572:告白SS 2006/08/06(日) 14:21:01.30 ID:YexY0EYC0


誰もが寝静まっただろう深夜。
俺はベッドに体を横たえているものの眠れなかった。
はた目には携帯をいじっているだけに見えるだろう。しかし、実はそうではない。
ハルヒへのもやもやした想いが募り過ぎて、心が重くなってきたのだ。
いまの関係はぬるま湯に浸かっているようなもので、それはそれで心地よい。
が、次を求める気持ちが強くなっていく一方で、押さえ切れなくなっている。
さきほどから携帯を着信履歴からハルヒの番号を選んでは戻すことを繰り返している。
こんな深夜に電話するのは迷惑だろうし、メールで伝えていい内容ではない。
このままじゃあ朝になってしまう・・・それは分かっているのだが。
いかん、指がすべって携帯の操作を間違えてハルヒに電話を掛けてしまった。
あわてて切る。この時間ならハルヒは寝ているだろうし、あとで気が付いても
寝ぼけて間違えたといえばいい。携帯を机の充電台に戻した。
その瞬間、携帯が着信を知らせる。ハルヒからだった。
こんな時間に起きていたのだろうか?
「なんで、ワン切りすんのよ?」ハルヒのやや眠たげな声が聞こえる。
「いや、スマン、ちょっと操作間違えたんだ。」
「何で、間違えてあたしのところに電話掛けてくるわけ?」不機嫌そうな声。
「実は・・・話したいことがあるんだ。」
「なにを?」
「大事なこと。」
「ストップ。前にも言ったでしょ、そういう話は電話で聞きたくない。・・・そうね、朝なら部室だれもいないから、そこでなら聞いてあげる。」
「分かった。あした、話すよ」
「でも、もしあたしが考えているような話じゃなかったら」ハルヒは念押しした「ただじゃおかないわよ」
涼宮ハルヒの憂鬱/2009年度放送版

573: 2006/08/06(日) 14:21:38.28 ID:YexY0EYC0
「で、なんなのよ」ハルヒがむすっとした表情のままいう。
朝の部室。二人きりの部屋。
「実は、おまえのことが心の中でどんどん大きくなって・・・」緊張でしどろもどろになってしまう。「おまえのことばかり考えてしまうというか、いや、あの、単純にいうとだな。」
ハルヒの表情がやけに明るくなっている。期待するように目が輝き出す。
「単純にいうとだな、おれおまえのことが好き、なんだ。」
「いつから?」やけに静かな落ちいた声がするが、恥ずかしくてハルヒがどんな表情をしているか、確かめることができない。
「夏休みにみんなで遊んだだろう?あの辺からだな。」
「ふーん」ハルヒの口元が緩んでいる。「そーなんだ。」
「だから、なんていうかな、気持ちだけでも知って欲しくて」
「へえ、キョンがあたしをねえ。」弾んだような声が聞こえるが、やはり表情はわからない。ハルヒが近寄ってくる気配がして、思わず顔を上げた。
「まあ、あんたにしちゃ頑張ったほうだわ。それは認めてあげる。」
ハルヒは胸を大きく張り、腰に手を当てて堂々としたポーズで立ちどまった。
近すぎないか? おまえしか見えないぞ?
「でもね、そんな告白だけであたしがOKすると思ったら大間違いよ、キョン。
いい?あたしがOKというまで何度でも告白なさい。何度でも付合ってあげるから。
分かった?」
・・・いいのかダメなのか、どっちかにしてくれないものだろうか。と、俺は思った。
生頃しじゃないか。

574: 2006/08/06(日) 14:22:17.68 ID:YexY0EYC0
授業中のハルヒはやたら上機嫌だった。楽しいおもちゃをもらった子供みたいだ。
それは谷口や国木田にも分かったようで、昼食時にさんざんからかわれてしまった。
教室で機嫌のいいハルヒをみるということは滅多にないだろうから、無理もないことか。

放課後。掃除当番だった俺は遅れて部室に到着した。
部室に入ると、メイドドレスとは違う、なにかゴチック調な装いの朝比奈さんが目に涙を浮かべていた。
「あ、キョンも来たのね。」ハルヒはなにものも溶かし尽くすプロミネンス級の笑顔を浮かべていた。「どう、新作のゴス口リドレスよ。」
ああ、ふわりと広がったスカートは黒や白のレースで幾重にも覆われていて、ブラウスも以下省略。そういえば、こんな格好した人をたまに見かけるな。真夏に見かけたときは驚いたもんだ。
部室ではやたらとハルヒが雑用を言い付けたり、SOS団のサイトを直させたりといつもより忙しいぐらいだった。

長門が読んでいた本をパタンと閉じる合図で、集団下校となる。
ハルヒは鼻歌なんぞを歌うはやたらとはしゃぐわと妙にテンションがあがっている。
おまえはいいかもしれんが、こっちは生頃し状態なんだぞ。・・・ちょっと恨めしく思った。

575: 2006/08/06(日) 14:23:44.69 ID:YexY0EYC0
家に帰り、晩飯と風呂という日常のイベントをこなした後。
現在の最重要課題である、ハルヒへの告白その2を考えなければならない。
そうだ、手紙作戦はどうだろうか。げた箱に手紙、だ。ベタな手ではあるが、逆に効果的かもしれない。
机に向ってレポート用紙に手紙を書く。こんなことは初めてで、どうも勝手がわからないな。・・・どこに誘おうか。あの公園にしよう。時間は・・・SOS団の活動後でいいか。
レポート用紙を5枚無駄にして、ハルヒへの手紙が完成した。
ふう、続きは明日だな。早めに学校に行ったほうがよさそうだ。

翌日。いつもより少し早い時間に登校した。
さりげなくハルヒのげた箱に手紙を投函する。緊張するね、これは。
ハルヒはいつもと同じ時間にやってきた。なにかはにかんでいるように見える。
おもわず目で追いかけてしまうが、ハルヒは意識しているのか視線を合わせようとしない。
「手紙、読んだわよ」席に着いたハルヒは、俺でなく外を見ながらつぶやいた。「なんか照れるわね。」
「ま、よろしくな。」それしかいうことはない。
心なしかハルヒの顔が赤くなっている。なにかそわそわしているように見える。
まあそれは俺も同じだ。2回目だというのに、なぜかそわそわしている。

576: 2006/08/06(日) 14:25:07.14 ID:YexY0EYC0
ハルヒのそわそわは一日続いた。部室でもそれが続いている。
朝比奈さんが心配そうにハルヒを見て、そして俺にこそりと耳打ちした。
「涼宮さんどうしたのか、知ってます?」鈴のような声が耳元で弾ける。「昨日はすっごく機嫌よかったのに。」
「いや」手紙渡しましたとは言えません。「なんか気にしてるみたいですね。」
「ふ~ん」朝比奈さんは100人中95人を虜にするという笑みを浮かべた。「てっきり
キョン君がなにかしたのかなぁって。例えば、告白したとか?」
「・・・・・・」図星をつかれて思わず絶句しちまったぜ、ちくしょう。
「あの~?ひょっとして図星ですか?」あの、朝比奈さんにニヤニヤ笑いは似合いませんよ?「隠し事はダメですよ、キョン君」

578: 2006/08/06(日) 14:28:43.77 ID:YexY0EYC0
そのとき、ハルヒが席を立った。なにもいわずふらりと部室から出て行く姿を見送る。
いや、いま席外されると困ったことになるんだが・・・ああドアが閉まった。
「さあ、キョン君。話してもらえますか?」朝比奈さんが楽しそうにいった。
長門まで本を閉じてこっち見てるし。・・・こっち見んな、恥ずかしい。
もう観念するしかないようだ。・・・3人に説明を始める。顔から火が出そうだ。
長門はなにもいわず読書に戻った。観察に支障はないと判断したということだろうか。
古泉は例の微笑みを当社比2倍ぐらいに浮かべているが、腹のうちは読めない。
「で、結局告白をやり直さなければならないということですか」
ずいぶん楽しそうだな、古泉。
「ええ、僕のアルバイトも終わりそうな予感がしますしね。」
「ん~と、涼宮さんがキョン君のこと嫌いってことは考えられないから」朝比奈さんが微笑みながらいう。「もしかしたら、こういうことなんじゃないですかぁ?」
朝比奈さんからあるアドバイスを授かることができたのは、不幸中の幸いか。

SOS団の活動が終わると集団下校となる。
ハルヒのそわそわは最高潮に達しているらしく、あまりしゃべらない。
解散ポイントまでくれば、4人はバラバラの方向に去って行く。
朝比奈さんはウィンクして手を振ってくれた。長門は一言「頑張って」
古泉はなぜ朝比奈さんの真似をするのだ?気持ち悪いのだが。
ハルヒは振り返りもしなかった。

家の手前で回れ右をして、あの公園へ歩いて行く。
さて、空いているベンチでハルヒを待つことにしよう。

579: 2006/08/06(日) 14:30:01.29 ID:YexY0EYC0
すべてのものが青く見える時間。
時間より少し遅れてハルヒが現れた。制服ではなく普段着に着替えている。
デニムスカートに、白いパーカーというスタイルだ。
ハルヒはすぐ俺を見つけた。笑顔で近づいてくる。暗がりなのに唇がつややかに
見えるのはどうしたことだろうか。
ハルヒはすぐ隣に腰掛けた。しかし、近すぎないか?。足が密着してるぞ。
「話って、なに?」単刀直入にハルヒが尋ねた。おまえ知ってるだろとツッコミそうになるが、さすがにそれは言えない。
「ああ、来てもらって悪いな。・・・実は俺、おまえのことが好きなんだ。」単刀直入な告白。いろいろセリフは考えたが、結局のところハルヒに伝えたいことはこれだ。
「ふーん」2回目ともなると、感動が薄れるか? ハルヒよ。ふーんに新鮮さがないぞ、ふーんに。
「迷惑だったら、断ってくれ。できれば今後も友達としてやっていきたいし。」
告白も2度目となれば上手というか、いいたいことをスムースに言えるな。そもそも同じ相手だし。
「そっか」ハルヒの顔が近づいてきた。「キョンはあたしのこと好きなんだ・・・」
「ああ」思わず近くにあったハルヒの手に自分の手を重ねてしまう。「できれば恋人として付き合って欲しいんだ。」
ハルヒの表情が驚きに変わった。そしてゆっくりうつむいてしまう。
ひょっとしてダメなんだろうか?・・・それはないと朝比奈さんは言っていたが。
「ま、そういうことなら」なぜかハルヒの声が堅く平坦だ。「OKするしかないわね。」
ハルヒがそっと顔を上げた。「キョン、あたしもあんたのこと・・・好き。」つぶやくようなハルヒの声。
そしてゆっくりとハルヒは目を閉じた。形の整ったつややかな唇に誘われて、口づけを交わす。そっと、やさしいキス。
唇を放すと、ハルヒの目がゆっくり開く。はずかしそうに微笑んだ。
「もうクリアしちゃうとは思わなかったな。」
朝比奈さんがくれたアドバイスのお陰だ。
あのとき朝比奈さんは「付合ってくれ」という言葉が欲しいから、ハルヒがOKしないのではないかとアドバイスしてくれた。朝比奈さんありがとう。この恩は一生忘れない。

580: 2006/08/06(日) 14:30:36.44 ID:YexY0EYC0
ベンチでしばらく過ごしたあと、駅前の喫茶店にハルヒを誘った。
「なに考えてあのときokしなかったんだ?」ま、もう分かってるのだが、答え合わせは
必要だろう。
「ん?あんた告白するとき、あたしの手を握ったり、肩に手をおいたりしなかった
でしょ? だからよ。」
「え?」
「いや、もう気が付くとはね。」ハルヒはアイスコーヒーを一口飲む。「あんたも
捨てたもんじゃないわね。まああたしが選んだだけのことはあるか。」
なぜか顔を赤くしたハルヒを見ながら、アイスカフェオレを啜った。
結局朝比奈さんのアドバイスではダメだったわけだ。感謝するには早かったか。
まあいい。結果オーライだしな。

しかし告白でここまで手間かかるとは、プロポーズなんかしたらどうなることやら。
ま、そのときそのときで頑張るしかない、か。

おしまい

581: 2006/08/06(日) 14:31:44.36 ID:5tC3+Z0n0
GJ
和んだ

引用: ハルヒ「ちょっとキョン!あたしのプリン食べたでしょ!?」