721: 長門有希に花束を 2006/08/17(木) 01:30:22.03 ID:DOidoNrs0
4月第1週
今日から高校生。
本が好きだから文芸部に入る。
でも部員はわたし一人。
暇だから部室にあったパソコンで小説でも書く。
恋愛小説。登場人物はわたしと一目ぼれした5組の男子。

「長門好きだ。」
「私も好き。」

あとが続かない。才能のなさに絶望する。

4月第3週
わたしの好きな人のあだ名はキョンというらしい。
本名はわからないけど、それでいいかなと思う。
小説もわかりやすく名前を入れてみる。

キョン「長門、好きだ。」
わたし「わたしも好き。」

ちょっと心が温かくなった気がする。

723: 2006/08/17(木) 01:30:40.62 ID:DOidoNrs0
5月第2週
恋愛小説なのに感情が無い。
ためしに顔文字を入れてみる。

キョン「長門、好きだ!( ゜д ゜)
わたし「私も好き(///)」

ちょっとは感情が入ったかな?

6月第2週
いろんな本を読んで私なりに小説の勉強をしてみた。
その場の説明や雰囲気なんかをセリフの合間に入れる、
「地の文」というのが足りなかったみたい。
ちなみに本を図書館で借りてくる時、キョンに偶然助けてもらった。
やっぱり私はキョンのことが・・・・・・


ある日の放課後、わたしが物質で本を読んでいた。、
5組のキョンが訪ねてきた。
いきなり多くな声で言った。
キョン「長門、好きだ!」
わたしは嬉しかた。わたしは言った。
わたし「私も好き。」

いつも読んでいる本たちにちょっと近づけた気がして嬉しい。

725: 2006/08/17(木) 01:31:16.83 ID:DOidoNrs0
7月第1週
今更タイトルが無いのに気付いた。
でもいいタイトルが思いつかない。
しょうがないから「無題」としておく。
あと、見直してみたら誤字があった。
直さなきゃ。

「無題」
ある日の放課後、わたしは部室で本を読んでいた。
5組のキョンが訪ねてきた。
いきなり大きな声で言った。
キョン「長門、好きだ!」
わたしは嬉しかった。わたしは言った。
わたし「私も好き」

726: 2006/08/17(木) 01:31:34.46 ID:DOidoNrs0
9月第1週
夏休みが終わった、久々の部室。
夏休みの間にいっぱい本を読んだ、
いろんな本を読んでみて気付くことが山ほどある。
今までわたしは読んでいなかったみたい。
あんなに多くの本を読んだというのに。

「無題」
ある日の放課後、日は大分傾きかけ、部室の中を赤く染める。
その中で一人私は本を読む。
それが私の部活動。
いつもと変わらぬ一人での部活。
でも今日は少し違った。
突然部室の扉が開き、一人の男子が顔をのぞかせる。
「長門、今時間いいか?」
その男子の名はキョン。私の好きな人。
キョンは周りに誰もいないことを確認して、
私を見つめ、そして決心したように大きな声で私に言う。
「長門、俺はお前のことを好きになってしまった」
嬉しい、夢のような言葉。上手く返事が言葉に出来ない。
やっとのことで返事を口から取り出す。
「私も好き・・・」
そして二人の影は一つになる・・・・・・

729: 2006/08/17(木) 01:32:06.25 ID:DOidoNrs0
10月第4週

さぁ、この小説を完成させよう。
タイトルはいろいろ迷ったけれど、
「無題」のままに決めた。

「無題」
私には好きな人がいる。
高校生になったばかりの私が、入学式の時に見かけた一人の男子。
――ひとめぼれ
これが「ひとめぼれ」であることに気付いたのは入学式が終わり、HRが終わり、家に帰り、布団に入った頃。
その人の名はキョン。本名は知らない。でも本名以上に知られた名前。
わたしは彼のことをいつも思っていた。
でも彼はわたしのことをどう思っているのだろう?
一度図書館であった時も優しくしてくれた。
でもそれは誰にでも見せる優しさ?
不安――
わたしはその不安を消すために、本の世界へと没頭する。
本の世界なら誰もがヒロインになれる。
でも内心は……このままじゃいけないと思っていた。
誰かにわたしの固く閉まった扉を開けてもらい、
広い世界へと飛び出したいと思っていた。
でもわたしにはその勇気がなかった。
今日も一人私は本を読む。
それが私の部活動。
いつもと変わらぬ一人での部活。

突然部室の扉が開いた一人の男子が顔をのぞかせる。

730: 2006/08/17(木) 01:32:26.03 ID:DOidoNrs0
キョン――?

「長門、今……時間いいか?」
私の好きな人がぐるりとあたりを見渡したかと思うと
私を見つめ、そして決心したように大きな声で私に言った。
一生記憶に残るほどの大切な言葉を。
「長門、俺はお前のことを好きになったみたいだ」
今まで固く閉ざされていた心の扉は開かれた。
その鍵となる夢のような言葉。
上手く言語化できなかったけれど、やっとのことで返事を口からつむぐ。
「私も好き……」
あとはまるで自動的に決められていたかのように、
自然に二人は引き寄せられる。
赤く染まった部室の中で二人の影は一つになった……
「キス……」
「いきなりだったか?」
「ううん」
本当は遅すぎたくらいだ。
「もう一度」
キスをする。二人の気持ちを形に変える。
「長門、これからはずっと一緒だ。いろんなことをしよう。いろんな所に行こうな」

今度はわたしが主人公。

Fin

書き終わって満足感とひとかけらのむなしさが横切る。
これが現実になったら……

731: 2006/08/17(木) 01:32:45.18 ID:DOidoNrs0
12月18日
キョンが部室にやってきた。
小説が現実化したかとびっくりしたが、キョンの様子がおかしい。
わたしが宇宙人?世界が変わってしまった?
理解できない。でも何か頭の片隅でチカチカと引っかかるものがある。
わたしは何かを知っている?でも今は何もわからない。
でもキョンの力になりたい。協力したい。
キョンはパソコンを見せて欲しいといった。
わたしの恥ずかしい小説がいっぱい入ったパソコン。
なんとか待ってもらって、古いものは消したけど、
見られやしないかと気が気でない。
結局私の小説は見られなかったけど、キョンも収穫がなかったみたい。
肩を落として帰ろうとするキョンをとっさに呼び止めた。
ここで何も言わずに別れたら一生会えなくなると思ったから。
私はキョンに渡した。白紙の入部届。
少しでも近くにいられるように、少しでも力になれるように。
わずかな期待を込めて。

732: 2006/08/17(木) 01:32:57.35 ID:DOidoNrs0
12月19日
今日もキョンが部室にやってきた。純粋に嬉しい。
しばらく部室を眺めていたけど、キョンが部室にある本に興味を持ってくれた。
本を見ながら私に「小説は書くのか?」と聞いてきた。
心臓が止まるかと思ったけど、つとめて冷静に「読むだけ」とだけ答えた。
でも動揺が隠せられたかは知らない。
その後は微妙な沈黙が部室を覆う、いつもの一人だけの沈黙とは違う、張りつめた沈黙。
でもちょっとだけあたたかな気がする沈黙。
その沈黙を破ったのはキョン。「これ書いたのはお前か?」
『プログラム起動条件・鍵をそろえよ。最終期限・二日後』
確かに私の字に見える。でも何か違う。まるで違う世界のわたしみたい。
キョン君は必氏に何かを考えているみたいだった。
わたしは読書に戻ろうとしたができない。
昨日と一緒。このまま放置したらキョンは違う世界に行ってしまう。
帰宅のとき、わたしは最大の勇気を振り絞る。
「来る?」「わたしの家」
その晩は途中邪魔さえ入らなければ最高の夜。
少しだけ距離が近づいた気がした。
少しだけ、少しだけ――
その思いを小説に込めよう。この消えない不安を吐き出すためにも。

733: 2006/08/17(木) 01:33:13.98 ID:DOidoNrs0
「無題」
ある日突然世界が変わる。
そんなこと現実には起こるはずがないと思っていた。
わたしがいつも読んでいる本の中だけの出来事。
そんなことが起こるわけないと思っていた……

わたしが高校生になった時、微かに変わる予感がした。
それはあまりに突然で、でもとてもゆっくりで。
それはとても新鮮で、でもなぜか懐かしい。
不思議な気分で一日が過ぎて、夢の世界へ旅たつ直前。
わたしはわたし自身が何を感じとったのかを理解した。
ひとめぼれ――
そうだわたしは恋をしたんだ。

でもわたしは恋をしたとわかっていても、
それを打ち明けることなど出来なかった。
世界はやはり変わらない……
例えそれが苦しくても、悲しくても、辛くても。
わたしは世界を変えることが出来なかった。

734: 2006/08/17(木) 01:33:31.41 ID:DOidoNrs0
キョン――
わたしの好きな人の名前。みんなが彼を呼ぶ名前。
それが本名なのか、あだ名なのか。
そんな事はどうでもよくて。
ただ彼のことがわかることが、嬉しかった。
世界が少し変わる気がして。

彼とわたしはたびたび出会う。
通学路で、学校で、グランドで。
でもわたしは遠くから見ているだけだった。
ある日、図書館で出会ったときも、
わたしは何も出来なかった。
でも彼はわたしに優しくしてくれた。
そう優しくしてくれた。
でも。
彼は誰にでも優しい。
その優しさはみんなと同じ。
不安、不安、不安。
わたしの心はかき乱される。

結局私は何も出来ない。
本の中のヒロインにはなれない。
今日もわたしは本を読む。
それがわたしの部活動。
一人で寂しく本を読む。
いつもと変わらぬ部活動。
ヒロイン達にあこがれながら。
決して変わらぬこの世界を生きる。

736: 2006/08/17(木) 01:33:49.07 ID:DOidoNrs0
ある日突然世界が変わる。
そんなこと現実には起こるはずがないと思っていた。
わたしがいつも読んでいる本の中だけの出来事。
そんなことが起こるわけないと思っていた……

真っ赤になった部室の扉が開く。今まで勝手には開くことのなかった扉。
それは夕日に照らされながら、そこにいる人を包み隠す。
そこにいた人の顔はなかなか見えなくて。
誰かわかったあともなかなか信じられなかった。
キョン――?
そこにいる彼はとても不安そうで。迷っているようで。でも力強くて。
ふと、わたしは彼がわたしが欲しかった物を持っている気がした。
「長門」
彼はわたしをまっすぐに見つめる。
「今、時間いいか?」
それはとても力強い声。世界を変える力を持つ声。
「長門、俺は長門のことが好きだ」

737: 2006/08/17(木) 01:34:32.46 ID:DOidoNrs0
ある日突然世界が変わる。
そんなことが現実に起こる。今現実に起こっている。
わたしがいつも読んでいる本の中のようなことが。
そんなことが起こるわけ無いと思っていたのに……

沈黙が世界を包み込む。
キョンは不安そうにわたしを見つめる。
このままだと――世界は再び元通り。
返事を――言わなきゃ――何を――言うのか――?
「わたしも好き」
やっとの事でそれだけが口からこぼれ落ちる。

キョンはわたしの返事で180度表情が変わった。
心の底から光る笑顔。
そのままキョンはわたしに近づいて……
わたしもキョンに近づいた。
それはまるで磁石のように。
まるで決まった運命のように。
二人は互いに引き寄せられる。
「キスしてもいいか?」
「うん……」
二人の愛が形に変わる。
一生変わらぬその愛を。

739: 2006/08/17(木) 01:35:20.73 ID:DOidoNrs0
世界を変えてよかった。
わたしはこんなにも幸せだ。
キョンとわたしだけが
――キョンとわたしだけが
この世界にいる。
キョンはわたしを選んでくれた。
――キョンはわたしを選んでくれる。
世界を変えて、キョンを手に入れる。
――世界を変えて――キョンを
――わたしと一緒に
――永遠に
キョン――大好き――

740: 2006/08/17(木) 01:35:37.18 ID:DOidoNrs0
――2月下旬
生徒会の圧力により文芸部の機関誌を作ることになった。
わたしの担当は「幻想ホラー」小説など初めて書く。
でも――
パソコンを開いたら、何かとても懐かしい気がした。
ずっと昔、必氏に小説を書くために頭を悩ませた記憶。
存在しないはずの記憶。
わたしは書き始める。
――わたしは書き始める。
タイトル「無題」……

END

引用: ハルヒ「ちょっとキョン!あたしのプリン食べたでしょ!?」