537: 2015/08/04(火) 22:17:06.57 ID:EXvyFwfxo
仮タイトル:リトル・レディ


何でこうなったかねえ、と俺は執務机に頬杖をついてため息を漏らす。
いや、原因はちゃんと分かっているのだ。いつもの通り夕張と明石が暴走して、トンデモな開発品を”彼女”にうっかりと発動させてしまった結果がこの有様。

「…ため息つく暇があるんなら、手伝いなさいよ」

紅耀石の瞳を半眼にして睨みながら、秘書艦の叢雲が俺を睨む。
これ以上面倒事に巻き込まれちゃたまらない、と俺は机の書類に視線をやって呟いた。

「俺は明日までの申請書が忙しいしな」

ぐ、っと唸る叢雲。秘書艦だけに、俺の言葉が真実なのが分かるのだ。
ツンケンしているくせに、こうしたことには生真面目な反応を見てる秘書艦にクスリと笑って、俺はおまけにと付け足す。
コイツの困る顔を見るのは、貴重な心の清涼剤となるのだ…。
艦隊これくしょん -艦これ-
538: 2015/08/04(火) 22:17:42.56 ID:EXvyFwfxo
「どうやらお前、慕われているみたいじゃないか」
「あはは…叢雲ちゃん、凄いね」
「面白いことになったよなあ」

誰に、とは言わない。だって、それは余りにも明白だから。
苦笑混じりの吹雪と、純粋に楽しそうな笑いの深雪が視線を叢雲の足下にやる。
そこには…

「マーマ、マーマ!」
「ああ、はいはい…まったくもう!」

叢雲のワンピースの裾を精一杯背伸びしながら引っ張って。
ママ、ママとだだをこねる鎮守府のエース…”金剛”の姿がそこにあった。

539: 2015/08/04(火) 22:18:33.86 ID:EXvyFwfxo
「どうして叢雲がママ?」
「そりゃあ、金剛が小さくなって最初に目にしたのが叢雲だったから…」
「刷り込み!?」

などという、こちらのどうでも良い会話は無視して、叢雲がチビ金剛に向き直る。

「なに、どうしたの?」
「uh,,,mam,,,」

むくれる子供に視線を合わせるべく、自身の両脚を折ってしゃがんでみせる叢雲。
秘書艦の優しげな表情を浮かべているさまを見て。
ああ、こいつもこういう顔が出来るんだなという…非常に失礼な感想が浮んだ。
だって俺にはそんな顔、向けたことないしな。

「アンタなんか失礼な事考えてない?」
「いや、別に」

背中はこちらに向けながら、器用にくるりと振り返って叢雲が俺に問う。
何で俺に話しかけるときだけ眉間にシワが寄ってるんですかね?
というか、そのまま身体をこっち向けるのはやめろよ、パンツ見えちゃうからねその体勢。

540: 2015/08/04(火) 22:19:23.94 ID:EXvyFwfxo
叢雲の視線が俺に行ったところで、金剛は興味の矛先を変えたらしい。
子供特有のパッチリと開いた瞳に好奇心を踊らせて、机に座る俺に突然の猛ダッシュ。

「テートク、テートク!」
「うおお!?」

普段もうるさ…元気な奴だけれど、チビ金剛はいつもより100倍うるさ…うるさいなあもう!
叢雲も吹雪も深雪も、俺を助けるでもなく面白そうにその様子を見守っていた。
特に叢雲の、アンタもその苦労を味わいなさいといった顔は無性に腹が立つ。

「テートク、あそんでアゲル!」

きゃっきゃと無邪気に笑いながら、今度は俺の軍服を引っ張り出すチビ金剛。
ああもう、金剛はチビになっても引っ付いてくるな…これじゃあいつもと変わらりやしない。

547: 2015/08/04(火) 22:31:16.04 ID:EXvyFwfxo

「だー、だから俺は忙しいの!遊ぶんなら叢雲にやってもらいなさい!」

だから、いつも通りのいなし方をしてしまった。それがどういう結果を招くのか想像もせずに。

541: 2015/08/04(火) 22:20:44.13 ID:EXvyFwfxo
「あーあ」
「やっちゃった」

吹雪と深雪の反応を不思議に思って、俺はまたしても視線を落とす…と、そこには。

「うっ…グスっ…」

大きな瞳いっぱいに涙をこさえて、今にも泣き出しそうなチビ金剛の姿があった。
しまった、今コイツは子供だったんだ!

「まったくもう、子供相手に何やってるのよ」

呆れ顔で叢雲に言われても何も返せない。こういう時、女の子を泣かした男は弱いのだ。
チビ金剛をあやしにこちらへ近づいてくる叢雲に、俺は情けない顔で手を合わせて謝る。

「うぅ…ママ」
「あー、ほら。こっち来なさい金剛」

栗色のチビ金剛の髪の毛を優しく撫でながら、叢雲が言う。

542: 2015/08/04(火) 22:22:06.79 ID:EXvyFwfxo
「バカ」
「ごめんなさい…」

お叱りを甘んじて受ける俺。今度ばかりは睨まれても仕方がないなと、俺にしては珍しく殊勝に反省していると。
予想だにしなかったとんでもない爆弾が、叢雲の方から落ちてきた。

「…ママ、テートクこわい」

叢雲という庇護者を得て、遠慮なく俺を弾劾するチビ金剛に、この秘書艦さまは。
相変わらずしゃがみこんだまま、真っ直ぐにチビ金剛を見据えて。



「そうね、まったくもう…しょうがないパパね」



そんな事を、言ってのけたのだ。

543: 2015/08/04(火) 22:22:41.62 ID:EXvyFwfxo
「へ?」
「は?」
「今、何て」

今度ばかりは吹雪、深雪、俺の反応が全会一致。
あまりの衝撃に、みんな言葉が出てこない。

「何を驚いているのよ?」

怪訝な顔を向けてくる叢雲だが…それでも俺たちが何も言えないでいるところを見て、自分の発言を反芻しだす。

「えっ!?や、やだ…ちがっ!?」

そして、思い至ったようだ。
もう遅いけれど。

544: 2015/08/04(火) 22:23:37.36 ID:EXvyFwfxo
「違わないだろ~?」
「叢雲ちゃん、やっぱり―」

茶化す深雪と、分かっちゃった、みたいな呟きをする吹雪に目くじらを立てて喚きだす叢雲。
そんな少女たちのかしましさに小首を傾げて、チビ金剛が不思議そうに呟く。

「ママ」

と、叢雲を指差して。
それから。

「パパ…?」

俺を指差して、そう言う。
今教わった事を確かめるように。

545: 2015/08/04(火) 22:24:22.65 ID:EXvyFwfxo
「こ、金剛、違う…って、アンタも何か言いなさいよ!?」

頬を真っ赤に染めて、ちっとも怖くない顔で叢雲が俺を睨みつける。
一方俺は、めったにない叢雲の失言に、まだ動揺していて何も言えないでいた。
チビ金剛は最初、自分のことをテートク、としか呼んでいなかったのに。
叢雲は、何を考えながらあんな事を言ったのだろう。

…そう、叢雲がチビ金剛のママで、俺がパパなら。
俺と叢雲は、いったいどういう関係なのだろうか。
叢雲は、パパということばに、どういう感情を仮託したのだろうか。

そこから生まれて来る答えが照れくさくて、俺は考えるのをやめた。



546: 2015/08/04(火) 22:25:43.35 ID:EXvyFwfxo
終わりです、最初に金剛が子供化してるって注意書きするの忘れちゃった

引用: 艦これSS投稿スレ4隻目