1: 2014/05/24(土) 14:28:54 ID:buwbsZRs
このSSは男「どこだよ、ここ」幽香「誰!?」の続きです。

よろしければそちらからどうぞ。

2: 2014/05/24(土) 14:42:17 ID:buwbsZRs
カタカタと音が聞こえた。

男「な、なんだ。なんの音だ?」

憑かれ屋「や、やめて」

男「おい、これなんの音なんだ!?」

不気味な音に恐怖を覚え憑かれ屋の胸倉をつかむ。

憑かれ屋「だ、だめだよっ」

しかし憑かれ屋は俺の事を見ていなかった。視線の先を見ると。

カタ、、カタカタカタ

小刻みに振動を繰り返す刀。それはまるで生きているようで

男「あつぁっ!」

掴んでいた右手首にカミソリで切ったような背筋がぞっとする痛みが走った。

思わず手首を見る。

男「あ、あが、ああ」

なかった。手首から先が。
東方Project人妖名鑑 常世編
3: 2014/05/24(土) 14:51:03 ID:buwbsZRs
理解と同時に鉄板に押し付けたような熱と痛みを傷口から感じた。

男「あぁああああぁああああぁあああっ!!!!」

絶叫する。手首から血が面白いほどに噴き出していた。

噴き出す血が俺と憑かれ屋を赤く汚す。

チルノ「ししょーっ!!」

ドンと右わき腹に衝撃を受け俺は地面に倒れこんだ。地面に付いた手首に石が食い込み、神経に直接触れ、意識が飛びそうな痛みをくれる。

男「ぐぎぎぎっ」

何をすると思い顔を上げると刀を横に凪いだ腕が見えた。

チルノが体当たりをしてくれなかったら今頃俺の体は上下で分かれていたのだろう。

チルノ「師匠、こっち!」

チルノが無事な左手を引っ張って俺を引きずる。引きずられながら後ろを見ると憑かれ屋が刀を器用に使い氷を砕いていた。

その顔はさっきまでの様子とは違う。人が変わったかのような。

二重人格? 刀を持つと性格が変わるとか?

いや、でもさっきあの刀は一人でに動いた。超能力? サイコキネシス? よくわからないが憑かれ屋が何かしたのか?

駄目だ、血が足りなくて頭が働かなくなっている。

4: 2014/05/24(土) 15:09:35 ID:buwbsZRs
チルノ「しっかりしろっ」

男「あぐぅっ」

右手首に違う種類の熱を感じた。見ると傷口が氷でふさがっていた。

じんじんどころじゃなく傷口が痛むが、これで失血はしなくなった、のだろうか。

憑かれ屋「………」

利き手を失った俺は満足に殴ることはできない。蹴りは避けられると隙だらけだからしたくない。

それでもとにかく立ち上がって逃げなければ。

生き残れば霊夢が倒してくれるだろう。その希望にかけるしかない。

男「チルノ、大丈夫か?」

チルノ「うん。師匠は?」

男「なんとか」

逃げ回ることはできる、チルノの氷で障害物を作れば時間稼ぎにはなるだろう。

男「逃げるぞチルノ」

チルノ「了解!!」

5: 2014/05/24(土) 17:11:01 ID:buwbsZRs
~俯瞰視点~

霊夢「ちょっと、あれどういう事よ」

後ろから聞こえる絶叫に霊夢がぎりりと歯を食いしばって聞く。

「あいつは妖怪やらなんやらにやたらと好かれるんだよ」

男が幅広の刀を霊夢に向かって降る。それを霊夢は空中に飛んで避けながらお札を放った。

霊夢「………なんかあんたどっかで見たことあると思ったら、妖怪退治の仕事やってるやつね」

祓い屋「知ってもらえて光栄だな、俺の名前は祓い屋だ」

パンッと風船が弾けるような音がして空中の霊夢の頬を何かがかすめた。

霊夢「祓い屋のくせに巫術やなんかは使わないのね」

祓い屋「段平とハジキさえあれば十分だ。妖怪も、人もな」

霊夢「あぁ、そう」

霊夢は拳銃の射線から逃げながら札をばらまいていく。

自動的に敵を追尾して追っていく札を祓い屋は段平を使い切り落としていくが、落とす事が出来なかった札が直撃する。

霊夢「ただの人間が私に勝てるわけないのよ。今なら命だけは助けて上げるからどきなさい」

霊夢が二つの陰陽玉を取り出す。それはぐるぐると霊夢の周りを回り始めた

34: 2014/06/02(月) 22:40:15 ID:hc/cd9Ps
祓い屋「くくく…俺をただの人間と一緒にするなよ」

祓い屋は銃口を霊夢に向け狙いをすます

祓い屋「お前らクソガキどもがやってる“ごっこ遊び”なんざ実戦じゃ通用しねぇんだよ」

霊夢「ふん、弱いヤツほどよく吠えるってね」

霊夢「だったら私も手加減はしないわよ」ゴゴゴ…

霊夢「くらいなさい…必中必倒“反則結界”…!」カッ!

祓い屋「な…なんだと…!?」

…チュドーン!…

祓い屋「がっはっ…!」ブシュッ!…ゴプッ…

…ドサッ…

霊夢「私だってね、この戦い…遊びでやってんじゃないのよ!」

63: 2014/06/12(木) 00:03:01 ID:l7Aj3UJc
祓い屋「どくわけにはいかないな」

霊夢「あらそう。じゃあ本気で行くわよ」

霊夢が腕を祓い屋に向けると周回していた陰陽玉が祓い屋に向かって飛んでいった。

目にもとまらぬとは言えないものの十分すぎるほどに速いその一撃を祓い屋は辛うじて上体を後ろにそらし、避けた

避けたままの態勢で回転式の拳銃を霊夢に向ける。

必中。外すはずがない。

そう祓い屋は思っていた。

パンッ

命を奪うにしては軽すぎる音が鳴り、銃弾が撃ちだされる。

銃弾は霊夢の胸に向かいまっすぐ飛んでいく。到底人の目では見えない速度。撃ちだされてから避けることは難しく、その威力は必殺と呼んでもよい。

しかし霊夢は銃声にも飛んでくる銃弾にも眉ひとつ動かさず祓い屋に向けていた手を強く握りしめた。

64: 2014/06/12(木) 01:15:42 ID:l7Aj3UJc
祓い屋「!」

空気を切り裂く音がし、札が飛ぶ。三か所から祓い屋を囲むように。

霊夢と二つの陰陽玉から高速で札が飛ぶ。幾ら動いても追跡してくるそれを避けることは難しい。

しかし祓い屋の意識はそれよりも違う場所にあった。

いくら札が速いと言ってもすでに銃弾は霊夢を撃ちぬいていて良い筈だ。しかし霊夢は今だ変わらず札を放ち続けている。服が破けすらしていない。

祓い屋「ぐっ」

避けきれず、さばききれなかった札がわき腹に直撃する。ぐらりと崩れた隙に祓い屋に三方向から札が殺到した。

祓い屋「仕方、ねぇ」

祓い屋が痛みに耐え、腰につけている巾着袋に手を入れた。

取り出したのは小さな丸薬。それを祓い屋は口に放り込み、飲み込んだ。

とたんにドクンっと心臓が痛む。それを歯を食いしばることで耐え、銃を再度構えた。

霊夢「………」

霊夢が祓い屋の行動に警戒しながらも攻撃の手を緩めない。

しかし先ほどまでと状況が変わっていた。

65: 2014/06/12(木) 01:30:56 ID:l7Aj3UJc
祓い屋「はぁっ!」

三方向から飛んでくる追尾する札を祓い屋が刀を振り回し叩き落とす。

先ほどまでギリギリでしか対応できていなかった攻撃を祓い屋は易々と対応していた。

霊夢「薬に頼るなんてよくないわよ」

祓い屋「その通りだな」

祓い屋が札を叩き落とし、数瞬の合間を狙い霊夢に向かって引き金を引く。

パンッとまた音が鳴り、霊夢に向かって銃弾が飛び出した。しかし先ほどとは違う。身体能力を強化する丸薬の効果により祓い屋の目はかろうじて銃弾の動きをとらえていた。

銃弾が霊夢に近づいていく。やはり外すような軌道ではない。

しかし、

祓い屋「っ!」

当たらなかった。霊夢に銃弾が当たる直前、銃弾が霊夢を避けた。なぜか銃弾は霊夢から数センチ離れ、霊夢の体に沿って後ろへ抜けて行った。

霊夢「無駄よ。あんたがいくら銃を撃とうが薬に頼ろうが絶対私には勝てない」

だってと霊夢が言葉を続ける。

霊夢「今の私にはどんな攻撃も当たらないから」

そんな、まるで冗談のようなことを霊夢が真顔で言った。

91: 2014/06/19(木) 23:49:42 ID:V33/A4gY
大量の符が祓い屋に襲い掛かる。

見えていないわけではない。薬で強化された動体視力は符の文字まで見切っていた。

しかしそれでも攻撃を当てることが出来ない相手に勝てるわけがなく、どんどんと不利な状況へと追い込まれていく。

見えているが避けることが出来ない。避ける場所がない数の暴力に今までなんとか切り落とし凌いできた刃も鈍ってきた。

霊夢に現在届く攻撃手段は拳銃のみ。しかし意味がない。それでも打ち続けたため弾数は残り2発しか残っていなかった。

結界の向こうから男とチルノが逃げ回る音が霊夢の耳に届く。

しかしそれでも霊夢の表情は動かない。

祓い屋の手から刀が弾き飛ばされる。

しかしそれでも霊夢の表情は動かない。

感情無く、ただ相手の動きが止まるまで霊夢は機械的に攻撃を放ち続けた。

時間にしておよそ20秒足らず。それだけで祓い屋の骨が折れた数は10を優に超えた。

魔理沙によってかつて夢想天生と名付けられていたその技。博麗の巫女を象る不条理。

人妖問わず全て等しく地にひれ伏させるそれは一切の慈悲無く油断なく祓い屋の体を完膚無きまでに破壊した。

ぴくりとも動かない祓い屋を霊夢は覚めた目で見ると背を向け結界に向かってふわりと飛んでいった。

92: 2014/06/20(金) 00:08:45 ID:Egtm7ywk
霊夢「………」

霊夢が結界に手を伸ばし何度か撫でる。

それだけで結界は霧のようになり消えた。

憑かれ屋「………」

突然の乱入者に憑かれ屋の目が男とチルノから霊夢に向けられる。

霊夢「妖刀に憑かれてるだけなんでしょうけど」

憑かれ屋「………っ」

憑かれ屋が空中の霊夢に向かって素早く飛びかかる。

しかし縦に振り落された妖刀は霊夢に当たらず、霊夢の体を通り抜けた。

霊夢「関係ないわね」

いつの間にか霊夢の手に陰陽玉が握られていた。

霊夢が陰陽玉を軽く放り投げるとまっすぐ刀を振り下ろした態勢の憑かれ屋に向かって落ちていき

そして眩い光を放って衝撃波が弾けた。

94: 2014/06/20(金) 00:29:16 ID:Egtm7ywk
霊夢「終わったわよ」

ふわりと霊夢が地面に降り立つ。憑かれ屋が持っていた刀は折れ、本人は全身傷だらけで頭から血を流していたが霊夢は見向きもせず唖然としている男とチルノに近づいた。

霊夢「………何よ、そんな顔して」

男「い、いや。強いな、って」

霊夢「当たり前でしょ」

自慢でもなんでもなく当たり前のように霊夢がそう言う。霊夢はそんなことはどうでもいいからと話を変え男のなくなった右手首から先をひょいと拾った。

霊夢「良かったわね綺麗な切り口よ。永琳のところ行けばくっつくんじゃない?」

チルノ「師匠治るの!?」

男「凄いな、永、琳」

ふらりと男の体から力が抜け地面に倒れ伏す。その肌の色は真っ青だった。

チルノ「師匠!?」

霊夢「失血して気絶してるだけよ。そのまま傷口塞いでなさいよ。今から連れていくから。あとこっちも冷凍」

霊夢がチルノに向かって手を投げ渡す。チルノは戸惑いながらも男の右手を瞬間的に冷凍させた。

霊夢「やっぱりただの人間なのね。まぁ、こんな奴がヒーローだなんて思ってたわけじゃないけど」

霊夢はため息をつくようにそう言うと倒れている男の体に触れた。ふわりと風船のように男の体が浮き上がる。霊夢は残った左手を引っ張り人里の方向ではない迷いの竹林に向かって歩き出した。

144: 2014/07/02(水) 09:23:06 ID:F.3M2ElY
~男視点~

温かい、温かい何かが俺の手を包んでいる。

薄暗い世界の中で俺はそれだけを支えに歩いていた。

暗い暗い闇の中をぬくもりだけを頼りに。

―――――

――――

―――

???「こんにちわ」

また鱗の人に出会った。こんにちわということはいま昼なのだろうか。

この世界に朝昼夜という概念があるのかはわからないが。

男「また会ったがいい加減名前くらい教えてくれてもいいんじゃないか?」

???「女の子は秘密を抱えて美しくなるのですよ」

そんなふざけた答えを返しながら鱗の人が微笑む。

結局ここがどことかなんでここにいるのかなど質問には全部秘密ですで返された。

145: 2014/07/02(水) 09:37:26 ID:F.3M2ElY
???「ところで調子はどうですか?」

男「調子………別におかしいところはないが」

健康そのものだ。

???「そうですか、えっと、うーん。あ、もう大丈夫ですね」

男「はい?」

なんだか自己完結してるせいで意味が全然分からない。せめて情報は共有してほしい。

そんな不満をよそに鱗の人は右手を左右に振っていた。

???「それではまた今度」

男「またか!!」

やはり唐突に足元から俺の姿は消えていく。

もがいても騒いでも何も変わらず一定の速度でこの世界から俺は失われていく。

俺の存在が消え、感じられるものは右手を包む温もりだけだった。

146: 2014/07/02(水) 09:51:15 ID:F.3M2ElY
目が覚める。

はじめに見えたのは白い天井。

この光景は二度目だなとぼんやり思っていると右手が温かい。

なんでだ? 俺は右手を斬られて無くしているはずなのに。

しかし俺の右手は今ひと肌程度の温もりを感じている。

もしかしてこれが幻痛なのだろうかと戸惑っていると右から四季さんの声が聞こえた。

映姫「おはようございます」

男「あ、おはようございます」

右を向くと椅子に四季さんが椅子に座っていた。

元から小さいため、椅子に座ってしまうと寝ている俺より少し高いぐらいにしかならない。

とりあえず体を起こそうとするとぐいと引っ張られ無理やり寝かされた。

映姫「まだ寝ててください」

いや、全然大丈夫ですって、右手に幻痛が走ってま―――

映姫「まだ手がくっついたばかりなんですから」

154: 2014/07/05(土) 23:42:20 ID:f1XNetO2
右腕を胸の前に持ってくると四季さんの手と共になくなったはずの自分の右手がついてきた。

一瞬わけがわからず目を瞬かせた。

動く。自分で思ったように動かせる。義手ではない。ちゃんと四季さんの温かさを感じる。

映姫「永琳がきれいに治してくれたのですよ」

手を開いたり握ったりしている俺の様子を見て、四季さんが教えてくれた。

治した。ということは外科手術をしたということだろう。

まさか薬を飲ませたらくっつきました、もしくは生えましたなんてことがあるとは思わない。

いやここはそんなことが起きても何もおかしくない場所だったな。

しかしさっき四季さんがくっついたと言っていたがそれにしては手術後が一切ない。

斬られた場所を指でなぞってみるも以前と変わりない、二十年あまり付き合ってきた右手だ。

男「あっ。結局俺はどれだけ寝ていたんですか?」

映姫「一日だけですよ」

一日………一日も俺は寝ていたのか。

その事実に愕然とする。

今の俺にとっては手遅れにも値する時間。なぜなら戻せる時間は長くても半日だからだ。

155: 2014/07/05(土) 23:50:43 ID:f1XNetO2
男「霊夢たちは無事なんですかっ?」

慌てて四季さんに聞くと、四季さんは微笑みながらえぇと頷いた。

その言葉に安堵のため息を吐く。

映姫「退院、しますか?」

いきなり四季さんがそう聞いてくる。

その意味はおそらく続けるとまたこんな目に合うかも知れない。それでも続けるのかという意味だろう。

男「はい」

悩む必要は一切なかった。

俺がいかなければ誰かが氏ぬなんてことを言うつもりはないが、すでに魔理沙と小町が氏んでいる。

また大切な人を失いたくはない。

映姫「そう言うと思っていましたよ」

四季さんがもう一方の手も使い俺の手を包む。

映姫「頑張ってください。私たちの希望として」

そんな大げさな言葉かこそばゆく、少しだけ嬉しくあった。

霊夢みたいなヒーローになれた気が少しだけしたから。

156: 2014/07/05(土) 23:58:34 ID:f1XNetO2
映姫「では永琳に伝えてきましょう」

男「よろしくお願いします」

包んでいた手を離し四季さんが病室から出て行く。

男「ん、ぐぁっ」

一日寝ていたため少し痛む体を軽く動かすとボキボキと骨が鳴った。

一通り体を動かすと用意されてあったスリッパをはいて俺は外に出た。

ここに来るのは二回目だ。

出来ることならもう来たくはないが。

そういえばここで話したんだったなと椅子に座り、羽男の事を思い出す。

てゐ「病人は部屋に戻りなよ」

気が付くと目の前に兎の耳が生えた少女が立っていた。

こないだの兎の少女よりも小さい。小学生ぐらいだろう。

男「いや、もう退院するから」

てゐ「昨日担ぎ込まれてきたのにかい? 生き急ぐ若者は見たくないねぇ」

やれやれとため息をつく様がやけに似合っており、仕草だけはまるで老人のように思えた。

157: 2014/07/06(日) 00:09:13 ID:yq6X6Oz2
男「いや、もう治ったから大丈夫だ」

少女の目の前で右手を振ると少女は目を丸くさせた。

てゐ「あれ、人間だよ、ねぇ?」

男「永琳さんが治してくれたらしいけど」

てゐ「ん。あぁもしかしてあたしがいないときかねぇ。にしても永琳はキツい薬なんて使ったんだろうね。ヤマザナドゥ……四季映姫が急かしたのかね」

小さな手で手首をなぞる少女が独り言を言いながら首をかしげていた。

男「キツい薬?」

てゐ「すぐくっつける。しかも傷跡を無くすなんて薬、寿命が縮むに決まってるじゃないかい」

なるほど。普通に考えていればその通りだ。強い効果がある薬ほど強い副作用があるのは普通の事だ。それは毒にもなりえるのだから寿命を縮ませることだろう。

てゐ「それでいいのかい?」

男「別にいいよ」

そう答えると少女は小さな手を握りしめ、軽く拳骨をしてきた。

てゐ「命は大切に」

そう言って少し怒ったように、少し呆れたように去って行った。

男「命は大切に、か」

161: 2014/07/06(日) 21:40:02 ID:yq6X6Oz2
当たり前の事だ。

本当当たり前の事なのに。

誰も命を大切にしないんだよなぁ。自分も他人のも。

格好つけてため息をつくも情けない恰好にしかならなかった。

映姫「ここにいましたか」

うな垂れて座っているいつの間にか四季さんが隣に座っていた。

映姫「手続きは済みましたよ。もう行きますか?」

男「そうですね、行きましょう」

休んでいる暇はない。

それに皆は無事かが気になる。

ぬえはどうしているだろうか。

162: 2014/07/06(日) 22:13:19 ID:yq6X6Oz2
小町「大変な目にあったみたいだね」

外に出ると小町が鎌をくるくると回しながら待っていた。

小町がここにいるってことは萃香と魔理沙はどうしているのだろうか。

その疑問を伝えると小町は頬を掻きながら二人で行動していることを教えてくれた。

萃香がいるから無事だと信じたい。

男「そういえば今何時だ?」

小町「とっくに昼過ぎてるよ」

と言うことは魔理沙たちが帰ってくる時間はすぐということか。

神社で待つしかないか。

映姫「帰りましょう」

男「はい」

163: 2014/07/06(日) 22:33:11 ID:yq6X6Oz2
小町の能力を使い、神社に戻る。

境内には誰もいない。まだ帰ってきていな

男「うっ」

後ろから強い衝撃を受けて地面に倒れこむ。

この背中に感じる華奢な感触は

164: 2014/07/06(日) 22:44:47 ID:yq6X6Oz2
男「ぬえ、か」

ぬえ「あうぅ」

服が強く握りしめられる。強く握りしめすぎて爪が肌に食い込んでいた。

さすがに妖怪だなぁとかんがえ

痛い

マジで痛い

どんどん爪が食い込んで

びりって音がした。直後に痛みがさらに鋭く。

痛いじゃない、熱い。

おそらく血が出ているんだろう。

小町「こら」

ぬえ「あうっ」

男「ぐぎぎ」

小町がぬえを引きはがしてくれた。

その際に背中の肉が持ってかれたような痛みがしたが、まぁいい。

165: 2014/07/06(日) 23:05:42 ID:yq6X6Oz2
男「ただいま、ぬえ」

ぬえ「あう」

ぬえの顔は少し泣いてるような少し怒ってるような少し笑っているようなよくわからない表情だった。

小町「………背中、血だらだらでてるけど」

男「痛すぎて泣きそうだ」

割と本気で。

斬られた痛みよりもしかしたら酷いかもしれない。

映姫「治療、しましょうか?」

男「お願いします」

166: 2014/07/06(日) 23:14:02 ID:yq6X6Oz2
傷口を鏡で見るとまだ血を流していた。

どうやら深いらしい。

映姫「沁みますよ、かなり」

男「うぐぐごごごご」

四季さんが消毒液のしみ込んだ綿を傷口にあてた。

映姫「我慢してくださいね」

今すぐ逃げ出したい痛い

ぬえ「………」

なのだが肩をしっかりと押さえつけるぬえのせいで逃げられない。

まぁ、その顔が申し訳なさそうだから許そう。

映姫「あ、ここ深いですね」

男「あばばばばばばば」

前言撤回。今すぐ離して、お願いだから。

167: 2014/07/06(日) 23:51:16 ID:yq6X6Oz2
無事治療が終わり、傷口に包帯が巻かれる。

斬られた手首の傷はないというのに新しい傷が出来てしまった。

ぬえ「うぅ」

まぁ、少し潤んだ目でこっちを見てくるぬえが可愛いので許そう。

喉元過ぎればなんとやらだ。次は前言撤回しない。

映姫「まぁ、仲良きことはいいことかもしれませんが、それでも自分が妖怪であること、男が人間であることをちゃんと理解して行動してくださいね」

ぬえ「あう」

救急箱をしまいながら四季さんがぬえに軽く説教をする。

うな垂れているぬえは可愛いなとか思っているとすぱーんっと良い音がして障子が開かれた。

魔理沙「兄貴!!」

男「魔理沙」

魔理沙「怪我、したのか?」

魔理沙が包帯を巻いている俺の姿を見て、そう聞いてくる。

怪我はしているのだがなんて説明すればいいのだろうか。ぬえが犯人だ!………いやいやいや、ここでそんなこと言ったらぬえが落ち込むし、魔理沙が怒るだろうしいいことがないな。

176: 2014/07/15(火) 09:21:59 ID:zD/oAMlI
魔理沙「はぁ、もう本当心配したんだぜ」

魔理沙が右手首を撫でながら息をつく。

男「皆無事だったか?」

魔理沙「無事だったけど、自分の事も心配してくれよな」

その注意はさっきから何回も言われている。

この銃で誰か氏んだら生き返らすんだーとか言ってしまえば楽になるかも知れないが、そのあと起こる騒動について考えると頭が痛くなるのでしない。

男「霊夢とチルノはまだ帰ってないのか?」

魔理沙「いや、さっき見たけどチルノは一人でなんか練習してたな。霊夢は屋根の上で黄昏てた」

霊夢はいつも通りだとしてチルノが練習か。

男「ちょっと見に行ってみるかな」

立ち上がる時に背を曲げてしまったせいで傷に響く。涙目になりそうなのをこらえながら外に出ると外では雪が降っていた。

魔理沙「チルノだな」

吹雪とまではいかないが、いったいなにをしようとしているのだろうか。

すでに一センチほど積もった雪を踏みながら雪風が吹いている方へ歩いて行く。

いつの間にか後ろについてきていたぬえが小さくあうぅと寒さに鳴いていた。近づくにつれどんどん雪の量が多くなっていく。離れを出て一分ほどしか歩いていないというのに積もる雪は足首を超えていた。

177: 2014/07/15(火) 09:42:01 ID:zD/oAMlI
男「チルノ!!」

雪の発生源、チルノの姿は吹雪く雪で良く見えない。辛うじて青色が見えるくらいだ。

ごうごうとなる風の音に俺の声はかき消されたらしく雪はやまない。

仕方ないので届く位置まで歩みを進める。

魔理沙「これ以上は危険じゃないか?」

その通りだ。防寒服なんてものは着ていない。おかげで体温はどんどん奪われていっている。まだ眠くないので大丈夫だろうと考えているのも素人判断に過ぎない。

男「チルノッ!!」

口を開けた途端に口の中の水分が凍り付いてしまう。声を出せたのはこの一回だけで、あとは口を動かす事すら難しい。

チルノ「し―――」

チルノの声が聞こえた。どうやら俺の声は無事届いたらしく雪は徐々に弱まり一分ほどで積もった雪だけを残しその姿を消した。

チルノ「師匠………無事、だったのか。良かった」

チルノがちゃんと両手がくっついている俺の姿を見て小さく微笑む。

しかしその姿は少し弱々しかった。

魔理沙「力の使い過ぎだろ。昨日もしてたしな」

男「俺が戻ってきて次はチルノなんてことになったらシャレにならんぞ。何やってたんだ?」

178: 2014/07/15(火) 09:50:11 ID:zD/oAMlI
チルノ「レティ………レティが来れば力強いから。がんばって呼んでたんだけど、来なくて。レティ、忙しいのかな、それとも」

魔理沙「レティは忙しいんだ。だから来ないんだよ」

疲れ切っているらしくチルノの言葉はたどたどしい。そんなチルノの言葉を遮って魔理沙がそう言った。

チルノ「そう、なのか」

レティが誰なのかは分からない。だけどチルノにとっては大切な人なんだろう。いつも自信過剰なチルノが認めるほどなのだから。

魔理沙「だから帰るぞ。大妖精だって心配してるし。それにお前がダメになるとよう………妖精たちも心配するだろ」

チルノ「そうだね。あたいががんばって、皆を守らなきゃ」

魔理沙「あぁ。がんばれ」

チルノ「うん」

ふらふらと飛ぶチルノに駆け寄りその体を抱き上げる。

チルノの体温はいつもよりも冷たい。痛いほどの冷たさをこらえながらチルノを離れまで運んだ。

離れに付いたころにはチルノは小さな寝息を上げていた。

181: 2014/07/15(火) 22:15:55 ID:zD/oAMlI
~俯瞰視点~

今日も一人でメディスン・メランコリーは留守番をしていた。

理由は理解している。それは自分が弱いからだと。

それを否定するつもりはメディスンにはない。否定したところで弱いことには変わりないからだ。

しかしどうも堪え難い退屈さにメディスンは悩まされていた。

外は曇った灰色の空ではなく真っ青な空。

普通ならば家の中で本を読むよりは外で思いっきり駆け回りたいと思うだろう。それはメディスンも例外ではない。

さきほどから扉の前に立っては戻りを繰り返す行動がそれを証明していた。

メディ「うー。我慢我慢」

幽香との約束を思い出しそのたび堪え読書へと戻る。

しかし外から聞こえる鳥の声や風の音がメディスンを物語の世界から現実の世界へと引き戻していた。

メディ「幽香、まだかなぁ」

メディスンが視線を本から窓の外へと移す。

幽香が出て行ったのは数時間前。帰ってくる時刻は告げられていないためいつ帰ってくるかは分からない。

数十秒後かもしれないし、数時間後かもしれない。そんな不確定の未来をメディスンはため息をつきながら待っていた。

182: 2014/07/15(火) 22:46:59 ID:zD/oAMlI
メディ「あれ?」

視界の端に何かが映ったのをメディスンは捉えた。

赤色

初めは幽香の服の色かと思った。しかし幽香は全身が赤いわけではないということに気付く。

それにあれは赤と言うよりは朱。暗さを浴びたその色は幽香の鮮やかな赤い色ではない。

ではなにか。それをメディスンは知らなかった。

好奇心よりは恐怖が勝った。メディスンは身を乗り出さずに隠れながら注意深くそれを観察した。

ひとつだけだったそれがふたつみっつ、それどころか十にも及ぼうとしていた。

ゆらりゆらりと

ゆっくりとゆっくりと

幽香が咲かせた太陽と称される花を掻き分け、踏み倒しながらこっちへ近づいてくる。

183: 2014/07/15(火) 22:47:33 ID:zD/oAMlI
逃げるべきだろうか。

そう思ったメディスンは扉へ駆け寄り扉を開く。

メディ「―――あ」

白く染まった花の中に赤、黒、藍。

数十ととっさには数えきれないほどの数。

それは全て人間だった。

184: 2014/07/15(火) 22:56:06 ID:zD/oAMlI
囲まれて逃げれない。

飛べば逃げれるかも知れないが飛び道具を持っていないとは思わない。

自ら氏に近づくよりは一瞬でも長く生きていたいと思った本能がメディスンの足を家の中へ下がらせる。

メディ「スーさん、いくよ」

スーさんと呼ぶ人形、そしてメディスンの体から無色透明のガスが湧き出る。

弾幕ごっこで使う色付きの微弱な毒ではない。正真正銘の猛毒。

触れれば爛れ、吸い込めばただちに氏に至るそれをメディスンは家の中に充満させていた。

メディ「これで、大丈夫。うん、大丈夫」

自分に言い聞かせるように呟き、家の中心に立つ。

全ては殺せないかもしれないが十人くらい殺せば諦めてくれるかもしれない。それにそれだけ氏んでしまえば逃げる隙くらいはあるだろう。

そう判断してメディスンは辺りに注意深く気を配った。

185: 2014/07/15(火) 23:08:36 ID:zD/oAMlI
カチカチと時計の音だけが家の中に響く。

どれくらいの時間が経ったのだろうか。それを確かめる余裕はメディスンにはなかった。

メディ(扉からかな、それとも窓から?)

パリンッ

メディ「!」

何かが窓ガラスを割り飛び込んできた。

慌てて振り向いた顔に感じるのは熱。

メディ「火!!」

飛び込んだ何かが火をまき散らしていた。

それが火炎瓶であることをメディスンは知らない。しかし何か火がついたものを投げ込まれたのだということは分かった。

逃げればまだ良かったのかもしれない。

しかしメディスンは幽香の家だからと必氏にその火を消そうとした。

幽香が持ってきた飲み水。それを火に向かって撒く。

しかし火の勢いは衰えることなく家を、メディスンを飲み込もうと迫る。

さらに壁に何かがぶつかる音も聞こえる。怯えた目で見た外には赤い火の海が広がっていた。

187: 2014/07/17(木) 08:09:38 ID:3g0jlpIM
周りは火の海だった。どうやって逃げようか考えるも空中に飛ぶしかない。

結論にたどり着いたメディスンは意を決して空中へ飛び上がった。

弾幕で天井に自分が通ることができる穴を開け外へ出る。

すでに天井にまで回っていた火が少し肌を焼いたがメディスンは怯むこと無く空に向けて飛んだ。

メディ「あ、あれぇ」

体が重くなった。まるで足を引っ張られているかのように。

必氏に飛ぼうとするもその場にとどまることが出来るだけで数センチ進むことすらできない。

ひょうと風を切る音がメディスンの耳に届いた。なんだろうと考えたころにはメディスンの体に矢が突き刺さっていた。

メディ「いっ」

矢が刺さった場所は左肩。抜こうとしたが十を超える風を切る音にやっぱ無理だったのだとメディスンは諦め、せめて痛くないようにと体の力を抜いた。

メディ「ありがとう、幽香」

幽香に見られたときのため氏に顔ぐらいはとつくった笑顔は無理やりだったためか無機質な人形のような笑みになってしまっていた。

数瞬後、空中にいたメディスンの体が火に飲み込まれている幽香の家の中に飲み込まれていった。

188: 2014/07/17(木) 08:53:53 ID:3g0jlpIM
それが異常な光景だということは遠目からでもすぐに分かった。

白、もしくは黄色しか存在しないはずの花畑が赤い。

その赤はゆらゆらと揺らめいていて

幽香「―――!」

声が聞こえた。

焼けてゆく花たちの声が幽香には聞こえていた。

四季のフラワーマスターである幽香には声を持たない花の気持ちが分かる。

だから千を越える悲鳴が、絶叫が、怨嗟が幽香の耳に届いていた。

幽香「ふふ、やってくれたわね。人間」

幽香の口から笑いがもれる。

その季節に咲かない花を咲かせることは幽香は好まない。その好まないことをわざわざしていたのは自分の存在をアピールして面倒な戦いに巻き込まれないようにするためだ。

しかし売られた喧嘩は嬉々として買うのが風見 幽香という妖怪だ。どの妖怪よりも妖怪らしい暴力的な性格が幽香の口角を吊り上げさせていた。

幽香「いいわ。貴方たちを一人残らずいたぶり頃してあげるわよ。ふふ、うふふふふふ」

最強の妖怪は笑い声を優雅なものから徐々にけたけたと狂気を含んだものに変え、花畑に降りて行った。

幽香「さぁ、始めま―――」

189: 2014/07/17(木) 09:11:51 ID:3g0jlpIM
燃え盛る花畑に降り立った幽香の頭の隅で何かが引っかかった。

何かを忘れている。

それがとても大切なものだったことは覚えている。

しかしそれが何なのかを思い出そうとするが辺りに響く絶叫が邪魔をする。

幽香「!」

矢が左肩に突き刺さった。

どうやら向こうは弓を持っているらしい。しかしこの程度では幽香は氏なない。妖怪払いの力的なものは感じたがその程度では幽香は氏なない。

幽香「これが、頃すってことよ」

幻想郷に唯一咲く枯れない花。幽香がいつも持っている傘を矢の飛んできた方向へと向ける。

幽香「マスタースパーク」

そう幽香が宣言すると傘の先端から半径十メートル以上はあるであろう光線が放たれた。

魔理沙は八卦炉の魔力を利用してマスタースパークを撃つ。しかし幽香は自身の魔力だけでそれを成し遂げ、魔理沙よりも強い威力で、広い規模で撃つことが出来る。

全てが規格外、それが最強の妖怪と言われる所以だった。

幽香「くふ、くふふふふう」

直撃した数人は蒸発した。直撃しなかった人間も衝撃だけで吹き飛び、体が変な方向に曲がっていた。

191: 2014/07/17(木) 23:44:38 ID:3g0jlpIM
仲間が数人まとめて戦闘不能になったことによって人間たちが幽香に向けて近づいてくる。

がしゃりがしゃりと金属同士が擦れあう音が辺りに響いた。

幽香「あらぁ? あらあらあらあら」

幽香が傘を下げ、人間たちが近づいてくるのを待った。その表情は笑みを浮かべている。

幽香「侍なのね。貴方たち」

がしゃりがしゃりという音の原因は鎧。メディスンが幽香と勘違いした朱色は人間が着ている鎧の朱色だった。

幽香「知ってるわよ貴方たち、頃しが上手なんでしょう? 妖怪も人間も区別なく頃すんでしょう?」

その言葉に人間たちは何も返さない。ただけたけたと笑う幽香を静かな殺気を放ちながら取り囲むだけだった。

幽香「くくふ、くくふう」

幽香が傘を地面に突き刺し両手で手招きをした。それに対し人間たちは腰に下げた刀を抜く。

ぎらりと刀身が炎を映し輝いていた。

幽香「さぁ、楽しませてちょうだ―――」

192: 2014/07/17(木) 23:56:56 ID:3g0jlpIM
「リグルキィイイイイイックッ!!」

この殺伐とした場に似合わない元気な声が聞こえた。

その声の主は完全に幽香に集中していた人間の後頭部を蹴り飛ばし、そのまま地面に着地

リグル「熱いッ!!」

しようとして足を滑らせ炎の中を転がって行った。

その光景に幽香も人間の両方に隙ができた。

その間にリグルは立ち上がり、幽香に近づいて幽香を守るように拳を構えた。

幽香「あ、あなたは」

リグル「幽香さん。助けに来ましたよ! 一緒に逃げましょう」

幽香「邪魔しないで頂戴。今から私は」

リグル「メディスンはどこですか、早く逃げないと」

幽香「――――っ!」

193: 2014/07/18(金) 00:05:02 ID:gjs/y83k
幽香の頭の中に忘れていたその名前が戻ってくる。

慌てて花畑を見渡すもメディスンの姿は見当たらない。ただあるのは燃える花と

幽香「あそこね。どきなさい!」

幽香が地面を蹴る。それだけで数十メートル離れた家に着地した。

すでに炭化しかけている木材を掴み持ち上げ投げる。邪魔な木材は数が多くその姿は隙だらけだった。しかし吹き飛ばすとメディスンがどうなるかは分からない。

幽香は煤を体に纏いながらメディスンを探し続けた。そんな幽香の姿を人間が狙わないわけがなく、人間はリグルを無視し、幽香に刀を構えながら向かっていった。リグルは慌てて空を飛び幽香の背後に立ち両手を広げる。

リグル「僕はね。戦うことは出来なくても逃げることと守ることはできるんだ」

リグルがそうにっこりと笑いながら言う。その言葉に幽香はなにも返さず黙々と焼ける木材を退けていた。

パチンッ

リグルが指を鳴らした。

それ以外、それ以外リグルは何もしていない。

それなのに

「ひ、ひぃいいぃいいっ!!」
「う、うわぁああああっ!!」
「助けてぇええええっ!!」

人間の半分以上がこの場から逃走した。

195: 2014/07/18(金) 22:30:57 ID:.28oX8yI
幽香「貴方、何したの?」

幽香が手を止めずにそう聞く。

リグル「僕の能力は蟲を操る程度の能力、それは弱虫も例外じゃない! 例外じゃないんですけど」

リグルの言葉が尻すぼみ気味に途切れる。

その言葉の意味するところは両手を広げながら幽香を守っているリグルの足が小刻みに震えていることからわかった。

リグル「でも、これ以上できる事ないんですよねぇっ!」

涙目でやけくそ気味でそう叫んだリグルに人間たちが一斉に斬りかかった。

リグル「ひいっ!!」

―――

――

リグル「………ほえ?」

リグルが来る痛みに耐えるように目を閉じるもその痛みは一向に来なかった。

恐る恐る目を開けると

リグル「あわわっ!?」

リグルの体は宙に浮いていた。

196: 2014/07/18(金) 22:33:45 ID:.28oX8yI
幽香「助けにきたのかどうなのかわからないけど………」

幽香は右手でリグルの襟をつかみ左手で所々が黒くなった人型を持っていた。

幽香「次は頃すわ」

それだけを言い残し幽香は全速力で魔法の森へ向かい飛んだ。

リグル「ぐぇっ!!」

197: 2014/07/18(金) 22:49:50 ID:.28oX8yI
アリス「………いらっしゃい」

アリスはいつも通り人形に家の周辺を警備させながら、戦争が終わるのを待っていた。

そんなアリスの元に人形から異常事態の知らせが届いた。

慌てて外に飛び出そうとするとそれより先に扉が開け放たれ旧くからの友人が自分の人形の頭を掴んで微笑んでいた。

幽香「いきなりで悪いけどお邪魔するわよ」

アリス「いやいやいや、別にいいけどなんで私の人形壊してたのよ」

幽香「ストレス発散。こうでもしないと魔法の森を消しちゃうところだったから」

アリスはなんでこんな奴と友達なのかしらと思ったが幽香が暴君なのは昔からの事だったのでため息をつき戦闘不能にされた人形を幽香の手から奪い取った。

アリス「あ、直せるように壊してくれたのね」

幽香「友達ですもの」

気遣いが出来るのなら壊さないという気遣いをしてくれないかなぁとアリスは苦虫をかみつぶしたような表情をしたが幽香の後ろから現れた緑髪の妖怪に気付いて、表情を微笑みに戻し話しかけた。

アリス「リグルもいたのねって、それは?」

幽香「治してお願いだから」

アリス「え、あ。うん、いいけど」

幽香がお願いをすることが珍しくアリスはそれがなんなのかを確認せず思わず頷いた。

198: 2014/07/18(金) 23:03:50 ID:.28oX8yI
アリス「えっと、それは」

アリスはリグルが持っているそれが初めは何なのかが分からなかった。それは黒く、そして同じく黒い布に包まれていた。

私に直せってことは人形なのかしらと思いながらリグルからそれを受け取る。

ぱらり

それの表面が剥がれ地面に落ちた。

アリス「………これって」

黒が剥がれ落ちた場所に現れたのは赤。てらてらと光る赤をアリスは理解した。

アリス「人?」

それには手が二本あり、足が二本あり、頭と思われる場所には髪が残っている。

幽香「メディスンよ」

アリス「メディスン?」

その名前をメディスンは知っていた。幽香から聞いていた人形の妖怪。いつか会いたいとは思っていたがまさかこんな形であうなんてとアリスは眉をひそめた。

アリス「完全な人間型じゃないのね、人形らしいところもあるわね」

アリスがメディスンの関節を曲げたり、腹部を触ったりしてそう判断する。

そのたびに炭化した肌に亀裂が走り、その中にある赤を覗かせた。

199: 2014/07/18(金) 23:14:16 ID:.28oX8yI
幽香「治せるの?」

アリス「………治せるわよ」

即答できなかったのは知識があるが試みたことはなかったからだ。

人形の修理なら数えれないほどにしてきた。形は似ていても人形は生物ではない。

アリス「任せて」

失敗する確率の方が高かった。しかし目の前にいる幽香の目が少し潤んでいたのでアリスは胸に手をあて頷いた。

もしかしたら、いやもしかしなくても永遠亭に連れて行ったほうが治せるまだ確率は高いのだろう。しかし永遠亭に運ぶまでにメディスンが氏んでしまう確率も決して低いわけではない。

幽香「お願い」

アリス「任せなさい。魔界神の愛娘は別に七光りってわけじゃないのよ」

アリスがメディスンの体を抱き直し、地下にある作業室に続く階段へ降りて行った。

リグル「大丈夫、ですかね」

幽香「誰に、誰に祈ればいいのかしらね、こんな時」

リグルはその言葉に気の利いた答えを返すことが出来ず代わりに手を合わせ心の中でどこかにいるであろうメディスンを助けてくれる神様に祈った。

200: 2014/07/18(金) 23:25:19 ID:.28oX8yI
~男視点~

チルノは布団の中で浅い寝息をあげている。

時折うなされていたがそれも落ち着いた。

魔理沙から聞いた話によるとレティは雪女で氷の妖精であるチルノとは当然仲が良かったらしい。

チルノはレティのことを尊敬し、レティはチルノを娘のように可愛がっていたらしい。

そんなレティを呼ぶためにチルノは力の限り冷気を作り続けていたらしい。

その結果、レティは現れなかった。

魔理沙はチルノにレティは忙しいから来なかったと言ったが魔理沙はそれが嘘だと言った。

レティはすでに氏んでいた。それも初めの頃に。

冬の冷気を味方に強くなるレティは冬が始まる前に殺されていた。

201: 2014/07/18(金) 23:42:13 ID:.28oX8yI
この事実を胸に抱えた俺はどうすればいいのかが分からず寝ているチルノの頬を数回撫でた。

冷気を撒き散らすが心は誰よりも熱い少女。その頬は柔らかく、普通の子供にしか思えない。

男「それでも、俺よりはずっと強いんだよな」

まぁ、俺より弱いやつのほうが珍しいんだけどな。怪我してばっかりだし。

チルノ「う、うぅん………あ、ししょう」

頬を撫でているとチルノがゆっくりと目を開けて俺を呼び微笑んだ。

男「大丈夫か?」

チルノ「うん、もう大丈夫」

男「嘘つけ」

その声色にいつもの元気は含まれていない。起き上がろうとするチルノを制し、無理やり布団へ寝かせた。

202: 2014/07/19(土) 02:47:33 ID:NyMSk6Jc
チルノの今日は寝てろと厳重に釘を刺して部屋をでる。

すでに沈んだ太陽は月だけを照らしていた。この場にあるのは月の光と何億光年も離れた星の光だけだ。

電灯が少ないため、夜は外の世界と比べて格段に暗い。

男「萃香?」

その中で萃香が靴も履かずに境内で佇んでいた。

萃香「………どうしたんだい?」

それはこっちの言葉だ。萃香の姿はとてもいつも通りとは見えない。

男「どうしたんだ。っていうかどこいたんだ?」

萃香「ちょっと外にいたんだよ」

男「外?」

魔理沙が帰ってきていたからてっきり萃香も帰っていると思っていたがもしかしてそれは勘違いだったのか?

男「何かあったのか?」

萃香「正邪がいたんだ」

萃香「本当あいつはクズだ。どうしようもないクズだ」

その声色は怒りに震えていた。ただその怒りは正邪以外の誰かに向けられているようにも感じた。

203: 2014/07/19(土) 03:03:59 ID:NyMSk6Jc
~俯瞰視点~

魔理沙「それじゃあ帰るか」

萃香「あぁ、そうだね」

魔理沙が箒で空を駆け、神社へと戻っていく。

それを萃香は見送り、自分は歩いて帰ろうかと思い歩き出したが数歩歩いて止まった。

感じるのは自分以外の存在。

やれやれまた敵かと軽くため息をついた萃香は存在の感じる方へ向き直った。

萃香「気付いているから出てきたらどうだい?」

手をひらひら振って隠れている敵に声をかける。

すると草むらの中からごそごそと人間が這い出てきた。

萃香「今なら見逃す。ただ一度でも攻撃をしたら見逃さない。今は魔理沙がいないから手加減はしないよ」

萃香が拳を握り固め軽く構える。

正邪「いやはや、まったく怖いもんだね、鬼ってのはさ!」

どこからか正邪の声が聞こえた。声を響かせるだけで姿を見せないその正邪の行動が萃香の神経をさらに逆撫で萃香は奥歯を噛みしめた。

204: 2014/07/19(土) 03:21:23 ID:NyMSk6Jc
萃香「………お前は逃がさないよ」

正邪「そう言われたら絶対逃げてやるよ」

その萃香をあざ笑う声が萃香の神経を逆なでる。萃香は怒り心頭に発したが何とか自制し目の前の人間たちをどうするかを考えた。

さっきの脅しが聞いた様子はない。人間たちは各々武器を構え、じりじりと萃香に対し距離を詰めている。

攻撃をしてこようものなら頃すのは決まっている。それに正邪のことだ、またあの変な術を使っているだろう。

ならば一撃で頃してやるのが慈悲かと萃香は結論に至った。

萃香(あんまりガラじゃないんだけどね)

萃香は構えを軽くからしっかりとしたものに変え、飛びかかってきたものを全力で殴り砕くことにした。

205: 2014/07/19(土) 03:43:27 ID:NyMSk6Jc
萃香から一番近い男が飛びかかってくる。得物は小刀。それを逆手に持っていた。

小刀が振り下ろされる前に萃香は肩から男に当身をした。普通ならば活殺術のはずのそれはたやすくあばらを砕き内臓を破壊していた。

萃香はそのまま男を他の人間にぶつけようと考えていた。

萃香「―――え?」

正邪「………は?」

しかし男の体は飛んでいくことはなかった。

爆発。

萃香が当身をした瞬間、男の体が炎と共に弾けた。

至近距離から浴びた衝撃と炎に萃香の体が揺らぐ。

致命傷にはならない。しかしそれでもまったダメージがないというわけではない。

軽く火傷した頬に驚いた顔で萃香が触れる。

その表情は火傷から怒りへと変わった。

萃香「これがお前のやり方かい!?」

正邪「っ。そうだ、命を懸けなければお前は到底倒せそうにもなかったからな」

萃香「頃す。お前は絶対頃すっ」

221: 2014/07/24(木) 18:18:56 ID:Wc8eZ6bk
一人目が爆発するや否や回りの人間が萃香に向かって飛びかかってくる。

それをなんとかいなそうとするも、やはり爆発し、爆炎と煙を撒き散らした。

萃香「けほっ、けほっ。ちっ」

辺りにただようのは火薬の匂いと血の匂い。はるか昔に萃香は戦場でこの香りを知っていた。

萃香「ただ、状況はまったく違うけどね」

接近が出来ないので避けながら、手のひらに熱を集め人間に向かって飛ばす。

熱が人間にぶつかり、やはり爆発する。

萃香「どれだけ火薬を詰めたのかね」

距離が離れていても自分を襲う炎を手のひらに集め反撃をする。

妹紅ほどの威力はなくても爆発の威力は高い。辺りの木々は焦げ付き倒れていった。

煙と木が倒れたことによる砂煙で視界は悪い。能力で散らそうとするも、砂煙を突破し、襲い掛かってくる人間によってそれは阻止されていた。

襲い掛かってくる人間は例外なく全員爆発する。萃香の体は少しずつ、しかし確実に傷ついていった。

萃香「だるいね。氏にはしないけど」

222: 2014/07/24(木) 18:37:03 ID:Wc8eZ6bk
萃香「………っと、終わったから出てきなよ」

最後の一人が爆発する。萃香が右手を振ると辺りの煙が散っていった。しかしその先に正邪の姿は無く、帰ってくる返答もなかった。

萃香「ちっ。逃げたのかい」

「じゃあ私の相手をしてもらえるかしら」

萃香「誰だ?」

まだ無事だった木の後ろから一人の少女が出てくる。

その髪の色は赤。身に着けているマントもスカートも赤。そして同じく赤い目が18個。少女と同じ顔が、少女と同じ頭が少女の周辺に浮いていた。

少女は額に大きく刻まれた痛々し気な縫い目を撫でると、マントで隠れた口を小さく動かした。

赤蛮奇「私は赤蛮奇。貴方を殺さないと殺されるから、慈悲があるなら相手をしてもらえる?」

口調は諦めきっている。しかし赤蛮奇は萃香を頃すために足を一歩前へ踏み出した。

萃香「………その額の縫い目はなんだい」

赤蛮奇「火薬が埋め込まれてるの、逃げたら私は氏ぬわ、これでね」

赤蛮奇が額の縫い目を人差し指で軽く触る。

萃香「分かった。楽に頃す」

赤蛮奇「感謝するわ」

224: 2014/07/25(金) 09:27:42 ID:7FQiRBAQ
萃香「来るかい? それとも私がいこうか?」

赤蛮奇「いえ、私から行くわ。貴方を殺せる確率が万が一にでもあるのならば足掻きたいし。なんて楽に頃してもらうやつが言う言葉じゃないけどね」

萃香「かまわないさ」

萃香がそういうと、赤蛮奇が近くに浮いている頭の一つを萃香に向けて飛ばす。

飛んでくる二つの瞳の視線を受けながら萃香はそれを掴んだ。

萃香の手に触れると同時に頭が爆発。さきほどの人間よりも大分威力の強い爆発だった。

萃香「まぁ、そんなことだろうと思ったけど」

赤蛮奇「正攻法じゃあなたは倒せないって言われたから」

萃香「受け入れたのかい?」

赤蛮奇「頭に爆弾が入っているのに、拒否なんかできないわ」

萃香「そりゃそうだね。さ、残りの爆弾を飛ばしてきな。避けないからさ」

赤蛮奇「? なんで避けないの?」

萃香「勝負だよ。あんたが私を殺せるか。私が耐えきるか」

赤蛮奇「………優しいのね」

萃香「勝負が好きなだけさ」

225: 2014/07/25(金) 09:53:16 ID:7FQiRBAQ
赤蛮奇が少し微笑んで二つ目の頭を飛ばす。

瞬きをする間にというほどではないが、十分に加速のついた頭が萃香にぶつかる。それと同時に爆発。

萃香の体は少し揺らいだが、すぐに態勢を立て直した。

三発目、四発目も萃香の体を少し傾かせるだけで萃香自身に変化はない。

萃香はだらりと下げた腕を肩を動かし揺らした。

萃香「あと4回だね」

赤蛮奇「えぇ、そうね」

堪えた様子もなくそう言う萃香に赤蛮奇は少し嬉しそうに微笑んだ。

赤蛮奇「じゃあ続き、いくわよ」

萃香「あぁ」

残った四つの頭が萃香に向かって一斉に飛んでいく。

その全てを受け萃香の体はゆらりと傾いて倒れた。

226: 2014/07/25(金) 09:59:42 ID:7FQiRBAQ
赤蛮奇「ダメだったわね」

萃香「鬼を地面に倒れ伏さすのは大したもんだと思うよ」

赤蛮奇「貴方ワザと倒れたでしょ」

萃香「あぁ、ワザとさ」

優しいのねとくすりと笑った赤蛮奇が萃香に背を向け人間の里に向かって歩いていこうとする。

萃香「けほっ、けほっ。待ちなよ」

それを口から煙を吐きながら萃香が止めた。

赤蛮奇「あぁ、そういえば楽に頃してくれるんだったわね」

萃香「あんた、生きたいかい?」

赤蛮奇「………当たり前でしょ。進んで氏のうとする妖怪なんていないわ」

萃香「ならうちに来ないか。助けてっていえば全力で助けようとする人間がうちにはいるんだ」

赤蛮奇「信じても、いいのかしら」

萃香「信じてもいいんじゃないかい?」

赤蛮奇「なら信じさせてもらうわ」

赤蛮奇は笑った。そして赤蛮奇は人間の里に向けていた足を萃香の方に変え、一歩踏み出す。

254: 2014/08/08(金) 09:58:43 ID:pob9mDT6
赤蛮奇の足音が萃香に近づく。萃香はそれを寝た状態で笑いながら迎えた。

敵はいない。赤蛮奇もきっと助けることが出来る。

萃香はそんな事を考えている自分を丸くなったなと感じ、男と魔理沙に毒されたかなと思った。しかし不思議と嫌ではない。

全てが解決したら義理人情を重んじて生きるのもいいかもしれない。

過去は消えないが過去は過去だ。未来ではない。直せないものに意識を向けるよりこれから何を作るかが生きているものの務めだろう。

萃香「ねぇ、あんた―――」

酒は好きかいと言おうとした。

でもその言葉を向けようとした相手は、赤蛮奇は

パァンと水風船が割れるように、血を撒き散らして地面へと倒れた。

255: 2014/08/08(金) 10:07:02 ID:pob9mDT6
自分の考えがいかに甘かったかを萃香は理解した。

裏切りがばれてしまえば殺されるのは当然だ。

でもどこかで何とかなるんじゃないかと思っていた。

しかし駄目だった。赤蛮奇は埋め込まれた爆弾が爆発して氏んだ。

あっさりと

やはりどう足掻いても赤蛮奇は氏ぬ運命しかなかったのだろうか。

それを知りたくても運命を読み解く幼い吸血鬼はいない。

萃香「正邪ぁああああぁあああっ!!」

逃げたと思っていた正邪の名前を叫ぶ。

正邪は隠れていて、赤蛮奇の様子を見ていた。そして裏切ったから頃した。

尊厳なんてない氏を赤蛮奇は迎えてしまった。戦いでもない、自害でもない、生きるものとして意味のない氏を赤蛮奇は迎えてしまったのだ。

叫んだ声には山彦すら帰ってこなかった。ただざわざわとした風の音と、全てを飲み込むような夜の帳がそこに降りてきていた。

256: 2014/08/08(金) 10:18:59 ID:pob9mDT6
~男視点~

萃香は話終わると、一人にしてくれとどこかへ霞のように消えて行った。

もしかすると今ここにいたかもしれない赤蛮奇について思う。

頭に爆弾を埋め込まれ、それが原因で氏んでしまった彼女は最後どんなことを思ったのだろうか。

自分の命が助かるということに希望を感じていたかもしれない。希望を抱いて逝けたのならまだ救いがあったかも知れない。

そんな事を思うのは生きている俺のエゴだろうか。

戦争が正しいか正しくないかなんて断言することは俺にはできない。

ただ、なぜこんなにも簡単に命が消えていくのだろうか。消せてしまうのだろうかの結論が出ない俺は霊夢が言う通り甘い人間なのだろうか。

戦いと言えば子供同士の喧嘩ぐらいしか経験したことがなかった俺にはどんな理由があろうとも人の命を奪うことはいけないんだとしか思えない。

しかしそれに強固な意志はないし信念もない。ただ綺麗なことは素晴らしい。平和は素晴らしいとただ盲目的に世間の型に嵌められた意見を自分の意見と勘違いするだけしかできない。

結果俺はやはり弱い人間なんだろう。

魔理沙や霊夢たちを守ると誓いながらもこんなことを思ってしまう俺は優柔不断でどうしようもないクズだ。

ただ正義という偽善の虜になっているだけのどうしようもないクズなんだ。

296: 2014/08/16(土) 08:42:54 ID:g9FeG0KM
自己嫌悪に陥っていると、ガサガサと草むらから何かが動く音が聞こえた。

一瞬敵かと思ったが結界内だ。忍び込めるとは思えない。

ならばなにかの生き物だろうか。狸や猫かもしれない。

音のした方へ近づく。空には薄い雲を纏った月の頼りない光しかないせいでよっぽど近づかないとそこになにがあるかが分からない。

流石に狼や野犬はいないよなと少し怯える。

男「多分ここら辺だと思うんだが」

草むらに手を伸ばす。

俺の手がガサガサと草むらを掻き分ける音がし

ガブリ

男「ッ!! いてぇえええっ!!」

俺の悲鳴が夜空に反響した。

297: 2014/08/16(土) 08:43:31 ID:g9FeG0KM
魔理沙「なんだなんだ、何があったんだ!?」

俺の悲鳴を聞きつけ、魔理沙が家の中から飛び出してくる。

俺は何かに噛まれた右手をさすりながら痛みに飛び跳ねているというなんとも間抜けな恰好で魔理沙を迎えた。

男「な、何かに噛まれたっ」

魔理沙「噛まれたって、蛇?」

男「わからんっ」

痛む手を魔理沙に差し出す。

魔理沙はその手を左手で支え、右手で八卦炉を使い傷口を照らした。

魔理沙「これはなんだ、イヌか?」

見れば綺麗にU字に歯型が並んでいる。しかしあまり大きくはない。中型か小型の犬だろうか。

魔理沙「消毒しといた方がいいかもな」

男「だよな。四季さんのところ行ってくる」

魔理沙「いや、私がする」

私だって手当ぐらいできるんだぜと言いながら魔理沙は少し拗ねたような顔で俺の手を引っ張った。

298: 2014/08/16(土) 08:44:30 ID:g9FeG0KM
てっきり消毒液たっぷりついた脱脂綿を乱暴に傷口に当ててくるのかと思ったら魔理沙は丁寧に包帯まで巻いてくれた。

男「包帯まで巻けるんだな」

魔理沙「乙女なら誰でもできるって」

魔理沙「それにしても災難だったな。結界内に犬が入り込むなんて」

霊夢「入り込んでないわよ」

男「え?」

いつの間にか霊夢が部屋の前に立っていた。

霊夢「許可してないものは入り込めないわよ」

結界に入り込んでないならさっきのはいったい何なんだ。そんな疑問を口に出す前に霊夢は答えた。

霊夢「侵入者ね」

なんて発言を事もなげに霊夢は言った。

どこまでも冷静なその姿に呆れつつそれは大丈夫なことなのかと霊夢に聞いた。

霊夢「結界の揺らぎがあってその箇所の結界を点検してたらあんたの声が聞こえたから来たの。大丈夫かと聞かれたら紫は藍達が守ってるし、映姫は小町と萃香が守ってる。今のところ被害は出てないから問題ないわね」

被害はすでに出てるんだがといってもこれぐらい、しかも俺だから霊夢にとっては被害のうちに入らないのだろう。

しかし侵入者は何をしたいのだろうか。

299: 2014/08/16(土) 08:45:05 ID:g9FeG0KM
霊夢「さっさと侵入者を探しに行くわよ」

男「え、俺も?」

霊夢「当たり前でしょ、こんなか弱い女の子だけに探させるなんて男としてどうかと思うわよ」

異論が少しあったが霊夢についていく。魔理沙はあぶないので、四季さんのところへ連れて行った。

侵入者が再び襲い掛かってきたら俺は足手まといでしかないんだけどなぁ。

霊夢「私の結界を抜けてこれるんだから結構な使い手だと思うんだけど」

そんなぞっとしない言葉を霊夢がぽつりとつぶやく。

男「どこから探すんだ?」

霊夢「まず部屋を回るわよ。紫と映姫は大丈夫だと思うけど、いつまでも警戒してるわけにはいかないわ」

男「でもここまで警戒してたらとっくに逃げたんじゃないか?」

霊夢「まだ出て行ってないわ。結界に異常がないもの」

ってことはまだどこかにいるってことで、例えばそこの曲がり角とかに………

霊夢「? 私より先に歩かれると邪魔なんだけど」

男「まぁ、念のために、一応」

300: 2014/08/16(土) 08:45:42 ID:g9FeG0KM
曲がり角の先は当たり前だが見えない。

だから想像は膨らみ、今頭の中の曲がり角の先には恐ろしい化け物が存在する。

自分自身で恐怖を煽りながらも曲がり角にたどり着いた。もし本当に化け物がいたのなら俺は曲がったときに殺されてしまうのだろう。

霊夢「何立ち止まってるのよ。早く行きなさいよ」

しかしこの程度で怯えていては霊夢みたいなヒーローにはなれない。自分を何とか奮い立たせて曲がり角を覗き込む。

「あう?」

男「っ!」

俺より幾分か背の低い誰かと対面する。

霊夢「どうしたのって、ただのぬえじゃない」

ぬえだった。

ぬえは立ち止まった俺の顔を不思議そうに見ている。

俺は軽く震えた声でぬえになんでもないよと言って頭を撫でた。

男「危ないから四季さんのところに行っててくれ」

ぬえ「う」

ぬえは小さく頷いてぺたぺたと廊下を小走りで駆けて行った。

301: 2014/08/16(土) 08:46:18 ID:g9FeG0KM
結局それ以外別に何も異常はなく、霊夢の朝を待ちましょうとの言葉によって捜索は一旦中止となった。

霊夢は紫のところへ、俺は四季さんのところへ―――なんてことは出来ないので自分の部屋に戻った。

大丈夫、俺を襲っても意味はないからと自分に言い聞かせつつ部屋に戻るとそこにはぬえがいた。

男「四季さんのところへ行っててくれっていったろ」

ぬえ「あう?」

しかしぬえが居てくれるおかげで恐怖心は大分薄まった。

ぬえは俺よりよっぽど強い。いざという時はなんとかなるだろう。頼るのは情けない話だが。

男「じゃあ寝るか」

ぬえ「う」

ぬえはこくりと頷いて俺の布団の中に潜り込んできた。

男「………?」

少し獣くさい気がしたが気のせいだろうか。

ぬえの首筋に顔を埋めて嗅いでみてもぬえの少し汗の混じった香りがするだけで獣くささはなかった。噛まれたから少し獣に敏感になっているだけだろうか。

恥ずかしがっているぬえにごめんと謝り目を閉じる。

時はすでに日付を跨いでいるせいで、俺はそのまますっと眠りに落ちた。

302: 2014/08/16(土) 09:11:02 ID:g9FeG0KM
魔理沙「萃香は今日はついてこないのか」

萃香「うん。まだ侵入者が誰かわかってない状態だからね。万が一があっちゃいけない。あ、おかわり」

確かに

昨日は途中で打ち切ったから侵入者がまだ隠れている可能性がある。もしまだ隠れていて、俺たちが結界の外に出た場合残されている中で戦えるのはウィルや咲夜、あとは藍さんぐらいなものだ。足りないとは思わないが何かがあってからでは遅い。

紫や四季さんはまだ良い。もし咲夜やウィルが氏んでしまうとおそらく時は戻せない。確認したわけじゃないけど、異変解決に絶対必要な存在ではないと思う。

だから一番強い萃香が残ってくれれば安心だ。

その代わり魔理沙と小町だけのチームになってしまうが、それでも俺のチームと対して戦力は変わらないだろう。

………いや、魔理沙と小町だけじゃダメなのか。

初めて時を戻したときの事を思い出す。誰が頃したのかはわからないが、確かに小町と魔理沙は殺された。小町と魔理沙を頃すことが出来る存在が向こうにはいるんだ。

魔理沙も小町も決して弱くない。だけど最強ではない。

そのことが不安だ。

魔理沙「どうした兄貴。浮かない顔して」

男「ん、あぁ寝不足でな」

ワザとらしくあくびをする。周りはお疲れ様と笑ってくれたが萃香だけは察したようで少し眉をひそめていた。

338: 2014/08/22(金) 22:38:26 ID:EUTCYQf6
ぬえ「あう!」

ぬえがいきなり手を上げた。なんだろうかと思っているとぬえが魔理沙と小町を指さし、最後に自分を指さした。

魔理沙「ひょっとして、ぬえ。お前もついてくるのか?」

そう魔理沙が尋ねるとぬえは勢いよく「う!」と言って頷いた。

男「………それは」

紫「別にかまわないわよ」

駄目だと言おうとした。しかしその言葉は突然現れた紫によって遮られた。

紫「私はぬえがあなたの恋人だとしても一切特別視するつもりはない。私たちのために働いてくれるならそれはありがたいことだわ。いや、あなたのためにぬえは働こうとしてるのね。恋人として喜ばしいことじゃない?」

魔理沙「おい紫、その言い方は」

男「………分かった。よろしくぬえ」

魔理沙「兄貴!?」

確かにそれが一番良い。萃香がダメなら頼れるのはぬえだけだ。藍さんは紫を守るためにいなければならないし咲夜は手伝ってくれるわけがない。

残ったのはぬえだけなんだ。

339: 2014/08/22(金) 22:54:51 ID:EUTCYQf6
萃香「それで、いいのかい?」

ぬえ「あう」

男「ありがとうな。ぬえ」

霊夢「それじゃあ私と男とチルノ。魔理沙と小町とぬえの三人ずつに分かれるってことね」

紫「そうね。あ、そうそう男」

紫が俺と目線を合わせる。そして声を出さずに口を動かした。

ばぁん

口がそう言っていた。

男「………分かってる」

紫と俺だけにしかわからないこと。

そして俺が認めたくなかったこと。

ぬえは氏んでも生き返らない。

紫「ありがとう、ぬえ」

紫はそう言って去って行った。

ぬえにやっぱり行くなと言うことが出来ず俺はただぬえのにこにことした笑顔を見ていた。

342: 2014/08/23(土) 22:41:22 ID:.ObsEEG.
小町「ん、今日はぬえが来るのかい」

小町が萃香の代わりについてきたぬえを見てそう言った。

ぬえは小町にやる気を見せるようにガッツポーズをしてみせ、その様子を見た小町はほほえましそうに笑った。

チルノ「師匠、今日も頑張ろうね!」

男「あぁ、もう人間の里の入口だからな」

戦いはこれからが本番。あまり考えたくないが今まで以上に戦いは厳しくなる。

厳しくなるということは俺が銃を使うことがあるかもしれない。氏ななくても怪我を負ってしまうかもしれない。

そして俺は今まで以上に足手まといになる。

男「漫画とかだったら逆なんだけどなぁ」

霊夢「なんか言った?」

男「いや、なんでもない」

小町「それじゃあゲート開くよ。霊夢たちは目立つ入口側だから気を付けなよ」

霊夢「誰かが足を引っ張らない限りは安心よ」

その誰かが俺を指しているということはじろりとこっちを見てきた霊夢の視線で痛いほど分かった。

実際足手まといになっているのだからぐうの音も出ない。

343: 2014/08/23(土) 23:07:11 ID:.ObsEEG.
小町が引いた線を通ると設置した竹筒の場所へと到着する。

小町の能力をベースに色々と工夫を施した術らしいが一割も俺には理解が出来なかった。

まぁ、竹筒を置いた場所に移動できるとさえ知ってればなにも支障はでないが。

霊夢「さ、行くわよ」

男「おぉ」

人間の里の入口。

多いとは聞いていたが里という規模じゃないな。ここから見えるあれは電灯………いやガス灯か?

霊夢「………男。邪魔だから離れてなさい。チルノは男守ってて」

さぁ、これから行こうと歩みを進めた途端に霊夢が立ち止った。

覗いた顔は険しく近くに敵がいるということが分かった。

見回すと少し離れた場所に女性の姿が見えた。その髪の色は全体的に白だが少しだけ青が混じっている。

小町と同じか少し大きいぐらいだろうか。ここからでは距離があるので正確には分からない。

周りには誰もいない。ただその女性だけが腕を組んで仁王立ちをしていた。

344: 2014/08/23(土) 23:16:00 ID:.ObsEEG.
霊夢「私が倒してくるから、絶対邪魔しないでよ」

男「分かった」

霊夢がふわりと浮いて滑るように女性に近づく。それを見ながら俺とチルノは言われた通りに草むらの中へと隠れた。

チルノ「………うぅ」

チルノが小さくうめき声を漏らす。どうしたのだろうかとチルノの顔を見ると少し青ざめた顔をしていた。

男「どうしたチルノ」

チルノ「慧音が………氏なない、よね」

男「………霊夢がか? それともあの女の人か」

チルノ「慧音………」

あの人はチルノの知り合いなのか。ならば心配する理由もわかるが、しかし倒さないという選択肢はない。今度の事を考えておくならば、そう考えておくならば命を奪うという選択肢のほうが良い。

その結論に至ってしまう自分が嫌で、気取ったふりをしてチルノの頭を撫でた。

男「霊夢もさっき倒すって言っただろ。大丈夫だって」

チルノ「うん。そうだよね。あ、いや違う殺さなきゃ、殺さないといけないんだった」

男「チルノ?」

345: 2014/08/23(土) 23:24:53 ID:.ObsEEG.
チルノ「そう、敵は殺さないといけないんだ。そうしないと」

チルノが青ざめた顔のままぶつぶつとそう呟き出した。

男「おい! どうしたチルノ!!」

チルノの肩を掴み強く揺する。チルノは青ざめ虚ろになった目を俺に向け、一筋だけ涙を流した。

チルノ「あたいは。あたいは頑張らないといけないんだ」

何があったのかは分からない。

しかし今チルノは何かを思い出しショックを受けている。

それが慧音。親しい人物を殺さないといけないということが原因であるとするならば。

それを命じることが出来る人物―――

男「………紫が何か言ったのか?」

その名前を出すとチルノの体が少し震え反応した。

やはり紫が言ったのか。これからは親しい者も殺さなければいけないと。

間違いではない、間違いではないがチルノに言っていいことじゃないだろ。

チルノは人頃しが出来るような性格ではない。そんなチルノを追い込むことが出来る理由って

346: 2014/08/24(日) 18:02:21 ID:zjewWva.
チルノ「師匠、大丈夫。大丈夫だから」

その姿は到底大丈夫そうには思えない。

チルノはまだ青ざめた顔で気丈に笑った。

チルノ「紫はあたいががんばらないと他の妖精を保護してくれない」

男「やっぱりゆか「でも、それは当たり前の事なんだ。何かをしてもらうのは何かをしなくちゃいけない。あたいだってそれくらいわかる。わがままを言っていい時じゃないんだって」

チルノが俺の言葉を遮り、胸に手を当てそう言った。俺はその言葉に何も言えなくなる。

その覚悟を否定できる言葉を思いつかなかったからだ。

ドンッ!

男チル「!」

衝撃が伝わってきた。霊夢と慧音の戦いが始まったのかと思いそっちを見ると慧音を中心として地面がひび割れ荒れていた。

そして何よりの変化。

目の前にあった人間の里が跡形もなくなっていた。

347: 2014/08/25(月) 23:43:32 ID:fuhlf.W2
慧音「生きるも氏ぬも裏表…」

慧音「生きて逝きては星巡り…」

慧音「天あり地あり人ありて…」

慧音「各々交わるはここ、人里…」

慧音「来たりて行かんとする、その者の名は博麗霊夢…」

霊夢「…」ザッ…

慧音「いざ…氏合わんッ!」スッ…

慧音「上白沢慧音…参る!」ゴゴゴ…

霊夢「…!」

349: 2014/08/30(土) 15:22:40 ID:ne/XZQ9U
~俯瞰視点~

魔理沙はぬえがついてきたことにいまだ不満を抱いていた。正確にはついてくることを許可した紫に対してだが。

そんな心中を察してか小町は舟渡をするときの漫談のような話をしていた。しかし魔理沙はそれを聞いておらず、空回りに終わった。

二人の様子を見たぬえは少し申し訳なさそうな顔をしながらも二人についていく。

小町「あー。魔理沙。もうそろそろ人間の里の裏だね」

魔理沙「あぁ、そうだな」

帰ってきた短いながらも面倒くさいから話しかけないでくれというはっきりとした拒絶を含む言葉に小町が人差し指で頬を掻く。

小町の能力を使いながらなため霊夢たちよりはよっぽど移動が速い。しかしそれもここまでで、人間の里に入ってしまえば、いくら能力を使えども戦いを避けることはできない。

なのにこんな様子で大丈夫なのかねと小町は心の中でため息をついた。

小町(これはあたいががんばらないといけないかな?)

そう思い小町は歪な形の鎌を握りなおした。

351: 2014/08/30(土) 15:32:40 ID:ne/XZQ9U
小町「もうすぐだ。気張っていこうかね」

魔理沙「ん」

ぬえ「あう!」

後数分もすれば人間の里の裏へと着く。

霊夢たちの前に比べれば警備は手薄だが、それでも少なくはない。ただ霊夢よりは楽というだけだ。

魔理沙はほとんど自分の力だけで進んでいくであろう霊夢を思い、その差について少し悲しみを覚えた。

しかし自分にもやれることはある。ここで頑張らなければ霊夢や男に負担がかかる。魔理沙は魔理沙なりにこの場で戦う覚悟を決めていた。

しかしその覚悟は数分後に簡単に砕かれる。

目標の場所。

小町「あれ、ここのはずなんだけど」

魔理沙「消えた? まさか、慧音か」

ぬえ「うぅ」

人間の里はどこにも存在しなかった。

352: 2014/08/30(土) 15:55:23 ID:ne/XZQ9U
魔理沙「どうすればいいんだよ」

小町「流石のあたいでもどうしようもないよ。まぁ、消えたってことは向こうも攻めてこないからいいんじゃないかい?」

魔理沙「良くないだろ」

「その通りじゃな!」

二人が会話をしているとすぐ近くから声が聞こえた。

慌てて声がした方向を向くとそこには小さな白髪の少女がいた。

そして魔理沙も小町もその少女の名前を知っている。

小町「布都………いつの間に」

布都「ふっふっふ。修行してぱわーあっぷした我にとっては風水を使い、気配を消す事なぞたやすいことよ」

右手でくるくると皿を回しながら布都がにやりと笑う。その様子を見た小町と魔理沙は布都が自分が知ってる布都よりも強くなっていることを感じ、距離を取ろうと後ろに引いた。

ぬえ「ぐるるるっ!!」

しかしぬえは野犬めいた声を上げながら布都に飛びかかった。

布都「ん。誰かと思えばあの寺の氏にぞこないか。まるで野犬じゃな。しかし」

布都の首にぬえの手が伸びる。しかし、その手はぬえの首から数センチ離れたところで止まった。

354: 2014/08/30(土) 16:23:32 ID:ne/XZQ9U
布都「どうじゃ。怖いであろう? なんといってもこれだけはお主には耐えられまい。のう、ぬえ」

布都が袖から黒い刀を取り出し、ぬえの眼前へ構えていた。鞘も抜いていないその刀を見た瞬間にぬえの動きは止まり、額に脂汗をかいていた。

布都「獅子王。妖怪頃しの刀よ。我が持つにふさわしいな」

ぬえの手が鞘へとのびる。その動きを見たぬえは慌てて後ろへ飛びのいた。

小町「ぬえは逃げな。分が悪いよ」

飛びのいたぬえの前に小町が出て、ぬえを庇うように立つ。

ぬえは小町の姿を見て、少し迷った後、布都に背を向けて、逃げた。

布都「逃がさんぞ!」

小町「あんたの相手はあたいだよっ」

布都「すまんがお主の相手はまた今度じゃ!」

布都の体を中心につむじ風が巻き起こり、小町は前に進もうとした態勢を崩され、風を利用し大きく飛んだ布都に対応することが出来なかった。

魔理沙「行かせないぜ!」

布都「屠自古!!」

屠自古「分かってるわよ!!」

魔理沙が八卦炉を布都へ向け、レーザーを放とうとした瞬間魔理沙の眼前に雷が落ちる。その衝撃に魔理沙は数メートル吹き飛ばされた。

355: 2014/08/30(土) 16:34:14 ID:ne/XZQ9U
布都に名前を呼ばれた少女は苛立たし気な顔をしながら風に乗って飛んでいく布都を見送った。少女には足がなく、足があるべき場所に二股に分かれた半透明の白い靄のようなものがあった。

小町「ちっ。さっさとあんたを倒して布都を追わせてもらうよ」

魔理沙「あぁ、すぐに撃つ」

屠自古「あんたたち私の事を布都より格下に見てない? そんな事ないわよ、マジで」

布都が右手を払うと数本の雷が小町と魔理沙に向かって飛んでいった。

魔理沙「あぶなっ」

小町「魔理沙っ!!」

対応が遅れた魔理沙の手を引いて小町が雷を避ける。

完全に態勢を崩した二人を見て屠自古はくすくすと笑った。

屠自古「私一人でも強いってこと、分からせてあげるわよ。やってやんよ!」

屠自古が右手を掲げるとバチバチと雷が集まる。どんどん大きく膨れ上がるそれを屠自古は二人に向かって投げつけた。

投げつけられた雷は槍のようになり、二人に向かって飛んでいき、落雷の音よりも何倍も大きい爆音と衝撃をあげ地面へ衝突した。

屠自古の雷を受け、辺りの木々が焼けこげ、衝撃でもうもうと砂煙が舞う。

屠自古はその光景を見て満足そうに笑った。

372: 2014/09/06(土) 15:24:44 ID:lArFVaLA
ぬえ「はっ、はっ、はっ」

ぬえは深い森の中を走り続けていた。その呼吸は追われる者にかかるプレッシャーと自分のリズムを無視して走っているため普段よりも大きく乱れている。

布都「どこまで逃げるか分からぬが、我も暇ではない身。一つ止まって首を差し出してくれぬかの」

布都が逃げるぬえをからかう。布都は帰ってこない返事に軽く笑いつつ、風に乗りながらぬえを追った。

布都「鬼ごっこなど童の頃以来ゆえ、勝手を忘れてしまった。どうしたものやら。鬼を倒したものが勝ちじゃったか?」

布都が短く唱える。するとこぶし大の火が数個布都の周りに生まれた。

布都「燃え散るが良い!!」

布都がぬえに向かって手を振り下ろすと炎はそれを合図とし、ぬえに襲い掛かった。

ぬえ「うぐっ」

炎がぬえを掠める。掠めただけでわかるその熱にぬえは気圧され足をもつれさせた。倒れることはなかったがそれでも布都との距離は大きく詰められた。

布都「どうした捕まるぞ?」

布都の態度はぬえを侮っている。それはぬえにとって恐怖の対象となる源頼政の匂いが強くしみついた師子王を持っていることもあったが布都はその性格ゆえに自分の実力に絶対的な自信を持っていた。

今までいくつもの妖怪を討ち滅ぼし、燃やしてきた。その中には逃げる者や幼い者もいた。

しかし布都にとってはただの妖でしかない。呉れるのは温情ではなく変わらず氏だ。

374: 2014/09/06(土) 15:58:43 ID:lArFVaLA
元々恐怖する対象だったがゆえに布都は慈悲なく力を振るうことが出来る。恐怖が大きかった分力を持った布都は冷酷になれた。

怖ければ燃やせばいい、射ればいい。単純的な子供染みた思考をもって布都は動いていた。

まるで子供が虫の足をもぐような気軽さで布都は氏を押し付ける。

狂った力を持った弱虫、いつか誰かが布都をそう評した。それに対し布都は戯言をと一笑した。

しかしそれは布都の性質を哀しいほどに表していた。

布都「ほれほれ、もうすぐつかまってしまうぞ? 仲間でも呼べばどうじゃ? 大きな声でな!」

ぬえ「あ、あうぅっ」

布都「どうしたどうした。言葉をつかえないのか?」

ぬえはその言葉に悔しそうに表情を歪ませた。その反応によって布都は本当にぬえが喋ることが出来ないことに気付いた。

布都は愉快そうに笑い、両手を叩いた。

布都「いくら恐怖しても仲間も呼べぬか。まぁ、やってくるのは助けではなく犠牲だがな!」

布都「しかしまことに哀しいことよの。氏するときに愛する者の名すら呼べぬとは」

その言葉にぬえは返すことが出来ない。助けを呼びたくても呼ぶことが出来ない。

出来ることは魔理沙たちが速く自分を助けに来てくれることを願うことだけだった。

375: 2014/09/06(土) 16:09:57 ID:lArFVaLA
びゅおう。

今までよりも強い風が吹き、布都の速度が上がる。

ただでさえ近かった二人の距離が更に縮まる。

布都「さて、終わらせるかの。戯れは終わりじゃ」

獅子王の柄に手を駆け、さらに速度を上げていく。

その間合いにぬえが入るまではあと数メートル。

数秒程度でその距離は詰めることはできる。

いくらぬえが氏ぬ気で走ろうと、乱れた息で布都から逃げ去ることは不可能だった。

距離が1メートル、2メートルと詰められる。

布都「あの世で我の名誉でも語ってもらおう!!」

上体を捻り、布都が刀を抜く。その刃が届く範囲にぬえはいた。

その迫りくる妖怪頃しと妖怪頃しの刃を

「馬鹿者め!!」

ぬえは一笑した。

376: 2014/09/06(土) 16:36:59 ID:lArFVaLA
布都「なっ!」

布都の刃が届く範囲。それはつまり

「妖怪相手に接近するとは迂闊じゃな。それとも自分が侍とでも勘違いしておったか?」

ぬえの手が十分に届く範囲だった。

いきなり止まったぬえに布都は間合いを誤り、予定よりも深くぬえを懐に入れていた。

その間合いは刀よりも拳の方が有用な超接近。

ぬえのいきなり後ろに突き出した肘は布都自身の速度もあり、容易く布都の肋骨を叩き折り、内臓を傷つけた。

377: 2014/09/06(土) 16:37:48 ID:lArFVaLA
布都「な、なんじゃ、と?」

数メートル吹き飛ばされた布都が痛みに喘ぎつつ驚愕の表情でぬえを見る。

予定外。

布都の予定では獅子王を持っている自分が絶対的な強者で、逃げるぬえを倒す。それだけのいわばキツネ狩りのような一方的で娯楽的なものだったはずだった。

しかしそれは覆された。目の前にいるぬえは獅子王を恐れず、それどころか反撃すらしてきた。

「元ただの人間風情が大妖怪に勝てるなんて少し思い上がり過ぎじゃなかろうか」

雰囲気が違う。今までのぬえとは全く違う異質な雰囲気。

そのぬえのような少女は酷く年寄りくさい笑い声を上げながらいまだ地面に寝転がった布都に近づいた。

「どんな気分じゃ? 追っていたはずが気付けば妖怪の腹の中の気分というのは」

ぱちんと指を鳴らす。

その途端、深い深い森の木々は消えうせた。

383: 2014/09/12(金) 16:01:43 ID:M/8a.KiY
ぽんぽこぽんと小鼓を叩いたような小気味良い音が布都の周りで幾度となく鳴る。そしてどこからか煙が湧いて出た。

布都「ここ、は」

音がなるにつれ景色がどんどん変化していく。緑が生い茂った森は、緑を失い土壁へと変化する。そして煙も徐々に濃くなっていく。

「変化は儂の本分じゃからな」

ぬえの姿をした何者かがからからと笑う。その声は布都の周りで鳴り続ける音よりも高く響いた。

煙が布都を包み、10センチ先も見えないほどの濃さになる

布都「謀っておったのか、畜生めが」

「その畜生に騙されたのはどこの大馬鹿者かのう」

ぽんぽこぽんという音が次第に少なくなっていく。その音に比例して煙も風に吹かれ薄れて行く。

辺りに漂うは濃い獣の臭い。

周りの木々は消え失せ、在るは荒れ果てた寺と無数の狸。

そんな景色の中気付けば布都は、メガネをかけた女性と対峙していた。

マミゾウ「さぁて、皆の衆。古今伝わるムジナの変化。この団三郎の名において、集まれば百鬼夜行にもなるその力を存分に振るってもらおうか」

その言葉の返事の代わりにぽーんという音が一斉に鳴り響いた。

384: 2014/09/12(金) 16:20:04 ID:M/8a.KiY
布都「く、くく。畜生どもがいくら集まろうと我と獅子王に叶うわけがなかろう。くく、くははっ」

マミゾウ「痛みで気でも狂ったか? 侍でもなければそれは宝の持ち腐れじゃ」

布都「我は負けぬ、なぜなら我は聖童女! 貴様ら畜生が触れてよい存在ではない!! 我には神がついているのだ!! 負けるはずがないのだ!!!」

高笑いをしながら布都が獅子王を顔に水平に構えそのまま数メートル先のマミゾウに向け突進染みた突きを繰り出した。

布都の体は人間のそれと違い、本体の皿さえ壊れなければ四肢がなくなろうと数分ほどで回復してしまう。

マミゾウが負ったあばら骨もすでに完治し、布都の状態は完璧だった。

布都の突きの速度は仙術を使い起こした風に後押しされ、その小さな体躯も相まって神速と呼んでも差支えないほどだった。

それは人間の反射神経では到底追うことが出来ない速さ。

妖怪でも避けることが難しい速さだった。

布都「我のっ 勝ちじゃっ!!」

マミゾウ「馬鹿者め」

どろんっ

獅子王の切っ先がマミゾウの心臓を捉えようとした直前マミゾウの体は煙に包まれた。

布都「もう遅い!。いくら変化しようとこの刃から逃れることは―――」

ザクッ

385: 2014/09/12(金) 16:42:48 ID:M/8a.KiY
マミゾウ「儂も神という事を知らぬのか? お主が神の味方だというのなら、儂に適う道理はなかろう。まぁ、貴様が信じてた神はすでに貴様を見捨てておるがの」

布都「―――ま、た。謀って」

マミゾウ「我らに真正面から挑む時点で負けは決まっていたよ。忠告はしたはずだったが。この大馬鹿者め」

ぐりんとマミゾウが右手を捻じる。

布都の背中に刺さっているドスがその動きに呼応して布都の傷口を大きく広げながら右に回転した。

マミゾウ「すぐ治る体でもこれは耐えられるまい」

マミゾウが布都の足を払い胸を貫通したドスで地面に縫いとめる。

マミゾウ「食って良いぞ、皆の衆」

その言葉を聞いた狸が布都に殺到していく、ものの一秒ほどで布都の体は狸に埋め尽くされ見えなくなった。

布都「く、ぐぎぃっ。や、やめろ、ちくしょうどもめ! 触れて良い体、ぐぎゃっっ。我の指が、返せ返すのじゃっ。ぐげがっ。やめ、目は、やめて、お願いじゃか―――」

布都の体が狸の鋭い犬歯によって噛み千切られていく。布都の抵抗も空しく布都の体は端から骨ごと食われていく。

抵抗する声も、すぐに痛みによる絶叫に変わり、その絶叫も声帯が噛み千切られ荒い泡が弾ける音に変わった。

マミゾウ「足りんな。これじゃあまだ、足りんよのぅ」

マミゾウが近くの岩に腰を下ろし懐から煙管を取り出す。

指の先から小さな火を出し煙草に点け、うな垂れながら大きく煙を吸い込んだ。

398: 2014/09/21(日) 12:15:42 ID:AMqB66ek
屠自古「あっはっは。ずいぶん他愛無かったわね。この調子じゃ布都のほうも終わってるでしょうし見に行きましょうか」

屠自古は布都がぬえを追っていった方を見てどこまで行ったのだろうかと手を眼の上に当て眺める。

しかし炎や雷も見えないため森に隠された二人の姿を発見することはできなかった。

屠自古「仕方ない。ちゃんと氏体でも確認するか。やったかなんて台詞を吐くのは二流の証拠」

「だけどそうやって視界の悪い中近づくのは氏亡フラグだぜ」

屠自古「うしr」

―――マスタースパークッ!

屠自古の後ろ。正確にはまだ砂煙の舞う地から衝撃によって砂煙を吹き飛ばす巨大の光の塊が屠自古に向かって襲い掛かる。

屠自古「雷よ! 在れ!!」

屠自古が驚異的な反射神経を持って雷に命じる。

しかし雷もマスタースパークも速度は同等。

雷が落ちるよりも早くマスタースパークは屠自古の体を包んだ。

魔理沙「瞬ッ殺!!」

399: 2014/09/21(日) 12:30:18 ID:AMqB66ek
屠自古「ぐ、ぐぐっ。絶対ゆるさ、ナイ」

魔理沙「まだ、生きてたか」

体が薄れ消えかかっている屠自古を見て魔理沙は笑った。

魔理沙「もちろん私は油断なんてしてないから追撃の準備は万全だぜ」

箒を蹴り上げ、魔理沙はその箒に飛び乗る。

魔理沙「幻想郷最速。だから私はお前をぶっ飛ばして、そのままぬえを助けに行く」

小町「おっと、あたいも忘れないでくれ」

魔理沙「生きてたのか、氏んだかと思ったぜ」

小町「冗談。雷から助けてやったのはあたいだよ?」

魔理沙「別に助けられなくても避けれたし」

小町「さぁね。とりあえず行こうか」

魔理沙「速攻でなっ!!」

400: 2014/09/21(日) 12:38:34 ID:AMqB66ek
屠自古「ぺちゃくちゃぺちゃくちゃうるさいうるさい煩い!! 大人しく吹き飛ばされろぉおおお!!」

屠自古が右手を天に掲げる。周辺の雲がごろごろと雷を孕む。

屠自古「今度こそ、灰に―――」

魔理沙「ブレイジングスター」

小町「お迎え体験版」

屠自古「なれぇええええ!!」

屠自古が手を振り下ろす。

ごろごろとなる雷が二人に向かって襲い掛かる。瞬く間に数十里をかける速度で。

屠自古「っぐぁっ」

魔理沙「そんな速度じゃ私に当てるには何光年もかかるぜ!」

小町「あたいの能力のおかげだけどね」

しかし二人は瞬く間に遥か遠くに移動していた。

402: 2014/09/21(日) 13:23:12 ID:AMqB66ek
魔理沙「さぁて、ぬえを助けにいくか。ヒーローは遅れて助けに来るから、ピンチを待ったほうがいいか?」

小町「普通に助けようか」

魔理沙「えーそれじゃあつまらないじゃないか」

「そうよねぇ。面白く行かないと」

魔理沙「そうそう。そしたら兄貴も私を褒めてくれるだろうし」

小町「すっかりブラコンだねぇ。まぁ、別にいいけどさ」

魔理沙「あっ。兄貴は渡さないぞ!!」

小町「いや、あたい一言もそんなこと言ってないけど」

「魔理沙はその兄貴って人が好きなのね」

魔理沙「もちろん。あ、でも恋愛感情は一切、な、い

小町「………あんた誰だい?」

「はろー。今日も良い天気。こんなに空が綺麗だから」

あなたを頃しに来たのと、巫女は微笑んだ。

404: 2014/09/21(日) 13:33:20 ID:AMqB66ek
小町「魔理沙っ!」

魔理沙「マスタースパークッ!!」

遠慮なしの一撃必殺を至近距離から放つ。

「あっ」

巫女服を来た少女は避けることも出来ず、そのまま光に焼かれた。

魔理沙「な、なんなんだよ、あいつ」

小町「狂人、かね」

「酷いわ。人をいきなり狂人扱いなんて、それになんなんだとかも酷いわ」

魔理沙「っ!」

耳元。魔理沙の耳元でくすくすと幼気な笑い声が聞こえた。

ぞっとして振り返ると今確かに吹き飛ばしたはずの少女がいた。

405: 2014/09/21(日) 13:37:14 ID:AMqB66ek
小町「危ない魔理沙っ!」

「あぎゅっ」

小町の鎌が少女の首を刈り取る。

小町「どんな手品を使ったのかは知らないけど」

「種も仕掛けももちろんあるわよ。神様じゃないんだから」

今度は小町の耳元で声がする。

「でも教えない」

少女の手が小町に触れる。

小町「くっ」

慌てて小町は能力を使い移動した。

一センチも一キロも小町にとっては等しい。どんなに速く相手が動こうと小町はあくび交じりにその先を行く。

だから小町には誰も追いつくことが出来ない。

なのに

小町「……………ごぽっ」

小町の頭は重力に従い地面に落ち、数瞬を置いて体もそのあとを追っていた。

411: 2014/09/23(火) 23:04:14 ID:xa2qOy/2
魔理沙「は。な、何をしたんだよ。なぁ、今お前何したんだ!?」

「それはね」

巫女服を着た金髪の少女が悪戯を自慢するような笑みで魔理沙に仕掛けを教える。

「とってもつよーい糸を首に巻きつけてあげただけ。糸の長さは変わらないんだから距離を操れば首がすぱーんって切れる仕掛け」

ね、簡単でしょと少女はけらけらと笑う。

どすんっ

小町が地面にぶつかる。

魔理沙は地面に転がっている小町を見て、手のひらをきつく握り締めた。

「ねぇ、魔理沙」

魔理沙「近寄るな! 近寄ると撃つ! いや、お前を撃つ!!」

少女は魔理沙の構える八卦炉をまるでただの玩具であるかのような態度で魔理沙に近づく。

そんな少女の様子に魔理沙は戸惑ったが八卦炉に魔力を送り込む。

魔理沙「あの世で小町に詫び続けろ! いや、あの世に小町は………くそっ」

八卦炉に送り込まれた魔力は何倍も増幅して破壊だけを性質とした光に変わる。

魔理沙がぎゅっと八卦炉を握り締めると光は巨大な柱となって少女を包み込んだ。

413: 2014/09/23(火) 23:13:40 ID:xa2qOy/2
「」

少女が声を発する間もなく、光によって溶ける。

魔理沙は至近距離で人型のものが端から形を失い人型を失い、小さくなって小さくなってそして消えてしまうのを見た。

小町の仇ではあるが、それでも見ていて気分の良い光景ではない。

魔理沙は相手片手で額から流れ落ちる汗を拭こうとした。

「あらあら魔理沙、こんなに汗をかいちゃって。拭いてあげるわ」

魔理沙「!!」

魔理沙の額に誰かの手が触れる。そして今目の前で消え去った声も幻聴ではなく確かに魔理沙の耳に届いた。

魔理沙「な、なんなんだよ。お前」

「あら、忘れちゃったのね。まぁ、思い出すわ。それとももしかして自分がいったい何者なのかという哲学的思考? うーん禅問答をあまり得意ではないのだれど」

魔理沙「違う。お前はなんで私を知っている」

有名人だとは魔理沙自身も思っている。人里に度々訪れる魔法使いは自分ぐらいのものだし、人間の里以外も飛び回っている。魔法使いとしては一番行動力があるのは確かなことだ。

しかし目の前の自分を良く知っているかのような口ぶりで話しかけてくる相手を魔理沙は知らない。

414: 2014/09/23(火) 23:21:13 ID:xa2qOy/2
忘れてしまったわけではない。

自分と同じ金髪。更に霊夢や早苗以外に見かけることのない巫女服。

こんなに特徴のある人物を忘れるはずがない。

ならなぜこの少女はこんなにも親しげに話しかけてくる。

額の汗を楽しそうに拭いてくる。

答えの見当たらない問題に魔理沙は感覚的に長い時間頭を悩ませた。

「はい、終わり」

少女が汗を拭き終わり、魔理沙に微笑みかける。

その一切の殺気を感じない笑みに魔理沙は背筋を凍らせた。

415: 2014/09/23(火) 23:23:40 ID:xa2qOy/2
魔理沙「意味が分からない。なんなんだよお前は、なにがしたいんだよお前は、なぁ、何者なんだよお前」

魔理沙の混乱した頭によって口から矢継ぎ早に疑問が飛び出してくる。

少女はその質問に対し、すらすらと答えた。

「私の名前は冴月 麟。幻想郷を破壊しようと目下活動中。そして貴方のお友達」

魔理沙「は………ははは、なんだよそれ、私のお友達?」

麟「そう、私は貴方のお友達。だから私と一緒に来ない?」

魔理沙「なんでだよ、私はこの幻想郷を」

麟「―――――」

魔理沙「………え?」

424: 2014/09/28(日) 00:48:04 ID:jitqQtDM
~男視点~

慧音は霊夢の攻撃を避けもせず霊夢に向かって突っ込んでいく。

綺麗な服も髪も霊夢の攻撃を受け、ボロボロだ。

霊夢の様子を見るに命まで取る気はなさそうだ。逃げれば霊夢は追わない。

ただそうなった場合消えた人間の里をどうすればいいのだろう。

慧音「うぉおおおおぉおおっっ!!」

いや、この人は絶対逃げないのか。

自己犠牲。

愛しているものを守るためなら自分を度外視できる人なんだ。

その姿に少しだけ憧れた。

426: 2014/09/28(日) 00:56:40 ID:jitqQtDM
慧音「くぅ、はぁはぁ………」

霊夢「いい加減諦めてくれないかしら」

慧音「私は絶対に諦めない。諦めるわけにはいかないんだ」

霊夢「これは異変よ?」

慧音「知ってる。私が幻想郷にとって悪だってことも知ってる」

霊夢「ならさっさと人間の里を戻しなさい。黒幕ぶっ飛ばすから」

慧音「だとしても。だとしてもだ! 私は人間の味方だ。人間の守護者なのだ!!」

霊夢「あっそう。そこまで言うんじゃぶっ飛ばすしかないみたいね」

慧音「私も霊夢。お前を全力で叩き潰す!!」

霊夢「全力程度じゃ私は叩き潰………」

霊夢「ねぇ慧音。あんたは私に勝てない。だから私を見逃しなさい。今から逃げるから」

慧音「は?………何を」

霊夢「それじゃ」

427: 2014/09/28(日) 01:02:11 ID:jitqQtDM
霊夢が優勢に見えた。いや確実に優勢だったはずだ。無傷の霊夢。傷だらけの慧音。誰が見ても霊夢の優勢だ。

なのに霊夢が戦いをやめ、こっちに向かって飛んできた。

その表情はどこか重い。

霊夢「男!!」

男「! なんだ!?」

霊夢「小町が氏んだ。魔理沙が危ないわ」

男「分かった」

霊夢「だから助けに―――」

銃を取り出しこめかみに当てる。

霊夢「は!?」

チルノ「師匠!?」

引き金を引く。

重い衝撃がこめかみを通して脳を揺らす。

衝撃の後の熱い感触が

ギュルルルルルルルルルルルルルル

428: 2014/09/28(日) 01:13:15 ID:jitqQtDM
小町「ん、今日はぬえが来るのかい」

ぬえ「う!」

チルノ「師匠、今日も頑張ろうね」

気が付けば博麗神社の境内。

小町は氏んでない。

男「なぁ、小町」

小町「ん、なんだい?」

男「今日は止めないか? 萃香もいないし、昨日の侵入者の件もある。不安な要素が多いうえに戦力が万全じゃない」

小町「はい?」

ぬえ「ううっ!」

小町が怪訝な顔をし、ぬえが不満げな顔で軽く俺を叩く。魔理沙も霊夢もチルノもいきなりそう言い出した俺を驚いた顔で見る。

霊夢「休みたければあんただけ休んでればいいわよ」

魔理沙「言いたいことは分かるが私と小町とぬえが居れば十分だと思うぜ。侵入者だって萃香がいるんだから」

違う、本当はそんな事を心配してるわけじゃないんだ。

429: 2014/09/28(日) 01:19:24 ID:jitqQtDM
だけどここで小町が氏ぬからと言っても意味がない。俺が怒られるだけで終わる。

萃香がいれば。萃香ならすぐに話を分かってくれるのに。

小町「とりあえずゲートを開くよ?」

男「駄目だ!!」

このままゲートを開かれれば俺は小町たちを止める手段が一切無くなる。

そうすればまた同じことの繰り返し。

後は小町が氏ぬのを待ってまた時間を巻き戻す。

貴重な弾を消費。だけどそれでも絶対助けれるわけではない。

430: 2014/09/28(日) 01:23:45 ID:jitqQtDM
―――小町を見捨てる

いや、駄目だ。貴重な戦力だ。

そして何よりも氏んで欲しくない。

小町「男は休んでなよ。疲れがたまって、きゃんっ」

男「駄目だ、やめろ!!」

小町に半ば体当たりするような恰好で抱き付いて止める。

霊夢「は!? あんたいきなりなにしてんの!?」

魔理沙「おい兄貴!!」

男「お願いだ、やめろ。やめてくれお願いだ」

チルノ「師匠。でもあたいは行かないといけないんだ」

知ってる。チルノにどんな理由があって戦っているのかも。

魔理沙「分かった。ぬえがいなくても私たちだけで頑張るから」

違う。違うんだそうじゃない。

いくら俺がそう口に出しても子供の我儘程度にしかとらえられない。

477: 2014/10/12(日) 16:56:38 ID:mKsmoa5o
小町「じゃあ行くよ。男は休んでな」

誰も俺の言葉を聞かない。小町は俺を軽く引っぺがし、軽く地面に放り投げた。

駄目だ、やめろ。

その言葉よりも早く鎌は振り下ろされ、地面に線が引かれる。小町の能力により向こうとつながってしまった。

魔理沙の方に行けば俺は小町を助けることが出来るだろうか。

男「ま、待ってくれ。俺が魔理沙達の方へついていく」

小町「でも、紫からそれを止められているんだよねぇ」

小町が困った顔をして頬をかく。

男「お願いだから、俺を魔理沙の方へ行かせてくれ」

霊夢「駄目よ。あんたのその提案のせいで万が一チルノが危ない目にあったらどうするのよ」

駄目だ。やっぱりぬえを心配しているせいとしか思われていない。

魔理沙「じゃあ頑張ってくるぜ」

ぬえ「う!」

ぬえと魔理沙が俺の頭を軽く撫で、小町の引いた線へと向かう。

慌てて掴もうと伸ばした手は何もつかめず、魔理沙達は向こうへと消えてしまった。

478: 2014/10/12(日) 17:05:36 ID:mKsmoa5o
男「待て魔理沙っ!」

線の向こう側へと駆け出す。

しかし小町に襟首を捕まれ再び放り投げられた。

小町「どうせ通っても男は向こうに行けないんだから諦めな」

チルノ「師匠は休んでて。あたいがいれば十人並みだから!」

チルノが消える。

霊夢「頭冷やしてなさい。バカ」

霊夢が消える。

小町「四季様をよろしく頼むよ」

小町が消える。

誰も止めることが出来なかった。

運命は変わらない。

小町は氏ぬ。

俺の嗚咽に混じって誰かがあざ笑っているような気がした。

514: 2014/10/13(月) 00:28:47 ID:.aYPsnUw
ウィル「どうしたのだ?」

どれだけ泣いていただろうか。自分の無力を何度呪っただろうか。

時間を戻すことは可能。されど小町を見捨てる自分にどれだけ怒りを感じただろうか。

絶望と怒りと嘆き。自分の心が壊れるんじゃないだろうかと思うほどの負の感情。

そして壊れそうになる自分の心の弱さにすら怒りを覚える。

流れる涙も枯れ、喉が裂け慟哭すらあげることが出来なくなったころ、気がつけばウィルが俺の肩に小さな手を乗せていた

516: 2014/10/13(月) 01:01:49 ID:.aYPsnUw
ウィル「痛いのか?」

違う、そう答えたかったが喉が裂けたため声を出せない。

だから首を横に振った。

ウィル「辛いのか?」

首を縦に振る。

ウィル「それはウィルに解決できることなのか?」

首を………

ウィル「ウィルを巻き込めないのか」

そう。ウィルを危険な目にあわせることは出来ない。

誰しも氏んだら生き返ることは出来ない。

そんな当たり事。

517: 2014/10/13(月) 01:13:32 ID:.aYPsnUw
ウィル「相談も駄目か?」

首を縦に振る。

ウィル「………ウィルは、無力なのか?」

首を横に振った。

ウィル「なら、なら頼って欲しい。救えない、助けられない。ウィルはもうたくさんだ。いやだ」

ウィルは家族を失った。

だからこその自己犠牲なのだろうか。

助けられなかった家族の代わりに誰かを助ける。

ウィル「駄目、か?」

俺は首を縦に振った。

下種な勘繰りかもしれない。

ウィルの純粋な気持ちを踏みにじる行為かもしれない。

だけど氏ぬよりはよっぽどましだ。

英雄を目指したかった。

霊夢のようになりたかった。

518: 2014/10/13(月) 01:19:08 ID:.aYPsnUw
ウィル「………もしウィルの力が必要になったら」

ウィルの言葉をさえぎるように首を横に振る。

ウィル「そう、か」

ウィルが落胆する。

ウィル「ごめんなさい。役に立てなくて」

ウィルが俺に背を向け神社に戻っていく。

ウィルの言葉は少し震えていた。

519: 2014/10/13(月) 01:32:08 ID:.aYPsnUw
ウィルの姿が完全に消えてから数分後。

更なる自分への嫌悪感を抱きながら神社の中に入る。

萃香………萃香ならなんとかしてくれるかもしれないと信じながら四季さんの部屋へ向かう。

ぎぃぎぃとなる廊下を腕をだらんとたらしながら歩いているといつの間にか咲夜が目の前にいた。

咲夜「一応礼を言っておくわ」

礼?

言われるような事はしていない。

ただ踏みにじって、俺が汚れただけ。

咲夜になんのリアクションも返さず横を通りぬける。

咲夜「………」

咲夜も何のリアクションも返さなかった。

それでいい。

俺なんかこれでいい。

520: 2014/10/13(月) 01:40:47 ID:.aYPsnUw
がらり。

少し引っかかりながら四季さんがいる部屋の襖を開ける。

四季「どうしま………どうしたんですか?」

萃香「なんだか穏やかじゃない顔してるけど」

後ろ手で襖を閉め、ゆらゆらと二人に近づく。

四季「何かあったようですね。座ってください」

四季さんが手で示した座布団へと座る。

萃香「なんでいるんだい? 霊夢たちと一緒に」

男「にど、げほっげほっめ」

血交じりの咳をしつつかすれた声で言い終える。

四季さんは大きく目を見開き、萃香は苦虫を噛み潰したような表情になった。

萃香「誰が、誰が逝った」

男「こ、まち」

四季「小町が!?」

四季さんがぐいっと上半身を俺に寄せる。

521: 2014/10/13(月) 01:51:58 ID:.aYPsnUw
萃香「今から間に合うかね」

映姫「どうでしょうか。場所も分からない今できる事は」

萃香「いや、見捨てる事はできないね」

映姫「それは私だってそう思います。今すぐ貴方に頼んで小町を助けに行ってもらいたいです。しかし、小町を倒す事ができる相手、貴方でも」

萃香「鬼を舐めるんじゃないよ。負けるはずがない」

映姫「それでも最善策をとるべきです。もっと考えて」

萃香「時間は過ぎていく。急ぐべきだ」

二人の会話がどこか遠く聞こえる。

助ける

助けられない

またやり直す

やりなおす

やりなおす

やりなおす

522: 2014/10/13(月) 01:56:59 ID:.aYPsnUw
なんでこんな無力な俺がそんな役をもらったのだろうか。

ほら、どんどん小町の氏が近づいてくる。

なのに俺はどうする事もできない。

小町を助けるには萃香を向かわせればいい。

だけど萃香も氏んでしまうのではという不安が言葉を阻止する。

小町を頃してまた戻ればいいじゃないかと誰かが言う。

その通りだ。

最終的に救えればいいんだ。

英雄じゃなくてもいい。

俺なんか汚れればいい。

それがいい。

523: 2014/10/13(月) 02:02:32 ID:.aYPsnUw
何かが頭の中ではじけた気がした。

それが倫理観とか道徳とかそういったものかもしれない。

男「こまちのばしょ、わかります」

なんとか出せるようになった声でそう言う。

萃香「どっちだい」

適当に指を指す。

それは小町がいない方向。

萃香「分かったいってくる」

萃香はそういってすぐに霧になって消えた。部屋の中から消えた萃香を見送ると俺はゆっくりと立ち上がった。

映姫「これで大丈夫なのでしょうか。もしかして」

男「だいじょうぶ、です」

大丈夫、大丈夫、大丈夫。

大丈夫なんだ。絶対。きっと。

男「だいじょうぶ、ですよぉ」

524: 2014/10/13(月) 02:07:05 ID:.aYPsnUw
少し安堵した表情の四季さんに見送られ外に出る。

自分の部屋に行こう。

そう思い廊下をすり足で歩く。

今の俺は傍から見ればまるでゾンビだなとどうでもいいことを考える。

男「………あぁ」

小町は氏ぬんだなぁ。

俺のせいで氏ぬんだな。

男「ふはっ。ふへは」

変な笑いが出た。

運よく誰も近くにいなかった事おかげで誰からも心配もされずとめられる事もない。

後は部屋で待つだけだ。

あぁ、小町はどんな風に氏ぬんだろうなぁ。

痛いのかな。

痛いだろうな。

525: 2014/10/13(月) 02:09:28 ID:.aYPsnUw
自分の部屋に戻る。

ぬえと魔理沙の香りがした。

布団に座る。

ホルスターから拳銃を取り出しこめかみに当てる。

カチリ

弾は出ない。

カチリ

弾は出ない。

カチリ

弾は出ない。

カチリ

弾は出ない。

カチリ

弾は出ない

526: 2014/10/13(月) 02:12:49 ID:.aYPsnUw
カチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリ
カチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリ
カチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリ
カチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリ
カチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリ
カチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリ
カチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリ
カチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリ
カチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリ
カチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリ
カチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリ
カチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリ
カチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリ
カチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリ
カチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリ
カチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリ
カチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリ
カチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリ
カチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリ
カチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリ
カチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリ
カチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリ
カチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリ
カチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリ
カチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリ
カチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリ
カチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリ
カチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリ
カチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリカチリバァン

527: 2014/10/13(月) 02:18:45 ID:.aYPsnUw
小町「ん、今日はぬえが来るのかい」

時間が戻った。

小町は生きている。

男「なぁ、ちょっと待っててくれないか」

小町「どうしたんだい?」

男「ちょっと用事。おいてかないでくれよー」

冗談じみたしゃべり方で釘を刺しておく。

たぶんこれでおいていかれるような事はないだろう。

ぬえ「うーっ」

男「ごめんな。四季さんが小町に伝言を伝えておきたいって言ってたこと忘れてて」

小町「あたいに? なんだろうね」

霊夢「なんかしたの?」

小町「何もしてない、と思うんだけどねぇ」

小走りで四季さんの部屋へ向かう。

528: 2014/10/13(月) 02:26:04 ID:.aYPsnUw
四季さんの部屋の襖を少し乱暴気味に開ける。

四季「なっ」

四季さんが驚いた顔でこっちを見ていた。

少し力をこめすぎたかと反省する。

男「しきさ―――「誰ですか!? 貴方!?」

萃香「男、じゃないね」

男「は?」

いきなり飛び掛ってきた萃香に組み伏せられる。

勢い良く畳に顔を打ち付けたせいで一瞬視界に光が舞った気がした。

男「な、なにするんですか。俺は」

萃香「男はそんな顔してないよ。お前みたいな顔はしてないっ」

映姫「………貴方が昨日の侵入者ですね」

萃香の力で抑え込まれたせいで抵抗することすら出来ない。

529: 2014/10/13(月) 02:29:36 ID:.aYPsnUw
男「違いますよ、誤解です」

萃香「嘘をつくんじゃない」

メキリッ

首にかかってはいけないほどに力が込められる。

折られる。

そう感じたが、それ以上は力を込められることはなかった。

だけどあと少し、ほんの少し力を込められれば俺は氏ぬ。

なんで、何がいけないんだ。

530: 2014/10/13(月) 02:32:58 ID:.aYPsnUw
萃香「こっちの質問にだけは答えさせてやる。それ以外に言葉を発したり、妙な動きしたらこのまま頃す。分かったね」

分からない。何がいけない。何が間違っている。

俺は俺なのに。

俺が俺だと認められない。

映姫「貴方が昨日の侵入者ですね」

男「ちが」

ペキッ

男「あがうっ!」

折られた。

首ではない。

萃香は空いた手で俺の手首をへし折った。

熱い。

折られた腕がものすごく熱い。

萃香「警告はしたよ」

531: 2014/10/13(月) 02:39:03 ID:.aYPsnUw
言ってない。

俺は嘘なんで言ってないのに。

俺は俺。

俺は俺、なのか?

俺は俺じゃないのか?

532: 2014/10/13(月) 02:44:11 ID:.aYPsnUw
男「俺は、男、あぎぃっ。です、か? ぐけっ」

左手の指の骨が握りつぶされ粉になる。左手の肘が逆に曲げられる。

萃香「お前は男じゃないよ」

映姫「男さんは貴方のように醜い顔はしてません」

あぁ、違ったのか。

俺は俺じゃなかったのか。

なら俺は誰。

俺はいったいなにものなんだ。

男「ふ、ふへへへあ、あははははっ」

萃香「っ」

萃香が首にかけた手に力を入れようとしたのが分かった。

男「何が三週目だ!! 何が時を戻せるだ!! くそがっ!!」

533: 2014/10/13(月) 02:48:08 ID:.aYPsnUw
映姫「萃香っやめなさい!!」

萃香「っあぁ」

首にかかっていた力が抜ける。

映姫「本当に、貴方は男、なのですか?」

恐る恐るそう聞かれる。

男「知らないよ。否定したろ今、俺は俺なのかなんて誰が証明できるんだよ、なぁ教えてくれよ、俺は誰なんだよ。男なのか? 男でいいのか?」

白黒つけてくれよ。

そんな恐る恐るじゃなくてさぁ。

俺が俺だって教えてくれよ。

なぁ

534: 2014/10/13(月) 02:53:34 ID:.aYPsnUw
萃香「何があった。何が起きた。二週目って事は二回失敗したのかい?」

男「二週目って何だ。本当に時間は巻き戻ってるのか? 小町は二回も氏んだのか? 俺は小町を頃したのか?」

映姫「小町は、氏んだのですか?」

男「氏んだ、夢じゃなければ、な」

頃した。

夢じゃなければ。

男「なぁ、四季さん。俺は男、なのか? 白黒つけてくれよ。なぁ!!」

さっきからぐるぐるぐるぐるしててもうわけがわからないんだよ。

男「助けてよ、四季さん」

535: 2014/10/13(月) 02:54:49 ID:.aYPsnUw
映姫「っ―――貴方は、男、です」

男「本当、に?」

映姫「本当に貴方は男です」

男「そうか。よかった」

ぐるぐるしてる頭の中が少しずつ元に戻っていく。

俺は男。俺は男だ。

男「俺は、男、だ。あぐっ」

左腕を襲う痛みが激しくなる。

痛い痛い痛い痛い。

痛みが脳の神経を焼く。

そして俺の意識はブレーカーが落ちるようにぷっつりと途切れた。

536: 2014/10/13(月) 03:38:54 ID:.aYPsnUw
「ふざ…んじゃ………よ」

「ごめ…………い」

「あや………ない………」

誰かが言い争う声が聞こえた。

その声はいったい誰なんだろう。

それを考える力も

確かめるためにまぶたを開ける力も

今の俺にはなかった。

「こんな………」

だけど、誰かが俺を心配してくれている。

こんな俺を心配してくれている。

そのおかげで俺は救われた。

誰かのための俺になれる。

それが俺に生きる意味を与えてくれる。

でも悲しい事に今の俺には誰かを助ける力がない。

537: 2014/10/13(月) 03:42:17 ID:.aYPsnUw
まぶたすら開けれない。

指も動かせない。

まるで糸の切れた操り人形のようだ。

「う!」

あぁ、大切な声が聞こえた。

大切な人の声だ。

左手にぬくもりを感じた。

神経を焼く熱じゃない。

包み込んでくれる暖かさ。

538: 2014/10/13(月) 03:45:31 ID:.aYPsnUw
助けてくれる。

暖かさが俺の体に糸をくれる。

右手

左手

右足

左足

無数の糸が俺に繋がる。

これで大丈夫。

俺は動ける。

これでもう大丈夫。

539: 2014/10/13(月) 03:50:05 ID:.aYPsnUw
男「う………うぅ」

目を開ける。

喉がからからだ。

べたりと張り付いた喉が声を阻害する。

水が欲しい。

魔理沙「! 兄貴大丈夫か!?」

魔理沙の声が聞こえた。

ぐるりと眼球を動かして視界を向ける。

男「まり………さ」

魔理沙「大丈夫か? 痛いところはないか? 欲しいものはないか?」

男「水、水が、欲しい」

喉がもうカラカラなんだ。

魔理沙は大きく頷くと慌しく部屋から出て行った。

魔理沙がいなくなったので少し寂しくなる。

誰かいないのだろうか。

540: 2014/10/13(月) 03:56:27 ID:.aYPsnUw
ゆっくりと上体を起こす。

そういえばこれが何度目の気絶だろうか。

普通に生きていれば滅多に起きるはずのない気絶を何度も受けているのが少しおかしくて笑ってしまう。

男「げほっ」

乾いた喉が笑いを咳に変えた。数回咳き込み大きく深呼吸をする。

霊夢「怪我人は寝てなさい」

今度は霊夢の声が聞こえた。

首を左に回すと霊夢が呆れた顔で俺を見ていた。

そういえば霊夢は良く俺を呆れた顔で見ている。

申し訳ない。

霊夢「今ぐらいはゆっくりしなさい」

ゆっくり、なんて出来ない。

男「こまち、は?」

霊夢「小町なら生きてるわよ。もう時を戻さなくても大丈夫」

男「………え」

541: 2014/10/13(月) 12:23:52 ID:.aYPsnUw
男「なんで知って、るんだ?」

霊夢「全部聞いたわよ。あれだけあんた達がおかしくなってれば何かあったなんてすぐ分かるでしょ。映姫と萃香を締め上げて吐かせたわ」

男「お………おぉ」

戸惑っていると霊夢が珍しく優しげな表情を浮かべて俺の頭に手をのせた。

霊夢「お疲れ様」

男「………あぁ………ありがとう」

霊夢「あんたバカだからずっと一人で悩んでたんでしょ。誰が氏んだとか誰が救えなかったとか」

男「………………あぁ」

霊夢「協力、なんてのはあんまり柄じゃないけど、私もあんたの力になるし、魔理沙もぬえもいる。あんたの言う事を信じてくれる」

男「………………」

霊夢「後は………前の私もあんたを辛い目に合わせた、なら。ごめんなさい」

霊夢が謝る。

霊夢って謝るんだなぁなんて事を頭の隅で考えつつ、俺は頭の上におかれた手を両手で包み笑った。

精神も弱い、肉体も弱い。豆腐メンタルといわれても仕方ない。

そんな俺に霊夢が目を向けてくれた事がうれしくて笑った。

542: 2014/10/13(月) 12:56:58 ID:.aYPsnUw
男「俺、さ」

霊夢「なに?」

男「霊夢みたいに、なりたかったんだよ」

霊夢「私みたいに?」

男「強くて、自分の意思をちゃんと持ってて、それをちゃんと突き通せて」

そんな眩し過ぎる霊夢を俺は目指していたんだ。

霊夢「そんないいもんじゃないわよ。異変が起きたら止める。それだけの意思しか持ってないのよ、博麗の巫女は」

男「………」

それでも、それだとしても羨ましいんだ。

霊夢が。

守りたい人をちゃんと守れる力が。

霊夢「とりあえず寝てなさい」

男「………うん」

霊夢「それじゃあ、私はちょっと用事あるから」

そういって出て行った霊夢の表情は少し複雑そうな表情をしていた。

543: 2014/10/13(月) 14:11:47 ID:.aYPsnUw
魔理沙「持って来たぜ」

魔理沙の持ってきた水を飲んで一息つく。

男「そういえば。皆どうなったんだ?」

霊夢が小町は大丈夫だといっていたが、何があったのかまでは詳しく聞いていない。

魔理沙「あー。霊夢が映姫と萃香を問い詰めて全部喋らせた後、一応今日は小町は待機になった。代わりに萃香とぬえとチルノが行ったけど」

男「萃香とぬえとチルノが? 無事なのか?」

魔理沙「もうすぐ帰ってくるだろ」

男「ならよかった」

萃香がいるならたぶん大丈夫だろう。

なんとか運命は変えられたのだろうか。

男「ちょっと出歩いてくる」

魔理沙「怪我してるんだから安静にしとけよ」

男「いや、大丈夫だから」

もう痛みはない。

そう魔理沙に言っては見たものの外を出歩くことは許されなかった。

544: 2014/10/13(月) 15:28:33 ID:.aYPsnUw
シャリシャリと魔理沙がりんごを剥く音が聞こえる。

そして時折聞こえる小さな、いてっという声。

男「りんごの赤以外をつけないでくれよ」

魔理沙「わ、分かってるって。ただあんまり刃物には慣れてないんだよ」

ただ魔理沙を眺めるだけの時間も飽きてきたっていうと本人に失礼かもしれないが、あまり部屋の中でじっとしているのは好きじゃない。

しかし逃げ出そうとするたび魔理沙に見つかって怒られているのだが。

魔理沙「~♪」

鼻歌を奏でながら上機嫌でりんごの皮と剥く我が妹。

可愛くはあるが、外出を許してくれないものだろうか。

545: 2014/10/13(月) 15:49:40 ID:.aYPsnUw
魔理沙「ほら、出来たぞ」

男「………これは」

化け物、だろうか。

ぼろぼろの皮をまとったりんごに角が生えている。

血で汚れた怪物。

なんてものをモチーフにしてるのだろうか。魔女なら当たり前なのか?

そんな風に考え込んでいると魔理沙からこれは実は兎であるという衝撃の事実を聞かされた。

男「………あぁ、うん。ありがとう」

一つに爪楊枝を刺して口に運ぶ。

しゃりっと新鮮な音。そして酸味と甘み。ついでに少し鉄の味。

………魔理沙には料理を教えたほうがいいかもしれない。

得意というわけではないが、魔理沙よりはよっぽど出来るだろう。

546: 2014/10/13(月) 15:59:36 ID:.aYPsnUw
魔理沙「………不満そうだなー」

男「不満というかなんというか………落胆?」

魔理沙「それは失礼だぜ!」

男「はっはっは」

そんな風に魔理沙をイジって遊んでいるとがらりと障子を元気良く開けて橙が入ってきた。

橙「紫しゃまから薬です!」

魔理沙「薬?」

橙「すごい効き目の薬らしいです」

魔理沙「そんな強い薬だと副作用とかあるだろ」

橙「そこらへんは大丈夫だそうです。橙は分かりませんが」

男「でももう痛みもないし」

魔理沙「それでも治ってるわけじゃないだろ」

男「そうだけど」

547: 2014/10/13(月) 16:14:11 ID:.aYPsnUw
魔理沙「しかし副作用がない強力な薬って珍しいな。興味ある」

橙「駄目ですよー」

魔理沙「分かってるって。兄貴、左手だせ」

男「自分で塗れるけど」

魔理沙「怪我人にはあまり無理させないってのが私の信条なんだ。今作った」

男「まぁ、いいけど」

左手を動かして魔理沙に向ける。すると動くなと怒られた。

仕方ないので左手を下ろし魔理沙の好きなようにさせる。

橙が魔理沙に小さな小瓶を渡す。小瓶を開けると軽く生臭い臭いがした。

良薬口に苦しというわけではないが、良い薬はやはりどこかデメリットがあるんだな。

魔理沙「塗るぞ」

魔理沙が小瓶から軟膏を少し取り、左手に優しくゆっくりと広げていく。

自分の手に移る生臭さが不快だったが我慢する。

魔理沙の手が指を一本づつ包んでいく。

ぬるりとした感触が指先に伝わり背筋がぞくりとする。いったいこの薬はなんなのだろうか。

548: 2014/10/13(月) 16:35:31 ID:.aYPsnUw
魔理沙「はい終了」

橙「では橙はこれで失礼しますねー」

橙が薬の小瓶を持って帰っていく。

まだ少し生臭い。

魔理沙「これで明日にでも治ってたりしてなー」

男「だったらものすごい薬だな」

魔理沙「河童の妙薬とかかな」

男「なんだそれ」

魔理沙「どんな傷でもたちどころに治してしまう薬。なんか前人里の爺さんが持ってた」

なんでそんな貴重なものを人間が持ってたんだろうか。幻想郷ならばありえること、なのか?

魔理沙「ま、これで後は安静だな」

男「結局安静しなけりゃいけないのか」

魔理沙「当たり前だ」

549: 2014/10/15(水) 20:11:00 ID:gRYMoWAc
男「………治った」

魔理沙「外出たいからってそんな嘘は………嘘だろ」

あの軟膏を塗って一時間ちょっと。

骨が砕けぐにゃんぐにゃんだった俺の左腕が元通りになっていた。

腕を振っても、強く握っても痛みはない。

男「ってことだから、もういいか?」

魔理沙「え、あ。うーん。治りたてが危ない、ってのは病気かぁ。いい、のか?」

男「じゃあ外出てくる」

魔理沙「あ! 待って。私も行く!!」

550: 2014/10/15(水) 21:02:25 ID:gRYMoWAc
服を新しいものに着替え外に出る。

魔理沙は俺の左腕を庇うように左側に立っていたが、骨が再び折れたり砕けたりしそうには感じない。

完全なる治癒。まるで時間を早送りにしたかのようだ。もしくは巻き戻したよう。

男「さぁてと」

外に出たかったが何かをしたかったわけでもない。

とりあえず外の肺を傷つけるほどの寒い空気をいっぱいに吸う。

男「そういえば霊夢は?」

魔理沙「霊夢は多分どっかで一人でいると思うぜ」

男「どっかって………心当たりは?」

魔理沙「えっと。あーうん。ないな」

嘘だという事が一瞬で分かった。

魔理沙の視線を追うとその先には鳥居。

幻想郷ではなく外とをつなぐ鳥居。

そこを魔理沙は見ていた。

551: 2014/10/15(水) 21:46:09 ID:gRYMoWAc
さて、別に行く必要はないんだけど。

男「そういえば向こうの方の鳥居って俺見たことないな」

魔理沙「うぇ!?」

面白いぐらいの反応を魔理沙が見せた。

魔理沙「い、いや別に面白いものはないぜ?」

男「魔理沙って嘘が下手だよな」

魔理沙「なっ!?」

男「別になんか行っちゃいけない理由があるならいいけど」

魔理沙「いっちゃいけない理由って………まぁあるけど」

男「そうか。ならいいや」

行っちゃいけない理由があるなら別に深く突っ込む必要はない。

わざわざ藪をつついて霊夢の怒りを買わなくてもいい。

亡霊男「おぉ、いたいた」

さてどこに行くかと考えていると、天井からにょっきりと亡霊男の首が生えた。

552: 2014/10/16(木) 00:41:13 ID:uZRWkFmA
魔理沙「びっくりするからやめてくれ」

亡霊男「すまんな。人間を辞めると人間を忘れてしまうもんなんだ」

そんな笑えないことを笑いながら亡霊男がふわりと地面へと降りてくる。

亡霊男「左腕、治ったか?」

男「もう完治してます」

亡霊男「それは良かった。健康で五体満足が一番だ」

男「それでどうしたんですか?」

亡霊男「明日からの方針を相談するためと謝罪のために紫と閻魔の姫様が呼んでる。あとは今日の夕飯の献立の相談。って言っても肉か魚かってところだけど」

魔理沙「魚だな」

男「俺も魚がいいです。それで二人はどこの部屋に?」

亡霊男「いつも飯食べてるところだ。それじゃ俺は魚釣ってくるかな」

そう言って亡霊男はふわふわと飛んでいった。

亡霊でも魚を釣れるのかと疑問に思ったが料理を作れるのだから魚ぐらい釣れるのだろう。

物を通り抜けるかと思えば包丁を持ったり、いったいどんな風になっているのだろうか。

なりたいわけではないが気になった。


男「なんでだよ、これ」ぬえ「あう………」【後編】

引用: 男「なんでだよ、これ」ぬえ「あう………」