133: 2013/08/28(水) 00:04:26.58 ID:SnhAI2sz0


【俺妹】あやせ「京介さん」【前編】


明日はわたしが告白をする日。

今日は沙織さんが、昨日は加奈子が告白をしているはず。
二人はどうだったんだろう。うまくいったんだろうか。

告白をするって言ってもなんて言えばいいんだろう。
なんて言えば、わたしの気持ちがちゃんと伝わるんだろうか。

眠れない。
色々なことが頭に浮かんでは、泡のように消えていく。

今まで彼と過ごした時間。
これから過ごすであろう時間。
言うべき言葉、気持ち。

わたしの眠れない夜は更けていく…



―――――――――――――――
――――――――――
俺の妹がこんなに可愛いわけがない
134: 2013/08/28(水) 00:06:41.51 ID:SnhAI2sz0

「今度はあやせか」

「…はい」

京介さんの顔がどこか固い。
わたしが告白すると気付いているんでしょうか。
加奈子か沙織さんが言ったのでしょうか。

わたしが彼を呼び出した場所は例の公園。
時刻は夜9時。

なぜ、私はこの場所にしたのでしょうか。
特別、思い出がたくさんあるというわけでもない。
もっとロマンチックな場所だってあったはず。
けれど、私は迷わずこの場所を選んだ。
そう、いつもわたしが「相談」をしていた公園に。

135: 2013/08/28(水) 00:10:05.04 ID:SnhAI2sz0

…そうか。わたしは「相談」という名のお願いをいつもここで彼にしていた。
だからかもしれない。

今回の告白も言わば「お願い」だ。

わたしの想いに応えてくれますように。
わたしの恋人になってくれますように…って。

いつもここで、わたしの無茶苦茶なお願いを叶えてくれた彼。
今回も、そうなってほしいと思って私はここを選んだのかもしれない。

京介さんを見ると、2回目のデートで私が選んだ服を着てくれていた。
特別な意味はないかもしれない。
けれど、それだけで泣きたくなるほどうれしかった。


もちろん、私も彼が選んでくれたワンピースを身に付けている。
少しでも、彼に好かれるように。
少しでも、告白が成功するように。

136: 2013/08/28(水) 00:13:07.46 ID:SnhAI2sz0

「この公園、懐かしいな」

「…ええ」

京介さんが懐かしむように公園をぐるっと見回す。

「俺はここで『妹が、大ッッ…好きだぁぁぁぁぁぁぁーっ!』って言って、近親相O上等の変O鬼畜野郎になったんだよな」


彼が軽口をたたく。

わたしが話し出すのを待っているのかもしれない。

そんな些細な彼の優しさにも嬉しくて胸が震える。

「京介さん。わたし、今年で18歳になります」

何を言おうか、結局昨日の夜には決められなかった。
けど、自然と言葉が出てきた。

137: 2013/08/28(水) 00:16:17.82 ID:SnhAI2sz0

「ああ、そうだな」

「昔の…わたしが告白したときの京介さんと同じ年になりました」

「…ああ」

「京介さんは多分…当時、こんな景色が見えていたんですね。
 今なら分かります。中3の小娘に告白されたところで困るんだろうなってことが」


「別に、困ったりしなかったぞ。嬉しかった」

「そうですか。けど、わたしは当時『お兄さん』って呼んでましたよね」

「ああ、そうだったな」

そう。わたしは彼を「お兄さん」と呼んでいた。

「桐乃のお兄さん」。

138: 2013/08/28(水) 00:24:32.46 ID:SnhAI2sz0

なんてひどい話なんだろう。

彼を「高坂京介」として見ず、「高坂桐乃の兄」として見ていた自分。
なんて愚かで幼かったことか。
できることなら当時のわたしを引っ叩いてしまいたい。

あるとき、瑠璃さんから聞かれた言葉。
「あなたと先輩はどういう関係なの?」―。

わたしはその時、何も言えなかった。

勿論恋人とも、友達とも…

挙句の果てに出てきた言葉が、セクハラの被害者と加害者なんて。
馬鹿過ぎて涙が出てきそう。

139: 2013/08/28(水) 00:25:32.98 ID:SnhAI2sz0

「京介さん、わたしは大人になれましたか?」

「ああ、とびっきりいい女に成長したよ」

「京介さん、わたし達はちゃんと友達になれたのでしょうか?」

「ああ、俺達はもう歴とした友達だぜ」

「わたしは…前に告白したときは幼かったかもしれません。
 恋心も、友達の兄に対する憧れも、年上に対する憧憬も…
 すべてがぐちゃぐちゃで区別なんてついてなかったと思います」

「…そうか」

「けれど今は違います。
 今ならはっきりと言える…」


深呼吸ひとつ…


「『高坂京介』さん。




 愛しています。
 
 わたしと付き合ってください」



―――――――――――――――
――――――――――

140: 2013/08/28(水) 00:28:37.86 ID:SnhAI2sz0

告白した日、当初の予定通り「返事は後でください」と彼に伝えてある。

今日はあれから1週間。
桐乃と瑠璃さんも告白をしてから今日で5日目。

今まで散々彼をデートに引っ張り回し、挙句の果てに怒涛の告白ラッシュ。
彼にはすごく迷惑をかけた。
だから、返事はわたし達から催促はしないと皆で約束してある。

かといってわたしが心の平穏を保っていられるかは別問題。

高校生最後の夏休みにもかかわらず、彼にも会えず、BGでも遊べず、勉強も上の空。

何らかの形で結果が早く欲しい。
そうしたらBGでまた仲良く遊ぶことだってできるし、仮に振られたとしてもこの悔しさをバネにして勉強を頑張ることができる。

141: 2013/08/28(水) 00:30:37.14 ID:SnhAI2sz0

振られたら…

勿論、想像していなかったわけではない。
一度、京介さんのハートを射止めた瑠璃さんや桐乃がいる。
沙織さんだって息を飲むほどの美女で、性格もよくて彼からの信頼を得ている。

客観的に考えるとわたしが彼と付き合える確率はかなり低いだろう。

けれど、わたしは過去に1度振られた悲しみから立ち上がることができた。
今回も仮にダメだったとしても、立ち直ることはできるだろう…どれだけ時間がかかるかは分からないが。

彼に振られるかもしれないと言う恐怖と、もしかしたら付き合えるかもしれないとの昂揚感。

背反する気持ちのせいで、わたしは落ち着かない日々を過ごしている。



―――――――――――――――
――――――――――

142: 2013/08/28(水) 00:33:16.13 ID:SnhAI2sz0

次の日、京介さんから1通のメールが届いた。

『あの公園で、夜10時から会えないか?』

その時間には特に予定も入っていない。
わたしは『大丈夫です』と返信する。

それに対する彼の返事は
『じゃあ10時にな』―。

これで結果が決まる。

もう彼の中で結果は出ているんだ。
何をしても変わらないだろう。
だからわたしは極力気にせずに、普段通りの生活を送ることで気を紛らわせた。


―――――――――――――――
――――――――――

143: 2013/08/28(水) 00:35:29.14 ID:SnhAI2sz0

「すまん、待たせちまったか?」

京介さんが公園に姿を現す。

今日はわたしが選んだ服を着ていない。
わたしは着ているのに…
これは…そういうことなんでしょうか。

たったそれだけのことで心が絶望に染まってしまう。

「いいえ、わたしも今来たところですし。
 待ち合わせ時間にも間に合ってますよ」

「そっか。

 けど返事のほうは大分待たせちまったな。
 遅くなってすまなかった」

「そんな…それだけ京介さんが真剣に考えたということですから。
 わたしは気にしていません」

144: 2013/08/28(水) 00:36:00.45 ID:SnhAI2sz0

「そう言ってもらえると助かる。
 それで、返事なんだけど」

「は、はい」







「あやせ。俺と付き合ってくれ」

145: 2013/08/28(水) 00:41:09.49 ID:SnhAI2sz0

「はい…… え?」



今、付き合ってくれと?


「だから。
 俺はお前のことが好きだ。
 
 だから付き合ってほしい」


ツキアッテホシイ

月あってほしい

憑き合ってほしい


音は認識で来てるのに言葉が理解できていない。

146: 2013/08/28(水) 00:46:29.65 ID:SnhAI2sz0

付き合ってほしい。
彼は本当にそう言ったのか?

そう理解した瞬間、胸のあたりに暖かいものが溢れだし、きゅっと締め付けられた。

幸福感でいっぱいになる。

けれど確認せずにはいられない。

「わたしで…いいんですか」

「いいとかじゃねえよ。お前のことが好きなんだ。
 誰よりも」

「それは…他の人たちより、ということですか?」

「違う。そうじゃねえよ。俺が好きなのは、あやせ。

 お前だけだ」

147: 2013/08/28(水) 00:47:29.77 ID:SnhAI2sz0

は、恥ずかしい台詞をよくこんなにポンポン言えますね…

嬉しいですけど。

「けど…」

「なんだ、付き合う気はなかったのか?」

「違いますよ!けど、けれどなんか信じられなくて」

「まあ、そうかもな」


彼は頭を掻いて

「前に他の奴らと付き合ってたからな」

と苦笑い。

「ええ…よかったんですか?
 瑠璃さんや…桐乃は?」

148: 2013/08/28(水) 00:48:09.81 ID:SnhAI2sz0

「ああ。
 瑠璃はいい奴だよ。確かに俺はあいつのことが好きだ。
 けどそれは人として好きってことで、女として好きなわけじゃねえ。
 
 桐乃だってそうだ。
 兄貴の目から見てもあいつはいい女だけどよ。
 けどあいつは妹だ」

『妹だ』。
そう、彼は桐乃のことを妹と認識した。

これは当然と言えば当然だ。
彼も桐乃も同じ両親から生まれてきたのだから、なにをしようと兄妹であることには変わりない。

けど、昔はそうじゃなかった。

149: 2013/08/28(水) 00:48:42.13 ID:SnhAI2sz0

すれ違い、一切会話をしなくなった二人―
 この時点では、兄妹は「他人」になっていた。


桐乃の人生相談を通じて会話をするようになった二人―
 そのときには、兄妹は初めて会った「男と女」だった。


そして、色々な体験を通じて心を通わせ始めた二人―
 もうその時には、兄妹は「愛し合う二人」になってしまっていた。


けれど、あれから2年が経った。
その間に、彼は妹を「愛する女性」から、「愛しい妹」へと認識を改めたのかもしれない…

150: 2013/08/28(水) 00:49:35.17 ID:SnhAI2sz0

「そうですか。 けど、なぜわたしなんですか?
 よろしかったらお聞きしたいのですが」

「なんでって…理由なんて特にねえよ。
 気が付いてたら好きになってた。
 
 確かに、お前を初めて見たとき綺麗な子だって思ったし、
 桐乃のために一生懸命なお前を見て真面目で友達思いの優しい奴だとは思ったよ。

 それに、BGで一緒になってからはお前のいろんな面をみることができたし。

 けどそんなもんは後付けの理由だ。

 気が付いてたら好きになってた。これが俺の答えだ」
 


「そ、そうですか」

151: 2013/08/28(水) 00:50:01.28 ID:SnhAI2sz0

ならば、もう気にすることは何一つない。

「京介さん。




 大好きです。

 私を彼女にしてください」





「ああ。
 これからよろしくな」



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――――――――――

152: 2013/08/28(水) 00:54:30.52 ID:SnhAI2sz0

「ふわああああぁぁぁぁぁぁぁ~~!!!」


抱き枕をギュッと抱きしめて、ベッドをごろごろ。

やばい!幸せすぎて爆発しそうです!

わたしが京介さんの彼女!!

わたし達、付き合ってるんだ!!!!

その事実を認識するだけで、顔が赤くなり、胸が一杯になって、抑えられない衝動が湧きあがる。

その結果、わたしはごろごろ転がるという何の意味もない行動をしている。

何かしてないと内側から爆発しそう。

「そうだ!!!」

ごろごろ転がるくらいなら、もっと生産的なことをしよう。

153: 2013/08/28(水) 00:57:18.25 ID:SnhAI2sz0

『今、メール大丈夫ですか?』
送信っと。

すると程なくして

『ああ、大丈夫だ』キリッ

いや、別に彼は決め顔をしているわけじゃないでしょう。
けど、わたしの頭の中の彼はキリッと決め顔で、優しくわたしの頭を撫でて…

ってストップストップ!

やばい。妄想が止まらない!!

自重しなければ。

『デートのお誘いなんですが、京介さんはいつ都合がよろしいでしょうか』

生産的な行動とは、デートのお誘い。
以前もデートをしたが、あのときは単なる友達としてのデートだった。

けれど今は恋人同士!!
恋人といえばデート!

154: 2013/08/28(水) 00:57:58.60 ID:SnhAI2sz0

そう思ってお誘いをしたのですが

『俺は別にいつでもいいけどよ

 あやせは受験生だろ?
 大丈夫なのか?』


……一気に現実に引き戻された。

そうだ。私は受験生。
しかも今は夏休みで、この期間の頑張りで結果が決まると言っても過言じゃないくらい大切な時期。

けれどそんなの関係ない!!

今まで勉強を頑張って来たんだし、ちょっとくらいデートしてても大丈夫なくらいには成績を維持している。

それに、デートを我慢して勉強しろって言われても、全然集中できません。

155: 2013/08/28(水) 01:01:39.53 ID:SnhAI2sz0

だからわたしは

『勉強の方なら大丈夫です。だからデートしましょう』

と返信した。

すると、彼からは

『わかった。じゃあデートしようぜ。俺はいつでもいいぜ』

との色よい返事が。


善は急げです。

『明日でも大丈夫ですか?』

と聞くと、

『大丈夫だ。けど、明日なにしようか』
とのこと。

ん~初めての彼とのデート…
やりたいことはいっぱいあるんだけれど、まずは……そうですね。



―――――――――――――――
――――――――――

156: 2013/08/28(水) 01:04:55.66 ID:SnhAI2sz0

「うお!?すげえ、女の水着ってこうなってんのか…
 そりゃ胸が大きく見えるわ…
 ここまでくりゃ詐欺だろ、これ」


「ちょっと京介さん。それは詐欺ではなくて努力です。
 それに、水着のパッドばかり気にしてないでわたしに似合う水着を選んでくださいよ」


「あ、ああ。そうだったな。 すまん」


そう、今はこの夏に着る水着を買いに来ています。
もちろん水着は持っているのですが、せっかく彼氏が出来たんだから彼氏好みの水着が欲しいので。

「それで、わたしにはどんな水着を選んでくれるんですか?」

157: 2013/08/28(水) 01:08:51.56 ID:SnhAI2sz0

「……ワンピースの。
 これとかどうだ?」


「ワンピース、ですか?
 それも確かにかわいいですけど、ワンピースって子供っぽくないですか?」

「……他の奴にあやせの肌は見せん」

ふ、ふわああああぁぁぁぁぁぁぁ~~!!!

まったく!まったくもう!!

この人はわたしを悶え氏にさせるつもりなんでしょうか!!

…これって、嫉妬とか独占欲ってことですよね?
それってすごいうれしい!

158: 2013/08/28(水) 01:10:39.25 ID:SnhAI2sz0

「ですが、高校生がワンピースというのはちょっと」

「嫌か?」

「はい…
 他の人に見せたくないなら上からパーカーなりを着ればいいじゃないですか」

「そっか。じゃあビキニタイプで探せばいいか?」

「はい。よろしくお願いします」

「おう」

そう言って彼はビキニタイプが置いてある方へ。
商品を手にとっては戻し、手に取っては戻し…

「お?これなんて上もセットでいいんじゃないか?」

そう言って彼が差し出したのは

159: 2013/08/28(水) 01:14:41.95 ID:SnhAI2sz0

な、なんですかこれは!?

「エOチ!!変O!!」

「な!?ビキニより露出は少ないだろ!」

「そうですけど!逆にエOチくなってるじゃないですか!!」

「…確かに。……駄目か?」

「ダメです!!」

そんな上目遣いで言ってもダメなもんはダメです!!
こんな恥ずかしいの外では着れません。




でもどうしてもと言うのなら、二人きりの時に…

いやいや!!ダメダメ!
自分を安売りしちゃダメ!

それに甘やかすと、京介さんはすぐにエOチなことばっかりしそうです。

160: 2013/08/28(水) 01:20:21.97 ID:SnhAI2sz0

「そっか…じゃあこれは?」


今度はさっきみたいなエOチな水着じゃない。

白色のホルタ―ネックの、フリルがあしらわれた可愛い水着だ。
下はタイサイド。

「あ、これは可愛いですね。じゃあちょっと試着してみます」

「ああ」

彼を残して試着室へ。

服を脱いで下着姿に。

うぅ…外で裸になるのはやっぱり恥ずかしい。

しかも扉一枚の向こう側には京介さんもいる…

161: 2013/08/28(水) 01:21:16.86 ID:SnhAI2sz0

ダメダメ!
変に意識するから恥ずかしいんだ。
無心で…無心で…

下着をさっと脱いで、彼が選んでくれた水着を身に付ける。

ホルタ―ネックって外れそうでこわいですね…
下もヒモを締めて…
よし、OK!

扉を少し開けて彼を呼ぶ。
「京介さ~ん。着替え終わりましたから見てください」

「ああ…

 ぶっ!!!」

京介さんが鼻の下を押さえる。
もしかして鼻血でも出たんでしょうか。

162: 2013/08/28(水) 01:22:27.30 ID:SnhAI2sz0

「すまん、あやせ。
 やっぱりパレオは最低限、巻いてくれ」

そう言って彼はパレオを見に行き、1枚のパレオをわたしに手渡す。


青のグラデーションが爽やかなパレオだ。
わたしはそれをさっと巻いて彼に見せる。

「これでいいですか?」

「ああ、ばっちしだ」

彼が選んだのは白色の水着に、青色のパレオ。

163: 2013/08/28(水) 01:23:02.95 ID:SnhAI2sz0

以前、わたしが彼に選んだ服も白と青。

まるで、彼と通じ合っているかのような気がして嬉しかった。

わたしは彼が選んでくれた水着を購入し、明日は一緒に海へ行く約束をした。

京介さんと二人きりでの海水浴!!
すっごく楽しみです!



―――――――――――――――
――――――――――

164: 2013/08/28(水) 01:24:12.78 ID:SnhAI2sz0

翌朝、家の前で待っていると彼のセ○ナが走ってきた。

「おはよう、あやせ。今日は海水浴日和だな」

「はい!晴れてくれてよかったです」

空は快晴。気温も真夏日に迫る勢い。
絶好の海水浴日和です。

「じゃあ行くか」

「はい、今日はどこの海水浴場に?」

「九十九里浜の片貝にしようと思ってたんだけど」

「分かりました。京介さんにお任せしますね」

「ああ、じゃあ乗ってくれ」

「はーい」

助手席のドアを開けて、彼の隣に乗り込む。

165: 2013/08/28(水) 01:25:16.21 ID:SnhAI2sz0

彼女として助手席に座るというだけでウキウキしてしまう。

約1時間の車の旅、彼と一緒なら退屈なんてしないですね。




彼の運転は性格の表れでしょうか、とても安全運転で乗っていて怖かったりしません。
割り込みをしてくる車にも道を譲り、車線変更もゆったりとする。

そんなこんなでスイスイと車は進み、目的地である片貝海水浴場に。

「混んでますね~」

「まあ夏休みで最近暑かったからな」

「じゃあとりあえず行きましょうか。今日は何を持ってきたんですか?」

「パラソルとシートだけ。クーラーボックスはいらねえだろ?」

「そうですね。飲み物はあっちで買いましょうか」

彼がパラソルを持ったので、わたしは自分の荷物とシートを持って砂浜へと降りていく。

166: 2013/08/28(水) 01:26:00.52 ID:SnhAI2sz0

「あそこ、空いてるな」

「ええ、ではあそこにしましょうか」

空いているところがあったので、そこにパラソルを立ててシートを敷く。

「じゃあ、あやせ。更衣室に行って着替えて来いよ」

「え?京介さんは?」

「俺は男だし…もうここで着替えるわ」

「そうですか。ではちょっと行ってきますね」

「ああ」

海の家でやっている更衣室を借りて、手早く着替える。
ヒモが外れたりしないように上も下もしっかり括っておかなきゃ。
パレオも巻いてっと。

水着を着て、手鏡で変なところがないか再度チェックし、パーカーを羽織って彼の元に戻る。

167: 2013/08/28(水) 01:26:52.99 ID:SnhAI2sz0

「お待たせしました」

「おう。自分で選んでなんだけど、その水着似合ってんな。
 やっぱりあやせは白が似合うよ」

「そ、そうですか。ありがとうございます」

「んじゃ服とかいらねえ荷物は車にしまうか」

「車のキーはどうするんですか?」

「防水ケースに入れて持っとくよ」

そういって彼は首から下げる防水のキーケースを取り出す。

色々持ってるんですね。
多分、わたし達がBGで色々連れ回してるからなんでしょうけど。

そういうわけで、コインケースとキーケースだけは残して、後の服や財布は車の中に。

168: 2013/08/28(水) 01:27:47.57 ID:SnhAI2sz0

荷物を車に詰め込んでいる最中に彼がこんなことを聞いてきた。

「さって、早速泳ぐわけだけど。あやせって泳げたよな?」

「泳げますよ!バカにしないでください」

「いや、馬鹿にはしてねえけど。浮き輪とか必要じゃないか」

「あるんですか?」

「ああ、去年使ったのがあったから乗っけてあるぞ」


本当になんでもありますね。

浮き輪かぁ。

「溺れたりしたら大変なので、一応出しておきましょうか」

「おう」


そういうわけで、浮き輪と空気ポンプを車から出す。

169: 2013/08/28(水) 01:28:54.03 ID:SnhAI2sz0

「んじゃもう1回パラソルのとこに戻って、これ膨らませるか」

「はい」


再度パラソルの下へ。

パーカーはパラソルの下に置いておきましょう。
車の中に置いておきたかったけど、京介さんからのお願いですから泳いでいない間は着ていないと。

彼が一生懸命に浮き輪を膨らませて、それをわたしに被せる。

「よっと、んじゃ準備も万端だし。さっそく行くか」

「はい!」



そこで、彼がさりげなくわたしの左手を取る。


初めて手をつないだ!!




そんな感動を噛み締める間もなく、彼はどんどんと波打ち際まで歩いていき、足を海水に浸す。



170: 2013/08/28(水) 01:33:05.19 ID:SnhAI2sz0

「うお!冷てえぞ」

彼にならってわたしも足をつける。

「きゃっ! 本当ですね。少し冷たいです」

「なら慣れるまで、ここで遊ぶか」

「はい」

二人並んで、波打ち際に腰を下ろす。
わたしは浮き輪を装備したままだから、なんだか間抜けです。

「もう少し入ってみましょうか」

「おう、じゃあ波が顔にかからないとこまで行くか」

「はい」

腰を下ろしても肩までしか波が来ない場所まで進む。

171: 2013/08/28(水) 01:33:38.01 ID:SnhAI2sz0

身体をならすために、徐々に入っていく。

「ふ ふ ふわ~~~」

「ふふ、なんだかお風呂に入ったときみたいですね」

「冷たくて気持ちいいな」

「はい」

身体の下の砂が、波にさらわれてサラサラする感覚が気持ちいい。

「どうだ?そろそろ慣れてきたか」

「はい、もう大丈夫です」

「じゃあちょっと沖の方まで行ってみっか」

「はい。あの…」

「なんだ?」

「少し怖いので、手をつないでいてください」

「あ、ああ。わかった」

172: 2013/08/28(水) 01:34:41.17 ID:SnhAI2sz0

わたしは浮き輪をかぶっているから、後ろから京介さんが浮き輪に抱き付き足を蹴って進んでいく。

後ろから回された彼の手に、自分の手を重ねる。

「何もしてないのに進むなんて楽です~」

「その分、俺はしんどいけどな」

「がんばってください」

「おう、任せろ」

173: 2013/08/28(水) 01:35:11.84 ID:SnhAI2sz0

海へ行って泳ぐなんて、何が楽しいんだろう。

そう思う人もいるかもしれません。
暑いし、塩水で体はべちゃつくし、日焼けはするし。
しかも、泳ぐだけならプールでもいいわけで。

わざわざ出かけて泳ぐ意味なんてないかも知れません。

けど、彼と二人で来れてよかったと思う。

二人でキャッキャ言いながら、沖合目指して泳いでいく。

ただそれだけで、わたしは楽しかった。



―――――――――――――――
――――――――――

174: 2013/08/28(水) 01:40:41.26 ID:SnhAI2sz0

「疲れた…」

「くすくす、ご苦労様でした」

沖合までいって、砂浜の方まで帰ってきての一言。

「次はあやせが泳いでくれ」

「京介さんは?」

「浮き輪で浮いてる」

「ダメですよ。私が溺れちゃってもいいんですか?」

「いや、泳げるんだろう?」

「泳げますけど。
 京介さんは優しさが足りません」

「ぇぇ~?」

嘘。彼ほど優しい人は他に知らない。

175: 2013/08/28(水) 01:43:19.99 ID:SnhAI2sz0

そのとき

ぐきゅるるる~~~



「腹減ったな」

彼のお腹から盛大な音がした。

「そうですね。もうお昼ですから」

「じゃあメシにすっか。焼そばにお好み焼き、たこ焼き。
 お、ホットドックとかもあんな。あやせは何がいい?」

彼が海の家を見ながら言う。

「ここで食べるんですか?」

「おう、コンビニまで行ってもいいけど、海と言えば海の家だろ。
 あのダサマズいメシを食ってこそ、海に来たって言えるんだよ」

176: 2013/08/28(水) 01:47:15.83 ID:SnhAI2sz0

「あの…わたし、おにぎりを持ってきたんですけど…」

「よし、それを食おう」

「え?いいんですか?海の家で食べなくて」

「なんで金払ってマズイメシを食わねばならんのだ。
 マゾか、俺は」

「さっきと言ってること違いますよ」

「いいんだよ、愛しの彼女の手料理の前には高級料理だって負けんだから」

い、愛しの彼女って…恥ずかしいです。

「じゃあ飲み物だけ買って、弁当食うか」

「はい」

177: 2013/08/28(水) 01:47:56.68 ID:SnhAI2sz0

そういうわけで、海の家では飲み物だけを買って、車に置いていたお弁当を取り出す。

パラソルの下に戻ってお弁当の箱を開く。

「お握りしか作ってこなかったんですがよかったですか?」

「ああ、食べやすくて丁度いいよ」

「そうですか」

「結構種類あんな」

「はい。
 鮭に梅干し、高菜に昆布。あとは唐揚げを入れたものもありますよ」

「そっか。じゃあ梅干しから。これか?」

「はい。紫蘇を刻んで、梅干しと混ぜてあるんです」

「そっか。じゃあ頂きます。
 もぐもぐ…

 おう、うめえなこれ。
 紫蘇がいい感じだ」

「よかったです。どんどん食べてくださいね」

「おう」

178: 2013/08/28(水) 01:48:22.29 ID:SnhAI2sz0

そう言って彼はお握りを次々と食べていく。
本当にお腹が減っていたんですね。
それとも、わたしが作ったからでしょうか。そうなら嬉しいな。

わたしもお握りを一つパクり。

うん、塩加減も丁度だ。

彼と並んで、海を見ながら食べるお握り。

シチュエーションも最高のスパイスになったようです。


―――――――――――――――
――――――――――

179: 2013/08/28(水) 01:48:57.67 ID:SnhAI2sz0

食事も終わってひと泳ぎした後。

「そろそろ帰るか」

「そう、ですね」

二人だとやることが限られてくる。

スイカ割りなんてできないし、ビーチボールも二人だとやりにくい。

結局、泳ぐくらいしかやることはないわけで、水泳部でもないのに延々と泳いでも仕方ない。

だから、それなりに泳いだらもう満足だ。

「じゃああやせは着替えて来いよ。その間に片づけとくし」

「わかりました。では、お言葉に甘えさせていただきますね」

「おう」

180: 2013/08/28(水) 01:49:56.78 ID:SnhAI2sz0

彼の好意に甘えて、先に着替えさせてもらう。
とりあえず、彼も着替えを取り出すために一緒に車へと行き、その後は別れて更衣室で着替える。

着替えが終わってパラソルのあった場所へ行くと、すでに片づけが終わっていた。

「おう、もう終わったぞ」

「すいません」

「いや、いいよ別に。
 けど、シートとか荷物持ってもらっていいか?」

「はい。分かりました」

彼と分担して荷物を持って駐車場へ。
トランクに荷物を詰めて、海水浴場を後にする。

181: 2013/08/28(水) 01:50:42.59 ID:SnhAI2sz0

彼の好意に甘えて、先に着替えさせてもらう。
とりあえず、彼も着替えを取り出すために一緒に車へと行き、その後は別れて更衣室で着替える。

着替えが終わってパラソルのあった場所へ行くと、すでに片づけが終わっていた。

「おう、もう終わったぞ」

「すいません」

「いや、いいよ別に。
 けど、シートとか荷物持ってもらっていいか?」

「はい。分かりました」

彼と分担して荷物を持って駐車場へ。
トランクに荷物を詰めて、海水浴場を後にする。

182: 2013/08/28(水) 01:51:37.96 ID:SnhAI2sz0

「今日は気持ちよかったな」

「はい、暑くてちょうどよかったです。
 けど、まだ波に揺られてる気分です」

「はは、俺もだ。
 寝るときもそうかもな」

「今日はぐっすり寝られそうです」

彼とのデート第2弾も大成功。

写真もいっぱいとったし、夏の思い出が一つ増えた。

けれどまだまだ。
彼との夏休みは始まったばかりだ。

もっともっとデートして、もっともっと思い出が欲しい。

―――――――――――――――
――――――――――

183: 2013/08/28(水) 01:54:42.17 ID:SnhAI2sz0

海に行った後も、わたしは彼と時間が許す限りデートを重ねた。

そして今日も今日とて彼とデート。
今日は木更津の花火大会に行く。

浴衣を着て、髪をセットして彼が来るのを待つ。

すると、携帯に1通のメールが。

『着いたぞ』

玄関を出てみると、浴衣を着た彼が。
若草色で彼にとても似合ってる。

「よう、お待たせ。じゃあ行くか」

「はい」

「あやせは黒の浴衣か。綺麗だな」

「あ、ありがとうございます」

黒の生地に鮮やかな牡丹が描かれた浴衣。
褒めてもらってうれしい。

184: 2013/08/28(水) 01:55:25.26 ID:SnhAI2sz0

JRに乗って木更津駅へ。
駅を通過するごとにどんどんと人が乗車してきて、車両内はすぐに満員に。

「あやせ、大丈夫か」

「え、ええ。なんとか」

わたしは身長が高い方なので、下駄の分も足すとそれなりに人ごみから頭ひとつ飛び出す。
けれど、押し合い圧し合いまではどうしようもない。
四方八方から押され、せっかくきれいに結んだ帯が心配だ。

「あやせ、ちょっと」

「へ!?」

彼は手をつないでいてわたしの手をぐっと引き寄せて、自分が立っていた場所と私の体を入れ替える。

「まだこっちの方が人が少ないからな。マシか?」

「は、はい」

彼はわたしを他の人から守るようにぎゅっと体を抱きしめる。

彼の胸に頭を預けると、微かに彼の匂いがした。


―――――――――――――――
――――――――――

185: 2013/08/28(水) 01:56:04.10 ID:SnhAI2sz0

「わーー!! すごーい!!!」

夜空に何発もの花火が打ち上げられる。

早い目に会場に行って場所を取っていたから、座りながらちゃんと見ることができる。

色々な色、形の花火が打ち上げられる。

「きれいですね!!」

「ああ!」

花火が打ち上げられた音が辺りに響く。

赤、オレンジ、緑、青…

色んな花が咲いては、すぐに消えていく。

その一瞬の綺麗さ、一瞬ゆえの綺麗さや儚さに目が奪われる。

186: 2013/08/28(水) 01:57:13.67 ID:SnhAI2sz0

わたしの左手は彼の右手に収まっている。

前に海に行ってからは、デートのときには手をつないでいる。
それだけ彼とわたしの距離が近づいたということだろう。

フィナーレが近いのだろうか。

いくつもの花火が連続で打ち上げられ、空一面に花火が弾ける。

その様は圧巻で、視界の映る限り右から左までが鮮やかな閃光に埋め尽くされている。

最後には一際大きな花火が打ち上げられ、今年の花火大会は終わってしまった。



「…すごかったですね」

「ああ、連発で打ち上げられたのにはテンション上がったな」

「はい!あれはすごかったです。
 空一面がパ~って花火で埋め尽くされてて」

「綺麗だったよな」

187: 2013/08/28(水) 01:57:45.90 ID:SnhAI2sz0

「はい。また、来たいです」

「ああ、んじゃ来年も来ようぜ」

「はい」


今年もまだまだ残っているけど、来年には受験が待ち構えているけど、来年の約束を彼とすることができた。

それはすなわち、来年も一緒にいると言うこと。

未来のことなんて分からない。別れる気なんて今はなくても、何かがきっかけで別れることだってあり得る。

けど今は純粋に、彼とまた花火大会に来る約束ができたことを嬉しく思う。

これからの日々も、彼とともに歩み続けたい。



―――――――――――――――
――――――――――

188: 2013/08/28(水) 01:58:48.93 ID:SnhAI2sz0

「ねえ、野菜ばっか焼いてどうすんの?
 後半に肉ばっかとかどうすんの?
 野菜の意味わかってんの?ねえ」


桐乃がリゾートチェアに足を組んだまま京介さんに詰問する。

「うっせえな!じゃあお前が焼けよ!」

「やだ。服汚れんじゃん」

「じゃあ黙って待ってろよ!」

「待ってたら野菜ばっかになんじゃん」

そろそろ止めないと喧嘩になっちゃうかも。

「まあまあ、京介さん。
 桐乃さんもお腹が減っているようですし。
 とりあえずお肉を焼いてはいかがでしょうか」


「まあ沙織がそう言うなら」


さすが沙織さん。怒れる京介を一瞬で鎮めた。

189: 2013/08/28(水) 01:59:33.40 ID:SnhAI2sz0

今日は九十九里浜にあるキャンプ場でバーベキュー。
メンツは桐乃や沙織さんだけでなくBGの全員が集まっている。

「京介~ビール一口くれよ~」

「うっせえ口リっ子!
 酒は20歳になってからなんだよ!
 お前は大人しくカルピスでも飲んでろ」


「え~」

「そうよ加奈子。ビールなんて飲んだらお腹が膨れるでしょう。
 せっかく今日は海鮮もあるのに、食べられなくなるわよ」

「そっかぁ
 じゃあ今日は我慢する」

「ええ、いい子ね」

「子供扱いすんじゃねぇ」

190: 2013/08/28(水) 02:00:12.97 ID:SnhAI2sz0

京介さんへの怒涛の告白ラッシュ以来、
BG全員が集まって出かけるのは今日が初めて。


皆がギクシャクしないか心配だったけど、それは杞憂に終わった。

女性陣同士も以前のままだし、京介さんも誰とでも普通に接してる。

これも、皆がやれるだけのことをやって結果を出したからだろう。
だから、今わたしが京介さんもBGも失わずに済んだのは、彼と皆がデートをすると決めた桐乃のおかげだ。

彼女には感謝しなくちゃ。

191: 2013/08/28(水) 02:01:39.90 ID:SnhAI2sz0

「けどさ~京介~
 なんであやせなんだよ」

と思いきやいきなり加奈子が爆弾を投下してきた。

「なんでって…別にいいだろ」

「よくねぇよ~
 加奈子だって告ったんだし、そんくらい聞くケンリあんだろ~?」

やばい。このままいけばわたし達はおもちゃにされる。
加奈子を止めようかと考えていると

「そうね。私も気になるわね。なぜこの中からあやせを選んだのかを」

瑠璃さんまで~!?

「あら、確かにそれは気になりますわね。なぜわたくしでは駄目だったのか」

遂には沙織さんまでもがこの話題に食い付いてきた。

192: 2013/08/28(水) 02:02:18.96 ID:SnhAI2sz0

後は桐乃だけなんだけど。
彼女は何も言わず、さっきまでと同じくリゾートチェアに座ったままスマホをいじっている。

けど、多分桐乃も気になってるんだと思う。

「俺がいかにあやせを好きか喋ってもお前ら楽しくないだろ?」

「楽しくはないけど納得はできるわ」

「そうだそうだ~」

「ええ、ぜひわたくしも聞いてみたいですわ」



「…はあ。んじゃ言うけど文句言うなよ」

彼の言葉に皆が首肯する。

193: 2013/08/28(水) 02:03:29.82 ID:SnhAI2sz0

「…あやせは美人で」

「あら、見てくれにやられたのかしら。このオスは」

「ちげえよ!
 
 いや、確かにあやせの外見はすっげえ好みだけどよ、それだけじゃねえって。
 

 あやせは前から知ってたけど真面目で努力家で、友達思いのいい奴だったし、
 それに皆とデートしただろ?
 
 そんときにさ、あやせは弁当作ってくれたり、俺が疲れてないか気を遣ってくれてたんだよ。
 それで『ああ、こいつ優しい奴だな』って思ったし、
 
 付き合ってもこいつなら俺を支えてくれると思ったんだよ。
 まあ、そんなん抜きにしても前からあやせのことは気になってたんだけどな」

194: 2013/08/28(水) 02:04:06.03 ID:SnhAI2sz0

「そう。それは御馳走さま」

「…お前らが言えっていったんじゃん」

「え~?加奈子もチョ~優しかっただろ?」

「お前といると楽しいけどな、なんか妹見てるみたいなんだよ」

「なんだよそれ~シスコンの告り方かぁ?」

「ちげえよ!」

「京介さんがそこまでゾッコンなら諦めるしかなさそうですわね。
 京介さん、あやせさん。
 遅くなりましたが、おめでとうございます。
 お二人はお似合いだと思いますわ」

「さんきゅー、沙織」
「あ、ありがとうございます!沙織さん」

195: 2013/08/28(水) 02:04:45.14 ID:SnhAI2sz0

「まあ私は来世で彼と結ばれるから。
 今世はあなたに任せるわ。あやせ」

「それは祝福の言葉ですか?」

「ええ、私なりのね」

「そうですか。ありがとうございます、瑠璃さん」

「あやせ~京介のことほっぽりだしたら、加奈子が奪っちまうからなぁ」

「大丈夫、そんなことしないよ。加奈子もありがと」

「ヒヒ」

皆にこうして祝福されるととてもうれしい。
京介さんの隣にわたしがいてもいいと思える。

196: 2013/08/28(水) 02:05:29.25 ID:SnhAI2sz0

そこで、今まで黙っていた桐乃が私に話しかける。

「あやせ


 兄貴のことよろしくね」



「うん」


桐乃も桐乃なりに壁を乗り越えたんだろうか。

それは分からない。

けど、桐乃が上辺だけでこんなこと言うような子じゃないことはわたしが一番知っている。

だから、彼女は本心からわたし達のことを認めてくれているんだろう。

京介さんに桐乃、加奈子に瑠璃さんに沙織さん。
わたしが大好きな人たちが笑顔でいる。

改めて、BGというコミュニティーの大切さを実感した。

197: 2013/08/28(水) 02:06:13.15 ID:SnhAI2sz0

「よ~し!んじゃお肉も食べたし、とりあえずひと泳ぎしますか」

桐乃が服を脱ぎ捨てて、水着姿になる。
空気を変えようとしたのかな?

「待って桐乃。わたしも行く」

わたしも桐乃に倣って服を脱ぐ。

「あ、それ新しい水着じゃん。どしたの?」

「この前…京介さんに選んでもらって買ったんだ」

「あら、惚気かしら」

「惚気ですわね」

「ノロケかよ~」

「…チっ」

「ちょっと桐乃!舌打ちはやめてよ!」


その後も泳いだり、バーベキューをしたり、京介さんが砂浜に埋められたりと色々なことがあったけど、BGで久しぶりに集まれてよかった。



―――――――――――――――
――――――――――

203: 2013/08/28(水) 04:53:29.46 ID:SnhAI2sz0
とりあえず家デート編完了。

こっから書き溜めないから、短編みたいにひとつのストーリーができ次第あげさせてもらう。


色々書いてみたいから、結構長期戦になりそうです。

いつか、まとめて見てくだされば幸いです。

では、家デート編投下します。

204: 2013/08/28(水) 04:54:51.93 ID:SnhAI2sz0

BGでバーベキューに行ってからも、私と京介さんはデートを重ねた。

残り少ない夏休み、できるだけ彼との時間を過ごしたかった。

今日も彼と会う約束をしている。

今日は今までと違ってわたしの家でデート。

彼もバイトをしているとは言え軍資金には限りがあるし、
わたしもモデルを受験のため休業しているから右に同じく。

よって今日はあまりお金をかけずにお家でデート、ということに。

そろそろ彼が来る頃なんだけど…っと携帯が鳴ってますね。

メールを開くと『着いたぞ』とのこと。

急いで玄関を開けると、いつもの優しげな笑顔を浮かべた彼がいた。

205: 2013/08/28(水) 04:55:44.63 ID:SnhAI2sz0

「お待ちしてました、京介さん。
 けど、チャイムを鳴らせばよかったのに」

「いや、お母さんが出てきても気まずいからな」

「お母さんは今日はいませんよ?」

「あ?そうなのか。
 …じゃ、じゃあ、今日は二人っきりだな」

「え、ええ。そういうことになりますね。
 と、とりあえず上がってください」

「お、おう。お邪魔するぜ」

二人してドギマギしながら玄関をくぐる。

京介さんが「二人っきり」とか言ったせいで、わたしまで変に意識してしまいます…!

206: 2013/08/28(水) 04:56:30.23 ID:SnhAI2sz0

大丈夫!やましいことはないんだから!!

京介さんをわたしの部屋に案内する。

「どうぞ」

「おう。…この部屋も久しぶりだな」

「そうですね」

以前は相談とかでこの部屋に彼を通したこともあったけど、
わたしが高校生になってからはこの部屋には彼を招いていない。

「やっぱりあやせの部屋はいい匂いだな。石鹸みたいな」

「そうですか?特に芳香剤とかはないんですけど…
 自分では分からないですね」

「柔軟剤の匂いとかじゃないか?たまにあやせの服から同じ匂いがするぞ?」

207: 2013/08/28(水) 04:57:12.60 ID:SnhAI2sz0

「え?本当ですか?」

「ああ。くんくん。
 ほれ、同じ匂いすんぞ?」

そう言って彼はわたしの肩あたりに鼻を近づけて匂いを嗅ぐ。

「ちょっ!ダメ!やめてください!」

「あ、ああ。すまなかった」

「お、お茶淹れてきますね!」

「あ、ああ。頼む」

わたしは急いで自分の部屋から飛び出す。





危なかった~!!

わたしの顔のすぐ横に彼の顔があった。
キスしようと思えばできる…

208: 2013/08/28(水) 04:58:10.53 ID:SnhAI2sz0

って何言ってるのわたし!!

も、もちろんわたしだってキスしたいし、恋人同士だからいいけれど、
物事には順序というものがあって、付き合って、手をつないで、デートを重ねて、為人をしってから、それから…


あれ?
じゃあわたし達はもうキスをしてもいいのでは?
ってダメダメ。
冷静になるために一旦、退避してきたんだから。

冷静さを取り戻すために、事務的にお茶を入れる。

湯を沸かし、湯を注いでティーポットとカップを温め、湯を捨て、再度ティーカップに湯を入れて、茶葉を躍らせる…


よし、大分冷静になってきた。

209: 2013/08/28(水) 04:59:00.55 ID:SnhAI2sz0

やっぱりキスはまだダメ!

なんでダメかは分からないけど、ダメなものはダメ。

するならもっとロマンチックな雰囲気でがいいし、
わたしのファーストキスはそんなに安くありません。

という結論が出たところで茶葉の蒸らしも丁度いい感じ。

キッチンをがさごそ探してお茶請けを用意し、それらをトレイに乗せて彼のいる自室へ。

「すいません、お待たせして。
 聞いてなかったんですが、紅茶でよかったですか」

「ああ、大丈夫だぞ」

彼の前にティーカップを一つ置き、慎重にティーポットを傾ける。

「どうぞ」

「ああ、ありがと」

210: 2013/08/28(水) 05:00:18.96 ID:SnhAI2sz0

彼はミルクも砂糖も入れずにそのまま紅茶を飲んだ。

「…うん、うまいな。
 俺、紅茶とかよく分かんねえけど、いつも飲んでるのより匂いが豊かだな。
 あやせは紅茶も淹れられるのか」

「い、淹れられるだなんて大袈裟です。
 ただお湯を入れただけですから茶葉が良かったんでしょう」


お母さん!わたしに紅茶の淹れ方を教えてくれてありがとう!!

彼が紅茶を飲みながら聞いてきた。

「んで、今日は何したい?」

「……何しましょうか」

「おいおい」

「だって…お外ばっかり行ったら京介さんだってしんどいでしょ?
 それにお金だって大事だし」

「そうだけどよ。どうすっかな~
 ゲームとか?」

「持ってませんけど。京介さんが持ってきてるんですか?」

211: 2013/08/28(水) 05:02:26.61 ID:SnhAI2sz0

「いいや。こうなるとは思わなかったし持ってきてねえよ。
 あとは…酒は飲めねえし音楽聞いても仕方ないし…
 勉強するか?」

「えぇ~?」

「いや、だってお前受験生じゃん」

「そうですけど、せっかく京介さんと会えたのに勉強は」

「じゃあ後は…映画か?」

「あ、映画。いいですね。
 最近見に行けてないのでそれに1票です」

「んじゃTSUT○YAでも行ってなんか借りるか」

「はい!」



―――――――――――――――
――――――――――

212: 2013/08/28(水) 05:04:41.85 ID:SnhAI2sz0

TSUT○YAに着くと、京介さんが邦画コーナーの方に直行。
手をつないでいるもんだから、強制的にわたしもそちらに。

「京介さんは邦画の方が好きなんですか?」

「ああ、ホラーと言えば邦画の方が怖いだろ」


ホ  ラ  ー  ?

なぜ彼女と見る映画がホラー?

「京介さんって…ホラー映画が好きなんですか?」

「ああ、見ててドキドキすっからな」

「……マゾですか?」

「ちげえよ!! 俺はお前らとは違って平々凡々な奴だからな。
 創作物でぐらい刺激がほしいんだよ」

「そうですか…」

これはちょっとびっくりしました。

あの優しくてのほほんとした京介さんが、ホラー映画が好きだなんて。

213: 2013/08/28(水) 05:05:30.71 ID:SnhAI2sz0

逆にわたしはホラーが苦手。
洋画のだとまだマシだけど、邦画は全然だめ。
あのジメッとした感じがどうしても無理。

「きょ、京介さん。今日は他のにしませんか?」

「え?」

「例えば…そう、恋愛映画とか」

「恋愛映画か…別にいいぜ」

ほっ。
京介さんが頑固じゃなくてよかった。
これで「俺はホラー以外見たくねえよ!」とか言われてたらチェックメイトでした。

「けど意外だな」

「ほぇ?」

「あやせがホラー苦手だなんて」

「苦手なんて言ってません!!」

苦手ですけどね。

214: 2013/08/28(水) 05:07:03.50 ID:SnhAI2sz0

「え?じゃあホラーでよくね?」

「だ、ダメです!」

「なんで?」

「カップルでホラー映画とか変じゃないですか!」

「いや、別に変じゃないだろ」

「変です!」

「そっか、変なのか。じゃああやせとはこれ見れないな」

彼の手には一つのDVDが。

「何ですか?それ」

「これ?ネットで怖いって評判の奴だ。今まで見たことなかったし丁度見ようと思ってたんだけど。
 あやせが無理なら家で桐乃とでも見るかな?」

215: 2013/08/28(水) 05:07:33.83 ID:SnhAI2sz0

「……桐乃と?」

「ああ、あいつもホラー映画好きみたいでよ。
 俺が見てたらしょっちゅう隣り座って見てんだよ。
 だからこれも桐乃と見るわ」

「京介さん!!!」

「は、はい?」

「見ましょう!!それ!!わたしと!!!」

「あ、はい」


―――――――――――――――
――――――――――

216: 2013/08/28(水) 05:08:26.63 ID:SnhAI2sz0

「あやせ、DVDってどこで見んの?」

どうしよう…
わたしの部屋だとパソコンになるけど、怖いのなんて自室で見たくない…

かと言ってリビングだと大画面で余計怖くなっちゃうし…

うぅ~

「じゃ、じゃあリビングで」

「おう、やっぱり怖い映画は大画面に限るよな」

何でウキウキしてるんですか。

うぅ、桐乃に対抗心燃やすんじゃなった…orz

けど今さらやっぱり嫌とは言えないし…

「ほら、あやせ。用意できたぞ。
 こっちこいよ」

「は、はい」

217: 2013/08/28(水) 05:09:24.41 ID:SnhAI2sz0

京介さんがDVDをセットしてソファに腰掛ける。

わたしも彼の隣に。

「…あやせ、近くないか」

「そ、そうですか?丁度適度な距離を保ってると思いますよ!?」

「そっか、別にいいけどよ」

彼と腕が触れ合う程度に密着して座る。
う~だって怖いんだもん。

彼がさっそく再生ボタンを押す。

この映画は一家が自宅で氏亡し、その空家に住んだ住人が次々と不幸に見舞われるという話だそうで…

わたしは正直画面を見てられません。

218: 2013/08/28(水) 05:10:43.05 ID:SnhAI2sz0

霊が映ったら彼の左腕に抱き付いて、目を閉じてガクガク震えてるだけ。

音がしたら耳を塞いで彼に抱き付く。



ふと音が止んだ。

「あやせ、ホラー苦手だったのか」

「に、苦手じゃ、あり、ません」

この状態で言っても意味がないですね。
目には涙が浮かんでるし、体も震えてる。

「すまなかった。お前がホラー苦手って知らなかった」

そう言って、彼が強くわたしを抱きしめる。

「うぅ…すいません」

彼はDVDを止めて、TVを付ける。
バラエティの笑い声が聞こえる。
ちょっとだけ安心できた。

「もう映画は止めよう。とりあえず飲み物でも飲んで落ち着こうぜ」

219: 2013/08/28(水) 05:13:37.91 ID:SnhAI2sz0

「…OKわかった。
 じゃあ飲み物一緒に取りに行こうぜ」

「は、はい」

そう広くないリビングを通ってキッチンへ。
その間もわたしは彼の背中にギュッとしがみついたまま。

「あやせ、何飲む?」

「コ、ココアを」

わたしは粉末が仕舞ってある場所を指す。
そこから彼が取出し、お湯で溶かして牛乳を入れる。

「ホットか?」

「いいえ、アイスで」

「じゃあほい」

彼がつくってくれたココアを一口。

ふう、少し落ち着きました。
けど怖いものは怖い。
飲み物を持って二人してリビングへ。

220: 2013/08/28(水) 05:14:30.80 ID:SnhAI2sz0

TVではバラエティが、わたしの手には彼の作ったココアが、
そしてわたしの体は彼にギュッと抱きしめられている。




いつまでそうしていただろうか。

気が付くと辺りは暗くなっており、京介さんがリビングの電気を点ける。

「あやせ、もう7時過ぎだけど。親はいつ帰って来るんだ?」

わたしは絶望の言葉を言わなければなりません。

「今日は……帰ってきません」

「…は?」

「お父さんの短期出張にお母さんもついて行ってますから。
 帰って来るのは明日の夕方になります…」

「そっか… あやせ1人には」

そこで彼にギュッとしがみつく。

「…無理だよなあ。どうすっかなー」

221: 2013/08/28(水) 05:19:38.37 ID:SnhAI2sz0

「と、とりあえず晩御飯にしましょう」

彼を引き留めるためにそんな提案をする。

「そうだな、腹も減ったし。食い終るまでにどうすっか考えるわ」

「は、はい。京介さんは何か食べたい物ありますか?」

「冷蔵庫に食材は?」

「冷蔵庫には…豆腐と御揚げ。あとはお肉もありますし、野菜もそれなりには」

「何だったら作れそうだ?」

「ん~京介さんの好きな唐揚げは作れますよ。
 後は…中華でまとめるならチンジャオロースとかマーボー豆腐とかですかね」

「よし、んじゃそれ頼むわ」

「はい、わかりました」

222: 2013/08/28(水) 05:22:14.51 ID:SnhAI2sz0

「じゃあ俺も手伝うわ。なにしたらいい?米でも研ごうか?」

「いいえ、京介さんには別の仕事を与えます」

「なんだ?」

「わたしの後ろに立って、ギュッと抱きしめていてください。
 じゃないと…怖くてキッチンに立てません」

「おう、まかせろ」

彼の後ろからギュッと抱きしめられて料理を開始する。
動きにくいけど仕方ないんです!!
こうでもしてないと怖くて縮こまってしまいます。

わたしが右に動くときにはカニさん歩きで二人でトコトコ。
左に行く時も二人でトコトコ。

そんな体勢でやってたもんだから、料理が終わったときには1時間も経っていた。

223: 2013/08/28(水) 05:23:21.18 ID:SnhAI2sz0

「料理、どうやって食うの?」

「どうやってって…」

そうだ。普通に別々のイスに座れば彼と離れてしまう。
それは何としても避けなければ!

彼の手を取ってイスに座らせる。

そしてその上にポスン。

「あやせさ~ん。前が見えないんですけど~」

「だ、大丈夫です。私が食べさせてあげますから。
 ほら、あ あ~ん」

「あ、あ~ん。 お、マーボー豆腐うまいな。ラー油でピリッと辛くて」

「よ、よかったです」

箸を持ちかえて自分も一口。
うん、悪くない。

224: 2013/08/28(水) 05:24:21.28 ID:SnhAI2sz0

その後も箸を持ちかえながら彼に食べさせ、自分で食べて…

食事もいつもの倍以上の時間がかかっていた。

「よし、食べ終わったし洗い物は俺がするわ」

「結構です。その代わりにギュしてください」

「はいはい」

だって彼の後ろに抱き付いても背中が怖いんですよ!!
前には抱き付けないし…

そんなこんなで洗い物も終わってソファに座る。

もちろん、わたしは彼の膝の上。

225: 2013/08/28(水) 05:24:55.96 ID:SnhAI2sz0

「んでさ、この後なんだけど」

「は、はい」

「俺ん家来るか?」

「え?…大丈夫ですか?
 お父さんとか」

「親父は…何とかなんだろ、土下座でもして。
 桐乃の友達なんだし理由話せば何とかなると思うぞ」

「そ、そうですか。
 ご迷惑でないならお願いします」

「おう」

そう言って彼は携帯を取り出して家に電話。

226: 2013/08/28(水) 05:26:11.87 ID:SnhAI2sz0

「おう、俺だけど…いや、俺だって、京介だって。
 え?本当だっつうの。お袋、おふざけはいいから親父に代わってくれ
 ……
 あ、親父か。実はさ、桐乃の友達のあやせって子がさ。家で一人なんだってよ。
 それでさ、家に泊まらせてあげたいんだけど…
 ああ。ああ、分かった」

「どうでしたか?」

「親父はいいってさ。その代わり、家に帰ったら俺たちの関係をきちんと説明するように、だってさ」

「そ、そうですか」

「別に緊張することはねえよ。結婚の挨拶じゃねえんだし。付き合ってますって報告すりゃ終わりだよ」

「わ、分かりました」

そういうわけで今日は京介さんの家にお泊り。
着替えとかを用意して、あ、もちろんその間も京介さんが後ろから抱っこしてくれてますよ?

用意が終われば早々に家を出て、彼の家へ。

227: 2013/08/28(水) 05:27:45.65 ID:SnhAI2sz0

用意が終われば早々に家を出て、彼の家へ。

彼が玄関の鍵を開け、玄関をくぐると桐乃がリビングから飛び出してきた。

「あやせ~!!!」

そのまま彼女はわたしの胸にダイブ。

「っとと」

「あやせが家にお泊りなんて初めてだね!めちゃくちゃ楽しみ!なにしよっか」

あ、そっか。
桐乃もいるし、今日は桐乃の部屋にお泊りか。

彼の部屋じゃなくて残念……なんて思ってませんよ!!?

228: 2013/08/28(水) 05:28:42.88 ID:SnhAI2sz0

とりあえず、京介さんとわたしはリビングに行き、お父さんとお母さんに事情を説明。
その後、お付き合いさせていただいていることも報告した。

お父さんはあんな強面(失礼かな?)なのに
「京介のこと、よろしく頼む」って頭を下げられるし、
お母さんは
「京介にも春が来たのね~」って息子をおちょくって騒ぐしで、
わたしが思ってたような修羅場は特になかった。

けど、彼がどれだけ親に愛されているかすごく分かった。

その後は桐乃の部屋に行って荷物を置き、桐乃と一緒にお風呂へ。

二人とも体を洗って湯船へ。

229: 2013/08/28(水) 05:29:33.83 ID:SnhAI2sz0

「ってかなんで今日は泊まりに来たの?
 今までだって親いなくても一人で留守番してたじゃん」

「そう、なんだけど…
 あのね、今日京介さんと怖い映画観ちゃって」

「あぁ、それでか~。あやせ怖いのダメだもんね」

「うん…それで、一人であの家にいたくなくて」

「なるほどね。まあいっか。そのおかげであやせが泊まりに来たんだし」

「あ、あのね、桐乃。今日怖いから…」

「だいじょーぶ。まかせなさい。
 今日はずっとそばにいるよ」

そう言って桐乃がきゅっとわたしの両手を掴む。

兄妹揃って温かい手。

230: 2013/08/28(水) 05:30:31.93 ID:SnhAI2sz0

「ありがとね」

「けどあいつ何考えてんだろ。これは後でお説教だね」

「ちがうの桐乃。京介さんはわたしが怖いの苦手って知らなくて…」

「え?そうだったの?けど彼女のことなんだし知ってて当然でしょ」

「フフ。桐乃、無理いってるよ」

お風呂を上がってからも、桐乃は本当にずっと一緒にいてくれた。
ずっとわたしの手を握ってくれた。

それを京介さんが羨ましそうな目で見ていたのがなんだか可笑しかった。

彼におやすみなさいの挨拶をして、桐乃の部屋へ。

231: 2013/08/28(水) 05:31:25.79 ID:SnhAI2sz0

ラグの上に布団が敷かれていたが、好意を無碍にして心苦しいけど桐乃と一緒にベッドの中へ。

その後も桐乃と色んな話をした。

高校生活も残り少ないこと、受験のこと、大学、モデル、将来、それに京介さんのこと。

久しぶりに桐乃とゆっくりしゃべれて話題は尽きない。

気が付いたらわたしはいつの間にか眠りに落ちていた。


―――――――――――――――
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232: 2013/08/28(水) 17:13:48.29 ID:SnhAI2sz0

翌日、目を覚ますと桐乃の姿がなかった。
朝食かな?
勝手に家の中をウロチョロするのは憚られるし…

そう言えば、隣は京介さんの部屋。
とりあえず彼の様子でも見に行こう。

彼の部屋のドアをノック。
……反応がありません。
寝てるのか、朝食を食べに行ってるのか。

「失礼しま~す」と言ってドアを開けると、いた。
彼はまだ寝ていた。

233: 2013/08/28(水) 17:19:18.14 ID:SnhAI2sz0

顔を覗き込むと、大口を開けていて間抜けだ。
けど、こんな姿でさえ可愛く見える。
好きな人の姿なら、なんでも可愛く見えるんですかね。

とりあえず声をかける……が起きない。
肩を揺さぶる。

「ぉ……あやせか…」

「おはようございます京介さん」

「おはよう」

目を覚ました彼は徐々に目を開く。

そして完全に目が開いたときには何を思ったのかいきなり土下座をし始めた。

「ちょっ、どうしたんですか?」

「あやせ、昨日はすまんかった!!」

234: 2013/08/28(水) 17:25:39.18 ID:SnhAI2sz0

昨日……ああ。ホラー映画を見たことか。
けどあれは、わたしがちゃんと言わなかったのが悪い。
けど、そう言っても彼はなっとくしてくれなかった。

「そうだけどよ、なんかお詫びさせてくれ!
 じゃないと俺が納得できねえよ」

とのこと。

ん~。別に彼は責める気はないんだけど。
せっかくだからお言葉に甘えよう。

「そうですか。私は本当に気にしてないんですけど。
 じゃあ温泉に連れてってください」

「温泉?」

そう、温泉。桐乃が以前、二人で温泉旅行に行ったときにいいな~とずっと思ってた。

「はい。しかも泊まりで」

235: 2013/08/28(水) 17:34:01.07 ID:SnhAI2sz0

「泊まりで?俺は大丈夫だけど、お前ん家はいいのか?」

「分かりません。だから京介さん。まずは親の説得に協力してください」

「……マジでござるか~」

「ござるござる」

そういうわけで朝食を食べた後、二人してパソコンで泊まる宿を検索。
桐乃は隣の部屋で勉強しています。

二人であれこれ言い合いながら泊まりたい宿を決定。
旅行って行くのも楽しいけど、こうやって計画を立てているのも楽しい。

わたしの親には、夏休みも残り少ないし早い方がいい、ということで今日さっそく行くことに。

夕方、お母さんにメールすると今最寄の駅についたとのこと。

だから少し時間を置いて彼と一緒にわたしの家に。



236: 2013/08/28(水) 17:38:21.20 ID:SnhAI2sz0

そして、彼と付き合っていることを報告。
お父さんはびっくりしていたし、お母さんは少しだけ驚いた様子。

彼は真面目に付き合ってること、清く正しい関係であることなどを真摯に説明し、
夏休みの思い出として温泉旅行に連れて行きたいとお願いした。

すると、意外にすんなりOKがもらえた。

多分、今まで彼にはBGで世話になっていることをお母さんは知ってるし、そのことはお父さんにも伝わっていたのでしょうか。
それとも、彼の人畜無害な風貌が功を奏したのでしょうか。

理由はなんであれ両親からもOKをもらった。

と、いうわけでわたし達は晴れて親公認のカップルに。
……親公認。

なんかいい響きです。

そして彼とわたしは温泉旅行に旅立つことに。


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――――――――――

237: 2013/08/28(水) 17:38:56.15 ID:SnhAI2sz0

「いらっしゃいませ。本日は当館をご利用いただき、誠に有難う御座います」

「は、はあ」

宿泊する宿の方からの丁寧なあいさつに頭を掻きながら「はあ」と返す彼。
もっとどっしりしていてくださいよ!

宿の方から施設案内を受け、さっそく今日はわたし達が泊まる部屋へ案内された。

部屋は畳で中央にテーブルが置かれた普通の部屋。

けれど違うところが一つ。

この部屋にはテラスがあり、そこには露天風呂が。

そう、この部屋は露天風呂付き。

わたしがわがままを言ってそうしてもらった。

238: 2013/08/28(水) 17:39:26.23 ID:SnhAI2sz0

「んじゃ早速温泉に行くか」

「はい」

わたし達は観光に来たんじゃなくて温泉に来たから、まあそれくらいしかやることがない。

「どうする?とりあえず大浴場に行くか?」

「そ、そうしましょう」

客室に備えられた露天風呂はいつでも入れますからね!!
今じゃなくていいですよね!!

というわけでタオルを持って大浴場へ。
その行きしな、ロビーに置かれた貸切露天風呂の予約を見る。

「今は……使用中だな。どうする?予約しとくか?」

「え、ええ。そうしましょう」

239: 2013/08/28(水) 17:40:09.71 ID:SnhAI2sz0

ぎゃ~~!!!
貸切り! 混浴!!
まだ心の準備が…!!

「っしゃ、2時間後に予約しといた。だから2時間は自由行動な」

「は、はい」

うぅ。どうしよう……

彼はなんでもないかのように平然としていて、飄々と大浴場の方へ。
手を引かれて私もついていく。

暖簾の前まで来て彼が一言。

「2時間も入ってたら貸切風呂と連ちゃんになるし、今はとりあえず1時間半でいいか?」

「はい」

「じゃあ1時間半後にまたここでな」

「はい」

そう言って彼は鼻歌でも歌いだしそうなほどご機嫌な様子で暖簾をくぐった。

240: 2013/08/28(水) 17:40:49.31 ID:SnhAI2sz0

わたしも温泉は楽しみですけど!
この後の混浴を考えると…

とりあえず、時間は有限。
わたしも暖簾をくぐって脱衣所へ。

さっと服を脱いで浴場に…

ふわあああ~!!
すっごく広い。

色々あるみたい。
案内図を見ると、お風呂は8種類。
サウナもある。


とりあえず、わたしは近くにあった御影石造りのお風呂へ。

はあ……温まる~

ここの湯の効用は美肌疲労、回復、冷え症改善とのこと。

241: 2013/08/28(水) 17:41:27.21 ID:SnhAI2sz0

そうだ!!サウナに行こう!!
少しでも痩せなければ!!

そう思い立って湯船には物の数分で出てサウナへ。

サウナはミストサウナらしく、ジメッとしている。

頑張って汗をかかなきゃ!

イスに腰掛けじっと待つ。

というか確かに温泉に行きたいと言ったのはわたしですよ?
それに、客室付きのお風呂や貸切の混浴風呂もあるのがいいと言ったのもわたしです。
わたしだって女の子だから、好きな人と一緒にお風呂っていうのは憧れる。

242: 2013/08/28(水) 17:42:10.09 ID:SnhAI2sz0

けれど、心の準備ができてるのかと言えばそれは別問題であって、京介さんにはその所の配慮が欠けています!

ああ、どうしよう。
一応水着を持ってきてるけど、温泉に付けてもいいのかな?

タオルを巻くとか?
お風呂に付けるのはマナー違反だけど、この際そんなこと言ってられない。

ああ、どうしたら…!!!

ダメだ。熱さで頭も茹ってる。
冷静な思考を取り戻すためにサウナを出て水風呂へ。

その後も、とりえず色々なお風呂に入ってみたけど、全然リラックスできない。
身体の疲れはとれるだろうけど、あくせく考え事をしてるせいでちっとも休まらない。

けど、時間は刻々とすぎていき…

243: 2013/08/28(水) 17:42:35.75 ID:SnhAI2sz0

「おう、あやせ。上がったか」

「はい…」

「じゃあ30分ほど部屋で休んでから貸切に行くか」

「ええ、そうしましょう…」

万策尽きた。いえ、単に無策だっただけ…

部屋についてからも彼は部屋をウロチョロしたり、テレビを見たりとリラックス。

時間は無情に過ぎていき…

「あやせ、そろそろ時間だし貸切の方に行こうぜ」

「はい…」

タオルを持って貸切風呂へ。

脱衣所は当然こじんまりしたものが一つ。

244: 2013/08/28(水) 17:43:11.47 ID:SnhAI2sz0

「?あやせ、脱がねえの?」

「ぬ、脱ぎますけど!京介さん先に行ってください!」

「あ、ああ」

彼はそそくさと脱いで、腰にタオルを巻いて早々にお風呂へ。

とりあえず浴衣を脱いで下着姿に。

誰も見てないけれど、もうこの状態で無理!!

パスタオルを胸に巻いて放心状態。





ええい!!女は度胸です!!

一気に下着を脱いで、いざ京介さんがいるお風呂へ!!

245: 2013/08/28(水) 17:43:58.84 ID:SnhAI2sz0

扉を開け放つと、オーシャンビューが視界に飛び込んできた。

お風呂は檜でしょうか。いい匂いがします。

「おう、あやせ。ちょー気持ちいいぞ」

「そ、そうですか」

不作法ですが、バスタオルを巻いたまま浴槽へ。

ふわあ……気持ちいい。

「海は見えるし温泉は気持ちいいし…
 最高だ~」

彼はどこまでも普通のテンションで温泉を満喫していた。

むっ。

これはこれでむかつきますね。

わたしはこんなにドキドキしているのに…

246: 2013/08/28(水) 17:45:59.11 ID:SnhAI2sz0

「京介さん、なんでそんな普通なんですか?」

「なんでって」

「わたしがこんな格好なのに」

「いやだって、お前の水着姿の方がよっぽど露出度高かったじゃん」

そうですけど…そうですけど!!

水着とお風呂じゃ全然違うでしょう!!

腹が立ってきました。

ここまでコケにされたら、女が廃るというもの。

わたしは彼の腕に抱き付く。

「うっ!!?」

効いてる効いてる。

やっぱり京介さんも意識するんですね。

247: 2013/08/28(水) 17:48:31.77 ID:SnhAI2sz0

「どうしたんのですか?京介さん」

「い、いや!あやせ。む、胸!当たってる!!」

「当ててるんです」

「ちょ!ちょっとやめてくれ」

彼が腕を振りほどこうとする。
そうはさせません。

そんなことをしていたせいでしょうか。
もともと結び目が弱かったのか、私が巻いていたバスタオルがはらり…

248: 2013/08/28(水) 17:51:15.52 ID:SnhAI2sz0

「ぶほっっっ!!!



 って、あやせ。乳Oないの?」


「ありますよ!!!!!
 これは水着用のヌーブラをしてるんです!!」

「な、なな」

「な?」


「なんじゃそりゃーーー!!!
 俺の純情を返せよ!!!
 てっきりあやせの胸が見えると思ったのに!!」

「な!!知りませんよそんな純情!!!!」

そんな言い合いをしていたせいで持ち時間の30分はあっという間に終了。
せっかくのオーシャンビューもあんまり見られなかった。

249: 2013/08/28(水) 17:52:15.72 ID:SnhAI2sz0

その後も休憩をはさみながら温泉に行ったり、海の幸に舌鼓を打ったりと温泉旅行を満喫。

夕食も終わり、今は部屋に付いている温泉に二人で入っている。

「……またヌーブラしてんの?」

「当然です」

だって恥ずかしいじゃないですか。
裸を彼に見せるなんてできません。

そりゃ、わたしだっていずれは…って思ってますけど。
まだまだ心の準備ができてない。

まだ付き合って1月も経ってないからいいよね?

250: 2013/08/28(水) 17:53:14.22 ID:SnhAI2sz0

「この露店風呂からも海が見えるな」

「はい。星空も見えますよ」

「ほんとだ…はあああ、贅沢だ~」

「くす、そうですね」

温泉に入って海と星空が見える二人っきりの空間。

は!?

もしや、これはキスをするいいシチュエーションでは!?

そう思って彼の傍につつつと近づく。

「お、おい。またか?」

「またってなんですか、またって」

「いや、胸を押し付けんのか?」

「そ、そんなことしませんよ」

251: 2013/08/28(水) 17:54:44.35 ID:SnhAI2sz0

「そうしてくれ。我慢するのにも限界があるからな」

「我慢って…」

「そりゃ俺だって男だからな。
あやせと一緒にいるだけでも危ないのに、押し付けられたりしたらもう無理だ」

そっか。

彼もわたしとそういうことしたいと思ってくれていたのか。

いつも飄々としているから気付かなかった。

けど、考えたら当然だ。

好きな人と繋がりたい。

恋人同士だったら望んで当然だ。

そんなことにも気づかない程、自分にいっぱいいっぱいだったことに、改めて自分が子供だったと反省する。

252: 2013/08/28(水) 17:55:44.30 ID:SnhAI2sz0

それとともに、彼の優しさに胸が温かくなる。

いつも私を気遣ってくれる彼。
わたしが傷つかないように、わたしが自由にできるように…

そんな彼に、自然とキスがしたくなった。

シチュエーションなんて関係ない。

ドキドキさせたいからとかじゃない。

ただ、自然とこの愛しい人に口づけをしたいと思えた。

「京介さん…」

わたしは少し上を向いて、目を閉じる。

今のわたしではここまでが限界。
ここから先は彼にしてもらいたい。

253: 2013/08/28(水) 17:57:30.14 ID:SnhAI2sz0

彼はわたしの意図を察してくれた。

肩に両手を置き、ごくりと喉が鳴る音がした。

永遠にも思える時間。

閉じた瞼に影が差した。

来る。

ちゅ。

触れ合うだけの軽いキス。

キスは何味がするんだっけ?レモンだっけ?

けど味なんてしなかった。

254: 2013/08/28(水) 17:58:02.28 ID:SnhAI2sz0

その代わり、彼の熱が伝わった。

熱い。

熱い、熱いキス。

まだ、彼の唇がわたしのにキスしているかのように錯覚する。

唇に触れる。

そこは確かに熱を帯びていた。

これはわたし自身の熱なのか。彼が残していった熱なのか。


どちらでもいい。

彼とわたしの二人の熱だ。
わたしは彼と一つになれた気がした。

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――――――――――

255: 2013/08/28(水) 18:00:57.18 ID:SnhAI2sz0

温泉旅行が終わってからも、わたし達は残り少ない夏休みを一緒に過ごした。

あ、温泉旅行ではキス以上のことはありません…でしたよ?


夢だったディズ○ーにも二人っきりで行けたし、縁日にも行った。
機会があればまた話すこともあるかと思います。

勿論、受験生であるわたしは遊び呆けてばかりもいられないので勉強もしていますが、彼と会う時間も欲しかったので勉強会ということで彼と一緒に勉強をしたりしている。

現役大学生に教えて貰えるから、分からない所はその場で解決することができ、とても助かってる。

9月になり、わたしは残り少ない高校生活に戻った。
京介さんはまだ夏休みですけどね。
大学生の夏休みって長いですね。

さすがにこの時期になると、皆が受験に向けてピリピリした空気になる。

わたしも進路が決まった。
後はそれに向けて受験勉強に励むだけだ。

256: 2013/08/28(水) 18:02:45.71 ID:SnhAI2sz0

月日はどんどんと流れ、徐々に京介さんに会えない日が増えてきた。
彼に会えない日はとても悲しいし、つらい。

世の遠距離恋愛をしているカップルはどうやってるんでしょう。
わたしなら無理です。

ちゃんと会えたのはクリスマスくらいでしょうか。

その他は少し会って話すか、勉強会ぐらいでまったり彼とデートなんてできなかった。

その悔しさや苛立ちを糧に私に勉強に励んだ。
来年もう1回、こんな切ない時間を過ごしたくはないですからね。

大晦日も一人で勉強していて心がすごく落ち込んだ。
だから2日分のノルマをこなし、正月には彼と初詣に出かけた。
神様にはわたしの志望校合格と、彼の安全を祈願しておいた。
1人で2つもお願いするなんて図々しいかも知れませんが、500円をお賽銭したんだからいいですよね?

257: 2013/08/28(水) 18:03:17.86 ID:SnhAI2sz0

正月が終わってからはあっという間だった。
学校も授業がないから家で勉強していたし、センター試験も目前まで迫っていた。

2日間のセンター試験を終えたら次は願書を出さなければならない時期になっていた。

わたしの第1志望は国公立。
だから私立は滑り止め1つと、もし第1志望がダメだった場合に行くそれなりの偏差値のある大学2つを受験した。

手応えとしてはまあまあ。多分受かってるんじゃないかと思います。

その10日後ぐらいには第1志望の大学の受験。
目まぐるしくて大変です。

それらが全部終わったらあとは結果を待つだけ。

私立は2つとも受かっていた。

国公立の合格発表よりも、私立の入学手続きが先にあるから入学金は支払わなければならない。
これってどうにかならないんですかね?
入学しないかもしれないのに入学金を支払うって。

そんなこんなで第1志望の合格発表。
これでだめだったら後期日程を受けなければならない。

258: 2013/08/28(水) 18:06:38.42 ID:SnhAI2sz0




結果は合格。

びっくりした。

もちろん、受かるために頑張ったし、それなりに手応えもあった。

けど全然実感がわかない。

受かったらもっと「やった~~~!!!」

ってなるかと思ったけど、案外冷静。

けど、心の内から沸々と喜びが湧いてくる。

受かった。
そう、わたしは4月から大学生になるんだ。

―――――――――――――――
――――――――――

259: 2013/08/28(水) 18:08:11.27 ID:SnhAI2sz0

「よ、あやせ。
 スーツ姿、似合ってるな」

「あ、京介さん。ありがとうございます」

「なんか工口いOLみたいでいいな」

「もう!工口いは余計ですよ!!」

今日は大学の入学式。
わたしもスーツを着て出席した。

まだ慣れないスーツに身を包んだわたし。
これで少しは大人になれたのだろうか。

京介さんには、入学式が終わってデートをするために会場まで車で迎えに来てもらった。

260: 2013/08/28(水) 18:10:52.45 ID:SnhAI2sz0

「んじゃ行くか。乗ってくれ」

「は~い」

何度も乗った彼の助手席。
ここはもうわたしの特等席です。

「結局免許はとらなかったんだな」

「わたしには今のところいりませんから。だって京介さんがいますし」

「俺はアッシーか。
 けど就職のときに普通免許くらいは必要になるぞ?」

「そうなったらそのときにとりますよ」

「でも驚いたよ」

「何がですか?」

「大学。俺と一緒だって知らんかった」

そう。わたしは彼と同じ大学に進学した。

261: 2013/08/28(水) 18:12:18.10 ID:SnhAI2sz0

勿論、彼がいるからと言う理由で選んだわけじゃない。
偏差値も高いしネームバリューもある。
だからこの大学を選んだんだけど。

京介さんと同じ大学というのはやっぱりうれしい。
彼とは3歳差だから、中学高校は同じ時期に通うことはない。

やっと京介さんと同じ学校に通うことができる。

まあ、彼は単位もほとんど取り終ってるし、これから教育実習でほとんど学校には来ないんだけど。
それでも彼と同じ大学ということで色々教えて貰ったりできるし、たまには行き帰りが一緒になることもあるだろう。

「学部は法だって?」

「はい」

「なんで法学部にしたんだ?」

262: 2013/08/28(水) 18:12:56.39 ID:SnhAI2sz0

「なんとなく…ですかね。
 法律って本当はとても身近にあるものなのに全然知らないから勉強しときたいって気持ちもあったし、
 それに法を整備する官僚にも、法曹界にも入れるし、法務部とかにも就職できそうじゃないですか」

「そっか。いいと思うぞ、法学部。
 きっちりしたあやせには似合ってるよ。
 じゃあ4年間で何になるか決めなきゃな」

「はい」

以前、京介さんが言っていたこと。
大学はやりたいことを見つけて努力する場所。

わたしはこの4年間でみつけることができるだろうか。

「今日はどこに連れてってくれるんですか?」

「内緒だ」

「え~?」

「とりあえずは昼飯だな。景色のいいところ見つけたからそこに行こうぜ」

「はい!」

263: 2013/08/28(水) 18:13:29.23 ID:SnhAI2sz0

先のことなんて分からない。
大学にいる4年間でやりたいことを見つけられないかもしれないし、見つけたとしても実現できるか分からない。
普通に就職することだってありえる。
そういうのを考えると恐怖で足が竦みそうになる。

けど大丈夫。
隣には彼がいる。

いつもわたしを助けてくれた優しい彼。
付き合ってからずっと私を支えてくれた彼。

そんな彼がいれば、わたしはどんなことにだって立ち向かっていける。

264: 2013/08/28(水) 18:14:04.21 ID:SnhAI2sz0

困ったときはまた車で迎えに来てもらえばいいんです。



それに
「実はわたし、進路を一つもう決めてあるんです」


「お?そうだったのか。
 んで、何になりたいの?
 検察官?」


「いいえ、






 専業主婦です❤」


終わり

引用: あやせ 「京介さん」