448:touch-and-go 2009/11/15(日) 20:59:25 ID:oQP8KIhU
 シャーリーの運転するジープに揺られ、脇に肘を置き溜め息をつくトゥルーデ。
「なあ堅物、あんた何度目よ」
「何がだ、リベリアン」
 答えるのも面倒だと言わんばかりに溜め息をもう一度つく。
「それだよ。あんたさっきからずーっとそう『はあ』だの『ふう』だの溜め息ついてさ。
カールスラントじゃ何かそう言う風習つうか習慣でもあるのか?」
「無いに決まってる!」
「じゃあ何でさ?」
「何でとか聞くか?」
 それっきり会話が途切れた。
 やがて二人を乗せたジープはロンドン市街へと入り、舗装路になった事も有り、ジープの揺れは少しおさまった。
 トゥルーデは市街地をひた走る車中から、周囲を見回した。
 色々な種類の車が走り、人も多く、建物も割合被災を免れている。
「あたし達のお陰だよな」
 シャーリーはふっと笑った。
「まあ、そう……言えるかもな」
「遠慮しなさんなウルトラエース。もうすぐ二百五十機超えだろ? やっぱ凄いよあんたは」
「何だ急に、気持ち悪い。リベリアンに言われると、何か悪い事の前触れの様な気もするぞ」
「ひっでえの。あたしはきちんと評価するコトは評価するぞ? ……なんだよその溜め息は」
「いや、何でもない」
 シャーリーは建物の横に車を停めると、さっと降り立ち、ドアを閉めた。
「じゃ、少し待っててくれ。すぐ戻る」
「急げよ。待たせるなよ」
「へえへえ」
 シャーリーはバッグを片手に、建物へと入っていった。そこはリベリオン合衆国空軍の連絡所。
 トゥルーデはシャーリーの後ろ姿を目で追い、ふうと息をついた。

449: 2009/11/15(日) 20:59:51 ID:oQP8KIhU
 トゥルーデの溜め息の原因は、半日前の朝食時にまで遡る。
「大体、だらしないんだお前達は!」
「何だと!? だらしないのはあんたらだって同じだろうが!?」
 食事の席上、些細な事から喧嘩となったシャーリーとトゥルーデ。
シャーリーはルッキーニの監督不行届を、トゥルーデはエーリカの監督不行届を突っ込まれ、
お互い引くに引けなくなったのだ。最初は冗談半分で怒っていたがそのうちボルテージが上がり、
あわや取っ組み合いというところでミーナと美緒の水入り。周囲の引き方もハンパではなかった。
(どうすべきか)
 トゥルーデは控えめに輝く指輪をさすり、ぽつりと呟いた。
 ルッキーニの日々の素行……軍人としては許し難い部分も有るが、戦績については立派なものだ。
何より、まだ控えめに言っても幼い「少女」だ。それは確かにシャーリーの言う通りなのだが。
一方、エーリカのずぼらさと言うかだらしなさについても、一応上官に当たるトゥルーデとしては
何とかしないといけない立場なのだが……。
 結論が出ない。
 いや、とうに出ていると言うべきか。そもそも蒸し返したところで何も変わらない。
 良くも悪くも、それが501なのだろう。
 そして午後、ロンドンへのシャーリーの用事にトゥルーデが同行する事となった。
「同行」と言っても隊の「監視役」に近い。先日シャーリーが自機のストライカーを破損させたが、
その代替機の早急なる輸送をリベリオン本国軍に要請する“任務”。これをちゃんとこなせるかどうか。
ミーナはそう言った。出来て当たり前だとトゥルーデは思った。今更501から逃げ出す奴なんて居るものかと。
しかしミーナ……指揮官の命令とあらば、隊の最先任尉官として従うしかない。
「よ、待たせたな」
 いつ戻ったのか、シャーリーがジープの運転席に座った。
「ん? ああ、戻ったのか」
「どうしたよ堅物? 今度は時間の感覚が無くなったのかい? 三十分も掛かったんだぞ」
「え? ああ、そうか」
「らしくないなあ。風邪でもひいたか?」
「ち、違う。で、用件は済んだのか」
「ああ。ストライカーの件、何とかなりそうだ」
「そうか。良かった」
「ありがとな。いつまでも地上待機って訳にもいかないしな」
「そうだぞ、リベリアン。お前がしっっ……ぐわ、いきなり車を急発進させるな! 舌噛むわ!」
「悪い悪い、急いでるんだ」
「スピード出し過ぎるなよ。飛ばすなよ?」
「大丈夫。流れに乗ればいいのさ」
「お前はスピードの事となると見境なくなるからな」
「流石にこの渋滞ではどうしようもないけどな」
「まあ、な」
 混雑する通りに滞留する無数の車を見て、大尉ふたりは溜め息をついた。

450: 2009/11/15(日) 21:00:18 ID:oQP8KIhU
「さてと」
 シャーリーがトゥルーデを連れてやって来たのは、ロンドンでも名の知れた高級百貨店。「王室御用達」と看板にある。
「ここに何の用事が有るんだ、リベリアン」
「ルッキーニさ。ちょっと落ち込み気味だからさ。気分転換に服とか買ってやろうかと思って」
「なら本人を連れて来い! 私は関係無いだろ!」
「有るさ。501の上官だし、それに」
「それに?」
「あんた妹さん居たよな? あんたの言う自称『妹』じゃなくて」
「ああ。居るが? それがどうした……と言うか自称とかやめろ」
「妹さんの世話出来るなら、その知恵と言うかさ、ちょっと貸してくれよ」
「どう言う理屈だ、それは」
「まあ良いから」
 シャーリーはにやっと笑うと、トゥルーデの腕をぐいと引っ張り、子供服売場へと向かった。
「どれが良いかな」
「どれと言われてもな」
「ルッキーニに合うのは無いかな?」
「ルッキーニのか……でも待てよ。私はよく『地味』だの『センスゼロ』とか言われるぞ」
「あんたのツレにだろ?」
「……」
 エーリカの顔を思い出して表情が曇るトゥルーデ。シャーリーはトゥルーデを見て肩をぽんぽんと叩いた。
「別に良いんだって。あたし達で選んだって言えば良いんだし」
「何?」
 ふっと沸く疑念。シャーリーの言う事は、どこかおかしくないか。トゥルーデが考えを巡らせているスキに
シャーリーはあちこちから色々なサイズの服を持って来ていた。
「あたしの考えだけど、あいつには意外に原色系の明るい色とか良いと思うんだ。これなんかいいんじゃね?」
「ふむ……確かに意外性が有って悪くないかもな」
 服を見て軽く同意してみるトゥルーデ。
 そこでシャーリーは試着室を借りると、トゥルーデを引っ張り込んだ。
「おい待て。何で私も一緒なんだ。着替えはひとりでやるもんだろ」
「まあ良いじゃない」
「……と言うか」
「ん?」
「何でルッキーニの服を選ぶのに、私とお前が試着室に居るんだ?」
「ルッキーニのはこっち。これはあたしのだ」
「そ、そうか……っておい!」
「大声出すなよ。迷惑だろ?」
「うう……」
 シャーリーはトゥルーデの目の前で服を着替える。
 狭い空間、シャーリーのさらっとした髪がトゥルーデの目の前で揺れ、顔をこする。揺れるのはたわわに実った胸も同じ。
「どうやったらそんなにでかくなるんだ」
「またビールでも飲むかい?」
「からかうな」
「お互い様さ。あんたも結構イイ線いってると思う」
「あのなあ」
 トゥルーデの愚痴を無視したまま、シャーリーは瑠璃色のワンピースに着替えた。今ロンドンで流行っているものらしい。
シャーリーの「服」と言えば、地味な軍服か中途半端に派手な下着しか見た事のないトゥルーデにとって、
それはとても新鮮に見え、何故か鼓動が高まる。
「どうよ堅物? 似合ってる?」
「良いんじゃないか?」
「目を逸らして言われてもな。説得力無いぞ?」
 目の前で手をひらひらされる。
「ああもう! 分かった。似合ってるよ。いいだろそれで」
「よし分かった。次はあんたのだ」
「はあ? 何故私が?」
「サービス。と言うか付き合って貰った礼だ」
「そんな礼は要らん。早くここから出せ」
「まあ良いから。人の好意を無にするのかい、カールスラントの軍人は」
「うぐっ……貸せ!」
 シャーリーが手にしたワンピースをひったくると、後ろを向いて軍服をもそもそと脱ぎ、着替えた。
緋色の服は何故かシャーリーの着るワンピースと同じ作りで……トゥルーデはますます疑念が募った。
「何で私がリベリアンと一緒に、こんな狭い空間で……破廉恥な」
「全部聞こえてるよ」
「うるさいっ!」

451: 2009/11/15(日) 21:00:48 ID:oQP8KIhU
「おろ?」
「こ、今度は何だ?」
「堅物、これ何よ」
「え? どれだ」
 振り返るトゥルーデ。
「あんたがこっち向いても、背中についてるんだから見えないよ……おろ、ここにも有る」
 シャーリーはブラの隙間から覗くトゥルーデのO房を指して言った。
「これ、は……」
 言うまでもない。エーリカと愛し合った痕。
「へえ。ここにも、ここにも有る。お盛んだねえ」
「きっ貴様! 引っ掛けたな!?」
「そんなつもりじゃなかったんだけど……」
「そう言う貴様こそ、何だ! よく見たら首筋にも、胸にも、そこかしこに……」
「ああ。これ。あんたと同じ理由だよ」
 あっけらかんと言うシャーリー。
「きっ貴様ぁ! ルッキーニの歳を考えろ! 幾ら何でも……」
「それ言うならあんただってどうなのよ? ほら」
「う! 止めろ! 何をする!」
「こんなに顔真っ赤にしてさ。あたし見て、ちょっと欲情したとか?」
「馬鹿か!? するか!?」
「こんなにドキドキしてるのにさ」
 同じ柄のワンピースを試着したまま、トゥルーデをそっと抱きしめるシャーリー。肌を通して、お互いの胸の高まりを感じる。
「リベリアン……貴様こそ」
「何故だろうね。あたしもあんたの姿間近で見てたら……」
「……」
 トゥルーデから僅か数ミリの位置で喋るシャーリー。吐息が頬を掠める。
「似合ってるよ、あんたも」
 ふふ、と笑うシャーリー。トゥルーデは言葉が出ない。
 相手がエーリカなら何の問題も無いのに。と言うかエーリカ助けてくれ! トゥルーデは叫びたい気分になる。
 でも、叫べない。まだそれだけの理性が残っているから。
「なあ」
 シャーリーの呼び掛け。トゥルーデは顔を背け、目だけでシャーリーを見る。
 そこに居るのは、いつもの楽天的、放任主義の彼女ではなかった。僅かに潤んだ瞳、少し開いた唇、長い髪……
ほのかに香る石鹸の匂い、全てがトゥルーデにとって“脅威”だった。
 振り解くのは容易い筈だった。だが、出来ない。拒めない。
「や、やめろ」
 トゥルーデはもぞもぞと動いた。シャーリーはがっちりと掴んだまま離さない。
「いいよなあ、この指輪」
 不意に呟くシャーリー。
「な、何?」
「あたしもつけてみたいよ、お揃いの」
「そ、それはルッキーニと一緒の、って事だろう?」
 何も答えないまま、抱く力を増してみるシャーリー。ぞくっとするトゥルーデに、追い打ちを掛ける。
「あたしの、お姉ちゃんになってみないか」
「!?」
 驚いて振り返った弾みか、シャーリーの唇が軽く触れた。電撃にも似た衝撃。
「な、何を……」
 言いかけたトゥルーデの唇に、シャーリーの人差し指が触れた。
「はい、そこまで」
「?」
「やっぱり堅物だな、あんたは。面白かったよ」
「な、な、な……謀ったなぁ!?」
 その後、試着室が大いに荒れた事、幾つかの服に混じってお揃いのワンピースも購入対象に含まれるハメになった事は
言うまでもない。

452: 2009/11/15(日) 21:01:24 ID:oQP8KIhU
「どうしたのトゥルーデ、浮かない顔して」
 夕食時、エーリカの問い掛けに、曖昧な笑みで返すトゥルーデ。
「リベリアンにハメられた。お陰で要らんワンピースを買うハメになった」
「なっさけないなあ、トゥルーデ。そのワンピース見せてよ」
「ああ。行くか」
 二人揃って部屋に戻る。テーブルの隅でルッキーニとお喋りしてるシャーリーをちらりと見る。
 シャーリーもトゥルーデを見た。意味ありげな笑みを浮かべた。
 表情が強張ったまま、トゥルーデはエーリカに腕を引っ張られ、食堂を出る。
「情けないよ、トゥルーデ」
 ぽつりと言葉を繰り返すエーリカに、トゥルーデは心臓を掴まれた気分になる。
「すぐ顔に出るんだから。何が有ったか、大体想像付くよ」
「あ、あれは事故だ!」
「ま、トゥルーデらしいよね。それもまた好きだけど。あとで詳しく、聞かせてよね。詳しくだよ?」
「……分かった」
 一方、ルッキーニはシャーリーの顔を見て、首を傾げた。
「ウニャ どうしたのシャーリ-? バルクホルン大尉の顔に何か付いてた?」
「いんや。あいつらしいなって」
「??」
 シャーリーは一瞬目を落とし、心の中で呟いた。
(なるほど。確かに、ハルトマンがホレる訳だ)
「シャーリー? どしたの溜め息なんてついて。何かヤな事でも有った?」
「いいや、全然。堅物と一緒に居て疲れた」
「なにそれ」
 きゃははと笑うルッキーニを抱えると、シャーリーは頭を振り、言った。
「とにかくルッキーニ、お前に服を買って来たぞ。早速着て、あたしに見せてくれよ」

end

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(私としては)珍しくシャーゲルです。
これも先日のイベントで明らか(?)になった
ルッキーニ→シャーリー→トゥルーデ→ルッキーニ
の関係(?)とか、その辺りをヒントに書きました。

けど、ホントは「ring」シリーズとしてはお蔵入りにしたかった……
が、書いてしまったものはしょうがない(何
きっとお姉ちゃんはあの後エーリカにみっちり「教育」されるでしょうw
機会が有ったらそっちのネタも書きたいな、と。

ではまた~。

453: 2009/11/16(月) 02:53:18 ID:S4FlKg8Y
大変よかった

引用: ストライクウィッチーズ避難所3