213: 2014/02/07(金) 22:55:58 ID:1sDr3912

217: 2014/02/08(土) 10:31:48 ID:nFjm3ccA
萃香「………」

鳥居へと向かうと萃香が俺の顔をじろじろと見てきた。

何かついているのかと思って顔を撫でるが何もついていなかった。

男「どうかしたか?」

萃香「………別に」

いらだたしそうに萃香が吐き捨てる。

何か怒らせるようなことをしただろうかと記憶を探ってみるが特に理由は見当たらない。

萃香は無言で外に向かって歩き出した。

隣に並んで歩くのもなんなので少し後ろに下がってついていく。

萃香「………」

萃香の無言にプレッシャーがびしばしと飛んでくる。

今日はただ単に不機嫌なだけなのだろうか。
東方Project人妖名鑑 常世編
216: 2014/02/08(土) 10:20:18 ID:nFjm3ccA
>>215 多分最遊記ですね。

218: 2014/02/08(土) 10:51:37 ID:nFjm3ccA
森の中を無言でしばらく歩いていると、遠くから声がした。

どうやら人間がいるようだ。

萃香はその声に向かってまっすぐ歩いているので、その人間達を頃すらしい。

里の外にいるということはあいつらが子供たちを頃したやつらかもしれない。

俺は何も出来ないので虎の威を借る狐みたいで格好悪いが萃香にやってもらうしかない。

問題は俺は自分の身を守れるかということだが、まぁあんなに強い萃香のことだ心配いらないだろう。

枝を踏んで音を立てたり木の葉を気にせずに進んでいるのでどうやら真正面から挑むらしい。卑怯なことが嫌いな萃香らしい。

萃香「ここで待ってな」

萃香が手を横に出して制止する。見るとある程度遠くに人間の姿が二、三十人ほどいた。

あれか。立ち止まって萃香に頷くと萃香はいつもどおりとてとてと酒を飲みながら歩いていった。

220: 2014/02/08(土) 15:04:53 ID:EwJCZtkU
萃香「ちょいと待ちな」

萃香が人の集団に向かってそう声をかける。人間たちは萃香を見るといきなり武器を抜いた。どうやら萃香の名前は有名らしい。

萃香「昨日、妖怪の山に火をつけたのは誰だ」

その萃香の問いに人間たちは黙っていたが、奥から一人の少女。黒髪に前髪一房赤い髪、ところどころに白い髪、そして小さな角が生えているそんな少女が現れた。

人間ではなく妖怪なのはみればわかる。人間に味方をする妖怪か。同族頃し………いや、俺も似たようなものか。

正邪「呼んだか?」

にやりと邪悪な笑みを浮かべる妖怪。

その返事をするということは

男「っ!!」

萃香から止められたことを忘れて駆け出す。

こいつが頃したのか、子供たちを。

憎いという気持ちが頭を支配し、原動力となる。

ちゃんと声にならない叫び声をあげ、妖怪に殴りかかろうとする。

萃香「やめなっ!!」

萃香のいつもよりだいぶ強いこぶしを受けて吹き飛び、地面に一度もつかず木にぶつかった。

223: 2014/02/09(日) 09:20:15 ID:pdiVho2g
何をするんだよと叫びたかったが、肺の中の空気が衝撃で押し出されて声を出すことが出来ない。

地面うつぶせになって落ち、その衝撃で意識が飛びそうになる。そして空気を失った肺が空気を求めて不恰好な呼吸を繰り返した。

立とうと思ったが体がうまく動かない。なんとか頑張って木に体を預けるようにして座る。

息を整えて妖怪に届くように大声で問いかける。

男「なぜ頃した!!」

その言葉を聞いて妖怪は両手で顔をおさえた。

正邪「わ、わたしだって頃したくなかったっ。でも私は弱いから小さいときからずっと他の強い妖怪に迫害されて生きてきた。あいつらの親に………子供たちが関係ないのは分かってる、それでも憎しみが止まらなかったんだっ!。私は誰にも守られなかったのにあいつらは守られている。なぁ、弱いということはそれだけで救いがたいほど悪なのか? なぜそれだけの理由でさげすまれなければならないのだ? 強くなれない我々弱者はなにかしたのか? 強者はなんで当たり前のように弱者を虐げるのだ? おかしいじゃないか。自分の生を憎めとでもいうのか? 違うだろう。我々は悪くない。悪いのは強者じゃないか。強さを自分勝手に振舞う強者じゃないかっ!!」

震える声で妖怪が語る。悲しみと怒りを含んだ声が森の中に響き渡る。

正邪「こいつらだって妖怪という強者に家族や友人を奪われた! 何もしてないのにだ!! 私は妖怪を憎む。我々は妖怪を狂おしいほどに憎む!! なぁ、教えてくれよ外から来た人間。いつも奪われる我等が奪い返すのは罪なのか!? それを罪だというのなら強者のほうがよっぽど罪じゃないか!! 反吐がでるような悪じゃないか!! 下克上の何が悪い!! うらまれるようなことをしたのはあっちじゃないか!! 自業自得だろ!? 違うのか、なぁ人間!!」

胸を衝く慟哭。

両手を握り締めて妖怪が泣きながら叫ぶ。

俺の中の憎しみは消えない。

だけど俺は

どうすれば………

224: 2014/02/09(日) 09:34:29 ID:pdiVho2g
正邪「………って言ったら許してくれるのかい?」

―――妖怪の顔が泣き顔からいきなりにやにやとしたいやらしい笑みへと変わる。

再び我を忘れて、痛みで動かない体を無理やり起こして殴りかかる。

許せない。

男「なんで頃したんだよぉおおおおぉおお!!」

萃香「やめろっ!!」

萃香が腕を掴んでとめる。力を振り絞って進もうとするもぴくりとも動かない。

妖怪との距離は数メートル。その数メートルがどうしても詰められない。

正邪「なんでかって!? 教えてやろうじゃないかっ!! あいつらな、助けてくれって言ったんだよ。やめてって。大人の妖怪なんか、私はいいから子供たちは助けてあげてだってさ。いやぁ泣ける泣ける美しい美しい。だから頃して火をつけた!。じゃんじゃじゃーん、衝撃の事実! びっくりびっくり あっはっはは。なぁなぁ、今どんな気持ちだ? 頃したいほど憎むやつに拳が届かないって。悲しい? 悲しい? あははははっ」

男「うあぁあああ!! 萃香離せ!! 離してくれぇっ!!」

正邪「ほらほらどうした? 殴りたいんだろう? 動かないでいてやるよ。ほら、ここ殴れよ人間。どうした殴らないのか!?」

萃香「男、私が頃す」

萃香がそういって俺の体を後ろの放り投げる。

二十メートルほどとんで地面に落ちた。

225: 2014/02/09(日) 09:49:00 ID:pdiVho2g
萃香「お前が同じ鬼と信じたくないな。反吐が出る」

正邪「お褒めいただきどうもありがとう」

萃香「………こんなにイラついたのは久しぶりさね。とりあえず男に土下座して心から謝ったらいたぶって頃してやる。謝らなかったら後悔しても頃してやらない」

正邪「断るね! さぁ、お前達目の前の鬼、傍若無人に振舞う鬼を頃したいか?」

「頃したいっ!!」

今まで黙っていた人間達がそう叫ぶ。

人間達が妖怪に怨みを持っていることはどうやら嘘ではないらしい。

正邪「よろしい。じゃあ思う存分頃しあえ。修羅『インドラリバース』」

妖怪がカードを取り出して砕く。カードは砕けると無数の光となって消えていった。

正邪「伊吹 萃香。お前と戦っても勝てないことは百も承知だ。だから私は逃げさせてもらうよ。ではごきげんよう」

妖怪がけらけらと笑いながら集団の向こうへと消えていく。萃香は当然それを追おうとしたが

萃香「―――っ」

人間二人に捕まれて動きを止められてしまった。

すぐに萃香は人間を投げ飛ばしたが、あの人間。少しの間だとしても鬼の萃香の動きを止めるなんて。

いったいどういうことだ。

226: 2014/02/09(日) 10:10:35 ID:pdiVho2g
萃香「あぁ、そういうことかクソ野郎」

萃香が苛立たしげに吐き捨て近くにいた人間を殴り飛ばす。

殴り飛ばされた人間は木にぶつかって、そして普通に立ち上がった。

おかしい。いくらなんでも強すぎる。

おそらく本気ではないとはいえ鬼の一撃を受けて平然と立ち上がれるなんて。

日ごろ萃香に殴り飛ばされている俺ですらさっきの萃香の一撃を受けて痛みでうまく動けないというのに。

萃香に殴り飛ばされ、それでも向かってくる人間達。しかも動きが早い。

萃香はなんとか受け流したりしているがそれでも相手の攻撃が当たりそうになる場面がなんどかある。負けるとは思わないがそれでも多勢に無勢。あの妖怪を追うことはもうできないだろう。

一撃で倒すことが出来ず、普通の人間よりも強いだなんてまるでゾンビだ。

戦いは数分、十数分と長引き、これは大丈夫なのだろうかと不安を抱く。

もしかしてこのまま戦いが続いて、こっちが逃げるようになるんじゃないかと思ってしまったその時だった。

村人「う、が………ぁ」

どさりと人間が倒れる。一人ではなく、何人もが倒れていく。

やっと倒したのだろうか。そう思ったが倒れた人間が一人の例外もなくのた打ち回ってることからそうではないことに気付いた。

萃香がやったのなら動けなくなってるはずだ。生きてるしろ生きてないにしろ。のた打ち回るような半端な攻撃はしていない。

227: 2014/02/09(日) 11:03:02 ID:pdiVho2g
萃香「男、ちょっとこっち来な」

萃香に呼ばれて、痛む体を引きずりながら近くまで行く。

萃香「見な。こいつらを」

萃香が地面でもがき苦しむ人間を指差す。

萃香「さっき正邪がやったことは普段人間が使ってる力と、抑圧されている力の逆転。普段使えないような力を使って、しかも酷使した結果がこれだ。自分の体は耐えきれず氏にいたる」

萃香「復讐なんてこんなもんだ。結果的に自分が犠牲になる。それでもいいとか言える大馬鹿者になっちゃいけないんだよ」

萃香がまっすぐ目を見る。

説教までとはいかないが静かに諭してくる。

萃香「私がやってやるからさ、男はこんなことにならないでくれないかね。お願いだよ」

萃香が悲しそうな顔をしてそう言う。

俺は心の整理がつかなかったがあの萃香が悲しそうな顔をしている。それを理由に小さく頷いた。

232: 2014/02/12(水) 10:16:21 ID:aTsW.QYY
萃香「………」

村人「う………」

萃香が、もだえ苦しんでいる村人の首を折っていく。

そこまでしてやる必要があるのだろうか。結局自業自得じゃないかとまだ憎しみがくすぶっている俺はそう思ってしまう。

萃香「………こいつらは、自分の命を捨ててまで私に立ち向かってきたんだ」

萃香が首の骨を折りつつそう呟く。どうやら俺の考えは表情にでていたらしい。

萃香「もちろん男にはこんな生き方をしてほしくない。でもだからってこいつらのこと否定できるわけないじゃないか」

ぽきりぽきりと首を折っていく萃香を眺める。

あの子達を頃したくせに今萃香に楽に逝かせてもらっている。

それが許せなくて、でも怒ることができなくてどうしようもないこの気持ちをどこにぶつければいいのかわからず拳を強く握り締める。

萃香「………終わったよ」

萃香が最後の人間の首の骨を折った。

233: 2014/02/12(水) 10:25:53 ID:aTsW.QYY
地面に横たわる人間はもうもがき苦しむことも息をすることもない。

萃香「屍をさらしっぱなしじゃ可哀想だ。葬ってやってもいいかね」

萃香が振り向いて俺に確認を取ってくる。それに俺は全てはあの角の生えた妖怪のせいと必氏に思い頷く。

萃香は小さく頷いて氏体に向き直った。

何をするわけでもない。地面に穴を開けるわけでも、火をつけるわけでもない。

萃香は氏体をただ見ているだけだった。

さぁぁと氏体が砂のように崩れていく。

初めて見た萃香の能力。

密と疎を操る程度の能力。

それを使い萃香は人間を葬った。

この幻想郷に。

全ての氏体が崩れ落ち、風に乗って幻想郷に散っていくのを見送った萃香はしばらくそこに佇んでいた。

234: 2014/02/13(木) 09:02:42 ID:X6g3oblw
もう二人とも行動力が尽き、どちらからともなく帰ろうという雰囲気になったので神社に向けての道をただひたすら無言で歩いていた。

帰ったら紫に会って話して見よう。おそらく紫は俺に、何か俺のことを隠している。

それがなんなのかは分からないが、ただの一人間である俺にそこまでさせる理由が見当たらない。

もしかしたらこの銃を使える条件があって、その条件に合うのが俺だったとかそういう理由かもしれないが確定していない今、不信感が募る。

萃香「なぁ、男」

萃香が話しかけてくる。その声色はいつもよりは少し落ち込んでいた。

萃香「思えば全部私が蒔いた種だったのかもしれない」

男「………なにがだ?」

萃香「あの角の生えた妖怪。鬼人 正邪っていうんだが、あいつは私と同じ鬼、っていっても天邪鬼なんだが私は昔から弱くて嘘つきなあいつが大嫌いで会うたびいつもなにかしらの暴言や暴力をあいつにしていた」

萃香が立ち止まって少し下を向く。

萃香「だからかもしれない、いやきっとそうなんだろう。あいつが強いやつを憎むようになったのは。もし私が弱いものを助け強きを挫くだったらあいつの性格はここまで歪むことはなかっただろう。でも私は強きを倒し、弱きを罵っていた。自分以外は全て見下し、自分の強さに、戦いに酔っていた。強いやつに勝てば自分はこんなにも強いのだと酒以上に酔うことができる。でも弱いやつに勝っても何も得るものはない。だから私は弱いやつを見下していた。いや、見下している。強きものを恐れ、怯えて接してくるその目が気に食わない」

萃香「どこまで言っても自分中心に考えているんだよ私は。弱さは罪だなんて誰が決めたことでもないのにそう思い込んで。それならよっぽど強さの方が罪じゃないかといったあいつの気持ちも良く分かる。いや、よく分かるなんていって欲しくはないのかもしれない。私がわかった気になってるだけなんだろうから」

萃香「強さ、圧倒的な格の違い。そこまで言っておきながら私は自分が蒔いた種が芽生え他人に迷惑をかけることを許してしまった。あいつがいう強者様のくせにだ」

いつもの豪放な性格は消え、今は弱々しく嘆いていた。

弱さを嫌っていた少女が今、弱さを俺に見せていた。

235: 2014/02/13(木) 09:13:58 ID:X6g3oblw
気の利いた返事が出来るほど俺は人生経験を積んではいない。

だから萃香の頭を撫でることにした。それぐらいしか出来なかった。

撫でられるのが嫌で怒るのでは、と撫でたときに思ったが、萃香は黙って撫でられていた。

さらさらとした少女の髪を梳くように撫でる。

弱みを見せてくれたのならそれを否定せず受け入れる。

弱さを人に見せることができるのもまた強さなのではないかと生まれて二十年の男が分かったように思う。

萃香を憎みなんてしない。だって正邪は嘘をついていたかもしれない。なら萃香が後悔しなくてもこれは起きたかもしれないじゃないか。そんな思いを萃香に伝えると萃香は

萃香「ありがとう。男」

と小さく笑って

トスッ

何度かそんな衝撃が俺を襲い地面に倒れ伏す。激痛はその後に来た。

男「う、がぁ、は」

背中に何かが刺さっている。刺さった何かは内臓を傷つけたらしく、口から血をはきだした。

236: 2014/02/13(木) 09:23:21 ID:X6g3oblw
正邪『鬼と寄り添えるただの人間。そんな不穏分子を生かしておいたら何が起きるか分からないだろう?』

正邪『守れなかったなぁ。やっぱり弱さは罪だな。なぁ、伊吹 萃香』

どこからか正邪の声が聞こえる。どこから聞こえているのかは森に反響してよく分からなかった。

痛みという熱が背中を焼く。

流れていく血をどうすることもできずただただ生を流し続ける。

カチッカチッ

萃香「男――い―こ」

萃香が叫んで俺の体を抱きかかえる。そのままものすごい速さで駆けていく。

萃香の顔も服も俺の血で汚れてしまってる。そんなことをぼやけた目で見た。

カチッカチッ

眠いけど、寝ちゃいけないんだろうな。

カチッカチッ

さっきからなんだこれ、うるさ

237: 2014/02/13(木) 12:36:38 ID:X6g3oblw
~少年サイド~

数日後、射命丸さんは地底に戻ってきました。帰ってきた射命丸さんの顔はあまり明るいものではなく、どうやら外の状況がひどいのだろうということを教えてくれました。

帰ってきた翌日、射命丸さんは地霊殿に呼び出され、さとりさん、勇儀さん、パルスィさんに外の話をしています。

僕はその中に入ることは出来ず、お燐さんと外で話しが終わるのを待っていました。

お燐「外、面倒なことになってるみたいだね」

少年『はい、外へ皆逃げ出すこともできませんし』

お燐「チェックメイトってやつかな。そういえば最近こいし様を見たかい?」

僕はそれに対し首を横に振ります。

最近こいしさんの姿を見かけません。僕はなぜかこいしさんの姿を普通に見ることができるのですが、僕が見えないということはおそらくこの地底のどこかへ出かけているのでしょう。

お燐「まさか外………ってのはないと思うけど」

それでももしかしたらと思ってしまうのがこいしさんの凄いところです。

仕方ないとはいえ、いつも突拍子もない行動をするのがこいしさんですから。

238: 2014/02/13(木) 12:59:43 ID:X6g3oblw
文「それでは失礼します」

どうやら話し合いが終わったらしく射命丸さんが中から出てきました。

文「あや、どうもこんにちは、少年さん、お燐さん」

笑ってそう挨拶をしてきますが、その笑顔にどこか疲れを感じました。

少年『射命丸さん。お茶でもいかがですか?』

文「いえ、すみませんが遠慮させていただきます。少し休みたいので」

お燐「そんなに外はひどいことになってるのかい?」

文「えぇ、今までの異変とは比べ物になりませんね。異変であれだけの人数の命が奪われるなんて初めてですから」

文「一応椛に会いに行ってみたのですが門前払いされましたね。今彼女は指揮官をしているみたいです。ずいぶん出世したみたいで嬉しいやら悲しいやら」

椛、という人物が誰なのかは分かりませんが、おそらく射命丸さんの旧知の人物なのでしょう

お燐「それで、これからどうするんだい?」

文「後はさとりさんに話を聞いてください。私は氏ぬほど疲れてるので。それでは」

射命丸さんが屋敷内なのに凄い勢いで廊下を飛び玄関まで飛んでいきました。

お燐「まったく、迷惑な」

そう風によって埃が舞い上げられた廊下を見ながらお燐さんがため息をつきました。

239: 2014/02/13(木) 13:51:33 ID:X6g3oblw
お燐「外に行く!?」

お燐さんがさとりさんの言葉に驚きます。そういう僕もさとりさんの外に行くという言葉に驚きました。

さとり「えぇ、このまま後手にまわると取り返しのつかないことになります。いくら勇儀やお空がいるとは言えあちらの戦力はこちら以上。ならば先に私が行って工作をしておいたほうがいいでしょう」

お燐「確かにさとり様が最適ですけど」

さとり「心配してくれるのはありがたいですが、私は地底の管理人。皆を守る義務があるのです」

普段とは違うさとりさんのまっすぐな目を見て僕とお燐さんは何も言えなくなりました。

さとり「では私はすぐに出かけるので、お燐、少年。後のことは任せましたよ」

240: 2014/02/13(木) 14:05:07 ID:X6g3oblw
さとりさんは自分の部屋に戻ってしたくをしているようです。

僕は出来ることならついていきたいと思って荷物を今最小限に詰め込んでいます。

もともと持っているものは少ないですから小さなかばん一つに納まりましたが、僕がついていくことは出来るのでしょうか。

不安で堪らないのでさとりさんが出る前に先に結界がある入り口へ向かおうと思います。

小さなかばんを一つ持ち家を出ます。

途中お燐さんに出会ってしまい、散歩とごまかしましたが小さなため息をついていたのでおそらく僕の考えはばれてしまっているのでしょう。

でも、お燐さんならさとりさんに言わないと信じてそのまま家を出ました。

外では雪がところどころに残り歩行を妨げます。

小さい僕が息切れしながら歩いていると白いコートを羽織り、手袋とブーツを履いたちゆりさんに出会いました。

ちゆり「お出かけか? 少年」

少年『はい。ちゆりさんはどうしましたか?』

ちゆり「これを少年に渡しに来たんだぜ」

そう言ってコートのポケットから小さな拳銃を取り出しました。

241: 2014/02/13(木) 14:20:01 ID:X6g3oblw
男「?」

ちゆり「さっき勇儀から頼まれてね。自分の身を守れるものを持っていたほうがいいって。だからはいこれ。小さくても必殺の武器だ。扱いには気をつけろよ」

そういいながら拳銃を投げて渡してきます。僕はおっかなびっくりそれを受け取り、扱いには気をつけないといけないんじゃと思いました。

でもなんで勇儀さんが僕にこんなものを渡してくるのでしょうか。僕が考えていたことがバレていた、のでしょうか。

ちゆり「まぁ、元気でな。少年」

………ばれているようです。

僕の頭を撫でながらそういうちゆりさんの表情を見て核心しました。

242: 2014/02/13(木) 20:56:44 ID:X6g3oblw
あれから色々な人に見送られながら僕は結界がある地底の入り口まで向かいました。

入り口には勇儀さんとパルスィさんがいました。

勇儀「よっ」

少年『やっぱりわかってたんですね』

パル「しばらく一緒に暮らしていたもの。さとりまでとは言わないけどあなたのことは理解してるつもりよ」

勇儀「まぁ、さとりがこのこと知ってるかはわからないけどな。あいつ変なところで鈍いから」

パル「さて、と、少年本当に外へ行くの? 外は危険って知ってるでしょ。今は戦争中なんだから」

その言葉に僕は悩まずこう答えました。

少年『今まで皆さんにはお世話になりました。だから恩返しがしたいんです』

勇儀「恩返しって馬鹿だな。そんなこと子供が考えなくていいんだよ」

勇儀さんが僕の頭をわしゃわしゃと撫でます。

なんだか今日は撫でられてばかりですが、皆さんに大切にされているということはとても嬉しく思わず顔がほころんでしまいます。

243: 2014/02/13(木) 21:14:24 ID:X6g3oblw
少年『それに、さとりさんを守りたいのです』

守れるなんて思わないけど、そばにいれば何か出来るかもしれない。ただ僕がさとりさんと離れたくないという理由もあるがそれでも僕だって男です。好きな人を守りたいのです。

パル「………あいつが少年みたいに一途だったら私も救われたかしら」

勇儀「おーい。子供がいる前でそんなこと言うなよ」

パル「ごめん。まぁ、そのおかげで私は今が楽しいからプラスマイナス0、いやプラスなんだけど」

勇儀「最近お前素直になったよな」

パル「子供がいる前で本性出せるわけないでしょ」

二人の会話を聞いているとまるで夫婦のようです。

いえ、勇儀さんは女性なのですが。

パルスィさんの本性。一度見たことはありますがそれはもうできれば経験したくないですね。

さとり「勇儀……って少年」

パル「ほら少年。愛しのさとりが来たわよ」

さとり「愛しのって///」

パル「くっそ妬ましい………」パルパル

勇儀「さっき子供がいるから本性は出さないっていったばっかりなのにな」

244: 2014/02/13(木) 21:57:36 ID:X6g3oblw
さとり「えっと、なんで少年は―――駄目っ!!」

さとりさんが僕の心を読んだらしく叫びました。

さとり「少年に何かあったら私………」

少年(………さとりさん)

勇儀「まぁ、信じてやりなよ。いくら辛くてもやらなきゃいけないときがあるんだよな。男の子には」

パル「気持ちは分かるけど本当に危ないと思ったらこっちに戻ってこれるんだからまずはおためし………ってまぁそんなに軽く決められないわよね」

さとり「もし、もし少年が危ない目にあったら」

少年『大丈夫です。自分の身は自分で守ります』

そう書いて僕はさっきもらった小さな拳銃を取り出します。

さとり「………あなた、人撃てないじゃない」

少年「………」

少年(さとりさんを守るためなら)

さとり「///」

勇儀「パルスィ、堪えろ」

パル「うぐぐぐぐ」

245: 2014/02/13(木) 22:01:38 ID:X6g3oblw
さとり「分かったわ。私は少年が危ない目にあわないように常に周りに気を配る」

勇儀「まぁ、さとりの読心さえあれば奇襲は無理だろうからな」

パル「じゃあ二人一緒にってことでいいかしら」

さとり「えぇ」

少年『新婚旅行が危ないものになっちゃいますね』

さとり「///」

勇儀「じゃあ、開けるぞ」

勇儀さんが薄く金色に光る結界を両手で掴みゆっくりゆっくりこじ開けます。

勇儀「早く、通ってくれ」

あの勇儀さんの腕がぷるぷると震えているところを見るとどうやらこの結界をこじ開けるのはとても大変なことのようです。

さとり「行くわよ、少年」

少年『はい』

246: 2014/02/13(木) 22:12:10 ID:X6g3oblw
勇儀さんが開けてくれた人一人がやっと通れるくらいの隙間を抜け、久しぶりに外の世界に出ました。

勇儀「がんばれよ! 二人共!!」

さとりさんが出たと同時に結界が閉まります。閉じた結界の向こうで勇儀さんたちが何か喋っているようですがどうやらこの結界は声も通さないようです。

思えば自分の力で外を歩くのは初めてかもしれません。いつもはこいしさんに担がれて外の世界を移動していましたから。

冷たい六畳間から温かい地底へ、そして今僕は太陽が大地を照らす地上に立っています。

ここ半年でどれだけのことを体験したでしょうか。それは今までの僕の人生を取り戻すかのように濃い時間でした。

そして今から僕は大好きな人と、大好きな人たちを守るために命を懸けて頑張ろうと思います。

少年『頑張りましょう。さとりさん!!』

さとり「こんなときはこうするのだったかしら」

さとりさんはくすりと微笑み片手の拳を固めてガッツポーズのような形で構えます。

さとり「えいっえいっ」

男(おー!!)

さとり「おーっ」

こいし「おーっ!!」

さとり「………え?」

247: 2014/02/13(木) 22:25:18 ID:X6g3oblw
~男視点~

暗闇の中だった。ただひたすら暗い闇の中に立っていた。

いや立っているという表現は正しくない。地面を踏みしめる感触がなかった。

俺は浮いている。落ちていることに気がついていないだけかもしれない。

なぜこんなところにいるのだろうか。

足を動かして前に進むも景色は黒以外ないので進んでいる気がしない。

そこで初めて不思議なことに気付いた。

俺の体だけは見える暗闇の中だというのに俺の体だけは日の下にいるときと同様に見える。

それがどういうことかは分からないがとにかくここはただの暗闇ではないらしい。

ところで皆は一体どこにいるのだろうか。暗闇よりそっちのほうが不安だ。

手を振り回して手探りに進むも人おろか壁にすら触れることはない。しゃがんで地面に触るも地面もない。

さてどうしたものかとこの不思議な空間にいるというのにやけに冷静な頭で考える。

そして出た結論はどうしようもないということだった。

248: 2014/02/13(木) 22:34:17 ID:X6g3oblw
やることもなくただひたすらに前へと進みながら秒数を数え続ける。

1、2、3、4、5

そうやって秒数を数えていくうちに意識せずに口は秒数を数え、足は前へと進んでいた。

そして口が数える数が2万を超えたあたりころ、暗闇の中に光が見えた。

その光に向かって走っていくとそれが光ではなく、人の形をしていることに気付いた。

もしかしたら何かこの状況について知っているかもしれない。

男「あの、すみません」

???「はじめまして」

男「っ!」

その人の顔を見る。

それは女性だった。しかし皮膚が見える場所には全てうろこがびっしりと生えている。まるで漫画で出てくる二足歩行の龍のようだ。

男「あの、ここは」

萃香なんかと違って本当に妖怪じみたその女性にびっくりしつつもそう聞くと女性は笑ってこう答えた。

???「幻想郷ですよ」

249: 2014/02/13(木) 22:41:35 ID:X6g3oblw
いやいやそんなことは分かっている。聞きたいことはここが幻想郷のどこなのかということだ。質問を幻想郷のどこかに変えて再度質問する。

???「幻想郷です」

………言葉は通じているのだが、彼女は壊れたCD、もしくはゲームの住民のように同じことしか話さない。

俺は諦めて彼女について聞くことにした。

男「あなたは一体誰なんですか?」

???「あなたのお母さんです」

男「………」

???「なんと嘘です。うふふ。騙されましたね」

男「分かってます」

びっしりうろこが生えていているのに表情はとてもおだやかに笑う。そのせいか怖いという感情よりも安堵を感じた。

???「いずれ分かります」

そんなこといわれると逆に気になってしまうのだが。

なので無理を承知で問いただそうとすると腕を誰かに引っ張られた。

振り向くとそこには見覚えのある小さな少年達がいた。

250: 2014/02/13(木) 22:46:38 ID:X6g3oblw
羽少年「よっ。にーちゃん」

男「おぉ、どうしたこんなところで」

わしわしと頭を撫でてやると羽少年は嬉しそうに笑った。

犬耳娘「おにいちゃんはなんでここにいるの?」

男「分からん」

こっちが聞きたいくらいだ。こいつらに聞けば教えてくれるだろうか。口ぶりからして知っているみたいだし。

男「どこなんだここ」

犬耳娘「幻想郷だよ」

またそれか。で、結局幻想郷のどこだっていうんだよ。

角娘「も、もしかしてお兄さんも行くの?」

???「いえ、行きませんよ」

角娘「よ、よかった」

どこに行くんだよ。教えてくれよ。

251: 2014/02/13(木) 22:52:45 ID:X6g3oblw
羽少年「絶対にーちゃんはこっちくんなよ! 絶対だからな!!」

犬耳娘「駄目!」

角娘「こ、こないでっ」

凄い拒否のされようだが俺は何かしただろうか。結構傷つく。

そんな傷心気味の俺に追い討ちをかけるように羽少年が無理やり手を取って指きりをはじめた。

羽少年「指きり拳万嘘ついたら針千本のーます!! 指切った!! 約束だからな!!」

おいおい。そこまでしなくてもいいじゃないか。言われたことはさすがに聞くよ?

苦笑いしながら頷く。

羽少年「じゃあなにーちゃん! また会えたらその時は空手教えてくれよな!!」

犬耳娘「今度会ったらお嫁さんになってあげるっ」

角娘「ぼ、ぼくも」

? 嫌われたと思ったらそうでもないようだ。

いったい何がなにやら。

そんな人生初めてのモテ期を体感しながら首をかしげる。

252: 2014/02/13(木) 22:59:54 ID:X6g3oblw
男「あぁ、約束な」

羽少年「約束なんていらねーよ!」

犬耳娘「うん」

えー、どういうことだよ。変な反抗期ですか?

鬼娘「さ、さようなら」

犬耳娘「ばいばい」

羽少年「じゃあな!」

男「またな」

かけて行く少年たちを見送って手を振る。少年達は暗闇の中へ消えていった。

???「それではあなたはもうそろそろ時間ですよ」

男「へ?」

鱗の女性がいきなりそんなことを言う。

わけが分からずに口を開けて呆けているとしだいに俺の体が薄くなっていった。

男「え!? ちょっ!?」

253: 2014/02/13(木) 23:05:09 ID:X6g3oblw
あわてるも何も出来ず鱗の女性にすがろうとした

が、手は通り抜ける。

???「頑張ってください」

微笑む鱗の女性は俺に向かって手を振るだけで今俺に何が起きているのか教えてはくれない。

そして俺の体が下から消えてゆき、腰、胸、首、口、鼻。そして耳が消える直前

???「―――を守ってあげて」

と言っていたのだが耳が消えていっているせいでよく聞こえなかった。

そして目が消えて、頭も消えて

254: 2014/02/13(木) 23:10:08 ID:X6g3oblw
目を覚ます。

夢を見ていたような気がするが、どんな夢を見ていたのかまでは覚えていない。

それよりここはどこだろうか。見渡すと知らない妖怪ばかり………いや

魔理沙「すやすや」

なぜか魔理沙が隣で寝ていた。

男「えぇー………」

意味が分からない。とりあえず寝ていたベッドから降り

男「ん? あれ?」

来ている服がいつもと違う。こんな服を持っていただろうか。まるで病院で着る―――

思い出した。俺後ろから矢でうたれて

男「あれ、でも痛くないな」

背中を触ると傷口がふさがっている。すげぇ、幻想郷の病院。河童の塗り薬でも使っているのだろうか。

259: 2014/02/20(木) 16:08:49 ID:8QBDFIZ.
鈴仙「あ、起きたんですね」

仕切りのカーテンの少し開けて兎の耳の生えた少女が顔をだす。

着ている服はブレザーだが、おそらく看護師なのだろう。

鈴仙「じゃあ傷の様子を見させてもらいますね」

そういって兎の少女が俺の背中をめくる。

鈴仙「あれ、もう治ってますね」

驚いたような声を上げたが、この看護師は自分のとこがどんな治療をしているのか把握してなかったのだろうか。

男「ここはどこなんだ?」

鈴仙「ここは永遠亭の妖怪側の病棟ですよ。あなたは人間ですけど特別扱いですね」

ぺたぺたと俺の背中を触りながら兎の少女がむーと唸ったりする。少しくすぐったくて身をよじる。

鈴仙「ちょっと師匠呼んで来ますね」

兎の少女がぱたぱたと小走りで病室から出て行った。

260: 2014/02/20(木) 16:20:52 ID:8QBDFIZ.
魔理沙「んぅ。むにゃむにゃ」

男「起きろ」

ベッドで気持ちよさそうに寝ている魔理沙の鼻にでこピンをする。

魔理沙「ふぎゃっ!」

男「なんで俺のベッドで寝てるんだよ」

魔理沙「お見舞いに来て眠かったから寝た」

男「簡潔な説明ありがとう。とにかく起きろ」

魔理沙「へいへい。んでもう起きて大丈夫なのか?」

男「あぁ、治ったからな」

魔理沙「治ったって………お前どんな体してんだよ」

いたって普通の体である。ためしに魔理沙を抱えてみるがが一般人並みの力しかでていない。

魔理沙「お、おいっ。降ろせっ!! 恥ずかしいだろっ」

男「罰じゃ」

永琳「邪魔して悪いようだけど、検診いいかしら?」

261: 2014/02/20(木) 16:38:37 ID:8QBDFIZ.
カーテンを開く音がして、そっちを見ると銀髪の女性とさっきの兎の耳の少女が立っていた。

永琳「本当に傷治ったの?」

男「? ここの治療で治ったんじゃないのか?」

永琳「そういう薬作ろうと思えば作れるけど、体に悪いから処方はしない、だから基本的に自然治癒を助ける薬しか使わないわ」

男「?」

永琳「あなた、人間?」

人間………そう改めて聞かれるとどう答えればいいかわからないが自分では人間と思っている。

だって今まで普通に暮らしてきたんだから人間以外の何者になるというんだよ。

映姫「すみません。それは私が原因なのです」

銀髪の女性のさらに後ろから四季さんが顔をだす。

治ったのが四季さんのおかげ?

262: 2014/02/20(木) 16:59:37 ID:8QBDFIZ.
映姫「私がここの薬を使わせてもらいました。知り合いが氏ぬと悲しいのでつい動転してしまったのです」

永琳「あなたが?」

映姫「えぇ。申し訳ありません」

永琳「………………そう、少し話がしたいわ。こっちに来てもらえるかしら四季映姫」

映姫「えぇ」

男「俺のためにしてくれたんだから責任は俺にしてくれ」

永琳「別に、責任なんてそんな話はしないわ、ちょっとね」

………四季さんに迷惑がかからなければいいが。

そう部屋から出て行く四季さんたちを見送りながらそう願った。

263: 2014/02/20(木) 22:14:36 ID:8QBDFIZ.
魔理沙「あー。まぁ、なんだ回復したならなによりだ」

鈴仙「ですね。ところで今日中に退院はできると思いますがどうします?」

男「退院する」

魔理沙「なぁ、別にこのまま何日か治ってないふりして休んでもいいんだぜ? あんなことがあったんだし」

魔理沙が心配してくれたらしく、上目遣いで尋ねてくる。

その気持ちはうれしいが俺には休んでる暇なんてない。俺はみんなを守らなければいけないんだ。銃の効果範囲は半日。誰かが氏んで半日経ってしまうと取り返しがつかなくなる。

それに、なんだかものすごく誰かを守らないといけないって気がするし。

男「いや、いいよ。ありがとうな」

魔理沙「本当自分のことは大切にしてくれよ? 氏んだら元も子もないんだからな」

男「萃香にも似たようなこと言われた」

鈴仙「じゃあ退院ということでいいですね。手続きに時間がかかるんでできたらまた呼びにきますのでここでゆっくり待っててくださいね」

男「あぁ。よろしく頼む」

再びぱたぱたと部屋を出て行く兎の少女を魔理沙の頭をなでながら見送った。

魔理沙「恥ずかしいからやめてくれ」

264: 2014/02/20(木) 22:31:14 ID:8QBDFIZ.
手続きの時間とはなかなかかかるらしくもうすでに一時間以上経っているような気がする。実際は時計がないのでどれだけ時間が過ぎたのかはわからない。

このままベッドの上で魔理沙と話し続けるのもなんなので出歩いてみることにする。魔理沙と一緒ならば他の妖怪にちょっかいをだされる心配はないだろう。

仕切りのカーテンを開いて病室内を見てみる。どうやらこの部屋にはベッドが12個あるらしくそこには明らかに妖怪らしき妖怪や、一見人間に見える妖怪がいた。

カーテンの向こうから出てきた人間の俺を見て数人は驚いた顔をしていたが魔理沙が近くにいるので納得したらしくそれ以上は何もリアクションを起こさなかった。

さて、と立ち上がったはいいが特にすることもない。適当に出歩いてみよう。妖怪がいたとしてもここは中立だ。そうそう争いごとを起こすやつはいないだろう。

そう判断して廊下にでようとする。

羽男「………お前が男か?」

しかし出る前に部屋の中に入ってきた羽の生えた男に呼び止められた。

男「あ、あぁそうだが」

羽男「そうか、お前がか………」

男の声は疲れきっていた。顔を見ると目の下に隈があり顔色の悪いように見える。

魔理沙が警戒して俺と男の間に入ってくるが男は魔理沙の存在なんて気にせずもう一度「お前がか」と俺の顔をじっと見て繰り返した

265: 2014/02/21(金) 20:51:30 ID:xfRdSqH.
いったい何なんだと思ったがこの男の顔をどこかで見たような気がする。

いや見たというか誰かを思い出す。

『にーちゃんっ!』

男「あ………もしかして羽少年の」

羽男「父だ」

男は羽少年が順調に年を取ったらこういう風になるんだろうなというほど似ている。

男「その、俺は」

責められるのだろうか。俺が生きていてあいつらが氏んでいるから。

理不尽だとは思うが子を思う親の気持ちが理解できないわけでもない。俺だってこんなに悲しいのだ。子供を失った親がどれだけ悲しいことか。

想像できるとはいえないが俺の胸の痛みの数十倍は痛いはずだろう。もしかしたら数百倍かもしれない。

羽男「あいつは………どうだったか? 楽しそうだったか?」

男「楽しそうだった。いつも笑顔で」

笑ってはしゃいで、毎日を楽しそうに生きていたんだ。子供らしく一生懸命に楽しんでいたんだ。

羽男「あの子の話をしてもらっていいか?」

男「あぁ」

266: 2014/02/21(金) 21:37:14 ID:xfRdSqH.
通路にあった長椅子に座る。魔理沙はついてきたが聞いていいものかと迷ったらしく少し離れた場所に立っていた。

椅子に座った男はうなだれ実際よりも酷く小さく見えた。

男「一番最初に俺に懐いてくれて。数日だけだったけど本当楽しそうで。こんなところにいないといけないけど、にーちゃんと四季さんがいるからそれでも楽しいって、言ってくれて」

羽男「………そうか」

男はぽつりと小さく呟いて目元を拭った。

羽男「あいつは家でもやんちゃでな。いたずら好きで、反抗期で………でも」

男「優しくて、明るく、みんなに好かれる」

そんなあいつに俺はどれだけ救われたことか。どんなに気持ちが沈んでもあそこに行けば気分が晴れた。もし最初にあいつがいなければ俺はあの空間に溶け込めなかったかもしれない。

人間の俺に勇気をだして話しかけてくれたあいつがいたから俺はこの辛い世界を挫けることなく生きてこれたんだ。

羽男「………ありがとう。外の世界の人間。私からとあの子からの感謝だ」

男「………こんな俺で、よかったのなら」

羽男「十分だ」

男がこっちを見て涙を流しながら微笑んだ。

267: 2014/02/21(金) 21:38:29 ID:xfRdSqH.
通路にあった長椅子に座る。魔理沙はついてきたが聞いていいものかと迷ったらしく少し離れた場所に立っていた。

椅子に座った男はうなだれ実際よりも酷く小さく見えた。

男「一番最初に俺に懐いてくれて。数日だけだったけど本当楽しそうで。こんなところにいないといけないけど、にーちゃんと四季さんがいるからそれでも楽しいって、言ってくれて」

羽男「………そうか」

男はぽつりと小さく呟いて目元を拭った。

羽男「あいつは家でもやんちゃでな。いたずら好きで、反抗期で………でも」

男「優しくて、明るく、みんなに好かれる」

そんなあいつに俺はどれだけ救われたことか。どんなに気持ちが沈んでもあそこに行けば気分が晴れた。もし最初にあいつがいなければ俺はあの空間に溶け込めなかったかもしれない。

人間の俺に勇気をだして話しかけてくれたあいつがいたから俺はこの辛い世界を挫けることなく生きてこれたんだ。

羽男「………ありがとう。外の世界の人間。私からとあの子からの感謝だ」

男「………こんな俺で、よかったのなら」

羽男「十分だ」

男がこっちを見て涙を流しながら微笑んだ。

268: 2014/02/21(金) 21:52:41 ID:xfRdSqH.
羽男「最後に子供たちを頃した相手を知ってるか?」

男「………」

知っている。

だがそれを教えていいものか。こいつがもし強かったのしても相手は正邪だ。またあの術で強い人間を作り出すのだろう。

勝ち目は薄い。氏ににいくようなものだ。

でも俺がそれを言ってなにか意味があるのだろうか。俺の復讐は萃香に止められた。だけどこいつの復讐を止めることは俺にはできない。百や千の言葉を使っても俺ではこいつを止めることはできないんだ。

男「正邪っていう天邪鬼だ」

悩んで俺は正邪のことを教える。萃香が倒してくれるといっていたことを付け加えて。

もしかしたら萃香の名前をだせばおとなしく復讐をやめてくれるかもしれない、というそんな卑怯な保険。

羽男「そうか。ありがとう」

男が立ち上がって頭を下げて歩いていった。

あの男は氏ぬのを覚悟しているのだろう。最後にみた表情は何かを決心したような表情だった。

269: 2014/02/21(金) 22:03:30 ID:xfRdSqH.
魔理沙「ハンカチ………」

羽男の姿が完全に見えなくなったころ魔理沙が近寄って白いレースの女の子らしいハンカチを差し出した。

男「ん、ありがと」

魔理沙からハンカチをもらって流れる涙を拭く。

羽少年の話をして、もうあいつがいないことを再認識して涙が流れた。

数日で吹っ切れるほど俺は強くない。

魔理沙「………私がいるから、なんてそういうことは言わないけどさ。頼りたかったら頼ってくれ。そうしたらこの魔理沙さんはどこまでも力になってやるからさ」

男「うん、ありがとうな、魔理沙。頼っていいか」

魔理沙「おう」

男「しばらく一緒にいてくれないか」

魔理沙「まかせろ」

魔理沙の袖を掴んで今まで以上にあふれ出る涙を抑えきれずにハンカチで顔を覆う。

ただ魔理沙は優しくずっとそこに立っていてくれた。

270: 2014/02/21(金) 22:15:00 ID:xfRdSqH.
魔理沙「案外さ、お前のこと頼りにしてるんだぜ?」

男「………なんでだ?」

泣き終えしまおうとしたハンカチを魔理沙にむりやり回収されたりしながら廊下で二人っきりで過ごしていると魔理沙がいきなり照れくさそうな顔でそういった。

魔理沙「守ってくれるんだろ? 萃香に鍛えてもらってまで」

男「そのつもり。あんまり自信ないけど」

魔理沙「十分だよ。男にそんなこと言ってもらうの初めてで嬉しかった。女の子はそれだけでまた戦えるんだぜ?」

男「男もだよ。守りたい人を守るためなら何度でも立ち上がってみせる」

そんなくさい台詞をはいてしまいすごく恥ずかしくなったが魔理沙は顔を赤くして笑った。そんな二人の様子がおかしくて顔を見合わせて俺はわははと魔理沙はえへへと笑った。

魔理沙「身近にいた男なんてさ親父と朴念仁ぐらいだからさ。なんか男は初めてのお兄ちゃんというかなんというか。まあそんな感じなんだ。だから大好きだ」

男「俺もだ。妹みたいだもんな」

魔理沙「えへへ。ありがとうな」

男「こちらこそ」

271: 2014/02/21(金) 22:46:39 ID:xfRdSqH.
鈴仙「手続き終わりましたよー。もう退院して大丈夫です」

兎の少女が小走りしながらそう教えてくれる。

時間はおそらく数時間経っているだろう。外の太陽を見て推測する。

とくに持って帰る荷物もないので魔理沙が箒を取ってくるのを待つ。

鈴仙「なんか体がおかしいなーなんてことがあったらもう一度来てくださいね」

男「わかった。なぁ、ひとつ聞きたいんだがなんでここ中立なんだ?」

鈴仙「静かに暮らしたいからですよ。だからどっちの味方もしませんし敵にもなりません。ただ治すだけです」

男「そうか」

魔理沙「お待たせ。帰るか」

男「おう。さっきのお医者さんにありがとうって言っといてくれな」

鈴仙「わかりました。それではお気をつけて」

272: 2014/02/22(土) 00:26:48 ID:a8VpgEqA
魔理沙の箒の後ろに乗せてもらい飛ぶ。

今いたところは永遠亭、迷いの竹林。そこから東に向かって飛ぶ。高度が戦闘を避けるために高いうえ人間の里を避けているので結構な長距離だが魔理沙の箒のスピードは速くぐんぐんと移動していく。

この前はスピードに耐えれなかったが今回は魔理沙が俺に防御魔法をかけてくれているのでなかなか快適だ。

それでも落ちたらさすがに今度は氏ぬという恐怖心はある。

が、まぁ魔理沙だからそれはない。たとえるならジェットコースターのような安心が約束された怖さだ。

魔理沙「? あそこ変じゃね?」

突然魔理沙が地面のほうを指差す。その方向を見ると冬だというのに一面に花が咲き乱れていた。

魔理沙「幽香かな。あそこは魔法の森の近くなんだが、何しに? 気になるから降りてみるか」

男「大丈夫なのか?」

魔理沙「大丈夫だ。森の中を低飛行で突っ切ればいいし。アリスもいるし」

アリスという人物が誰なのかはわからないがどうやら魔理沙の知り合いでなかなか信頼されている人物のようだ。

魔理沙「んじゃ、行くか」

そういうやいなや魔理沙が急激に高度を落とす。地面に対して直角近くまで箒が傾いているのでおもわず魔理沙にしがみつく。

わずか十数秒で地面から十数メートルまでの高さになる。そこで急ブレーキをかけたが魔法のおかげで衝撃が来ることはなかった。

見た限り魔法の森は光もあまり射さない木々が鬱蒼と茂った森みたいだ。そんな森に花が咲き乱れているのは不自然を通り越して不気味だ。

273: 2014/02/22(土) 00:44:36 ID:a8VpgEqA
そういえばなぜ幽香はこんな自分の居場所を知らせるようなことをしているのだろうか。

戦いたいからか、自分の存在をアピールして他者が近づかないようにしているか。

幽香らしいのは前者だがただの偏見なので確信はない。

魔理沙「さて、と。最初に言っておくが事故ったらすまん」

そんな不安なことを宣言して魔理沙が魔法の森の中へと飛んでいく。

森の中は外から見たのと同じ、いやそれ以上に暗い。

魔理沙「花は全体的に咲いてるのか。道みたいになってればよかったんだがこれじゃあ居場所の特定はできそうにないな。とりあえず適当に飛ぶか」

魔理沙は木々の隙間を綺麗に縫いながら飛んでいく。どうやらさっきの言葉で心配する必要はなさそうだ。

魔理沙「っ!」

魔理沙が急に止まる。なんだと思った瞬間魔理沙の一メートルほど前に鉄製の槍を持った50センチほどの人形が六体並んでいた。

274: 2014/02/22(土) 00:52:03 ID:a8VpgEqA
魔理沙「アリスの半自動防衛人形か。そういやここらへんはアリスの領域だったな」

魔理沙がそう言っている間にも人形は近づいてきていた。人形からは透明な光る糸が出ておりどうやら誰かが操っているようだ。魔理沙の言葉から察するにアリスが操っているのだろう。

魔理沙「男、気をつけろよ。今から無理やり突破するから」

俺の返事を聞かずに魔理沙が加速する。人形はその速度に対応して追いかけてくるが魔理沙はそれを縦や横に移動して避ける。防御魔法が張られているから速度による被害はないが揺さぶられるため酔ってしまいそうだ。

どうやら魔理沙は逃げているのではなく一定の方向に進んでいるらしい。そしてその方向に行くにつれてどんどん花の密度が上がっている。

木々を避け、人形を避け、それを繰り返しているうちに大きく開けた場所にでた。

そこには小さな白い洋館が建っており一面にスノードロップの花が咲いていた。まるで雪が積もっているように見える。

そして玄関の扉の前で驚いた顔でこっちを見る碧眼金髪の少女。

魔理沙「なぁアリス。あれ止めてくれよ」

その言葉と同時に森の中からさっきの人形が飛び出して魔理沙と俺に襲い掛かってくる思わず魔理沙を抱きしめる。

が、痛みはやってこなかった。振り返ると人形は直立して槍を構えずにそこに綺麗に並んでいた。

アリス「こんな時だものセキュリティーを厳しくしておくのは当たり前よね。だから謝らないわよ?」

アリスと呼ばれた少女はそう言って優しく微笑んだ。

275: 2014/02/22(土) 10:40:21 ID:a8VpgEqA
魔理沙「別に怒ったりはしないけど中に入っていいか?」

アリス「えぇ。かまわないわよ。でもそこに咲いてる花踏んじゃうと幽香が怒るわよ?」

魔理沙「おっと危ない。降りて普通に歩こうかと思っていたぜ」

魔理沙がスレスレをすべる様に飛ぶ。玄関について俺を下ろして箒を壁に立てかけた。

アリス「そっちは?」

アリスがいまさらながら俺を怪訝な目で見る。

それもそうだ。俺は人間だからな。念のため怪しくないよとホールドアップしておく。

魔理沙「余計怪しいぜそれ。普通にしてろって。こいつは男。今うちで預かってる人間。敵ではないから安心しろ」

アリス「そう」

そういいながらも俺を見る目はそんなに変わらない。まぁ男というだけである程度の不安材料かもしれないからな。

しかし俺が万一襲い掛かったところで一瞬でネギトロめいた物体にされるだけだと思うのだが。

魔理沙「んじゃ、邪魔するぜ」

中に入る魔理沙に続く。アリスは外を見回して人形達を森の中に移動させてドアを閉めた。カチャリと鍵を閉める音が響く。

アリス「リビングに幽香がいるわ」

廊下を突き当たった先にあるすりガラス付きの扉を開け中に入る。リビングの中は人形がたくさん置いてあること以外よくテレビで見るような洋風の部屋だった。

276: 2014/02/22(土) 11:53:16 ID:a8VpgEqA
幽香「あら」

部屋の中央に位置する机とソファーで幽香が優雅に紅茶を飲んでいた。

かすかに香る甘い花のような香りは幽香の匂いだろうか。

幽香「魔理沙に男じゃない。どうしたのよこんなところで」

アリス「人の家をこんなところとはひどいじゃない?」

魔理沙「空から見て凄い花が咲いてたからな」

幽香「人避けよ。と言ってもたまに人を導いてしまうけども。この私に戦いを挑む馬鹿がいるのよね」

幽香がやれやれとため息をつく。どうやら幽香は自分の強さに絶対的な自信を持っているようだ。

男「それでなぜ幽香はここに?」

幽香「アリスに呼ばれたのよ」

魔理沙「アリスに?」

アリス「ちょっと相談したいことがあってね。魔理沙は私のグリモワールについて知ってるわよね」

魔理沙「あぁ、あの開かない本だろ?」

アリス「そう、その本を使ってしたいことがあったのよ。だから手伝って頂戴」

277: 2014/02/22(土) 12:13:08 ID:a8VpgEqA
アリスが魔理沙を連れて他の部屋へと消える。残されたのはソファーに向き合って座る俺と幽香。

幽香は静かに紅茶を飲んでいるが威圧感が凄くこの部屋を思わず出て行きたくなる。

幽香「ねぇ」

よし出て行こう。外の空気を吸いに行こうと立ち上がろうとしたとき幽香が話しかけてくる。少し浮かせた腰を下ろして少しうわずった声で返事する。

幽香「何よ。私ってそんなに怖いかしら?」

そりゃあ初対面があれだったから。もちろん口にはださない。

男「いや、幽香強いからさ」

幽香「取って食ったりしないわよ。暇だから話をしたいだけ」

男「それなら、まぁ」

いいかと思って深くソファーに座る。話だけならまた投げ飛ばされたりすることはないだろう。

上海「シャンハイ」

この部屋に二人以外の声がした。その声がしたほうを向くと可愛らしい人形がティーカップを持って空中に浮いていた。

いないのにこんなに精密の動くのかとかいつのまにとか可愛い人形だなとか喋るのかよとかいろいろ思ってしまって結局ありがとうとしか言えず紅茶を受け取った。

その言葉に人形はシャンハーイと喋って、いや鳴いて? 笑ってどこかへ消えていった。

まるで生きているようだ。

278: 2014/02/22(土) 12:30:49 ID:a8VpgEqA
幽香「生きてないわよ」

俺の思考を読んだかのような言葉を幽香が言う。

幽香「どこまでいっても人形は人形。完全自立なんて夢のまた夢。まぁ、あの子はその夢を信じてるみたいだけど」

そう言って幽香が扉のほうを見る。

あの子とはアリスのことだろう。アリスはどうやら自動で動く人形を作ろうとしているのだろう。

しかし完全自立とはそれを人形と呼べるのだろうか。ロボットだって誰かに操ってもらわなければ動けない。操り手のいない人形を人形と呼ぶのだろうか。

幽香「ねぇ、外の世界って楽しいのかしら」

男「お前もか」

なんだかやたらと外の話を聞かれる。ここではそんなに外のことが珍しいのだろうか。

幽香「知らないことを知りたいのは知性をもつ生物としての基本的欲求。知らないほうが良い情報も知りたいと思うほどその欲求は強いもの。違うかしら」

男「そのとおりだが」

当たり前のことを話そうとするのはどうしても難しい。魔理沙や子供たちに話したように少し誇大して話すのならまだし幽香はそんなことを求めてはないないだろう。

だが俺の持っている幽香の望む外の情報。それをまとめて吐き出せるほど俺はトーク力を持っていない。

幽香「難しかったかしら。じゃあお題をつけましょうか。あなたの人生………どうかしら」

280: 2014/02/22(土) 12:47:17 ID:a8VpgEqA
男「俺の人生なんて聞いててそう楽しいもんじゃないぜ?」

幽香「面白いかなんて期待してないわ。ただあなたを知りたいだけよ」

………少しタイプだったからそんな言葉を言われると少し照れる。そういう意味じゃないとしてもだ。

男「えっとな」

俺の平坦でつまらない人生を話す脚色も加えてないので面白くもなんともない。

大きな不幸も大きな幸福もないエンターテイメント性にかけた俺の人生。それを幽香は黙って紅茶を飲みながら聞いていた。

相槌すらも打たずこの部屋には俺の声と紅茶をすする音しかない。

そして特に山場もないのであっさりと話し終えてしまった俺の話を聞いて幽香は

幽香「つまらないのね」

と言い捨てた。

幽香「本当何もなさ過ぎて逆に珍しい人生ね。人は誰でも挫折や苦悩を味わうものだと思ってたけど」

幽香は紅茶を飲み干しティーカップを机の上のソーサーに置いた。そして

幽香「ずいぶん薄っぺらい人生送ってるのね」

なんて辛辣な言葉を俺に投げつけてきた。

281: 2014/02/22(土) 13:37:49 ID:a8VpgEqA
面白くない、中身がないというのは重々承知だがそれを言われるとまた辛いものがある。

しかも期待してないとまで言われてるのにこの言葉だ。

一気に疲れてソファーに沈みこむ。

幽香「別に気分を害そうとして言ったわけじゃないわ。本当珍しすぎるくらい普通なのよ」

男「わかってるけどさ。キングオブ普通だって。それでも漫画みたいな人生にあこがれてる一般的な男としては現実を突きつけられると辛いものがあるんだよ」

幽香「劇的な人生なら今現在送ってるじゃないの」

男「まぁ、そういえばそうなんだが」

妖怪や魔法使いに囲まれて生活するのはたしかに漫画らしいがとても胸が躍るような楽しいものとはいえない。魔理沙や四季さんに出会えたことは嬉しいことだが。

幽香「嘆いても時は戻らないし、進み続ける。悲劇も喜劇もひっくるめて全てしかたないとあきらめなさい」

男「………無理だろ」

そんなことができるはずない。20年ほどしか生きてない俺には。

幽香「そうね。そんな生き方できるのは仙人くらいよ」

ならいうなよ。

なんだかずっと幽香のペースでどんどん疲れが溜まってくる。

早く魔理沙戻ってこないかなぁ。

282: 2014/02/22(土) 16:26:42 ID:a8VpgEqA
その願いむなしく魔理沙が帰ってくるのは数時間後だった。

それから幽香にいろいろからかわれたりしながら時間は流れていく。俺の疲労比例しながら。

結局の話この妖怪は俺のことをおもちゃにして時間をつぶそうとしたらしい。怒る前にそう笑いながら告げられ怒る気もうせた。どうせ怒ったところで何もできないのだ。

魔理沙「おっすおっすすまん時間がかかったってなんだ幽香。男をいじめてたのか?」

ぐったりしてる俺を見て魔理沙が察する。その問いに幽香は笑いながら肯定した。

幽香「なかなか面白いおもちゃじゃない。これ」

ついには人扱いまでされなくなっている。

魔理沙「相変わらずドSだな」

魔理沙がため息をつきながら帽子を整える。

魔理沙「帰るか、男」

男「………よろこんでー」

幽香「あらあら。嫌われたかしら」

男「嫌うというか………天敵、かな」

こうして俺の数多くの天敵の中に風見 幽香の名が刻まれた。

283: 2014/02/22(土) 16:34:52 ID:a8VpgEqA
アリス「今日はありがとう。これ中にケーキが入ってるから食べてね。男も幽香が迷惑かけたみたいだから食べて頂戴」

人形が箱に入ったケーキを手渡してくる。なんと優しいことか。未だ結構他人行儀な態度だがそれでもありがたい。

アリス「また来なさい。紅茶ぐらいなら出せるから」

魔理沙「おぅ」

男「世話になった」

アリスに別れを告げ箒をまたぐ魔理沙の後ろに座る。ケーキを崩さないように水平に保って。

手を振る人形達に見送られながら魔理沙が空へと駆け上がっていく。

ケーキのことを忘れて。急角度で上昇していっているからおそらくケーキはぐしゃぐしゃになっているだろう。

男「じゃあ帰るか」

魔理沙「って言っても一日しか経過してないんだけどな」

夕焼けの空を博麗神社に向かって飛ぶ。

いつもどおりの魔理沙のスピードでぐんぐん魔法の森は遠くなり。ぐんぐん博麗神社が近くなった。

284: 2014/02/22(土) 16:49:37 ID:a8VpgEqA
チルノ「ししょぉおおぉおおっ!!」

境内に下りた瞬間チルノが猛スピードで頭からタックルをかましてきた。俺は直撃して吹っ飛び、魔理沙も巻き込まれて吹っ飛ぶ。

チルノ「師匠師匠師匠っ!!」

チルノが胸にしがみついて半泣きで師匠と連呼する。

地面は硬いわ胸の中が冷たくてやわらかいわで混乱してると起き上がった魔理沙がチルノを引っぺがした。

魔理沙「お前もうでかいんだから気をつけろよ」

現在チルノの身長は150程度である。それが走りながら体当たりをしてくると結構な衝撃がある。

魔理沙「感動の対面はいいんだけどな」

チルノ「ごめん」

とりあえず立ち上がって服についた土を払う。どこも怪我をしてないようでなによりだ。

男「魔理沙。大丈夫か?」

魔理沙「怪我はないけどな」

それは良かった。とりあえず罰としてチルノの頭を乱暴に撫でる。チルノはあうあうと鳴きながら抵抗をしていたがしばらくしておとなしく撫でられていた。

285: 2014/02/22(土) 17:20:42 ID:a8VpgEqA
萃香「男っ!?」

外の騒動に釣られて出てきた萃香が俺の顔を見て驚いたらしくはだしで駆け寄ってくる。

萃香「なんでもう治ってるんだい?」

男「なんか四季さんが良く効く薬を使ってくれたとかなんとか」

萃香「そうかい」

萃香はほっと安心したようなため息をはいた。どうやら萃香も俺のことを心配してくれていたらしい。

平坦な人生だったけどこれだけの人から心配されて案外俺はいい人生を歩んでるのかもな。

男「ただいま、萃香。チルノ」

萃香「おかえり」

チルノ「おかえりなさいっ!」

286: 2014/02/22(土) 23:39:22 ID:Vk/0Oxlw
紫「怪我が治って良かったわ。心配してたのよ。それで悪いんだけど明日からまた霊夢と一緒に行動してもらうことになるから」

夕食を食べ終わると橙によって紫の部屋に呼ばれた。

中に入ると紫は俺にそう言う。そのほかには何も言わない。

ただ鋭い眼光だけが俺を射抜く。

その目が伝えてくることは、異論反論は一切許さないということだ。

現在の紫は妊娠中で能力を失い激しい運動もできない。もしかしたら俺でも勝てるのかもしれない。

それでも勝てるという可能性を1%たりとも感じない。どうやっても次の瞬間には俺は地面に這いつくばっている。そう感じてしまうのだ。

これが格の違いだろうか。俺はただ了解の意思だけを告げ逃げるように廊下へと出る。

冬だというのに汗をかいていた。

なぜ紫がここまで俺にさせるのかの理由は分からない。

戦力の問題ではないと思うのだが、その理由を聞く勇気は俺にはないし聞いても教えてくれないだろう。

不安をかかえ自分の部屋に向かって廊下を歩く。歩いていると神社のほうの屋根の上に誰かの影が見えた。

287: 2014/02/23(日) 00:19:46 ID:6YC.juJg
誰だろうか。そう思って靴を履いて屋根の下まで向かう。

霊夢「………」

霊夢がいた。屋根の上でお猪口を片手に月を見上げている。

声をかけていいのだろうか。月を見上げる少女は美しく絵画のようで声をかけるのをためらう。

結局近くでその光景を見続けていると霊夢が俺に気づいてふわりと地面に降りてきた。

霊夢「覗き見? 趣味が悪いわね」

男「ぐっ」

否定ができない。ここで綺麗だったから思わずなんていったらどんな目に合うだろうか。

霊夢「まぁいいけど」

霊夢がお猪口に一升瓶で酒を注ぎそのまま飲み干す。

ほぅとついた息が妙に色っぽく見えて思わず目をそらした。

霊夢「………何よ」

男「べ、別になんでもない」

霊夢「外の世界ではお酒を飲めれる年齢が決まってるらしいけどここは幻想郷だから問題ないの」

霊夢が勘違いしてくれて助かった。とにかく早くここを去りたいので霊夢に別れを告げ自室へと戻る。自室に戻って気がついたらいつの間にか紫と対面したときの恐怖は消えていた。

288: 2014/02/23(日) 00:34:45 ID:6YC.juJg
男「あー温い」

風呂に入りほっと一息つく。なかなか広い風呂を今日は独り占めだ。

タオルを額に乗せて月を眺める。

そういえば霊夢も月を眺めていたな。輝く月は透明な人間にとっては無害で無益な光を地上にばら撒く。その光を浴びていったい霊夢は何を考えていたのだろうか。

風呂に反射する月をすくって見てもそれが分かることはない。

男「まぁ、霊夢も年頃の女の子だからな」

そんな意味不明な言葉でとりあえず納得しておく。

がらがら。

誰かが入ってきた。亡霊男だろうかと一瞬考えたが亡霊男なら音もなく入ってくるだろう。

脱衣場の服に気がつかなかった、と呆れながら湯気の向こうの誰かに向かって声をかける。

男「入ってるぞー」

しかしその誰かは俺の言葉に反応することはなくどんどん俺のほうへ近づいてくる。

水面をかきわけこっちへ向かってくるということは意図的にか?

とりあえず目を手で覆って事故を起こさないようにする。

相手からしてきたとしてもこっちが悪くなるのが男の辛いところだ。

289: 2014/02/23(日) 00:45:29 ID:6YC.juJg
魔理沙「いい湯だな」

魔理沙の声が聞こえた。そして近くで水音。どうやら俺の近くで湯に浸かっているらしい。

男「あぁ、そうだな。すぐ出るから」

そういって立ち上がろうとすると肩を押さえられて強制的に座らされる。

魔理沙「あの、なんだ。立つと見えるからやめてくれ」

明かりが月の光しかないとはいえ立ってしまったら完全に見える。そこは盲点だったがだが俺にどうしろと?

こうやってずっと目をつぶっているのもなかなか辛いものだ。

魔理沙「別に目を開けてもいいぜ」

なんて誘惑を魔理沙がしてくる。別に俺は口リコンではない。そのはずなのだ。

必氏に自分を押さえ込む。

男「………」チラッ

が俺も男だ。誘惑に負けて指の隙間から見てしまった。

魔理沙「ふぅ………」

………魔理沙はバスタオルを巻いていた。

よく考えれば当たり前のことだが凄くがっかりする。

295: 2014/02/23(日) 18:40:37 ID:6YC.juJg
魔理沙「どうした、まさかドキドキしてたのか?」

魔理沙が悪戯っぽい笑みを浮かべる。

男「馬鹿。あと5年したら言え」

嘘です。ドキドキしてました。

でもそれを正直に言ってしまえば少女趣味の変O野郎の烙印が押されてしまう。年齢はともかく見た目は少女が多いここではその烙印を押されるともれなく村八分コースだろう。

それはいやなのでごまかしておく。

魔理沙「ってことは5年たてばドキドキしてくれるんだよな。まさか男は私のことが好きなのか?」

男「それはない」

魔理沙「ちぇー。魔理沙さんの素敵な魅力で悩頃してやろうと思ったのに」

男「というか5年後って俺いないだろ」

魔理沙「あー、そっか。残念だ。なんか男がずっといるって気がして」

男「………」

それも良いかもしれない。平和になったここでずっと皆と過ごすのも。

なんて、そんなことはできない。俺は外の人間だからいつかは帰らないといけない。

………帰らないといけないんだ。

296: 2014/02/23(日) 18:43:39 ID:6YC.juJg
魔理沙「背中流してくれよ」

そういいながら魔理沙が立ち上がる。

その瞬間タオルが取れて湯船に落ちる。

思わず俺は手で目を覆い隠して隙間から見る。

魔理沙「大丈夫だぜ。水着着てるから」

魔理沙は水着を着ていた。

男「なら良かった。別に背中流すぐらいいいけどさ」

魔理沙「ドキドキイベント発生だな」

男「なんでお前はそうやってドキドキをおすんだ」

魔理沙「恋する魔法使いだからだぜ☆」

意味が分からん。

297: 2014/02/23(日) 18:53:34 ID:6YC.juJg
魔理沙「おー、いい気持ちだ」

魔理沙の小さな背中をタオルで洗う。俺よりもずっと小さな背中なのですぐに洗い終わり流す。

魔理沙「なんか男って兄貴みたいだよな」

男「魔理沙も妹みたいだな」

魔理沙「んー。だったらよかったんだけどなー」

魔理沙が俺からタオルを受け取って前を洗う。俺は手持ち無沙汰なので自分の髪を洗うことにした。

魔理沙「なぁ男。やっぱり帰るのか?」

男「まぁ、家族が待ってるし」

魔理沙「私じゃ………だめか? 私は一人暮らしだから住むとこならあるぜ?」

男「………」

いきなりの魔理沙の言葉。

魔理沙はこの歳で一人暮らしをしているのか? まだ小さいのに。

家族はどうしたなんて話を聞くことはできない。

魔理沙「男なら皆受け入れるから大丈夫だって。霊夢も映姫も。だから………」

299: 2014/02/23(日) 19:16:40 ID:6YC.juJg
男「………」

俺だって家族はいる。楽しい思い出だって………………

魔理沙「………」

桶で頭を流すと魔理沙がじっとこっちを見ていた。

嘘や冗談じゃなく、悪戯でもない。

真剣な目だった。

男「いいよ」

なぜか俺は生まれてからずっといた家族よりも数日間過ごしたこの傷だらけの少女を選んでいた。

今までの人生を捨ててまで、気がつけば俺は霧雨 魔理沙という少女を選んでいた。

無意識から出た答えならばそれは俺の本心なのだろうか。

それはまだ分からない。

魔理沙「………!」

でも、泣きながら笑う魔理沙を見て今はまだいいかと思った。

300: 2014/02/23(日) 19:25:26 ID:6YC.juJg
魔理沙「えへへ」

体を洗って再びお湯に浸かる。なぜか魔理沙は俺の両足の間にすっぽりと収まっていた。

なのでぬれた金色の髪を撫でる。

すると俺にもたれかかって来て足をばたばたさせていた。

なんと可愛い妹か。

あー。俺もうシスコンでいいかもって気持ちになる。

魔理沙「なぁなぁ、兄貴ー」

男「いや違う魔理沙。おにーちゃんだ」

魔理沙「? おにーちゃん?」

男「はうあっ!!」

ズキュンときた。

305: 2014/02/24(月) 00:53:28 ID:mccyRLvQ
魔理沙「いい湯だったー」

男「だなー」

霊夢「………」

二人して温泉から出ると寝巻きを持って霊夢がごみを見るような目で俺を見ていた。面倒だけど明日は燃えるゴミの日なのねって感じの冷たい目だっ!

霊夢「………ちょっと紫に告げ口してくるわ」

男「ちょ、ちょっと待て。待つんだいい子だから」

魔理沙「おいおい霊夢。兄貴をいじめんなよ」

魔理沙のその言葉を聞いて霊夢が俺を見る目がさらに冷たくなった。完全にゴミ以下を見る目だ。

霊夢「………氏ぬ?」

男「ごめんなさい事情があるんです殺さないでください」

躊躇なく殺される気がしたので思わず寝巻きだというのに土下座をする。

年下の女の子に余裕で負ける俺。一応霊夢だから仕方ないと言い訳をしておく。

306: 2014/02/24(月) 01:04:42 ID:mccyRLvQ
さっきあったことを簡単に説明してみる。霊夢はそれを黙って聞いていたが俺を見る冷たい目は変わらない。

霊夢「で、言いたいことは妹が欲しいから魔理沙を妹にしました。そうです僕は変Oですってこと?」

男「OK。どこかで決定的に意思伝達の齟齬が発生しているようだ。使用している言葉は日本語で大丈夫か?」

霊夢「は?」

霊夢が威圧的にそう言い放つ。怖い。

魔理沙「えっと私がお願いして男に家族になってもらったんだ」

霊夢は魔理沙の言葉を聞いてやっと納得はできないものの理解はしたらしく小さく頷いて、俺のすねを思いっきり蹴ってそのまま風呂へ向かった。

弁慶ですら大号泣するといわれる場所を少女らしからぬ一撃で蹴られた俺は再び地面に倒れ伏して痛みにしくしくと泣いた。

嫌われてるのは分かってるけど一緒に行動するんだからもう少し態度和らげてくれてもいいのに。

308: 2014/02/24(月) 21:06:10 ID:mccyRLvQ
次の日、時間は6時くらいだろう。日はまだ昇っておらず外は暗い。なのに

魔理沙「朝だぞー」

布団にまたがって揺らしてくる魔理沙がいた。

男「………あと五分、いや十分寝かせてくれ」

魔理沙「駄目だぜ。早起きは三文の得だ」

男「三文って大体60円くらいだ。寝てたほうがマシだな」

魔理沙「そんな屁理屈を」

魔理沙が今までよりも強く揺らしてくる。

今までの問答とゆれのおかげで睡魔は残念ながら去ってしまいやれやれとあくびをしながら体を起こす。

魔理沙「わっ」

その過程でまたがった魔理沙が畳に頭をぶつけていたがまぁ俺には関係のないことだ。

309: 2014/02/24(月) 21:53:22 ID:mccyRLvQ
魔理沙「可愛い妹になんてことを」

男「可愛い妹なら兄のお願いを聞いてくれ」

睡魔が去ったとは言えまだ完全に覚醒をしたわけではない。ぼんやりとした頭をすっきりさせるために顔を洗いに行かなければ。

魔理沙「だってどうせ今日も霊夢と行くんだろ? 私は別のところだから………」

男「そこは、まぁ仕方ないな」

紫にもう一度頼んでも帰ってくる答えは一切変わらないだろう。長い時間をともにすごしたいという魔理沙の気持ちは分かる、というか俺もわりと同じ気持ちだったりするがそれでも紫に断固講義なんてできるわけがない。

障子を開いて外へ出る。冬の朝の斬られるような寒さが襲ってきて思わず布団に再びもぐりこみたくなるがぐっとこらえ一番近い台所へと向かう。

男「あー。さむさむ」

魔理沙「だらしないぜ」

なんていってる魔理沙の懐に八卦炉が入っているのを俺は知っている。が、得意げな顔で言ってくる魔理沙が可愛いので黙っておこう。

台所ではすでにいい香りと包丁の音が響いていた。

どうやらすでに亡霊男は起きているらしい。

亡霊は寝るのだろうか。まぁ、それはどうでもいい。魔理沙とともに台所へ入る。

310: 2014/02/25(火) 10:41:38 ID:TB3nAdog
亡霊男「おはようさん。どうした二人仲良く」

魔理沙「えへへ。なんと男は私の兄貴になったんだぜ」

男「魔理沙が妹になった」

その言葉に亡霊男はぽかーんとして、はぁ、と生返事をした。

まぁ、それもそうだろう。いきなり他人同士が兄妹になりましたとか言われてどこの桃園の誓いですかだもんな。

亡霊男「なんだかよく分からんがおめでとう」

魔理沙「へへへっ」

ぐらぐら

男「味噌汁沸騰してるぞ」

亡霊男「しまったっ」

311: 2014/02/25(火) 11:01:37 ID:TB3nAdog
霊夢「………」

起きてきた霊夢ににらみつけられる。ありがとうございます。

男「おはよう霊夢」

霊夢「………」

案の定無視をされる。もし初対面があれじゃなければ俺は霊夢ともう少しましな関係を築けていたのだろうか。

魔理沙「なぁ霊夢。なんでそんなに兄貴のこと嫌いなんだ?」

霊夢「変Oだから」

言い訳をさせてもらうなら事故です。不運な事故なんです。

魔理沙「そうか?」

霊夢「トイレ覗き。チルノに抱きつかれる。魔理沙と一緒に風呂に入る。これが普通の男だっていうなら霖之助さんはもしかすると女かも知れないわよ」

魔理沙「あいつ朱鷺子と同棲してるだろ」

霊夢「あーそういえばそうね。男性って変Oが普通なのかしら」

変Oじゃないやいとは言いたいがシスコンなので強くはあんまり否定できない。

そういえば話に出てきた霖之助とはいったい誰だろうか。珍しく男のようだが。

312: 2014/02/25(火) 11:20:45 ID:TB3nAdog
男「霖之助って誰だ?」

魔理沙「私と霊夢の昔なじみの知り合い。人間と妖怪のハーフだから私たちとはだいぶ歳が離れてるけどな」

人間と妖怪のハーフ。そんなのがいるのか。まぁ外見自体は人間に近いのいるしなぁ。

そういえば紫の今度生まれる子供もたしか人間と妖怪のハーフか。

興味はあるがだからといって会いにいけるような場所ではないな。俺飛べないし。

魔理沙「なんなら会いに行くか? たぶん今日は午前中私たちで午後が他のやつらだろうから。兄貴も午後は暇だろ?」

俺の考えを魔理沙に読まれる。俺はそんなに顔に出やすいのだろうか。

霊夢「魔理沙」

魔理沙「ん、あぁ。ごめん」

男「気を使われるほうが悲しくなるからやめてくれ」

たしかに午後は暇だ。暇になったから。

暇になってしまったから。

313: 2014/02/25(火) 11:34:38 ID:TB3nAdog
朝食を食べ終わり、霊夢と共に今日はどこへ行くかを聞く。

紫は藍さんに頼んで地図を持ってきてもらいそれを机の上に広げた。

地図には広い幻想郷の大体の場所が書いてある。といっても場所なんて数えるほどしかない。名前がついてない場所のほうが圧倒的に多いからだ。

紫「ここでひとつお知らせがあるわ」

霊夢「何?」

紫「レミリアが紅魔館を捨てたわ。現在いる場所は」

紫が地図上の一点を指す。そこにあるのは人間の基地。

紫「レミリア達は紅魔館を捨て人間の基地を襲いそのままそこを拠点とした。それは真昼間に行われた。なぜそれができたのか」

霊夢「レミリアもフランもいないのに………そういえば」

紫「心あたりがあるみたいね」

霊夢「吸血鬼が一人増えたわ。たしか名前はウィルヘルミナ」

そうだ。紅魔館にはもう一人吸血鬼がいた。親よりも大きなウィルヘルミナが。

しかしウィルヘルミナが吸血鬼だとしてなぜ昼間に動けるのか。

紫「とりあえずレミリア達に会って話を聞いてきて頂戴」

霊夢「分かったわ」

314: 2014/02/25(火) 11:54:28 ID:TB3nAdog
太陽は出ているとはいえ今日も冬はがんばって幻想郷に寒さを届けている。少し休めといいたいが何語で語りかければいいのやら。

男「はぁっ………はぁっ………」

しかしその寒さが絶賛マラソン中の俺にはありがたかったりする。

霊夢は今日も容赦なく。いや前日以上に容赦なく空を飛ぶ。対して俺は凡人らしく地面の上を木などの障害物を避け進む。なぜ霊夢は道の上を飛んで行ってはくれないのだろうか。

霊夢「遅いわよ」

霊夢からありがたい応援のお言葉が飛ぶ。もう少し速度を落としてくれてもいいのに。

肺が酸素を求め、体が急速を求め、口から鉄の味がする。さすがにフルマラソンとは行かないまでも10キロを普通に超えるマラソンは特に運動部に所属していたわけでもない俺にとっては拷問に近い。

なのでふらふらしている俺は横から飛んできた光の玉を避けることができなかった。

男「うべろっ」

わき腹に強い衝撃。右に向かって倒れ、木で頭を打つ。出欠はしていないがそれでも即座に再行動できるほどの軽い痛みではない。

痛みに思わず閉じた目を開くと飛んでくる二発目の光の玉。

男(よけれねー)

意識をやってくる痛みを耐えることに集中させる。

が、光の玉は俺の目の前ではじけて消えた。

315: 2014/02/25(火) 12:15:31 ID:TB3nAdog
霊夢「なんであんたがここにいるのよ」

結界を張って霊夢が防いでくれていた。ここでようやく光の玉を撃ってきた主が分かる。

霊夢よりも小さな少女。しかし人間じゃないということは体から出た管につながっているぎょろぎょろと動く眼が教えてくれる。

さとり「その男はあなたの知り合いですか?」

霊夢「残念なことにね」

さとり「そうですか。それはすみませんでした。今のは身を守るための攻撃です。こんなご時勢ですから」

妖怪が無表情無感情でそういう。つまりどうやら俺は敵と判断されて殺されようとしていたみたいだ。

命の危険を今更に感じて背筋が冷える。どうやらもう敵ではないようだが。

霊夢「で、もう一回聞くけどなんであんたがここに?」

さとり「ただの情報収集ですよ。地底の主として皆を守る義務があるので」

霊夢「情報収集なら人里にこいしを行かせればいいんじゃないの?」

さとり「そうですが、こいしが現在どこかへ消えてしまってそれを探しているのです」

霊夢「そ、手伝いはしないわよ」

さとり「期待ははじめからしていません」

316: 2014/02/26(水) 15:02:32 ID:Y16utSfA
こうして会話を終え眼の妖怪の少女は無感情に無表情に森の中へ消えていった。

ひとりの小さな少年を引き連れて。

男「あれは………人間?」

霊夢「人間よ。たしかさとりと暮らしてる人間じゃなかったかしら」

男「さとり?」

霊夢「さっきの妖怪よ」

男「妖怪と一緒にいる人間もいるもんなんだな」

霊夢「基本的に例外よ。人間と一緒にいる妖怪なら結構いるみたいだけど」

そういえば霊夢も人間なんだよな。人間っぽくないから忘れてたけど。

そう思い霊夢をじっと見てたらスピードを上げて飛んでいった。

まだ痛む体を急いで起こしてそれについていく。

おそらくまだ距離は大分ある。俺はついていけるのだろうか。

317: 2014/02/26(水) 15:27:45 ID:Y16utSfA
男「うえぉろろろ」

霊夢「情けないわね」

なんとか無事にたどり着いた。紅魔館の人たちがいるのは元人間の基地。といっても今はすでに改造されて基地というよりは砦や小さな城といったほうがいいような外見になっている。しかもなぜか赤い。

霊夢「じゃあ情報収集と行かなきゃならないけど」

そう言って俺は霊夢に置いていかれた。まだ体力が回復しそうにないので地面にへたり込んで大きく深呼吸をなんども繰り返す。

美鈴「こんにちは。お水をどうぞ」

赤い髪をした女性、たしか美鈴さんだったかな。美鈴さんが俺に水を差し出す。

男「ありがとうございます」

それを一気飲みしてやっと一息つけるぐらいに回復した。とりあえず立ち上がって美鈴さんに話を聞く」

美鈴「さぁ、私はただお嬢様の命令に従ってるだけですからね」

情報収集失敗。

美鈴「んー、やっぱりどこかで嗅いだ事のある匂いなんですよね」

そういいながら美鈴さんが俺の首あたりでくんくんと匂いをかぐ。くんくんと嗅いでいる美鈴さんには見えないだろうが後ろで犬のような耳のはえた男がこっちを見ている。

狼男「………」ニコニコ

凄く見ている。

320: 2014/02/26(水) 22:38:53 ID:Y16utSfA
狼男「美鈴」

美鈴「ひゃぉうっ!」

犬耳の男が美鈴さんに声をかけると美鈴さんがものすごい勢いで振り返った。それに巻き込まれて顎を強打する。

美鈴「こ、これは違いますよ!? 浮気じゃないですよ!? 私は狼男さん一筋ですよ!? 愛してます!!」

狼男「別に私はそんな心配はしてませんよ」ニコニコ

もの凄い狼男と呼ばれた男がニコニコしている。それが逆に怖い。

狼男「怒ってませんよ本当に。えぇ、本当に」

美鈴「せめて理由を聞いてくださいっ!」

狼男「………仕方ありません。浮気でないのなら良いのですが浮気だったばあい実家に帰らせていただきます」

美鈴「実家ってどこですか!?」

狼男「影狼さんの家ですね」

美鈴「!?」

321: 2014/02/26(水) 22:47:38 ID:Y16utSfA
狼男「なるほど。この男性の方の匂いをどこかで嗅いだことがあるが思い出せないのですね」

男「信じられないかもしれないが本当だ。というか美鈴さんにあったのはこれで二回目だ。一回目は紅魔館に行ったとき挨拶したぐらいだ」

狼男「………嘘臭くはありませんね。では失礼します」

狼男が近づいてきてさっきの美鈴さんのように匂いをかぐ。なんだか狼男って優しそうな犬みたいな感じだよな。やだイケメンっ。

狼男「………これは」

狼男が驚いたように何度も匂いをかぐ。

なんだろうか。もしかして俺は妖怪にとっては良い匂いがする存在なのだろうか。やったね、妖怪にモテモテだー。なんてそんなわけないか。

狼男「美鈴と似た匂いがしますね」

美鈴「へ?」

男「さっきの美鈴さんの匂いがついただけなんじゃ?」

狼男「嗅ぎ分けることぐらいできますよ。でもなぜかあなたからは美鈴さんに凄い良く似た匂いがします」

………それがどういうことなのかは分からない。

だが不思議なこともあったものだ。

322: 2014/02/26(水) 23:05:05 ID:Y16utSfA
男「そういえばフランやレミリアはどこにいるんだ?」

狼男「お嬢様と妹様は日に当たらないように建物の中にいます」

まぁ、やっぱり吸血鬼なだけあって太陽には弱いのか。パチュリーもだろう。

今のところ外に見えるのは多くのメイド妖精とウィルヘルミナ。普通に太陽の下にいるがなぜ無事なのか。

気になったので狼男に聞いてみる。

狼男「ウィル様に普通は通用しませんから」

男「?」

普通じゃないってことか? いやわざわざ普通は通用しないってことはいろいろ規格外のイレギュラーなのか?

悩んでいると美鈴さんが教えてくれた。

どうやらウィルヘルミナは運命を破壊する程度の能力。ああすればこうなるの因果を無視したりできるそうだ。なるほどわからん。

323: 2014/02/26(水) 23:40:13 ID:Y16utSfA
狼男「よろしかったらウィル様とお話されてみますか?」

男「ん。それは助かるがいいのか?」

レミリアとフランの娘らしいが。

狼男「はい。ウィル様は退屈そうでしたので」

ようするに話し相手になってやれと。ありがたい。

狼男に連れられ中央の広場にいるウィルヘルミナへ会いに行く。ウィルヘルミナはぽつんと立って忙しそうに作業をするメイド妖精を眺めていた。

狼男「ウィル様。よろしいでしょうか」

ウィルヘルミナが視線をメイド妖精から狼男へと移す。

ウィル「構わない」

狼男「この男様がウィル様とお話をしたいようなのですが」

ウィル「分かった」

ウィルの口調は見た目とは裏腹にあまり子供らしいしゃべり方ではない。しかし大人っぽいわけでもない。たとえるなら言葉遣いをしつけられた子供のような違和感のある言葉遣いだ。

狼男「ではこちらへどうぞ」

狼男が近くにある木でできた建物の中へ俺とウィルヘルミナを招く。

中はシンプルな居住スペースのようでいくつかのベッドと机椅子。あとはタンスぐらいしか置いていなかった。

324: 2014/02/26(水) 23:56:41 ID:Y16utSfA
吸血鬼「あれ? ウィル様どうかしましたか?」

そしてメイド服を着たこうもりの翼を持つ少女。

………どう見ても吸血鬼だよな。なのにメイド服ってどういうことだ。

とにかくそれがせっせと掃除をしていた。

狼男「吸血鬼さん。この部屋はウィル様とお客人が使われるので後はよろしくお願いします」

吸血鬼「わかったよ」

そう言って狼男は出て行った。

建物の中に残った三人。とりあえず椅子に座ってウィルヘルミナに話を聞いてみよう」

男「ウィルヘルミナは」

ウィル「ウィルで良い」

男「ウィルがここを攻めたのか?」

その質問にウィルはこくりと頷いて少し得意げな顔をした。

まぁ、弱点がない吸血鬼だからそれぐらいはやってのけるのだろう。

なぜ紅魔館を捨てたのかの情報を集めるのは霊夢に任せて俺はウィルや他の人たちについて情報を集めるとしよう。

325: 2014/02/27(木) 14:48:58 ID:uYu4Ihpw
男「そういえばウィルは違う世界から来たんだよな」

ウィル「あぁ。違う運命から。でもこっちのお母様も優しくしてくれる」

未だにレミリアとフランがウィルの親ということに慣れないがしっかり親をやっているようだ。

男「良かったら紅魔館の皆について教えてくれないか?」

ウィル「分かった。レミリアお母様はたまに子供っぽいところもあるけど優しくて強い」

男「優しいのか」

であったときが血まみれの部屋だからな。そんな感じ一切しなかったわ

ウィル「フランお母様はレミリアお母様よりも子供っぽい、というか子供」

あんまりいらない情報だな。フランの性格は見たとおりだし。

ウィルはなかなか嬉しそうに二人のことを話す。プリンを作ってくれたとかそんなたわいもない親子の話を。

関係はないが楽しそうだからいいか。

326: 2014/02/27(木) 15:22:36 ID:uYu4Ihpw
男「他の皆はどうなんだ?」

ウィル「あ………えっと咲夜は仕事をきっちりこなすけどたまに抜けてるところがある」

ウィル「美鈴は優しいけど結構仕事をサボってる。そのたび狼男か咲夜に怒られてる。でもお母さんが美鈴は強いって言ってた」

美鈴さんって仕事サボるのか。それにしても吸血鬼に強いって言わせるとはどれくらい強いのだろうか。萃香ぐらい? まさかな。

ウィル「パチュリーは………本ばっかり読んでて時々お母様と一緒になにかやってる」

ウィル「小悪魔は………えっと狼男は美鈴と結婚してて紅魔館ではホフゴブリン以外の唯一の男。優しいけどなんか咲夜が匂いフェチだとかなんとか。意味は分からない」

流された小悪魔も可哀想だけど匂いフェチって言われてる狼男も可哀想だな。そして誰だホフゴブリン。

ウィル「ホフゴブリンはお手伝い、見た目は怖いけど良い人」

見た目が怖い………できれば会いたくない。いやいや見た目で判断するのもな、良い人って言われてるし。

つくづく幻想郷では見た目は関係ないと思い知らされるからな。萃香に投げられ霊夢にしばかれチルノに体当たりされるたびにそう思う。

328: 2014/02/27(木) 15:35:52 ID:uYu4Ihpw
吸血鬼「お茶をどうぞ。しゃべってるとのどが渇きますからね」

男「そういえば吸血鬼っぽいけどなんでメイドを?」

吸血鬼「………」ガタガタガタガタ

いきなり青くなって吸血鬼が震えだす。

ウィル「吸血鬼はお母様にトラウマがあるみたい」

吸血鬼「そ、それ以上すると再生できなくなるから、駄目、やめて」ブルブル

うん、トラウマを再体験中のようだ。そっとしておいてあげよう。

ウィル「大丈夫。もうあなたも紅魔館の一員だから」

ウィルが吸血鬼を優しく抱きしめる。眼福。

吸血鬼「ウィル、お嬢様」

ウィル「よしよし」

そうやってウィルと吸血鬼が感動のシーンをしていると外から何か大きな音が聞こえた。

何か爆発したような。

329: 2014/02/27(木) 15:41:36 ID:uYu4Ihpw
ウィル「!」

ウィルが素早く外へと飛び出す。俺も遅れて外へ出ると美鈴さんがいたあたり、門ら辺から黒い煙が上がっていた。

まさか人間が? あまり戦力にならないことを理解しながらも走ってそっちに向かう。

吸血鬼「人間っ!!」

後ろから吸血鬼の声が聞こえたので走りながら振り向く。

吸血鬼「ウィル様が危なくなったら身代わりになって助けろっ。必ずだぞ!!」

吸血鬼が建物から出ないように注意しつつこっちに向かってそう叫ぶ。

なんて無茶振りを。

とりあえずサムズアップだけしておいて走った。

330: 2014/02/27(木) 16:05:37 ID:uYu4Ihpw
ウィル「………」

門ではウィルと美鈴さんが人間と対峙していた。

人間はそう数が多くないが手には銃などで武装している。おそらく爆弾も持っているのだろう。

ウィル「なぜ私たちを狙う」

美鈴「駄目ですよお嬢様。あちらさん聞く耳なんて持ってませんから」

ウィル「戦わなければいけない………のか」

美鈴「えぇ、まことに残念ながら」

美鈴さんが首を横に振りながら門へ、つまり砦の中へ向かって歩き出す。

門番なのに守らないのか。それともウィルが強いのか。

美鈴「ここは危ないです。中へ行きましょう」

男「約束してしまって俺はウィルが危なかったら助けないといけないんだ」

美鈴「ウィルお嬢様が危ない………なんてことは起こらないと思いますが、まぁいいですよなら私が守ってあげます」

美鈴が俺の前に立って構える。流れ弾がこっちに来たらはたき落とすのだろう。人間では到底無理なことでも妖怪ならばできるのだろう。

331: 2014/02/27(木) 16:21:38 ID:uYu4Ihpw
美鈴「面倒なことに相手は儀礼済みの弾丸を使用してましてね。これが妖怪、特に西洋妖怪にとっての弱点なんですよ」

だからもし守れなかったらすいませんね、と不吉なことを美鈴さんが言う。

今更だがもう中に入ってしまおうか。そんな臆病風に吹かれるがウィルが戦うのだからとここでいざというときに守ることを決意する。

パンッ

そんな音がいくつもなって

ウィル「………っ」

ウィルの体から血が噴出す。

男「お、おい!?」

美鈴「大丈夫です。あれくらいじゃ傷にはなりませんから」

美鈴さんの言うとおりで噴出した血はすでに止まっている。そしてからんからんと体内から地面へと落ちていく銃弾。

男「弱点なんじゃないのか?」

美鈴「ウィルお嬢様に常識は通用しませんよ」

332: 2014/02/27(木) 16:46:14 ID:uYu4Ihpw
ウィル「無駄だとは知っているがこれで正当防衛だ」

その言葉を言い終わるとウィルが地面を蹴り駆け出し………いや、飛んでいた。

強すぎる脚力による踏み込みは重力の影響を無視できるほどにウィルの体を加速させていた。

速ければ速いほど威力が強くなるのは当たり前だ。ならば弾丸のごとき速度で駆けるウィルの一撃は?

ウィル「!!!!」

ウィルの行動が見えたわけじゃない。おそらく今とっているポーズから殴ったのだろうと判断する。

殴られた氏体が破裂している。なんというスプラッター。

今更吐いたりはしないがそれでも見るのはあまり好きではない。

そんな惨劇に人間達が一斉に銃をウィルに向けて撃った。ウィルは今人間達の真ん中にいる。そんな状況で撃てば仲間に当たるのは当たり前で、ウィルが何もしてなくても何人かは倒れていった。

そして肝心のウィルは。

ウィル「………痛いな、やはり」

そういいながらも事も無げに立っている。

服が赤く染まってぼろぼろになっているというのに血が噴出しているのに、それでもウィルはまるでそれが水鉄砲であるかのように平然としていた。

333: 2014/02/27(木) 18:55:20 ID:uYu4Ihpw
ウィル「もしかしてただの人間が私を倒そうだなんて思ってたのかも知れないが、そんな運命どこにもないぞ?」

そういいながらウィルが人間達を文字通り千切って行く。ただウィルが手を振る。それだけで人間なんて真っ二つになる。

ウィル「さよなら、だ」

最後の一人を首を刎ねてウィルが血に塗れた手を下ろす。

男「俺の出番とかひつような―――」

ドンッ

重く響く音がした。爆炎と衝撃。

爆弾が起爆したらしい。それもそうだ。相手は始め以外爆弾を使ってないのだから。その理由について考えておくべきだった。

最初から氏ぬつもりだったのか。

このやり方はあいつを思い出させる。もしかして近くにいるのだろうか。

男「鬼人………正邪っ」

334: 2014/02/27(木) 19:09:45 ID:uYu4Ihpw
美鈴「ウィルお嬢様!!」

そうだ、今は正邪のことを考えてる場合じゃない。

ウィルは大丈夫なのだろうか。

近くでも煙で見えない。衝撃からしてかなり強力な爆弾だろう。

煙の中へぐにょりとしたものを踏みながら手探りでウィルを探す。

男「ウィルか!?」

手に触れた何かを掴み引き寄せる。

それはがさがさとしていて

男「―――っ!!」

煙がはれた。そこにいたのは

ウィル「………………」

肌が黒く炭化し、ところどころの肉がなくなっているウィルだった。

335: 2014/02/27(木) 19:15:32 ID:uYu4Ihpw
また、また俺は守れなかったのか。

男「なんでだ、なんでなんだよぉおおおおぉおおお!!」

そのぼろぼろになった体を抱きしめる。

顔に生ぬるい血がつく。抱きしめた体は当たり前だがまだ暖かかった。

特にウィルに思い入れがあるわけではない。だが助けると約束したのに守れなかった。

この身を盾にすら出来なかった!!

ウィル「………………痛いぞ」

男「………え?」

ウィルが喋る。てっきり即氏かと思ってたが。

ウィル「離してくれると助かる」

男「あ、あぁ」

ウィル「氏ぬかと思った」

そういいながらウィルが歩いて砦へ向かっていく。

足の肉とかなくなって骨見えているのに大丈夫なのか?

336: 2014/02/27(木) 19:17:46 ID:uYu4Ihpw
美鈴「………これはさすがに驚きました。あそこまで常識が通用しないんですか。レミリア様でも今のはさすがに即入院コースですよ?」

ウィルを呆然と見送ったあと美鈴さんがそう言った。

ウィルは炭化してところどころ肉がなくなっているという超スプラッタな外見で砦の中へ入っていった。

メイド妖精の叫びが響く。

ウィル「あ、追わなきゃ」

美鈴「そ、そうですね」

いくら普通に動いているとはいっても怪我は怪我だ。治療をしなければ」

337: 2014/02/27(木) 21:37:59 ID:uYu4Ihpw
ウィルをつれてさっきいた建物へと入ると吸血鬼がウィルを見た瞬間に悲鳴を上げて俺に殴りかかってきた。

男「ぐべろっ!?」

吸血鬼のパンチは凄く痛かった。地面をごろごろといつもより多く転がりながらそう思った。

男「………しぬぅ」

立ち上がって服についた砂やらを叩いておとす。殴られた顔がやばいぐらい痛い。

骨折れてないよなぁと特に痛む鼻を押さえながら戻ると吸血鬼が甲斐甲斐しくウィルの手当てをしていた。

黒く炭化した場所に軟膏を塗っていく吸血鬼を見ていて思ったのだが力で屈服させられたのにその娘をずいぶん大切にしているな。

ウィル「いたい………」グスッ

吸血鬼「あぁ! 申し訳ありません!」

本当、なんでだろうな。

338: 2014/02/27(木) 22:43:20 ID:uYu4Ihpw
ウィル「ん………治ってきた」

男「早いな、マジで」

見ると炭化した皮膚が剥げ下から新しい皮膚が除いている。肉も目に見える速度、といってもナメクジの歩行速度みたいなもんだがどんどん再生していっている。

吸血鬼「ウィル様にこれだけのダメージと再生の阻害を与えるなんていったいどんな神が儀礼を施したのだ?」

吸血鬼がウィルの傷口を見ながらそうつぶやく。意味は分からないがとにかく相手側に凄いのがいるのだろう。

吸血鬼は治ってきている傷を見て微笑むと念のためにと包帯を巻いた。両腕や顔にも巻いているのでミイラにしか見えない。

ウィル「いらないのだが………」

吸血鬼「駄目です」

ウィル「動きづらい………」

339: 2014/02/27(木) 22:48:38 ID:uYu4Ihpw
レミ「ウィル!!」

治療が終わりウィルを一応安静にさせているとレミリアが扉を思いっきり開け中に入ってきた。

レミリアは持っていた傘を投げ捨てウィルに駆け寄る。

レミ「大丈夫? 痛くない? なにかして欲しいことはある?」

矢継ぎ早に繰り出される質問にウィルは嬉しそうに笑って大丈夫と答えた。

レミ「………ごめんなさい。戦わせてしまって」

ウィル「お母様守りたいから」

レミ「ありがとう。ウィル」

男「………」

この空間に部外者がいるのもなんなので俺はクールにこの場から去ろうと思う。

男(とりあえず大事がなくて本当良かったな)

340: 2014/02/27(木) 22:54:52 ID:uYu4Ihpw
霊夢「そう。大変だったわね」

霊夢に今までのことを伝えると霊夢は言ってふわりと空中に浮いた。

霊夢「もう帰るわよ。ここにいてもすることがないから」

男「………それもそうか」

ウィルの様子を見ておきたかったが部外者が深くかかわるのも迷惑だろう。

男「げ、またマラソンかよ」

霊夢「………はぁ。仕方ないわねスピード落として飛んであげるわよ」

霊夢はもう一度長いため息をはいて俺の軽めに走る速さぐらいで飛んだ。

これなら時間はかかるが氏ぬほど疲れるようなことはないだろう。

そういえば初めて霊夢が俺に優しくしてくれたような。

まぁ、気まぐれだろうがなんだろうがいいや。楽が出来る。

341: 2014/02/27(木) 23:16:03 ID:uYu4Ihpw
霊夢「ウィルヘルミナの能力はね」

博麗神社まであと半分ぐらいのところで霊夢がいきなりそう話し始めた。

霊夢「運命を破壊する程度の能力。レミリアの運命を破壊する程度の能力もわけがわからないけど」

走っていて息が切れているので相槌は打てないが霊夢の話は真剣に聞いておいたほうがいいみたいだ。

霊夢「レミリアの能力が台本を読んで書き換える能力だとしたらウィルの能力はその台本を無視して行動を起こすことが出来る。アドリブで行動できるのよ。誰かが氏ぬ運命ならばそれを変えるために行動が起こせる。といっても不治の病を治したりはできないわ。あくまで出来るのは自分主体。自分のことならば熱湯をかぶってもやけどをしないなんて因果を無視したことができるけど他人ならば自分が行動を起こさなければそのまま。起こせば確定したことを変えることが出来る。まぁ確実ってわけじゃないけれど」

………分かりやすく話してくれているみたいだけどあんまり良く分からん。つまりナイフを持ってやつに刺される人がいるとしてウィルはそれに割り込むことが出来るってことか? ナイフを持ったやつを倒せばその人は刺されないで済むけど倒せなければその人は刺される。こんな感じだろうか。

霊夢「それでも強力な能力ってことには変わりないわ。運命を切り開けるんだから」

男「でも、ウィル、怪我した、ぞ」

霊夢「儀礼してあるからよ。ウィルヘルミナは能力である程度は神の力を消せるみたいだけど強力な力を加えられると能力が追いつかないみたいね。因果を無視しようとする前に結果を確定させられる。銃弾と爆弾じゃこめられてる力の強さが違ったのよ」

ということは神の力をどうにかしないとまた同じことがおきるかもしれないってことか。

神となると、あの妖怪の山で出会った少女を思い出す。

相手にはいったいどんな神がついているのだろうか。

342: 2014/02/27(木) 23:23:06 ID:uYu4Ihpw
男「や、やっとついた」

行きよりはだいぶましだがそれでも足が震える程度には疲れている。正直もうすでに休みたいが魔理沙と出かけなければならないのか。

仕方ない可愛い妹のためならなんのそのだ。

霊夢「それじゃ」

霊夢は飛んでどこかへ消えていった。何をするのかは知らないが今は魔理沙を探すことにしよう。

見た感じ境内にはいないようだが。

男「いったいどこに、いたぁっ!?」

背中に衝撃。しかもなぜかその衝撃は斜め上から来た。首に回された手と視界の端に見えた金色の髪で魔理沙だと判断する。

魔理沙「おかえりっ」

男「ただいま。重い」

魔理沙「乙女にそんなこと言っちゃ駄目だぜ」

乙女が空中からフライングアタックをかましてくるかよ。

男「で、もう行くのか?」

魔理沙「あぁ。兄貴がいいなら今すぐにでも」

351: 2014/03/01(土) 00:13:21 ID:vxLKOfUU
~俯瞰視点~

命を奪うことが悪だとしよう。なら私はどうしようもない神様ですら見捨てるような極悪人だ。

なぜなら私は他人の命を奪うことを毎日繰り返している。数人ではない。数十人数百人。

これではとても天国にいけそうにない。どうせ私には天国なんて似合わない。

そんな風に犬走 椛は諦めていた。

椛の仕事は軍の指揮をとっていかに効率よく、こっちの被害を抑えて殲滅するかだ。妖怪の森を監視して侵入者が来れば排除するだけの警備のような仕事しかすることができない白狼天狗がただの一般兵でなく軍を率いる指令官をするのは異例のことだ。

なぜ彼女がその地位についているかというと彼女は誰よりも大将棋が強い、おそらく妖怪の森だけではなく幻想郷の中で一番。普通の将棋よりも大きく駒の数が多い大将棋は当たり前だが将棋よりもはるかに難しい。なのにまだ天狗の中では幼い彼女がそれを自在に操り勝利している。

普通天狗というのはどんなことがあっても愚かに上下関係を守り続ける。たとえ上司が自分よりも弱く愚かでもそれが自分より上の身分なら従い続ける。下克上なんて言葉は存在しない、それが天狗の社会の基本だった。

なのになぜ大将棋が強い。そんな理由で白狼天狗なのに上の身分の天狗に命令できるような地位になれたのか。それは現在の天魔、山ン本五郎左衛門に大将棋で勝ったことがあるからだ。

自分よりはるか上の身分の天魔と大将棋をし、手を抜かず勝利したことで椛は山ン本に顔と名を覚えられている。それが今回に繋がった。

結果としては山ン本の選択は間違っていなかった。それどころか大当たりといってもいい。椛は個々の特性を見抜く観察眼と特性を上手く利用した策を使い、勝ち続けた。何より恐ろしいのが千里眼を使い戦いの全てを把握して最適の策に変えていく完全管理戦闘。いうなれば椛は将棋を打つように戦っていた。

しかし唯一の椛の弱点は彼女が心の弱い妖怪だったことだ。

352: 2014/03/01(土) 00:28:52 ID:vxLKOfUU
椛は白狼天狗だが他の天狗よりは人里に近い生活を送っている。仕事ゆえに人間を見下すような態度を取ったりするが本人はあまり人間を嫌っていない。むしろ非番の日は人間の里に出かけることもあるぐらいだ。

だから彼女にとってはこの状況はあまりにも辛いことだった。

―――今氏んだのはそば屋の若い店主だ。あそこのそばは美味しかった。その近くで氏んでいるのはそこの従業員だろう。

千里眼を持った彼女は誰が氏んだかを全て把握していた。そしてその中に知り合いがいるたび彼女は深く傷ついていく。

しかしだからといってこんなのはいやだといえるような性格を彼女はしていない。上の言うことには従わなければいけない。そんな天狗の一般的な性格だった。

椛「1番右下の隠れている敵を撃破後4番と挟み込んで撃破」

その命令でこの戦いは終わった。こっちは氏者0名、怪我人3名。あっちは全滅。大勝だった。

しかし椛は喜べず近くの天狗に休むと伝え与えられた自分の家に戻る。

傷ついた心が血の代わりに流す悲しみを彼女は人の前で見せることは出来ず自室にこもり布団の中でむせび泣く。

そんな生活を繰り返していた。

353: 2014/03/01(土) 08:03:02 ID:ES5DLv0c
こんこんと突然ドアをノックされ椛は布団から顔を出して誰なのかを扉の向こうに尋ねた

はたて「私」

声の主は椛のあまりいない友人の中の一人そして椛がいつも泣いていることを知る唯一の友人。姫海棠 はたてだった。

椛ははたてならばいいやと思い部屋に入っていいよと扉の向こうに言った。

その声が涙声だったためか扉は数秒おかれてゆっくり開かれた。

はたて「邪魔だった?」

椛布団から出し顔を横にふってその問いを否定する。

はたて「ならよかったわ」

椛「はたて………ありがとう」

椛ははたてが友人のため第三者がそこにいない場合敬語は使わない。それをはたては良しとしていたしはたてもまた友人に敬語を使われると心地が悪い、そう思う一般的ではない天狗だった。

椛はもう一度ありがとうと言って泣きすぎて赤くなった目をこすって布団から出た。

358: 2014/03/03(月) 15:25:46 ID:PB1xg12A
はたては椛のベッドに腰掛け深いため息をはいた。

はたて「正直あんたの傷ついてる姿みたくないんだけど」

椛「でも、仕事だから」

はたてはその言葉を聞いて呆れたようにやっぱりねと呟く。

はたて「逃げない?」

はたてが椛の耳に口をあてて小声でささやく。その言葉を聞いて椛は小さく首を横に振った。

はたて「なんで? これ以上続けても」

椛「私は幸せになっちゃいけないんだよ」

皆の命を奪ったから。

椛のその言葉を聞いてはたてが軽く椛の頭を叩いた。

はたて「椛ももうちょっと気楽に生きたらどうなのよ。あいつみたいに」

あいつ、椛は自分もう一人の友人の顔を頭に思い浮かべる。今現在地底で幸せに暮らしている射命丸のことを。

はたて「あそこなら逃げ出した私たちも受け入れてくれるでしょ」

椛「………」

―――そのとおりだとは思う。だけどこんな私を受け入れられたくはないな。

359: 2014/03/03(月) 15:39:17 ID:PB1xg12A
犬走 椛はすでに諦めている。

生きることから何から全てを諦め、ただ命令のままに動き、悲しんでいるだけだ。

そんな椛の唯一の願いは

―――氏にたいな

そうすればもうこんなことをしなくてもいい。後は地獄で責め苦を受けるだけだ。

そのほうが頃すよりはよっぽどいい。

しかしその願いを叶えるのは難しい。自分を刺す刃は届かずに砕ける。

自殺をしようにもそれを実行する勇気は椛にはなかった。

椛「はたてが逃げなよ。私はいいから」

この血でべっとり塗れて飛ぶことの出来ない羽で逃げれるわけがない。はたてとともに逃げようとすればはたても巻き添えにしてしまう。

はたて「あんたが逃げないなら私も逃げないわよ」

椛「ごめん」

はたて「謝るぐらいなら一緒に逃げてよ」

椛「駄目」

はたて「はぁ………」

360: 2014/03/03(月) 15:56:08 ID:PB1xg12A
はたて「別に自分が頃してるわけじゃないんだから」

椛「私がいなかったら生きてたのかもしれないんだよ」

はたて「でも結局それはそれで自分が駄目だったから味方の命を奪ってしまったとか言うんでしょ?」

椛「………うん」

あまり好きではないとはいえそれでも同じ天狗の命が奪われていくのも嫌だ。椛が一番良いと思うことは誰も氏なないこと。もちろんそんなことは戦争時においては幻想にしかならない。

―――なんで世はこともなしにならないんだろう

平和主義者な椛はずっとそれを疑問に思っている。

なぜ戦いが起きるのかを、あまり欲を持たない椛は理解できなかった。

椛「………はたて」

はたて「何?」

椛「いや、やっぱりなんでもない」

頃してよと言おうとした。だけど友人にそんなことを言いたくはなかった。だから椛は疲れた顔でごまかす様に微笑む。

はたてはその顔をみて何か隠したんだと思ったがそれ以上追求しなかった。

361: 2014/03/03(月) 16:05:54 ID:PB1xg12A
椛「そういえば今日はどうしたの?」

はたて「あ、ちょっと野暮用があって」

椛「野暮用?」

はたて「椛にね。ちょっと後ろ向いて目瞑ってて。プレゼント持ってきたから」

椛「え、本当? 嬉しいな」

椛は素直にはたてに背を向けて目を瞑った。

しかし椛にかけられたのはネックレスでもなんでもない、ただの猿轡だった。

椛「んー!? んー!!」

はたて「おとなしくして。お願いだから」

はたては椛に猿轡をし目隠しをした。椛はもちろん抵抗したが友人のため本気はだせず、その上身体能力ははたてのほうが上だったのですぐに動きを拘束されてしまう。

はたては用意していた手錠を二つ椛につけて椛の頚動脈を力をこめて押さえつける。

椛はしばらくもがいていたがすぐに意識を失ってぐったりとなった。

はたて「ごめん、椛」

はたてはいったん外にでて廊下に放置してあった大きな袋を持って入り、その中に椛を入れた。

362: 2014/03/03(月) 16:22:45 ID:PB1xg12A
かたくなに自分を許さない椛を助けるためにはこうするしかなかった。

これは見つかれば殺されることは間違いない。綱渡りのような策だ。

自分のために椛を誘拐する。椛のためといいながらも結局は自分のためということをはたては理解していた。

はたての願いはいつの日か、またあの日のように三人で楽しく過ごせる日を迎えること。

はたて「うん、誰もいないわね」

このまま椛が起きず地底まで行ければはたての勝ちだ。地底にはあまり面識がないとはいえあの勇儀までいる。天狗は手出しができないはずだ。

窓を開け外を確認する。このほうが見つかりにくい。

はたては椛が入った袋を抱えて窓枠を蹴って飛んだ。

ここから地底までは距離がある。だけど見つからなければなんてことはない。はたてはあたりを見回しながら飛んでみたが巡回中の天狗は見えない。

今まで出したことのない最高速度で空を翔る。それでも射命丸よりはずっと遅い。引きこもっていた自分を恨む。

でもこの調子ならいけるはずだ。

はたて「待ってて椛。今文のところに連れて行ってあげるから」

はたては袋のなかで意識を失っている自分の大切な友人に微笑みかけた。

363: 2014/03/03(月) 16:36:05 ID:PB1xg12A
~男視点~

男「あばばばばばば」

魔理沙「あわわわわ」

雨が降っている。しかも大雨だ。土砂降りの雷雨に打たれながら魔理沙と俺はは香霖堂へ向かって飛ぶ。

なぜだろうかさっきまでは晴れていたのにある境を越えるといきなりこの天気になった。遠くから見ればある一部だけ天気が荒れているというとても不思議な天気になってるだろう。

すでに服はびしょぬれで水を吸ってとても不快だ。絞るとさぞ大量の水が出てくることだろう。魔理沙もずぶぬれで白いシャツから肌が見える。

男「まだか!?」

魔理沙「もうすぐ!!」

そういいながら魔理沙が急激に高度を落とした。

森の入り口。そこに近づくにつれ更に雨が強くなる。

雨でうまく見えないが小さな店らしきものが見えた。あれが香霖堂だろうか。そうであってくれ。

魔理沙「着地するぜ!」

その言葉と同時に魔理沙が急激にブレーキをかける。そのまま地面ギリギリをすべる様に飛んだ。

店が近づく。しかし止まらない。このままではぶつかってしまう。そうすれば店の中を荒らしながらのダイナミック入店となるだろう。

それはいいんだがさすがに体が痛い。

364: 2014/03/03(月) 16:52:25 ID:PB1xg12A
そう心配したが杞憂だったようで、ちゃんと入り口から1メートルぐらいのところで止まった。ギリギリだけども。

魔理沙「ここだぜ」

雨の音が強すぎて近くにいる魔理沙の声もよく聞こえない。とりあえず中に入ろう。そう思って扉を開ける。

香霖「………ん?」

剣を持った高身長の男が立っていた。

思わず両手を挙げる。

魔理沙「よっ、香霖」

香霖「魔理沙か。そっちの彼はいったい誰だい?」

男「えっと、男だ。外から来た」

魔理沙「あと私の兄だぜ」

香霖「へぇ、そうなのかい」

動じない。まったく動じていなかった。

ここではそんなに兄妹が増えることがあるのだろうか。

365: 2014/03/03(月) 17:14:57 ID:PB1xg12A
香霖「今日はいったいどうしたんだい?」

魔理沙「ん、会いにきただけだぜ」

香霖「そうかい。お茶ぐらいしか出せないがゆっくりしていってくれ。もちろん何かを買うのは大歓迎さ。朱鷺子。お茶を入れてくれないかい?」

朱鷺子「分かったー」

香霖が奥に向かって声をかけると奥から声が返ってきた。声からしておそらく少女だろう。

男「今のは?」

香霖「朱鷺子。僕の妻だよ」

既婚者なのか。まぁ、見た目しててもおかしくないけど。

魔理沙「玉露で頼む」

香霖「冗談は壁にでもしたほうがいいと思うよ」

366: 2014/03/03(月) 17:28:28 ID:PB1xg12A
朱鷺子「おまたせー」

奥からエプロンをした少女が出てきた。赤い羽根に白と青の髪をしている。

ずいぶん小さいが。まぁ、年齢は多分おれより上なんだろう。

香霖「自己紹介をしておこうか。僕は森近霖之助。この香霖堂の店主をやってる」

男「どうも。俺は男。外から来て今は博麗神社に住んでる。ところでなんで剣を持ちっぱなしなんだ?」

香霖「ん、あぁ………趣味なんだ」

魔理沙「そうだったか?」

香霖「あぁ、このフォルムがたまらなくてね。この剣は」

魔理沙「いやいい。長くなるからな」

香霖「そうだい残念だ」

そういいながらも香霖の顔はぜんぜん残念そうじゃなかった。むしろ安心したような顔だ。なんでだ?

371: 2014/03/03(月) 20:49:41 ID:bOT/9XOw
朱鷺子「どうぞー」

男「あ、ありがとう」

少女がお茶を手渡してくる。見ると茶柱が立っていた、何か良いことがあるだろうか。

魔理沙「ふはぁ。温まるぜ」

香霖「温まるのはいいがその格好で大丈夫かい?」

魔理沙「そう思うならタオル、またはお風呂をもらいたいね」

香霖「そうかい。じゃあ朱鷺子タオルを持ってきてお風呂を沸かしてきてくれるかい」

朱鷺子「わかったわ」

男「ありがたい」

香霖「そう思うなら何か買ってくれないかい?」

魔理沙「こんなときにも商売かよ」

香霖「お店は商売をする場所だからね。君や霊夢はここをお茶が飲めて好きなものを持っていける場所だと勘違いしてるんじゃないのかい?」

魔理沙「あぁ、思ってるぜ。へくちっ」

香霖「はぁ………風呂代でも取ろうかな」

372: 2014/03/03(月) 20:57:24 ID:bOT/9XOw
男「なんかうちの妹が迷惑をかけているようで」

朱鷺子からもらったタオルで魔理沙を拭きながら香霖に謝る。しかし香霖は別にいいさといって肩をすくめた。

魔理沙「着替えはないのか?」

香霖「あるよ」

香霖が奥に引っ込んだかと思うと魔理沙が着ているような服を持って戻ってきた。ずいぶん似ているが。

香霖「君もいるかい?」

そしてもうひとつ男用の洋服。あまり派手ではないがまぁそこは関係ない。

男「でもこっちの金なんかないんだが」

香霖「こんど魔理沙に一仕事してもらうからいいさ」

魔理沙「うへー。お手柔らかに頼むぜ」

香霖「氏にはしないから大丈夫さ」

373: 2014/03/03(月) 21:07:17 ID:bOT/9XOw
朱鷺子「わいたよー」

店の中の商品を見ながら香霖といろいろ話をしていると朱鷺子がとてとてと走ってきた。

香霖「じゃあ二人とも入ってくるといいよ」

男「二人で?」

香霖「兄妹なんだろう。何を気にすることがあるんだい?」

いや、血は繋がってないわけだから気にする。魔理沙のほうも赤面して目をそらしてるし。可愛いなこいつ。

男「魔理沙が先に入ってこい。俺はいいから」

魔理沙の背中を押して無理やり奥に進ませる。俺は良いが魔理沙が風邪を引くといけないからな。

男「へくしゅっ!」

香霖「入ってきたらどうだい?」

男「いや、我慢する」

374: 2014/03/03(月) 22:11:51 ID:bOT/9XOw
香霖「君は魔理沙を兄として支えるつもりなのかい?」

魔理沙が奥に入って少したった後、香霖がいきなりそう切り出した。

香霖「女の子を支えるのはたいていは恋人だと思うんだけどね。血のつながってない他人ならなおさら」

男「そのとおりだな。でも魔理沙が兄が欲しいっていってな」

香霖「だから兄になったのかい? 血の繋がってない赤の他人の君が、数日しかともに過ごしていない君が」

男「………」

香霖「別に責めても批判してるわけじゃない。ただ君は魔理沙のことを支えられるほど知っているのかい?」

知らない。ただ俺は魔理沙を守りたかっただけで、兄になれといわれたからなっただけだ。

支えようとは思うが何をすればいいかも分かっていない。ただそばにいることしかできない。

ただの案山子だな。まったく。

香霖「うん。じゃあ教えようか、魔理沙のことを。本人がいない場所で言って良いものかどうか悩むけど僕は残念ながら唐変木でね」

香霖が自虐気味に笑う。

どうやら日ごろから言われなれているようだ。

375: 2014/03/03(月) 22:45:38 ID:bOT/9XOw
香霖「君は魔理沙が一人暮らしをしていることを知っているかい?」

知っている。魔法の森に家があるとかなんとか。詳しくは聞いてないが。

頷くと香霖は話を続けた。

香霖「僕が世話になった人が魔理沙の父親でね。だから僕と魔理沙は昔からの知り合いなんだ。まぁそれはどうでもいいけど彼女の父親は商人でね、商人としては立派だけどその商人としての立派さが魔理沙は嫌いだったんだ」

香霖「どうしてただの里の人間の魔理沙と霊夢が知り合えたか分かるかい? それは魔理沙の父親が霊夢がまだ小さいころ、つまり先代の巫女が存在していたときだね。霊夢と年齢が一緒の魔理沙を使って博麗の巫女との面識を作ろうとしたんだ」

男「それが嫌で家出か」

香霖「霊夢とは普通の友人でいたかったみたいだ。家出をしたときの年齢が8歳。そこからずっと彼女は一人だ。親に一番甘えたい、甘えなければいけない年代のころ魔理沙は一人で生きてきた。僕は半妖だから分かるとは言わないけどそれはそれは辛かっただろうね」

男「今まで出来なかった家族への愛情の代替品が俺か」

香霖「言い方は悪いけどそうだね。さてここでもう一度聞くけど君は自分の人生を代替品としてできるのかい? あの可哀想な彼女と数日しか過ごしていない君が」

香霖の鋭い目が俺を射抜く。言い方は穏やかだが目は偽善とか同情なんかじゃ許さないと物語っている。

男「あの魔理沙が。霊夢と並ぶために弱音を見せず努力して必氏にその隣に立っている魔理沙が大好きなんだよ。だからその魔理沙のそばに入れるなら兄だっていい。代替品上等だろ。あの魔理沙が妹になってくれるんだぜ? 男冥利に尽きるだろ。朝起きると可愛い妹 昼にも可愛い妹 夜にも可愛い妹。俺の人生ぐらい払う価値あるだろう。いやむしろ俺の人生で足りるのか?  可哀想な魔理沙? 可愛い魔理沙ですよ本当。本当神様ありがとうございますだろ。まじありがとうございます。やべぇ興奮してきた」

香霖「………どうやら君も変人のようだ」

男「まぁな。男だもの」

376: 2014/03/03(月) 22:51:22 ID:bOT/9XOw
香霖「まぁ君の覚悟は分かった………覚悟なのかな。まぁいい。それじゃあ魔理沙についていろいろ教えてあげよう。僕の知っていることでよければ」

香霖の顔が呆れたような顔になる。というか呆れているんだろう。しかしあの鋭い眼光はないから合格ということなんだろう。

男「おう」

なんだかいろいろ吹っ切れた。魔理沙の兄でいいのかと悩んでいたのが馬鹿らしい。魔理沙の兄なんだ。それでいい。むしろそれがいい。

香霖「じゃあ今までのことを話そうか。もちろん魔理沙が出てくるまでだから詳しくは話せないけどね」

男「ありがたい。痛み入る」

香霖「これは魔理沙が魔法を使い始めたころなんだけど―――」

377: 2014/03/04(火) 11:27:50 ID:q2v6qv6k
男「さて、そろそろ帰るか」

魔理沙の後に風呂に入ってしばらくゆっくりしていると時間はすでに夕方。もう帰ったほうがいいだろう。

外は大雨で正直出たくはないが仕方がない。

香霖「これを着ていくと良い」

香霖が何かを投げて渡す。受け取るとそれは合羽だった。

男「いいのか?」

香霖「あぁ、サービスだよ」

魔理沙「珍しい」

香霖「ひどいな。商売にはサービスが重要なのさ」

魔理沙「これは大雨が、ってもう降ってるか」

朱鷺子「気をつけて帰りなさいよねー」

香霖と朱鷺子に見送られながら店の中で箒にまたがりそのまま外へでる。

魔理沙「うわわ、合羽があるとはいえ、厳しいな」

強い風に吹かれいきなり体勢を崩す。なんとか持ち直して空へ駆け上る。

そういえば結局香霖ずっと剣もってたな。

378: 2014/03/04(火) 11:43:48 ID:q2v6qv6k
やっぱりあるところを境に雨がいきなり晴れる。

そこからは早く帰りたいがために魔理沙はどんどんスピードを上げていく。なのでどんどん体温が奪われていって博麗神社につくころには二人真っ青になってぶるぶる震えていた。

魔理沙「ふ、風呂!」

男「おおおおおう」

つくと同時に温泉に向かって走る。

さっきは一緒に入らなかったが今はそんなことを言ってる場合じゃない。このままだと氏ぬ気がする。多分。

脱衣所で服を脱いで温泉に飛び込む。

霊夢「………」

男「OH………」

霊夢がこっちをにらんでいた。

379: 2014/03/04(火) 11:54:59 ID:q2v6qv6k
男「OKOK目は瞑った。制裁カモン」

事故と言い訳するまえに一発殴られていたほうが対応がいいだろう。なので目を瞑って痛みを待つ。

霊夢「―――くせ」

男「なんだ?」

霊夢「その前に下を隠せっ!!」

ゴンッ

何か硬いものが頭にぶつかる。なんだこれ超いてぇ。

そして後ろに倒れて温泉のふちで頭を打つ。更にいてぇ。

たんこぶを撫でながら風呂へ浸かり行儀は悪いがタオルで下を隠す。

この間も目を瞑っているので霊夢が何をしているかは分からない。もしかしたら俺を頃す準備でもしているのだろうか。妄想が俺の手を離れてどんどん膨らんでいき最終的に俺が地面に埋められるところまで想像した。

が、霊夢は呆れたように

霊夢「変O」

といってくるだけでそれ以上はなにも言ってこなかった。

魔理沙「なんだか凄い音がしたんだがって霊夢いたのか」

霊夢「えぇ、いたわよ。自分の家だもの」

380: 2014/03/04(火) 11:59:39 ID:q2v6qv6k
霊夢「ちょっと魔理沙。大きなタオルがそこにあるから取って」

魔理沙「おう。ほいよ」

霊夢「ありがと。んっと。男、もう目を開けていいわよ」

男「そういいながら見たわねとか言ってまた殴る気だろ」

霊夢「そんな痴女みたいなことしないわよ」

その言葉を信じて恐る恐る目を開く。

霊夢はバスタオルを体に巻いていた。

霊夢の肌は温泉につかってほんのり赤くなっていて肩を伝っておちる水滴が

霊夢「凝視したら頃すわよ」

目をそらす。うん、まぁなんだ。霊夢も美少女だ。

魔理沙「あー生き返るー」

霊夢「どうしたのよそんなにびしょぬれになって」

魔理沙「香霖のところで凄い雨降っててな」

霊夢「それは災難だったわね」

381: 2014/03/04(火) 12:33:34 ID:q2v6qv6k
温泉に浸かっているとじょじょに体温が戻り、肌に赤みが差す。温泉があって助かった。

男「あ、ちなみにさっきのは事故だからな」

霊夢「分かってるわよ。でもこっちは見られたのよ」

男「俺だって見られたからおあいこだな」

霊夢「あんたは見せ付けてきたんでしょうが」

男「面目ない」

382: 2014/03/04(火) 12:38:54 ID:q2v6qv6k
そんな話をしていると霊夢がいきなり鳥居の方を向いた。

霊夢「あら、誰か帰ってきたみたいね」

男「? なんでわかるんだ?」

音とかは聞こえなかったのにと思っていたら境内から藍さんの声が聞こえた。

霊夢「私が張った結界だもの。誰が入ってくるかぐらい把握できるわ」

藍「霊夢!! 霊夢!!」

霊夢「こっちよー」

藍さんが霊夢を探しているようだ。何かあったのだろうか。霊夢が藍さんに声をかけるとすぐに飛んできた。

霊夢「どうしたのよそんなにあわてて」

歩くでもなし走るでもなし。飛ぶってことはよっぽどのことがあったんだろうな。魔理沙も俺も藍さんの言葉に耳をむける。

藍「妙蓮寺が崩壊!! やったのは神子達と古明地姉妹!!」

霊夢「………え?」

384: 2014/03/04(火) 22:00:43 ID:PJvFUGC.
~時は数刻戻り少年視点~

大変です。こいしさんがいつのまにかいなくなってしまいました。このままでは大変なことになるかもしれません。

僕たちは途中博麗の巫女さんと一緒にいた人間の人と出会ったりしながら広い幻想郷を探し続けていました。

さとり「まったく………どこにいったのかしら」

少年(無事だといいのですが)

さとり「無事だと思うわよ。あの子のことだし」

こいしさんは感情と覚の能力を失う代わりに無意識を操る程度の能力を手に入れているので普通他人からは見えません。なので安心といえば安心なのですがそれでも家族のことは心配なようでこいしさんは何度もため息をつきながらずっと歩き続けています。

さとり「そんなことよりあの子が変に引っ掻き回してなきゃいいけど」

そういいながらもさとりさんはきょろきょろと心配そうに見回しています。さとりさんはまだ完全に素直というわけではなくこんな風に自分の好意をごまかしたりするのです。

男(周りに人はいないんですか?)

さとり「いないわ。だから安全よ」

男(そうですか)

さとりさんは現在常に人や妖怪の心を読むようにしているので近くにいる人の存在を感知しているのでそれを避けるように行動できます。この能力がなければどれだけの戦闘を行わなければいけなかったでしょう。いくらもらった必殺の武器があるからといってあまり使いたくはないですから。

385: 2014/03/04(火) 22:10:45 ID:PJvFUGC.
さとり「これは人間か妖怪の拠点に行くのも覚悟したほうがいいかしら」

男(かもしれませんね)

さとりさんの能力があるとはいえこいしさんを見つけるには僕もいかなければいけません。なのでしのびこむのは難しく最終手段として残していました。

さとり「諦める、ということも出来るけどどうしようかしら」

そう聞いてくるのは僕を心配してのことでさとりさんとしては妹のこいしさんが心配でしかたないのでしょう。おそらく、いやきっと僕がやめましょうといった場合僕を地底に戻してさとりさんはこいしさんを探し続けるでしょう。

その結果さとりさんがひどいめにあうのは嫌なので僕は心の中で探しましょうと思いました。

さとり「ありがとう………」

さっきからの僕の気持ちがさとりさんのは駄々漏れなのでさとりさんは少し顔を赤くしてそう答えました。僕達は結婚を前提にしているのですがさとりさんはまだ僕の好意になれてないようでそのたび顔が赤く染まり、とても可愛らしい様子を見せてくれるのです。

男(あれ、は)

森を抜けたところになにやら人が大勢集まっています。そしてその中に」

こいし「ふんふんふ~ん♪」

こいしさんがいました。

386: 2014/03/04(火) 22:26:33 ID:PJvFUGC.
………男じゃねぇ。少年だ……… 何度も何度もすみません。

さとり「………あ………え………」

隣のさとりさんも凄く驚いています。しかしさとりさんが見ているのはこいしさんではありません。

ことり「『これから私たちは妖怪にとり憑かれた邪悪な神社を成敗します。私たちの手で神の名を。毘沙門天の名を騙る不届き者を打ち滅ぼすのです!』」

人間の中心にいるその妖怪はさとりさんと同じ覚の目を持ち、さとりさんよりも少し大きい。そしてさとりさんはこいしさんに似ている。似すぎていました。

さとり「おねえ………ちゃん?」

さとりさんのお姉さん。話には聞いていました。さとりさんにはいなくなったことりというお姉さんがいることを。そしてそのお姉さんはなぜか今人間の中にいるのです。

さとりさんがふらふらと歩いていきます草を音を立て掻き分けたため何人かの人間が気づき、やがてそのお姉さんがさとりさんのほうを見ました。

ことり「心配ありません。私の妹です」『あぁ、可愛いさとり。大きくなったのね』

声が二重に聞こえました。前者の声は耳から、後者の声は直接頭のなかに響いてきました。

ことり「さぁ、こちらへ来なさい。さとり」『怪我はしてない? おなかはすいていない? 大丈夫?』

頭の中に妹を心配する姉の思いが響き渡ります。それはずっと会えなかった姉の悲しいほどの深い愛を含んでいました。

ことり「あなたも一緒に戦うのです」『大丈夫。私が守ってあげるからずっとずっと。これからは私たちはずっと一緒よ』

さとり「おねえ、ちゃん。お姉ちゃん!!」

さとりさんがことりさんに向かって駆け出しました。僕もその後ろを走ってついていきます。

392: 2014/03/05(水) 08:46:31 ID:H6ImGs/o
さとり「お姉ちゃん!!」

ことり『さとりっ!』

さとりさんがことりさんに飛びつくように抱きついていきました。親によって捨てられた姉は捨てられなかった妹を恨んではないようで、ことりさんはさとりさんの頭を何度も優しく撫でていました。

こいし「ぶー、私も撫でてよー。ちゃんとお姉ちゃん連れてきたんだから」

―――え?

さとり「そうね、おいで」

男『こいしさんのさっきの言葉はいったいどういうことですか?』

その言葉を書いてことりさんに突きつけます。

ことり「あなたは………なるほど、あなたもさとりたちの家族なのね」『ありがとう、さとりの家族になってくれて』

男「っ………『質問に答えてください』」

こいし「私がお姉ちゃんにお願いされてお姉ちゃんをここまでつれてきたんだよー」

………だからこいしさんが外にいたのか。一緒に出てきたわけじゃなく。はじめから外に。

いつからこの二人は繋がっていたんだろう。

ことり「質問に答えるなら、『私はさとりたちが大好きだから』」

言葉が二重で強調されます。おそらく嘘ではないという感じはしますがどうでしょうか。

393: 2014/03/05(水) 08:59:00 ID:H6ImGs/o
少年『さとりさんはどうするんですか?』

さとり「私は………」

僕の顔をみてさとりさんが一瞬迷ったような顔をしました。

少年『分かりました。なら僕もついていきます。夫ですから』

さとり「………ありがとう、少年」

ことり「私としては歓迎します」

こいし「あはは皆一緒だね」

少年『ありがとうございます』

これが吉でも凶でも僕はずっとさとりさんと共にいます。見捨てられる怖さをしっているから僕は絶対にさとりさんを見捨てません。

神子「やぁ。どうやら感動の再開は終わったみたいですね」

ことり「えぇ、時間をとらせてすみません」

神子「では行きましょう。滅ぼすなら早いにこしたことはない」

人間達の間を縫って耳あてをして猫の耳のような特徴的な髪型をしている女性が出てきました。

布都「そのとおり。悪は早めに滅するが吉であろう」

そして灰がかった白髪の女性も出てきました。

395: 2014/03/07(金) 09:48:09 ID:/Oh9DGhY
神子「全員、目標は命蓮寺。出陣!!」

耳当ての人の言葉で人間達が動き始めます。

こいし「んじゃ、いこっかー」

こいしさんが僕とさとりさんの手を引っ張ります。それに僕では逆らえるわけがなく引きずられていきました。

ことり「がんばって戦いなさい」『後ろに隠れててね』

こいし「おねーちゃん、心の声駄々漏れだよー?」

ことり「ふふ、駄目ね。強く思いすぎると今でも出てしまうの」

396: 2014/03/07(金) 09:53:13 ID:/Oh9DGhY
さとり「あ………なんでお姉ちゃん眼が開いてるの?」

ことりさんの眼を見てさとりさんがそう言いました。そういえばそうです。ことりさんはさとりの能力を持っていないから眼が開いてない、はずだったのに。

そういえばさっき僕のこころを読んで答えた。今のことりさんは心が読める?

ことり「えぇ。頑張りました」

さとり「眼が開かなかったお姉ちゃんが心を読めるようになるなんて何をしたの?」

ことり「………」

さとり「っ!?」

さとりさんが目を見開いてこいしさんの顔を見つめます。

さとり「たべ、たの?」

ことり「えぇ。そうするしかなかったので」

それが何を意味するかは分かりませんでしたが、おそらく何かを食べたおかげでことりさんは強くなって、だけどそれは食べてはいけないもの。ことりさんはいったい

ことり「それ以上考えてはいけませんよ?」

ことりさんが僕の目をじっと見つめてそう言います。さとりさんも首を横に振りました。

397: 2014/03/07(金) 15:07:49 ID:/Oh9DGhY
思考を遮断することは嫌なことから逃避するために覚えた僕の特技で、僕の脳みそは今まで考えていたことをぶっつりと切捨て、この間会って、宴会に参加させていた命蓮寺の皆さ、道端の冬なのに葉をつけている木について考え始めました。

さとり「お姉ちゃん。少年だけは後ろに連れて行っちゃ駄目かしら」

ことり「駄目よ」『いいわよ』

さとり「どっち?」

少年『頑張ります』

ことり「………考えとしてはあまり妖怪になじんだ人間は信用できないけど、本心としてはさとりの夫だからかまわないわ」

こいし「大丈夫だよー」

さとり「?」

こいし「少年を無意識にしちゃえばいいんでしょ?」

さとり「………そうね。お願いするわ」

こいし「任せて!」

僕の知らない考えを一切許さず僕のことについて話が決まっていきます。ありがたくはあるのですが、おせわになった命蓮、いえこの考えはやめましょう。

僕がさとりさんより先に駄目になってはいけませんから。

398: 2014/03/07(金) 15:20:17 ID:/Oh9DGhY
現在命蓮寺があるのは幻想郷の人間の里から離れた場所。以前は人間の里の近くにありましたが、移動したらしいです。

命蓮寺は実は空飛ぶ船らしいので、戦争が始まってから飛んで位置を変えたらしいのです。

神子「もうすぐです。気を引き締めなさい」

「はいっ」

少年『ところであの人はいったい?』

さとり「豊聡耳 神子。神様みたいなものよ」

少年『神様なんですか?』

さとり「すばらしいものではないけどね」

神子「聞こえていますよ」

前を歩いていた豊聡耳さんが振り返らずに言いました。

さとり「えぇ、知ってるわよ」

布都「失礼であろう!」

さとり「私はお姉ちゃんについただけであなたたちについてないわ。だから礼を重んじる必要はないでしょ」

神子「まぁ、かまいはしません。戦力になるのなら」

399: 2014/03/07(金) 17:41:37 ID:/Oh9DGhY
響子「わわっ! 大変です大変です!!」

神子「私たちが来たことがバレない内に射頃しなさい」

布都「わかりました」

門前で掃除をしていた少女に矢が放たれます。それは到底目で追うには難しい速度で飛んでいきます。

聖「無用ですよ。そんなに殺気立たれては」

それをものすごい速さで走ってきた聖さんが受け止めました。

響子「聖さん!」

聖「一輪達を呼んできてね」

響子「はい!」

掃除をしていた妖怪が中へ入っていきます。それに向かって放たれた矢はすべて聖さんが受け止めました。

401: 2014/03/07(金) 19:33:47 ID:/Oh9DGhY
聖「ところで響はいったいどんな用ですか。帰依なら歓迎しますよ」

神子「君を頃しにきた………といえばいいかな?」

聖「………殺生は罪ですよ?」

神子「殺生じゃない。成敗さ」

ことり「少しいいですか?」

ことりさんが神子さんを遮って聖さんに話しかけます。

ことり「白衣妹、という少女をご存知ですか?」

聖「いえ、私は知りませんが」

ことり「そうですか。白衣妹は妖怪に殺されまして、私はその妖怪を『ぶっ頃したい頃したい頃したい頃したい頃したい頃したい頃したい頃したいっ!!』」

後半はいきなりことりさんからあふれ出た感情で聞こえませんでした。それほどの強い感情が今いる全員の頭の中に響きます。

聖「………話し合いは無用ということですか」

ことり「えぇ、今すぐそちらが匿う妖怪をすべて受け渡してくれるというならあなたは生かしておいてあげますが」『頃す頃す頃す頃す頃す頃す頃す頃す頃す頃す頃す頃す』

聖「その要求は受け入れられませんね」

ことり「では皆頃しということで」『頃す頃す頃す頃す頃す頃す頃す頃す頃す頃す頃す頃す』

404: 2014/03/07(金) 19:44:29 ID:/Oh9DGhY
一輪「姐さんっ!!」

村紗「無事ですか!?」

門を開けて村紗さんと一輪さんが出てきました。

聖「皆さんは?」

一輪「星とナズーリンが守っています」

聖「なら安心ですね」

神子「では、参ります」

神子さんが剣を抜きながら素早く聖さんに接近して

こいし「男は見ちゃ駄目だよー」

こいしさんが僕の両目をふさいでそういうと

405: 2014/03/07(金) 19:56:25 ID:/Oh9DGhY
熱を感じ僕は我に返りました。めらめらと命蓮寺が燃えています。

そしてあたりにただよう火薬と生臭い血の臭い。

それは僕からもしていました。頬をぬぐうとどろりとした赤が手の甲につきました。

少年「っ!!」

周りを見渡すと立っていたのは神子さん、灰っぽい白髪の人。ことりさん、こいしさん、さとりさん………だけでした。それでも皆どこかしらを怪我しています。

周りには倒れた人間達と、聖さん、一輪さん、村紗さん

少年「――――っえっぷっ」

思わず吐いてしまい地面にぶちまけます。胃酸の苦味と痛みがのどに残り涙があふれ出てきました。

神子「人間達は皆氏にましたか。まったく化け物ですね」

布都「でも我々の勝利ですぞ」

何度か咳き込み顔を上げると燃える神社のほうからことりさんが歩いてきました。

ことり「いませんでした」

神子「それは気の毒に」

少年「あの、さとりさんなんで僕は生きてるんですか?」

こんな激しい戦いなのになぜ僕だけ無傷でいるのでしょうか。

406: 2014/03/07(金) 19:58:22 ID:/Oh9DGhY
無意識でずっと立っていたというのに。

少年『さとりさんが守ってくれたんですか?』

僕のその考えをさとりさんは首を振って否定しました。

さとり「あなただけ、狙わなかったのよ」

男「っ!!」

聖さんたちの性格を考えれば分かること。

それでも僕は敵だというのに、それなのに

ことり「こいし」

こいし「分かったよー」

407: 2014/03/07(金) 20:06:18 ID:/Oh9DGhY
ぬえ「離して!! 離してよマミゾウ!!」

マミ「いかん! いまあいつらのところに行った所で出来ることなぞなんひとつないぞ!?」

ぬえ「やだ、いやだ!!」

マミ「今は耐えるしかない。それでいつの日か」

ぬえ「駄目なんだよう。あいつら皆殺されて」

ぬえ「氏んじゃったらありがとうって言えないじゃないかぁ!!」

マミ「っ!! とにかく儂はお主まで失いたくない、分かってくれ」

ぬえ「聖!! 星!! 村紗!! 一輪!! ナズーリン!! 響子!!」

マミ「無理やりでも連れて行くぞ」

ぬえ「みんなぁ!! みんなぁああああっ!!」

408: 2014/03/08(土) 09:25:40 ID:oHOwEkCc
~男視点~

空気が重かった。夕食中一切言葉は発せられず、皆ただ食べることしかしない。いつも元気なチルノも今日は俯いて静かに食べていた。

詳しくはしらないが、一応霊夢たちの味方だった命蓮寺の皆が氏んでしまったらしい。

今は落ち着いているが魔理沙は命蓮寺まで飛んでいこうとしたり、霊夢はずっと放心状態だった。

一応銃を使ってみたが弾は出ず時を戻すことができなかった。まだ異変は解決できるらしい。

霊夢「ごちそうさま」

霊夢が食べ終わり静かに出て行った。それに続いて魔理沙も食べ終わり出て行く。

映姫「男、後でいいですか?」

男「あ、はい。分かりました」

四季さんが俺を見て言う。それで会話は終わりまた黙々と夕食の焼き魚を食べる。味があまり感じられなかった。

命蓮寺とは付き合いがないとはいえ、それでも皆のこの様子を見るのは結構辛い。

結局全部食べるほど食欲は出ず、残りをチルノにあげて外にでた。

月が雲に隠れてぼんやりとした光しかとどかない。

男「?」

そんなぼんやりとした光の中に眼鏡をかけた女性と黒いワンピースを着た少女が立っていた。

409: 2014/03/08(土) 10:03:07 ID:oHOwEkCc
眼鏡の女性は俺をじっと見ているが、黒いワンピースの少女はずっと俯いている。

男「誰だ?」

マミ「驚かせてしまったようじゃな。霊夢はおるか?」

眼鏡の女性が一歩踏み出し、顔がはっきり見える。

男「どうやって中に入った?」

マミ「警戒するのも無理はないが、敵じゃない」

信じて良いものかどうか。もし霊夢を呼んで敵だった場合大変なことになる。それにこの奥には紫に四季さんもいる。二人は現在戦えないのだから襲われてしまってはひとたまりもない。

ぬえ「やっぱりいいよ。マミゾウ」

マミ「ここが一番安全なんじゃ」

どうやらここに匿ってもらいたくて来たらしいが。

男「………俺はあんまり詳しくないから直接取りつなぐことはできないからまず魔理沙を呼んできていいか?」

マミ「おぉ、それは助かる」

隙は見せるが、これで敵かどうかはっきりわかる。

俺は懐の銃に手をかけながら魔理沙の部屋に向かった。

410: 2014/03/08(土) 10:17:27 ID:oHOwEkCc
男「入るぞ魔理沙」

十秒ほど待ってみたが中から返事は返ってこなかった。仕方ないので許可はとらずに中へ入る。

魔理沙「………どうしたんだ?」

魔理沙が暗い部屋の中。ベッドにもたれかかって座っていた。

男「ちょっと用があってな。いいか?」

魔理沙「………あぁ」

魔理沙はゆっくりと立ち上がってぼんやりとした目でこっちへ歩いてきた。

その様子がとても危なっかしく思えて、腕を引いて抱きかかえた。

魔理沙「………」

いつもなら何かしらのリアクションを起こすが、今は黙って俺に抱きかかえられていた。

さっきの眼鏡の女性がいるところまで運んでいく。

魔理沙「………だ」

何かを言っていた気がしたが、小さくてよく聞こえなかった。

411: 2014/03/08(土) 10:26:24 ID:oHOwEkCc
マミ「手間をかけたな」

魔理沙を眼鏡の妖怪のところへ連れて行き縁側に座らせた。

魔理沙「マミゾウ?」

マミ「ずいぶんやつれてるな」

ぬえ「魔理沙………」

魔理沙「ぬえ………? なんで」

マミ「儂がぬえだけは助けた………ぬえだけしか助けれなかった」

普通に会話をしているところから見るとどうやら敵ではないらしい。

マミ「これで儂等が敵ではないことが分かったろう。霊夢をつれてきておくれ」

男「分かった」

415: 2014/03/08(土) 19:22:54 ID:iHWi5hBE
男「霊夢、開けるぞ」

霊夢の部屋も魔理沙の部屋同様に返事がない。なので霊夢の許可を得ずに中に入る。

部屋の中はやはり暗かった。

霊夢「勝手に入ってきて、変O………」

霊夢の罵声はいつもより覇気がなくて、囁くような声だった。

部屋のなかに踏み込むとアルコールの臭い。霊夢の近くに一升瓶が転がっていて、霊夢の手にも一升瓶が握られていた。この短時間で飲んだのだろうか。

男「お前、こんなに酒飲んだのか?」

霊夢「いいでしょ、別に」

男「良くないだろ。下手したら氏ぬぞ」

霊夢「うん」

男「うんって………氏にたいのか?」

霊夢「分かんないわよ。もう何も。………はぁ」

霊夢が酒を煽るように飲んだ。詳しいわけではないが、あのペースで酒を飲むのが体に悪いということは分かる。

男「もうダメだ」

霊夢の手から一升瓶を奪う。霊夢は鬱陶しそうな顔をして「返してよ」と言ったが近くにあった蓋を拾ってきつく閉める。

417: 2014/03/08(土) 19:54:58 ID:X5KqlmeY
男「もう少し自分の体を気づかえよ。自暴自棄になってないで」

霊夢「説教臭いわね。仕方ないじゃない、一気に知り合いがいなくなったんだから。しかもその知り合いを頃したのも知り合い。なんで皆そう簡単に人を殺せるのよ。氏ぬってことはいなくなるってことなのよ?」

霊夢が小さく震える声でそう言う。

霊夢の気持ちは分かる。俺だって簡単に人の命を奪う奴の気持ちは理解出来ない。

でも、理解していたからといって霊夢にどんな言葉をかければいいのだろう。

俺は命蓮寺の人達を知っているわけでないし、頃した側の奴らを知ってるわけてはない。

霊夢「で、なんの用なのよ。説教でもしに来たわけ?」

男「説教はしたいが今は別の用だ。お前を訪ねてきた妖怪がいる。名前はマミゾウとか呼ばれてたな」

霊夢「マミゾウが?」

霊夢が立ち上がろうとしてふらついて俺に抱きついてきた。

霊夢「あ、ごめん」

いつもなら離れなさいこの変Oとでも言ってきそうなものだが素直に謝ってきた。

男「肩貸すぞ。ふらつくぐらい飲んでるんだろ?」

霊夢「うん。お願いするわ」

418: 2014/03/08(土) 20:03:47 ID:5uQRuW32
マミ「霊夢」

マミゾウが霊夢を見ると少し眉を上げて驚いていた。

霊夢「久しぶりね、マミゾウ」

マミ「ずいぶんやつれたんじゃな」

霊夢「で、どうしたのよ」

マミ「ぬえを預かっては貰えないだろうか。礼はする」

マミゾウがぬえと呼ばれた少女の背中を押す。

魔理沙「マミゾウはどうするんだ?」

マミ「儂はやることがあるんでな」

ぬえ「マミゾウ………どこいくの?」

マミ「なぁに、ちょっとした用じゃよ」

ぬえ「戻って、来るよね?」

マミ「じゃああとは頼んだぞ、霊夢、魔理沙」

マミゾウが夜の闇の中へ跳んで消えていった。

ぬえがそれを追おうとして派手に転ぶ。

419: 2014/03/08(土) 20:22:30 ID:NxSf8Blw
ぬえはその場に座り込んでマミゾウが消えた方をずっと見つめていた。

霊夢「私は紫に伝えてくるわ。多分まだ食べてるでしょうし。あとはお願い」

霊夢が部屋の中へ入っていった。あとを任されたが何をすればいいのだろうか。

ぬえの近くに行きしゃがむ。ぬえは震えてまだ闇のなかを見ていた。

近づいてわかったが服も体もずいぶん汚れている。風呂にいれた方がいいだろう。

男「なぁ、大丈夫か?」

ぬえ「……………」

ぬえが静かに立ち上がり虚ろな目で俺の方を見ている。しかし俺を見てないように感じた。

魔理沙「兄貴、私は部屋の用意してくるから、ぬえを風呂に連れていってくれ」

男「それなら魔理沙のほうが」

魔理沙「この家のこと分かんないだろ? 兄貴がそんなやつじゃないって私信じてるからな」

魔理沙も走り去っていった。こんな状況で欲情するほど下衆じゃないけどさぁ。信頼されてるのはいいが複雑だ。

男「ってことだけどいいか?」

ぬえ「………」

何も答えない。どうしたものやら。

423: 2014/03/09(日) 21:19:20 ID:nvPOhn2k
このまま放置しておくのもなんなので腹をくくって風呂にいれることにしよう。

嫌がったら、あとは魔理沙か霊夢にバトンタッチをすればいいだろうし。

そう結論付けてぬえの手を引き、温泉へと連れて行く。ぬえは抵抗せずについてきた。

何もリアクションを起こさない。すべて受身なのだ。ひっぱればついてくるが、ひっぱらなかったらずっとそこに立っている。これでは人形と変わらない。

何度も話しかけてはみるが、何もしゃべらない。これは俺が初対面のせいなのだろうか。もしかしたら霊夢や魔理沙なら反応が返ってくるかもしれない。

結局抵抗も反応もせずに温泉についてしまった。

扉を開けて脱衣所に入る。そういえば俺は今日二回目なんだが俺も入らないと色々不便だよな。この様子だと自分で入ってくれるとは思えないし。

男「服、脱がせるけどいいか?」

ぬえ「………………」

分かってはいたが反応はない。変O呼ばわりされてもいいから脱がそう。泥だらけのまま放置するほうが心が痛む。それにもう変O扱いなのは変わらないのだからかまいはしない。まさか変O扱いがこんなところで役に立とうとは………いや、役に立ってるのか?

ぬえのワンピースの首下のボタンを開ける。出来るだけ見ないようにしながら万歳させて服を脱がせようとするとなにかが引っかかった。なんだろうと何度かひっぱってその原因が分かった。背中に生えている赤と青の羽っぽいなんだかよく分からないもの。てっきり装飾だと思ってたが違うようだ。

よく見ればちゃんと背中から生えている物体にそって服に切れ目があった。黒く小さなボタンで留めているので気づかなかった。

ボタンをはずしてやっと服を脱がせることが出来た。

ずいぶん面倒な服だが、羽あり妖怪はみんなこんな面倒な服を着ているのだろうか。

424: 2014/03/09(日) 21:42:21 ID:nvPOhn2k
男「………つけてないのか」

妖怪に下着という文化があるのかそれともぬえが小ぶりなだけで必要ないのかどうかは知らないがつけていなかった。はずし方をあまりよく知らないのでそれはそれでありがたいのだが、なんだかなぁ。

男「あー、えっと、下脱がせていい?」

ぬえ「………………」

やはり返事もうなずきも返ってこない。仕方ないので目をつぶりながら脱がせる。あとはバスタオルでも体に巻いておけばいいだろう。

脱がし終わり、服を籠に突っ込んで俺も服を脱ぐ。一応視界に入らないようにして腰にタオルを巻く。マナーは別に公共の風呂じゃないからいいだろう。霊夢だって巻いていたし。

後はぬえにバスタオルを巻いて終わり。ぬえの背中を押して中へと入る。

冬、しかも夜なので裸で外にでるとかなり寒い。急いでぬえについている泥をお湯で丁寧に流し、浸からせる。続いて俺も温泉へ浸かる。

こうして落ち着いてぬえをみるとかなり可愛い。いやまぁだからどうしたという話なのだが。

もしかして幻想郷って美人ばかりなのだろうかと今まであった女性を思い出す。

うーん。見事に美人しかいないが偶然なのだろうか。

ぬえ「………………っ」

男「え!?」

ぬえがいきなり静かに涙を流し始める。表情を変えずに涙を流されるとこちらとしてはどう対応していいか分からずに困るのだが。

ぬえの前でおろおろしているとぬえがいきなりお湯に顔をつけた。ぶくぶくと泡がいくつも浮かんでは消える。え、なして?

425: 2014/03/09(日) 22:02:59 ID:nvPOhn2k
男「おいっ!」

慌てながらぬえの顔を上げさせる。

ぬえ「やめてよっ!!」

いきなり細い華奢な手で振り払われる。その動作だけで俺は水の抵抗もあるというのに少し吹っ飛んだ。胸を見ると一筋の赤。なんてこった。

妖怪が窒息氏するのかどうかは分からないがとにかくとめるしかない。

再び近づいて抱きしめるように止める。とにかくこうでもしないとまた振り払われて終わる。

ぬえ「やだっ。やだぁっ!!」

駄々を捏ねる子供のようにぬえが抵抗する。駄々の割りにはなかなか力強いが。

男「俺に抱きつかれてるのがいやなのか止められるのがいやなのかは分からんが、離さんぞっ。前者だったら後でいくらでも謝ってやるよ!」

ぬえ「もういやだっ!!」

もういやだということは今の状況に絶望してるのか。だから突発的な自殺を起こした。

くそっ。霊夢でもいたら止められそうなんだが。

426: 2014/03/09(日) 22:04:37 ID:nvPOhn2k
男「うぐ、おっ」

頭突きがあごにヒットて一瞬意識が飛びそうになる。なんとか持ち直したが正直ジリ貧だ。

男「お前の理屈なんてしったことか!! 俺はもう誰も氏なせたくないんだよ!! 俺にかかわったことを後悔するんだな!!」

ぬえ「………………」

ぴたりとおとなしくなる。あきらめてくれたのだろうか。

ぬえ「………うぇえええぇえんっ!!」

と思ったらいきなり子供のように泣き出した。

とにかくおとなしくなってくれたならそれでいい。これで泣き止んでおとなしくなってくれたならもっといい。

とにかくもう暴れないでくれ。体を見ると所々に小さな怪我がある。背中もずきりと痛む。どうやら背中にある程度大きな傷があるようだ。

429: 2014/03/10(月) 08:50:15 ID:riBzP4ug
泣き声は夜空に響き、俺の鼓膜にも響く。抱きついた姿勢なので耳が痛い。

さてはてどうすればいいか悩み子供をあやすように頭を撫でる。子供みたいだから間違いではないと信じたい。

ぬえ「うわぁああああぁあああんっ!!」

泣きやまねぇ。どうすればいいものやら。もうこうなったら君の口を俺の口でふさぐっ!!

いや、冗談だけどさ。

とにかくこの状況を耐えなければ。

ぬえの目から大粒の涙がこぼれいくつも湯に落ちていく。ぽたぽたと。

男「あーくそっ。なんで戦争なんかおきるかね」

その様子がこないだの俺とダブって見えて強く抱きしめて頭を撫でる。

とにかくこんな時は誰かがそばにいてやらないといけない。俺だって四季さんにずいぶん助けられたんだから。

今回、俺がその役目にならないとな。

ぬえ「うぇええええぇええええんっ!!」

男「泣け泣け。泣くことは良いことだ」

それだけ大切だったんだろ。皆のこと。

430: 2014/03/10(月) 09:34:29 ID:riBzP4ug
おそらく十数分間ほどぬえは泣き続けた。そしていきなり電池が切れたようにまたあの無表情に戻った。

男「よし、体洗うか」

ぬえ「………」こくり

まぁ、それでも一応頷いてくれるだけの進歩はあった。とりあえずは一歩。あとは会話をしてくれるといいんだけどな。

それでも動き自体は受動的でやはり俺が動かさないと動かない。なのでぬえを抱きかかえてお湯から出す。

椅子に座らせてとりあえず石鹸で髪を洗う。

髪は汚れのせいか傷ついておりごわごわしている。何度か洗わないと綺麗にならないだろう。

石鹸を泡立てて髪を洗い、流す。その作業を4回ほど繰り返してやっとぬえの髪が綺麗になった。

一応近づけて匂ってみるが匂いもない。これならいいだろう。

男「………はたから見ると変Oだな、俺」

ぬえ「………………」こくり

呟いた一言に頷かれてしまった。

少し傷つくんだけど。

431: 2014/03/10(月) 10:07:00 ID:riBzP4ug
髪が終わったんで次は体なんだが

男「体洗っていいか?」

ぬえ「………………」こくり

普通に許可でたがこれってもしかして俺の言葉に反応して頷いているだけとかないよな。

まぁ、うん。洗おう。一回お湯で流したとはいえ、細かな汚れは残ってるだろうし。

柔らかめのタオルに石鹸を泡立ててこする。

そういえば背中のこれどうすればいいんだろう。一応体の一部っぽいから洗ったほうがいいのかな。

根元からごしごししてみるが肌と違って硬い、というよりぷにぷにとした弾力性がある。本当なんなんだろうこれ。

ぬえ「………っ………っ」

こするたびにぬえの体がぴくぴくと震えるが大丈夫なのかこれ。やめておいたほうがいいのだろうか。手っ取り早く洗って他に移ろう。

男「腕ー。背中ー。足ー」

と洗っていきふと思うが前はいいのだろうか。下心はないがそれでも会ってすぐの男に触られていいものなのか?

男「………後で謝るからな」

ぬえと向かい合ってみる。タオルはなくて丸見えなのにノーリアクション。

………まぁ、俺には可愛い妹との約束があるんで欲情しませんけどね!

434: 2014/03/10(月) 14:14:35 ID:riBzP4ug
俺は髪が短いのですぐに乾くが、セミロング程度の長さのぬえはそうはいかない。

こんな時にドライヤーがあればなぁと文明の利器を懐かしく思う。

風邪をひいてはいけないのでタオルで念入りに拭いて服を着させる。寝巻きでもあればいいんだろうがさすがに背中が開いた寝巻きとかないからな。改造すれば別だろうが。

でも着替え作っとかないと汚れた服の問題とかあるからな。あとで四季さんにでも相談してみよう。

男「さて、魔理沙のところでもいくか」

ぱぱっと着替えてぬえの手を引っ張る。

魔理沙「お、もう出たのか」

外への扉を開けると外に魔理沙がいた。

男「ちょうどいいところに、ぬえのことを後は頼んだ」

魔理沙「おう。あと霊夢から伝言だ。ぬえの面倒はあんたにまかせた。だってさ」

男「………なんで俺?」

魔理沙「んー。一番頼りがいがあるから?」

男「たぶん一番戦力にならないからだろう。戦うだけならチルノのほうが俺の何倍も役に立つからな」

435: 2014/03/10(月) 14:31:17 ID:riBzP4ug
男「というかさっき魔理沙返事したよな。だったら魔理沙がみれば」

魔理沙「一緒に面倒みればいいんじゃないのか?」

男「いや、まぁそうだけど」

使わせる部屋は魔理沙の部屋のほうがいいよなぁ。でも突発的になにかした場合のために俺の部屋のほうがいいのかな?

魔理沙「ってことで今日から私は兄貴の部屋で暮らすぜ」

男「六畳一間に三人は狭いだろ」

魔理沙「どうせ荷物とか一切ないんだから大丈夫大丈夫」

いや、魔理沙とぬえがいいならいいんだけどさぁ。ぬえは返事しないからいいのかどうなのかは分からないけど。

男「やれやれ。じゃあ今日はもう寝るか。疲れた」

魔理沙「あぁ、もう寝よう」

ぬえを引っ張って自室へ向かう。魔理沙は言葉には出さないが、声色も顔も疲れているし早く寝かせたほうがいいだろう。

ぬえも寝たら落ち着くかもしれないし。

男「ふわぁ………」

明日は今日よりいい日になればいい。

もういい日なんてこないかもしれないけどさ。

436: 2014/03/10(月) 14:45:06 ID:riBzP4ug
~俯瞰視点~

地底には月の光は届かない。しかし青白い月の光のようなものが地底を照らしていた。

お燐「え?」

そんな地底で暮らしている火車、火焔猫 燐は伝えられた言葉が理解できずに聞き返した。

文「さとりさんが………人間側につきました」

文は外にでた際に放った式が持って帰った情報をもう一度お燐に伝える。

―――自分でも信じたくはないですけどね。しかし事実は事実ですよ。どんな言葉を使っても捻じ曲げることはできないんです。

そう文は付け加えた。文はそもそも記者ゆえに誇大はしても嘘はつかない性分なのだ。

お燐「はは、嘘、だよね」

お燐の目が動揺して揺れる。自分の愛した主人が敵に回ったのだ。お燐はこれは夢だと心の中でなんども唱えた。しかし握り締めた手の痛みがこれが現実であることを伝える。

文はお燐が望む返答をせず、首を横に振った。

文「ですが、さとりさんにも考えが「ねぇ射命丸。ちょっとお願いがあるんだけどいいかい?」

文の言葉を遮ってお燐が泣きそうな笑顔で文に聞く。

文「はぁ、かまいませんが」

お燐「今すぐ地底の全員を集めてくれないかい。伝えたいことがあるんだ」

437: 2014/03/10(月) 15:00:12 ID:riBzP4ug
地底なのでそれほどスピードは出せない。それでも文のスピードは他の妖怪よりもずっと早い。

地底の住民は少ないとはいえそれでも4桁はいる。それを文はおよそ1時間で終わらせた。

文「はぁ。冷たい飲み物でも飲みたいですね。それで結局なんなんでしょうか」

詳しい内容は聞かされていない。文はただ集めてきてとしか言われてないのだから飛びながらずっとなにがあるのかを考えていた。

―――お燐さんの性格だと自分から戦争をしかけにいくとは思えないですけどね。勇儀様もいますし。

となるとさとりを取り戻す話し合いでもするのだろうか。

お燐「おかえり射命丸。ちょうど今から始まるよ」

お燐はにこりと笑って全員から見えるように地霊殿の屋根に上った。

お燐は全員いるかを見渡して頷くと声を張り上げてこう言った。

お燐「今からここの全員で地上を制圧する」

439: 2014/03/10(月) 15:09:23 ID:riBzP4ug
その言葉を理解したものはお燐に対して抗議の声を上げた。

その代表は水橋パルスィだった。お燐に近づくために空中へと浮く。

パル「そんn「やりな、お空」

空中に浮いたパルスィが地面に落ちる。胸に大きな穴を開けて。

お燐がいるところよりもさらに離れた位置にお空はいた。その体勢はお燐に近づくものを射抜くために右手の第三の足を向けている。

パルスィを射抜いたのはお空の核融合による熱線。直撃すれば鬼にすらダメージを通すそれをパルスィは胸に受けた。

無事ではすまない。地面に落下したパルスィの綺麗な緑色の目に今はもう光はない。

パルスィの氏。それを認識した妖怪はおびえ、騒ぎ、お燐に向かっていこうとし、逃げようとした。

そのうち向かってくるものと逃げようとしたものはお燐の炎に焼かれパルスィと同様に氏んでいった。

勇儀「おいっ!!」

勇儀が激昂し、お燐に向かって飛び掛ろうとする。そして飛んできた熱線を素手で弾いた。

あの鬼が自分に拳を振りかざしているのにお燐の顔は歪んだ笑みを浮かべる。

お燐「いいのかい?」

勇儀「なに?」

その言葉を聞いて勇儀の拳が一瞬止まる。そしてお燐の言葉が何を指すのかは後ろから聞こえる悲鳴で分かった。

441: 2014/03/10(月) 15:19:09 ID:riBzP4ug
パル「いたた、た」

氏んだはずのパルスィの声が聞こえた。勇儀が振り返るとそこには胸に大きな穴を開けているというのに平然と立ち上がったパルスィがいた。

どういうことだ、と呟いたと同時に理解する。

お燐は自分の能力を使いパルスィを生き返らせた。いや生きた氏体に変えた。

その能力を使っているところは見たことがない。さとりにとめられていたのかどうかは知らないがこれまでのものとは。と勇儀が驚愕する。それと同時にお燐が近づいて耳元でささやく。

お燐「いいのかい? 逆らったらまた氏んじゃうよ?」

そんな嬉しそうな声を聞いて勇儀はあぁ、お燐はどうやら狂ってしまったのだなと理解した。

その原因は知らないが友人であるパルスィを人質に取られたからには仕方がない。胸のなかでくすぶる怒りを抑えながら勇儀は拳を下ろした。

勇儀「どうする気だ?」

お燐「今まであたいたちからすべてを奪った地上に復讐をするんだよ」

お燐「まぁ、誰にも理解して欲しくはないけどね。明日がないかもしれないってことを知らないあんたにはとくにね」

お燐の手が後ろから回され勇儀の首を撫でる。

その触り方に勇儀の背筋はぞくりと震える。

お燐「あたいは今までずっと奪われる側だったんだ。もうそろそろ奪う立場になってもいいだろう?」

その笑いながら話すお燐の声が勇儀にはひどく不快だった。しかしどうすることも出来ない。

442: 2014/03/10(月) 15:25:26 ID:riBzP4ug
勇儀「入り口の結界はどうするんだ」

お燐「他の入り口を作ればいいさ。あんたとお空がいればそんなに難しい話じゃないだろう?」

お燐の手が勇儀の頬を撫で、爪を立てる。

勇儀「………分かった」

お燐「うん、いい返事は大好きだよ」

お燐が勇儀から離れる。そして屋根の上に立ちぱちんと指を鳴らすとお燐とお空に殺されたすべての氏体が立ち上がる。

お燐「ねぇ、皆。生きながらあたいに従うのと氏んであたいにしたがうのどっちがいい? あたいにとってはそんなに変わらないからどっちでもいいけどさ」

その言葉に逆らうものはもういなかった。

443: 2014/03/10(月) 15:37:16 ID:riBzP4ug
お燐の話が終わり、勇儀はパルスィの家に戻ってパルスィの体の手当てをしていた。

勇儀「大丈夫か?」

パル「痛くないから大丈夫よ。氏んだって実感はわかないけどね」

パルスィは胸にあいた穴を見ながらため息をつく。

普通ならば怒るのだろうが勇儀が怒ってくれたのだからもういいかとパルスィは思っていた。

そもそも嫉妬を集める妖怪なのだ。負の感情には慣れている。

それに生きているという表現は適切ではないが氏んでいないのならあまりかまいはしない。そんな風に怒りや恨みによって妖怪になったパルスィは普通とはずれた考え方をしていた。

444: 2014/03/10(月) 15:37:46 ID:riBzP4ug
お燐「大丈夫かい?」

そんな気遣いではなく形式的な台詞をはきながらお燐が部屋の中に入ってきた。

パル「大丈夫よ。それにしてもいきなり殺さなくてもいいんじゃないの?」

お燐「氏んでるか生きてるかなんて対して重要なことでもないじゃないかい。どうしてそんな心臓が動いているかどうかに関心を抱くのかね」

パル「普通は氏んだら氏にっぱなしだからよ」

拳を震えさせる勇儀を押さえてパルスィがそう返す。

自分を頃した張本人を目の前にしてもパルスィはほとんど怒りを抱かなかった。それがお燐のせいなのかどうかは分からないがそれならそれでいいかとパルスィは納得する。

パル「で、どうしたのよ」

お燐「一応友達だったから次攻める場所でも伝えておこうかなってさ。幹部待遇で受け入れるよ」

パル「それはありがたいわね。勇儀の酒もお願い」

お燐「考えておくよ」

445: 2014/03/10(月) 15:46:14 ID:riBzP4ug
お燐「で、次攻めようかと思うのは紅魔館のやつらかな。具体的にはフランドール。いくら氏体を操れてもばらばらにされたら意味がないからね。あんたならいけるだろう? 勇儀」

勇儀「無理でもやらなくちゃいけないんだろ?」

お燐「まぁ、氏んでも大丈夫だからさ」

パル「で、いつやるのよ」

お燐「明日か、明後日か。それにしてもずいぶんいい返事だねぇ」

パル「それほど吸血鬼にかかわってないからよ。地上に関わってないってのが正しいけど。それに迫害されて地底にきたやつらは大体私と同じ感じなんじゃない?」

お燐「皆がそうならいいんだけどねぇ」

パル「とにかく私は地底のやつらが元気ならそれでかまわないわよ。とくに勇儀が元気なら」

勇儀「………………」

パル「そんな目で見ないでよ。私はあんたと違って根暗なのよ」

勇儀「………分かった。私もパルスィのためにがんばるよ」

お燐「んじゃあ作戦はのちのち伝えるよ」

お燐は黒猫の姿になって窓から出て行った。それをパルスィは見送ってつらそうな顔をしている親友の頭にぽんっと手を置いた。

460: 2014/03/12(水) 12:05:18 ID:ksLUkAU6
お空「………」

お空はずっと上を眺め続けている。そこには空ではなくあるのは岩で出来た自分たちを封じ込める天井、地上がある。

お空はお燐ほど頭が良いわけではないし、現実を見ているわけではない。それが幸いしたのかお燐ほどはまだ狂ってはいない。

が、それでも仲間だった妖怪を手にかけれるぐらいには狂っている。おそらく大親友のお燐がいなければ手当たりしだいに破壊し続けただろう。

大親友から聞かされた話はさとり達以外を全て消すこと。もしそれが出来たらずっとさとりと一緒に暮らせて幸せなのだろうとお空はそう思った。

―――お燐は頭いいんだもん。きっとさとり様を取り戻してくれるよね。

親友を信頼して幸せな未来を思い描く。

それはお空がいてお燐がいてさとりがいてこいしがいて少年がいて。そして後は誰もいなかった。

461: 2014/03/12(水) 12:13:55 ID:ksLUkAU6
日が明けた。

外から差し込む光によってパルスィは目を覚ました。

パル「氏人に口なしって言うけど、寝て夢みて喋ってご飯食べて。真っ赤な嘘じゃないの」

―――にしても嫌な夢を見たわね。

パルスィが見た夢は自分の過去。裏切られ捨てられ、そして人の身から妖怪になった。そんな思い出したくない嫌な過去を見ていた。

パル「起きなさい。勇儀」

隣で寝ている勇儀を蹴って起こす。勇儀に対してこんなことができるのはパルスィぐらいだろう。

勇儀「………んあー」

はだけた寝巻きを気にせず勇儀がのそりと起き上がる。そして何度か頭をかく。

勇儀「朝か………」

パル「さっさと朝ごはん食べるわよ」

勇儀「………んー」

462: 2014/03/12(水) 12:21:50 ID:ksLUkAU6
パル「今日、行くのかしらね」

勇儀「じゃなかったらいいんだけどな」

パルスィが作った味噌汁をすすりながら勇儀が眠たげな声で答える。

パル「ちなみにお燐がお酒持ってきてくれるみたいよ」

勇儀「本当に持ってきたのか。はぁ、パルスィといい酒といい、お燐は私を手ごまにしたいようだねぇ」

パル「私がお燐でもそうするわよ。ヒエラルキーの一番上にいる鬼だもの」

勇儀「親友を手ごまにするのかい?」

パル「親友なら手伝ってくれるもんじゃない?」

勇儀「………手伝うけどさぁ」

悪戯じみた笑みを浮かべるパルスィに苦笑いしながら勇儀は味噌汁を飲み干した。

勇儀「ご馳走様」

パル「お粗末様」

463: 2014/03/12(水) 12:33:34 ID:ksLUkAU6
お燐「ここに勇儀が亀裂を入れた後、お空が破壊する。良いね?」

お燐がそこをぽんぽんと叩いて二人に指示する。

勇儀「正気か?」

お燐「さぁね」

お燐が叩いた場所。それは昨日お空が見ていた場所。

天井だった。

勇儀は何を言っても止められないんだから腹をくくるしかないね。とため息をついてお燐が触れた場所に向かって構えた。

お燐「じゃあお願いするね」

お燐が二人から十分距離をとる。戦闘力をあまり持たないお燐なら巻き込まれてしまえば終わりだからだ。いくら氏体を操れるといっても自分の氏体は操れない。

勇儀「はぁっ!」

勇儀が握り締めた拳を前に出す。それ以外は特別なことを何もしていない。

それだけで天井にひびが入りいくつもの石や岩が落ちていく。

あと数発殴れば天井が割れ、太陽の光が見えるだろう。しかし今は後ろで急激に熱を放つお空がいる。それに巻き込まれないように勇儀は天井を蹴って一気に地底へと降りた。

お空「行くよっ!!」

お空は自分の体に宿る自分のではない力。太陽の化身の神の力を解き放った。その光は天井を焼き尽くして―――

464: 2014/03/12(水) 12:35:51 ID:ksLUkAU6
お燐「さすがお空。塵一つ残さなかったね」

十分な力を溜めて放ったお空の一撃は文字通り塵一つ残さず天井を焼き尽くした。

空に見えるのは燦燦と輝く太陽と冬の空。

追いやられ封印された妖怪たちが数年前までは憧れていた光景だった。

471: 2014/03/18(火) 14:53:17 ID:HGpPp2Uw
~男視点~

男「な、なんだ!?」

ものすごい音がして飛び起きる。まるで何かが爆発したみたいな音がしたが。

魔理沙「いてて。いきなりどうしたんだ?」

ぬえ「………………」パチクリ

男「今の聞こえただろ?」

魔理沙「熟睡してたからわからん」

耳が痛いくらいの音だったのに寝れるってどれだけ熟睡してたんだよ。もしかしてあの爆音は夢?

男「とにかく外を見よう」

外に出ると同じく四季さんも外の様子を見ていた。やはり勘違いではないようだ。

472: 2014/03/18(火) 15:33:18 ID:HGpPp2Uw
男「四季さん。さっきのって」

映姫「えぇ。何か起きましたね」

魔理沙「なぁなぁ。なんかあったのか?」

俺の後ろから魔理沙だけが顔を出す。

映姫「まだ分かりませんがものすごい大きな音がなりました。分からなかったのですか?」

魔理沙「寝てたからな」

男「のんきだな」

魔理沙「仕方ない。ちょっくら着替えてみてくるか」

魔理沙が後ろで服を脱いで着替える音がする。もちろん振り向かない。

映姫「気をつけて。一応小町にも行かせますが」

小町「あたいはいつでもいけますよ、っと」

声がしたかと思うと屋根の上から小町が降りてきた。服も着替えて準備万端みたいだ。

魔理沙「んっと。私も十分だぜ」

俺のわきを通って魔理沙が外へ出る。

473: 2014/03/18(火) 15:36:01 ID:HGpPp2Uw
映姫「あ。待ってください」

魔理沙「? なんだ?」

映姫「絶対に見てくるだけで帰ってきてください。どんなことがあっても戦おうとはせずすぐに戻ってきてください」

男「そうですね」

………俺の銃を使えば魔理沙たちが氏んでも戻せる。が、氏なせたくはないし、戻せたところで情報が得られないのは変わらない。なら最悪見捨てても情報を手に入れたほうがいいか。

小町「了解です」

魔理沙「……おう」

魔理沙が不満そうな顔をしていた。まぁ、魔理沙だもんな。念のため釘を刺しておく。

男「絶対帰ってこいよ」

魔理沙「分かってるって。何回も言わなくても」

男「俺は魔理沙に傷ついて欲しくないんだ」

魔理沙「………ん。分かった。絶対帰ってくる」

うん。ここまで言えば帰ってくるだろう。さらに念を押して魔理沙と指きりをする。

魔理沙「指切ったっと。本当心配性だな」

男「全国のお兄さんはみんなそんなもんだ」

474: 2014/03/18(火) 21:15:44 ID:HGpPp2Uw
魔理沙と小町が遠くへ消えていくのを見送り四季さんと一緒に中に入る。

魔理沙と小町には悪いが朝ごはんを食べよう。そう思って自室によってぬえを連れ出した。

ぬえ「………」

うーむ。やっぱり一日ぐらいじゃ駄目か。変わったことといえば無言で後ろをついてくることぐらい。手は引っ張らなくて良くなったみたいだけど。

映姫「………ぬえ。大丈夫ですか?」

四季さんの問いにも答えない。それどころか視線すら合わせない。ずっとぼんやりと俺を見ている。

映姫「………だめですか」

男「昨日の………えっとマミゾウがくればまだなんとかなるかも知れないですけど」

映姫「行方は分かりません」

男「ですよね」

どうせならマミゾウもここにいればよかったのになぁと思う。

男「とにかく朝ごはん食べましょう」

映姫「はい」

475: 2014/03/18(火) 21:24:38 ID:HGpPp2Uw
ぬえ「………」

わかってはいたがぬえは自発的に食べない。口に運べば食べてはくれるがそれだけだ。

おかずを食べさせご飯を食べさせ、のどが渇かないように水を飲ませる。

まるで子供の人形遊びみたいだ………いや、そんなこと嘘でも思っちゃいけないことだ。

男「ほら、あーん」

ぬえ「………」

ぬえがぱくりとご飯を食べる。そしてゆっくりと咀嚼。その間に俺はほとんど丸呑みするようなかたちでご飯を食べる。

そしてぬえののどが動くのを見てから次を口へ持っていく。

そして咀嚼。

男「おいしいか?」

ぬえ「………」こくり

男「そうかそうか」

映姫「………変わります。男は自分のを食べてください」

男「いえ、いいんです。これぐらいしか俺が出来ることはありませんから」

476: 2014/03/18(火) 21:32:14 ID:HGpPp2Uw
男「ごちそうさま」

亡霊男「おーう」

亡霊男が食器を下げてくれたのでぬえと共に外へ出る。

と同時に魔理沙が転がるようにして中に入ってきた。

魔理沙「紫はいるか!?」

映姫「紫は」

紫「ここにいるわよ」

魔理沙の後ろ。そこに紫が立っていた。

魔理沙「大変だ! 地底のやつらがレミリア達を襲いにいった!!」

紫「………そう」

紫はそれだけいうと興味なさげに朝食の前に座った。

魔理沙「そうって、助けなくて」

紫「無理よ。こっちは少数精鋭とはいえ数が少ない、向こうには鬼に八咫烏と凶悪な妖怪がたくさん………今行くのは分が悪いわ。全員を行かせてここが狙われる可能性もあるし。結界を張ってるからって絶対安全ってわけじゃないのよ?」

紫が鋭い目をして魔理沙の言葉をぴしゃりと遮る。それに対して魔理沙は声を荒げた。

477: 2014/03/18(火) 21:43:23 ID:HGpPp2Uw
魔理沙「でも!!」

紫「私たちは何があっても霊夢を守らないといけないの。つまり霊夢以外は守らなくていいの。それでも犠牲は最小限にしたいけど」

魔理沙「………もう良い。私だけが行く!」

男「おいっ!!」

魔理沙「止めるな兄貴っ!!」

魔理沙が箒で空に向かって飛んでいく。

紫「藍」

藍「はい」

紫がいつの間にか立っていた藍さんの名前を呼んだ。すると薄青い光を放つ結界が一瞬光る。そして

魔理沙「っ―――!?」

魔理沙が空中で弾かれて地面に向かって落ちる。

男「魔理沙ぁあああ!!」

479: 2014/03/18(火) 21:49:31 ID:HGpPp2Uw
外に向かって走る。間に合え!!

踏み出した足に尖った石が食い込むが気にしてる場合じゃない。魔理沙は妖怪でもなんでもないただの女の子だ。あんなところから落ちたら間違いなく氏ぬ。

紫はそれを分かってるのか!?

………いや魔理沙が氏んでも問題ないのか。俺がいるから生き返らせれる。

だとしても頃したくはない。大切な妹なんだから。

男「届けぇええええぇええ!!」

魔理沙までの距離は数メートルしかし魔理沙は地面に近いところまで来ている。間に合うかどうかギリギリな所だ。

俺の手が、魔理沙に近づいて

男「!!」

俺の手が届くよりも早く魔理沙は落ちていった。

駄目なのか。諦めかけて銃を引き抜こうとする。

480: 2014/03/18(火) 21:52:50 ID:HGpPp2Uw
ぬえ「………………っ」

何かがものすごい速度で動いた。そう認識したときにはすでにぬえが魔理沙を抱きかかえていた。

男「ぬえ!!」

ぬえ「………」

ぬえがゆっくりと魔理沙を地面に下ろす。魔理沙は目を見開いて震えていた。

男「大丈夫か?魔理沙」

魔理沙「あ………あぁ………あ………」

返事はない。それどころか何も反応はない。

震える魔理沙を抱きかかえぬえに礼を言う。

男「………」

振り返って紫を睨む。しかし紫はこっちを見ておらず静かに朝食を食べていた。

482: 2014/03/18(火) 21:57:06 ID:HGpPp2Uw
頭に血が上って紫をぶん殴ってやろうと歩き出す。

ぬえ「………」

しかしぬえが俺の袖を掴んだ。

男「なんだ?」

ぬえ「………」ふるふる

ぬえが首を横に振った。

男「駄目、なのか?」

初めてのぬえの頷く以外の意思表示に少し頭が冷える。

男「………そうか。勝てるわけないもんな」

ぬえ「………」こくり

紫ならどうにかなるかもしれない。でも藍さんがいる。それに四季さんも止めるだろう。

どうしようもない憤りを深呼吸をして沈め魔理沙を強く抱きしめて自分の部屋に戻った。

483: 2014/03/18(火) 22:09:46 ID:HGpPp2Uw
部屋に戻って魔理沙を布団に寝かせ、俺は壁を背にして座り込む。その隣でぬえが体育座りをした。

魔理沙の様子はまだ震えている。今まで命の危機はあったかもしれないが今回はいきなりでそれも身内からだ。

氏んでないとはいえぬえがいなければ氏んでいた。

男「ぬえ。本当にありがとう」

ぬえ「………………」

ぬえがじっとこっちを見つめる。何を伝えたいのかはよく分からないがその目は少し潤んでいた。

男「魔理沙。大丈夫だからな」

震える魔理沙の手を掴む。すると魔理沙は強い力で握り返してきた。爪が皮膚に刺さり血が滲む。反射で振り払いかけたがここで振り払うわけには行かない。その魔理沙の手を両手で優しく包む。

魔理沙「………お、おにい………ちゃん」

魔理沙が青ざめた顔でこっちを見る。

男「なんだ?」

魔理沙「こ、こわ………こわか………」

男「無理して喋らなくていい。今はもう寝ろ」

魔理沙の手を撫でる。

こんな小さな手がこんなにも震えていることが許せなかった。そして助けることが出来なかった俺も。

484: 2014/03/18(火) 22:15:09 ID:HGpPp2Uw
魔理沙「………すぅ………すぅ………」

魔理沙が寝息を立てるまで2時間ほどかかった。そして寝てる今でも俺の手を強く握っている。

ぬえ「………」

ぬえが魔理沙の頭を撫でていた。

男「ありがとうな。ぬえ」

ぬえ「………………」

男「なぁぬえ。良かったらお前のこと教えてくれないか?」

ぬえ「………………」

やっぱ喋れないか。ここまで行動してくれたのだからもしかしたらと思ったが。

ぬえ「……………あ」

男「!」

ぬえの口から声が漏れた。昨日のような泣き叫ぶ声ではない。ちゃんとした声だ聞こえた。

485: 2014/03/18(火) 22:17:08 ID:HGpPp2Uw
ぬえ「………う………あ」

男「なんだ?」

ぬえがなんどか喋ろうとしているがどうやら声がつっかえているらしい。ぬえを見つめて言葉を待つ。

ぬえ「―――」

男「―――!」

ぬえの声が聞こえた。

しかしそれは

ぬえ「あう、ああう」

言葉にならない、意味をもたない声だった。

489: 2014/03/19(水) 07:31:04 ID:l3Sa.JsA
男「喋れない、のか?」

ぬえ「あうう………」こくり

え、だって昨日は。

男「………ちくしょう。なんでこんな」

握られてないほうの拳で壁を殴りつける。低く鈍い音が鳴って拳が痛んだ。それでもかまわず殴り続ける。

男「ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう」

ざらざらとした壁で皮膚が破け血が滲む。それでもかまわず殴り続けているとぬえが腕に抱きつくようにして止めてきた」

ぬえ「あううあう」フルフル

ぬえが悲しそうな顔をして首を横に振る。

ぬえにこんな顔をさせてしまった自分に苛立ったが腕を掴まれているので何も出来ず歯をきつく食いしばった。

映姫「………何か音がしていましたが」

四季さんが部屋に入ってくる。そして俺の状況を見て少し目を見開いた。

映姫「どうかしましたか」

男「ぬえが………ぬえが………」

映姫「ぬえが?」

490: 2014/03/19(水) 08:11:31 ID:l3Sa.JsA
映姫「………過度なストレスからくるものですね」

ぬえ「あう」

映姫「いずれ喋れるようになるでしょうが、それがすぐ治るのかしばらくかかるのかは分かりません」

映姫さん曰く失語症みたいなものだそうだ。厳密に言えば違うらしいがそこらへんは良く分からない。

とにかく治るのなら安心だ。このまま妖怪の長い一生喋れないままなんてあまりにも酷だから。

男「ありがとうございました」

映姫「いえ。結局私は何も出来ませんでしたから。それと男。手を」

ぬえが俺の手を強引に四季さんの前に差し出す。

映姫「血は出ていませんが痛めるので駄目ですよ」

そういいながら四季さんが懐から取り出した塗り薬を塗ってくれた。

………ん?

何か今違和感があった気が。

491: 2014/03/19(水) 08:29:54 ID:l3Sa.JsA
男「………四季さん。これからどうなるんでしょうか」

今この現状。何かが確実的に動き出している。

それはおそらく悪いことで逃げられないことだ。

そんな気がする。

映姫「分かりません。今はまだ」

ウィルは地底の妖怪に勝てるのだろうか。それが心配だが助けにいけないし、行った所でおそらく意味はない。

せめて結界さえなければ………

映姫「紫を………あまり責めないでください」

男「え?」

映姫「紫は霊夢を守りたい一身で行動しているのです。それが原因で冷たく思われるかもしれませんが本当の紫は優しいのですよ」

男「………でも魔理沙が」

映姫「もし間に合わないのなら藍さんがいましたから」

男「それでも」

映姫「お願いです」

四季さんのまっすぐな目。でも俺は紫を………

496: 2014/03/20(木) 10:40:48 ID:ZPeMbdLc
………許せはしない。けど

男「分かりました。紫のことは恨みはしません」

映姫「ありがとうございます」

………四季さんがそこまでいうのならそうなんだろう。まだ犠牲者は出ていない。身内の中では。

でも、誰かが氏んだとき。

その原因が紫だったとき。

そのとき俺は紫を許すことができるのだろうか。

497: 2014/03/20(木) 11:00:22 ID:ZPeMbdLc
~俯瞰視点~

嫌な風が吹いている。そうレミリアはため息をついた。

幻想郷中に飛ばしていた使い魔が持ってきた情報は地底の妖怪達がこの紅魔館を目指しているというあまり好ましくない情報だった。

レミ「まさかお茶をしにってわけじゃないと思うけど」

おそらく戦いに。というか十中八九そうなのだろう。しかし理由が分からない。どうすればいいものかとレミリアは頭を悩ませた。

今は朝で快晴。レミリアにとっては非常に嫌な天気だ。太陽の光が駄目なのはレミリアも例外ではない。唯一の例外といえばウィルヘルミナぐらいだ。

勝算は不明。咲夜や美鈴で鬼と八咫烏を止めれるか。止めれたとしてもまだ問題はいくらでもある。

レミ「逃げる………その方がいいかしら」

数年前のレミリアなら考えもしないこと。しかし幻想郷に来て変わったレミリアは家族を守ることこそ誇りとしている。

そのためならば泥を被り木の葉を纏うことも出来るだろう。

しかしこの人数で向かってきている相手から逃げるのはあまり現実的ではない。行動に移すには遅すぎた。

レミ「仕方ない。戦うしかないわね」

そうため息交じりに呟いてレミリアは自分の手を見つめた。

498: 2014/03/21(金) 19:51:12 ID:qYqS6.qE
レミリア「 …ならば教育してあげる…」

レミリア「本物の吸血鬼の闘争というものを…!」

…的なカリスマ性溢れるおぜうさまがみたいれす

499: 2014/03/21(金) 20:34:11 ID:HsY8Knmc
美鈴「ほへ?」

うつらうつらと睡魔と仲良く遊んでいた美鈴が咲夜に何かを話しかけられ目を覚ます。

美鈴「ふわぁ。もう一度お願いします」

あくび交じりに聞き返すと咲夜はもう一度同じことを繰り返した。

普通ならばこの時点でナイフが刺さるだろうと思っていた美鈴はその言葉を聞いて完全に覚醒する。

美鈴「分かりました」

躊躇はしない。後は咲夜が命令を飛ばしてくれるはず。そう信頼して美鈴は外から門を閉じる。飛べるものが多い幻想郷では門を通らず越えることも出来るがそれでも空中と地上では動きやすさが段違いだ。

それに

―――空中はお嬢様の世界だから。

自分の主より空中で戦えるものはいないと確信している。天狗の速さと鬼に匹敵する腕力。空中ならば自分は勝てないだろう。

美鈴「よし。がんばりますか」

ポケットからグローブを取り出して着ける。そして思いっきり地面を踏みしめた。

それだけで砂煙が舞い、地震のような衝撃が響き渡る。

妖精メイドの慌てた声がしたが美鈴は気にせず敵が来るであろう方向を睨んだ。

500: 2014/03/21(金) 21:42:08 ID:HsY8Knmc
咲夜「弾幕構え! 近づく敵は私とウィル様が対処するから無理はせず足止めに専念しなさい!」

咲夜がメイド妖精に命令を飛ばす。メイド妖精は両手のひらを向け、構えた。

目測800メートル。空中に浮いた咲夜は服の中に仕込んだ銀のナイフを数本取り出し構えちらりと美鈴を見た。

美鈴の様子は普段とは違い隙がない。今ナイフを飛ばしたとしても容易に弾かれるだろう。

ウィル「咲夜」

パタパタとこうもりの羽を羽ばたかせウィルが咲夜に近づく。

ウィルはレミリアやフランとは違い自分専用の武器というものを持っていない。使えるものは素手か、レミリアやフランの武器に似せた魔力で編んだ武器ぐらいだ。威力も耐久力も本物には遠く及ばない。

それでも吸血鬼であるウィルは弱くはない。千の屍を築き、万の血を浴びることすら可能だ。

ただしそれは相手が普通の妖怪だった場合だ。相手は幻想郷の中でも忌み嫌われる者たちを集めた集団。苦戦することは容易に想像できる。

―――でも、負けてあげれない。

ウィルは魔力を解き放った。ウィルの濃い魔力は赤色を伴いあふれ出す。

その姿はレミリアが起こした紅霧異変に似ていた。

501: 2014/03/21(金) 21:59:43 ID:HsY8Knmc
お燐「あはは。チェックメイトだね。ちょっと圧倒的過ぎたかな?」

地底の集団を見ながらお燐が歪に笑う。

鬼に天狗に橋姫に土蜘蛛。その他たくさんの強力な妖怪。

それに今は朝だ。吸血鬼は動くことが出来ない。

ならば負ける要素は万が一にも存在しない。

お燐「これで吸血鬼の氏体ゲット。あとはまぁどうでもいいか」

お空「何かおいしいものあるかなー」

お燐「さぁ。あるんじゃない?」

二人して笑う。その姿はいつもの二人と変わらない姿で、話の内容以外は微笑ましかった。

お燐「どうせすぐ終わるだろうし。今日はこんなに良い天………気?」

お空「?」

氏体が手に入ることに喜びを押さえきれないお燐の笑みが凍りつく。

朝。太陽は見えている。

なのに紅魔館には一筋の光すら差し込んでなかった。

502: 2014/03/22(土) 09:58:12 ID:zgzgoDTI
ルー「これでいいのかー?」

レミ「上出来だな」

レミリアは紅魔館周辺の空を覆う闇を見て満足そうに笑う。

闇の規模は紅魔館周辺。専守防衛ならこれでいいだろう。しかし

レミ「だが、これだけではつまらんな」

ルー「でもこれが限界なのかー」

レミ「そんなわけないだろう? ウィル。ルーミアのリボンを取れ」

ルー「でもこれ触るとびりってなるのかー」

レミ「なに心配ない」

ウィル「これを取ればいいのか? お母様」

ウィルがルーミアのリボンに手を伸ばす。魔を封印し、それに触れた者を弾くリボンをウィルはたやすく解いた。

直後。ルーミアの体から闇が溢れあたり一面の視界を奪う。

ルー「あらあら。この子凄いのね」

闇が消え、そこにいたのはルーミアを成長させたような女性だった。

503: 2014/03/22(土) 10:09:56 ID:zgzgoDTI
ウィル「!?」

ウィルが驚いて目をぱちぱちと瞬かせる。ルーミアが消えてその代わりにいたのがルーミアのような女性。ウィルの理解は追いつかず、自分の頭を撫でてくる女性に混乱した。

レミ「それが封印ってことは知っていたが、そこまででかくなるのか。むかつくな」

ウィル「ルーミア、なのか?」

ルー「そうよ」

レミ「さーて。地底の妖怪だかなんだか知らないが吸血鬼四人に闇の妖怪が一人、メイドに門番に魔法使い」

レミ「勝てるとは思わないことだな! 閻魔よりも先に私が罪状をくれてやろう!!」

ルー「あらあら。テンション高いわね」

ウィル「………来る」

504: 2014/03/22(土) 10:27:06 ID:zgzgoDTI
門の前。両者の距離は50メートル。紅 美鈴と星熊 勇儀がにらみ合っていた。

勇儀「悪いが通らせてもらう」

美鈴「すみませんが無理ですね」

勇儀「わかってはいたが………怨むなよ。こっちも事情があるんだ」

勇儀が深く腰を落とし構える。

美鈴「そちらにどんな事情があろうともここを通すのは門番の名折れ。門番 紅 美鈴の誇りに賭けここは通しません」

対して美鈴が軽くフットワークをして構える。

勇儀「………はぁっ!!」

一歩。轟音と共に衝撃波が飛ぶ。

二歩。さらにそれよりも強い衝撃波。

三歩。50メートルの距離を埋め、地を砕く鬼の拳が最大威力で放たれる。

それを美鈴は受けた。そして強大な力を使って回転、勇儀のわき腹に肘を入れる。

505: 2014/03/22(土) 10:33:45 ID:zgzgoDTI
勇儀「ぐっ………」

美鈴「これを普通に耐えるってどんな体をしてるんです、かっ!!」

美鈴が受け流す柔の体勢から、腰を深く落とし地を踏みしめる剛の体勢へと変わる。

そしてダメージを受けよろめいている勇儀の腹に虹色の気を纏った正拳突きを放つ。

それは勇儀の鳩尾に綺麗に入り、勇儀は体をくの字に曲げた。

勇儀「まけれ、られないんだよ!!」

勇儀が美鈴の腕を掴む。そして後ろへ引こうとした美鈴を力任せに引っ張りよせ空いた手で殴りつけた。

さきほどよりも威力はないとは言え鬼の拳。それを美鈴は顔面に受ける。そのまま地面に叩きつけられ、美鈴の意識は一瞬飛んだ。

美鈴「こっち、もっ!!」

一瞬飛んだ意識の後迫り来る二発目の拳を地面を転がって避け背筋を使って立ち上がる。

美鈴(目が潰れなかったのは幸いですが、あれだけの威力をもう一回受けるとかなりやばいですね)

こちらから攻めるとまたやられてしまう。そう美鈴は判断してまた軽いフットワークの柔の体勢へと変えた。

506: 2014/03/22(土) 14:29:05 ID:j/N8YaOc
勇儀は驚いていた。本当ならば最初の一撃で仕留めるはずだったのにすでに二発も受けてしまっている。

出会いが違えば胸が躍っただろう。しかし今自分が負ければパルスィの命が危ない。一度失われた命を二度と失わせないために勇儀は負けるわけにはいかないのだ。

勇儀「うがぁあああぁあああっ!!」

勇儀の声は叫びを越えて咆哮となっていた。間近でそれを聞いた美鈴の体が一瞬止まる。

それを勇儀は見逃さずに近づく。

形もなにもない単純で最強の一撃を勇儀は繰り出す。

美鈴「あ、しまっ」

咄嗟に腕を十字にして美鈴が受ける。腕から伝わる音は折れた音ではなく砕けた音。

両手を犠牲にしても勇儀の一撃は威力を少し落としただけだった。

美鈴の体が吹き飛び門へぶつかる。

鉄製の門に強く体を打ち付け美鈴の体中から骨が折れる音がした。

地面にどさりと落ちた美鈴は生きているものの動ける状態ではない。

血が混じった呼吸を繰り替えしつつ美鈴は近づいてくる勇儀を見た。

507: 2014/03/22(土) 14:49:55 ID:j/N8YaOc
レミ「楽しいわねぇ!!」

文は後ろを同じ速度でついてくるレミリアから必至に逃げ回っていた。

出来るだけ遠く。レミリアを引きはがすために翼をはばたかせ飛ぶ。

地底の妖怪達の中にはにとりやみとり。そして自分の夫である白衣男がいる。

皆の生存率を上げるために文は自分の命を賭けていた。

文(幻想郷最速だと思っていたのですが)

天狗の中でも速い自分についてこれる存在なんているとは思っていなかった。初めて見たレミリア・スカーレットの実力と、久しぶりに出した自分の全力が近い。しかも相手は一撃でこっちを倒せるほどの力を持っている。

分が悪かった。手数で攻める文が手数で攻めることができない。それどころかレミリアとレミリアの使い魔が放つ弾幕で服が破けていっている。直撃はしていないがそれは時間の問題だった。

レミ「どうしたのよ。そんなに逃げ回って。ダンスのお誘い?」

そんな軽口を叩きながらレミリアは文についていく。付かず離れずの距離だがレミリアは遊んでいるわけではなくこれが限界の速度だった。

空が闇に包まれているとはいえ、その上は光射す世界だ。闇の上に行かせるわけにはいかない。

それにルーミアが倒れてしまうと闇が晴れ、日が射す。そんなことになるとレミリアとフランと吸血鬼はひとたまりもない。

レミ「ねぇねぇ天狗! 鬼ごっこより弾幕ごっこしましょうよ。手加減なしのね!!」

焦りが軽口となって出ていく。

そして焦りはレミリアの命中精度に影響した。

510: 2014/03/22(土) 19:05:15 ID:j/N8YaOc
レミリアが放った弾幕が文の20センチ隣を通り過ぎていく。それはレミリアにしては外れている。普通ならば10センチ以内を狙うことができるのにだ。

文(………さっきからレミリアさんの弾がぶれますね。疲れてるのでしょうか)

しかし誘いかもしれないと判断して文は攻勢に出ずに逃げ続けた。

それがさらにレミリアの焦りを産む。

気が付けば紅魔館から離れている。しかし今背を向けるわけにもいかない。

レミ(罠か………。早く倒さないと)

紅魔館の方からはなかなか激しい戦いになっている音がする。

もしかして誰かが傷ついたんじゃないだろうか。レミリアの中の不安はどんどん大きくなり、一瞬ちらりと後ろを向いた。

文(罠………いや、隙!)

レミリアが後ろを見た時間は1秒にもならない。しかしそれは文にとっては十分すぎる時間だった。

手に持った葉団扇を扇ぎ強烈な風を生み出す。それは大きな竜巻となってレミリアを飲み込んだ。

レミ(あ、やば………)

二回目の風がレミリアを直撃する。何とか態勢を保っていたレミリアも方向の違う強烈な風に煽られバランスを崩した。

そのまま風に飲まれる。そしてなすすべもなく飛んでくる鎌鼬や礫を体中に浴びた。

515: 2014/03/24(月) 09:58:23 ID:8VHamBw2
パチェ「げほっげほっ」

パチュリーの周りを白い粉が覆う。それはパルスィが撒いた灰だった。

パル「毒はないわよ。毒はね」

パルスィーがパチュリーの近づき五寸釘を突き刺す。

パル「っ」

パチェ「うちの、本は、げほっげほっ、そうそう貫けないわよ。シルフィホルン!!」

パチュリーが召還した風の精霊が灰とパルスィーを吹き飛ばす。パルスィは近くの家の壁を蹴って着地した。

パチェ「アグニシャインッ!!」

着地したところを狙い大きな火球がいくつもパルスィーに飛んでいく。それはパルスィーの体を焼き皮膚を焦がす。

パル「かはっ!」

パルスィーが空気を求め大きく口を開く。

パチェ「!?」

その口の中に見えたのは切られて短くなった舌だった。

516: 2014/03/24(月) 10:08:55 ID:8VHamBw2
ドスッ

パチュリーの背中に刃物で刺されたのとは違う鈍い痛みが走る。

パチェ「!?」

振り向こうとすると首を絞められそのまま片手で持ち上げられた。咳き込もうにも上手く咳き込めずパチュリーは蛙の鳴き声のような声をあげた。

パル「やっぱり魔法使いにはこれよね」

パルスィが空いた片手で鋏を取り出しのそれをパチェの口の中に刺し込んだ。そして鋏を閉じる。

パチュリーの口の中から大量に血があふれ出した。血はパチュリーの喉にも入り込みさらに呼吸を阻害する。

パル「はい。これで終わりよ」

パルスィーが手の力を更にこめる。パチュリーの細い首は枝を折るような軽い音を立て折れた。

パルスィーが手を離すとどさりとパチュリーの体が地面に落ちる。パルスィーは念のため心臓のあたりへ何本か釘を刺し、次の目標に向かって歩き出した。

517: 2014/03/24(月) 10:14:39 ID:8VHamBw2
フラン「えへへへへー」

フランが手を握るたびに妖怪が砕け散る。それを耐えることが出来るのは幻想郷でも数えるほどしかいないだろう。

鬼である勇儀がまだ来ていないため、フランの周りにはいくつもの骸が転がっていた。

能力を使い、また剣の形をした炎を使い敵を葬っていく。

そんなフランを止められるものはおらず、赤い目を爛々と光らせたフランも止まる気は一切なかった。

518: 2014/03/24(月) 10:22:32 ID:8VHamBw2
文「もう一発っ!!」

文がさらに風を起こす。それは竜巻をどんどん大きくさせ、今では竜巻の規模を大きく超えていた。

それに比例し、カマイタチや礫の威力もどんどん上がっていく。中に入ったレミリアはひとたまりもないだろう。

文は気を抜かずどんどん葉団扇を扇ぐ。

文「まだまだっ!」

そして文が葉団扇を振り上げた時だった。

不意に体勢を崩す。何が起きたかわからず文は自分の体を見た。

左わき腹がなくなっていた。そして大量の血を噴出させている。

パァンッ

そんな風船がはじけるような音がしてレミリアを閉じ込めていた風がはじけ飛ぶ。

レミ「やっと命中ね」

皮膚が裂け筋肉が露出し関節があらぬ方向へ曲がっているレミリアが赤い槍を持ち不敵に笑っていた。

519: 2014/03/24(月) 10:34:25 ID:8VHamBw2
文「!!」

文は恐怖を感じて葉団扇を強く扇いだ。起こすのは竜巻ではなく強風。

地面の礫を巻き上げるような風が吹きレミリアを襲った。

拳よりも大きな石が恐るべき速度でレミリアに飛んでいく。レミリアは避けれずそれを体中に浴びた。

首が折れ頭が後ろにだらりと垂れ下がる。それと同時にレミリアは手に持った槍を投げた。

グングニルと名づけられた赤い槍はそれほど強くは投げていないのに音速の壁を越えて文に飛来する。

懸命に回避しようとするが左足を掠めてしまう。レミリアの膨大な魔力を使って編まれた槍はそれだけで足の肉を弾け飛ばせた。

レミ「どうした。もっと楽しいことをしてくれるんじゃないのか?」

520: 2014/03/24(月) 10:35:28 ID:8VHamBw2
文「うわぁああああぁあっ!!」

文が叫びながら闇雲に葉団扇を扇ぐ。カマイタチや礫がレミリアを直撃し、レミリアの体を傷つけていく。

しかしレミリアはそれを気にも留めず再び手に持った赤き魔槍を投擲する。

再び音速を超える槍が文に突き刺さった。右腕の肘から先が吹き飛ぶ。

文「あ、あぁあああぁあああっ!!」

熱い痛みが文の意思を砕く。

文(やだ、白衣男さん、たすけ)

愛しい人を思い涙を浮かべた射命丸の顔を槍が吹き飛ばした。

レミ「烏ごときが夜空の王であるこの私に勝とうと思うことが間違いなのよ。逃げるんならともかくね」

526: 2014/03/24(月) 20:25:45 ID:mswSnWOc
勇儀「すまんな」

美鈴の視界には自分を見降ろす勇儀が見えた。

勇儀が腕を振り上げる。このまま拳を振り下ろされれば美鈴の命は途切れるだろう。

狼男「美鈴!!」

上から声がした。見上げた勇儀の視界にはこちらに向かって飛び降りてくる男。

勇儀「邪魔しないでくれ」

それを勇儀は片手で弾き飛ばした。狼男が空中を飛び、ごろごろと地面を転がる。

狼男「めい、りんっ」

狼男が地面をひっかき這って美鈴に近づこうとする。しかし距離は遠く、いくら手を動かしても次の勇儀の攻撃からは美鈴を守れない。

狼男の視界がぼやけてきた。鬼の一撃を腹部に受け内臓はボロボロになっている。折れた骨が体を動かすたびにさらに内臓を傷つけた。

血の泡が混じってかすれた声で美鈴の名前を呼び、腕を動かす。しかしその動きは次第に小さくなり、這おうと力を込めた腕は虚しくも地面の砂を掻くだけだった。

狼男「めい…り……」

狼男はもう声かどうかも怪しいぐらいの声で美鈴の名前を呼んだ。そして前に進もうと少し上げた手が力尽き地面へと落ちた。

527: 2014/03/24(月) 20:39:03 ID:mswSnWOc
美鈴「男さぁんっ!!」

美鈴がボロボロの体で立ち上がる。

そのままよたよたと狼男の亡骸へ歩み寄った。

勇儀は歩いてそれに近づきトドメを刺そうとする。

美鈴「狼男、さん」

美鈴が骸を抱きしめ泣く。

美鈴「なんで、なんでなんでなんでなんで!!」

美鈴が後ろに立つ勇儀を睨む。その眼は殺意に満ちていた。

その眼に少し勇儀は怯んだが相手は瀕氏。トドメを刺そうと拳をふるった。

美鈴「頃してやる!!」

勇儀「!?」

その手を美鈴が掴んだ。

その様子はさっきまでの瀕氏の妖怪ではなかった。そしてそもそも

美鈴「うああぁあああぁあああぁっっ!!」

頬や腕を覆う緑色の鱗は勇儀の知る紅 美鈴ではなかった。

529: 2014/03/24(月) 20:46:38 ID:mswSnWOc
鱗に覆われた拳で美鈴が殴りかかる。一瞬怯んで防御が遅れた勇儀の顔に拳が深く突き刺さった。

勇儀「がぁあっ!!」

今まで受けたことのない一撃を受け、勇儀の体が吹き飛んだ。

美鈴「頃す頃す頃す頃すころすっ!!」

吹き飛ぶ勇儀に美鈴が追いつき何度も殴打を加える。抵抗しようとするが防御をしたところで防御した箇所の骨が砕かれるだけだった。

今の勇儀を見て誰が鬼と信じれるだろう。それほどまでに戦いは一方的になっていた。

勇儀「あ、が」

勇儀の体はさきほどの狼男のように内臓が傷つきボロボロになっている。しかし美鈴の攻撃はやむことはなかった。

破裂した血管が肌をどす黒い紫に変える。

氏ぬのだろうと勇儀は感じた。しかし勇儀は向かってくる氏に恐怖しなかった。

ただ、残してしまう親友のことを強く思いながら勇儀は意識を手放した。

541: 2014/03/26(水) 23:27:54 ID:tq7qIQ3I
レミ「さて、皆を守りにいかなきゃね」

レミリアが落ちていった射命丸から砦に目を向ける。火や煙が上がっていることからどうやら戦いは激しくなっているらしいとレミリアは判断した。

ウィルに良く似た羽を羽ばたかせ砦に向かう。見下ろした地面では息絶えた妖怪や消えていく妖精。

そして自分の部下の狼男の姿と獣の吼えるような慟哭をあげる美鈴。

それを見て遅かったのだと理解して歯噛みする。

飛ぶ速度を上げて砦の中に着地し、槍を振り回して下にいた数体の妖怪を葬った。

周りを見渡すと咲夜、ウィル、フラン、吸血鬼の姿は見える。しかしパチュリーの姿が見えない。

槍を振り回しながら砦内をかける。

小悪魔「………」

そしてぼろぼろの小悪魔が何かにかけた毛布を守っているのを見つけた。

小悪魔に襲い掛かっている妖怪を一撃で葬り、嫌な予感を否定するために毛布をめくろうとする。

小悪魔「駄目ですレミリア様っ!!」

しかし小悪魔の制止は間に合わずレミリアは毛布をめくってしまった。

543: 2014/03/27(木) 00:47:10 ID:YKH3uRjk
レミ「………っ」

そこにあったのは口元から大量の血が漏れているすでに生きていない友人。

パチュリーの姿を見たレミリアが毛布を戻して胸の前で十字を切った。

レミ「地獄行きにしたら殴りこんであげるから安らかに眠りなよ」

小悪魔「レミリア、さま」

レミ「すぐ終わらせる。それまでパチュリーは任せたわよ」

パチュリーから背を向けレミリアが走り回りながら槍をむちゃくちゃに振るう。

レミリアは傷つくことを恐れず飛び道具を体で受け、相手を切り裂き。相手に切られながら相手を切り裂く無理やり押し通るような戦いをした。

相手と自分の血で周り一面が赤く染まる。あたり一面の敵を葬り、レミリアは目元についた血を拭った。

544: 2014/03/27(木) 01:19:50 ID:YKH3uRjk
咲夜は明らかにジリ貧だと思った。ナイフの本数は回収しながら戦っているとはいえ頼りないほどの数しかない。

しかし押し寄せる地底の妖怪はまだいる。我が主であるレミリアを信じないわけではないがこちらがやられていることは事実。咲夜はレミリア達を連れ逃げたほうがいいのではないかと思った。

咲夜「!」

襲い掛かってきた妖怪の後ろに時を止めて回り込みナイフを刺す。

抜いたナイフには血がべったりとついておりそれはなんど振り払っても取れなかった。近くにいた妖怪に投げ捨て新しいナイフを抜く。

ルー「無事かしら?」

咲夜「えぇ。なんとかね」

信じられないがルーミアは咲夜よりも多く敵を倒している。咲夜はルーミアが纏う闇の中でどのようなことをしているのかは分からない。ただ敵がルーミアの闇の中に入ると氏んで出てくるということだけだ。

ルー「正直逃げたほうがいいんじゃない?」

咲夜「………それは出来ないわ。私はお嬢様の命令に従うだけ」

一瞬言葉が詰まる。現在の状況と外から聞こえる美鈴の声が邪魔をした。

ルー「そう。私は危なくなったら逃げるけどね。闇ぐらいは出すけど」

そう喋りながらもルーミアが纏う闇のドレスから闇が溢れだし近くの敵を包む。そしてやはり敵は氏体となって出てきた。

545: 2014/03/27(木) 01:29:26 ID:YKH3uRjk
咲夜「別にいいわよ。闇さえあれば」

そういいながら咲夜は今ルーミアに抜けられると危ないということを理解していた。

ルー「それはありがたいわ、ね」

ルーミアが闇の中に手を向けたかと思うとその指と指の間に釘を掴んでいた。

パル「………やるわね」

ルーミアが釘が飛んできた方の闇を消すとそこにはパルスィが大きな釘を構えて立っていた。その釘の長さは30センチを越える。もはや釘よりは杭に近かった。

ルー「嫉妬を操る程度の妖怪ね」

パル「それが、どうかしたの?」

パルスィの目が怪しく光る。

その直後、咲夜はルーミアに向かって襲い掛かった。しかしナイフを持った手を掴まれ地面に倒される。その隙を突いて襲い掛かったパルスィも同様に地面に倒された。

パル「え」

ルー「嫉妬を持たない人間はいるけど暗い暗い闇を恐れない人間なんていないのよ」

あふれ出す闇にパルスィが包まれる。

逃げ出そうともがくが存在の無い闇に触れることは出来ずパルスィは飲み込まれていった。

悲鳴すらない。

546: 2014/03/27(木) 01:39:47 ID:YKH3uRjk
咲夜はルーミアに恐怖を覚えた。本当に全ての人間が恐れるとしたらルーミアのこの強さも分かる。それよりも悲鳴すら上げさせないあの闇の中が怖かった。

ルー「早く立って欲しいわね。一人でも出来るけど、面倒だわ」

咲夜「あ、ご、ごめんなさい」

ルー「あら、あなたの主人が来たわよ」

ルーミアが見る方向を見ても闇で見えない。が、その闇を突破して主人であるレミリアが現れた。

レミ「咲夜、これを持って博麗神社まで行きなさい。ウィルと一緒にね」

レミリアが懐から白い封筒を取り出す。確かに博麗神社の協力を借りればこの状況を覆せるだろう。咲夜はレミリアから封筒を受け取り、土と血で汚れたメイド服で優雅に一礼した。

咲夜「分かりました。すぐ戻ってきます」

咲夜が地面を蹴りウィルの元へ向かう。

それを見送りレミリアは少し片足を折った。

ルー「大丈夫?」

レミ「大丈夫だ」

レミリアは槍を支えにしてレミリアが立ち上がる。

ルー「そう。じゃあ頑張ってね」

レミ「あぁ、もう一頑張りしてくるよ」

555: 2014/03/28(金) 10:58:36 ID:XK91XOIA
咲夜とウィルは飛んでいた。ウィルは全力で飛ぶわけにはいかないので咲夜のスピードに合わせていたがそれでもある程度の速さはある。しかしある程度の速さといっても人間の範囲だ。いくら時を止めれても速度は妖怪ほどではないのだから。

だから

ウィル「咲夜!」

妖怪に追いつかれ、咲夜を狙った妖怪をウィルが倒す。砦を出て数分しか立っていないが倒した数は十の位で指二本にまでおよんだ。

周りを見れば妖怪に取り囲まれている。今咲夜を逃がすと増援が来ることを分かっているのだ。

もちろんウィルならば倒せるだろう。しかしそれは時間のロスを出してしまう行動だし、咲夜だけを先に行かせたとしても咲夜が狙われないという保障はどこにもない。

そしていくら咲夜やウィルが近づけさせないように牽制していたとしてもいずれ距離をつめられる。そうなった場合もうどうしようもない。深刻な時間のロスを招いてしまう。戦闘により咲夜が命を落とすかもしれないし、このロスで紅魔館の誰かが命を落としてしまうかもしれない。

今取れる最善の方法は咲夜が命を捨てる覚悟で妖怪の足を止め、封書をウィルに託すこと。

それを咲夜は理解していた。しかしまだいけるのではないかという希望も捨てきれない。

紅魔館のメイド長であれど、まだ齢十とちょっとの少女。普段レミリアのために命を落とせると思っていてもいざとなると行動に移せるほどの覚悟はもっていなかった。

556: 2014/03/28(金) 11:20:53 ID:XK91XOIA
それに対しウィルは二人とも生きられる策を考えていた。ウィルの運命を壊す程度の能力ならば追い詰められているという現況を切り抜けることが出来る。

現在起こりうる可能性はウィルが氏ぬ。咲夜が氏ぬ。二人とも氏ぬ。二人とも生き残る。

確率としては咲夜が氏ぬが一番高く、二人とも生きるが一番低い。しかし運命が確定されていないため破壊したところで可能性の再決定が行われるだけだ。意味はあるだろうが、結局咲夜が氏ぬ可能性を否定できないため賭けにしかならない。もしレミリアがこの場にいれば話は別であっただろうがその仮定は現在何の意味もない。

ウィルは頭を悩ませる。二人が生きることに限定するのであれば逃げるのをやめて戦うことだが、それによって他の誰かが氏ぬという可能性が高くなる。かといってその誰かを助けるのに砦に戻るのは本末転倒だ。せめて封書を届けるのが自分だけだったら良かったのにとウィルは思った。

そのときだった。黒い何かが疾風のごとき速さで近づき、妖怪を切り裂いていく。

その動きは天狗のように速度が速いというよりは素早い。跳ねるように次から次へと敵を倒していく。

いきなり現れた何かに妖怪達は驚き一瞬足を止めた。その隙を突いてウィルと咲夜が包囲から脱出する。

一瞬振り返ったところに見えたのは白を含まない漆黒のメイド服。吸血鬼がそこにいた。

吸血鬼「ウィル様! 生きてください!!」

吸血鬼が投げかけるのはがんばれでもなんでもなく生きろという願い。人にかける言葉の中で一番重く一番相手を思っている言葉を吸血鬼はウィルにかけた。その言葉は普通氏地へ赴く者か自らの生を誰かに託すときの言葉。そしてこの場合

ウィル「吸血鬼!!」

後者であろうことは明白だった。吸血鬼が強いとは言え、すでにボロボロ。敵を倒せはするだろうが生きのこる可能性は低かった。

吸血鬼が舞う。切り裂き、切り裂かれ、他者の赤と自分の赤を撒き散らしながら舞う。自己再生も追いつかずいずれ息絶えるであろう。しかし吸血鬼は華麗に過激に舞った。

ウィルはそれから目を離せず、しかし足は止められなかった。

徐々に動きが鈍くなる吸血鬼を無視して妖怪がウィルたちに向けて走り出す。現在いるのは闇と光の間。光の方に入ってしまえば吸血鬼がついてこれないのを理解していた。人数の減った今ではウィルは倒すことが出来ない。しかし咲夜ぐらいなら道連れに出来るだろうと考えていた。

557: 2014/03/28(金) 11:26:44 ID:XK91XOIA
吸血鬼「!!」

妖怪達が光から闇へ抜ける。そして闇の中のには誰もいなくなった。

吸血鬼「待ちなさい」

そう吸血鬼も含めて。

日の光が吸血鬼を焼き皮膚を焦がす一分もすれば吸血鬼の体は全て灰になってしまうだろう。今戻ればまだ重傷ながらも助かる。

しかし吸血鬼は戻らなかった。

吸血鬼は自分と相反する太陽光を受けなおも怯まず、それどころか更に力強く舞う。一匹一匹仕留めるその姿はとても美しかった。

ウィルは戻ろうとする。しかし一瞬自分に向けられた笑みに吸血鬼の決意を感じ、涙を拭いながら前を向いた。

自分を追ってくるものはもういない。

すべて吸血鬼が倒してくれるのだから。

558: 2014/03/28(金) 11:41:49 ID:XK91XOIA
最後の妖怪を吸血鬼が倒す。

すでに右手は地面に落ち、そのまま灰になって消えた。左手がまだもっていたのは幸いだった。しかしそれでも足、頭を使って倒すつもりだったのだが。

ウィルが走っていった方向を見る。すでにウィルの姿は見えない。そのことに安堵する。

左足が灰になり砕け、吸血鬼は仰向けになって倒れる。

見えるのは憎らしいほどに輝く太陽と、すがすがしいほどに青い空。

吸血鬼「良い、天気」

腰から下が全て灰になった。あと十数秒で上半身も灰になるだろう。

自分の避けられない氏がほんのそこまで迫っているのに吸血鬼は笑顔だった。

最初は吸血鬼の自分がレミリアのメイドとなって働くのは苦痛だった。

しかしそれは最初だけで紅魔館の忙しく楽しい毎日はずっと平等なものはおらず一人で生きてきた吸血鬼には凄く楽しいものになった。妖精ではあるが友人も出来て、レミリアの無茶振りに仲間と一緒に頭を悩ませる日々。笑顔が顔から離れなかったそんな日々。

もし狼男が逃げ出さず紅魔館に行かなかったのならばこんな楽しい日々は送れず、全てを見下す退屈な日々が続いていただろう。

だから自分の大好きな場所を守れたことに吸血鬼は笑顔を隠しきれなかったのだ。

吸血鬼「あぁ、楽しかった!」

吸血鬼は自分の人生をそう締めくくって灰になり、消えていった。

560: 2014/03/28(金) 12:59:34 ID:XK91XOIA
お燐は焦っていた。

闇が現れ簡単に倒せると思っていた戦いがこんなにも長引いている。そして咲夜が増援を呼びに行ってしまった。

しかもこっちの切り札の鬼は負けてしまっている。もしかしたら自分が負けるのではないかという思いがお燐を焦らせた。

その結果

お燐「そうだ」

お燐の顔がニタァを歪む。お燐にしか出来ず、出来たとしても普通は考えない手段。狂ったものにしか取れない手段をお燐は思いついた。

お燐「お空。あそこに向かって全力で撃ちな」

お燐が指差した先は砦。現在味方が戦っている場所へ撃ち込もうというのだ。当たれば鬼ですら危ないお空の全力を。

味方もろとも敵を頃す。どうせ氏体になれば操れるんだから何も問題はない。むしろ逆らうものが一気に消えて都合がいいくらいだとお燐は考えていた。

お空「でもちょっと時間がかかるよ」

お空の制御棒が光を放ち、その先端に小さな光の玉が浮かぶ。

お燐「別にいいさ。あいつらが命がけで時間を稼いでくれるだろうからさ」

お空「そっかー」

お空はあまり深く考えず、力をこめることに集中した。頭脳労働はお燐の役目で、肉体労働は自分の役目だ。そう判断する。

お燐「別に焦らなくていいんだよ。確実に殺せるように集中しなよ」

562: 2014/03/28(金) 13:55:05 ID:XK91XOIA
咲夜とウィルは博麗神社にたどり着いた。しかし結界で覆われているため結界の知識を持たない二人は中に入ることが出来ない。

なので結界に向け弾幕を放った。

異常があれば誰かが来るだろう。その考えは当たり八雲 紫の式で結界を管理している藍が長い階段を下りてやってきた。

藍「どうかしたか?」

結界の向こうの藍は別に焦った顔もしておらず、どうやら咲夜が敵に回ったのではなくただ単に来客したということに気づいていたようだ。

咲夜「お嬢様からの封書を預かっているわ。紫に渡したいのだけど」

藍「………分かった、入るといい」

藍は周りに他の妖怪がいないのを確認して咲夜たちの目の前だけ結界を解く。そして二人が中に入ったのちにまた結界をした。

藍「紫様は中にいる」

藍が階段を上がる二人に言う。咲夜とウィルは藍に礼を言うと、階段を飛んで登り、そのまま神社の中へ入った。

中にはなにかの神が祭ってあるようだったが、知識の無い咲夜たちには分からない。今はそんなことよりも紫に渡すほうが先だった。

祭ってある何かの前にいる紫は咲夜達の来客に別に驚いた様子は無く、冷静に咲夜の用件を聞いた。

咲夜「これを」

咲夜に手渡された封書を空け、中の紙を一読する。そして紫が読み終わった手紙を戻すと二人にこう告げた。

紫「博麗神社は十六夜 咲夜。ウィルヘルミナ・スカーレットの両名を受け入れるわ」

563: 2014/03/28(金) 14:10:43 ID:XK91XOIA
紫から出た言葉は援助ではなく二人の受け入れ。

到底言い間違えたとも読み間違えたとも思えないその言葉に二人は混乱した。

紫「あとこれ、あなた宛みたいよ」

紫がもう一枚入っていたらしい紙を取りだす。そこにはレミリアの命令が書いてあった。

―――生きて私達を伝えなさい。

そんな単純で意味が分からない命令だった。

しかし咲夜はその意味を理解していた。以前レミリアが語っていた言葉。伝説は氏なない。だから化け物は永遠に生きるために騒ぎを起こすのだという言葉。

そして咲夜はレミリアが現在どんな覚悟をしているのかを理解した。

咲夜「了解、しましたわ」

咲夜は手紙を丁寧に折りたたんで懐に入れた。

自分の手で紅魔館を伝説へと変える。知ったものの記憶の中に残る永遠に覚めない紅い世界を作り出すために咲夜は決意した。

絶対に氏なないということを。レミリア達を伝え続けることを。

564: 2014/03/28(金) 14:21:13 ID:XK91XOIA
ウィル「お、お母様は、お母様達は」

ウィルがおろおろと砦のほうを見る。

助けてもらえないということは自分の母親が氏ぬこと。いくら違う世界の母親だとはいえウィルはそれを受け入れたくなかった。

紫「………諦めなさい」

紫の冷たい言葉にウィルが激昂する。そして扉を破壊しながら外へ飛び出て行った。

しかし結界に阻まれ地面へと落下していく。

その直後に幻想郷中に爆音と衝撃波が響き渡っていった。

565: 2014/03/28(金) 14:30:33 ID:XK91XOIA
紫「………」

結界を揺らす衝撃波と砦のほうに見える光を見て、紫は悲しそうに目を伏せた。

咲夜「お嬢様は」

紫「えぇ、そのとおりよ」

咲夜は胸が消えてしまったのではないかと思うほどの消失感に胸をぎゅっと押さえた。覚悟をしていたとは言え悲しいものは悲しかった。

しかし今はウィルのことを優先すべきだと判断してウィルが落ちたであろう場所へ向かう。

博麗神社の西に位置する結界に触れながらウィルは目を見開いていた。その目から流れる涙。

ぴくりとも動かず砦の方を見つめるウィルを咲夜は後ろから抱きしめた。

569: 2014/03/28(金) 14:46:54 ID:XK91XOIA
お燐「あははははは!!」

氏体を手に入れるという最初の目標はお燐の頭の中から消えていた。こんなことをしては生存者はもちろん氏体すら残らない。

自分の配下が全て消えてしまったということにお燐は気づいていなかった。

衝撃波で吹き飛ばないようにしながらお燐は笑い続ける。

そして一通り笑った後、お燐を褒めるべく後ろを向いた。

お燐「凄いよお空!………お空?」

振り向いた先にはお空の姿は無かった。どこかにいってしまったのだろうかと思い探すために一歩踏み出す。

その直後体を抉るひどく鈍い痛みがお燐を襲った。

え?と言おうとした言葉がなぜかごぽっという音に変わる。そして自分の体を貫く茨と茨に咲く赤と血で所々赤くなった青の薔薇を見た。

認識したことにより痛みが更にひどくなる。

誰?という疑問は浮かび上がった瞬間に解決した。この薔薇を自分は見たことがある。ということは今自分を攻撃しているのは

こいし「めっ。だよ」

そんなペットをしかるような声が後ろから聞こえた。

570: 2014/03/28(金) 14:52:33 ID:XK91XOIA
さとり「お燐」

自分の愛する者の声が聞こえた。

いつの間にかさとりが目の前にいた。

―――さとり様助けてください痛いんです。

その思いをさとりに伝えるがさとりは首を横に振る。

なんでという思いがあふれ出した。

さとりはこいしの名前を呼ぶとさらに次々と茨が体を貫く。

お燐は体を貫く痛みより心を砕く痛みのほうがずっと辛かった。

―――あたいはただ皆で暮らしたかっただけなのに。

茨が抜かれお燐の体が地面に落ち、人間の体から黒猫へと変わる。

涙を浮かべるお燐の頭をさとりが撫で、ごめんなさいと呟いた。

574: 2014/03/28(金) 15:08:40 ID:XK91XOIA
~男視点~

魔理沙が泣いている。涙を流している。

ウィルも泣いている。涙を流している。

紅魔館の人たちが氏んだ。ちょっと前に話した相手が氏んだ。

運命は残酷でどうしようもない。意味もない悲劇を生み出していく。

なぁ四季さん。これでも紫は優しいのか? 霊夢を守るために仕方がなかったのか?

こんなことをして霊夢が救われたとしてもそのあとの世界はどうなるんだよ。

霊夢以外皆頃すつもりなのかよ。そんなことしたら霊夢が可哀想だろ。それで霊夢を救ったって胸を張って言えるのかよ。

どうしようもない怒り。破壊衝動が体を襲って地面を殴りつける。止めるぬえを振りほどこうとするが適わず地面に組み伏せられた。

男「あぁあああぁあああああぁあああ!!!!」

どうしようもなくて叫ぶ。叫び続ける。

怒りは減らない。それどころかどんどん沸いてくる。

このまま氏んでしまうんじゃないかと思うほどの怒り。

それが止まらない。

575: 2014/03/28(金) 15:15:50 ID:XK91XOIA
ぬえ「あう」

ぬえが懇願するような声で俺に言う。

多分落ち着いてとかそんな意味なんだろうがそれは無理で叫び続けた。

霊夢「男」

霊夢が近づいてきた。俺を組み伏せるぬえを手でどかし俺を立たせる。

男「霊夢………」

その直後にぱしんと頬を叩かれた。

霊夢「魔理沙を守るんじゃなかったの? そんなあんたがこんなようすで魔理沙を守れるの?」

男「でも」

霊夢「言い訳しない!」

二発目が飛んできた。避けられずに再び受ける。

男「………分かった」

霊夢「うん、良し。じゃあ魔理沙と私を守りなさいよ。全力でね」

理不尽な言葉のようだがこれも霊夢の励ましなんだろう。霊夢も悲しいのは一緒だろうしな。

576: 2014/03/28(金) 15:21:11 ID:XK91XOIA
男「霊夢は強いな」

霊夢「当たり前でしょ。博麗の巫女だもの」

男「そうか」

霊夢「それより魔理沙とウィルを頼んだわ。あんたはなぜか人に気に入られるみたいだから」

男「………そうかな」

霊夢「私がそうっていえばそうなのよ。じゃあ後は任せたわよ」

霊夢がふよふよと屋根の上に上がっていった。

男「なぁ、魔理沙。ウィル」

魔理沙「な、うぁ。なんだ?」

魔理沙は嗚咽交じりで聞き返してくるがウィルに反応はない。

それもそうだ。自分の親だからな。

男「………ごめんな」

魔理沙「なんで、ひくっ。謝るんだ、よ」

男「俺が紫に言ってればなんとかなったかもしれないのに」

魔理沙「無理、だろ」

577: 2014/03/28(金) 15:35:31 ID:XK91XOIA
男「でも行動を取らなかったことは事実だ」

魔理沙「でも無理だって」

男「無理とか無駄とかそんなことを言う権利は俺には無いんだよ」

行動してないのにそんなこと言えるわけが無い。

男「なぁ魔理沙。他の誰かを守るために力を貸してくれないか。俺ってどうしようもないほど弱いからさ。魔理沙がいなきゃ駄目なんだよ」

魔理沙「そんなこと、ない」

男「格好悪いけどさ。ヒーローなんてものにはなれないけどさ。それでも誰かを助けたいんだ。もう誰も悲しませたくはない」

嘘ではないと言いたい。でもこの言葉が大言で虚言に近いって事は理解している。それに出来ないことはどうであれ嘘だ。

紫「なら戦いなさい」

男「!?」

紫の声がいきなり後ろから聞こえた。

驚いて振り向くとそこには紫と咲夜がいた。

紫「今から博麗神社は最後の手段に出るわ。冥界に協力を仰ぎ、全勢力をかけ人里へ進行する」

578: 2014/03/28(金) 15:42:21 ID:XK91XOIA
男「え、ちょっと待てよ、そんな危険な」

紫「危険な手段を取らないといけないほどこっちは追い詰められているの」

意味が分からない。なら紅魔館の人たちを助けに行けばいいだけの話で

紫はいったい何を考えている?

紫「あなたの持つ銃を使えば何度かはリセットできるわ。そのうち一度でも冴月 麟を倒せば異変は終了する」

男「………つまり何度か氏ねと?」

紫「そういうことになるわね」

あっけらかんと紫が答える。

つまり生き返るんだから氏んでもいいだろということで

男「ふざけるな!!」

紫の胸倉を掴む。紫はそれでも冷静な目で俺を見てくる。

男「氏ぬんだぞ!?」

紫「時が戻ればそれは氏んだことにはならないわ」

男「そんなこと」

紫「参加するかしないかはあなたの自由だけど、参加しなかったら氏にっぱなしよ?」

579: 2014/03/28(金) 15:46:50 ID:XK91XOIA
男「!」

さっきは振るえなかった拳を紫に向かって振るう。

しかしそれは

咲夜「やめなさい」

藍「それは許さないぞ」

咲夜に止められ、藍さんが俺の首に手を突きつける。

男「なんでだよ。なんで協力してるんだよ、咲夜!!」

咲夜「気持ちを優先して最悪な結果を迎えたくないからよ」

紫「現実を見なさい。理想とか夢とかそんなこと掲げて人は救えないわ。ただの人間にはね」

その言葉に何も言い返せない。

だってそのとおりなのだから。

580: 2014/03/28(金) 16:07:30 ID:XK91XOIA
自分の部屋の前で考えていた。紫の言葉を。

たしかにこの銃で人は救える。魔理沙や霊夢達の博麗神社のメンバーだけだがそれでも救える。そう結果的に見れば救えたことになるんだ。

でもそれでいいのかという気持ちもある。ただそれは命の尊さとかそんな綺麗なことを語る偽善であり、紫の言葉を否定できない。

チルノ「入るぞ、師匠」

チルノが部屋の中に入ってきた。

壁にすがって考え込んでいる俺を見てチルノが慌てて近寄ってくる。

チルノ「どうした!?」

男「なぁチルノ正しいのに納得がいかないことってどうすればいいんだろうな」

チルノ「? 納得いかなくても正しいことは正しいんじゃないのか? だって納得いっても正しくないことは正しくないんだから」

チルノが首をかしげながら答える。

男「その選択をしたら皆が氏んでしまうかもしれない。でも俺は皆を氏なせたくないんだ」

チルノ「うん」

男「俺は誰かが氏んでもそれを無かったことにできる。でも氏んだということは変わらないだろ?」

チルノ「うんまぁ。その選択をしなかったら?」

男「皆は氏なないかも知れない。けど何も解決しない」

581: 2014/03/28(金) 16:14:21 ID:XK91XOIA
チルノ「何も解決をしないってことは間違ってることなのか?」

男「正しくは無い。現在目標としていることを達成できる行動を取らないんだからな」

チルノ「異変解決?」

男「あぁ、そうだ」

チルノ「じゃあ師匠が行かないって選択肢はないんじゃないのか? いくら師匠がその選択肢を取らなくても皆は行くんだから」

男「………だよなぁ」

何度も出ている結論だが、それ以外の答えをチルノは示してくれなかった。

男「あー。女々しいよな、俺」

皆の覚悟を否定して俺の夢を押し付けてるんだから。

嫌になる。

男「チルノ。俺を思いっきり殴ってくれないか?」

チルノ「?」

男「お願いだ」

チルノ「いいのか?」

男「おう」

582: 2014/03/28(金) 16:17:43 ID:XK91XOIA
チルノ「えい!」

チルノの拳が俺の頬に触れた瞬間俺の体が壁にぶち当たる。

意識が飛びかけたが痛みで余計なことを考えなくて良くなったのですっきりする。

男「あーすっきりした。ありがとうなチルノ」

チルノ「? 師匠ってどえm「違う」

なぜか勘違いされていたので訂正する。

男「よーし、がんばるぞー」

チルノ「おー」

583: 2014/03/28(金) 16:22:20 ID:XK91XOIA
部屋から出ると霊夢と遭遇した。

霊夢「あら、うじうじ考え込んでたんじゃないの?」

男「まぁな。ところで霊夢、俺がお前に戦うなって言って言うこと聞くか?」

霊夢「聞くわけないじゃない」

男「ん、そうだよな。ありがとう」

帰ってきた当たり前の返答に満足する。

とりあえず魔理沙とぬえを探しに出かけようか。もう考え事は終了したのだから部屋に入ってもいいと伝えなければ。

霊夢「………いきなりなにかしら、気持ち悪いわね」

俺を見送る霊夢が何か言っていたが小さくて聞こえなかった。

584: 2014/03/28(金) 16:55:13 ID:XK91XOIA
魔理沙「兄貴、もういいのか?」

ぬえ「………」

魔理沙とぬえは一緒にいた。

ぬえは岩の上で魔理沙を眺めて、魔理沙は魔法の練習をしていた。

男「あぁ。結局俺が馬鹿だったって話だ」

魔理沙「兄貴は馬鹿じゃないって」

男「そう言ってくれるのはありがたい」

でも結局は空回りしただけの男なんだけどな。まぁ自虐はやめて今度のことを考えよう。

男「冥界に協力してもらうって紫がいってたが」

魔理沙「あぁ、幽々子と妖夢に協力してもらうんだよ。というかむしろ協力してくれるのがそれぐらいしかいないからな」

男「………うん。だな」

魔理沙「でもだから人間が冥界を狙うという可能性もある。というか狙ってくるだろうな」

男「じゃあ急がないといけないんじゃ?」

魔理沙「そうだな。だから今夜冥界へ向かう」

男「今夜か………」

592: 2014/03/29(土) 13:59:41 ID:ZBTPmxX6
~俯瞰視点~

桜の木がいくつも並ぶ。後数か月もすれば見事な桜が一面に咲くだろう。

妖夢「………」

妖夢は楼観剣を構え瞑想する。目を使わずとも世界を見れるようになるにはまだ妖夢は幼い。

祖父である妖忌の教えは剣を通して世界を知る。剣が真実に導いてくれる。その言葉の意味が妖夢にはまだわからずとりあえず斬ってみればわかるのではないかと解釈してしまっていた。

実際はもちろん違う。しかし妖夢はいい意味でも悪い意味でも単純だった。

祖父が消えた理由も今なさなければならないことも剣とともに生きればいずれわかるのだろうと信じていたのだ。

こうして今日も妖夢は愚直に修業をする。

そんな様子を幽々子はほほえましそうに見守っていた。

593: 2014/03/29(土) 14:35:28 ID:ZBTPmxX6
幽々子「んー。おいしっ」

幽々子は手に持った団子を口で一つ串から抜いて食べる。

冥界は限りなく暇で妖夢も修業中、よって幽々子は食べることしか暇をつぶすことができなかった。

外の世界に遊びに行くのもいいかもしれないが、親友である紫が大変なのに遊びにいくのはちょっと冷たい気がしてやめていた。

幽々子としては幻想郷の異変に特に興味はなく、さっさと異変が終わって紫とお茶を飲みたいと思う程度であった。そもそも幽々子は幻想郷にあまり興味がない。食べ歩きに出かけたりもするがそれは外の世界でも同じでなくなったとしても気に入った店が少し無くなるだけだ。

幽々子「もぐもぐ。えいっ」

食べ終わった串を妖夢に向かって投げつける。それを妖夢は目を開けることもなく切り捨てた。

幽々子「さすがねぇ」

妖夢「お爺様なら今の串を縦に斬れますよ。当たり前のように」

幽々子「妖忌ならそうでしょうけど、ねぇ」

妖夢「幽々子様は相変わらずお爺様が苦手なようですね」

幽々子「嫌いじゃないんだけど、堅苦しいのは苦手なのよぉ」

妖夢「私としてはお爺様に戻ってきて欲しいのですがね」

594: 2014/03/29(土) 14:58:54 ID:ZBTPmxX6
幽々子「案外近くにいるのかもしれないわよ」

妖夢「だといいのですが」

妖夢は少し笑って再び集中し始めた。幽々子は二本目の団子に手を伸ばしそれを眺める。

団子を食べながら幽々子は考える。

今現在この冥界が襲われたらどうなるだろうか。こっちから参戦する気はない。だからといって攻めてこないわけではないのだ。戦力は二人。どうしようもない。

妖忌がいればまだ何とかなるかもしれないが、どこにいるかは誰も知らない。

頼れるのは紫だけ。かといって紫に援助を頼むと参戦したことになってしまう。

幽々子「ままならないわねぇ」

団子を食べながらため息をつく。

しかし今更どうすればいいかを考えるのは致命的に手遅れだった。

男「どこだよ、ここ」幽香「誰!?」【後編】

引用: 男「どこだよ、ここ」幽香「誰!?」