73: milk and honey 2009/05/10(日) 22:46:11 ID:LWUY3qoE


雲一つなく澄みきったブリタニアの大空。
緩やかに流れる風を劈き、舞い降りるストライカー。特徴的な、耳に残る轟音。
エーテルの噴流が淀みなく流れ、ぎりぎりまでタキシングした後、ゆっくりと格納装置に収まった。
慣れた感じでストライカーを脱ぎ、携行していた武器を預け、服の乱れを整えると、待っていたミーナに敬礼した。
「カールスラント空軍131先行実験隊『ハルプ』第三中隊所属、ヘルマ・レンナルツ曹長、只今到着しました!」
「いらっしゃい。501へようこそ。歓迎します、レンナルツさん」
「ありがとうございます」
敬礼を解いて、ヘルマは少し顔を赤くして言った。
「すいません。三度も押しかけてしまって」
「良いのよ。ここもたまには刺激が必要だから」
意味深な言葉を呟き、ふふっと笑うミーナ。レンナルツの肩を持つと、ハンガーからミーティングルームへと誘う。
その様子は、二人だけ見ればまるでミッションスクールの新入生と先輩、と言った風に見えなくもない。
「今日はレンナルツさんの為に、リーネさんと宮藤さんが色々なお菓子を用意して待っているわ」
「ほ、ホントですか?」
前に飲んだ甘~いミルクティー、そして数々のお菓子を思い浮かべて顔がほころぶヘルマ。
「さ、行きましょう。皆待ってるわ」
「はい。ありがとうございます! ……ってあれは?」
「どうかしたかしら?」
ヘルマは格納装置に納められた無骨なストライカーに目が行った。重厚で独特のカラーリング。
「あのストライカーは……Bf110-G4」
「ええ。今日はシュナウファー大尉も来てるのよ」
「わあ、あの凄い夜戦エースもいらっしゃるんですか? 来て良かったです!」
「後でみんなでお話ししましょうね」

ミーティングルームで待っていたものは、まず最初にルッキーニの微妙な視線。
そして満面の笑みでやって来たシャーリー。
「いやー久し振りだなヘルマ。成長したか?」
「は、はい? 何の事ですか?」
「胸だよ胸。この前さんざ……」
「そ、その話はいいです!」
顔を真っ赤にして言葉を遮るヘルマ。
「まあいいや。今日こそ、ジェットストライカー履かせてくれるんだったよな?」
「だからそれは無理ですって! 他国のウィッチを……」
「堅い事言いなさんな! 今すぐあたしに履かせてくれ! 頼む!」
「だからダメですってば」
「あたしの頼み聞いてくれ。一生に一度のお願いだ!」
「貴方の人生は何度有るんですか」
「堅いなあ。そこを何とか」
「ダメです」
「あたしの頼み聞いてくれたら、あたしがヘルマの頼み何でも聞くぞ」
「……えっ」
一瞬、どきりとしてしまうヘルマ。シャーリーの顔を見る。
「だぁめ! シャーリーで遊ばないで!」
我慢の限界を超えたのか、二人の間に割り込むルッキーニ。
「私は遊んでなんかいません。そもそも今回こそ、シャーリー大尉とスピード対決を……」
「あー、それなあ」
残念そうに呟くシャーリー。ルッキーニも何故か急に暗くなってしまった。
「どうかしたのですか?」
ヘルマはきょとんとして聞いてみた。

ハンガーに連れ戻され、その片隅で目にしたものは……控えめに言って「分解」……悪く言うならば「ぶっ壊れた」
シャーリーのストライカー。飛ぶ事は勿論、組み立て直す事も不可能に思える程酷い。飛ぶ前から墜落している印象だ。
「整備してる途中にさ。ちょっと、ひっくり返したって言うか……」
「ひっくり返してストライカーがこんな有様になるんですか?」
「なるんだなあ、これが」
「シャーリー……」
ルッキーニがシャーリーに身体を持たれ掛け、済まなさそうに呟いた。
「まさか……」
「良いんだよルッキーニ。ヘルマ、これはあたしのストライカーだ。あたしの責任だ」
「はあ」
「悪いんだけどさ、スピード対決は当分持ち越しだな。あたしも楽しみにしてたんだ。でも、本国から予備機が届くのも
ちょっと先になりそうだし。今回は無理だ」
「そうですか。残念です」
「あたしも残念だよ。最速仕様のセットアップして、チューン繰り返してたからさ……」
「そうですか」
「と言う訳でヘルマ、お前のストライカーを貸してくれ」
「さらっと言わないで下さい。繰り返しになりますが、無理です」
「そこを何とか」
「だから無理ですって」
「貴方達、またハンガーに戻って何やってるの。お茶とお菓子の用意が出来たから、いらっしゃい?」
様子を見に来たミーナが呆れ半分で笑う。一行はぞろぞろとハンガーを後にした。

74: 2009/05/10(日) 22:47:43 ID:LWUY3qoE
「シュナウファー大尉、お久しぶりです!」
一足早くミーティングルームでお茶を楽しんでいたハイデマリーを見つけ、ヘルマは声を掛けた。
「あら、レンナルツ曹長。また会うとは奇遇ね」
穏やかな返事のハイデマリー。
「私、今回はMe262のテスト飛行で来たのですが、シュナウファー大尉はどんなご用件で?」
運ばれて来たミルクティーに砂糖を入れ、笑顔で頂くヘルマ。
「私は……ネウロイの報告とか」
言葉を選ぶハイデマリー。
「なるほど。お忙しいんですね」
「貴方もじゃない?」
「いいえとんでもない」
そんなやり取りを聞いていたトゥルーデは、ヘルマに言った。
「聞けヘルマ。シュナウファーは、本当はな……」
「ちょっとバルクホルン! 変な事言わないでよ?」
「分かった分かった」
ハイデマリーに釘を刺され、苦笑するトゥルーデ。
「でも、ペリーヌが501(ウチ)から迎えに飛んでったのは事実だよね~」
トゥルーデの横でにやにやしているエーリカ。
「護衛ですわ」
さらっと言うペリーヌ。ハイデマリーの横ですましてお茶を飲んでいる。
「でも、迎えに行った日は結局帰って来なかったんだよね~」
むせるペリーヌ。
「誤解を招く様な表現はおやめなさい!」
「じゃあストレートに……」
「もっとやめて、ハルトマン」
「こらエーリカ、やめんか。皆困るだろう」
「そうかな?」
ハイデマリーとペリーヌを見て、にやにや顔のエーリカ。呆れ半分のトゥルーデ。
そんなカールスラント組プラスガリアのウィッチを、あらあら、と言った表情で眺めるミーナ。
「どうしたミーナ? 賑やかで良いじゃないか。楽しそうだぞ?」
ミーナの横に腰を下ろした美緒が問い掛ける。
「まあね。これで戦いが無かったらと、何度も思うわ」
「そのうち、きっとそうなるさ。だからせめて今はゆっくりしろ。私もついている」
「美緒……」
横のソファーでは、芳佳とリーネがお茶とお菓子を堪能しつつ、肩を並べて何かの雑誌を読んでいる。
ブリタニアで発行されているものらしい。
「世界の『母の日』特集だって、芳佳ちゃん」
ぴくり、とミーナの頬が動いた気がしたが、恐らく気のせいだろうと美緒は心の中で片付けた。
「すごいねリーネちゃん。国によってお祝いする日が違うんだね」
ページをめくる。贈り物や祝い方も国や地域によって違うらしい。
「ブリタニアは、もう終わっちゃったけどね」
「リーネちゃんはお母さんに何か贈ったの?」
「ウチの地元のお花屋さんに頼んで、お母さんの好きなお花を」
「えらいねリーネちゃん。お母さん思いなんだ」
「家族だから」
「私もお母さんに何か贈りたいけど……ちょっと無理かな」
寂しそうに笑う芳佳。ちょっと心配そうに見つめるリーネの気を紛らわそうと、芳佳はページをめくった。
「見て、リーネちゃん。色々有るよ。……リベリオンでは白いカーネーションなんだ。へえ~」
「お、宮藤。あたしの国に興味あるのかい?」
シャーリーがルッキーニを抱きかかえて、芳佳の横に座った。
「シャーリーさんの国では、白いカーネーションなんですね」
「母の日の贈り物かい? まあ、シンボルみたいなもんさ。後は適当にメッセージカード渡したり、庭でバーベキューやったり……」
「リベリアンは結局バーベキューに行き着くのか。どんだけバーベキュー好きなんだ」
呆れ半分でからかうトゥルーデ。
「バーベキューをバカにするなよ? あれはホントに美味いんだぞ? それにみんなでやるのが楽しくて……」
シャーリーが反論する。
「ああ。確かに一人でやるのは苦痛だし、一種の修行みたいだしな。分かる」
「そういや、前に一緒に準備したっけか」
「確かにあれは苦行だ。リベリアンがおかしくなるのも分かる」
「だろ? でも美味いんだよな~」
いつの間にかバーベキュー談義になってしまうシャーリーとトゥルーデ。その横で、雑誌を読む芳佳とリーネ。
「へえ、贈り物にハチミツだって。変わってるね、リーネちゃん」
「ハチミツ? それなら……」
台所の一角を指さすリーネ。大量に置かれた木箱が有った。中には、丁寧に箱詰めされた瓶が並んでいる。
「リーネちゃん、あれは何?」
「ハチミツだよ。私の実家から贈られて来たの」
「ブルーベリーの次はハチミツカ~。リーネの家は農家ナノカ?」
眠そうなサーニャとお茶を飲んでいたエイラが、リーネに言う。
「養蜂業ではないけど……色々贈ってくれるの」
「ハチミツ……」
サーニャがぽつりと呟く。
「あとで一瓶開けヨウ。お茶に入れたら甘くて美味しいゾ?」
エイラの提案。
「紅茶に入れたら黒くなりますよ?」
リーネがストップを掛ける。
「何デ?」
「……何ででしょう?」

75: 2009/05/10(日) 22:48:15 ID:LWUY3qoE
「甘くて美味しければ何でもイイヨ。ブリタニアのミルクティーにハチミツなんて合うんじゃないカ?」
「風邪ひいたとき、ミルクティーにハチミツ入れると良いって、お母さんから聞いた事あります」
エイラの提案に答えるリーネ。
「でも、何でハチミツなんだろうね、リーネちゃん」
首を傾げる芳佳。
「さあ……。芳佳ちゃんは知ってる?」
「私も分からないよ?」
「知っていますか宮藤軍曹?」
ヘルマが芳佳とリーネの間に割り込んで来た。きょとんとする芳佳とリーネを前に、ヘルマは胸を張って説明する。
「ハチミツは古代より神聖とされてきたもので、神話にも出てくるんですよ。味も勿論良いですが、栄養豊富で、
新婚カップルはハチミツ酒を飲んで精を付けた事から、『ハネムーン』の語源ともされているのです」
ヘルマの言葉を聞いた隊員達が、皆、反応する。表情が皆それぞれ、一瞬変わる。
「新婚……カップル……」
「精を付ける……」
「栄養……」
(なるほど、イイ事言うねレンナルツ。そう言うプレイもアリだね)
口の端を歪め、顎に手をやるエーリカ。
「エーリカ。今何を考えた?」
ちょっとした異変も見逃さないトゥルーデはエーリカに向かって言った。
「別に~。リーネ、後であのハチミツの瓶、幾つか頂戴ね」
「ええ、どうぞ。沢山有りますから」
「ありがとー。楽しみだね、トゥルーデ」
「やっぱりそっちか」
「そっちって何です、お姉さま?」
「何でも無い。と言うかお姉さまは止めろ、ヘルマ」
ヘルマの問い掛けに無理矢理かしこまった顔を作るトゥルーデ。
シャーリーにべったりのルッキーニが、シャーリーの頬をつんつんとつついた。
「シャーリー、ハチミツつけてなんか甘~いお菓子食べた~い」
「後でリーネと宮藤に言ってホットケーキでも焼いてもらうか。バターとハチミツたっぷりで、うまいぞ~」
「イエェー 楽しみだね~」
盛り上がる二人。
「……ハイディ、後で」
「ハチミツのトーストでも食べる、ペリーヌ?」
二人は顔を見合わせ、同時に頬を赤らめた。
(ハチミツを食べてサーニャとあんな事や……ああアァァ)
一方でひとり妄想が止まらないエイラ。
「エイラ、ハチミツ食べたい……」
「わわ、分かったゾサーニャ! リーネ、私達にもハチミツクレ!」
サーニャにぽつりと言われ、妙にテンションが上がるエイラ。
「じゃあ、私とみ……坂本少佐の分も貰っておこうかしら」
ミーナがさりげなく瓶を手にしている。
「ええ、どうぞ」
ミーナにハチミツの瓶を幾つか渡したところで、ふと芳佳と目が合った。
「リーネちゃん……」
「芳佳ちゃん」
目が合い、顔を赤らめる二人。
「ちょ、ちょっと皆さん!」
ヘルマが立ち上がり、声を荒げた。
「な、なんてうらやま、いや、いやらしい! 私にもやらせ、いややめなさい!」
一同を叱り飛ばすも、全然効果無し。
そんなヘルマに向かって、エーリカが言った。
「レンナルツ、声が裏返ってるよ」
「むきー!」
「残念、これは私のトゥルーデだからね。渡さないよ?」
「いっいつからハルトマン中尉のものに!?」
「ほら。証拠」
指輪を見せつけられる。
「これもどう? 私達似合ってるかな?」
服の中からそっと、お揃いのネックレスを見せる。
「ハルトマン中尉がいじめるんです。助けてお姉ちゃん」
ヘルマに泣きつかれ困惑するトゥルーデ。
「う。……いや、どうしろと」
「レンナルツさっき言ってたよね。ハチミツは栄養が有るって。501(ここ)は甘いもの好き多いし、別に良いんじゃないの?」
にやっと笑うエーリカ。

76: 2009/05/10(日) 22:49:25 ID:LWUY3qoE
ヘルマはめげずにエーリカを睨んで言った。
「おかしいです! 明らかに! 何か本来の目的以外の事に使おうとしてませんか?」
「そんな事無いよ」
エーリカがしれっと答える。
「本当に?」
「だって、ハチミツは栄養あるんでしょ?」
「そりゃもう」
「私達、ウィッチだもん。栄養つけておかないと戦えないよね?」
「確かに」
「なら、別に食べても飲んでも塗っても舐めても垂らしても問題無いよね」
「途中から用途がおかしいです! てか皆さん瓶を持って何処行くんですか!」
一組、また一組とハチミツの瓶を持ってミーティングルームから姿を消すウィッチ達。
「ま~ったくしょうがないなあレンナルツは」
エーリカは一人取り残されたヘルマの顔を見た。
「ヘルマ」
トゥルーデがヘルマの傍らに立つ。その様子を見たエーリカはぽんと手を叩いた。
「そうだ、良いこと思い付いた」
「……とりあえず言ってみろ、エーリカ」
トゥルーデがエーリカを見た。
「怒らない?」
「発言内容による」
「じゃあ言わない」
「なら怒らないから言え」
「うーんとね。レンナルツ、私達の子供って事で」
「はあ?」
「何ぃ!? それはどう言う事だ!?」
突然の発言に驚くヘルマとトゥルーデ。
「そう言うプレイも面白いかな~って思ってさ。それなら皆で幸せになれると思うよ」
「ちょ、ちょっと待って下さい! 私が子供ってどう言う事ですか? プレイって何ですか?」
「そのまんまだけど?」
「えっ?」
「よし、大体分かった。行くかヘルマ」
吹っ切れたのか、よいしょとヘルマをおんぶするトゥルーデ。エーリカはひょいとトゥルーデに抱きついた。
トゥルーデは脚を踏ん張り、エーリカをお姫様抱っこする。
「二人だと、微妙にバランスが……」
「さあ、行こう。楽しいよ」
「エーリカ、お前」
「なあに、トゥルーデ?」
「楽しければ何でも良いのか」
「仕方ないよ。今日は特別って事で」
「そうか」
「なんか、納得いかないんですけど」
おんぶされたヘルマが呟く。
「レンナルツ、覚悟しなよ?」
ふふふ、とトゥルーデの胸元で笑うエーリカを見て、ヘルマは妙な寒気を感じた。

end

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以上です。
この部隊はもうだめだ/(^o^)\
という感じでひとつ。

母の日の起源についてはgoogle先生やwikipedia先生に聞いてみました。
あと、WWⅡ当時に若い女性向けの雑誌が有ったかどうかは分かりませんが、
その辺はまあ適当にノリで……流して頂ければ。

「母の日にハチミツを送る」と言う事については……
先日たまたま目にした「母の日ギフト」カタログに有ったからで、深い意味は無いです。
今回はタイトルも特に深い意味は無いです~(なげやり

ではまた~。

引用: ストライクウィッチーズ避難所3