573: 2006/07/28(金) 12:08:17.07 ID:7kTv2Br30
梅雨も明け、湿度の暑さから解放され、普通の猛暑に苛まれようとする現在。
今日も懲りずに俺は元・文芸部室、現・SOS団部室で古泉とお茶を啜りながらカードゲームをする。
現在、部室には俺、古泉、朝比奈さんが居る。
…珍しく長門が居ない。

「やっほー!ごめんごめん、遅れちゃった!全員――有希は?」
いつもの如く、スーパーハイテンションでドアをぶち破るかの様に登場するハルヒ。
長門が居ないコトにはすぐ気付いたようだ。
「長門さんなら……」
古泉が、カードを1枚山札から取りハルヒに会釈をし口を開けた。
「職員室ですよ。」
クスッと軽く笑いながら答えた。
涼宮ハルヒの憂鬱 「涼宮ハルヒ」シリーズ (角川スニーカー文庫)
577: 2006/07/28(金) 12:15:49.28 ID:7kTv2Br30
「あらそう。珍しいわね。」
俺も思ったな。というか、古泉。俺達にも言わないか?普通。
何で知ってるんだ?
「今日は、日直でしてね。日誌を返しに言った時にすれ違いまして。
   理由は聞いてませんが、長くなる、とのコトで。」
古泉は、弱々しい怪物カードを生け贄に、中級怪物をセットする。
「へぇ。」
俺は1枚引き、呪文カードでその怪物を破壊し、直接攻撃。
俺の勝ち。無敗伝説更新中。
古泉は、残念と思っているのか苦笑し、カードを集めてケースに入れる。
「仕方無いわね。…と言っても、今日はオフにしようと思ってたから。解散!」
……珍しいな。今日は、珍しさ2本立てか。
ハルヒはそれだけを告げて、我先と帰ってしまった。

578: 2006/07/28(金) 12:23:18.06 ID:7kTv2Br30
「…それでは、僕達も帰りましょうか。」
しばらくの沈黙の後、古泉がそう言った。
そうするか。暇だしな。
「あっ、それじゃあ長門さんには私から……」
「いいですよ。俺が言いますよ。」
朝比奈さんにわざわざ言わせなくても良いだろう。
長門が職員室に行った理由も気になるしな。
「え?…じゃあお願いしますね。」
朝比奈さんが満面のスマイルを放ってそそくさと帰ってしまった。
……今日メイド服見てなかったな…。
俺は、くやしながらお茶を飲み干し、水洗いした後、盆の上に置いて古泉と職員室に向かった。


職員室前。
まだ長門って居るのか?
「いるでしょう。僕達は部室への道を逆に来たのですから。」
ピルルルルル、
携帯の音が鳴った。
古泉のポケットからだ。
「……」
今さっきまでの笑いとは違い、真剣な表情になる。
「"アルバイト"か。」
「ええ、スミマセン。」
手を垂直に立て、謝って古泉は帰った。
「さて、俺も長門の様子を見るか。」
扉に手を掛けようとした。

579: 2006/07/28(金) 12:33:40.37 ID:7kTv2Br30
―――ん?
扉と壁の間に、紐が垂れていた。
ギッ、と軽く扉を開けて確認するとソレは見覚えのある栞だった。
栞にはワープロで打ったような書体を赤いインクで書かれていた。
否、インクではない……血。
所々血液が落ちた形跡がある。そして、これは確実に長門。
文面は――――

『gymnasium back』

―――体育館裏。
俺は、栞を握り締め体育館裏へ直行した。


体育館裏。
既に言葉にするのもシンドかった。
職員室と体育館は正反対だからな。
ソコで俺が見たモノは……

違う高校の不良と思われる2人とボロボロの長門。
唇に血が乾いた痕があった。

595: 2006/07/28(金) 12:46:38.74 ID:7kTv2Br30
「なんだぁ!?テメェ!!」
俺は唇を噛み締めていた。
意識が別の意味で朦朧とする。
頭の中を血液が音速で循環する。
右拳を上げた。
不良はファインティングポーズを取る。

ゴッ!

1回の跳躍で、1人の左頬を殴り飛ばした。
フェンスに直撃し、うつ伏せの侭動かなくなった。
「テメェ!」
もう1人が後ろから殴りかかる。
ブンッ!
横振りの拳を俺はしゃがんで180度回転。
拳を上に上げアッパーで顎を直撃させた。

601: 2006/07/28(金) 12:55:35.42 ID:7kTv2Br30
不良2人は動かなくなり、俺は怒りが治まって来た。
長門は無表情で、地面を見ていた。
「長門…?」
「………」
読書をしている時のように無言で、俺と眼を合わせてもくれない。
……俺は頭の中で最悪の状態を構築させていた。
ツゥと頬を水が伝った。


パシャリ。
ジィー、

壁に凭れている長門の右、長門を見ている俺の左からシャッター音が聞こえた。
…ん?、と見ると、ポラロイドカメラが、壁から飛び出していた。
「ふっふーん♪キョンってバカねぇ。」
リボンの黄色が明るく見える。
…ちょっと待て。ピンクがかった髪のお方と、右分け茶髪の野郎、それに灰色の髪の人も居るぞ?
「ごっ…ごめんなさい。」
「素晴らしい出来でしょう?」
「………」
どーみても、SOS団ご一行にしか見えません。

俺の眼の前にいる長門の頬を触れてみる。……冷たいな。
「僕の血縁に人形職人が居ましてね。先日のお礼に、と言われまして。」
「それを古泉クンから聞いて閃いたの!」
いらんコトをしてくれたな。
ハルヒは右手に写真を持ってヒラヒラと風に当てていた。
「乾いてきた乾いてきた♪キョンのバカ面ー。」

605: 2006/07/28(金) 13:03:18.19 ID:7kTv2Br30
「おい!!ちょっと待て!!」
ハルヒを睨み付ける。
横に居た朝比奈サンが驚いて、半泣きになってしまった。しまった。
「なによ。」
「何処から冗談だ。」
「全部よ。私が入って来てから。あーそれと、有希が遅いのは今朝から頼んだの。」
なんてこった。
というか、バカ面言うな。必氏なんだぞ。

「それじゃあ、私達は本当に帰るから。有希人形よろしく。」
手を振って、ハルヒは帰ってしまった。
不良はなんだったんだ?
と、思ってると不良が目を覚ましてきた。
「いっつ……こっちは芝居でやってたのにな。」
「『機関』の俺達が精進不足だったんだよ。」
やっぱ『機関』か。古泉ばっかじゃないか。血縁も嘘だろう。
「それじゃあ、俺達も帰ります。…えーと…キョンくんだっけ。」
お前もソレで呼ぶか。止めてくれ。
「人形はこのゴミ袋で包んで、粗大ででもどうぞ。」
そりゃあ、ありがた……くねぇ。
とりあえず貰ったけど。
1人は手を振りながら2人は帰った。

俺はしばらく無言で立ち尽くした後、ゴミ袋に長門人形とやらを包んで持って帰った。



『長門有希の遅刻』

607: 2006/07/28(金) 13:06:44.79 ID:7kTv2Br30
粗大の日は2日後だった。
下り坂が不幸中の幸いだったな。

歩いて、チャリを走らせ。
俺は、黒いゴミ袋を担いで家に帰った。
玄関で靴を脱いでいると、妹がシャミセンと現れた。
「何コレー?」と聞きながら、ゴミ袋の中身を見る。
しまった、浅墓過ぎた。
俺が、手を伸ばした時は既に遅し。
中身を見て、俺の見て。もう1度中身を見て妹は去ろうとする。
俺は、捕まえてウメボシをしながら「誰にも言うんじゃねぇぞ?」と脅しかけて了解させた。

妹が俺のサイフを削る糧の一部になったのは言うまでも無かった。

引用: ハルヒ「ちょっと キョン!あたしのプリン食べたでしょ!」