755: 彼と彼女とSOS団 2006/08/19(土) 00:09:18.75 ID:NI6AnOIB0
#彼と彼女とSOS団というSSです。
#キョンとハルヒは付き合っているという設定です。ゆえに二人はデレデレです。
#作者基準では甘めになっております。



随分寒くなって、冬休みまであと1カ月を切ったある日の話だ。

昼休みもあと5分で終わる頃、俺は谷口と国木田を相手に談笑していた。
誰かに肩をたたかれた。振り返るとハルヒがいる。腰に手をあてて団長殿はいつものポーズを決めていた。
瞳がきらきらとダイアモンドダストのように輝いている。ああ、なにか妙な話をもってきたのだとそれで分かる。それはきっと俺を氷点下に追い込もうとするなにかなのだろう。
「放課後、みくるちゃんが困ってる人を連れてくるって。」
「へえ。どんな相談事だ?」
「さあ? でもきっと不思議なことよ。」
できれば普通のことにして欲しいのだがな。

放課後。SOS団もとい文芸部部室にはハルヒと俺、そして長門がいる。
古泉は今日は急用でいない。閉鎖空間は最近発生しないというが、それ以外にもいろいろあるらしい。まったく御苦労なことだ。
いまは朝比奈さんと相談者を待っているところだ。
長門はやはり本を読んでいる。表紙には「思春期の恋愛」と書いてあるが、どんなジャンルの本なのかまではわからない。多分ユニークな本なのだろう。
俺はといえば、ポットにお湯を注いでいる。お茶をいれてくれる人は、いまこの部室に俺しかいない。
ハルヒは一見つまらなさそうな顔で、ウェブサイトをぐるぐる巡回しているようだ。
「なんかおもしろいところは見つかったか?」俺は、ハルヒの肩口から画面をのぞき込んだ。ん?これは・・・
「んー週末はどこにいこうか検索してるんだけど。」ハルヒはマウスをかちかち動かしている。「さっぱりね。まあ寒くなってきたし、不思議な話もないわね。」

週末デートマップに不思議な話は載ってないと思うぞ、ハルヒよ。
涼宮ハルヒの憂鬱 「涼宮ハルヒ」シリーズ (角川スニーカー文庫)
758: 2006/08/19(土) 00:10:24.91 ID:NI6AnOIB0
こんこんとドアがノックされた。はぁいとハルヒが弾んだ声を出した。
おずおずとドアが開く。栗毛色の柔らかそうな髪が覗く。朝比奈さんが女子生徒と共に現れた。おお、朝比奈さんに勝るとも劣らない美少女ではないですか。
「キョン、お客さんにお茶出して上げて。」ハルヒは週末デートマップをブックマークしながらいった。「あたしも飲みたいし。」
「あ、あたしやりますぅ」朝比奈さんが笑顔で答えた。
ハルヒは団長席から立つと、女子生徒をいつもは古泉が座っている椅子に案内した。
そのままハルヒは俺がさきほどまですわっていた場所に座った。俺はハルヒの隣の席につく。朝比奈さんは人数分のお茶を用意している。長門は読書に忙しい。
「我がSOS団にようこそ。あたしが団長の涼宮ハルヒで、隣にいるのがキョンっていう雑用係。あっちにいるのが団員の有希ね。」長門は顔を上げ、無表情にうなずいた。すくなくとも本人はあいさつのつもりだ。
「んで団員のみくるちゃん・・・は知ってるか。あと副団長の古泉くんがいるんだけど、あいにく今日は欠席してるの。」
「初めまして。朝比奈さんのクラスメートで」彼女は名前を名乗った。「といいます。」

762: 2006/08/19(土) 00:11:48.50 ID:NI6AnOIB0
「悩んでることがあるって、みくるちゃんから聞いたんだけど。」
「最近・・・ってここ一週間ぐらいなんですけど、誰かにつきまとわれているような嫌な感じがするようになったんです。」彼女は顔をうつむきかげんにしつつ話を始めた。
「下校中で場所は一定じゃないんですけど、突然感じて・・・でも、誰もいないんです。」
「ストーカではないの?」ハルヒがいう。
「わからないです。」彼女は首を振った。「気になって家族に見回ってもらったりしたんですけど、やっぱり誰もいないって。」
「幽霊にあったことや見たことある?」
「ありません・・・霊感ないんです。で、不安でみくるちゃんに相談したら、頼りになる人がいるからと・・・」
「ん・・・キョンはどう思う?」
「昔付き合った彼氏とかはいます?」元彼がストーカー始めたって話は珍しくないしな。幽霊よりもこわいのは人間だぜ、ハルヒ。
「いないです。」彼女は顔を赤く染め、はにかんだ笑顔を浮かべた。「まだ・・・」
「じゃあいま好きな人はいますか?」彼女がコクンとうなずくのを俺は見逃さなかった。しかし。
「キョン、そういうセクハラ発言は慎みなさい。」ハルヒが俺をにらみながら言う。「女の子にそういうこと聞いちゃだめ。」
「ああ分かった。今度から気をつけるよ」
しかし、なぜその好きな子に相談しないんだろうか?

765: 2006/08/19(土) 00:12:51.32 ID:NI6AnOIB0
「ま、とにかく調査は引き受けたわ。」ハルヒはにこやかに言った。
「ありがとうございます。」
「とりあえず、今日はあなたの家まで一緒に帰りましょう。明日からのことはそれから考えるということで。」
寒くなってきたし幽霊は出ないだろうし、ストーカーという線も薄い。
小泉の仕込みの線や、未来的あるいは宇宙的線もなさそうだし、気楽にやらせてもらおうかね。・・・ハルヒが退屈しない程度で。
俺達は部室を後にした。

先頭を長門が歩く。そして朝比奈さんと彼女、殿をつとめるのは俺とハルヒだ。
ハルヒはすました顔で歩いていて、口数が少ない。注意深く周囲に視線を送っているように見える。
先頭を歩く長門の表情は見えないが、なにかあれば注意を促してくれるだろう。
なにか事が起これば朝比奈さんは彼女を連れて逃げる。んで、俺ハルヒ長門でなんとかするというのが下校前に決めたルールだ。
古泉がいればなんら不安はないが、朝比奈さんではちょっと心配だな。

ふとハルヒは振り返った。後ろをしばらく眺めている。視線を追うと、北高の制服に身を包んだ男子生徒がいた。ママチャリを押して歩いている。こちらを気にしているそぶりはまったく見せないのが、逆に気になる。
ハルヒは何も言わず、視線を前に戻した。
「どうした?」念のため俺はハルヒに聞いた。
「ん、ちょっとね。」

768: 2006/08/19(土) 00:13:43.14 ID:NI6AnOIB0
我々は何事もなく彼女の家に到着した。
「なんか、感じた?」ハルヒが彼女に尋ねた。
「今日は感じなかったです。」彼女は曖昧な笑顔で答える。「やっぱり気のせいなのかな・・・」
「あたしたち、これからもう一度調べて見るわ。明日またね。」ハルヒは笑顔でいう。
「ありがとうございました。」深々とお辞儀をして彼女は家の中に消えて行った。
「来た道を戻ってみましょう。」ハルヒの提案に従うことにする。
「有希はなんか感じた?」
「なにも。」
「そう・・・みくるちゃんは?」
「いえ、なにも。」
「そう・・・キョンはなんか感じた?」
「なにも。」長門の真似をするもんじゃないね、三人から冷たい視線を浴びただけだった。「あの北高生は?」
「あいつねえ。」ハルヒは曖昧な笑みを浮かべる。「あいつのことはとりあえず忘れて、他になにかあるか探しましょう。」
来た道を正確になぞりながら歩く。だいぶ寒くなってきた。そろそろ暖かい飲み物で体をいたわってやりたいなと思いながら。

779: 2006/08/19(土) 00:24:46.29 ID:NI6AnOIB0
結局何も見つからなかった。いまはいつもの喫茶店で作戦会議中だ。
ハルヒはカバンからノートを取り出すと、先程の男子生徒の似顔絵を書き始めた。特徴をうまくつかんでいる。本当になんでもできるな、ハルヒは。
似顔絵を朝比奈さんに見せたところ、彼女の意中の人らしいことが分かった。
「結構仲良くて、付き合うんだろうなぁと思ってたんですけど、ここ一週間はなんか別々にいることが多くて。」
「けんかでもしたの?」ハルヒがいう。
「みんながいうには、意識し過ぎて恥ずかしくなったんじゃないかって。」朝比奈さんは微笑みながらいった。「それまでは一緒に帰ったりしてたのに。」
「なるほどねえ。」ハルヒがなにか思いついたような顔をした。「ふうん。」
彼女と一緒にいる理由が欲しくなったんだろう。
一緒にいる理由なんて本当はいらないんだよな。一緒に居たいから一緒にいる。
それだけでいいんだが、なかなか最初は気がつかないんだよな。
そんなことを考えながらカフェラテを楽しんでいると、ハルヒが全員に宣言した。
「そろそろ解散しましょう。」
ハルヒの一言で、我々は家路についた。

783: 2006/08/19(土) 00:26:58.11 ID:NI6AnOIB0
#バーボンというか、連投すると「ばいばいさるさん」メッセージが出ますね。
#5分は書けなくなるみたい。これはきつい。

家に帰って晩飯食って風呂に入った。あとは寝るだけだ。
自分の部屋で、机に放り出していた携帯電話をひょいとつかむ。
ベッドに転がって、ハルヒの番号を呼び出す。特に用がある訳じゃないのだが。
・・・分かってる、俺はハルヒと話がしたいだけなんだ。
「もしもし」ハルヒは1コールで出た。
「ああ、おれだ。特に用がある訳じゃないんだが・・・」
「用がないなら電話するなっていった覚えはないわよぉ?」ハルヒの声がうれしそうに弾んだ。「それとも、ちょっとうれしそうに『よ、用がないなら電話してこないでよ、迷惑だわ』ってツンツンされた方が萌える?」
「ちょっと恥じらいながら『電話くれてうれしい・・・ありがとう』ってささやいてくれたほうが萌える。」
「次はそうしてあげるわ。」
「そうだ、次の土曜日なんだが・・・」
しばらく次の土曜日について話が弾んだ。別に行き先なんか当日決めたっていい。実のところ、共通の話題でハルヒと盛り上がるのが楽しいだけだ。
「ところで、キョンは恋愛系ドラマ見たりするの?」
「ドロドロ恋愛系ドラマや、片方氏んでる恋愛系ドラマは見る気しねえな。」
「あたし間違って見ちゃったのよね、そのドロドロ恋愛ドラマ。
ヒロインが本命の彼氏とうまくいかない寂しさを理由に、ちょっと優しくされたからってどーでもいい男と寝て、挙句の果てに子供できてどうしようなんてアホ展開。ホント、頭になんかわいてんじゃないかと思ったわよ。」
「そういうの多すぎだよなぁ。ところでおまえはどんなドラマが見たいんだ?」
「二人が出会って仲良くなって、恋愛の末に結婚して子供にも恵まれて、苦労もあったけど、いつまでも幸せに暮らしましたって話がいいのよ。」

787: 2006/08/19(土) 00:28:46.55 ID:NI6AnOIB0
「昔話じゃねえか、それ。」
「ドラマみたいな恋愛なんていらないわよ。」ハルヒはわがままな子供のように言う。「昔話上等よ!」
「恋愛なんて精神病の一種とか言ってたのに変わったもんだな。」
「いまもそう思ってるわよ。明らかに自分がおかしいもん。
こんなくだらない電話なんか昔なら叩き切ってるのに、いまは嬉しいし。
あんなにつまんなかったデートがいまはすごく楽しみだし。
それもこれも全部あんたのせい。あんなくだらないドラマ見たのもあんたのせい。分かってる?」
「ドラマ見たのはハルヒだろう?」
「あんたが一時間前に電話してくれば、あんなの見なくて済んだのよ?だからあんたのせい。分かった?」
「あー分かった分かった。来週は今日より一時間早く電話するから。」
「絶対よ。・・・ところで彼女の事なんだけど。」
「なんか思いついたのか?」
「まあね。多分、原因はあいつよ。」
「彼がなんかしたのか?」
「なんにもしないのが悪いのよ・・・あんたにも思い当たる節あるんじゃない?」
「訳わからんな・・・ハルヒはどう思うんだ?」
「ホント、鈍感ね。まあ明日分かるわよ。」ハルヒは明るい声でいう。「それでね・・・・・・」
まだまだ話足りない。ハルヒはそう思っているようだ。
実は俺もそう思っている。ホント、困ったものだな、この心の病は。
完治の見込みがないんだから。

788: 2006/08/19(土) 00:29:55.83 ID:NI6AnOIB0
翌朝、眠い目をこすりながら登校。そして授業。そして放課後。
そして部室。
昨日いなかった古泉にあらすじを話してやったところだ。
朝比奈さんとハルヒは昨日の彼女を迎えに行った。長門は昨日と同じ本を読んでいる。
勢いよくドアが開いた。ハルヒが満面に笑みを浮かべて入って来た。その後におずおずと朝比奈さん、そして彼女。え?彼氏まで?
「ふふん、驚いたでしょ?キョン。」
「彼氏もつれて来たのか?」
「そう。ふたりで帰っていただこうと思ってね。」100万ドルの夜景よりあざやかな笑顔を浮かべて言った。「そうすれば、もう大丈夫よ。」
さあ、あたしたちも帰りましょう。という団長殿の意見に逆らうものはいない。長門も読んでいた本をぱたりと閉じた。

二人が数十m先を歩く後を、我々5人がストーカしているという状況だ。
「なんかぎこちないわねえ、あの二人。」ハルヒがじれったさそうに言う。「手でも繋いじゃえばいいのに。」
「あたしたちに見られたくないんじゃないかな。」朝比奈さんがこっそり言う。
「ところでなんであの二人を一緒に帰らせると、彼女のつきまとわれるような感覚が消えるんだ?」
「つきまとわれるような感じってのは逆に寂しかったってことよ。」ハルヒがにやにや笑いを浮かべて俺を見上げた。「分かる?」
「わからん。」それしか言えなかった。

789: 2006/08/19(土) 00:30:56.59 ID:NI6AnOIB0
「言い換えれば不安感の表現なのでしょう。」古泉が助け舟を出して来た。「彼女は彼と一緒にいたかったんですよ。でも一緒にいてくれない。」
「彼は彼女と一緒にいるのが恥ずかしい。でも彼女は気にかかる」ハルヒはうれしそうにいった。「それで昨日は彼も彼女のあとをこっそりつけていたみたい。」
「変な感じはなかったってのは、彼女は知らぬ間に彼を感じていたってことか?」「多分ね。」ハルヒは満面に笑みを浮かべている。「あんたも分かるんじゃない?あたしが見えなくても。」
「かもな・・・しかし、今回は恋のキューピットってことか。」
「ま、いいんじゃない」ハルヒは満面に笑みを浮かべていた。「こんな話だったら大歓迎よ。」

彼女の家につくころには、二人の間にあったぎこちなさはどこかに消えていた。
「どうもありがとうございました。」彼女は深々とお辞儀した。そしていい笑顔を浮かべていた。
「みなさんのお陰で素直になれました。ありがとうございます。」彼も深々とお辞儀した。
「よかったわね。」ハルヒは100kWの笑顔を浮かべている。「末長く仲良くしてね。じゃあ、またなんか困ったことがあったらSOS団に相談して。」
バイバイと手をふって、二人と別れる。
「なあ、ハルヒ」となりを歩いているハルヒに話しかけた。「昔話もいいもんだな。」
「でしょ?」ハルヒは弾けるような笑顔で言った。「昔話上等よ!」

おしまい
#いや、SS連投するものにとってはきつい規制ができたな、こりゃ。

引用: ハルヒ「ちょっとキョン!あたしのプリン食べたでしょ!?」