1: 2025/01/02(木) 18:59:40 ID:???00
すみれ「誰?どこにいるのよ!」キョロキョロ

「お前の後ろだよ」

すみれ「うしろ……」クルッ

すみれ「って……ギャラクシー!?」バッ

すみれ「グソクムシじゃない!!」

グソクムシ「よう、平安名すみれ」バッ

すみれ「なんでグソクムシがここに!?てか喋ってるったら喋ってるじゃない!?」

グソクムシ「つべこべうるせぇな。お前が深海1000mから俺の名を呼ぶから、わざわざシャレオツな原宿まで出張ってきたんだろーが」

グソクムシ「おかげで背中がカサカサ乾燥してんだよ、水くらいかけてくれてもいいんじゃねーか?」

すみれ「わ、わかったわよ……エビアンの水でいいかしら?」スッ

ジャバジャバ

グソクムシ「あ~生き返るわ、アルプス一万尺の天然ミネラルはたまんねぇな」

2: 2025/01/02(木) 19:01:03 ID:???00
すみれ「ところで、その……グソクムシ、さん?」

グソクムシ「なんだ?」

すみれ「私、呼んでないわよ?」

グソクムシ「あ?俺が呼んでいるったら呼んでるんだよ」ギロッ

すみれ「ひっ……!」

グソクムシ「お前さ、すみれさ、俺の着ぐるみ着てクネクネとタコ踊りしてるじゃん?深海界隈でも話題になってんだよ」

グソクムシ「グソクムシなのにタコって……フッ」

すみれ「そこ笑うとこなの?」

グソクムシ「まあいいや。それをメヒカリやアンコウの野郎にからかわれるからよ、どうも虫が好かねえんだわ」

グソクムシ「ムシ、だけにな」

すみれ「あの、これから学校があるのですが……」

グソクムシ「チッ、冗談の通じねぇ金髪娘だな。そこで、人間の分際で俺の真似するヤツがどんなヤツか見てやろうと思ったんだ」

すみれ「はぁ……」

グソクムシ「というわけでお前、俺の東京観光に付き合え。俺の名前を今後自由に使っていい代わりに、俺を楽しませろ」

すみれ「はあ!?」

3: 2025/01/02(木) 19:02:02 ID:???00
グソクムシ「いいだろぉ~?減るもんじゃないし」カサカサ

グソクムシ「じゃねーと、ずっとここにいるぞー?」サスサス

すみれ「あ、足首にまとわりつかないでったらつかないで!!くすぐったいわよ!!」ゲシッ

グソクムシ「いでっ」ゴロン

グソクムシ「シテ……オコシテ……」ワサワサ

すみれ「ご、ごめんなさい!」スッ

グソクムシ「ふぅ……ひっくり返るのは氏活問題なんだよ。以後気をつけるように」

すみれ「はぁ」

すみれ「……とんでもないものに絡まれちゃったわね」

グソクムシ「心の声を口に出してるぞ」

「しゅみれー」タッタッ

すみれ「ギャラッ!?可可!?」

すみれ(しゃべるグソクムシと一緒にいるとこを見られたら、このさき一生イジられ続けるったら、イジられるわ!!)

ヒョイ

グソクムシ「あ、おい!何しやがる!」

すみれ「シッ、黙ってて!ほら、カバンの中に」グググ

5: 2025/01/02(木) 19:03:09 ID:???00
すみれ「ふぅ……やっと入ったわ」

可可「すみれ、なじぇ立ち止まっているデスか?学校に遅刻しマスよ」

すみれ「ごめん、ちょっとボーっとしちゃてた」

可可「まったく……どんくさいグソクムシデスねー」

「あ?ンだと、この上海蟹オンナ!」

すみれ「!!」

可可「エッ!?」キョトン

すみれ「ななな、なんでもないわ!ちょっとグソクムシが騒いでただけよ!」バッ

グググ

すみれ(ちょっと静かにしなさいったら、しなさーい!!)

可可「……グソクムシはすみれデスよ?」

すみれ「あっ、そうだった……そうよね、アハハハ!」

可可「変なグソクムシデスね……」

すみれ「ほら、学校遅れるから、行くわよ!」タッタッ

すみれ(朝の通学路で出会ったのは、スカウトじゃなくてしゃべるグソクムシ……海に帰ってもらうために私が面倒見なきゃいけないなんて──)

すみれ「私どうなっちゃうったら、どうなっちゃうのー!?」

13: 2025/01/03(金) 10:25:26 ID:???00
ガラッ

かのん「おはよう、すみれちゃんに可可ちゃん」

千砂都「ふたりともうぃっすー!」

可可「おはようデスー!」

すみれ「お、おはよう……」

すみれ(結局、学校まで連れてきちゃったじゃない……)

モゾモゾ

すみれ(このグソクムシ!!)

すみれ(あとで代々木公園の大池にでも──)

すみれ(ダメダメ!しゃべるグソクムシを池に捨ててきたら大騒ぎになるったらなるわ。Liella!に迷惑がかかっちゃう)

かのん「──ちゃん」

かのん「すみれちゃん!!」

すみれ「わっ、なに!?」ギャラッ

かのん「ちゃんと聞いてた?イベントでライブするって話」

すみれ「え?よく聞いてなかったわ」

千砂都「大事な話はちゃんと聞かないとメッ、だよー」

可可「すみれはさっきからボーっとしすぎデス」

14: 2025/01/03(金) 10:27:22 ID:???00
すみれ「ごめん、悪かったわ。かのん、もう一度確認させて」

かのん「うん。前にみんなに話した代々木公園の週末チャリティーイベントのことだよ」

すみれ「あ、来週の末にステージでライブするって話ね。受けたんでしょ?」

かのん「そうそう。で、このイベントは子供たちもたくさん来るから、いつものパフォーマンス以外に……」チラッ

千砂都「すみれちゃんに前座をやって欲しいの」

すみれ「……前座?」

可可「そうデス。Liella!のために場を盛り上げる踏み台デス」

かのん「踏み台って……」アハハ

すみれ「何で私なの?千砂都のブレイキンの方がいいじゃない、実際抜群のパフォーマンスでしょ?」

千砂都「そうだけど……親子連れにウケるかといわれるとちょっと微妙なんだよね」

すみれ「じゃあ、かのんの童謡ショーにすれば?」

かのん「これからみんなで歌うのに、歌と歌が被っちゃうよ……ねえ、ちぃちゃん?」

千砂都「そ、そうだね……だからすみれちゃんが適任者なんだ」

すみれ「そうはいっても……私にできることなんてないわよ?」

可可「あるデスよ!すみれのとっておきのネタ!」

すみれ「えっ?なによったらなによ?」

予鈴

かのん「……あっ、もうすぐ授業始まる!前座のこと、放課後に恋ちゃんと部室で話そう!」

すみれ「わ、わかったわ」スタスタ

すみれ(かのんと千砂都、なんか含みがあるような言い方じゃない……)

15: 2025/01/03(金) 10:29:23 ID:???00
時は過ぎて──昼休み

すみれ(そういえば……グソクムシ!)

すみれ(忘れてた!ずっとほったらかしにしてたけど……酸欠なったりしてないわよね?)

すみれ(すぐにファスナーを開けて──)

ジーッ

バッ

グソクムシ「よう、すみれ。女子高生のリュックサックの中ってのは、意外と快適なんだな」

グソクムシ「水も食い物もあるし、着替えのシャツに下着にソックス……洗い立てでフカフカだし、柔軟剤の香りもそれほどキツくねぇのが気に入ったぜ」

グソクムシ「とくにこの黒いパンツ、ってやつが上質な触り心地で──」

すみれ「……」ヒョイ

グソクムシ「おい、俺の触角をつまんでどうす……」

ジーッ

グソクムシ「いだだだだ!!ジッパーに触角を挟むんじゃねえよ!!」

グソクムシ「触角ってのは感度3000倍の大事な部分なんだぞ!!」

すみれ「じゃあカバンの中で変な事しないでったらしないで!!」

17: 2025/01/03(金) 16:09:58 ID:???Sa
グソクムシ「わーったよ、大人しくしてやるよ」

すみれ「それでいいわ……」ハァ

グソクムシ「で、俺を観光にいつ連れていくんだ?」

すみれ「練習が終わったら竹下通りに連れてってやるったらやるわよ!」

グソクムシ「そっか、それでよ」

すみれ「なに?」

グソクムシ「リュックに着替え詰め込んでるから何となく察してたけどよ、お前、部活やってんのか?」

すみれ「そうよ」

グソクムシ「何部だ?」

すみれ「……スクールアイドル部よ」

グソクムシ「アイドルだぁ?」

グソクムシ「あの口パクして踊ってケツ振ってるアレか?」

すみれ「……すごい偏見ね。あとケツは振らないったら振らないわよ!」

グソクムシ「ふーん」

すみれ「あと、それ聞いたらすごい怒る子がいて──」

ガラッ

18: 2025/01/03(金) 16:11:19 ID:???Sa
バッ

可可「誰デス!!スクールアイドルを侮辱するクセモノは!?」

すみれ「ほらね」

可可「アナタデスか!?」クワッ

ナナミ「ち、違うよ!」

可可「お前デスか!?」クワッ

ヤエ「私じゃないよぉ……」

ココノ「同じく!」

可可「じゃあ誰デスかぁー!!」

可可「フーッフーッ……!」

グソクムシ「おー怖い怖い、上海蟹が茹で蟹みてぇに赤くなってら」

すみれ「アンタ、煽り上手とか深海で評判じゃない?」

グソクムシ「さあな?」

すみれ「あ、来た!隠れてなさい!」

グッグッ

可可「すみれ、ここにスクールアイドルを侮辱した者はいねーが、デス!」

すみれ「知らないわ。それより可可、お昼ご飯いっしょに食べない?」

可可「食べるデス……!」パアッ

グソクムシ(変わり身の早いヤツだな)



すみれ(こうして、放課後になった)

25: 2025/01/09(木) 20:05:30 ID:???00
グソクムシ「学校アイドル部……?」カサカサ

グソクムシ「お前、本当にアイドルなんだな」ノシッ

すみれ「ちょっと!肩にのらないでったらのらないでよ」

グソクムシ「気にするなって。減るもんじゃないし」

すみれ「減るどころかアンタ意外と重いのよ」

すみれ「それに……」

グイッ

すみれ「誰かに見られたらどうするの!?」

グソクムシ「俺は見られても気にしないさ」

すみれ「私が気にするったらするの!!」

グソクムシ「……よし決めた。お前がやってるスクールアイドルとやらを見てみよう」

すみれ「えっ!?」

グソクムシ「上海蟹と同じ部活なんだろ?興味がわいてきたんだよ」

グソクムシ「な、いいだろ?黙って動かないようにしときゃ、ただの置物だと思われるって」カサカサ

すみれ「触角で耳をくすぐらないで!!」

「どうしたのですか?」

26: 2025/01/09(木) 20:06:26 ID:???00
すみれ「ヒィッ!!」ビクン

グソクムシ「!」スッ

恋「あ、あの……そんなに驚かなくても……」オロオロ

すみれ「なっ、何でもないわよ!ちょっと立ち止まっていただけだから」

すみれ(部室のドアを半開きにして、中から恋が不安そうにのぞいていた)

恋「そうですか。もう皆さん、屋上に集まってますよ」

すみれ「そう。じゃあ早く着替えないとね」スタスタ

すみれ(とりあえず部室入って、恋と着替えましょ)

ガチャ

すみれ「……」ゴソゴソ

グソクムシ「ょぅ」ヒョイ

すみれ(グソクムシのヤツ、リュックに隠れるのだけは素早いんだから)

恋「……ところで、誰とお話されてたのですか?」ヌギヌギ

すみれ「え?」ヌギヌギ

恋「外からすみれさんと誰かの声が聞こえまして……悪いと思ったのですが、つい……」

すみれ「……気のせいじゃない?恋も生徒会が忙しいから、疲れてるんでしょ?」

恋「そうかもしれませんね……上海蟹とか妙な単語も聞こえてきましたし……」

すみれ「さ、練習いくわよ!ライブ近いし、気合い入れるったら入れる!」

恋「は、はい!」タッタッ

すみれ(あ、グソクムシ入りのリュックを持っていかないと……見学させなかったら屋上に乱入してくるだろうし、たまったもんじゃないわ)

27: 2025/01/09(木) 20:07:20 ID:???00
ガチャ

すみれ「ギャラクシー!平安名すみれの登場ったら登場よ!」ギャラッ

恋「みなさん、遅くなりました……!」ペコッ

かのん「あ!すみれちゃんと恋ちゃん来た!」

千砂都「これでそろったね。よし!今日は柔軟して、ライブで披露する曲を軽く全部通しでやってみよう」

みんな「おー!」

可可「……って、すみれ?なんでリュック持ってきたデスか」

すみれ「あー、飲み物よ、ドリンク。冷たいものが入ってるからよ」ストン

可可「そうデスカ、水分補給は大事デスからね」

すみれ「そういうこと」

すみれ「……カバンの中から絶対出てこないでよ?」コゴエ

グソクムシ「わかってるって」

パン

千砂都「はい、それじゃ始めるよー」

すみれ(こうして、私たちLiella!はたったひとり……一匹のオーディエンスの前で練習とはいえ、本番さながらの雰囲気で曲を披露した)

グソクムシ「……ちゃんと歌いながら踊ってるじゃねーか、ちょっとは見直してやるか」ムムム

28: 2025/01/09(木) 20:08:39 ID:???00
千砂都「はい、今日はここまで!」

千砂都「今回の通しで浮かび上がった各パートの課題は、これから調整していくからそのつもりでね!」

可可「……パタリ」

恋「軽くとおっしゃってましたのに、今日もハードでしたね……」

かのん「そうだ、すみれちゃん!」

すみれ「なに?」

かのん「ライブでの前座のことだけど──」

かのん「──あのグソクムシの曲をやってもらえないかな?」

すみれ「えっ……?」

千砂都「すみれちゃんが昔やってたそれなら、今回のお客さんの客層にウケると思うんだ」

すみれ「でも私にとってあまり……」

可可「グソクムシがソロでグソクムシの歌と踊りをしてステージを盛り上げる……ありがたい機会だと思うデス」

すみれ「……」

恋「いいと思います!すみれさんのショウビジネスで魅せたパフォーマンスならきっと──」

すみれ「あのさッ!!」

4人「!?」ビクッ

すみれ「……ちょっと、考えさせてもらえないかしら?」

29: 2025/01/09(木) 20:09:26 ID:???00
かのん「すみれ、ちゃん……?」


すみれ「それ、私にとって、ちょっと思うところがあるものなの」


すみれ「だから……」スタスタ

ヒョイ

すみれ「……少し、ひとりで考えさせてくれない?」

ガチャ

すみれ「じゃあ、お疲れ。先に帰るわね」

可可「あぇ……」


バタン


4人「……」

30: 2025/01/09(木) 20:10:10 ID:???00
竹下通り

グソクムシ「……派手な街だなぁ」

すみれ「そうね……」

すみれ「あ、マリオンクレープ。そこのクレープ美味しいわよ」

グソクムシ「ショーケースにあるだけでも、すごい数だな。人間の可能性は無限大ってヤツか?」

すみれ「原宿といえばクレープで……私もよく食べてたのよ」

すみれ(ほとんどスカウトに声を掛けてもらえるように利用してたんだけどね)

すみれ「グソクムシも食べましょ、なにがいい?」

グソクムシ「カスタードホイップにしてくれ」

すみれ「……意外と控えめなのね。遠慮するタチだとは思わなかった」

グソクムシ「こういうベーシックなものはシンプルイズベストが一番なんだよ」

すみれ「ふーん、じゃあ私は抹茶黒みつにするわ」スタスタ

すみれ「すみませーん」

すみれ(気分転換の原宿散策を楽しんだあと、クレープを買って、人気のない近くの公園でグソクムシと食べることにした)

31: 2025/01/09(木) 20:11:35 ID:???00
すみれ「ここで食べましょ」ストン

すみれ(グソクムシと一緒にベンチに座っても、誰からも目につかない静かな場所だし)

すみれ「……出てきていいったらいいわよ」

カサカサ

グソクムシ「よっしゃ、半年ぶりの飯だ」

すみれ「はいカスタードホイップ……って、アンタ半年も食べてないの!?」ギャラッ

グソクムシ「ああ。そうだ」カサカサ

すみれ(私からクレープをもらったグソクムシ。まず触角と目で確認したあと、尖った前足を器用に使ってクレープをちぎり、その足でいかにも昆虫らしい縦に割れた口へ運んでいった)

グソクムシ「おっ、予想通りクリームたっぷりで美味いじゃないか」モゴモゴ

すみれ(ていうか食べられるんだ、人間の食べ物……)

グソクムシ「……すみれ。深海ってのはよ、いつ飯が食えるかわからない環境なんだ」

グソクムシ「良くて数か月、まあまあ良くて半年。最悪はそのまま餓氏……」

グソクムシ「……食べれるときに食べるのは生き残るための鉄則、というわけさ」

すみれ「過酷なとこで生きてるのね……」

グソクムシ「まあな。それが深海に棲む俺たちの運命なんだよ、その定めを呪ったってどうにもならないしな。受け入れているよ」

すみれ「……強いのね、アンタ……」

33: 2025/01/13(月) 14:23:31 ID:???00
すみれ「私は……弱いわね……アンタと違って」

グソクムシ「ん?」モグモグ

すみれ「聞いてたでしょ、さっきのこと」

グソクムシ「あー」モグモグ

すみれ「食べてるついでに、話を……聞いてくれる?」

グソクムシ「……」ピタッ

すみれ「──あれね、私がショウビジネスで子役を廃業したきっかけなの」

すみれ「いままで一生懸命、スポットライトが照らす主役になりたくてオーディションを何度も受けては、いつもチョイ役ばかりだった……」

すみれ「……それでも、私は夢を諦めなかった」

すみれ「こういう小さな役ばかりでも、いつか必ず認めてもらえるって、主役を手に入れられるって、そう自分に言い聞かせて」

すみれ「立ち方から、ちょっとした仕草に表情まで……鏡の前で何度も何度も練習して、オーディションを受け続けた」

すみれ「きっと、神様は見てくれるってね」

グソクムシ「……」

すみれ「そしてようやく、ひとりでスポットライトが当たる役を掴んだの。しかもテレビの子供向け番組の主役ったら主役よ」

34: 2025/01/13(月) 14:24:36 ID:???00
すみれ「ついにみんなが私を認めてくれた、って舞い上がったわ。努力の積み重ねが必ず実を結ぶ……神様が願いを届けてくれたって、ね?」

グソクムシ「……」

すみれ「でも、あとで詳細を聞いて頭が真っ白になったわ。てっきりドレスを着たお姫様になって歌って踊れると思ってたのに」

すみれ「そのメインは別の子役が取ってて、私が出るのはその幕間……サイドショーの主役」

すみれ「それが──グソクムシの役だったの。夢を叶えたくて積み重ねた努力の集大成が、サイドショウで着ぐるみ着てピ工口のように踊る役ったら役よ?」フフッ

すみれ「……やりきったわ。一生懸命、笑顔つくって声張って……気付いたら収録が終わってた」

すみれ「よかった、可愛かった、なんて声なんかまったく頭に入らないで……家に帰って部屋に戻ったら気持ちがもう抑えきれなかった……」

すみれ「泣きはらした私は一等星になれない六等星の星の元に生まれたんだって、ようやく悟ったの」

36: 2025/01/13(月) 14:25:33 ID:???00
すみれ「それから子役は廃業したわ。もう自分から売り込むオーディションはやめて、磨きに磨いた私をスカウトしてくれるのを待つことにした」

すみれ「……未練がましいよね、ホント。ショウビジネスの輝きを諦めきれなかったの」

すみれ「でも結局、うまくいかないまま高校生になって、そのまま大人になって終わりかなって諦めかけていたら……かのんが私を拾ってくれてLiella!の一員になれた」

すみれ「こうして今の私は過去を忘れてスクールアイドルとして心機一転、ステージで一等星になりたいとまた夢を見れるようになれたの」

すみれ「だから……」

すみれ「……またグソクムシの件を思い出すと、六等星だったあの頃の自分の惨めな姿をまざまざと見せつけられてるようで、自分が嫌になっちゃうのよ」

グソクムシ「……」ジッ

すみれ「……ごめんなさい、グソクムシのことが嫌なわけじゃないの」

グソクムシ「わかっているさ」モグモグ

すみれ「はぁ、なんかスッキリした……ずっと抑え込んでいたこの気持ち……」

すみれ「何で話しちゃったんだろ?アンタが人間じゃなくてグソクムシだから、かな?」

グソクムシ「そうかもな……ところでさ、クレープの抹茶アイスが溶けちまってるぞ」

すみれ「あ!やばいったらやばい!」パクッ

37: 2025/01/13(月) 14:27:31 ID:???00
グソクムシ「……」モグモグ

すみれ「……」モグモグ

すみれ「難しいったら難しいわね……」ポツリ

グソクムシ「……なにが?」

すみれ「忘れたい過去と、認めたくない自分と向き合うってこと」

グソクムシ「過去がすみれの全てじゃないさ。輝こうと頑張っていた小さい頃のお前も、切り替えてスクールアイドルとして輝こうと頑張っている今のお前も──」

グソクムシ「──みんな平安名すみれの大事な部分だ。認めてあげてもいいと思うぞ」

グソクムシ「って、俺はさっき一生懸命、練習しているお前の姿を見て思った」モグモグ

すみれ「そう……」

すみれ「ふふっ、ありがと……少しはスクールアイドルへの見方、変わった?」

グソクムシ「まあな」

すみれ「そっか……」ゴクン

すみれ「じゃあ、アンタとLiella!の仲間のために……また頑張るったら頑張るわ!」スクッ

すみれ「あ、もうこんな時間。うちに帰るわよ」ヒョイ

グソクムシ「いいのか?うら若き女子高生の家にあげるんだぞ」

すみれ「アンタ深海生物だからいいわ。ただし……妹の前で絶対に動かない、しゃべらないって約束するならね」

すみれ(こうしてグソクムシを家に連れ帰った私。妹はとても驚いていたけど、ゲームの景品だと言い聞かせてなんとか部屋に置くことができた)

38: 2025/01/13(月) 14:28:51 ID:???00
翌朝 結ヶ丘

かのん「……」コツコツ

かのん(早く学校きちゃった。とりあえず部室いこ)

かのん(すみれちゃん、前座を引き受けてくれるかな?一日考えさせてほしいっていってたけど……)

かのん(やっぱり、グソクムシのダンス嫌なのかな……)

かのん(だって見ちゃった私を気絶させて縛り上げるくらいだし、いい思い出がないものを無理強いさせるのはリーダーとして良くな──)


「グソクムシ~♪グソクムシ~♪」

「笑顔が硬いぞ、あと動きのキレが悪くてタコみてぇにフニャフニャだ」

「やり直しだ、やり直し」

「はあ!?」


かのん「えっ……屋上に誰かいる?」

かのん「誰だろ……」ササッ

かのん(ドアのガラスに屋上をのぞいてみると──)

かのん(すみれちゃん!?)

39: 2025/01/13(月) 14:30:20 ID:???00
すみれ「グソクムシ~♪グソクムシ~♪」ピョコ

すみれ「グッソクソクソク、グソクムシ~♪」ピョコピョコ

グソクムシ「だからキレが悪いっていってるだろ、あと声も!」

すみれ「……どこがったらどこよ!もともと子供番組のキャラだからこれぐらいでいいの!」

グソクムシ「何言ってんだ、ガキってのは純粋だから単調な歌と動きほどしっかり見て聞いて、オツムに記憶してるもんだぞ。串団子の歌みてぇに、子供から大人へ浸透してダブルミリオンヒットした曲もあるんだ」

グソクムシ「知らねぇか、団子の兄弟って曲?」

すみれ「知らないったら知らないわよ……私、産まれてないし」

グソクムシ「カーッ、これだからZ世代は!」

すみれ「ってか、アンタいったい何年生きてるのよ!?」

40: 2025/01/13(月) 14:31:58 ID:???00
ギャイギャイ

かのん(見ちゃった!すみれちゃんがグソクムシ踊ってるの!)

かのん(やっぱりすみれちゃんはやってくれると思ってた!真のエンターテイナーだね)

かのん「ふふっ……」スタスタ

かのん(あとでみんなにバラしちゃおーっと!)

かのん「でも……誰と話していたのかな……?」ボソッ

ポンッ

かのん「えっ……」クルッ

すみれ「また見たわね?」ギロッ

かのん「き゛ゃ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!ごめんなさーい!」

ダッ

すみれ「あっ!待ちなさいったら、待ちなさーい!!」ダッ



すみれ(こうして、あっという間に平安名すみれがグソクムシダンスを再び始めたことがメンバーに広まった)

44: 2025/01/15(水) 19:39:20 ID:???00
放課後 部室

ガチャ

すみれ「はぁ……」

すみれ「またかのんがペラペラしゃべっちゃったじゃない!」

すみれ「可可がニヤニヤしてからかうし、恋と千砂都は興味津々で動画見たがるし……散々ったら散々よ」ハァ

すみれ「……」キョロキョロ

すみれ「……誰もいないから出ていいわよ。恋は理事長に呼ばれてるし、かのん達は衣装の最終確認で遅れるらしいから」

カサカサ

グソクムシ「困ったリーダーだな、お前の恩人は……」

すみれ「まったくよ。そこと胸がペタンコ以外、欠点がない良い子なんだけどね」

グソクムシ「ありゃ板だな、ベニヤ胸板だ」

すみれ「ふふっ、そうね」

すみれ「あっ……ねえ、ちょっと留守番してて、いい……?」ガタッ

グソクムシ「ん?なんで恥ずかしそうに言うんだ」

すみれ「お花摘みったらお花摘みよ!!」

グソクムシ「あー、いってこい」

すみれ「そこで大人しくしてなさいよ」スタスタ

バタン

グソクムシ「……」

46: 2025/01/15(水) 19:40:52 ID:???00
カサカサ

グソクムシ「……」キョロキョロ

グソクムシ「ふーん、色んなスクールアイドルグループのポスターが壁にかかってるな」

グソクムシ「これは……」

グソクムシ「……サニーパッション?神津島のスクールアイドル、か」ジロジロ

グソクムシ「この派手な衣装……リオデジャネイロの水族館に放り込まれたときを思い出すぜ」シミジミ

グソクムシ「あんときは逃げ出すの大変だったな。カーニバルで人間どもが浮かれてたとはいえ、なにせ水槽が──」

ガチャ

グソクムシ「ん?戻ってきたのか、早いな」クルッ

恋「えっ……!」

グソクムシ「あ……」

47: 2025/01/15(水) 19:43:12 ID:???00
恋「わぁ……ぁ……!」ガタガタ

恋「きょ、巨大なダンゴムシが、机に……!」

グソクムシ「お、落ち着けったら落ち着けって、な?」

恋「そ、その口癖は……!そしてそのリュックサック……!」

グソクムシ「?」

恋「もしかしてすみれさん!?すみれさんですか!」タッタッ

グソクムシ「お?」

恋「聞こえていますか!恋です、わかりますか!」

恋「おいたわしや、すみれさん……こんな虫の姿になって……」ポロポロ

恋「ライブが近いのに、どうしてしまったのですか……!」ポロポロ

グソクムシ「なに泣いてるんだよ」

グソクムシ「なあ、そこのポニーテール。勘違いしてるようだが──」

ガチャ

千砂都「うぃっすー!」

可可「遅れてスミマセンデス」

かのん「あ、恋ちゃん」

恋「み、みなさん大変です!!すみれさんが……」ヒョイ

グソクムシ「!」

3人「えっ!?」


「ええええええ!?」

52: 2025/01/18(土) 20:21:08 ID:???00
すみれ「スッキリした」スタスタ

すみれ(グソクムシ、大人しくしてるでしょうね……?)

ガヤガヤ

すみれ「ん?部室が騒がしいわね」

すみれ「まさか……!」ダッ

すみれ(部室入る前にちょっと様子を見て……)

すみれ「……」ジッ

53: 2025/01/18(土) 20:22:06 ID:???00
かのん「すみれちゃん!本当にすみれちゃんなの!?」

千砂都「……ダイオウグソクムシってマルくならないんだ。ふーん、じゃあバツだね」

恋「どうしてこんなことに……結ヶ丘始まっての危機です!」オロオロ

可可「すみれ……なじぇグソクムシになったのデスか……」

可可「まさか、可可がすみれをグソクムシって呼んだせいで神様がすみれをグソクムシにしたのデスか?」ジワッ

可可「対不起、這是我的錯……!」ポロポロ

グソクムシ「……」

すみれ(やっぱりったらやっぱり!)

すみれ(恋はこういうときポンコツになるし、かのんは変に純粋なとこあるから恋の主張を素直に信じてるし、千砂都はマルくならないから塩対応だし、可可は勝手に責任感じて泣き出すし……)

すみれ(……あとグソクムシ!説明責任を放棄してずっとダンマリしてるじゃない!)

すみれ(とにかく、みんなが落ち着いてきたらさりげなく部室入って……ギャラクシー、って明るく挨拶しましょう)

すみれ「……よし」スッ

54: 2025/01/18(土) 20:23:53 ID:???00
ガチャ

すみれ「ギャラクシー!平安名すみれ、今日も元気ったら元気よ!」ギャラッ

シーン

4人「……」キョトン

すみれ「……はい」

かのん「すみれちゃんい゛た゛あ゛……!」

千砂都「はいじゃないよ」ジッ

恋「えっ、すみれさんがふたり……?」チラチラ

可可「あぇ……しゅみれ?」

すみれ「私はここよ。あそこにいるのは、ただのグソクムシ」

すみれ「話せば長くなるけど……これには訳があって」

可可「……」

すみれ「だから可可、泣かないでったら泣かない──」

可可「なっ、泣いてなんかいまセン!!このスットコドッコイ、オタンチン、ドテカボチャ!!」ダッ

すみれ「あっ……」

バタン

かのん「とにかく可可ちゃんを追いかけて!訳はあとで聞くから!」

すみれ「わかったわ!」ダッ

すみれ(このあと顔を真っ赤にして飛び出した可可をなんとか連れ戻し、事情を全て話した)

65: 2025/01/19(日) 22:39:27 ID:???00
すみれ「……と、いうわけなの」

グソクムシ「まあ、なんだ、ちょっと気になってすみれの様子を見にきただけだ」

かのん「なーんだ、すみれちゃんのお友達かー」

すみれ「友達じゃないったらじゃない!腐れ縁みたいなものよ!」

かのん「……ってか、しゃべってない?虫がしゃべってるよね、ちぃちゃん!?」

千砂都「かのんちゃん。地球は丸くて壮大なの、小さなことを気にしていたら生きていけないよ?」

かのん「そ、そうなんだ。そうなのかな……?」

恋「良かったです……てっきり私は……」ホッ

可可「驚きまシタよ、レンレン!」プクッ

恋「すみません!早とちりをしてしまって……」ペコッ

すみれ「みんなごめんね。騒がせたわ」

すみれ「でも、おかげで決心できたの。もう一度、グソクムシダンスをしようって」

千砂都「そうだったんだ」

すみれ「というわけで、一生懸命やるからよろしくね」ギャラッ

すみれ(こうして私たちLiella!とグソクムシ1匹はライブに向けて頑張ることになった)

66: 2025/01/19(日) 22:40:26 ID:???00
可可「なんデスカすみれ?あらたまって……」

すみれ「可可にお願いがあるの」

可可「?」

すみれ「私が着るグソクムシの着ぐるみを作って欲しいの。あの時と比べてサイズが違いすぎるからね」

可可「確かにそうデスね……」チラチラ

すみれ「何見てるったら見てるのよ!」バッ

可可「でもライブまであと数日しかありまセンよ?」

すみれ「……」

可可「……まあLiella!のためデスから、すみれのために作ってやるデス」

すみれ「ありがとう。恩に着るわ」

可可「ホントに着るデスよ」

すみれ「わかってるって」

67: 2025/01/19(日) 22:42:20 ID:???00
すみれ「それで……このモデルをベースに作って欲しいんだけど……」スッ

グソクムシ「よう、上海蟹」

可可「アイエッ!?しゃべるグソクムシ!!」

可可「あと上海蟹って呼ぶなデス!」ムキー

すみれ「まあまあ、グソクムシがどうしてもというのよ……」

可可「ハァ……わかりマシタ」

グソクムシ「よし、じゃあ俺みたいにかっこよく作るんだぞ」

可可「グソクムシにカッコイイもブサイクもあるんデスか?」

グソクムシ「もちろんさ。俺みたいに何年も深海に生き残ってるのはカッコイイのさ」

可可「よくわかりまセンが……すみれと同じメンタリティなのはわかりまシタ」

すみれ「ちょっと、どういう意味?」ジッ

可可「とにかく、今のすみれらしいものを作ってやるデス」

すみれ「頼んだわよ」

68: 2025/01/19(日) 22:43:30 ID:???00
すみれ「グソクムシ~♪グソクムシ~♪」ピョコ

すみれ「グッソクソクソク、グソクムシ~♪」ピョコピョコ

すみれ「……どうよったらどうよ?」

千砂都「うーん、なんかイマイチ」

すみれ「はぁ!?」

千砂都「すみれちゃん恥ずかしがってるでしょ?」

千砂都「ダンサーは自分の気持ちと身体を思う存分つかってお客さんの前で表現するの。そこで恥ずかしがったら、それはダンサーじゃないよ?」

千砂都「──ただの恥さらしになる」

すみれ「……」

千砂都「まずは角のついた心を川の石のようにマルくして、身体をめいっぱい使ってグソクムシを表現しなきゃ!」

すみれ「わ、わかったわ!」

すみれ(川の石のようにマルく……?)

パンッ

千砂都「はい、じゃあもう一回!」

かのん「相変わらずちぃちゃんスパルタだなぁ……」アハハ

恋「すみれさん、最初私たちに見せたときより動きが良くなってる気がします!」

すみれ(そしてついにライブの日を迎えたわ!)

100: 2025/01/24(金) 23:19:42 ID:???00
代々木公園 野外ステージ

かのん「今日のイベント、お客さんいっぱいいる……!」ガタガタ

可可「かのん?震えてマスよ?」

かのん「む、武者震いだよ、武者震い……!」

かのん「歌えるようになったけど、やっぱり多いと緊張するよー」

千砂都「はい、深呼吸」

かのん「スゥー、ハァ……!」

恋「かのんさんが震えていると、わたくしまで緊張してしまいそうです……!」ガタガタ

グソクムシ「おいおい、ポニーテールまで震え始めたぞ」

可可「……グソクムシはイイデスね。緊張しまセンから」

グソクムシ「まあな。それより上海蟹、エビアンの水かけてくれよ。背中がカラカラなんだ」

可可「だから上海蟹呼ぶなデス!モウッ……」スッ

ジャバジャバ

グソクムシ「あー生き返る」

可可「まったく、すみれはまだ来ないデスか?もうすぐ時間なのにペットをほったらかしにして……」

ピョコピョコ

かのん「あ、すみれちゃんだ!」

101: 2025/01/24(金) 23:20:35 ID:???00
ピョコピョコ

すみれ「主役は遅れてくる……ギャラクシー!平安名すみれよ!」ギャラッ

すみれ「待たせたったら待たせたわね……!」ピョコ

かのん「ぷっ……アハハハ!」

すみれ「んなっ!?なに笑ってるのよ!!」

かのん「いやなんか笑えちゃって……グソクムシのすみれちゃんだ!」ププッ

可可「着ぐるみが似合っていマスよ、すみれ」

千砂都「ぴったりだねー」

恋「すみれさんらしいです」

すみれ「らしいってなによ!?」

すみれ「……まあ、昔の着ぐるみより軽いし動きやすいわね。それは認めるわ」

可可「サスガ可可の自信作デス!」ドヤァ

グソクムシ「俺がモデルだからな」ドヤァ

可可「グソクムシは何もしてないデス!なに虫のいいこと言ってるデスか!」

グソクムシ「ムシだけにな、って……モデルは立派な役目だろ!」

ギャイギャイ

すみれ「ちょっと、私のために争わないで!」

102: 2025/01/24(金) 23:21:31 ID:???00
千砂都「あっ……はい!わかりました!」コクリ

バッ

千砂都「はいはい、そこで終了。すみれちゃんもう時間だって」

すみれ「わかったわ」

千砂都「もう一度いうよ、音楽がかかったら──」

すみれ「──リズムに合わせて中央へ、でしょ?」

千砂都「そう!そこですみれちゃんは思いっきり歌って踊ってね」

すみれ「ええ」

かのん「すみれちゃん頑張ってね!」

可可「すみれ、可可のためにしっかりやるデスよ」

恋「舞台袖からしっかり見守っています……!」

グソクムシ「すみれ」

すみれ「なに?」

グソクムシ「……いい表情、してるぞ」

すみれ「わかってるじゃない。ショウビジネスで鍛えた実力で、盛り上げてみせるわ」ピョコ

すみれ(あの頃の私、ちゃんと見てなさいったら見てなさい!)

103: 2025/01/24(金) 23:22:29 ID:???00
すみれ(司会の紹介のあと前奏が鳴り、私はステージに現れる)

すみれ(拍手と歓声、そして私の姿への反応が耳と目に入ってきた)

すみれ(ここに立つ私はみんなを盛り上げるピ工口。あの頃はそれが嫌だった)

すみれ(でも今の私は違う。だって信じてるから──)

すみれ「グソクムシ~♪グソクムシ~♪」ピョコピョコ

すみれ(──六等星にも、一等星のような輝きを放つことができるってことを)

すみれ「グッソクソクソク、グソクムシ~♪」ピョコピョコ

すみれ「深海の底に住む~とっても大きなグソクムシ♪」

すみれ「見た目はね~怖いけど~とっても優しい、グソクムシ♪」

すみれ「グソクムシ~♪グソクムシ~♪」ピョコピョコ

すみれ「グッソクソクソク、グソクムシ~♪」ピョコピョコ

すみれ(気が付いたころには、曲が終わっていて。思ってたより拍手と歓声をもらって、私は舞台袖に戻った)

すみれ「盛り上げたったら盛り上げたわ!」

すみれ「さあ、次は私たちLiella!で歌って踊るわよ!」ギャラッ

すみれ(そのときの私の表情は……きっと晴れやかだったと思う)

104: 2025/01/24(金) 23:24:37 ID:???00
かのんの店

かのん「そ、それじゃ……ライブ成功を祝して……」

みんな「かんぱーい!」

すみれ(いま、みんなでライブの打ち上げをかのんの店でやっている)

すみれ(私の前座で場をあっためたあと、すかさずみんなでライブ。会場は盛り上がり、結果は大成功に終わった)

可可「すみれ!今日のライブと一緒に、グソクムシの動画もエルチューブにあげるデス!」ポチッ

すみれ「ちょっと!何やってるのよ!」

かのん「まあまあ……すみれちゃんのダンスも好評だったし、いいじゃない」

すみれ「よくないったらよくない!!」

千砂都「前に見せてもらった動画よりコミカルで全体的に良かったよ?マルだよ、マル!」

恋「お子さんたちにウケてましたね」

グソクムシ「ライブのあと風船配りまで手伝って、子供にたかられてたし……お前、チンドン屋に向いてるかもな」モグモグ

グソクムシ「……新装開店ギャラしくお願いしまーすってな、フッ」

可可「チンドンヤ?」ポカン

すみれ「チ、チンドン屋ってアンタ……!」グググ

グソクムシ「いだだだだ、触角をつまむなって!」

可可「チンドンヤってなに屋デス?」

かのん「……はいはい!うちは喫茶店で居酒屋じゃないんだから、じゃれるのはそれくらいにしてね!」

ワイワイ

ありあ(ダイオウグソクムシが普通に言葉をしゃべって、普通にご飯食べてる……お姉ちゃんの学校ってすごいペット飼ってるなぁ……)

105: 2025/01/24(金) 23:27:36 ID:???00
すみれ「……今日は楽しかったわね」スタスタ

グソクムシ「ああ、そうだな」

グソクムシ「……頑張ったな、すみれ」

すみれ「ふふっ、ありがと」

グソクムシ「輝いていたぞ」

すみれ「わかってるじゃない、このショウビジネスで名をはせた私だから当然のことよ!」

グソクムシ「へいへい……」

すみれ(打ち上げを終え、みんなと別れて独りで原宿を歩く帰り道)

すみれ(グソクムシをリュックに背負い、家路につく)

すみれ「すっかり遅くなっちゃったわ……」スタスタ

すみれ(ちょっと近道しよっと!)

すみれ(天の川のように煌めく表通りから外れた、ちょっと薄暗い裏路地に入る)

すみれ「……」スタスタ

すみれ(地元とはいえ、新月の夜はまったく違う雰囲気──少し足早に歩いていると)

「キミ、髪きれいだねー」

すみれ「!」

すみれ(急に茶髪の若い男から声をかけられ、直感した)

すみれ(……こいつはスカウトじゃない、ナンパだ)

106: 2025/01/24(金) 23:28:48 ID:???00
「大学生?あ、もしかして……JK、高校生でしょ?」

すみれ「……」スタスタ

「ダメだよ、こんな時間に。あ、もしかして、遊びたいのかなー?」

すみれ「……」スタスタ

すみれ(こういうチャラい低俗なのはシカトが一番ったら一番)

「じゃあさ、ラインとか教えてくれない?」

バッ

すみれ「!」

すみれ(行く手をふさぐように通せんぼ?だったら……)

すみれ「……」スッ

すみれ(スクールアイドルで鍛えたステップで素早くすり抜けて──)

ガシッ

すみれ「……え?」ビクッ

すみれ(腕を掴まれた!?)

「ひどいなぁーシカトしないでよ?傷ついちゃうよー」ググッ

すみれ「ちょっと、離してよ!」バッ

すみれ(どんなに振りほどこうとしても無理……!相手が細身でも、やっぱり男と女じゃ力の差はハッキリしてる)

「あはっ、かわいい……あんまり暴れるとケガしちゃうよ?」ニヤッ

すみれ「ひっ……!」ビクッ

「ケガすんのはテメエだよ、タコが」

107: 2025/01/24(金) 23:29:56 ID:???00
すみれ(その声は……グソクムシ!?)

「は?誰……?」キョロキョロ

グソクムシ「こっちだ、バカタレ」シュバッ

カサカサ

すみれ「わっ!」

すみれ(リュックから飛び出したグソクムシが、今まで見たことないスピードで私の肩から腕へと駆け抜けて、男に飛び移ると──)

バッ

「わぶっ……!?」

「ぐあっ、とれない……!」

すみれ(──まるで映画のエイリアンのように、男の顔に張り付いた)

すみれ「あっ!」ドシン

すみれ(手が離れ、解放される。そのはずみで尻もちをついてしまった)

すみれ(ナンパ男は必氏に顔についたグソクムシをはがそうとするが、かぎ爪のついた足を顔面に食い込ませて離れない)

グソクムシ「……へばりつく悪いムシはよ、二度とつかないようにこうやって恐怖を植え付けるんだ」クァッ

ガブリ

「ああああああ!」

すみれ(グソクムシが思いきり男の顔に噛みついた)

108: 2025/01/24(金) 23:30:58 ID:???00
「いだぁあああ!」グググ

ブチッ

グソクムシ「……あ」

ボトッ

すみれ(噛まれた男の馬鹿力がグソクムシを顔から引きはがし、路面に叩き付ける)

グソクムシ「いでっ……!」

「この!バケモノ!バケモノ!」ゲシッ

グソクムシ「ぐえっ!」

すみれ(男に蹴り上げられ、ボールのようにグソクムシが壁にぶつかり、その場に転がった)

すみれ「グソクムシ!!」

「ハァ……ハァ……ヒッ、ヒイイイ!!」バタバタ

すみれ(見たこともないだろう巨大な虫に襲われて恐怖したナンパ男は、情けない悲鳴をあげながら夜の闇に消えていった)

109: 2025/01/24(金) 23:32:09 ID:???00
すみれ「……グソクムシ!グソクムシ!」バッ

すみれ「ねえ、大丈夫ったら大丈夫!?」

すみれ(すぐに壁際に駆け寄った)

グソクムシ「大丈夫じゃ、ねぇよ……いだだ……」ヨロッ

すみれ「アンタ……あ、足が……」

グソクムシ「あ?ああ……二、三本ちぎれてどっかにいっちまったか……」ヨロッ

すみれ(見るからに満身創痍のグソクムシがヨロヨロと私に近寄ってくる)

グソクムシ「……お邪魔ムシはこのムシが退治したぞ……ムシ、だけにな」

すみれ「しゃべらないで!!今、助けを──」スッ

すみれ「もしもし!大変ったら大変なの!」

グソクムシ「……」グッタリ

すみれ(それから数分後、かのんたちが改造スタンバトンを持ったサヤさんとチビを連れて駆け付けてきてくれた)

172: 2025/01/25(土) 14:37:19 ID:???Sa
かのんの店

ありあ「……これでよし、かな?」

ありあ「ホントお姉ちゃん無茶振りさせるんだから」ハァ

ありあ「ケガした虫の手当てなんて生まれて初めてだよ」

かのん「ありがと、ありあ」

恋「グソクムシさん……大丈夫でしょうか?」

ありあ「わかりません……でも、出来ることはしましたから」スタスタ

千砂都「私たちにできることはないみたいだね……」グッ

可可「すみれ……」

すみれ「……」

グソクムシ「……」

175: 2025/01/26(日) 20:37:27 ID:???00
すみれ(足を数本失い、壁に叩き付けられてダメージを負ったグソクムシ)

すみれ(まるで生気を失っていく人間のように、グレーの体色がみるみるうちに白みを帯びてきている)

すみれ(医者じゃなくても衰弱していく様子が手に取るようにわかった)

すみれ「……私のせいよ」

すみれ「私が近道なんかしなかったら、グソクムシがこんな目にあわなかったのに」ポツリ

すみれ「ごめんなさい。本当にごめんなさい……」

かのん「すみれちゃん……」

グソクムシ「……自分を、責めるんじゃねぇよ」

すみれ「グソクムシ!」ガタッ

すみれ「無理にしゃべらないでいいから!」

グソクムシ「しゃべらないグソクムシはただのダイオウグソクムシだ。俺のアイデンティティを奪うんじゃねえ」

すみれ「う、うん……」

176: 2025/01/26(日) 20:39:15 ID:???00
グソクムシ「なあ、頼みがある……」ヨロヨロ

すみれ「なに?」

グソクムシ「体を、海に戻してほしい」

すみれ「!」

グソクムシ「俺たち深海の底に棲むグソクムシは、海底に沈んだ魚やクジラの氏骸を食って生きているんだ」

グソクムシ「……その姿から、人間は俺たちを海の掃除屋と呼んでる」

グソクムシ「使い終わった誰かの身体は、誰かの糧──これが深海生物の掟だ」

グソクムシ「……しっかり海に戻してくれ、な?」

グソクムシ「頼んだぞ」

すみれ「……いやよ」

グソクムシ「あ?」

すみれ「まだアンタに見せたいものがあるったらあるの!!」

すみれ「ここにいるみんなと一緒に、ラブライブのステージで思いっきり輝いている私を──六等星の一等星な私を!!」

すみれ「だから」ジワッ

すみれ「そんなことを言わないでよ……!」ポロポロ

すみれ(身体が真っ白になったグソクムシを前に、大粒の涙がこぼれる)

177: 2025/01/26(日) 20:43:22 ID:???00
グソクムシ「わがまま言うなよ……」

すみれ「だってったらだって!」ポロポロ

グソクムシ「あと泣くなよ。お前のきれいな顔が台無しだ」

すみれ「だって……」ポロポロ

グソクムシ「……疲れた。少し休む……」ピタッ

すみれ「あ……」

グソクムシ「……」

すみれ「うそ、でしょ?冗談よね?」

すみれ「冗談ったら冗談でしょ!!アンタ頑丈な見た目なのに!!なんでよ!!」

千砂都「……すみれちゃん」ガシッ

すみれ「離してったら離してよ!!」

可可「すみれ、受け入れるデス……グソクムシは、モウ……」ジワッ

すみれ「……」ガクッ

恋「そんな、グソクムシさん……!」ポロポロ

かのん「……」ググッ

マンマル「……」

バササ

かのん「マンマル……?」

178: 2025/01/26(日) 20:44:43 ID:???00
シュタッ

マンマル「……」トコトコ

かのん「マンマル、なにするの……?」

マンマル「……」トコトコ

すみれ「うっ……ぐすっ……!」ポロポロ

グソクムシ「……」

マンマル「!」ピタッ

マンマル「……」ジッ

ツンッ

すみれ「えっ!?」

マンマル「……」ツンツンツンッ

かのん「あっ、マンマルだめ!!つつかないで!!」バッ

マンマル「……」ツンツンッ

「いだだだだ!!なに突っついてるんだ、このトリ頭!!」

みんな「!?」

181: 2025/01/28(火) 22:14:41 ID:???00
可可「アイエッ!グソクムシ!?」

すみれ「!」ゴシゴシ

かのん「い、今、声がしたよね!?」

すみれ「真っ白になったまま動かないわよ……?」

恋「でも、空耳のはずは……」

千砂都「あっ、もしかして」ツンッ

ペキッ

すみれ「ギャラッ!?」

すみれ「グソクムシの身体が……割れた……?」

マンマル「……」

ミシミシ

恋「割れ目からなにか……」

パキパキッ

すみれ(マンマルと千砂都がつついたことで大きくなった割れ目から出てきたのは──)

グソクムシ「ふう、やっと脱げたか」

すみれ(もとのグレーの体色で、サイズが一回り小さくなったグソクムシだった)

183: 2025/01/28(火) 22:15:38 ID:???00
かのん「い゛き゛て゛た゛あ゛!」

可可「グソクムシの中からコソクムシが!!」

すみれ「グソクムシ……生きてたのね……!」

グソクムシ「あ?なにいってんだ」

恋「てっきり氏んだかと……」

千砂都「みんな悲しかったんだから!」

グソクムシ「縁起でもないこというなよ、俺がいつ氏ぬって?」

すみれ「だってアンタ、身体は海に戻してくれって……」

グソクムシ「ああ、それはこれだ」ペリッ

グソクムシ「俺が脱いだものも、深海じゃいろんな生き物の糧になるからな」

ありあ「やっぱり脱皮だったんだ!」バッ

かのん「ありあ!?」

ありあ「本で読んだんだ、深海生物グソクムシは脱皮するって」

ありあ「きっと身体にダメージを受けて回復する過程で脱皮が早まったのかもしれないね。あ、ちなみにグソクムシが脱皮する瞬間は生物学的に大変貴重で──」

かのん「あーもう!本のムシはあっちいってて!」グイグイ

千砂都「きっとマンマルは動物のカンで気付いたんだねー、えらいねー」

マンマル「……」

184: 2025/01/28(火) 22:17:27 ID:???00
すみれ「……」

グソクムシ「まあ、なんだ……」

グソクムシ「俺はそう簡単に氏ぬタマじゃないから心配するな」

バッ

グソクムシ「……このちぎれた足も、時間が経てばまた生えてくる」

グソクムシ「だから……まあ、その……」

すみれ「……」プルプル

グソクムシ「俺のために泣いてくれたのは──」

すみれ「……ッ!知らないったら知らない!!このクソムシ!!」ガシッ

グソクムシ「あっ」

ゴロン

185: 2025/01/28(火) 22:19:08 ID:???00
グソクムシ「シテ……オコシテ……」ワサワサ

すみれ「罰としてアンタは今日一日そのまま過ごしてなさい!」クワッ

グソクムシ「な、なにキレてんだよ……」

かのん「あはは……」

千砂都「それじゃ、私たちも帰ろっか」

可可「ソウデスネ」

恋「用心のため、サヤさんとわたくしが送って差し上げます」

スタスタ

グソクムシ「まてお前ら……!」

グソクムシ「逆さまにして置いていくなって!おい!」



すみれ(こうしてちょっとした騒動は終わり、足が生えてくるまで私たちLiella!の日常は再びグソクムシに振り回されることになった)


すみれ(その話はまた今度にして──ついに、グソクムシが海に帰る日がきた)

187: 2025/01/29(水) 22:44:07 ID:???00
お台場海浜公園

すみれ(海へ帰るグソクムシをLiella!のみんなで見送ることにした)

スッ

すみれ「はい。ここのデッキでいいんでしょ」

すみれ「……本当に、帰るのね?」

グソクムシ「ああ。足も治ったし」

グソクムシ「エビアンの水だけじゃ、ホームシックになっちまって」

グソクムシ「やっぱり海が一番……それが深海生物の定めってわけさ」

すみれ「そう……」

可可「すみれ、グソクムシが居なくなって寂しいデスか?」

すみれ「そんなわけないったらない!」

かのん「本当は?」

すみれ「……と、いったらウソになるわね」

すみれ「グソクムシが来てくれたから昔の私と向き合うことができたし、私なりの輝き方を見つけることができたから……もう少しLiella!のために居てもいいと思った」

グソクムシ「……」

グソクムシ「……ラブライブ、残念だったな」

千砂都「ごめんね。応援してくれたのに」

恋「申し訳ございません……」ペコッ

グソクムシ「なにいってんだ。まだまだこれから、だろ?」

188: 2025/01/29(水) 22:44:56 ID:???00
かのん「うん、私たちの歌は終わらないよ!」

可可「今度こそ、サニパ様を越えるデス」

千砂都「もっとトレーニングして、勝つよ!」

恋「はい。より高みを目指していきます……!」

すみれ「……そういうこと。だから、これからも応援してよ?」

グソクムシ「わかった。水深1000メートルからお前たちを応援する」

グソクムシ「だからよ──」

すみれ「当たり前ったら当たり前よ!ラブライブ優勝どころか、連覇してやるから!」

千砂都「大きく出たねー?」

可可「ラブライブ連覇は前人未到の領域デス。すみれ如きが大口を叩くな、デス!」

すみれ「なっ、なによ!?夢は大きくないと、ダメじゃない!」ムキー

かのん「まあまあ……」

グソクムシ「そうだ、それでいい」

グソクムシ「もし連覇したら、すみれにとっておきのプレゼントをくれてやる」

すみれ「ホント!?約束ったら約束よ」

すみれ「アンタは平安名すみれの大事なファン、なんだからね!」ビシッ

グソクムシ「わかった」

189: 2025/01/29(水) 22:46:04 ID:???00
グソクムシ「……」

すみれ「……」

すみれ(寄せては来る穏やかな潮騒の中、沈黙を破ったのはグソクムシだった)

グソクムシ「最後にひと言だけ、伝えておくぜ?」

すみれ「なによ」

グソクムシ「俺たちグソクムシの目は、常に暗い深海でも小さな光を見つけることができるんだ」

グソクムシ「どんなに小さな光でもな」

グソクムシ「だから、いつまでもお前の輝きを海の底から見届けてるからな。しっかりやれよ」

すみれ「うん」

グソクムシ「……お前らもコッチまで届くように頑張れよ?」

かのん「もちろん!」

グソクムシ「よし、それじゃあ……」

グソクムシ「ハーイ、チャイチャイ」スッ

トプン

みんな「?」

すみれ「チャイチャイってなによ!?」

すみれ「あ……」

すみれ(突っ込もうとしたときには、すでにグソクムシは居なくなっていて)

すみれ(あたりは静かな水面が広がっているだけだった)

190: 2025/01/29(水) 22:47:04 ID:???00
かのん「いっちゃったね……」

恋「はい、さよならも言わずに……」

可可「しゃべるグソクムシ……まるで夢を見てたみたいデス」

千砂都「……」ムニー

可可「痛いデス!!夢じゃありマセン!!」

すみれ「アイツらしいったららしいわね……」フフッ

すみれ「ねえ、せっかく台場まで来たわけだし、みんなで遊んでいかない?」

かのん「……そうだね!ジョイポリスいこうよ!」

千砂都「賛成ー!」

可可「ハイ!」

恋「ジョイポリスのぶいあーる、とやらが気になります!」

すみれ「じゃあ決まりね?行くったら行くわよ!」

みんな「うん!」

タッタッ

191: 2025/01/29(水) 22:48:16 ID:???00
すみれ(──しゃべるグソクムシとの奇妙な出会いとアッサリした別れから、数年の時が過ぎた)

すみれ(私たちは後輩たちに恵まれ、かけがえのない日々を共に過ごし、ついにスクールアイドルの頂点を手に入れた)

すみれ(それから期待の新人、トマカノーテの台頭、そしてスクールアイドル最後のラブライブ決勝──)

かのん「Song for Me! Song for You!」

みんな「Song for All!!」

すみれ(水深1000メートルまで届けてみせるったらみせる!)

すみれ(そして優勝が決まり、ついに私たちが連覇を果たしたその時……)

すみれ(……直前の控室にもステージにも、あのグソクムシは現れなかった)

192: 2025/01/29(水) 22:49:06 ID:???00
すみれ(優勝後、客の熱烈なアンコールを受け、再び舞台に立つために控室に戻った私たち)

千砂都「さあ早く着替えて、すぐにステージに立つよ!」

きな子「はいっす!」

メイ「よっしゃ、って……すみれ先輩?」

すみれ「えっ……?」ハッ

夏美「ボーッとしてますの」

すみれ「な、何でもないわ!さあ行くわよ!」スタスタ

マルガレーテ「大事な時にフヌケたら困るんだけど?」

かのん「まあまあ……」

可可「すみれ……」

すみれ「はぁ……」

すみれ(アイツ……来てくれなかったじゃない……)

ガチャ

コロン

すみれ「……?」

すみれ(ロッカーを開けたとき、足元に何かが転がり込んできた)

193: 2025/01/29(水) 22:50:03 ID:???00
すみれ「なにこれ?」ヒョイ

すみれ(拾い上げてみると、カラカラの海藻と海砂がこびりついた黒い布袋。その中身を手のひらに出してみると──)

すみれ「……宝石?」

すみれ(それは、私の手のひらで照明の光を吸い込んでライトグリーンに輝く、ゴルフボールくらいの大きな宝石だった)

きな子「その石、キレイっすね!すみれ先輩の瞳みたいっす!」ジッ

すみれ「!?」バッ

四季「エメラルド。見たところ純度が高く、綺麗に研磨されてる」

夏美「すみれ先輩!!み、見せて欲しいですの!!」ピョンピョン

冬毬「目が円マークですよ、姉者」

メイ「ファンからのプレゼントか!?すげぇな」

すみれ「……アイツよ」

きな子「知り合いっすか?」

すみれ「そんなとこよ。私の大切な一匹のファンったらファンよ」

きな子「一匹……?」キョトン

194: 2025/01/29(水) 22:51:38 ID:???00
かのん「ふふっ、ここに来てるみたいだね。すみれちゃん」

可可「約束を守るグソクムシデスね、すみれ!」

恋「きっと海底を探して持ってきたのでしょう……良かったですね……!」

千砂都「ずっと気にしてたもんねー?キョロキョロしてたし」

すみれ「うっ、うるさいったらうるさーい!」カァッ

アハハ

千砂都「……みんな着替えたね?」

かのん「それじゃ、いくよ!」

かのん「Song for Me! Song for You!」

すみれ「Song for All!!」



おわり

引用: 「おいお前」 すみれ「え?」