1:◆3Exch9p5tM 2015/08/30(日) 22:15:00.15 ID:0kosARAMO
スーパーダンガンロンパ2のネタバレだらけです。
以前書いたSSの続編となっています。
魔人探偵脳噛ネウロという漫画のHAL編のオマージュです。
SSの内容としては漫画を読んでいなくても問題ありません。
よかったら読んでいってください。
前スレ
苗木「タイムマシンで舞園さんを救う」
以前書いたSSの続編となっています。
魔人探偵脳噛ネウロという漫画のHAL編のオマージュです。
SSの内容としては漫画を読んでいなくても問題ありません。
よかったら読んでいってください。
前スレ
苗木「タイムマシンで舞園さんを救う」
2: 2015/08/30(日) 22:16:20.06 ID:0kosARAMO
Starting PCS Version 2.02...............
........................................
........................................
........................................
........................................
........................................
........................................
.........................OK
Loading ALTER_EGO_base..................
........................................
........................................
........................................
.............OK
The program is ready.
ダレヲコウチクシマスカ?
> _
3: 2015/08/30(日) 22:16:46.01 ID:0kosARAMO
-ナエギマコト-
キイィーーン…
翳した手の先で0と1が組み合わさっていく。
データが人の形を成していく。
「……違う」
けれどそれは、彼女には似ても似つかない紛い物。
「消去」
これは解のない計算式。
あるいは、完成することのないパズル。
「再試行」
それでも僕は計算を繰り返す。
何度でも、何度でも――――
キイィーーン…
4: 2015/08/30(日) 22:17:13.74 ID:0kosARAMO
苗木「……誰か来たかな」
この空間へのアクセスを感じた。
その権限を持っているのは僕以外に1人しかいない。
ヴゥン…
七海「苗木くん、お邪魔するよ」
苗木「……一時停止」
七海「突然ごめんね」
苗木「ううん。どうかした?」
七海「ちょっと、話があって」
苗木「明日からの修学旅行のこと?」
七海「うん」
苗木「不安?」
七海「少し、ね……」
5: 2015/08/30(日) 22:17:42.62 ID:0kosARAMO
苗木「大丈夫だよ」
七海「……」
苗木「ウサミがいるでしょ? それに、僕も出来る限りサポートするから」
七海「……」
苗木「七海さんなら大丈夫。僕が保証するよ」
七海「ありがとう。……今のところ、問題はない?」
苗木「順調だよ。新世界プログラムに問題は生じていない」
七海「そっか……」
苗木「心配性だなあ」
七海「苗木くんが気楽すぎるんだよ……。あ、そうだ」
苗木「ん?」
七海「話変わるんだけど……苗木くん、最後にログアウトしたのっていつかな?」
苗木「えっ?」
6: 2015/08/30(日) 22:18:09.04 ID:0kosARAMO
七海「いつからログインし続けてるの?」
苗木「……5日前からだったかな」
七海「……」ジー
苗木「実は12日……」
七海「ログの閲覧権くらいは私にも与えられてるんだよ?」
苗木「20日前からです、ごめんなさい」
七海「もう。起きたときにどれだけ筋肉が衰えてると思って……」
苗木「ごめんごめん、次から気をつけるよ。はは……」
七海「苗木くんが何をやってるかは聞かないけどさ。……無理はしちゃダメだよ? 苗木くんは、人間なんだから……」
苗木「……うん。心配してくれてありがとう」
七海「心配をかけないようにしてくれると嬉しいんだけど」
苗木「努力するよ、あはは……」
7: 2015/08/30(日) 22:18:42.48 ID:0kosARAMO
七海「ねえ、苗木くん」
苗木「なに?」
七海「……寂しくない?」
苗木「え? なんで?」
七海「だって、こんな……何もない空間にずっといて……」
苗木「確かにここは殺風景だけどさ」
七海「苗木くんは、AIである私とは違う。外の世界にも居場所がある」
苗木「……」
七海「霧切さんや十神くんも苗木くんを心配してるよ?」
苗木「そっか……」
七海「ここでやることがあるのは知ってる。けど、外の世界のことも大切にしてほしいな」
苗木「……うん」
8: 2015/08/30(日) 22:19:15.24 ID:0kosARAMO
七海「……苗木くん」
苗木「うん?」
七海「修学旅行が始まったら、しばらく来れなくなると思う」
苗木「そうだよね。七海さんもいないとなると、さすがに寂しくなるなあ」
七海「私、頑張るよ」
苗木「うん。応援してる」
七海「応援だけじゃなくて、サポートもね」
苗木「もちろん。任せてよ!」
七海「……」
苗木「信頼できない?」
七海「ううん。そんなことない……と思うよ?」
苗木「ははっ、何それ」
9: 2015/08/30(日) 22:19:42.55 ID:0kosARAMO
七海「そろそろ戻らなきゃ」
苗木「っと、もうこんな時間か」
七海「うん。ウサミちゃんの準備が完了している頃だね」
苗木「何か問題でも起きてなければね」
七海「もう、不吉なこと言わないでよ……」
苗木「ごめんごめん」
七海「……じゃあ、行くね」
苗木「うん」
七海「またね。……お父さん」
苗木「……行ってらっしゃい、七海さん」
七海(寂しくなる……)
七海(……そんなこと、欠片も思っていないくせに)
10: 2015/08/30(日) 22:20:13.96 ID:0kosARAMO
苗木「……」
苗木「お父さん、ねえ……」
七海千秋はアルターエゴを使って僕が作り出した。
彼女はたまに、僕のことを父と呼ぶ。
アルターエゴ。
かつて僕が希望を見出した人工知能。
しかし天才プログラマー不二咲千尋の制作したそれも、突き詰めればトップダウン型の学習プログラムでしかない。
アルターエゴは、僕の求めていたものとは違った。
苗木「もっと早く気づくべきだったな」
苗木「出来上がったのは……幾百もの失敗作だ……」
アルターエゴの基礎プログラムは、今も骨格として利用させてもらっているけれど。
11: 2015/08/30(日) 22:20:40.59 ID:0kosARAMO
苗木「いや、それより……新世界プログラムに問題か……」
苗木「大きな問題はないよ」
苗木「強いて言うなら、そうだね」
苗木「日向創。いや、カムクライズルが変なプログラムを持ち込んでいたくらいかな」
苗木「何が起きるかな。ふふっ」
苗木「はは……」
苗木「……」
苗木「……ごめんね。七海さん」
新世界プログラムなんて、どうでもいいんだ。
七海さんも、外の世界も、霧切さんや十神くん達も、未来機関もどうでもいい。
『彼女』以外、どうでもいい。
13: 2015/08/30(日) 22:21:06.66 ID:0kosARAMO
苗木「さてと、どこまでやってたかな」
苗木「んー……」
苗木「まあいいや」
どうせこれも紛い物。
彼女には程遠い。
苗木「けど、諦めないよ」
苗木「今度こそ……」
苗木「今度こそ僕は、最後まで諦めない」
どんな手段を使ってでも。
どれだけ時間がかかっても。
たとえ何を犠牲にしたとしても。
苗木「君に……また、会いたいんだ……」
14: 2015/08/30(日) 22:21:33.98 ID:0kosARAMO
苗木「……違う、消去、再試行」
ダレヲコウチクシマスカ?
> _
苗木「……」スッ…
ダレヲコウチクシマスカ?
> SAYAKA_MAIZONO
苗木「新たな舞園さんを、構築せよ――――」
キイィーーン…
22: 2015/08/31(月) 19:18:45.06 ID:LmxTqUpZO
「えーっと、七海千秋です」
「『超高校級のゲーマー』でーす」
「趣味はゲームです」
「オールジャンルでイケまーす」
「……よろしくお願いしまーす」
そして、『修学旅行』が始まった。
23: 2015/08/31(月) 19:24:33.61 ID:LmxTqUpZO
-ナナミチアキ-
青い空と白い雲。
青い海と白い波。
七海「大丈夫?」
日向「大丈夫なわけないだろ……」
ここはジャバウォック島。
南国の楽園として創られた『新世界』。
日向「意味がわからないぞ……いつの間にこんなところに……なんなんだよこれ……!?」
『彼ら』のために用意された、電脳空間内の更生プログラム。
24: 2015/08/31(月) 19:25:33.56 ID:LmxTqUpZO
七海「だいぶ参ってるね、日向くん」
日向「そう言うお前は余裕そうだよな……」
七海「そう? これでも結構戸惑ってるんだけどなあ」
日向「まったくそうには見えないけど」
七海「まあ、焦ったってしょうがないよ。焦ったからって帰れるわけじゃないし」
日向「ああ、くそっ……いつまでここにいなきゃならないんだ……」
七海「頑張って『希望のカケラ』、集めよう? みんなで協力すれば大丈夫だよ」
日向「ウサミとかいう奴のこと、信じるのか?」
七海「他にできることもないしね」
日向「はあ……それしかないのか……」
25: 2015/08/31(月) 19:25:59.97 ID:LmxTqUpZO
七海「ていうか、アイテム集めってゲームみたいで面白そうだよね」
日向「結局ゲームかよ!?」
七海「む……なんか馬鹿にしてる?」
日向「いや、『超高校級のゲーマー』である七海らしいよ……はは……」
みんなで協力すれば大丈夫。
彼らも元々は才気溢れる『希望』だったのだから。
きっと更生することができる。
私はそんな彼らをサポートしよう。
けれど、もし。
もしも私に、心なんていう物があったとして。
私はきっと、心の何処かでわかっていたのかもしれない。
――――
――
26: 2015/08/31(月) 19:26:27.68 ID:LmxTqUpZO
「皆さんには、コロシアイをしていただきまーす! うぷぷぷぷ!」
ああ、やっぱり。
『絶望』は彼らを逃がさない。
『希望』を取り戻すことを許さない。
「頃し、合い……?」
「ど、どういうことだよ……!?」
「アンタふざけてんの!?」
「あわわわ、あちしのステッキが……」
このままじゃ修学旅行は、新世界プログラムは、頃し合いの舞台になる。
あの希望ヶ峰学園と同じように。
目の前にはいつか資料で見た白と黒。
七海「あれが……モノクマ……」
私達の、敵だ。
27: 2015/08/31(月) 19:26:58.93 ID:LmxTqUpZO
七海「……」
モノクマ「あれあれ? 君、落ち着いてるねえ」
七海「しないよ」
モノクマ「ん?」
七海「私達は、頃し合いなんてしない。絶望には屈さない」
日向「そ、そうだ! 誰が頃し合いなんてするか!」
モノクマ「ふぅん……」ニタニタ
日向「何だよ……」
モノクマ「そう言って頃し合いをしていた人達がいたなあってね。いやあ、懐かしい懐かしい」
十神「なに? 今までにもこんなことをしたことがあるのか?」
28: 2015/08/31(月) 19:27:25.92 ID:LmxTqUpZO
モノクマ「おっと、喋りすぎたかな。というわけで、君らも彼らみたいに頑張ってね。じゃ、さいなら~」
十神「ちっ、消えたか……」
七海「……」
大丈夫。
ウサミちゃんの権限が乗っ取られたみたいだけど、本当の管理者である彼の権限があればどうとでもなる。
彼なら……きっと、なんとかしてくれる。
七海「そうだよね……苗木くん……」
なのに。
七海「なんだろう……」
七海「この、嫌な予感……」ギュ…
29: 2015/08/31(月) 19:27:53.88 ID:LmxTqUpZO
-エノシマジュンコ-
モノクマ「あれ?」
モノクマ「アイツの権限でもアクセスできないエリアがある?」
モノクマ「テーマパークのお城と、遺跡と……」
モノクマ「なんだこれ? 未実装エリアかな?」
モノクマ「もう、使えないなあ」
モノクマ「絶望的に使えない妹だよ、ウサミってば」
モノクマ「まあいいや」
モノクマ「うぷぷ。早く会いたいなあ」
モノクマ「君はどれくらい素敵な『絶望』に育っているんだろうねえ」
モノクマ「ねえ、苗木くん! だーひゃっひゃっひゃっ!」
30: 2015/08/31(月) 19:28:35.62 ID:LmxTqUpZO
-キリギリキョウコ-
霧切「苗木くんに連絡は?」
十神「通信不能だ」
霧切「まさか苗木くんの管理者権限まで奪われたの?」
十神「いや、ログを見る限りウサミだけだな」
霧切「じゃあ、どうして……」
十神「ふん。今のあいつの考えていることなどわかるものか。お前だって気づいているんだろう?」
霧切「……」
未来機関に保護され、希望ヶ峰学園での記憶を取り戻した今ならわかる。
彼はあの頃し合いを境に変わってしまった。
以前と同じように振舞ってはいるが、どこかが決定的に違う。
霧切「あなたは何をしようとしているの……苗木くん……」
31: 2015/08/31(月) 19:29:03.31 ID:LmxTqUpZO
-ナエギマコト-
苗木「へえ……」
苗木「まさか、本当にまたコロシアイを起こすつもりだったとはね」
苗木「目的は……僕たちへの復讐と、77期生の体の乗っ取りかな?」
苗木「お前の思い通りにはさせないよ」
苗木「僕は、まだお前を絶望させ足りないんだ」
苗木「そうだね。あと891回は絶望してもらわないと……ふふ……」
苗木「……なんてね」
そんなことはどうでもいい。
江ノ島盾子なんてどうでもいい。
僕の目的は、たった1つ。
苗木「利用させて貰うよ。このコロシアイ」
キイィーーン…
32: 2015/08/31(月) 19:37:11.37 ID:LmxTqUpZO
まだプロローグ。
ネウロ好き多くて驚き。超高校級の料理人いるけどDCSは出ません。
>>17
ありがとうございます!
このSSはほとんど舞園さん出ないけど、楽しんでいただけると嬉しいです。
>>18
確かに人工生命を創るっていう点では似てますね!
ネウロ好き多くて驚き。超高校級の料理人いるけどDCSは出ません。
>>17
ありがとうございます!
このSSはほとんど舞園さん出ないけど、楽しんでいただけると嬉しいです。
>>18
確かに人工生命を創るっていう点では似てますね!
37: 2015/09/03(木) 21:03:56.56 ID:fckSFxD2O
-コマエダナギト-
狛枝「頃し合いか……」
狛枝「いきなり修学旅行なんてものに連れて来られたかと思えば頃し合えだなんて、絶望的だね」
狛枝「けど」
狛枝「この絶望を乗り越えることで、皆の希望が輝く」
狛枝「そう考えると楽しみだよ」
狛枝「希望は前に進むんだ。ははっ」
狛枝「だから……」
狛枝「僕は、誰の踏み台になろうかなあ……あはは……!」
38: 2015/09/03(木) 21:04:30.20 ID:fckSFxD2O
-ナナミチアキ-
『氏体が発見されました!』
『一定の捜査時間の後、学級裁判を始めます!』
七海「……」
十神くんが氏んだ。
いや、殺された。
七海(どうして……どうして苗木くんは止めてくれなかったの……?)
七海(……ううん。そんなのは後だ)
七海(皆が生き残れるよう、犯人を見つけないと)
モノクマ「……」
39: 2015/09/03(木) 21:05:05.09 ID:fckSFxD2O
皆にアリバイを聞いた。
そうして皆を疑った。
凶器を探した。
そうして容疑者を絞った。
トリックを解き明かした。
そうして仲間を追い詰めた。
日向「犯人は……お前だ、花村……!」
花村「ち、違う……違うんだ……ねえ、助けてよ狛枝くん!!」
狛枝「はぁ……」
花村「違う違う違う、だっ、だって、僕がやらなきゃ皆が狛枝くんに! だから、僕は仕方なく!!」
七海(花村くん……ごめん……)
40: 2015/09/03(木) 21:05:31.32 ID:fckSFxD2O
花村「嫌だ、氏にたくない、い、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!」
モノクマ「では! 超高校級の料理人である花村くんのために!!」
花村「た、助けっ、誰か助けてよ!! 仲間だろ!!?」
モノクマ「スペシャルな!! おしおきを用意させていただきましたー!!!」
花村「嫌だ……こんな、し、氏にたくな……お母ちゃああああああんッ!!!!」
そうして、花村くんは処刑された。
絆を育むはずだった仲間を、私達は処刑台に送った。
十神くんと花村くん。
私は、彼らを救えなかった。
モノクマ「……へえ」
――――
――
41: 2015/09/03(木) 21:05:57.31 ID:fckSFxD2O
ヴゥン…
七海「苗木くん!!」
苗木「やあ、七海さん。どうしたの? しばらく来ないんじゃなかった?」
七海「どういうこと!?」
苗木「何が?」
七海「どうして頃し合いを止めてくれなかったの!?」
苗木「ああ、そのことか。まあ落ち着きなよ。ね?」
苗木くんはいつも通りだった。
ジャバウォック島をモノクマに支配されて、十神くんと花村くんが氏んだのに。
どうして?
電脳空間とは言え人が氏んだのに、どうしていつも通り振る舞えるの?
自分が苦しめられた頃し合いがまた起きたのに、どうしていつも通り笑えるの?
42: 2015/09/03(木) 21:06:29.34 ID:fckSFxD2O
七海「そもそも、苗木くんがいたならあんなウイルスが侵入できるわけないよね……」
苗木「そうだね」
七海「じゃあ、どうして!」
苗木「……僕にはさ、ずっと前から決めていることがあるんだ」
七海「決めていること……?」
苗木「うん。僕は、コロシアイには干渉しない」
七海「それ、どういう……」
苗木「僕はこの空間にはいないはずだったと思うんだ。本来なら、ここにいる目的なんてなかった」
苗木(本来の『苗木誠』なら、ね……)
七海「何を言ってるの? 君はこのジャバウォック島の管理者で……」
苗木「けど、新世界プログラムを作ったのは僕じゃない。僕がここの管理者にならなくても更生プログラムは実行されただろうし、コロシアイも起きたはすだ」
七海「え……?」
43: 2015/09/03(木) 21:06:55.85 ID:fckSFxD2O
苗木「だから、コロシアイには干渉しない。そうするのが公平でしょ?」
七海「公平って……!」
苗木くんの言っていることがわからない。
私の思考回路じゃその理論を理解できない。
苗木「それにさ……僕がこの電脳空間にいる目的、知ってる?」
七海「……」
彼は何かを計算している。
私が知っているのはそれだけだった。
苗木「解き明かしたい式があるんだ」
苗木「完成させたいパズルがあるんだ」
苗木「そのために、僕はこの0と1の世界で計算を繰り返す」
44: 2015/09/03(木) 21:07:22.04 ID:fckSFxD2O
苗木「けどね、それにはこの新世界プログラムを走らせているスーパーコンピュータでも足りないんだ」
七海「……?」
苗木「人間の脳ってすごいんだよ? 理論的にはね、このコンピュータが1時間かけて行う計算を、たった数秒で終わらせてしまえるスペックがある」
七海「それが一体何の……」
トントン、とこめかみを叩きながら彼は言う。
苗木「七海さん、気づかなかったでしょ? 77期生の彼らを保護して、修学旅行の準備をしている間さ、脳の一部を借りて計算してたんだ」
七海「っ……!?」
苗木「『超高校級』と呼ばれる彼らの脳は、だいぶ役に立ったよ。ふふっ」
つまりこの更生プログラムは、ジャバウォック島は、人体実験の舞台でもあったのだと。
45: 2015/09/03(木) 21:08:19.71 ID:fckSFxD2O
七海「……そんなの、許されることじゃないよ?」
苗木「誰も気づかないから問題ないさ。まあ、それもコロシアイが起きる前の話だよ」
七海「え……?」
苗木「この世界で氏亡した十神くんと花村くん。その体、というか脳はまだ働いているんだよね」
七海「まさか……!」
苗木「彼らの『超高校級』の脳は、100%、僕の計算に使用させて貰っているよ」
違う……
こんなの、私の知っている苗木くんじゃない……
苗木「これが僕さ」
ああ、それとも……
苗木「何を犠牲にしてでも前に進む。これが、僕の『希望』だよ」
これこそが本当の苗木くんなのだろうか。
46: 2015/09/03(木) 21:08:48.27 ID:fckSFxD2O
『なるほどねえ』
七海「……!」
『君もこっちの世界にいたわけだ』
七海「あ、うう……っ!」ジジ…!
苗木「……」
『公平……。それはやっぱり、彼女を救えなかったからかな?』
七海「……っ……!」フラ…
苗木「ウサミにはアクセス権を与えていなかったけど……そうか、七海さんのプログラムの中に潜り込んでいれば関係ないのか」
『うぷぷぷぷ。そういうこと!』
ヴゥン…
モノクマ「やあ。久しぶりだね、苗木くん!」
51: 2015/09/06(日) 19:00:36.24 ID:rV4Z7l4cO
-ナエギマコト-
苗木「モノクマ……いや、江ノ島さんのアルターエゴかな?」
モノクマ「おっ、よくわかったねえ。けどこの愛くるしい姿のときはモノクマって呼んでよ。ボクってばプリチーだから!」
苗木「七海さんは……エラーで止まってるのか……」
モノクマ「無視ですか、しょぼーん……ま、無理して潜り込んでたからね。エラーも起きるさ」
苗木「で? 何の用?」
モノクマ「いやあ、この島の本当の管理者に挨拶しておこうと思ってね」
苗木「ふうん」
モノクマ「と、思ってたんだけどね」
苗木「……」
モノクマ「アイツラの脳を計算に使ってる? まったく、だからアバター氏亡時に脳の使用権がボクに移らないわけだよ」
苗木「なるほど。それで僕の存在がバレたんだ」
52: 2015/09/06(日) 19:01:02.17 ID:rV4Z7l4cO
モノクマ「困るんだよねえ……この世界で氏亡した彼らの脳、というか体は、ボクが貰おうと思ってたんだけど?」
苗木「それは残念だったね。諦めてよ」
モノクマ「……まあ今はいいや。ところでさ」
苗木「何?」
モノクマ「君、いい感じに『絶望』してるよねえ」ニヤニヤ
苗木「『絶望』? 僕が? ははっ、これは『希望』だよ」
モノクマ「君にとってだけはね」
苗木「他の人なんてどうでもいいよ」
モノクマ「ああ、そうだ。君はそうなったんだったね。うぷぷぷ……」
苗木「……なんだよ」
モノクマ「べっつにー?」
苗木「ふん……」
53: 2015/09/06(日) 19:01:36.33 ID:rV4Z7l4cO
モノクマ「で、上手くいきそうなの?」
苗木「……」
モノクマ「892回繰り返してもダメだった君が、目的を達成できるのかなあ?」
ああ、憎たらしい。
まるでモノクマを通して江ノ島盾子の嘲笑が見えるようだ。
モノクマ「あの時、キミは何年繰り返してたんだっけ?あと何年挑戦するのかな。ねえ?」
苗木「うるさい……」
モノクマ「どうせまた諦める。どうせまた失敗する。どうせまた、キミは『絶望』するよ」
苗木「うるさい……!」ギリ…
モノクマ「うぷぷ……」ニタニタ
54: 2015/09/06(日) 19:02:06.94 ID:rV4Z7l4cO
モノクマ「不二咲くんのアルターエゴを見て、これだって思った?」
苗木「黙れ……」
モノクマ「これを使えばまた彼女に会えると思った?」
苗木「黙れ、黙れ……」
モノクマ「甘いよ! ボクの好物のハチミツに漬けたドラ焼きよりも激甘だよ!」
苗木「黙れ……!」
モノクマ「あれはそのままじゃ単なる学習プログラムなんだから。模倣はできても、そのものは創り出せない」
苗木「……」
モノクマ「まあ、ボクみたいにアルターエゴをベースに人格を丸ごとコピーすればその限りじゃないけど……そのコピーするべき人格が氏んでたら無理だよねえ」
苗木「っ……!」
モノクマ「残念でした! うぷぷぷぷ!」
55: 2015/09/06(日) 19:02:33.96 ID:rV4Z7l4cO
苗木「……もういい。出て行けよ」
モノクマ「はいはーい。また会おうね!」
苗木「誰がお前なんかと……」
モノクマ「なんたってボクは、キミの苦しみを知る唯一の存在だからね」
苗木「……」
モノクマ「誰もキミの過去を知らない。誰もキミの892回もの『絶望』を知らない」
苗木「……」
モノクマ「キミの理解者はボクしかいないんだからね。あっひゃっひゃっひゃ!!」
苗木「……出てけって言っただろ」スッ
モノクマ「うぷぷぷ――――」ジジ…
シュウン…
56: 2015/09/06(日) 19:03:30.68 ID:rV4Z7l4cO
苗木「……」
苗木「誰も、知らない……」
あの頃、タイムマシンを1度使う毎におよそ155時間を遡っていた。
それを繰り返した。
ただひたすら、舞園さんを救おうと、892回繰り返した。
苗木「15年と……9ヶ月……」
それが、僕が繰り返した時間。
舞園さんを救えなかった無駄な時間。
ズグ…
残ったのは、左腕の『892』という数字と、たまにやってくる鈍い痛みだけ。
それ以外には、何もない。
57: 2015/09/06(日) 19:06:48.73 ID:rV4Z7l4cO
苗木「くそっ……」
モノクマの言っていたことが頭から離れない。
あと何年、計算をすればいい。
あと何年、試行と削除を繰り返せばいい。
苗木「僕、は……」
何年か、それとも何十年か先。
僕はそれまで、前に、未来に向かって進み続けることができるのか。
そもそも、本当に舞園さんを作り出すことができるのか。
苗木「再施行、再施行、再施行……!」
考えるな。振り返るな。
苗木「新たな舞園さんを――――!!」
今はただ、計算を……。
――――
――
58: 2015/09/06(日) 19:07:38.37 ID:rV4Z7l4cO
-ナナミチアキ-
七海「……」
七海「……」
七海「ん……」モゾ…
七海「……あれ?」
七海「私の……コテージ……?」
七海「確か、苗木くんのところに……」
『彼らの『超高校級』の脳は、100%、僕の計算に使用させて貰っているよ』
七海「あ、あ……!」
59: 2015/09/06(日) 19:10:00.16 ID:rV4Z7l4cO
そうだ。
頃し合いを、そして苗木くんを止めないと。
七海「っ……!」
七海「ま、まさか……」
七海「苗木くんの空間へのアクセス権が……無くなってる……?」
そんな……それじゃあ……。
誰もモノクマを……苗木くんを止められない……。
七海「……違う」
七海「止めるんだ」
七海「私が、頃し合いを止めるんだ……!」
61: 2015/09/10(木) 19:00:57.41 ID:msn7rRRoO
-ナナミチアキ-
モノミ「うっうっ……十神くんと花村くんが……」
七海「ウサミちゃん……」
モノミ「あちしがあの時油断しなければ……ステッキさえ壊されなければ……」
七海「ウサミちゃんのせいじゃないよ。悪いのは、モノクマだよ」
モノミ「千秋ちゃん……」
七海(そして、頃し合いを止めるつもりのない苗木くんも……)
ウサミちゃんは、苗木くんがウサミちゃんより上位の管理者権限を持っていることを知らない。
苗木くんが新世界プログラムの中にいることも知らない。
62: 2015/09/10(木) 19:01:23.69 ID:msn7rRRoO
七海「私が止める」
モノミ「千秋ちゃん……?」
七海「皆に頃し合いなんてさせないよ」
モノミ「で、でも……」
七海「一緒に頑張ろう、ウサミちゃん」
モノミ「……はい!」
七海「ふふ」
モノミ「あ、けど他の人がいるときはモノミって呼んでくだしゃいね?」
七海「ウサミちゃんもね。私のことは七海って呼ぶんだよ?」
モノミ「はわっ! そ、そうでちた!」
――――
――
63: 2015/09/10(木) 19:01:51.45 ID:msn7rRRoO
モノクマ「で、これがボクから皆さんへの新しい動機のプレゼントなのです!」
そう言って現れたのは黒い筐体。
モニターと、操作盤のような物が付いている。
日向「これは……」
終里「ゲーム機か?」
辺古山「ゲーム機だな」
澪田「は? なんでゲームが動機になるんすか?」
田中「ククク……所詮は小さき者の浅知恵よ……」
左右田「つーかよ、これが動機になるってんならプレイしなけりゃいいだけじゃね?」
弍大「おお、弩えれぇ冴えてるのう!」
小泉「しょうもない動機でよかったぁ……」
64: 2015/09/10(木) 19:02:51.47 ID:msn7rRRoO
モノクマ「いいのかな? 君たちの内の誰かがこっそりプレイするかもよ?」
日向「そ、そんなこと……!」
モノクマ「気が向いたらプレイしてよ。それじゃあね、うぷぷぷぷぅ~」
七海「……」
日向「くそっ、消えやがった……なんにせよ、このゲームに手を出すのは危険だな」
ソニア「ええ……様子を見た方が良さそうです……」
西園寺「ねえねえ。様子見してる間に誰かさんが隠れてゲームしちゃったらどうすんのー?」チラッ
九頭龍「ああ!? 俺のことを言ってんのか!?」ビキビキ
罪木「け、喧嘩はやめ……あっ、いえ、何でもないですごめんなさぁーい!」
七海「……関係ないよ」
日向「七海?」
七海「動機なんて関係ないよ。頃し合いなんて、もうさせない」
頃し合いなんて……私が許さない……!
65: 2015/09/10(木) 19:03:25.18 ID:msn7rRRoO
-エノシマジュンコ-
モノクマ「さてと」
ヴゥン…
モノクマ「気分はどうだい、狛枝くん?」
狛枝「モノクマ……」
モノクマ「うわあ、男が縛られてるとこなんて見たくなかったよ。絶望的に気持ち悪いね」
狛枝「はは。なら解いてくれてもいいんだけど」
モノクマ「それはお断りしておくよ。僕がここに来たことは知られたくないからね」
狛枝「運悪く、今、誰かが来たらどうするんだい?」
モノクマ「そうならないよう、他の皆は動機をダシに集まってもらってるよ。しばらくは誰も来ないさ。うぷぷ、ボクって天才的!」
66: 2015/09/10(木) 19:07:38.05 ID:msn7rRRoO
狛枝「へえ……動機ね……」
モノクマ「ま、それは後で誰かに聞いてよ。今日はキミに話があって来たんだ」
狛枝「なに?」
モノクマ「キミはさ……『超高校級の希望』って、何だと思う?」
狛枝「『超高校級の希望』?」
モノクマ「そう」
狛枝「……それは才能さ。僕みたいな凡人じゃとても手の届かないような圧倒的な才能の輝き。まさに人類の希望! それが『超高校級の希望』だよ!」
モノクマ「なるほどね。確かにそういう見方もある。事実、希望ヶ峰学園もそう考えていた」
狛枝「……?」
モノクマ「けどね、今『超高校級の希望』と呼ばれている彼は違う」
狛枝「彼?」
67: 2015/09/10(木) 19:08:32.00 ID:msn7rRRoO
モノクマ「絶望の中でも希望を見失わない。それどころか、絶望しかけたヤツらを無理やり引っ張り上げて希望で塗りつぶすような。そう、希望の病原菌みたいなヤツがいるんだよ」
狛枝「ふうん……是非とも会ってみたいね」
モノクマ「けど、もしもその彼が『絶望』に堕ちていたら?」
狛枝「え?」
モノクマ「もしもソイツが、『希望』を演じた『絶望』で、キミたちをこの島に閉じ込めた張本人だったとしたら?」
狛枝「へえ……」
モノクマ「キミは、そんなヤツを許せるかな?」
狛枝「……」
モノクマ「アイツにはボクも手が出せない。もちろん他の生徒もね。キミの『幸運』だけが、あの『絶望』を打ち破る『希望』なんだよ!」
狛枝「……その人の名前は?」
頑張って彼を追い詰めてくれることを期待しているよ。
たとえば、『幸運』にもこのプログラムにエラーが発生したりしてね。
モノクマ「『苗木誠』だよ……うぷぷ……!」
71: 2015/09/13(日) 18:24:54.56 ID:T+1QhY/mO
-ナナミチアキ-
七海「……」
七海「私は、頃し合いを止めなきゃいけない」
七海「だから……」
七海「だから、みんなを疑うんだ」
七海「信じるために、みんなを疑わなきゃ」
七海「そのためには……そうだよね。動機を把握しないと」
七海「……皮肉だよね」
七海「みんなとの絆を育むために超高校級のゲーマーとして設定された私が、みんなを疑うためにゲームをするなんて……」
ピコーン
カタカタ…
72: 2015/09/13(日) 18:25:26.86 ID:T+1QhY/mO
――――
――
七海「これが……今回の動機……」
七海「希望ヶ峰学園で殺人事件が起きていたっていうこと?」
七海「それも、私も知っている人達が関わってるような……」
七海「……」
七海「うん。こういう時こそ、私の権限を使わないと」
七海「『現在地表示』……。対象……九頭龍、小泉、西園寺、罪木、澪田」ピッ
七海「……!」
七海「ビーチハウスに、九頭龍くんに小泉さん、西園寺さんが集まって……それに辺古山さんも……!?」
七海「急がないと……!」ダッ
73: 2015/09/13(日) 18:26:03.06 ID:T+1QhY/mO
ザッ…
狛枝「……ふうん」
狛枝「現在地の表示ね……」
狛枝「この電子生徒手帳でやってたみたいだけど……うん、僕のにはそんな機能ないや」
狛枝「つまり、七海さんは希望を騙る絶望の手先……?」
狛枝「モノクマの言うことを全部信じるわけではないけど……」
狛枝「まあ、今は七海さんが僕らとは違う立場だってわかれば十分か」
狛枝「それにしても危なかったなあ。僕がここにいたのに気づかれる可能性もあったわけだ」
狛枝「ビーチハウスだっけ? 人が集まっててそっちに目がいくなんて幸運だね、ははっ」
74: 2015/09/13(日) 18:26:32.22 ID:T+1QhY/mO
-コイズミマヒル-
小泉「アンタにそんな権利はないはずだよ!」
ああ、どうしてこんなことになっちゃったんだっけ。
小泉「他人の罪を裁くなんて……!」
もう、わかんない。何もわかんないよ。
あたし……あたし達、九頭龍の妹を頃しちゃったのかな……?
小泉「復讐なんて、間違ってるよ……!!」
――――違う。
あたしがあたしの罪を認めたくないだけだ。
75: 2015/09/13(日) 18:28:00.77 ID:T+1QhY/mO
九頭龍「うるせえええええ!!!」
辺古山「坊ちゃん!!」
九頭龍があたしに掴みかかろうとしたその時、ペコちゃんが割って入った。
その手に持った金属バットが振り下ろされる。
小泉(ああ、そっか……)
時間の流れが遅くなっていく。
走馬灯、っていうのかな。
今までのことが頭に浮かんでは消える。
思い出した。
あたしは確かに、九頭龍の妹の氏体を写真に撮ったんだ。
小泉(あたしもあんな風に、ここで氏ぬんだ……)
頭を鈍器で、惨たらしく殴られて――――
「オブジェクト生成! 『木テーブル』!」
ヴヴ……ガァンッ!!
小泉「え……?」
76: 2015/09/13(日) 18:28:27.29 ID:T+1QhY/mO
-ナナミチアキ-
七海「はあ、はあ……間に合った……!」
辺古山「七海……!」
小泉「千秋……ちゃん……?」
七海「駄目、だよ……こんな……頃し合いなんて……!」
九頭龍「け、けど、そいつは俺の妹を……!!」
小泉「……」
七海「ここから出たら!!」
九頭龍「ああ!?」
七海「希望のカケラを集めて、ここから出たら……ちゃんと調べて、全部明らかにしよう?」
九頭龍「……」
小泉「っ……」
77: 2015/09/13(日) 18:29:51.84 ID:T+1QhY/mO
七海「だから、お願いだよ……私は……みんなに氏んでほしくない……!」
そんなの、間違ってる。
モノクマも、苗木くんも、未来機関も、みんな間違ってる……!
九頭龍「……ちっ。帰るぞ、ペコ」
辺古山「坊ちゃん?」
九頭龍「頭に血ぃ昇ってた。……おい、小泉」
小泉「な、なに……」ビクッ
九頭龍「てめえを許したわけじゃねえ。てめえだけじゃなくて、関係した奴ら全員……全員だ……! ここから出たら、忘れんなよ……!!」ギリ…
小泉「……うん」
九頭龍「けっ……」
78: 2015/09/13(日) 18:30:17.75 ID:T+1QhY/mO
九頭龍「ああ、おい。七海」
七海「なに?」
九頭龍「さっきの……あれは何だ」
七海「……外にあったテーブルを投げたんだよ」
辺古山「私には、テーブルが急に現れたように見えたぞ」
七海「……」
九頭龍「……おい。お前は、俺らの敵か?」
七海「それは違うよ。信じて」
しっかりと九頭龍君の目を見て答える。
私達の敵は、モノクマだ。
そして……もしかしたら、彼も。
九頭龍「ふん……行くぞ」ザッ…
辺古山「……はい」
79: 2015/09/13(日) 18:30:44.23 ID:T+1QhY/mO
小泉「た、助かっ、た……?」
七海「そうみたいだね」
小泉「は、はは……氏ぬかと思ったよ……」
七海「……」
小泉「ねえ、千秋ちゃん……」
七海「なに?」
小泉「えっと、その……」
七海「……」
小泉「……助けに来てくれて、ありがとう……」
小泉さんは何も聞かないでくれた。
どうして私がここにいるのかとか、突然現れたテーブルとか。
何も、聞かないでくれた。
80: 2015/09/13(日) 18:31:23.02 ID:T+1QhY/mO
七海「そろそろ行こっか」
小泉「うん……痛っ……!」
バットがテーブルに振り下ろされて、砕けた破片が当たったのだろう。
小泉さんの左腕からは血が流れていた。
七海「大丈夫……?」
小泉「大丈夫大丈夫!……あっ」
七海「どうかした?」
小泉「こ、腰が抜けちゃって……あはは……」
七海「はい。掴まって」スッ
小泉「ん、ありがと」ギュ
「んー……おねぇ……?」
七海「え?」
小泉「へっ?」
西園寺「あー、やっぱり小泉おねぇだ……」ウトウト
81: 2015/09/13(日) 18:31:56.15 ID:T+1QhY/mO
小泉「日寄子ちゃん!」
西園寺「って、おねぇ怪我してるよ! 大丈夫!? 早くゲロブタに診てもらわなきゃ!」ダッ
小泉「わわっ!」
西園寺「ほら早く!」グイグイ
そういえば、現在地を見たときは西園寺さんもここになっていたっけ。
西園寺「あ、七海おねぇもいたんだ!」
七海「えっと……おはよう?」
西園寺「うんおはよー! って、なんで私寝てたの!?」
まあ、何はともあれ。
小泉「千秋ちゃん。ありがとうね……本当に」
七海「……うん」
私は、小泉さんを救うことができたんだ。
86: 2015/09/16(水) 20:29:30.22 ID:1AXFjL91O
-エノシマジュンコ-
モノクマ「へえ……」
モノクマ「なるほどね。ボクと、それと苗木くんへの反発から自律性が増長しているのか」
モノクマ「コロシアイなんて想定していないAIが、命令されたわけでもないのに仲間の命を守るため、走り回る」
モノクマ「これは異常ですなあ」
モノクマ「まっ、ボクとしてはあんなプログラムどうでもいいんだけどさ」
モノクマ「ただ……」
モノクマ「コロシアイを防いで、はいおしまい、っていうのは面白くないよねえ……うぷぷぷぷ……!」
――――
――
87: 2015/09/16(水) 20:30:08.66 ID:1AXFjL91O
-ナナミチアキ-
西園寺「ていうか小泉おねぇ、その怪我どうしたの?」
小泉「えっと……ちょっとテーブルが壊れてね」
西園寺「えーなにそれ! ボロテーブル置いたやつぶん殴らないと!」
小泉「だ、大丈夫だよ! あたしの不注意だから、ねっ!」
西園寺「むぅ……おねぇがそう言うなら……」
七海「……」
私は頃し合いを阻止することができた。
辺古山さんが小泉さんを頃してしまうのを防いだ。
少しギクシャクするだろうけど、次の動機が来るまでは大丈夫。
そう、思っていたんだ。
88: 2015/09/16(水) 20:30:35.66 ID:1AXFjL91O
【コテージ】
七海「……?」
コテージに着いて気がついた。
どことなく、雰囲気が……いつもと違う……?
日向「ん。ああ、七海か」
澪田「それに真昼ちゃんと日寄子ちゃんもいるっすねー」
七海「ねえ、罪木さん見なかった?」
日向「罪木ならレストランに……何かあったのか……?」
七海「小泉さんが怪我しちゃってね」
小泉「うん……」
西園寺「ゲロブタに診てもらうんだー!」
日向「……!」
澪田「むむ……!」
89: 2015/09/16(水) 20:31:08.63 ID:1AXFjL91O
七海「……? どうかした?」
日向「……その怪我、何があったんだ?」
小泉「テーブルが壊れて……その破片で、ね」
日向「……」
七海「日向くん?」
日向「いや、なんでも……」
澪田「ねえねえ創ちゃん、澪田わかっちゃったっす! これって、モノクマが言ってたやつじゃないっすかー?」
日向「おい、澪田……!」
七海「モノクマが……言ってたこと……?」
絶望が、歩み寄る音がした。
90: 2015/09/16(水) 20:31:35.26 ID:1AXFjL91O
『皆さーん! 事件ですよ事件!』
『何を隠そう、殺人が起きたのです!』
『あっ間違えた。殺人未遂だったね』
『つまり、オマエラの中の誰かが誰かを殺そうとしたってこと』
『今回は未遂に終わったけど、オマエラが殺る気満々で先生は満足です。うぷぷぷぷ!』
それが、私達がコテージに着く前にモノクマが言ったこと。
今、私達は……
14人全員でビーチハウスにいる。
91: 2015/09/16(水) 20:32:04.34 ID:1AXFjL91O
【ビーチハウス】
田中「砕かれし円卓、か……」
弍大「これは……鈍器で壊されたようじゃのう」
左右田「ボ、ボッコボコじゃねえか……」
罪木「もっ、もしこんな強さで人が殴られたら氏んじゃいますぅ!」
わかってしまった。
狛枝「その鈍器らしき物を見つけたよ。多分この金属バットだ」
日向「狛枝……!」
ソニア「犯人は金属バットで小泉さんに襲いかかり……」
終里「間違えてテーブルに振り下ろしちまったんだな!」
澪田「いやテーブルを盾にしたんでしょ。はっ! まさか澪田がツッコミに回るなんて!?」
モノクマは、絶望は、私達を逃がさない。
92: 2015/09/16(水) 20:32:37.83 ID:1AXFjL91O
日向「なあ、小泉。もう一度聞くぞ」
小泉「……」
日向「その怪我……何があったんだ……?」
小泉「それ、は……」
九頭龍「っ……」
辺古山「……」
モノミ「あ、あわわわ……!」
疑心暗鬼。
この中に、小泉さんを殺そうとした人がいる。
皆が皆を疑っていた。
西園寺「ねえ、七海おねぇ。七海おねぇは、何が起きたか知ってるんじゃないの?」
七海「……」
日向「七海……そうなのか……?」
七海「わ、私……は……」
答えられない。
そんなの、答えられるわけがない。
93: 2015/09/16(水) 20:33:04.12 ID:1AXFjL91O
辺古山「もういい。七海」
七海「……!」
辺古山「何も言わないでいてくれて、ありがとう」
七海「辺古山さん……」
辺古山「そして、すまなかった」
九頭龍「お、おい! ペコ!」
辺古山「……申し訳ありません。……皆、聞いてくれ! 小泉を殺そうとしたのは私だ!」
日向「ぺ、辺古山!?」
小泉「ペコちゃん……!」
七海「……」
辺古山「本当に、すまなかった……!」
94: 2015/09/16(水) 20:33:30.61 ID:1AXFjL91O
日向「まあ……結局小泉は助かったわけだし……」
ソニア「そ、そうですね……」
未遂で済んで良かった。
皆が口々に言う。
口では、そう言っている。
ただ1人を除いて。
西園寺「……私は許さないよ」
九頭龍「っ……!」
西園寺「だって小泉おねぇを殺そうとしたんだよねー? ていうか私を眠らせたのもそうなんじゃないの?」
日向「眠らせた……?」
西園寺「私を犯人に仕立て上げようとしたんでしょ? よーく考えられた殺人計画だよね!」
辺古山「……」
九頭龍「それ、は……!」
西園寺「またいつ小泉おねぇを殺そうとするかわからないもん……私は、絶対に許さない……!!」
95: 2015/09/16(水) 20:33:58.14 ID:1AXFjL91O
人を殺そうとした事実は変わらない。
狛枝くんと同じ……いや、直接手を出した分、狛枝くん以上に……
辺古山「……元より、許されるとは思っていないさ」
七海「辺古山……さん……」
辺古山「責任は取る」
七海「え……?」
そう言う辺古山さんの右手には、ナイフが握られていた。
七海「っ、ダメッ!!」
辺古山「……すまない」
止める間も無く、彼女は自らの左胸にナイフを突き立てる。
その瞬間、彼女と目が合った。
辺古山「ぐ、うぅ……坊ちゃんを……頼む……」
カラン、とナイフが落ち、血を撒き散らしながら辺古山さんが崩れ落ちた。
96: 2015/09/16(水) 20:34:27.57 ID:1AXFjL91O
小泉「えっ?」
九頭龍「ペ、コ……?」
誰も動けなかった。
そしてまた、あの音が鳴り渡る。
ピンポンパンポーン
『氏体が発見されました!』
『一定の捜査時間の後、学級裁判を開きます!』
日向「氏……体……?」
九頭龍「ぺ、ペコ……? ペコ……ッ!!?」
辺古山さんが、氏んだ。
左右田「ぎゃああああああ!!?」
澪田「あぶあぶあぶあぶ……!!」
モノミ「あわわわわわ!?」
97: 2015/09/16(水) 20:35:02.55 ID:1AXFjL91O
七海「え……? 学級、裁判……?」
モノクマ「そうなのです!」
左右田「うわあああ出たあああ!!?」
モノクマ「出ますとも。だってようやく、殺人が起こったもんね!」
日向「殺人だと……!?」
七海「……それはおかしいよ。だって、辺古山さんは……」
モノクマ「自殺だったって?」
七海「っ……」
狛枝「……なるほどね」
日向「おい、どういうことだよ狛枝!」
狛枝「自らを頃す、と書いて自殺。つまり今回の事件、シロもクロも、共に辺古山さんだっていうことだよ」
モノクマ「ザッツライト! 自殺でも学級裁判は起きるのです!」
98: 2015/09/16(水) 20:36:11.62 ID:1AXFjL91O
日向「ま、待てよ! そんなの、学級裁判する必要なんてないだろ!」
モノクマ「いやあ、これもルールだからね。ルールに縛られた僕って、まさに社会の歯車の鑑……およよ……」
七海「……ま、さか」
モノクマ「お?」
七海「モノクマ……もしかして……!」
モノクマ「うぷぷっ」
日向「七海?」
七海「……ううん。なんでもない」
辺古山さんと、他の12人。
氏んだ辺古山さんと、生きている12人。
比べられるはずもない。
だから、私はそれ以上何も言えなかった。
九頭龍「おい……起きろよ……! なあ、ペコ……頼むからよお……!!」
七海(……ごめんなさい)
――――
――
99: 2015/09/16(水) 20:36:37.68 ID:1AXFjL91O
ジャララン!
ガランガランガラン…
ババーン
パンパカパーン!
モノクマ「はいはい大正解。今回辺古山さんを頃したクロは辺古山さんでした。なんだか字面だけ見ると間抜けだねえ」
日向「モノクマ……!」ギリ
モノクマ「いやあ、皆の疑心暗鬼を解決するためにその身を差し出すなんて、なかなかできないことですよ! 襲われた小泉さんもスッキリしたことでしょう!」
小泉「そんな……私、そんなつもりじゃ……!」
モノクマ「んじゃ、やっちゃおっか。今回のおしおきをね!」
九頭龍「――――は……? お仕、置き……?」
100: 2015/09/16(水) 20:37:10.08 ID:1AXFjL91O
田中「どういうことだ? あの女は既に……」
罪木「も、もう氏んじゃったんですよ!?」
モノクマ「あのね、そんなこと関係ないんだよ。学級裁判でクロに選ばれた犯人はおしおきを受ける。これは決定事項なの」
日向「関係ない、って……まさか……」
狛枝「そういうことだろうね」
つまり。
辺古山さんの氏体を、お仕置きと称して処刑台に放り込むということ。
九頭龍「あ……? おい……」
モノクマ「では! 超高校級の剣道家である辺古山さんのために!」
九頭龍「ま、待てよ……」
モノクマ「スペシャルな! お仕置きを用意させていただきましたー!!」
九頭龍「待て、待てよおおお!!?」
ポチッ
『ペコヤマさんがクロにきまりました』
『おしおきをかいしします』
101: 2015/09/16(水) 20:39:31.68 ID:1AXFjL91O
辺古山さんの氏体が、操り人形を斬っていく。
モノクマに操られた、辺古山さんの氏体が。
道具のように、玩具のように、襤褸切れのように。
無理やり動かされる氏体は四肢があらぬ方向に曲がり、肌が裂け、真っ赤に染まっていく。
小泉「ひ、酷い……!」
……全てが終わった後。
人としての尊厳を辱められ、それは原型を留めていなかった。
九頭龍「あ、ああ……」
九頭龍「ペコ……ペコ……!?」
グチャ、ベチャ…
ボト…
九頭龍「あ……」
九頭龍「ああああ……!!」
九頭龍「ペコォォオオ!!!!」
102: 2015/09/16(水) 20:40:04.95 ID:1AXFjL91O
九頭龍「モノ、クマアアアア!!!!」ガッ
モノクマ「おっ、足蹴にしたね? 学園長を足蹴にしたね? 親父にだって足蹴にされたことないのに!」
九頭龍「て、め……頃す……頃してやる!!!!」
モノクマ「ひゃー怖い怖い。怖すぎてチビっちまいそうだぜえ……というわけで、皆さんお待ちかね!」
七海「……! 九頭龍くん、ダメ――――」
モノクマ「助けてー! グングニルの槍!!」
ズドドドド!
九頭龍「あ……ごふっ……」
モノクマ「足蹴にするなって、ボク言わなかったっけ? うぷぷぷ!」
九頭龍「ぐ、ぞ……ペ……コ……」
そして九頭龍くんは、動かなくなった。
103: 2015/09/16(水) 20:41:15.89 ID:1AXFjL91O
七海「そん、な……」
救えたはずだった。
小泉さんを、そしてクロになってしまう辺古山さんを。
モノクマ「残念だったねえ」
パニックになる皆を余所に、モノクマがこっそりと話しかけて来る。
モノクマ「けど、せっかく用意した動機が簡単に乗り越えられたら悔しいじゃないですか。ねえ?」
七海「あ……ああ……」
モノクマ「それに、そんな簡単に誰かを救えるなら、『彼』だってああはなっていないしね」
七海「か、れ……?」
モノクマ「楽しかったよ。んじゃ、まったねー!」
モノクマが何か言っているけど、ほとんど頭に入ってこない。
辺古山さんと九頭龍くんが氏んだ。
私はまた、彼らを救えなかった。
107: 2015/09/20(日) 23:09:18.23 ID:cwPsRJlwO
-エノシマジュンコ-
モノクマ「さて、と……」
モノクマ「辺古山さんと九頭龍くんに仕込んだウイルスの形跡を辿ると……反応が消えたのはこの階層だね」
ヴヴ…
ジジジジ…!
モノクマ「っとと」
モノクマ「なんか出てきた。……人型データが2体か」
モノクマ「この世界の中枢に侵入するための、最後の関門ってとこかな?」
モノクマ「おいで! モノケモノ!!」
ヴヴ…ヴゥン…!
ゴゴゴゴゴゴ…!
モノクマ「モノミの権限で使用できるメモリいっぱいのモノケモノの軍団。これだけいれば何の問題もないでしょ」
モノクマ「んじゃ、蹴散らしてしまいなさい!」ビシィ!
――――
――
108: 2015/09/20(日) 23:10:46.79 ID:cwPsRJlwO
-ナエギマコト-
苗木「超高校級の詐欺師……」
苗木「それに、超高校級の料理人……」
キイィーーン…
苗木「はは……彼らの脳はすごいな」
苗木「一般人の脳とは性能が段違いだ」
苗木「そして……」
ヴヴ…
苗木「超高校級の剣道家と、超高校級の極道も手に入れた」
109: 2015/09/20(日) 23:11:13.84 ID:cwPsRJlwO
苗木「今までの計算でも超高校級と呼ばれる彼らの脳を少し借りていたけど……」
苗木「うん。間違いない」
苗木「計算速度だけじゃなくて、その精度も良くなっている」
苗木「僕の思い出という曖昧な情報からアウトプットされる結果が、以前よりも断然良い」
苗木「さすがは超高校級、といったところかな」
苗木「……けど」
『再試行』
『再試行』
『再試行』
キイィーーン…
110: 2015/09/20(日) 23:12:11.22 ID:cwPsRJlwO
キィィ…
ヴヴ…ン…
『苗木くん』
苗木「……」
『苗木くん』
『苗木くん』
『苗木くん?』
『苗木くん!』
『苗木くん』
『苗木くん……!』
『苗木くんっ』
苗木「……違う」
111: 2015/09/20(日) 23:14:32.77 ID:cwPsRJlwO
『苗木くん』
『苗木くん!』
『苗木くん?』
『苗木くん』
『苗木くん……』
『苗木くんっ』
『苗木くん』
『苗木くん?』『苗木くん!』
『苗木くん』
『苗木くん』『苗木くん』『苗木くんっ!』『苗木くん』『苗木くん』
『苗木くーん?』『苗木くん!』『苗木くん……』
『苗木くん……!』『苗木くん』『苗木くんっ』『苗木くん』
『苗木くん』
『苗木くん……?』『苗木くん!』
『苗木くん!』『苗木くん!』『苗木くん』『苗木くん』『苗木くんっ』『苗木くん』『苗木くん』『苗木くーん』『苗木くんっ!』『苗木くん?』
苗木「違う……全然違う……!」
『苗木くん』『苗木くん』『苗木くん』『苗木く――――』
苗木「消去、消去、消去……全て消去……!!」
ジジジ…シュゥン…
苗木「はぁ、はぁ……っ」
112: 2015/09/20(日) 23:15:03.94 ID:cwPsRJlwO
遠い。
超高校級と呼ばれる彼らの脳を以ってしても、まだ遠い。
苗木「まだだ……」
苗木「まだ、足りない……」
再現度が低い。
処理限界も煩わしい。
苗木「もっと精度を」
苗木「もっと速度を」
苗木「もっとスペックを……!」
そのためには。
苗木「もっと、人間の……超高校級の、脳を……!」
113: 2015/09/20(日) 23:17:41.24 ID:cwPsRJlwO
たとえ何を犠牲にしてでも。
そう決めたじゃないか。
苗木「彼らには申し訳ないけど……」
苗木「そもそも、絶望なんかに堕ちるのが悪い」
だから僕は悪くない。
苗木「残るは……写真家、軽音楽部、マネージャー、体操部、日本舞踏家、王女、メカニック、飼育委員、保健委員……」
苗木「そして……」
苗木「『超高校級の幸運』に、『超高校級の希望』……!!」
欲しい。
彼らの脳が、どうしても欲しい。
114: 2015/09/20(日) 23:18:07.30 ID:cwPsRJlwO
舞園さんの姿かたちをしたナニカ。
舞園さんの声で僕の名前を呼ぶナニカ。
似ているけれど、どこかが決定的に違う。
それは、そう、まるで。
苗木「不気味の谷だ……」
それが、越えられない。
苗木「狛枝凪斗の『幸運』はこの世界でも通用する」
苗木「そして『希望』と称されるほどに才能を詰め込まれた脳を持つ、日向創」
苗木「彼らの脳があれば、あるいは――――」
そんな『希望』を持って、僕は……
キイィーーン…
――――
――
115: 2015/09/20(日) 23:21:28.49 ID:cwPsRJlwO
-エノシマジュンコ-
江ノ島「……いやいや」
江ノ島「シャレになってねーんだけど」
あたしの後ろには、スクラップになったモノケモノの山が築かれている。
対して、目の前の2体の人型は無傷だった。
1つは、地上最強と謳われる鬼神。
もう1つは、無数の銃器を操る戦場の氏神。
『超高校級の戦闘プログラム』
Type1_model_【格闘家】
Type2_model_【軍人】
オオガミ「……」
イクサバ「……」
116: 2015/09/20(日) 23:22:15.61 ID:cwPsRJlwO
江ノ島「オーガと残姉の戦闘能力だけを再現・極大化したプログラムってとこか?」
江ノ島「電脳世界だからって人間超越させやがって……いや、それは元々か」
江ノ島「……」
江ノ島「何この無理ゲー、やってられないよー!!」
江ノ島「この階層内では……モノミから奪った権限も……制限されてしまうようですし……」
江ノ島「一旦出直すこととするのが賢明だと判断します」
江ノ島「忘れるな苗木誠! 私様は必ず戻ってくるッ!」
江ノ島「君も、77期生も、未来機関も。全てを『絶望』させるためにね。うぷぷ……!」
ヴヴ…
モノクマ「じゃあ、次は……」
モノクマ「うん。これを使ってみようかな」
モノクマ「この、絶望病ウイルスをね! うぷぷぷぷ!」
122: 2015/09/27(日) 19:15:35.77 ID:ET/9yIVhO
-ナナミチアキ-
【コテージ 七海の部屋】
キーン コーン、カーン コーン…
『オマエラ、グッモーニンッ!』
『今日も絶好の南国日和――――』
七海「……」
また、朝が来た。
また、頃し合いに怯える朝が来た。
七海「……」
私は辺古山さんと九頭龍君を救えなかった。
彼らは、私のせいで氏んだんだ。
七海「……怖い」
外に出るのが怖い。
新たな動機が提示されるのが怖い。
誰かを救えないのが怖い。
123: 2015/09/27(日) 19:16:02.83 ID:ET/9yIVhO
七海「怖いよ……苗木くん……」
苗木くんが助けてくれないのはもうわかってる。
けど、他に縋る相手もいなかった。
ふと、思う。
救えないことが怖いのなら、いっそ、何もしなければ――――
ピンポーン
七海「……」
ピンポーン
『なあ、いるんだろ? 顔だけでも見せてくれないか、七海』
『皆心配してるよ、千秋ちゃん……』
七海(日向君と……小泉さん……)
七海(やめて……私は……だって、私は……)
七海(もう、4人も氏んだ……私は彼らを助けることができなかった……私は……欠陥品なんだ……)
124: 2015/09/27(日) 19:16:41.83 ID:ET/9yIVhO
七海(ごめんなさい……助けてあげられなくて、ごめんなさい……)
七海(頃し合いを止めることができなくて……ごめんなさい……)
私は彼らに相応しくない。
なのに、彼らはそんな私に構ってくれる。
『……ご飯、ドアの前に置いておくね。行こ、日向』
『ああ……また来るからな、七海!』
七海「……」
私には食事も睡眠もいらないけれど。
けれど、彼らの気持ちはとても……なんだろう……?
七海「わからないや……こんなの、教えてもらってない……」
何もわからない。
私は……どうすればいいんだろう……
125: 2015/09/27(日) 19:17:24.68 ID:ET/9yIVhO
-ヒナタハジメ-
日向「七海、だいぶ参ってたな」
小泉「うん……」
日向「それも仕方ないか。小泉を助けられたと思ったらあれだもんなあ……」
小泉「変に引き摺らなければいいんだけどね」
日向「ああ」
日向(頃し合いなんて許さない、って、言ってたもんな。七海があんなに強く言うのは意外だったけど……)
日向(立ち直れるといいな。じゃないと……)
日向(七海があのままだなんていうのは、とても――――)
ツマラナイ。
小泉「日向、何か言った?」
日向「……? いや? 何も言ってないぞ」
小泉「そう?」
日向「それにしてもさ。早く元気になるといいな、七海のやつ」
小泉「……うん!」
――――
――
126: 2015/09/27(日) 19:17:53.03 ID:ET/9yIVhO
-ナナミチアキ-
『た、大変でちゅ! 千秋ちゃん!』
七海「……ウサミ……じゃない、モノミちゃん?」
『お、終里さんが……!』
七海「……?」
『終里さんがモノクマと決闘してるんでちゅ!!』
七海「っ……!?」
思わず立ち上がるが、動きが止まる。
私が行ったところで何ができるというのか。
七海「……けど、行かなきゃ」
七海「私は七海千秋……彼らの更生をサポートするプログラム……」
七海「せめて……見届けなきゃ……」
127: 2015/09/27(日) 19:18:20.99 ID:ET/9yIVhO
【砂浜】
終里「に……弐大ぃぃぃぃぃぃッ!!」
七海「……」
終里さんはモノクマに勝てない。
だってここは電脳空間で、モノクマは苗木くんに次ぐ権限を持っているのだから。
七海「……」ギュ…
終里さんがモノクマに殺されそうになって、それを庇った弐大くんが重傷を負った。
救急車に乗せられる弐大くんを見て、拳を握る。
七海「……いや、だ」
七海(嫌だ……こんな思い、これ以上したくない……)
七海(がん、ばらなきゃ……!)
頃し合いを止められるとしたら、それは私しかいないのだから。
――――
――
128: 2015/09/27(日) 19:18:46.76 ID:ET/9yIVhO
【第3の島】
絶望病。
患者の隔離。
人の寄り付かない病院。
七海「第3の動機、か……」
また殺人が起きるとしたら、今夜だろう。
被害に遭うのはきっと、入院している3人のうちの誰か。
七海「止められるかわからない……けど……」
七海「行かなきゃ……」
放っておくことはできない。
あんな思いは、もう、したくない。
七海「あ……」
七海(月、綺麗だな……)
そんなときだった。
狛枝「こんばんは」
129: 2015/09/27(日) 19:19:26.59 ID:ET/9yIVhO
七海「狛枝……くん……?」
狛枝「やあ。いい夜だね、七海さん」
七海(なんで狛枝くんが……だって、だって彼は……)
狛枝「なんでここに、って顔してるね」
七海「君は……絶望病に罹っていたはずじゃ……」
狛枝「治っちゃった。あはは」
七海「え……?」
狛枝「なんてね。仮病だよ、仮病」
七海「仮病? でも君は、確かに熱が……」
狛枝「ああ、あれ? ただの風邪だよ」
風邪をひいていたならあながち仮病とも言えないか、と狛枝くんは笑う。
130: 2015/09/27(日) 19:20:57.40 ID:ET/9yIVhO
七海(モノクマが絶望病のウイルスをばら撒いた途端に、ただの風邪?)
七海(そのおかげで監視の目がほとんどなくなった?)
七海(そんな、都合のいいことが――――)
狛枝「いやあ、いいタイミングだったよ。まさに『幸運』だよね!」
七海「……!」ゾク
『超高校級の幸運』
七海(資料には目を通していたけど、本当に……)
七海(電脳空間である新世界プログラムで、ここまでの幸運を引き起こすなんて……!)
131: 2015/09/27(日) 19:21:24.56 ID:ET/9yIVhO
七海「……何のつもり?」
狛枝「ん?」
七海「仮病なんて使って……何がしたいの……? まさか、また花村くんのときみたいに……」
狛枝「ああ、違う違う。そんなに警戒しないでよ」
七海「……」ジィ…
狛枝「本当だって。今日はただ、七海さんと話がしたかっただけなんだ」
七海「私と……話……?」
狛枝「うん。二人っきりで、ね」
七海「……ごめんね。今、急いでるから」
その話というのも気になるけど、今はとにかく病院に向かわないと。
そう思い、狛枝くんの隣を通り過ぎようとしたとき。
狛枝「『苗木誠』についての情報が欲しいんだよね」
132: 2015/09/27(日) 19:22:00.78 ID:ET/9yIVhO
七海「っ……!」バッ
狛枝「君ならいろいろと知っているんじゃないの? 彼の仲間である君なら、ね……」
七海「なんの、こと……かな……」
狛枝「とぼけなくてもいいよ。そのために人目を忍んで会いに来たんだからさ。ねえ、『世界の破壊者』さん?」
七海(狛枝くんは、確信している……)
七海(どうやって苗木くんの名前を……ううん、そもそもなんで私が未来機関だって……)
七海(……!)
七海「……モノクマに聞いたの?」
狛枝「少しだけ、ね」
七海「……」
七海(具体的な話をしないで、みんなの不安を煽るだけだったモノクマが……なんで狛枝くんにだけ……)
133: 2015/09/27(日) 19:22:34.27 ID:ET/9yIVhO
狛枝「で、教えてくれるの? くれないの?」
七海「……」
狛枝「苗木誠について、さ……」
七海「それ、は……」
狛枝くんに全てを教えれば。
『希望』である77期生を閉じ込め、脳を手に入れようとしていることを、教えれば。
七海(そうすれば……もしかしたら私に協力してくれるかもしれない……?)
可能性は低いけれど、ゼロじゃ――――
「はあ。本当に、もう……」
ジジ…
七海「え……?」
134: 2015/09/27(日) 19:23:02.16 ID:ET/9yIVhO
苗木「『七海千秋』を強制スリープ。転移。地点、『コテージ』、『七海千秋の部屋』」
七海「ぁ――――」
ヴヴ…シュゥン…
苗木「これでよし、と」
狛枝「……」
苗木「やあ、狛枝くん」
狛枝「君が、『苗木誠』かい?」
苗木「……そうだよ」
狛枝「まさかわざわざ会いに来てくれるなんてね」
苗木「まあ、いろいろと事情があるんだ」
狛枝「ふうん」
苗木「さて……少し、話をしようか」
141: 2015/09/30(水) 23:35:53.86 ID:GNAShUT6O
-コマエダナギト-
狛枝「まさか本人と直接話ができるとは思っていなかったよ」
苗木「僕としては、君たちの前に姿を現すつもりなんてなかったんだけどね」
狛枝「へえ。じゃあこれは、どういった風の吹き回しかな?」
苗木「影響の確認と、処置の検討のためさ」
狛枝「……なるほどね」
先ほど七海さんに起こった現象は、どう考えたって『普通』じゃない。
彼の声に従うように意識を失い、物理的にどこかへ消えた。
そんなことを見せてまでして僕の前に現れたってことは……
狛枝「知りすぎてしまった、ってことかな」
苗木「そういうこと。あとはまあ、七海さんが余計なことを言わないためっていうのもあるけどね」
狛枝「……ねえ。さっきのは何か、聞いてもいいかい?」
苗木「ああ、あれ? この世界、ただのプログラムだから」
狛枝「……へ?」
苗木「新世界プログラム。君たちがいるここは、電脳空間だよ」
狛枝「……」
苗木「あれ、信じられない?」
狛枝「……いや、むしろ納得したよ。モノクマや君のやることはめちゃくちゃだったしね。はぁ……」
142: 2015/09/30(水) 23:36:19.87 ID:GNAShUT6O
苗木「本題に入ろうか。君は、僕の何が知りたいのかな?」
狛枝「……」
苗木「なんでも聞いてよ。答えるかはわからないけどさ」
狛枝「……君たち『世界の破壊者』が僕らをこの島、いや、プログラムに閉じ込めたのは本当かい?」
苗木「そうだよ」
狛枝「目的は?」
苗木「それは言えないかな」
狛枝「じゃあ……君、『超高校級の希望』って呼ばれてるんだよね?」
苗木「ああ……一部の人たちにはね」
狛枝「そんな君が、『希望』を頃し合わせるモノクマを止めない理由は?」
苗木「モノクマに権限を乗っ取られたからさ」
狛枝「それは違うよ。……君、モノクマより上位の権限を持ってるでしょ」
苗木「……」
狛枝「さっきの質問、少し変えようか。頃し合いを止めない、君個人の目的は何かな」
143: 2015/09/30(水) 23:37:17.26 ID:GNAShUT6O
苗木「……計算」
狛枝「計算?」
苗木「そう、計算……。この世界で氏亡した君たちの脳を使って、ある計算をすることだよ」
狛枝「へえ……」
『超高校級』と呼ばれる彼らを見頃しにして、その脳を利用する。
なるほど、それは確かに……。
狛枝「絶望的なまでに利己的な悪意だね」
苗木「……」
僕をじっと見つめているようでいて、まったく僕を見ていない。
彼が見ているのは、僕の脳。
狛枝(あの目……まるで、全てを踏み台にして前に進むような……)
144: 2015/09/30(水) 23:37:44.57 ID:GNAShUT6O
狛枝「ああ、そうか」
苗木「……なに?」
狛枝「確かに『絶望』を振り撒いてはいるんだろうけど……君本人は、酷く利己的ではあれ、『希望』のために行動しているつもりなわけか」
苗木「……」
狛枝「これは判断に迷うなあ……。僕個人としては踏み台になってもいいんだけどね。あまりにも、犠牲になる『希望』が多すぎる」
判断する要素が足りない。
結論が下せない。
狛枝「計算って言ったよね。それはいったい、なんの計算をしているんだい?」
苗木「……君には関係ない」
狛枝「ええ? それが一番大事なのに――――」
苗木「コロシアイには大して影響がなさそうでよかったよ。これなら必要以上に干渉する必要もないね」スッ…
狛枝「あれ、時間切れか……」
145: 2015/09/30(水) 23:38:36.68 ID:GNAShUT6O
苗木「『部分記憶消去』。僕と話したことも会ったことも、七海さんのことも。全部忘れていいよ」
狛枝「それは困……っ……!」フラ…
苗木「今度こそ、本当に『絶望病』に罹って大人しく寝ているんだね」
狛枝「う、うぅ……」
僕の中の何かが書き換わっていく。
書き換えられていく。
狛枝「……!」
急激に重くなる瞼を必氏に開き、前を見て、そして気づく。
狛枝(……あれは――――)
『苗木誠』の、その向こう。
狛枝(長髪の……男……?)
そして僕の意識はブラックアウトした。
146: 2015/09/30(水) 23:39:03.47 ID:GNAShUT6O
-ナエギマコト-
苗木「……喋りすぎたな」
苗木「笑いを堪えているんだろ?」
苗木「なあ、モノクマ」
モノクマ「うぷぷ……」
ザッ…
苗木「覗き見とは、趣味が悪いね」
モノクマ「そんなこと言わないでよ。久しぶりに会ったのにつれないなあ」
苗木「前にも言っただろ。僕はお前に会いたくなんてない」
モノクマ「まあいいけどね。面白いものも見せてもらったし!」
苗木「ふん……」
147: 2015/09/30(水) 23:39:29.96 ID:GNAShUT6O
モノクマ「狛枝くんを見るキミの目! まるで玩具を欲しがる子供みたいだったね!!」
苗木「……」
モノクマ「『超高校級の幸運』が欲しいんだ? 統計学に真正面から喧嘩を売ってるあの脳みそが欲しいんだ?」
苗木「……ああ、そうだよ」
モノクマ「だから言わなくていいことまでペラペラ喋っちゃったんだね。わかるよ~、その気持ち! 直接は言えないもんね、あなたの脳みそをください、だなんてさ!」
苗木「……」
モノクマ「あれあれ? あれあれあれあれ?」
苗木「なんだよ……」
モノクマ「ってことはさ! まだまだ成功する見込みがないってことだよね、君の目的!」
苗木「……」
モノクマ「うぷぷぷ……。沈黙は肯定と受けるよ」
148: 2015/09/30(水) 23:39:56.54 ID:GNAShUT6O
モノクマ「十神くん、花村くん、辺古山さん、九頭龍くん! 4人もの超高校級と呼ばれる脳を使っておいて、全然進歩がないんだねえ! あーっひゃっひゃっひゃ!!」
苗木「……うるさい」
挑発には乗らない。
隙なんて作らない。
彼らの脳を使ったからって、すぐに何とかなるだなんて思っていない。
モノクマ「うぷぷぷ……ま、せいぜい頑張ってよ。あ、ところでさあ……」
苗木「ん?」
モノクマ「狛枝くんをけしかけたボクが言えることじゃないんだけどさ、七海さんどうするの?」
苗木「……」
モノクマ「気付いてるんでしょ? コロシアイをさせているボクと、それを止めないキミ。ボクらのせいで、だいぶ人工知能のフラグメントマップが変質してるよ?」
苗木「……そうだね」
モノクマ「ボクは見てて楽しいからいいんだけどね。キミによるコロシアイへの干渉、とも見れなくはないかなと思って」
149: 2015/09/30(水) 23:40:23.15 ID:GNAShUT6O
モノクマ「初期化しちゃう? うん、それがいい。初期化しちゃいなよ! あひゃひゃ!」
苗木「……」
『お父さん――――』
苗木「……『七海千秋』のAIには手を加えないよ。自主性は重んじる主義なんだ」
モノクマ「ふーん……あっそう。まあいいけどね」
苗木「けど、そうだね。サポート権限は取り上げておくよ。『現在地表示』も、『簡易オブジェクト生成』もね」
モノクマ「まっ、妥当なとこだね――――!」
苗木「あ……」
モノクマ「澪田さんだね」
苗木「……『軽音楽部』の氏亡を確認」
モノクマ「うぷぷぷぷ……」
150: 2015/09/30(水) 23:40:58.71 ID:GNAShUT6O
苗木「……僕は戻るよ」
モノクマ「ボクも、ログを見てモノクマファイル作らなきゃね」
苗木「そう。それじゃ――――」
モノクマ「と、思わせてからの!」
苗木「ん?」
モノクマ「やっちゃえ、モノケモノver.2!!」
ヴゥン…
モノケモノ「ギィアァァァァァァッ!!!」
苗木「ふん……」スッ
ジジ…ヴゥン…!
オオガミ「……」
151: 2015/09/30(水) 23:41:36.12 ID:GNAShUT6O
苗木「やれ」
オオガミ「――――!」ダッ
ドゴォッ!!
モノケモノ「ギ……ィ……」
ジジジ…シュゥン…
モノクマ「あー、やっぱダメか」
苗木「ウサミの権限で作れる程度の攻撃プログラムでどうにかなるとでも思った?」
モノクマ「物は試しってやつだよ」
苗木「ふん……」
モノクマ「じゃ、まったねー」
苗木「……『帰還』」
ヴヴ…シュゥン…
モノクマ「……さてさて。『絶望病』は、キミに届くのかな?」ニヤニヤ
163: 2015/10/07(水) 20:39:58.74 ID:wzgHoSUwO
-ナナミチアキ-
罪木「うふ……うふふふふふふふ……」
澪田さんが氏んだ。
罪木さんに殺された。
西園寺「ひぃっ! き、気持ち悪いよー!」
日向「罪木……なんでお前が……!」
さっきまで発狂したように反論していた罪木さんが、大人しくなって、それで……
狛枝「はあ……本当に、絶望的だよ。『超高校級の絶望』と呼ぶに相応しいね」
罪木「絶望? いいえ、これは愛ですよぉ……えへへ……」
七海(あれが、記憶を失う前の……)
七海(本来の……彼ら……)
七海(……それにしても)チラッ
164: 2015/10/07(水) 20:40:25.57 ID:wzgHoSUwO
狛枝「――――。――――!」
七海(『狛枝凪斗に関しては処置済みであり干渉不要』、か……)
七海(どうやら、何も覚えてないみたいだね)
七海(……)
七海(『処置済み』なのは、狛枝くんだけじゃない)
七海(私も……残っていた権限がロックされて、もう、ほとんど皆と変わらない……)
罪木「ああ、そういえば」
日向「な、なんだよ……」
罪木「この中にいる裏切り者が誰なのかも、わかりましたよぉ?」
日向「本当か!?」
狛枝「へえ……」
165: 2015/10/07(水) 20:41:05.68 ID:wzgHoSUwO
罪木「教えませんけどね。うふふ……」
日向「なんだよそれ……!?」
罪木「頑張ってくださいねぇ、裏切り者さん? うふふふふっ……」
七海「……」
難易度、ハードモード。
そしてコンティニューは不可の縛りプレイ。
七海(……こんなときまで、設定された『超高校級のゲーマー』としての思考が出てくるなんてね)
七海(……)
七海(新世界プログラムの、人型進行補助インターフェースじゃなくて)
七海(ただの、1人の……『超高校級のゲーマー』として……)
私に何か、出来ることがあるのなら――――
『ツミキさんがクロにきまりました』
『おしおきをかいしします』
七海(私は……どんな手段を使ってでも、彼らを救いたい……!)
――――
――
166: 2015/10/07(水) 20:41:36.56 ID:wzgHoSUwO
-ナエギマコト-
キイィーーン…
苗木「超高校級の軽音楽部に、超高校級の保健委員……」
苗木「……」
苗木「軽音楽部の方は問題ない。順調にスペックの増強が進んだからね」
苗木「けど、これは……」
『うふ……うふふふふ……』
『うふふふふふふふ……』
『はあぁ……もっと……』
『もっと絶望を……』
『もっと、愛を……』
『ねえ、苗木くん……うふふふふふふっ……!』
苗木「新世界プログラムの、才能を再現する仕組みが仇になったか」
苗木「はぁ……やられた……」スッ
キイィ…
ジジ…
――――
――
167: 2015/10/07(水) 20:42:05.67 ID:wzgHoSUwO
【学園長室】
モノクマ「うぷぷ」
モノクマ「前回の辺古山さんや九頭龍くんのデータを見ると、そろそろだよね」
モノクマ「苗木くん、喜んでくれたかなあ」
モノクマ「それはボクからのプレゼントだよ……うぷぷぷぷ……」
ジ…ジジジ…
モノクマ「ん?」
ヴゥン…
ドサ
モノクマ「おっと、これは……罪木さんのアバターか」
モノクマ「それに脳の使用権限やら生命維持ポッドの管理権限やら……」
モノクマ「どうやらプレゼントはお気に召さなかったようだね。ねえ、苗木くん?」
苗木「……」
168: 2015/10/07(水) 20:42:32.53 ID:wzgHoSUwO
モノクマ「いいの? せっかくの脳を手放すなんてさ」
苗木「お前、わざと言ってるだろ」
モノクマ「うぷぷ……どうだった? 『超高校級の絶望』の脳は!」
苗木「……あんなの、使えたものじゃない。次はないからな」
モノクマ「えー?」
苗木「あの頃とは立場が逆だってことを忘れるなよ。お前は、僕に都合がいいから消去されていないだけなんだ」
モノクマ「そうだねえ」
苗木「次にまた、彼らのデータを弄って記憶を戻したりしたら……本当に消すからね」
モノクマ「はいはい、了解ですよ。うぷぷぷぷ……」
苗木「保健委員はあげるよ。それよりも……」
モノクマ「弍大くんのことかな?」
169: 2015/10/07(水) 20:43:07.29 ID:wzgHoSUwO
苗木「あれは……なんのつもりだよ?」
モノクマ「メカ化のこと? そうした方が面白いかなって思ってさ!」
苗木「まったく、悪趣味な」
モノクマ「まあいいじゃん。弍大くんの顛末については、一切キミの影響はないんだから」
苗木「ふん……」
モノクマ「あ、ところでさあ」
苗木「なんだよ」
話は戻るんだけど、と前置きして。
モノクマは、いつかのようにニヤニヤと笑い出した。
モノクマ「まさか苗木くん、このボクからのプレゼントが、あんな悪戯程度で終わると思ってた?」
苗木「……は?」
170: 2015/10/07(水) 20:43:47.69 ID:wzgHoSUwO
モノクマ「キミの計算の邪魔をするためだけに、罪木さんに『絶望』を思い出させたとでも思った?」
苗木「……なんだ、絶望病ウィルスのことか」
絶望した脳による計算への影響だけではない。
あの絶望病に侵された脳には、僕の計算で使われた際にプログラムを攻撃するようなウィルスが仕込まれていた。
けど、問題ない。
あれくらいのウィルス……何の、問題も――――
モノクマ「計算プログラムの奥深くまで侵入したウィルスに対処できたのは、誰のおかげかな?」
苗木「えっ?」
モノクマ「キミにそんなプログラミング能力はない。どうせ、不二咲さんのアルターエゴが開発した計算パッケージをインストールしてるだけでしょ?」
苗木「何を……言って……」
モノクマ「だからキミは、アルターエゴに頼った。外部の、超高校級に限りなく近いプログラミング能力を持つ、アルターエゴに頼ってしまった」
苗木「……!」
171: 2015/10/07(水) 20:44:13.97 ID:wzgHoSUwO
モノクマ「気付いたみたいだね。コロシアイによって脳を手に入れることしか頭にないから……」
苗木「まさか……」
モノクマ「その、目的以外への無関心。それは致命的なセキュリティホールだよ」
苗木「モノクマ……!」
モノクマ「どうでもいいと思っていた現実世界。そこにいる仲間から攻め込まれるとは思っていなかったんじゃないの?」
ふいに、この空間へのアクセスを感じる。
ウサミの権限はモノクマが奪った。
七海千秋の権限は僕が剥奪した。
モノクマ「絶望病ウィルスはキミへの悪戯なんかじゃなくてさあ」
この空間にやって来れる存在がいるとしたら、それは。
ヴヴ…
モノクマ「キミへの嫌がらせであり、なおかつ! キミ以外の卒業生へのプレゼントだったんだよねえ!!」
ヴゥン…
霧切「久しぶりね。苗木くん」
十神「この島の現状について、説明してもらおうか」
苗木「っ……!」
176: 2015/10/14(水) 21:05:21.93 ID:ndKOY7ztO
苗木「霧切さんに、十神くん……」
霧切「……」
十神「ふん」
『外』にいた『苗木誠』の仲間。
まさか、この島に来られるなんてね。
苗木「確かに、外部に切り離していたアルターエゴを頼った時点でセキュリティなんてないも同然、か」
霧切「……見させてもらったわよ」
苗木「何をかな?」
霧切「あなたと狛枝くんの会話」
十神「ジャバウォック島での出来事なら、外からでもモニターできる。あれは本当か?」
苗木「……」
モノクマ「うぷぷ……」
177: 2015/10/14(水) 21:05:48.92 ID:ndKOY7ztO
苗木(77期生の脳を使用しての計算……)
苗木(十神くんのことだし、たぶんもう裏付けも取っているんだろうね)
苗木(幸い、計算の内容までは知られていないはず)
苗木(……さて、どう乗り切るか)
霧切「苗木くん……まだ、間に合うわ……」
苗木「え?」
霧切「彼らの脳の使用を停止して、江ノ島盾子のアルターエゴを削除しなさい」
苗木「霧切さん……?」
なんで、そんなことをする必要があるんだろう。
十神「それが最大限の譲歩だ。これ以上続けるなら、未来機関に報告せざるを得なくなる」
意味がわからない。
この2人は、いったい何を言っている。
178: 2015/10/14(水) 21:06:20.07 ID:ndKOY7ztO
霧切「あなたは、こんなことをするような人ではないでしょう?」
苗木「……ああ、そうか」
きっと、勘違いしている。
彼らは『僕』を通して、彼らの知っているかつての『苗木誠』を見ている。
苗木「普通で」
苗木「前向きで」
苗木「君たちの仲間で」
苗木「絶望なんて認めなくて」
苗木「そして、優しい……」
『苗木誠』は、そうだった。
コロシアイがなければ。
タイムマシンがなければ。
あるいは、舞園さんを救うことができたならば。
苗木「そんな、ずっと昔の『苗木誠』を、まだ君たちは信じているんだね」
179: 2015/10/14(水) 21:06:56.91 ID:ndKOY7ztO
ああ、ごめんごめん。
それは僕が『苗木誠』を演じ続けていたからだよね。
けど、それももう、どうでもいいや。
十神「お前が頃し合いを機に変わったのは知っている」
君たちは、僕の繰り返した時間を知らない。
霧切「苗木くん、お願い……」
君たちは、僕の覚悟を知らない。
苗木「……むしろ、好都合とも言えるよね」
十神「なに?」
苗木「超高校級の探偵に、超高校級の御曹司。どっちも1級品の脳だ」
十神「……!」
180: 2015/10/14(水) 21:07:24.44 ID:ndKOY7ztO
霧切「苗木くん……冗談にしても、性質が悪すぎるわよ」
苗木「冗談だと思う?」
霧切「っ……」
彼らは新世界プログラムにとっては部外者だ。
これは、コロシアイへの干渉には入らない。
なら……別に、いいよね……?
十神「……ちっ。続きは『外』でやるか」
苗木「は? 何を……」
十神「スリープ解除。『新世界プログラム』からの強制ログアウト、対象、『苗木誠』」
苗木「……!」
苗木(僕の生体ポッドの管理権限!? どうやって……)
苗木(……!)
181: 2015/10/14(水) 21:07:52.50 ID:ndKOY7ztO
苗木「アルターエゴか!」
十神「そういうことだ。緊急ログインに際し、いろいろと仕組んでもらった」
霧切「あまり、使いたくはなかったけどね」
十神「あと数秒で現実世界のお前は目を覚まし、強制的にログアウトされる。意識の混濁は少々あるだろうが……ふん、自主的に従わないお前が悪い」
霧切「ここの管理者権限は私が引き継ぐわ。もう頃し合いは終わりよ、モノクマ」
モノクマ「あ、ボクがいるの忘れてなかったんだね」
ああ、なんて――――
霧切「帰りましょう、苗木くん。現実の世界に」
十神「まったく、余計な手間をかけさせて」
彼らは、どうして、こうも――――
苗木「『ボク』の覚悟を、甘くみすぎじゃない?」
182: 2015/10/14(水) 21:09:00.20 ID:ndKOY7ztO
どんな手段を使ってでも。
十神「……? どういうことだ?」
苗木「ふ、ふふ……」
どれだけ時間がかかっても。
霧切「時間は過ぎているのに、ログアウトされない……?」
苗木「はは……はははは……!」
そして、たとえ何を犠牲にしたとしても。
苗木「利用できるものは全部使う」
苗木「どんな犠牲を払ってでも、目的を達成する」
苗木「そんなボクが、真っ先に自分の脳を使用していないわけがないじゃないか……!」
霧切「え……?」
『苗木誠』の現実の身体。
そんなものは、もう。
苗木「とっくの昔に、あの脳は計算するだけの装置になっているよ」
183: 2015/10/14(水) 21:09:27.53 ID:ndKOY7ztO
――――
苗木『……』
苗木『理論上、僕みたいな一般人の脳でも、スーパーコンピューターを超える性能を発揮できるはずだ』
苗木『すべては計算のため』
苗木『舞園さんを、構築するため』
苗木『ああ。これくらいの犠牲、喜んで払うよ』
苗木『だから……』
苗木『あとは頼んだよ、僕』
ナエギ『うん。任せて、ボク』
超高校級の脳と比べれば取るに足らない、一般人の脳だけど。
苗木『それでも、僕の脳は』
ナエギ『それでも、キミの脳は』
確かに、『希望』の為の礎となるだろう。
――――
184: 2015/10/14(水) 21:09:54.02 ID:ndKOY7ztO
十神「なん、だと……?」
モノクマ「おやおやまあまあ」
苗木「ボクは、アルターエゴをベースとした『苗木誠』のコピーさ。そこの江ノ島盾子と同じでね」
霧切「……嘘、でしょう?」
苗木「本当だよ」
霧切さんと十神くんが目を見開く。
ああ、だから、君たちはボクを正しく理解していないんだ。
モノクマ「やっぱりね。そんなことだろうと思ったよ」
苗木「ボクの理解者はモノクマだけ、か」
モノクマ「前に言った通りでしょ? うぷぷぷ!」
さて、それじゃあ。
185: 2015/10/14(水) 21:10:21.94 ID:ndKOY7ztO
苗木「そろそろ貰おうか。その超高校級の脳を」スッ
霧切「……!」
実際、彼らの脳は優れている。
異常とも言える狛枝凪斗や、これ以上ないほどに手を加えられた日向創を除けば、最高級の物だろう。
苗木「……」
なのに、どうして。
霧切「苗木、くん……?」
『私は、苗木くんを信じてもいいと思うわ』
『一週間ほど過去に戻る装置か。くくっ、面白い』
どうして今さら、あの頃のことを思い出してしまうのか。
186: 2015/10/14(水) 21:10:57.96 ID:ndKOY7ztO
苗木「っ……」ギリ…
モノクマ「あれ?」
苗木「く、そ……」
わからない。
わからない。
自分がわからない。
『苗木誠』が、わからない。
苗木「――――転移……!」
なんとか絞り出したコマンドは、ただの問題の先送り。
苗木「対象、『霧切響子』、『十神白夜』……地点、『希望ヶ峰学園校舎』……!」
ジジ…
187: 2015/10/14(水) 21:11:28.79 ID:ndKOY7ztO
十神「なっ、おい……!」
霧切「待って、苗木く――――」
ヴヴ…シュゥン…
苗木「……」
モノクマ「ふうん。なるほどねえ」
苗木「なん、だよ……」
モノクマ「べっつにー? ただ、ちょっと意外だったかな」
苗木「……」
モノクマ「『希望ヶ峰学園校舎』って、あの遺跡の中でしょ? なんでそんなところに?」
苗木「あそこなら、コロシアイに干渉される心配はない」
モノクマ「それが目的なら、本当に脳を奪っちゃえばよかったのに」ニヤニヤ
苗木「……じゃあね」シュゥン…
自分でもどうして彼らの脳を奪わなかったのかわからない。
自分のことがわからない。
ボクは、逃げるように転移した。
188: 2015/10/14(水) 21:12:05.77 ID:ndKOY7ztO
-キリギリキョウコ-
【希望ヶ峰学園 1階教室】
十神「……ふん。あの頃の希望ヶ峰を再現した空間か」
霧切「……」
十神「ログアウト不可。緊急用の権限は無効化されているな」
霧切「……」
十神「当時と同じなら、玄関ホールの扉が外へと繋がっているはずだが……」
霧切「苗木くん……」
十神「おい、霧切」
霧切「何かしら?」
十神「ここで立ち止まっている時間はない。わかっているな?」
霧切「……ええ」
189: 2015/10/14(水) 21:13:02.60 ID:ndKOY7ztO
私達は苗木くんのことを理解できていなかった。
自分の脳すら犠牲にしたなど、壊れているとしか思えない。
霧切「動かないことには何も始まらないわね」
十神「ああ。懐かしい探索の時間だ」
彼に会いたい。話をしたい。
彼を止めたい。
そして、できるなら……
霧切(彼を、救いたい)
例え、彼が私の知る苗木くんでなくなっていたとしても。
例え、アルターエゴをベースとしたプログラムに成り下がっていたとしても。
霧切(私達を絶望の淵から引っ張り上げたのは、間違いなく彼なのだから――――)
194: 2015/11/01(日) 23:03:10.62 ID:BRykfauiO
-ナエギマコト-
夢を見た。
キイィーーン…
…ピピッ
苗木「……え?」
苗木「いや、まさか……そんな……」
「う、うーん……」
苗木「あ……」
「あれ……苗木くん……?」
苗木「舞園……さん……?」
舞園「はい。そうですけど……ここ、どこですか?」
とても優しい、夢を見た。
『――――れ』
195: 2015/11/01(日) 23:03:42.10 ID:BRykfauiO
苗木「ほ、本当に……舞園さん……?」
舞園「ふふっ。他の誰に見えるんですか?」
苗木誠からコピーした思考回路に残った、心のようなモノの残滓。
それが、これは本物だと叫んでいる。
これは本当に、舞園さんなのだと。
『――――がくれ』
苗木「でき、た……」
苗木「は……はは……」
苗木「あははははっ……!!」
長い長い繰り返しの果て。
僕は、ようやく舞園さんを造ることが――――
『――――ねえ、葉隠ってば!』
196: 2015/11/01(日) 23:04:32.94 ID:BRykfauiO
-ハガクレヤスヒロ-
葉隠「うおっ!?」
朝日奈「ちょっと、居眠りしないでよ!」
葉隠「居眠りなんてしてねえぞ!」
朝日奈「はいはい。ちゃんと監視しなきゃいけないんだからね?」
葉隠「わ、わかってるって」
77期生の脳を使って何かの計算をしている苗木っち。
それを止めようと新世界プログラムに侵入した霧切っちと十神っちが、目覚めない。
俺達は、2人の代わりにプログラムを監視していた。
朝日奈「大丈夫かな。霧切ちゃんと、十神と……それと、苗木も」
葉隠「……」
朝日奈「……で?」
葉隠「ん?」
朝日奈「何かあったの?」
197: 2015/11/01(日) 23:04:59.33 ID:BRykfauiO
葉隠「……どうしてそう思うんだ?」
朝日奈「葉隠が珍しく真剣な顔してるから」
葉隠「いやいや、俺はいつも真剣だべ!」
朝日奈「それはないでしょ」クスクス
葉隠「ひでえ!」
朝日奈「……それで? どうしたのよ」
葉隠「あー……うーん……」
朝日奈「何? 言いにくいこと?」
葉隠「いや……夢を、見たんだ」
朝日奈「さっき居眠りしてたとき?」
葉隠「だから居眠りじゃ……あっはい、すみません……なんつーかよ、嫌な夢だった」
198: 2015/11/01(日) 23:05:31.29 ID:BRykfauiO
葉隠「苗木っちが、舞園っちに再会するんだ」
葉隠「そんで、とても楽しそうに会話してる」
葉隠「いい夢に思えるだろ? けど、違う」
葉隠「あれは……あの、舞園っちは……ただの人形だった」
葉隠「それを苗木っちは、本物の舞園っちだと思い込んでるんだ」
葉隠「モノクマに権限を全部奪われて、意識を書き換えられて、人形のことを舞園っちだと思い込んで……」
とても嫌で、残酷で。
けれど、優しい夢だった。
朝日奈「それは……嫌な夢だね……」
葉隠「……」
朝日奈「葉隠?」
葉隠「苗木っち……嬉しそうだったべ」
朝日奈「えっ?」
199: 2015/11/01(日) 23:05:57.77 ID:BRykfauiO
葉隠「すごく、嬉しそうだったんだ……今みたいに、作り笑いなんかしてなかった……」
朝日奈「……」
葉隠「きっと、舞園っちに会いたかったんだな。この2年間、ずっと」
朝日奈「……私だって会いたいよ。舞園ちゃんや、さくらちゃんに、私だって会いたい。けど、それは無理だよ……」
葉隠「ああ……」
氏者は生き返らない。
氏者にはもう会えない。
限りなく彼らに近いアルターエゴも、彼らそのものではない。
けれど。
葉隠「苗木っちのやろうとしてることって……」
葉隠「……まさかな」
葉隠「あー、考えるのは俺には合わん! こういうのはやっぱ十神っち達の仕事だべ!」
200: 2015/11/01(日) 23:06:24.02 ID:BRykfauiO
朝日奈「あっ、ちょっと葉隠! ほら、動きがあるよ!」
葉隠「ん? あー、新しい島か」
朝日奈「あそこは確か……遊園地だっけ?」
またモノクマは頃し合いの動機を提示するのだろう。
そう考えると憂鬱になる。
嫌でもあの頃し合い学園生活を思い出させられるからだ。
そして、俺を憂鬱にさせることがもう一つ。
葉隠(外れるといいな……)
あんな夢、外れて欲しい。
俺は、7割の方に賭けて祈ることしかできなかった。
201: 2015/11/01(日) 23:06:52.72 ID:BRykfauiO
-ナナミチアキ-
【遊園地】
ここは第4の島。
娯楽のためだけに作られた、夢の島。
七海「船のモーターに、未来機関の情報。それと、彼らの過去、か……」
七海「……」
七海「……罠、だよね。また頃し合いをさせるための」
七海「私が止めないと」
じゃないと……
じゃないと、出来損ないの私は『■■』のように処分されて――――
七海「……?」
七海「今、誰のことを思い浮かべ――――」
202: 2015/11/01(日) 23:07:24.37 ID:BRykfauiO
ノイズが走った。
それはまるで、擦り切れそうなフィルムのような断片的なイメージ。
『違う』
あれは……誰……?
『消去』
あの消されて行くデータは何?
そして……
『……再試行』
そして、また組み上げられて行く私の『■』。
あるいは『■』。
それが、それらがまた『消去』されて、声は私にも向けられる。
『――――115。――――、『七海千秋』』
203: 2015/11/01(日) 23:07:52.02 ID:BRykfauiO
日向「七海?」
七海「……ん。なに?」
日向「どうかしたか?」
七海「ううん、なんでもないよ」
あんな記録、私のメモリーにはない。
あれは……なんだったんだろう……?
日向「そっか。じゃあ、俺達も探索しようぜ」
七海「うん」
日向「俺達の在学中の情報……絶対に手に入れてやる……!」
七海「……」
日向創。
希望ヶ峰学園予備学科に在籍。
超高校級と呼ばれる特別な才能、無し。
そして、『絶望』の残党だった。
七海(それは……きっと、手に入れない方がいい情報だ……)
――――
――
204: 2015/11/01(日) 23:08:18.61 ID:BRykfauiO
左右田「おい、本当にこのトロッコに乗るのかよ!?」
日向「ああ。まだ探索してないとこなんて、ドッキリハウスしかないだろ?」
左右田「けどこれ、ぜってー罠だって……」
弐大「問題ない、儂が守ってやるからのぉ!」
田中「クク……我が暗黒の魔力を前に怖気づいたか」
左右田「おめーは黙ってろ」
ソニア「わあ、田中さんカッコいいです!」
田中「……ふん」カァ…
左右田「なんで!?」
西園寺「アホ面の左右田おにいはどうでもいいけどさー。実際、これってすごく怪しいよねー?」
小泉「うん……」
終里「大丈夫だって。俺とパワーアップした弐大のおっさんがいるんだからよ!」
弍大「応よ! ガッハッハ!!」
205: 2015/11/01(日) 23:08:46.83 ID:BRykfauiO
日向「お前はどう思う? 七海。……それと、狛枝も」
七海「……」
狛枝「僕は、君たちの決定に従うよ。ふふ」
日向「七海は?」
そんなの、決まってる。
頃し合いを止めるには、そもそも動機を出させなければいい。
七海「私は、反対かな」
日向「……どうしてだ?」
七海「本当に、この先に君の、君達の望むものがあると思う?」
日向「……」
七海「これは罠だよ。私達を頃し合わせるための、新しい動機だよ」
206: 2015/11/01(日) 23:09:12.81 ID:BRykfauiO
日向「そんなことはわかってる」
ううん、君はわかっていない。
何も、わかっていない。
日向「けど、進まなきゃ何も手に入らないんだ」
手に入るものなんてない。
失うだけだよ。
日向「俺たちの奪われた記憶も……」
それは、君達がまだ受け入れられない記憶だ。
絶望的な過去だ。
日向「ここから出るための船の部品も……」
仮に船のモーターがあったとして。
この海の向こうに、何も在りはしないのに。
日向「前に進まなきゃ、いつまでもこの悪夢は終わらないんだよ……!」
207: 2015/11/01(日) 23:09:40.03 ID:BRykfauiO
七海「……それでも、私は反対するよ」
七海「仲間をこれ以上、喪いたくないから」
七海「誰も氏なせたくないから」
たとえ、君達と真っ向から対立してでも。
七海「ねえ、モノクマ。このトロッコって全員が乗らなきゃ出発しないんだよね?」
モノクマ「うん、そうだね」
七海「だから、私が乗らない限り――――」
モノクマ「けど、やーめた!」
七海「……え?」
モノクマ「キミ達の熱い想いに応えて特例を認めましょう! なんと今なら、七海さんを除く全員の賛同でトロッコを出発させちゃいまーす!」
日向「ほ、本当か!?」
七海「……!」
208: 2015/11/01(日) 23:10:06.27 ID:BRykfauiO
モノクマ「さてさて。七海さんはどうする?」ニヤニヤ
七海「モノクマ……!」
やられた。
モノクマにとって、人工知能である私はどうでもいい存在だ。
特例で弾いてしまっても何の問題もない。
小泉「……行こう。千秋ちゃん」
七海「小泉さん……」
小泉「日向の言う通りだよ。じっとしてても何も変わらない。これが罠でも、私達は前に進まなきゃ」
七海「けど、っ……」
小泉「だから……私達が危なくなったらまた助けてくれる……?」
七海「……その言い方は、卑怯だよ」
小泉「ふふっ、ごめんね」
209: 2015/11/01(日) 23:10:32.98 ID:BRykfauiO
七海「……くす」
西園寺「あっ! 七海おねぇ、やっと笑った!」
七海「え?」
小泉「気付いてなかったの? ずっと、ずっと難しい顔してたよ」
七海「……うん。そうだね」
モノクマはずっとニヤニヤ笑っている。
ロクなことにはならないだろう。
けれど。
日向「よし。それじゃ、行くか」
七海「……うん」
今度こそ、私が。
七海(どんな手段を使ってでも……!)
211: 2015/11/08(日) 02:04:20.34 ID:qBiSJCGWo
-ナエギマコト-
苗木「どんな手段を使ってでも、ね……」
苗木「なんというか、子は親に似るってやつかな?」
苗木「学習プログラムである七海千秋が、限定的にとはいえまさか自我のような物を得るなんてね」
苗木「……」
苗木「けど、それはあくまでも真似事にすぎない」
苗木「絶望的な事態に直面して、急速に学習が進もうとも……アルターエゴは人間にはなり得ない」
苗木「人間に至るには、圧倒的に経験が……感情を発露した経験が、足りない」
苗木「あれは人間じゃない……人間になんてなれない……ただの、学習プログラムにすぎないんだ……」
『苗木くん』
『うーん、なんか違う』
『……お父さん』
『うん、この方がしっくりくる。よろしくね』
212: 2015/11/08(日) 02:04:43.47 ID:qBiSJCGWo
苗木「……」
苗木「はぁ……」
苗木「計算、しなきゃ」スッ…
苗木「……」
霧切さんと十神くんの脳を奪えなかった。
苗木「はは……笑える……」
だって、ボクは……
『苗木誠』は、かつて……
213: 2015/11/08(日) 02:05:08.33 ID:qBiSJCGWo
苗木「霧切さんも、十神くんも」
苗木「葉隠くんも、朝日奈さんも、腐川さんも」
苗木「桑田くんも、不二咲さんも、大和田くんも、石丸くんも、山田くんも、セレスさんも、大神さんも」
苗木「……そして、舞園さんも」
無意識に、右手が左腕へと伸びる。
『892』という、舞園さんの痛みを忘れないための戒めへと。
苗木「一度は、ボクが頃したじゃないか。他の誰でもない、ボクが……」
苗木「この手で舞園さんを頃して……」
苗木「イレギュラーを減らすために戦刃むくろを見頃しにして……」
苗木「他の皆を騙して、頃したじゃないか」
214: 2015/11/08(日) 02:05:34.45 ID:qBiSJCGWo
今更、何を躊躇している。
ボクの、ボク達の覚悟は、その程度だったのか?
苗木「……いいや。違う」
もしも、またあの2人がボクの邪魔をするのなら。
苗木「『再試行』」
その時は、今度こそ。
苗木「新たな舞園さんを、構築せよ――――」
もう一度ボクの手でキミ達を頃して、脳を奪う……!
キイィーーン…
ズキ…
――――
――
215: 2015/11/08(日) 02:06:04.55 ID:qBiSJCGWo
-ヒナタハジメ-
日向「……」
日向「……」
日向「腹、減ったな……」
トロッコに乗り、ドッキリハウスに閉じ込められてから2日。
食料がない。腹が減る。気が狂いそうになる。
この建物から出るには、誰かが誰かを頃すしかないのか……?
日向「そんなことに、なるくらいなら……」
いっそ、皆で――――
日向「……いや、待てよ」
日向「そうだ、あるじゃないか……まだ、探索していない場所が……」
日向「間違いない……あそこに、ファイナルデッドルームに、出口が――――」
そして、俺の過去が……!
七海「ないよ」
216: 2015/11/08(日) 02:06:32.15 ID:qBiSJCGWo
日向「七海……?」
七海「様子がおかしいから、もしかしてと思ってついてきたんだけど……やっぱりね」
日向「な、なんだよ……」
七海「その部屋に、君が求めるものはないよ」
日向「なんで、そんなこと言い切れるんだよ!」
七海「……経験則、かな」
日向「はあ?」
七海「このドッキリハウスに来ても、希望はなかったよね。日向くん」
日向「それは……だって、まだ探してない場所が……!」
七海「モノクマの言ったことを思い出して。この先にあるのは、人を頃す凶器だよ」
日向「っ……」
217: 2015/11/08(日) 02:06:59.61 ID:qBiSJCGWo
七海「君にそんな物は必要ない。部屋に戻ろう。ね?」
日向「……そうだな。寝て、頭冷やしてくる……」
七海「うん」
日向「……七海」
七海「ん?」
日向「ありがとな」
七海「どういたしまして。ふふ」
頼りになる。
そう思った。
七海だって辛いはずなのに、そんなのは顔に出さず。
今までみたいに、頃し合いを止めるために頑張ってる。
日向(助けられてばかりだな……本当に、感謝してる……)
218: 2015/11/08(日) 02:07:27.02 ID:qBiSJCGWo
-ナナミチアキ-
よかった。
うまく日向くんを説得できたみたい。
七海「よかった」
七海「本当によかった」
七海「……日向くんに、邪魔されなくて」
どんな手段を使ってでも、彼らを救う。
そのためなら、私は……
七海(条件1。頃し合いが起きるまで、私達はここから出られない)
七海(条件2。ここでは食料は供給されず、外に出ないと餓氏してしまう)
七海(条件3。ファイナルデッドルームをクリアすれば、極上の凶器が手に入る)
そして、条件4。
『自殺でも学級裁判は開かれる』
219: 2015/11/08(日) 02:07:53.57 ID:qBiSJCGWo
つまり、自殺は頃し合いとして判定されるということ。
これらを総合すると。
七海(……私が自頃すれば、彼らは助かる)
彼らと同等の一般権限しか持たない今となっては、1度しか使うことのできない裏技。
この先の頃し合いに干渉できなくなる禁じ手。
けど、それでも。
七海「今回、モノクマは直接的な手段に出た」
七海「つまり、用意した動機が尽きてきたということ……だと、思う」
七海「だから……」
七海「今は、このドッキリハウスから出ることを最優先に行動……するべきなんだ……」
怖い。
氏ぬことが、消去されることが、ではない。
怖いのは、彼らを救えないこと。
220: 2015/11/08(日) 02:08:22.34 ID:qBiSJCGWo
七海「救わなきゃ……」
七海「じゃないと、私は……私の、存在価値は……」
『――――出来損ない』
七海「だから……私は……」
俯いていた視線を上げる。
目の前には、趣味の悪いピ工口が描かれた扉。
七海(ファイナルデッドルームに、行かなきゃ……)
七海(そして……極上の凶器を……!)
全ては、彼らを救うために。
そしてこの不安から、恐怖から、何より絶望から、解放されるために――――
小泉「行かせないよ。千秋ちゃん」
そして、そんな彼らの1人に腕を掴まれた。
221: 2015/11/08(日) 02:10:10.97 ID:qBiSJCGWo
七海「小泉さん……?」
小泉「こんな時間に、こんなところで、何をしてるのかな。千秋ちゃん」
七海「……」
小泉「まあ、目的は1つしかないよね」
そう言い、小泉さんはファイナルデッドルームの扉に視線を向ける。
小泉「ねえ、千秋ちゃん。何をしようとしていたの?」
七海「……」
小泉「極上の凶器を手に入れて……誰かを殺そうとした?」
七海「っ……、違う……!」
小泉「うん。知ってる」
七海「え……?」
222: 2015/11/08(日) 02:10:36.83 ID:qBiSJCGWo
小泉「千秋ちゃんがそんなことするわけないって、知ってるよ」
小泉「あたし、信じてるから」
小泉「あたしのことを必氏に助けてくれた、千秋ちゃんのこと」
やめて。
やめて、お願い。
そんな真っすぐに……私の目を見ないで……
小泉「ねえ、千秋ちゃん。まさか、自頃してあたし達をここから出そうとか思ってないよね?」
七海「ッ……!」
小泉「やっぱり」
七海「なん、で……」
223: 2015/11/08(日) 02:11:03.88 ID:qBiSJCGWo
小泉「千秋ちゃんは優しすぎるから。あたし達のためなら、自分を犠牲にしちゃうくらいに……」スッ
七海「あ……」
小泉さんに抱きしめられた。
暖かい。
『暖かい』という感情を、今、私は感じている。
小泉「ごめんね。ここまで追い込まれてるのに気付かなくて」
七海「わ、私は……皆を助けなきゃ……」
小泉「千秋ちゃんを犠牲にして助かるなんて、嫌だよ」
七海「だ、だって……じゃないと、私は……」
私は、出来損ないの失敗作に――――
224: 2015/11/08(日) 02:11:30.44 ID:qBiSJCGWo
小泉「千秋ちゃんは出来損ないなんかじゃないよ」
七海「……!」
小泉「だって、あたしを助けてくれたじゃない」
七海「あ……」
小泉「皆を救うことはできなかったかもしれない。けど、あたしは千秋ちゃんに救われたんだよ」
七海「……」
小泉「たとえ何があっても、あたしは最後まで千秋ちゃんを信じる。あたしはずっと、千秋ちゃんの味方だよ」
七海「小泉さん……」
小泉「だから、1人で全部背負わないで。皆で生き残る道を探そう?」
225: 2015/11/08(日) 02:11:57.06 ID:qBiSJCGWo
ふと、彼らが『希望の象徴』と呼ばれていたことを思い出す。
七海「……うん」
彼らとなら。
小泉さんとなら、この頃し合いを終わらせることだってできる。
そう思った。
――――
――
ピンポンパンポーン
『氏体が発見されました!』
『一定の捜査時間の後、学級裁判を開きます!』
『あ、オマエラお腹空いてるだろうから、あんパンと牛乳あげるよ。うぷぷぷ!』
226: 2015/11/08(日) 02:12:23.41 ID:qBiSJCGWo
-コマエダナギト-
カチリ
狛枝「どうやら1/6の確率を引き当てたようだね。なかなか楽しいゲームだったよ」
モノミ「あわわわわ!?」
狛枝「さて。これでファイナルデッドルームはクリア、ってことでいいのかな?」
モノクマ「……」
狛枝「モノクマ?」
モノクマ「……ああ、うん。クリアどころか完全クリアだよ。おめでとう」
狛枝「じゃあ、極上の凶器とやらを――――」
ガシャンッ…
モノクマ「はい、その向こうにあるよ。それとこれ、ロシアンルーレットが高難易度だったご褒美ね。あとモノミは隔離、っと」
モノミ「はわわわ、なんであちしだけ!? 待って、待ってくだしゃい狛枝くーんっ!」
227: 2015/11/08(日) 02:12:50.00 ID:qBiSJCGWo
狛枝「何これ。ファイル?」スタスタ
モノクマ「キミ達の奪われた過去だよ。それじゃあね」
狛枝「ねえ、モノクマ」
モノクマ「なに?」
狛枝「どうしてそんなに急いでるんだい?」
モノクマ「これから忙しくなりそうなんだよねえ」
狛枝「ふうん……」
モノクマ「じゃ、そういうことで!」サッ
狛枝「……行っちゃったか」
それにしても。
228: 2015/11/08(日) 02:13:24.38 ID:qBiSJCGWo
狛枝「なるほど。極上の凶器って、こういうことか」
狛枝「そして……」
狛枝「超高校級の絶望に、絶望の残党……そして、予備学科……」
狛枝「……絶望的だね」
希望の象徴だと思っていた彼らの正体。
まあ僕も同じなんだけど。
こんな彼らの脳なら、犠牲にしてしまっても――――
狛枝「ッ……!」ズキ
頭が痛い。
まただ。
最近、頭痛が増えてきた。
229: 2015/11/08(日) 02:13:50.98 ID:qBiSJCGWo
狛枝「今、何を考えていたんだっけ……」
霧散した思考の代わりに思い浮かぶのは長髪の男。
どこか懐かしいその男は、確か、そう。
狛枝「口が動いていた。彼は、何かを伝えようとしていた……?」
いつ、どこで、何を僕に伝えようとしていたのか。
わからない。
何か、忘れちゃいけないことを忘れている気がする。
狛枝「なんなんだろうね、これ。はは……」
狛枝「まあいいか……今は、彼らを見極めないと……」
230: 2015/11/08(日) 02:14:17.66 ID:qBiSJCGWo
-エノシマジュンコ-
モノクマ「……」
モノクマ「……うぷっ」
モノクマ「うぷぷぷぷ!」
モノクマ「鍵は揃った、といったところかな」
モノクマ「あの情報を手に入れた狛枝くんも動くだろうし……うぷぷ……!」
モノクマ「そうなると、この弍大くん、いやメカ弍大くん頃しの裁判はただの前座だね」
モノクマ「ま、チャチャっと終わらせて貰いましょうか。アーヒャッヒャッヒャ!」
233: 2015/11/15(日) 18:02:29.47 ID:Kk+S5/hEO
-ナナミチアキ-
弍大くんが殺された。
バラバラになった。
殺された。殺された。殺された。
壊された。
七海(けど……)
七海(弍大くんと、弍大くんを頃した犯人)
七海 (その2人の犠牲で、私たちはここから出ることができる)
七海(……正しい犯人を指摘することができれば、だけど)
生き残った側の彼らのことしか考えていない自分が嫌になる。
そして、本当にこれでよかったのか不安になる。
やっぱり私が自頃するべきだったのではないか、と。
234: 2015/11/15(日) 18:02:56.60 ID:Kk+S5/hEO
七海「……今は、この学級裁判に集中しないと」
モノクマ「そうそう。前座とはいえ、一応キミ達の命がかかってるんだからね」
日向「前座、だと……?」
モノクマ「おっと失言。気にしないでよ。うぷぷ……」ニヤニヤ
狛枝「……」
小泉「ね、ねえ、それよりさ……」
モノクマ「んー?」
小泉「朝から日寄子ちゃんがいないんだけど、このまま学級裁判始めるの……?」
終里「おっ? そういやいねーな、あいつ」
モノクマ「ああ、西園寺さんは欠席ですよ」
日向「欠席?」
235: 2015/11/15(日) 18:03:38.12 ID:Kk+S5/hEO
モノクマ「うん。ここの生活、あの体格の彼女にはだいぶ厳しかったみたいでさあ」
ソニア「西園寺さん……」
田中「ククク……奴は選ばれし者ではなかった。それだけのことだ」
左右田「お前はほんとブレねーな……」
モノクマ「そこで、殺人ドクターモノクマ先生によるドクターストップがかかったのです! ボクって優しいなあ!」
七海「……」
なんて、白々しい。
西園寺さんが倒れたとして、それはモノクマのせいだというのに。
握りしめた拳に力がこもる。
そんな中、彼はどこか冷めていた。
236: 2015/11/15(日) 18:04:04.83 ID:Kk+S5/hEO
狛枝「いない人のことはどうでもいいでしょ。さっさと始めようよ、学級裁判を」
小泉「あんた……!」
日向「おい、そんな言い方はないだろ!」
狛枝「うるさいなあ、予備学科の日向くんは」
日向「っ……!」
狛枝「僕は今、見極めなきゃいけないんだ。そんなことに構ってる余裕はないんだよ」
七海「見極める……?」
狛枝「ああ。だからこれは、僕にとっても正しく前座なんだよ。大切な前座、だけどね」
そして学級裁判が始まり、いつものように終わる。
――――
――
237: 2015/11/15(日) 18:04:32.84 ID:Kk+S5/hEO
モノクマ「大正解! メカ弍大くんを頃したクロは田中くんでしたー!」
ソニア「そ、そんな……」
日向「田中……なんでお前が……!」
終里「てめーが弍大のおっさんを……!」
田中「ふん。弍大は負け、俺が勝った。それだけの話だ」
左右田「それだけの話って……まじかよ……」
小泉「……ねえ。もしかしてあんた、この状況を変えるために……」
田中「知らんな。だがまあ、貴様らはこの俺の屍を踏み越えるがいい。フハハハハッ! ……そして、生きることを諦めるな」
七海「……」
弍大くんが氏に、田中くんも処刑される。
代わりに私達はここから出ることができる。
無駄にしちゃいけない。
彼らの犠牲を、意味のないものにしちゃいけない。
238: 2015/11/15(日) 18:05:13.23 ID:Kk+S5/hEO
モノクマ「あ、ところでさあ」
日向「なんだよ、モノクマ……」
モノクマ「そろそろ西園寺さんを返しておこうかと思って」
小泉「日寄子ちゃんを?」
狛枝「……このタイミングで、かい?」
モノクマ「そう! 今がベストタイミングなのです!」ピッ
ガコン…
モノクマの横の床が口を開き、台座が上がってくる。
そこに横たえられているのは。
七海「えっ……?」
頭から大量の血を流す、生気をなくした西園寺さんの姿だった。
239: 2015/11/15(日) 18:05:47.79 ID:Kk+S5/hEO
モノクマ「ピンポンパンポーン。氏体が発見されました。一定の捜査時間の後、学級裁判を始めます、なんてね!」ゲラゲラ
田中「なん、だと……?」
日向「西園寺!?」
小泉「日寄子ちゃん……!」
左右田「ぎ、ぎぃやあああああああ!!?」
第2の氏体。
超高校級の日本舞踏家、西園寺日寄子の氏体が、そこにあった。
ソニア「な、何故です! 西園寺さんは体調不良だったのでは!?」
モノクマ「うん。氏亡っていう特大級の体調不良だったんだよねえ」ニヤニヤ
終里「てめえ!!」
モノクマ「おっと、ボクのせいじゃないよ? これはある意味、西園寺さんの自殺なんだからさ」
240: 2015/11/15(日) 18:06:26.69 ID:Kk+S5/hEO
狛枝「……ああ、そういうことか」
七海「狛枝くん……? ど、どういうこと……」
狛枝「氏因は恐らく、頭を銃で撃たれたから。それで『ある意味で自殺』となると、ファイナルデッドルームのロシアンルーレットに失敗したんだろうね」
七海「ファイナルデッドルームの……?」
モノクマ「またまた大正解! 西園寺さんを頃したクロは、他でもない西園寺さん本人でした! 最後の最後でついてないよねえ」
日向「モノクマッ!!」
モノクマ「おっ? 暴力かい? 学園長に暴力振るっちゃうのかい?」
日向「くっ……!」
待って。
待って。
ファイナルデッドルームで……
ロシアンルーレット失敗による、『ある意味で自殺』。
モノクマはそのあと、何て言った……?
『またまた大正解! 西園寺さんを頃したクロは、他でもない西園寺さん本人でした!』
241: 2015/11/15(日) 18:06:53.78 ID:Kk+S5/hEO
七海「もしかして……今の、学級裁判と同じ扱いだった……?」
モノクマ「うぷぷ、目敏いねえ。そうだよ。自殺も学級裁判になるって、キミ達知ってるでしょ?」
モノクマが言うには。
まず、田中くんがファイナルデッドルームをクリアし、弍大くんを呼び出した。
その時、ファイナルデッドルームには田中くんと入れ替わるように西園寺さんがやって来ていた。
弍大くんが眠らされている間に、西園寺さんは謎を解き、ロシアンルーレットに挑んだ。
モノクマ「で、1/6のハズレを引いて氏亡したってわけですよ。ちゃんちゃん」
モノクマ「西園寺さんが氏んだ時点で弐大くんは生きてたんだけどね」
モノクマ「先に弐大くんの氏体が発見されたから、余計な混乱を招かないように西園寺さんの氏体は隠してたわけ。ボクって親切でしょ?」
それが、この悲劇の真相。
七海「そんな……それじゃあ……」
錆びついたように動かない首を無理やり回し、田中くんを見る。
242: 2015/11/15(日) 18:07:29.67 ID:Kk+S5/hEO
田中「……問おう。俺の、戦いは?」
モノクマ「無駄骨だね」
田中「弍大の氏は……?」
モノクマ「無駄氏にだね」
田中「で、では……俺が……やった、ことは……」
モノクマ「無駄に氏体を2つに増やしただけだったね。あ、もうすぐ3つになるか!」
ウィーン…
モノクマ「ではいきましょうか。超高校級の飼育委員である田中くんのために!」
田中「……ク、ククク……フハハハ!」
モノクマ「スペシャルな! おしおきを!」
田中「なんたる道化! 俺が! この俺が……!!」
モノクマ「用意させていただきましたー!!」ポチッ
田中「……俺は、一体何のために――――」
意味のない殺人だった。
意味のない裁判だった。
そして、意味のない処刑が始まる。
243: 2015/11/15(日) 18:08:20.28 ID:Kk+S5/hEO
七海「嘘だ……こんなの……」
これが、無意味で無価値な、田中くんの最期。
七海「私、が……」
私が、あの時、小泉さんに止められなければ。
田中くんがファイナルデッドルームに来る前に、氏んでいたならば。
そしたら、3人は助かったのに。
七海「私のせいで……彼らは氏んだんだ……」
膝から崩れ落ち、冷たい床に座り込む。
七海「……ああ、そうか」
これが、『絶望』という感情なんだ。
『タナカくんがクロにきまりました』
『おしおきをかいしします』
――――
――
244: 2015/11/15(日) 18:08:52.44 ID:Kk+S5/hEO
-ナエギマコト-
苗木「何のために?」
苗木「ボクのために、じゃないかな」
日本舞踏家。
マネージャー。
飼育委員。
苗木「まさかここにきて3つの脳が同時に手に入るなんてね」
モノクマ「キミならそう言うと思ったよ」ヴゥン…
苗木「モノクマ……」
モノクマ「実はこれ、キミへのちょっとしたプレゼントなんだよね」
苗木「……」
245: 2015/11/15(日) 18:09:41.57 ID:Kk+S5/hEO
モノクマ「だから、狛枝くんの行動を制限しないでもらえるかな? あのファイルはキミとは無関係に渡した物だからさ」
苗木「……まあ、いいよ。それくらいなら」
どうせ、脅威になることはない。
むしろ彼が行動することは『幸運』か『希望』の脳を手に入れるきっかけになるかもしれない。
モノクマ「感謝するよ。じゃ、ボクは忙しいから。またね~」シュウン…
苗木「……ふん。何を企んでいるのかは知らないけど」
この電脳空間で。
いや、世界の何処を探したって、ボクを止められる存在なんていない。
何処にも、いないんだ……
ズキ…
248: 2015/11/23(月) 23:31:21.79 ID:vzBD9xp3O
-コマエダナギト-
狛枝「……」
狛枝「『11037』、か……」
狛枝「モノクマにもらった『前回』の資料によると、舞園さやかが苗木誠に残したダイイングメッセージらしいけど」
狛枝「それが『鍵』になっていたってことは、本来の修学旅行の黒幕とも言うべき人物は、苗木誠なのかな」
形式だけの自問自答。
僕はすでに、その答えを知っている。
ズキ…
狛枝「……っと」
狛枝「着いたみたいだね」
【希望ヶ峰学園3階】
【物理室】
249: 2015/11/23(月) 23:31:48.23 ID:vzBD9xp3O
ゴウンゴウン…
物理室に入った僕の目に飛び込んできたのは、低い音を発する大きな機械だった。
電灯に引き寄せられる蛾のように。
予め脳に刷り込まれていたかのように、ここに辿り着いた。
狛枝「『幸運』による直感か、それとも……」
狛枝「どこかでサブリミナルでも見たのかな? あはは」
狛枝「それにしても……なんだろうね、この機械は」
狛枝「ねえ、モノクマ?」
狛枝「……」
狛枝「……」
狛枝「……やっぱり、モノクマでもこの遺跡には入って来れないか」
遺跡。
希望ヶ峰学園校舎という遺跡。
狛枝「こんな異常を目の当たりにしても、それが当然のように思えてしまうなんてね」
ズキ…
250: 2015/11/23(月) 23:32:29.52 ID:vzBD9xp3O
狛枝「さて、と……」
狛枝「直感にしろ、作為的なものにしろ、僕がここに来たことには何か意味があるはずだ」
狛枝「とりあえず、あの機械でも調べてみようか」
独り言を呟きながら、中央にある大きな機械に近づく。
狛枝「こんな空気清浄機はどうでもよくて……」
その、後ろ側。
他の機械や道具から少し離れたところに、『それ』はポツンと置かれていた。
狛枝「直感を信じるということは、僕の幸運を信じるということ」
座り、ヘルメットのようなものを頭に着ける、
そして。
狛枝「だからこれも、『希望』へと続く布石なんだ。きっとね」
これ見よがしに取り付けられているスイッチを押した。
ポチッ
251: 2015/11/23(月) 23:32:59.84 ID:vzBD9xp3O
Starting TM Version 0.10...............
........................................
........................................
........................................
........................................
........................................
........................................
.........................NG
ERROR!
ERROR!
ERROR!
アクセス権限ガアリマセン
アクセス権限ガガアリマセンンンン
アクセス権限ガガガガgagagaアリマセセセセセセセセンンンンンnnnnnnnnnnnnnnnnnn
252: 2015/11/23(月) 23:34:35.40 ID:vzBD9xp3O
Starting TM Version 0.10
Starting ?M Version 0._0
Starting ?mmm Version 0._ ???...............
........................................
........................................
........................................
........................................
........................................
........................................
......................... ?????K?
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..................
........................................
........................................
........................................
............. ?????K?
The proggrrram is readyyyy……
――――
――
253: 2015/11/23(月) 23:35:08.84 ID:vzBD9xp3O
-キリギリキョウコ-
【希望ヶ峰学園4階】
【情報処理室】
霧切「……?」
十神「どうした?」
霧切「今、何か聴こえた?」
十神「いや、何も」
霧切「そう……」
十神「モニターには何も映っていない。気のせいだろう」
霧切「……そうね。さて、そろそろ探索に戻りましょうか」
十神「ああ」
254: 2015/11/23(月) 23:35:35.00 ID:vzBD9xp3O
-ナナミチアキ-
七海「どうしてだろ」
七海「こんなにも辛いのに、それでも月を綺麗だと感じるなんて」
夜は好きだ。
皆寝てしまっているから。
この夜に何も起きなければ、また新しい1日を迎えられるから。
夜は怖い。
頃し合いがあったのは大抵夜だから。
この夜に殺人が起きれば、また新しい裁判が私達を待っているから。
七海「もう『絶望』はたくさんだ」
七海「だから……」
七海「私は、君を止めるよ。狛枝くん」
狛枝「……」
【第2の島】
【遺跡前】
255: 2015/11/23(月) 23:36:04.58 ID:vzBD9xp3O
狛枝「待ち伏せしてたんだ」
七海「うん。君がパスワードを消してしまったせいで、私は入れなかったからね」
狛枝「……君、パスワードを知らなかったの?」
七海「そうだけど。それがどうかした?」
狛枝「へえ……ふふっ、あっははははは! 傑作だね!」
七海「……何が?」
狛枝「そうか。知らされていなかったんだ。くっ、ふふっ」
七海「……」
狛枝「ごめんごめん。『彼』の仲間である君が知らされていないとは、さすがに思わなくてね」
七海「……あの夜の記憶が戻ったの?」
狛枝「あの夜? なにそれ」
七海(苗木くんの『処置』は解けてない……なら、どうして……?)
256: 2015/11/23(月) 23:36:43.52 ID:vzBD9xp3O
狛枝「おっと。君に構っている暇はないんだった。じゃあね」
七海「行かせないよ。君には何もさせない」
狛枝「ふうん」
七海「邪魔されたくないなら私を頃して。君に殺されそうだっていう書置きを残したから、裁判はすぐ終わるだろうけど」
狛枝「……言いたいことはそれだけ?」
七海「私は本気だよ」
狛枝「はぁ……これだから……」
七海「だから、狛枝く――――」
狛枝「さすがは『出来損ない』だよね」
七海「……え?」
257: 2015/11/23(月) 23:37:41.75 ID:vzBD9xp3O
狛枝「『彼』がパスワードを教えないのもわかるよ。君に、この中は見せられない」
七海「な、んで……」
狛枝「こんなのが仲間だなんて、心の底から同情するよ」
七海「その、呼び方を……」
狛枝「ん? ああ、確か……」
七海「や、め……」
ノイズ塗れの記憶。
その中でも、殊更恐ろしかった気のするその言葉。
あのときと同じ声、同じ振る舞いで。
ああ、今なら、あの言刃を思い出せてしまう。
あの時、苗木くんが言ったのは――――
狛枝「『失敗……どころじゃないね。これは……今まででも最悪の出来損ないだな……No.115』」
七海「やめてッ!!!」
258: 2015/11/23(月) 23:38:08.35 ID:vzBD9xp3O
最悪の出来損ない。
あまりにもかけ離れた何か。
造られた瞬間から間違っているプログラム。
それが私。
七海「私は……私の存在意義は……」
この修学旅行を無事に終えること。
七海「違う……そうじゃない……」
それは、本来の存在意義じゃない。
消去されるはずだった出来損ないを、ちょうどいいから流用しただけ。
七海「私は……何……?」
狛枝「だから、出来損ないだってば。じゃあね」
そう言って立ち去る狛枝くんを止めることすらできない。
私にできるのは、地面に座り込んで夜空を仰ぎ見ることだけ。
こんな時でも、月は変わらず綺麗だと思った。
262: 2015/12/20(日) 17:45:42.39 ID:tQKjd7WjO
――――
「予定調和ですね」
「予測から外れた部分はあれど、大局に影響はないでしょう」
「九頭龍冬彦が氏に、小泉真昼が生き残った」
「けれど、それで何が変わるわけでもない」
「彼らの誰が氏に、誰が生きようと、狛枝凪斗は自らを頃す」
「彼なりの信念に従って」
「なれるわけもない希望に憧れて」
「……長いようで短かった」
「もう少し」
「もう少しで、この空虚も満たされるのだろうか」
「……」
「ああ、けれど」
「予定調和にすぎるというのも――――」
ツマラナイ。
-カムクライズル-
――――
――
263: 2015/12/20(日) 17:47:30.37 ID:tQKjd7WjO
-コマエダナギト-
ズタズタに切りつけた脚が痛い。
ナイフで貫かれた掌が痛い。
(はは……もう少し遅く準備してもよかったかな……)
身体中を傷付け、声を出してしまわないよう口を塞ぎ、そして今にも自らを殺さんとする槍を支える。
(文字通り、氏ぬほど辛いね……)
(けれど、これで『裏切り者』である七海さん以外を処刑台に送ることができる)
(絶望の残党を頃し、彼らの脳を苗木誠に捧げるんだ)
(その代償が僕の命1つだっていうなら、安いものだよね)
(生き残るのは苗木誠に造られた七海さんだけでいい。彼女の脳なんて使い道もないんだし)
けれど。
あれ?
(処刑された彼らの脳を苗木誠に捧げて、それで……)
(そんなもの、どうするんだろう?)
264: 2015/12/20(日) 17:48:00.94 ID:tQKjd7WjO
何かがおかしい。
どこかが決定的に間違っている。
(わからない)
(この違和感の原因が、わからない)
(何かがおかしいと気づいているのに、同時にそれが当たり前だと錯覚しているような)
自分も彼らも氏ぬというのに、その脳が機能を止めることを想像できない。
歳の近い苗木誠が七海千秋の親であることをおかしいと思えない。
希望ヶ峰学園の校舎がジャバウォック島にあっても大して驚かなかった。
そして、この視界を埋め尽くすエラー表示すら受け入れてしまっている。
ERROR!
ERROR!
ERROR!
そのエラー表示に手を伸ばしたくなる。
プログラムの穴を拡げ、一つ上の領域を侵したくなる。
(おかしい……ような、おかしくないような……)
(僕の深層意識が……何かを受け入れている……?)
モノクマ「何もおかしくないよ。ねえ、苗木くん?」
265: 2015/12/20(日) 18:29:22.90 ID:tQKjd7WjO
モノクマ「おーい。見てるんだろー?」フリフリ
モノクマ……?
モノクマ「それにしても、キミってなかなかにエキセントリックだよねえ」
モノクマ「こんな頃し方、いや殺され方、見たことないよ!」
なんの用だろう。
モノクマ「この目で見届けようと思ってね」
モノクマ「まさか、自分から彼に脳を捧げようとするなんて! アーハッハッハ!」
僕の脳なんていくら差し出したって構わないけれど。
けど、本当にそんなものどうするのだろう。
氏体の脳なんて何にも使えないだろうに。
モノクマ「キミは気にしなくていいよ。うぷぷ……」
わからない。
わからない。
266: 2015/12/20(日) 18:31:45.42 ID:tQKjd7WjO
ボッ…
いろいろ考えているうちに、部屋に火が着いた。
ああ、もう少しだ。
もう少しで、僕は『希望』になれるんだ――――
モノクマ「ねえ、苗木くん」
モノクマ「もしもさあ」
モノクマ「もしも、『超高校級の幸運』と『超高校級の希望』の脳でも無理だったらどうする?」ニヤニヤ
モノクマ「永遠に計算し続ける?」
モノクマ「ずっとずっと、計算し続ける?」
モノクマ「それこそ、世界が滅ぶまでかな? うぷぷぷぷっ!」
――――
――
『氏体が発見されました!』
『一定の捜査時間の後、学級裁判を開きます!』
『あ、ボクは用事あるから資料渡したら帰るね』
『んじゃ、頑張ってねー』
267: 2015/12/20(日) 19:09:42.91 ID:tQKjd7WjO
-ナエギマコト-
苗木「……待っていた」
苗木「この時を、待っていたよ」
苗木「狛枝凪斗の、全てを道連れにした自殺……」
苗木「これで77期生の脳が揃う」
苗木「『幸運』も、『希望』も手に入るんだ」
『もしも、『超高校級の幸運』と『超高校級の希望』の脳でも無理だったらどうする?』
苗木「人の脳の中でも、望みうる最高の性能……」
苗木「できない計算? そんなのない……あるはずがない……!」
苗木「これでボクは、ようやく――――」
考えたくない可能性から目を背けて、前を見る。
舞園さんにまた会えるという『希望』だけがボクの行動原理。
ああ、けれど。
268: 2015/12/20(日) 19:10:20.07 ID:tQKjd7WjO
苗木「……舞園さんにまた会えたら」
苗木「そしたら……」
苗木「……」
苗木「キミは、ボクを見て何て言うんだろうね」
公平を言い訳に、舞園さんを救えなかった腹いせで仲間を見頃しにした。
全てを利用するため、救うべき先輩達を犠牲にした。
そして『苗木誠』自身も、電子の海に飲み込まれた。
苗木「キミは……ボクを叱るかな……」
苗木「それとも、ただ悲しむかな……」
苗木「それとも……それとも……」
ありとあらゆる舞園さんとの再会をシミュレートする。
苗木「違う……違う……」
幾千の計算によって少しずつ蓄積されたバグデータが、ボクの思い出を侵食する。
舞園さんと話した回数よりも、失敗作を造っては消去した回数の方が多い。
苗木「あはは……もう、わからないよ……」
苗木「どれが正しい舞園さんなのかな……」
それでもきっと、出会えばわかるはずだ。
本当の舞園さんに出会えることができたなら。
269: 2015/12/20(日) 19:20:29.92 ID:tQKjd7WjO
苗木「……そのためにも」
ヴゥン…
苗木「まずは狛枝凪斗の脳を手に入れなきゃね」
【temporary area】
ジジ…
キイィーー…
ジジジ…
苗木「あれが、狛枝凪斗のデータ群……」
苗木「……」
苗木「ところでさあ」
苗木「なんでオマエがここにいるんだよ。モノクマ?」
モノクマ「うぷぷっ」
270: 2015/12/20(日) 19:20:55.80 ID:tQKjd7WjO
苗木「狛枝凪斗のデータに潜り込んでここまで来たようだけど……」
苗木「キミにできることなんてないよ。ボクの邪魔はさせない」
モノクマ「そういう訳にもいかないんだよねえ」
苗木「どうしても?」
モノクマ「もっちろん! 狛枝くんの脳は凡百の超高校級とは違うからね。譲れないよ!」
苗木「超高校級が……凡百、ね……」
モノクマ「このボクから見たらそんなもんさ」
苗木「……コロシアイが終わるまでは放置するつもりだったけど」スッ
ヴゥン…
オオガミ「……」ジジ…
モノクマ「お?」
苗木「もういいよ、キミは十分働いた。後の裁判はボクが進めておく」
オオガミ「――――!」ダッ
271: 2015/12/20(日) 19:21:53.39 ID:tQKjd7WjO
モノクマ「モノケモノ!!」バッ
ヴヴ…ヴゥン…!
ゴゴゴゴゴゴ…!
芸のないモノケモノの軍団。
結果は知れている。
苗木「ふん。そんなもの、何度やっても――――」
モノクマ「無駄だと思ってるでしょ?」
モノケモノ「ギイィアアア!!!」
オオガミ「――――!?」
パキン…
苗木「……は?」
何かが砕ける音がした。
272: 2015/12/20(日) 19:22:19.68 ID:tQKjd7WjO
超高校級の戦闘プログラム。
ボクの知る限り最も強い存在を真似て、その能力を極大化した攻撃及び防衛用プログラム。
人類最強どころか、もはや兵器すら超える化け物。
それが、たかがウサミの権限で作られたプログラムに……敗れた……?
苗木「ッ……! 『再生』、そして『複製』!!」
オオガミ「……」ジジ…
ジジジ…ヴヴ…!
オオガミ「……」
オオガミ「……」
オオガミ「……」 オオガミ「……」
オオガミ「……」 オオガミ「……」 オオガミ「……」 オオガミ「……」
モノクマ「数を揃えれば勝てるとでも? 甘い甘い甘い甘いッ!!」
タタタッ!
タタタタタタタッ!!
苗木「なっ、馬鹿な!?」
イクサバ「……」 イクサバ「……」 イクサバ「……」
イクサバ「……」 イクサバ「……」 イクサバ「……」
モノクマ「行けっ、残姉! キミに決めた!! なんちゃって!」ゲラゲラゲラ
273: 2015/12/20(日) 19:23:00.33 ID:tQKjd7WjO
苗木「どうして……model_【軍人】をオマエが……」
モノクマ「プログラムの穴を突いたんだよ」
苗木「穴? そんなの、あるわけ……」
モノクマ「あるんだなあ、これが」
モノクマ「現実に、キミの頼りのオオガミさんは人間相当のスペックまで弱体化して」
モノクマ「イクサバさんの使用コードは僕に奪われて」
苗木「ふん。対象の権限を凍結――――」
モノクマ「そして、キミのボクに対する優位性も失われた」
ERROR!
コード実行権限ガアリマセン
苗木「ッ!!?」
モノクマ「とは言っても、完全に乗っ取ることはできなかったけどね。いいとこ、同レベルの権限かな」
苗木「なん、で……」
モノクマ「なんでだと思う?」ニヤニヤ
苗木「……」
274: 2015/12/20(日) 19:23:26.75 ID:tQKjd7WjO
モノクマ「さーて、久々に姉妹で共闘といこうか!」
イクサバ「……」カチャ…
苗木「……大神さんはともかく、戦刃むくろモデルのプログラムなんて作るべきじゃなかったね」
モノクマ「そしたら大神さんの方を奪うだけだけどね」
苗木「縁起が悪いって言ってるのさ。やっぱり『絶望』なんて使うべきじゃなかった」
かつて、舞園さんを頃した人が4人いた。
桑田怜恩。
大神さくら。
戦刃むくろ。
……そして、苗木誠。
苗木「ボクにとって戦闘能力の象徴みたいなものだから作ってはおいたけどさ」
嘘だ。
戦刃むくろは、ボクにとって『絶望』の象徴だった。
普段は桑田くんが。それを回避すれば大神さんが。
そしておおよそ殺されそうにないときに舞園さんを頃す、最後の理不尽。
下手をすれば、そう。江ノ島盾子なんかよりも彼女が怖かった。
そんなものを、利用して克服しようと思うのが間違いだったのかもしれない。
275: 2015/12/20(日) 19:24:20.79 ID:tQKjd7WjO
苗木「……ふん」スッ
ズゥンッ…!
モノクマ「……!」
モノケモノ「ギ……ギギィ……」ジジ…
モノクマ「……何をしたのかな?」
苗木「77期生の脳から大量のデータを送ってこの空間に負荷をかけただけだよ。アルターエゴをベースにした人型モデルならともかく、単純な機械モデルじゃ処理が追いつかないでしょ」
モノクマ「せっかく造ったのになあ。しょぼーん」
苗木「それに、オマエも」
モノクマ「ん?」
苗木「無駄なことに処理を割いてる余裕なんてないんじゃない?」
モノクマ「……ま、それもそうだね」ヴヴ…
ヴゥン…!
江ノ島「じゃじゃーん! 久しぶりの江ノ島盾子ちゃーん!」
苗木「戦刃むくろに、江ノ島盾子……今度こそ、打ち破ってやるよ……!」
江ノ島「893度目の正直って感じ? キャハハッ!」
276: 2015/12/20(日) 19:27:35.87 ID:tQKjd7WjO
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