154: 2009/08/02(日) 11:09:00 ID:ktLY7c7e

最後までお読み頂けたら幸いに感じます。

155: 2009/08/02(日) 11:11:06 ID:ktLY7c7e

「せいっ、せいっ」
まだ朝もやが立ち込める中、肚から出される声と木刀の切っ先が空を切り裂く時のビュッ
という鋭い音がほぼ無音の世界に響く。他に聞こえるものと言えば、梢が風にそよぐ音か
目を覚ましたばかりの小鳥たちのさえずりばかりだ。ただ、それも坂本美緒少佐の気合に
気圧されてか、今はだんまりを決め込んでいた。
「せいっ、せいっ」
坂本少佐は額に汗一つかかないまま、毎朝の日課に一人打ち込んでいた。そんな時、ふい
に人の気配を感じ、坂本少佐は手を休め辺りの気配を伺った。
わずかに聞こえる靴音の方向に視線を向けると、視界に入ってきたのは、ふらふらとした
足取りで歩く、サーニャ・V・リトヴャクの姿だった。恐らく夜間哨戒を終え自室・・・
いや、エイラの部屋か? に戻るつもりが、寝ボケてこんな方向へと来てしまったのだろう。
坂本少佐はやれやれと思いながらサーニャに声をかけようとする。
すると、サーニャの体は突然傾き、そのまま地面へと倒れようとした。坂本少佐は慌てて
駆け寄るとそのままサーニャを抱きすくめる。大丈夫かと思い、坂本少佐がサーニャの顔
を覗き込むと、そこには坂本少佐の胸の中で幸せそうな顔を浮かべスヤスヤと寝息をたて
るサーニャの顔があった。
「しかたがないな」
坂本少佐はそうつぶやくと、音をたてないように木刀をそっと地面に置くと、サーニャを
かかえて基地に向かい歩いて行った。

156: 2009/08/02(日) 11:14:38 ID:ktLY7c7e

坂本少佐は、道すがら誰かにあったらサーニャを任せようかと思ったが、時間が時間のた
めか誰とも会うことはなく、サーニャをかかえたまま廊下を黙々と歩いていた。その時、
サーニャが何かつぶやいていることに気が付いた。坂本少佐は、顔を傾け耳をサーニャの
口元に近づける。
「・・・さま」
(さま?私のことを母親だとでも思っているのか)
坂本少佐はそう考え、口元をほころばせようとしたが、
「お父様・・・」
そんなサーニャの言葉に、それは苦笑いに変わった。

サーニャの自室にたどり着くと、坂本少佐は右手で慎重にノブをひねって部屋の中にへと
入った。そして、サーニャをベッドの上に静かに横たえた。
(着替えはどうしたらいいだろう・・・)
坂本少佐はあまり訪れたことのないサーニャの部屋の中を見渡す。部屋には不自然なほど
にチェストが溢れており、
(これでは仕方がないな)
と、坂本少佐はこの時ばかりは、いとも簡単に白旗を上げた。
坂本少佐は手近にあったシーツを手に取ると、静かに眠るサーニャにかけ、そのまま部屋
を立ち去ろうとした。
ところが、背後から突然物音が聞こえた。何事かと振り向くと、そこにはおもむろに服を
脱いでいくサーニャの姿があった。
「おっ、おい」
坂本少佐がそんな言葉をかける間もなく、サーニャは服を脱ぎ散らかすだけ脱ぎ散らかす
と何事もなかったのように再びベッドに横になり、シーツに身を包んだ。
坂本少佐はその一部始終にどこか呆然としながらも、
「・・・片づけた方がいいのか」
とつぶやいていた。
坂本少佐は床に膝をつくと、脱ぎ散らかされた服を手に取っていく。そして、チラリと眠
るサーニャに視線を送った。そこには、罪しらずな罪つくりの寝顔が浮かんでいる。
「宮藤だったら叩き起こしているんだがなぁ」
そんなことをつぶやきながら、
(畳むことぐらいなら私にもできるよな)
と服にジッと視線をそそぎながら、僅かな不安が頭をもたげていた。
「んっ・・・」
「・・・おっ」
「違うのか・・・」
坂本少佐は、早速作業に取り掛ってみたものの、かなりの苦戦を強いられていた。自分で
は着たことすらない服ばかりだから当然といえば当然なのだが。
「・・・このベルトというのはどう畳めばいいんだ?」
そうつぶやいて、ベルト(あちらでいうスカートのようなもの)を手に持つと、それを表
や裏にひっくり返しながら、またも頭を悩ませるのであった。

157: 2009/08/02(日) 11:24:30 ID:ktLY7c7e
かなり手惑い、正直出来あがりの形も良くはなかったが、なんとか服を畳み終えると、そ
れをベッドに置き、今度こそはとサーニャの部屋を去っていった。坂本少佐は再び基地の
外にへと向かいながら、心なしかこりを感じる自分の肩を揉みほぐすのであった。

その頃、二つの部屋では朝の静けさには似合わぬ煩悶を、二人の部屋の主が演じていた。

「何よ、何よサーニャさんたら。坂本少佐に、あんな・・・だっこなんかしてもらって!!」
先ほど、双眼鏡で見た光景を思い出しながら、ベッドに横に寝そべるペリーヌ・ク
ロステルマンは、そう言いながらベッドに何度も固めた拳を振り下ろした。
「それは・・・できることでしたら私も坂本少佐にああやってもらいたいですけど・・・」
ペリーヌはその光景を思い浮かべてうっとりとし、人差し指でベッドに意味を持たない線
を何度も引いていく。
「いっそ私もサーニャさんに倣って、寝ボケたふりをして・・・あぁ! でも寝ボケて表
に出て行くなんて夢遊病者みたいじゃないですの。それではむしろ坂本少佐に愛想を尽か
されてしまいますわ・・・。あぁ、どうしたらいいいんですのぉぉぉ」
そう言いながらペリーヌはベッドの上を転がるのだった。

「サーニャが来ない・・・」
そうつぶやきながらエイラ・イルマタル・ユーティライネンは、天井を見つめる。
「なんかあったのかなぁ・・・それとも・・・嫌われたのか?おい~嘘だろ~? サ~ニ
ャ~、来てくれよサ~ニャ~」
エイラは情けない声を出しながら、ベッドの上で転々とするのだった。

そんな二人の煩悶はつゆ知らず、サーニャは静かな寝息を坂本少佐は気合いに満ちた声を
たて続けるばかりであった。

Fin


158: 2009/08/02(日) 12:57:24 ID:MwlV+5bL
もっさー!!
GJ

引用: ストライクウィッチーズpart27