427: 2006/07/28(金) 07:12:57.78 ID:uLMmW0kQ0



秋も中盤に差し掛かり、焼き芋が旨くなってきたころ、
俺は安らかに眠る団長の側にいた。

今から数日前のことになる。



「遅れてごめーん!…って来てるのあんただけ?」
悪かったな。
「別に悪いなんて言ってないわよ。他の団員は?」
長門と朝比奈さんのクラスは学級閉鎖、古泉はバイトらしい。
何でこんな時期に学級閉鎖が起こるんだか。
「ふーん。まぁいいわ。あ、そうそう。今週の土曜日のことなんだけど…」
こいつと付き合いだしてからというもの、町中不思議探索は
ほとんど俺とハルヒの二人っきりが行っている。
古泉に言わせると「涼宮さんがそう望んでいるからでしょう」
の一点張りだ。
まぁ最近はそれらしくなってるからよしとするか。
「……だからこの辺…ってキョン、人の話聞いてるの?」
「ん?あ、ああ」
「全く…まぁいいわ。今日は他に誰も来ないみたいだし、
 早めに切り上げましょ。」
「そうだな。」
そして、ハルヒが部室を出ようとドアノブに手を
掛けたときだった。
涼宮ハルヒの憂鬱 「涼宮ハルヒ」シリーズ (角川スニーカー文庫)
431: 2006/07/28(金) 07:20:27.99 ID:uLMmW0kQ0
>>427

2
「……っ」
「どうした?」
返事がない。ただの屍…
「…っく」
ハルヒはその場に崩れ、俺はそれを受け止めた。
「おいハルヒ、大」
丈夫そうじゃなかった。
胸元を握りしめ、顔は苦痛に歪んでいる。
俺はすぐに救急車を呼び、ハルヒを横に寝かせた。
こういう時の対処法を知るわけもなく、背中を
さすってやったりしてやることしか出来ず、
容態は悪くなる一方だった。この時俺はすごくおろおろ
してて、格好悪かったと思う。
「くそっ、どうしたらいいんだ…」
いったい救急車は何をしてるんだ。
「もう…大丈夫だから…心配…しないで」
これのどこが大丈夫なんだ
「大分…良く…なっ…て…き…」
「おいハルヒ、しっかりしろ、おい!」
「ごめん…ね…」
そして、ハルヒは意識を失った。
その直後辺りか。救急車が来たのは。
ハルヒが意識を失ったせいで頭が真っ白になってしまって
よく覚えていない。
仲間が氏にそうなのには冷や冷やするだけでも、やっぱり
恋人が氏にそうになっている時には頭が真っ白になるほど
気が動転するものなんだなと思った。

432: 2006/07/28(金) 07:25:37.01 ID:uLMmW0kQ0


俺が落ち着きを取り戻したのはハルヒが集中治療室に
運ばれてからしばらく経った後だった。
その頃にはハルヒの両親も到着済みで、俺が状況説明を
し終わった時くらいか。
集中治療室から医師が出てきた。
「先生、ハルヒは…」
「非常に危険な状態が続いています。彼女の場合、心臓の
 筋肉が広範囲にわたって壊氏していて、いままで
 生きていたのが不思議なくらいです。すぐにでも
 移植を行うか、あるいは奇跡でも起こらない限り、
 助かる見込みはないでしょう。」

助かる見込みはない…?ははは、冗談だろ?昨日までは
あんなに俺らを振り回してこれ以上ないってくらいの
笑顔を振りまいてたんだぜ?それが、生きてるのが不思議だ?
どうゆうことだ、誰か説明してくれよ、なあ、おい!ハルヒ!!

どうやらまた俺は発狂してたらしい。手から血が出ている。
どんだけ壁を殴ったんだ。

ハルヒの母親が泣きながら俺を止めていた。

433: 2006/07/28(金) 07:31:50.04 ID:uLMmW0kQ0


4
そして、今日までの数日間俺は学校を休んだ。始めの1日
くらいは放心状態で何もしてなかったが、残りの数日は
ハルヒのドナーを探すためだ。
谷口や国木田、他の団員からメールが来たりしてたが、
ハルヒからは1通も来なかった。まぁ当たり前と言えば
当たり前なんだが、本人から生存確認が出来ないのは少し
辛い物があった。
しかし、ドナーという人は、やっぱりというか、なかなか
というか、とにかく見つからなかった。今日までの収穫は0。

そして、気を落とし気味にハルヒの病室の前に来た時だった。
ハルヒの両親が泣いている。

もしや…

437: 2006/07/28(金) 07:37:51.88 ID:uLMmW0kQ0
>>433

5
「どうかしたんですか?」
「あの子がようやく…ようやく目を覚ましたんですよ」
ハルヒが…意識を?
未だに情緒不安定だった俺は何とか平常を保っていた。両親は
俺から何かを悟ったのか、「ごゆっくり」といって去って
しまった。
おそるおそるドアをノックする。

「どうぞ」

力のない、いかにも病人という感じのハルヒの声がした。

「入るぞ」
ゆっくりとドアを開ける。

「あ…」

ハルヒは俺だということがわかると顔を背けてしまった。

438: 2006/07/28(金) 07:45:08.83 ID:uLMmW0kQ0
6
「何で来たのよ」
「何でも何もないだろ。団長がぶっ倒れたってのに。」
「…この間はごめんね。」
「何のことだ?」
「あたし部室で倒れたじゃない。それであんたここに居るんじゃないの?まぁ
土曜日の予定も飛んじゃったってのもあるけど。」
「ああ、謝るほどの物でもないだろ。」
「…」
「それより、もう大丈夫なのか?」
「あんまり良くないわね。ときどき痛むし、胸に跡が着いちゃって取れないわよ。」
「そうか。」
「他の団員たちは?」
「元気にしてる。」
「…そう。」
「…」
「…」
「…あたし、いつ退院できるのかな。」
「…投薬治療で何とかなるって言ってたしな。気合いと根性でどうにでもなるんじゃないか?」
「気合いと根性…か。」
「まぁ、そんなに重く考えるな。こっちのことは俺がやっとくから、今は自分のことだけ考えてろ。」
「うん…」
「……………」
「……………」
「…ねぇ、キョン?」
「ん?」
「あたしが寝るまで…一緒にいてくれる?」
「…ああ、いてやるさ。」

439: 2006/07/28(金) 07:51:00.82 ID:uLMmW0kQ0
7
結局言えなかった。
移植が必要だといつか言おうとは思っていたが、結局
投薬治療で何とかなるとか誤魔化してしまった。
どうすりゃいいんだ?どうやってハルヒに言えばいいんだ?
そんなことをいつまでもうじうじ考えながら病院を
出たときだった。

「これはこれは。こんな遅くまで涼宮さんのお見舞いですか?」
「お前こそ何でこんな所にいる。」
「たまたまですよ。僕もこっちの方が帰り道が近いので。」
「…この前の件、どうだった?」
「全くだめですね。成果ゼロです。」
「長門はなんて言ってる?」
「このまま観測を続ける。だそうです。」
「結局、助かるすべは無し、か…」
「そのようですね…」

古泉には『機関』を通じてドナーと新薬の検索を、長門には
ハルヒの壊氏した組織の再構成を頼んで見たんだが、どっちも
だめらしい。

「これで涼宮さんが世界を崩壊させるような事を考えて
 いなければいいのですが。」
世界崩壊…か。ハルヒと一緒に氏ねるならそれもいいかもな。
「冗談はよしてくださいよ。」
いや、冗談を言ってるつもりはないぞ。どうせ恋人が氏ぬなら
いっそのこと自分も…ん?
「どうかしましたか?」
「古泉、聞きたいことがある。」

443: 2006/07/28(金) 07:57:20.76 ID:uLMmW0kQ0

>>439

8
「ハルヒには世界改変能力があるって言ったよな?」
「ええ、言いましたが…」
「それを他人がハルヒに何かを吹き込んで改変させるのは可能か?」
「それは涼宮さんが望むかどうかですが…」
「…古泉、俺はもうしばらくの間学校を 休むことになりそうだ。」
古泉はやれやれといった表情で肩をすくめた。
「長門や朝比奈さんのこと、頼んだぞ。」

それから俺は、毎日ハルヒに「気合いと根性」を注入するために
病室へ向かった。検診や両親との面会中以外の時間はずっと
ハルヒの側にいた。しかし、ずっと学校を休む訳にも
いかなかったので、朝から晩まで居れたのは最初の4、5日だけ
だったが、それでも、毎日通っていた。
そんな俺の努力が実ったのか、それともハルヒの世界改変能力が
絶大な威力を発揮したのか、ハルヒの余命は+1週間、+1ヶ月と
どんどん延びていき、最後の方には壊氏してた組織が全部
元通りになっていた。なんつー回復力だ。
そして、退院が決定し、それの前日の時だった。
ハルヒの母親がにこにこしながら話しかけてきた。

「あの子があなたに渡したい物があるそうよ」

445: 2006/07/28(金) 08:03:17.56 ID:uLMmW0kQ0
9
ドアをノックする。
「どうぞー!」
威勢のいい、今までのハルヒだ。
「よう」
そこにはなぜかウエディングドレスに身を包んだハルヒがいた。
「どう、これ?」
「どうって…うーん」
「どうなのよ!」
「似合ってるぞ。」
ハルヒの顔は少し赤くなった。
「そ、そう?」
「ああ、そりゃもう。俺にとってはこの世で1番だね。」
「そ、そんなお世辞言ったってなんも出ないわよ!」
「ん?お世辞を言ったつもりはないんだが。」
「なっ…ま、まぁいいわ。はい、これ。」
そういって、小さな箱を乱暴に渡される。
「開けていいか?」
「…さっさと開けなさいよ!」
俺はゆっくりと箱を開けた。
…ペアリング?
「年が年だからまだ許してもらえなかったけど、雰囲気だけなら
 ってお母さんに用意してもらったのよ。あ、安心して。そんなに安物じゃないから。」
よく見ると、裏に俺とハルヒの名前が入っている。
「…はめていいか?」
「うん。」
そういうと、俺はハルヒの手を取り、薬指に指輪をはめた。
「似合ってるぞ、ハルヒ。」

449: 2006/07/28(金) 08:10:16.80 ID:uLMmW0kQ0

10
それからのことは皆さんのご想像にお任せしよう。
まぁ、大抵予想はつくだろうが。

これからハルヒの退院パーティーがある。いくら全快したとはいえ、
数日前までは病人だったんだから、ほんのささやかなものになる
…はずだったのだが、我らが団長様がそんなのを許すわけもなく、
結局、クリスマスパーティー並の大イベントとなっていた。

今俺はハルヒと一緒に部室の前に立っている。
まぁそれだけならいいのだが、なぜか俺はスーツを着ており、
ハルヒは退院前日同様、ドレスを着ている。これもハルヒの要望らしい。
全く、何を考えている事やら…
「さて、行くとしますか。」
俺は、教会さながらに装飾された部室の中に入っていった。

ハルヒの手を強く握りながら…

end

459: 2006/07/28(金) 08:34:29.89 ID:uLMmW0kQ0
読んでくれた人ありがとうございました。
それでは


引用: ハルヒ「ちょっと キョン!あたしのプリン食べたでしょ!」