901: 2013/08/17(土) 18:02:21.54 ID:ASt53XOW0
京介「沙織、お前って本当にすげえな……」

俺は言いながら、山からの景色を見下ろす。

こいつ、海の近くだけでなく、山にも別荘を持っていたのかよ。

沙織「景色はかなりの物ですわ。 冬だからこそ、こういうのも趣があって良いかと思いまして」

黒猫「……ここって旅館では無いのよね? 沙織」

沙織「一応……個人で所有している物となっていますが。 どうかなさいましたか? 黒猫さん」
俺の妹がこんなに可愛いわけがない
902: 2013/08/17(土) 18:02:47.85 ID:ASt53XOW0
黒猫「……さっき、ちらっと見たわ。 禍々しいオーラを放っている浴場を。 なんてこと……これは」

桐乃「チョーでっかいお風呂あったよね! うちもあれだけ大きければなぁ」

沙織「ふふ。 京介さんと一緒に広々と入れるのに、ですか? きりりんさん」

桐乃「そうそう!」

そうそうじゃねえよアホ! 馬鹿!!

黒猫がすっげえ冷めた目で俺のことを見ながら、冷ややかに笑っているじゃねえか!

903: 2013/08/17(土) 18:03:14.30 ID:ASt53XOW0
京介「は、はは……」

沙織「仲が良くて羨ましいですわ」

うっさい。 ほっとけや。

ていうか、沙織のこの状態もなんだか随分久し振りな気がするな。 こっちの方が可愛いし、普段からこうしてりゃ良いのに。

桐乃「とりゃ!」

京介「いってぇ! なんだよ!?」

急に桐乃にケツを蹴られ、俺は後ろを振り向きながら言う。

904: 2013/08/17(土) 18:03:45.33 ID:ASt53XOW0
桐乃「なんかムカついただけ」

……相変わらずだが、勘でやってるとしたら恐ろしい的中率だぜ。 やれやれ。

黒猫「いちゃつくのもその辺にして頂戴。 こんな山奥で干からびたく無いわ。 しかも冬に」

黒猫「あなた達の熱波はもはや公害レベルなのよ。 この公害カップル」

京介「悪かったな公害で!」

沙織「うふふ。 では、夕飯でも作りましょうか。 先ほど、材料も買いましたし」

沙織「きりりんさんも、黒猫さんも、手伝ってくださいますか?」

そういや、もうそんな時間か。 時刻は18時、年越しまでもう少しと言ったところ。

905: 2013/08/17(土) 18:04:13.08 ID:ASt53XOW0
桐乃「もっちろん。 当たり前じゃん?」

黒猫「ええ、良いわよ。 むしろ、手伝わせて貰いたいくらいよ」

桐乃と黒猫はすぐにそう答える。 あー、てか、俺は?

京介「俺もなんか手伝うか?」

桐乃「いい。 あんた来たら逆に邪魔だしぃ~」

906: 2013/08/17(土) 18:04:40.03 ID:ASt53XOW0
京介「……へいへい」

相変わらず酷い言い方だぜ。 はは。

沙織「京介さん、きりりんさんは恐らく……京介さんに食べて頂きたいのかと思いますよ。 毎日食べていると思いますけどね」

京介「……知ってるよ。 ありがとな、沙織」

沙織「ふふ。 余計なお世話でしたね。 京介さん」

907: 2013/08/17(土) 18:05:06.88 ID:ASt53XOW0
それから数十分待ち、やがて沙織達が料理を運んでくる。 なんか、俺すっげー良い気分なんだけど! 階級が上がった気がするぜ。 へへ。

桐乃「なにボーっと座ってんの。 運ぶのくらい手伝えっての」

……お前いっつも家じゃ「京介は座ってて良いよ。 あたし持ってくるから」って言うじゃねえかよ! なんで友達の前だとそんな当たりキツイわけ!?

京介「……へいへい」

照れ隠しにしても酷い言い方だぜ。 まあそんなところも好きだけどよ。

俺は思い、にやにやしながら桐乃を見ると、こいつはこう返す。

桐乃「なに笑ってんの。 チッ……」

そして俺の足を踏みつける。

908: 2013/08/17(土) 18:06:47.22 ID:ASt53XOW0
京介「いって! 足踏むんじゃねえよ!」

桐乃「え~? だってぇ、京介踏んで欲しそうな顔してたしぃ」

京介「どんな顔だ!?」

言いたい放題だな、桐乃め。

黒猫「本当に気持ち悪いわね。 この変O」

……うわー。 超帰りてえ。 なんで俺はこんな暴言吐かれながら、必氏に料理が乗った皿を運んでいるのだろう。

気分はあれだ、性格の悪い奴に雇われた執事って感じ。 だって黒猫も桐乃も既に座って料理を運ぶ俺を眺めてるし。

909: 2013/08/17(土) 18:07:20.55 ID:ASt53XOW0
そんな光景にため息をつきながら、キッチンに置かれている料理を運ぶ。 ひたすら。

沙織「ごめんなさい、京介さん。 わたくしたちだけでは運びきれなかったので」

そこに居た沙織は、先程から忙しなく料理を運ぶ俺に向けて言う。 一番のお嬢様が一番の優しさだよ、ほんと。

京介「良いって良いって。 俺もただ座ってるだけじゃ、わりいしな。 何か他にもあったら気軽に言ってくれよ」

沙織「はい……あ、それでしたら京介さん」

京介「お、早速か? 何だ?」

910: 2013/08/17(土) 18:07:48.20 ID:ASt53XOW0
沙織「わたくし、自宅に本を忘れてきてしまいましたの。 急に読みたくなったので、取ってきてください」

京介「……外、雪降ってるけど」

沙織「ええ」

京介「……ここ山の中だけど」

沙織「ええ」

京介「……ここには悪魔しかいねえ!!」

沙織「ふふ。 冗談ですよ。 ごめんなさい」

京介「お前が一番まともなんだから、頼むからおかしくならないでくれよ……」

ほんと、心の底からのお願い。

911: 2013/08/17(土) 18:08:17.03 ID:ASt53XOW0
京介「いただきます」

ようやく運び終わり、待ちに待った食事。

さすがに四人ともなると賑やかで、なんだか少し、懐かしかった。

黒猫「……それ、どうかしら?」

黒猫は言いながら、俺が食べていた茶碗蒸しを見る。

京介「すっげえ美味いけど……これ、お前が作ったのか?」

黒猫「え、ええ……まあ」

ちょっとだけ嬉しそうな顔をする黒猫。 あれだよな、料理って作る側からすると、ひと言美味いと言われるだけで、すっげー嬉しいんだよな。

俺自身、あんま作ったことは無いけどさ。

912: 2013/08/17(土) 18:09:50.38 ID:ASt53XOW0
桐乃「そーいえば、黒猫って和食系得意だったよね。 よくそんなの作れるね?」

黒猫「難しい料理では無いわよ。 手間は確かにかかるけれど……火加減さえ気を付ければ、誰でも作れるわ」

桐乃「へぇ~。 んじゃさ、今度教えてよ。 あたしも作ってみたい」

黒猫「ええ、良いわよ。 愛する旦那様の為だものね」

桐乃「ち、違うっての! 自分で食べる用だしっ!!」

今日はそんな衝突も無さそうで何よりだな。 それにしても桐乃が作ってくれる茶碗蒸しか……早く食べたい! 今度黒猫に早く教えるよう言っておこう。

最早、桐乃の言葉は頭の中で自動変換だぜ。 今のは「京介と一緒に食べたいな!」ってところだ。 やべ、顔がにやけてしまうぞ。

そんなことを思いながら、皿に乗った肉じゃがを口の中にいれる。

913: 2013/08/17(土) 18:10:20.23 ID:ASt53XOW0
京介「……あ」

京介「これって、お前が作ったのか?」

俺は言いながら、桐乃の方に顔を向ける。

桐乃「え? そうだケド。 なんで分かったの? 見てた?」

京介「いや……見て無いけど、味が桐乃の作った奴と同じだからさ」

桐乃「ふ、ふうん。 そか」

沙織「良かったですね。 きりりんさん」

桐乃「は、はぁ? なにが?」

沙織「うふふ」

桐乃「……ふん」

914: 2013/08/17(土) 18:10:55.26 ID:ASt53XOW0
そんな一連の流れを見ていた黒猫が口を開く。

黒猫「前から思っていたのだけど、あなた達は定期的にイチャイチャしないと氏ぬ呪いにでもかかっているのかしら?」

桐乃「どこがよっ! ベツにイチャイチャなんてしてないでしょ!」

京介「俺も同じ意見だが……」

黒猫「……やれやれ。 仕方無いわね。 それならあなた達がどの程度イチャイチャしているのか、説明してあげるわ」

なんだってんだ。 俺と桐乃なんて一般的に見れば、至って普通なのだと思うけど。

そりゃあ、家で二人っきりの時とかはある程度自覚も無くはねえが……それでも、普通のカップルとかだってやってることじゃねえの? って思うよな。

915: 2013/08/17(土) 18:11:21.62 ID:ASt53XOW0
黒猫「まず一つ目。 あなた達、全体的に距離が近すぎるのよ」

京介「……そうか?」

俺は言いながら、すぐ隣に座る桐乃に顔を向ける。

桐乃「……そうでもないっしょ」

桐乃も俺の方を見て、そう言う。

ふむ、問題無いじゃん。

沙織「うふふ。 ここに来る時も、手を繋いでおられましたね」

京介「そりゃそうだけど……」

桐乃「だ、だってそれは仕方ないでしょ? 京介がどうしても手を繋ぎたいって土下座してくるんだもん」

916: 2013/08/17(土) 18:11:47.56 ID:ASt53XOW0
京介「いやしてねーけど!?」

自然と嘘を付くのはやめてもらいたい。 ていうかどっちかと言ったら、お前の方から手繋いできたじゃねえか。

黒猫「……ああ、分かったわ!」

黒猫は突然大きな声を挙げ、何かに納得したような表情をする。 一体なんだってんだ。

京介「な、なんだ……?」

黒猫「ふふ。 あなた、桐乃に飽きたのね」

桐乃「はぁ!? あんた舐めてんの!?」

そこで何で俺の胸倉を掴むんだよ! 言ったのは俺じゃなくて黒猫だ!

917: 2013/08/17(土) 18:12:19.86 ID:ASt53XOW0
京介「な、なわけないだろ! 俺は今でも桐乃のことが超好きだ!」

桐乃「そ、そう? ……良かった」

くぅ、心配そうな顔しやがって。 俺がそんな風になることなんて、絶対ねえっての!

黒猫「では、どうしてわたしと付き合っていたときは手を繋ぐだけでドギマギとしていたの?」

京介「そ、そりゃあ……当たり前だろ?」

桐乃「チッ……」

うわ、超不機嫌顔。 つうか黒猫の奴は一体何が目的なんだ!? くそ……。

黒猫「それで、今桐乃と手を繋ぐのに緊張はしないのかしら? ふふ」

京介「……もうしっかりと付き合って一年は経つしな」

918: 2013/08/17(土) 18:12:45.89 ID:ASt53XOW0
思えばそうか。

もうあれから一年経ったのか。

俺と桐乃が家を出てから、もう一年。

黒猫「それを飽きたというのよ。 分かる?」

京介「……わかんねーな。 お前が何を思ってそう言ってるのかも、わかんねえよ」

俺が若干苛立ちを覚えながら答えると、黒猫は顔を上にあげ、口を開く。 雰囲気から、ふざけた様子は感じ取れなかった。

黒猫「理由を知りたいのよ。 どうして桐乃のことをそこまで好きになれるのか」

京介「どうして? 好きになるのに理由なんかいらないだろ」

黒猫「……そうね、その通りよ」

919: 2013/08/17(土) 18:13:11.39 ID:ASt53XOW0
俺と黒猫の会話を沙織と桐乃は黙って聞いている。 何かに気付いてか、その空気に圧されたのか、それは分からない。

黒猫「でもそれは、普通の恋人の場合。 そうでしょう?」

普通の恋人、ね。

京介「それは俺と桐乃が兄妹だからか?」

黒猫「ええ、そうよ」

俺が聞くのとほぼ同時に黒猫は答えた。 そして、続ける。

黒猫「わたしや沙織、それにあやせやあのメルルもどき。 その人達は分かっているわ。 あなたと桐乃の関係も。 分かった上で、友達でいたい……仲間でいたいと思っているわ」

黒猫「それでも、それを認めない人たちも出てくる。 当然のことよ」

黒猫「あなた達の両親だってそう。 田村先輩だってそう」

920: 2013/08/17(土) 18:14:01.55 ID:ASt53XOW0
黒猫「これから、もう何年もしない内に社会に出て……普通に行けるとは到底思えないわ」

黒猫「必ず問題にぶつかる。 それでも、あなたは今と変わらずに同じ事を言えるかしら?」

黒猫の問いに、俺は答える。 決まっている答えを口に出す。

京介「言えるさ」

黒猫「桐乃がそれで泣いたとしたら、あなたはどうするの?」

京介「その時は話を聞いてやるよ。 桐乃が泣き止むまで」

黒猫「それでもどうしようも無かったら?」

京介「その時は一緒に泣くさ。 どうしようもねえからな」

黒猫「そう。 今、この場ではそう言って置けばいいかもしれないわね。 でも、それはあなたも分かっているでしょう?」

921: 2013/08/17(土) 18:15:57.85 ID:ASt53XOW0
京介「まあな。 だけど、俺にも一応考えって物があるんだよ」

黒猫「……それは、何?」

それを聞くとき、黒猫は不安そうになりながら聞く。 見てすぐに分かるさ、そのくらいなら。

そして黒猫の考えは、何となくだが分かった。

こいつは、俺たちのことを心配しているのだろう。 今は楽しくやってるが、それが何年経っても続く物なのかと、心配しているんだ。

不器用な聞き方だけどな。

京介「俺と桐乃が問題にぶつかって、どうしようも無くなっても」

京介「俺たちには、お前らが居るからよ。 黒猫も沙織も、あやせも加奈子も。 御鏡も瀬菜も」

京介「その時は遠慮無く頼らせてもらうさ。 良いだろ?」

922: 2013/08/17(土) 18:16:24.63 ID:ASt53XOW0
俺の言葉に、黒猫は頬を緩ませ、笑った。

黒猫「良い答えだわ。 前に言ったこと、忘れていなかったのね」

京介「当たり前だろ。 お前には本当に、返しきれないくらいの恩があるしな」

黒猫「ごめんなさい、こんな話を急に……年が明ける前に、確かめておきたくて」

京介「そうかい。 で、その結果は?」

黒猫「聞くまでも無いことでしょう? それは」

黒猫「ふふ。 それで、今……恩があると言ったわね? その恩、一発で返す方法があるのだけど……どう? 試してみる?」

923: 2013/08/17(土) 18:16:50.59 ID:ASt53XOW0
京介「無理なことじゃなきゃ、試したいけど」

黒猫「簡単なことよ……」

黒猫は言うと、俺の左隣に腰を掛ける。 ちなみに右隣には桐乃が座っている。

黒猫「……か、体で払えばいいのよ」

何言ってんだこいつ!? つうかめっちゃ恥ずかしそうに言うんじゃねえよ! 俺が変なことしてるみたいな構図になってるじゃねえか!

沙織「あらあら。 京介さん、ハーレムですわね」

京介「なんで携帯構えてるんだ!」

ていうか、ていうかだな。 これは敢えて言わなかったことなのだが……と言うよりかは、敢えて触れなかったことなのだが。

……右隣から、殺気を感じる。

924: 2013/08/17(土) 18:17:23.52 ID:ASt53XOW0
京介「ま、まあとりあえず食器片付けるか! はは」

手をポンと叩き、俺は言う。 あからさまに怪しすぎるぜ、今の俺。

桐乃「……」

チラ見したところ、八重歯剥き出しで俺の事を睨んでいる桐乃が見えた。

京介「あ、あー美味かった。 さ、風呂でも入るかなぁ」

立ち上がろうとしたところで、肩を掴まれる。 やっぱりそうなるよね。

桐乃「さっき黒いのと話してたときはあんな格好良いこと言ってたのに、なんで今デレデレしてたの? ん?」

京介「し、してねーよ? 俺はいつも通りだよ?」

桐乃「へええ。 へえ。 ふうん」

こういう風な反応する時って、かなり怒ってるんだよねぇ、こいつ。

925: 2013/08/17(土) 18:17:50.49 ID:ASt53XOW0
桐乃「……まぁ、今日は良いや。 もうすぐ年越しだし、トクベツ」

京介「さっすが桐乃さん! 優しいなあ! 天使みたいだ!」

ここぞとばかりに持ち上げる俺。 だけど生憎、それが逆に怒らせることになったらしい。

桐乃「言っとくケド……今日は、だからね。 明日になって家帰ったら覚えとけ」

京介「……はい」

こうは言うが、意外とノリノリだぜ、俺。 だって桐乃の怒ってるところとかも可愛いしな。 うん。

黒猫「どうでも良いことだけれど、そろそろお風呂に入りましょう?」

京介「え? 一緒にか?」

桐乃「あんたねぇ……」

926: 2013/08/17(土) 18:18:48.85 ID:ASt53XOW0
京介「いやいや、冗談だっての! 桐乃としか入らねーよ!」

黒猫「前に言っていたのは本当だったのね……二人で毎日お風呂に入っているとか、なんとか」

京介「毎日は入ってねえよ!! 何勝手に解釈してんだ!」

黒猫「なら、何日に一回かしら?」

京介「……しゅ、週一くらい」

最初は一ヶ月に一回だったんだけどな。 気づいたら週一回になってたんだ。 今でも不思議なんだよね、これ。

黒猫「今度あやせに報告しておかないと」

京介「お前、良いのかよ。 そんなこと言ってただで済むと思うのか」

927: 2013/08/17(土) 18:19:20.32 ID:ASt53XOW0
黒猫「な、何よ……?」

いつもと違う答えに、黒猫の表情が険しくなる。 へへへ、俺にも考えがあるんだよ。

京介「お前な。 俺がぼっこぼこにされて、最悪包丁で刺されるかもしれないんだぞ! それで良いのか!? そうなったら捕まるのはあやせだぞ! お前は友達を一人失うことになるんだぞ!」

黒猫「……お風呂に行ってくるわ」

無視されたなぁ! 最近、黒猫がどんどん酷くなってる気がするぜ。 誰の影響だろう。

……桐乃とあやせだな。 間違いない。

928: 2013/08/17(土) 18:19:57.92 ID:ASt53XOW0
こうして、黒猫と沙織と桐乃はそのまま風呂に行き、俺もまた風呂へと向かう。

ちなみに、この俺たちが来ている沙織の別荘なのだが、なんと風呂が男女別になっている。 何でも昔は本当に旅館だったらしく、それを買い取ったとのことだ。

こんなところに桐乃と一緒に住んでみたいなぁ。 なんて考えながら、一人風呂。

京介「……ふう」

黒猫にも先ほど言われたが、大変なのはこれからだろう。

そんなのは分かっている。 桐乃も分かっているはずだ。 俺たちが歩こうとしている道は、とてつもなく険しい物だろうと。

ゲームみたいにはいかねえよ、さすがに。 いや、あのゲームの主人公達も、裏ではすっげえ頑張ってるのかもしれないけどさ。

だけど俺は、あの妹の為になら何でも出来る気さえするんだ。

929: 2013/08/17(土) 18:20:25.51 ID:ASt53XOW0
桐乃。

今だからこう思えるのかもしれないけど、俺にとって何より大切な奴で、何より好きな奴で、世界でたった一人の妹だ。

……桐乃はどういう風に思っていたのかな。 今までのことや、これからのこと。

あいつは多分、あいつの性格なら、多分。

ずっと、気持ちを抑えて影で泣いていたのかもしれない。 俺には何となく分かる。

どう言えばいいんだろうな。 こんな気持ちは。

930: 2013/08/17(土) 18:20:56.05 ID:ASt53XOW0
守ってやりたいだとか、抱き締めたいとか、一緒に居たいとか。 それよりも、もっとこう……大切にしてやりたい。

今、あいつは俺に「幸せ」と、良く言ってくれる様になった。 でも、俺はもっとあいつを幸せにしてやりたい。 今よりも。

これから多分、そんな道を模索し続けることになるのだろう。 そして、それも黒猫が言っていた「問題」とやらに含まれているのだろう。

ならば良いさ。 やってやる。 俺は俺が思うように、あいつを今よりももっと、幸せにしてやる。

それが、兄である俺の役目で、桐乃を好きになった俺の役目で、桐乃に好きになってもらえた俺の役目だ。

931: 2013/08/17(土) 18:21:21.59 ID:ASt53XOW0
その後、風呂から出て再びリビングへ。

入ると沙織と桐乃と黒猫が揃って髪を乾かしている。 中々に面白い光景だ。

京介「なあなあ、桐乃」

そんな桐乃の背中に、俺は声を掛ける。

桐乃「なに? なんか用?」

京介「桐乃のこと、俺めっちゃ愛してるからな」

桐乃「ぶっ!」

桐乃は勢いよく立ち上がり、俺の方にずんずんと詰め寄ってきた。 可愛いな! はは。

932: 2013/08/17(土) 18:21:51.50 ID:ASt53XOW0
京介「本当のことじゃん」

桐乃「こ、このバカっ!!」

黒猫「沙織、見なさい。 あれがバカップルの良い例えよ」

沙織「羨ましいですわね。 うふふ」

桐乃「ちょっと来いッ!!」

黒猫と沙織の冷やかしに耐え切れなくなったのか、桐乃は叫ぶように言うと、俺を引っ張り廊下まで連れて行く。

933: 2013/08/17(土) 18:22:45.22 ID:ASt53XOW0
京介「な、なんだよ?」

桐乃「なんだよじゃないでしょ! な、なにあいつらの前であんな恥ずかしいこと言ってんの!?」

京介「はは。 悪かったって」

桐乃「……笑いながら謝ってもムカつくだけなんですケド」

ったく、一々可愛い奴だ。

俺はそんなムスッとした顔付きの桐乃に、キスをした。

桐乃「っ!? な……なっ! あんたッ!」

ここではしないとでも思ったか! 馬鹿め、俺はどこにいてもお前にキスするんだよ。

934: 2013/08/17(土) 18:23:12.56 ID:ASt53XOW0
京介「あいつらにばれなきゃいいだろ?」

言いながら、笑う。

桐乃「……そ、そうゆう問題じゃないし」

京介「もう一回してもいいか?」

桐乃「だ、ダメ! それはダメ……」

京介「どして?」

桐乃「ど、どうしても。 その……帰ってから、家で二人の時に、すればいいじゃん……?」

俺が優位に立っていたと思ったら、このひと言ですっげえ来る物があるんだよな。 てか、こいつがもしおねだりとか覚えたら、俺は何でも聞いてしまいそうだ。

昨日のアレだって、こいつが「おねがぁい」とか言った瞬間、全部吹っ飛んで行ったしな。 全部だぜ、全部。

935: 2013/08/17(土) 18:24:00.05 ID:ASt53XOW0
京介「お、おう……そ、そうだな。 はは」

桐乃「……か、帰ってからなら何回でもいいから」

すげえ台詞だな……。

いや、てか。 ううむ。 恥ずかしいぞ、くそ。 やはりこいつの破壊力はヤバイ。 今から家に帰ってでも布団の中でゆっくりしたい! 二人っきりで! マジで!

沙織「お二人とも、もうすぐ年越しですよ?」

と、廊下で話していた俺達に声が掛かる。

京介「あ、ああ。 もうそんな時間か」

京介「ほら、行こうぜ。 桐乃」

桐乃「う、うん」

936: 2013/08/17(土) 18:24:35.07 ID:ASt53XOW0
未だに桐乃は顔を赤くしていて、恥ずかしさを我慢している様な顔をしていた。

……写真に収めてぇ!! 携帯を寝室に置きっぱなしってのがすっげえ悔やまれる!!

黒猫「ほら、もう年を越すわよ。 沙織、桐乃」

京介「あのー、俺も一応居るんですけど……」

黒猫「あら、そうだったの。 ふふ。 気付かなかったわ、ごめんなさい」

京介「……はぁ」

溜息を付きながら、時計に目を移す。 時刻は23時50分程。

京介「そだ、テレビでなんかやってんじゃねえの? この時間なら」

沙織「あ、そうですわね。 付けて見ましょう」

そう言うと、沙織はリモコンを手に取り、テレビの電源を入れる。

937: 2013/08/17(土) 18:25:45.47 ID:ASt53XOW0
『新年あけましておめでとうございます!』

とのこと。 テレビに表示されている時間は既に日付が変わってから5分ほど経っている様だ。

京介「……沙織?」

沙織「ええっと……時計がずれていたみたいですね。 うふふ」

黒猫「気付かぬ内に新年を迎えていたというの? それは不味いわ。 非常に不味いわよ……現世と魔界に歪みが生じてしまうわ」

桐乃「……あんた、まだ厨二病抜けてなかったの?」

……まぁ、この方が俺たちらしいと言えばそうなのかもしれない。

938: 2013/08/17(土) 18:26:15.25 ID:ASt53XOW0
桐乃「あれ……ちょっと待って。 だとすると、あたしの新年最初の言葉って」

桐乃は言うと、俺の方を睨む。

京介「は、はは。 続きは家に帰ってから聞くからよ」

京介「とりあえず、あれだ」

四人、顔を見合わせ。

「あけましておめでとう」

そして、新しい年は始まる。


年越し 終

939: 2013/08/17(土) 18:27:29.13 ID:ASt53XOW0
以上で本日の投下終わりです。
乙、感想ありがとうございます。

いよいよ明日、配信ですね!
この待っている時間が一番楽しかったりそうじゃなかったり。
アニメ終わってしまうのが寂しい。

引用: 京介「おかえり」 桐乃「ただいま」