465: 2006/07/23(日) 11:53:15.93 ID:KJq/v8KFO
「あ~、もう!ほんっと退屈だわ!!」


ハルヒの不機嫌そうな独り言を聞きながら、俺は古泉とオセロをしていた。
放課後いつも通りに部室に集まり、何事もなく時間だけが過ぎていく。
平和そのものだった。ただ、その平和というものを団長様はいたく嫌っている。


「何かおもしろいことは無いのかしらねー?
最近は本当に退屈すぎて死にそうだわ!」


確かにここ最近は特にイベントごともなく、放課後部室に集まっては
ただぼけーっとした時間を過ごすだけだった。
さすがに退屈だとは感じるが、死にたくなることはないね。


俺が不意にハルヒに目をやると、じー、っと長門の方を見ている。


十数秒は見ていただろうか?ハルヒは突然何かを思いついたかのように
満面の笑みを浮かべ俺の方を見た。今度は何をしようってんだ?


「キョン、あんた有希の笑ってるとこって見たことある?」

KDcolle『涼宮ハルヒ』シリーズ 原作版 長門有希 1/7スケール プラスチック製塗装済み完成品
468: 2006/07/23(日) 11:58:25.79 ID:wvdNVxkx0

「ん?あぁ、…いや、見たこと無いな」


俺は瞬間的に、あの改変世界での長門の優しく微笑む顔を思い浮かべたが
それはこの長門じゃないからな。


「でしょう!実はあたしも有希が笑ってるとこってみたことないのよ!
これって大発見じゃないかしら!?」


そんなもんは大発見でもなんでもない。長門と三日も見ていれば
誰だってそんなことには気づくさ。こいつはそういう奴だってな。


「そうと決まれば話は早いわ!みくるちゃん、古泉君
こっちに来て。作戦会議よ!」


俺達4人は部室の隅に集まって作戦会議とやらを始めた。


「いいみんな?この作戦は有希を笑わせることよ!
半端な笑い方じゃダメ。それこそお腹を抱えて転げまわるくらいの笑いよ!」


長門が腹抱えてもんどりうってる姿なんぞ俺は見たかない。
いや、少しは見てみたいかもしれないが。
俺はこれまた部室の隅で本を読んでる長門を見ながら考えていた。


「あの有希の笑いのツボが分からない以上、とにかく色々試す必要があるわね。
まずはみくるちゃん、なんかしてきなさい!」


「へ?ふぇぇ~!?わ、わたしがですかぁ?む、むむ無理ですぅ~!」


朝比奈さんは今にも泣き出しそうにハルヒにすがっている。


「いいからやるの!団長命令よ!」


俺は今回、ハルヒを止めようとはしなかった。
正直なところ、俺も退屈していたからな。


「うぅ~」


朝比奈さんは困り果てたように長門の目の前まで行った。
長門は依然としてイスに座り本を読んでいる。
朝比奈さんは一体どうやって長門を笑わそうというんだ?


「そ、そのぅ…な、長門さん!き、きき聞いてください!」


なにやらものすごく気合が入っているようだ。
いや、これはもはや開き直ってるのかもしれん。


「ふ、ふとんがふっとびましたぁ~!!」


「………」


瞬間、その場が凍りついた。
朝比奈さん、それギャグになっていませんよ。


「………」


長門は何の反応を示すこともなく読書に勤しんでいる。


「あ、あれぇ??つ、鶴屋さんはこれで笑ってくれたのにぃ。
ど、どうしてぇ~?へ?み、みんなまでどうしちゃったんですかぁ~!?」


すみません朝比奈さん。俺もそれで笑うことは出来ません。
鶴屋さんはきっと違う理由で笑ったんだろう。
もっとも、あの人なら何言っても笑ってくれるかもしれないが。


「仕方ありませんね。僕に考えがあります」


そう自身ありげに長門の方へ向かう古泉。
朝比奈さんはすっかり落ち込んでしまったようだ。
さて、古泉の考えとやらに期待でもするか。


古泉は長門の前まで行くと、いつも以上に眩しい、いや、腹立たしい笑顔になっていた。


「長門さん。今日の朝食はなんでした?」


「……カレー」


「そうだね!プロテインだね!!」


パクリやがった。


「違う。今日の朝食はカレー」


「え、い、いや、ですから、その…」


「プロテインというものを朝食で食べたことはない」


「…あの、長門さん。今のはですね…」


「あなたは間違っている」


古泉は死んでしまうんじゃないかと思うほど落ち込んでしまった。


「あぁ~ん、もう!しょうがないわね、あたしが何とかするわ!」


そう言って団長自ら長門を笑わせに行くようだ。
さて、ハルヒはどんなことをするのやら。
言っておくが、長門が笑うことは絶対に無いと断言しておこう。
俺としては、つまらないギャグを飛ばしてハルヒが落ち込む姿を
見てみたいものだな。


俺がハルヒの落ち込む姿を想像していると
ハルヒは長門の後ろに回りこんでいた。
ん?何をするんだ?そう思った瞬間、ハルヒは
長門の両脇をくすぐり始めた。


「ほらっ!有希~、ここかしら?ほれほれ!
さっさと降参しちゃいなさい!その方があなたの為よ!」


こいつに正攻法を期待した俺がバカだった。


強硬手段に訴えているハルヒは、そりゃもう楽しそうだった。
長門が笑っているかは気にしてないなこいつ。
つーか普段長門とじゃれあうことなんてないからな。
ハルヒは長門の感触だけで十分楽しそうだった。


ハルヒが長門をくすぐり始めて数分が経ったとき
長門はいい加減なんとかしてほしかったのだろう。
俺の方を見ている。どうやら助けを求めてるみたいだな。
ハルヒも楽しんだようだし、もうそろそろ止めるか。


「おいっ。もういいだろ?長門だって、無理やり
そんなことされたら迷惑だろうよ」


そう言って俺は長門からハルヒを引き剥がす。
ハルヒはまだ物足りなかったようだが、まぁそれなりに
退屈をしのげたからだろう、すんなりと俺の言うことを聞いてくれた。


「結構面白かったわ!じゃあ今日は解散!!」


さっさと部室を出て行くハルヒ。それに続けと
古泉も出て行った。今日はメイド服を着ていない
朝比奈さんも、ぺこりとお辞儀をして帰っていった。


ったく、長門を笑わせるのに大げさすぎなんだよ。
気づけば部室には俺と長門の2人だけだった。
長門は読んでいた本を閉じる。今日はもう帰るようだ。
帰る前に俺は長門にお願いしてみる。


「長門、ちょっと笑ってみてくれないか?」


「………」


部室には野球部の金属バットの音が聞こえ、放課後ってのを演出していた。
窓際には夕日が差し込んでいた。


そこには笑顔のよく似合うひとりの美少女が立っていた。

引用: ハルヒ「ちょっと キョン!あたしのプリン食べたでしょ!?」