4: 2025/02/08(土) 15:21:31 ID:0wFfgLu200

5: 2025/02/08(土) 15:27:36 ID:0wFfgLu200
 課題も終わって、しなきゃいけないことも無くて。何となく、写真を整理しています。

6: 2025/02/08(土) 15:28:56 ID:0wFfgLu200

 これ、放課後にデートしてた頃だ。懐かしい。初めてお泊まりした時。初めてドライブした時。いっぱいデートして、とっても仲良しになって。幸せ。幸せなんだけど。

 握った手を胸に当てて、心の迷いに聞いてみます。

7: 2025/02/08(土) 15:29:51 ID:0wFfgLu200

 どうしよう。確かめてみようかな。

 ずっと気になってたこと。


  ◇

8: 2025/02/08(土) 15:32:06 ID:0wFfgLu200

 景色がいつの間にか、白っぽくなってきました。本当に旅行なんだなってワクワクしちゃいます。


「上手になったと思いませんかっ?」

「うん、上手。でも……私からしたら、まだまだかな?」

9: 2025/02/08(土) 15:34:43 ID:0wFfgLu200

 気をつけながら、ちらっと左を見ます。いたずらっぽく笑ってるの。キュン。こういう顔。ことり、まだ慣れません。


「むぅ、梨子ちゃんがいじめてきますっ。海未ちゃんに教えてもらったのに」

「それなら私と特訓だね。いっぱいお出かけしなきゃ」


 赤。ゆっくりブレーキを踏んで、停まる。

10: 2025/02/08(土) 15:38:47 ID:0wFfgLu200

 もう高速だって乗れちゃうのに、ことりのこと、もう少し褒めてくれてもいいと思うんだけどなぁ。

 梨子ちゃんが首に手を添えて、覗き込んでくる。


「……なんて、最近逢ってくれなかったから、嫉妬してるだけかも」

11: 2025/02/08(土) 15:40:30 ID:0wFfgLu200

「……嫉妬ファイヤー?」


 嫉妬。


「ふふっ、何で知ってるの」


 嫉妬だって。


「意外と、ことりは何でも知ってるんですっ……えへへ……」


  ◇

12: 2025/02/08(土) 15:42:24 ID:0wFfgLu200

「おつかれさま。思ったより混んでたね」

「だねっ。大雪のイメージがあるから、もっと空いてるのかなって思ってたけど……」

「うん……ちょうどいい時間だね、入ろっか」

「うんっ」

13: 2025/02/08(土) 15:44:28 ID:0wFfgLu200

 なんか、モニュメントとか池があるけど、ちょっと急いで入ります。

 ことりリサーチ。福井県立音楽堂、ハーモニーホール。プロの人達に最高って褒められてるみたいなんです。

 福井県って恐竜とか工芸品とかが有名だけど、今日は見送りです。

14: 2025/02/08(土) 15:46:51 ID:0wFfgLu200

 せっかくだから、ピアノとかオーケストラのコンサートがいいかなって思ったんだけど、梨子ちゃんがミュージカルにしようって。やっぱり、気を使わせちゃったかな。

15: 2025/02/08(土) 15:47:53 ID:0wFfgLu200

 なんて考えてたら、ゆっくり照明が暗くなってきました。


「わっ……」

「はじまるね……」


  ◇

16: 2025/02/08(土) 15:49:10 ID:0wFfgLu200

「凄かったねっ、感動しちゃった」

「本当……ソロも圧巻だったけど、特にパイプオルガンの音、素敵だった……どう表現したらいいんだろう……」

17: 2025/02/08(土) 15:50:39 ID:0wFfgLu200

 うっとりしてる梨子ちゃん。色んな顔を見てきたつもりだけど、梨子ちゃんの音楽家な一面を見るのは意外と初めてかもしれません。

 スケジュールが決まっても、モヤモヤして不安だったけど。

 とにかく、楽しんでくれて何よりですっ。

18: 2025/02/08(土) 15:52:44 ID:0wFfgLu200

「……あっ、ごめん。そろそろ行こっか」

「写真とか、とる?」

「……撮ります」
 
「ふふっ。後でことりにも送ってね」


  ◇

20: 2025/02/08(土) 15:54:42 ID:0wFfgLu200

 大通りから横道に入っていく。ザクザク、少し砂利道っぽい音がしてきた。ことりちゃんが車を停める。

21: 2025/02/08(土) 15:56:20 ID:0wFfgLu200

「到着ですっ」

「あれ、ここって……工場……?」

「ハテ……? オドロクナカレ……」

「違うのね……」


 こういうとぼける時の顔、可愛いのよね。

 どう見ても工場、その横に小さな――

22: 2025/02/08(土) 15:59:36 ID:0wFfgLu200

「えっ、カフェ?」

「そうっ。リボン工場の、カフェなのっ」

「すごい……」


 自然でお洒落なカフェ。奥にミシンとテーブル、綺麗に並んだリボンと小物。ふふ、ことりちゃん、目がキラキラしてる。

 体験も出来るんだ、もうちょっと時間があったら良かったのに。

23: 2025/02/08(土) 16:02:39 ID:0wFfgLu200

「このレモン柄とか可愛いっ、バレッタもストラップも。全部可愛すぎるっ」

「ふふっ。ことりちゃんにピッタリなお店だね」

「うんっ。でもね、今日はもう決めてるんです」

「えっ?」


 指さしたのは、小さなリボンのイヤリング。


「今日お店に並ぶってチェックしてたの」

「ふふっ、さすがだね。私もお揃いで買っちゃおうかな」

24: 2025/02/08(土) 16:05:51 ID:0wFfgLu200

「あっ……1つしかないみたい……」

「……これって、色違いだよね」

「そうなの?」

「ほら、こっちの真珠色と桜色。うん、同じ」


 いい事思いついた。


  ◇

25: 2025/02/08(土) 16:07:56 ID:0wFfgLu200

 2つのイヤリングとお土産を買って、ミントブルーの車に戻ります。


「こうして……」

「あっ……そっか、ふふっ」


 ことりちゃんの耳にイヤリングを付ける。照れて目を閉じてる。可愛い。

26: 2025/02/08(土) 16:09:26 ID:0wFfgLu200

「私も、付けて」

「うんっ」


 片方を交換して、お互いに付けて。特別で大切なイヤリング。

27: 2025/02/08(土) 16:10:25 ID:0wFfgLu200

「くすぐったい……」

「えへへっ、ごめんね」


 あの頃は、目が合うだけでいっぱいいっぱいだったなあ。ことりちゃん、可愛いから緊張しちゃって。

28: 2025/02/08(土) 16:13:54 ID:0wFfgLu200

「はい、できました。初めてのお揃いだねっ。撮ろうっ」

「うんっ」


 ふふ、なんか恋人みたい。


  ◇

29: 2025/02/08(土) 16:20:21 ID:0wFfgLu200

 今日のゴールは芦原温泉。もうちょっと福井の中心部に泊まるのがいいと思ったんだけど、ことりちゃんがリクエスト。それに。


「カニ……!」

「大きいね……」

「美味しそう……」

30: 2025/02/08(土) 16:23:28 ID:0wFfgLu200

 舟盛り、天ぷら、茶碗蒸し、ずらっと並んでる。どれから食べよう。


「と、とりあえず野菜から……」

「う、うん……」


 まだ学生なのに、奮発しすぎたかも。


  ◇

31: 2025/02/08(土) 16:25:32 ID:0wFfgLu200

「大変申し訳ありません……」


 トラブルで大浴場に入れなくなっちゃったみたい。代わりに電車の1日フリーパスと宿泊代の割引。意外とラッキーかも。


「どうする?この部屋のお風呂は使えるみたいだけど」

「全然それで大丈夫ですよっ」

32: 2025/02/08(土) 16:29:06 ID:0wFfgLu200

 広めのお風呂。家族用なのかな。


「広いね。ふたりで入っちゃう?」

「うっ、ううんっ。ことり、後で入るっ!」

「そう?分かった」


 別に気にしなくていいのに。


  ◇

33: 2025/02/08(土) 16:33:40 ID:0wFfgLu200

 電気を消して、もう布団に入る時間。

 障子越しの月明かりで、梨子ちゃんの方をみます。

34: 2025/02/08(土) 16:36:37 ID:0wFfgLu200



「付き合ってる人、いるの?」

「いないよ、いないいない」

「じゃあ、ことりが立候補しちゃおうかなぁ、なんてねっ」

「……本当に言ってるの?」

「……うん」

「付き合うって、こういう事なんだよ?」


 梨子ちゃんが布団から出る。ことりの手を優しく握りしめて、落ちてくる髪を抑えながら――

35: 2025/02/08(土) 16:38:35 ID:0wFfgLu200

 なんてことになったらどうしよう。ことり、キュンキュンが止まりません。

 でも、やっぱり、そんな風にならないって分かってます。言えません。

36: 2025/02/08(土) 16:39:49 ID:0wFfgLu200

 仲良しになれたけど、心が焦がれて、もっと近づきたくなってる。言えない、けど消せない。

37: 2025/02/08(土) 16:41:38 ID:0wFfgLu200



 梨子ちゃん。寝てる。


 ことりが眠るまでだけ。

 見つめて、も。



「……」


  ◇

38: 2025/02/08(土) 16:46:27 ID:0wFfgLu200

 貰ったフリーパスで、福井駅に到着。恐竜がすごく視界に入ってくるけど、今はあんまりそれどころじゃない。


「ここの電車は空いてていいねっ」

「そうだね。お昼、やっぱりお蕎麦?」

「お蕎麦がいいなぁ。お店もいっぱいあるんだって」

39: 2025/02/08(土) 16:47:53 ID:0wFfgLu200

 夜の、あれってもしかするとそういうことなの?

 あれも、あれも、あれも? いつから?


「どうしたの? 梨子ちゃん」

「えっ? あっ、ごめん。なんでもないよ」

「もしかして、カツ丼の方が良かった?」

「う、うん。あっ、こことか両方あるみたい」

「じゃあ、決まりだねっ。行こっ」

40: 2025/02/08(土) 16:49:37 ID:0wFfgLu200

 でもことりちゃんが直接言ってるわけじゃないし、どうとでも捉えられる範疇、だよね。


 私は、どう捉えたいんだろう。


 そんなふうに考えたこと、なかった。

41: 2025/02/08(土) 16:53:43 ID:0wFfgLu200

 ことりちゃんのことはもちろん好きだし、ドキドキしたこともある。でも、本当に恋人ってなると今までとは変わるわけで。


「あっ、赤になっちゃった」

「……」


 簡単に答えを出していいのかな。

 そもそも、自意識過剰なだけかもしれない。


  ◇

42: 2025/02/08(土) 16:56:23 ID:0wFfgLu200

 帰りの電車の前に、ちょっと歩いて寄り道。変わってる、銀行の上にあるカフェを見つけたの。

43: 2025/02/08(土) 17:00:03 ID:0wFfgLu200

「軽めにしておこうかな……アフォガードください」

「自家製プリンと、今日のハーブティーでっ」


 待ってる間に、本棚を見てみる。向こう側の大きな窓、ちょっと雪が降り出してる。

44: 2025/02/08(土) 17:01:43 ID:0wFfgLu200

「あ、来たみたい」


 言いたいよ。でも、分かってる。きっと梨子ちゃんはことりを迎えに来てくれない。

45: 2025/02/08(土) 17:03:36 ID:0wFfgLu200

 友達のまま、このままでいいの。そばにいられなくなるのは嫌だから。


「美味しそうだね」

「はい。ひとくち、あーんっ」

「あ、あーん……?」

46: 2025/02/08(土) 17:04:47 ID:0wFfgLu200

「美味しい?」

「美味しい……っ」

「えへへ。幸せそうな梨子ちゃん見てると、ことりも幸せっ」


  ◇

47: 2025/02/08(土) 17:07:46 ID:0wFfgLu200

 行きは空いてたのに、高校生でいっぱい。座れない。とりあえず隙間に立っておくしかないかな。


「混んでるね……」

「試合でもあるのかな……」

48: 2025/02/08(土) 17:10:52 ID:0wFfgLu200

 顔が近すぎる。とりあえず下を見ておこう。長靴、スノトレ、濡れた床。あとふた駅なのに長い。


「降りるぞー」

49: 2025/02/08(土) 17:13:11 ID:0wFfgLu200

 大きいスポーツバッグに押される。壁に手がついた。よろけた足が滑って。


 ことりちゃんと、キスしてる。

50: 2025/02/08(土) 17:15:17 ID:0wFfgLu200

慌てて離れる。スペースが空いた分距離をとって。

 タタン、タタン。電車が揺れる音。

 気まずい。というかことりちゃんのあの顔。潤んだあの目は。顔、熱い。

51: 2025/02/08(土) 17:16:07 ID:0wFfgLu200

 もうことりちゃんの方見れないよ。


  ◇

52: 2025/02/08(土) 17:19:30 ID:0wFfgLu200

 電車をどうやって降りたのか分からない。ことりちゃんは。まだ、赤い顔のままだ。


「あのね」


 ことりちゃんが立ち止まって。俯いたまま、続ける。

53: 2025/02/08(土) 17:20:55 ID:0wFfgLu200

「もう、分かってると思うけど……私、梨子ちゃんの事が……好きなの」



「友達としてじゃなくて、恋愛の意味で好きなの……ごめんね」


 待って。立ち去ろうとする腕を引き止める。

54: 2025/02/08(土) 17:22:23 ID:0wFfgLu200

「離して――」

「嫌じゃなかった」

55: 2025/02/08(土) 17:26:09 ID:0wFfgLu200

 振り向いた。やっぱり、泣いてる。


「もしかして、そうなのかなって……思ってた。ことりちゃんの事をどう思ってるか、まだ答えは出せないけど……嫌じゃなかったから…………………………」



 気づいた。通りすがりの人と目が合う。

56: 2025/02/08(土) 17:27:12 ID:0wFfgLu200

「……うわあぁ…………恥ずかしい」

「……あっ……車乗ろっか」


  ◇

57: 2025/02/08(土) 17:28:37 ID:0wFfgLu200


「それで、次のお泊まりで梨子ちゃんが告白してくれて、ことりと付き合ったの」

58: 2025/02/08(土) 17:32:44 ID:0wFfgLu200

「ねー、梨子ちゃんはどんな告白したの?」

「私も聞きたいです」

「ええ……」

「ことりも聞きたいなっ」

「言いません」

「ふふ、じゃあことりだけの秘密ってことでっ」

「……ではそろそろいい時間なので」

「また遊ぼうね!」

「うん!またねっ」


 穂乃果ちゃんと海未ちゃん、久しぶりだったからいっぱい話しちゃったなあ。

59: 2025/02/08(土) 17:35:55 ID:0wFfgLu200

「告白……?」

「……サテナンノコトヤラ」

「じゃあ、思い出して」


 ことりの頭を撫でてくる。


「これは嫌じゃない?」

「嫌じゃないよ」

60: 2025/02/08(土) 17:37:50 ID:0wFfgLu200

 手の甲に、キス。梨子ちゃんの手、やっぱり綺麗だなって思ったっけ。


「これは?」

「ふふ。嫌じゃない」

61: 2025/02/08(土) 17:39:09 ID:0wFfgLu200

 壁ドン、顎クイ。


「……」

「えっと……誰に聞いたの、もう」


 覚えてるんじゃない、って顔してる。だって、ふたりの思いが通じあった日だもん。

62: 2025/02/08(土) 17:40:21 ID:0wFfgLu200

 両手でほっぺたを挟まれる。


「これは?」

「こにゅあのしゅてましぇん」

「ふふ、ちょっとやり返したかっただけ」

63: 2025/02/08(土) 17:42:16 ID:0wFfgLu200

 おいでって、梨子ちゃんが膝をたたく。


「……」

「……」

「ことりちゃん……ぎゅってしてもいい?」

64: 2025/02/08(土) 17:44:34 ID:0wFfgLu200

 身体を起こす。


「うん……」

「嫌だったら、言ってね……」


 目を閉じる。梨子ちゃんの顔が近づいてきて、キス――

65: 2025/02/08(土) 17:45:46 ID:0wFfgLu200

「しません」

「えぇぇん」

「……こうやって行動に起こしたのはことりちゃんだよ?」

「でもでも、積極的だったのは梨子ちゃんだよっ」

66: 2025/02/08(土) 17:48:19 ID:0wFfgLu200

「んー……旅行以降、肩とか背中とか開け出してたよね」

「あのお泊まりは梨子ちゃんに誘われたもん、他に誰もいないって言い出したのも梨子ちゃんだよっ」

67: 2025/02/08(土) 17:51:31 ID:0wFfgLu200

「……」


 梨子ちゃんが咳払いして。

68: 2025/02/08(土) 17:52:38 ID:0wFfgLu200

「今更だけど、聞いてくれる――?」

69: 2025/02/08(土) 17:55:45 ID:0wFfgLu200
終わりです。長々とありがとうございました。

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引用: 【ss】梨子「ことりちゃんとデート」