188: 2011/01/25(火) 14:50:03.96 ID:SVOiBc3o0
さーって書きため結構溜まったので投下しますよ。


【禁書目録】佐天「…アイテム?」【1】


あらすじ
佐天は初めての仕事の依頼をつつがなく終了させた。
ターゲットは氏なずに済んだ。

そしてアイテムに電話をすることが彼女の日常になっていく。
アイテムのメンバーは彼女の事を電話の女と呼んでいます。


189: 2011/01/25(火) 14:50:35.26 ID:SVOiBc3o0
因みにスーパーマリン社の産業スパイ摘発以後、佐天の元に寄せられた仕事の依頼はこんな感じだった。



1:クローン技術漏洩に関して容疑がもたれている品雨大学教授の“処分”
2:横田基地の米軍将官達と学園都市の理事会員達主催の友好記念祭りの警邏活動
3:日本国防衛庁幹部の学園都市兵器群の視察団の護衛


例えば、防衛庁幹部が学園都市に来園した時、絹旗は警備員に扮したテ口リストが乗っているハマーを叩きつぶした。
その手際は防衛庁幹部をテロの恐怖におびえる暇を与えず、むしろその手際の良さから彼らの拍手を誘った。


また、横田基地の交流祭りでは品雨大学の件と同様にフレンダが活躍した。
彼女はアキュラシー・インターナショナルAWSを利用し、過激派のスナイパーを一弾で射頃した。
消音機が常備装着されている狙撃中を放つ、7.62mm弾を持ちいた中距離狙撃を敢行。
ピシュ!と見事な手際で過激派の男を一弾で血と肉の塊にかえた。


佐天はこれらを実際に見た訳ではないが、報告時の彼女たちのハイになった声と麦野の冷静だが、素直に褒めている口ぶりを聞いただけだ。
しかし、それだけで二人は相当な腕前だと言うことが分かる。


滝壺と麦野はまだまだその力の正体を明らかにした訳ではないが、彼女たちは二人とも能力者だ。
その実力は推して知るべし、と言ったところだろう。
とある魔術の禁書目録 31巻 (デジタル版ガンガンコミックス)
190: 2011/01/25(火) 14:51:36.33 ID:SVOiBc3o0
これらの依頼の内、防諜活動と言うよりか、寧ろ護衛の様な仕事もある。
これから推測するに、アイテムは雑務も行っているようだ。


とりわけ、1の任務終了後の報告で佐天は衝撃を味わうことになる。
何故なら、品雨大学の教授はアイテムに殺されたから。


顛末はこうだ。


(フレンダの報告書から抜粋)

私が教授を追い詰めた時、彼は腰の背の部分から拳銃を抜く動作を行った。

その動作に気づいた私が彼が引き金を押す前に拳銃を発砲。

頭部と心臓付近に一発ずつ被弾し教授は即氏。


押収した武器:デリンジャー
用いた武器:シグザウエルP230

以上。




佐天はこの報告を上層部にメールで送信する時、苦虫をかみつぶしたような表情だった。
それもそのはず。彼女自身が出した指令で初めて氏者が出たのだから。

191: 2011/01/25(火) 14:52:41.62 ID:SVOiBc3o0
例え、彼女の友人達である初春や白井でもレベル5の御坂美琴であっても人頃しはしていないだろう。
ましてや同じ無能力者のアケミ達なんて絶対に。


佐天はこの時、初めて自分が連絡をするだけの立場では無く、自分が人を殺せる命令を出せる立場にあることを知って恐怖した。


彼女には“殺人をした”という後悔の気持ちだけが心に残った。


(私が…頃した…!)



彼女は罪の意識に苛まされる。
殺人を命じた立場としての重責が彼女にズシンとのしかかる。


(何でおとなしく降参しないのよ…?)


佐天は知らないが、学園都市はその優位性を保つために、最高級の機密を誇っている(らしい)。
その資源も何もない一丘陵地帯が世界の中でトップを誇る技術力と軍事力を誇り続けるためには技術漏洩は御法度だった。


なので降参しても待っているのは長い禁固刑か、氏刑だ。
ならば氏を選ぶのも懸命な選択肢だと言えよう。


(降参しない、敵が悪いのよ…?私は悪くない…はは…そうよね?みんな?)


みんな、とは誰の事を言っているのだろうか。

192: 2011/01/25(火) 14:54:35.24 ID:SVOiBc3o0

いつも一緒に初春や御坂達か。アケミ達か。
或いは、まだ一度も目にしたことのないアイテムのメンバーか。


(飽くまで悪いのは…ターゲットの教授だったのよ…おとなしく捕まっていれば…よかったのに…)


善悪の二元論に陥り、自己を正当化しようとする。


最初の依頼で引き受けたダグラスの様に穏当に行かなかったのはたまたまだ、と自分に何度も言い聞かせる。
彼女はそうする事で人頃しをした免罪符が欲しかったのだ。


(はぁ…なんかとんでもない事やってるのかなぁ…私…)


後悔をしていても、今更後には引けない。


中学生には破格の収入、取り立てて自分の周囲に危害は及ばない。
実際に氏んでいる様を見たことが無い故に生じる安堵の気持ち。

人の氏がただの数字に見えるまでそれほど時間は必要なかった。


幻想御守の時の様にズルズルと、佐天は学園都市の最奥とは名ばかりの暗部に墜ちていった。

193: 2011/01/25(火) 14:55:23.37 ID:SVOiBc3o0
――八月十日

佐天の今日(八月十日)の日課は第七学区におけるマネーカードの捜索だった。


「うーん…この辺りにはもう無いかな…」


「あの…佐天さん?なにやってんの?」


佐天の背後から突如声が掛かる。
彼女の事を呼んだのは一体誰だろうか、後ろを振りかえる。


「あ、御坂さん!!御坂さんも例のカード探しですか?」


「あ、いや…」
(いっつも元気だなぁ…佐天さんは…)


御坂は今年学園都市に来た佐天と風紀委員の白井、初春の交友ルートから知り合いになった。


(えー!?なんで御坂さんがここにいるのよー?)


佐天は動揺しつつも御坂と話す。


「じゃーん!私もう四枚もゲットしましたよー!」


佐天はそう言うと御坂の前で拾ったマネーカードが封入されているカードを見せる。
御坂は「わスゴイわね」と驚く。

194: 2011/01/25(火) 14:56:00.71 ID:SVOiBc3o0
「何かあたし金目のものに対して鼻が利くみたいで…」


口から適当に出任せを言う。
マネーカードの予想配置図の存在を言えば、自分の身がどうなるか分かったものではない。


「鼻が利くって…」


という御坂の突っ込みを受け流すと佐天は適当に腕を掴むと走り出す。


(御坂さんと適当に雑談しながらカード探しますかねー)


結局、日が暮れるまで二人は一緒にマネーカードを捜した。
と言っても佐天の適当に探す振りをしてカードを見つけると言う超めんどくさい、出来レースだったが。

195: 2011/01/25(火) 14:58:04.72 ID:SVOiBc3o0
「じゃ、今度は初春達と一緒にさがしてみましょー!」


「あ、ばいばい!佐天さん」
(いっちゃった…)


美琴は佐天と裏路地でマネーカード探し一緒にした後、帰ろうとした。
すると背後から男達の会話が聞こえてくる。


「…女が例の封筒を置いてるのを見えてさ…」


なにやら女の話をしている。例の封筒とはマネーカードが包まれている封筒の事だろうか?
男達の会話内容に興味を持った美琴はこっそり後をつけてみる事にした。


(見るからにガラの悪い集団ね…あったま悪そう…何企んでるんだか…)


暫く歩き、男達の後をつけていくと使われなくなった雑居ビルに到着した。
何人かの男の中に一人の女がいた。白衣を着ているので研究者だろうか?


(この状況…結構まずくない…?いつでも男達、ぶっ倒せる様に待機してた方が良いかも)


美琴は白衣の女に万が一の事があった時に備えてビルの影からこっそりと見る。
するとその部屋の電気が消えた。


(ちょっと…!中の女の子…平気なの?)

196: 2011/01/25(火) 14:59:39.62 ID:SVOiBc3o0
美琴の懸念をよそに、電気がつくと白衣の女を囲っていた女だけ一人で突っ立っていた。
男達は失神して地面に倒れ込んでいる。


「いやーオモシロイもの見せてもらったわ」
(実際にある能力か怪しいけど…話だけで男を黙らせちゃうなんてすごいわね)


美琴は部屋の電気を暗くた際に白衣を脱いだ女に向かって話しかけた。
するとその女はじろりと美琴を見つめると一言言った。


「あなた、オリジナルね」


「?」
(お、オリジナル?何よ?それ)



美琴がレベル5になってからたまに聞く噂があった。


『超電磁砲のDNAをつかったクローンが製造されるんだって』

『軍用兵器として開発されててもうすぐ実用化されるらしいぜ』


あり得ない、あり得ない。
美琴は今の今までそう思っていた。
しかし、美琴に似ている人物を見た、という目撃談もある位だ。
このギョロ目の女の話をただ笑頃し、看過するのも抵抗があった。

197: 2011/01/25(火) 15:00:07.49 ID:SVOiBc3o0
「アンタあの噂の事何か知ってるの!?」

美琴は気づけばギョロ目の女の肩を掴んでいた。


「知っても苦しむだけよ。あなたの力では何も出来ないから」


「私に出来ないってアンタだったら…」


ドゴッ


ギョロ目女のローリングソバットが美琴の脇腹に突き刺さる。
どうやら彼女の前では長幼の序はしっかり守らないといけないようだった。


「マネーカードをまくのもその一環」


そう言うとギョロ目の女はマネーカードを撒く理由を説明する。
カードをまいて普段意識が向かない路地や裏通りに意識を向けさせ、そこで行われるであろう実験を阻止している、と言うのだ。


「え?ちょっと…どういう事?意味が分からないわよ…?」
(実験…?阻止…?しかも私じゃどうにも出来ない事…?)


美琴はギョロ目の女に更に詳しく話しを聞き出そうとするが女は机の引き出しにある冊子に火をつけるとそのままどこかに消えていった。

198: 2011/01/25(火) 15:00:46.32 ID:SVOiBc3o0
「え?ちょっと…どういう事?意味が分からないわよ…?」
(実験…?阻止…?しかも私じゃどうにも出来ない事…?)


美琴はギョロ目の女に更に詳しく話しを聞き出そうとするが女は机の引き出しにある冊子に火をつけるとそのままどこかに消えていった。


結局美琴は心の中のもやもやが晴れず、電話ボックスの端末回線から彼女の通っている学校にアクセスしてみる事にした。


(布束砥信…三年生十七才…………樋口製薬第七薬学研究センターでの研究期間を挟んだ後…本学に復学…)


(って言うことは彼女は…ここで私のDNAマップを利用した研究を…?)


現段階で分かるのはここまでが限界だった。
ならば、実際に行って確かめてみるしかない。


今日拾ったマネーカードを利用して大型量販店のラ・マンチャで替えの衣服を購入すると美琴はホテルで着替えて樋口製薬の研究センターに侵入する。




侵入はあっけなく成功した。
電気的な警備システムは美琴の前では全く用を為さない。稚戯に等しい。


セキュリティと言うにはほど遠い勤労意欲に欠けるガードマン達の合間を縫って美琴はいとも簡単に樋口製薬の内部に潜入した。
そこには製薬会社とは名ばかりで人一人が軽く入れる培養器がいくつも配備されていた。

199: 2011/01/25(火) 15:01:14.73 ID:SVOiBc3o0
薄明るい研究所のライトに照らされてぱっくりと口の開いた培養器は今にも何か出て来るような気配を彼女に感じさせた。



(な、なによここ…製薬会社にこんなに大きな培養器がなんで…?)


美琴は思った。まさか、ここで私のクローンが作られているのではないかと。
そんな事を考えつつ彼女は奥の部屋に向かっていく。制御室だ。


彼女の得意技であるハッキングで砥衛薬会社のパソコンを起動させる。
そしてデータを復元させる。
するとディスプレイに次々を言葉が表示されていく。



『超電磁砲量産計画 妹達 最終報告』


美琴は一瞬唖然とする。そしてその次に瞬間に体に言いしれぬ悪寒を感じた。


(え?ちょっとあの時のDNAマップが?)

あの時…美琴は幼少時代に医師にDNAマップを提供した事がある。
今回のクローンもそこから作られたと最終報告書には記載されている。

美琴は後悔した。
実は幼少時代、DNAマップを提供したことによって自分のクローンが生まれてしまったのだという事実に。


しかし、この文章には続きがあった。
美琴は最終報告を読み進めていく。

どうやら御坂美琴のクローンはレベル5にはならず、よしんばレベル3のクローンまでしか製造できない、との事だった。


これによって美琴のクローンである妹達は中止し、永久凍結されたそうだ。この研究に携わった各チームも順次解散しているらしい。


「はは…は、やっぱ私のクローンなんているわけないんじゃない…」


「さ、寮監に門限破りがバレる前にさっさと帰りますか」
(何よ、あのギョロ目、脅かしてくれちゃって)


美琴は夕方会ったギョロ目、もとい布束砥信の言っていた事の事実確認を済ませると足早に去っていった。

200: 2011/01/25(火) 15:01:53.01 ID:SVOiBc3o0
――八月十五日

美琴は以前風気委員の仕事で知り合った子供達と一緒に街を歩いていた。
その時、不意にキィィィー…と言いしれぬ感覚を感じ取った。


子供達と解散すると美琴はその感覚を知覚した方向に向かって歩いて行った。


そこには木を見つめている、常盤台中学校の制服を着た御坂美琴にそっくりな女の子がたっていた。


「――――――――」


その女は無言で美琴を見据える。
美琴はその視線に耐えかね、たらりと冷や汗を掻く。



「あんた…何者?」






聞けば彼女は御坂美琴のクローンらしい。
しかし美琴には懸念があった。それは数日前に侵入した樋口製薬の中で確かに見た妹達製造計画の凍結。


(確か…妹達の計画は終わったはず…何で私のクローンが?)


「例の計画とやらは終わったはずでしょ。何でアンタみたいのが存在するのよ」


そう。確かにあの計画は終わったはずなのだ。クローン製造計画は中止。
美琴が自分のクローンから答えを待つ。


「ZXC741ASD852QWE963'……」

意味不明な言葉の羅列が帰ってる。
美琴は「あ?」と首をかしげる。


「やはりお姉様は実験の関係者ではないのですね…」


暗視ゴーグルを頭に嵌めた美琴そっくりのクローンは抑揚がない調子で言い放つ。

201: 2011/01/25(火) 15:02:19.91 ID:SVOiBc3o0
どこの誰が彼女を作ったのだとか、何の為に作られたのか。
それらの事を美琴はクローンに聞いてみるが機密事項の様で、何も言えない。


ついに業を煮やした美琴はぐいとクローンの腕を引っ張った。


「力ずくで聞いても良いんだけど?」


彼女の力はレベル5。クローンでは劣化した能力を生成するのが限度と昨日の樋口製薬の最終報告書を読んで熟知していた。
それもあってか彼女は強気になってクローンに話しかける。


シーン…


クローンは何も答えなかった。
美琴はあきれ、手を話す。


「もういいわ、私がアナタの後を追いかけて製造者の事とっちめてやるから」

202: 2011/01/25(火) 15:02:46.31 ID:SVOiBc3o0
すっかり日はくれてしまった。
美琴はクローンの後を追いかけ(半ば遊ぶような形になったが)ていたが結局彼女の製造者はそれにかんする情報は全く得られなかった。


「ちょっと…いつになったら帰るつもりなのよ」


「ミサカは実験があるので帰りません」


「あ、そうそう。お姉様が知りたい実験の内容や製造者に関してですが、お教えすることは出来ません」


「は?」


美琴の半日が無駄になった。


(おいおいおいおい!マジかい)


だが、美琴とてクローンにあって、「はい、そうですか」と言って帰れる訳がない。


(そう言えば…この子、座標コードみたいなのつぶやいてたわよね…?)


美琴はコードを解析しようと思い、スカートのポケットに入っているPDA端末を取り出そうとする。

203: 2011/01/25(火) 15:03:16.02 ID:SVOiBc3o0
カラン…


ポケットから何かを落とす。缶バッチだ。


「これは…?」


美琴が拾うよりも早くクローンが反応する。


「あ、いや、これはハハハ……!」
(あ、良いこと考えた)


美琴はクローンが凝視している缶バッチを拾うと彼女の制服の下腹部の辺りにそのバッチをパチンとつけてやる。


「何でしょうか?」


「これで見分けがつくでしょ?鏡で見るよりももっと客観的にわかるわ」


「いや、ねーだろ」


「?」


その言葉に一瞬狐につままれたような表情になる美琴。

204: 2011/01/25(火) 15:03:54.28 ID:SVOiBc3o0
「こんな幼稚なセンスなんて…素体のセンスの無さにミサカは動揺を隠せません」


「じゃ…じゃぁ返しなさいよ…」
(クッソ…自分のクローンにもセンスを否定されるなんて…!)


若干の恥ずかしさと悔しい気持ちが湧く。
美琴はクローンに手を伸ばし、バッチを回収しようとする。


ペチン


「え?」


クローンに手を伸ばした美琴の手ははたかれる。


「な、何よ?」


「お姉様の今行った行為は強奪です。バッチの所有権はミサカに移ったとミサカは主張します」


その後、小一時間バッチの奪い合いに興じる事になるが、美琴は拉致があかないと判断し、バッチを渡した。





「お姉様から頂いた初めてのプレゼントですから」

美琴のクローンは一瞬、ほんの一瞬、笑った。

205: 2011/01/25(火) 15:04:21.01 ID:SVOiBc3o0
(結局実験の事は何も聞けなかったなぁ…)


クローンは時間がきたとかなんとか言って立川駅のロッカーに向かっていってしまった。
美琴は寮監にばれないようにどうやって帰ろうか、と考えながら街を一人歩いていた。



(コード…何だったんだろう)


ZXC741ASD852QWE963'…クローンが言っていたコード。


(初春さんならわかるかも…)


美琴は公衆電話に駆け込む。
そこで初春に電話をかける。


「ちょっと良い?初春さん」


美琴はコードの事を初春に聞く。
能力は低いものの、演算能力の早さではかなりの速度を誇る初春なら、このコードも解読できるのではないか、そう考えた。


受話器越しにカタカタと打鍵するキーボードの音が聞こえる。

206: 2011/01/25(火) 15:04:49.26 ID:SVOiBc3o0
『なんだかよくわかりませんねぇ…妹達を運用したレベル6への進化法…なんですかね、コレ。一応御坂さんにも送信しますね』


「妹達を運用…?」


嫌な予感がした。
妹達…即ち先程まであっていたクローンの事…『達』と言われている限り、一人ではないと言うことだろうか。


(何よ?レベル6なんて…そんなの存在するの?)


美琴が逡巡していると、初春からメールが送られてくる。


『すいません、御坂さん。私、風紀委員の夏季公募と夏休みの宿題に終われてて…すいませんが…』


「あ、うん!お手数かけちゃってごめんね!」


電話が唐突に切れる。
美琴は初春から送られてきたファイルを食い入るように読んでいく。

207: 2011/01/25(火) 15:05:17.33 ID:SVOiBc3o0
『絶対能力進化法(レベル6)』

『学園都市には七人のレベル5が存在するが……レベル6にたどり着ける者は一名のみと判断した』


『当該被験者にカリキュラムを施した場合レベル6に到達するには二五○年もの歳月を要する』


『これを保留し実戦による能力の成長促進を検討した』


『ツリーダイアグラムの予測演算の結果…』




『超電磁砲のクローンを一二八回殺害する事でレベル6にシフトする事が判明した』


『しかし、超電磁砲のクローンを用意する事は不可能な為、妹達のクローンを利用し性能差を埋めることとし…』


『二万体の妹達と戦闘シナリオをもってレベル6へのシフトを達成する』

208: 2011/01/25(火) 15:06:07.55 ID:SVOiBc3o0
「ハハハ…狂ってるわよ…こんな事出来るわけがない…」


「私を頃す…?代わりに妹達を…?レベル6?」


美琴は口では否定しつつも頭では否定できなかった。

つい先程まで一緒にいた妹達の内の一人。缶バッチをつけたクローン。
彼女は実験をするためにどこかに消えていってしまった。


美琴はPDA端末のカーソルを下におろしていく。
すると座標が指定されていた。


(ここで…実験が…?)


(…まさかね…?)


彼女はそう思いつつも、拭いきれない懸念と悪寒を胸に、公衆電話を飛び出し、座標地点に向かっていった。

209: 2011/01/25(火) 15:06:45.01 ID:SVOiBc3o0
分倍河原 
ここには貨物の操車場がある。


一般人は立ち入り禁止となっているこの場所で戦いと言うにはおこがましい程の戦いが行われていた。


「逃げてばかりじゃァ、オレの事は倒せませンよォ?」


真っ白な肌に、夜でも分かる赤い目、そして銀色の髪。
学園都市第一位一方通行。
彼は缶バッチをつけた御坂美琴のクローン――性格に言えばミサカ9982号と戦っていた。


「ク…ッ…!」


9982号は逃げる事しかできなかった。
銃器の類は全く効かない。どういう訳か全て反射してこちらに跳ね返ってくるではないか。


「オイオイ…逃げ足だけは速ェのな…クカカ」



一方通行はとぼとぼとゆっくり9982号に向かって歩いてくる。
勝敗こそ決していないが、その足取りは既に勝ち誇った勝者のそれだ。

218: 2011/01/26(水) 10:32:10.83 ID:kFxmX+Fj0
そんな一方通行がジャリ、ジャリ…と線路の石の上を歩いて9982号に向かってくる。


「(目的地への誘導に成功しました)」


かすれるような小さな声で9982号がつぶやく。
そのつぶやきがまだ良い終わらぬうちに付近の地面が爆発する。


切り札の対戦車地雷だ。


(吹き飛べ、第一位)



ベアリングを混入した高性能火薬を用いたかなりの破壊力を秘めた地雷だ。
米軍の正式採用タンク、エイブラムスクラスなら軽くふき飛ばす程の大型地雷が炸裂する。





ドゴォォォン…!





爆煙が巻き上がる。


(終わった…?)


9982号が爆煙を見つめる。

219: 2011/01/26(水) 10:36:04.85 ID:kFxmX+Fj0
9982号が爆煙を見つめる。
「目標…沈黙…?」


じっと爆煙を見つめる。もう動ける体力など殆ど残っていない。
体の至る所が痛い。


(早く治療しなければ…ミサカはかなりヤバい…状況ですね…そーいえば、救急車なんてきてくれるんですかね…?)

怪我の治療の事をふと考えたその時。



ボヒュ…


煙の中から一方通行が飛び出してきた。
電光石火の勢いで9982号の脚を鷲づかみにすると軽く引っ張る。


ぶちブチ ボギャ


「あは…ぎゃっは…脆れェなァ…!」


「――――――――――!!」


声にならない叫びが木霊する。
9982号の脚が太ももの上の部分から引きちぎられた。


一方通行は引きちぎった脚からしたたり落ちる血をぺろりとなめる。


「まじィ…クローンの血はまじィなァ…腹の足しにもなンねェ…」


「…クッ!」

220: 2011/01/26(水) 10:39:43.83 ID:kFxmX+Fj0
9982号は最後の力を振り絞った電撃を浴びせるが、それも反射して自分に当たる。
即座に勝てないと判断した彼女はとぼとぼと残された一本の足を引きずってイモムシの様に前進する。


「…く…は…ひ…ぐぐ…」


彼女は喋れるような精神状態ではない。
自分の体液が目の前の得体のしれない人物にのまれ、理不尽にその綺麗な脚を引きちぎられることは犯される事と同じ位に屈辱にまみれることだろう。
彼女は一本の脚と二本の手で逃げようとするが…落し物をした事に気付く。

美琴からもらった缶バッチだ。



「オイオイ…そっちは行き止まりだぜェ?逃げねェのかァ?」
(ったく逃げる奴をなぶる方がおもれェのになァ…この手の相手は…クカカ、それともこの状態のコイツを犯すか…ヒャハ…悪くねェ…)


「ハァはぁ…ハァ…」


9982号はいつの間にか外れていた缶バッチを拾おうと思い、行き止まりの方へと歩をすすめる。


「ふーンそのバッチ、大事なもンなのか?」


「アナタに答える義理はありません」


「あー、そォ。なンか同じ女何回犯してるかわかンねェケド…オマエはやっぱ良いや、なんか脚ねェし…クカカ」
(犯す話はなし。もういーや)


「…そうですか。では早く頃して下さい」


「いわれなくとも」

221: 2011/01/26(水) 10:40:12.86 ID:kFxmX+Fj0
ぽいっとまるで何かを投げ捨てるような感じで一方通行は線路の測定調整車を投擲する。
その車輌はゆうに一トンを越える。


ドゴンという炸裂音の中に僅かながらプチっと生ものがつぶれるような音が聞こえる。



「本日の実験、終了ォー☆」


白い悪魔は口元だけ不気味に歪ませ、数十分の戦いを締めくくる一言をはいた。

222: 2011/01/26(水) 10:41:42.70 ID:kFxmX+Fj0
一方通行の実験を近くの高架鉄橋で見ていた美琴。

(な…ちょ…え?)


目の前で繰り広げられる凄惨な光景を直視していた彼女はしかし次の瞬間、一方通行が9982号の血を舐める光景を目にする。


「う…お…オエ…」


美琴は高架におう吐する。
だが、ここで座していてはいたずらに自分のクローンが氏ぬだけだ。




自分とうり二つな人が氏にかけている。
そんな光景を目の前で見た事がある人はいるだろうか。恐らく居ないだろう。
世界にただ一人、御坂美琴を覗いて。



ドガァアアアアアアアアアン


爆音が響き渡る。
一方通行の投擲した車列が片足をもがれ、真っ白な骨をむき出しにした美琴のクローンに投擲されたのだ。


最後に見えた光景――それはクローンが大切そうに、本当に大切そうに缶バッチを握りしめた光景だった。




「―――――――――!」


自分でも何を言ったかよく覚えていない。
9982号は車両の下敷きになった。おそらく生きてはいないだろう。

223: 2011/01/26(水) 10:43:13.40 ID:kFxmX+Fj0
(…なん…てことを…!)


美琴は雄々しく、勇敢に一方通行に立ち向かっていった。


彼女の目に狂いがなければ、9982号は確かに缶バッチを大切に握りしめながら氏んでいった。
彼女はその光景をまざまざと見た。理性を保てるはずがなかった。


胸の内に沸く憎しみ、憎悪、混乱…。
あらゆる感情を内包した彼女は一方通行に全身全霊の攻撃を仕掛けた…。



砂鉄の嵐、線路の枕木を外した鉄による殴打、そして最強を誇る…と信じていた超電磁砲を放つ。



「クカカ…足りねェ足りねェ…小さすぎるぜェ…第三位…」


「…はぁ…はぁ…化け…もの…め!」


「最後の…コインぶっ放すヤツ…あれが切り札っぽい感じだったが…ひゃひゃひゃ…全く効いてませェン」


美琴の攻撃を全て立ちつくすだけで、受け流した、否、反射した男。
その男は禍々しく美琴を嗤う。


彼はすたすたと美琴に歩いて来た。


「いっつもいっつもお世話になってンぜ?お前のクローンにはよ」


はぁはぁ、と肩で呼吸する美琴の隣にゆっくりと一方通行が歩いてくる。


「オレの名は…」


「一方通行だ…」



「よろしくゥ」


美琴はすとん、と腰を抜かしてしまった。
そして戦場となった操車場の事後処理をする妹達が現れる。

224: 2011/01/26(水) 10:44:14.56 ID:kFxmX+Fj0
――八月十六日

美琴は多摩センターの駅前で座っていた。
目からは全く生気が感じられない。


それもそのはず。
彼女は昨夜二十一時から始まった、第九九八二回目の実験を目撃し、介入し、敗北したから。


「ベンチで夜明かししている少女がいると思ったらあなただったのね」


目の下に大きなくまを作った美琴はおもむろに顔を上げる。
そこには数日前に雑居ビルで遭遇したギョロ目の女。布束砥信がいた。


「その様子だと…計画を知ってしまった様ね…」


「あなたには止めるすべがないから関わらない方が良と言ったのに…」


「…何であなたはこの実験に加担して居たのにマネーカードをばらまいていたの?」


布束が妹達の量産計画に加担していた事はPDA端末ファイルで入手した情報で美琴は既に知っている。
しかし、そんな彼女が何故、量産計画の延長に当たるこのレベル6シフト計画を妨害しているか美琴には分からなかった。


「世界とは…こんなにもまぶしいものだったのですね」


「は?」


「以前ラボの屋上から外の景色を見せた時、あの子が言った言葉よ」


「…そう」

225: 2011/01/26(水) 10:45:48.94 ID:kFxmX+Fj0
布束が以前妹達量産計画が凍結して一度研究チームから外れた際、布束と妹達の一人は施設の屋上から街の風景を見た。
その時に妹達の一人が発した言葉。その一言が布束の心を揺さぶった。


「あの時から私は彼女達を作り物とは思えなくなったわ」


「あなたは彼女(クローン)達の事をどう思ってるの?」


布束は美琴に問いかける。
彼女は体育座りをしたまま黙っていたが、やがて顔を上げる。


「私は…クローンを人間としてなんてみれない…」


「でも…人のDNAマップをくだらない実験に使っている奴らを見過ごすことは出来ないわ」


「私が撒いた種だもの。自分の手で片をつけるわ」


美琴はそう言うと重い腰を上げる。
目の下に出来たくまと、この狂った学園都市の闇に対する負の感情が彼女を起き上がらせる。


「研究関連施設は20をくだらないわよ?一人でやるつもり?」


「私を誰だと思ってるの?」


美琴は後ろから聞こえる布束の声に振り向き、答える。




「常盤台のレベル5、最強のエレクトロマスターよ」





美琴はそう言うとふらふらした足取りでその場を後にした。
一方通行に勝てない事は昨夜の戦いであっけなく証明されてしまった。


ならば研究に関連している施設を吹き飛ばすしかない。
施設を吹き飛ばしてこれ以上の犠牲者が出なければそれで良い。




美琴は街の雑踏に消えていった。
その後姿は彼女を知る人が見たならば、まるで他人に見えるだろう。
幽鬼の乗り移ったような彼女のうつろな表情はどこか妖艶な、しかし、妖刀の様な雰囲気をはらんでいた。

226: 2011/01/26(水) 10:46:28.51 ID:kFxmX+Fj0
――佐天の学生寮 八月十九日(美琴が一方通行の事件を目撃してから四日後)

「じゃ、また明日ね、初春、白井さん」


「はい、また明日ー佐天さん、白井さん」




佐天は夏休みまっさかりと言うことで初春や白井と第二十二学区の地下街で遊んでいた。


当初は美琴がいないのがいやだ、なんだ、と言っていた白井は結局来た。
だったが遊び始めるとわいわいと騒いでいたので、一応楽しんでいたのだろう。


美琴はなんだか最近とりつく島がない、との白井談。なにやら緊急事態だろうか?
白井に聞くところによれば、何でもここ最近寮の方にも戻っていない、との事。



(御坂さん、最近どうしたんだろう?)



佐天は美琴の事をぼんやりと考えながら日焼け対策の水スプレーを肌に振りかける。


(何かあったのかな…?)


ういーん…ういーん…


(お、きたきた)

227: 2011/01/26(水) 10:46:56.24 ID:kFxmX+Fj0
電話の女。


アイテムのメンバーからはそう呼ばれる様になった。
興味本位でやり始めたこの電話をする仕事に彼女は最近慣れはじめていた。


いや、“慣れている”…少し語弊があるかもしれない。
八月の第一週に人材派遣の勧誘で始めたこの仕事。


初めて氏者が出た―フレンダが射頃した―品雨大学の一件。
そこから何件かの依頼が佐天の携帯電話に入ってきた。


送信者はすべて学園都市治安維持機関とかいう所から。
仕事の依頼を出し、報告が来るときに記載される任務の詳細。


氏傷者の数や捕獲した兵器やサンプル資料。
佐天が必ず目を通すのは氏傷者の項目だった。


事後処理として下部組織が詳細をまとめた報告書を送ってきたり、アイテム自身が報告書を送ってくる事もある(こちらはかなり大雑把な感じだが)。
これらの報告書を佐天は学園都市治安維持機関に転送するのだ。
かなり大雑把な報告書でもいいので、おそらく治安維持機関は任務させ完遂すればいいのだろう。


ここ最近は二日に一回、佐天の携帯に仕事が舞い込んで来る。
それを彼女はアイテムに伝達する。


佐天は任務が終了して送られてくる報告書を軽く流し読みすると治安維持機関に報告する。
彼女自体、その機関がなんなのかよく把握していないが、恐らく風紀委員や警備員とはまた別の組織なのだろうと勝手に推察する。


(ふーん…昨日の仕事…あ、二人氏んだんだ)


フレンダの中距離射撃で一名氏亡、絹旗の投擲した車に押しつぶされて一名氏亡


初めて品雨大学の教授が氏んだ報告書を受け取ったとき、佐天は謝罪の念に駆られた。
人の人生を奪ってしまったから。


しかし、今ではその氏傷者の報告はただの数字と化し、彼女の興味をそそるまでには到らなくなっていた。
一人殺せば殺人者だが、百人を殺せば英雄である、というチャップリンの言葉はまさしく的を得ていた。


人を頃すことはもちろん重罪だ。
しかし、その人が何かしらに違反しているのだ、佐天はそういう人物を斃していると、自分に言い聞かせてこの仕事をこなしていた。
いや、もはやそれすら辞めて、ただ任務を通達しているだけなのかもしれない。

228: 2011/01/26(水) 10:47:23.01 ID:kFxmX+Fj0
『えー続いてニュースです』


佐天がテレビをポチッとつける。


『品雨大学の研究棟で火災が発生しました』


(品雨大学…ってあの教授が抜けたとか…この全く人騒がせな大学ねー)


日焼けした肌にしっとりしめったタオルをあてがいながらニュースを見る佐天。
ニュースの内容からすれば氏傷者は居ないものの、研究棟で行われてい研究は暫く凍結するとの事だ。


(ふーん…なんか物騒な世の中ねー)


佐天は他人事の様にテレビの内容をぼんやりと見ながら思った。


『続いて新たに入った情報です…!磁気異常研ラボにも火の手があがった様です…』


『なお…侵入の形跡はなく…いきなり電子機器がショートした模様で、学園都市に電力を供給している会社の技術者達が緊急招集され…』


『あ…あらたに入った…情報ですと…バイオ…』



テレビのキャスターは刻一刻と入る情報にてんてこ舞い状態だった。
ニュース内容よりも動揺してあたふたしているキャスターを見ている方が佐天は面白かった。


229: 2011/01/26(水) 10:47:53.20 ID:kFxmX+Fj0
(電子機器のショートとか…ってか破壊されすぎじゃない?)


(外部からの接続だけでこんな事出来るの?テロって言うからにはもっと直接侵入する様なイメージがあるけど)


(電子セキュリティを破壊するだけで目的は達成されてるのかしら?)


ここ最近で得た知識で佐天は考える。
ニュースをみる限りだと何故か生物学的分野で頭角を現している方面の施設ばかりが攻撃を受けている。


(電子セキュリティを外部から解除出来てなおかつ施設のパソコンに侵入するってまさか初春?)


彼女の親友である初春飾利は確かに高度な演算能力を買われて風紀委員のハッキングを未然に防ぐ防衛ラインを構築した実績がある。
しかし、初春がこの施設を破壊する理由が全く思い浮かばない。


(ははは…いくら初春が演算できるからってこんな事はしないよ)


(誰なんだろ?こんな事するの?)


(…もしかして…御坂さん?…ってアホか私は)


ここ最近遊びに誘っても来ない美琴。白井は言っていた。「とりつく島がない」と。


(…あ…はははは…まさかまさかぁ…だって…ねぇ?御坂さんも研究所を吹っ飛ばす理由なんてないに決まってるじゃない)


(学園都市には二五〇万も人がいるんだし…まさかね)

230: 2011/01/26(水) 10:48:28.36 ID:kFxmX+Fj0

佐天は再びニュースを見る。
今度は逆にキャスターのあたふたする素振りが妙にうざったく見える。


『蘭学医療研究所でも新たに火災が発声したと…!』


(…なによ…これ…!)


聞けば学園都市の複数施設が既に電子セキュリティが解除され、通信回線からの攻撃をしているとの事だった。


『サイバーテロが行われている様です…!引き続き情報が入るまでお待ち下さい…!』


初春は学園都市の治安を守る風紀委員に所属している。
学園都市の施設を破壊する様には見えない。理由もない。


しかし、御坂美琴は…?
サイバーテロを起こさないと断言できる理由が思い浮かばない。



(考えすぎ…よね?)


佐天はニュースを見ながら次の情報が入ってきたその時だった。


ういーん…ういーん…


仕事用の携帯電話が鳴る。

231: 2011/01/26(水) 10:49:08.80 ID:kFxmX+Fj0
またあとで

233: 2011/01/26(水) 16:44:56.96 ID:kFxmX+Fj0
あらすじ
一方通行のレベル6シフト実験をまざまざと目撃し、そして戦いを挑んだ美琴。
しかし、彼女は指一本触れられず敗北する。
翌日布束と遭遇した美琴は狂った計画を阻止しようと考えた。
美琴は各施設を潰していく。

ちょうどその時、佐天の携帯に連絡が入ってくる。

234: 2011/01/26(水) 16:45:59.10 ID:kFxmX+Fj0
(ま、まさか…?仕事?)


このタイミングで仕事の依頼が来る…?佐天はおそるおそる携帯のメールをタッチする。


-----------
From:製薬会社

Sub:仕事依頼・緊急

アイテムには明日、施設を防衛して欲しい。
なお、この依頼は当社からの依頼で上層部に裁可されているオーダーだ。


さて、仕事に関してだが、通信回線と電気的なセキュリティに引っかからない事から、エレクトロマスターの犯行ではないかと思われる。


なお、アイテムにはターゲットが施設に侵入した際のみ、邀撃。
それ以外にこちらから攻撃を仕掛ける事を禁ず。


当該目標である犯人の素性の詮索も同様に禁ず。
これらの事をアイテムにも伝えて頂きたい。


施設見取り図.jpg

以上。
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235: 2011/01/26(水) 16:48:17.44 ID:kFxmX+Fj0
(エレクトロマスター…)

佐天はその言葉を反芻する。
まさかアイテムと御坂美琴が戦う事になるかもしれない。


学園都市には他にもエレクトロマスターの人間が居る…はず。
何も御坂だけではない。


(まさか…ね。御坂さんな訳がないよね?)


佐天は自分に言い聞かせる。
しかし、御坂ではないと言い切れる証拠がない。



(どうか…御坂さんじゃありませんように…)


もはや祈るような気持ちだった。彼女が施設を襲撃したのか、それとも。


(詮索はダメか…とりあえず…麦野さんに電話…っと)


電話の時は年上の人の名前を呼ぶと「さん」付けで呼んでしまう可能性がある。
なので「こいつら」とか「こいつー」とかの方が呼びやすかったりする。


佐天はメールタブを開いたまま、通話ボタンを押す。
今日もアイテムは仕事に従事しているはずだ。


アイテムや下部組織からは仕事の終了連絡はまだ来ていない。
だが、緊急と指定されている案件なので佐天は麦野の携帯に電話をかけた。

236: 2011/01/26(水) 16:48:54.65 ID:kFxmX+Fj0
(御坂さんじゃ…ないよね…ははは…)


犯人の素性の詮索を禁止する、という事は当該人物の身元が明らかになって、その人物が関わっていることが知れたらまずい事態になるのではないか。
だからこそ、その人物の詮索を禁止するのではないか。と言うことは仕事をよこしてきた製薬会社は侵入者の正体を知っている可能性がある。


(侵入者の正体…製薬会社は知っているの…?)


(なのに敢えて言わない…って言うことはその人は学園都市の裏事情に通じていない人って事…?)


佐天は麦野が携帯に出るまで必氏に推理をめぐらす。
そして、その推理が外れる事を祈る。


(学園都市の裏以上に通じてなく…且つ…エレクトロマスター…御坂さんしかいない…!)


エレクトロマスターなんて沢山いる学園都市。
だが、学園都市広し、と言えど、通信回路を外部から遮断し、火災を発生させるほどのエレクトロマスターはおそらく限られているだろう。



(こんなお子様中学生の推理なんか外れてくれ…!)


ベッドに座りながら麦野が電話に出るのを待つ。
佐天の手にじわりとにじむ汗。

ベッドにそれをなすりつける。
ニュースから流れる声がただの雑音に聞こえる。



『はぁい、アイテム』


麦野が電話に出る。
佐天は震える声で言い放つ。





「し、仕事よ…!」

237: 2011/01/26(水) 16:49:39.69 ID:kFxmX+Fj0
「でも、結局水着って人に見せつけるのが目的な訳だから、誰もいないプライベートプールじゃ高いヤツ買った意味がないっていうか」


「でも市民プールや海水浴場は混んでて泳ぐスペースが超ありませんが、っていうか私達が外泊申請出して通るかどうか…電話の女に掛け合ってみましょうか?」


「うーん…まぁそれもあるわね…滝壺はどう思う?」


「私は浮いて漂えるスペースがあればいいかな?」


「「はぁ」」


アイテムのメンバーは今日もお仕事。
ちょっとした武装集団との戦闘だったがいかんせん簡単すぎた。
麦野と滝壺は今回も一回も能力を顕現させることはしなかった。


「でも、きぬはたの言ってた事が重要かも…私達の外泊申請が通るかって事だよね」


「問題はそこですよねー…暗部の私達がしゃぁしゃぁと外に出て良いのかって事ですよ」


「かー!小さいことは気にしないって事よ!今度みんなで海いこう!ってかさっさと外出たいなー」


「だから、フレンダ。外泊申請が…」


「いや…外泊じゃなくてさ…」


「?」

滝壺が首をかしげる。



「製薬会社からの依頼ー?」


麦野の甘ったるくちょっと大きい声が裏路地に響く。
アイテムの三人は雑談を辞めて一斉に麦野の方を向いた。

238: 2011/01/26(水) 16:50:27.88 ID:kFxmX+Fj0
「取り敢えず仕事中にゴメンね」


佐天は受話器越しに一言麦野達にあやまる。


「昨日今日でちょっとサイバーテロが起きてるのは知ってる?」


すっかりこの仕事が板についた佐天。
最初は敬語を使うかどうかで悩んでいた彼女も今では同年代の友人と話す様な感覚で喋っている。


『サイバーテロ?』


「うん。複数の施設が何ものかに潰されててね…」


佐天は通話モードのタブをタッチパネルで右に追いやり、器用に先程送られてきたメールを開く。
そしてすらすらと製薬会社の依頼メールを読み上げていく。


「で、なんだか知らないけど、守る施設は既に決まってるみたいで、みんなにはそこに行って欲しいの」


佐天はそう言うとシボレー・アストロの車載PCにメールを送る。

239: 2011/01/26(水) 16:50:56.17 ID:kFxmX+Fj0
『りょーかい、後で見とく』


『にしても…』


「ん?何よ?」


『エレクトロマスターねぇ…』


「その可能性が高いって話ね」


麦野のため息の様な声が聞こえてくる。
佐天は見た事がないが、麦野も能力の根本においてはエレクトロマスターのそれに似ている所がある。
なにかしら思う所があるのかもしれない。


佐天は続けてメールの内容を読み、麦野達に知らせる。


「通信回線を使ったテロと電気的なセキュリティに引っかからない事から、そう推測されるみたい」


「てゆーか依頼主はどうも犯人が特定できてるっぽいんだけどねー…」


佐天に送られてきたメールに記載されていた言葉、“犯人の素性の詮索も同様に禁ず”。
これは製薬会社は知っているがアイテムは知らなくて良いと言っている様にも聞こえる。


『目星がついてるならこちらから襲撃すれば良いのでは?』


最年少の絹旗の声が聞こえてくる。
佐天は内心私もそう思ったわよ!と言いたい衝動に駆られる。


「いやー…製薬会社の依頼なんだけどね」と佐天は一言区切る。

240: 2011/01/26(水) 16:52:18.17 ID:kFxmX+Fj0
「手出しはターゲットが施設内に侵入した時のみ襲撃者の素性は詮索しない事が依頼主(製薬会社)のオーダーよ」


『はぁ?何それ?結局意味わかんないんだけど』


「こいつらときたら!私だって………やりたくて受けたわけじゃないわよ!」
(もし…御坂さんだったら…私達…友人とかそういう関係じゃなくなっちゃう)


佐天はむしゃくしゃし、髪をかく。
そして適当に「それにこの手の依頼には色々事情があるんだっつーの!」と言っておく。


『はいはい、ギャラ弾むように上に言っとけよ、電話の女』


「うっさーい!ごちゃごちゃ言ってないで仕事しろー!」


そう言うと佐天は電話を切る。
アイテムとの通話は終了した。


後は報告が来るまで待つのみだ。
今まで彼女達の仕事が終了する連絡が来ることに何も思わなかったが、今日ばかりは何だか気が気でなかった。



(ホントに…御坂さんじゃなければいいんだけど…)



この世に神様がいるなら祈りたい。
そんな気持ちに電話の女、もとい、佐天はかられる。

248: 2011/01/28(金) 03:09:51.91 ID:scyQj+zN0
ういーん…ういーん…

佐天の携帯電話がバイブレーションし、メールの着信を知らせる。



From:麦野沈利

Sub:無題

施設の電気セキュリティが破られた。
多分そろそろ来るわ。

あ、ちなみに絹旗とフレンダ、別々の施設に待機させたから。
何か、一方面だけっていうのが怪しいのよね。


じゃ、私と滝壺は待機してるから、また情報が入ったらそっちも連絡お願いね。




麦野が送ったメールはニ方面作戦を行う事を知らせるメールだった。
佐天は戦術に関しては何も知らないので麦野に任せることにした。



To:麦野

Sub:わかった

じゃ、しっかり頑張ってね


(後は…戦いが終わるまで待つだけね…)



佐天はメールを作成して編集する。
彼女にとっては永遠と感じられる数時間が到来する。

249: 2011/01/28(金) 03:11:33.79 ID:scyQj+zN0
――絹旗が待機している施設


(超…待機しても敵が来ませんね…セキュリティは破られたようですが…)


窒素装甲の大能力者である絹旗は麦野の指示でSプロセッサ社の施設の一角で待機していた。
ここから少し離れた所にいるフレンダのところに当該目標であるエレクトロマスターは向かっていったのだろうか。



(フレンダが引き受けてるんでしょうか?)


(こっちはなにやら撤収作業が始まってますが…)


絹旗は通路の端っこでプロセッサ社の従業員達の撤収作業をパーカーを外し、少し見上げる。
一人の白衣を着た若い女性従業員とすれ違う。


「どうも」


「撤収作業の調子はどうですか?」


「あぁ、私は今ついたばかりなので」


「そうですか…」
(やけに目つきがキツイ人ですね)


「では…ここらで」

二人の白衣を着た研究員と女は一緒に角を曲がると見えなくなった。
従業員達は突然の撤退に動揺しつつも理路整然と撤収作業を行っている。

250: 2011/01/28(金) 03:12:22.77 ID:scyQj+zN0
先ほどまで静まり返っていた研究施設から、まるでありの巣をつついたように多数の従業員達が出てきた。
絹旗はその中で驚くほど場違いな格好で鎮座していた。


絹旗はノーブランドのパーカーに半そで、リーバイスのショートパンツ、スニーカーはバンズのハイカットスニーカー。
動きやすい格好だ。パーカーのフードを目深に被り、ポケットに両手を突っ込む。


(この状況でこられたら…超マズイですね…作業している人も巻き込む可能性があります…)


でも…と絹旗は思う。


(でも…私にとっては超どうでもいいですけどね…敵と戦ってさっさとぶっ潰しちゃえば)


目の前で作業している烏合の人々の群れを絹旗はぼんやりと見つめながら再びパーカーを目深に被った。

251: 2011/01/28(金) 03:14:29.53 ID:scyQj+zN0
――フレンダが待機している排気ダクト


敵が来るかどうかも定かではないこの状況。
フレンダは愛銃であるアキュレシー・インターナショナルASWのサイレンサーの手入れをしていた。
施設には即席だが各種の爆弾をふんだんに配置した。導火テープも思いつく要所に設置した。



(後は…来るのを待つだけ…って言ってもこないわねぇ…)


(実は…待機って結構しんどいのよねぇ…)


しんどい、といいつも彼女は緊張していた。
これから数分後には自分と相手の命をかけた戦いを繰り広げる事になるのだから。
この心情は戦いに身を置くものしにかわからない独特なものがある。

そして、その緊張を隠すようにフレンダは「はぁ」とため息をつく。


「…結局、来るかどうかも解らない相手を待つのって退屈なのよねぇ…」


フレンダは独りごちる。
電話の女が仕事をこなしている最中に新しくよこしてきた謎の指令。
それに備えてフレンダは急ごしらえながらも最善の装備ではせ参じた。



眼鏡を吹くようなきめ細かい布でアキュレシーを丁寧に、いたわる様に磨いていく。
要所要所にたっぷりとグリスを塗ってやった。


最近行われた横田基地の基地祭の際に米軍から横流ししてもらった爆薬もたまたま持ち合わせていたのが幸いした。
C4、セムテックス等のプラスチック爆弾、陶器爆弾、モーションセンサー、スプリング形式の爆薬を横流ししてもらった。

252: 2011/01/28(金) 03:17:45.10 ID:scyQj+zN0
相手を一回爆頃してもなお、お釣が返ってくる量の爆弾をSプロセッサ社の隅々に配置したフレンダ。
邀撃準備が済んだ今、彼女は人が寝そべってもなお余裕のある排気ダクトに身をひそめて、敵を待っていた。


(…お姉ちゃんだったら…こーゆー時どうするんだろう)


フレンダの思考に突如浮かび上がってくる姉の存在。
姉は確か私以上に派手にぱーっとぶっ放すタイプだった。
姉とカナダで同居していた時の記憶をおぼろげながら彼女は思い出す。


(オクトーゲン使って丸ごとふっ飛ばしたりしちゃって…!)


確かに派手好きだった姉だったらあり得るな、とフレンダは一人思いついた妄想をし、自分で「うんうん」と納得する。
実際、TNT爆薬の爆速の優に数十倍のスピードで拡散するオクトーゲンは大規模な施設を吹き飛ばすにはもってこいだ。


(…って最近お姉ちゃんの事よく考えてるなぁ…私)


(結局…いつまでも暗部なんてやってられるかって訳よ…)


姉がかつて居たとされる学園都市。
彼女はカナダでの安穏とした生活を捨て、学園都市にやってきた。
しかし、彼女が学園都市についた時にはすでに姉は居なかった。


情報収集をするために裏の世界に身を投じて既に数年。
気付けばいっぱしの殺人者になっていた。
その事に関しては取りたてて思うことはなかった。


むしろ、自分に殺される人の今わの際を見る時の愉悦。
あぁ、こいつは私に殺されるために生まれてきたんだ、そう考えると脚ががくがくするほどの快感すら感じる。
そんな特殊な性格を持つ彼女はわれながらイかれていると思った。

253: 2011/01/28(金) 03:20:39.77 ID:scyQj+zN0
しかし、そんなきちがいじみた性癖(?)、性格(?)のフレンダにも親族がいる。
大好きな姉だ。その姉に会うまでは氏ねない。例え、今まで頃してきた者たちの怨念に呪い殺されそうになっても。


(私だって…頃したくて頃した訳じゃないって訳よ…)


彼女も電話の女の様に自分の殺人を他者の落ち度に仮託しているあたりが狡猾である。


(…私は必ずお姉ちゃんを見つけてこの学園都市から出る…って訳よ…ってお姉ちゃんは学園都市にいないかもしれないか…ってあれれ?)


どちらにしろ、暗部を抜ける事は絶対だと言い聞かせるフレンダ。しかし、途端、彼女の思考が打ち切られる。
彼女が耳につけている高感度集音機に靴の音が聞こえたから。


ギッ…ギッ…ギッ…


床を踏むわずかな音が集音マイクに入る。
どうやら敵はフレンダの待ち構えているゾーンに侵入してきたようだった。



(日ごろの行いかな…?結局、お金を貰うのは私って訳よ!ドンマイ絹旗!)



足音はフレンダにどんどん近づいてくる。
彼女が今いる排気ダクトの近辺にもう侵入者がいる事は明らかだ。

フレンダはお気に入りのパンプスに布を巻きつけると、足音が出ないように大型ダクトを移動する。
そして排気口のわずかな隙間から見る。


(へぇ…私と同じ位の女の子かぁ…いけないなー…暗部に首突っ込んだら)


フレンダは気付かれないようにダクトを移動し、当該目標であるインベーダーの後ろに移動する。
セキュリティはとっくのとうに遮断されているが予備電力でまかなっているのだろう。
施設はまだ薄明るい状態だ。

254: 2011/01/28(金) 03:22:16.14 ID:scyQj+zN0
フレンダはカチャリと暗視ゴーグルを装着する。
インベーダーが電燈が切れているゾーンに入ったからだ。


(いちお、米軍からもらっといてよかったって訳よ…結構値が張ったけどね…とほほ…)


そんな悠長な事を考えながらも、彼女の顔は笑っていない。
持ち込んだツールボックスから導火テープを発火させる小さいボールペンの様なものをポケットから出す。


(導火テープに着火…っと)



ジジジ…と火がつき、しばらくすると施設の構造物がゴゴゴゴ…と巨大なもの音を立てて崩れ落ちる。

フレンダは構造物が崩れ落ちる前に音を立てずに静かに着地する。
着地先はインベーダーの前方150メートル。
即頃し、蹴りをつけるために地上に彼女は舞い降りた。


背中には世界最高級の狙撃銃、アキュレシーインターナショナル。
フレンダはそれをスーッと構える。


(よし…着地成功…って訳よ!)


物影からカチャリとアキュレシーインターナショナルを構える。


(出てきたら…即射頃してやるって訳よ)


ガラガラと音を立てて崩れた構造物からインベーダーが出てくる。
傷一つ負ってない。


(へぇ…やるじゃない…ケド…)

255: 2011/01/28(金) 03:23:36.87 ID:scyQj+zN0
フレンダは一瞬、ニヤと笑う。
直後、アキュレシー・インターナショナルのトリガーにフレンダのかかったか細い綺麗な人指し指がかかる。



(Time to die, good bye Invader…)



姉の事を考え悩んでいる乙女の様な彼女はもうそこには居ない。
いや、むしろ戦姫と言った方が適切だろう。


フレンダはヘンソルト十倍率のスコープを通してインベーダーの動きを捉える。
こちらに向かってくる。


亜発射されるであろう弾丸は音速でインベーダーをただの肉塊にするであろう。


フレンダはアキュレシー・インターナショナルのトリガーに指をかける。
瓦礫から出てきた傷一つ負っていないインベーダーは一瞬、フレンダの方をむく。


その瞬間をフレンダ=ゴージャスパレスは見逃さなかった。
照準に写り込んだキャップを目深にかぶったインベーダーの眉間に照準を合わせ、ためらいもなくトリガーを引く。


ピシュ!ピシュ!


驚くほど乾燥した小さい発射音だけが響く。
インベーダーの女の顔を破壊しようともくろむ狂気の弾丸が亜音速でインベーダーに殺到する!

256: 2011/01/28(金) 03:25:15.76 ID:scyQj+zN0
フレンダは弾丸がターゲットに着弾するか否かというタイミングで後退する。


(後で取りに来るからね…!)


インベーダーに7.62mm弾が効かない事がわかると、フレンダは大切もの惜しそうにアキュレシーインターナショナルを床に置く。
そしてはポケットから先ほど使った導火ツールを再び用意する。


その導火ツールをテープに近づけると「ヒュボッ!」と音が出て一気にテープが燃焼する!その先には人形の中に仕掛けられた高性能爆薬が詰まっている。



グァアアアアアン!!



大きな爆発音が施設にこだまする。


「やった?」


フレンダは念の為に腰にあるシグザウエルP230を抜いて構える。
灰色と黒で塗られたP230は消音機つきだ。


「これくらいじゃ氏なないって…」


黒のキャップに同じく黒の半そで、短パン、スニーカーといういでたちでインベーダーが喋りながらフレンダの前に現れた。
目を凝らして見てみるとインベーダーの女はどこで買ったのかわからないが弾帯を肩からぶら下げている。
それには缶コーヒー小のサイズの大きさのビンが三本はめられている。


(あの弾帯は…?)


手りゅう弾でもない、迫撃砲弾でもない。

257: 2011/01/28(金) 03:27:09.67 ID:scyQj+zN0
フレンダは弾帯にはまっている見たことの無い武器(!?)の様なものをマジマジと見る。


「あぁ…これ?気になる?これはね……」


フレンダはインベーダーがセリフを言い終わる前に無言でP.230の引き金を引く。


パシュ!パシュ!


再び施設に乾いた音がこだまする。
しかしその弾丸も先ほどの7.62mm同様にインベーダーの目の前で静止し、ポトリ、と落ちる。


「効かないって。ってか人の話は聞きなさいよ…」


「……」
(鉄がはいっている物は効果が無いって事…?)


冷静に戦況を分析するフレンダ。
精一杯のいやみな顔を彼女は浮かべ、タオルをパンプスから剥ぎ取ると一気に走り出す。
目指すは階段だ。


階段にはたっぷりと導火テープが配置されている。
滑落させてインベーダーを殺害しようとする。


タンタンタン…!
フレンダは勢いよく階段を駆け上る。
インベーダーはその後を走って追撃する。

258: 2011/01/28(金) 03:28:22.28 ID:scyQj+zN0
途中彼女のブービートラップがインベーダーめがけて破裂する。
陶器爆弾だ。
しかし、これも全く効かない。


(陶器爆弾も一蹴かぁ…やっぱエレクトロマスターっていう情報は確かだったのね…)


爆弾の破裂片を電気で停止させるか、目の前で意図的に破裂させる所みるとかなりの能力者のようだ。


(ま…階段に来れば…お陀仏確定でしょ)


フレンダは階段を上る際に導火テープを着火させる。
彼女が上り終わる頃にはテープは焼け落ち、階段が崩れていく。



ガァン!ドドドド…!


床が抜けてしまうのではないだろうか、と思わせるほどの大音響が響き渡る。


「にししし…これでさすがに氏んだでしょー!」


「だーかーら…効かないって」


フレンダがちらと階段のあった場所を覗き込むと階段の鉄骨を器用に利用した足跡の階段が出来上がっていた。
恐らくインベーダーが即席で作り上げたものなのだろう。


「私を頃したかったら…鉄分を抜いた階段でも作る事ね」


冷淡な調子でインベーダの女は言い放つ。

259: 2011/01/28(金) 03:29:33.65 ID:scyQj+zN0
「チッ…」


フレンダは奥歯をぎりと噛み、舌打ちをする。


(クッソ…コイツ…レベル5クラスの怪物ね…)


崩落させた鉄出てきた階段を繋ぎとめると言った芸当をこなしてみせたインベーダの女。
フレンダは相手がかなりの高位能力者であると判断する。


「チッ…インベーダーめ…」


「何よ、その侵入者って。私には御坂美琴って名前があるんだけど」


「そんなの聞いてないって訳よ!」


フレンダは捨てセリフの様に言い放つとそこから一目散に走り出す。
彼女は近くの大きい部屋に向かっていった。


インベーダーもとい、美琴もフレンダの後を追いかけていく。
フレンダが走ったところは行き止まりになっていた。



キャップを目深にかぶった美琴はあたりをキョロキョロ見回す。
トラップがないかどうか確かめているのだろう。

260: 2011/01/28(金) 03:30:38.53 ID:scyQj+zN0
「袋小路ね…」


美琴が小さくぼそりとつぶやく。



「結局…ここまで追い込まれるとは思っても見なかったわけよ」

観念の言葉をつぶやくフレンダ。
現有の最新兵器で戦った彼女はしかし、学園都市第三位の美琴に追いつめられていた。


「…暗くてよく見えないけど…あんた外人?」


「…まぁね…。ジャップとは訳が違うスタイルのよさでしょ?」


わざとらしく相手を挑発するようにフレンダは言う。
しかし、そんな安易な挑発に美琴は乗らず、淡々とフレンダに質問する。


「あんたを雇ったのは誰なの?」


「さぁ?」


「ま、誰だろうとこの計画を主導しているヤツを叩き潰すまで止まるつもりはないけど」


「あら、そうなんだ、こわーい」


「あーそうそう。このイカレた計画にあんたも協力しようって言うんなら…」


「結局、説教?そーゆーのどーでもいいから」

261: 2011/01/28(金) 03:31:47.40 ID:scyQj+zN0
「雇い主の目的とかさぁ…理非善悪とか…どうでもいいのよねぇ…」


フレンダはそういうと本当に、本当にだるそうに「はぁ…」とため息をつく。
そして彼女は言い放つ。


「結局どーでもいいんだわ。そーゆーの」


「あ、そう…ならここで氏ぬ?外人さん?」


美琴はそういうと弾帯にはまっている三つの缶コーヒー小の大きさのビンを空中に向かって投げる。
最初に投げた一つのビンが床に着いて割れる寸前、美琴は電撃をビンに当てる。



カチャン!カチャン!カチャン!


三つのビンが矢継ぎ早に空中で壊れる。
しかし、その中に入っていた黒い粉は床に散らばることが無く、美琴の細く綺麗な腕の周りに集まっていく。


その黒粉をフレンダは注視する。すると気付けば美琴の手に真っ黒の日本刀の様なものが握られているではないか。


「刀?」


フレンダは怪訝そうに言う。

262: 2011/01/28(金) 03:37:47.67 ID:scyQj+zN0
突如として彼女の目の前に現れた真っ黒の日本刀。
砂鉄を集めて作ったものか、と勝手にフレンダは推理をめぐらす。



「えぇ…刀…幻想虎鉄…イマジンソード…なんてね…ふふ」


そういうと美琴は右手に握られた刀をれろぉ…と妖しく舐める。
その素振りはどこか妖艶さを感じさせる。


「…へぇ…切れ味の方はどうなのかしら…?」


「まだ試し切りはしてないわ…」


カチャリ…柄に相当する部分を美琴は掴むとダッ!とフレンダに駆けていく。
駆けてくる美琴を細めた目から見据えたフレンダは腰に指してある黒い鞘から大きめのナイフを抜刀する。


「へぇ…面白い形のナイフねぇ…」


「グルカから伝わった湾刀よ…英連邦の盟邦、グルカに伝わる名はククリ刀、とくとごらんあれ!」


そういうとフレンダは美琴に合わせて駆け、距離を詰める。
間合いの関係上、フレンダが不利だが、戦闘の経験回数では圧倒的に彼女が有利だろう。


勇猛・敏捷のグルカ兵が持つククリ刀を持ったフレンダと真っ黒の日本刀のを持った美琴の真剣勝負が始まる。

263: 2011/01/28(金) 03:45:04.18 ID:scyQj+zN0
キィン!


ククリ刀と幻想虎鉄が重なりあい、綺麗な火花が散る。
その様子を見ながら美琴はほれぼれしているのだろうか、魅惑的な表情で幻想虎鉄を見つめながら言う。


「へぇ…いつも電撃しかしてなかったけど…こういう戦い方も結構ありねぇ…」


美琴はそういうと目の下にあるクマと相まってかいつもと違った表情で妖しくわらう。
幻想虎鉄が一度フレンダのククリ刀から離れる。


「一度…」


「何?白人」


美琴がむき出しの敵意を向けてフレンダに話しかける。


「一度…抜刀したククリは血を吸わせなければ納刀してはならない…!」


フレンダは口元だけ不敵に歪め、「ふふ」と笑い、美琴を嗤う。
この発言に美琴は首をかしげる。

264: 2011/01/28(金) 03:47:10.71 ID:scyQj+zN0
「どーゆーこと?」


「あなたの血を吸うまで辞められないってわ・け☆」


「ふーん…上等じゃコラァ!」


再び剣戟を交える二人。
二人の真剣な表情はともすれば戦いを楽しんでいる様にも見えた。


何度も交わされる剣戟。
まるで舞台で踊る二人の舞踏家の様に、しかし、激烈で予断を許さない命のやりとり。
床に飛び散る二人の汗。飛び交う怒号。



「…ッ…!」


不意にフレンダが体勢を崩し、床に倒れそうになるがなんとか持ち直す。



「くたばれ白人!」



美琴の言葉とほぼ同時にボッ!と振り下ろされる幻想虎鉄。
まっすぐにフレンダに向かっていく砂鉄を凝縮させた刀。



キィン!



フレンダの頬のぎりぎりにまで近付く幻想虎鉄。
ククリ刀では些か間合いに関して部が悪い。

265: 2011/01/28(金) 03:50:53.11 ID:scyQj+zN0
「もうあきらめたら…?」


「…あきらめる?」


美琴は幻想虎鉄を押しつけつつ、フレンダに降伏を勧告する。
しかし、フレンダの目の色は戦いを諦めた敗残将のそれではない。

まるで氏ぬまで戦う軍鶏(しゃも)の様に、ぎらりとした目を輝かせる。
それは美琴を不快にさせたが、それは表情に出さず、あくまで淡々と告げる。


「えぇ…よく戦ったわ…白人さん?」


火事場の馬鹿力というものが存在するならばこういう時の事を言うのだろう。
フレンダは頭に血管を浮かび上がらせながら徐々にゆっくりと幻想虎鉄を押し上げていく。


「う、…グググ…ウェアああああ!」


「…なっ…?」
(こっちは全力で押してたのに…!)


今度は美琴がバランスを崩して床に倒れそうになるがフレンダと同様に持ち直す。
その間にフレンダは立ち上がり、美琴を見、にやりと笑う。美琴もにやりと笑い返す。

266: 2011/01/28(金) 03:51:27.92 ID:scyQj+zN0
「こい、御坂美琴」
(コイツの妖刀の様な雰囲気…これがレベル5の実力って訳…?)



「言われなくとも行くわっ!」
(これが無能力者なの?あの馬鹿よりと同じくらい手ごわいわね…!)



氏の舞踏を踊ろう。
祭りだ。

妖刀とククリ刀を持った二人の戦姫達はアドレナリンをスパイスに狂気に彩られた輪舞曲を踊る。


267: 2011/01/28(金) 03:52:34.79 ID:scyQj+zN0
――麦野と滝壺が待機しているとある部屋

麦野と滝壺はフレンダと絹旗の張っている中間地点で待機していた。


『はい、わかりました。ではそちらに向かわず私は待機と言うことで』


「うん、じゃ、だるいと思うけどもうちょっと待機で」


麦野はそういうと携帯電話を切る。
ちなみに今の通話はアイテムの構成員、絹旗としていたものだ。


「むぎの。フレンダの援護に行くの?」


「そうね、絹旗の方に向かってないってことはフレンダが相手してるだろうしね」


「わかった」


滝壺と麦野は歩いてフレンダが戦っているであろう地点に向かっていく。
同じチームであるフレンダがもしかしたらピンチなのにもかかわらず麦野と滝壺はゆっくり施設内の通路を歩いていく。


「ねぇ、むぎの?」


「どうした?滝壺」


「はまづらの事好き?」


麦野は「いきなりなによ、滝壺」と不機嫌そうに言う。
彼女は眉に皺をよせながら後ろを歩いている滝壺の方を振り返る。

268: 2011/01/28(金) 03:55:43.31 ID:scyQj+zN0
「なんか最近よく…お弁当かわせてるって聞いたから…」


「あぁ…それだけだよ、滝壺は浜面の事好きなの?」


「私ははまづらの事すき」


「へぇ…いいじゃない」


そういうと麦野は再び前を向きなおす。
滝壺の無垢な表情の前で無表情を繕うのが難しかったから。
麦野と浜面の関係はシャケ弁当を買わせているだけ、なんて真っ赤なウソ。


当初は麦野が浜面を誘って成立した歪な関係。
ここ最近では浜面はよく「好きだ」とか「愛してる」とかつぶやくけど、果たしてどうだか。
麦野はそうした高位に応じるものの、そうした愛の言葉を言わなかった。


最初は麦野が浜面に首輪をかけたつもりになっていたが、気付けば麦野自身が浜面抜きの生活に耐えきれないからだになっていた。



本当は朝からお昼ごろまでずっと一緒にいる。
いや、むしろここ最近ではシャケ弁当を買わないで麦野が料理を作ることもある。



そしてその後に体を重ねる事もままある。だが、ここ最近は仕事が多いのでキスだけ。
欲を言えば毎日浜面と一緒にいて抱き合って体を重ねていたいと考えていたが、ここ最近、仕事が多くなってきているのでそれもかなわない。
そんなどうでもいいことをぼんやりと考えながら麦野は目の前にいる黒髪美人の女、滝壺が浜面をめぐるライバルであると認識した。

269: 2011/01/28(金) 03:57:13.27 ID:scyQj+zN0
「滝壺は浜面と付き合いたいって思うの?」


「うん」


「なんでいきなりそんな事聞くの、滝壺」


「え?だってむぎのとはまづら付き合ってそうだから」


質問の答えになっていない。
ってかここで「付き合ってます」とか答えたら滝壺はおとなしく浜面をあきらめたのだろうか。
それはわからない。


麦野は滝壺の質問の真意を考えつつ、自分に問いかける。


(私と浜面は付き合ってるのかな?)



不意に麦野は今の浜面と自分の関係を振り返る。
キスをして抱き合い、名前を言いあい、をする。
それは果たして付き合ってるからするのだろうか、それともただの肉欲なのだろうか。


(こーゆーのがめんでぇんだよ、恋愛は)


270: 2011/01/28(金) 04:00:59.46 ID:scyQj+zN0
滝壺が浜面の事を好きだと臆面もなく告げた。
その事に対する彼女に与えた動揺は計り知れないものがある。
むしろ、滝壺が浜面に告白すれば、あの男の事だ、ころりと滝壺になびくかもしれない…。


アイテムの女王とアイテムの女王補佐はその後無言で戦場へと向かっていった。

フレンダがいるであろうゾーンまで壁をぶちぬいて歩くしかない。
こういうときは迂回する面倒くささを解消する為にも原子崩しはもってこいだ。


「いくよ、滝壺」
(よし…仕事だ…!)


「うん、久しぶりだね、むぎの」
(しんきいってん)


「あぁ、よろしくね、滝壺」
(さて、戦いのドラムをならしますか)


ふぃーん……


高音が響き渡る。
その直後に麦野の手から原子崩しが顕現する。


ドバァアアアア…


光の光芒が一筋になって隔壁をぶち破っていく。
フレンダの戦っているであろう部屋まで後少しだ。

271: 2011/01/28(金) 04:02:38.89 ID:scyQj+zN0
――フレンダと美琴が戦っているラボ(麦野が現れる少し前)


刀とは本来、刃を重ねてはいけないものだ。


しかし、二人は刃こぼれを気にせずまるで子供のように刃をぶつけ、火花を散らしている。
砂鉄を集約させ、、刃こぼれを起こすと即座に演算をしなおし幻想虎鉄を修復する美琴と良く研いでいるククリ刀ではそれでも、後者の方が部が悪かった。


「はぁ…はぁ…どう、白人さん…降参する気になってくれたかしら?」


「全然ッ!あきらめないって訳よ!」


不撓不屈の信念でフレンダは美琴に立ち向かう。
しかし同時に勢いよく突撃をしてきた美琴に力負けし、フレンダは体勢を崩し、床に手をつきそうになる。


「しまった…!」


「今だっ!」


ボッと振り下ろされる幻想虎鉄。しかし、その斬劇がフレンダを捉える事はなかった。


「…なぁんてね」


「え?」


バン!


フレンダの袖口の下から閃光弾が滑り落ち、炸裂する。

272: 2011/01/28(金) 04:03:20.66 ID:scyQj+zN0
ベレー帽で光をさえぎる事に成功したフレンダは咄嗟にスカートの下から持ち出した簡易ロケット砲をぶち込む。

シャークマウスのノーズアートがペイントされているロケット弾が矢継ぎ早に美琴が居るであろう地点に着弾する。


ドドドン!


手りゅう弾サイズの爆発が巻き起こる。
フレンダは美琴の氏体があるであろう目の前の地点を見遣る。


(…氏体が無い?)


フレンダの発射したロケット弾の着弾点にはただ焦げた床があるだけ。それ以外に何も残っていなかった。


(氏体が残らないほどの炸薬量は使用していない…まだ…生きている?)


フレンダは後ろを恐る恐る振り返る。
するとそこには一度構成した幻想虎鉄を解体し、一枚のゲームセンターのコインを持った美琴が立っていた。


「あんただけじゃないでしょ?この施設を守備している人たち」


「言う訳ないでしょ…!」


フレンダは美琴の質問には答えずに苦虫をかみつぶしたような表情で舌打ちをする。


美琴がゆっくりとフレンダに近づいてくる。
彼女はククリ刀を止むなく鞘に納め、じりじりと壁際に下がっていく。

273: 2011/01/28(金) 04:04:01.06 ID:scyQj+zN0
と、その時だった。
フレンダが一瞬の隙を見てビンを投擲する。
反射的に美琴はそのビンを電撃で破壊する。


(って…空のビン?)


美琴は一瞬おかしいと思いつつも電撃を放ち、それはそのままビンに直撃する。
直後大きな爆発がビンの周りで起こった。


香水瓶程の大きさのビンがこれほど派手に爆発する事など常識的に考えてあり得ない。
しかし、ビンは爆発した。


その爆発に美琴が動揺している間にフレンダは一気に壁際に接続されているバルブを緩める。
すると排気ダクトや近くの床から染み出るように白煙が巻き起こる。
空間は一気に白色の戦場と化し、フレンダはぼそりと言う。


「さっき投げたビンは学園都市の気体爆薬イグニス…」


シュー…


フレンダが喋っている間にも続々と白煙がダクトから流入してくる。


「香水瓶程度でさっきのあの威力電気なんか出したら…どうなるか…ふふ」

274: 2011/01/28(金) 04:05:15.87 ID:scyQj+zN0
全く笑える状況ではないのだが、フレンダはほくそ笑む。
そして先ほどしまっていたククリ刀を再び抜刀すると一気に美琴に襲いかかる。


「もう…幻想虎鉄を出そうなんて思わない方がいいわよ…?剣戟で電気が出たら誘爆して氏んじゃうわよ?」




「…チッ!…めんどくさいことを!」
(私が電気をだしたらここらが吹き飛ぶ事に…!?)


美琴が喋っている間に一気に詰め寄るフレンダ。



「うあぁああああ!」



フレンダは叫ぶと一気に美琴に蹴りかかる。
気体爆薬の誘爆等全く恐れていない。次々にフレンダは手足から攻撃を繰り出す。


美琴は反撃する際に能力を使わないように意識するだけでまともな抵抗が出来ない状態になっていた。



「さっきより格段に運動量が落ちてるわね?」
(結局こっちも疲れてるっつーの!)


思いはすれど、フレンダは自分の疲れを表面には絶対に出さない。

あくまで余裕の表情を浮かべるように努める。
自分と相手の絶対的な体力の差を見せつける。そうすることで相手にさらなる絶望を提供する。
氏へいざなうスパイスなのだ。

275: 2011/01/28(金) 04:06:53.17 ID:scyQj+zN0
「あんた…恐くないの?吹き飛ぶのよっ!?」


美琴はフレンダの攻撃をかわしつつ怒鳴る。
フレンダはその問いを一蹴するかの様に「ふふ」と鼻で笑い、美琴に言い放つ。



「こっちは暗部に入ってまで人探してんのよ…!氏ぬのが恐くてやってられるかっての…!」



そう。フレンダ=ゴージャスパレスは絶対に氏ねないのだ。
姉を見つけるためにわざわざ暗部に身をやつした。
姉を見つける前に氏んでしまえば、それこそ本末転倒の事態だ。


絶対に氏ねない。彼女の瞳に強い意志が宿る。




「たかがあんたごときに負けてたまるかって訳よ…!」



乾坤一擲のフレンダの蹴足が美琴の下腹部に直撃する。


「か…は…!」


美琴は倒れこそしなかったものの、その場で腹を抱えて悶えている。
フレンダは無様に腹部を抑えているレベル5の姿を見て、見下すような視線で見つめながら言う。

276: 2011/01/28(金) 04:07:21.74 ID:scyQj+zN0
「私はこーゆー時にねぇ…言い知れぬ感覚を味わえるの…」


気付けばフレンダは恍惚とした様な表情になっている。
まるで快楽にひたる淫美な美女の様。
フレンダは自分の口を開くと真っ赤な口腔を覗かせ、そこからぬらぁ…と舌を出し、自分の中指の先をぺろと舐める。
よだれのついた指の腹をゆっくりと唇の端から顎まで這わせる。



「人の命を摘む…この瞬間、私は相手の運命を支配した気になれるの…」


「はぁ…はぁ…!」


美琴は息も絶え絶えの状態でフレンダの言う事に耳を傾けていた。
しかし、次のフレンダの発言が彼女の最後の力を振りしぼらせる!



「結局コイツは私に殺される為に生まれてきたんだ…ってね♡」





「……じゃ…ないわよ…!」


「最後にいい感じの悲鳴を聞かせて頂戴☆」


「ふざけんじゃないわよっ!」


一度目は小さくてフレンダは聞こえなかったが、二回目の怒声はフレンダにしっかり聞こえた。
そして美琴の怒声と同時にフレンダの回し蹴りはガードされ、蹴りをした方の靴が遠くに飛んいってしまった。

277: 2011/01/28(金) 04:07:57.90 ID:scyQj+zN0
美琴は激昂していた。
それはフレンダのセリフが彼女をそうさせた。


『結局コイツは私に殺される為に生まれてきたんだ…ってね♡』


妹達(シスターズ)に何の落ち度があろうか?
あの車両につぶされた9982号は何も…何も罪に問われることはしていなかった。
むしろ…缶バッチを付けて喜んでいたではないか!


そんな彼女は最後に何をされた?
一方通行に足をもがれ…ちぎられ…あまつさえ…体液を飲まれた…。
犯される事と同義の屈辱を味わった末に救いの神は9982号にはさしのばされなかった。



まるでプチプチつぶされるアリの様に、虫けらのように蹂躙されて氏んでいった。

278: 2011/01/28(金) 04:08:24.77 ID:scyQj+zN0
「あの子が氏ぬ理由は全くない…!」


「私に生み出した責任があるなら…あの計画を主導した人達を裁断する事が私の役目…!」


「あの子もあの白い悪魔に殺されるために生まれてきた?はぁ!?納得できるわけがないっ!」


フレンダは蹴足をはじかれ一歩後退しつつ美琴の怒声を神妙な表情で聞いているが全く理解できない。
おそらく美琴もフレンダにわかってもらえるよう、言ってる訳がない。


美琴は怒鳴り散らすと再び演算を行い、即座に幻想虎鉄を顕現させた。



「…あの狂気の実験に参加した人の皮をかぶった悪魔は決して許すことは出来ない」


パンプスが脱げ、不安定なバランスを保つことに必氏になっているフレンダに幻想虎鉄が降りかかる。






「…ちょ…マジ…?」

279: 2011/01/28(金) 04:14:15.69 ID:scyQj+zN0
(こんな事になるんだったら…仕事なんて引き受けなければ…!仕事なんて辞…)


一瞬佐天の脳裏に浮かびかけた“辞めようかな”という言葉。
しかし、佐天は思い出す。完全に無能力時代で能力者や学園都市の治安や武勇伝を聞いている時の一歩冷めた感覚の自分を。



(何もない…自分なんて…やっぱり…いやだよ…!)


自分に被害がこないなら、と思い始めた電話の女という仕事。
物的被害は確かにないが、何だ、この尖ったカッターにえぐられるような気持ちは。血を吐いてしまいそうな衝動になられる。


佐天は友人を傷つける可能性があることと自分が無能力で何もないという劣等感を天秤にかけた。
その結果は…………後者に軍配があがった。


(ははは…だって…御坂さん…レベル5だよ?麦野さんもレベル5でしょ?氏なないよ…!)


佐天は寮のベッドの壁に背中をぺたっとくっつけ、勝手な推論をめぐらす。
どうなるかなんてわからない。


(次にあった時は御坂さんの前で…普通に笑えるかな…?でも…)


人材派遣の男がかつて佐天に言っていた“学園都市の最奥”。
今ではそれは理非善悪等の価値観が全て一緒くたになったカオスをほうふつさせる。


仕事の終了報告が入ってくるまでまだ少しの時間があった。
彼女は同じ押し問答を繰り返し、美琴とわかった訳じゃないと、一人納得させ、また質問…の悪循環を繰り返すことになるのであった。
その循環に彼女が仕事を辞めるという選択肢はついに浮かんでこなかった。

280: 2011/01/28(金) 04:19:14.02 ID:scyQj+zN0
なんか最近メモのフォントでかくしたら見やすいけど、あんまり思ってる以上に文章がたまらない事にきづいた。

多分明日か明後日にまた投下出来ると思います。
自分の想像した戦いをちょっと書いてみました。

確かブラックキャットのクリードの持っている武器も幻想虎鉄っていう名前でしたっけ?
中二っぽいけど良い。


あと、麦野「私が~~~」の作者様へ、俺も作品読んでます、楽しませてもらってます!
では、ではお休み。感想まってます!読んでくれてる皆さまに多大なる感謝を。

284: 2011/01/28(金) 10:51:54.10 ID:scyQj+zN0
すいません。
今読みなおしてたら抜けがありましたので追加。

>>279の前に入れて下さい!

以下挿入部分

――柵川中学の学生寮

佐天はアイテムからの任務遂行の連絡を待っていた。


(御坂さんだったら…どうしよう…)


アイテムに製薬会社からの依頼を伝えた後、彼女はどうしようか、どうしようか、と反芻していた。


(御坂さんだったら…アイテムに勝てるの?)


(いや…四人対一人だったら絶対アイテムが勝つに決まってる…)


(もしそれでアイテムが勝って御坂さんが…その…氏んだら…?)


佐天はぎゅっと自分のこぶしを握り締める。
血の通っているこぶしがみるみる内に白くなっていく。


(氏ぬわけがない…!御坂さんは常盤台中学の超電磁砲なんだ!)


(でも麦野さんも原子崩しの異名を誇る第四位…!)



(もし…二人が戦ったら…どうなるんだろう?)

佐天は最悪の結末を考える。それは――最近慣れ始めていたもの。
そう。「氏」だ。


(二人とも…氏んだら……わ、わからないよ…)


佐天は麦野にはあったことが無い。電話をしただけ。声は聞いたことがある。
しかし、美琴は実際に遊んだ事もある友人だ。

289: 2011/01/29(土) 14:46:55.93 ID:iSm8z8mn0
――フレンダと美琴のいる施設

「ちょ…マジ?」


フレンダの上ずった声が聞こえる。
美琴に隙を突かれた彼女は今、危機一髪の状況だった。

幻想虎鉄(イマジンソード)がフレンダに一閃して振り落とされようとしている。
美琴は口元を歪め「さようなら♪」と言いながら刀を振り下ろしたが、その切っ先がフレンダを捉えることはなかった。


ズアアアアアア!

とてつもない光の奔流が美琴の至近を通過していく。その光の流れに幻想虎鉄が巻き込まれていく。
そして美琴が気付いた時にはすでに幻想虎鉄の柄から上の部分が消滅していた。


「ずいぶん頑張ったじゃない、フレンダ」


「む…麦野?それに滝壺も!?」


フレンダは突如壁が溶けてなくなった場所から出てくる麦野と滝壺を見る。
麦野は美琴を見据え、滝壺はフレンダの方に手をやりいたわってやる。

美琴は柄が無くなった幻想虎鉄の柄をハーフパンツのポケットに入れて後ろに下がる。
幻想虎鉄が消滅させられたのはあの二人の能力によるものだろう、と美琴は推測した。

「チ…新手か…」
(やっぱり施設を守ってたのはあの白人一人だけじゃないってことね、どいつもこいつも私より弱い癖に…)


邪魔しやがって…!と眉間にしわを寄せて苛立ちをあらわにする美琴は次の瞬間に施設の給水タンクを能力を使ってブン!と投擲する。

290: 2011/01/29(土) 14:50:47.80 ID:iSm8z8mn0
「うらァ!」


美琴の掛け声と同時に投擲されたタンクは麦野にめがけて一直線に進んでいくがそれが彼女に触れることはなかった。
投擲したタンクが麦野の前でかき消えたから。


(投げたタンクを消した?)


音もなくただチリの様に燃えてなくなったタンク。

「ったく…早漏が…少し待てって言ってるのがわからないのかにゃー?」

麦野は甘ったるい声で美琴の方を向きながら告げると、肩のあたりから一気に原子崩しを顕現させた。


フィー…と風を切る様な音が不気味に美琴の耳朶を打つ。
直後、白熱したビームが美琴に遅いかかり、彼女はそれを間一髪でよける。

綺麗にまとめた美琴の短髪が少しだけ焼けて髪が焼けたいやなにおいが周囲に漂う。


「こいつ…!」
(かなりの高位能力者…?誰…?)


美琴は学園都市第三位のレベル5だが、他のレベル5はあまり知らない。
知っているとしたら同じ常盤台で精神感応系では最高峰の実力を誇る心理掌握(メンタルアウト)とあの白い悪魔くらいだった。


(限りなくレベル5に近いレベル4…或いは…レベル5…?)


美琴は後退し、壁に磁場を形成しながら張り付き、目の前にいる能力者の対策を考える。

291: 2011/01/29(土) 14:58:40.72 ID:iSm8z8mn0
「ふふふ…まるでクモみたいね…」

「…ッ!!」
(ダメだ…今は我慢よ…取りあえず…体力を回復しなきゃ…)


麦野のせせら笑う声が美琴の耳に届く。
クモ、その一言に美琴は反応しそうになるが、今はフレンダとの戦いで疲れた自分の体力回復を目指すのが先決だ、と判断を下す。
相手の能力を把握しなければ対策は打ちようがない。

美琴が壁に張り付き、麦野達の様子をうかがっているさなか、麦野は一瞬滝壺を見てすぐ美琴に備えて、前を向く。

「滝壺…一応待機…フレンダの調子は?」


「目立った怪我はないよ…ただ相当疲れてる。大健闘だよ、フレンダ」


「結局…止めることは出来なかったって訳よ…はぁ…はぁ」


フレンダは申し訳なさそうに下を向きながら二人にぺこりと頭を下げる。
美琴との戦いは悔しいがフレンダの負けだった。
しかし、美琴を疲弊させるという、勲章ものの戦功をあげた。


「良いわ、フレンダ、そのまま下がってなさい」


フレンダは最初はその声に聞こえないふりをする。まだ戦おうと思ったのだろう。
しかし、「フレンダ」と語気を強くする麦野の前でははばかられ、おとなしく「わかった」と承服した。

292: 2011/01/29(土) 14:59:30.20 ID:iSm8z8mn0
しかし、「フレンダ」と語気を強くする麦野の前でははばかられ、おとなしく「わかった」と承服した。

フレンダが後ろにとぼとぼと下がっていくと美琴を見つめていた麦野が口を開く。


「あんた、常盤台の超電磁砲?」

「…そうだけど…?」

「何であんたみたいな平和な世界に居る女がこの世界に首突っ込んでくるの?」

「あんたにいう義理が私にあるのかしら?」


美琴の返答に麦野は苦笑する。
確かにそうだ、美琴が麦野の質問に答える義理は全く持ってない。
しかし、麦野にとってかんに障る一言だった事は確かだった。


「生意気なガキ…」

293: 2011/01/29(土) 15:02:19.28 ID:iSm8z8mn0
麦野は腹から憎悪と共に一言絞り出すと人差し指を美琴に向ける。
同時、その先からビームが打ち出される。それをよけると美琴は一度回復のために目をくらませる。


(三人対一人じゃ分が悪すぎるわ…体力もけっこうやばいかもね…まずは先に施設の核の部分を破壊しなきゃ…)


美琴はこの場から撤退すると同時に施設の核であるコンピューター室を破壊しようと目論む。
その為の電力も残しておかなければならない。無駄に戦闘で使ってしまえば、再び実験が開始され、暴虐の嵐が吹き荒れる事になるだろう。


「動力室はどこ?核となる施設は…?」


侵入する前に施設の見取り図は頭にたたき込んだハズだったが、戦闘で目まぐるしく動いた末、おまけに部屋ごと融解する化け物ときた。
混乱した彼女の思考では施設の見取り図を思いだし、現在の地点を把握する事などほぼ不可能だった。


(どこかに…地図はないかしら…?)


美琴は部屋にこの施設の見取り図がないか探す。
とその時、肌が粟立つ感覚を覚える。本能が危ないと告げているのだ。
とっさに美琴は体をひねってビームを交わす。


ガガガガガガ…


進行上のあらゆるものをとかしつくすビームが美琴を融解させようとする。
しかしそれを美琴はぎりぎりで交わす。

294: 2011/01/29(土) 15:04:58.94 ID:iSm8z8mn0
攻撃された美琴はキッと麦野をにらみつける。
すると麦野も美琴の方を見ていたようで、二人はにらみ合う。


「よそ見禁止だぞー!学校で教わらなかったかにゃん?」


麦野の場違いな位に甘ったるい声が美琴の耳朶に届く。
何かを殴りたい衝動に駆られた美琴はしかし、いつまでたっても見つけることが出来ない動力室を手探りで探すよりかは…と判断し果敢にも麦野達と戦おうと決意を固める。


(体力の心配なんて…もういい…アイツ等を叩きつぶして、即座に施設を破壊する!)


磁力を利用して麦野から放たれる原子崩しを避けつつ反撃の機会をうかがう。
麦野の少し後ろには滝壺とフレンダが息を潜めて見守っている。


(先にあの二人から殺るか?特に…あの黒髪…雰囲気が尋常じゃない…何かしたのかしら?)


先程美琴が撤退する際にはフレンダに手をさしのべていた彼女はしかし今では目をカッと見開きまっすぐに美琴を見ていた。
それは睨みを利かすとかそんな生やさしいものではなく、まっすぐに、目をずっと見てくる、何とも形容し難い雰囲気を醸し出していた。

295: 2011/01/29(土) 15:07:25.95 ID:iSm8z8mn0
美琴は知るよしも無いのだが、麦野は滝壺に体晶を使うように指示した。
体晶とは能力の暴発を誘発するいわば劇薬である。
滝壺はこの薬を服用しなければ、能力を発露する事が出来ないのだ。



美琴が麦野の攻撃の回避に終われているとき、密かに麦野と滝壺の間で行われたやりとりがあった。
フレンダを介抱していると滝壺に投げかけられた麦野の一言。



『使っときなさい』



麦野の一言と同時にぽいっと何か捨てるようにシャープペンの芯を入れる容器の様な物が投げられ、両手で滝壺は麦野からそれを受け取る。
そしてその容器のふたをスライドさせ、僅かに出てくる白い粉をぺろと舐める。


『………』


滝壺は突如無言になる。


『どう?滝壺、あのクモ女の力、記憶した?』


『確かに記憶した』

296: 2011/01/29(土) 15:09:25.43 ID:iSm8z8mn0
いきなりだが、ここ最近、滝壺は能力を使ったことがなかった。
というか滝壺が能力を使う程の強敵が居なかった、と言った方が正しいのだろうか。


滝壺が能力を使ったのはこれで二度目。
一度目は同じ暗部組織のスクールとか言ういけ好かない長髪の男と麦野が戦っている際に使った。


垣根だか谷垣だかと言った能力者にアイテムは以前完敗した事があった。
その時に躍起になった麦野に滝壺は体晶を奨められて、その人物の“力”を記憶したのだとか。


“力”とはAIM拡散力場とか言う能力者が多かれ少なかれ体から出している一種の電波の様な物を指す。
滝壺は体晶を使用する事でそれを頭に記憶する事が出来るのだ。


彼女に記憶された物は永久に逃れることができない。
そう、滝壺はアイテムの照準であり測距儀でもあるのだ。

297: 2011/01/29(土) 15:13:33.95 ID:iSm8z8mn0
「悪いけど、あんたらに付き合ってる時間はない」


不意に美琴が麦野達に向かって言い放つと、目をつぶり砂鉄を右手の辺りに凝集させる。
原子崩しに消滅させられた砂鉄もあったが、まだそれなりの量が床に残っているはずだ。


「―――――」


美琴は集中してそれらを再び自分の手に凝集し、ハーフパンツのポケットから幻想虎鉄の柄を出し、融合させた。
すると先程より少しだけ短い幻想虎鉄を美琴は顕現させる事に成功した。


彼女は「いくわよ」と小さく一言つぶやくと一気に麦野に斬りかかった。


「うああああ!」


麦野はそれを交わし、原子崩しを顕現させ、膨大な力で美琴を消滅させようと目論む。
その第一弾が到達する前に美琴は麦野達が出てきた穴に入り、身をくらませた。


「チッ…すばしっこい女だ…クモじゃなくて狐ね…女狐」


独り言のように麦野は初めて出会った能力者の感想を言う。
彼女はフレンダに「常盤台の超電時砲だっけ…アイツ?」と問いかける。


「そう…名前は御坂美琴って言って…たわよ…はぁ…はぁ…」


壁に寄っかかりながらそう言うとフレンダは腰を落とし、座ってしまった。
滝壺に支えられていたのだが、どうにももう少し待たなければ歩けそうにないようだ。

298: 2011/01/29(土) 15:17:15.90 ID:iSm8z8mn0
「御坂美琴…あぁ…あいつが」


麦野は合点がいくように「ほうほう」と言いながら頷く。
実は麦野は超電磁砲の名前を聞いたことがあった。そしてその人物が第三位である理由も。

原子崩しと超電磁砲。
根っこのところでは似通っている能力。それらを所有している彼女たちの格付けは即ち学園都市に対して利潤を生むか否か、で判断出来る。

それは個々の能力差や優劣ではなく、学園都市にの能力者に対しての期待値としての格付けに他ならなかった。


「学園都市に利益をもたらす順番で第三位かぁ…ククク…」


麦野は思い出したようにつぶやくと「滝壺」と呼びかける。


「今、あの女狐はどこにいる?」

「ターゲット北西に二十メートル移動…今も移動している…」

「りょうかい☆」

ウインクをしながら麦野は手から原子崩しを顕現させ、その方角へ向けて放出するがなかなか当たらない。
しかし、判然としないものの、滝壺の報告で美琴の動きが徐々に鈍ってきている事が分かった。

299: 2011/01/29(土) 15:21:32.26 ID:iSm8z8mn0
(徐々に移動距離が短くなってきている…ここで滝壺を使うのは割にあわないか?)


滝壺は能力者を追尾する面ではどんな透視能力者や精神感応系能力者よりも能力者をサーチする事にひいでている。
反面、能力発露に際して起爆剤である体晶を使わなければならないといった弊害がある。


弊害とは単に薬品を服用する事を指し示す訳ではない。
体晶は体が徐々にむしばまれていく劇薬なのだ。
なので麦野も滝壺がいないとどうしても倒せないと判断した時のみ、体晶の使用を求めるのだった。


現に滝壺は激しい運動をしていないにもかかわらず、「はぁはぁ」と肩で呼吸をしている。
同じく疲労で疲れて座っているフレンダよりも見た感じではやばそうだった。


「ん…!また移動…した…今度は…」


滝壺は言葉の節々に疲労を滲ませながらも麦野に指示を出す。
麦野も的確にビームを放つのだがいかんせん、高速で動き回る相手では仕留めにくい。


ビームを発射した地点からターゲットに着弾するまでの数秒で敵も動く。
予知能力が無い滝壺はあくまで測定をした現行の位置だけを麦野に伝えるだけでなので、敵が移動している数秒のラグは埋めがたいのだ。
それをカバーする様に麦野の原子崩しは広範な破壊力を持って多少の誤差を無いものとしているのである。

300: 2011/01/29(土) 15:24:31.99 ID:iSm8z8mn0
しかし、それでも麦野の原子崩しは当たらない。
ここで麦野は推理する。


(私と超電磁砲の能力は根底では同種のもの?だとすると…超電磁砲の野郎…まさか…私の原子崩しを曲げているのか…?)


先程から感じ始めている妙な違和感の正体。
もしかしたら超電磁砲は原子崩しを屈折させているのではないか?という懸念。
麦野は滝壺から再度超電磁砲の方角を聞き直し、集中し、原子崩しを放つ。

数秒後、着弾が認められた物の、やはり途中で意図的に曲げられている様な感覚を彼女は感じた。


(やっぱり…曲げてるっぽいわね…)


ならばどうするか、麦野は冷静に思考を巡らす。

(曲げられるなら…何故逃げた?)


(戦う程の電力は無いから?)


(それとも私達と戦うよりも何かしらの目的がある?或いはその二つか…?)


(絹旗に施設の核のコンピューターは防衛する様に厳命した、仮に超電磁砲が絹旗に戦いを挑んでもおいそれと絹旗は負けないだろう…)


(いや…なら何故最初から絹旗の待機している施設に行かない?超電磁砲はオトリか?)

301: 2011/01/29(土) 15:28:13.47 ID:iSm8z8mn0
様々な推論が頭に浮かんでは消える。
麦野は携帯電話をお姉系のワンピースドレスのポケットから取り出すとGPSで現在の位置を確認する。


(ここが…現在地…動力室と…当該施設の核になっている接続地点…あぁ…ここで待機してりゃあ勝手に来るだろ…?)


ここからそう遠くない地点に動力室と当該施設のコンピュータールームに接続する場所を見つけた。
若干大きいホールほどの大きさだ。
麦野は携帯を閉じると、滝壺とフレンダに撤退するように言い、そこへ向かおうとする。

「そうそう、フレンダ、滝壺あんたらはもう帰りな。電話の女には私から連絡しとくから」


「え?だってまだ終わってないよ?」


「そうだよ。むぎの。私だってまだいけるよ」


二人は撤退を拒み、なお衰えない闘志を見せるが、いかんせん滝壺にしろ、フレンダにしろ、体力的に一杯一杯なのは誰の目にも明らかだった。


「バカ、お前等肩で呼吸してるじゃない、さっさと休んで、後詰めは絹旗に任せてさっさと撤退しなさい」


二人はなお、「でも…」と抗弁してくる。
その素直に共闘しようとする姿勢は麦野にとっては嬉しかったが、正直足手まといだった。
それに相手が常盤台の超電磁砲とあればタイマンでけりをつけたい、と熱望する自分がいたのも正直、思う所だった。


「滝壺、あんたはよく頑張った。フレンダ、滝壺が体晶使ってヤバイのは分かるよね?」


「う、うん」


「じゃ、さっさと愛銃持って撤退しなさい」


フレンダは思い出した様に崩落した階段の下にあるアキュレシー・インターナショナルを思いだし、痛む体の節々に耐えるよう言い聞かせ、遠回りをして取ってきた。
彼女は安全装置をしっかり入れると背中に背負う。
そして滝壺に肩をかして「よいしょ…っと」と一人ごちると二人でとぼとぼとSプロセッサ社の出口に向かっていった。

麦野は撤退していく二人を見届けると美琴が来るであろう接続地点に向かっていった。

302: 2011/01/29(土) 15:32:59.04 ID:iSm8z8mn0
コツンコツンとブーツが床を踏む音が施設内に響く。
麦野はフレンダと他あ旗壺が撤退完了した事をフレンダのメールで確認した。
そしてしばらく連絡が来なかった絹旗からも連絡が来ていた。


どうやら長点上機学園の研究者を裏切り者として捕縛したそうである。
連絡が来た携帯を閉じると、麦野は壁に寄っかかる。


(はぁ…滝壺…ライバルかぁ…)


(ってライバルって認めてる時点で私は浜面の事が好きなんだな…)


(私の事認めてくれる男なんて浜面くらいしかいないよ…だから…滝壺の所にいかないで…)


美琴に追い詰められてピンチの状態のフレンダを助け出すために向かっていく時に話した内容。
実は滝壺が浜面の事が好きという事実。
麦野は確たる証拠もないのだが、勘で浜面は滝壺の事だ好きなのではないか、とずっと思っている。
そして今日発覚した新事実。滝壺は浜面の事が好き、と言うこと。


303: 2011/01/29(土) 15:34:18.60 ID:iSm8z8mn0
麦野は今まで能力者故に煙たがられ、まともな恋愛を送った経験が極端に少なかった。


今ではスクールとか言う組織の親玉をやっている垣根とかいう男と付き合った事もあったがうざくてすぐ別れた。
上から目線でごちゃごちゃうるさかったから振った。泣きながら。


(ってなーんで思い出してるのよ、クソ垣根の事なんざどうだっていい)


(浜面…私の言うことも聞いてくれて、私にしっかり意見してくれる…)


浜面と一緒にいると落ち着く。麦野はそう思っていた。


(けど…浜面…いっつも滝壺の事ちらちら見てさ…私がどんな格好してもあんまり良い反応しないし…)


戦いに身を置く者のいっときの小休止。
麦野は元彼の垣根と浜面、そしてライバルである滝壺の事を考えていた。


(はぁ…今日浜面とあえるかな?)


仕事が終わったら浜面にちょっと会いたいな、と考えている時、人の気配がした。
片手には幻想虎鉄、背後には無数の人形爆弾をひきつれた美琴だった。


再び女の戦いの幕が切って落とされようとしていた。

319: 2011/01/29(土) 18:01:32.93 ID:iSm8z8mn0
「遅いじゃない…常盤台の超電磁砲、御坂美琴」


「…知ってたんだ、私の事」


「フレンダから聞いたわ…」


麦野は施設の柱によっかかりながら丁寧な口調で説明する。
美琴はフレンダと言う名前を聞いてククリ刀を持ち、立ち向かってきた白人を思い返す。


「そうなんだ…」


「にしてもスゴイ量の人形ね…集めるのに時間かかったでしょ?」
(フレンダしっかり後始末しろや)


狙撃銃を忘れるな、とは言ったが、まさか自分のしかけた爆弾の後始末をしないで帰るとは。
今度あった時に拷問確定だな、と胸中でつぶやくと麦野は一気に美琴に向けて原子崩しをぶっ放した。


美琴の背後でフワフワと浮遊している人形群の内、数十をくだらない人形爆弾が猛烈な爆風をまき散らし炸裂する。
しかし、それでもなお美琴は数百の人形を背後に従えている。


そしてその人形の内のいくつかが麦野の発するビームをスルスルとよけて近づいてくる。


(…人形に何か仕込んでるのか?)


原子崩しを放出しつつ、麦野はスルスルと奇妙な動きで近づいてくる人形を見る。

320: 2011/01/29(土) 18:02:38.13 ID:iSm8z8mn0
(中にベアリングが入っているプラスチック爆弾もあるだろうが…爆弾の中に通電したら起爆する…有線でもあるめぇし…一体どういう原理だ、ありゃ)


麦野は誘導爆弾の正体を看破しようと推理を巡らしていく。
何故、人形があそこまで奇怪な運動を出来るのだろうか?


(まさか…鉄でも中に仕込んだか?)


人形を集めるだけならすぐに出来るがいちいち鉄の塊を入れたら美琴の能力ならば浮遊させることが可能だ。
麦野は「鉄か」と言おうとしたところでちょうど美琴が喋りだしたので控える事にした。


「中に鉄塊を仕込んでるのよ、爆弾だけだったら電気が通電して氏ぬけど、これだったら…鉄塊が入ってるからコントロール出来るのよ」


「へぇ…鉄塊をねぇ…便利な能力だ事」


考えている内容を頭ごなしで言われて若干イラっとするも、麦野は納得した。
確かに彼女の能力なら撤回がしこんであればある程度の重さのものであれば浮かすことが出来る。


「鉄塊があるなら自由に誘導も出来るわね…」


「えぇ」


美琴はそう言うと一気に数十体の人形爆弾を麦野に差し向ける。
それらの全てが高性能爆薬を内包している。

321: 2011/01/29(土) 18:04:45.81 ID:iSm8z8mn0
人形は美琴の制御化の元、麦野を爆頃しようと、それぞれが違う方向から麦野に殺到する。


「吹き飛べ…!」

「しまった…!」


美琴は勝利を確信し、笑った。
ビームの間隙を捉えた数個の爆弾が爆弾が麦野を捉えたのだ。


しかし、麦野は美琴の笑ったそれよりもさらに口元をゆがめてにんまりと笑った。


「にゃーんてねん☆」


麦野のポケットから出されるトランプほどのカード。
それを空中にかざすと一気にそれめがけて原子崩しを顕現させる。
すると白熱した光がそのカードに当たる。


ビームが高射砲の弾丸の様に空中に飛散し、美琴の投擲した人形が次々と破裂していく。


「な…っ?あれは?」


「拡散支援半導体(シリコンバーン)」


麦野の弱点は膨大すぎるエネルギーを制御する事の難しさにある。
多方面からせめて来られた場合、何も出来ないのが彼女の致命的な弱点だった。


「私の弱点は私が一番知悉している。アイテムを舐めるなよクソガキ」

322: 2011/01/29(土) 18:06:13.54 ID:iSm8z8mn0
麦野の弱点をカバーする為に学園都市の治安維持機関がかつて彼女に送ったもの、それがこの拡散支援半導体だった。
カードにビームを照射するとカードが飛散し、同時にビームも拡散すると言うわけだ。
単純な構造ながら、麦野が一対複数の戦いに陥った場合、かなり有用な道具だった。


「ッたくよぉ…学園都市に貢献する利益の期待値で私が第四位でお前が第三位っておかしいだろぉが」


麦野は心底美琴を軽蔑するように言い放つと拡散支援半導体で広がった原子崩しで次々と人形を破壊していく。
気づけば人形は数えれるくらいにまで減っていた。


「けどよ…ここでお前を殺せばそんな利益の期待値なんて関係ねぇって証明できるんだよなぁ?」


「………」


黙って聞いている美琴をよそに爆弾人形はいよいよラスト三個までに減った。


「残り三個だぜ?超電磁砲?」


「………」


三個の内二つを左右に展開させ、麦野を爆頃しようとする。
しかし、セムテックス入りの人形はあっけなく融解させられる。
最後の一個が麦野の正面めがけて突撃してきた。


「は!聞かないって言ってんだろ!この売女がぁ!」

323: 2011/01/29(土) 18:06:47.55 ID:iSm8z8mn0
麦野はそういうと指の先でバシン!と勢いよく人形を消滅させる。
しかし、その人形の背後には幻想虎鉄が…。

(なっ!人形の裏に…?ヤバイ!)

即座に原子崩しで砂鉄の刀、幻想虎鉄を融解させる。


ザシュウウウウ…と刀が背後の壁に突き刺さる。
後少し遅かったら顔面に刀が突き刺さり、即氏していただろう。

間一髪でその攻撃をかわした麦野だったが、ふわふわした大事に手入れをしている栗色の髪の束が刀に持って行かれる。


「いッ…てェェ…!…のやろォ…!」


「油断したあなたがいけないのよ?」


「畜生がァ!」

自分の手入れの行き届いた髪の毛の数十本が犠牲になった事で麦野の怒りはマックスに達した。
無傷だった自分が傷つけられ頭に一気に血が上る。

しかし、その直後に麦野の思考は中断する事になる。


コツン…


四つめの人形があっけなく頭に当たったのだ。

324: 2011/01/29(土) 18:08:07.60 ID:iSm8z8mn0
美琴の背中に隠していた人形だった。
麦野に気づかれないように背中にはっつけていた最後の切り札だった。


「…んの…ア…マァ…!」


麦野は怒りと苦痛に表情をゆがめ、最後につぶやくとどさりと床に体を沈めた。
美琴は「ふぅ」とため息をつく。
そして失神している麦野の様子をうかがう。


麦野と美琴の戦いの軍配は美琴に上がったようだった。


(手ごわい相手だった…早く復活する前に行かないと…)


美琴は施設の中枢があるであろう方面に向かって歩を進めようとするが、いや、と思い立ち止まった。


(あの狂った計画に…コイツも参加していた事になる…このまま逃がしておいていいのかしら?)



一瞬美琴は逡巡するがこの大規模な施設の全容を未だに把握していないので保留する。
一度刀を砂鉄に戻し、自分の所に引き寄せると、麦野の頭にヒットした人形を引き連れ、施設の奥に向かっていった。

325: 2011/01/29(土) 18:09:05.31 ID:iSm8z8mn0
「ここね…中枢は」

美琴は疲労でパンパンになった脚を引きずりながらもSプロセッサ社の中枢であるコンピュータールームに到着した。
フレンダの残していった人形の最後の一個を起爆させる。セムテックスは轟音を響かせ、パソコンの機器を吹き飛ばしていった。


そしてさらに念の為にそれらの機器を電撃でショートさせる。


(よし…後はあの女にとどめをさして…)


どす黒い感情が美琴の中でうごめく。
しかし、彼女は思った。
相手を倒すことはできても、頃す事が出来るのだろうか、と。


(殺せるかしら…?私に)


美琴は逡巡する。
果たして自分に人頃しという最低最悪な行為が出来るのだろうか。
人の生涯をいきなり断ち切る行為。それは自分がやられて最も納得できない行為ではないか。


ふと美琴はいつもいる四人組を思い出す。


(黒子、初春さん、佐天さん…みんな、私がこんな事してるって知ったらどう思うんだろう?)


美琴はよく遊ぶ友人たちの事を考えた。


(そんな事したら…私…)

326: 2011/01/29(土) 18:09:52.44 ID:iSm8z8mn0
(…何考えてるんだ私…人頃しなんて…でも…)


美琴は人頃しは出来ない、と思った。

しかし、あの計画のワンシーン…9982号が無残にも虫けらのように殺された光景が頭の中によみがえる。
美琴は目をつぶり、あの時みた凄惨な光景を払しょくするかのように頭をぶるぶると振るう。


(けど…あの実験に関わったヤツは絶対に許さない…!二度と戦おうなんて思わないくらいに叩きつぶす?)


(またあの計画がスタートして施設の防衛にアイツらがいたら絶対に許さない…けど…今日は…許してやるわ…!)


結局美琴は人頃しに手を染めなかった。
彼女はその場から一度出て、もう一つの施設に向かおうとする。


しかし、施設の高架を歩いている時だった。美琴の下腹部に猛烈な痛みが走る。
麦野にけられたのだ。


「ぐ…はぁ…!」


「待てよ…趙電磁砲…!今から…テメェにやられた事兆倍にして返してやるんだからよっ!」


出血しているこめかみのあたりを抑えながら麦野は美琴に原子崩しをゼロ距離で放つ。
美琴は間一髪でそれをよける。
麦野はそれをかわすと原子崩しを美琴に放つ。いや、美琴にではない。
目の前の物体、全てを吹き飛ばそうとする悪意に満ちたビームだ。


「な、何をする気なの?」

327: 2011/01/29(土) 18:11:49.21 ID:iSm8z8mn0
「うるせぇよ…超電磁砲…!」

動揺する美琴をしり目に麦野は手のひらの中に原子崩しを顕現させる。
美琴は幻想虎鉄を顕現させて一気に切りかかる!が、麦野の顔に幻想虎鉄が触れそうになる瞬間。
頬をかばうように麦野が腕を顔の前に出す。

その瞬間幻想虎鉄が焼け焦げた。
麦野は原子崩しを手の周りから撃ち出し、幻想虎鉄を完全に滅却させる。


「超電磁砲…私の顔に傷をつけた罪はぁ…!」


こめかみから流れる地は固まったようだが、その凝固した血が真っ黒に変色し、麦野は異様な雰囲気を醸し出している。


「氏ね…超電磁砲ッ…!」


麦野は肩の辺りから一気に原子崩しを放出し、美琴を焼き尽くそうとする。

美琴は能力を使ってよける事しか出来ない。
もう体力もあまり残っていない。
体も限界に近づいていた。


「パリィ!パリィ!パリィ!ってかぁ!?学園都市の暗部の女王に喧嘩吹っかけといてそのざまかぁ?第三位ィ!」


美琴は麦野の怒鳴り声に「あ、ぐ…」とうめき、原子崩しをよける事しかできない。
しかし、ついに体力に限界が来て、美琴は床にへたへたと倒れこんでしまう。


「どぉしたぁ?もう終わりかぁ?第三位もこの程度かぁ?よくみらぁ…小便くせぇただの処O豚じゃねぇか…!」

328: 2011/01/29(土) 18:12:49.99 ID:iSm8z8mn0
麦野の吐く罵詈雑言に美琴は言い返す気力もなかった。
大事な髪の毛を持って行かれた事と出血し、しかも失神していた事がよほど屈辱だったのだろう。

アイテムの女王は狂える化け物として美琴の前に立ちはだかった。


「おい、もしかしてこれで終わりかよ…?超電磁砲、あれみてぇんだよ、あれ」


麦野はそういうと「テメェの必殺技の超電磁砲撃ってみてくれねぇかなぁ?」といきまく。
しかし、勿論美琴にそんなものを撃てる程の体力など残されているわけなかった。


(絶体絶命ねぇ…クッソ…!)


(何か…何かこの状況を逆転できるものはないの…?)


(考えろ美琴…!考えるんだ…)


ふと彼女は下を向く。すると白いテープが無数に設置されているではないか。
美琴はそれをちらとみるとこれしかない、と思った。


「ねぇ…この…白線…おたくの仲間が置いていったものでしょ?」


「あぁん?……?」


麦野は鬼も睨み頃してしまいそうな形相で美琴を見つめる。
が、美琴が床に指を差している白線を見て一気に身体が震え上がる。

329: 2011/01/29(土) 18:13:18.74 ID:iSm8z8mn0
「な…そ、それは…」


「そうね、えーっとフレンダさんだっけ?お宅の白人。…このテープを今ここで着火したら…どうなるかしら?」


「ば…か…やろう…フレンダぁ…!」


そう。フレンダの着火テープの未処理分がたっぷりこの区画に残っていたのだった。
美琴は偶然それを見つけたというわけだ。


「今の私でもこれを着火させられるだけの電気くらいなら残ってるわ」


「ば、やめ…!」


ビリッ…!

美琴の手からヒュボッ!っと青白い電気がはぜる。
手から発生した小さい電気はしかし、一瞬にして着火するとテープを焦がす。
そして一気に延焼していく。


ガラガラ…!



施設間を繋ぐ橋がテープの焼失に合わせて次々にバラけ、崩落していく。
底は全く見えない。
ここから落ちたらおそらく無傷ではすまないだろう。

330: 2011/01/29(土) 18:15:33.84 ID:iSm8z8mn0

美琴は最後の力を振り絞って崩落を免れた柱に捕まる。
彼女の近くにいた麦野はそのまま落ちていく。


(助ける…?いや、どうなんだ…!)


美琴は麦野を助けるか躊躇していた。
頭は彼女を殺そうとした。このまま落ちてしまえ。そう考えていた。



しかし、気付けば彼女は近くにあった鉄製ワイヤを電力で投擲していた。


「つかまって!」


「…!」


麦野は美琴が差し伸べた最後の命綱に手を伸ばしかける。
しかし、その手がワイヤをつかむことは無かった。
彼女はその手でワイヤを溶かすとにやと不気味に笑って漆黒の闇に消えていった。


「ば…馬鹿な?どれほどの高さだかもわからないって言うのに…」


美琴は唖然とした。
しかし、いつまで悠長にとどまっているわけにはいかない。美琴は撤退しようとする。


キィィィィ…!


撤退を決めた直後、多数のビームが下方から撃ちあがってくる。
おそらく着地に成功した麦野がやけくそでビームをぶっ放しているのだろう。


あてずっぽうに撃つビームを美琴は難なくよけて施設から撤退する。



戦いは急速に幕が引かれていく……。

331: 2011/01/29(土) 18:16:31.58 ID:iSm8z8mn0
佐天はサイバーテロのニュース速報を見ながらぼんやりとアイテムからくる任務完了の報告メールを待っていた。


戦闘が始まっておよそ一時間半。
連絡がやってきた。


ういーん…ういーん…



仕事用の携帯電話はいつもと変わらずバイブレーションの音を佐天の小さい部屋に響かせる。
彼女はなるべく平静を装ってメールフォルダにタッチする。

332: 2011/01/29(土) 18:17:03.65 ID:iSm8z8mn0
From:麦野沈利

Sub:作戦終了

全員良く敢闘した。

ふふ…学園都市の闇に引きずられていくといいわ。
あのクソ売女。

取りあえず施設防衛は失敗したけど、五分五分にもつれ込んだわ。
だから給料の振込に関してなるべく早く連絡頂戴ねー☆


333: 2011/01/29(土) 18:18:35.13 ID:iSm8z8mn0
(ふーん…施設防衛は失敗したけど…五分五分…取りあえず、上には私が報告しておきますかね…)


まず新規作成で学園都市治安維持会宛のメールを作成する。



(ってクソ売女って…やっぱり侵入してきたひとってやっぱり女だったんだ…女のエレクトロマスターって…)


今回の侵入者は事前にエレクトロマスターと言われていた。
そして麦野の任務完了連絡が正しいとすれば今回のインベーダーは女。


佐天の交友関係上にも一人のエレクトロマスターの友人がいる。御坂美琴だ。


(まさか…御坂さんじゃないよね?)


余計な詮索は依頼主の製薬会社からの依頼で禁じられている。
ここでフライングして麦野に聞いてしまえば、と思うがそれはご法度だ。

佐天は麦野に事の顛末を聞きたい衝動にかられたが、まずは任務完了メールを手がけることにした。



(今回の戦い…どうなったんだろう…)


佐天はこの時点で美琴以外にアイテムと戦い、五分五分にもつれ込む事が出来る人物はいないと勝手に決めつけていた。
果たして、今回の施設に侵入したインベーダーの正体はいったい誰だったのだろうか。


佐天はもやもやした思考を払しょくしようとベランダに出てみるが、外のじめじめした暑さにたちまち部屋に戻ってきた。
一人の時間が異様に長く感じた。

334: 2011/01/29(土) 18:28:29.93 ID:iSm8z8mn0
「結局…疲れたって訳よ」


下部組織の構成員の送るキャンピングカーの中でフレンダは「はぁ」とため息をつく。
今日の相手は強敵だった。


「じゃ、ふれんだ。ここらへんでおりよっか」


「あ、そうね、今日は集団アジトでいっか」


滝壺は体晶を使って麦野の膨大すぎる原子崩しの射撃補佐に当たって、インベーダーをあと一歩のところまで追い詰めた。
しかし、体調に不調をきたし、戦線から後退した。


下部組織からはいった連絡によれば麦野は擦り傷程度ですんだらしい。
絹旗も治安維持機関とかいう組織に布束を引き渡して無事帰還中との事だ。
インベーダーとの勝負はつかずじまいになったが、リーダー不在という事態は避けることが出来た。


「お疲れ様です」

「送ってくれてありがとね」


下部組織の名前も知らない男にフレンダは律儀に礼をする。
滝壺もベンチコートをはおったまま小さくぺこりとお辞儀をする。


「滝壺、鍵持ってる?」

335: 2011/01/29(土) 18:29:09.40 ID:iSm8z8mn0
「うん。私のジャージのズボンのポケットにあるよ」


「自分で取れそう?」


「ちょっときつい」


「はいはい。じゃ、私がとってあげよう」


フレンダはそういうと滝壺のポケットに手を伸ばして共同アジトの鍵を採る。
彼女はキルグマーのストラップがついているかわいらしいキーホルダーに繋ぎとめられた鍵をアジトのマンションのカギ穴に差し込んでいく。


ガチャリ…キィィ…


ドアを開け、電気をつける。
フレンダと滝壺が共同アジトに到着した。
二人はやっと肩をなでおろす。

336: 2011/01/29(土) 18:30:08.41 ID:iSm8z8mn0
♪I believe miracle can happen


フレンダの携帯電話の着信が鳴る。
Daishi Danceのシークレットカバーの曲、「I believe」だ。
フレンダは実はこのフレーズが大好きだ。
日本語に訳せば、“信じれば奇跡は起きる”このフレーズが大好きで、わざわざ有料のサイトに登録してダウンロードしてしまったくらいだ。
この曲をかければ姉にも会えるかも、とフレンダは思い、それ以降、着信音はずっとこれ。ゲン担ぎの様なものだ。


「フレンダ。携帯なってるよ」


「うん、わかってる。ちょっと待ってくれい」


明かりをつけてベレー帽を机に置く。
携帯をちらりと見ると麦野からだった。


「えーっと?麦野は今日個人アジトに戻るってさ。浜面が送迎してるそうね」


「…はまづらが送ってるんだ」


「うん。そうみたい。下部組織のまとめ役任されてたっぽいし、ちょうどそれの業務が終わったタイミングとバッティングしたんじゃないの?」


「かもしれないね」


フレンダは滝壺の一定のトーンの口調をおかしいと思い、ちらとリビングのソファに腰をかけている彼女の顔を見る。
いつも何を考えているかわからないといった調子の滝壺の表情が僅かながらゆがんでいるように見えた。

337: 2011/01/29(土) 18:30:41.44 ID:iSm8z8mn0
「ね、滝壺?あなた浜面の事…気になるの?」


「いや、別にそんなことないよ」


フレンダは滝壺につい質問していた。
ソファに座っている滝壺の顔が僅かながらゆがんでいる様に見えたからだ。


「ホント?」


「それを聞いてフレンダはどうしたいの?」


「え?い、いきなりそんなこと言われても」


「私もいきなり浜面の事いわれてもわからないよ。フレンダ」


滝壺の表情は心なしか悲しそうな表情をしていた。
フレンダは思った。


(滝壺、浜面の事好きなんだね)

338: 2011/01/29(土) 18:31:13.01 ID:iSm8z8mn0
お茶らけているように見えるフレンダ。
実はこう見えて結構鋭い。


(結局…アイテムのリーダーとその相棒が同じ男に惚れてるって状況…難解な訳よ)

(これからどうなるのやら…)


滝壺がまだ浜面の事を「好き」と言った訳でもないし、先のフレンダの質問に対して滝壺が首肯した訳でもない。
あくまでフレンダの女性的な勘だ。




「じゃ、私から先にシャワー浴びてもいいかな。疲れちゃった」


「あ、私も一緒に入る。汗一杯でちゃった」



「え?」
(結局何で一緒に?)


「え?」
(つかれた…)

339: 2011/01/29(土) 18:33:59.83 ID:iSm8z8mn0
「あーあ疲れちゃった」


「相手は誰だったんだ?」


「常盤台の超電磁砲」


「まじかよ」


「うん。まじ」


麦野は電話の女に報告するべくメールをカチカチといじくりながら浜面の質問に答える。
彼女は仕事が終わり、研究者に今回超電磁砲の阻止しようとしていた計画をはかせていた。
そのさなかに下部組織の仕事も終わり、居合わせていた浜面に自宅まで送迎させているといった具合だ。


浜面は運転しながら車載テレビを起動する。
彼はモニターを見れないが、座席のシートに埋め込まれたテレビモニターを麦野は目で追っていた。


『サイバーテロは沈静化した模様です…近隣の学生や研究者の方々にはご迷惑を…何かございましたら付近の警備員や…』


テレビに映っている女性キャスターはヘリから施設の上空を飛行しながら撮影を続けている。
そこはつい先ほどまでアイテムと美琴が激闘を繰り広げていた所だった。

テレビではサイバーテロと言い報道しているが、その一言の陰に隠れていくつもの思いが交錯していった事か。


さらりと“サイバーテロは沈静化”と言うが、その背後にアイテムの並々ならぬ努力があった事は確かだが。
暗部の彼女たちは決して表に出る事はない。アイテムの構成員達も自分たちが裏の存在であることは重々承知していた。

340: 2011/01/29(土) 18:34:45.15 ID:iSm8z8mn0
「今日はお前の単独アジトでいいのか?」


「うん」


「絹旗はどうする?途中で拾うか?」


「いや、絹旗はいいってさっき連絡来た。自分のアジトに帰るってさ」


「そうか」


絹旗は麦野、滝壺、フレンダの三人とは違う区画の防衛に回されていた。
そこで捕縛した人員がどうやら優秀な学者との事なので一応引き渡しまで立ちあうとの事だった。

「フレンダと滝壺は共同アジトか?」


「えぇ」


「滝壺は平気なのか?」


麦野はカチカチといじっている携帯の手をぴたと止める。
そして後部座席からミラーに映る浜面をぎろとにらんだ。


「平気よ。よく戦ったわ。今頃先にアジトで休んでるんじゃないかしら。安心しなさい」


「そっか」

早口で、棒読みの状態で麦野は淡々と言い放つとすぐに下を向いて携帯をいじり始める。
浜面はその素振りがちょっとだけ気に入らなかったが仕事を終えたばかりの麦野に何かを言おうとする気はわかなかった。


浜面は運転しつつ肩をそっとなでおろす。
その素振りは麦野をイライラさせる。彼女は浜面に話しかける。


「何よ…浜面。滝壺が無事で安心してるの?」

341: 2011/01/29(土) 18:38:24.07 ID:iSm8z8mn0
「あぁ。だってあいつ病弱そうっつかなんかおっとりしてそうな所あるじゃねぇか、お前も滝壺が無事でよかったろ?」


「あ、当たり前でしょ…」
(そういう事じゃなくてさ…)


麦野は自分の擦り傷を見る。
美琴が崩落させた接続通路から落ちた時、着地に失敗して出来た傷だ。
頭部も人形がぶつかったせいで裂傷があったがそれほど深くなく、凝固した血を拭き取って消毒したので浜面にはその傷は見えない。


「…何よ…そんなに滝壺の事が気になるんだったら滝壺の所に行けばいいじゃない」


「そんなこといってねぇよ」


「言ってる」


「言ってねぇって」


「……私だって…怪我したんだよ?」


こんなことを言って何になるんだろうか、いや何もならない。
麦野は分かりつつも浜面に膝の部分がすれてなくなったニーハイソックスを見せる。
浜面はミラー越しにちらとそれを見る。


「怪我…平気か?」


「…ばかづら」


「は?なんだよ、いきなり」


「もう疲れた、アジトについたら教えて、私寝るから」


「あ、あぁ」


浜面の運転するシボレー・アストロは学園都市の街の夜景をその黒いボンネットに映しながら走り続ける。

342: 2011/01/29(土) 18:39:17.05 ID:iSm8z8mn0
――滝壺とフレンダがいるアジト

「フレンダ。ダメ?」


「あ?え?ちょっと…滝壺?」


「別に…私、そっちの気がある訳じゃないから、安心してフレンダ」


「結局…二人ではいるのは確定って事?」


フレンダがシャワーに浴びるといいだした時、滝壺もなぜか入ると言いだして始まったこの問答。
アイテムの共同アジトといいう名の大型マンション。風呂も無駄にでかい。なので二人で入る分には全く問題はないのだが…。


♪あと五分ほどで入れます


風呂の自動給湯システムがお湯張りが完了するであろう旨を告げる。
場違いな位に明るい声が流れてフレンダは苦笑する。


「今日、熱かったし、一杯汗かいちゃったから早く入りたい」


「あ、それも、そうね、あはは」
(滝壺と二人でお風呂?ちょっとぉ…)


フレンダはまよった。自分が譲って後でお風呂に入ってしまえばいいではないかと思った。
しかし彼女は滝壺の提案を快く受け入れた。
特に拒否する理由もないし、滝壺なら構わないとなんとなしにフレンダが思ったからだ。


「ま、いっか。じゃ、滝壺、はいろ?」


「うん」


二人はバスルームの脱衣所で服を脱ぐ。
フレンダは手なれた手つきでぱっぱと服を脱ぐと、「お先!」と言ってバスルームに入っていった。

343: 2011/01/29(土) 18:39:50.06 ID:iSm8z8mn0
ざばぁ…ざばば

フレンダはお湯をざぶんと桶(おけ)で背中にかける。
すると今まで彼女は気付かなかったが、お湯を浴びたことで体から煙の匂いが落ちていき、バスルームにそれらが広がっていく。


(うわー…結構激しい戦いだったんだぁ…)


そんなことを考えながら彼女はお湯で何度か体を洗い流すとぽちゃりとぬるま湯にはいり、滝壺を呼ぶ。


「いいわよー、滝壺」


「はーい」


滝壺も風呂で背中を軽く流す。
人二人が入ってなお余裕のある風呂に二人は体を預けた。

344: 2011/01/29(土) 18:40:40.65 ID:iSm8z8mn0
「はぁ…誰だったんだろう?今日のエレクトロマスターって」


佐天は任務終了の報告を学園都市治安維持機関にした後、風呂に入り汗を流す。
風呂から出ると治安維持機関からの折り返しの連絡が届いている事に気付く。
メールの内容はギャラはアイテムと佐天にしっかり振り込まれた連絡の様だ。


エレクトロマスター


その言葉が佐天の思考を駆け廻る。
一体誰だったのだろうか。


(麦野さんに聞いてみよう…)


相手の素性の詮索は禁止、と固く言われていたが、アイテムに聞き出すくらいならいいだろうと思い、佐天は麦野宛のメールを作成する。




To:麦野沈利

Sub:無題

お疲れ様。
誰だったの?今回の侵入者





(短文だけど、いっか…)


佐天はベッドでごろごろしながらメールを作成し、送信する。
しばらく佐天は元々持っている携帯でゲームをして遊んでいると仕事用の携帯に連絡が入る。
麦野からだ。




From:麦野沈利

Sub:無題

そんなに知りたいのかにゃん?





「こ、こ、こ、こいつときたらー!」

345: 2011/01/29(土) 18:42:06.53 ID:iSm8z8mn0
「こ、こ、こ、こいつときたらー!」


佐天はついメールを見てうなった。
待望の侵入者の正体が聞けると思ったら肩すかしを喰らってしまった。



To:麦野沈利

Sub:あたりまえじゃない

麦野ー、お願いだから教えてー



(よし!これでいいわね。さっさと教えてくれー)


ボタンをひと押しするとメールは送信された。
次のメールが来るまで待つ。


メールを送って一分もしないうちに返信が返ってきた。




From:麦野沈利

Sub:無題
常盤台の超電磁砲




麦野のメールを読み佐天は心臓がとまるかと思った。

346: 2011/01/29(土) 18:42:39.34 ID:iSm8z8mn0
正体はやはり超電磁砲こと御坂美琴だった。


(えええええええええええ?マジで?????どうしよ、どうしよ、どうしよ)


(今度会ったら普通に話せるかなぁ…どうしよう…)


度胸は人一倍強い佐天もこればかりは衝撃を受ける。
まさか自分の予想が的中するとは夢にも思っていなかった。


(まさか…御坂さんが…今回の首謀者だったなんて…五分五分って言ってた麦野さんって言ってたよね?)


佐天は先ほど送られてきたメールの内容を思い出す。


(麦野さんと五分五分って…御坂さんなら出来ない芸当じゃないかも…?)


麦野の力はあくまで能力上の数値でしか知らない。
粒機波形高速砲とか言う得体のしれない高速ビーム。


(やっぱりレベル5同士の戦闘はすごいなぁ…)


直接見た訳ではないが、佐天は戦いのすさまじさを想像する。


(御坂さんにも聞いてみたいなぁ…って無理か…あはは)


佐天はいまさらながら自分がそんなこと聞けない立場にいることに気付く。
御坂がSプロセッサ社の脳神経応用分析所まで出張って単独でアイテムと激闘を演じたのはそれなりの理由があるのだろう。


それは決して安易に聞けるような内容ではない。
いわんや、佐天がそれを聞く事は即ち、佐天が学園都市の裏事情に精通している事を美琴に証明してしまうことになってしまう。

もし仮にそんなことを言おうものならば、御坂はどういった反応を示すのだろうか。
そして、二人の関係はどうなってしまうのだろうか?

347: 2011/01/29(土) 18:43:56.65 ID:iSm8z8mn0
――再び滝壺とフレンダのいるアジト

「フレンダ。綺麗だね、胸とか脚とか」


「にしし…!でしょ?結局、私の体のよさを分かってくれるのは滝壺だけってことよ!」


蛇口からでるぬるま湯。四十度の温水がちょぼちょぼと二人の浸かっている浴槽に入っては溢れていく。
換気扇から排出されていくケムリ。


「滝壺も結構きれいな体だよ…?」


「そう?ってかふれんだ胸見すぎ…」


「あはは、結局あんまり無いね―!滝壺も」


「うるさい。ちょっと気にしてるの」


「麦野に負けないように?」


「…………うん」


風呂に入る前までは浜面の事を好きかどうか、否定していた。
しかし、滝壺は自分の胸が小さい、と言うことを気にしていた。しかも麦野に負けないように、と意識していた。


(ふふ、結局、浜面、アンタって男は…)



滝壺とフレンダは二人とも体を洗い終わって湯船に入りなおし、仕事の疲れをたっぷり流している。
しばらくすると滝壺の顔がほんのりと赤くなり出す。


「ちょっと熱い。先にでるね、フレンダ」

348: 2011/01/29(土) 18:44:32.27 ID:iSm8z8mn0
「あ、うん。私ももうちょっとしたら出るから」


ざばんと滝壺が湯船から立ち上がる。
体から滴り落ちるお湯。ともくもく浮き出ている湯気。


いやらしさは全く感じない。
むしろ、優しい、あたたかい表情。


フレンダは幼少時代に亡くなった母の面影…等覚えていないのだが、滝壺の穏やかな表情に何か落ち着くものを見出した気がした。


バタン。
滝壺はバスルームの扉を開けて先に出ていく。
一人分の容積が抜けた湯船は一気に水が減って少なくなる。
フレンダは胸の膨らみのあたりまで減ったお湯をすかさず継ぎ足していく。


(あー…今日はしんどかったなぁ…実際滝壺と麦野の援護がなかったら氏んでておかしくないわね…)


今日の戦いをフレンダは思いかえす。






『こっちは暗部に入ってまで人探してんのよ…!氏ぬのが恐くてやってられるかっての…!』





我ながらレベル5の前でよくあれほどの啖呵を切ったな、と思う。
絶対に氏ねない。その一心で彼女は美琴と真剣勝負を演じた。


(はぁ…ホント、氏ぬのが恐くてやってられっかっての)


フレンダのこの街に於ける掟。それは――やられる前にやれ。
彼女がこの腐った最先端都市の路地裏の戦いに身を投じ、早数年。
彼女が培ったこの街で生き残るための処世術だ。

349: 2011/01/29(土) 18:45:09.92 ID:iSm8z8mn0
元々姉を探すためだけに、ちょっとだけ人よりも銃器や爆薬の扱いに長けているからといった理由で興味本位で投じたこの世界。


(お姉ちゃん…いつになったら見つかるんだろう)


一度はあきらめかけていた姉に会いたい、という期待が再び発露する。
もうこの学園都市にいないかもしれない。それはわからない。


「はぁ…お姉ちゃん…会いたいなぁ」


ぼんやりとつぶやく。


「なにしてるんだろう…?」


キィ…バスルームのドアが開く。
風呂から出た滝壺だった。どうやら外に声が漏れていたようだ。


「フレンダ?どうしたの?何か聞こえたけど」


「あ、いや、なんでもないって訳よ…」


「そう…」

しばらく沈黙が支配する。
ぴちょんとバスルームについている蛇口から水滴が滴り落ちていく。
滝壺は裸のまま、フレンダの事をじっと見つめる。


「……そっか。わかった」
(聞こえてたよ、フレンダ)


「あ、私もでるからさ…滝壺、体拭いたらタオルこっちによこしてちょーだい」


「はーい」


「なんかお腹減ったね、滝壺」


「うん」

350: 2011/01/29(土) 18:47:21.14 ID:iSm8z8mn0
――浜面と麦野が乗っている車

「送ってくれてありがと、浜面」


「あぁ」


「寄ってく?」


「お前、怪我してんだろ、休まなくてもいいのかよ」


その言葉に麦野はかぁと体が熱くなる感覚を覚える。
浜面が自分の怪我を気にしてくれた。その事だけでもうれしい。



「怪我はもういいの…、で、どうなのよ?来るの?」


浜面に家に来てほしいと思う反面、答えを聞くのが恐かった。
もし、「いや、今日はいいや」とか言われたら、一人泣いてしまうかもしれない。
さびしい。一緒にいてほしい。彼女はそう思った。


「…じゃ、ちょっとだけ」


「ちょっと…じゃなくて…泊ればいいじゃない…」


後部座席にいる麦野を浜面はミラー越しに見つめる。
アイテムの女王と自他共に認める麦野。しかし、その女王は無能力者のスキルアウト上がりの男に完全に恋していた。
浜面の返答次第で彼女は一喜一憂するかわいらしい女の子になる。

ただ、彼女のプライドか、はたまた恋愛に対して臆病な所が彼女を一歩踏み出せない臆病者にしていた。

「…じゃ…泊るかな…取りあえず…お前ん家着いてからだな…」


「ん。わかった」


麦野は後部座席の窓を半分ほど開けて、新鮮な空気を吸う。
今日の任務は久しぶりに激しい戦いになった。


「今日はお疲れさまだったな。相手は…常盤台の超電磁砲だったんだろ」

351: 2011/01/29(土) 18:48:02.02 ID:iSm8z8mn0
「あぁ…憎たらしい奴だったわ。しかも助けられそうになったしね」


「いい奴じゃねぇか」


「そうかしら?」


「…いや、わからねぇけど」


最後の最後で麦野は超電磁砲に助けられそうになったが彼女の意地がそれを阻止した。
原子崩しをうまく使って助かったから良かった。


しかし、そうは言ったものの、彼女の絶対に目標を成功させようとする意地と勝利への執念がいつしかあだになる日がこないと言いきれない。
その後、二人は他愛もない会話をしながら麦野の住んでいる高級マンションの地下駐車場に到着する。


二人は車から降りる。
浜面は二人分の荷物を持つとエレベーターに入る。
エレベーターのボタンをあけたまま麦野を待つ。
すると少し足を引きずる様な歩き方で麦野がやってきた。


膝の部分だけ片方すりむいている麦野の脚が痛々しい。
彼女がエレベーターにゆっくりと乗ると浜面は最上階を押す。


麦野は浜面に抱きつき、唇を重ねる。


「おい…むぎ…?」


「うっさい、浜面」


くちゅくちゅと二人の唇からは淫靡な音が流れ出る。
最上階に上がっていくエレベーター。
動揺する浜面をよそに麦野は二度と離さない意思表示をするかの如く、ずっと唇を重ねてくる。

352: 2011/01/29(土) 18:48:40.57 ID:iSm8z8mn0
「滝壺の事ばっか見て…私の事も見てよ」


「俺はお前が一番だって。マジで」


「嘘」


「好きだぜ、麦野」


シャケ弁を買ってくるパシリが気付けば麦野の歪な恋人になっていた。
狂狂(くるくる)と回り始めた関係はいつしか麦野が浜面に懇願するような関係になっていた。


命令する立場だった麦野はいつの間にか気付けば命令を聞く浜面がいなければ何もできない一人の女になり果てていた。
付き合ってるとか、両想いだとか、そういう言葉の遊びはどうでもいい。
そんな遊戯の様な事に固執する気は彼女にはなかった。


ただ、今すぐ欲しい…、そんな衝動的な感情が彼女の思考を埋めていく。

「お前…頭も怪我してるじゃねぇか」


「平気…下部組織に所属してる医者は軽傷って言ってたから…多分平気だよ…」


傷の幅はそこまで広くなく、軽い裂傷程度。
浜面は「傷、気付いてやれなくて、ごめん」と唇を一度離すと麦野にあやまる。
ヒールブーツを履いていてもなお、浜面の身長には届かない。

麦野は下から浜面の事を見上げ、「ばかづら…」と一言、照れながら言うだけだった。
つい先ほどまで美琴と激闘を繰り広げていた麦野の偽らざるもう一つの姿だった。


353: 2011/01/29(土) 18:49:15.00 ID:iSm8z8mn0
「麦野…俺らって付き合ってるのか?」

「え?」

「だから、俺ら付き合ってるのかって」

「…………」

麦野は答えられなかった。
本当のところは「うん」と言って付き合ってしまいたかったが、麦野の脳裏には滝壺が思い浮かんだ。
そしてその滝壺をちらちらと見ている浜面の姿もまでもれなく。


「…部屋ついてから話そうよ…?ね?」

「わかった」


チ―ン……とエレベーターが最上階に到着した事を告げる。
最上階に出ると夜のせいもあってか、夏にも関わらず冷えた風が吹き込む。


「ついたぜ、麦野」


「…うん」


浜面は麦野と自分の荷物を抱えて彼女の後をとぼとぼと歩く。
麦野はポケットから家の鍵を取り出すと、ガチャガチャと鍵を回し、鍵を開ける。

「はい、どうぞ」

「おう。お邪魔します…」


麦野がブーツを脱ぎ、そのままの勢いで風呂のお湯をいれる音が聞こえてくる。
浜面はその間に荷物をリビングのはじっこの方に置き、所在なさげに窓から見える学園都市の高層ビル群を観望していた。


浜面は窓から見える学園都市の夜景から転じて同じく窓に反射している自分の顔を見つめる。

354: 2011/01/29(土) 18:49:41.10 ID:iSm8z8mn0
(麦野は…どう思ってるんだ、俺の事)


(俺の事求めてくるのに…好きなのか…それすら…わからねぇ…)


浜面は金髪の頭をバリバリをかく。
彼は麦野の事が好きだった。ただ、滝壺をちらちらと見ている自分が居るのも事実だった。
正直、滝壺も麦野もどっちも捨てがたかった。こんな事を言ったら即、殺されるので勿論浜面は公言しなかったが。


(先に俺の事…誘ってくれたのが、麦野だったってのが大きいなやっぱり)


初めてアイテムで仕事をこなした時、浜面に声をかけてきたのは麦野だった。

滝壺は静かでおっとりしてかわいい、ちょっと無口。
麦野は自己中だけど、綺麗だし、ああ見えて純粋そう。

これが浜面が抱いている二人の最初の印象だった。
全く正反対に見える二人になぜ浜面が興味を持ったのか。それこそ、彼の守備範囲の広範さが物を言わせている。


(今でも…正直滝壺の事ちらちら見てるのは認める…。すまん、麦野。ケド…俺は麦野が好きなんだ)


散々麦野にこき使われた揚句の決断だった。それでも後悔していない。
浜面は滝壺に対する好意よりも麦野に対する好意の方が上回っているのだ。


しかし、それを踏まえたうえで浜面が麦野に以前告白した時、彼女は浜面に「滝壺のことばっかり見て」と言い切り、返答をうやむやにした。
浜面は「見ていない」と答えたがやはりその質問の答え方は歯切れの悪いものだった。
なので麦野に一層の不信感を与える事になってしまったのだ


(…ちゃんと言おう!)


浜面がリビングで勝手に覚悟を決めていると洗面所から「痛いっ!」と声が聞こえてきた。
彼が駆け足で洗面所に向かっていくと消毒液をひたしたティッシュを裂傷した部分に当てがっている最中だった。

355: 2011/01/29(土) 18:50:30.84 ID:iSm8z8mn0
「麦野?大丈夫か?」


「平気じゃないから叫んだんでしょうが…!」


半ば浜面に裂傷の痛みをぶつけてきそうな雰囲気だったが、さすがにそれは辞めた様だった。
ティッシュを持ちながらマキロンを染み込ませ、それをこめかみのあたりにあてがおうとして何度も辞める麦野の素振りがなんだかたまらなく愛おしかった。

そして、浜面は気付いた時には後ろから麦野の事を抱きしめていた。


「は、浜面?何よいきなり」


「さっきの質問の答え、聞きてぇ」


「付き合ってるかどうかのやつ?」


浜面は麦野の問いに「あぁ」と小さく耳元で囁く。


「俺は麦野の事が好きだ」


その言葉に後ろから抱かれている状態の麦野はびくりと方を震わせる。


「いっつもいっつもしてる時からずっと言ってるわよね、浜面」


「あぁ、そうだな」


「じゃ、私の答え…」


洗面所に貼られている三面鏡。
浜面は三面鏡に映り込んだ麦野と自分の姿を見る。


ちょうどその時、麦野と目が合う。


「私も…あんたの事大好きだよ…?」

356: 2011/01/29(土) 18:50:59.58 ID:iSm8z8mn0
「本当か?」


「うん…」


「じゃ、付き合えるのか…?俺ら」


「そう…ね…ただ…ひとつ条件があるの」


浜面は後ろから麦野を抱いたまま「なんだ?」と聞いてくる。
彼の息遣いが麦野の耳元で行われている。
彼女はその事を考えて体がかぁと熱くなる感覚を覚えつつ、答えた。


「私を…レベル5の麦野沈利としてでじゃなくてね…、一人の女の子として…見てほしいっていうか…後あと…」

麦野は鏡に映る浜面の目をまっすぐ見つめて話す。
浜面の腕に抱かれている彼女は鼻から下が彼の腕で見えなくなっている。


「オイオイ…ひとつじゃなくて、新しい条件が出てきたぞ!?」


「あ、えっと…あのね…」


動揺する麦野をしり目に浜面はわざとらしく笑うと「で、なんだ?麦野?」と優しい口調で聞きかえす。


「私の事…ちゃんと見てよね?滝壺…の事ばっかり見てるから…」


「…あぁ」


「ホラ、やっぱり見てたんじゃん。はーまづらぁ」


「悪い…。けど、もうお前だけしか見ないから…安心してくれ…」


「お願いね…?」

麦野は今にも消えそうな声で浜面につぶやく。
浜面はそれには答えず、ぎゅっ、と強く抱きしめる。

357: 2011/01/29(土) 18:52:02.74 ID:iSm8z8mn0
「ふふ…幸せだよ、浜面」

「俺も…」


麦野は後ろを振り向く。
それに気付いた浜面も麦野に応えようとして自然と唇を重ねあわせる。
走った訳でもないのに、疲れた訳でもないのに、「はぁはぁ」と運動選手の様に息まく二人。

戦いの疲れの反動からか…もう、何でも理由なんてどうでも良かった。
この光景が駄誰かに見られてもいい。
二人の歪な関係に楔を打ち込む契機になったのだから。




今日の戦いは疲れた。麦野は失神したし、氏ぬかと思った。

浜面と一緒にいれればそれでいい。もう、暗部とかどうでもいい。


「恐いのよ…私からあなたが離れたら…」


「誰も私の事なんて覚えてくれない…だから…浜面だけは覚えててほしい」


「俺は絶対にお前の事を忘れない…だから、そんな事言うなよ…!」

女王が求める物は平穏と安息の場だった。
彼女は浜面と唇を重ねつつ思う。



(浜面…?大好きだよ?)

358: 2011/01/29(土) 18:52:30.71 ID:iSm8z8mn0
さて、フレンダと滝壺は共同アジトで一泊する事を決め、戦いの疲れをいやすべく、お風呂に入った。
風呂から出た後、二人は夜食でピザを注文した。


食べ終わると大きいもふもふしたソファで二人はぐだーっとしていた。



「振り返ると…そこは…風の街…浮かんでは消える…生まれ今日までの…ストーリー…」


「ふれんだ?その歌、何?」


「あー…浜面がいつもつぶやいてる歌あるじゃん…結局…浜面のhiphop講義を前に熱弁されてさ…殆ど覚えてないんだけど…これだけ何か記憶に残ってさ」


「浜面、hiphop好きだもんね」


「人間交差点 SD Junkasta…とかなんとか…この透き通った男の声が良いとか…今ではちょっと浜面の言ってたことが分かるかもって思う訳よ」



「生まれ今日までのストーリー、ほんの何小節かの旅路…老いた大木の様にそれぞれ分かれていく道は…」



フレンダはこの唄を初めて聞いた時、なぜか姉の事を考えた。
人は離合集散を繰り返す、人生という旅を歩む。


この街のコンクリートジャングルを時期は違えど歩いたフレンダの姉。
もう最後に会って数年になる。フレンダが学園都市に入ってから、入れ代わりで消えていったステファニー。


けれど、再び、会いたい。

365: 2011/01/30(日) 01:46:41.90 ID:WUoUVnwX0
フレンダの唯一の身内と言うだけではない。大好きな姉だ。
この腐った街で短い人生の旅路を終わらせるつもりは彼女は毛頭ない。
いかなる手段を使おうがフレンダは姉にあおうとする決意をひそかに強くする。


しかし、どうすれば姉に会えると言うのだ。
どだい、どこにいるのかもわからない。
しかし、フレンダはある人物を思いつく。

(…!あ、そっか…あいつに掛け合ってみれば…探してくれるかも…!)


(電話の女なら…教えてくれる…かも?なんだかんだでバンクにアクセスできる権限とかもってそうだし…)

電話の女、その正体は判然としない。しかしかなりの有力人物なのではないだろうか。
フレンダはあくまで希望的観測に過ぎないこの推論を都合がよすぎね、結局、と考え苦笑し頭の中から排除する。


ぼんやりとソファによっかかりながら姉の行方をフレンダは考える。
しかし、その思考は不意に覗き込んだ滝壺の無垢な表情で立ち消えになる。


「ど、どうしたの?滝壺」


「フレンダこそ。ぼーっとしてて何考えてたの?」


「あはは…いや…結局…どうでもいいくだらないことって訳よ」


「お姉ちゃんの事?」


「は?」

366: 2011/01/30(日) 01:49:01.43 ID:WUoUVnwX0
滝壺の質問にフレンダは動揺する。
彼女の風呂での独り言はどうやら滝壺の耳に届いていたようだ。


「…ま、そんなところかな」


「いるんだ、お姉ちゃん」


「…うん、まぁね…私以上にテンション高い人だったけど…一体何してるんだか」


フレンダは「ははは」と笑ってごまかして話を終わらせようとするが滝壺は真剣なまなざしでフレンダを見つめている。


「どこにいるかわからないの?」


「…うん」


「なんかごめん…失礼なこと聞いちゃったかな?」


「あ、良いよ!気にしてないから…!ははは…」


フレンダはソファで隣に座っている滝壺を見る。
ちょっとションボリしている様に見える。
そこまでおち込む必要はないのに、とフレンダは思ったが反面、親身に気にしてれてちょっと嬉しかった。


そして、そんな滝壺が姉の様に見えた。
かつての姉の温かいぬくもりを古い記憶の断片から思い出させてくれそうな気がした。

367: 2011/01/30(日) 02:01:46.41 ID:WUoUVnwX0
「ねぇ…滝壺、アイテム辞めたいって思ったことある?」


「…いきなりどうしたの?」


「いや…あはは…暗部で長いこと戦ってると、いつ氏ぬとも知れないじゃない?」


フレンダは今回の施設防衛戦では使用したアキュラシー・インターナショナルAWSをちらと見る。
あの弾丸で何人の敵…いや、何人の人を頃しただろうか。


暗部にはいったころは殺害した人数を地中海戦線のドイツ軍の88よろしく、銃身にペイントしていたが、途中で馬鹿らしくなり辞めた。
その銃身はどこかに捨てた。


戦功を誇る事よりも一回の戦闘に生きて帰ってくることの方が偉大な事だと思ったから。
生き抜くために他者の人生を奪うという最低な行為をしている事はわかっている。

私が行くのは地獄って訳よ、と自分の心に彼女は語りかける。
それでもわがままで傲慢だと言われるかもしれないが、彼女は自分の命が何より惜しかった。



「自分が沢山の人の人生奪っといて言うのもなんだけどさ…結局私は命が惜しいって訳よ」


「姉に会いたいっていう願望がある。殺されていった人にも、もしかしたらそういった願望はあったかもね…」


フレンダは自嘲気味につぶやき、天井を見上げる。


「私は人の人生奪って、それで生かされている。それだけで飽き足らずに、自分の幸せを追求しようとしてる…」

368: 2011/01/30(日) 02:10:52.80 ID:WUoUVnwX0
「罰があたっちゃうんじゃないかって思う訳よ…快楽殺人者がここまでのうのうと暮らせるわけがない、いつか体真っ二つとかにされちゃうんじゃないの私?…はは」


フレンダは自分が姉に会いたいと思う願望をかなえようと思っている事がいつか神にばれて罰が当たるのではないか、と笑って言う。


フレンダは自分が殺人者であると認めている。
そしてそれが決して許される行為ではないとも自覚している。


彼女は現に人を頃す時に快楽を感じる性質(たち)だ。
そんな彼女が幸せを追求する事を神は…いや、人は許すのだろうか。


「それは私も一緒だよ…氏ぬのは…恐いけど…でも、生きるためには…戦わなきゃ。アイテムの為に…」


「…自分の為にも…ちゃんと戦わなきゃだよ滝壺。体晶使ったのは今日で二度目だけど…あれはどう見ても滝壺の体に悪いって思う訳よ!」


フレンダは滝壺の発言に首をかしげる。
『アイテムの為に』という彼女の言葉にフレンダは「何でそこまで?」と尋ねる。


滝壺は「私の居場所…ここしかないから…」と穏やかだが語調は強くはっきりとフレンダに告げる。


「…そっか…私もアイテムしかないかなぁ…それとも、もしかしたら、どこにもないかも知れない…結局…迷子って訳よ…」


「お姉ちゃんがいるんじゃないの?」

369: 2011/01/30(日) 02:15:14.66 ID:WUoUVnwX0
「もう連絡先とかもわからないし…ははは…」


「さっきから…なんかごめん…フレンダ」

フレンダは「いいって訳よ」と滝壺の方を叩き、思う。
自分は本当にアイテムに根をおろしているのかと…。
フレンダは滝壺と違って、自分の居場所がアイテムにあるとは考えにくかった。
その懐疑の心は彼女の平凡さからくるものだろう。


銃器の扱いに長けてるとは言え、所詮能力者には太刀打ちできない、しかもこんな無能力者の代わりなんてごまんといる。
そう彼女は思っている。


本当はアイテムという組織を維持していくうえでも重要な盛り上げ役としての地位を確保しているフレンダだが、彼女はそんな事知る由もない。


「とにかく、アイテムでこのまま身を擦り減らして氏ぬなんてまっぴら御免だって事よ…結局」


フレンダは「はぁ」とため息をつきながら自嘲気味に嗤う。
滝壺はじっとフレンダの事を見ている。


「滝壺も…いつか他に居場所が出来ると良いね」


「…うん、フレンダもね」


学園都市の暗部という常人からは可視化できない夕闇でもがく二人の少女。
それぞれの運命は一体どうなるのだろうか。

370: 2011/01/30(日) 02:17:13.24 ID:WUoUVnwX0
「そろそろ寝ようか」


「そうね、ちょっと疲れちゃったし…ふぁー…あ」


気付けば時刻は二時。常盤台の超電磁砲との激闘の疲れからかいつのまにか睡魔が体を支配し始めていた。
ソファでうつらうつらし始めたフレンダと滝壺はそれぞれベッドに入る。

寝室につくと滝壺が遠隔操作のリモコンで部屋の電気を消す。


「お休み、フレンダ」


「あ…ちょっと…滝壺」



「ん?何?フレンダ」


「…一緒に寝ていい?」
(お姉ちゃんのはなししたら…人肌が恋しくなっちゃったって訳よ…われながらガキね)


「…いいよ?」


もぞもぞとフレンダは自分のベッドから滝壺いるベッドに移動してくる。


「二人だとちょっと狭いね…けどあったかいね」


「ご、ごめん、滝壺いやだったら隣のベッドに戻るからさ…」

371: 2011/01/30(日) 02:18:13.20 ID:WUoUVnwX0
「別にいて良いよ」


「…じゃ…ごめん…」


謝りつつフレンダは滝壺のベッドにはいってくる。
滝壺はフレンダの方を向く。顔が一気に近くなるが暗くてあまり見えない。


「ねぇ…滝壺?」


「なに?フレンダ」


「あんたよくお母さんっぽいとか抱擁力あるとか言われない?」


「うーん…言われたことないなぁ」


「あ、そう…。ねぇ、滝壺…今日だけ…お姉ちゃんって呼んでいい?」


「…良いよ?…いろいろ思い出しちゃったのかな?フレンダ」


「うん…ちょっと…」

372: 2011/01/30(日) 02:19:29.50 ID:WUoUVnwX0
フレンダがまだ学園都市に来る前。
カナダにいる時の記憶とか、いろいろな事を滝壺との会話で思い出したフレンダは唐突に甘えたい衝動にかられた。
そしてその突飛な衝動にかられた発言を滝壺は否定することなく、快く受け入れてくれた。


「お姉ちゃん、大好き」


「…私はどうすればいいのかなフレンダ」


「…うーん…ちょっとわからないわ…ははは、ちょっと頭がおかしくなった人が隣にいるくらいで見てやって下さい」


フレンダはそういうと滝壺のお腹のあたりにうずくまる様にして縮こまる。
滝壺はその彼女の動作を見て、優しく肩をとんとんと叩いてやる。


「お休み…フレンダ」


「うん、お休み、ありがとう、滝壺…」


「今はお姉ちゃんだよ?」


「あ、そうだった…ありがとね、お姉ちゃん」


「うん」


程無くして二人はすやすやと寝息を立てて眠りについた。

373: 2011/01/30(日) 02:20:08.02 ID:WUoUVnwX0
――八月二十日

Sプロセッサ社の脳神経応用分析所での戦いが終わり、翌日。


御坂美琴は昨日の戦いの場に再び来ていた。
アイテムとかいう少女の集団と激闘を重ねて、体はへとへとだったが、つぶし損ねたデータがある。
それを破壊しに来たのだが、S社はつぶれていた。


(これで…計画を主導している会社はつぶれた…これでもう妹達は氏ななくて済むのかしら?)


美琴はほっと一息つく。
完全に戦いが終わって訳ではない。
しかし、計画がとん挫したことは事実だった。


(どうなったんだろう…?これでひとまず…安心なのかしら…?)


完全に計画がとん挫したと決まった訳ではない。
けれど、ここで計画を中断させる楔を打ち込むことには成功した、と自分に言い聞かせる。


美琴は不意に昨日の戦闘中の憧憬を思い出す。
最初に戦った無能力者の白人、リーダー格だった女、そしてじっと開眼してこちらを見つめていた謎の女。
どいつも強敵ぞろいだった。


今後、計画が再開した場合、施設をつぶす際に直接出向いた場合、また遭遇する可能性がないとは言い切れない。


(あの白人…人の命をもてあそぶことに快感すら感じている様に見えたわ…)


美琴は昨日の戦いを思い出す。


『私に殺されるために生まれてきたんだって…』

374: 2011/01/30(日) 02:21:06.05 ID:WUoUVnwX0
相手の運命を支配した気になれるとか、正気の人間の言うことではない。
美琴は改めて昨日戦火を交えた集団に恐怖の念を抱いた。


(もっとあーゆー能力や特技を有効利用すれば良いのに…)


(ま、どーでもいっか…あんなやつら…でもあいつら…私と同い年くらいで計画に加担しているなんて…)


(いかなる形であれ…絶対にあの計画に加わっている奴らは許さない…人のDNAマップを勝手に使って…!)


(あいつらに指令を送ってるやつや…上層部の奴らも絶対に…いつか…絶対に…)


美琴はふつふつと浮かび上がってくるどす黒い感情を何とか制して落ち着かせる。
彼女は目の前にあるS社の施設を憎々しげに見つめると常盤台の学生寮に帰ろうとした時だった。


いつもの壊れた自動販売機のあたりを歩く。
八月も後半になっているのに、セミは絶賛求愛中。
みんみんうるさい。
その自動販売機のあたりにつんつん頭の少年が立っている。


「どうしたの?珍しいじゃない、あんたがこんな所にいるなんて」


「おう…ビリビリか…ってあれ?なんでまたビリビリが?」


美琴はツンツン頭の少年のセリフを聞いて不審に思った。


(ど、どうゆことよ?まだあの計画が続行してるってこと?)

375: 2011/01/30(日) 02:24:10.36 ID:WUoUVnwX0
とその時、不意に美琴を呼びかける声がかかる。
お姉様、と呼ぶのは彼女の知り合いでは白井ともう一人いる。美琴のクローンだ。


「…お姉様?ですか…?」


「は…ちょっと…何であなたが…?」


美琴の前にもう一人の美琴が現れる。
いや、正確に言えばそのクローン。妹達だ。


「私の名前は10031号です」


「10031…?ですって…?」


(まだ…続いているの?あの悪魔の様な計画が…)


ツンツン頭の少年は困惑していた。
なぜなら目の前に全く同じ格好をした少女が二人いるから。
「え?え?」と動揺しているツンツン頭の少年をしり目に美琴は9982から10031まで妹達の番号が繰り上がっている事に気付き、落胆した。
それは確かにあの狂った計画が依然進行していることを指示(さししめ)している。


(…学園都市はどこまで私を苦しめれば気が済むのよ…!)

376: 2011/01/30(日) 02:25:19.75 ID:WUoUVnwX0
しかし…美琴の懸念は長くは続かなかった…。
消化試合と称される戦闘の中で数人の妹達が9982号との戦いのあとに一方通行に殺されたが。



その事実を知ったツンツン頭の少年が一方通行を打ち倒したのであった。
これにより、計画は完全に頓挫したようだった。



しかし、この事で美琴の一方通行や、その計画を行っていた人物達に対する憎しみの感情が消えたわけでは、全く、ない。



ともあれ、いつも通りの笑顔を彼女は再び出来るようになった。
目の下につくった大きなくまはもうない。


屈託の無い笑顔。しかし、思い出せばふつふつと浮かび上がってくる、あの操車場での惨劇。
まだ、彼女が抱えている闇が根本的に解決した訳ではない。


今後、彼女の周りにあの正気の沙汰とは思えない計画の関係者が現れた場合、彼女は絶対に、いかなる弁解をしようとそいつらを許すことはないだろう。

377: 2011/01/30(日) 02:26:26.56 ID:WUoUVnwX0
――中国 北京

日本の四国程の面積を持つ北京市。
天安門から程近いマンションで静かな戦いが行われた。


キン、キン…

カラカラ…


転がる薬きょう、硝煙。床に広がるどす黒い血。
男と女が氏体の身元を調べている。


「あーあー学園都市と取引していた華僑の抹殺って任務だったけど…なんだかんだでちょろいもんでしたねぇー」


「相手は武器も碌なものを持ってなかったからな。貴様の大きいショットガンを見てたまげていたぞ」



男はそういいながら女の持っている物を指さす。
フランキスパス12。大型ショットガンで機関銃の連射能力は持ち合わせていないが、数百、あるいは数千の弾丸を四散させる破壊力を持ち合わせている。
女は金髪で白人。男は身長180センチ程で日本人。金髪の女も日本語を話している。


「パーっとぶっ放す方がいいじゃないですかぁ。手っ取り早く終わることだし」


女は軽い調子で言い放つと華僑の男たちが持っていた書類を適当にパラパラとめくっている。
どうやら学園都市の技術を利用してひと儲け考えたいたようだったが、学園都市の統括理事会から依頼を受けた二人がそれを阻止した。


学園都市内の内訌問題ならば警備員や風紀委員とかいう組織が事態に当たるそうなのだが、いかんせん公に警察機関がないと言っている学園都市側にとっては
外部に漏れた情報を裁く組織がない状態になる。


なので学園都市はフリーの傭兵や非公式機関の暗部に海外に出張ってもらうこともあるそうだが、今回はその典型例のうちの一つだ。

378: 2011/01/30(日) 02:28:16.03 ID:WUoUVnwX0
中国の公安や武警(ウーチン)に学園都市の技術漏えいを目論んだ者の殺害を依頼すれば学園都市の技術が少なからずそうした外部機関の目に触れる事になる。
なので面倒だがこうしてわざわざ中国まで来ているのだそうだ。


「にしても沢山の書類がありますね…っちゃんとデジカメで重要書類は撮っておかないと…」


「そうだな」


そういうと二人はカシャカシャとデジカメで書類の束を撮影していく。
あまりに多い書類の束なので全て押収するのは不可能だった。


男はせっせと写真を撮っている女をちらと見る。
金髪で長髪のブロンド女。ともすればモデルと勘違いされてもおかしくない美女。
彼女はその目立ちすぎる容姿ゆえに、この仕事には不向きだと、再三伝えた。しかし、女は男の警告なんてお構いなしだった。


(我ながら…親切心で言ってやった積りなんだがな…全く…)


心中で男は一人ごちると再び写真の撮影に没入しようとする。


四菱…川石島播磨…河崎…常陸…日本の誇る重工業企業と学園都市との技術協力の報告書などの極秘ファイルがここにある事がおかしかった。


(やはり…風紀委員と警備員では防諜もままならないか…)


男は学生と教員で構成されている学園都市の警察力や防諜力に限界を感じ、日本の技術も失われていくのか?と今後の日本を考える。
しかしその男の思考は同行している女が書類とにらめっこしているのに気づき、話しかけた。


「どうした?何をしている?」

379: 2011/01/30(日) 02:29:01.42 ID:WUoUVnwX0
「これ…私の妹なんです…」


「妹?」


女は男に中国語で“項目”と書かれているファイルを男に見せ、その中の白人を指さす。
そこには女四人の顔写真が映っており、事項に行けば“学校”“集団”…といくつかの組織のリストが続いている事に男は気付く。
しかし、男は取りあえずは同僚の女がポツリとつぶやいた発言が気になっていた。


「オイ、貴様今まで妹がいると、俺に言った事があるか?」


女は「いや…」と言葉を濁す。

何やら言えない過去でもあるのだろうか?男はいつも能天気でハイテンションの女の真剣な表情を初めて見た気がした。


「妹か…まぁ、貴様に親族がいても俺にとってはどうでもいいことだがな…」男はそう言うとパラパラとページをめくる。


このファイルが学園都市の治安維持組織のリストである事は明白だった。
しかもそれらの組織は未成年とおもしき人物で大半が構成されている。


「あはは…そうですよね」


女はそういうともの惜し気にそのファイルの白人をじっと見つめている。

380: 2011/01/30(日) 02:30:26.22 ID:WUoUVnwX0
「もう…会ってなくて久しいのか?」


女は無言でコクンと頷く。
男は思った。この女に妹が居る事、それはどうでもいい。
…ただ、なぜ、その妹がこのファイルに乗っているのだ?


「私の妹は私を探しに学園都市にやってきたんです…私がちょうど学園都市の仕事に飽き飽きしてフリーの傭兵に転向する時に…」


「入れ替わりという訳か」


「はい…」


男は当たり障りのない言葉を選び、会話に応じていく。
金髪のこの女は以前学園都市で英語と歴史の講義を担当していたと以前、女本人から聞かされていた男は「ほう」と相槌を打つ。


「砂皿さん…妹に会いたい…一度コンタクトをとって見てもいいですかね?」


「貴様の好きにすればいいだろうが」



金髪の女に砂皿と呼ばれた男はだるそうに答える。
以前からこの女は仕事以外でも俺に意見を求める事が多かったな、とぼんやりと男は思いだしていた。


「…でも…ここのリストに載っているってことは…私の妹は…フレンダは…危険な世界に身を置いているんじゃ…?」

381: 2011/01/30(日) 02:34:42.65 ID:WUoUVnwX0
「…でも…ここのリストに載っているってことは…私の妹は…フレンダは…危険な世界に身を置いているんじゃ…?」


女は「ならおいそれと会えないかも…」と勝手に悲観している。
感情の起伏に富んだやつだ、と砂皿は内心吐き捨てると女に話かけた。


「このファイルに記録されている限りだと…何かしらの部隊に所属していたと判断するのが妥当だろうな…」


「ですよね…私の妹…自分で言うのもなんですが…私の事大好きで…それでついてきちゃったのかな…?」


「そして妹は入れ替わり立ち替わりで学園都市に来た。そしてステファニー、貴様が出て行った事を知らずに今でも下働きをしている…」


金髪の女、もといステファニーは学園都市の裕福な生活に飽き、世界の戦場を回ることを決意した。
妹はそんな事、つゆ知らずと言った感じで学園都市にわざわざ来て、姉を探しつつ、学園都市の闇にからめ捕られている…。
本来ならば実の妹が見つかって喜ぶところなのだが、学園都市の治安維持に従事している事が彼女を落胆させる大きな要因だった。


ともすれば命を落とすことになるやもしれない学園都市。
その危険さは以前その地で教鞭を握り、警備員として勤務した実績もあるステファニー自身が一番知悉している事だった。


学園都市には色んな能力者がいる。
治安維持に従事していればいつ命を落とすかわからない…。


「…砂皿さん…私、もう一回学園都市に行こうと思います」


「ほう。そうか」


砂皿は鷹揚に答えると再び重要書類の撮影を始める。
ステファニーは“項目”と書かれているファイルをぐいっとロスコの小さいショルダーバッグに詰め込んでいく。

382: 2011/01/30(日) 02:35:42.31 ID:WUoUVnwX0
「砂皿さん…協力してもらえますか…?」


砂皿はカメラを持ったままステファニーの方を向く。


と、その時

パァン!と砂皿のグロックG17が火を吹いた。
ステファニーの後ろに華僑の残党がいて、ステファニーに発砲しようとしていたのだ。


「お前が一人でいった所で命がいくつあっても足りないだろう…いくか……学園都市」


「は、はいっ!ありがとうございます!!」


二人の傭兵は学園都市に向かう。

383: 2011/01/30(日) 02:38:45.82 ID:WUoUVnwX0
第一部はSプロセッサ社の戦いが終了し、ステファニーと砂皿が学園都市に向かう所で終わりです。
下手な繋ぎになりましたが、どうか今後も見ていただければ幸いです。

あらすじに最愛ちゃん書き忘れました。すいません。あんま出番なかったなぁ…><

第二部はフレンダ学園都市脱出作戦と佐天と美琴に関して書いていこうと思ってます。
ではまた!

384: 2011/01/30(日) 02:40:34.86 ID:2cOqgEfPo
乙!

402: 2011/01/30(日) 22:38:25.85 ID:WUoUVnwX0
とりあえず平和にしましょ!と月並みな事しか言えなくてすいません。
こんなに俺の作品を読んでくれてる人がいて嬉しいです。

投下は一日、二日待ってくだせぇ…。展開が思い浮かばない…><


【禁書目録】佐天「…アイテム?」【3】

引用: 佐天「…アイテム?」