215:hold me tonight 2009/06/25(木) 18:06:39 ID:2vUQq7Lg

さて、今回は「オトコマエ」な少佐? を書いてみようかと。
少々ベクトルが違う気もしますがどうぞ。

216: 2009/06/25(木) 18:07:41 ID:2vUQq7Lg
 しとしとと雨が降る基地周辺。午後になっても雨はやまず、基地には気怠い雰気が漂っていた。
 そんな501に、扶桑海軍から荷物が届いた。各種補給物資に混じり、芳佳や美緒各個人宛てのもの
……家族からの手紙や、軍からの支給品など……がまとめて送られて来たのだ。
 芳佳と美緒は数々の荷物のうち私物関係のものをより分けてミーティングルームまで持って行くと、
よいせと箱の封を解き、中身を確認し始めた。横では二人の為にリーネが紅茶を淹れ、様子をにこにこと眺めている。
「あ、みっちゃんとお母さんから手紙だ!」
「良かったな宮藤。でも読むのは後だ。まずは他の中身も全て確認するんだぞ」
「はい」
 ごそごそと二人それぞれ中身を漁っていくうちに、美緒の顔色が変わる。そして一言。
「違う」
 と呟いた。
「どうしたんです、坂本さん?」
 怪訝そうに美緒の顔を覗き込む芳佳。リーネもつられて様子を見る。
 美緒は答えの代わりと言わんばかりに、芳佳に折り目も綺麗な軍服のセットを寄越した。
「軍服ですねえ……ってあれ? これ、男性用じゃないですか」
 広げて驚く芳佳、溜め息をつく美緒。
「ああ。何処をどう間違えたのか……我々の女性用が入って無いとは、どう言う事だ」
「困りましたね。坂本さんの服、今回の補給に合わせてあらかた洗ってますよ。外はこの雨だし、いつ乾くか……」
「うーむ……となると、乾いてるのは私が今着ているのだけか」
 顎に手をやり唸る美緒を見て、芳佳が提案した。
「なら、替えの服が届くまで、せめて今干してる服が乾くまで、送られて来た私の服着るのどうです?」
「宮藤の、か?」
「はい、どうぞ。まだ着てない新品ですよ。私は前のがまだ替えありますし」
 芳佳は自分用の箱から、真新しいセーラー服の上着を差し出した。
「良いのか、宮藤」
「私は大丈夫ですけど……」
「けど? 何だ?」
「坂本さん、士官なのにこれで良いのかなって。私のは士官用じゃないし」
「この際急場しのぎだ、構わん。何か公式な用件が有る訳でもないしな。ましてや空では誰も見ていない」
 美緒はとりあえず芳佳から服を借りると、セーラー服を試着してみた。
「ちょっときついな」
「私、体型小柄ですから。坂本さんの方が背もあるし、胸も有るし」
「胸とかはどうでもいい」
「胸……」
 言葉に反応してしまうリーネ。
 腰に手をやり、部屋の片隅に有った鏡をちらりちらりと見、自分の姿を確認する美緒。
「これを着るのは、随分と久しぶり……と言うか、殆ど記憶に無いな」
「でもすごく似合ってますよ、坂本さん」
「そうか?」
「ええ、私もそう思います」
 同意するリーネ。

217: 2009/06/25(木) 18:08:12 ID:2vUQq7Lg
 そんな三人の様子を見て何か面白そうだと思ったのか、いつの間にか暇を持て余す隊員達が集まってきた。
「ウキャー 少佐、芳佳とおそろい~。降格?」
「違うだろルッキーニ。でも少佐、どうしたんですか宮藤の服なんか着て」
 ニヤニヤ顔のルッキーニと、興味ありげなシャーリー。
「扶桑海軍からの支給品に手違いが有ってな。とりあえず着る服が無いと言う次第だ」
 ちょっと困った顔をする美緒。
「ならあたしの服、貸しましょうか?」
「いや、一応扶桑海軍の服の方が良い」
「なるほど」
 ルッキーニの肩を持ち、ほほうと納得するシャーリー。
「ウニャー 少佐のセーラー服って何か新鮮」
「ルッキーニさん! 貴方少佐を何て疚しい目で見てるのです!?」
「そう言うペリーヌは何でハンカチで鼻押さえてるんダヨ」
「た、たまたまですわ」
 詰まり気味の声で返事するペリーヌを見てニヤリと笑うエイラ。
エイラにもたれた格好のサーニャは美緒を見て不思議そうな顔をしていた。
「ズボンはどうします?」
 芳佳の問い掛けに、美緒はううむと唸った。
「男物か……これを履けと言われてもな」
「少佐、試しに履いてみたらどうです? 男物」
「既にズボンは履いているが? この上に? 二重にか?」
「まあまあとりあえず。せっかくだし」
「せっかくだから~男モノを選ぶぜ~」
「お、おい……」
 ノリノリのシャーリーとルッキーニに言われ、渋々男物のズボンを履いてみる美緒。

 上はセーラー服、下は男物のすらっとした長めのズボンの美緒。
 一同は、ほお、と溜め息混じりに美緒を見つめた。
「な、何だ皆、その反応は」
 たじろぐ美緒。
「少佐、オトコマエー」
 ルッキーニが目を丸くする。
「確かに、妙に似合ってるなあ。カッコいいですよ、少佐」
 納得するシャーリー。
「少佐は何を着てもお美しいと言う事ですわ!」
「ペリーヌ必氏ダナ」
「でも、なんか凛々しいね、エイラ」
「確かニナ」
「少佐、ステキですね」
 隊員達は美緒を褒め称えた。だが困惑を隠せない美緒。
 そんな中、ルッキーニは美緒をじーっと見て、ふと呟いた。
「でも何かオトコマエで、かわいさが足りないよね」
「確かにちょっとそんな気も」
 同意するシャーリー。
「お前ら……軍服に可愛さを求めてどうする?」
 呆れる美緒。
「そうだ良いこと思い付いた。少佐、ちょっと良いですか? ちょっとだけ」
 美緒の背後に回り、髪縛りを解くシャーリー。
「お、おい、何を……」
 戸惑う美緒。
「エイラとサーニャも手伝え」
「イイヨ」
「……こう?」
 隊員達に寄ってたかってあれこれされてしまう美緒。あわわ、と様子を眺めるだけの芳佳とリーネ。
何か言いたげだが、言うに言えないペリーヌ。

218: 2009/06/25(木) 18:09:04 ID:2vUQq7Lg
 数分後、長い髪をさらりと流し、軽く髪飾りをあしらった「水兵」風の美緒が出来上がった。
普段結んでいる黒髪は思ったよりも長く艶が有り、純白の制服を「凛々しい」ものから
「美しい」ものへと変化させるちからが有る。
 ルッキーニ達が添えた髪飾りも、美緒本来の大和撫子的な美貌を一層引き立たせている。
 鏡を見て、怒り一割呆れ九割が混ざった顔をした後、美緒はうなだれた。
「な、何だこれは……どうしろと」
「坂本さん、素敵です! 似合ってますよ! これぞ連合軍第501統合戦闘航空団の華です!」
 目を輝かせる芳佳。リーネも横でうんうんと大きく頷いた。
「そう言われてもな」
「これなら扶桑海の巴御前にも決して負けませんよ」
「何の勝負だ、何の」
「『扶桑海の巴御前』? ああ、宮藤の部屋にあった扶桑人形の人カ?」
 エイラの問いに大きく頷く芳佳。
「確かニ、負けてナイナ」
「少佐、素敵です」
 ぽつりと呟くサーニャ。シャーリーとルッキーニは大勝利と言わんばかりに美緒の周囲をぐるぐる回り、にやにやと姿を眺めている。
「少佐に何てコトを……そのお姿、素敵 ですわ」
 何故かむせび泣くペリーヌ。
「じゃあやっぱり、ズボンはどうします? この際……」
 換えのズボンを手に、芳佳は美緒に問い掛けた。そこへ、誰かがやって来た。
「あらこんな所に。さかも……」
 トゥルーデとエーリカを連れてやって来たのは、ミーナ。
 美緒の姿を一目見るなり、ミーナの顔色が変わる。小脇に抱えていた書類が、ばさばさと床に落ちる。
「ど、どうした、ミーナ」
 ぎょっとする美緒。
「坂本少佐、それに宮藤さん。何なのこれは。説明なさい」
 物凄い剣幕でミーナに詰め寄られ、狼狽える芳佳と美緒。
「え? ええっと、何処から説明したら良いんでしょう?」
「ああ、その、扶桑海軍から荷物が届いたんだが、手違いで……」
「手違いでこんな姿にっ!!!」
 ミーナは片手で口を……よく見ると鼻を押さえている様に見えた……塞ぐと、もう片方の手で美緒の腕をひったくり、
そのまま何処かへと連れ去った。
 後には、中途半端に散らかった美緒と芳佳の私物、服など、そして呆気に取られる一同が残された。
「おい、ミーナ……」
 トゥルーデが呆気に取られる。エーリカは何故かにやっとしている。
「どうしたんだ、ミーナ中佐」
「まさか、中佐」
「ミーナ隊長……」
 何となく二人が何処へ行き、何をし出すか想像出来た一同は、はあと溜め息をつき、後片付けを始めた。

end

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引用: ストライクウィッチーズ避難所3