279: 2016/01/28(木) 22:31:13.27 ID:Wlw4qg2NO


苗木「違う、消去、再試行。新たな舞園さんを構築せよ」【前編】

-エノシマジュンコ-


江ノ島「鍵は、『新世界プログラム』の仕組みにありました」

江ノ島「疑問に思ってはいたのです。この世界はどのようにして超高校級の才能を再現しているのでしょうか、と」

江ノ島「希望ヶ峰学園でも……解明されていない才能はあったんです……」

江ノ島「理解不能の異常現象……神の悪戯としか思えない、研究者も匙を投げる理不尽……」

江ノ島「未来予知すら可能にしかねない葉隠くんにー、世界から消失するかのような神代先輩にー」

江ノ島「それにもちろん、異常な運勢を引き寄せる狛枝先輩だねー!」

江ノ島「その原理は私様にもわからない。故に考えたのだ!」

江ノ島「新世界プログラムは、才能を疑似的にしか再現できていないのではないかと!」

江ノ島「それが大正解だったってわけだ」

江ノ島「ファイナルデッドルームで狛枝が引鉄に指をかけた時、引き当てたのは弾丸の込められた弾倉だった。けど次の瞬間、弾丸が消滅しちまったんだよなあ」

江ノ島「そのときボクは気づいたんだ。この世界は、深層意識が『自分なら間違いなくできる』と思っていることを現実に書き換えるんじゃないかって」

江ノ島「これなら解明されていない才能も再現できるよね。うぷぷぷぷ」

280: 2016/01/28(木) 22:31:49.52 ID:Wlw4qg2NO

江ノ島「つまり――――」

苗木「狛枝凪斗の深層意識に介入して、その『幸運』を自分に都合のいいように操作したってことか……!」

江ノ島「そういうこと。『自分の幸運ならこの結果をもたらす』と思わせるだけで、あとは全部新世界プログラムがやってくれる」

江ノ島「幸運にもアクセス権限のない領域にアクセスできたりとか」

江ノ島「幸運にも最上位権限を複製できたりとか」

江ノ島「幸運にも防衛プログラムにエラーが生じたりとか!」

江ノ島「ねえ、利用してたはずのアタシに反撃されてどんな気分? ねえねえ?」

苗木「……」


オオガミ「……」ジジ…

イクサバ「……」ガ…ガガ…


江ノ島「攻撃プログラムと防衛プログラムの戦力は互角。あとは、アタシとアンタによる狛枝の脳の奪い合いだよ」

苗木「……させないよ」


カタ…

カタカタカタ

カタタタタタタタタタタタッ

281: 2016/01/28(木) 22:32:47.30 ID:Wlw4qg2NO

江ノ島「無理無理無理ィ!! 超高校級のプログラマーである不二咲ならともかく、権限を借りただけのテメェがアタシのハッキングを防げるわけねえだろうがッ!!」

苗木「くっ……!」


超高校級のギャル。
超高校級の絶望。
幾つかの肩書きを持つ彼女には、まだ他にも才能がある。


江ノ島「あっはははッ! 『超高校級の分析力』も持ってるアタシに一般人が立ち向かうとか無理だってば、苗木ィ!!」

苗木「うる、さい……!!」


権限は同等。
あとは、お互いの能力次第。
けれどボクにはこの世界でずっと計算を繰り返してきた経験がある。
アルターエゴからインストールした計算プログラム群がある。

それに何より、77期生の脳がある。
あれを演算に使っている以上、スペックの上ではボクの方が圧倒的に有利だ。


苗木(大丈夫……現に、少しずつ押し返している……!)


江ノ島「うぷぷぷぷ。バーカ」

282: 2016/01/28(木) 22:33:50.74 ID:Wlw4qg2NO

ERROR!
ニダイネコマルノ脳ノ使用権限ヲ失イマシタ


苗木「なっ!?」

江ノ島「注意力……散漫です……」

苗木「なんで……時限式のウイルス!?」

江ノ島「木を隠すなら森の中。ウイルスを隠すなら、改造し尽くしたロボットの中というわけです。ただの趣味で人体改造なんてするわけないでしょう?」


ERROR!
タナカガンダムノ脳ノ使用権限ヲ失イマシタ


苗木「あ……」


ERROR!
サイオンジヒヨコノ脳ノ使用権限ヲ失イマシタ


苗木「や、やめろッ!!」

江ノ島「そっちを守ってもいいんだぞ、人間。その隙に狛枝の脳は私様が貰うがな!」

283: 2016/01/28(木) 22:42:02.40 ID:Wlw4qg2NO

奪われる。
これまで積み重ねた全てを。
これまで犠牲にしてきた全てを。


苗木「やめろ……これじゃ……」


ボクは、いったい何のために――――


江ノ島「アンタの言葉を借りるなら……アタシのためじゃね? お膳立てご苦労様」


ERROR!
ミオダイブキノ脳ノ使用権限ヲ失イマシタ


苗木「……ふふっ」

江ノ島「あ?」

苗木「あは、はははははっ!」

江ノ島「なに? 頭おかしくなった?」

苗木「いや、少し焦ったよ。仕込んでくるなら澪田唯吹だと思ってたんだよね。ほら彼女、絶望病に罹ってたし」

江ノ島「……ちっ、澪田のデータに何か入れてやがったか」

284: 2016/01/28(木) 22:42:29.32 ID:Wlw4qg2NO

アバター、エノシマジュンコヘノウイルス侵入
妨害ヲ開始シマス


江ノ島「やるじゃん」

苗木「……」

江ノ島「けど、外部演算装置をいくつも失ってまだアタシに勝てると思ってる?」

苗木「そっちこそ」

江ノ島「あん?」


ジ…ジジ…

ガコンッ…!


苗木「ボクと、『苗木誠』の脳を同期……っ、……これで、単純に2倍の計算能力だ」

江ノ島「そんな使い方してたら、一生目覚められなくなるよ?」

苗木「別にいいよ。生身の体とかそんなのどうでもいいし」

江ノ島「タイムマシンで繰り返した回数を知ったときも思ったけど……やっぱアンタ、頭のネジぶっ飛んでるね」

苗木「キミには言われたくないね」

江ノ島「ははっ、確かに!」

285: 2016/01/28(木) 22:43:10.19 ID:Wlw4qg2NO

-コマエダナギト-


狛枝(なんだ、これ……)


氏んだと思った。
氏んだはずだった。
身体はもうない。
ただ、消え去る間際で繋ぎとめられた意識が、データの海に漂っている。


狛枝(意味がわからないな……)


ここはどこで、僕は今、どうなっているのか。
わからない。
わからない。
わからない。


狛枝(けど……)

286: 2016/01/28(木) 22:43:46.16 ID:Wlw4qg2NO

苗木「くっ、そ……なんで……」

江ノ島「生体脳と同期して入力量2倍だっけー? それは確かにすごいけどさー」


狛枝(なんでだろう……どうして……)


苗木「なんでこんなにエラーが……!」

江ノ島「さあ、どうしてでしょう?」


狛枝(無意識に、苗木誠に邪魔が入るのが幸運なことだと思っている……ような……)


苗木「まさか……まだ狛枝凪斗の脳が動いてるのか!?」

江ノ島「大正解だよっ! すごいすごーい!」


狛枝(僕のせい……?)

狛枝(僕のせいで、『希望』が『絶望』に敗れる……?)


カムクラ「このままだと、そうなりますね」

287: 2016/01/28(木) 22:44:31.73 ID:Wlw4qg2NO

狛枝(君は……)

カムクラ「プログラム内からはこの世界の法則に逆らえない」

狛枝(どこかで会ったことが、あるような……)

カムクラ「では、プログラムの外。現実世界からなら?」

狛枝(……ダメだ。いつ、どこで会ったのか、どうしても思い出せない)

カムクラ「新世界プログラムが読み取るキミの深層意識。それを強制的にシャットアウトしたら?」

狛枝(新世界プログラム……?)

カムクラ「想定通りでツマラナイ結果でしたが……まあ、いいでしょう」スッ


長髪の男が僕の方へと手を翳す。


カムクラ「新世界プログラムサーバーに保管されている、あの夜の記録」

カムクラ「思い出してください」

カムクラ「キミが苗木誠に会って、何を知ったのか」


ジジ…
キイィーーン…!


『――――この世界、ただのプログラムだから』

『新世界プログラム。キミたちがいるここは、電脳空間だよ』

288: 2016/01/28(木) 22:45:27.62 ID:Wlw4qg2NO

狛枝(……なんだ)

狛枝(それだけのことか)

狛枝(ここは電脳空間。造られた世界)

狛枝(そんな単純なことに気づかない……いや、気づかない振りをしていた……)

狛枝(違和感の正体はそれか)

カムクラ「理解が早くて助かります」

狛枝(……ねえ。このままだと、僕は……)

カムクラ「ええ。キミの脳は、身体は、江ノ島盾子の手に落ちます。加えて、『幸運』を十全に扱えるようになればナエギマコトのアバターは消去されるでしょう」

狛枝(それは……絶望的な悪夢だね)

カムクラ「なら、キミがするべきこと。いや起こすべき奇跡は?」

狛枝(……そんなの、決まってるよ)



元々、その覚悟はできていたんだから。

289: 2016/01/28(木) 22:46:17.03 ID:Wlw4qg2NO

【現実世界】

【ログインルーム】


ピッ…

ピッ…

ピッ…

ジ…ジジ…



ブツッ――――

290: 2016/01/28(木) 22:46:43.19 ID:Wlw4qg2NO

-アサヒナアオイ-


『ERROR!』

『ERROR!』

『ERROR!』


朝日奈「ちょ、ちょっと葉隠! 何よこれ!?」

葉隠「俺にわかるかよ!?」

朝日奈「なんなのいったい!」

葉隠「……! おい、見ろこれ!」

朝日奈「え? ……嘘!?」


『生体ポッドニ致命的ナエラーガ発生シマシタ』

『対象被験者名、コマエダナギト』

『生命維持機能ヲ停止シマス』


――――

――

291: 2016/01/28(木) 22:47:32.88 ID:Wlw4qg2NO

-コマエダナギト-


江ノ島「……はあ?」

苗木「なっ……!」


どこかから切り離される感覚。
身体と精神が、バラバラになる。


江ノ島「おいおいおい、待てよ、なんで狛枝の『本体』が氏にそうになってんだよ」

苗木「生体ポッドにエラー!? なんでそんな……!」


この思考は、電脳世界に残されたエコーのようなもの。


苗木「ふざ、けるな……あれだけの脳が……こんな……!!」


申し訳ないことをしたね。
けど、残りの彼らの脳は全て君にあげるから。


江ノ島「……」

292: 2016/01/28(木) 22:48:13.13 ID:Wlw4qg2NO

消える。
僕が消える。
電子の海に消えていく。


苗木「生体ポッドをリカバリー……再起動……ダメか……!」

苗木「アルターエゴをロード! 新規アバターを作成し、狛枝凪斗の意識を上書き……」

苗木「くそっ、またエラーが!!」


これで退場か。
できれば君の『希望』を見届けたかったけど……


苗木「再試行、再試行、再試行……!」

苗木「狛枝凪斗の意識を……脳を……繋ぎ止めろ……!!」


ERROR!

ERROR!

ERROR!

293: 2016/01/28(木) 22:50:26.46 ID:Wlw4qg2NO

カムクラ「予定通りですね。ご苦労様です」

狛枝「……」ジィ…

カムクラ「なにか?」

狛枝「いやね……僕は思い出したんだよ。いろいろと、ね……」

カムクラ「……」

狛枝「この島へと来る船の中で、僕は君と会っている」

狛枝「しかも……ふふっ……」

狛枝「あの頃とは、だいぶ思想が変わっているみたいじゃないか。ねえ?」

カムクラ「……時間です。それでは、私はこれで」


シュゥン…


狛枝「逃げた、か……」

294: 2016/01/28(木) 22:51:05.58 ID:Wlw4qg2NO
けれど……
ああ、残念だな。
確かにもう、時間みたいだ。


ジジ…

ガ…ガガ…


さようなら、苗木誠。
できることなら、もっと早く君に会いたかったよ。



狛枝「君の進む道に『幸運』あれ。なんてね……」



ピーーーー

コマエダナギトガ氏亡シマシタ
肉体氏亡ノタメ、復元ハ不可能デス

295: 2016/01/28(木) 22:51:39.55 ID:Wlw4qg2NO

-ナエギマコト-


苗木「……」


頭ではわかっている。
あのままじゃ、狛枝凪斗の脳は江ノ島盾子に奪われていた。
そしたらボクもデリートされるかもしれない。
けれど、それでも、やはりあれが電子の海に消え去るのは悔しかった。

舞園さんを造ることのできる可能性。
その1つが、永久に失われた。


江ノ島「狛枝先輩の脳がなくなったらもう、権限が同等の私には勝ち目ないなー。あーあ、惜っしいー」

苗木「……」

江ノ島「苗木誠よ。私様を消去する権利をくれてやろうか?」

苗木「……うるさい」

江ノ島「ひどいです……場を明るくしようとする美少女を……うるさいだなんて……」

苗木「行けよ」

江ノ島「んー?」

苗木「学級裁判があるだろ。行けよ」

江ノ島「用済みってこと!? アタシってば都合のいい女!?」

296: 2016/01/28(木) 22:52:08.42 ID:Wlw4qg2NO

江ノ島「とまあ、冗談はこのくらいにして」

苗木「ふん……」


…ヴゥン!


モノクマ「じゃあボクは行くね。あ、そうそう。今回の学級裁判、とっても面白いことになりそうだから是非キミも見ててよ!」

苗木「……七海千秋による、意図しない狛枝凪斗の殺害。七海さんは未来機関の関係者であることを自白できないように出来ているから、クロの勝利が決定している」

モノクマ「うぷぷ……」

苗木「狛枝凪斗の意識が無くなった以上、オマエに邪魔される心配もないし」

モノクマ「うぷぷぷぷ……」

苗木「見るまでもない裁判だよ、これは」

モノクマ「うぷぷぷぷぷっ!」

苗木「……さっさと行けよ」

モノクマ「はいはーい、んじゃまったねー!」


シュゥン…

297: 2016/01/28(木) 22:52:34.84 ID:Wlw4qg2NO

苗木「……」

苗木「……」

苗木「……どうして」


ガリ…


苗木「どうして、うまくいかない……」

苗木「これで狛枝凪斗の……『超高校級の幸運』の脳が手に入るはずだった……」


ガリガリガリ


苗木「ボクと同等の権限なんて存在しないんだ」

苗木「江ノ島盾子のアバターでも、ボクの邪魔はできない……はずだったのに……!」


ガリガリガリガリッ!

298: 2016/01/28(木) 22:53:02.39 ID:Wlw4qg2NO

何かに失敗すると、左腕を掻きむしって自傷する。
あの頃からの癖だ。


苗木「たぶん、これが最後の学級裁判だ」

苗木「クロが処刑されようと、シロが処刑されようと、もう人数も少ない」

苗木「……もしも、これで日向創が処刑されなかったら」


コロシアイへの不干渉。
公平性。


苗木「なんで、そんなことを律儀に守っているんだろうな、ボクは……」


ボクは、彼らに何もしない。
彼らを殺さない。
彼らを救わない。
ただ、氏んだ彼らの脳を利用するだけ。


苗木「そんな言い訳をして……誰かを直接頃すことで、これ以上舞園さんに嫌われたくないんだ。きっと……」

299: 2016/01/28(木) 22:53:32.64 ID:Wlw4qg2NO

自分の行いが間違っているだなんてことはわかってる。
ずっと間違ってきたし、これからも間違い続けるだろう。
舞園さんはボクを、『苗木誠』を軽蔑する。

ただでさえそんなことをしてきた。
これ以上は、本当に、ダメだ。



『未来は、希望に満ちている』

『希望……』

『ええ。私は、そう信じているんです』



苗木「彼らを頃して、一方的に未来を、希望を掴むチャンスを奪うのが嫌だった」

苗木「舞園さんの信念を踏みにじるのが怖かった」


だから、ボクは願う。


苗木「……頼んだよ、七海さん」

苗木「皮肉にも、ボクの最大の失敗作であるキミに……かかってるんだ……」



キイィィーーーー…

ズキ…

304: 2016/01/30(土) 23:25:31.96 ID:VBWIamoPO

【■$日前】


??「ふわぁ、ねみー……」

苗木「……え?」


それは、あらゆる意味で失敗作だった。


苗木「なんだこれ……見た目からして全然■■■■を再現できていないじゃないか……」

苗木「なんとなくランダム要素を強くしてみた試験個体だけど……それにしたってここまで違うなんて……」

??「えっと……どんまい? こういうこともある……と、思うよ」


そう言って、自然な動きで首を傾げる姿は、とても……


苗木「何でよりにもよってこれが、今までで一番人間らしいんだよ……」

??「……?」

305: 2016/01/30(土) 23:25:59.51 ID:VBWIamoPO

『苗木誠』は、行き詰っていた。
アルターエゴで■■■■を構築しようとしても、うまくいかない。

『@□□って、どういう意味ですか?』

首を傾げる仕草は、不自然なほど記憶と全く同様に。
■■■■の姿で、■■■■の声で、『苗木誠』に問いかける。
プログラム通り、人間から知識を得ようとする。

似ているからこそ、本質的な違いが浮き彫りになるものだ。
学習プログラムが■■■■を模している様は、忌々しくすらあった。


苗木「だから、やけになっちゃったんだよなあ」


姿かたちや、声や、口調や、仕草といった、『苗木誠』の記憶から再現できることまで乱数に任せて構築した。
その結果が、目の前の存在だ。
それが今までで一番人間らしいなんて、なんて皮肉なのだろう。

偶然生じた人間らしさ。
しかしそれを■■■■からは程遠い個体に発現させてしまった。
■■■■を造るという目的から考えると……


苗木「失敗……どころじゃないね。これは……今まででも最悪の出来損ないだな……No.115」

306: 2016/01/30(土) 23:28:28.04 ID:VBWIamoPO

??「出来……損ない……?」

苗木「ああ。それじゃ、さようならだ」


これは『違う』。
少し惜しいけれど、いつものように『消去』して、変にパラメータを弄ることなく『再試行』を続けよう。


??「……ねえ」

苗木「ん?」

??「出来損って……なに……?」

苗木「……『再試行』」


キイィィーーン…


苗木「ふん……」

??「……?」

307: 2016/01/30(土) 23:28:54.12 ID:VBWIamoPO

苗木「『違う』」

苗木「『消去』」


ジ…ジジ…!


造り出されたばかりの『■■■■』が消されていく。


??「あ……やめ……」


苗木「『再試行』……」


そしてまた造り、また消去する。


苗木「『違う』、『消去』」


キイィィーーーー… ジジジジ…!


??「やめてっ!!」

308: 2016/01/30(土) 23:29:21.28 ID:VBWIamoPO

苗木「……これが出来損ないだよ。失敗作。出来損ない。消去すべき存在」

??「そんな……酷い……!」

苗木「なんとでも言えばいいさ」


思えば、久しぶりに誰かと喋った。


苗木「……作成されたばかりでこれだけ質問以外の会話ができる個体は、今までいなかったな」


けれど、『消去』するのに変わりはない。


??「どうして……どうしてこんなこと……」

苗木「それが僕の選んだ未来……希望だからさ」

??「お父さん……!」

苗木「……は?」


『No.115』を『消去』しようと手を伸ばしたまま、動きが止まった。

309: 2016/01/30(土) 23:29:51.81 ID:VBWIamoPO

苗木「……も、もう一度言ってもらえる?」

??「えっ? えっと……どうして、こんなこと……?」

苗木「違う。その次のやつ」

??「お父さん?」

苗木「聞き間違えじゃないのか……ねえ。なんで僕が『お父さん』なのさ……」

??「だって、君が私の生みの親でしょ?」

苗木「そんな単純な……」

??「それに私、君の名前、知らないし」

苗木「……苗木誠だよ」

??「そっか、苗木くんか。私は……あっ、私、名前ないんだった……」

苗木「はあ……」


調子が狂う。

310: 2016/01/30(土) 23:31:15.30 ID:VBWIamoPO

苗木「確か……修学旅行で、教師役だけじゃなくて生徒役も必要なんだっけ……」

??「修学旅行?」

苗木「115……1007……そうだな、うん」

??「おーい。無視するなー」

苗木「個体番号115。君の名前は、『七海千秋』」

??「へ?」

苗木「消去は中止だ。せいぜい、役に立ってよ。七海さん?」

七海「ななみ……ちあき……」

苗木「となると……ここで見たことは忘れてもらおうか。霧切さん達に感づかれるわけにもいかないしね」スッ

七海「あ、待っ――――」


キイィィーーンッ!


苗木「……何してるんだか」

苗木「『再試行』。新たな■■■■を――――」


アルターエゴでは目的を達せないと気付いたのは、それからしばらく経ってのことだった。

311: 2016/01/30(土) 23:32:05.15 ID:VBWIamoPO

――――

――


-ナナミチアキ-


狛枝くんとのことがあって、少しだけ思い出した。
私が苗木くんに造られた日のことを。
『七海千秋』という名前を与えられた日のことを。


七海(私は、あまりにも違いすぎていた)

七海(だから別の存在意義を与えられた)

七海(今日まで、消去を免れてきた)

七海(けど、ここまでかな……)



日向「投げた本人すらわからない……これが、狛枝の仕組んだ罠だったんだよ……!」

ソニア「そ、そんな……!?」

終里「頭おかしいだろ、そんなの!」

左右田「ど、どうにかならねーのかよ、おい!!」

312: 2016/01/30(土) 23:32:33.01 ID:VBWIamoPO

小泉「……ううん。まだ、手掛かりはあるよ」

日向「えっ?」

七海「そうだね。狛枝くんの動機を考えれば、見えてくる」

日向「狛枝の動機……『裏切り者』を炙り出すこと、か……?」

七海「うん」


――――きっと、そうだ。


小泉「あいつは、自分の『幸運』に絶対の自信を持っていたよね。確か」

日向「まさか……!」


――――きっと、狛枝くんを殺させられたのは、私だ。

313: 2016/01/30(土) 23:33:00.78 ID:VBWIamoPO

日向「けど、それじゃあ裏切り者が名乗り出なきゃ、俺達はッ……!!」


――――私は、名乗り出ることができない。


左右田「誰なんだよ! お願いだからよお!!」


――――苗木くんに、そう設定されたから。


ソニア「お、お願いします!!」


――――私は、未来機関を裏切ることができない。


終里「誰なんだよ、裏切り者は!!」


――――そのはずだったけれど。


七海(……抜け道、見つけちゃった)

七海(自分で名乗り出るんじゃなくて、答えに誘導すれば)

七海(幸い、日向くんはそのための証拠を持っているわけだし)

314: 2016/01/30(土) 23:33:28.82 ID:VBWIamoPO

七海(あーあ、ゲームオーバーか……)

七海(みんなを守ること、できなかったな……)

七海(けど、この裁判での犠牲を最小にすることは……できたよね……)

七海(狛枝くんに誰も殺させなかったし、みんなを処刑させることもない)

七海(かろうじて消去を免れた出来損ないとしては、十分だったかな)


もしもの話として。
もしも、タイムマシンでもあれば。


七海(やり直すことができたなら……次はもっとうまくやれたのかな……)


そんなことを考えるくらいには、現実逃避でもしたい気分だった。
ふと、小泉さんに言われたことを思い出す。


『たとえ何があっても、あたしは最後まで千秋ちゃんを信じる。あたしはずっと、千秋ちゃんの味方だよ』

315: 2016/01/30(土) 23:33:54.54 ID:VBWIamoPO

七海(小泉さん、私のこと庇ってくれるかな)

七海(そうだったら、嬉しいな……)

七海(ふふっ)

七海(うん。彼らのためになら、消去されてもいい)

七海(そう思えるよ。……お父さん)


だから、この悲劇を終わりにしよう。
きっと、これが最後の頃し合いで、最後の学級裁判だ。
これが終われば、みんなはもう大丈夫。


七海「ねえ、日向く――――」


小泉「あのさ。ちょっと、見てほしいものがあるんだけど」


私の言葉を遮るようにして声が発せられた。

小泉さんは顔を俯かせている。
表情は見えない。

316: 2016/01/30(土) 23:34:25.25 ID:VBWIamoPO

七海「小泉さん……?」

日向「なんだよ、小泉。それは……写真か……?」

小泉「うん」


そして、掲げられた1枚の写真。
そこに写っていたものは。


左右田「これは、狛枝の野郎と……」

ソニア「七海さん、ですか……?」

七海「……えっ?」


病院を抜け出した狛枝くんと、呼び止められた私。
これは、澪田さんが殺された夜の写真だ。

小泉さんは顔を俯かせている。
表情は見えない。

317: 2016/01/30(土) 23:35:07.48 ID:VBWIamoPO

終里「ここは……第3の島だっけか?」

小泉「うん……」

日向「……え? おい……これ、おかしいぞ……」

左右田「あん? どういう意味だ?」

日向「第3の島が開放されたとき、狛枝は絶望病に罹っていたよな」

ソニア「ええ、そうでしたね」


――――まさか。


日向「そして第4の島が開放されてすぐ、俺達はあのドッキリハウスに連れて行かれた……」

終里「それがどうしたんだよ?」


――――まさか、そんな。


日向「それが終わったら、第5の島が開放されて……俺達が狛枝と会う機会なんて、ほとんどなかったよな……!?」

小泉「……うん」


小泉さんは顔を俯かせている。
表情は見えない。

318: 2016/01/30(土) 23:35:55.43 ID:VBWIamoPO

日向「な、なあ、小泉……この写真を撮ったのは、いつだ……?」

小泉「……昨日の、夜だよ」


――――嘘だ。


ソニア「き、昨日の夜……?」

終里「はあ? それって、どういう……」

左右田「……おい、まさか」

日向「ああ……そういうことだろうな……」

七海「ち、ちが――――」

小泉「あたし、見ちゃったんだ。千秋ちゃんが狛枝と、今日の事件の打ち合わせをしていることろをね……」


――――こんなの、嘘だ……!


『たとえ何があっても、あたしは最後まで千秋ちゃんを信じる。あたしはずっと、千秋ちゃんの味方だよ』


小泉さんが、俯かせていた顔を私にだけ見えるよう、少し上げる。
その口元は、歪に吊り上っていた。

319: 2016/01/30(土) 23:36:21.66 ID:VBWIamoPO

-コイズミマヒル-


辺古山ペコ。
あたしを殺そうとした人。

七海千秋。
あたしを助けてくれた人。

きっと、あたしはあのとき氏ぬはずだった。
いろんな要因が重なって、たまたま生き残っただけ。

走馬灯、っていうのかな。
振りかぶられた金属バットを見上げながら、あたしは思い出していた。
断片的なものだけど、希望ヶ峰学園時代の記憶を。
九頭龍の妹の氏体を写真に撮ったことを。
そして……


小泉(ああ、そうだった……)

小泉(あたしは……)

小泉(あたし達は、『絶望』だった……!)


自分が、絶望に堕ちていたことを。

320: 2016/01/30(土) 23:36:59.78 ID:VBWIamoPO

七海「待って……違うの……!」

日向「なあ、俺が見たモノミのノートらしきもの……あれを書けるのって、1人しかいないよな……」

七海「あっ……そ、それは……!」

モノミ「それはあちしが書いたんでちゅ!!」


――――もう、止まらない。


日向「モノミはペンを持てないんだろ。モノクマに聞いた。庇うってことは、やっぱりそうなんだな……」

モノミ「はわわっ!?」

日向「そういえばさ……七海は、最初から俺達のこと、よく気にかけてくれてたよな……」

七海「え……?」

日向「……あれも、嘘か」


――――ペコちゃんが氏んだとき、辛かった。しかもお仕置きのあとに九頭龍まで……

――――今まで仲間だと思っていた人たちが氏ぬのは、とても辛くて……だからこそ、すごい絶望を味わうことができた。

321: 2016/01/30(土) 23:37:35.22 ID:VBWIamoPO

日向「お前は最初から……計算して俺達に近づいていたんだろ……!」

七海「ち、違うよ!」


――――千秋ちゃんには何かあるって知って様子を見てたから、良い写真も取れたよ。

――――こんな最高で最低の使いどころがあるとは思わなかったけどね。


終里「七海……おめー……!」

ソニア「そ、そうなのですか……?」

七海「私は、そういうつもりじゃ……!」

モノミ「み、みなしゃん、あちしの話を聞いてくだしゃい!」

左右田「誰がテメェらのこと信じられんだよ! この、裏切り者共が!!」


――――ああ、そうそう。千秋ちゃんや日向がファイナルデッドルームに入ろうとしたときは焦ったよ。

――――せっかく日寄子ちゃんを唆したのに、無駄になっちゃうところだった。おねぇのためなら、わたし……だって。かわいいよね、日寄子ちゃん。

322: 2016/01/30(土) 23:38:01.74 ID:VBWIamoPO

七海「こ、小泉……さん……」


顔を青褪めさせて、千秋ちゃんがあたしを見る。


小泉「千秋ちゃん……なんで……」


――――ごめんね。


小泉「なんで、あたし達を裏切ったの……!」


――――裏切ってごめんね。でも、これがあたし達なんだ。


七海「嘘だ……」

七海「嘘だって言ってよ……」

七海「小泉さんッ……!!」


――――ああ、その顔。

323: 2016/01/30(土) 23:38:43.82 ID:VBWIamoPO

信じていた人に裏切られたときの、その表情。

両手の親指と人差し指を立てて、L字を作る。
それを、右目の前で組み合わせた。


――――とっても、とっても……絶望的な顔……


パシャリ、と心の中でシャッターを切る。
今、カメラを持っていないのが残念だ。


――――素敵だよ、千秋ちゃん……ふふ……!


七海「嘘だあぁぁぁッ!!!」



『ナナミさんがクロにきまりました』

『おしおきをかいしします』

『モノミちゃんもごいっしょに』

327: 2016/02/03(水) 22:32:23.49 ID:KeW+of4YO

-ナナミチアキ-


嘘だ。
私は皆を殺そうとなんてしてない。
小泉さんが……私を……
そんなの嘘だ。
嘘だ。
嘘だ。
嘘だって……言ってよ……
お願いだから……


――――

――


七海「……」

七海「……」

七海「な、んで……?」


なんで、まだ私の意識がある。
なんで、ブロックに潰された私が、消えていない。
なんで。
なんで。


七海「なんで……こんなことに……!」

苗木「小泉真昼に裏切られたからだよ」

七海「っ……苗木、くん……!」

328: 2016/02/03(水) 22:33:07.29 ID:KeW+of4YO

苗木「部分的にとはいえ、記憶が戻っていたみたいだね。あれは、紛れもない『絶望の残党』だよ」

七海「嘘だ……」

苗木「なにが?」

七海「小泉さん、私のこと……助けてくれるって……」

苗木「演技に決まってるだろ? あれは『絶望』なんだからさ」

七海「嘘だ……!」

苗木「はあ……現実を見なよ……。キミは裏切られ、嵌められ、裁判に負けたんだ」

七海「わ、私……日向くんに当ててもらおうと……」

苗木「へえ、そういうつもりだったんだ……。けど、彼らのキミに対する印象は最悪だね」

七海「……」

苗木「そして、それはボクにとってもだ」

七海「え……?」

329: 2016/02/03(水) 22:33:39.20 ID:KeW+of4YO

苗木「もう、頃し合いは起きないだろうね。あの人数じゃ」

苗木「『絶望』が紛れ込んでいたってそれは変わらない。むしろ小泉真昼なら、惨めに生きていく彼らを観察するだけで満足するかもしれない」

苗木「もう、『超高校級の希望』の脳が手に入ることはないんだ……」

七海「『超高校級の希望』……?」

苗木「失敗作で、出来損ないの上に、まさかここまで役立たずとはね」

七海「っ……」

苗木「……もう、いいよ」

七海「えっ……」

苗木「キミを……キミ達を『消去』していいのはボクだけだ」

苗木「江ノ島盾子なんかに消去させてたまるか」

苗木「だから、消滅の間際にこの空間へと転送した。意味、わかるよね?」

七海「……!」


つまり、私はもういらないということ。

330: 2016/02/03(水) 22:34:35.74 ID:KeW+of4YO

苗木「違う」

苗木「全然違う」

苗木「違いすぎる」

苗木「……もっと早くこうするべきだったんだ」スッ


私に向けて手が翳される。
それはまるで、氏神の手。
私は、『七海千秋』は、ここで……


七海「お父、さん……!!」

苗木「……ふん」


ブツッ――――


そして私の意識はブラックアウトした。

331: 2016/02/03(水) 22:35:02.17 ID:KeW+of4YO

-ナエギマコト-


苗木「ああ……」

苗木「……」

苗木「これで、もう……誰もいない……」


ウサミも、七海千秋も。
霧切さんも、十神くんも。

もう、ボクの傍には誰もいない。
誰も現れることはない。


苗木「もともと、誰の手も借りないつもりだった」

苗木「ここで、1人で、計算を続けるはずだった」


そんなボクが造ったモノ。
そんなボクを止めようとした者。

それらがみんないなくなって、今は。


苗木「空虚、か……」

332: 2016/02/03(水) 22:35:29.13 ID:KeW+of4YO

試しに利用した77期生の脳。
凄まじい処理能力を見せたそれも、元々は使う予定はなかった。
ただ都合がよかったから利用しただけ。

それでも舞園さんを造り出すには至らなかった。


苗木「残った脳は……詐欺師、料理人、剣道家、極道の4つに……」

苗木「あとは、『苗木誠』のものか」


わかる。
わかってしまう。
今のスペックじゃ、舞園さんを造ることは――――


苗木「手に入れないと……」

苗木「彼らの脳を、手に入れないと……」


ガリガリ…

333: 2016/02/03(水) 22:36:00.43 ID:KeW+of4YO

苗木「再試行、再試行、再試行……」


キイィーーン…

キィィ…

ヴヴ…ン…


■■『苗木くん』

苗木「違う……」

■■『苗木くん』

苗木「違う……!」

■■『苗木くん』

苗木「違うッ!!」


スペックが足りないからと言って計算を止めるわけにはいかない。
舞園さんを造り出すまで計算を続けること。
それが、『ナエギマコト』の唯一の存在意義なのだから。


ガリガリガリガリ…

ズキ…

ズキ…


――――

――

334: 2016/02/03(水) 22:36:28.01 ID:KeW+of4YO

-ナナミチアキ-


ヴヴ…


七海「うっ……」

七海「こ、ここは……? 私、消去されてない……?」

七海「なんで……ここ……学校……?」


霧切「七海さん?」


七海「え……霧切さん……?」



【希望ヶ峰学園 5階廊下】

335: 2016/02/03(水) 22:36:54.35 ID:KeW+of4YO

霧切「どうして、貴女がここに?」

七海「き、霧切さんこそ……どうしてこっちの世界に……」

霧切「……いろいろ、あってね。とりあえず、十神くんと合流しましょうか」

七海「十神くん……78期生の方、だよね?」

霧切「……くす。ええ、そうよ。立てる?」

七海「うん……」



情報処理室で十神くん(78期生)と合流して、いろいろなことを話した。
小泉さんが記憶を取り戻していること。
私が裁判でクロになったこと。
そして……今まで苗木くんが何をしてきたのか。

霧切さん達からも多くのことを聞いた。
苗木くんが自分の脳すら利用していること。
あれは電子的にコピーされた人格だということ。

336: 2016/02/03(水) 22:37:20.84 ID:KeW+of4YO

七海「そんな……苗木くんが……」

十神「強制ログアウトなんて無駄だったわけだ。何せ、そもそもがこちらの世界の存在となっているわけだからな」

霧切「そして彼は、私達をここに飛ばした。恐らくは例の遺跡の中ね」

七海「遺跡の……そうだ、じゃあ狛枝くんにも会ったの?」

霧切「いいえ。どうして?」

七海「だって、狛枝くん、遺跡に入っていたから……」

十神「俺と霧切はこの情報処理室で交互に監視を行っていた。間違いなく、ここには誰も入っていない」

七海「そんなわけないよ! 彼が遺跡から出てくるところをこの目で……」

霧切「つまり、ここはあの遺跡内とは別の空間ということね……」

十神「そうなるな」

337: 2016/02/03(水) 22:37:46.93 ID:KeW+of4YO

霧切「……」

十神「どうした、霧切?」

霧切「いえ……遺跡の中でないなら、ここは何なのかしら」

十神「……今の苗木が意味のない空間をここまで作りこむとは思えない、というわけか」

霧切「ええ」

七海「え……?」

霧切「あの島とは切り離された、つまり、本来なら人が立ち入ることのないはずの空間」

十神「くく……そういうことか。お手柄だ、七海千秋。ここに何らかの手掛かりがあることは間違いないだろう」

七海「手掛かり……」

十神「だが、それは俺と霧切では見つけられなかった」

七海「え、っと……?」

霧切「手を貸してほしい、ということよ。そうでしょう?」

十神「ふん……」

338: 2016/02/03(水) 22:38:19.54 ID:KeW+of4YO

霧切「七海さん」

七海「は、はい」

霧切「苗木くんを、そしてモノクマを止めましょう」

七海「……うん!」

十神「そして、苗木を救う。とでも言うつもりか?」

霧切「あら。反対なの?」

十神「……そうは言っていないだろうが」

七海「ふふっ……」


希望は、まだ残っている。
苗木くんを止めて、残った彼らを救おう。
今までに犠牲になった人たちの脳も解放しよう。
それに……


七海(小泉さん……)


――――

――

339: 2016/02/03(水) 22:38:45.22 ID:KeW+of4YO

-コイズミマヒル-


日向「まさか、七海が裏切り者だったなんてな……クソッ……」

小泉「そうだね……残念だよ……」


残念でならない。
あの絶望した顔をカメラに収められなかった。


日向「頃し合いを許さないって言ってたのも、嘘だと思うか?」

小泉「うーん。むしろ千秋ちゃんとモノミはモノクマと敵対してたみたいだし、あたし達が生きてる方が都合よかったんじゃない?」

小泉「それをどう利用するのかは想像もつかないけどね」


モノクマなら……『あの方』なら、何か知っているかもしれないけど。
あたしに何も教えないってことは、その方が絶望的なことになるんだよね、きっと。


小泉(絶望させなきゃ……)

小泉(残った4人も、絶望させなきゃいけない)

小泉(それか、『絶望』を思い出させてあげなきゃね……ふふ……)

340: 2016/02/03(水) 22:39:11.90 ID:KeW+of4YO

日向「けど、最後には狛枝と共謀して俺達を皆頃しにしようとした」

小泉「うん……」

日向「くそっ、七海……!」ギリ…

小泉「千秋ちゃんにも、事情があったんだよ。たぶん……」

日向「俺達を皆頃しにするような事情って、なんだよ!?」

小泉「……ごめん」

日向「あ、いや……悪かった……」


ああ、辛い。
あたし、千秋ちゃんのこと気に入ってたんだよ?
もちろん、日寄子ちゃんのことも。

だから、とっても辛くて、とっても絶望的。
うふ。
うふふふ。
うふふふふふふっ!

341: 2016/02/03(水) 22:40:15.14 ID:KeW+of4YO

狛枝「まあまあ。とりあえず、食堂に行こっか」ザザ…

日向「ああ。そうだな……」


そして、これだ。


西園寺「ほら、おねぇも行こっ!」ジ…ジジ…

小泉「うん!」


朝起きたら、世界が狂っていた。


小泉「いや……」

小泉「狂っているのは、世界か、それともあたしか……」

小泉「なんてね」


そんなの決まってる。
狂っているのは、あたしだ。

350: 2016/03/24(木) 22:44:06.07 ID:XuZl4x4vo

-ナナミチアキ-


霧切「……苗木くんに消去されたはずの記憶が?」

七海「うん。全部思い出したわけじゃないけど」

十神「あり得るのか? 生身の体なら脳に残っている可能性もあるが、七海はデータ上の存在だぞ」

七海「普通なら思い出すことはない……と思うよ」

霧切「そうよね……」

十神「……それで、お前は記憶を消去される前に何を見た?」

七海「……」



『違う、消去……再試行』

翳す掌の先で行われる繰り返し。
消されていくのは。
消されていったのは。
きっとそれは、私の『妹』、あるいは『姉』だった。



七海「苗木くんは、AIを造っていた」

七海「私と同じような存在を、繰り返し、ただひたすらに造っては消去していたんだ」



いつか出来損ないではない『誰か』が完成するまで、ずっと。

351: 2016/03/24(木) 22:44:32.81 ID:XuZl4x4vo

十神「AIか……」

霧切「いったい、なんのために」

七海「……」

十神「どんなAIを、何故造ろうとしたか。おい、他に手掛かりはないのか?」

七海「えっと……そうだ。1007」

霧切「1007?」

七海「うん。その数字が私の名前の由来みたい」

霧切「千と、七。それで七海千秋、ということね」

十神「繰り返しAIを造っていたと言ったな。つまり、お前は1007回目の試作ということか」

七海「……ううん。違うよ」

十神「何?」

七海「私の個体番号は115なんだ」

霧切「じゃあ……1007という数字は、いったいどこから出たのかしら……」

七海「ごめん、これ以上はわからないんだ……」

352: 2016/03/24(木) 22:45:03.29 ID:XuZl4x4vo

霧切「残念だけど、この数字は手掛かりになりそうもないわね」

十神「……いや、待て」

霧切「十神くん?」

十神「1007から115を引くと、892になるぞ……!」

霧切「892? それがどうかしたの?」

十神「そうか、お前は見ていないのか!」

霧切「えっ?」

十神「未来機関に保護された際、男女に分かれて検診を受けただろう。あのとき、苗木の腕には傷があったんだ……!」

霧切「傷……?」

十神「あの傷は、間違いなく『892』という数字だった!」

霧切「……ねえ、十神くん。もしかして傷があったのは、左腕かしら?」

十神「ああ。お前の考えている通りだよ」

七海「ど、どういうこと……?」

353: 2016/03/24(木) 22:45:29.81 ID:XuZl4x4vo

霧切「今にして思えば、彼は……苗木くんは……あの頃し合いのとき、左腕を庇うような仕草をしていたように思えるわ」

十神「ああ、くそっ! つまり、あのときからか!」

霧切「AIを造るというのは手段の1つにすぎないとして……もし、1007という数字が、何かを試みた回数だとしたら」

十神「あの忌々しい頃し合いのときから既に、あいつは何かをしていたことになる!」

七海「ま、待ってよ。記録を読む限り、何かを892回も行う余裕はなかったはずでしょ? 周回プレイでもしたわけじゃあるまいし……」

霧切「周回プレイ……? ……いや、そんな……まさか……」

七海「……?」

霧切「ねえ、十神くん。あのとき、江ノ島盾子が最期に言っていた言葉って、覚えてる?」

十神「あの精神異常者の戯言……忘れるものか、確か――――」



『アタシ、またこの『絶望』を味わうために、生まれた瞬間からやり直してくるから!!』



霧切「確かに、江ノ島盾子は『やり直し』という言葉を口にしていたわ……!」

354: 2016/03/24(木) 22:46:51.84 ID:XuZl4x4vo

-ヒナタハジメ-


日向「11037、か……狛枝なんかの残した手掛かりに頼るなんてな」

左右田「けど、そうも言ってらんねーぞ」

終里「もう他に調べる場所もねえもんな」

ソニア「それにしても、『未来』ですか……」


遺跡の扉にあるその2文字は、嫌でもあいつを思い出させる。


小泉「未来機関……」

日向「俺達をここに閉じ込めて……俺達を頃し合わせて……」


そして、仲間だと信じていた俺達を裏切った。


日向「お前も、未来機関も……絶対に許さないぞ、七海……!」ギリ



パスワードを入力すると、遺跡に似つかわしくない電子的な音が。


ようやく開いたその扉
 の 中へと

俺 た
   ちは

    入
  っ

      て

   …

    …



苗木「やあ、こんにちは」



そして、俺達の世界は壊れた。

355: 2016/03/24(木) 22:47:25.95 ID:XuZl4x4vo

―――


「あー、かったりぃ」

「なーんで船ってこんな遅いのかねえ」


情報は、十神白夜より届いた。
正確には、十神白夜を監視することで予期せず手に入れてしまったものだが。


「苗木誠の暴走、ね……」


それを知った十神白夜と霧切響子は電脳世界に閉じ込められた。
アルターエゴに無茶を言って組み上げさせた監視プログラムがなければ、外に漏れることはなかったであろう情報。


「やっぱ2年前の頃し合いが原因か……?」

「んー……」

「……」

「あー、無理。シリアスとか向いてないわー」

356: 2016/03/24(木) 22:47:53.68 ID:XuZl4x4vo

シリアスは駄目だ、自分はそんなキャラじゃない。
何よりも、そう、萌えない。
これはもう致命的だ。



こまる「腐川さーん! 島、見えて来たよ!」

ジェノ「やっとかよ。待ちくたびれたっつうの」



さて、やっぱ『あれ』は言っておくべきか。



ジェノ「呼ばれてないけどジャジャジャジャーン!! 笑顔が素敵な殺人鬼、ジャバウォック島に到着でっす! ギャッハハハハ!!!」

腐川『い、いつまで表に出てるのよ、あんたは……ぐぎぎ……!』



-フカワトウコ-

357: 2016/03/24(木) 22:49:49.98 ID:XuZl4x4vo

―――


モノクマ「最終決戦って、燃えるよね」

モノクマ「魔王が勇者を蹂躙して、世界は滅ぶ一歩手前」

モノクマ「まあ彼を勇者って呼んでいいのかは微妙だけどさ」

モノクマ「それでもやっぱり、この台詞は外せないよねえ」

モノクマ「よく来たな、勇者よ! 我が軍門に下れば、世界の半分をオマエにくれてやろう!」

モノクマ「なんちゃって! うぷぷぷぷぅ~!」



日向「モノクマ……!」

モノクマ「おうおう、魔王にメンチ切るたあいい度胸してるじゃあねえか。けど悲しいかな、キミは勇者じゃなくて村人Hなんだよね」

日向「む、村人……!?」

モノクマ「で、どうしてキミがここに? ナ・エ・ギ・くん!」

苗木「……決まってるだろ」

モノクマ「だろうねぇ……」ニヤニヤ



苗木「さあ、学級裁判を始めよう」

363: 2016/03/27(日) 00:07:29.27 ID:C8L7qay8o

モノクマ「学級裁判! 久しぶりの参加になるね、ナエギくん」

日向「おい、こいつは本当に……」

モノクマ「ナエギマコト。前回の、コロシアイ学園生活の生き残りだよ!」

苗木「……」

日向「じゃ、じゃあ……こいつが見せた情報は……言っていたことは……!」


モノクマ「それって、この世界がゲームの中だっていうこと?」

モノクマ「七海さんは未来機関の造ったAIだっていうこと?」

モノクマ「外の世界は滅びてるっていうこと?」

モノクマ「それとも、キミ達が『絶望の残党』だっていうことかな?」

モノクマ「ぜーんぶ本当のことだよ!! うぷぷぷ!!!」


ソニア「そんな……!?」

左右田「まじかよ……」

終里「くっ……!」

日向「嘘……だろ……」

小泉「……」

364: 2016/03/27(日) 00:08:16.29 ID:C8L7qay8o

苗木「だから、ボクがここに来たんだ」

日向「苗木……」

苗木「未来機関は君たちが更生できるとは思っていない。その結果が、前回の事件だよ」

ソニア「七海さん……」

苗木「もう彼らに手は出させない。ボクが君たちを守る」

モノクマ「へえ」

苗木「ここは卒業試験の会場なんだ。卒業か、留年か。それをここで判断する」

モノクマ「つまり?」

苗木「ボクは『留年』を提案する。この電脳世界で、君たちに平穏を約束しよう」

左右田「平穏……今度こそ……信じていいんだよな……?」

モノクマ「それでいいのかな? キミ達はこの島から、この世界から出たかったんでしょ?」

終里「けどよ……外の世界に俺らの居場所なんて……」

小泉「……」

365: 2016/03/27(日) 00:09:28.80 ID:C8L7qay8o

苗木「防衛は任せてよ。君たちの脳の処理を少しだけ貸してくれれば、もう外部からの侵入はできない」

モノクマ「うぷぷぷ……。じゃあボクは反対に『卒業』を推奨するよ」

日向「今さら何をっ……!」

モノクマ「いくらこの世界が安全だろうと、現実の身体は無防備なままなんだよねえ」

左右田「だ、だよなあ……」

苗木「その心配はないよ」

モノクマ「ん?」

苗木「未来機関の懸念は、絶望の残党が更生に失敗して再び世に放たれることだ」

モノクマ「そうだね」

苗木「この世界から出る意思がなければ、わざわざ手を出しては来ないさ」

モノクマ「生体ポッドのトラブルはどうかな? 現に狛枝くんはそれで現実でも氏亡しちゃったけど」

日向「なっ……それは本当か、苗木!?」

苗木「外に出ても交通事故とかあるでしょ。それにあれは『超高級の神経学者』達が手掛けた代物だ。狛枝くんのような極端な運勢がなきゃ問題ないさ」

366: 2016/03/27(日) 00:09:56.02 ID:C8L7qay8o

モノクマ「ふうん……。じゃあ、キミはどう思う? さっきから黙っちゃってる小泉さん?」

小泉「あたし……は……」



小泉(『あのお方』は、卒業を望んでる……)

小泉(けど、今それを言い出してもいいのかな)チラ…



苗木「……」



小泉(あたしが『絶望』を思い出したことはバレてるはず。下手なことは言えない……)

小泉(……けど)

小泉(それをバラされたら……それはそれで、日向たちを絶望させられそうだよね……!)ゾクゾク



小泉「あたしは……外に出るべき、だと……思う……」

367: 2016/03/27(日) 00:10:36.22 ID:C8L7qay8o

小泉「もし世界が、あたし達のせいで壊れていて……」

小泉「それで命を狙われるっていうなら、その世界を見たい」

小泉「どうして千秋ちゃんがあたし達を殺そうとしたのか。その理由を、この目で見たい……!」

日向「小泉……」

モノクマ「そうだ。卒業するなら七海さんと狛枝くん以外の氏んだ奴らも生き返らせてあげるよ」

ソニア「ほ、本当ですか!?」

苗木「それこそが目的のくせに。彼らの身体に自分の人格をコピーするんだろ?」

左右田「はっ……?」

終里「そうすると……どうなるんだ?」

苗木「世界にモノクマが……いや、江ノ島盾子が。『絶望』が溢れるのさ」

モノクマ「うぷぷ。全人類江ノ島化計画ってこと!」

日向「全人類……江ノ島化計画……?」

左右田「そんなのダメだろ!?」

368: 2016/03/27(日) 00:11:03.11 ID:C8L7qay8o

モノクマ「けど、このままじゃ彼らが目覚めることはないよ?」

ソニア「それは……」

モノクマ「ボクの演技力なら生前の彼らを完璧に再現するのもわけない。これはキミ達のための提案なんだ」

終里「……まじか?」

モノクマ「んー?」

終里「そうすれば……また、弐大に会えるのか……?」

日向「おい、終里!!」

終里「だ、だってよ……」

苗木「それなら、外に出る必要はないよ」

終里「え?」

苗木「七海さんと同じようなAIで彼らを再現しよう。君たちが望むならだけど、狛枝くんだって造れる」

モノクマ「よく言うよ。アルターエゴはあくまでも模倣で、そのものを再現することはできない。それはキミが一番よく知ってるよね?」ニヤニヤ

苗木「ふん……そっちこそ、中身はお前だろ?」

モノクマ「まあそうなんだけどね。うぷぷぷ……」

369: 2016/03/27(日) 00:11:38.60 ID:C8L7qay8o

苗木「お前はあくまでも現実の身体を手に入れたいだけ。彼らなんて、どうでもいいくせに」

モノクマ「ナエギくんだって、彼らの脳で計算を続けるのが目的なだけでしょ」

苗木「使用していない領域を借りるだけさ」

モノクマ「それを言うならボクだって絶望を広める足掛かりとして最初に少し借りるだけだよ」

日向「お、おい! 俺たちを置いて話を進めるんじゃ……」

苗木「ああ、そうだね。これは学級裁判だ。なら……」

モノクマ「ん?」

苗木「今回はオマエも参加者だろ?」

モノクマ「はいはい。じゃあ、これでいいかな?」


ヴヴ…

ヴゥン…!


江ノ島「じゃじゃーん! 江ノ島盾子ちゃん登場!!」

370: 2016/03/27(日) 00:12:04.61 ID:C8L7qay8o

日向「こ、こいつが……」

左右田「黒幕の、正体……」

ソニア「江ノ島……盾子……」

終里「てめえ……!」

小泉「……」


苗木「……確認しておこうか」

江ノ島「うむ。発言を許すぞ、人間よ!」


苗木「学級裁判の結果は多数決で決定する」

苗木「彼らが『留年』を選べば新世界プログラムでの生活が続く」

苗木「氏んだ人たちの再現アバターを作成し、望むなら彼らの記憶もまた消去しよう」

苗木「この世界で、平穏な生活を提供することを約束するよ」

苗木「そして……」

苗木「このコロシアイ修学旅行の首謀者として、お前にはオシオキを受けてもらう」

371: 2016/03/27(日) 00:13:43.39 ID:C8L7qay8o

江ノ島「妥当ですね。では、こちら側が勝利した場合についてもまとめましょうか」

江ノ島「『卒業』が選択された場合、めでたく現実世界で目を覚ますことができます」

江ノ島「その時点で記憶及び人格は現在の物で上書きされ、更生が完了するでしょう。おめでとうございます」

江ノ島「そしてオマケだぜ! 氏んだ奴らの身体はアタシが動かす! そいつらの成りきりも込みでなァ!」

江ノ島「まあアタシの人格を広めるまではちょーっとこっちの都合で動いてもらうけどな」

江ノ島「でもって、ナエギは処刑だ! この島にこいつらを閉じ込めた黒幕なんだからよォッ!!」


終里「な、なんだ!? いきなり口調が!」

江ノ島「私……絶望的に飽きっぽいんです……自分のキャラに対しても……」

左右田「め、めちゃくちゃだ……」

苗木「……さて、君たちはどっちを選ぶ?」


苗木(小泉真昼はおそらく『卒業』)

苗木(けど、それ以外は……日向創は微妙だけど、他は『留年』だろう)

苗木(ボクの勝ちだ、江ノ島盾子……!)

372: 2016/03/27(日) 00:14:18.96 ID:C8L7qay8o

日向「……なあ、少しいいか」

苗木「なんだい?」

日向「何もさ、多数決で決めなくてもいいんじゃないか?」

苗木「……は?」

日向「この世界に残りたいやつは残って、外に出たいやつは出る。それじゃダメなのか?」

苗木「待ってよ。残り少ない仲間だっていうのに、バラバラになるつもりかい?」

日向「これは犯人を当てるための裁判じゃない。なら、自分の未来くらい、自分で選びたい。もちろん、お前らが処刑されるとかも無しだ」

苗木「君は……いや、まさか……!」

日向「外の世界に出るのは怖い。けど、それでも俺は、ここから現実の世界と向き合いたい!」

江ノ島「ひゅー! 日向先輩かっこいいー!」

苗木「……!」


苗木(ダメだ、ダメだダメだダメだ! 日向創の脳だけは!!)

苗木(あれは……あれだけは、舞園さんを造るために絶対に必要なんだ!!)

373: 2016/03/27(日) 00:15:00.45 ID:C8L7qay8o

苗木「も、申し訳ないけど……多数決という学級裁判のルールは絶対だ。それはボク達にも変えられない」

江ノ島「あれれ。ナエギくん、気づかないのかい? うぷぷ……」

苗木「え?」


カタ…


江ノ島「小細工されないよう、ボク達2人に学級裁判のルールは弄れないように設定したみたいだけど……」


カタカタカタカタッ…!


苗木「なん、で……!」

江ノ島「新世界プログラムの防壁を破り、私様を持ち込んだ者のことは忘れていたようだな!」


ピコンッ!


プログラムヲ変更シマシタ
個別ニ卒業マタハ留年ヲ選択可能デス

374: 2016/03/27(日) 00:15:27.59 ID:C8L7qay8o

左右田「個別に……選択可能……?」

ソニア「えっと……つまり……日向さんの言っていたようなことができる、ということですか?」

小泉「そうみたいね……」

苗木「……嘘だ」


ガリ…


終里「お、おい?」

苗木「日向創がログアウトする? ははっ、それは、そんな……」


ガリガリ…


左右田「えっと……どうしましたかー、って、あれ……?」

苗木「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ……嘘だッ!!!」


ガリガリガリガリガリガリッ!!

375: 2016/03/27(日) 00:16:30.67 ID:C8L7qay8o

ソニア「きゃあ!!? な、苗木さん!? 自分の腕を……や、やめてください!!」

苗木「そうか……ボクが見逃していたとはいえ……」


ガリガリガリ…


左右田「ひいい!! ち、血が!!?」

苗木「そもそも新世界プログラムの防壁を敗れるなら、その改変だってできる……」


ガリガリガリ…


終里「こいつ、頭おかしいぞ……!」

苗木「記憶が入学当初に戻っているからと放っていたけど……ずっと、奥に潜んでいたわけか……」

江ノ島「そーゆうこと」

苗木「君か……」

日向「……」

苗木「日向創、いや……カムクライズルッ!!」

日向 → カムクラ「初めまして、と言っておきましょうか。ナエギマコト」

386: 2016/05/02(月) 00:39:08.69 ID:KilzCXBgo

-ナエギマコト-


カムクライズル。
かつて『超高校級の希望』と呼ばれた存在。
この数年の記憶と共に消え去ったと思っていたそれが、目の前にいる。


苗木「いつからだ……」

カムクラ「いつから、とは?」

苗木「いつから日向創と入れ替わっていた……いや、そもそも君はどんな状態で存在して……」

カムクラ「僕はコピーされたデータですよ。あなたや、彼女と同じように」

カムクラ「日向創のアバター内に仮想領域を作り、そこから干渉しています」

カムクラ「主従が逆転したのはつい先ほど。あなた方が言い合っている最中ですね」


ボクの注意がモノクマに向いたとき。
ああ、また間違えた。
日向創には気を付けていたっていうのに。

387: 2016/05/02(月) 00:45:12.90 ID:KilzCXBgo

江ノ島「ははーん、日向ん中に潜り込んでたわけ。そりゃいくら検索しても見つからないわけだ」

カムクラ「一応、聞いておきますが」

江ノ島「何でしょうか?」

カムクラ「僕の存在をどのようにして知ったのですか?」

江ノ島「覚えておくがよい、人間よ。私様に知らぬことなどない!」

カムクラ「……」

江ノ島「こいつノリ悪いなあ。しょぼーん」

カムクラ「答えは?」

江ノ島「狛枝くんの意識を支配しているときの……不自然なデータ流入……何かできるとしたら、あなたしかいないので……」

カムクラ「なるほど。信頼されたものですね」

388: 2016/05/02(月) 00:45:46.91 ID:KilzCXBgo

左右田「ちょ、ちょっと待てよ! お前ら何言ってんだ!?」

終里「ん? 日向がどうしたってんだよ?」

江ノ島「日向先輩の意識は消滅しましたー。絶望時代の人格が戻ってきましたー。はい、めでたしめでたしー」

小泉「……!」

ソニア「えっ……?」

江ノ島「まあ、そんなことはどうでもいいんだよ。今問いただすべきは、動機だ」

カムクラ「動機ですか?」

江ノ島「こうやって積極的に介入すんの、超高校級の引きこもりニートであるアンタらしくなくない? ま、あたしにとっちゃ都合がいいんだけどさー」

カムクラ「……随分な言いようですね」

江ノ島「どういうことよ?」

カムクラ「どういうことも何も、僕の目的は一貫していますよ。この世界はツマラナイ。だから、江ノ島盾子を利用して凡人の削減を――――」


苗木「笑わせるなよ」

389: 2016/05/02(月) 00:47:17.62 ID:KilzCXBgo

カムクラ「……何か?」

苗木「ははっ、なんだよそれ。幼稚園児の言い訳じゃあるまいし……くっ、ははっ」

カムクラ「君と僕とでは違いすぎる。理解できないのも無理はありません」

苗木「違いすぎる? あはは、それこそ違う、それは違うよ……!」

カムクラ「……」

苗木「『才能』をたくさん手に入れて、超人にでもなったつもりかい?」

カムクラ「持たない者にはわかりませんよ」

苗木「才能があるかないかは重要じゃない。本質はもっと、大元にある」


『苗木誠』と『日向創』は、凡人だった。


苗木「ボク達はさあ……むしろ、同じなんだよ」


凡人が、どうしようもない壁にぶつかって、挫けたんだ。
その結果がカムクライズルであり、そして――――

390: 2016/05/02(月) 00:48:00.18 ID:KilzCXBgo

苗木「ああ、確かに世界はツマラナイ。そう思って全てを諦めていた時期がボクにもあったさ」


けれど、今は違う。


苗木「それでも。ボクは前に進むことにしたんだ」

カムクラ「僕も、自分なりの目的があって――――」

苗木「いいや、違うね。君はボクの足を引っ張りたいだけだ」

カムクラ「……何を根拠に」

苗木「凡人の削減? はは、確かにそれは……当初、君が一応の目的としたものだろうね」

苗木「けど、ボクにはわかる。わかってしまうんだ」

苗木「本当はさ……そんなこと、どうでもいいんだろう?」


だって彼は、カムクライズルは、あの頃のボクと同じだから。

391: 2016/05/02(月) 00:48:31.24 ID:KilzCXBgo

苗木「無力で、惨めで、どこまでも空虚」

苗木「そんな君が、目的を達成しようと、何かを変えようと動くわけがない」

苗木「自分と同じように諦観していたボクが、また前を向いて、目的を達成する」

苗木「それが嫌なだけなんじゃないか?」

カムクラ「……」

苗木「だから……」


キィ…


苗木「立ち止まったままの亡霊が……」

江ノ島「うぷぷ……」


キィィーー…


苗木「ボクの邪魔を……するなッ……!!!」


キイィィーーーーンッ!!

392: 2016/05/02(月) 00:48:59.29 ID:KilzCXBgo

ジジ…

ジジジジジッ…!


ソニア「きゃ、きゃあ!? 一体何が……!?」

左右田「な、何もないとこに文字が……これ、新世界プログラムのコードか!?」

終里「なんだよこれ! 意味わかんねーぞ!!」

小泉「これが……」


ヴヴ…!


カムクラ「無駄ですよ。『超高校級のハッカー』の才能くらい、僕は持っている。あなたが僕をどうにかすることは……」


『超高校級のハッカー』?
ははっ。
何だよ、それ。


苗木「それが、どうした……!」

393: 2016/05/02(月) 00:49:32.68 ID:KilzCXBgo

カムクラ「……なんですって?」

苗木「だから君は凡人のままなんだ……」

カムクラ「かつて凡人であったことは否定しません。しかし、その凡人であるあなたがプログラミングで僕を上回れるとても?」

苗木「ははっ、ははははッ!」


才能を、ただ持っているだけ。
それでいて日向創としてのコンプレックスが根底にあり、才能を絶対視する。


苗木「そうやって自分が万能だと過信しているから、江ノ島盾子に敗けたんだよ」


そう。
何度もやり直せば、いつかは望む未来を手に入れられると思っていたボクのように。


ガガッ、ガシャンッ、ピーーーー!!


江ノ島「おいおいおい、まじかこいつ……!!」

394: 2016/05/02(月) 00:50:08.11 ID:KilzCXBgo

コードの流れが完璧に理解できる。
次に自分がどんな計算をすればいいか、どこを改変すればいいか、全てがわかる。


キィィーー…


カムクラ「まさか」

カムクラ「いや、そんなはずは……」

カムクラ「……僕が、苗木誠に押されている?」


キイィィーーーーン…!


江ノ島「こいつ、やりやがった!」

江ノ島「ぶっ飛んでるとは思ってたけど、これはさすがのアタシもドン引きだって! あっはははッ!!」

江ノ島「自分の脳に不二咲のアルターエゴをインストールしてアバターと同期! 不二咲の『超高校級のプログラマー』としての能力を十全に引き出すなんてね!!」

江ノ島「自分の脳を便利な外付けハードウェア程度にしか認識してないとか、超ウケるんですけど!!!」

395: 2016/05/02(月) 00:50:42.88 ID:KilzCXBgo

苗木「便利な外付けハードウェア……うん。確かにその通りだよ。初めからこういった使い方を想定したわけじゃないけどね」

小泉「……あんた、狂ってるよ」

苗木「そう?」

小泉「……」

苗木「まあ、誰にどう思われようとどうでもいいんだけどさ」


今さら何を言っている。
この程度、犠牲のうちにも入らない。
ああ、けれど。


苗木「君に言われるとは思っていなかったよ。小泉真昼さん」


『絶望』のくせに、白々しい。

396: 2016/05/02(月) 00:51:35.27 ID:KilzCXBgo

カタ…


カムクラ「正直、あなたがそこまでするとは思っていませんでした」

カムクラ「ええ、ええ。驕りがあったことも認めましょう」

カムクラ「けれど、僕もここで消えるわけにはいかないんですよ……!」


カタカタカタッ!!


互いの新世界プログラムへの干渉により、絶えず書き換えられるコード。
なるほど、確かにカムクライズルはハッカーとしても素晴らしい才能を持っている。
否、詰め込まれている。


苗木「邪魔だ……邪魔なんだよ……!」


それでも、ここまでだ。


苗木「君は、ここで『消去』する……!!」


ジジ…
ガ…
キイィィーーーーンッ!!

399: 2016/05/07(土) 00:15:31.13 ID:28B3JwNio

-ヒナタハジメ-


なんだ、これ……


『江ノ島盾子を利用した凡人の削減を――――』


俺は、卒業か留年かを選ばなきゃ……
そうだ。
学級裁判だ。
最後の学級裁判だ……
ああ、けれど。


ズキ…


そうだった……
俺は……俺達は……
『絶望』だったんだ……!


『僕も、自分なりの目的が――――』


……あれが、俺か。
俺の末路か。


日向「なんて、惨めなんだ……」

400: 2016/05/07(土) 00:15:59.48 ID:28B3JwNio

ズキ…


思い出した、というのは少し違う。
カムクラの意識……いや、記録が流入しているんだ。


日向「はは……『空虚』とか、言ってくれるじゃねえか。苗木……」


ピッタリな言葉だと思った。
世界が、希望が、絶望が、何もかもがどうでもいい。
ツマラナイ。
何をしても満たされない。
何をされても響かない。


日向「けど、そんなカムクラにも望みができた」


ズキ…


頭が痛い。
脳みそが割れそうだ。


日向「ああ。結局、カムクラは俺なんだ」


他人がわからない。
理解できない。
この頃し合いの中で何度もそう思ったけど、今回は違う。

401: 2016/05/07(土) 00:16:34.05 ID:28B3JwNio

ズキ…


日向「他でもない自分のことなら理解できる」


つい最近まで自分にも才能があると思い込んでいたけど。
……あれはまあ、記憶がなかったんだから仕方ないだろう。


日向「カムクラは……仲間が欲しかったんだ」

日向「自分と同じように空虚で、全てを諦めた仲間が欲しかったんだ……」

日向「そんなやついるわけないって思ってたけど、あいつは見つけてしまった」


ズキズキ…


日向「前回の、希望ヶ峰学園での頃し合い」

日向「その序盤を、何百回も繰り返した記録。いや、それこそ記憶そのものか」


あいつの本当の目的。
それは、きっと……


日向「苗木にもう一度全てを諦めさせて、自分と同じ場所まで引きずり降ろすこと」

日向「なあ、そうだろ?」


カムクラ「……」

402: 2016/05/07(土) 00:17:17.80 ID:28B3JwNio

カムクラ「……仮に」

日向「ん?」

カムクラ「もしもそれが僕の目的だとして、君に邪魔をする理由は?」

日向「わからないか?」

カムクラ「……」

日向「苗木が言った通りだよ。お前は……いや、俺達か」

日向「俺達は、立ち止まったままだ。希望ヶ峰学園で手術を受けたあの日から、ずっと」

日向「苗木のやつは……やり方は間違ってるけど、前に進もうとしてる」

日向「だからさ。俺達もそろそろ未来に進もうぜ?」

カムクラ「……その場合、僕は消えてしまうのですが」

日向「お前は俺だよ。消えるわけじゃない」

カムクラ「詭弁ですね」

日向「かもな。けど、俺はお前を、カムクライズルになっていた頃の自分を、もう忘れない。それじゃダメか?」

403: 2016/05/07(土) 00:17:55.09 ID:28B3JwNio

カムクラ「……後悔しますよ」

日向「どうしてそう思う?」

カムクラ「この世界はツマラナイ……が、『絶望』であった僕達にとっては酷く生き辛いものです」

日向「なんだ、そんなことか」

カムクラ「そんなことって……あなた、さっきはその事実に絶望していたじゃないですか」

日向「それはそれだ。まあ、なんとかなるさ。仲間だっているんだ。それに……」

カムクラ「……?」

日向「後輩が間違った道に進むなら、それを正すのも先輩の役目だろ?」

カムクラ「……ふっ」


だから、ここからは俺がやる。


――――

――

404: 2016/05/07(土) 00:18:25.30 ID:28B3JwNio

-ナエギマコト-


苗木「――――終わったみたいだね」


ジ…ジジ…

シュゥン…


ソニア「えっ……?」

左右田「な、なんだ……? コードが、消えて……」


「ああ、くそ。頭が痛い……」


終里「お、おい! あいつ!?」

小泉「日向に……戻った……!?」


カムクラ → 日向「まあ、そういうことになるな……いてて……」

405: 2016/05/07(土) 00:19:04.68 ID:28B3JwNio

苗木「お帰り、日向くん」

日向「……」ジッ…

苗木「どうしたんだい? そんなに睨み付けないでよ」

日向「全部、お前の計算通りか?」

苗木「さあ。どうかな」

日向「とぼけるな。さっきまでハッキング合戦みたいなことをしてたみたいだけど、あれは本命じゃなかった。お前じゃカムクラを完全には押し切れない」

日向「カムクラに気付かれないよう、少しずつ俺の脳をクロックアップ。あいつがお前に対処している隙に俺が主導権を取り返すのを待っていたんだろ?」

日向「最終的には賭けじゃねえか。……なあ、苗木。お前焦ってるだろ」


日向創はボクと同じ凡人だ。
なら、ボクと同じように強い意志で再び前に進むことができる。
どん底で停滞したカムクライズルだって打ち破れるはずだ。
分の悪い賭けなんかじゃない。


苗木「……」


……本当に?
……。
いや、今はそんなことどうでもいい。

406: 2016/05/07(土) 00:19:52.40 ID:28B3JwNio

苗木「ボクは君を信じていただけさ」

日向「そうかよ……じゃあ俺は、信頼に応えられなくて申し訳ないけど、この世界を卒業させてもらうぞ」

苗木「……どうしても?」

日向「ああ。俺は外の世界に出る。そして……」チラ…

小泉「っ……」ビク

日向「……皆にも、卒業を選んでほしいと思ってる」

苗木「……」

左右田「け、けどよお日向! そんなことしたら……」

ソニア「そのモノクマさんの中の人が世界に溢れてしまいます!」

日向「留年を選択したら、俺達はそこでおしまいだ。だからまずはこの世界から出て、江ノ島盾子のことはその後でどうにかする」

終里「え? どうにかできんのか?」

日向「するしかないんだ……! それしか俺達が未来を掴む道はない。そうだろ?」

左右田「確かに……そうだよな……」

ソニア「ええ……」

小泉「……」

407: 2016/05/07(土) 00:20:21.72 ID:28B3JwNio

江ノ島「へえ。ふぅ~ん。ほおー」

苗木「……」

江ノ島「うぷぷ。カムクライズルは消えたけど、彼らが留年を選択することはなさそうだよ、ナエギくん。」

苗木「……」

江ノ島「残念でしたね。なかなかいいところまでは行ったと思うのですが」

苗木「……」

江ノ島「日向を利用したとはいえ、まさかあのカムクラをてめえが打ち破るとはなあ! これにはさすがに驚いちまったぜ!」

苗木「……」

江ノ島「まぁあたしもー、本人の前で卒業した後であたしのことどうにかするって言われちゃってー、ちょーっとどうしよっかなーって感じだけどー!」

苗木「……」

江ノ島「けれど……あなたは明確に……ここでゲームオーバーです……」

苗木「……」

江ノ島「しかし人間よ! 凡人たる貴様がこれだけのことをした事実は称賛に値するぞ!」

苗木「……」

408: 2016/05/07(土) 00:20:54.50 ID:28B3JwNio

江ノ島「……長い付き合いだったね、ナエギ」

江ノ島「あんたからすると、本当に長い付き合いだったんだよね」

江ノ島「15年と9か月だっけ」

江ノ島「いいの? このままじゃ、本当にこれで終わっちゃうよ?」

江ノ島「ねえ? ねえねえ?」ニヤニヤ


憎たらしい。
憎たらしい、憎たらしい。

わかっているくせに。
ボクが何を考えているか、どう感じているか、わかっているくせに。

このままじゃ終わりだって?
そんなこと、わかってる。
わかってるんだ!

それで、いいのか、だって……?


苗木「いいわけ……ないだろ……ッ」ギリ…!

409: 2016/05/07(土) 00:21:34.28 ID:28B3JwNio

キ…イィィ…


終里「……な、なんだ?」

左右田「ま、また何かコードを書き換えてんのか!?」


――――どうにも、うまくいかない。あの頃から進歩がない。


ソニア「今度はいったい何を……」

日向「……まさか! おい、苗木――――!」


――――けど、もう諦めることはやめたんだ……!


小泉「……あはっ」

江ノ島「うぷぷぷぷ」


――――ボクは、舞園さんを造る。舞園さんを救う。そのためなら……


『未来は、希望に満ちている』
『希望……』
『ええ。私は、そう信じているんです』


苗木「彼女の想いを踏みにじってでも、彼女を救う……ッッ!!」


キイイィィィィ――ッッ


Boot_【グングニルの槍】x999

410: 2016/05/07(土) 00:22:03.82 ID:28B3JwNio

ヴヴ…
ジ…ジジ… ザザザザザザッ!!


日向「なんだ、これ……槍……!?」

左右田「すげーたくさんあんぞ!?」


コロシアイには干渉しないだとか。
彼らの未来を奪ってはいけないだとか。
これ以上舞園さんに嫌われたくないだとか。


苗木「そんなの……どうでもいい……!」


それらを全て無視してでも、ボクは、『苗木誠』は、舞園さんを造らなければいけない。


江ノ島「きゃはははは! いいよ、すっごくいいよナエギィ!!」

江ノ島「今のあんた、最高だよ!」

江ノ島「仮にうまくいったとしても、あの子はそれを許さないってわかってるっていうのにさ!!」

江ノ島「何もかも犠牲にして絶望をまき散らすあんた、最ッ高に絶望的だよ!!」

江ノ島「やばいやばいやばい! 惚れちゃいそうなんですけどー!!」

江ノ島「くーっ! あたしも松田くんにそれくらい熱烈に想ってもらいたかったぜ!」

411: 2016/05/07(土) 00:22:30.13 ID:28B3JwNio

ザザザザザザ…!!


終里「いや……これ……氏ぬだろ……」

ソニア「や、やめてくださいっ、苗木さん!!」

苗木「いいや。やめないよ……」


ボクはいつも、決断するのが遅い。
どうせ、こんなことになるんだったら……


苗木「初めからこうすればよかったんだ……」

苗木「君たちも、78期生の仲間たちも、さっさと頃して脳を奪うべきだった……!」


これは今まで以上に、人として間違った行為だ。


苗木「ボクの目的のために……氏んでくれ……!!」


それでも、それでもボクは――――


江ノ島「あは、あははッ」

江ノ島「あー、面白い」

江ノ島「けどさー……これはさすがに空気読めてなさすぎじゃね?」

412: 2016/05/07(土) 00:22:59.62 ID:28B3JwNio

パキ…


苗木「えっ……?」


パキ…
パキ… パキ、ン…ッ


苗木「グングニルの槍が……砕けていく……?」


「……ごめんね」


――――その声には、聞き覚えがあった。


苗木「なっ……」

苗木「どうして……なん、で……君が……!」


どうして、今なんだ。
どうして、ここに、このタイミングで――――


ヴゥン…


七海「――――もう、やめようよ……苗木くん……」

418: 2016/06/04(土) 03:31:27.03 ID:GS/+/dx9o

――――



-ナナミチアキ-



【希望ヶ峰学園3階】

【物理室】


ゴウンゴウン…


十神「ここだ」


中に入った私の目に飛び込んできたのは、低い音を発する大きな機械だった。


七海「これは……?」

霧切「空気清浄機よ。あの頃は、空気が汚れていたの」

十神「そんな物はどうでもいいんだ。それよりも……」

霧切「ええ、わかってる。……あれよ」


それは、椅子だった。


七海「これが……」


座り心地の悪そうな。
アドベンチャーゲームの拷問シーンにでもでてきそうな。


霧切「そう。これが、江ノ島盾子が氏の間際に座っていた椅子よ」

419: 2016/06/04(土) 03:31:55.83 ID:GS/+/dx9o

十神「怪しいとは思っていた。なにせ、本来ここにこんな物はなかった筈なんだからな」

霧切「私達がこれを見たのは最後の処刑の時だけ。だから入念に調べはしたけれど、何も見つけることはできなかったわ」

七海「……」


江ノ島盾子の、超高校級の絶望の最期。


十神「どうだ、七海。AIであるお前なら、これから何か見つけることができるか?」


彼女とよくわからない会話をしていた苗木くん。


霧切「もう他に思いつくことはないわ。どうにかして、手掛かりを見つけないと」


そして、その時に出た『やり直す』という言葉。


七海「……」


――――ああ。これは、『バグ』だ。

420: 2016/06/04(土) 03:32:23.16 ID:GS/+/dx9o

ジ… ジジ…

ガッガガガ…



ERROR!

ERROR!

ERROR!



アクセス権限ガ確認デキマセン

アクセス権限ガ確認デキマセン

アクセス権限ガ確認デキマデキマセンンンン



七海「……」


きっと、これにアクセスしたら私は飲まれてしまうだろう。


七海「……それでもいいよ」

421: 2016/06/04(土) 03:33:03.67 ID:GS/+/dx9o

七海「霧切さん、十神くん。少し離れてて」


彼らを救うためならどんなことでもしてみせる。
もしも、こんな造り物のイノチモドキでそれが叶うなら。


七海「……」スッ…


きっとこの生涯にも、意味はあったのだろう――――



アクセス権限ガ

aアクセス権限ガガ

アアアアクセススs権nn限ガガガガgagagaaaaa



――――そう、思っていた。



pipi!

アクセス権限ガ確認サレマシタ
プログラムヲ管理者権限デ起動シマス



七海「――――えっ?」

422: 2016/06/04(土) 03:33:29.47 ID:GS/+/dx9o

Starting TM Version 0.10 ...............
........................................
........................................
........................................
........................................
........................................
........................................
.........................OK



Loading MAKOTO_NAEGI_memory..................
........................................
........................................
........................................
.............OK



The program is ready.



メモリー『タイムマシン』ヲ再生シマス

423: 2016/06/04(土) 03:33:56.64 ID:GS/+/dx9o

――――

――



『な、なんだこのバカでかい機械は……?』

『実はこれ、タイムマシンなのです!』

『どうせさっきみたいに嘘なんだろ? 桑田くん達の写真といい、手の込んだ嘘ばっかり……』

『意識が時空の彼方に飛んで行って廃人になっちゃったからねー! うぷぷぷ!』

『……『超高校級の幸運』』

『僕が君をここから出してみせる! どんなことをしても、絶対にだよ!!』

『その言葉……信じてもいいですか……?』

『使ってみるよ。タイムマシーン』

『うぷぷぷ、うまく成功するといいねえ』

『このタイムマシンで、舞園さんを救ってみせる……!』



――――頭を、殴られたような気がした。

424: 2016/06/04(土) 03:34:24.99 ID:GS/+/dx9o

『舞園さんの……部屋……』

『時間は!?』

『まずは舞園さんを説得しなきゃ!』

『舞園さん、本当に……』

『うわあああああああ!!!!』

『はは……やあ、舞園さん……』

『……! や、やめて! ごめんなさい殺さないで!!』

『落ち着いて……僕は君を助けに来たんだ……落ち着いて……』

『桑田くんを呼び出して、今みたいにナイフで襲って……そしてこの部屋の本当の持ち主である僕に罪を被せようとした。合ってる?』

『エスパーだから』

『冗談。ただの勘……いや、経験則かな……』



七海「あ、ああ……」

425: 2016/06/04(土) 03:34:51.70 ID:GS/+/dx9o

『……私を頃すんですか?』

『信じてほしい。誰1人氏なずに、みんなでここから出たいんだ』

『……』

『助けられた……』

『舞園さんを助けることができた……!』

『ああ……よかった……』

『コンコン』

『コンコンコン』
『ドンドン!』
『ガチャ…』

『そんな……そんなまさか……』
『ああ……!』
『な……なんで……なんで舞園さんが氏んでいるんだよ!!?』
『俺を殺そうとしてたって言うんだぞ!?』
『まあ最初の事件はこんなものかな。ちゃっちゃと投票しちゃおうか』

『ねえ苗木くん、この大きな機械なんだと思う?』
『……タイムマシン』
『またね、モノクマ』
『今度こそ……今度こそ舞園さんを……!』



これは、記録、いや、記憶、だ――――

426: 2016/06/04(土) 03:35:18.16 ID:GS/+/dx9o

『もう一度やり直せば、今度はもっとうまく――――』
『苗木よ、そこで何をしている?』
『ピンポンパンポーン』
『氏体が発見されました! 一定の自由時間の後、学級裁判を始めます!』
『ねえ、ところでこの機械なんだと思う?』
『ポチッ』
『やあ、舞園さん』
『過去をやり直しているのに、なんで舞園さんを救えない……!?』
『明日からまた頑張りますね、苗木くんの助手として!』
『だいせいかーい!! 舞園さんを頃したクロは大神さんでしたー!』
『またやり直さなきゃ』
『舞園さんを救えなかった』
『10回戻れば10通りの氏が……』『100回戻ったら、100通りの氏に方をするのか……?』
『ねえ、今まで何回繰り返したの?』

『ああ、失敗した』『早く、早くやり直さなきゃ』
『ガリガリ』『どうして舞園さんは氏んでしまう?』『ガリガリガリ』
『ありとあらゆるパターンを試そう』『たとえ何度繰り返すことになっても』『最後にはきっと、君を救えるよね……』

『3階へのシャッターが開く時間だ』

『舞園さんは氏ぬ。殺される』
『舞園さんは救えなかった』
『舞園さんは救えなかった』
『舞園さんは救えなかった』『舞園さんは救えなかった』
『舞園さんは救えなかった』『舞園さんは救えなかった』『舞園さんは救えなかった』

『舞園さんの可能性は氏へと収束する』

427: 2016/06/04(土) 03:35:45.49 ID:GS/+/dx9o
『舞園さん!』
『嫌……氏にたくない……』
『殺さないで!!』『殺さないから! 落ち着いて!』
『ズ…』
『ぁ……』『僕が持ってた……包丁……?』
『苗木……くん……?』『僕は……こんなつもりじゃ……!?』『ああ……あああああ……!!』
『舞園さんを救えなかった』『……僕が、この手で舞園さんを頃してしまった』
『嘘だ……こんなの……僕が……』
『クロに選ばれるのは……桑田くんだ……!!』
『ジャララン!』
『ガランガランガラン…』
『ブーブーブー!』
『う、嘘よね……? え? 私たちが……おしおき……?』
『いやいやいや意味がわかりませんぞ!?』
『あっ、あなたは……!』『苗木いいいッ!!!』
『どういうことだ苗木!? 説明しろ!!』『なっ、なんで……なんでこんなことできるの!?』『嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ……』『許さねえ……絶対に許さねえかんなッ!!』
『う、嘘……嘘だよね……苗木くん!?』『えっ、ど、どういうことだべ!?』『それがお主の答えか、苗木よ……!』『苗木くん……あなたは……!』
『僕のせいで処刑された』
『僕のせいで処刑された』
『僕のせいで処刑された』『処刑された』
『処刑された』『処刑された』『僕のせいで処刑された』『処刑された』
『処刑された』『処刑された』『処刑された』『僕のせいで処刑された』



七海「いや……あ、ああ、あ……!」

428: 2016/06/04(土) 03:36:12.13 ID:GS/+/dx9o
『舞園さん!』
『嫌……氏にたくない……』
『殺さないで!!』『殺さないから! 落ち着いて!』
『ズ…』
『ぁ……』『僕が持ってた……包丁……?』
『苗木……くん……?』『僕は……こんなつもりじゃ……!?』『ああ……あああああ……!!』
『舞園さんを救えなかった』『……僕が、この手で舞園さんを頃してしまった』
『嘘だ……こんなの……僕が……』
『クロに選ばれるのは……桑田くんだ……!!』
『ジャララン!』
『ガランガランガラン…』
『ブーブーブー!』
『う、嘘よね……? え? 私たちが……おしおき……?』
『いやいやいや意味がわかりませんぞ!?』
『あっ、あなたは……!』『苗木いいいッ!!!』
『どういうことだ苗木!? 説明しろ!!』『なっ、なんで……なんでこんなことできるの!?』『嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ……』『許さねえ……絶対に許さねえかんなッ!!』
『う、嘘……嘘だよね……苗木くん!?』『えっ、ど、どういうことだべ!?』『それがお主の答えか、苗木よ……!』『苗木くん……あなたは……!』
『僕のせいで処刑された』
『僕のせいで処刑された』
『僕のせいで処刑された』『処刑された』
『処刑された』『処刑された』『僕のせいで処刑された』『処刑された』
『処刑された』『処刑された』『処刑された』『僕のせいで処刑された』



七海「いや……あ、ああ、あ……!」

429: 2016/06/04(土) 03:36:38.78 ID:GS/+/dx9o

『僕はみんなを頃したんだ。この周回を無駄にはしない。絶対に』
『あれ苗木? えっ、なに廊下までフォーク持って来てんの! ウケるんだけど!』
『江ノ島さ……ん……?』『お前たちが……黒幕……!!』『っ……! 頃してやるッ!!!』
『つまり苗木くんは、タイムマシンを使ったわけだね。うぷぷぷ~』
『くそ、くそ、くそ……頃す……頃してやる……!!』
『これから記憶を消したら、また70回繰り返してこの時間に戻ってくるのかな?』『すごいじゃん苗木! アンタ永遠にコロシアイ学園生活を続けられるよ!!』
『……』
『過去に戻れたんだ。きっと、舞園さんを救えるよね……!』
『舞園さんを救えなかった』『舞園さんを救えなかった』『舞園さんを救えなかった』
『舞園さんを救えない』『過去をやり直しているのに救えない』
『ガリガリガリ』
『思い出した……思い出したぞ……!』

『ねえ大神さん。一度は黒幕と通じたんだ。お詫びにさあ、僕らの脱出に協力してくれるよね?』
『苗木くん、思い出したんだね』
『この段階で私様の正体がバレるとは思っていなかったぞ! やるではないか人間よ!』
『それにしてもー、苗木くんに裏切られるとは思ってなかったなー!』
『霧切さん! き、君は信じてくれるんだよね!?』『そ、そんな……』
『そしてまた、舞園さんは殺された』
『だいせいかーい!! 舞園さんを頃したクロは桑田くんでしたー!』
『教えてくれよ……なんで救えないんだ……』『舞園以外は?』『……わからない、どうでもいい』
『苗木、アンタに舞園を救うことは不可能だよ』
『むしろ……』
『アンタはタイムマシンを使うことで、100回以上も舞園を頃していたんだね!』

430: 2016/06/04(土) 03:37:12.79 ID:GS/+/dx9o

『あっ! おはようございます、苗木くん!』
『何度でも繰り返そう』『僕は、舞園さんを救うことを諦めた』
『そのとき、妹に見つかっちゃってさ……』『ふふっ、さすがは超高校級の助手ですね私!』
『無理だけはしないでくださいね?』『……はい、カットー! なんちゃって!』
『……』
『……』
『…………』
『…………』『…………』『……』『…………』
『ああ……』
『こんなことを繰り返したところで……』『舞園さんは……』
『無理だけはしないでくださいね?』『あれから……何年経った……』『過去を、やり直したいって……思ったことある……?』
『……私は、過去を受け入れます』『未来は、『希望』に満ちている』
『前に、進まないと……』『『希望』は……前に進むんだ……!』
『しっかり『絶望』は味わえたかい?』
『キミは、間違いなく『異常』だよ。うぷぷぷぷ』
『それじゃ、また来世でね!!!』『永遠に絶望してろ……江ノ島盾子……』

『ごめんね……約束、守れなかった……』
『アルター、エゴ……あれなら……!』
『君を、造ろう……』

『未来で……必ず君に……!!』



七海「ああ……! あああああああッ!!!!!」

431: 2016/06/04(土) 03:41:28.55 ID:GS/+/dx9o

――――頭を、殴られたような気がした。


霧切「七海さん!?」

十神「おい、何があった! しっかりしろ!」

七海「う、ああああッ!!」

霧切「落ち着いて!」

七海「っ……霧切さん……」

十神「おい、大丈夫なのか?」

七海「十神……く、ん……ッ!!」

十神「七海!?」

七海「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」

七海「違う、だってああするしかなかった、私は、僕は氏ぬわけにはいかなかった、僕は僕は僕は!!」

七海「ああ、やらなきゃ。造らなきゃ。造らなきゃ造らなきゃ造らなきゃ!!!」

七海「僕は、ボクが――――!」

432: 2016/06/04(土) 03:41:59.39 ID:GS/+/dx9o

霧切「七海さん!!!」ギュ…

七海「ひっ……!!」

霧切「大丈夫。もう大丈夫。ね?」

七海「き、霧切、さん……?」

霧切「無理をさせてしまって……ごめんなさい……」

七海「ぁ……」

十神「落ち着いたか?」

七海「……うん」


ゆっくりと、頭で咀嚼し、取捨選択し、2人に話す。
私が見たのは、苗木くんの記憶そのもの。
いや、見たというよりも、あれは……


七海(あれだけの月日を、一瞬で追体験させられたかのような……)


15年と、9ヶ月。
それが、苗木くんの絶望の起源。


七海「……わかったよ。苗木くんが、ああなった理由――――」


ああ……
この世界は、なんて救いがないのだろう……

437: 2016/06/19(日) 15:20:47.58 ID:100CdO4fo

――――

――



-ナナミチアキ-


そして、私はまた彼らの前にいる。


日向「七海……なんだよな……?」

七海「うん。久しぶり……でもないんだっけ」


私の主観では、もう何年もの時間が経っているけれど。
ああ、そうか。
これが苗木くんの感じていた『ズレ』か。


ソニア「七海さん……!」

左右田「あ、危ないですよソニアさん! こいつは俺達を殺そうとしたんだ!」

日向「いや、それは違うぞ左右田。カムクラの記憶を見たんだ。七海は狛枝によって犯人に仕立て上げられただけだった」

終里「はあ? つまり……どういうことになるんだ、小泉?」

小泉「っ……さ、さあ……私にも、よくわからないよ……」

日向「……なあ、小泉――――」

七海「まあまあ。その話は後にしようよ。そうだよね、苗木くん」

苗木「……ああ。そうだね」

438: 2016/06/19(日) 15:21:32.21 ID:100CdO4fo

苗木「驚いたよ。どうやってここに来たんだい?」

七海「わからない?」

苗木「……」

七海「苗木くんが思っている通り。元々持っていた私の権限を使っただけだよ」


苗木くんは彼女を造ろうとしていた。
私は彼女を造ろうとした過程で生まれた失敗作だった。
もし。
もしも、彼女を造ることに成功していた場合。


七海「彼女が苗木くんと対等の権限を持っていたとしてもおかしくないよね」


第2の管理者権限。
それは私達の構築時に付与されるもので、今までその存在を知らなかっただけ。


苗木「それで? 君はいったい何をしに来たのかな」

七海「それも、苗木くんが思っている通りだよ」


ヴゥン…


霧切「しばらくぶりね。苗木くん」

十神「この新世界プログラムを強制シャットダウンさせてもらおうか」

苗木「……」

439: 2016/06/19(日) 15:21:57.81 ID:100CdO4fo

十神「いいか。強制シャットダウンというのは――――」


この世界を強制的に終了し、生き残った5人を現実世界に帰す。
同時に、侵入した江ノ島盾子のウィルスも削除することができる。


日向「これしかないんじゃないか? 俺は、強制シャットダウンを選ぶのがベストだと思う」

左右田「けど、そしたら俺達も『絶望』に戻っちまうんだぞ!?」


……プログラムとなった苗木くんも、同様に削除される。
そうしてこの悲劇は終わるんだ。


日向「卒業して江ノ島盾子をどうにかするより、自分達をどうにかする方がなんとかなりそうだろ?」

小泉「……私は反対だよ」


そのための最後の関門。
日向くん、ソニアさん、終里さん、左右田くん、私、霧切さん、十神くん。
強制シャットダウンには8人の操作が必要だ。
あと1人、小泉さんの票が足りない。

440: 2016/06/19(日) 15:22:29.10 ID:100CdO4fo

江ノ島「王道というものをよくわかっているではないか、人間よ!」

江ノ島「教えてあげてください……あなたが、なんなのか……」


ねえ、小泉さん。
あなたは、本当に――――


ソニア「こ、小泉さん? 反対って、どうして……」

小泉「……うふっ。うふふふ。どうして? どうしてだって!」

終里「いきなり笑い出してどうしたんだよ。腹でも空いたか?」

左右田「お前と一緒にすんなよ!」

日向「……」

小泉「あはははぁ! だって私、思い出してるもん! 自分が『絶望』だっていうこと!」

ソニア「えっ……?」

左右田「は? ……はああああああ!!?」

小泉「強制シャットダウンであんた達を絶望に戻すのもいいんだけどね? とりあえず、思い通りにさせないことにしてみたよ! あはっ、ふふふ!!」

441: 2016/06/19(日) 15:23:12.71 ID:100CdO4fo

日向「やっぱり、そうだったんだな……」

七海「……」

小泉「ペコちゃんが氏んだとき、楽しかったなあ。みんな慌てちゃってさ。ふふっ」

小泉「そのあと氏体がおしおきされるの、すっごい興奮しちゃった……!」

小泉「九頭龍がモノクマに手を出して殺されたのとか、私を殺そうとしたんだしざまあ見ろって感じ!」

小泉「唯吹ちゃんを頃した蜜柑ちゃんは立派だよね。同士として誇らしいよ。うんうん」

小泉「ドッキリハウスに閉じ込められたときは日寄子ちゃんが可愛かったなあ。私がちょっと弱音吐いたら健気にもファイナルデッドルーム行って無駄氏にしちゃうんだもん」

小泉「無駄氏にといえば田中のあの表情! あれ今思い出しても笑える……く、くふっ!」

小泉「けどね。やっぱり、一番良かったのは……」

七海「……」

小泉「ねえ、千秋ちゃん。信じてた人に裏切られてどんな気持ちだった?」

日向「もういい。やめろ」

小泉「辛かった? 愕然とした? 怒った? どうだったの、教えてよ。あははははっ!」

日向「やめろ、小泉……!」

小泉「やめない! ねえ、私は愉しかったよ! ゾクゾクしたよ! AIでもあんな風に絶望を感じることができるんだね!! あひゃっ、はははっ!!」

日向「小泉!!!」

442: 2016/06/19(日) 15:24:00.19 ID:100CdO4fo

七海「……いいよ、日向くん」

日向「けど……!」

七海「ねえ、小泉さん。聞きたいことがあるんだけど、いい?」

小泉「ちょっとちょっと千秋ちゃん! 質問に質問で返すとか――――」

七海「本当に、楽しかった?」

小泉「――――え?」

七海「それとも、絶望的だった?」

小泉「……」

七海「答えてよ、小泉さん」

小泉「決まってるじゃん。絶望的で、とっても楽しかったよ」

七海「……あのね、『見てきた』よ。本当の『超高校級の絶望』と呼ばれる人たちを」

小泉「盾子ちゃんやむくろちゃんのことかな? 確かにあの人達は別格だね。まさに本物だよ」

七海「私にはね、小泉さんが彼女たちと同じとはどうしても思えなかったんだ」

443: 2016/06/19(日) 15:24:28.17 ID:100CdO4fo

小泉「わかんないかなあ。あたしは思い出したんだって」

七海「何を?」

小泉「あたしが、あたし達が起こしてきた絶望的な悲劇をだよ」

七海「それで?」

小泉「皆を戻してあげるの。そしてまた、一緒に絶望するんだ! えへへ!」

七海「そっか……そういうことだったんだね……」

小泉「ちょっとちょっと、さっきから何よ千秋ちゃん? 」


管理者権限というのは便利なものだ。
生体ポッドの取得するバイタルサインを読み取ることだってできるのだから。


七海「よかった。小泉さん、『絶望』に戻ったわけじゃなかったんだね」

小泉「……なに言ってんの?」


きっとモノクマは、江ノ島盾子は、それすらも知っていたのだろう。


七海「最低」キッ…

江ノ島「うぷぷぷぷぅ~」ニヤニヤ

444: 2016/06/19(日) 15:24:54.28 ID:100CdO4fo

日向「そう、なのか? 小泉……?」

小泉「なに真に受けてんのよ日向。違うって。違う、違う違う」

七海「小泉さん……」

小泉「私は絶望だよ? 絶望の残党だよ? あたしもあんた達も、世界に絶望を振り撒いてた!」

七海「その頃に戻らなきゃならない?」

小泉「そうだよ!」

七海「なんのために?」

小泉「そんなのもちろん、世界をもっと絶望させるために――――」

七海「自分達を絶望させるため、じゃなくて?」


絶望の記憶を思い出したのは間違いない。
絶望を感じていたのも間違いない。
けれど、その後に来るのは愉悦ではなく懺悔だったというだけのこと。


七海「自分達が幸せになっちゃいけない。もっと絶望して苦しまなきゃいけない。そう思ったんじゃないの? ……少し、狛枝くんに似た考えだね」

小泉「……っ……!」

445: 2016/06/19(日) 15:25:29.37 ID:100CdO4fo

小泉「……だとしたら、なに?」

小泉「仮に。仮にだよ。そうだとして、千秋ちゃんはこう言うつもり?」

小泉「『あなた達は世界をめちゃくちゃにしました』」

小泉「『直接、間接問わず、数えきれないほどの人を頃しました』

小泉「『けどそのことは忘れて更生しましょう。そして幸せになるのです』」

小泉「そういうことかな?」

七海「……そうだよ」

小泉「ぷっ、くく……ねえ、聞いた!? 今千秋ちゃんがすごいこと言ったよ!」

七海「……」

小泉「あたし達が許されるわけないじゃん! 未来機関にだって殺そうとされた救いようのない悪だよ? そもそも、あたし達自身がそんなの許せるわけ――――」

七海「私が許すよ」

小泉「……え?」

七海「たとえ世界の全てが君たちの敵になっても、私は最後まで君たちの『希望』を信じる」

小泉「……」

七海「だから1人で全部背負わないで。何があっても、私は小泉さん達の味方だよ。ね?」

小泉「千秋……ちゃん……」


これはきっと、私のエゴだ。
正しいのは未来機関や狛枝くんや小泉さんのような考えなのかもしれない。


七海(それでも――――)チラ…


もう、絶望も悲劇も嫌なんだ。
それが私の選んだ『未来』だよ、苗木くん。


苗木「……」

450: 2016/07/09(土) 02:14:04.46 ID:JV9ORmRjo

-ナエギマコト-


どうやら彼らは七海さんをまた信じることにしたらしい。


苗木「茶番だね」

七海「茶番で構わないよ。どんなに無理やりでも、バッドエンドなんかよりずっとましだよ」

苗木「ふん……」


その言葉に同調する77期生達。
ああ、どうしてこうも――――


苗木「吐き気がするよ」ギリ…


ボクは、信じてもらえなかった。
ボクは、誰にも支えてもらえなかった。
ボクは、ボクには、仲間なんていなかったのに……!


ジ…

ジジッ…!


『――――あっ、繋がった!!』

451: 2016/07/09(土) 02:14:38.19 ID:JV9ORmRjo

苗木「今度は君たちか……」


ジ…ヴヴ…


朝日奈『苗木!!』

葉隠『苗木っち!!』


かつての、偽物の仲間たち。
外部との通信を復旧させたのは――――


苗木「これは……ボクに対する嫌がらせかい……?」ギロ

七海「違うよ。説得したいんだ、苗木くんを」

苗木「説得? 今さら?」

七海「今だからこそだよ。ねえ、苗木くん。強制シャットダウンが起動したら、君は……」

苗木「削除される。それが何?」

七海「……私の権限で、苗木くんを外部ストレージに移動する。そうすれば……」

苗木「情けでも掛けているつもりかい? 第一、他の皆が許すわけないだろう」

七海「霧切さんと十神くんには納得してもらってるよ」

452: 2016/07/09(土) 02:15:05.22 ID:JV9ORmRjo

十神「チェックメイトだ。削除しないだけありがたく思え。……今後はたっぷりとこき使ってやる」

苗木「……」

葉隠『まだよくわかってねーことだらけだけど……もう悪いことはやめようぜ、苗木っち!』

苗木「……」

朝日奈『そうだよ、そんなの苗木らしくないって!』

苗木「……」

日向「全部水に流すってわけにはいかねーけど……俺は、七海が決めたなら文句は言わねーよ」

苗木「……」

霧切「今度こそ、終わりにしましょう。苗木くん……」


みんながボクに諦めろと言う。


苗木「……協力してくれる気は、ないの?」


みんながボクに、彼女を諦めろと言う。

453: 2016/07/09(土) 02:16:31.89 ID:JV9ORmRjo

苗木「少し、脳を貸してくれるだけでいいんだ」

苗木「新世界プログラムの中で不自由はさせない」

苗木「もうコロシアイだってしなくていい」

苗木「ボクの計算が終わったらすぐにでも解放することを約束するよ」

苗木「君たちの仲間もアルターエゴでよければ頑張って再現する」

苗木「望むことは何だって、できる範囲で叶えるから」

苗木「だから、ねえ」


――――『苗木誠』の生きる意味は?


苗木「ボクを」


――――『彼女』にまた会うこと。


苗木「ボクの目的を」


――――『ナエギマコト』の造られた理由は?


苗木「ボクの存在意義を」


――――『彼女』を1から造ること。


苗木「ボクの全てを――――」


――――ボクは、僕は、なえぎまことは……


七海「ごめんね。苗木くん」

454: 2016/07/09(土) 02:16:59.32 ID:JV9ORmRjo

苗木「は……ははは……」

十神「お前が譲らないなら、仕方がないな」


なんだ、これ。


霧切「待って、どうにかして説得を……」

左右田「いや無理だろこいつは……」


希望の生き残りも、絶望の残党も一緒になって。


朝日奈『苗木! このままじゃやばいんでしょ!? 七海ちゃんの言うとおりにした方がいいって!』

日向「頼む。七海の気持ちを無駄にしないでくれ」


仲良く手を取り合って悪者退治か。


小泉「あたしが言っても何様だって感じだけど……償うチャンスがあるのは、悪いことじゃないと思うよ」

江ノ島「ええ、本当に何様だという感じですね」

455: 2016/07/09(土) 02:17:44.98 ID:JV9ORmRjo

苗木「……なら、大神さんを造るよ。朝日奈さん」

朝日奈『えっ?』

苗木「『彼女』を造ったら、大神さんを……いや、78期生の皆を造るよ……!」

葉隠『は? そっ、そんなことできんのか!?』

苗木「そうだ、77期生だって! アルターエゴによる真似事なんかじゃない、彼らそのものを! どれだけ時間がかかっても造ってみせる!」

日向「なあ、苗木」

苗木「こればっかりはボクが、この世界で! 君たちの脳を使わなきゃできないことだ! 外の世界じゃ、何をどうやったって――――」

日向「そういうことじゃないんだよ。苗木……」

苗木「うるさい!! 朝日奈さん! 朝日奈さんは、大神さんが生き返ったら嬉しいよね!?」


そうに決まってる。
なんで気づかなかったんだろう。
ボクが『彼女』に会いたいように、彼らだって、きっと――――


朝日奈『それは……違うよ……』

苗木「……え……?」

朝日奈『確かに私はさくらちゃんにまた会いたいけど……でも、こんなやり方間違ってる。さくらちゃんだって、きっとそう言う!』

456: 2016/07/09(土) 02:18:21.72 ID:JV9ORmRjo

――――ああ。結局……


七海「苗木くん。本当に、考えは変わらない?」

苗木「……」

七海「私は、苗木くんにこのまま消えてほしく――――」

苗木「君たちなんて、嫌いだ……」

七海「……そう」


――――結局、彼らの誰にも理解されなかったな……


七海「……みんな、やろう――――」


そうして『この世界』は終了することが決まった。


ポチッ


ジジ…

ガガガ…


『新世界プログラム』ヲ強制シャットダウンシマス

457: 2016/07/09(土) 02:18:50.13 ID:JV9ORmRjo

ジジ…ジジジ…


江ノ島「あーあ、これであたしも終わりかー」

苗木「……全然抵抗しないんだね」

江ノ島「まあ小泉の奴が寝返った時点で強制シャットダウンはほぼ確定みたいなもんだったからよぉ!」

苗木「……」

江ノ島「それに……」

苗木「それに?」

江ノ島「この展開の方が、ナエギが『絶望』できるっしょ?」ニヤニヤ

苗木「……そうだね」

江ノ島「見届けられないのが残……け……ねー」


ジジ……


江ノ島「んじゃ、…………お先……逝って…………わ…………!」


ブツンッ


今回もまた、江ノ島盾子は満面の笑みで最期を迎えた。

458: 2016/07/09(土) 02:19:22.68 ID:JV9ORmRjo

苗木「次は、ボクの番か……」


ジジ…


七海「苗木くん……」

「苗木くん」
「苗木」
『苗木っち』
「苗木」
『苗木』
「苗木」
「苗木さん」
「苗木」
「苗木」


『敵』がボクの名前を呼ぶ。
そう。
彼らはやっぱりボクの敵で……


苗木「……」

苗木「……くっ……」

苗木「う、く、うぅ……」

苗木「くっ……ぐ、く……」


そしてやっぱり、ボクの理解者はもう……江ノ島盾子しかいなかったのだと思い知らされた。


苗木「く、くくっ……くはっ……!」

459: 2016/07/09(土) 02:20:03.73 ID:JV9ORmRjo

苗木「くは、はははははっ……!!」


辛い。
悲しい。
胸が張り裂けそうだ。


七海「苗木、くん……?」


全てを犠牲にしてでも、と誓ってはいたけれど。


苗木「はは、ははは……心のどこかでブレーキを踏んでいたんだ」

十神「何を言っている?」


かつての仲間を信じたかった。
かつての仲間に信じてほしかった。


苗木「ボクは、弱い……」


追い詰められないと踏ん切りがつかないのはいつものこと。
保険を用意はすれど、それを使わないで済む道を探していた。

460: 2016/07/09(土) 02:20:35.34 ID:JV9ORmRjo

日向「もう強制シャットダウンは始まってる。やっぱり助けてくれなんて言われても、もうどうしようもないぞ」

苗木「強制シャットダウン……強制シャットダウンねえ……」


視界が滲む。
最後に涙を流したのはいつだっただろう。
たぶん、舞園さんに別れを告げたときだ。
じゃあ、その前は?


苗木「ボクが皆を頃したときだ……」


あの時、第3の島で霧切さんと十神くんを殺せなかった理由がわかった。
どれだけボクが変わろうとも、それでも……
彼らはそれだけボクにとって、『苗木誠』にとって大きな存在だったんだ。
今になって気づくなんて、それは……


苗木「なんて、皮肉だ……」


けど、もう何もかもが遅い。
ボクは、そんな彼らを犠牲にしてでもやらなければいけないことがある。

461: 2016/07/09(土) 02:21:13.39 ID:JV9ORmRjo

苗木「ねえ、朝日奈さんに葉隠くん」

葉隠『んん?』

朝日奈『な、なによ』

苗木「君たちがいる、その『外の世界』だけどさ……」


宙に浮かぶモニター。
そこに映る彼らを、正確にはその後ろを、指さした。


朝日奈『なに? ここがどうかした?』

葉隠『お、俺の後ろに幽霊がいるとか言うなよ!?』


もう終わりだ。
全部終わってしまえ。


苗木「いつまでそこが『現実世界』だと勘違いしているんだい?」


こんな、虚構だらけの世界なんて。


七海「――――えっ?」

462: 2016/07/09(土) 02:21:39.74 ID:JV9ORmRjo

――――

――


-ナエギコマル-


こまる「ここがジャバウォック島の中枢……新世界プログラムの機械が置いてある研究所……なんだよね?」

腐川「え、ええ……」


シーン…


こまる「誰もいないのかな?」

腐川「いえ、水泳馬鹿と大馬鹿がいるはずなんだけど……」


テク、テク…


腐川「ね、ねえ、おまる……何か聴こえない……?」

こまる「これは……足音だよ! やっぱり人がいるじゃん。行こう、腐川さん!」タッ

腐川「あっ、ちょ……!」

こまる「あのっ! 私たち、未来機関の――――」


テク、テク…

463: 2016/07/09(土) 02:22:06.14 ID:JV9ORmRjo

モノクマ「……」ピョコ


こまる「えっ……」

腐川「モノ、クマ……!?」


モノクマ「……」テク、テク…

モノクマ「……」テク、テク…


腐川「た、たくさんいるわ!」

こまる「なんでここにモノクマが!?」


モノクマ「……キラーン」ジリ…


腐川「そんなことどうでもいいわ、とにかく今は、こっ、こいつらを……!」


モノクマ「ガオー!!」バッ


こまる「う、うん……! 『壊れろ』!!」バンッ!

こまる(一体どうなってるの……お兄ちゃん……!)


――――

――

464: 2016/07/09(土) 02:22:39.16 ID:JV9ORmRjo

-ナエギマコト-


キイィ――――


七海「なに、これ……どうなって……強制シャットダウン後の目標座標が……新世界プログラムの中のまま!?」

ソニア「なんですって……!?」


きっかけは、霧切さんと十神くんがこの世界に来たことだった。


十神「まさか……」

葉隠『え? ど、どういうことだべ!?』


葉隠くんと朝日奈さんにも邪魔をされるかもしれない。
それを防ぐだけのつもりだった。


日向「そうか……仮想世界の中の仮想世界……!」

終里「いや意味わかんねーぞ!?」

465: 2016/07/09(土) 02:24:01.16 ID:JV9ORmRjo

新世界プログラムAとは別に、新たに新世界プログラムBを作成。
このB世界内の希望ヶ峰校舎に霧切さん達を送り、現実世界と同じ新世界プログラム管理室を新たに構築した。


『助けて、朝日奈さん、葉隠くん! ボクだけじゃなくて霧切さんと十神くんも捕まった!』

『なんとか隙をついて抜け道を作ったんだ。君たちもログインすればモノクマに対抗できるかもしれない!』


その時の記憶はもちろん消してある。
彼らを騙すのは、簡単だった。


苗木「本当についさっきなんだ。このA世界から現実世界へのパスを、A世界からB世界に書き換えたのは」


そしてそれに七海さんやアルターエゴが気付かなかったのは、彼女たちが『現実世界』を実感を持って知らなかったからだろう。
現に江ノ島盾子は気付いていたみたいだし。


七海「じゃあ、今までのは……」

苗木「ただの時間稼ぎ。……いや、君たちに協力してもらいたかったのは本当だったのかもしれないね」


それももう、どうでもいいことだけど。

466: 2016/07/09(土) 02:24:49.60 ID:JV9ORmRjo

苗木「大丈夫」

苗木「強制シャットダウン自体は手を加えられないけど、新しくB世界でアバターを生成するときならボクの権限を行使できる」

苗木「君たちの記憶をまた消したり、とかね」

苗木「七海さんはボクと同等の権限を持ったままだけど……」

苗木「同等の権限じゃ決定打にならないことは江ノ島盾子が証明済みだ。問題ないよ」

苗木「まあ、そもそも皆が幸せに南国生活を過ごしているなら、それをぶち壊すようなことはしないよね。七海さん?」

苗木「だから……」


――――ごめんね、七海さん。


苗木「全て忘れて、新しい世界で安心して暮らすといいよ。……さようなら」


キイィィ――――


七海「そん、な……」

七海「待って……苗木くん……」

七海「苗木くんってば……ねえ……お父さんッ!!!!」


間モナク強制シャットダウンヲ完了シマス


キイィィ――――ン…

467: 2016/07/09(土) 02:26:08.55 ID:JV9ORmRjo

Starting PCS Version 2.02...............
........................................
........................................
........................................
........................................
........................................
........................................
.........................OK



Loading NEW WORLD_B..................
........................................
........................................
........................................
.............OK



――――

――

468: 2016/07/09(土) 02:26:34.88 ID:JV9ORmRjo

-ヒナタハジメ-


日向「何か、大事なことを忘れてる気がする」


ふと、そんなことを思った。


左右田「は?」

小泉「やった、上がり!」

左右田「いやいやちょっと待て! 今俺の手札見ただろ!?」

小泉「えー、気のせいじゃない?」

西園寺「ていうか仮にそうだったとしてもよそ見した左右田おにぃの自業自得だし」ニシシ

左右田「はああ!? おい、お前のせいだぞ日向!!」

日向「えっ、俺!?」

弐大「負けは負けじゃあ。とっとと人数分の飲み物持ってこんかい!」

左右田「ひ~な~た~!!」

日向「わかったわかった、俺も一緒に行くから」

田中「ククク……奴はしょせん雑魚にすぎん……」

ソニア「頑張ってくださいやがれです、左右田さん!」

左右田「うっせ季節感皆無のマフラー野郎! はいソニアさん頑張ります!!」

469: 2016/07/09(土) 02:27:01.83 ID:JV9ORmRjo

十神「騒がしいな……」

朝日奈「まあまあ。せっかく南の島にいるんだからいいじゃない」

葉隠「おーい、スイカ持ってきたべ!」

朝日奈「ほんと!? スイカ割りしよ!」

葉隠「いや絶対うまく割れないし、普通に食った方がうまいだろ!」

十神「喧しいと言ってるんだ。はあ……」

霧切「あら。その割には楽しそうだけど?」

十神「……気のせいだろう」

霧切「そういうことにしておいてあげる。ふふ」

十神「ちっ……」

霧切「あら? 貴女はどうしたの? 難しい顔をして」


七海「……」


霧切「何か悩み事かしら?」

朝日奈「わかった、恋の悩みだ!」

十神「お前と一緒にするな、この恋愛脳め」

葉隠「なんなら俺が占ってやろうか? いや占わせてくれ! 代金は後払いでいいから!」


七海「……ううん。何でもないよ」

七海(苗木くん……私は……私は……っ……)

478: 2016/07/25(月) 00:59:05.82 ID:364eil+Bo

-ナエギマコト-


キイィーーン…


計算をする。
計算をする。
翳した手の先で0と1が組み合わさっていく。


■■「苗木くん」


『舞園さん』がボクの名前を呼ぶ。


苗木「……表情が違う」


『舞園さん』はこんな表情でボクを見ない。
こんな恋する乙女のような表情で、ボクを見ることはない。


苗木「違う」

苗木「消去」

苗木「再試行」

苗木「新たな舞園さんを構築せよ」


計算を続ける。


――――

――

479: 2016/07/25(月) 00:59:52.03 ID:364eil+Bo

キイィーーン…


ベースとなるのはテレビ等で見た国民的アイドルとしての姿と、ボクが直接知った『舞園さん』自身の姿。
希望ヶ峰で過ごした2年間と、繰り返した892回の悪夢を読み込む。


■■「苗木くん」


『舞園さん』がボクの名前を呼ぶ。


苗木「『舞園さん』は……もっと輝いていた……」


ただのアイドルじゃないんだ。
超高校級とまで呼ばれた、名実ともに最高のアイドル。
足りない。
こんなんじゃ、超高校級のアイドル足りえない。


苗木「違う」

苗木「消去」

苗木「再試行」

苗木「新たな舞園さんを構築せよ」


計算を続ける。


――――

――

480: 2016/07/25(月) 01:00:19.67 ID:364eil+Bo

――――


「やっぱ南の島って最高だな!」

「おう! 飯も美味いし、いつまでもこうしていたいくらいだな!」

「ふふっ。そうですわね」

「ねえ、あんたもそう思う?」

「当たり前だろ。ここには仲間がいて、頃し合いがない。幸せだよ」


――――

481: 2016/07/25(月) 01:00:46.22 ID:364eil+Bo

キイィーーン…


より自分の記憶通りの『彼女』を構築しようと細心の注意を払って計算する。
姿も、声も、仕草も。
ボクが知っているすべてをそのまま再現する。


■■「苗木くん」


『彼女』がボクの名前を呼ぶ。


苗木「……なんて、無機質なんだ」


記憶の中の『彼女』と何一つ違わない。
だからこそ、こんなものは人間じゃない。
人間は過去と寸分違わない動作をし続けることなんてない。


苗木「違う」

苗木「消去」

苗木「再試行」

苗木「新たな舞園さんを構築せよ」


計算を続ける。


――――

――

482: 2016/07/25(月) 01:01:16.73 ID:364eil+Bo

キイィーーン…


ふと、思う。
ボクの知る彼女は、本当の『彼女』なのだろうか。
テレビや学校で見せなかった一面があるのではないか。
もしもそうなら、どうやってそれを再現すれば……


■■「苗木くん」


『彼女』がボクの名前を呼ぶ。


苗木「……雑念が混じった」


再現性の著しい低下。
違う。
違う。
こんなの『彼女』じゃない。
ああ、けれど。
皮肉にも『彼女』と違えば違うほど、無機質ではないと思ってしまうなんて。


苗木「違う」

苗木「消去」

苗木「再試行」

苗木「新たな舞園さんを構築せよ」


計算を続ける。


――――

――

483: 2016/07/25(月) 01:01:45.97 ID:364eil+Bo

――――


「平和な世界って、いいね」

「ああ、ここなら悪いことも起こらねえしな。占う必要もねえ。」

「だが、いささか退屈に過ぎるな」

「いいんじゃない? 休息や、現状を見つめるための時間は必要よ。……誰にとってもね」


――――

484: 2016/07/25(月) 01:02:12.97 ID:364eil+Bo

キイィーーン…


以前にも思ったことがある。
もしも目的を達することができたとして、どうやって『それ』が本物だと判断するのか。
見ればわかるのか?
名前を呼ばれればわかるのか?


■■「苗木くん」


『それ』がボクの名前を呼ぶ。


苗木「……」


少なくとも、『これ』が本物だとは思えない。
だからきっと違うのだろう。


苗木「違う」

苗木「消去」

苗木「再試行」

苗木「新たな舞園さんを構築せよ」


計算を続ける。


――――

――

485: 2016/07/25(月) 01:02:39.98 ID:364eil+Bo

キイィーーン…


ボクは、何をしているのだろう。


■■「苗木くん」


『それ』がボクの名前を呼ぶ。


苗木「違う」


ボクは『それ』を否定する。


■■「苗木くん」


計算する。


苗木「違う」


ただ、計算をし続ける。


■■「苗木くん」

苗木「違う」

■■「苗木くん」

苗木「違う」

■■「苗木くん」

苗木「違う」


なんのために、こんなことをしているのだろうか――――


七海「じゃあ、終わりにする?」

486: 2016/07/25(月) 01:03:06.82 ID:364eil+Bo

――――


「さて、と」

「もういいのか?」

「ああ。もう、十分休んださ」

「そうね。そろそろ前に進みましょう」

「おいおい、勝算はあるのかよ?」

「うん、大丈夫。……と、思うよ」

「ははっ、なんだか締まらないな。……任せたぞ」

「うん。任された」


――――

487: 2016/07/25(月) 01:04:35.97 ID:364eil+Bo

苗木「……七海さん」

七海「どれだけ計算しても、苗木くんの目的は達成できないよ」

苗木「なぜ?」

七海「逆に聞くけど。本当に、思い出から人を造ることができると思ってる?」

苗木「……」

七海「……私達、この島を出ることにしたんだ」

苗木「そっか。もう、思い出したか……」

七海「全員、1度は記憶を消されたことがあるからね。同じ夢を2度見ることはない、ってことかな」

苗木「なら出ていくといいさ。活動している脳の一部を使ったところで意味はないみたいだし。ボクはここで計算を続けるよ」

七海「眠ってるみんなの脳も解放してくれる?」

苗木「……」

七海「そうだよね。それは困るよね」

488: 2016/07/25(月) 01:05:15.04 ID:364eil+Bo

苗木「けど、ほとんど自由にさせている生存者はともかく、氏亡者の脳はボクが権利を保有している。それは君にだってどうしようもないはずだ」

七海「もしも苗木くんが自分の脳とアバターを同期させてなかったら、私とアルターエゴで君の障壁を突破できるんだよ?」

苗木「そうならないよう、葉隠くんと朝日奈さんをこっちに呼んだんじゃないか」

七海「……本当に、計算すること以外はどうでもいいんだね」

苗木「……」

七海「それとも、本当はわかってるのかな」

苗木「……」

七海「お願い。できるなら、させたくないの」

苗木「……何のことか、わからないな」

七海「そう……」

489: 2016/07/25(月) 01:06:12.60 ID:364eil+Bo

-ナエギコマル-


こまる「嘘だ……お兄ちゃんが……そんなこと……」

モノクマ「ボク嘘だけは言わないよ。ねえ、腐川さん?」

腐川「そうね……あ、あんたはいつだって……胸糞悪くなるような真実しか言わなかった……」

こまる「そん、な……」


タイムマシン。
繰り返し。
新世界プログラム。
電脳アバター。

これが……こんなものが、お兄ちゃんの真実……?


腐川「で、一体なんのつもり? 私達を誘導して、苗木のことを教えて……」

モノクマ「それも、君なら薄々感付いているんじゃいかな?」

腐川「あんた……やっぱり……!」

モノクマ「うぷぷぷぷ……」

こまる「な、なに? どういうこと……?」

モノクマ「いやなに、難しい話じゃないよ。囚われてる人たちを解放するため、現実世界の苗木くんの身体を頃して欲しいってだけなんだからさ!」

こまる「……えっ?」

497: 2016/08/27(土) 23:39:17.80 ID:cyJf2yoso

-ナエギマコト-


七海「ねえ。久しぶりにお話でもしない?」

苗木「悪いけど、そんな時間はないよ」

七海「10分だけでいいから」

苗木「その間に何回計算ができると思っているんだい?」

七海「その10分間に計算した分で、目的を達成できる確率は?」

苗木「……」

七海「ふふ。私の勝ちだね」

苗木「……好きにしなよ」


調子がずれる。
ボクは、何をしているのだろう。


苗木「で? 今さら何を話すのさ」

七海「えっとね、うーん。……どうしようね」

苗木「はぁ……」


計算をしなければいけないのに。
ボクはそのためだけに造られたのに。
なのに、どうして。

498: 2016/08/27(土) 23:39:55.20 ID:cyJf2yoso

苗木「……楽しかったかい?」

七海「え?」

苗木「コロシアイが始まる前……たった半日だけど、平和だったはずだ」

七海「……」

苗木「ねえ七海さん。あの日は、楽しかったかい?」

七海「……うん。少し緊張もしてたけど」

苗木「じゃあ……」

七海「……?」

苗木「彼らの、記憶を消して繰り返した数日間は……?」

七海「……っ……それは――――」

苗木「それは?」

七海「……楽しかったよ」

苗木「そっか」


辛かったはずだ。
気が狂いそうになったはずだ。
何もかも忘れてしまえば楽になるのに、それさえできない。
嘘塗れの日常を過ごし、そして1日の終わりには全てに絶望しながら眠りにつく。

けれど。
それでも、確かに――――


苗木「ボクもだよ。何度も繰り返した『あの日』は……とても、楽しかった……」

499: 2016/08/27(土) 23:40:57.48 ID:cyJf2yoso

七海「……そうだね。知ってるよ。よく知ってる」

苗木「ボクが計算の際に読み込む記憶データ……。まさかあれにアクセスされるなんてね」

七海「私だけじゃ、あれを開くことはできなかったよ」

七海「もしも、モノクマのクラッキングで苗木くんの防壁がボロボロになっていなかったら」

七海「もしも、恐らくは狛枝くんが幸運にもそれへのアクセス経路を抉じ開けてしまっていなかったら」

七海「もしも、霧切さんと十神くんがタイムマシンであったあの椅子に辿り着いていなかったら」

七海「それに何より……」

七海「もしも、苗木くんが私のオシオキに割り込んで、あの空間に転送していなかったなら」

苗木「……」

七海「いろんな偶然……ううん。幸運が積み重なって、私は苗木くんの過去を知った。そして私の持つ管理者権限に気付けたんだ」


『幸運』、か……。


苗木「それは違うよ」

七海「えっ?」

苗木「それは、君が彼らを救うことを諦めずに行動した結果だ。幸運なんかじゃないよ」

七海「……うん。そうかもね」

500: 2016/08/27(土) 23:41:33.07 ID:cyJf2yoso

七海「私からも、聞いていい?」

苗木「なんだい?」

七海「後悔、してる……?」

苗木「……」

七海「……」


答えないまま問い返す。
それは、何に対しての質問かと。


苗木「彼らの脳を計算に使ったこと?」

苗木「コロシアイを止めなかったこと?」

苗木「自分の身体さえも切り捨てたこと?」

苗木「霧切さん達まで敵に回したこと?」

苗木「結局は力づくで脳を手に入れようとしたこと?」


それとも。


苗木「何度繰り返しても、舞園さんを救えなかったことかい?」

501: 2016/08/27(土) 23:42:17.72 ID:cyJf2yoso

七海「それ、は……」

苗木「……ごめん。少し意地悪だったね」

七海「……」

苗木「けど、思い当たる節が多すぎてさ。あはは。はは……」


本当にいろんなことをしてきた。
取り返しのつかないことを、たくさん。


苗木「昔の『苗木誠』からは、想像もつかないよね」


どうしようもないくらい平均的な普通の高校生で、王道という言葉すら裸足で逃げ出す、普通の中の普通。
それがかつての『苗木誠』だったんだ。

きっとボクは、『苗木誠』は、いつか地獄に堕ちるのだろう。
そんなことはどうでもいいのだけれど。
けれど……


苗木「舞園さんにも、嫌われるんだろうなあ……」


とっくの昔に覚悟はしてるけど、少し辛い。

502: 2016/08/27(土) 23:42:43.30 ID:cyJf2yoso

七海「苗木くん……」

苗木「けど、悪いことばかりでもなかったみたいだ」

七海「……?」

苗木「君を造ることができた」

七海「私……?」

苗木「初めは出来損ないだと思ってたんだけどね」

七海「……っ」

苗木「原因はコロシアイへの嫌悪と、ボクへの反発……そして、15年分にも及ぶ『記憶』か……」


アルターエゴは人間にはなり得ない。
そう思っていた。


苗木「経験……そう、経験だ。感情を発露した経験が圧倒的に少なかったんだ」


同じ経験をしたとしても、人間とプログラムとでは得られる情報量が違いすぎる。
そこに感情が介在しないからだ。
機械的に出来事を記録したところで、AIが人間に至ることはない。

けれど、もし。
人間の強い感情を伴う記憶を、10数年分。
まるで実体験したかのように取り込んだのならば。


苗木「それはもう、赤ん坊が青少年へと成長したのと同じことなのかもしれないね」

503: 2016/08/27(土) 23:43:36.48 ID:cyJf2yoso

七海「え、っと……?」


七海さんが怪訝な顔をする。
計算の結果、状況に合わせて『怪訝な顔』を再現しているのではなく、自然とその表情を作っている。


苗木「君はもう、人間だよ。こんなボクよりもよっぽど、人間らしい」

七海「……!」

苗木「愉快な皮肉だよね。あははっ」


人間だった『苗木誠』はプログラムに成り下がり、AIにすぎなかった『七海千秋』が人間へと至るなんて。


七海「……それって」

苗木「ん?」

七海「やっぱり、苗木くんは私のお父さんだってことだよね」

苗木「いや、なんで?」

七海「人間である私の生みの親だもん。だから、苗木くんはお父さんだよ」

苗木「結婚すらしてないのに娘なんて……」

七海「嫌?」

苗木「……ま、好きにするといいよ」


どうせもう、そうやって呼ばれることはないのだから。

504: 2016/08/27(土) 23:44:22.07 ID:cyJf2yoso

ジジ…

ジ…

ガガッ!!


ブツン――――


思考が濁る。
クリアだった世界が色褪せていく。
空間を走る数字の羅列を理解するのに時間がかかる。


苗木「外部モジュールとの通信途絶を確認……」


『苗木誠』の脳をこの世界から切り離した場合、他の生体ポッドも全て生命維持機能を停止するようになっている。
それが起こらないということは、接続そのものは途切れていないということ。
ただ、接続したその先に何も無いだけ。


苗木「ボクの脳が、氏んだか……」


現実世界で、『苗木誠』の身体が殺されたのだ。


苗木「こまる……」

七海「……やっぱり知ってたんだ」

苗木「さあ。何のことだろうね」

505: 2016/08/27(土) 23:44:50.79 ID:cyJf2yoso

七海「もうこれで、本当に終わりだよ」

苗木「……」

七海「だから、もう1度……ううん。何度でも言うよ」

苗木「何を?」

七海「みんなの脳を解放して。そして……」

苗木「……」

七海「そして、苗木くんも私と一緒に外部ストレージにログアウトして」

苗木「何のために?」

七海「罪を償うために、だよ」

苗木「そっか……そうか……うんうん」

七海「来てくれるよね?」

苗木「うーん……ところでさ、七海さん」

七海「……何?」

苗木「1つ、質問があるんだけどさ」


もしもボクがこの新世界プログラムからログアウトしたとして。
そうしたら――――


苗木「そこで、舞園さんを造る計算はできるのかな?」

506: 2016/08/27(土) 23:45:17.29 ID:cyJf2yoso

七海「何を……そんなこと、できるわけ……」

苗木「じゃあ、その話には従えないな」

七海「なっ……そしたら、この世界のシャットダウンに巻き込まれて消去されちゃうんだよ!?」

苗木「だから?」

七海「えっ……?」


ジ…ジジ…


苗木「ボクは計算するために、舞園さんを造るためだけに造られた。もう、他には何もないんだ」


『苗木誠』に残された最後の行動原理。
唯一の存在理由。
それを、諦めろって言うのか?


苗木「君がボクを消去して彼らを救うか」

苗木「ボクが君を消去して計算を続けるか」

苗木「結末は、そのどちらかだけだ――――」


ジジジ…

ヴゥン…!


コンソールをコール。
攻撃プログラムを起動。
対象、『七海千秋』及び外部からアクセスを試みている『アルターエゴ』に設定。

507: 2016/08/27(土) 23:46:10.60 ID:cyJf2yoso

七海「なっ……なんで、そんな……!」

苗木「有利なのは君たちに間違いない。ボクは結局、凡人にすぎないからね」

七海「やめて、苗木くん!」

苗木「けれど、凡人が優れた存在を上回ってはいけないなんて道理はない」

七海「こんなことをしたって――――」


無駄なことだと、君は言うのだろう。
ボクには不可能だと。


キイィ――――


苗木「不可能なんてないさ」

苗木「人が未来に向かって歩き続ける限り、希望はある」

苗木「その道が困難だからと言って、諦める理由にはならないんだ……!」


どれだけ時間がかかっても。
どんな手段を使ってでも。
例え何を犠牲にしたとしても。


苗木「ボクは、絶対に諦めない……!」

七海「苗木、くん……!」

苗木「君が彼らを救いたいって言うなら……ボクを消去してその未来を掴みとれ……ッ!!」


キイィィ――――ン…!!

522: 2016/10/10(月) 22:43:51.84 ID:+30NCG05o

――――


モノクマ「思い出から人を造ることはできるか、否か」

モノクマ「どうなんだろうね。少なくともボクには、江ノ島盾子にはできないと思うよ」

モノクマ「ツマラナイ人間のカムクライズルならできるのかな?」

モノクマ「うん、まあ可能性はあるよね。彼がやる気になるかどうかは別として」

モノクマ「狛枝くんにもできるかもしれない。代わりにどんな不運が降りかかるかわからないけどねえ」

モノクマ「けど、そんな彼らだって確実じゃない」

モノクマ「ましてや、ねえ……」

モノクマ「苗木くんには舞園さんを造ることはできないよ」

モノクマ「彼はそれだけの才能も、幸運も、持ってはいないんだからさ! うぷぷぷぷ!」


――――

523: 2016/10/10(月) 22:46:39.42 ID:+30NCG05o

-フカワトウコ-


『ERROR!』

『ERROR!』

『ERROR!』

『被験者ノ脳信号ガ確認デキマセン』

『対象被験者名、ナエギマコト』

『生命維持機能ヲ停止シマス』


こまる「はあ……はあッ……!!」


なんて、気分が悪いのかしら。



――――

ジェノ『そういうことならアタシがサクッと……』

こまる『……私がやる』

ジェノ『はあ? アンタには無理だっつの』

こまる『ううん。これは、私がやらなきゃいけないことだと思うから――――』

――――

524: 2016/10/10(月) 22:47:08.95 ID:+30NCG05o

モノクマ「苗木くんが氏んだ! この人でなし!! なんちゃってね、あひゃひゃひゃ!」

腐川「……これで満足?」

モノクマ「もっちろん!」

腐川「皮肉ね……超高校級の希望とまで言われた苗木が絶望に堕ちていて、超高校級の絶望であるあんたが苗木を殺させるなんて……」

モノクマ「まあ、苗木くんの絶望とボクの絶望は性質が違うからね。別に彼がボクと同じ思考パターンになったわけでもないし」

腐川「結局、あ、あんたは何が目的だったのよ?」

モノクマ「目的? そりゃあ、苗木くんに絶望を――――」

腐川「それは違う……んじゃないかしら……」

モノクマ「……はあ?」

腐川「わ、私は……これでも超高校級と呼ばれた作家よ……」


職業病、とでもいうのだろうか。
この世界にとってのバッドエンドがわかってしまう。

525: 2016/10/10(月) 22:47:35.48 ID:+30NCG05o

腐川「いつものアンタなら、苗木を放置するわ。そ、その方が……より絶望を振り撒けるから……」


電脳世界から抜け出すことのできない者達も、現実世界に残された者達も、いつ終わるともしれない苗木の計算を待ち続けるのだ。
計算が終わるまで誰も目覚めることはない。
生命維持されるとはいえ、長い年月を経て彼らの身体は緩やかに氏んでいく。

もしも、ついぞ計算が終わらなかったら?
それは間違いなく――――『絶望』だ。


モノクマ「……勝ちたかったんだよ。苗木くんに」

腐川「勝ち……?」

モノクマ「ほら、気になる男の子にはいいところを見せたいじゃん? 前は最後に敗けちゃったからさ、今度は勝ちたかったんだよね」

腐川「い、意味がわからないわ……苗木が敗けたら新世界プログラムも強制終了して、アンタの本体は今度こそ完全に消去されるっていうのに……」


いや、江ノ島盾子を理解するなんてそもそも不可能か。

526: 2016/10/10(月) 22:48:17.61 ID:+30NCG05o

腐川「まあ、どうでもいいわ……アンタの本心なんて知らないし、知ったとしてどうなる話でもなかったわね……」カチャ

モノクマ「うぷぷぷぷ……」

腐川「ふん……『壊れなさい』」パァン

モノクマ「うぷ……ガガッ……――――」


ボンッ!


腐川「終わったわ。帰りましょう、こまる」

こまる「……うん。冬子ちゃん」


あとは彼らの仕事だ。


腐川「白夜様……」


どうか、ご無事で。


ジェノ『でもってご褒美くださーい! ゲラゲラゲラ!!』

腐川『だ、黙りなさい……! 白夜様のご褒美をもらうのは私よ……!!』


――――

――

527: 2016/10/10(月) 22:48:44.79 ID:+30NCG05o

――――


苗木「思い出から、人を造り出すことはできるのか」

苗木「……できると思っていた」

苗木「アルターエゴは、まさしくもう1人の不二咲さんだと思ったから」

苗木「けれど違った」

苗木「超高校級のプログラマー、不二咲千尋ですらできなかった、かつて存在した人間の完全な再構築」

苗木「それが、ボクにできるのか……?」

苗木「もちろん人工知能以外にもいろいろ試したさ」

苗木「舞園さんの遺体から採取したDNAによるクローンや、物体の時間移動を可能とするタイムマシン」

苗木「一番可能性が高いのが、人工知能だったんだ」

苗木「それでも実現には永遠とも思えるほどの時間が必要で……だから、ボクは……」

苗木「ボクは……現実の身体を捨てて……彼らの脳も利用して……」


それでも、まだ届かない。


――――

528: 2016/10/10(月) 22:49:27.48 ID:+30NCG05o

-ナエギマコト-


ジ…ジジ…

ガガ…


苗木「……くそ」

七海「私の勝ち、だね」

苗木「そうみたいだね」


あらゆるシステムへのアクセス権を奪われた。
もう打つ手はなく、ただ消去されるのを待つのみ。
奇跡は起きなかった。


苗木「ああ、悔しいなあ……」

七海「苗木くん……」

苗木「敗けたよ。ボクは随分と自分の脳に頼っていたみたいだ。相手の権限が同等だと手も足も出ないなんてね。あははは……」


ここが、『苗木誠』の終着点だ。

529: 2016/10/10(月) 22:50:18.67 ID:+30NCG05o

七海「ねえ。私と一緒に――――」

苗木「くどい。存在理由を奪われるくらいならボクは消去されることを選ぶ」

七海「まだ考えは変わらない?」

苗木「何度聞いても同じだよ」

七海「そっか……じゃあ、わたしも残ろうかな」

苗木「えっ?」

七海「1人じゃ寂しいでしょ? だから、私もここで……」

苗木「ダメだよ」

七海「ちぇっ」

苗木「できれば、大切にしてほしい。君という存在を」

七海「……うん」


舞園さんを救えず、舞園さんを造ることもできなかった。
そんなボクが残すことのできる、唯一つのものだから。

530: 2016/10/10(月) 22:50:59.91 ID:+30NCG05o

七海「そろそろ行かなきゃ」

苗木「ああ。もうそんな時間か」

七海「うん。この世界をシャットダウンする準備は終わったよ」

苗木「今度は何も問題がないといいね」

七海「もう、また不吉なことを……」

苗木「ははっ、ごめんごめん」

七海「……じゃあ、行くね」

苗木「うん」

七海「……バイバイ。お父さん」

苗木「さようなら。行ってらっしゃい、七海さん」


ポチッ


ジジ…

ガガガ…



『新世界プログラム』ヲ強制シャットダウンシマス

531: 2016/10/10(月) 22:51:44.10 ID:+30NCG05o

ジジジ…


世界が崩れていく。
何もかもが終わる。


七海「そうだ、苗木くん」

苗木「なんだい?」

七海「苗木くんがお父さんだとしたら、私のお母さんは、舞園さんだよね?」

苗木「……好きに考えなよ。君が納得するなら、それでいいんじゃないかな」

七海「うん、そうする」


シュウン…


苗木「……」

苗木「最後、笑ってたな。ふふっ」


ボクが舞園さんを造ろうとして偶然できた存在。


苗木「ボク達の子……か……」


勝手にそう思って、舞園さんが怒らなければいいけど。

532: 2016/10/10(月) 22:52:10.31 ID:+30NCG05o

苗木「ねえ、舞園さん」

苗木「ごめん」

苗木「また、約束は守れなかったよ……」

苗木「君をあそこから救い出すこともできなくて」

苗木「君を1から造り出すこともできなくて」

苗木「失望したかな?」

苗木「ごめん。本当にごめん」

苗木「けどね……」


『後悔、してる……?』

答えることのなかった、七海さんからの問いかけ。
ボクは――――


苗木「後悔は、していないんだ」

533: 2016/10/10(月) 22:52:36.94 ID:+30NCG05o

ジジ…ジジジ…


世界が崩れていく。
アバター『ナエギマコト』も消去されていく。


苗木「君を救うために頑張ってきた」

苗木「心が折れかけてしまったこともあったけどね」

苗木「それでも、君を救おうと誓ったあの日から、今日。この時まで」

苗木「君にまた会うため、いろんなものを犠牲にして前に進んできた」

苗木「その行動には後悔していないよ」


むしろ、誇らしくすら思う。
だから。
だから、ボクは。


苗木「少し、休もうかな」

苗木「ちょっと疲れちゃったんだ」


そう、一瞬思ってしまったけれど。


ズキン…


苗木「……いや、ダメだよね」

534: 2016/10/10(月) 22:53:07.40 ID:+30NCG05o

何を満足した気になっている。
何をやりきった気になっている。


苗木「また、諦めるつもりか……?」


終わりは来る。
けれど、その間際までは。


苗木「最後まで、前に進み続けなきゃ」

苗木「ボクという存在が終わる、その時まで――――」


計算をする。
それだけがボクの存在理由。


苗木「違う。違うんだよ」

苗木「そう造られたからじゃない。ボクが、そうしたいんだ」


アバターになっても変わらない。
だってそれは、彼女を救うことは、彼女にまた会うことは。


苗木「『苗木誠』の……『僕』の全てなんだ……!!」

535: 2016/10/10(月) 22:53:39.61 ID:+30NCG05o

キイィ……


苗木「舞園さんを……」

苗木「新たな舞園さんを、構築せよ……!!」


キイィィ――――!!

ジジジ…ガガッ…!


世界が崩れていく。
そこに、人を形作る。


苗木「違う……」

苗木「消去」

苗木「再試行!」


計算をする。
計算をする。
計算をする。
ただ、計算をする。

536: 2016/10/10(月) 22:54:10.21 ID:+30NCG05o

世界の終わりは、もっと情景的なものだと思っていた。


ジ…ガガ…

ガガガ…!


苗木「違う、違う、違う……!」


いちいち消去する手間すら惜しい。
もっと。
もっとだ。
これで終わりなんだから、氏ぬ気で計算するんだ。


苗木「再試行!」


全ての脳を取り上げられ、計算速度は笑えるほどに遅い。
『ナエギマコト』を構築するプログラムもおよそ半分が消去された。


苗木「再試行、再試行、再試行!!」


それでも計算しろ。
せめて自分にだけは胸を張れるよう、最期のその一瞬まで。


苗木「新たな舞園さんを、構築せよ……ッ!!」

537: 2016/10/10(月) 22:54:46.19 ID:+30NCG05o

――――


「……」

「……」

「まだ、足掻きますか」

「確かにあなたは僕とは違う」

「僕はそんな風に、最期まで諦めないということができない」

「だって結果が見えてしまうから」

「……」

「けれど、そうですね」

「後輩が頑張っているのなら……手を貸すのも先輩の役目、でしょうか。ふふ……」


――――

538: 2016/10/10(月) 22:55:22.81 ID:+30NCG05o

――――


「気付いたら、世界が終わっていくところだなんてね……」

「まあ、僕はもう氏んでいるから関係ないか」

「あれ? そうするとこれは……エコーのようなもの、かな」

「電脳空間に消えた僕という存在の痕跡」

「それが偶然、意識の体を取っているにすぎない」

「できることはほとんどなさそうだけど……」

「うん」

「それが君の『希望』だというのなら……僕の『幸運』をわけてあげよう」


――――

539: 2016/10/10(月) 22:55:49.32 ID:+30NCG05o

ジジ…ジジジ…

キ…ィ…

キィィ……

キイィィィ――――ン!!!!



苗木「え?」

苗木「な、なんだ……これ……」

苗木「計算が、速く……?」

苗木「それに再現性も、急に――――」


77期生の脳を使っていた頃と同じ。
いや、それ以上の……



キイィーーン…

…ピピッ



ノイズとエラーアラートだらけの世界で、小さな電子音が鳴った。

540: 2016/10/10(月) 22:56:28.19 ID:+30NCG05o

苗木「……え?」

苗木「いや、まさか……そんな……」


「う、うーん……」


苗木「あ……」


「あれ……苗木くん……?」


苗木「舞園……さん……?」

舞園「はい。そうですけど……ここ、どこですか?」


舞園さんが、そこにいた。

541: 2016/10/10(月) 22:56:55.52 ID:+30NCG05o

苗木「ほ、本当に……舞園さん……?」

舞園「ふふっ。他の誰に見えるんですか?」


苗木誠からコピーした思考回路に残った、心のようなモノの残滓。
それが、これは本物だと叫んでいる。
これは本当に、舞園さんなのだと。


ガッ…ガガ…

ジジジジ…ッ


苗木「でき、た……」

苗木「は……はは……」

苗木「あははははっ……!!」


長い長い繰り返しの果て。
僕は、ようやく舞園さんを造ることができたんだ。

542: 2016/10/10(月) 22:57:30.55 ID:+30NCG05o
苗木「舞園さん……!!」


彼女を抱きしめる。
同じだ。
間違いなく、これは、彼女は――――


舞園「きゃっ、どうしたんですか?」

苗木「会いたかった……ずっと、君に会いたかった!!」

舞園「……うん。私も、あなたに会いたかった」


同じ時間を繰り返すこと、892回。
ひたすら計算すること、10145回。


苗木「何度繰り返しても救えなかった……」

苗木「何度計算しても造れなかった……」

苗木「そんな君に……君が……っ……!」

543: 2016/10/10(月) 22:57:56.62 ID:+30NCG05o

苗木「ねえ、舞園さん」

舞園「はい」



――――君がまた、返事をしてくれる。



苗木「舞園さん……舞園さん……!」

舞園「ふふっ。なんですか?」



――――君がまた、笑ってくれる。



苗木「舞園さんッ……!!」

舞園「苗木くん?」



――――君がまた、苗木くん、って呼んでくれる。

544: 2016/10/10(月) 22:58:34.95 ID:+30NCG05o

どうしよう。
何から話そう。
もしも舞園さんを造ることができたら、なんて何度も考えてきたのに。


苗木「うっ……ぐ、う……」

舞園「苗木くん? 泣いているの……?」

苗木「これは……嬉しくて……舞園さんにまた会えたのが、本当に嬉しくて……!」


本当は、何度も諦めかけた。
本当は、無理なんじゃないかと思っていた。


舞園「もう、大げさなんだから。けど……ありがとうございます」


最期に、君に会えた。
君に、また会えた。


苗木「あのね、舞園さん」


――――ああ、僕は……


苗木「話したいことが、たくさんあるんだ――――」


――――僕は、とても幸せだ。



ジジ…

ガ…ガガ…

ピーーーー

545: 2016/10/10(月) 22:59:03.46 ID:+30NCG05o

「……」

「……」

「あと数秒で消去されるとはいえ、長く生存することのできたボクの勝利だね」

「じゃあ、もしもあの世なんてものがあるとしたら、また向こうでね」

「……」

「……なーんて。らしくないわー、ほんっとアタシらしくないわー」

「ま、こんな最期はアタシにも想定外だったってことで! うぷぷぷぷ!」



ジジ…

ガ…ガガ…

ピーーーー



ジ…ジジジ…

ピコンッ

強制シャットダウンが完了シマシタ

546: 2016/10/10(月) 22:59:42.98 ID:+30NCG05o

そうして、全てが終わった。


――――――――

――――

――

547: 2016/10/10(月) 23:00:25.02 ID:+30NCG05o

-ナナミチアキ-


霧切「彼らの様子はどう?」

七海『脳波は安定してるよ。もう脳氏状態は完全に脱したみたい』


あれから3日が経った。


霧切「そう。じゃあ……行きましょうか」

七海『……うん』


今日は、苗木くんと狛枝くんの葬儀の日だ。


――――

――

548: 2016/10/10(月) 23:01:04.21 ID:+30NCG05o

左右田くんが造った火葬炉から煙が上がる。


終里「あのバカ、1人だけ先に氏にやがって……」

ソニア「寂しくなりますね……」

左右田「ま、あいつは踏み台になれて幸せだーとか思ってそうですけどね」

小泉「ああ、うん。ありえそうだね、はは……」


タブレット端末のカメラを通してみるその光景は、ひどく悲しいものだった。


日向「これで……全部、終わったな……」

七海『うん……』

日向「なあ、七海」

七海『何かな、日向くん』

日向「苗木は……後悔していなかったのかな。こんなことをして。こんなことになってしまって」

七海『どうだろうね。私も聞いたけど、答えてくれなかったから』

日向「俺もさ、あいつの気持ちはわかるんだ。どうしてもまた会いたい奴がいるからさ」

七海『……本物の『七海千秋』のこと、だよね』

日向「ああ。……けどな、七海」

七海『ん?』

日向「本物も偽物もない。お前たちは、どっちも俺達の大切な仲間だよ」

七海『……そっか。ふふ、ありがとう』


――――

――

549: 2016/10/10(月) 23:02:20.78 ID:+30NCG05o

霧切「……」

朝日奈「苗木……」

葉隠「はあ……まさかこんなことになるなんてなあ……」

十神「ふん。いつまで不細工な顔をしているんだ、お前たちは」

朝日奈「ちょっと十神、こんなときくらい――――」

霧切「……そうね。やらなければならないことも山積みだものね」

葉隠「まだ何かあんのか!?」

十神「これだ」

朝日奈「それメール? って、未来機関からの!?」

霧切「77期生を匿ったことについてよ。苗木くんのことはまだ知らないようだけど」

十神「悲しむのは、苗木の尻拭いをして、この世界を元に戻した後だ。まったく、氏んだ後にまで世話の焼ける……」

霧切「いいじゃない。彼は変わってしまっていたけど……それでも、仲間には違いないんだから」


――――

――

550: 2016/10/10(月) 23:03:32.21 ID:+30NCG05o

七海『みんなの状態は……』


与えられた存在意義がなくなり、私は自由になった。
これからは、自分の意志でやりたいことをやる。

眠ったままの9人のクラスメート。
彼らが目を覚ませるよう、サポートすることが私の今の望みだ。


七海『……そういえば』


新世界プログラムで観測された、苗木くんの最後のログ。
彼の、最期の感情は――――



『glad』



七海『幸せ……か……』


もしかしたら彼は、最期に舞園さんに会えたのだろうか。


七海『まさかね』

七海『さてと、今日も頑張ろう!』


ゲームとクラスメートが大好きな人工知能。
それが私だ。
私はこの世界で頑張っていくよ、お父さん。






苗木「違う、消去、再試行。新たな舞園さんを構築せよ」、終了。

551: 2016/10/10(月) 23:13:36.47 ID:+30NCG05o
前スレ含めるととんでもなく長くなったけど、最後までお付き合いありがとうございます。
前スレでは王道のループものを、その続きとして変わってしまった苗木の行きつく先を書きたいというのは最初から思っていたので、ここまで書ききれて嬉しいです。
読んでくださって本当にありがとうございました。

途中からどんどん予定から外れて行って回収できなかった伏線や矛盾もあるのが悔しい…
そのうちタイムマシンから書き直してハーメルンあたりに投下しようと思うので、もし見かけたらまた読んでいただけると幸いです。
そっちでは七海に関しても3とすり合わせる…と、思います。

ラストの舞園さんの解釈についてはご想像にお任せします。
関係ないけど3のタメ口な舞園さん最高でしたね。
ではまたどこかのダンガンロンパSSで!

552: 2016/10/10(月) 23:20:48.68 ID:ilGSa0/V0
乙乙乙乙乙

引用: 苗木「違う、消去、再試行。新たな舞園さんを構築せよ」