」

340: 2014/06/02(月) 14:36:08 ID:cQN7dhlY
男(女の人の声…)

イケメン「失礼します。文化祭でのクラスの催しするものを報告しに来ました」ガラリ

「そう。ありがとう、何年何組かしら」

イケメン「二年B組です。今年は喫茶店を──」

男「……」

「はい、無事に受理したわ。今年は一般のご来客も多いから、無茶なことはしないように」

男(…って、あれ? この人って──生徒会長さんじゃあ…無かったっけ?)

会長「競争意識で盛り上がるのは結構だけど、もし怪我人が出ればそれだけで文化祭は跡の残るものになるのだから」

イケメン「わかってます」

男(えっと…イケ友が言ってた通りだとすると、この二人って…)

イケメン「さて、帰ろう男君。イケ友が待ってる」

男「うぇ? あ、うん! じゃあこれで…」ペコリ

会長「…………」ジッ

男「……?」

パタン

341: 2014/06/02(月) 14:41:58 ID:cQN7dhlY
イケメン「ふぅ」

男「な、なあイケメン…」

イケメン「うん? どうしたんだい?」

男「…そのあの人って生徒会長さんだよ、な?」

イケメン「ああ。今年で連続三回目の会長さんだよ、凄い人だ全く」

男「本当だよな……連続三回の会長さん!? なんだそれ!?」

イケメン「おや、知らなかったのかい? あの人は、入学して一年目から会長になり──」

イケメン「最後の三年目までずっと会長を務めきった。結構学校じゃ有名な話だけど」

男(全然興味なかったから気付かなかった…けど、一年生から生徒会長とかどんだけだ…)

イケメン「おやおや~? もしかして、男君はああいったクールなお姉さん系が好み?」

男「ち、違うってば」

342: 2014/06/02(月) 17:25:03 ID:Ku3S9AOg
イケメン「なんだ、違うのか」

男「…違う。間違ってもあんな──その……あんな人を好きになること、ないと思う」

イケメン「え?」

男「なんか上手く説明できないけれど、その、なんつーか……」

男「っ……眼が怖い」

イケメン「…君に言われたらどうしようもないね」

男「う、うるさいな! 冗談で言ってるんじゃないぞこっちは!」

イケメン「ははっ。わかってるさ、そうか君にはそう見えたのか──ふむ、やっぱり君は凄いよ」

男「え、なんで?」

イケメン「オレも同意権ってコト。あの人の眼はどこまでも他人を見通そうとするような、うん、変な感じがするから」

男「……」

イケメン「さーて。今日はもう帰ろう、話し合いで疲れてしまったし」コキッ

男「ああ、うん…帰ろうか」

343: 2014/06/02(月) 17:31:22 ID:I1PET81M
イケメン「ふんふーん」スタスタ

男(あーもう、上手く聞けなかった。俺が言いたかったのはそうじゃなくって──)


『イケメンの元カノだしな』


男(──……なのに全然そんな空気感じなかった、むしろ他人に近いような接し方)

男(一旦別れた関係性って、あんなモンなのかな。わ、わからん…付き合ったことも別れたこともないし…)スタスタ

イケメン「ぶはぁっ!? な、なんだそれ!?」

男「ん?」

イケメン「ちょ、男君!? こっちこっち来て早く! コイツ逃げるから!!」

「あっ!? ちょ、ばか……! 呼ぶんじゃないわよヘンタイ!! やめ、放しなさいよコラ───ッッッ!!」

男「どうしたんだよ一体、騒いでたら怒られる………」

女「あ」

男「……なに、その格好」

イケメン「ぶふっ! め、メイド服似合ってるぞ…女…ぶふふっ!」

344: 2014/06/02(月) 17:36:52 ID:NAlmLCKM
女「ッ~~!! 見るんじゃにゃい!」

男「…噛んでるよ」

女「うるさいうるさい!」

イケメン「そういえば、女のクラスじゃメイド喫茶だったか。噂では男子もメイド服を着るとかなんとか…でも、ははっ」

女「っ! な、なによっ!?」

イケメン「いやいや。オレは言うこと無いさ、けれど男君はどう思う?」

男「お、俺に振るの!? えっと、そのー……」チラリ

女「っ………」びくぅ

男「とても似合ってる、っていうか、うん」

女「…うるさいわね…っ! なにバカ正直に感想言ってるのよ…っ!!」

男「ええっ!? だって普通に可愛いって思うし…っ?」

女「! だぁぁぁあああもうっ! だからコイツに見せたくなかったのよ! 絶対に惜しげも無くいいそうで!!」ブンブンブン

男「ちょ! なに、やめろって殴るなよ!」

345: 2014/06/02(月) 17:46:51 ID:gybBIEfw
イケメン「それが男君の良いところだ」ムフー

男「なんか俺が馬鹿みたいな言い方はやめろ…! ちょ、痛い痛い!」

女「ふーっ! ふーっ!」

男「その格好で暴れると、待って、本当に危ないから!」

男(スカートが短いから! み、見えちゃうから!)

イケメン「なにはともあれ。どうしてこの時期にその格好してるんだ?」

女「っ……実行委員会の子が着ろってうるさかったのよ! だから、仕方なく…!」

イケメン「なるほどな。けど周りから見られたくないのなら教室から出なければ良いだろう」

イケメン「ああ……もしや誰かに見せたかったのか?」

女「ち──違っ…!」

イケメン「恥ずかしがるなよ。お互い、幼馴染だ。阿吽の呼吸で分かることもある」

女「ッ……いい度胸じゃないド変O…! そこまでハッピーに脳味噌腐ってれば、殴っても痛みを感じ無さそうね…ッ!」

男「あ。なんか後ろから沢山の人がやってきたけど…あれって女さんのクラスの人?」

346: 2014/06/02(月) 17:58:58 ID:38mQ.fd.
女「ぇ」くるっ

「女ぁー? 写メちゃんと撮れてないんだから逃げるんじゃない!」

「無駄に男子のキモい女装ばっかじゃ空気氏んじゃうわ! 早く戻ってこい!」

女「ひっ」

男(ああ、逃げてきたのか…)

女「あ、あああ、あんた達! もう金輪際着ないわよ絶対! 本番はあたしを除いだ女子全員で着なさいよ!?」

「無理無理ー」

「どーでもいいけど、恥ずかしいならむしろ出回らないほうがいいよ? なんか既に写メがラインで回されてるし」

女「な、なによそれ──!! ちょっと、どういうことよ───!!」

男「……」

イケメン「さて帰ろうか。明日は女のクラスに負けないほど盛り上げていこう」

男「そ、そうだな。それじゃあ女さん、また明日…」フリフリ

女「っ……ああ、もう! じゃあね男!」

男「………え」

347: 2014/06/02(月) 18:05:22 ID:38mQ.fd.
男(今、初めて名前で呼ばれた…気がする)

ワイワイガヤガヤ

男「……へへ」

イケメン「? どうしたんだい?」

男「い、いや! なんでもない…うん、なんでもないっ」スタスタ

イケメン「……。ははっ」


帰宅路


イケメン「ったく、イケ友強すぎやしないか?」

男「ゲーセンに入り浸ってるみたいだし、結構やりこんでると思うけど」

イケメン「それにしたって強すぎる。こっちは千円もつぎ込んだのに、アイツは百円だけで……」

男(まぁそれでもイケメンが格ゲー弱すぎるってのが問題だけど…言わないでおこう)

イケメン「……。明日からは忙しくなるね。お互いに実行委員だから助けあって行こう」

男「あ。うん、そうだな……というか何で俺実行委員になってるんだろう」

348: 2014/06/02(月) 18:12:36 ID:38mQ.fd.
イケメン「おや覚えてないのかい? オレが推薦したんだ、男君が良いってね」

男「お前…何時の間に…!」

イケメン「ふふん。これは見過ごせない青春事項だからだよ、君との契約は守らないとね」

男「せ、青春? ただ問題を起こしただけだろ…!」

イケメン「大丈夫。君だけに押し付けることはしない、オレは一年の時も実行委員だったからね。やることの勝手はわかってるつもりさ」

男「…ま、まぁお前が言うなら…けど、足引っ張っても怒るなよ…俺あんまり自信ないから…っ」

イケメン「──……いやむしろ君が……」

イケメン「…そうだな。わからないことがあったら是非に聞いてくれ、全力で頼っていいぞ!」

男「…お、おう」

イケメン「今年は楽しめるといいね、文化祭」

男「…? そうだな、きっと楽しくなると思う」

イケメン「……。ああ、絶対にそうしてみせる」

男「なんだそれ、契約だからってお前が頑張りすぎても駄目なんだぞ…? 疲れて倒れでもしてみろ、周りから俺がなんて言われるか」

349: 2014/06/02(月) 18:19:05 ID:38mQ.fd.
イケメン「おお、確かにそうだ。気をつけないと駄目だ」

男「…ったく」

遠く、橙色に染まりゆく雲ひとつない空を見上げて、彼は微笑う。
何時もどおり表情。変わらない雰囲気。

けれど、コイツが零した言葉が気になった。


『──今年は楽しめるといいな、文化祭』


男(それじゃあまるで、去年の文化祭は──)

イケメン「お。何時ぞやのクレープ屋があるよ男君、食べていくかい?」

男「…え、あ、うん」

分からないけれど、酷く心にこびりつく不安はきっと勘違いだって思うことにした。
今年の文化祭は楽しく過ごせるのだと──


~~~~~~

男「よっと。これで全部かな、報告書は」

イケメン「ごめんね。用事を終わらせたらすぐに向かうから」

350: 2014/06/02(月) 18:30:05 ID:38mQ.fd.
男「役割分担だろ。そっちは手配の準備、こっちは報告」

イケメン「ん。そうだね、けれどオレがそっちをやっても──」

「イケメンくーん! 早くしないとお店の人、怒っちゃうよー?」

男「…そら、互いに得意なことをした方がいい、それとも俺をあの中に放り込むつもりなのかよ」

「きゃっきゃっウフフ」
「ねーねー? これどーおもう?」
「いいんじゃなーい?」

イケメン「…わかった。じゃあくれぐれも気をつけて」

男「気をつけるって、何をだよ。わかったから早く済ませてこいって」トン

イケメン「ああ…じゃあこれで」

男「……さて、さっさと報告を済ませに行くか」


生徒会室 前


男「すみませーん」コンコン

ガチャガチャ

男「あれ? 鍵が閉まってる…」

351: 2014/06/02(月) 18:37:55 ID:38mQ.fd.
男(おかしいな。この時期は報告やら雑務で、無人な訳がないと思うんだけど──)チラリ

男「…ん…?」

男(窓の外。校舎裏に居るのは……会長さん? なんであんなところに、でも、丁度いいか)クルッ


校舎裏


会長「…あら」

男「えっと、会長さんですよね? その二年B組の報告書を持ってきたんですけど…」

会長「鍵が閉まっていたのね。ごめんなさい、仕事があったので席を外していたの」スッ

男「そ、そうなんですか。あ、こ、これが報告書です…」

会長「ありがとう。少し目を通させてもらってもいいかしら?」

男「…ど、どうぞ」

会長「すぐに済むわ。時間は取らせないから」パラパラ

男「………」

会長「………ふむ。良い出来ね、けれど珈琲を作る際の道具の準備が曖昧ね」

352: 2014/06/02(月) 19:04:51 ID:38mQ.fd.
男「そ、そうですか? 確か準備は……えっと、自分がするんですけども」

会長「ええ。だから心配なの」

男「……。あの、確かに不慣れなことも沢山あると思いますけど…準備ぐらいは…」

会長「きっと上手く出来るはず、かしら」

男「……はい」

会長「一つ。良いことを教えてあげるわ、希望的観測は結局のところ希望でしない」

会長「──生み出すのは最初から最後まで、結果という答えで決まるものなの」

会長「私は少し不安に感じるわ。貴方に上手く事を運ぶことが出来るのか」チラリ

男「…っ…」ビクッ

会長「どうかしら。ここまで言われて貴方に『絶対に成功させることが出来る』なんて言える?」

男「い、いやしなきゃ駄目じゃないですか。クラスで決まったことなんですし、俺がどうこう言える立場じゃないって…」

会長「なるほどね。じゃあ貴方は人の意見で、個人の感情が変わってしまうのね」

男「っ……なに…」

会長「出来る出来ないは元より関係ない。貴方は他人の意見が最重要、可能ごとを最初から──他人任せにしている」

353: 2014/06/02(月) 19:42:45 ID:38mQ.fd.
男「っ…」

会長「貴方自身は一体何をしたいのかしらね。何を望んで、何を行いたいのか。もしかして自分でも気づいてない?」

会長「ねぇ気になることがるのだけれど。聞いてもいいかしら」

男「な、なんですか…?」

会長「貴方どうして実行委員会に立候補したの?」

男「それは…っ」

会長「私の見立てだと、どうにも貴方が自主的にやったようには思えない。きっとそれって、他人からの意見だったからじゃないかしら?」

会長「その意見に流され、身を任せ、なんら疑いもなく課せられた仕事をこなす。本来の意思とは無関係に」

会長「──貴方は何も決めていない、ただ、周りの意見に良かれと従う奴隷……ふふふ」

男「ッ」

会長「そんなに泣きそうな表情をしないで頂戴。少し、楽しくなってきてしまうから」

男「……なっ、なんですか一体…! 急にこんなこと言われて、俺…!」

会長「困る? いえ、貴方は困らないはずよ。だってそれが良かれと思ってるのだから、困るわけないじゃない」

会長「──それが貴方の生き方なのよ。身分相応に存じた行動基準、立派だわ」

354: 2014/06/02(月) 19:52:18 ID:38mQ.fd.
男「…っ……」

男(駄目だ、この人に言い返したい。何を言ってるんだって、でも、凄く心がざわついて…)

会長「一体、こんな子に──あの子は何を救われたんだか」ボソリ

会長「ねえ男くん」スッ…

男「な、にっ?」ビクッ

会長「貴方のこと、私はずっと前から知っていたわ。それはもうずっと前から」

男「……っ…」

会長「どうしてなんて、気になってしまう? ええ私だって不思議なの、こんな一般生徒でしかない人を」

会長「私が記憶に留めておこうなんて、今までの私じゃあり得ないことだから」

男(顔が近いっ)

会長「それにはきっと理由がある。貴方を憶えておかなくちゃイケない、それ相当な訳が」

男「っ………イケメン…」

会長「……」

男「イケメンが…何か、関係あるんですか…?」

355: 2014/06/02(月) 20:01:33 ID:38mQ.fd.
会長「あら意外──誰かから、私と彼の関係性を耳にしてたの?」

男「貴方とイケメンが…付き合っていた、ことぐらいは…」

会長「ふーん。会って間もないはずなのに、なるほどね。じゃあ愚弟かしらね」

男「…っ…」

会長「あの性格なら言い兼ねない──けれど、貴方はどうして彼が関係あると思うのかしら?」

男「……それは…」

ああ、眼が怖い。
唯一彼女に対して思えた感想だったものは、そう、それだけだった。
けれど違う。己に対して向けられた瞳を怖がってるわけじゃない。

自分を見るときの瞳は普通だった。そう、今も同じく普通の人だった。

けれど、イケメンを見る時の目は違って──鷹のよう。
猛禽類を想像させる双眸は、静かに、一切なんら感情を纏わさせず。

食い殺さんばかりに、鋭かった。

会長「へぇー」

男「うっ…」

会長「過去を知った上での答えではなく、ただ私自身を視た瞬間に導き出した答えってことかしら」

356: 2014/06/02(月) 20:08:56 ID:38mQ.fd.
会長「人の意見に流されるのは躊躇いないのに、人を見透かすことは慣れているのね」

会長「──むしろ観察眼を得たからこそ、そんな唐変木な人間性になり得たのかしら」

ただただ、思う。
きっと勘違いじゃない。むしろ勘違いであって欲しいが。

男(この人。俺のこと嫌ってる)

わかっていたことだった。初めから顔を突き合わせた時に、とっくに気づいていた。
理由がわからないけれど、会話をしていた限り、イケメンが関わってることは何となく理解できた。

会長「……」

男「…っ」

見つめられる。
自分とは到底ランクの違う観察眼を持って、心の隅から隅まで覗かれている。

会長「理由は一つよ男君」

男「…なん、ですか」

会長「彼は貴方と居ても救われない」

男「救われない、って……一体何のことですか」

357: 2014/06/02(月) 20:14:44 ID:38mQ.fd.
会長「貴方は彼から望まれたんじゃなくて? 自分を救って欲しいと、助けて欲しいと、なんら恥ずかしげもなく頼んできた」

男「っ? それはたしかにそうでしたけど、それは──」

会長「冗談に思えた? 人とは違いすぎる悩みに、ネジの一本でも足りないやつだと感想を抱いた?」

男「……っ…」

違う。そうじゃない、その話が今とどんな関係があるのかと。

会長「そう思えたのなら、貴方は忘れているのね。彼が一回貴方から救われてることを」

男「救われてる…?」

会長「今から一年前。文化祭があった頃に」

男「…一年の時の文化祭…?」

会長「あら、これは本当に──ふふふ。だからあの子も出向いたって訳ね。変わっても心はしたたか、ふふっ」

男「なにを、言ってるんですか…!」

会長「そういうことよ。貴方が分からないことを私達は知っているの。私と彼は、そういった関係なのだもの」

…何故か、カチンと来てしまった。

358: 2014/06/02(月) 20:22:55 ID:38mQ.fd.
男「それは…っ! 以前の関係性じゃないですか、今は違うっ」

会長「元よりスキ合っていたことは変わりないわ。接吻だってしたし、勿論、その後のことも済ませてる」

男「うっ…! だ、だとしても! 今更イケメンに何を…!」

会長「あら心外ね。私は彼に何かさせようとしているわけじゃないわ、ただただ、心底心配をしているだけ」

男「一体それは…!」

会長「言えるわけないわ。さっき言った通り、私達が知り得ることだもの」

男「…っ…」

会長「それとも貴方は秘め事を除きたがる、野次馬根性の塊なのかしら」

男「…違う、そうじゃなくて、俺に関係あるような口ぶりだった…!」

会長「──ふふふ、そうよ」

男「っ…!」

会長「私は貴方に用がある。彼にとっても重要な事だけど、それでも、貴方に言いたいことがあるの」

男「…それは、」

会長「ねぇ聞いたことあるかしら? 彼から、彼にとっての一番秘密に従ってるコト」

359: 2014/06/02(月) 20:27:07 ID:38mQ.fd.
男「…秘密にしたがってる、こと?」

それは──突っ込み不足のことだろうか。
いや、そんなのは決して隠し通そうとするまでのことじゃないはずだ。

会長「ふふふ。なら教えてあげましょうか、彼にとって人生最大のトラウマとなってることを──」

スッ

男「ッ…~~!」


会長「──彼は過去に叔母を頃してるのよ」


男「こ、頃し…ッ?」

会長「まぁ嘘だけど」

男「…からかわないで、くださいっ」

会長「からかってないわ。本当のことをいってるだけだもの、けれど、本当でもない」

男「なん、ですかそれは…!」

会長「なにかしらね。けれどそれは──貴方に望んだことでもあるのよ?」

360: 2014/06/02(月) 20:36:37 ID:38mQ.fd.
男「俺に…?」

会長「そう望まれたんじゃなくて? 助けて欲しいと、こんな自分の助けてくれるのは君しかいない──なんて」

男「そ、そんなたいそれた話じゃなかったですよっ」

会長「そうでしょうね。だけど、彼にとってはたいそれた話だった。貴方にはちゃんと伝わらなかっただけだから」

男「…っ…そんな、こと…」

会長「ふふふ。言えるのかしらね、そんなことないなんて。他人の意見に流されることが基本の貴方に」

会長「──だから言わせて頂戴。そんな無知な貴方はきっと彼にとって、大きなキズを与える人間となり得る」

会長「…ねぇ、ねぇでも実は貴方は気づいているんじゃなくて?」

男「……」

会長「彼が望んでることが、何処か違うんだと。言葉にしているより、もっと重たいものなんじゃないかと」

会長「…そう知り得た貴方は、慣れないことをし始めようとしてるんじゃなくて?」

会長「こんなちっぽけな自分でも彼の手助けになるのなら、頑張って身に余ることでもなんだってしようなんて」

会長「──思って、こんな場所に居るんでしょう?」

会長「けれど流されることが普通だった貴方に、出来ることは限られている。言葉にすること自体難しいんだって、わかっている」

361: 2014/06/02(月) 20:45:36 ID:38mQ.fd.
男「……違う」

会長「違わないわ。貴方はとっくに気づいてる、気づいてないふりを続けてるだけ」

会長「だって楽しいものね。彼と付き合いを続けていれば、貴方が望めなかった生活が得られるんだもの」

会長「彼が望んだことだけを、やれることだけをやっていれば、自分は幸せでいられる」

会長「…そう、だから貴方は『彼が本当に望んでることを知らないふり』をすればいい」

会長「難しいとわかってるから、今の生活が壊れることを恐れ躊躇い、踏み出せないならいっそ」

会長「──彼が抱える問題を、知らないで付き合ったほうが楽だと」

男「違う…っ」

会長「なら教えて頂戴。貴方は知り得た機会はたくさんあったはずよ? けど、何もしなかったのは何故?」

男「っ……」


『それも含めて、イケメンの様子も気がかりだったし。ここんところ元気なかったしなー』
『……。アイツをあんな楽しそうにさせるなんて、魔法以外に何があるっていうのよ』


男「…違う、それはきっとアイツがただ突っ込みが足りないって…!」

362: 2014/06/02(月) 20:53:44 ID:38mQ.fd.
会長「突っ込み?」

男「そ、そうだ! アイツは突っ込まれる機会が…全然なくって、それを俺に求めただけで…!」

会長「ふ。ふふっ、あははは! ははは!」

男「…ッ…!!」

会長「突っ込みを求めた…? ただ、それだけですって…? ふふふ、なるほどね。確かに周りにはその程度にしか思われないかもね」

会長「彼の重要な悩みなんて結局は他人にとってその程度。彼にしか分からない疑問なのだから、いい理由付けを思いついたものね…尊敬するわ」

会長「アレはその程度じゃないものなのに。誰彼望んで得られる問題じゃない、むしろ他人が羨むものでしょうから」

会長「決まったわ。これでもう貴方を彼に近づけてはいけないと、私の中で決定づけられたわ」

男「なにを…」

会長「役者不足よ大根芝居さん。貴方の思惑なんてとっくに彼にバレているし、そもそも私が告げなくても、きっと彼が何時かに自爆していたはず」

会長「…ならいっそ、私がその着火点になったとしてもいいわよね?」グイッ

男「なに、え、なんです、か……?」



会長「──私と付き合いなさい、男君」

363: 2014/06/02(月) 20:58:42 ID:38mQ.fd.
男「なっ…えっ!?」

会長「分かる? 男女の関係、アイラブユーなこと」

男「ちょ、なんでそうなるんですか…?!」

会長「何故かしら。事の真相を気づくことは──もう貴方に権利はない」

会長「…生徒会室の鍵。実はわざと閉めていたの、貴方をここに誘導させるために」

会長「告白するなら校舎裏。定番じゃなくて?」

男(意味がわからない…!!)

会長「私と貴方が付き合えば、きっと彼は動かざる負えない。それは彼にとって──」

会長「──いえ、言葉にする必要は無いわね」

男「なんですか一体…! 俺、もう教室にっ」

会長「……」

ぐいっ

男「あ…」

やばい。この距離、近すぎる、口が──

364: 2014/06/02(月) 21:01:33 ID:38mQ.fd.
会長「………」

男「んっ」


これは、案外、硬いというか、ボコボコというか、


男「……」

手のひらにくちづけしてるよな、

男「って、手のひらだこれ!」

会長「気配──が全く感じられなかった。何時の間に、貴方、」

男「えっ?」


唇に感じた感触。会長と俺との間に挟み込まれた大きな手のひら、その持ち主がすぐとなりに居た。


眼鏡「……」ムッスー

男「…せ、先生?」

会長「先生?」

365: 2014/06/02(月) 21:02:50 ID:38mQ.fd.
男「ど、どうしてここに──って違うんですこれは」

366: 2014/06/02(月) 21:06:16 ID:38mQ.fd.
男「ど、どうしてここに──って違うんですこれは! なんていうか、違くてその!」

眼鏡「……」フルフル

男「え…? 浮気は良くないって、違いますよ!? 浮気だなんて、えっ!? そもそも誰を恋人基準で…!?」

眼鏡「……!」ピクッ

男「…?」

眼鏡「っ……」カァァ

男(なぜ顔を真赤に…?)

会長「貴方…」

眼鏡「………」チラ

会長「…隣のクラスの」

眼鏡「……」フイッ

男「あの…」

眼鏡「……」クイクイ

男「え、もう帰ろうって…いや、まだ話し合いっていうか…その報告書を出してないんで…」

367: 2014/06/02(月) 21:09:56 ID:38mQ.fd.
眼鏡「……」スッ パンパン

会長「……」

眼鏡「……」グイッ

会長「……」スッ

眼鏡「……」

会長「……」

眼鏡「……」

会長「……なにかしら」

眼鏡「……」スッ

グイッ スタスタ

男「あ! ちょっと、待ってください! そんなに引っ張らないで…!」

会長「男君。私は諦めないわよ」

男「…!」

会長「きっと彼から貴方を引き離してみせる。貴方は救い手じゃなくて、希望をちらつかせるだけの──悪魔なんだってことを」

368: 2014/06/02(月) 21:13:06 ID:38mQ.fd.
~~~~

男「……えっと、ありがとうございます」ペコリ

眼鏡「……」フルフル

男「色々と…思う所があると思いますけど、その、聞かないでくれたら…」

眼鏡「……」カチャ

男「あ、ありがとうございます! すみません!」

眼鏡「……」スッ

なでなで

男「あ…」

眼鏡「……」なでなで

男「えっと…くすぐったい、です」

眼鏡「……」なでなで

男「っ……」

眼鏡「……」スッ

びしっ!

369: 2014/06/02(月) 21:16:02 ID:38mQ.fd.
男「あいたっ」

眼鏡「……」コクコク

男「あ。ハイ……そうですよね、気をつけます!」ペコリ

眼鏡「……」フリフリ

男「……」

怒られてしまった。
なぜか口を開かなくても、あの人が言ってることがわかってるのが不思議でたまらないけれど。

あんなこと、しないほうがいい。
きっとよくないことが待ってる。

男「…ありがとうございます」

男(…けど、どうしたらいいんだろう)

生徒会長が言ったことを、俺はどう受け止めたらいい。
否定したいことだらけだったのに、言葉は上手く口からでなくて。

男(…まるで俺がイケメンを利用してるみたいな、言い方)

違う。俺は一度もそう思ったことなんて、無い。

370: 2014/06/02(月) 21:19:31 ID:38mQ.fd.
男「ただ──」


俺はアイツが抱えることを知らないふりをしてたいたことは──


──ありえるのだろうか。わからなくて、ただ、ただ、怖くて。


男「……」


ポ口リと崩れ始めた日常は、きっとみるみるうちに崩壊を続けて。
きっとその後に出来るものは元通りなモンじゃなく。

変わり果てた、違う未来が待ってるのだろう。



第十話『俺の突っ込みの突っ込み』

371: 2014/06/02(月) 21:23:44 ID:38mQ.fd.
上編 終

今回は三部作で、上中下となってます。
終わりも近づき、物語は本題へ。

次は楽しい文化祭!
当初のノリは違えどやりきるつもりなのでお付き合い頂けたら

ではではノシ

男「見られてない?」イケメン「…」じぃー【後編】

引用: 男「見られてない?」イケメン「…」じぃー