1: 2014/09/03(水) 21:56:03 ID:nRYShMes

騎士「世界にいくつもない万能の霊薬、金ならいくらでも出す」ドサッ

薬師「……」ゴクリ

騎士「あ、ようやく反応したな?」

薬師「気のせいだ」

騎士「仕方ない……」ドサッドサッ

薬師「…………」グビビッ

騎士「どうだ、気は変わらないか?」

薬師「……」

騎士「……」ドサササッ

薬師「売った!」

騎士「買った!」

2: 2014/09/03(水) 21:57:10 ID:nRYShMes

翌日

騎士「頼もう!」 バターン


騎士「いねえ! 」バターン

閉店しました

騎士「あのオヤジ!」

騎士「ご丁寧に説明書が付いてると思えば、その辺の市販薬じゃねーかー!」

騎士「くそ、いつの間にすり替えやがった」

騎士「いや……これはもしかして、遊ばれているのか?」

騎士「……」

騎士「……ふっふっふ、地の果てまでも追いかけてやるぞ!」

3: 2014/09/03(水) 21:59:34 ID:nRYShMes

峠の茶屋

薬師「ぶぇくしっ!」

店主「旦那、風邪かい?」

薬師「うわはは、誰かが噂でもしとるんかのう」

店主「最近はタチの悪い病も流行ってるらしいからな、旦那も気を付けてくれや」

薬師「わはは!それはまさに医者の不養生というやつだな、なに心配無用!大将、団子をもう一本くれたまえ」

店主「はいよ!」

チチチ……チュンチュン

薬師「はあ、茶が美味い」

薬師「こんな日はいいことがありそうじゃ」

4: 2014/09/03(水) 22:00:26 ID:nRYShMes

ミシィッ

薬師「む?何の音だ?」

騎士「……みーつーけーたーぞー!」ミシッミシッミシッ

薬師「むむ!何奴!」

騎士「この顔を忘れたとは言わせねえぞ!」

薬師「そのようなフルフェイス、覚えてられるか!まずは面を取れぃ!」

店主「……はいよー、団子お待ちどうー……って!お客さん何してるんだ!困るよ柱をへし折っちゃあ!」

騎士「すまん、ついイラッとして八つ当たりした」

騎士「これでどうにか頼む」トサッ

店主「え?そうかい?しょうがねえなー、今回だけだよ!」

騎士「助かる」

5: 2014/09/03(水) 22:01:11 ID:nRYShMes

騎士「さて、オヤジ……」

薬師「こんなところまで追いかけてきて、何用だ?」

騎士「何用だ、じゃねえ!とんだ偽もん掴ませやがって!」

薬師「偽物?はて……」

騎士「とぼけんな!あげく、そのままとんずらまで……!」

薬師「とんずらとは心外な、ちゃんと書き残して置いたろう」

薬師「それに貴様に渡したのは正真正銘、本物の最高級滋養薬だ、偽物など」

騎士「な、なに……?」

6: 2014/09/03(水) 22:01:59 ID:nRYShMes

騎士「い、いや!本物の万能の霊薬はどうした!」

薬師「……だからそれは……、ん?」

騎士「……」

薬師「貴様、もしや昨日の儂の話、さっぱり聞いておらんかったな?」

騎士「話?昨日は……長旅の末、ようやくオヤジの店を見つけて……、安心したらなんだか眠くなって……」

薬師「……」

騎士「……もっかい頼む」

薬師「団子と茶のおかわりが欲しいのう」


店主「まいどありー!」

7: 2014/09/03(水) 22:07:44 ID:nRYShMes

薬師「儂の持つ、万能の霊薬である世界樹の雫は、わけあって譲ることができん」

薬師「だが、この世に万能の霊薬と呼ばれる代物はほかに心当たりがある」

薬師「そのうちのひとつが、竜の涙、と呼ばれるものだ」

騎士「竜の涙……」

薬師「わざわざ儂を訊ねて来た心意気に応えて、それを代わりに用立ててやろうと思ったのだがな」

薬師「竜の巣はちと遠い、待っておれと言ったはずだが」

騎士「お、俺も連れて行ってくれないか!」

騎士「じっとしてられないんだ、頼む……」

薬師「……よかろう、人手は多い方がよいでな」

8: 2014/09/03(水) 22:08:26 ID:nRYShMes


……………………

…………

……

<竜の巣>

薬師「この洞穴の奥にいるのが、この大陸最後の竜だ」

騎士「それがこいつか……」

騎士「ここに来るまでの親父との一月の旅……それもようやく終わる!」

薬師「そんなに嫌だったか」

騎士「たりめえだ!夜な夜な妙な薬を盛りやがって!」

9: 2014/09/03(水) 22:10:30 ID:nRYShMes

騎士「最後に確認するが、その竜の涙、本当に万能の霊薬なのか?」

薬師「ああ、確かだぞ」

薬師「あれはまだ私が若かった頃……」

薬師「竜の涙は、なんか、凄い、らしい、と人づてにな」

騎士「ほほう……」

薬師「それを聞いた私はさっそくサラマンダーの唾液を集め、今際の爺さんに飲ませてみたら火を吹いた」

薬師「それが」

騎士「……」

薬師「長く険しい壮絶な薬師人生のはじまりの一歩だったのだ……」

10: 2014/09/03(水) 22:11:04 ID:nRYShMes

騎士「突っ込む気力も失せてきた」

薬師「それはいけない!さすればこの薬師秘伝の妙薬を……」

薬師「笑い転げて踊り出すことうけあい」

騎士「んなもん、いるかー!!!」

薬師「元気になるぞ」

騎士「この期に及んでまだ言うか!」

11: 2014/09/03(水) 22:11:43 ID:nRYShMes

ズズズ……

騎士「はっ」

薬師「大声は感心せんな、状況を考えろ」

騎士「どの口がどの口が……!」

薬師「……」

騎士「……」

薬師「……鎮まったか」

12: 2014/09/03(水) 22:12:44 ID:nRYShMes

薬師「まあ待て、この話にはちゃんと続きがあるのだ」

騎士「ほお」

薬師「その爺さん、その後どうなったと思う?」

騎士「仮にも人民を守る騎士に言わせんな」

薬師「……今年で御歳100と8つになる」

騎士「生きてんのかよ!」

薬師「当たり前だ、ピンピンしているぞ」

薬師「どうだ、私の凄さが少しは伝わったかな?」

13: 2014/09/03(水) 22:13:15 ID:nRYShMes

騎士「頭痛がしてきた」

薬師「それはいけない!さすればこの秘伝の丸薬を……」

薬師「何もかも忘れて楽になることうけあい」

騎士「劇薬じゃねーか!」

薬師「気持ち良くなるぞ!」

騎士「それでも医者か!」

薬師「まごうことなく!」

14: 2014/09/03(水) 22:13:55 ID:nRYShMes

ズズズ、ズズズ……


騎士「おい、なんか音が大きくなってないか?」

薬師「確かに……まさか」

グアアァァァルルルウウゥゥゥ!!!

騎士「マズい!目を覚ましやがった!」

騎士「体を起こしただけでこの風圧か……!」

騎士「失敗だ!ここは逃げるぞ!」

騎士「って、いねえ!」

騎士「あっ!あのオヤジ、竜の方へ……!」

15: 2014/09/03(水) 22:14:34 ID:nRYShMes

グルル……

薬師「……」カッ

グルル……

薬師「……」カカッ

グアアァァァルルルウウゥゥゥ!!!

ブォン!!!

ガシッ!!! 

ズサー

騎士「っっっあぶっねえええ!!!」

騎士「なに避けないで仁王立ちしてんだ!」

薬師「駄目か!私の眼力も効かず、無念!」

騎士「突っ込まねえからな!逃げるぞ!」

16: 2014/09/03(水) 22:15:09 ID:nRYShMes

グアアァァァルルルウウゥゥゥウルウ!


薬師「待て!どこへ向かうつもりだ!」

薬師「その先は崖が!」

騎士「下は大河だ、なんとかなる!」

騎士「ちゃんと口閉じてろよ!舌噛むぞ!」

騎士「いっくぜえええ!」

ダァン!

騎士「………おおおおお…………!」

薬師「………わははは、これは愉快愉快………!」


ザッパーン………

17: 2014/09/03(水) 22:16:07 ID:nRYShMes

<滝壺>

騎士「……ぶはあっ!」

騎士「はっ、はっ、はっ……」

騎士「なんとか助かったか、滝から落ちてさすがに駄目かと思ったが」

騎士「薬師のオヤジは……」

騎士「…………」

騎士「さようならオヤジ、思えば旅もそれなりに楽しかった……」

18: 2014/09/03(水) 22:16:37 ID:nRYShMes

騎士「あの辺りの岸辺が拓けてそうだ」スイー……

騎士「よい、しょっと……」

ザバッ

薬師「遅かったな騎士よ!」

薬師「はっは!茶を淹れてあるのでいかがかな?」


騎士「ど、どこからそのティーセットを……」

騎士「こ、この人外魔境め…… 」ヘナヘナ

薬師「はっは!」

19: 2014/09/03(水) 22:17:07 ID:nRYShMes

??「そいつが騎士かぇ」

薬師「その通りだ」

??「ひぇ、ひぇ、その装備でよく川底に沈まなかったのう」

騎士「……な」

騎士「オヤジに続いてババアまで!」

??「誰がババアじゃたわけー! 」スコーン

騎士「いってえ!」

騎士「薬師!なんだこのちみっこい婆さんは!」

薬師「この近くに住む魔女の婆さんだ」

20: 2014/09/03(水) 22:17:42 ID:nRYShMes

薬師「ほら、お前もこの茶を飲んで一息つくといい」

騎士「ああ、すまない……」

ピタッ

薬師「どうした?」

騎士「……あぶねえ!またこのパターンだよ!」

騎士「今度はなんの薬を盛りやがった!」

薬師「ちっ」

騎士「やっぱりか!この不良オヤジが!」

薬師「なに、ただの惚れ薬よ」

21: 2014/09/03(水) 22:18:19 ID:nRYShMes

薬師「お前はもう少し淑女に対する礼儀を知るべきかと思ってな」

魔女「淑女とは儂のことかぇ?」

薬師「当然ですな!」

魔女「この歳になって、嬉しいことじゃて」

薬師「はっはっは!」

騎士「ドッと疲れが……」

薬師「む、それはいかんな」

薬師「この薬草を噛んでおけ、滾るぞ」

騎士「……」

薬師「心配するな、ただの薬草だ」

22: 2014/09/03(水) 22:22:47 ID:nRYShMes

<魔女の庵>

騎士「ほー、婆さんは王宮に仕えてたのか」ガジガジ

魔女「ひぇ、ひぇ、もう半世紀ほど前じゃがのう」

薬師「はっは!お元気ですな!」

魔女「お前さんたちは何をしにこんな辺境へ?」

騎士「……竜の涙さ、そいつが欲しい」

魔女「ひぇ!御伽話じゃの、それを持ってなんとする」

23: 2014/09/03(水) 22:23:33 ID:nRYShMes

騎士「それがあれば……ある人を助けることができる、旅の目的はそれだ」

魔女「ますますヨタ話じゃな、じゃが面白い、これからどうする」

薬師「ひとまず他の材料を探します、竜の涙と合わせて薬として調合するのです」

薬師「ただしこれまた入手が困難なものばかりですが」

魔女「目録はあるんか?」

薬師「ええ、これここに」

魔女「ほう、どれ見せてくれるか」


魔女「……ここにあるうちの殆どは儂が用だて出来るな、残りは自分達で探せ」

騎士「本当か!それは有難い……!」

薬師「しかし何故そこまでしてくださるのか?」

魔女「なに、珍しい客人だからな、ほんの気まぐれじゃて」

24: 2014/09/03(水) 22:24:08 ID:nRYShMes

騎士「残る材料は、マンドラゴラ、ルビーワイン、ユニコーンの蹄……か」

魔女「目星くらいはつけられるぞ」

騎士「助かる」

魔女「マンドラゴラは渓谷の村で魔法使いという男が栽培している」

魔女「こやつは儂の知り合いじゃて、事情を話せば分けてくれるじゃろ」

魔女「ルビーワインは戦士の村の秘蔵酒じゃな、これは祭の時のみ振舞われる」

魔女「確かいまの村長は若い男だった筈じゃ、この村の連中は儀礼を尊ぶ、なかなか難しいかもしれんな」

魔女「ユニコーンは深き森に生息しておる、付近には確か教会があった筈じゃて」

魔女「こやつも面倒でな、穢れなき乙女の前にしか姿を現さん」

騎士「穢れなき乙女……」

薬師「はっは!」

魔女「ひぇっ、ひぇっ」

騎士「……道は限りなく険しい!」

25: 2014/09/03(水) 22:24:43 ID:nRYShMes
ひとまずおしまいです、また宜しくお願いします。

27: 2014/09/04(木) 10:54:30 ID:HEly1fbo
おつ

引用: 薬師「これが最後のひと雫」騎士「それを頂こうか」