68:ちゃかい 2009/05/10(日) 18:51:11 ID:OSPM/7Vs

 エーリカの眠気交じりの顔に、にんまりと意地の悪い天使のような笑みが浮かんだ。窓か
ら、ペリーヌが一人で午後のティータイムを楽しんでいるのを見つけたからだ。
 ペリーヌは何だかんだで一人でお茶会をすることは少ない。結果的に人が集まってくるか
らだ。お菓子を持ってきたり、各々が各々の飲みたいものを持ってきたりして、ちょっとし
たお茶会にはやがわりする。


 文句を言いながらもちゃんと人数分用意するし、いつでもその用意ができることは判って
いた。
 エーリカは割と気まぐれに現れた。ペリーヌからすればふらりといつもやってくる、とそ
んな印象があった。
 だがその実情はバルクホルンやミーナが居ないから探したら辿り着いただとか、暇してい
るときに見つけただとか、今日のようにちょっと一人で居るところを見つけただとか、そん
なところだ。

「ああーっと、喉かわいたなー」
 エーリカはペリーヌのティータイムの場所までやってくると、ひょいと椅子に座っていか
にもわざとらしくそう呟いた。
「……水でも飲まれてはいかがですの?」
 唐突に現れたエーリカの、あまりのわざとらしさにペリーヌは眉をひそめ、つっけんどん
に返す。

「私もペリーヌの紅茶飲みたいなー」
 ペリーヌはいかにも何かを堪えるかのように眉をしかめて目を閉じ、少しの間黙り込む。
 やがて葛藤が終わったのか、普段どおりの態度で口を開いた。
「……仕方ありませんわね」
「今日だけだかんなー、ってやつ?」
「全くその通りですわ」
 と、ペリーヌも返したものの、エーリカに紅茶を提供するのも既に何度目になるか数えて
いない。エイラとサーニャの間でのそのやり取りが慣例化している部分まで一緒だった。
 もっとも、ペリーヌとてエーリカの性格は困ったものだとは思っていたが、エーリカとお
茶をすること自体は、ペリーヌはそこまで嫌いではない。エーリカはウィッチとしては優秀
だったし、普段の生活態度に惑わされて本質まで見えなくなってしまうほどペリーヌも愚か
ではなかった。そしてエーリカもペリーヌが見るべき部分は見ていると知っているから、ど
うしても嫌いにはなれない。
 ペリーヌはエーリカの紅茶を用意して、再び自分の分を飲む。
 滅多にないことではあったが、ペリーヌがエーリカと飲むことになった際は会話がないこ
とが多かった。エーリカが思いつきでからかってくることはあるが、普段の賑やかなお茶会
とは違う、静かなお茶会も嫌いではない。

 ペリーヌは本を読んだり、頭上に在り続ける自分たちの蒼い戦場に想いをはわせる。そう
しているうちにふと、エーリカは何をしているのだろうと気になって、ちらりと横目で盗み
見た。



69: 2009/05/10(日) 18:51:35 ID:OSPM/7Vs
 ほう、とため息をつきそうになってペリーヌは慌てて息を呑む。
 とても言えない。静かに、いかにも美味そうに紅茶を飲むエーリカの横顔に見惚れたなど。
エーリカも何か思うところがあるのだろうか。普段のふわふわした部分が表情から一切抜け
落ちており、その横顔はかわいらしいというより凛々しさを感じさせる。
 そこでエーリカがふとペリーヌの視線に気がついて顔を上げ、目が合う。
 硬直したまま慌てたのはペリーヌだった。顔がじわじわと赤く染まってゆき、自然さとは
かけ離れた勢いで視線をそらす。
 エーリカは一瞬あっけに取られたが、
「いやあ」普段どおりの悪ガキのような笑みを浮かべて言う。
「性格はおいといても、ツンツンメガネさんの淹れる紅茶は美味いねえ」
「んなっ……!」
 ペリーヌはつい今の今まで抱いていた感情を全て吹き飛ばし、脊髄反射のようにエーリカ
を見て言い返す。
「まったく貴女と言う人は……!」
 怒るペリーヌを見て、エーリカが何を考えているかと言うことはペリーヌには知る由もな
かったし、恐らく知ったらまた別の意味で絶句するに違いなかった。
 かわいいなあ。エーリカは我ながら安っぽいとも思うちょっとしたからかいに、律儀に乗
ってきてくれるこの仲間に、そんな感想を抱いていた。
 一人の少女が背負うにはありえないくらい重い理由を背負い、それを背負いながらも自分
で在るために気丈に、精一杯背伸びした状態でい続けているのだ。
 いつか溜め込んだものが大きくなりすぎて潰れてしまわないように、こういう些細なとこ
ろで少しづつ発散させるべきだとエーリカは思っていた。絶対に口に出す気はなかったが、
そう思っていた。いつも怒っているから、加減どころがちょっと判らなかったりするところ
はあるのだが。
 ペリーヌの文句をのらりくらりと交わしながら、一息ついたところで、
「ま、悪くなかったよ。ご馳走様」
 そう言ってエーリカが立ち上がる。ペリーヌはふん、とエーリカの感想などどうでもいい
と言わんばかりにそっぽを向く。
 だがエーリカは首を傾げて、次の言葉があるんだろ? とばかりに待っている。すぐに根
負けしたのは、やはりペリーヌだった。
「……、……また気が向いたら振舞って差し上げますわ」
 エーリカはいつものように「こっちも気が向いたらねー」と返そうとしたが、ふと思いつ
きで言葉を変えた。
「うん。また来る」
 ペリーヌは、1の次に2がくると言ったような、決まりきった順番が崩されたような戸惑
った顔を浮かべた。
「え、ええ……お待ちしてます、わ……?」
 思わず素で答えてしまった自分に気がつき、ペリーヌの顔が一瞬で紅く染まる。 エーリ
カはそんなペリーヌを見て思う。お待ちしてますなんて言ったら何を言われるか知れたもの
ではない。そんなことを今は考えているのだろうか。
「うん、じゃあね」
 やっぱり、かわいいやつだなあ。そう思いながらエーリカは踵を返した。

70: 2009/05/10(日) 18:53:30 ID:OSPM/7Vs
本スレで見たペーリカが良かったのでひっそりかいてみた!
お邪魔しました!

引用: ストライクウィッチーズ避難所3