155: 2016/11/20(日) 00:58:46.92 ID:NO0o34zh0

【モバマス】高峯のあ「牛丼並……4つでいいかしら?」【前編】
──
────
──────
【漫画喫茶】








時子「………………」









のあ「……」

楓「」

泰葉「(だ……、だから何でですか!?)」

泰葉「(何で時子さんがいるんですか!?)」オロオロ

楓「(メールで急に『泰葉と二人で漫画喫茶に来て頂戴』と連絡があったと思ったら……)」

楓「(い、一体何があったんですか、のあさん? この緊迫した状況は)」

のあ「(その……)」




~~~~~~~~~~
時子『この辺りに……漫画喫茶という設備があると聞いたのだけど』

のあ『ゴ、ご案内しまッス………!!!』
~~~~~~~~~~




楓「(完全に恭順してる……)」

泰葉「(というか何で自ら氏地へ……)」

のあ「(……)」

時子「………ちょっと」

のあ「ヒッ……!」ビクッ

楓「ヒッ……!」ビクッ

泰葉「ヒッ……!」ビクッ

時子「ホラ、何か言ってるけど」

店員「個室はご利用なさいますか?」

泰葉「!!!」

泰葉「(そ、そうだっ! 個室という手がありましたよ!)」

楓「(個室?)」

のあ「(……??)」

泰葉「(あれ、まさか二人とも初めてですか?)」
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156: 2016/11/20(日) 00:59:45.31 ID:NO0o34zh0

泰葉「(……高峯さん)」チラッ

のあ「(……分かったわ)」チラッ

のあ「個室を、4つ」

店員「はい、4部屋ですね。ただいまお調べします」

楓「(……なるほど、個室利用ですか)」

泰葉「(漫画喫茶と言えば個室での休憩です。漫画を読んだり、ネットをしたり、休眠したり)」

泰葉「(流石にあの時子さんと一緒にダーツやビリヤード、卓球やカラオケを興じるのは荷が重すぎます。不可能です)」

泰葉「(時子さんは初見の興味本位で訪れたようなので、漫画喫茶の設備まではご存じない様子)」

泰葉「(個室利用であれば、利用時間いっぱい時子さんと…………その、距離を置けるかなと)」

楓「(ひどい……)」

泰葉「(あれ、じゃあ)」

楓「(ごめんなさい。ナイス采配です)」

泰葉「(……いいえ、こちらこそ語弊がありました)」

泰葉「(個室利用であれば、時子さんにゆっくり漫画喫茶をスタンダードにご堪能いただけるかと)」

時子「ねえ」

泰葉&楓「!?」ビクゥ!

泰葉「は……、ハイハイっ。なんですか時子さん?」

時子「………あそこにダーツとビリヤードがあるけど」

泰葉「ッ!!」

楓「(や、泰葉ちゃん……!!)」

楓「(ま、まさか時子ちゃんは、な、ななな何かを御所望であらせられるのでは!?)」ビクビク

泰葉「あ、あれは…………」

時子「……………………」

泰葉「ソ、その…………あ、アレはっ……!」





泰葉「有料……べ、別箇で高い料金が掛かるんですよ………たぶん」

泰葉「あるいは……い、インテリア……じゃないですか? ビリヤード台が、テ、テーブル代わりとか……」

泰葉「は、ハハ……オシャレですね……」

時子「………………」ジー






時子「………そう」クルッ

楓「(ホントですか?)」

泰葉「(嘘です……全部…………)」

楓「(泰葉ちゃん……)」

泰葉「(なんだろ……胸の奥が痛い)」ズキズキ

泰葉「(私は一体……)」

157: 2016/11/20(日) 01:01:09.88 ID:NO0o34zh0
のあ「待たせたわ」

のあ「これ、部屋番号の伝票。私は142番、楓が143番。それぞれ普通の個室」スッ

楓「あっ、どうも♪」スッ

のあ「ト、時子は……144番。大きめの個室」

時子「ふぅん……」ジー

のあ「………さて」クルッ

泰葉「えっ?」

泰葉「あの……あれっ、高峯さん、私の個室は……」

のあ「……えっ?」

泰葉「えっ???」

のあ「………個室を、3つ」

泰葉「えっ?????」

のあ「………………………『大きめの個室』」

泰葉「えっ」







━━━10分後━━━
【ドリンクバーカウンター】

楓「(わぁーっ♪ これが全部飲み放題なんですね)」

楓「(ソフトドリンクにコーンスープ、かき氷に………味噌汁もある)」

楓「(ふふっ、ぜいたく♪ 欲を言えばビールサーバーも欲しかったところですが……♪♪)」カチャカチャ

楓「~~~……♪」





━━━━142━━━━
【普通の個室】

のあ「……っ」ガサガサ

のあ「…………っっ」ドタンバタン

のあ「………………」

のあ「(か、監視カメラっ…………ど、どこに…………!? み、見られてる……!?)」ガタンガタン!







━━━━144━━━━
【大きめの個室】

時子「…………」ペラッ

時子「……そこ、置いておいて」

泰葉「は、はい……」ズシッ

泰葉「(何冊読む気なんだろう)」

時子「………」ペラッ

泰葉「(………相部屋、気まずい)」

泰葉「(…………帰りたい)」

──────
────
──

158: 2016/11/20(日) 01:02:12.62 ID:NO0o34zh0
──
────
──────
【岡崎家】


泰葉「LIVEバトル、お疲れ様でした」

のあ「……ええ」

泰葉「どうでした?」

のあ「可も無く……、といった手応えね」モゾモゾ

泰葉「も、もちろん不可も無かったんですよね?」

楓「事務所では『すごかった』って噂ですよ」

のあ「……しばらくは普通で安全な仕事が欲しいわ」ゴロン

泰葉「……そういえば」

泰葉「お二人とも、お腹の空き具合はどうですか?」

のあ「いい塩梅よ」

楓「ええ。それなりに」

泰葉「じゃあ、そろそろ出ますか」スッ







━━━━30分後━━━━
【中華料理店】


泰葉「予約した『高垣』ですが……」

泰葉「これ『名刺』です」スッ

店員「ハイ、高垣様ですね。奥へどうぞ」




楓「わぁー……♪」

楓「すごい、すごいっ! これくるくるするやつじゃないですか!」

楓「お皿とか料理を回せる、くるくるするテーブルじゃないですか! うわーっ!」

泰葉「なんかもったいない気分ですね、3人なのに」

楓「イイじゃないですかイイじゃないですか、さあ座りましょう♪」

泰葉「私、ちょっとお手洗いに行ってきます」

泰葉「コースなので早めに運ばれると思いますが…………その、折角なので待ってて下さいね。お願いします」ペコリ

楓「はぁい、ごゆっくり♪」

のあ「……」

楓「……では、のあさん。改めてライブお疲れ様でした」

のあ「……ありがとう」

159: 2016/11/20(日) 01:03:59.44 ID:NO0o34zh0
のあ「会食の席まで用意してくれるとは、想定していなかったわ」

のあ「……本当に、嬉しい」

楓「いえいえ、以前お仕事をした時に教えて頂いたんですよ、このお店。結構偉い人に」

楓「その人の名刺を出すと割引までしてくれるなんて、羽振りがいいですねぇ♪」

のあ「(楓さん、ひょっとしてかなり人脈があるんじゃ……)」

楓「気にしないで下さい、私のおかげじゃありませんから。今日はいっぱい紹興酒飲みましょう♪」

のあ「……ええ」

楓「それより」

楓「これ、コレですよ! うわぁー♪♪」ガシッ

のあ「……『中華テーブル』」

楓「それがコレの名前なんですか? いやぁ、これでくるくるするの楽しみにしてましたよ!」

のあ「料理の取り分けを容易く行うための妙案。考案したのは日本人という話も」

楓「へー、へえぇー♪♪」

のあ「これでロシアンルーレットとか出来そう」

楓「出来そうですねー、盛り上がりそうですねー♪ 中華でもキワモノ料理をいくつか並べて……」

楓「テーブルを回して目の前に止まった料理は必ず完食する、みたいなバラエティのノリで♪♪」

のあ「泰葉に喰らわせたい」

楓「プロ根性でどんなリアクションしてくれるのか、楽しみですねー。昆虫食とか」

のあ「……やってみる?」

楓「そうですね! こう……狙ったポジションにその皿をピタッと……みたいなカンジで!」

のあ「……いっせーの」グッ

楓「せっ!!」バッ!!







ガシャァン!!

 パリン! パリン!

パリン!







━━━━3分後━━━━

泰葉「………」

泰葉「……………」

店員「お、お客様よろしいですよ。破片など危険ですから、我々が片付けますので」

楓「ス、スミマセン……」

楓「その、皿とか箸置きとか、こ、固定されてるかと……」ヒョイ

楓「くるくる出来るし……、サ、皿を動かす必要は、な、ない…………かと…………」ヒョイ

泰葉「(何でですか)」

のあ「ゴ……ごめんなさぃ……」ヒョイヒョイ

楓&のあ「…………」シュン


──────
────
──

160: 2016/11/20(日) 01:04:52.06 ID:NO0o34zh0
──
────
──────
【吉野家】


店員「ご注文お決まりになりましたら、お呼び下さい」

のあ「あ、ス、すみません」

店員「はい、お伺いします」

のあ「こ、この……!」

のあ「松茸牛丼ってまだ………ありますか?」

店員「松茸ですね。はい、ございます」

のあ「!!!!!!!!」

のあ「……ッ!」

のあ「も! もも、もちッゲホッ!! ゴホっ、ぐっ……!」

のあ「も、持ち帰りで!!!!!」

店員「かしこまりました」

のあ「あと、並一つも」

店員「はい」スッ

のあ「……♪」

のあ「(へへ……えへへ♪)」

のあ「……」ズズッ

のあ「(ふふふふ……♪)」

のあ「…………」

のあ「……」ズズッ

のあ「(~~~……♪)」

店員「お待たせ致しました、こちら並弁当おふたつで、700円になります」

のあ「は、ハイ!!!」

店員「ありがとうございましたー」

のあ「(さて……)」スッ

161: 2016/11/20(日) 01:06:04.61 ID:NO0o34zh0

━━━━夜━━━━
【岡崎家】


のあ「……かんこれ?」モグモグ

泰葉「はい、『艦これ』」

泰葉「最近、なか卯がコラボしたんですよ。知りませんか?」

のあ「……知らないわ。缶コーヒーレディの略?」モグモグ

泰葉「な、何ですかそれ」

泰葉「まあ、私も名前だけしか知らないのですが。クラスの男子が毎朝カードカードと騒いでて、パックを教室で開けてましたよ」

泰葉「……この前、楓さんも実は『かもしか出ない』ってむせび泣いてました」

のあ「……楓が、集めている」

泰葉「はい」

のあ「かもしか、氈鹿………、動物?」

泰葉「さあ、知りません。以前は『すき家』ともコラボしたみたいで」

のあ「フ……」モグモグ

のあ「艦これなど、恐れるに足りない」モグモグ

のあ「ゼンショーは、コアな客層に媚を売ることしか出来ないのね。底が知れたわ」

のあ「こっちは、『松茸』よ?」モグモグ

のあ「『松茸』とコラボしたのよ?」

泰葉「(こ、コラボ?)」

のあ「鼻腔を擽る、この圧倒的に濃厚で芳ばしいな香り」

のあ「まるで干したての畳に寝転び身を委ね、い草の感触と心落ち着く優しい匂いに抱擁されているような感覚……」

泰葉「それ単なる畳の香りでは?」

のあ「貴女も感じるでしょう、土の宝珠と讃えられるこの筆舌に尽くしがたい香りを」

泰葉「いえ、あんまり。普通の牛丼の香りがします」

泰葉「あと最近気付いたんですが、高峯さんって牛丼の話を振ると生き生きしますよね。もしかして……」

のあ「…………」モグモグ

のあ「……これ、貴女の分」スッ

泰葉「あ。ありがとうございます」








━━━翌日━━━
【なか卯】


のあ「……」モグモグ

のあ「……」

のあ「……」ピリッ

のあ「……」カサカサ

のあ「……」

のあ「…………」

のあ「(かわいい……)」


──────
────
──

163: 2016/11/20(日) 01:08:00.94 ID:NO0o34zh0
──
────
──────
【事務所 会議室】


のあ「(ハァ……、またエキストラの仕事)」

のあ「(別に選り好みするわけじゃないし不満でもないけど……)」


~~~~~~~~~~
楓『───さあ、今日は吉呑みしましょう♪』

楓『───「吉野家」』

楓『…………でも、呑みすぎはよしなや? ……ふふっ♪』
~~~~~~~~~~


のあ「(……)」

のあ「(いいなぁ、楓さん。私も吉野家のCMとか出たいなぁ……)」

のあ「(こう、食欲をそそる食べっぷりを撮ってほしい。絶対に自信があるのに)」ペラッ

のあ「……」

のあ「…………」

のあ「…………………」

のあ「!!!!!」ガタッ!!


~~~~~~~~~~
【某携帯キャリア、クーポンキャンペーン】

・○月毎週金曜、吉野家にて並盛1杯プレゼントのクーポン宣伝
・吉野家店舗にて撮影
・エキストラは関係事務所から募集、不都合時はスタッフを配役

・エキストラ配置、2カット
・Aカット:メインキャスト背景
・Bカット:店員・客
・店員は作業従事、客は食事風景
~~~~~~~~~~


のあ「(…………)」





~~~~~~~~~~
────客は食事風景
~~~~~~~~~~





───ガチャ

P「あっ、高峯さん。目を通していただきましたか?」

P「同じ事務所からエキストラを募れないかと要望が有ったのですが、どうです? 明後日のスケジュールですが」

P「なんでも、ただ牛丼を掻き込んでいるだけで良いらしいですよ。ハハハ、ふざけ過ぎてますか?」

のあ「だ……」

のあ「だ、大好き……」プルプル

P「(───!?)」

170: 2016/11/20(日) 01:10:25.21 ID:NO0o34zh0
━━━━2日後━━━━
【撮影スタジオ】


のあ「(あぁ……ついに私、吉野家のCMに出られるんだ。しかもタダで牛丼を食べるだけの役)」

のあ「(感無量だなぁ……計り知れないほど、嬉しい。もうこれが終わったら、アイドルやめてもいいんじゃないかってくらい、満ち足りてる気持ち)」

スタッフ「本番1時間前でーす。エキストラさんは、配置確認お願いします」

のあ「ぁ、はい」

のあ「(ふふふっ♪ せめていっぱい食べて帰ろう。ふふ……♪)」

のあ「(~~~……♪)」スタスタ








━━━━本番━━━━


『はぁー、吉野家最っ高……』

泰葉『うんうん……♪』モグモグ

泰葉『……』

泰葉『……?』チラッ






店員N「…………」ジー






泰葉「ぶほッ!!!」



監督『ストップストップ! 泰葉ちゃん、大丈夫?』

泰葉「ハ、はい……す、すみません。もう一回お願いします」

店員N「……」カチャカチャ







━━━━夜━━━━
【岡崎家】


泰葉「エキストラで出演してたんですね……」

のあ「……後姿だけ」

のあ「……」

のあ「せっかく吉野家のCMだったのに……出れたのに……」

のあ「まさか、店員の役だとは……。いっぱい食べられると思ったのに……」

泰葉「気持ちはわかります。でもアレ、そもそも吉野家のCMじゃないですからね?」

のあ「…………」シュン


──────
────
──

179: 2016/11/20(日) 01:12:05.62 ID:NO0o34zh0
──
────
──────
【事務所】


周子「……」ゴロゴロ

P「んー……」カタカタ

P「あっ」

P「……そうだ、なあ周子?」

周子「おなかすいたーん」

P「えっ、それ返事?」

周子「なにかね」

P「周子、近々高峯さんに合う予定あるか?」

周子「のあさんに?」

P「実は高峯さんに返したい物があるんだけどさ、明日から出張でなかなか渡す機会がないんだ」

周子「ふんふん」

P「もし良ければ、代わりに渡してくれないかと思ってさ」

P「ホラ、高峯さんと周子はアレだろ? 不都合が無ければ……」

周子「おなかすいたーん」

P「……分かったよ」

周子「察しがいいPさんは好きだよ、あたしは」

周子「で、ブツはなに?」

P「ん……、ちょっと待ってな」ゴソゴソ

P「んんっっ!」ガタンガタン!

周子「……?」

P「あぁよし、出せた。これだ」


───ゴトッ!





【ゲームギア】





周子「お……」

周子「おなかすいたーん……」

P「えっ、追加?」

187: 2016/11/20(日) 01:17:30.62 ID:NO0o34zh0

周子「なにそれ? 鈍器?」

周子「カラオケにある曲入れる機械よりおっきいけど……」

P「これは一応、携帯ゲーム機だぞ。世代を感じるなぁ」

周子「携帯かぁ。これ持ち運び出来ちゃうのか」

周子「マジかぁ」

P「このまえ送迎の時に、後部座席で高峯さんがゴソゴソしててな?」

P「気になってふとバックミラーを目をやったら、彼女の鞄からいきなりこれが姿を現したんだよ」

P「動揺して事故るかと思った」

P「目の前の光景がにわかには受け入れ難いものだった……」

周子「なんか前も似たようなこと言ってたね」

P「いやでも実際懐かしくてな。話しかけたら、いきなり『興味ある?』って貸してくれたよ」

周子「(のあさん、頑張ってるなー)」

周子「……まぁ、いいよ。重そうだけど」

周子「今度会う約束してたし。その時にでも渡すかな」

P「へえ、そうなのか?」

周子「うん。今度家に遊びに来ていいって言われたし」

P「親戚……、『はとこ』とは聞いたけど、二人は昔から仲良かったのか?」

周子「んー……」

188: 2016/11/20(日) 01:18:20.72 ID:NO0o34zh0

周子「そだね」

周子「面識もあったし、実家とかで会って遊んだりしたのは覚えてる」

周子「……でも正直、向こうがあたしの顔を覚えているとは思わなかったけど」

P「気持ちは分からなくもないな。昔の知り合いに突然会うのって、ビックリするよな。面食らうというか」

P「風貌とか変わってたら、本人かどうか疑心暗鬼で話しかけるのも少し躊躇しちゃうし」

周子「するねー。相手がこっちを覚えているのかも不安だし」

周子「………昔と変わらないようで、うれしかったよ」

P「昔の高峯さんか……」

P「彼女の性格は掴みどころがない……、というか誰にも掴ませないカンジだけど、昔もそうなのか?」

P「群れるのを嫌うというか、孤高というか」

周子「いやいや、むしろ群れさせてあげてよ」

P「えっ?」

周子「なんでもなーい」








━━━━━━━━━━
【レッスンルーム】


のあ「……」

ベテトレ「さてレッスンの前に、まずは柔軟からだ」

ベテトレ「よし、私は野暮用で少し席を外すから、その間に二人一組で準備をしておいてくれ」スッ

のあ「………」

のあ「………………」






夏樹「だりー、組もうぜー」

李衣菜「あっ……う、うん。おっけー」チラッ



奏「(美波……、そこをどいて手を放してくれると嬉しいわ)」

奏「(私は向こうにいる高峯さんと柔軟をしたいの………アナタとがっぷり四つ組んでいる場合じゃないの)」グググ…

美波「(待って奏ちゃん。話、きいて?)」

美波「(ほら、あそこの柱ならすごい柔軟しやすそうじゃないかな? 高峯さんとは私が組むから、あの柱は奏ちゃんに譲ってあげる、ねっ?)」グググググ…






のあ「(ア、あ、余ったっ……、一人余っちゃった……)」オロオロ

のあ「(いつもこうだ……あぁ、うぅぅ……っ)」グスッ


──────
────
──

227: 2016/11/20(日) 21:09:34.64 ID:bZO4ESfY0
──
────
──────
【事務所 応接室】

のあ「……」

のあ「……」ペラッ



奏&美波「(……)」ジー

美波「(奏ちゃん、ほら見て。高峯さんの口元)」ヒソヒソ

美波「(……ご飯粒が付いてる)」

奏「(……)」

美波「(幼いカンジで、可愛らしいっ。母性本能が擽られるよね♪)」ヒソヒソ

美波「(普段は無表情で清楚な彼女なのに、どうしてああも不意打ちのギャップで心を揺さぶってくるのかな)」

美波「(ハァ、親密になりたいっ……)」

奏「(……違う)」

美波「(えっ?)」

奏「(違うわ、美波。あれは誘っているの)」ヒソヒソ

美波「(……えッ!?)」

奏「(例えるなら食虫植物…………いいえ、禁断の果実を唆すヘビの囁きのよう)」

奏「(さながら、ダイヤモンドのような高貴な輝きを放つあのご飯粒は禁断の果実………理性では抗えない魔性に魅了され、ついには手に取り、禁忌に身を堕としてしまう)

奏「(あぁ、高峯さん)」ギュッ

奏「(貴女が誘惑する悪魔のヘビであるならば、私はエデンの園の無垢なイヴになりましょう。その果実を口にすれば、一体どんな罪過がこの身を焼くのでしょう)」

奏「(私は……ッ)」ガタッ!

のあ「……?」ピクッ

美波「(ッ!? か、奏ちゃん! 隠れて!!)」ガタガタ!

奏「(ご、ごめんなさい……少し染まりかけていたわ)」

美波「(落ち着いて? あのね奏ちゃん、よく聞いて?)」ヒソヒソ

美波「(高峯さんはね? 貴女や紗枝ちゃんが思っているほど、高尚な人じゃないの。ちょっと語弊があるかもだけど……)」

美波「(みんなが言うほど、彼女は人間離れしてはいないの)」

美波「(もっと身近で温かくて、ちょっとドジなところもあるけど、でもそれを悟られまいと密かに頑張ってて、とても優しくて……見守りが必要な少し抜けてる長女のような人で……)」

奏「(それ以上は聞きたくないわ。またその話?)」ヒソヒソ

奏「(貴女は、高峯さんをどれだけ侮辱すれば気が済むの? 妹になりたいだの、家族になりたいだの………不敬よ)」

奏「(もういいわ。いずれにせよ、彼女を辱めるわけにはいかない。私は高峯さんに知らせに行く、あのご飯粒の存在を)」

美波「(か、奏ちゃん……)」

奏「(まっ、マウス・トゥ・マウスで)」

美波「(待って!? 無理しないで、二人で知らせに行こう!? だ、ダメ……っ!!)」ガタガタ!


───ガチャ




周子「おはよーございまーす」スッ





奏「(ま゙ッ!!!)」

美波「(???)」

228: 2016/11/20(日) 21:10:11.81 ID:bZO4ESfY0
のあ「……あっ!」

周子「あれ、のあさんだ。やっほー」ヒラヒラ

のあ「し、周子ちゃん……お、おはようっ」

周子「久しぶりやぁ。そないいえば、『事務所』で会うのはこれが初めてやねえ」

のあ「もー……、周子ちゃん、こないだ一緒にどっかむしやしないでも、甘いもんでもよばれよなあ言わはったんに……」

のあ「あのあと、めちゃくちゃ探したんよ?」

周子「いやぁかんにんな……、のあさんLIVEの時は流石にへたばらはったかと思おて。その後は、えらい忙しくてどうも頭からすっぽりぬけてたわー」

のあ「もぉー……よーいわんわぁ」

───ビチャビチャビチャ!!


のあ&周子「(???)」

周子「んん?」ジー

周子「……のあさんや、口元にご飯粒ついてるよ。ほーれ」スッ

のあ「えっ、あ、ほんとだ。ありがと」

周子「のあさん、昔からちょっと天然っぽいからなー……身嗜み、気を付けた方がいいよ」

のあ「う、うん」

周子「んー、この米粒は」ジー

周子「……よ、っと!」


ピーン!



のあ「ちょ、ちょっと鏡見てくる……じゃあ、またね?」トコトコ

周子「はいよー」


───スッ

美波「周子ちゃん、おはようっ」

奏「おはよう」

周子「あ、ソファの裏にいたんだ、おはよう。美波ちゃん、口から血が滅茶苦茶出てるけど大丈夫?」

───グルグル


美波「周子ちゃん、おはようっ」スタスタ

奏「おはよう」スタスタ

周子「えっ、うん。おはよ───」

───グルグルグル


美波「周子ちゃん、おはようっ」スタスタ

奏「おはよう」スタスタ

───グルグルグルグル



周子「(───ッ!?)」



周子「(か、囲まれた!? や、ヤバっ……)」

美波「周子ちゃん、おはようっ」スタスタ

奏「おはよう」スタスタ

──────
────
──

229: 2016/11/20(日) 21:10:49.77 ID:bZO4ESfY0
──
────
──────
【事務所 応接室】


のあ「……美優」

美優「はい?」

のあ「……そのネックレス、見たことがないわ」

美優「あっ、これは……!」

美優「撮影のお仕事の際に、頂いたんですよ。とても良く似合っていたからと」

美優「流石に勿体無いと遠慮はしたんですが、プロデューサーが、その……」

のあ「粋な計らいね。その意匠は大人向きとは言い難いけれど……、確かに普段より柔らかい雰囲気が出ているわ」

のあ「……とても似合ってる」

美優「ありがとうございます。ふふっ♪」






━━━━━━━━━━
【事務所 エントランス】


のあ「……伊吹」

伊吹「はい?」

のあ「……貴女の服装、普段と比べて大人しいわね」

のあ「至極上品に洗練されて……いつにも増して魅力的に感じる」

伊吹「あっ! わっ、ホントですか?」

伊吹「えへへ………春だし、ちょっと気分一新でオシャレしようと思って」

のあ「へえ……」

伊吹「でもでも、全っ然お金かかってないんですよコレ! 全部プチプラのブランドで固めて、安っぽく見えるか不安だったんだ~」

伊吹「でも高峯さんのお墨付きなら、問題ないよね! へへーっ♪」

のあ「ええ」

のあ「(…………)」








━━━━夜━━━━
【高峯家】


のあ「……」モゾモゾ



~~~~~~~~~
泰葉『趣味が合えば一番ですけど……会話のきっかけって、ほんとうに何気ない些細なものなんです』

泰葉『化粧とか、服装とか。年下狙いなら、付けている小物とか。変化を観察するのも大事ですね』

泰葉『ナンパじゃないですけど、そういう部分を褒められると、女の人って結構嬉しいんですよ?』
~~~~~~~~~~



のあ「…………」

のあ「ふ、フフフ……♪」

230: 2016/11/20(日) 21:11:35.37 ID:bZO4ESfY0
━━━━翌日━━━━
【事務所 応接室】

伊吹「わっ」

伊吹「奏、なんか今日はすごいね。合コンでもあるのかってくらい気合入った服装とメイク」

伊吹「でもレザーは合コンじゃあ男の子受けはしにくいぞ? んー……攻めてるねー」

奏「……別に合コンなんて無いけど。あんまり興味ないし」

伊吹「撮影じゃないなら、デート?」

奏「伊吹ちゃん……、もちろん違うけど、そういうコトは大声で言うものじゃないの」

伊吹「うーん、奏は動じないなぁ。でもいつもとファッションが違いすぎて、遠目からだと誰かわかんないくらいだよ」

伊吹「髪も切った? 眉毛も弄ってる……カラコンも付けてる」

伊吹「極めつけに、なにその禍々しいドクロのバングル。全身革コーデといい、いつから奏はパンクロックに目覚めたの?」

奏「ふふっ。伊吹ちゃんは何でも気が付くのね、そういうトコ、私は好きよ」

伊吹「いや、アタシじゃなくても気付くよ。200人いれば199人はきっと気付くよ」

伊吹「むしろガラリと変わりすぎて非行を心配するレベルの変貌だよ」

奏「そう……!」キラキラ

伊吹「な、何で目を輝かせたの?」

───ガチャ


のあ「……おはよう。伊吹、奏」

奏「おはようございます」

伊吹「あっ、おはよーございます」

のあ「……伊吹は今日も『ぷちぷら』のコーデなのね」

伊吹「はいっ。最近ハマっちゃって♪」

のあ「……そう」

奏「(………)」ソワソワ

のあ「…………」

奏「(……………っ)」ドキドキ

のあ「………………………………」







のあ「…………小腹が空いたから、ファミマに行ってくるわ」

のあ「最近気づいたけれど、変わった商品出始めたし……」






───ガチャ、バタン



奏「…………………………………………………」

伊吹「…………」

奏「…………………………………………………………………………………………」

奏「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………ファミマに、負けた……?」

伊吹「(高峯さん、ファミマ通ってるんだ)」

──────
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231: 2016/11/20(日) 21:12:06.87 ID:bZO4ESfY0
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【事務所 応接室】


夏樹「(…………)」ペラッ




李衣菜「私もレッド・ホット・チリ・ペッパーズとか最初聴いたときは、もうビビっときましたね!」

李衣菜「これがロックなんだなぁ、って、もう居てもたってもいられないくらい興奮して!」

李衣菜「体がかぁーっと熱くなりましたよ!」

のあ「確か、有名な漫画実写化の主題歌に使われた………一時期聴いていたわ」

李衣菜「えっ!? ……そ、そうなんですか?」

のあ「キャッチーだけど、Scar Tissueとか好きよ」

のあ「音楽は、凡百な言葉や理屈で説明するより直に聞くのが最も伝わる方法ではあるけれど……」

のあ「敢えて表現するならば、彼らの音楽は甘い狂気が張り付いているわ」

のあ「彼らの型破りなスタイルは力に満ちている。ファンクロックを善しとする彼らだけど優しいメロウな音も時には奏で、その世界観にあっという間に惹き込まれたわ」

李衣菜「う、ウンウン。そうそう、ファンクロック」



のあ「(…………)」

のあ「(実は聴いたことないけど)」

のあ「(……さて。会話を合わせるために付け焼刃の知識を並べて来たけど……)」

のあ「(残弾が尽きたわ。どうしよ……)」ドクンドクン




李衣菜「ウンウン……」

のあ「あと……」

のあ「えっと……」

李衣菜「??」

のあ「ほ、『ホット・バタード・ラム・カウ』とか………よく聴く」

李衣菜「へえー……!」キラキラ

のあ「カ、彼らの甘い旋律は、一度聴いたら耳から離れないわ」

李衣菜「あー、良いですよね、良いですよねっ!!」キラキラ

のあ「(……???)」

のあ「ァ……、あとは『ボヘミアン・ドリーム』」

のあ「彼らはミクスチャーロックの先駆けともいえる存在で、アルバムごとにそのスタイルは変えながらも、ボーカルとリリックセンスからはラップロックの匂いを常に感じるわ」

李衣菜「ウンウンウン……!」コクコク

のあ「(……!?)」





夏樹「(…………)」

232: 2016/11/20(日) 21:12:57.61 ID:bZO4ESfY0

のあ「さ、『サザンカンフォート・スクリュー』も外せないわ」

のあ「政治的なメッセージを前面に出し、突き刺すようなラップスタイルで激しいロックを生み出す姿は……目に焼き付いて離れないわ」

李衣菜「ウンウン……分かります!」

のあ「『キッス・オブ・ファイア』……彼らが活動を休止した時は一晩中枕を濡らした」

のあ「ボーカルが逮捕された時は、私も逮捕されようかと血迷うほどショックだった……」

李衣菜「ウンウン……分かります!」

のあ「『テキーラ・サンライズ』。彼らは言わずもがな」

のあ「パラダイムに囚われずエキゾチックでアナーキーなコスチュームとパフォーマンス、エモーショナルなビートが最高にマーベラスだったわ」

李衣菜「ウンウン……分かります!」

李衣菜「いやぁ、話が合いますねっ。やっぱり高峯さんはまごうことなきロックだ!」

のあ「フフ……そうね」

のあ「……ちょっと、席を外すわ。また……あとで」

李衣菜「あ、ハーイ」





夏樹「…………」

李衣菜「ふぅー」

李衣菜「聞いてた? なつきち」

李衣菜「やっぱロックを愛する者は引かれ合うんだね。私、高峯さんとはウマがあう気がするよ」

夏樹「……ああ。聞いてたぜ」

夏樹「高峯さんに上手くあしらわれたな、だりー。遊ばれたと言うべきか」

李衣菜「うん?」

夏樹「あの人、後半は単なるカクテルの名前しかテキトーに言ってないぜ。気付いたか?」

李衣菜「えっ……?」

李衣菜「そ、そうなの……??」

夏樹「ん? んー…」

夏樹「…………うん」コクン

李衣菜「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」

李衣菜「ち……」プルプル

李衣菜「ち、違うよ? なつきち………た、高峯さんは……っ」グスッ

夏樹「(な、涙ッ!?)」

李衣菜「高峯さんは、と、とてもロックで、私も、にわかではなくロックでっ……」グスン

李衣菜「わかる? ろ、ロックって、お酒のロックじゃないんだよ? なのに……」

李衣菜「な……なのに、なつきち……なんでそんなこと言うの……っ?」ポロポロ

夏樹「ご! ……ご、ごめんなだりー、アタシが悪かった」

夏樹「あの人はロックで……うん、だりーも超絶ロックだから」ナデナデ

李衣菜「うん……、ぐすっ」

夏樹「(…………)」


──────
────
──

233: 2016/11/20(日) 21:13:42.24 ID:bZO4ESfY0
──
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【早朝 事務所】


───ガチャ

李衣菜「おはよーございまーっす!」

夏樹「おーっす」

美波「おはよう、李衣菜ちゃん、なつきちゃん」

奏「二人とも早いわね………あら? そのコーヒーは?」

夏樹「ああ、コレか? コンビニのカウンターコーヒーだよ」

夏樹「値段の割に味はイカしてるからよく買うんだ、アタシは」

李衣菜「そーそー。出勤する時にコレ持って颯爽と歩くと、何か『デキる大人』ってカンジでクールだよねー♪」

夏樹「だりー、そりゃ海外ドラマの見過ぎだって。どうせさ、そのためだけに買ったんだろ?」

李衣菜「へへ……、まあいーじゃん。よっと」カチャ

───パカッ


夏樹「……ハァ」

奏「ふふふっ」クスクス

李衣菜「?」ゴクゴク

夏樹「コーヒーをスポーツドリンクみたいに飲むよな、だりーは」

美波「李衣菜ちゃん? ちなみに……」

李衣菜「なに?」

美波「李衣菜ちゃんが今カップから外した、コンビニやスタバとかのコーヒーでよく見かけるそのプラスチックの蓋は『トラベラーリット』って名前なんだけどね?」

李衣菜「うん? ああコレ?」スッ

美波「実はそれ、外さないまま小さな穴から飲むのが一般的なんだよ?」

李衣菜「えっ……エエッ!?」

李衣菜「うそっ!? エイプリルフール!?」

奏「4月1日はもう過ぎたわ」

夏樹「『デキる大人』が聞いて呆れるよ……」

234: 2016/11/20(日) 21:14:32.65 ID:bZO4ESfY0

李衣菜「は、外してた。だって有り得ないじゃん!」

李衣菜「の……、飲みにくいし! 砂糖とか入れられないしっ!」

夏樹「そうか? アタシはブラック派だし慣れたら気にならないけど」

李衣菜「わ、私だってブ、ブラックくらいっ……くっ!」プルプル

李衣菜「それに香りッ! 香りを楽しめない!! この蓋に存在価値は絶対無いよっ!」

美波「ま、まあ……、認識は人それぞれあるだろうし、好きなように飲むのが正しいんだと思うよ」

李衣菜「で、でしょ! ホラぁ!」

夏樹「蓋をして飲む方が本場っぽくてカッコイイと思うけどなー?」チラッ

李衣菜「え、えぇー…」プルプル

夏樹「(正直どっちでも良いけど)」

奏「保温効果や持ち運びの利点から蓋を付けているそうよ」

奏「スタバのラテやカプチーノだと、蓋をしているとより一層美味しく飲めるっていう話もあるから、一概に意味は無いとは言えないけどね」

奏「ちなみに私も蓋をしたまま飲む派ね。運んでいる時にこぼれないし」

美波「私もどっちかと言うとそうかも。折角付いているんだし上手に活用したい気持ちはあるかな?」

李衣菜「ふ、フーン……べ、別にいーし……」プルプル

李衣菜「蓋のままチョロチョロ飲むより、蓋を外してグイっとあおった方がカッコイイし……ロックだし……」カポッ

奏「そ、そんな呑兵衛みたいに言われても」

夏樹「と言いつつ蓋を付け直したのは何故だい? だりー」

李衣菜「ま、まあさ、今日くらいは違う方法を試してみても良いかなー……って」


───ガチャ




のあ「……おはよう」スッ




李衣菜「あっ! おは……」

夏樹&李衣菜「(………あっ)」

奏&美波「───ッ!!!」

のあ「(フフフ……♪)」サッ


───パカッ


のあ「……」グビッ

235: 2016/11/20(日) 21:15:23.19 ID:bZO4ESfY0

李衣菜「た、高峯さん……、そのコーヒーは……っ!」

のあ「事務所に訪れる前、近くの店に寄ったのよ」

のあ「意図せず、近場で巡り合えるとは……。悪魔のように黒く地獄のように熱い、天使のように純粋で愛のように甘い味わいの一杯に」

夏樹「(シャルル=モーリスか。というか……)」

夏樹「(蓋が……)」

夏樹「た、高峯サン……?」

のあ「なに?」

夏樹「そ、その蓋って実は───むぐゥ!?」ガタッ!

夏樹「!?」バッ!

奏「た……、高峯さんおはようございます!」ググッ!

夏樹「か、かなえぇ……、な……ぁにを……!?」バタバタ!

奏「コンビニのカップコーヒーって美味しいですよね。私もよく買うんです」ググッ…

美波「おはようございます。その………高峯さんは、いつも蓋を外して?」

のあ「……? ……ええ」

美波「確かに、あの蓋って邪魔ですよね。私も飲む時は外すんですよ、デザインより機能性重視です」

美波「飲みにくいし、砂糖とか入れられないし、なにより一番大事な香りが楽しめない。その蓋に存在価値は絶対無いと思っています、私は」キッパリ

夏樹「(───!?)」

奏「アレ怖いですよね、蓋で隠したままだと熱い液体が口に届くタイミングが計れなくて。私の周りの友人もみんな外してましたよ。アレを付けて飲む意味なんて毛頭理解できないわ……」

奏「ほら、アナタのも外してあげる。こうすると飲むとき便利よ」グシャッ!

夏樹「」

李衣菜「ホラっ! ホラホラっ! なつきちほらぁー!!」

のあ「(……?)」ゴクゴク


──────
────
──

236: 2016/11/20(日) 21:17:00.96 ID:bZO4ESfY0
──
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──────
【続 事務所】


のあ「(ふふふ……♪)」

のあ「(早速4人の子達に見せつけることが出来た。コーヒー持って出勤している、この私の姿を)」

のあ「(昨日、真奈美さんを見てアレは良いなと思ったわ。出勤する時にコレ持って颯爽と歩くと、何か『デキる大人』ってカンジで格好良い……♪)」

のあ「(……でも)」

のあ「(初めて頑張って買ったけど、この蓋って一体なんだろ……??)」ジー

のあ「(穴が付いてる。まさかここから飲むとか? いやまさか。そんな飲みにくい……)」ジー

のあ「(……??)」ジー













美波&奏「……」コソコソ

李衣菜「……」ドキドキ

夏樹「……」

美波「(……さっきはゴメンね? なつきちゃん)」

夏樹「(いや、別にいーけどさ)」

夏樹「(けど……何でアタシまで横目で高峯さんを観察しなきゃいけないんだ……)」

美波「(……)」チラッ

奏「(……)」チラッ

李衣菜「(……)」チラッ

夏樹「……」

237: 2016/11/20(日) 21:18:03.41 ID:bZO4ESfY0

夏樹「(なぁ……オイ)」

夏樹「(ソファに座ったままコーヒーとにらめっこして10分が過ぎたぞ、彼女)」

奏「(……高峯さんは今、真意を推し量ろうとしているのよ。あの蓋が持つ本来の機能を……)」

美波「(邪魔をしてはいけないわ。模倣するだけの形骸のようなシビリゼーションのご時勢、彼女はそれを啓発しようとしているの)」

美波「(はぁ……、黙して思考に耽る姿も知的で素敵。カメラ持ってくれば良かった)」

李衣菜「(アァー……カッコイイなー高峯さん……)」ドキドキ

夏樹「(アタシはお前らが何言ってるかサッパリ分かんねえよ)」

奏「(シッ! 高峯さんが動いたわ……)」

夏樹「(……?)」










のあ「……っ」

のあ「……ストロー……」キョロキョロ









夏樹「(……)」

夏樹「(…………)」チラッ

夏樹「(おい……今『ストロー』って言わなかったか?)」

夏樹「(あの小さい穴にストローを挿す気だぞ?)」

夏樹「(やる気だぞ、高峯さん。もっともダサイ飲み方を公然と)」

美波「(確かに、あの穴と位置を見たら導き出せるベストな解答かもしれない。流石は高峯さん……、なんという冷静で的確な判断力)」

奏「(待って。風味や焙煎方法に関して『ストロングコーヒー』と言及しかけただけかもしれないわ。旨味を極限まで探究する彼女の事だから、もう少し様子を見ましょう)」

李衣菜「(まってまって。ひょっとして『ストローク』かもしれない。まさか高峯さんもギターを……?)」ドキドキ

夏樹「(…………………………)」


──────
────
──

238: 2016/11/20(日) 21:18:45.85 ID:bZO4ESfY0
──
────
──────
【事務所 応接室前】



夏樹「(~~~……♪)」スタスタ

夏樹「……」スッ

夏樹「(…………!)」

───ピタッ!


夏樹「(ドアの向こうから聞こえるのは……)」

夏樹「(だりーの声と)」

夏樹「(………高峯さん?)」

夏樹「(だりーの奴、今日はオフって言ってたのに一体……?)」

夏樹「(…………)」ソロソロ

夏樹「(…………)」ピタッ



 『あ、あの……!』

 *『……なに?』



夏樹「(…………)」



 『す、すみません。急に呼び止めちゃって。このあとレッスンでしたか?』

 *『問題ないわ』

 *『退屈な予定を始めるより、目の前の貴女の思惑に興味が湧き足を止めただけ』

 *『全ては私の意図する行動。貴女が気に病むことは、何も無い』

『え、えへへ……名前呼び……♪』



夏樹「(…………??)」

239: 2016/11/20(日) 21:19:27.12 ID:bZO4ESfY0


 『その、うまく言葉がまとまらなくって、えっと、なんて言えばいいのか』

 *『……何か、私に言いたいことがあるのね?』

 『は、はいっ』



夏樹「(ふーん……?)」



 *『…………』

 *『……知識は、思考を阻害する』

 *『感じたままを、貴女の想いを………声を焦がして、私に叩き付けて』

 *『遠慮はいらない。貴女の信条の“ロック”とは、飾らない言葉で語ることではなかったのかしら』

 『……!!』



夏樹「(へぇ……)」



 『……た、高峯さん』

 『私、一目見たときから、すごいロックな人だなって……、かっこよくて、クールで……』

 『………えっと』

 『最近、頭の中でぐるぐるまわっている、モヤモヤとした自分の想いに気付いて……』

 『今まで、ぴったりな言葉が思い浮かばなかったけど、最近それが分かって……』

 『あの……私……、た、高峯さんのこと……』

 『高峯さんのことが……、だ、だい……っ、……!』







夏樹「(……!?)」

夏樹「(う、ウソだろ!? まさか!!)」オロオロ

夏樹「(だ、だりー! ウソだろ、おいウソだろ!?)」ソワソワ

夏樹「(お前……、最近少しそんな気はしてたけど、高峯さんの事をそこまで……!!)」ドキドキ

夏樹「(止めるべきか!? いやでも、人の嗜好なんて人それぞれだし……)」

夏樹「(………っ!)」

夏樹「(お前は純粋でひたむきだけど………周囲に流されやすいところもあって、まだ自立するには早いかと思ってた)」

夏樹「(そんなお前が大胆にもこんな場所でそんなことを打ち明けようなんて………)」

夏樹「(きっと、一人でよっぽど悩んだんだろう。アタシにも頼らず、一人で頑張って決断したんだろう。だりー)」

夏樹「(アタシは……)」

夏樹「(…………)」

夏樹「(…………へへっ)」

夏樹「(木村夏樹は、クールに去るとするか)」クルッ

240: 2016/11/20(日) 21:21:51.14 ID:bZO4ESfY0

夏樹「(……)」スタスタ



 『た、高峯さんのことが、だい…、だい……っ!』

 *『……?』」


━━━━━━━━━━
【事務所 応接室】


李衣菜「た、高峯さんのことが、だい…、だい……っ!」

のあ「……?」






李衣菜「DAIGOみたいな人だと思ってますっ!!」

李衣菜「ロックでカッコイイけど、どことなく好感が持てて親近感があって……!!」

李衣菜「つ、つまりそのっ! 私!! そ、尊敬してますっ!!!」

李衣菜「ここ、今度! さ、サインください!! 色紙持ってきますからっ!!!」

李衣菜「い……、言いたいことはそれだけでした!!」

李衣菜「し、失礼しますッ!!!」バッ!


ガチャ!!



李衣菜「~~~っ♪」タタタッ

李衣菜「……おうっ?」

夏樹「……………………………………………………………………………………………」

李衣菜「おっはよーなつきち! これから出勤かな?」

李衣菜「……? どうしたの、そんな気の抜けたコーラみたいに疲れた顔して」

夏樹「……いや、別に」

李衣菜「?? ま、いいや」

タタタタタタタタ…


夏樹「………ハァ」

夏樹「……あッ!?」ビクッ!

夏樹「オ、おはよーございます……、高峯さん」

夏樹「ッ!? だ、大丈夫すか? 血色が悪くて、体震えてますケド………か、風邪っすか?」

夏樹「高峯さん……?」







━━━━夜━━━━
【居酒屋】


周子「……」

のあ「……DAIGOはムリ……」グッタリ

周子「DAIGOはムリかー」

──────
────
──

241: 2016/11/20(日) 21:23:20.88 ID:bZO4ESfY0
──
────
──────
【続 居酒屋】


周子「……のあさん。なんこつ唐揚げ頼んでいいー?」

のあ「……うん。いいよ」

周子「(急にのあさんに呼ばれたと思ったら……なんか重そうな話)」

周子「(のあさん、ずっと俯いちゃってる。負のオーラが出てるよ)」

のあ「……」ショボーン

周子「……で、話の続き」

周子「あたしには、あんまよく分かんないな」

のあ「……」

のあ「……“ミステリアス”は、まだいい」

のあ「それっぽく取り繕っておけばいいから」

周子「まあ、実際雰囲気は出てるよ」モグモグ

のあ「……“寡黙の女王”も、まだいい」

のあ「それっぽい喋り方で、ごまかせるから」

周子「のあさん、あたし以外と喋るとき全然口調違うもんね。キャラだよね」

のあ「私が……凡庸な存在であることと、特別な存在であることは、両立できる」

のあ「相互に認識し合う関係。干渉は……好きでも嫌いでもない。無意味なものでないならば」

周子「おー、ぽいぽい。それっぽい」パチパチ

周子「……のあさん。ぼんじり2本頼んでいいー?」

のあ「……うん。いいよ」

のあ「……でもこの口調、とても疲れる」ハァ

周子「そうなんだ」パクパク

242: 2016/11/20(日) 21:24:50.23 ID:bZO4ESfY0

のあ「……あと」

のあ「“ロボット”も、まだいい」

のあ「感情の表出と起伏が……恥ずかしくて苦手な私にはお似合いの言葉」

のあ「もちろん、みんなが悪口で言ってるつもりじゃないのも、分かってる」

周子「……」

のあ「でも」

のあ「“DAIGO”って……?」

のあ「私、どの角度から観たらあの人みたいに見えるの……?」

のあ「次は事務所でDAIGOを演じなければいけないの……?」

周子「(でも実際のあさん、あのレザーの指抜きグローブしたら中二っぽくて似合いそうだなー。今は言えないけど)」

周子「……のあさん。焦がし醤油風味油そば頼んでいいー?」

のあ「……うん。いいよ」

周子「でもさ?」

周子「のあさん。李衣菜ちゃんの目の前で変なことしてたんでしょ?」

のあ「し、した……。あと浅い知識でテキトーに会話してたら……」

のあ「……思いのほか、何故か弾んじゃった」

周子「のあさん、自分で自分の首を絞めてないかい?」

のあ「!! ち、ちが……っ!」

のあ「わ、私は、ただ……」

のあ「……ただ、みんなと仲良くなりだけなの……」

周子「……」

のあ「…………」

のあ「周子ちゃん。私みたいな臆病な人間はね……?」

のあ「話の引き出しが少ないから……、こと会話の場面においては、頑張らなきゃいけないの」

のあ「その人の興味に話題を合わせて、その人に興味を持ってもらいたくて、必氏で取り繕うの」

のあ「今までだって、嫌いなホラー映画も、苦手なコーヒーも、関心がないロックミュージックも……」

のあ「『好きだ』って、『興味がある』って………みんなに嘘を言ってた」

周子「……」

のあ「ファンの人達や、事務所の仲間にもそう」

のあ「“ミステリアス”も、“寡黙の女王”も、“ロボット”だって」

のあ「……全部そう。みんなの思いに、期待に応じたいの」

のあ「でも、本当は違う。みんなのことなんて、きっと二の次」

のあ「自分の底を見せたくないだけ。見捨てられたくないの……」

周子「…………」

周子「……のあさん」

周子「あたしは、いまの貴女の活動や交友関係を否定して偉そうに、何かを諭すようなつもりはないよ?」

周子「ただ」

周子「ただもう一度、のあさんが普通に笑う姿を見たい」

周子「のあさん昔は、あたしの前ではいつも笑顔でいて………歌うのが本当に大好きだったよね」

のあ「……」

243: 2016/11/20(日) 21:25:49.31 ID:bZO4ESfY0

周子「昔、のあさんが放課後にあたしの学校に迎えに来たことあったよね」

周子「覚えてる? 正門で待ち構えててさ」

のあ「……」コクン

周子「もう学校中、滅茶苦茶噂になったよ。『外国人』とか『美人のハーフ』とか」

周子「虎の威を借る狐じゃないけど、しゅーこちゃんもその時は鼻が高かったよ。へへへ」

のあ「わ、私が………と、虎?」

周子「あっ、言葉の綾ね。そんな顔せんといて、悪い意味じゃないよ。じゃあ何がいい?」

のあ「……く、クラゲ」

周子「よし、それで行こう。可愛いもんね」パチン

周子「……のあさん。月見つくね2本頼んでいいー?」

のあ「……うん。いいよ」

周子「のあさんは昔からそうだったけど、ちょっと不器用なだけなんだよね。周りから勘違いされやすいというか」

周子「のあさんはね、外見のスペックが滅茶苦茶高いんだよ。つまり……」

周子「なんか『コイツ、デキる……ヤベェ!』ってオーラがむんむんに出てる」

のあ「そ、そうかな……」

周子「うん。きっとさ、その“寡黙の女王”のキャラもそうだけど」

周子「いつの間にか、引くに引けない状態になっちゃってるんだよね。のあさん」

のあ「……」コクン

周子「素の自分見せるって、そんなに怖いことかなあ」

周子「フラフラと生きてきたあたしには、よく分からんよ」

のあ「っ!」ブンブン!

周子「そっか。でもね、こんなのらりくらりで事なかれ主義のアタシだってアイドルやれてるんだよ?」

周子「のあさんだって、きっとだいじょーぶだよ」

のあ「……ふふっ」

のあ「ちょっと、気が楽になった」

周子「(今の例えでそう言われると若干複雑………まあいいや)」

周子「……のあさん。馬刺し頼んでいいー?」

のあ「……うん。いいよ」

周子「ま、気楽にいこーよ」

周子「のあさんはまだ、アイドルを初めて半年しか経ってないワケで」

周子「まだ色々と模索している段階だと思う。最初から上手くやれる器用な人間なんて絶対いないんだから」

周子「だからさ、深いことは考えず、ただ流れに身を任せるのもアリだと思うよ?」

周子「どこかの事務所の誰かも言ってたけど、意味や答えというのは後からついてくるもの……、なんだって」

のあ「…………」

244: 2016/11/20(日) 21:27:46.04 ID:bZO4ESfY0

周子「……将来がどうとか、先ずは後回しにしてさ」

周子「素の自分が出せる時が来るかもしれない。あるいは、今の振る舞いが楽しいと思える時がくるかもしれない」

周子「きっとその時がのあさんにとって、本当にアイドルをしている瞬間なんだと思う」

周子「軽いノリで過ごしてたあたしだって、そうだったからさ」

のあ「……周子ちゃん」

周子「少し偉そうだったかな?」

のあ「ううん」

のあ「周子ちゃんとお話できて、本当に良かった」

周子「……顔があっつい。の、のど乾いたなー」パタパタ

周子「ともかく。あたしが人間関係をとやかく語るなんてちゃんちゃらおかしな話だけどさ?」

周子「確かに、のあさんは事務所の人達から性格や出自を色々と勘違いされているかもしれない。意図してか、意図しないでかは知らないけど」

周子「……でもね。ちゃんと見てくれてる人も、絶対いると思う」

のあ「……そうかな」

周子「そーだよ。あたしが言うんだから」

周子「信じて?」

のあ「……うん」

周子「のあさん」

のあ「……うん?」

周子「コークハイ頼んでもいい?」

のあ「う───」

のあ「───だめ!! だめっ!!!」ムギュ!

周子「ありゃりゃ」








━━━━隣━━━━


早苗「…」

真奈美「(…………)」クイッ

美優「(…………)」ソワソワ

早苗「(あれ。あれ?)」

早苗「(ひょっとして、なに。あたし達、今の、聞いちゃいけないこと聞いちゃった系?)」

早苗「(ねえねえ…………、え、ちょっと………真奈美ちゃん、美優ちゃん? なんでだんまり?)」

早苗「(御簾で見えないけど、さっきまで隣にいたのって、のあちゃんだよね?)」

早苗「(だよね? のあちゃんじゃないの?)」

真奈美「(……人違いじゃないですか?)」

美優「(……ひ、人違いですね)」

早苗「(えっ? そうなのかなぁ?)」

真奈美「(そうですよ)」

美優「(の、呑みすぎたんじゃないですか、早苗さん?)」

早苗「(うぅん……うーーん……そうなのかぁ)」

真奈美&美優「(………………)」

245: 2016/11/20(日) 21:30:12.38 ID:bZO4ESfY0

━━━1時間後━━━
【岡崎家】


泰葉「さて、そろそろ寝る準備……」

泰葉「……ん?」



 『ここ? この部屋?』

 *『ウ…、ン………』

 『あれ、鍵合わんよ? のあさんー?』



泰葉「(高峯さん、と………誰だろ)」






━━━━━━━━━━
【玄関】


泰葉「あれっ!?」

周子「おろ?」

のあ「うぷっ……」

泰葉「しゅ、周子さん? 何で……えっ?」

泰葉「何で、ぐでんぐでんに酔っ払った高峯さんを抱えてるんですか?」

周子「居酒屋でお話に付き合ってたんよ。というか……」

周子「……泰葉ちゃんが何でのあさんの家にいるの?」

のあ「で、でる………ウッ」

泰葉「出さないで下さい! 嘔吐は待ってください!?」

泰葉「周子さん、詳しい話は後にしますが……」

泰葉「とりあえず、高峯さんの部屋は隣です! さあ早く!!」

周子「おぉ、そかそか。ごめんね、邪魔しちゃった」

のあ「……い」

周子&泰葉「えっ??」




のあ「……ここで、いい……」




泰葉「いや普通によくないですよ!? 何でですか!?」

泰葉「ちょ、ちょっと周子さん! は、早く隣に持っていくか、あるいはもう少し我慢させてください!! いま洗面器もってきますから!!!」

───バタバタバタ……


周子「……」

周子「なぁんだ、のあさん? ………生きてる?」

のあ「…………」

周子「(私の知らないところで、楽しそうにやってそうで………まぁ、なによりかな)」

のあ「……………………ウッ」

──────
────
──

294: 2016/11/28(月) 00:54:48.64 ID:lGwxouOs0
──
────
──────
【高峯家】


のあ「そろそろ、こたつ片付けなきゃなぁ……」

のあ「……面倒くさいなぁ。明日でいいや」

のあ「……」ゴロゴロ

のあ「…………」ゴロゴロ

のあ「だ、ダメだ。このままだと一日中ゴロゴロしちゃう」

のあ「何かしないと……」







━━━━その後━━━━
【街中】


のあ「……」フラフラ

のあ「(とりあえず目的も無しに外に出向いたけど………どーしよ)」

のあ「(……!!)」

のあ「(そうだ。ひょっとして、そろそろ私……)」

のあ「(少しは、有名人の域に割り込んでいるんじゃないかな?)」

のあ「(いや、きっとそうだわ! もうライブだって2回やってるし、CDも出してる!!)」

のあ「(プロデューサーさんも言っていたわ。半年の新人にしては大躍進だって)」

のあ「(ふ、フフッ……♪)」

のあ「(……っ)」キョロキョロ

通行人1「……」スタスタ

通行人2「……」スタスタ

のあ「(……ふむ)」

のあ「(しばらくしたら、道往く人々にいっぱい声を掛けられて……)」

のあ「(サインとか握手とかせがまれたり、技掛けてくださいとか闘魂注入してくださいとか頼まれるに決まってる♪)」

のあ「(あー、こんなことならメイクしてくれば良かった。ペンと色紙持参すれば良かった)」

のあ「……っ」ドキドキ

通行人1「……」スタスタ

のあ「……」チラッチラッ

通行人2「……」スタスタ

のあ「…………」

のあ「(……………)」

295: 2016/11/28(月) 00:55:21.69 ID:lGwxouOs0
のあ「…………」

のあ「あ……、あぁー、肩が凝ったなー……?」チラッ

通行人3「……」スタスタ

のあ「(さ、流石に無理か)」

のあ「………………」

のあ「……え、えっとぉ……、ラ、来週の予定は米国大使館でライブ………っと」

通行人4「……」スタスタ

のあ「(な、難聴かな……?)」

のあ「…………………………………………」

のあ「あっ、も、もしもしぃ……、あっ、木村夏樹ちゃん? あ、そうなんだぁ、多田李衣菜ちゃん、いまCMの撮影中なんだぁ……城ヶ崎美嘉ちゃんも、へえー……、……渋谷凛ちゃん……岡崎泰葉ちゃん……緒方智絵里ちゃん……三村かな子ちゃん……双葉杏ちゃん……神崎蘭子ちゃん……関裕美ちゃん……藤居朋ちゃん……藤原肇ちゃん……白坂小梅ちゃん……五十嵐響子ちゃん……姫川友紀ちゃん……ヘレンさん……」ツーツーツー

通行人5「……」スタスタ

のあ「(スルー!? 事務所が誇る全国ネット地上波メンバーなのにっ!?)」ツーツーツー

のあ「………………………………………………………………………」








━━━1時間後━━━


通行人「……」スタスタ

───チョンチョン


通行人「! ……はい?」クルッ

のあ「………………」

通行人「なんすか?」



のあ「ぁ、あのっ……」

のあ「わた、私の名前……私のな、名前をぅぅ……」

のあ「い、い、言ってみてください……」



通行人「は、はい? し、知りませんよ」

のあ「ッ!!!」ビクッ!

のあ「ぁっ……」

のあ「わ、私の名前は………」

のあ「『高峯のあ』です………高峯のあ? ………私の名前っ……」

のあ「私の名前は、高峯のあです……っ」

通行人「へ、へぇ……」








通行人「お……、おもしろい名前っすね」

のあ「」

──────
────
──

296: 2016/11/28(月) 00:56:47.20 ID:lGwxouOs0
──
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──────
【とあるLINE:『ひとつ屋根の下』】



高峯【その日は暇を持て余し過ぎて、ポケモン100匹捕まえたわ】20:00

泰葉【変装しないで外出は危ないですよ】20:05
泰葉【でもそういう感覚、もう久しく無いですね。初めのうちは新鮮で嬉しいかもしれませんが】20:09

高峯【何故】20:10

泰葉【事務所に迷惑が掛かったら申し訳ないですし】20:13
泰葉【そう言えば、高峯さんってランクいくつですか?】20:15

高峯【面白い名前かしら】20:15
高峯【高峯のあ】20:16
高峯【Gランク】20:16

泰葉【良い名前だと思います。響きが】20:16
泰葉【Gランクってありましたっけ? まあいいか】20:20
泰葉【(´-ω-`)】20:21



▲『かえでさんがグループに参加しました』▲



かえで【v(´∀`*v)ピース】20:21

泰葉【あ、きた】20:21

かえで【すみません、LINEの入り方を忘れてました】20:22

かえで【ついに作ったんですね! 私達のLINEグループ!】20:23
かえで【ひとつ屋根の下! 名前もいいじゃないですか♪】20:24

泰葉【高峯さんがグループ作ってくれたんですよ。あと招待も】20:25

高峯【泰葉、それどうやるの】20:25

かえで【まさか高峯さんがこういうのを作るとは思いませんでしたけどね♪ 招待ありがとうございます♪】20:25

泰葉【でも作る意味あったんですか? 結局は隣にいるのに】20:26
泰葉【そして週2.3でウチに来るのに】20:27

高峯【楓、それどうやるの】20:27

かえで【いいじゃないですか♪ ほら、連絡が簡単に取れますし】20:27
かえで【必要な生活必需品とか食品とか書いてくれれば、買い足しときますよ】20:29

泰葉【(´-ω-`;)】20:29
泰葉【えっ、なんですか?】20:29

かえで【たまには皆で買い出しとか行きます? 買い出しは愉快だし】20:30
かえで【`;:゙;`;・(゚ε゚ )ブーッ!!】20:30
かえで【えっ、なんですか?】20:31

高峯【それ、どうやるの】20:31

泰葉【それ?】20:32

かえで【ダジャレ?】20:32

泰葉【あ、スタンプですね?】20:33

高峯【それ】20:33

297: 2016/11/28(月) 00:58:01.59 ID:lGwxouOs0

泰葉【左下に顔のマークがありませんか?】20:35
泰葉【そこを押すとデフォルトで持っているスタンプが表示されるので、その中から好きなのを選ぶだけです】20:36

高峯【わかった】20:36
高峯【やってみる】20:36
高峯【待ってて】20:37

かえで【そう言えば以前、お金儲けの話がありましたが】20:40
かえで【LINEのスタンプを自作して設けるというのはどうでしょう?】20:42
かえで【噂に聞くと、1000万円稼いだ人もいるとか】20:43

泰葉【今は飽和しすぎて全然儲からないらしいですよ】20:43

かえで【ガ━━(;゚Д゚)━━ン!!】20:45

泰葉【(´・ω・`)ガッカリ…】20:46

かえで【人生オワタ\(^o^)/】20:47

泰葉【アイドル活動を地道に頑張りましょうよ】20:50

かえで【だって私、のあさんより半年長いのに、デビューはまだなんですよ】20:53
かえで【正直CM起用が奇跡的なレベルでした】20:54

泰葉【世の中にはデビューせずアイドルを辞めていく人もいるんです】20:55
泰葉【楓さん、頑張りましょう。既にモデル撮影は完璧にこなしているわけですし】20:58
泰葉【(´・ω・`)_且~~ イカガ?】20:58

かえで【すみません、チキンラーメン作ってきます】21:00

泰葉【(´-ω-`)】21:02

泰葉【そういえば、このグループって3人だけなんですか高峯さん?】21:06
泰葉【少し寂しい気もしますが、まあこういう名前のグループってことなら主旨として理解できますけど】21:08
泰葉【|壁]ゝ ̄)】21:09







▲『時子さんがグループに参加しました』▲





高峯【m9( ´,_ゝ`)プッ】21:09


時子【はい?】21:09


高峯【ぁっ】21:10



























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298: 2016/11/28(月) 00:58:41.30 ID:lGwxouOs0
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【事務所 応接室】


美優「ふふふっ……♪」クスクス


───ガチャ

奏「おはようございます」

伊吹「おはようございまぁす、美優さん」

美優「ええ、おはよう」

伊吹「? スマホで何かやってるんですか?」

奏「もしかして、テレビ電話ですか?」

伊吹「はえー……美優さんが珍しいですね」

美優「そうね……、最近は事務連絡以外には電話機能は使わないし、埃を被らせておくのも可哀想と思って」

美優「せっかく付いているんだし、良ければ使いませんか? ……って誘われて」

伊吹「奏さ、アタシ達もああいうの使ったことあったよね?」

奏「うん。いざ使ったら、お互いの顔を凝視しながらだと……少し気恥ずかしくなっちゃったわね。一回っきりで」

伊吹「ウンウン。疎遠な親戚とかならまだ懐かしい気分が勝って平気だけど、アタシ達は普段から嫌というほど顔を合わせてるしねぇ」

奏「電話やメールって、顔が見えないからこそ良いというか……」

奏「『会話をしたいのであって、顔を見たいわけではない』………ちょっと言い方が悪いかしら」

美優「まあ、気持ちは分からなくもないかしら? 見つめ続けながら会話をするのことには慣れてないというか、どうしても『見る』ことに気が向いてしまうかも」

伊吹「部屋の様子とかも見えちゃうわけだし、色々と神経使って疲れちゃう」

美優「そうね。でも、楽しいわよ?」

美優「相手の姿が見えるのとそうでないとでは、二人が言うように大きく違うと思うわ」

美優「表情が分かるからこそ、安心して話を進められたり、逆に気を遣うことも出来るから」

伊吹「……で」

伊吹「誰と話してるんですか??」ヒョイッ

美優「うん? はい、どうぞ」スッ






のあ『…………』ヒラヒラ






伊吹「わ!」

伊吹「高峯さんだっ! お疲れ様ですー♪」ヒラヒラ

バシィッ!!


美優&伊吹「(!?)」

奏「ぁ、あぁぁ……っ」プルプル

伊吹「ちょっと奏!! それ美優さんのスマホだから大切に扱って!!」

美優「奏ちゃん……?」

奏「ら、ラブプラス……ッ!?」ガタガタ

伊吹「テレビ電話だよ」

299: 2016/11/28(月) 01:00:04.21 ID:lGwxouOs0
奏「お、お疲れ様で、ですっ……」

のあ『……そう言えば、面と向かって貴女と会話をするのは……、随分久しぶりね』

奏「よ、4ヵ月と19日ぶりです……」

のあ『……あれから、髪を切ったのかしら。眉毛も弄って……瞳の色も違うわ』

奏「はうっ!!!!」

のあ『……何かの役作り?』

奏「い、いいえっ!」

のあ『前のような、爽やかなイメージとは異なるけれど……』

のあ『そういう表現、嫌いじゃないわ。マニッシュで、とても端整な恰好ね』

伊吹「か、奏ッ!? 全身痙攣して鼻から血が出てるけど!?」

美優「奏ちゃん!?」

奏「ぁ、ぁりがと……、ご、ござぃ、ぁすっ……」ビクンッ!

のあ『……え?』

奏「て、テレビ電話……最高……ッ」ドキドキ

美優「(さっきまで否定派だったのに……)」

伊吹「高峯さん、今おうちですか??」

のあ『ええ』

伊吹「へえー、なんか意外に質素な感じですね。でも広そう……」

のあ『大掃除したのよ』

伊吹「へっ?」

のあ『ナ、何でもないわ』

美優「のあさん。都合が良ければまた、真奈美さんと一緒にご飯に行きましょうね?」

美優「もちろん、私の家でも構いませんし、今度ゆっくり貴女のお話を聞かせてください」

のあ『……ええ。楽しみにしてるわ』

美優「ふふっ、のあさんのお部屋でも良いですけどね♪」

のあ『…………』

美優「今日は来客のために、張り切ってお掃除されたんですって」

伊吹&奏「来客?」

のあ『……』






周子『やっほー』ヒョコッ






伊吹「あれーっ!? 周子ぉ!?」

伊吹「なんで? そこ高峯さんのお部屋でしょ?」

バチィィン!!!


奏「うわあああぁぁァーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!!!」ドゴッ!

奏「アァァァァッ!!! あうああうあぁぁぁぁーーーーーーーー!!!??」ドゴッ!

伊吹「奏!! それ美優さんのスマホだから叩かないで!!!」

美優「(こ、怖い……)」

奏「何故………なぜぇぇっ……!!!」プルプル

300: 2016/11/28(月) 01:00:44.76 ID:lGwxouOs0
奏「周子!! 周子ォォォ~~……っ!!」グイグイ

周子『か、奏ちゃん、口からめっちゃ血が出てるけど………なにこれ、ホラー?』

奏「ううぅっ……、ウウウゥゥ~~~~…………!!」グイグイグイ!!

伊吹「落ち着いて奏!! 顔を液晶に押し付けてもそっちの空間には行けないから!!!」

奏「何故っ……、どうして周子が高峯さんの隣に……!?」

周子『実は偶然さっき、道でのあさんとばったり会っちゃって』

周子『奇遇ね、家近くだから、良ければお茶でもどう? なんて』

伊吹「……んん? アレッ、周子がその来客じゃないの?」

伊吹「じゃあ、高峯さんは誰に備えてお部屋を片付けたの? 話がちょっと合わないけど……」

周子『あ』

周子『………じゃあ、まあそーいう事で。そろそろ切るね、美優さん、ありがとねー』ヒラヒラ

美優「あっ、はーい。じゃあ、また機会があれば……のあさん」

のあ『ええ。また』

周子『ばいばーい』

奏「し、周子!! 待ちなさい、待ってッ!!! 待って下さい周子さん!!!!」

奏「せめて近隣の建物や目立つ風景を、少しでも映してから電話を切って!! 僅かでいいから!!! 部屋の構図でもいいから!!!!」

周子『え、えぇー………なんでや』

奏「お願いします何でもしますから!! じゃないと私、もうあなたの事を名前で呼ばないから……っ!!」

伊吹&美優「……」

奏「待って! 助けて!! 待ってくださいお願いします!!! 周子!!!! しゅ──────」


───プツッ



奏「ぁっ」

伊吹&美優「(………………)」

奏「ぁ……ア? ぁ…………っ」ガクン

伊吹「か、奏さん……?」

奏「……」プルプル

伊吹「ど、どうしたんですか……しゃがみ込んで、寒そうに体を震わせて……」

奏「……ぁっ……」プルプル

伊吹「……?」




奏「ま、ママぁ…………」ギュッ




伊吹「(で、出たッ! 最近頻発する謎の幼児退行!!)」ギュウゥゥゥ!!

美優「だ、大丈夫? 伊吹ちゃんに抱き着いて………ど、どうしたの?」

奏「ぁっ……………ぐ、グランマ……」

美優「グ、グラン……っ!?」

伊吹「美優さんごめんなさいホント!! 奏最近、悪霊に取りつかれてから情緒不安定なんですごめんなさい悪気はないんです!!!」ギュウゥゥゥ!!

奏「ぁぅ…………ぅっ……」グスッ

──────
────
──

301: 2016/11/28(月) 01:01:15.43 ID:lGwxouOs0
──
────
──────
【続 高峯家】


周子「(あぶなーっ。伊吹ちゃんの誘導に引っかかるトコだった)」

周子「(ホントは偶然じゃなくて、その来客があたしなんだけど、まあPさんのお願いだし伏せた方がいよね)」

周子「(……今度から関係を聞かれたら、のあさんとはお友達ということにしておこう。うん)」

のあ「……周子ちゃん」

周子「うん?」

のあ「……ご飯が、そろそろ出来そうです」

周子「おっ、いいね。なになに?」

のあ「肉じゃが」

周子「おぉー。なんかごめんね、至れり尽くせりで」

のあ「ううん」

のあ「じゃあ、待っててね」スタッ

周子「……」

周子「(のあさん、料理が出来るようになったのかぁ。昔はからっきしだったのに)」

周子「(でも噂じゃあ最近、美波ちゃんとかみくちゃんにお弁当を作ったことがあるとか)」

周子「(努力してるんだなー……)」



のあ「……周子ちゃん」スッ



周子「……のあさんや」

周子「人の耳元まで気配無く接近してくるカンジ、相変わらずやね。あたしじゃなかったらちぃとばかし軽く声出してたよ」

周子「で、なぁに?」





のあ「……ご飯が、まだ出来なさそうです」

のあ「……あと2時間待って」プルプル





周子「……うん、あたしはかまへんよ」

周子「(…………)」

周子「(……ありゃ失敗したかな)」




【17:00】

302: 2016/11/28(月) 01:01:54.27 ID:lGwxouOs0

━━━━━━━━━━


周子「(そう言えば、部屋片付けたんだ。部屋中ファブリーズの匂いしたし)」

周子「(もう一つの部屋には絶対入るなって言われたし。なんか……色々と察せられるものがあるね)」

周子「(んー……)」ゴロゴロ

周子「(……あかん。ほんまお腹空いてきた)」

周子「(ああもー……コンビニ行きたいなー)」ゴロゴロ

周子「(……あっ)」

周子「(のあさん、パソコンの電源付けっぱなし……)」

周子「(…………)」チラッ

周子「(………………)」

周子「(ちょっと覗いちゃおう。好奇心には勝てへんわぁ)」コソコソ

周子「(へへ……、普段何見てるんだろ、のあさん?)」

周子「(うわっ、想像できない、なんだろ、楽しみ♪)」コソコソ

周子「(ニコニコ動画かな? ファッションコラムかな? お取り寄せサイトかな?)」

周子「(他人のブログチェック? どれどれ───)」

周子「(───ん?)」

周子「(…………)」

周子「(これ、クックパッド?)」

周子「(ページ戻って…………んんっ?)」






【肉じゃが】
【肉じゃが 美味しい】
【肉じゃが 簡単】
【肉じゃが 基本】
【肉じゃが 家族】
【肉じゃが アレルギー】
【肉じゃが 道具】
【肉じゃが 5分】
【プリン 本格】






周子「(…………)」

周子「のあさーーん?」

 『ナ……なに……?』

周子「いまどんなカンジーー?」

 『……しょ、醤油が……そ、ソースを……』

周子「ああ……醤油じゃなくてソースを入れちゃったのね」

周子「よし。あたしも手伝うよ」スタッ

周子「最近、他の事務所の人に教えてもらったアレンジがあるんよ。ソースならちょうど洋風に出来そうだし」




【20:00】

──────
────
──

303: 2016/11/28(月) 01:02:43.84 ID:lGwxouOs0
──
────
──────
【続 岡崎家】


楓「(……♪)」モグモグ

泰葉「親戚……!?」

周子「6親等くらい離れてた気がしたけど、紗枝ちゃん曰く“はとこ”だって」モグモグ

泰葉「すごい奇遇ですね。親戚が、同じ事務所で活動してるなんて」

泰葉「……というか周子さん? 高峯さんは今どこに?」

周子「お風呂入ってから来るって」

泰葉「(来るんだ)」

周子「そんな珍しいかね? だって他にもいるじゃん」

周子「律子ちゃんと涼ちゃんとか」

泰葉「まあ、その二人は……」

周子「留美さんとありすちゃんとか、瞳子さんと文香ちゃんとか、夕美ちゃんと礼子さんとか、春菜ちゃんと比奈ちゃんとか、心さんと麻理菜さんとか」

泰葉「え、え、えっ………」

泰葉「エエエエエェェッッ!?」

周子「ごめん、今のはテキトー。ホントにウソ」

泰葉「」

泰葉「は、ハァ……。もう、やめてくださいよ」

楓「周子ちゃん、コレ美味しいですね!」

楓「肉じゃが……のような、ビーフシチューのような、まさに筆舌に尽くしがたい一品です」

周子「おー。肉じゃがの途中で、サルサソースとチーズでリカバーしたんですよ。洋風肉じゃが」

周子「ま、何とかなったね。おすそわけと思ったんですが、善きかな善きかな♪」

周子「………で、さ?」

周子「奇遇ってのはコッチの台詞だよ泰葉ちゃんよ」

周子「なにこのアパート?」

泰葉「えっ?」

楓「……?」モグモグ

周子「女子寮かと思った。のあさんの隣が、楓さんと泰葉ちゃんなんて」

周子「珍しい偶然もあるもんやねー。ひょっとするとまだ居るとか?」

泰葉「………………………………………………」

楓「ゲホッ!! げほっ、えっほ!!」

周子「……えっ?」

304: 2016/11/28(月) 01:03:55.24 ID:lGwxouOs0

━━━━━━━━━━


周子「時子さんが? この隣に?」

泰葉「……」コクン

楓「……」

周子「うわぁ、へえー、ふーん……」

周子「時子さんっていわゆる『いいとこ育ち』でしょ? なんでこんな庶民的な安普請のアパートに?」

泰葉「……さあ」

周子「んー……♪」

周子「気になるなー。物音とかなんかしないの?」

周子「時子さんってさ、ウチの事務所のメンツの中でも私生活とか素性が知れないうちの一人じゃん」

楓「…………」

周子「こうさ、壁に耳付けると……ひょっとするとクラシックとはかけ離れた、野球中継とか聴こえて来たりして……」スッ

泰葉「アッ!! し、周子さん、まずいですよ!!」

楓「そ、そうですよ周子ちゃん……、ぷ、プライベートですよ」

泰葉「そのセリフは私に部屋の合鍵を渡してくれてから言って貰ってもいいですか?」

周子「(…………)」コソコソ








ニャー









周子「……? ね───」









ドンッ!!!!!!









周子「ヒッ!」

楓&泰葉「……」

周子「ァッ……え……」

周子「…………………………えっ?」

楓&泰葉「…………」


──────
────
──

305: 2016/11/28(月) 01:04:55.31 ID:lGwxouOs0
──
────
──────
【トレーニングルーム】


のあ「……」

卯月「高峯さん、お付き合いいただきありがとうございます」

卯月「10分だけ、お時間を頂きたいなと思いまして……」

のあ「……笑顔の、練習?」

卯月「そ、そうですっ! 今日はですね、今日はですね?」

卯月「なんと助っ人を呼んできました! 名付けて『笑顔三銃士』!」

卯月「この3人で、必ずあなたを笑顔にさせて見せますっ!!」

のあ「(……♪)」

卯月「では早速お越しいただきましょう、どうぞっ!」

*『フフフ……!』

*『笑顔とは、幸せになることと見つけたり!』

笑美『笑顔三銃士が一人、難波笑美、推参!!』

笑美「あっ、同じアイドル部門の難波笑美です高峯さん。おおきにー♪」


no title



**『ふっふっふ……!』

**『笑顔とは、笑わせることと見つけたり!』

鈴帆『笑顔三銃士が一人、上田鈴帆、見参!!』

鈴帆「上田鈴帆けん、高峯しゃん。以後よろしゅうね♪」


no title



のあ「……っ!」

のあ「(魔女に、ドラゴン!? こ、コスプレ!?)」

のあ「(なに、これ……二人とも可愛いっ……、こ、こんな恰好する子達だったんだ!)」

のあ「(抱きしめたい可愛さ。ぎゅーってしたい、特にドラゴンの方、もふもふしたい)」

***『そ、そして……!』

***『笑顔とは、優しくあることと見つけたり!』

卯月『笑顔三銃士が一人、島村卯月………と、登場っ!!』


no title



のあ「……」ジー

のあ「(卯月ちゃん、いつのまにか猫耳付けてっ………あ、愛くるしいっ)」

のあ「(み、みくちゃんより可愛いかもしれない……、やば、みんなの写メ撮りたい……撮らせてほしい……)」ジー

卯月「(た、高峯さん……ずっとこっちを睨んでる。ふ、ふざけてると思われたかな)」

卯月「(でもこの二人なら、笑いの伝道師たるこの二人ならきっと……!)」チラッ

鈴帆&笑美「(………………)」ジーー

卯月「二人ともどうしたんですか? 訝しげな表情で……」

鈴帆「……笑美しゃん。こりゃあ逸材かもしれんね」

笑美「やっぱし分かる? 鈴帆っち。もうボケのセンサーがビンッビンきとるわ」

卯月「えっ?」

306: 2016/11/28(月) 01:05:33.28 ID:lGwxouOs0

笑美「噂には聞いてたねんけど、ほんっまにべっぴんな人やなぁ、高峯はん」

笑美「透明感のある肌に艶と輝きのある髪。全身から滲み出る品の良さ」

卯月「は、はい。事務所でも所属当初から話題に事欠かない、綺麗な人ですが……」

鈴帆「そうたい。けんど、そいがどがんね? 卯月しゃん」

鈴帆「見てみんしゃい、あの幾何学的なデザインの服を」

笑美「ギャップよ、ギャップ」

卯月「えっ、あ、あぁ……。一風変わってて素敵だと思いますけど……」

笑美「いやいやー、一風どころちゃうやろ? ド派手なコスモを感じるで」

笑美「中二的な漫画から飛び出してきよったキャラやで、アレ。ウチらより未来に生きとるわ」

卯月「そ、それは……」

笑美「例えば、みんな真面目ななりでオーディション受けとるとするやろ?」

笑美「そんな中いきなりあんなんに出くわしたら、もう絶対に笑うわ。ウチが面接官なら笑い転げて即採用する自信あるわ」

笑美「歩く地雷やで、あの人」

鈴帆「あげな人んことくさ、『シリアスな笑い』っち言うんやね」

笑美「ウンウン……!」

卯月「ば、馬鹿にしてませんか?」

笑美「うん? いや逆や逆」

鈴帆「高峯しゃんはウチらには無い、光るもんを持っとるばい」

卯月「……えっ?」

鈴帆「……高峯しゃん!」

鈴帆「いきなりですまんばい、高峯しゃん。これば着ちゃれんですか?」

卯月「……えっ」

のあ「(………………)」





━━━━5分後━━━━









http://i.imgur.com/Wx8Eujq.jpg









笑美「くッぅ! ぷくッ……!」プルプル

鈴帆「ふふっ、フ、ふ、むっ……!」プルプル

卯月「」

のあ「(……♪)」ドキドキ

307: 2016/11/28(月) 01:06:25.03 ID:lGwxouOs0
笑美「あ……」

笑美「アハ、アハハハハハッ!! あ、あかん、いやコレあかんやつやろ!」

のあ「……どうかしら?」

鈴帆「いやぁ、実に似合っとーよ、高峯しゃん♪」

笑美「せやな! 美しさと、面白さが同居しとるわ! こんなん出来る人、そうおらんで!」キラキラ

笑美「高峯はん、高峯はん? なあなあ、ウチらと写メ撮ってや、写メ♪」カシャ

鈴帆「異様な親和性ばい……、どげんしたらこぎゃん風になれるんちゃろうか……?」

のあ「がおー……」

笑美「ええなあ、可愛いわぁ♪ 高峯はん、いますっごい良いキャラしとるで!」

のあ「……無愛想?」

笑美「いやいやいやいや! それがイイんです高峯はん、その無表情だからイイんです♪」

のあ「無表情、だから……?」

笑美「いや確かにな? 確かにいつもは少しけったいな美人やなぁと思うところもあんねんけど……」

鈴帆「そーやね、今はウチの着ぐるみ着とうけん、絶妙に親しみあっけんね。これなら絶対に小さい子にも人気が出るたい!」

笑美「なにより、ウチらのリクエストに嫌な顔せず応えてくれたことがほんまに嬉しいわ」

笑美「思おてたより全然良い人やなぁって、見直したで♪」

卯月「ちょ、ちょ、ちょっと二人とも!!」

卯月「いいんですか高峯さん!! オモチャにされてますよ!?」

のあ「……卯月はどう思う?」

卯月「えっ! いえ、私のことより……」

のあ「………………どう?」

卯月「…………………………………………………ちょ、ちょっとクスっときましたっ」

のあ「……そう」

のあ「卯月。私が自発的に口を綻ばせるのは、今後も努力が必要かもしれない」

のあ「……けれど、形に拘らず、他者を笑顔にさせることが出来た。例えそれが虚飾の偶像であろうとも、この高峯のあにとって……」

のあ「今日のこの時間は、深く心に刻まれた貴重な体験となったわ」

のあ「無表情だからいい……そう言われてから、とても不思議で、あたたかい気分で満たされている」

卯月「……高峯さん」

のあ「……一つ、お願いがあるの」

卯月「な、何ですか?」

のあ「……写メ、みんなと撮りたい」

卯月「……分かりました」

のあ「ありがとう」

卯月「いいえ、高峯さん。例え表情に浮かばなかったとしても、貴女に喜んでいただけたなら……」

卯月「それだけで、私も嬉しいです」

のあ「……また、よろしく頼むわ」

卯月「は、はいっ!」

笑美「ハイハーイ、じゃあ撮るでー。コレちょっと、みんな寄らな撮られへんわ………自撮り棒じゃ無理やな」

鈴帆「流石はウチの力作たい、臨場感重視の大迫力で、カメラにも収まりきらんけんね! はっはっは!」

のあ「がおー……」

卯月「(可愛い……)」

──────
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──

309: 2016/11/28(月) 01:08:53.30 ID:lGwxouOs0
──
────
──────
【女子トイレ】


のあ「ふふふっ……!」

のあ「可愛いなぁ、このドラゴンの着ぐるみ……無理言ってちょっと借りてきちゃった♪」

のあ「あぁ、こういう仕事がしたい。着ぐるみダンサーとか、ほのぼのとして癒される仕事が欲しい……コスプレでもいい」

のあ「うわぁ、うわー……いいなぁ、鈴帆ちゃんが羨ましいなぁ」

のあ「……」パシャ

のあ「………………」パシャ

のあ「フフッ。写メ撮っとこ。お母さんに送ってあげよ」

のあ「あと待ち受けにも」パシャ

のあ「ふふふふっ……♪」

のあ「私のような無表情だからこそ似合うとか、親近感が出て小さい子にも好かれそうとか……」

のあ「心地よいことを言ってくれるわ、あの子達。お世辞でも嬉しい」

のあ「アー……ほんとに良いわコレ。あぁ……」

のあ「今度笑美ちゃんに頑張って話しかけて頼んで、あの写メ送ってもらおう」




───ガチャ





蘭子「~~~……♪」スッ








no title










蘭子「ッッッ!!?」


のあ「あっ」

310: 2016/11/28(月) 01:10:41.29 ID:lGwxouOs0
蘭子「ヒッ、はッ、はひぇっ……!」ビクビク

のあ「……」

蘭子「し、終焉の残滓を喰らう黒蝕竜……」【訳:た、高峯さん……】

蘭子「な、な、なにゆえに……、ど、道化師の、きょ、虚飾を纏いて………」【訳:なんで、鈴帆ちゃんの衣装を着て……】

のあ「(…………)」



~~~~~~~~~~
鈴帆「そーやね、今はウチの着ぐるみ着とうけん、絶妙に親しみあっけんね。これなら絶対に小さい子にも人気が出るたい!」
~~~~~~~~~~



のあ「(……♪)」ドキドキ

蘭子「フ、ひ、ッヒグッ……、そ、その……っ!」

のあ「………」チラッ

蘭子「ウッ!」









のあ「が……がおー……っ」








蘭子「ヒッ!」ビクゥ!

蘭子「アヒッ……、す、すみま………ぁぅうわあああァァーーーーーっっっ!!」ダッ!


ガチャ! バァン!

タタタタタタタタ……






のあ「………………」





━━━━15分後━━━━
【休憩室】


美優「ぷ、プロデューサーさんっ!」バンッ!

P「ん……?」

P「どうしました、美優さん……そんなに慌てて?」

美優「はぁ、はぁっ……、ら、蘭子ちゃんがっ!」

美優「蘭子ちゃんが応接室の隅っこでうずくまって、素数を延々と数えているんです!」

美優「呼びかけても目も虚ろで反応せず、まるで何かに憑り付かれたかのように……!」

P「!?」

P「す、すぐ行きますッ! 一体何が……!?」バタバタ

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312: 2016/11/28(月) 01:12:44.41 ID:lGwxouOs0