109: 2009/05/14(木) 04:00:34 ID:ypg4qaNY
私の身体を包み込む様に風が踊る。
肌を撫でる柔らかな感触。
決して掴む事の出来ない不可視の存在。
私の操る事の出来る、壮大で不可思議な友達。
「……珍しいなハルトマン、何をしている?」
「……少佐?」
春は過ぎたけれど夏にはまだ早いそんな季節。
珍しく、というか年に数回あるかと言うくらいに早く目の覚めた私は、ふらふらと海から吹く潮風にその身を委ねていた。
自分でもわからない、何かモヤモヤとしたけだるい感覚。
風に当たって気晴らしでも、と思ったのだが、この潮風達はどうにも私をからかうばかりだ。
特に気にしている訳でもないけれど、髪が風に踊らされてぐしゃぐしゃだ。
「……なんか目が覚めちゃって」
「……そうか」
朝練帰りなのだろうか、額に汗を光らせた坂本少佐は、私の言葉に返事をしつつ、何故か眼帯を外した。
魔眼で睨み見る先は……ガリア。
って、これはもしかして
「…少佐ぁ……私もしかして遠回しに馬鹿にされてる?」
「あー、いやぁ…その、スマン」
以前冗談で「部屋掃除してくる」って言った時に、トゥルーデが「明日は嵐が来るのか!?」って気象観測所に問い詰めてたけど……。
私が早起きしたらネウロイの大襲来ですか。
あー、エーリカちゃんショックー。
「いやぁ、悪かった。……少し思い詰めてる様に見えたからな」
「……少佐には……そう…見えたの?」
「ああ」
そうなのかな……。
うー、あんまり深く悩むのは私のキャラじゃない。
だけど、何か溜飲の落ちない気分。
私は知らず顔をしかめていた。
「ハルトマン。扶桑には柳と言う木があるんだが」
「……ヤナギ?」
いきなりだね、少佐。
私が訝し気な顔を向けると、少佐は笑いながらまぁ聞け、と話を続けた。
「柳は幹も枝も細い木なんだが、どんな風が吹こうともそのしなやかな強靭さを持って優雅に受け流す」
「……あれ。なんか、耳が痛い?」
「さて?私は柳の話をしただけだが?」
意地の悪そうな笑みを浮かべる坂本少佐。
少佐も結構こんな冗談言うんだ。
……冗談、だよね…今の?
唸る私を余所に、少佐は気持ち良さそうに目を閉じる。
「……いい風だ」
「悪戯好きな風なのに?」
右から左からくすぐったり撫でたりと、私を弄ぶ緩いそよ風。
それなのに、なんで少佐はいい風なんて言うのだろう。
私の話を聞いているのかいないのか、少佐の独白にも似た話が続いた。
肌を撫でる柔らかな感触。
決して掴む事の出来ない不可視の存在。
私の操る事の出来る、壮大で不可思議な友達。
「……珍しいなハルトマン、何をしている?」
「……少佐?」
春は過ぎたけれど夏にはまだ早いそんな季節。
珍しく、というか年に数回あるかと言うくらいに早く目の覚めた私は、ふらふらと海から吹く潮風にその身を委ねていた。
自分でもわからない、何かモヤモヤとしたけだるい感覚。
風に当たって気晴らしでも、と思ったのだが、この潮風達はどうにも私をからかうばかりだ。
特に気にしている訳でもないけれど、髪が風に踊らされてぐしゃぐしゃだ。
「……なんか目が覚めちゃって」
「……そうか」
朝練帰りなのだろうか、額に汗を光らせた坂本少佐は、私の言葉に返事をしつつ、何故か眼帯を外した。
魔眼で睨み見る先は……ガリア。
って、これはもしかして
「…少佐ぁ……私もしかして遠回しに馬鹿にされてる?」
「あー、いやぁ…その、スマン」
以前冗談で「部屋掃除してくる」って言った時に、トゥルーデが「明日は嵐が来るのか!?」って気象観測所に問い詰めてたけど……。
私が早起きしたらネウロイの大襲来ですか。
あー、エーリカちゃんショックー。
「いやぁ、悪かった。……少し思い詰めてる様に見えたからな」
「……少佐には……そう…見えたの?」
「ああ」
そうなのかな……。
うー、あんまり深く悩むのは私のキャラじゃない。
だけど、何か溜飲の落ちない気分。
私は知らず顔をしかめていた。
「ハルトマン。扶桑には柳と言う木があるんだが」
「……ヤナギ?」
いきなりだね、少佐。
私が訝し気な顔を向けると、少佐は笑いながらまぁ聞け、と話を続けた。
「柳は幹も枝も細い木なんだが、どんな風が吹こうともそのしなやかな強靭さを持って優雅に受け流す」
「……あれ。なんか、耳が痛い?」
「さて?私は柳の話をしただけだが?」
意地の悪そうな笑みを浮かべる坂本少佐。
少佐も結構こんな冗談言うんだ。
……冗談、だよね…今の?
唸る私を余所に、少佐は気持ち良さそうに目を閉じる。
「……いい風だ」
「悪戯好きな風なのに?」
右から左からくすぐったり撫でたりと、私を弄ぶ緩いそよ風。
それなのに、なんで少佐はいい風なんて言うのだろう。
私の話を聞いているのかいないのか、少佐の独白にも似た話が続いた。
110: 2009/05/14(木) 04:01:27 ID:ypg4qaNY
「陽は暑いくらい照っていて、雲一つ見当たらない快晴。けれど、吹く風はヒンヤリと冷たくて、汗ばむ事もなく、ただただ心地良い」
少佐の話すソレは、昨日の天気なのだとふと気が付いた。
確かに昨日は昼寝をするにも散歩をするにも最適、ってか最高だったけど。
「そんな日には、ふと思ってしまう。ネウロイも関係ない。戦いも、ウィッチとしての役目も忘れて、気の向くまま、風の導くままにこの空をどこまでも飛んで行きたい、とな」
朝焼けに燃える空を眺めながら、呟く様にそう話す坂本少佐は、どこかとても寂しそうで、思わず私は言葉に詰まる。
普段から時には朗らかに、時には厳しく私達を見守ってくれている少佐のちょっとした心の本音。
なんと言うか、責任感…とでも言えばいいのだろうか。
頭の後ろでしっかりと縛った少佐の髪が、風に煽られてゆらゆらと踊る。
……あーっ、こうなんかアンニュイな空気はエーリカちゃんのキャラに合わないっ!
むん、と気合いを一つ。
私は立ち上がると少佐にビシッと指を突き付けて言ってやった。
「じゃ、今度ミヤフジにお弁当でも作ってもらってピクニックに行こう!」
「……ああ。それもいいな」
少佐はパチクリと瞬いた後、ふっと笑って肩の力を抜いた。
……って言うか、肩竦められた?
少佐は踵を返して二、三歩程歩いた後、思い出した様に口を開いた。
「……先程、柳の話をしたが……」
「少しはミーナやトゥルーデの話を聞いてやれ、でしょー」
「そうではないさ」
あれ、違うんだ?
腰に当てた手がズルリと滑り落ちた。
少佐は少しだけ顔を上げると、後ろからではわからないものの、どこか楽しそうに話しだした。
「柳は幹も枝も細いと言ったが、幾らしなやかさがあったとしても、そんな木が強風に耐え切れるものではない。では、何故柳は木としてその土地に在り続けられると思う?」
それは問い掛けと言うよりも謎掛けか。
いきなり、また小難しい事を言われたものだから、思わず私はうぅむ、と唸りながら考えてしまった。
頭を使うのはウルスラとかトゥルーデの役目なのにぃ!
とりあえず、今はそれよりも¨ヤナギ¨だ。
枝と幹……ええと、風に耐え切れないって事は……風で飛んでかないって事?
折れるのは論外だよね、なら……
「…………根っこ……だったり?」
「ほぅ、その通りだ」
少佐の話すソレは、昨日の天気なのだとふと気が付いた。
確かに昨日は昼寝をするにも散歩をするにも最適、ってか最高だったけど。
「そんな日には、ふと思ってしまう。ネウロイも関係ない。戦いも、ウィッチとしての役目も忘れて、気の向くまま、風の導くままにこの空をどこまでも飛んで行きたい、とな」
朝焼けに燃える空を眺めながら、呟く様にそう話す坂本少佐は、どこかとても寂しそうで、思わず私は言葉に詰まる。
普段から時には朗らかに、時には厳しく私達を見守ってくれている少佐のちょっとした心の本音。
なんと言うか、責任感…とでも言えばいいのだろうか。
頭の後ろでしっかりと縛った少佐の髪が、風に煽られてゆらゆらと踊る。
……あーっ、こうなんかアンニュイな空気はエーリカちゃんのキャラに合わないっ!
むん、と気合いを一つ。
私は立ち上がると少佐にビシッと指を突き付けて言ってやった。
「じゃ、今度ミヤフジにお弁当でも作ってもらってピクニックに行こう!」
「……ああ。それもいいな」
少佐はパチクリと瞬いた後、ふっと笑って肩の力を抜いた。
……って言うか、肩竦められた?
少佐は踵を返して二、三歩程歩いた後、思い出した様に口を開いた。
「……先程、柳の話をしたが……」
「少しはミーナやトゥルーデの話を聞いてやれ、でしょー」
「そうではないさ」
あれ、違うんだ?
腰に当てた手がズルリと滑り落ちた。
少佐は少しだけ顔を上げると、後ろからではわからないものの、どこか楽しそうに話しだした。
「柳は幹も枝も細いと言ったが、幾らしなやかさがあったとしても、そんな木が強風に耐え切れるものではない。では、何故柳は木としてその土地に在り続けられると思う?」
それは問い掛けと言うよりも謎掛けか。
いきなり、また小難しい事を言われたものだから、思わず私はうぅむ、と唸りながら考えてしまった。
頭を使うのはウルスラとかトゥルーデの役目なのにぃ!
とりあえず、今はそれよりも¨ヤナギ¨だ。
枝と幹……ええと、風に耐え切れないって事は……風で飛んでかないって事?
折れるのは論外だよね、なら……
「…………根っこ……だったり?」
「ほぅ、その通りだ」
111: 2009/05/14(木) 04:01:59 ID:ypg4qaNY
やったね!エーリカちゃん大正解!!
少佐は少し以外だったのか、驚いた様な口調をもって、くるりとこちらに向き直った。
「柳が柳としてそこに在り続けられるのは、偏に地にしっかりと根を下ろしているからだ。揺らぐ事のない確固たる足場があればこそ、柳はいかなる風にも耐え、またその風を受け流せる」
「つまり足場が悪かったら一緒に飛ばされるって事?」
私の言葉に少佐の目がキラリと光った気がした。
言ってからしまった、と思うのは仕方ないよね?
つい揚げ足というか余計な事を言っちゃうこのエーリカちゃんのお口め!メッ!
「そうだ。……だが、ハルトマン。お前の足場はどうだ?ちゃんと地に足を着けているか?」
少佐の言葉に私はえ…、と呆けた様な声を漏らしてしまった。
そんな私に少佐は微笑みながら諭す様に言葉を続ける。
「お前が悩みを相談すべき相手は風ではなく私達だ。私だって悩みも不安も恐怖とて感じる。だが、己の足元…自分自身さえ見誤なければ私達は前に、明日に進む事が出来る」
知らず唾を飲み込む私。
以前トゥルーデが坂本少佐は素晴らしい人だ、と褒めてはいたけれど、私にはイマイチ実感が湧かなかった。
それはそうだ。
少佐は、立ち止まったり道を見失ったりした人を導くウィッチなんだ!
「……さて、そろそろ限界だな。ハルトマン、一度部屋に戻れ」
「……へ?なんで?」
このまま、もう少し少佐と話しをしてみたいと思ってたのに。
それに……限界?
またくるりと私に背を向けた少佐は、肩を軽く竦めると基地を指差した。
……正確には、とある部屋を。
よくよく耳を澄ませば、なんだか泣き声にも悲鳴にも似た叫び声が聞こえてきた。
『フラウッ!!返事をしろフラウッ!!!どこに埋まってるんだ!?フラァアアアアアウッ!!!!』
『ト、トゥルーデ落ち着いて!!?』
……窓の中では、何故か私の服やらベッドやらが引っ切り無しに宙を舞っている様に見える。
と言うかあの声はトゥルーデとミーナ、だよね?
……何事!?
「お前が起きている、と言う選択肢がないからだろうな」
「………えー」
困った様な顔で、早く行って安心させてやれ、とため息を落とす少佐。
見上げれば、だんだんと窓から見える私の私物の舞いが激しくなってきた。
……これは急がないと色々とマズイ?
少佐は少し以外だったのか、驚いた様な口調をもって、くるりとこちらに向き直った。
「柳が柳としてそこに在り続けられるのは、偏に地にしっかりと根を下ろしているからだ。揺らぐ事のない確固たる足場があればこそ、柳はいかなる風にも耐え、またその風を受け流せる」
「つまり足場が悪かったら一緒に飛ばされるって事?」
私の言葉に少佐の目がキラリと光った気がした。
言ってからしまった、と思うのは仕方ないよね?
つい揚げ足というか余計な事を言っちゃうこのエーリカちゃんのお口め!メッ!
「そうだ。……だが、ハルトマン。お前の足場はどうだ?ちゃんと地に足を着けているか?」
少佐の言葉に私はえ…、と呆けた様な声を漏らしてしまった。
そんな私に少佐は微笑みながら諭す様に言葉を続ける。
「お前が悩みを相談すべき相手は風ではなく私達だ。私だって悩みも不安も恐怖とて感じる。だが、己の足元…自分自身さえ見誤なければ私達は前に、明日に進む事が出来る」
知らず唾を飲み込む私。
以前トゥルーデが坂本少佐は素晴らしい人だ、と褒めてはいたけれど、私にはイマイチ実感が湧かなかった。
それはそうだ。
少佐は、立ち止まったり道を見失ったりした人を導くウィッチなんだ!
「……さて、そろそろ限界だな。ハルトマン、一度部屋に戻れ」
「……へ?なんで?」
このまま、もう少し少佐と話しをしてみたいと思ってたのに。
それに……限界?
またくるりと私に背を向けた少佐は、肩を軽く竦めると基地を指差した。
……正確には、とある部屋を。
よくよく耳を澄ませば、なんだか泣き声にも悲鳴にも似た叫び声が聞こえてきた。
『フラウッ!!返事をしろフラウッ!!!どこに埋まってるんだ!?フラァアアアアアウッ!!!!』
『ト、トゥルーデ落ち着いて!!?』
……窓の中では、何故か私の服やらベッドやらが引っ切り無しに宙を舞っている様に見える。
と言うかあの声はトゥルーデとミーナ、だよね?
……何事!?
「お前が起きている、と言う選択肢がないからだろうな」
「………えー」
困った様な顔で、早く行って安心させてやれ、とため息を落とす少佐。
見上げれば、だんだんと窓から見える私の私物の舞いが激しくなってきた。
……これは急がないと色々とマズイ?
112: 2009/05/14(木) 04:02:23 ID:ypg4qaNY
「もー、トゥルーデはー!!少佐、ありがとう!!」
「気にするな。あぁ、ハルトマン!話しの流れからさっきは違うと言ったが、二人の話しも少しはキチンと聞いてやれ」
「ちぇ、分かりましたーっ!」
私の部屋を激しくシェイクしてくれちゃってる愛しい私の戦友達の元へと、私は駆け出した。
そうだ、変に一人で悩むなんて私らしくない。
それに少佐の言った事はやっぱり正しかった。
駆け出した私を後押しするかの様に、優しく背中を押してくれる潮風。
……うん、本当に気持ちの良い風だね、少佐。
『フゥーラァーウゥーッ!!!!!!』
『ちょ、トゥルーデ!?床下には絶対いないから落ち着きなさい!!』
……なんか、私の部屋どうなってるんだろう。
まぁ、そんなの後で考えればいいよね?
エーリカ・ハルトマン、今日も気楽に楽しく元気に行っきまーす!!
おーわり
「気にするな。あぁ、ハルトマン!話しの流れからさっきは違うと言ったが、二人の話しも少しはキチンと聞いてやれ」
「ちぇ、分かりましたーっ!」
私の部屋を激しくシェイクしてくれちゃってる愛しい私の戦友達の元へと、私は駆け出した。
そうだ、変に一人で悩むなんて私らしくない。
それに少佐の言った事はやっぱり正しかった。
駆け出した私を後押しするかの様に、優しく背中を押してくれる潮風。
……うん、本当に気持ちの良い風だね、少佐。
『フゥーラァーウゥーッ!!!!!!』
『ちょ、トゥルーデ!?床下には絶対いないから落ち着きなさい!!』
……なんか、私の部屋どうなってるんだろう。
まぁ、そんなの後で考えればいいよね?
エーリカ・ハルトマン、今日も気楽に楽しく元気に行っきまーす!!
おーわり
引用: ストライクウィッチーズ避難所3
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