560: 悩みの種 2006/08/20(日) 01:07:23.82 ID:/fU5DZdSO
夏。
何をするにしても『暑い』という言葉が無限ループを繰り返すこの季節。
正味な話、俺はこの季節が好ましくない。
大汗かく事が嬉しいなんてヤツ、きっとそれは相当なスポーツバカなんてのもんだろうと俺は思っている。
いや、他の理由でもなんでも汗かきたいなんてやつがいたら俺は今度からそいつを『Mr.M』と呼ぶことにする。
そんなのはどうでもいい話。
今日は夏休みも残りわずか2週間とそろそろ名残惜しくもあり、本腰を入れて魔物と、そう。学生にとっての最大の魔物『夏季課題』と対峙しなければならない時期だ。
そんな現実すら逃避し、なぁ~に、まだ時間はあるさと昼のうたうたlifeを涼しい快適な部屋で過ごしていると、魔の鐘の音がいきなりの爆音でなりだした。
俺はかなりびっくりしつつ、携帯の画面を見た。
…前々から思ってたんだがこの携帯の着信音は大きすぎる…まぁそれは単に俺が設定をいじってないだけなんだが。
携帯の画面には俺の平和の秩序を毎度の如くぶち破る悪魔の使者の名…まぁ言わずとしれずってとこだ。
嫌々俺がその電話に出ると、
「今から5分以内に駅前集合!5分以上かかったら罰金だからね!」
何をするにしても『暑い』という言葉が無限ループを繰り返すこの季節。
正味な話、俺はこの季節が好ましくない。
大汗かく事が嬉しいなんてヤツ、きっとそれは相当なスポーツバカなんてのもんだろうと俺は思っている。
いや、他の理由でもなんでも汗かきたいなんてやつがいたら俺は今度からそいつを『Mr.M』と呼ぶことにする。
そんなのはどうでもいい話。
今日は夏休みも残りわずか2週間とそろそろ名残惜しくもあり、本腰を入れて魔物と、そう。学生にとっての最大の魔物『夏季課題』と対峙しなければならない時期だ。
そんな現実すら逃避し、なぁ~に、まだ時間はあるさと昼のうたうたlifeを涼しい快適な部屋で過ごしていると、魔の鐘の音がいきなりの爆音でなりだした。
俺はかなりびっくりしつつ、携帯の画面を見た。
…前々から思ってたんだがこの携帯の着信音は大きすぎる…まぁそれは単に俺が設定をいじってないだけなんだが。
携帯の画面には俺の平和の秩序を毎度の如くぶち破る悪魔の使者の名…まぁ言わずとしれずってとこだ。
嫌々俺がその電話に出ると、
「今から5分以内に駅前集合!5分以上かかったら罰金だからね!」
561: 2006/08/20(日) 01:12:25.61 ID:/fU5DZdSO
本当に毎回要件だけ言って切りやがる…
コイツの電話代って相当安いな。俺も見習おうか。少しぐらいは親の負担を和らげないとな。
まぁ今からどんなに早く準備しても結果はたかが知れてる。のんびり準備…とも考えたが辞めた。本当にのんびりすると罰金だけでは済まなそうだ。
俺は自転車を全速力で駅へ向かって必氏に漕いだ。…だから俺は汗をかくことは嫌いだと。あまり『努力』という言葉もキレイ事っぽくてあまり好きではない。そして俺の意識の中では《努力=スポーツバカ=汗かくことを歓迎》みたいな方程式が完成してるのだ。
あくまで独断と偏見。実際そうではないとしても、自分の意識だ。誰にも文句を言われる筋合いはない。
それなのに行くだけでこんなに大汗かくのだ。コイツに関わると何かと無駄な労力が使われるからな…。俺もある意味スポーツバカなのかな…などと自己嫌悪に陥りながら必氏で自転車を漕ぎ、自転車を停め、駅前のいつもの場所まで走った。
…いや意外に意外。そんなに急いで召集するからみんな集合済みで待たせてるとでも思ったが、古泉も長門もMY Angelの朝比奈さんもいない。
「遅い!5分以内って言ったでしょ!?罰金!」
…ここから家までの距離をわかってるか?どう考えても物理的に5分なんて無理だ。それより長門や朝比奈さんはどうした?
コイツの電話代って相当安いな。俺も見習おうか。少しぐらいは親の負担を和らげないとな。
まぁ今からどんなに早く準備しても結果はたかが知れてる。のんびり準備…とも考えたが辞めた。本当にのんびりすると罰金だけでは済まなそうだ。
俺は自転車を全速力で駅へ向かって必氏に漕いだ。…だから俺は汗をかくことは嫌いだと。あまり『努力』という言葉もキレイ事っぽくてあまり好きではない。そして俺の意識の中では《努力=スポーツバカ=汗かくことを歓迎》みたいな方程式が完成してるのだ。
あくまで独断と偏見。実際そうではないとしても、自分の意識だ。誰にも文句を言われる筋合いはない。
それなのに行くだけでこんなに大汗かくのだ。コイツに関わると何かと無駄な労力が使われるからな…。俺もある意味スポーツバカなのかな…などと自己嫌悪に陥りながら必氏で自転車を漕ぎ、自転車を停め、駅前のいつもの場所まで走った。
…いや意外に意外。そんなに急いで召集するからみんな集合済みで待たせてるとでも思ったが、古泉も長門もMY Angelの朝比奈さんもいない。
「遅い!5分以内って言ったでしょ!?罰金!」
…ここから家までの距離をわかってるか?どう考えても物理的に5分なんて無理だ。それより長門や朝比奈さんはどうした?
562: 2006/08/20(日) 01:14:20.74 ID:/fU5DZdSO
「有希達は来ないわよ。呼んでないもの。」
んじゃあすると俺はなんのために呼ばれたんだ?
「なっ、なんでもいいじゃないそんなコト!ほら、罰金なんだから!行くわよ!」
?なんだこりゃ…なんか変な感じがしたぞ?なんか…ハルヒにはとても想像出来ない感じがしたのだが…気のせいだろう。
とりあえず俺は素直にハルヒの命令に従いいつもの喫茶店。店員達はハルヒの姿を見るやいなやヒソヒソと店員同士で話し始めた。
大方いつもウルサく迷惑かけているので、今回はどんな疫病をばらまいてくれるのだろうと不安と興味心での会話だろう。いや、店員の皆様すいません。このバカに代わって謝ります。
俺は自分の財布が可愛いのでアイスコーヒーのみ。一方ハルヒはというと…あれ?何故かミルクティだけだった。
いつもなら「パフェが食べたいわ!」「今日はお腹が空いているからステーキお願いね!団長命令よ!」などとぬかすクセに今日は結局これだけだった。
何故?遠慮なんて知るはずもないはずなのに…まぁ粗方ダイエットか?いや十分過ぎるほど痩せているな…結構素晴らしいプロポーションだからなコイツは。夏だから夏バテか?コイツに限ってそれはないな。と自問自答を繰り返した。
んじゃあすると俺はなんのために呼ばれたんだ?
「なっ、なんでもいいじゃないそんなコト!ほら、罰金なんだから!行くわよ!」
?なんだこりゃ…なんか変な感じがしたぞ?なんか…ハルヒにはとても想像出来ない感じがしたのだが…気のせいだろう。
とりあえず俺は素直にハルヒの命令に従いいつもの喫茶店。店員達はハルヒの姿を見るやいなやヒソヒソと店員同士で話し始めた。
大方いつもウルサく迷惑かけているので、今回はどんな疫病をばらまいてくれるのだろうと不安と興味心での会話だろう。いや、店員の皆様すいません。このバカに代わって謝ります。
俺は自分の財布が可愛いのでアイスコーヒーのみ。一方ハルヒはというと…あれ?何故かミルクティだけだった。
いつもなら「パフェが食べたいわ!」「今日はお腹が空いているからステーキお願いね!団長命令よ!」などとぬかすクセに今日は結局これだけだった。
何故?遠慮なんて知るはずもないはずなのに…まぁ粗方ダイエットか?いや十分過ぎるほど痩せているな…結構素晴らしいプロポーションだからなコイツは。夏だから夏バテか?コイツに限ってそれはないな。と自問自答を繰り返した。
563: 2006/08/20(日) 01:17:22.62 ID:/fU5DZdSO
「っ……ョン!ちょっとキョン!聞いてるの!?」
っ…俺は相当考えこんでたんだな。足りない頭使って。ん?と返事をするとハルヒは、
「だから!私はっ…今日は私の行くところに付き合ってもらおうと…」
と言った。
もうここに呼び出された時点で返事はNoではなくYes以外になんと答えることが出来よう。それなら電話でどうか聞いて欲しかったね全く…。まぁ電話で言われた所で俺は渋々行ってただろうがね。
Okわかった。んでどこなんだ行きたいところって?
「えっ?いいの?」
俺は本当にさっき思った事をそのまま言おうかとも考えたが…
まぁ俺も暇だし。団長様の行きたいところというのも気になるからな。
と言っておいた。
ハルヒは自分で誘っといて意外…とばかり言いたそうなぽかんと口を開けバカっつらをしていた。
「なにがバカっつらですって!?」
っと…バカっつらってのが無意識に言葉に出てたか。
さぁて。それじゃあそろそろ行きたい所に連れてってくれよ、マドロワゼル?
不慣れな本当にこれで合ってるのか?という言葉を使って場所の移動を促し喫茶店を後にした。もちろん俺のおごりだ。会計するとき、ハルヒはなんか俺の方と手持ちの財布を交互して何か言いたげだったが。
っ…俺は相当考えこんでたんだな。足りない頭使って。ん?と返事をするとハルヒは、
「だから!私はっ…今日は私の行くところに付き合ってもらおうと…」
と言った。
もうここに呼び出された時点で返事はNoではなくYes以外になんと答えることが出来よう。それなら電話でどうか聞いて欲しかったね全く…。まぁ電話で言われた所で俺は渋々行ってただろうがね。
Okわかった。んでどこなんだ行きたいところって?
「えっ?いいの?」
俺は本当にさっき思った事をそのまま言おうかとも考えたが…
まぁ俺も暇だし。団長様の行きたいところというのも気になるからな。
と言っておいた。
ハルヒは自分で誘っといて意外…とばかり言いたそうなぽかんと口を開けバカっつらをしていた。
「なにがバカっつらですって!?」
っと…バカっつらってのが無意識に言葉に出てたか。
さぁて。それじゃあそろそろ行きたい所に連れてってくれよ、マドロワゼル?
不慣れな本当にこれで合ってるのか?という言葉を使って場所の移動を促し喫茶店を後にした。もちろん俺のおごりだ。会計するとき、ハルヒはなんか俺の方と手持ちの財布を交互して何か言いたげだったが。
564: 2006/08/20(日) 01:21:14.95 ID:/fU5DZdSO
何か違う…まぁ深くは考えないことにした。今日はこの団長様々と言った感じにさせてやろう。
ハルヒが連れてきたのはゲーセン。…こんなとこが行きたかったところなのか?そう思いながらも聞かないことにした。スゴく目が輝いてますもん。暗闇から急に明るい場所に出て感じる明るさぐらいに。…わかりにくいか。まぁあの輝き具合は裸眼で太陽を見るようなものだ。
「キョン!あれやるわよ!」
そう指指したのは拳銃のゲーム。どんな小さなゲーセンにも必ず一台はあるだろう。いや主観だが。
へいへいと俺はアイツに金を払わす余裕を見せずに2人分の料金を入れた。
なんかあっ…という感じでこっちを見たが、始まるぞ?と催促するとうん…と気まずそうにゲームの位置に着いた。
これは2人が協力して進めるゲームなのだが、俺はしばらく頑張ったが結局ライフがなくなりゲームオーバー。ハルヒは後を継ぐように一人でやらせといた。ハルヒが頑張ってる姿を後ろで見ていた。
結局一人でも最後までクリアしてしまった。天は二物を与えないんじゃなかったっけ?まぁいい。そこで悲観的になるほどこの涼宮ハルヒの天才っぷりは今に始まった事ではないし、俺自身が落胆的になったわけではない。なにせ俺は普通の男子高校生と自負してるからな。
ハルヒが連れてきたのはゲーセン。…こんなとこが行きたかったところなのか?そう思いながらも聞かないことにした。スゴく目が輝いてますもん。暗闇から急に明るい場所に出て感じる明るさぐらいに。…わかりにくいか。まぁあの輝き具合は裸眼で太陽を見るようなものだ。
「キョン!あれやるわよ!」
そう指指したのは拳銃のゲーム。どんな小さなゲーセンにも必ず一台はあるだろう。いや主観だが。
へいへいと俺はアイツに金を払わす余裕を見せずに2人分の料金を入れた。
なんかあっ…という感じでこっちを見たが、始まるぞ?と催促するとうん…と気まずそうにゲームの位置に着いた。
これは2人が協力して進めるゲームなのだが、俺はしばらく頑張ったが結局ライフがなくなりゲームオーバー。ハルヒは後を継ぐように一人でやらせといた。ハルヒが頑張ってる姿を後ろで見ていた。
結局一人でも最後までクリアしてしまった。天は二物を与えないんじゃなかったっけ?まぁいい。そこで悲観的になるほどこの涼宮ハルヒの天才っぷりは今に始まった事ではないし、俺自身が落胆的になったわけではない。なにせ俺は普通の男子高校生と自負してるからな。
566: 2006/08/20(日) 01:26:42.85 ID:/fU5DZdSO
谷口辺りはまた否定するだろうけどな。関わってる人間がまともじゃないだけで、俺自身は普通の一般的な男子高校生なのだ。
超能力なんてのは、人間が使うものではない。せめて超能力をつかうとしたら、スプーンを曲げるぐらいの可愛いもんにしとけ。おい。聞こえてるか古泉。
「あぁ~面白かった!じゃあ…次はあれね!」
今度はエアホッケー。ふふふ…エアホッケーにはいささか自信があるぜ。ハルヒを負かせてちょっと意地悪してやるのもいいか。そう考えてたが!
……結果は検討虚しく敗退。神様ってのは相当なSっ気だな。そうでなきゃ俺をこんなに虐めようとは考えないだろ。
そのあと何度かハルヒと勝負の激闘を繰り広げた。体術なら完璧に負けるが、ゲームとなればいささか自信がある。俺とハルヒとの激闘はギャラリーが出来た事もあった。……まぁ結果は言わずと知れた事ではない。
ある程度勝負にも疲れてきた頃、ハルヒは俺の意見を聞かずに手を取り引っ張ってった。「いいからっ!」と凄んでいるので反論せずに行くところ………
…なんだこれは…プリクラってやつか?カップルなら撮っておこうなあれか?俺とハルヒはカップルではないぞ?
…やっぱりハルヒはなんとなくいつもと様子がおかしい。
超能力なんてのは、人間が使うものではない。せめて超能力をつかうとしたら、スプーンを曲げるぐらいの可愛いもんにしとけ。おい。聞こえてるか古泉。
「あぁ~面白かった!じゃあ…次はあれね!」
今度はエアホッケー。ふふふ…エアホッケーにはいささか自信があるぜ。ハルヒを負かせてちょっと意地悪してやるのもいいか。そう考えてたが!
……結果は検討虚しく敗退。神様ってのは相当なSっ気だな。そうでなきゃ俺をこんなに虐めようとは考えないだろ。
そのあと何度かハルヒと勝負の激闘を繰り広げた。体術なら完璧に負けるが、ゲームとなればいささか自信がある。俺とハルヒとの激闘はギャラリーが出来た事もあった。……まぁ結果は言わずと知れた事ではない。
ある程度勝負にも疲れてきた頃、ハルヒは俺の意見を聞かずに手を取り引っ張ってった。「いいからっ!」と凄んでいるので反論せずに行くところ………
…なんだこれは…プリクラってやつか?カップルなら撮っておこうなあれか?俺とハルヒはカップルではないぞ?
…やっぱりハルヒはなんとなくいつもと様子がおかしい。
567: 2006/08/20(日) 01:29:07.89 ID:/fU5DZdSO
なんでまたプリクラとやらなんだ?
と尋ねると、
「いっ、いいい、いいでしょっ!別にぃっ!?拒否ったら罰金よ罰金!!」
あぁそうかい。
…と言ってみたが、何やらツンデレみたいなことを言い出した。コイツはツンツンだと思ってたばっかりに結構驚く。
なんだコイツは?今日はおかしい。俺はツンデレ属性ないぞ。朝比奈さんみたいなドジっこ属性は多少はあるが。
「へぇ~。壁紙が選べるんだ…。光を調整?スゴいわねぇ~。」
などとそっちのほうで一人でやっている。俺はプリクラなど撮ったこと皆無なのだが、もしかしたらハルヒもないのかもな。だからさらにどうしてと思う。そう考えてるうち、
「ちょっとキョン!撮るわよ!さいっこうな笑顔で笑いなさいよ!」
まぁコイツの奇行ぶりは今にも始まった事ではないと思いつつプリクラのシャッター音と光が飛び込んできた。
「ちょっと私が落書き書いてるからあんたは外出てなさい!」
へいへい。どうぞご自由にお姫様。
と外で待ってることにした。
数分後に出てきたハルヒは既に出てきた写真に手を加え、それの4分の1ぐらいのを俺に渡した。ん?待てよ…俺らが撮ったのは確か4枚。そのうち俺が受け取ったのは2枚分。
と尋ねると、
「いっ、いいい、いいでしょっ!別にぃっ!?拒否ったら罰金よ罰金!!」
あぁそうかい。
…と言ってみたが、何やらツンデレみたいなことを言い出した。コイツはツンツンだと思ってたばっかりに結構驚く。
なんだコイツは?今日はおかしい。俺はツンデレ属性ないぞ。朝比奈さんみたいなドジっこ属性は多少はあるが。
「へぇ~。壁紙が選べるんだ…。光を調整?スゴいわねぇ~。」
などとそっちのほうで一人でやっている。俺はプリクラなど撮ったこと皆無なのだが、もしかしたらハルヒもないのかもな。だからさらにどうしてと思う。そう考えてるうち、
「ちょっとキョン!撮るわよ!さいっこうな笑顔で笑いなさいよ!」
まぁコイツの奇行ぶりは今にも始まった事ではないと思いつつプリクラのシャッター音と光が飛び込んできた。
「ちょっと私が落書き書いてるからあんたは外出てなさい!」
へいへい。どうぞご自由にお姫様。
と外で待ってることにした。
数分後に出てきたハルヒは既に出てきた写真に手を加え、それの4分の1ぐらいのを俺に渡した。ん?待てよ…俺らが撮ったのは確か4枚。そのうち俺が受け取ったのは2枚分。
568: 2006/08/20(日) 01:33:21.29 ID:/fU5DZdSO
それには落書きと呼ばれるものの加工は何も書いていなかった。
おい。あと2枚分はどうした?
とまた尋ねたところ、
「ちょっ、ちょっと失敗しちゃったから捨てちゃったの!それより、私とのツーショットなんてめったにないわよ?永久保存しときなさい!」
だそうだ。まぁ深くを考えたら負けだ。いや、そもそももう負けまくってたか。
外に出ると、いかにも大満足したような満面の笑みを浮かべるハルヒの姿。さてそろそろ解放かな?と思ったが…
「ちょうどいい頃合いね!次は映画行くわよ!」
今からか?順番が逆じゃないのか?
「時間が会わなかったのよ!いやなら別にいいわよ…」
何故か急に悲しそうな顔をしだした。なぜ映画の時間に呼び出さなかったのかなど考えるが、いくらハルヒとはいえ、女の子を悲しませるような真似はしてはいけないと思った。いや、そんな真似したつもりはないのだが。それに、断る理由もないので、
いや行こうぜ。今日はお前の行きたい所に付き合ってるんだ。最後までついていきますよ団長様。
「えっ…あっ、わ、わかってるじゃない!それでこそSOS団の団員よ!」
急に顔が明るくなった。本当にわけわからんヤツだ。ある意味良いところとも言える。
おい。あと2枚分はどうした?
とまた尋ねたところ、
「ちょっ、ちょっと失敗しちゃったから捨てちゃったの!それより、私とのツーショットなんてめったにないわよ?永久保存しときなさい!」
だそうだ。まぁ深くを考えたら負けだ。いや、そもそももう負けまくってたか。
外に出ると、いかにも大満足したような満面の笑みを浮かべるハルヒの姿。さてそろそろ解放かな?と思ったが…
「ちょうどいい頃合いね!次は映画行くわよ!」
今からか?順番が逆じゃないのか?
「時間が会わなかったのよ!いやなら別にいいわよ…」
何故か急に悲しそうな顔をしだした。なぜ映画の時間に呼び出さなかったのかなど考えるが、いくらハルヒとはいえ、女の子を悲しませるような真似はしてはいけないと思った。いや、そんな真似したつもりはないのだが。それに、断る理由もないので、
いや行こうぜ。今日はお前の行きたい所に付き合ってるんだ。最後までついていきますよ団長様。
「えっ…あっ、わ、わかってるじゃない!それでこそSOS団の団員よ!」
急に顔が明るくなった。本当にわけわからんヤツだ。ある意味良いところとも言える。
569: 2006/08/20(日) 01:35:57.92 ID:/fU5DZdSO
まぁハルヒが選ぶ映画だ。普通の映画なんかじゃなく、きっと面白いSF映画かなんかなんだろう。
映画館にたどり着き、「席を取っときなさいよ。」とのハルヒ嬢の命令により、ハルヒがチケット売り場の所でなにかしてるうちに、先にハルヒの分と俺の分のジュースを両手に抱えながら、映画館の真ん中あたりに席を確保した。
自分では映画館では好ポジションだと思ってる場所だ。
そのうち、ハルヒが来て俺が手招きをして席に誘導し、ハルヒの分のジュースを手渡した。
「あっ…ありがとう」
といつもと違う雰囲気で礼をのべ、席に座った。考えたら負けだ。俺は自分にまたそう言い聞かせた。
始まる前にどんな映画なのか尋ねたのだが、「見てからのお楽しみよ!」と答えを流された。
なんか看板みたいのを探したのだが、特には見当たらなかったため、どんな映画かわからない。まぁ楽しみにしますよ。俺らが作ったあのとんでも映画よりましなのは確かだろう。朝比奈さんの可愛さに勝てる映画はないだろうが。
来年は次回作とか言ってたな…少しはましにするために参考にさせてもらいましょうか。
そんな事を考えてるうちに舞台が暗くなり、映画が始まった。
映画館にたどり着き、「席を取っときなさいよ。」とのハルヒ嬢の命令により、ハルヒがチケット売り場の所でなにかしてるうちに、先にハルヒの分と俺の分のジュースを両手に抱えながら、映画館の真ん中あたりに席を確保した。
自分では映画館では好ポジションだと思ってる場所だ。
そのうち、ハルヒが来て俺が手招きをして席に誘導し、ハルヒの分のジュースを手渡した。
「あっ…ありがとう」
といつもと違う雰囲気で礼をのべ、席に座った。考えたら負けだ。俺は自分にまたそう言い聞かせた。
始まる前にどんな映画なのか尋ねたのだが、「見てからのお楽しみよ!」と答えを流された。
なんか看板みたいのを探したのだが、特には見当たらなかったため、どんな映画かわからない。まぁ楽しみにしますよ。俺らが作ったあのとんでも映画よりましなのは確かだろう。朝比奈さんの可愛さに勝てる映画はないだろうが。
来年は次回作とか言ってたな…少しはましにするために参考にさせてもらいましょうか。
そんな事を考えてるうちに舞台が暗くなり、映画が始まった。
570: 2006/08/20(日) 01:38:20.96 ID:/fU5DZdSO
……また俺は驚愕した。コイツが見そうにないジャンルを選んできやがった。
コイツが見そうにないジャンル……恋愛ものである。
途中ハルヒにまたなんで恋愛ものなんかと尋ねたのだが、「チケットが余ってたのよ!」となんとも古臭い言い訳を言っていた。今更じゃないが今日のハルヒは変なんだ。構うことはない。
映画の内容としては、出逢い、純愛、そして男の方の氏で終わるというものであった。ありがちといえばありがちだ。俺はぼーっとしながら映画を見ていた。
クライマックス、男性の突然の氏の場面だ。周りからはすすり泣く声が聞こえた。
当方俺は一切泣くこともなく淡々と見ている。俺に感動の感覚がなくなったのはいつからだ?いや、元からないのかもな。
……俺が今日驚いたのは何回目だ?誰か暇なら数えて欲しい。こんなベタな展開にハルヒが声をあげないようにして涙を流して真剣な眼差しで見ている。
ハルヒ。お前は普通なのが嫌いなんじゃないのか?そんなこと言えるはずもなし。
だけど…涙を流している姿はとても綺麗だった。泣いている手前、こんなことを考えるのはアレなのだが、俺はハルヒに魅了されていた。
コイツが見そうにないジャンル……恋愛ものである。
途中ハルヒにまたなんで恋愛ものなんかと尋ねたのだが、「チケットが余ってたのよ!」となんとも古臭い言い訳を言っていた。今更じゃないが今日のハルヒは変なんだ。構うことはない。
映画の内容としては、出逢い、純愛、そして男の方の氏で終わるというものであった。ありがちといえばありがちだ。俺はぼーっとしながら映画を見ていた。
クライマックス、男性の突然の氏の場面だ。周りからはすすり泣く声が聞こえた。
当方俺は一切泣くこともなく淡々と見ている。俺に感動の感覚がなくなったのはいつからだ?いや、元からないのかもな。
……俺が今日驚いたのは何回目だ?誰か暇なら数えて欲しい。こんなベタな展開にハルヒが声をあげないようにして涙を流して真剣な眼差しで見ている。
ハルヒ。お前は普通なのが嫌いなんじゃないのか?そんなこと言えるはずもなし。
だけど…涙を流している姿はとても綺麗だった。泣いている手前、こんなことを考えるのはアレなのだが、俺はハルヒに魅了されていた。
572: 2006/08/20(日) 01:41:03.29 ID:/fU5DZdSO
そもそも、喋らなければコイツは美少女なんだ。それは谷口でさえ認めてたんだ。喋ればその感覚はぶち壊しになるが。
俺は映画の内容より、ハルヒの姿に見とれていた。
映画も終わり、ハルヒはトイレに向かったようだ。俺には泣いてる姿なんて情けなくて見せられないんだろう。十分見ていたがな。
そのときのハルヒは本当に可愛いというか…いいもの見れた気がする。まんざら損した訳ではなさそうだ。
しばらくするとハルヒが帰ってきた。感想を聞いてみたら、
「なんかあんまり面白くなかったわね。あんなベタな展開、なんも面白くなかったわ。」
泣いていたくせに。それは言わないことにした。後で面白がってからかってやろう。なんとなく今言っちゃ面白くない。言ったらどんな反応を見せるのだろう。
怒りが頂点に達して閉鎖空間ぐらい簡単に出来てしまうかもしれない。それは古泉に任せよう。それが仕事だ、アイツの。
もっとも、俺が巻き込まれるのはゴメンだ。もう俺は白馬に乗った王子様などできんぞ。恥ずかしくて何度も出来たものじゃない。
俺は映画の内容より、ハルヒの姿に見とれていた。
映画も終わり、ハルヒはトイレに向かったようだ。俺には泣いてる姿なんて情けなくて見せられないんだろう。十分見ていたがな。
そのときのハルヒは本当に可愛いというか…いいもの見れた気がする。まんざら損した訳ではなさそうだ。
しばらくするとハルヒが帰ってきた。感想を聞いてみたら、
「なんかあんまり面白くなかったわね。あんなベタな展開、なんも面白くなかったわ。」
泣いていたくせに。それは言わないことにした。後で面白がってからかってやろう。なんとなく今言っちゃ面白くない。言ったらどんな反応を見せるのだろう。
怒りが頂点に達して閉鎖空間ぐらい簡単に出来てしまうかもしれない。それは古泉に任せよう。それが仕事だ、アイツの。
もっとも、俺が巻き込まれるのはゴメンだ。もう俺は白馬に乗った王子様などできんぞ。恥ずかしくて何度も出来たものじゃない。
574: 2006/08/20(日) 01:43:42.29 ID:/fU5DZdSO
さて、次は小腹が空いてきたのでファミレスに来た。
もっとも、この提案はハルヒによるものではなく、俺の提案だ。ハルヒも腹減っているだろう。最初の喫茶店で珍しくなにも食わなかったからな。
俺は簡単にコーヒーと適当なパスタを頼んどいた。ハルヒに注文を促したら、やっぱりミルクティだけだそうだ。
…お前昼間からおかしいぞ?なんか体の調子でもおかしいのか?
ちょっと本気で心配になってきたため真顔で尋ねてみた。
「えっ、だっ、大丈夫よ!なんでもないわよ!そんな心配そうにしないでよ…」
そんなこと言ったってだな。お前がなにか食べないなんておかしいじゃないか?あんなに食欲旺盛なお前が?
「なんでもないって言ってるでしょう!!」
机を叩いて大きな声で言った。
その後何度かハルヒに問いかけてみたが終始無視といった感じ。怒らせちゃったか。俺にとっては体調を伺っての事だったんだが。
閉鎖空間が出来てるかもな。頑張れ古泉。俺も今回は応援するぞ。ご褒美にケツをさしだすのは御免被りたいがな。
結局食えるもんもまともに食った気になれず、さっさとファミレスの外に出た。
もっとも、この提案はハルヒによるものではなく、俺の提案だ。ハルヒも腹減っているだろう。最初の喫茶店で珍しくなにも食わなかったからな。
俺は簡単にコーヒーと適当なパスタを頼んどいた。ハルヒに注文を促したら、やっぱりミルクティだけだそうだ。
…お前昼間からおかしいぞ?なんか体の調子でもおかしいのか?
ちょっと本気で心配になってきたため真顔で尋ねてみた。
「えっ、だっ、大丈夫よ!なんでもないわよ!そんな心配そうにしないでよ…」
そんなこと言ったってだな。お前がなにか食べないなんておかしいじゃないか?あんなに食欲旺盛なお前が?
「なんでもないって言ってるでしょう!!」
机を叩いて大きな声で言った。
その後何度かハルヒに問いかけてみたが終始無視といった感じ。怒らせちゃったか。俺にとっては体調を伺っての事だったんだが。
閉鎖空間が出来てるかもな。頑張れ古泉。俺も今回は応援するぞ。ご褒美にケツをさしだすのは御免被りたいがな。
結局食えるもんもまともに食った気になれず、さっさとファミレスの外に出た。
575: 2006/08/20(日) 01:45:31.13 ID:/fU5DZdSO
「今日はありがとう。付き合ってもらって悪かったわね。それじゃ。」
そう言ってハルヒはファミレスから歩き出した。
かなり心が痛むところで、呼び止めようともしたが、気の利いた言葉が見つからず、呼び止めることなんて出来なかった。
なんて神様とやらは不便な言葉なんてものを創ったんたんだ。自分がこんなに恨めしいことはなかった。
帰路の途中、古泉から電話がかかってきた。今はお前みたいなゲO人のことなんぞ構う気になれないのだが。
いっそ出ないことも本気で考えたのだが、あとで襲われたらいやだしな。一応に電話に出てみた。
「出るのが遅かったですねぇ。今大丈夫ですか?」
本当は出たくなかったぐらいだよ。
今回は正直に言ってみた。たまには清々しいものがあるかもしれん。
「それはヒドいことを言いますねぇ。少し僕もへこみますよ。」
んなのどうでもいい。お前のことだ。ろくでもない知らせなんだろう?
「さすがですね。…ご察しの通り、あまりよい知らせではありません。」
…閉鎖空間か。
「御名答です。しかし、今回のはいつもと違います。規模自体はそんなに大きくありません。しかし、神人が大量に発生しており、なかなか強力なのですよ。」
そう言ってハルヒはファミレスから歩き出した。
かなり心が痛むところで、呼び止めようともしたが、気の利いた言葉が見つからず、呼び止めることなんて出来なかった。
なんて神様とやらは不便な言葉なんてものを創ったんたんだ。自分がこんなに恨めしいことはなかった。
帰路の途中、古泉から電話がかかってきた。今はお前みたいなゲO人のことなんぞ構う気になれないのだが。
いっそ出ないことも本気で考えたのだが、あとで襲われたらいやだしな。一応に電話に出てみた。
「出るのが遅かったですねぇ。今大丈夫ですか?」
本当は出たくなかったぐらいだよ。
今回は正直に言ってみた。たまには清々しいものがあるかもしれん。
「それはヒドいことを言いますねぇ。少し僕もへこみますよ。」
んなのどうでもいい。お前のことだ。ろくでもない知らせなんだろう?
「さすがですね。…ご察しの通り、あまりよい知らせではありません。」
…閉鎖空間か。
「御名答です。しかし、今回のはいつもと違います。規模自体はそんなに大きくありません。しかし、神人が大量に発生しており、なかなか強力なのですよ。」
576: 2006/08/20(日) 01:48:20.22 ID:/fU5DZdSO
あんな青白くてデカい生き物…そもそも生き物かどうかもいかがわしい物体が大量に…考えただけで古泉に襲われるぐらいぞっとする…。
「結構……いや、我々もかなり苦戦してましてね。このままでは本当に現実世界に現れることになるかもしれません。」
本当に閉鎖空間が出来るとはな…スマン。古泉。今回は素直に謝恩の気持ちを込めよう。俺が何したか解らんがな。
「今回の涼宮さんの心理状況としては、苛立ちとモヤモヤとしている。そして自分の情けなさにも参っている、というような状態でしょうか。さらにかなり強い想いを秘めているようですね。」
なんだ?その強い想いというのは。
「あなた…何も気付きませんでしたか。あなたらしいといえばらしいですが、そこまでいくとご病気の域に達していますね。」
なんだそれは。なんか知らんが凄く腹立つぞ、お前。
「これは失礼。でもこの件に関してはあなたに気づいて貰い、判断して頂かないと何も始まらないことなので。とにかく此方としては大体の理由の見当はついています。それに対する対策というのは此方では何も出来ませんので。それは、あなたに一存する次第です。」
「結構……いや、我々もかなり苦戦してましてね。このままでは本当に現実世界に現れることになるかもしれません。」
本当に閉鎖空間が出来るとはな…スマン。古泉。今回は素直に謝恩の気持ちを込めよう。俺が何したか解らんがな。
「今回の涼宮さんの心理状況としては、苛立ちとモヤモヤとしている。そして自分の情けなさにも参っている、というような状態でしょうか。さらにかなり強い想いを秘めているようですね。」
なんだ?その強い想いというのは。
「あなた…何も気付きませんでしたか。あなたらしいといえばらしいですが、そこまでいくとご病気の域に達していますね。」
なんだそれは。なんか知らんが凄く腹立つぞ、お前。
「これは失礼。でもこの件に関してはあなたに気づいて貰い、判断して頂かないと何も始まらないことなので。とにかく此方としては大体の理由の見当はついています。それに対する対策というのは此方では何も出来ませんので。それは、あなたに一存する次第です。」
578: 2006/08/20(日) 01:51:47.47 ID:/fU5DZdSO
俺に?俺は超能力者ではないぞ。
「そんなことはわかっています。まぁ…でもある意味それに属するものといっても過言ではないでしょう。今までの経験上、あなたの行動によって何度か世界は救われたのは事実。」
俺はそれはなるべく夢だとして終わりたいんだ。お前はまた白馬に乗った王子様をやれというのか?
「……まぁそれに近いかも知れませんね。僕からのアドバイスは、自分の考えをハッキリさせ、決断すると言うことです。綺麗事みたいですいませんが。もしその結果がどうなろうと、僕はあなたを信じます。」
さすがゲOだ。俺を神扱いときた。信じれば救われるか。間違っても俺にときめくなよ。頼むから。
「それじゃ、僕も仲間のもとにいかなきゃなりません。それと、最後に。僕だって出来ればずっとマッガーレといってスプーンを曲げていたいのです。それ以外の事をさせているのはあなただということをちょっと自覚して欲しいものです。それじゃ。」
そう言って古泉は電話を切った。
なんかイヤミ度が三割増しぐらいだな。ええい、忌々しい。
強い想い?俺が何に気づけばいい?そして何を決断すればいい?自分のなかでクエスチョンが大量発生した。
ハルヒ。今日お前がなにを思って俺を呼び出した?奇妙な行動。奇妙な言動。その行為の脳裏にはなにがあるんだ?
……やはり俺の足りない頭ではこれ以上考えるのはムリというものがある。だが考え抜いて決断をしなければいけないのだろう。なぁ古泉、そうなんだろ?
「そんなことはわかっています。まぁ…でもある意味それに属するものといっても過言ではないでしょう。今までの経験上、あなたの行動によって何度か世界は救われたのは事実。」
俺はそれはなるべく夢だとして終わりたいんだ。お前はまた白馬に乗った王子様をやれというのか?
「……まぁそれに近いかも知れませんね。僕からのアドバイスは、自分の考えをハッキリさせ、決断すると言うことです。綺麗事みたいですいませんが。もしその結果がどうなろうと、僕はあなたを信じます。」
さすがゲOだ。俺を神扱いときた。信じれば救われるか。間違っても俺にときめくなよ。頼むから。
「それじゃ、僕も仲間のもとにいかなきゃなりません。それと、最後に。僕だって出来ればずっとマッガーレといってスプーンを曲げていたいのです。それ以外の事をさせているのはあなただということをちょっと自覚して欲しいものです。それじゃ。」
そう言って古泉は電話を切った。
なんかイヤミ度が三割増しぐらいだな。ええい、忌々しい。
強い想い?俺が何に気づけばいい?そして何を決断すればいい?自分のなかでクエスチョンが大量発生した。
ハルヒ。今日お前がなにを思って俺を呼び出した?奇妙な行動。奇妙な言動。その行為の脳裏にはなにがあるんだ?
……やはり俺の足りない頭ではこれ以上考えるのはムリというものがある。だが考え抜いて決断をしなければいけないのだろう。なぁ古泉、そうなんだろ?
580: 2006/08/20(日) 01:55:12.36 ID:/fU5DZdSO
長門…そうか。長門がいた。古泉は俺の問題みたいなことを言っていたが、せめてヒントみたいなのを貰ってもいいだろう。俺は長門宅の電話番号を呼び出し、電話してみた。
長門はワンコールいくかいかないかぐらいで電話に出て、逆にこっちが驚いた。
「待っていた。」
閉鎖空間のこと気づいてたのか?
「そう。それであなたが必要。」
古泉にも言われたよ。俺は何に気付き、さらに決断しなければならない?
「それは後で説明する。家に来て。」
わかった。すぐ近くにいるから、すぐ着くと思う。
「そう。」
俺はすぐに長門宅に向かった。幸い、ファミレスからの家までの帰路に長門宅を通るため、帰っていた俺は長門宅までそんなに距離がなかったため早く着いた。
マンションの入り口で長門を呼び出す。ここはオートロックだ。簡単にマンション内に侵入は出来ないのだ。
これは便利だが、知人が入るのに凄く厄介な作りだな。近代社会はいろいろ大変だねぇ。
朝比奈さんあたりがターゲットになるのだろうか?ロリコン親父達の好みには正にピッタリ当てはまるのがあの人だ。
…そう思うとなんか心配になってきたな…大丈夫かなあの人…。呼ばれたらのこのこ付いていきそうだ…。
長門に「どうぞ。」と言われ、俺はやっとの思いでマンションに入ることに許され、それからエレベーターを使い、長門宅の階まで上がってった。
長門宅に着き、インターホンを鳴らし、長門がドアを開けて俺を見上げた。
「待っていた。上がって。」
長門の話というのは電波話にしか聞こえないとき以外というのは本当に短い。
作文用紙をいっぱいにするのにどんだけかかるのだろう。
…いや、鶴屋さん並みに話す長門というのも…。
朝比奈さん並みにではどうか…それこそロリコン親父達のハートをガッと鷲掴みだ。
低身長、幼い顔、そして朝比奈さんみたいな怯え方ときたら…もうロリコン親父達は神業的に長門を持ち帰るだろう。
そんなことをしたら、その親父達の行方は知らずものになるだろうが。
っと…今はそんな事考えている暇はないんだった。俺は言われたように上がり、部屋で待っていた。
長門はお茶を煎れて前みたいに俺に勧めた。前の教訓を生かし、そんなに飲みすぎないようにした。
…それにしても長門が煎れるお茶というのもなかなかのものだ。朝比奈さんの煎れたお茶に負けないぐらいおいしい。今度部室でみんなに振る舞わせてみよう。
お茶を飲みすぎない内に本題に入ろう。ここで漏らしたりなんかしたら…小学校五年ぐらい以来か。そんなことはどうでもいい。
長門。お前の知っていることを教えて欲しい。
「全部。だけどあなたに全てを話す訳にはいかない。」
そうはしようとはしてない。さすがに俺も責任感じているからな。少しは自分で考えてるさ。
「そう。大体の事は理解してると思われる。だから私はヒントとして、あなたを涼宮ハルヒの心の奥底に連れていこうと思う。」
ハルヒの心…。
「あなたが今日涼宮ハルヒに誘われる時間の三十分手前の涼宮ハルヒの心へ連れて行く。」
今日のハルヒの心…俺には全く理解出来なかった今日のハルヒの行動、言動。その中か…。今日のハルヒの心に答えが隠されているわけか。
「あなたが嫌だというなら私は強制はしない。全てはあなたの意志。」
俺の行動で世界がどうなるかがかかっているらしいもんな。
全く持って俺は神様がどんな御方か知りたいね。なんでこんな平凡極まりない俺を人類の救世主みたいにするのかね。本当に全く持って迷惑極まりない。
俺は行くよ。団長様をご立腹させたのは俺らしいし、そもそもハルヒの今日の行動について興味があったんだ。
「…そう。」
そういうと長門は「目を瞑って。」と言いそれに俺が従うといつもの高速呪文を唱えだした。
目を開けると…ここは…ハルヒの部屋か。何度か訪れたことがあるのでわかる。ハルヒの心の中と言っていたから、これはハルヒ視点となるのか。おっ。声が聞こえてくる。
「あぁ~どうしよう!これじゃ映画遅れるわ!でも今から呼び出したところでアイツがそんなに早く来るわけないし…」
「とりあえず準備はしたものの、アイツ映画なんて見たがるのかしら…とりあえず呼び出して、強引な展開でアイツを映画に誘い込みましょう。」
「でもそれでウザがられたらどうしよう…うん!意識しないでいつもの私でやればいいのよ!そうよ!」
コイツ、化粧までして気合い入れてたのか。スマンなハルヒ。俺は気づかなかったよ。
「今から5分以内に駅前集合!5分以上かかったら罰金だからね!」
これは俺に電話した時のか。なるほど。威勢がいい具合に言ってるわ。
そのあとハルヒは急いで駅前に向かった。ハルヒの家から駅はなかなか近いので、着くのも早かった。
「アイツ来るかな…でもなんだかんだいって今まで来なかったことないし、大丈夫でしょう…多分…。」
なんかハルヒに似合わぬ弱気だな。やっぱり何かおかしいかもな。
ハルヒが駅に着いて数十分後、俺が駅前に到着した。
「来てくれた…よかった。」
ん?コイツそんなこと思う奴なのか?
「遅い!5分以内って言ったでしょ!?罰金!」
「アイツにしては結構早く来たじゃない。罰金って言ったけど、喫茶店では私が奢ってあげよう!無理やり誘ったしね…」
っ!アイツそれで喫茶店でなにか物言いたそうにしてたのか!
アイツに思いやり精神というものが存在していたということに驚いた。パソ研からパソコンを強奪したときも実は罪悪感を感じていたのかも知れない。
喫茶店にて。俺とハルヒはそれぞれのものを頼んでいた。
「今日はSOS団としてではなく、私が行きたいところに付き合ってもらうわ!」
「ってキョン聞いてない…コイツ私と二人だけだから興味なしって感じなのかしら…みくるちゃんに会いたいからきたのかも…。それじゃいやに決まってるわよね…。」
コイツこんなことを…
「キョン!ちょっとキョン!聞いてるの!?」
ん?
「だから!私はっ…今日は私の行くところに付き合ってもらおうと…」
「これで断られたら…なんだか胸がいたいわ…。」
Okわかった。んでどこなんだ行きたいところって?
「えっ?いいの?」
「よかった…本当によかった…。ヤバい。少し泣きそうだわ。これぐらいで泣くもんか!もしここで泣いたらキョンが心配しちゃう…」
なんだなんださっきから?俺を敬うような言葉が出てくるな。
なに?俺をそんなに大事にしてたのか。そりゃあ有り難いよ。いつか大どんでん返しがきそうで怖いが。
喫茶店での支払い。ハルヒが奢る気満々だったのを知りもせず、俺は料金を払っていた。
「えっ…ここは私が…あぁ~キョンってなんでそんな優しいことするのよ!このバカキョン!」
親切でやったのにバカキョン扱いか。俺は約束をきちんと守るしっかり者なのさ。俺以上のしっかり者がいたら教えてくれ。俺と交換してやるから。これ以上ややこしいことに巻き込まれるのはごめんなんだ。
「映画までまだ時間あるのよね…キョンどこなら飽きそうにないかしら…あっ、キョンゲーム好きだったわね。それじゃあ…」
俺とハルヒはゲーセンに来ていた。
「キョン!あれやるわよ!」
ハルヒは昼間やった拳銃のゲームを指指した。俺はへいへいといった感じでゲームに金を入れる。確かに思ってたがそう見えるんだな。
少し自分の感情を出しすぎないように努力しよう。そう決心してみた。
「あっ…なんでまたお金先に入れちゃうのよ…今回ぐらいは自分で…」
?どうした?始まるぞ?
「あっ、うん…。」
「せめてありがとうぐらい言わせなさいよ!なんでいつも…だから~っ!」
ん?何か言ったらしいが聞こえなかったな?心の声だからはっきり聞こえるはずなんだけどな…
その後俺はゲームオーバー。ハルヒが一人でやる形に。
「コイツ私がやってるの見てるだけじゃ飽きちゃうわよね…でも終わらせたくないし…。さっさとゲームを終わらせましょう。」
いやいや、俺はハルヒのゲーム姿はとても面白かったんだがな。爽快にクリアしてくれるからな。見てても飽きないってもんだ。
ある程度勝負も疲れてきたころ、
「次は何やろうかしらねぇ~?キョンが好きそうなの何かしら…っ!?あれは…でも一緒に撮るなんて私とじゃあイヤだもんねぇ…でも…。」
ハルヒは強引に俺の手を引っ張りプリクラの場所へ引き連れた。
なんでまたプリクラとやらなんだ?
「やっぱりイヤなのかしら…」
「いっ、いいい、いいでしょっ!別にぃっ!?拒否ったら罰金よ罰金!!」
あぁそうかい。
「え?これって、OKってこと?よ、よかった…。でもいやいやかも…。」
なんなんだコイツは?さっきから俺のことを気配りばっかしやがって。
いや、まんざらいやな訳ではないが、それがハルヒとなると逆に怖いものがあるんだが。
「へぇ~。壁紙が選べるんだ…。光を調整?スゴいわねぇ~。」
これはハルヒが一人でなんかしてた時だな?
「あっ、落書きなんて出来るんだ…キョンにバレないようにいっぱい書いちゃお!」
ん?やっぱ書いてたのか?…もしや俺の額に肉とか眉毛を太くしたりとかしてたんじゃないだろうな?
そうだとしたら、俺はハルヒが寝てる間に仕返しとして、顔を真っ白に染めてやる。
起きたらさりげにライトを当ててやるんだ。…このネタがわかるやつはいるのだろうか?今や時の人だもんな。
「ちょっとキョン!撮るわよ!さいっこうな笑顔で笑いなさいよ!」
「これは私の素直な気持ち。嫌な顔して撮りたくなんてないもの…」
プリクラが撮り終わり、ハルヒに「ちょっと私が落書き書いてるからあんたは外出てなさい!」とのことなんで俺は素直に外に出てった。
「さすがにキョンに見せるわけにはいかないものね…キョンに渡す分も考えて、全部落書きするわけにはいかないわね。」
おっ…なんだ?急に場面が変わったぞ?
「ちょっ、ちょっと失敗しちゃったから捨てちゃったの!それより、私とのツーショットなんてめったにないわよ?永久保存しときなさい!」
急にプリクラを渡される所に場面が飛んでいた。何故だ?
「あんなの見せられる訳ないじゃない…これはムリよ…。」
やっぱ持ってるのかコイツ。なにかいたんだ…本当に俺の顔に落書きだったら俺はあの作戦を実行するぞ。
その顔でうちのシャミセンでも持たせとけば雰囲気バッチリだ。
「ちょうどいい頃合いね!次は映画行くわよ!」
「言ってみたけど…本当に来てくれるかしら。」
今からか?順番が逆じゃないのか?
「えっ…やっぱり迷惑かしら…なんでその時間に呼ばなかったとか思ってるわよね…」
御名答。さすが涼宮さんですねぇ。げっ。古泉がうつったか。やばいやばい。俺も古泉に惹かれつつあるのか?いやそんなはずはない!
もしそうだったら俺は躊躇わずに速攻で古泉を殺すかも知れない。
さすがにそれは冗談だ。閉鎖空間をどうにか出来るのはお前だけだもんな。なんども言うが、ご褒美にケツは差し出さんぞ。
「でも早く会いたかったんだからしょうがないじゃないの!」
…はい?俺に早く会いたいから?ハルヒがどっかの純情少女みたいなことを言ったぞ?コイツの心までおかしいのか今日は?
「時間が会わなかったのよ!いやなら別にいいわよ…」
「私にキョンを縛る事なんて出来ないし…」
いや行こうぜ。今日はお前の行きたい所に付き合ってるんだ。最後までついていきますよ団長様。
「えっ…あっ、わ、わかってるじゃない!それでこそSOS団の団員よ!」
「本当にっ!?キョン…ありがとう!だから私が~っ!」
また言葉が飛んだ。なんなんだ?感覚的には一言だな?これが古泉の言う俺の気づくべきことなのか?…俺にはまだわからん。もう少しヒントを与えてくれよ、長門よ。
映画館につき、ハルヒはチケット売り場の辺りでなにかやっている。俺は先に映画館の中へ入っていった。
やがてハルヒも映画館の中に入っていき、俺が手招きして席に誘導した。そこで俺がハルヒにジュースを渡した。
「あっ…ありがとう」
「なんでキョンってこんな時ばっか気が利くの…私が申し訳なさすぎるじゃない…」
うんうん。ハルヒに申し訳ないという感情があったのか。実はいい奴なんじゃないか?
…コンピ研の奴らはそうは思えないだろうが。
そして舞台が暗くなり映画が始まった。
ここで俺は驚愕したものだ。恋愛ものだったんだからな。
なんで恋愛ものなんか?と俺が尋ねた。
「チケットが余ってたのよ!」
「やっぱり私が恋愛ものなんてみるなんて想ってなかったみたいね…。チケットはちゃんと買ったんだから!私の~。」
おい、またか。なんでそう隠したがるんだ?少しは露出してみたらどうだ?性的な意味で。
…もちろん冗談だ。ここら辺は誤解しないように。俺が変態扱いされると、それに乗じて喜んで古泉が襲ってくるかもしれん。
…こういうのを被害妄想っていうのかも知れない。でも古泉はゲイだ。十分に有り得る。
アイツ、チケットが余ったなんてやっぱり嘘か。嘘ついてまで俺を映画に誘う理由ってなんだ?
…もしかしたら?いいや!それは絶対ない!相手は常識を超越して、時には神にまで崇められた超変人、いや、スーパーヘン人涼宮ハルヒだ。
いくら一時期とっかえひっかえだったとしても、アイツから望んで付き合ったことなんてない!
アイツの求めるのは宇宙人、超能力者、未来からきた使者など常識的に考えたらいない奴ばかりだ。…実際居たのだが。古泉が超能力者だって気づいたら速攻くっつきそうなもんだ。
古泉は断りそうだけどな。僕の趣味じゃないんで。とか言って。
それなのに、この超凡人、スーパーボン人キョンがハルヒに好かれる?まず有り得ない、絶対に。
自分で考えたのがバカバカしくなるほど自分の考えを一蹴した。実際にそうなのだから仕方がない。
その後、場面はクライマックス、男性の死の場面だ。
その場面の前は都合よく飛んでいた。まぁ飛んだ理由は他にあるのだろうが、一回見た映画をもう一度見るのはちょっと厳しい。
それもつまらないと俺が感じてしまったものなのだから、生き地獄と言えるかもしれない。…スマン、映画の作者よ。それはいくらなんでも大げさ過ぎた。
ここでまた驚いたな。ハルヒが泣いていたのだ。
あっ…何回驚いたか数えておくんだったな…。まぁ過ぎたことは仕方がないのさ、この世の中は。
「これがもしキョンだったら…私はどうするのだろう…?」
おいおい。死ぬ人に俺を照らし会わせるな。俺はしばらくは生きて、極々フツーに生きていくつもりなんだ。勝手に殺すのは頂けないねぇ。
「本当にキョンが死んだら…私…私…。」
それで泣いてたのか!?コイツは?俺が死んでなぜ悲しむ?…まぁ無関心なのはそれはそれでムカつくが。だけどそれに照らし会わせるのが俺?なぜ俺なんだ?
…もしかしたら俺だから悲しむのか?
いや、さっきその考えは一蹴した筈だ。だがまた新たな謎の要素が出てきたのだ。
だが…そうだとしたら妙に今までの行動などに納得がいく…
だがまだ確定したわけじゃない。たまたまかも知れない。きっとそうだ。もう少し長門のヒントを探ってからもう一度考えることにする。
映画が終わり、ハルヒはすぐにトイレに向かった。俺が見てたとき、結構泣いてたからな。最初は気づかなかった化粧も取れているかもな。
それにしても化粧して女は変わるものだが、それに気づかないのは元がよっぽどいいからなんだろうな。
…俺がよっぽど鈍感って線もある。自分としては勘はいいほうだと思うのだが、実際としてはわからんね、俺には。
『うわ…私かなり泣いてたのね…目が真っ赤に腫れて充血してる…こんなんじゃキョンに顔見せられないじゃない…とりあえず顔洗わないと…』
『私なんでこんな泣いたのかしら…こんな映画ありきたりじゃない。それなのに…キョンなんかと重ねるんじゃなかった…』
『でももし本当にこのままの状況でキョンが死んだら…私は間違えなく凄く後悔する。でも…そう簡単に~伝えられる訳ないじゃない!』
また飛んだか。…もうなんとなく飛んでいる部分の言葉が分かってきた気がする…
だが解せない部分が沢山あり過ぎる。何故俺?ハルヒは普通な事が嫌いなのになぜ?
これが古泉の言っていた、自分の考えをハッキリさせ、決断する、って奴なのか。なかなか難しい事を言うな?俺に好意があるなら素直に答えを教えて欲しかったぜ。
しばらくしてハルヒは俺のところへ戻って来た。結構待たされたものだったな。
目の腫れなどを落ち着かせるためとは大体分かっていたから、そのことには何も言わずに感想を尋ねたんだったな。
「なんかあんまり面白くなかったわね。あんなベタな展開、なんも面白くなかったわ。」
『アイツ、私が泣いてたなんて気づいてないわよね?』
いいえ、それはトムで…じゃなかった。気付いてたさ。その姿に見とれてた事も気づかないんだもんな。
『私が泣いてたなんて知ったらどう思うのかしら?…変な奴ぐらいに思われるのかしら…
でも、それはあんたが悪いんだからね!妄想でも勝手に死んだりするから…また泣きそう。忘れよう!忘れたい…。』
勝手に妄想されて、勝手に悪者にされて、それで死んだら泣きそうときたか。本当に忙しい奴だわ。
でもそれは俺のことが…それとも団員が減るから?古泉でも泣くのか?
だけど…俺は…?ハルヒがそうだと仮定して、俺はどう決断する?
…これか。古泉が言ってた決断ってのは…。
だんだん謎が解けてきた。さすが長門だ。俺一人じゃ一生かかってもわからないようなことだった。
古泉は結果がどうなろうと俺を信じるって言ってたな。最初はゲイ人の戯言かと思ったが実際は違ったな。スマンな古泉。
だが世界に最善なのが、有無を言わずにハルヒの気持ちに従うことだ。きっとそうなんだろう。
ここでハルヒをふってでもみろ。世界は瞬く間にあの気持ちの悪い神人だらけの世界になる。
あるいは世界という概念が無くなるな。
それは避けなければならない。俺もまだスーパーボン人キョンとして生きていきたいからな。
だが…俺の本当の気持ちは?ハルヒをふることが出来るのか?…わからない。
俺にとってのハルヒとはなんだ?後ろの席の女?友達?団長?…本当にそれだけなのか?なんで俺にもわからない?自分のことの筈なのだが…何故?
今回は自問自答という訳にはいかず、自分に沢山の問をぶつけていくだけだった。今までの問いに何一つ答えられていない俺は…自分が恨めしい。モヤモヤが積み重なっていく。それが辛い。そして自分に対して苛立ってくる。
…これがハルヒの今の心境。それが閉鎖空間を生み出した理由。ハルヒが相当悩んでいるのだなと、自分の身をもって実感できている。クソっ、俺は本当にちっぽけな人間だ。
俺はファミレスに誘っていた。ハルヒが何も食わなかったのが不思議でしょうがなく、心配してたためと、自分自身の腹の虫が秋の田舎の鈴虫ぐらいうるさかったためである。
この提案にハルヒも同意したため、少しは何か食べるだろうと安心しきっていたのだが…
俺は普通に食料を注文したのだが、ハルヒはミルクティだけ。そら心配もしたさ。アイツは長門と勝負をはれるほどの食欲の持ち主と知っていたからな。それが何も食わないんだ。知っていたら心配しないバカはいない。
長門はワンコールいくかいかないかぐらいで電話に出て、逆にこっちが驚いた。
「待っていた。」
閉鎖空間のこと気づいてたのか?
「そう。それであなたが必要。」
古泉にも言われたよ。俺は何に気付き、さらに決断しなければならない?
「それは後で説明する。家に来て。」
わかった。すぐ近くにいるから、すぐ着くと思う。
「そう。」
俺はすぐに長門宅に向かった。幸い、ファミレスからの家までの帰路に長門宅を通るため、帰っていた俺は長門宅までそんなに距離がなかったため早く着いた。
マンションの入り口で長門を呼び出す。ここはオートロックだ。簡単にマンション内に侵入は出来ないのだ。
これは便利だが、知人が入るのに凄く厄介な作りだな。近代社会はいろいろ大変だねぇ。
朝比奈さんあたりがターゲットになるのだろうか?ロリコン親父達の好みには正にピッタリ当てはまるのがあの人だ。
…そう思うとなんか心配になってきたな…大丈夫かなあの人…。呼ばれたらのこのこ付いていきそうだ…。
長門に「どうぞ。」と言われ、俺はやっとの思いでマンションに入ることに許され、それからエレベーターを使い、長門宅の階まで上がってった。
長門宅に着き、インターホンを鳴らし、長門がドアを開けて俺を見上げた。
「待っていた。上がって。」
長門の話というのは電波話にしか聞こえないとき以外というのは本当に短い。
作文用紙をいっぱいにするのにどんだけかかるのだろう。
…いや、鶴屋さん並みに話す長門というのも…。
朝比奈さん並みにではどうか…それこそロリコン親父達のハートをガッと鷲掴みだ。
低身長、幼い顔、そして朝比奈さんみたいな怯え方ときたら…もうロリコン親父達は神業的に長門を持ち帰るだろう。
そんなことをしたら、その親父達の行方は知らずものになるだろうが。
っと…今はそんな事考えている暇はないんだった。俺は言われたように上がり、部屋で待っていた。
長門はお茶を煎れて前みたいに俺に勧めた。前の教訓を生かし、そんなに飲みすぎないようにした。
…それにしても長門が煎れるお茶というのもなかなかのものだ。朝比奈さんの煎れたお茶に負けないぐらいおいしい。今度部室でみんなに振る舞わせてみよう。
お茶を飲みすぎない内に本題に入ろう。ここで漏らしたりなんかしたら…小学校五年ぐらい以来か。そんなことはどうでもいい。
長門。お前の知っていることを教えて欲しい。
「全部。だけどあなたに全てを話す訳にはいかない。」
そうはしようとはしてない。さすがに俺も責任感じているからな。少しは自分で考えてるさ。
「そう。大体の事は理解してると思われる。だから私はヒントとして、あなたを涼宮ハルヒの心の奥底に連れていこうと思う。」
ハルヒの心…。
「あなたが今日涼宮ハルヒに誘われる時間の三十分手前の涼宮ハルヒの心へ連れて行く。」
今日のハルヒの心…俺には全く理解出来なかった今日のハルヒの行動、言動。その中か…。今日のハルヒの心に答えが隠されているわけか。
「あなたが嫌だというなら私は強制はしない。全てはあなたの意志。」
俺の行動で世界がどうなるかがかかっているらしいもんな。
全く持って俺は神様がどんな御方か知りたいね。なんでこんな平凡極まりない俺を人類の救世主みたいにするのかね。本当に全く持って迷惑極まりない。
俺は行くよ。団長様をご立腹させたのは俺らしいし、そもそもハルヒの今日の行動について興味があったんだ。
「…そう。」
そういうと長門は「目を瞑って。」と言いそれに俺が従うといつもの高速呪文を唱えだした。
目を開けると…ここは…ハルヒの部屋か。何度か訪れたことがあるのでわかる。ハルヒの心の中と言っていたから、これはハルヒ視点となるのか。おっ。声が聞こえてくる。
「あぁ~どうしよう!これじゃ映画遅れるわ!でも今から呼び出したところでアイツがそんなに早く来るわけないし…」
「とりあえず準備はしたものの、アイツ映画なんて見たがるのかしら…とりあえず呼び出して、強引な展開でアイツを映画に誘い込みましょう。」
「でもそれでウザがられたらどうしよう…うん!意識しないでいつもの私でやればいいのよ!そうよ!」
コイツ、化粧までして気合い入れてたのか。スマンなハルヒ。俺は気づかなかったよ。
「今から5分以内に駅前集合!5分以上かかったら罰金だからね!」
これは俺に電話した時のか。なるほど。威勢がいい具合に言ってるわ。
そのあとハルヒは急いで駅前に向かった。ハルヒの家から駅はなかなか近いので、着くのも早かった。
「アイツ来るかな…でもなんだかんだいって今まで来なかったことないし、大丈夫でしょう…多分…。」
なんかハルヒに似合わぬ弱気だな。やっぱり何かおかしいかもな。
ハルヒが駅に着いて数十分後、俺が駅前に到着した。
「来てくれた…よかった。」
ん?コイツそんなこと思う奴なのか?
「遅い!5分以内って言ったでしょ!?罰金!」
「アイツにしては結構早く来たじゃない。罰金って言ったけど、喫茶店では私が奢ってあげよう!無理やり誘ったしね…」
っ!アイツそれで喫茶店でなにか物言いたそうにしてたのか!
アイツに思いやり精神というものが存在していたということに驚いた。パソ研からパソコンを強奪したときも実は罪悪感を感じていたのかも知れない。
喫茶店にて。俺とハルヒはそれぞれのものを頼んでいた。
「今日はSOS団としてではなく、私が行きたいところに付き合ってもらうわ!」
「ってキョン聞いてない…コイツ私と二人だけだから興味なしって感じなのかしら…みくるちゃんに会いたいからきたのかも…。それじゃいやに決まってるわよね…。」
コイツこんなことを…
「キョン!ちょっとキョン!聞いてるの!?」
ん?
「だから!私はっ…今日は私の行くところに付き合ってもらおうと…」
「これで断られたら…なんだか胸がいたいわ…。」
Okわかった。んでどこなんだ行きたいところって?
「えっ?いいの?」
「よかった…本当によかった…。ヤバい。少し泣きそうだわ。これぐらいで泣くもんか!もしここで泣いたらキョンが心配しちゃう…」
なんだなんださっきから?俺を敬うような言葉が出てくるな。
なに?俺をそんなに大事にしてたのか。そりゃあ有り難いよ。いつか大どんでん返しがきそうで怖いが。
喫茶店での支払い。ハルヒが奢る気満々だったのを知りもせず、俺は料金を払っていた。
「えっ…ここは私が…あぁ~キョンってなんでそんな優しいことするのよ!このバカキョン!」
親切でやったのにバカキョン扱いか。俺は約束をきちんと守るしっかり者なのさ。俺以上のしっかり者がいたら教えてくれ。俺と交換してやるから。これ以上ややこしいことに巻き込まれるのはごめんなんだ。
「映画までまだ時間あるのよね…キョンどこなら飽きそうにないかしら…あっ、キョンゲーム好きだったわね。それじゃあ…」
俺とハルヒはゲーセンに来ていた。
「キョン!あれやるわよ!」
ハルヒは昼間やった拳銃のゲームを指指した。俺はへいへいといった感じでゲームに金を入れる。確かに思ってたがそう見えるんだな。
少し自分の感情を出しすぎないように努力しよう。そう決心してみた。
「あっ…なんでまたお金先に入れちゃうのよ…今回ぐらいは自分で…」
?どうした?始まるぞ?
「あっ、うん…。」
「せめてありがとうぐらい言わせなさいよ!なんでいつも…だから~っ!」
ん?何か言ったらしいが聞こえなかったな?心の声だからはっきり聞こえるはずなんだけどな…
その後俺はゲームオーバー。ハルヒが一人でやる形に。
「コイツ私がやってるの見てるだけじゃ飽きちゃうわよね…でも終わらせたくないし…。さっさとゲームを終わらせましょう。」
いやいや、俺はハルヒのゲーム姿はとても面白かったんだがな。爽快にクリアしてくれるからな。見てても飽きないってもんだ。
ある程度勝負も疲れてきたころ、
「次は何やろうかしらねぇ~?キョンが好きそうなの何かしら…っ!?あれは…でも一緒に撮るなんて私とじゃあイヤだもんねぇ…でも…。」
ハルヒは強引に俺の手を引っ張りプリクラの場所へ引き連れた。
なんでまたプリクラとやらなんだ?
「やっぱりイヤなのかしら…」
「いっ、いいい、いいでしょっ!別にぃっ!?拒否ったら罰金よ罰金!!」
あぁそうかい。
「え?これって、OKってこと?よ、よかった…。でもいやいやかも…。」
なんなんだコイツは?さっきから俺のことを気配りばっかしやがって。
いや、まんざらいやな訳ではないが、それがハルヒとなると逆に怖いものがあるんだが。
「へぇ~。壁紙が選べるんだ…。光を調整?スゴいわねぇ~。」
これはハルヒが一人でなんかしてた時だな?
「あっ、落書きなんて出来るんだ…キョンにバレないようにいっぱい書いちゃお!」
ん?やっぱ書いてたのか?…もしや俺の額に肉とか眉毛を太くしたりとかしてたんじゃないだろうな?
そうだとしたら、俺はハルヒが寝てる間に仕返しとして、顔を真っ白に染めてやる。
起きたらさりげにライトを当ててやるんだ。…このネタがわかるやつはいるのだろうか?今や時の人だもんな。
「ちょっとキョン!撮るわよ!さいっこうな笑顔で笑いなさいよ!」
「これは私の素直な気持ち。嫌な顔して撮りたくなんてないもの…」
プリクラが撮り終わり、ハルヒに「ちょっと私が落書き書いてるからあんたは外出てなさい!」とのことなんで俺は素直に外に出てった。
「さすがにキョンに見せるわけにはいかないものね…キョンに渡す分も考えて、全部落書きするわけにはいかないわね。」
おっ…なんだ?急に場面が変わったぞ?
「ちょっ、ちょっと失敗しちゃったから捨てちゃったの!それより、私とのツーショットなんてめったにないわよ?永久保存しときなさい!」
急にプリクラを渡される所に場面が飛んでいた。何故だ?
「あんなの見せられる訳ないじゃない…これはムリよ…。」
やっぱ持ってるのかコイツ。なにかいたんだ…本当に俺の顔に落書きだったら俺はあの作戦を実行するぞ。
その顔でうちのシャミセンでも持たせとけば雰囲気バッチリだ。
「ちょうどいい頃合いね!次は映画行くわよ!」
「言ってみたけど…本当に来てくれるかしら。」
今からか?順番が逆じゃないのか?
「えっ…やっぱり迷惑かしら…なんでその時間に呼ばなかったとか思ってるわよね…」
御名答。さすが涼宮さんですねぇ。げっ。古泉がうつったか。やばいやばい。俺も古泉に惹かれつつあるのか?いやそんなはずはない!
もしそうだったら俺は躊躇わずに速攻で古泉を殺すかも知れない。
さすがにそれは冗談だ。閉鎖空間をどうにか出来るのはお前だけだもんな。なんども言うが、ご褒美にケツは差し出さんぞ。
「でも早く会いたかったんだからしょうがないじゃないの!」
…はい?俺に早く会いたいから?ハルヒがどっかの純情少女みたいなことを言ったぞ?コイツの心までおかしいのか今日は?
「時間が会わなかったのよ!いやなら別にいいわよ…」
「私にキョンを縛る事なんて出来ないし…」
いや行こうぜ。今日はお前の行きたい所に付き合ってるんだ。最後までついていきますよ団長様。
「えっ…あっ、わ、わかってるじゃない!それでこそSOS団の団員よ!」
「本当にっ!?キョン…ありがとう!だから私が~っ!」
また言葉が飛んだ。なんなんだ?感覚的には一言だな?これが古泉の言う俺の気づくべきことなのか?…俺にはまだわからん。もう少しヒントを与えてくれよ、長門よ。
映画館につき、ハルヒはチケット売り場の辺りでなにかやっている。俺は先に映画館の中へ入っていった。
やがてハルヒも映画館の中に入っていき、俺が手招きして席に誘導した。そこで俺がハルヒにジュースを渡した。
「あっ…ありがとう」
「なんでキョンってこんな時ばっか気が利くの…私が申し訳なさすぎるじゃない…」
うんうん。ハルヒに申し訳ないという感情があったのか。実はいい奴なんじゃないか?
…コンピ研の奴らはそうは思えないだろうが。
そして舞台が暗くなり映画が始まった。
ここで俺は驚愕したものだ。恋愛ものだったんだからな。
なんで恋愛ものなんか?と俺が尋ねた。
「チケットが余ってたのよ!」
「やっぱり私が恋愛ものなんてみるなんて想ってなかったみたいね…。チケットはちゃんと買ったんだから!私の~。」
おい、またか。なんでそう隠したがるんだ?少しは露出してみたらどうだ?性的な意味で。
…もちろん冗談だ。ここら辺は誤解しないように。俺が変態扱いされると、それに乗じて喜んで古泉が襲ってくるかもしれん。
…こういうのを被害妄想っていうのかも知れない。でも古泉はゲイだ。十分に有り得る。
アイツ、チケットが余ったなんてやっぱり嘘か。嘘ついてまで俺を映画に誘う理由ってなんだ?
…もしかしたら?いいや!それは絶対ない!相手は常識を超越して、時には神にまで崇められた超変人、いや、スーパーヘン人涼宮ハルヒだ。
いくら一時期とっかえひっかえだったとしても、アイツから望んで付き合ったことなんてない!
アイツの求めるのは宇宙人、超能力者、未来からきた使者など常識的に考えたらいない奴ばかりだ。…実際居たのだが。古泉が超能力者だって気づいたら速攻くっつきそうなもんだ。
古泉は断りそうだけどな。僕の趣味じゃないんで。とか言って。
それなのに、この超凡人、スーパーボン人キョンがハルヒに好かれる?まず有り得ない、絶対に。
自分で考えたのがバカバカしくなるほど自分の考えを一蹴した。実際にそうなのだから仕方がない。
その後、場面はクライマックス、男性の死の場面だ。
その場面の前は都合よく飛んでいた。まぁ飛んだ理由は他にあるのだろうが、一回見た映画をもう一度見るのはちょっと厳しい。
それもつまらないと俺が感じてしまったものなのだから、生き地獄と言えるかもしれない。…スマン、映画の作者よ。それはいくらなんでも大げさ過ぎた。
ここでまた驚いたな。ハルヒが泣いていたのだ。
あっ…何回驚いたか数えておくんだったな…。まぁ過ぎたことは仕方がないのさ、この世の中は。
「これがもしキョンだったら…私はどうするのだろう…?」
おいおい。死ぬ人に俺を照らし会わせるな。俺はしばらくは生きて、極々フツーに生きていくつもりなんだ。勝手に殺すのは頂けないねぇ。
「本当にキョンが死んだら…私…私…。」
それで泣いてたのか!?コイツは?俺が死んでなぜ悲しむ?…まぁ無関心なのはそれはそれでムカつくが。だけどそれに照らし会わせるのが俺?なぜ俺なんだ?
…もしかしたら俺だから悲しむのか?
いや、さっきその考えは一蹴した筈だ。だがまた新たな謎の要素が出てきたのだ。
だが…そうだとしたら妙に今までの行動などに納得がいく…
だがまだ確定したわけじゃない。たまたまかも知れない。きっとそうだ。もう少し長門のヒントを探ってからもう一度考えることにする。
映画が終わり、ハルヒはすぐにトイレに向かった。俺が見てたとき、結構泣いてたからな。最初は気づかなかった化粧も取れているかもな。
それにしても化粧して女は変わるものだが、それに気づかないのは元がよっぽどいいからなんだろうな。
…俺がよっぽど鈍感って線もある。自分としては勘はいいほうだと思うのだが、実際としてはわからんね、俺には。
『うわ…私かなり泣いてたのね…目が真っ赤に腫れて充血してる…こんなんじゃキョンに顔見せられないじゃない…とりあえず顔洗わないと…』
『私なんでこんな泣いたのかしら…こんな映画ありきたりじゃない。それなのに…キョンなんかと重ねるんじゃなかった…』
『でももし本当にこのままの状況でキョンが死んだら…私は間違えなく凄く後悔する。でも…そう簡単に~伝えられる訳ないじゃない!』
また飛んだか。…もうなんとなく飛んでいる部分の言葉が分かってきた気がする…
だが解せない部分が沢山あり過ぎる。何故俺?ハルヒは普通な事が嫌いなのになぜ?
これが古泉の言っていた、自分の考えをハッキリさせ、決断する、って奴なのか。なかなか難しい事を言うな?俺に好意があるなら素直に答えを教えて欲しかったぜ。
しばらくしてハルヒは俺のところへ戻って来た。結構待たされたものだったな。
目の腫れなどを落ち着かせるためとは大体分かっていたから、そのことには何も言わずに感想を尋ねたんだったな。
「なんかあんまり面白くなかったわね。あんなベタな展開、なんも面白くなかったわ。」
『アイツ、私が泣いてたなんて気づいてないわよね?』
いいえ、それはトムで…じゃなかった。気付いてたさ。その姿に見とれてた事も気づかないんだもんな。
『私が泣いてたなんて知ったらどう思うのかしら?…変な奴ぐらいに思われるのかしら…
でも、それはあんたが悪いんだからね!妄想でも勝手に死んだりするから…また泣きそう。忘れよう!忘れたい…。』
勝手に妄想されて、勝手に悪者にされて、それで死んだら泣きそうときたか。本当に忙しい奴だわ。
でもそれは俺のことが…それとも団員が減るから?古泉でも泣くのか?
だけど…俺は…?ハルヒがそうだと仮定して、俺はどう決断する?
…これか。古泉が言ってた決断ってのは…。
だんだん謎が解けてきた。さすが長門だ。俺一人じゃ一生かかってもわからないようなことだった。
古泉は結果がどうなろうと俺を信じるって言ってたな。最初はゲイ人の戯言かと思ったが実際は違ったな。スマンな古泉。
だが世界に最善なのが、有無を言わずにハルヒの気持ちに従うことだ。きっとそうなんだろう。
ここでハルヒをふってでもみろ。世界は瞬く間にあの気持ちの悪い神人だらけの世界になる。
あるいは世界という概念が無くなるな。
それは避けなければならない。俺もまだスーパーボン人キョンとして生きていきたいからな。
だが…俺の本当の気持ちは?ハルヒをふることが出来るのか?…わからない。
俺にとってのハルヒとはなんだ?後ろの席の女?友達?団長?…本当にそれだけなのか?なんで俺にもわからない?自分のことの筈なのだが…何故?
今回は自問自答という訳にはいかず、自分に沢山の問をぶつけていくだけだった。今までの問いに何一つ答えられていない俺は…自分が恨めしい。モヤモヤが積み重なっていく。それが辛い。そして自分に対して苛立ってくる。
…これがハルヒの今の心境。それが閉鎖空間を生み出した理由。ハルヒが相当悩んでいるのだなと、自分の身をもって実感できている。クソっ、俺は本当にちっぽけな人間だ。
俺はファミレスに誘っていた。ハルヒが何も食わなかったのが不思議でしょうがなく、心配してたためと、自分自身の腹の虫が秋の田舎の鈴虫ぐらいうるさかったためである。
この提案にハルヒも同意したため、少しは何か食べるだろうと安心しきっていたのだが…
俺は普通に食料を注文したのだが、ハルヒはミルクティだけ。そら心配もしたさ。アイツは長門と勝負をはれるほどの食欲の持ち主と知っていたからな。それが何も食わないんだ。知っていたら心配しないバカはいない。
589: 2006/08/20(日) 02:09:13.84 ID:/fU5DZdSO
お前昼間からおかしいぞ?なんか体の調子でもおかしいのか?
俺はハルヒに尋ねた。だがこれからが問題になってしまったのだ。
「えっ、だっ、大丈夫よ!なんでもないわよ!そんな心配そうにしないでよ…」
『そんなこと言ったって私…いろいろ考え過ぎて胸が苦しくて何も喉が受け付けないぐらいなのに…
昼間だって、これからが不安で何も受け付けなかったのに…』
そんなこと言ったってだな。お前がなにか食べないなんておかしいじゃないか?あんなに食欲旺盛なお前が?
「なんでもないって言ってるでしょう!!」
『…またやっちゃった。なんで私ってこう素直になれないんだろう…出来ることなら~を伝えたい。だけど素直になれない…なんで?』
『相手がキョンだから?…違う。それは私の弱さ。今まで絶対に他人に見せなかった自分の弱さ。見せなかったからこそ、もう後戻りは出来ない。』
『でもキョンはいつも付いてきてくれた。私が無茶いってもどんなときでも。あの夢でも、いてくれたのはキョンだった。』
『この人になら私は…』
『それなのに、また私は彼を突き放した。心配してくれたキョンを突き放した。自分が素直になればいいだけなのに…』
『私はこの自分の情けなさに苛立ちを覚える。自分の素直な気持ちを伝えられなくてモヤモヤとしたものが心を覆い被さっている。』
『今日こそは、せめて今日だけは素直になろうと決意したつもりなのに…なんで私という人間は…』
『私は普通になるのが嫌で、ちっぽけなのが嫌で今まで色々してきた。全ての人を突き飛ばして。だけど…今は彼という人間も、さらには他のSOS団の人間も突き放したくなんかない!絶対に遠くに消えていってしまうのはもう嫌だ!』
『今私は、自分の弱さに抗うだけの強さが欲しい。そして彼に想いを素直に言えるだけの強さが…』
ハルヒ…お前は…っ…………
気づいたらそこには長門が正座してぽつんと座ってこっちを見ていた。
そうか…ここは長門の部屋か。ハルヒの心の中から帰って来たのか…。
「今あなたが涼宮ハルヒの心の中に入ってきてから二十分が経過した。」
俺にはそれ以上に感じられたのだが…
そうか…長門、ありがとう。お前がいなければ、一生わからなかっただろう。
「…そう。」
長門はそれを理解したように、顔を約5ミリぐらい縦に動かして言った。
俺にはもう少し考える時間が必要みたいだ。
「そう…。私はあなたを信じる。」
長門に信じてもらえるのはよかった。少なくとも古泉よりは。
俺は長門宅を後にした。
ハルヒ…か。最初の自己紹介、みんなが違う生き物を見るように驚いた光景が思い浮かぶ。かくいう俺もその一人。
その後俺の何気ない一言からSOS団設立し、俺が無理やり団員にされた。
ハルヒの傲慢、自己中、そしてポジティブ思考の前に俺は振り回されっぱなしだった。だがその日常は最初はやれやれといった感じだったか、それなりに充実し、とても楽しいと呼べるものだった
あの夢。なぜ俺なのかという疑問もあった。俺のことを望んだからだそうだが、あの頃俺には全く理解出来ずにいた。
そして今日もそうだ。奇妙にしか思えなかった俺は理解しなかった。
そしてハルヒの心で知った。ハルヒがどんなに悩んでいたか。俺への想い。
だがそのことを知っても俺はどうすべきかわからない。ハルヒの存在は俺にとってなんなのかまだわからない。
だが…これだけは言える。他の人達、家族とか兄妹とか友達とかそういったものと違う意味で、ハルヒはかけがえのないものだ。
今日長門によって気づかせてくれた、俺にとってのハルヒの存在。
だがそれは『好き=LOVE』といった意味でのかけがえのないものなのか、『好き=LIKE』といった意味なのか、また『BESTFRIEND』という意味なのか曖昧だ。
確かにこれは、人に流されて決めるべきではない、自分自身で決めるべき問題だ。誰に言われたからそうするのでは、俺自身の個体が納得しない。
…帰路の途中で考え過ぎたのが悪かったと思う。気づいた時には眩いライトが俺の目の前まで迫ってきた。
…ドンッ
鈍い音と共に体に激痛が走った。その車の運転手か、はたまたその他の通行人かが救急車をよんだのだろう。
救急車のウルサいぐらいのその音が俺の薄れる意識の中で聞いた最後の音であった。
…夢を見ていた。真っ白な部屋に俺が寝ていて。そこにはハルヒがいた。何故かハルヒが泣きわめいている。
俺も寝ていたのでさすがにそれじゃ眠れる訳もなく起きたのだ。
ハルヒは俺が起きたのにまだ泣いている。俺が仕方なしに頭を撫でてあやしてやろうとしたのだが…俺の手がハルヒの頭を透けていった。
今更こんなことに驚くか。そう思い何度も頭に手を乗せようとしたが無駄だった。
ここで俺が全てを悟った。意外と最後はあっけないものだな。ハルヒの想いに気づいても俺の考えがまとまってなかったのに…
後悔しても仕方がないな。ハルヒには悪いが俺は先にいくわ。
後…そうだな。七十年生きたら十分か?早くしてくれないと俺が退屈だからな。人生八十年ってよく言うだろ?そんなもんだろ。
それまで絶対生きろ。その前に死んだら俺はハルヒを地上へ蹴っ飛ばして返すぞ。
とりあえず古泉。
スマン。
多分お前ら機関だけじゃ片付けられないほどの閉鎖空間が出来るかもしれないな。
本当に死んだらどうのって本人が言ってたからな。俺は死んでも古泉の疫病神でしかないかもな。
もう一度謝ろう。スマンな、古泉。
俺以外の男性とお幸せに…下手するとゲイじゃないかもしれんが。なるべく幸せに暮らしてくれ。
下手すると神人を倒すだけで終わるかも知れない。その時は俺に神人倒しは任せとけ。そして幸せになれ。少しぐらいは恩返ししてやるよ。
そして長門。
お前には助けられっぱなしで終わっちまったな。朝倉の時とか今回のとか。
…今回のはまだ解決してなかったか。それでもお前の助言は本当に助かった。凄く感謝している。
おかげでハルヒの想いに気づけた。それだけでも俺はよかったってもんだ。
長門は寡黙な少女じゃなく、少しは明るく振る舞ってみろよ。その方が絶対に可愛いぞ。
その明るく振る舞う長門の姿も見てみたかったな。本当に可愛いってもんだろう。それも気がかりだったが…仕方がない。
間違ってもロリコン親父どもに会うんじゃないぞ。その時は俺が憑いてやるよ。
まぁお前だけでも十分な気もするが。今度は俺が守る番だな。幸せに、な。
朝比奈さん。
今のあなたは心配するとキリがありません。
だけどしばらくするとしっかりしてきますよ。俺が確証をもって断言します。
なんでだかは禁則事項ってことで。確かに禁則事項なんだから仕方がない。
最後まですいませんね。
朝比奈さんのコスプレ姿、好きでしたよ。
バニーは俺には刺激が強すぎましたが。
他の男性もそうでしょう。
他のコスプレも見たかったな…
最後にリクエストするなら…そうだな。純白ナースか?デカい注射器もって。
だけどあんまりハルヒに振り回されすぎないでくださいね。大変なのはアナタです。たまには俺が止めますから。
妹よ。
お兄ちゃんバカだからな。神様に呼び出し受けているんだわ。だから行かなくちゃいけないんだ。
だけどしばらくしたら帰ってくるよ。
約束する。
それまでちゃんといい子にしてるんだぞ?
あんまりハルヒとか朝比奈さんに迷惑かけるような真似すんじゃないぞ?
ちゃんと歯磨けよ?宿題しろよ?朝ご飯は毎日食べるんだぞ?
でもお前はお兄ちゃんよりしっかりしてるから大丈夫だろ。
シャミセンを頼むな。
ちょっとお前は構いすぎだから少しは猫の自由な時間も与えてやるんだぞ?
…よし。わかったら頑張れよ。応援してるからさ。
最後に…またハルヒ。
お前には振り回されてばっかりだったよ。
最初の自己紹介、そこではどんだけ変人が来たんだ?と思ったよ。
最初髪型を毎日変えるのは面白かったよ。あれで今日が何曜日か判断してたんだぜ、俺?
一時期のポニーテール、スゲー似合ってた。かなり可愛いって思ったね。
髪をばっさり切ったとき、少し残念でもあったね。また見れたときは嬉しかったが。
SOS団をたてたときにお前が目を輝かせてたのが昨日のように思い出せるよ。
そのおかげで色々な人に出逢えて面白かった。
市内不思議発見パトロール。何も発見できなかったな。当たり前だろ?
だがな、お前の知らない所では不思議が山ほどあふれてたんだぞ?
お前の事だからそれは悔しいだろ?まぁ大丈夫さ。
お前の夢は、意外と知らないようで叶ってるぜ?それも毎日のように遊んでな。
そして今日…お前に誘われてお前のいつもと違う感じに戸惑ったんだがな…でもお前が目を輝かせてたので俺は安心したよ。
実は映画のとき泣いてたの気づいてたんだよ。その時のお前は…とても綺麗だった。ずっと見とれてたよ。お前は気づいてないと思ってたみたいだがな。
そして、俺は今日お前の想いに気づいた。
お前の苦悩、そして…俺への想い。
俺はやっぱり鈍感なのかもな。お前が苦しんでるのに気づいてやれなかった。ゴメンな?
夢のとき…ってあれ実は夢じゃないんだぜ?
全て現実。
あの時俺とお前だけだったのはお前がそう心の中でそう望んでたから。
そして俺がした行為…恥ずかしくて言えんが。それは俺が元の世界に戻りたくてやった。
…だがな。誰でも俺はそんな行為するわけじゃないさ。
そして…今まで悩んでいたが、俺は今ハッキリとした。
俺は涼宮ハルヒが好きです。
俺はお前の想いに気づいた時、正直どうするべきか悩んだ。だけど、今までを思い出して考えたんだ。
ハルヒは間違えなくかけがえのない存在。
そして、今俺にとって一番大切で愛おしい存在だって気づいたんだ。
…もう少し決断が早かったらな。こんな最後の最後でしか自分に素直にならなくてゴメンな。
そして俺が死んだら悲しむかも知れない。
だが悲しむな。お前に涙流している姿なんて似合わない。笑っている姿が一番お前らしくて可愛いんだからな。
俺はいつでもお前の中にいる。ちょっと臭いセリフかもしれないけど、これは本当だから。
だから悲しむんじゃないぞ!
最後に…ハルヒ。
俺はお前を愛している。
この先どんな姿になっても、ずっと愛し続ける。
だから幸せになれ!俺はお前の幸せが一番なんだ。それで、大体七十年後に俺の所へ来てまた振り回してくれよ!
その前じゃ絶対に許さん!
…じゃあな。たまには思い出せよ?
…元気でな…。
…急に目の前が眩しくなった。
目を開けると…って目が開けられる?何故?俺は死んだ筈なんだがな。神様は俺の死をまだ認めてくれてないのか?生きていけることに越したことはないが。
目を開けた先、そこには周りが灰色の世界。俺はここに見覚えがある。ここで青白いバカでかい物体を見た。それに非常に似ている。
…閉鎖空間…
ここは間違えない。全てが灰色だけど、妙にリアルな世界。そんなのは閉鎖空間以外のなにものでもない。
だが神人らしきものはまだ見当たらない。あとから湧いて出てくるのか?それは嫌だな…。
俺は周りの風景を見渡した。この場所は嫌ってほどハッキリ覚えている。俺の通っている…通っていた、という表現が今は正しいのかもしれない。その学校である。
なにせ俺は死んだ筈だ。過去形になるのが正当というものだ。
この学校も見納めか…灰色なのが心残りだ。
そう思い、俺はいた場所から歩き始めた。
意外と歩けるんだな。足がなくて浮いてるもんかと思ったのだが。
昇降口でちゃんと自分の名前が書いてある下駄箱に靴を入れ、上履きを履いた。
校舎内を歩いて行くと、そこは俺の教室。ここはハルヒの教室でもある。
そこの中に入り、自分の席、窓側後方二番目という好ポジションに座った。
ここはいい。憂鬱なときには窓を通して風景を見ることができる。それに風が直接あって気持ちがいい。
そしてこの席の一つ後ろの席、いくら席替えをしてもしつこいぐらいに俺の席の後ろを死守する、ハルヒの席だ。
なぜいつもこうも後ろに陣取るのかと不思議に思ってたもんだが、今なら理解が出来る。
それはハルヒ自身が望んだからこうなったんだろう。ハルヒが望めば世界が変えられるんだ。こんな事、造作にもない。
俺はいつものように横に体を動かして後ろを見てみた。ハルヒは当然ながらいない。いたらハルヒまで死んでる事になる。
でも閉鎖空間だから違うのか?わからんね。死んでるかも曖昧な俺は考えまで曖昧になってきた。
このポジションでの思い出を思い出してみる。
ハルヒが首根っこ掴んで引っ張って呼び出し、急にろくでもないことを考えつき、授業中にも関わらずやたらとデカい叫んでるハルヒの姿が今にも想像できる。
クラスのみんながこっちを向き、やっぱり涼宮か程度に理解すると前を向き、俺がハルヒを黙らせ、先生に授業を続けるよう促すとようやく授業が再開する。
ほんと、今あったことのように思い出せるよ。それももう終わりか…
俺は席から立ち上がり、教室を後にすると、次に部室…正確には文芸部室兼団の溜まり場といった所へ向かった。
教室からいつも歩き慣れているため勝手に足が前に出る。
これが学校生活の日常。授業が終わると、すぐ帰ればいいものを、勝手に足が部室の方へ向かっている。
よくも飽きずに行けるもんだ。だが、今まで飽きるなんて感じたことが一切なかった。なにもしてないようで、充実してたんだな。と実感した。
部室に着き、俺は簡単にドアを開けて入ろうとしたが、危ない危ないと、ドアをノックしてから少し間を置いて部室に入った。
危うく朝比奈さんの着替えを目撃するところだったな。だがこの空間には俺しかいないんだったな。だが一応しとかないとな。
そこにはなにも変わらないいつもの部室の光景。湯のみに団員一人一人の名前。コンピ研から強奪したパソコン。中心に配置された長机。なにも変わらない。
俺はいつものポジションに身を置いてみた。いつもならパタパタとメイド服の朝比奈さんが来てお茶を汲んで置いてくれる。
朝比奈さんのお茶、あれは絶品だった。本当のメイドでも活動出来るぐらいの忠実さ。そして、働きのよさ。将来メイドなんてどうだろ?うむ。よさそうだ。
もう一度朝比奈さんのお茶が飲みたかった…
次に長机端にあるパイプ椅子に目がいった。あそこは長門専用の読書ポイントだ。やたら毎回小難しい本ばっかり読んで。
たまに面白いか聞くと、ユニークだとか興味深いだとかばっかり。たまには違うジャンルの本を読ませてみたいな。少女マンガとか。
活字でも、絵付きだとまた違うだろう。
どんな反応するのだろう…気になるな。もう知る由はないが…
そして、無造作に置いてあるボードゲームを見る。古泉が持ってきたものだ。
今の時代、よくもボードゲームなんてやってたもんだ。だが持ってきた古泉は弱くて話にならなかった。とうの持ち主なら勝ってみせなきゃな。
そうだ。今度やるときはわざと負けてやろう。アイツ、ボードゲームで勝つことなんて知らないだろう。きっと結構喜ぶかもしれないな。
だがそれがもう出来ないのか…心残りだな…
そして…コンピ研から強奪した最新鋭のデスクトップパソコンが置いてある、素敵団長様専用の席に目がいく。
机には団長と書かれた置物が置いてある。
世界を大いに盛り上げるための涼宮ハルヒの団、か。よくそんな名前を思いついたものだ。
あそこで団長様がパソコンを駆使し、不思議なことをネットで調べたり、訳わからんエンブレムを書いてみたりと自由にやってたもんだな。
そういえば、サイトも作らされたな。あれ、作ったのはいいが全く更新してないな。
そういえばパソコンのメモリーの中には朝比奈さん専用フォルダが残っているではないか。朝比奈さんが気づいて卒倒しなければいいが。
サイトの更新でもしとけばよかったな…あと朝比奈さん専用フォルダに鍵をかけとけばよかった…
…ダメだ…ここは思い出が強すぎる…
早く出よう。せっかく決意したところなのに心が揺らいじまう…
俺は走って学校から出た。
俺は走って校門からでた。
いつもの急な坂道を駆けていく。
俺の足が向かった先は俺の家だった。玄関から一つ一つ部屋に入っていく。
家族で過ごしたリビング。俺の汗を流すリラックスルームとして重宝していた風呂場。
ほとんどシャミセンと妹によって占領されていた俺の部屋…どれもこれも今にもその風景が繰り返されそうだ。
…ダメだ。やめてくれ。俺は家を飛び出した。
クソっ!もう俺はなにも未練なんてないはずだ!仲間、家族にきちんと別れのあいさつもした!もうなにも悔やむべき事はない!
なのに…なんだこの気持ちは…クソ!
行く宛など俺にあるはずがなかった。ただひたすら走った。そして気づいたら…休日はいつもといっていいほど集まった駅前に着いていた。実際、今日も駅前に訪れた。
いつもの展開が目に浮かぶ。
集合時間前だというのに、いつも俺は一番最後。そこでハルヒが「遅い!罰金!」とちゃちを入れる。その言葉を受け流し、ハルヒ以外の面々一人一人を確認しながら挨拶をする。
古泉はいつもの嫌みったらしい爽やか笑顔。朝比奈さんは陽気なかつ、天使的な笑顔。長門は…当たり前に無表情。
そしてハルヒを見ると…目を見るのが辛いくらいの眩しく輝く目。そして、遊園地に訪れた子供のようなそのあどけない笑顔。
これから訪れることを楽しみに楽しみ尽くすというような笑顔だ。この顔を見ると、罰金、つまり喫茶店の料金を奢るぐらい安いもんだと感じたもんだ。
それから喫茶店に行き、ハルヒが俺の財布の中身を亡きものにしようと、注文を取る。俺はいつもコーヒーのみ。
ハルヒは食べ物をなにか注文する。その他の面々は遠慮がちになにか頼む。
そして注文が届くと飲み物などをすすりながらくじ引きを始める。
おっ、今回のくじは俺とハルヒのようだな。そう思うと早速外に引っ張り出されハルヒと一緒に走った。
楽しかった。ハルヒと組になってつまらなかったことは一度もなかったな。やたら疲労感はあったが。
連れ回されて、走って、いっぱい話をして。些細なこと、今さっき見かけたこと、俺に対する質問…
ハルヒが話してるのを俺は相づちをうっていたのだが、聞き流す訳ではなく、ちゃんと聞いて、たまには話を返す。
それでハルヒが笑う。バカにしたように、嬉しそうに。笑っているハルヒが一番輝いている。
…俺は前からハルヒのことが好きだったのかもしれない。無意識に。だけどそれを表面に出せなかった。それで今、後悔している…
その後悔をもうずっと引きずることになる。その事が…いいや。ハルヒを残した事が一番後悔している。
ハルヒの泣き顔なんて一度も見たことなかった。今、アイツは泣いているだろう。俺のために。
アイツが俺を思っている、大切にしているなんて今日初めて知った。もしかしたら違うかもしれない。
…それはない。断定できる。俺への想いは本物だ。嬉しかった。わかった瞬間、悩んだが、それと同時に嬉しかったんだな。
俺も自分の気持ちは素直に表せられない人間だ。だから今表面に出す。嬉しい。
今だしても手遅れだ。…本当に悔しい。
胸が締め付けられるように痛い。死んでいるはずだから痛みなんて感じるはずがない。だけど、はっきりと胸の痛みが伝わってくる。
それと同時に視界が滲んできた。それがわかると同時に冷たいのか熱いのかわからない感覚が俺の頬を伝った。
…泣いているのか、俺は?いつ振りだろう?しばらく泣いた事がなかったな。あまりに痛くても泣いた事なんてなかった。
だけど…今涙が頬を伝ってポタポタと流れ落ちる。
この涙はなんだ…?なぜ泣いているんだろう?
そうか…我慢するのはよそう。
俺は、まだ死にたくない。
やり残した事があり過ぎる。
宿題をまだ終わらせてないし…もとから終わらせる気などさらさらないが。
シャミセンの餌も今日はまだあげていない。腹空かしてるだろう。アイツはよく食うからな。
長門に借りた本もまだ途中だったしな。難し過ぎてあんまり読んでなかっただけだが。
ヤバい。エロ本を分かりづらい所に隠すのを忘れた。いつか妹が見つけて発狂するかもしれない。
妹に飯の世話をするのを忘れていた。アイツはシャミセンと同じでよく食べるからな。腹を空かせ過ぎて喚いてるかもしれない。
だけど…一番重要な事。
ハルヒに直接、目の前で、姿が見える状態でしっかりと俺の想いを告げること。
それがやり残した事。悔やみ。
俺はまだ死にたくない。本当にさっきまで何ともなかったが、本当に死の恐怖というものが体の内から湧いて出てきて、俺の体を揺らし、目からは大量の涙が滴り落ちた。
ハルヒ…いやハルヒだけじゃない。高校という舞台で、SOS団の面々、谷口とか国木田とか鶴屋さんとかに出会ってなかったら、俺はこんな事を感じることなく死をあっさり受け入れた。
だが…今はどうだ?こんなにも体が震えて声を荒げて俺は泣いている。怖い…嫌だ…認めたくないんだ…今は。
俺はやっとのおもいで立ち上がり、また、走った。
俺にも行き先はわからない。ただひたすら…俺の足が向かう方へ向かった。
止まらぬ涙を拭いながら…
気が付くと、そこはまた学校だった。さらに俺は走り続けた。
昇降口を駆け抜け、さらに階段を駆け上がり…
たどり着いたのは部室。さっきも来たじゃないか。そこには何一つ変わらない風景があっただけだ。
見てるとまたさらに辛くなるだけだ。俺は心で入るのを拒絶したが、勝手にドアノブに手をかけ、そして…ドアを開いた。
そこには…俺がこの世界で一番望んでいた人…そして…どの世界でもかけがえのなく、一番大切で愛おしい存在。
…涼宮ハルヒがそこにいた。
俺はドア前で立ちすくんだ…足が動かない…でも見れただけでも嬉しい。
そして声をあげようとした。でも…声は出なかった。
ハルヒは俺に気づくと、
「キョン…嬉しい…。」
そう言ってこちらに駆けて来た。
…受け止めてやるから思いっきり飛びかかってこい…そう思った。
ハルヒが目の前まで近づいた瞬間………
目を瞑っていても解る眩い光。それがなんだか俺には解らなくて…俺は…目を開けた。
…そこに広がるのは見慣れた風景。
だが訳が分からない。さっきまで全てが灰色の世界、閉鎖空間にいたはずだ。だが、この目に広がる情報は確かに色がしっかりとついている。
…夢?…なんだそうか…
俺は自分がバカバカしく思えるほどに笑い飛ばした。
そうか…全て夢だったのか…あのデートも。あの事故も。あの空間も。
なんだよ!脅かしやがって!…まぁ俺自身が勝手に想像した夢なんだがな。これは誰に攻めるものではないだろう。
…少し目が腫れてやがるな。寝てまでも俺は泣いていたのか…ええい忌々しい。
もう夢のことなぞ思い出したくない…。これからは今の自分を大切に、悔いがないように生きよう!大切な人を失う前に…。
俺は電話をかけた。誰かは言うまでもないが、ハルヒだ。
まだ朝八時だというのにハルヒは案の定起きていて、勢いよく電話を受けた。
「もしもしっ!?キョン?!」
あぁ…お前は朝から騒々しいな…
「う、うるさいわね!それにしてもこんな朝早い時間にアナタが起きているなんて奇跡ね…何かにでも当たったの?」
違う!そんなものはちゃんと確認して食うさ!食いしん坊なお前と違ってな!
なんでこんな早く起きたかだって?…そんな夢の話なんて言えるかっ。恥ずかしい。
「私だってちゃんと確認するわよ!!失礼ね!で、あんたはなんでこんな早くに電話をかけてきたの?あんたからかけるなんて珍しいじゃない?」
まぁちょっとな…ハルヒ?今日時間あるか?ちょっとばかしデートに付き合ってくれよ。
「っ!!!?デェっ、デゥェィトですって?!!!!」
なんだその変な驚きかた?なんか面白いぞ?お前?
「ううう、うるさいわよっっ!!!!な、なんであんたなんかとデェっ、デェイトなんか!?」
まぁそのだな…お前に話があるんだ。今から…そうだな…一時間後ぐらいに駅前集合な。一番最後に来たやつ、罰金だからな?
「えっ、ちょ、ちょっと!!?」
待ってるからな!遅れんなよ?
そういって電話を切った。うむ。今回の電話の主導権は俺が握ってたな。
アイツのあからさまに驚いた声は面白かった。たまにはいいねぇ…強制的に意見述べて電話を切るの。ハルヒが毎回やる理由もわかる気がする。
…………笑っていますね…。…………
…………なんだか楽しそう…。…………
…………不思議…。……………
…………そうね…。……………
なんだ?どこからか声が聞こえたような…気のせいか?
まぁ急がなければな。早く行かないと、自分で言っといて罰金を払う羽目になりそうだ。
さて…そうと決まれば、善は急げだ。今から行けば、四五分前ぐらいに着くな。
早く着いて、ハルヒが唖然としながらこっちに近づいてくる顔を見るのもいいだろう。
そのあと、喫茶店では俺が奢ってやるのさ…ジェントルマンとして当然の行動だろ?
なぁ谷口?お前もそういうところに気を配ればモテるかもしれないぜ?
さて…今日は何をしよう…ハルヒと遊ぶだけ遊ぼう。遊園地でも行くか?アイツが子供のように走り回る姿も見たいな。元気に遊んでるアイツが一番輝いていて、可愛いんだ。
俺はそんなところに惚れている。それだけじゃない。
素直じゃないところ、必死になるところ、そして…いつも笑顔なところ。
さぁ…今日はいろいろな意味で暑くなりそうだぜ?
なぁ…?
ハルヒ様…?
…ピッ…ピッ…ピッ…
無秩序な機会音が音程を合わせて、ゆっくり、そして…弱々しく聞こえてくる…
もうこの音も慣れたものだ。約二年。この音を毎日聞いている。
…もう二年…時っていうのは流れるのが早いものだ…
周りを見渡せばそこには…いつもと変わらないメンバー。
そして、いつもと変わらぬ部室…っていう訳じゃない。真っ白な壁で覆われていて、だがそこには必要最低限なものは揃っている。
そして…大きな窓がある。そこから見渡せば…二年前と変わらない。ただクソ暑いだけの夏の風景。
空が青い…いや、青いっていうよりも「蒼い」…そんな表現かしらね?そこには雲が一つもなくて…セミがウルサいくらいに鳴いている。
ミーンミーンミーン…
よくも飽きずに毎日毎日…聞いてて腹たってくるわ!
ねえ、そう思わない!?
キョン……
ここは…真っ白壁、床、天井に覆われたこの世界…この真っ白な世界の中心に、大きな白いベッド…
そして…まだ私達に希望があることを知らせてくれる機械が、ベッドの上で笑顔でしっかり…だけどなんか弱々しい…
キョンの眠っている姿に繋がれている…。
私が問いかけてもなにも返事はない…
返事の代わりに、ピッピッピッ…という不愉快な電子機械音。
不愉快なんだけど…これがあるから安心出来る…私はここにいることが出来る…
「セミってさっ!生まれてからずっと土の中で生きていくの!眠っているように…」
「だけどね!それは本当に眠っているだけ!十分眠って蓄えたエネルギーを土からでて、自分の固い殻を破って、夏の暑い日、ずっと鳴いて使うの!」
「だからさっ!アンタも十分眠ってエネルギー蓄えたでしょ?だから…そろそろさ…目覚ましてSOS団でそのエネルギーを使ってみたらどうなのよ…」
そこにはキョンの返事がない、無機質な機械音…
「ねぇ!?起きなさいよ!!アンタどんだけ人を待たせて気持ちよさそうに寝てんのよ!!起きろってば!!このバカキョン!!」
「涼宮さん!落ち着いて!」
「だって!コイツいつまでたっても起きないのよ!?そろそろ起きないと宿題終わんないじゃない!?」
「涼宮さんっ!!」
……古泉君が怒声をあげて私を抑えあげて私は我に帰った…
そうだ…キョンは起きない…二年前のあの日以来…ずっと…私がいくら泣きわめこうが聞く耳を持たずに起きようとしない…
コイツなら私が泣こうものなら、焦りながらもあやしてくれるものなのに…
それも叶わなくなったのは今から二年前のあの日…
そう…二年前のあの日から………
俺はハルヒに尋ねた。だがこれからが問題になってしまったのだ。
「えっ、だっ、大丈夫よ!なんでもないわよ!そんな心配そうにしないでよ…」
『そんなこと言ったって私…いろいろ考え過ぎて胸が苦しくて何も喉が受け付けないぐらいなのに…
昼間だって、これからが不安で何も受け付けなかったのに…』
そんなこと言ったってだな。お前がなにか食べないなんておかしいじゃないか?あんなに食欲旺盛なお前が?
「なんでもないって言ってるでしょう!!」
『…またやっちゃった。なんで私ってこう素直になれないんだろう…出来ることなら~を伝えたい。だけど素直になれない…なんで?』
『相手がキョンだから?…違う。それは私の弱さ。今まで絶対に他人に見せなかった自分の弱さ。見せなかったからこそ、もう後戻りは出来ない。』
『でもキョンはいつも付いてきてくれた。私が無茶いってもどんなときでも。あの夢でも、いてくれたのはキョンだった。』
『この人になら私は…』
『それなのに、また私は彼を突き放した。心配してくれたキョンを突き放した。自分が素直になればいいだけなのに…』
『私はこの自分の情けなさに苛立ちを覚える。自分の素直な気持ちを伝えられなくてモヤモヤとしたものが心を覆い被さっている。』
『今日こそは、せめて今日だけは素直になろうと決意したつもりなのに…なんで私という人間は…』
『私は普通になるのが嫌で、ちっぽけなのが嫌で今まで色々してきた。全ての人を突き飛ばして。だけど…今は彼という人間も、さらには他のSOS団の人間も突き放したくなんかない!絶対に遠くに消えていってしまうのはもう嫌だ!』
『今私は、自分の弱さに抗うだけの強さが欲しい。そして彼に想いを素直に言えるだけの強さが…』
ハルヒ…お前は…っ…………
気づいたらそこには長門が正座してぽつんと座ってこっちを見ていた。
そうか…ここは長門の部屋か。ハルヒの心の中から帰って来たのか…。
「今あなたが涼宮ハルヒの心の中に入ってきてから二十分が経過した。」
俺にはそれ以上に感じられたのだが…
そうか…長門、ありがとう。お前がいなければ、一生わからなかっただろう。
「…そう。」
長門はそれを理解したように、顔を約5ミリぐらい縦に動かして言った。
俺にはもう少し考える時間が必要みたいだ。
「そう…。私はあなたを信じる。」
長門に信じてもらえるのはよかった。少なくとも古泉よりは。
俺は長門宅を後にした。
ハルヒ…か。最初の自己紹介、みんなが違う生き物を見るように驚いた光景が思い浮かぶ。かくいう俺もその一人。
その後俺の何気ない一言からSOS団設立し、俺が無理やり団員にされた。
ハルヒの傲慢、自己中、そしてポジティブ思考の前に俺は振り回されっぱなしだった。だがその日常は最初はやれやれといった感じだったか、それなりに充実し、とても楽しいと呼べるものだった
あの夢。なぜ俺なのかという疑問もあった。俺のことを望んだからだそうだが、あの頃俺には全く理解出来ずにいた。
そして今日もそうだ。奇妙にしか思えなかった俺は理解しなかった。
そしてハルヒの心で知った。ハルヒがどんなに悩んでいたか。俺への想い。
だがそのことを知っても俺はどうすべきかわからない。ハルヒの存在は俺にとってなんなのかまだわからない。
だが…これだけは言える。他の人達、家族とか兄妹とか友達とかそういったものと違う意味で、ハルヒはかけがえのないものだ。
今日長門によって気づかせてくれた、俺にとってのハルヒの存在。
だがそれは『好き=LOVE』といった意味でのかけがえのないものなのか、『好き=LIKE』といった意味なのか、また『BESTFRIEND』という意味なのか曖昧だ。
確かにこれは、人に流されて決めるべきではない、自分自身で決めるべき問題だ。誰に言われたからそうするのでは、俺自身の個体が納得しない。
…帰路の途中で考え過ぎたのが悪かったと思う。気づいた時には眩いライトが俺の目の前まで迫ってきた。
…ドンッ
鈍い音と共に体に激痛が走った。その車の運転手か、はたまたその他の通行人かが救急車をよんだのだろう。
救急車のウルサいぐらいのその音が俺の薄れる意識の中で聞いた最後の音であった。
…夢を見ていた。真っ白な部屋に俺が寝ていて。そこにはハルヒがいた。何故かハルヒが泣きわめいている。
俺も寝ていたのでさすがにそれじゃ眠れる訳もなく起きたのだ。
ハルヒは俺が起きたのにまだ泣いている。俺が仕方なしに頭を撫でてあやしてやろうとしたのだが…俺の手がハルヒの頭を透けていった。
今更こんなことに驚くか。そう思い何度も頭に手を乗せようとしたが無駄だった。
ここで俺が全てを悟った。意外と最後はあっけないものだな。ハルヒの想いに気づいても俺の考えがまとまってなかったのに…
後悔しても仕方がないな。ハルヒには悪いが俺は先にいくわ。
後…そうだな。七十年生きたら十分か?早くしてくれないと俺が退屈だからな。人生八十年ってよく言うだろ?そんなもんだろ。
それまで絶対生きろ。その前に死んだら俺はハルヒを地上へ蹴っ飛ばして返すぞ。
とりあえず古泉。
スマン。
多分お前ら機関だけじゃ片付けられないほどの閉鎖空間が出来るかもしれないな。
本当に死んだらどうのって本人が言ってたからな。俺は死んでも古泉の疫病神でしかないかもな。
もう一度謝ろう。スマンな、古泉。
俺以外の男性とお幸せに…下手するとゲイじゃないかもしれんが。なるべく幸せに暮らしてくれ。
下手すると神人を倒すだけで終わるかも知れない。その時は俺に神人倒しは任せとけ。そして幸せになれ。少しぐらいは恩返ししてやるよ。
そして長門。
お前には助けられっぱなしで終わっちまったな。朝倉の時とか今回のとか。
…今回のはまだ解決してなかったか。それでもお前の助言は本当に助かった。凄く感謝している。
おかげでハルヒの想いに気づけた。それだけでも俺はよかったってもんだ。
長門は寡黙な少女じゃなく、少しは明るく振る舞ってみろよ。その方が絶対に可愛いぞ。
その明るく振る舞う長門の姿も見てみたかったな。本当に可愛いってもんだろう。それも気がかりだったが…仕方がない。
間違ってもロリコン親父どもに会うんじゃないぞ。その時は俺が憑いてやるよ。
まぁお前だけでも十分な気もするが。今度は俺が守る番だな。幸せに、な。
朝比奈さん。
今のあなたは心配するとキリがありません。
だけどしばらくするとしっかりしてきますよ。俺が確証をもって断言します。
なんでだかは禁則事項ってことで。確かに禁則事項なんだから仕方がない。
最後まですいませんね。
朝比奈さんのコスプレ姿、好きでしたよ。
バニーは俺には刺激が強すぎましたが。
他の男性もそうでしょう。
他のコスプレも見たかったな…
最後にリクエストするなら…そうだな。純白ナースか?デカい注射器もって。
だけどあんまりハルヒに振り回されすぎないでくださいね。大変なのはアナタです。たまには俺が止めますから。
妹よ。
お兄ちゃんバカだからな。神様に呼び出し受けているんだわ。だから行かなくちゃいけないんだ。
だけどしばらくしたら帰ってくるよ。
約束する。
それまでちゃんといい子にしてるんだぞ?
あんまりハルヒとか朝比奈さんに迷惑かけるような真似すんじゃないぞ?
ちゃんと歯磨けよ?宿題しろよ?朝ご飯は毎日食べるんだぞ?
でもお前はお兄ちゃんよりしっかりしてるから大丈夫だろ。
シャミセンを頼むな。
ちょっとお前は構いすぎだから少しは猫の自由な時間も与えてやるんだぞ?
…よし。わかったら頑張れよ。応援してるからさ。
最後に…またハルヒ。
お前には振り回されてばっかりだったよ。
最初の自己紹介、そこではどんだけ変人が来たんだ?と思ったよ。
最初髪型を毎日変えるのは面白かったよ。あれで今日が何曜日か判断してたんだぜ、俺?
一時期のポニーテール、スゲー似合ってた。かなり可愛いって思ったね。
髪をばっさり切ったとき、少し残念でもあったね。また見れたときは嬉しかったが。
SOS団をたてたときにお前が目を輝かせてたのが昨日のように思い出せるよ。
そのおかげで色々な人に出逢えて面白かった。
市内不思議発見パトロール。何も発見できなかったな。当たり前だろ?
だがな、お前の知らない所では不思議が山ほどあふれてたんだぞ?
お前の事だからそれは悔しいだろ?まぁ大丈夫さ。
お前の夢は、意外と知らないようで叶ってるぜ?それも毎日のように遊んでな。
そして今日…お前に誘われてお前のいつもと違う感じに戸惑ったんだがな…でもお前が目を輝かせてたので俺は安心したよ。
実は映画のとき泣いてたの気づいてたんだよ。その時のお前は…とても綺麗だった。ずっと見とれてたよ。お前は気づいてないと思ってたみたいだがな。
そして、俺は今日お前の想いに気づいた。
お前の苦悩、そして…俺への想い。
俺はやっぱり鈍感なのかもな。お前が苦しんでるのに気づいてやれなかった。ゴメンな?
夢のとき…ってあれ実は夢じゃないんだぜ?
全て現実。
あの時俺とお前だけだったのはお前がそう心の中でそう望んでたから。
そして俺がした行為…恥ずかしくて言えんが。それは俺が元の世界に戻りたくてやった。
…だがな。誰でも俺はそんな行為するわけじゃないさ。
そして…今まで悩んでいたが、俺は今ハッキリとした。
俺は涼宮ハルヒが好きです。
俺はお前の想いに気づいた時、正直どうするべきか悩んだ。だけど、今までを思い出して考えたんだ。
ハルヒは間違えなくかけがえのない存在。
そして、今俺にとって一番大切で愛おしい存在だって気づいたんだ。
…もう少し決断が早かったらな。こんな最後の最後でしか自分に素直にならなくてゴメンな。
そして俺が死んだら悲しむかも知れない。
だが悲しむな。お前に涙流している姿なんて似合わない。笑っている姿が一番お前らしくて可愛いんだからな。
俺はいつでもお前の中にいる。ちょっと臭いセリフかもしれないけど、これは本当だから。
だから悲しむんじゃないぞ!
最後に…ハルヒ。
俺はお前を愛している。
この先どんな姿になっても、ずっと愛し続ける。
だから幸せになれ!俺はお前の幸せが一番なんだ。それで、大体七十年後に俺の所へ来てまた振り回してくれよ!
その前じゃ絶対に許さん!
…じゃあな。たまには思い出せよ?
…元気でな…。
…急に目の前が眩しくなった。
目を開けると…って目が開けられる?何故?俺は死んだ筈なんだがな。神様は俺の死をまだ認めてくれてないのか?生きていけることに越したことはないが。
目を開けた先、そこには周りが灰色の世界。俺はここに見覚えがある。ここで青白いバカでかい物体を見た。それに非常に似ている。
…閉鎖空間…
ここは間違えない。全てが灰色だけど、妙にリアルな世界。そんなのは閉鎖空間以外のなにものでもない。
だが神人らしきものはまだ見当たらない。あとから湧いて出てくるのか?それは嫌だな…。
俺は周りの風景を見渡した。この場所は嫌ってほどハッキリ覚えている。俺の通っている…通っていた、という表現が今は正しいのかもしれない。その学校である。
なにせ俺は死んだ筈だ。過去形になるのが正当というものだ。
この学校も見納めか…灰色なのが心残りだ。
そう思い、俺はいた場所から歩き始めた。
意外と歩けるんだな。足がなくて浮いてるもんかと思ったのだが。
昇降口でちゃんと自分の名前が書いてある下駄箱に靴を入れ、上履きを履いた。
校舎内を歩いて行くと、そこは俺の教室。ここはハルヒの教室でもある。
そこの中に入り、自分の席、窓側後方二番目という好ポジションに座った。
ここはいい。憂鬱なときには窓を通して風景を見ることができる。それに風が直接あって気持ちがいい。
そしてこの席の一つ後ろの席、いくら席替えをしてもしつこいぐらいに俺の席の後ろを死守する、ハルヒの席だ。
なぜいつもこうも後ろに陣取るのかと不思議に思ってたもんだが、今なら理解が出来る。
それはハルヒ自身が望んだからこうなったんだろう。ハルヒが望めば世界が変えられるんだ。こんな事、造作にもない。
俺はいつものように横に体を動かして後ろを見てみた。ハルヒは当然ながらいない。いたらハルヒまで死んでる事になる。
でも閉鎖空間だから違うのか?わからんね。死んでるかも曖昧な俺は考えまで曖昧になってきた。
このポジションでの思い出を思い出してみる。
ハルヒが首根っこ掴んで引っ張って呼び出し、急にろくでもないことを考えつき、授業中にも関わらずやたらとデカい叫んでるハルヒの姿が今にも想像できる。
クラスのみんながこっちを向き、やっぱり涼宮か程度に理解すると前を向き、俺がハルヒを黙らせ、先生に授業を続けるよう促すとようやく授業が再開する。
ほんと、今あったことのように思い出せるよ。それももう終わりか…
俺は席から立ち上がり、教室を後にすると、次に部室…正確には文芸部室兼団の溜まり場といった所へ向かった。
教室からいつも歩き慣れているため勝手に足が前に出る。
これが学校生活の日常。授業が終わると、すぐ帰ればいいものを、勝手に足が部室の方へ向かっている。
よくも飽きずに行けるもんだ。だが、今まで飽きるなんて感じたことが一切なかった。なにもしてないようで、充実してたんだな。と実感した。
部室に着き、俺は簡単にドアを開けて入ろうとしたが、危ない危ないと、ドアをノックしてから少し間を置いて部室に入った。
危うく朝比奈さんの着替えを目撃するところだったな。だがこの空間には俺しかいないんだったな。だが一応しとかないとな。
そこにはなにも変わらないいつもの部室の光景。湯のみに団員一人一人の名前。コンピ研から強奪したパソコン。中心に配置された長机。なにも変わらない。
俺はいつものポジションに身を置いてみた。いつもならパタパタとメイド服の朝比奈さんが来てお茶を汲んで置いてくれる。
朝比奈さんのお茶、あれは絶品だった。本当のメイドでも活動出来るぐらいの忠実さ。そして、働きのよさ。将来メイドなんてどうだろ?うむ。よさそうだ。
もう一度朝比奈さんのお茶が飲みたかった…
次に長机端にあるパイプ椅子に目がいった。あそこは長門専用の読書ポイントだ。やたら毎回小難しい本ばっかり読んで。
たまに面白いか聞くと、ユニークだとか興味深いだとかばっかり。たまには違うジャンルの本を読ませてみたいな。少女マンガとか。
活字でも、絵付きだとまた違うだろう。
どんな反応するのだろう…気になるな。もう知る由はないが…
そして、無造作に置いてあるボードゲームを見る。古泉が持ってきたものだ。
今の時代、よくもボードゲームなんてやってたもんだ。だが持ってきた古泉は弱くて話にならなかった。とうの持ち主なら勝ってみせなきゃな。
そうだ。今度やるときはわざと負けてやろう。アイツ、ボードゲームで勝つことなんて知らないだろう。きっと結構喜ぶかもしれないな。
だがそれがもう出来ないのか…心残りだな…
そして…コンピ研から強奪した最新鋭のデスクトップパソコンが置いてある、素敵団長様専用の席に目がいく。
机には団長と書かれた置物が置いてある。
世界を大いに盛り上げるための涼宮ハルヒの団、か。よくそんな名前を思いついたものだ。
あそこで団長様がパソコンを駆使し、不思議なことをネットで調べたり、訳わからんエンブレムを書いてみたりと自由にやってたもんだな。
そういえば、サイトも作らされたな。あれ、作ったのはいいが全く更新してないな。
そういえばパソコンのメモリーの中には朝比奈さん専用フォルダが残っているではないか。朝比奈さんが気づいて卒倒しなければいいが。
サイトの更新でもしとけばよかったな…あと朝比奈さん専用フォルダに鍵をかけとけばよかった…
…ダメだ…ここは思い出が強すぎる…
早く出よう。せっかく決意したところなのに心が揺らいじまう…
俺は走って学校から出た。
俺は走って校門からでた。
いつもの急な坂道を駆けていく。
俺の足が向かった先は俺の家だった。玄関から一つ一つ部屋に入っていく。
家族で過ごしたリビング。俺の汗を流すリラックスルームとして重宝していた風呂場。
ほとんどシャミセンと妹によって占領されていた俺の部屋…どれもこれも今にもその風景が繰り返されそうだ。
…ダメだ。やめてくれ。俺は家を飛び出した。
クソっ!もう俺はなにも未練なんてないはずだ!仲間、家族にきちんと別れのあいさつもした!もうなにも悔やむべき事はない!
なのに…なんだこの気持ちは…クソ!
行く宛など俺にあるはずがなかった。ただひたすら走った。そして気づいたら…休日はいつもといっていいほど集まった駅前に着いていた。実際、今日も駅前に訪れた。
いつもの展開が目に浮かぶ。
集合時間前だというのに、いつも俺は一番最後。そこでハルヒが「遅い!罰金!」とちゃちを入れる。その言葉を受け流し、ハルヒ以外の面々一人一人を確認しながら挨拶をする。
古泉はいつもの嫌みったらしい爽やか笑顔。朝比奈さんは陽気なかつ、天使的な笑顔。長門は…当たり前に無表情。
そしてハルヒを見ると…目を見るのが辛いくらいの眩しく輝く目。そして、遊園地に訪れた子供のようなそのあどけない笑顔。
これから訪れることを楽しみに楽しみ尽くすというような笑顔だ。この顔を見ると、罰金、つまり喫茶店の料金を奢るぐらい安いもんだと感じたもんだ。
それから喫茶店に行き、ハルヒが俺の財布の中身を亡きものにしようと、注文を取る。俺はいつもコーヒーのみ。
ハルヒは食べ物をなにか注文する。その他の面々は遠慮がちになにか頼む。
そして注文が届くと飲み物などをすすりながらくじ引きを始める。
おっ、今回のくじは俺とハルヒのようだな。そう思うと早速外に引っ張り出されハルヒと一緒に走った。
楽しかった。ハルヒと組になってつまらなかったことは一度もなかったな。やたら疲労感はあったが。
連れ回されて、走って、いっぱい話をして。些細なこと、今さっき見かけたこと、俺に対する質問…
ハルヒが話してるのを俺は相づちをうっていたのだが、聞き流す訳ではなく、ちゃんと聞いて、たまには話を返す。
それでハルヒが笑う。バカにしたように、嬉しそうに。笑っているハルヒが一番輝いている。
…俺は前からハルヒのことが好きだったのかもしれない。無意識に。だけどそれを表面に出せなかった。それで今、後悔している…
その後悔をもうずっと引きずることになる。その事が…いいや。ハルヒを残した事が一番後悔している。
ハルヒの泣き顔なんて一度も見たことなかった。今、アイツは泣いているだろう。俺のために。
アイツが俺を思っている、大切にしているなんて今日初めて知った。もしかしたら違うかもしれない。
…それはない。断定できる。俺への想いは本物だ。嬉しかった。わかった瞬間、悩んだが、それと同時に嬉しかったんだな。
俺も自分の気持ちは素直に表せられない人間だ。だから今表面に出す。嬉しい。
今だしても手遅れだ。…本当に悔しい。
胸が締め付けられるように痛い。死んでいるはずだから痛みなんて感じるはずがない。だけど、はっきりと胸の痛みが伝わってくる。
それと同時に視界が滲んできた。それがわかると同時に冷たいのか熱いのかわからない感覚が俺の頬を伝った。
…泣いているのか、俺は?いつ振りだろう?しばらく泣いた事がなかったな。あまりに痛くても泣いた事なんてなかった。
だけど…今涙が頬を伝ってポタポタと流れ落ちる。
この涙はなんだ…?なぜ泣いているんだろう?
そうか…我慢するのはよそう。
俺は、まだ死にたくない。
やり残した事があり過ぎる。
宿題をまだ終わらせてないし…もとから終わらせる気などさらさらないが。
シャミセンの餌も今日はまだあげていない。腹空かしてるだろう。アイツはよく食うからな。
長門に借りた本もまだ途中だったしな。難し過ぎてあんまり読んでなかっただけだが。
ヤバい。エロ本を分かりづらい所に隠すのを忘れた。いつか妹が見つけて発狂するかもしれない。
妹に飯の世話をするのを忘れていた。アイツはシャミセンと同じでよく食べるからな。腹を空かせ過ぎて喚いてるかもしれない。
だけど…一番重要な事。
ハルヒに直接、目の前で、姿が見える状態でしっかりと俺の想いを告げること。
それがやり残した事。悔やみ。
俺はまだ死にたくない。本当にさっきまで何ともなかったが、本当に死の恐怖というものが体の内から湧いて出てきて、俺の体を揺らし、目からは大量の涙が滴り落ちた。
ハルヒ…いやハルヒだけじゃない。高校という舞台で、SOS団の面々、谷口とか国木田とか鶴屋さんとかに出会ってなかったら、俺はこんな事を感じることなく死をあっさり受け入れた。
だが…今はどうだ?こんなにも体が震えて声を荒げて俺は泣いている。怖い…嫌だ…認めたくないんだ…今は。
俺はやっとのおもいで立ち上がり、また、走った。
俺にも行き先はわからない。ただひたすら…俺の足が向かう方へ向かった。
止まらぬ涙を拭いながら…
気が付くと、そこはまた学校だった。さらに俺は走り続けた。
昇降口を駆け抜け、さらに階段を駆け上がり…
たどり着いたのは部室。さっきも来たじゃないか。そこには何一つ変わらない風景があっただけだ。
見てるとまたさらに辛くなるだけだ。俺は心で入るのを拒絶したが、勝手にドアノブに手をかけ、そして…ドアを開いた。
そこには…俺がこの世界で一番望んでいた人…そして…どの世界でもかけがえのなく、一番大切で愛おしい存在。
…涼宮ハルヒがそこにいた。
俺はドア前で立ちすくんだ…足が動かない…でも見れただけでも嬉しい。
そして声をあげようとした。でも…声は出なかった。
ハルヒは俺に気づくと、
「キョン…嬉しい…。」
そう言ってこちらに駆けて来た。
…受け止めてやるから思いっきり飛びかかってこい…そう思った。
ハルヒが目の前まで近づいた瞬間………
目を瞑っていても解る眩い光。それがなんだか俺には解らなくて…俺は…目を開けた。
…そこに広がるのは見慣れた風景。
だが訳が分からない。さっきまで全てが灰色の世界、閉鎖空間にいたはずだ。だが、この目に広がる情報は確かに色がしっかりとついている。
…夢?…なんだそうか…
俺は自分がバカバカしく思えるほどに笑い飛ばした。
そうか…全て夢だったのか…あのデートも。あの事故も。あの空間も。
なんだよ!脅かしやがって!…まぁ俺自身が勝手に想像した夢なんだがな。これは誰に攻めるものではないだろう。
…少し目が腫れてやがるな。寝てまでも俺は泣いていたのか…ええい忌々しい。
もう夢のことなぞ思い出したくない…。これからは今の自分を大切に、悔いがないように生きよう!大切な人を失う前に…。
俺は電話をかけた。誰かは言うまでもないが、ハルヒだ。
まだ朝八時だというのにハルヒは案の定起きていて、勢いよく電話を受けた。
「もしもしっ!?キョン?!」
あぁ…お前は朝から騒々しいな…
「う、うるさいわね!それにしてもこんな朝早い時間にアナタが起きているなんて奇跡ね…何かにでも当たったの?」
違う!そんなものはちゃんと確認して食うさ!食いしん坊なお前と違ってな!
なんでこんな早く起きたかだって?…そんな夢の話なんて言えるかっ。恥ずかしい。
「私だってちゃんと確認するわよ!!失礼ね!で、あんたはなんでこんな早くに電話をかけてきたの?あんたからかけるなんて珍しいじゃない?」
まぁちょっとな…ハルヒ?今日時間あるか?ちょっとばかしデートに付き合ってくれよ。
「っ!!!?デェっ、デゥェィトですって?!!!!」
なんだその変な驚きかた?なんか面白いぞ?お前?
「ううう、うるさいわよっっ!!!!な、なんであんたなんかとデェっ、デェイトなんか!?」
まぁそのだな…お前に話があるんだ。今から…そうだな…一時間後ぐらいに駅前集合な。一番最後に来たやつ、罰金だからな?
「えっ、ちょ、ちょっと!!?」
待ってるからな!遅れんなよ?
そういって電話を切った。うむ。今回の電話の主導権は俺が握ってたな。
アイツのあからさまに驚いた声は面白かった。たまにはいいねぇ…強制的に意見述べて電話を切るの。ハルヒが毎回やる理由もわかる気がする。
…………笑っていますね…。…………
…………なんだか楽しそう…。…………
…………不思議…。……………
…………そうね…。……………
なんだ?どこからか声が聞こえたような…気のせいか?
まぁ急がなければな。早く行かないと、自分で言っといて罰金を払う羽目になりそうだ。
さて…そうと決まれば、善は急げだ。今から行けば、四五分前ぐらいに着くな。
早く着いて、ハルヒが唖然としながらこっちに近づいてくる顔を見るのもいいだろう。
そのあと、喫茶店では俺が奢ってやるのさ…ジェントルマンとして当然の行動だろ?
なぁ谷口?お前もそういうところに気を配ればモテるかもしれないぜ?
さて…今日は何をしよう…ハルヒと遊ぶだけ遊ぼう。遊園地でも行くか?アイツが子供のように走り回る姿も見たいな。元気に遊んでるアイツが一番輝いていて、可愛いんだ。
俺はそんなところに惚れている。それだけじゃない。
素直じゃないところ、必死になるところ、そして…いつも笑顔なところ。
さぁ…今日はいろいろな意味で暑くなりそうだぜ?
なぁ…?
ハルヒ様…?
…ピッ…ピッ…ピッ…
無秩序な機会音が音程を合わせて、ゆっくり、そして…弱々しく聞こえてくる…
もうこの音も慣れたものだ。約二年。この音を毎日聞いている。
…もう二年…時っていうのは流れるのが早いものだ…
周りを見渡せばそこには…いつもと変わらないメンバー。
そして、いつもと変わらぬ部室…っていう訳じゃない。真っ白な壁で覆われていて、だがそこには必要最低限なものは揃っている。
そして…大きな窓がある。そこから見渡せば…二年前と変わらない。ただクソ暑いだけの夏の風景。
空が青い…いや、青いっていうよりも「蒼い」…そんな表現かしらね?そこには雲が一つもなくて…セミがウルサいくらいに鳴いている。
ミーンミーンミーン…
よくも飽きずに毎日毎日…聞いてて腹たってくるわ!
ねえ、そう思わない!?
キョン……
ここは…真っ白壁、床、天井に覆われたこの世界…この真っ白な世界の中心に、大きな白いベッド…
そして…まだ私達に希望があることを知らせてくれる機械が、ベッドの上で笑顔でしっかり…だけどなんか弱々しい…
キョンの眠っている姿に繋がれている…。
私が問いかけてもなにも返事はない…
返事の代わりに、ピッピッピッ…という不愉快な電子機械音。
不愉快なんだけど…これがあるから安心出来る…私はここにいることが出来る…
「セミってさっ!生まれてからずっと土の中で生きていくの!眠っているように…」
「だけどね!それは本当に眠っているだけ!十分眠って蓄えたエネルギーを土からでて、自分の固い殻を破って、夏の暑い日、ずっと鳴いて使うの!」
「だからさっ!アンタも十分眠ってエネルギー蓄えたでしょ?だから…そろそろさ…目覚ましてSOS団でそのエネルギーを使ってみたらどうなのよ…」
そこにはキョンの返事がない、無機質な機械音…
「ねぇ!?起きなさいよ!!アンタどんだけ人を待たせて気持ちよさそうに寝てんのよ!!起きろってば!!このバカキョン!!」
「涼宮さん!落ち着いて!」
「だって!コイツいつまでたっても起きないのよ!?そろそろ起きないと宿題終わんないじゃない!?」
「涼宮さんっ!!」
……古泉君が怒声をあげて私を抑えあげて私は我に帰った…
そうだ…キョンは起きない…二年前のあの日以来…ずっと…私がいくら泣きわめこうが聞く耳を持たずに起きようとしない…
コイツなら私が泣こうものなら、焦りながらもあやしてくれるものなのに…
それも叶わなくなったのは今から二年前のあの日…
そう…二年前のあの日から………
601: 2006/08/20(日) 02:22:49.10 ID:/fU5DZdSO
あの日…私がキョンを誘って映画…他にも行ったけど…それに行った日。
私は自分に素直になれなくて…キョンが心配してくれてたのを振り切って…私は一人家に帰った。
そこで私は凄く後悔したの…
なんで私はいつもこうなんだろう…って。
明日こそは素直になろう…。そして素直に謝ろう。そう考えてたの。
だけど…私の携帯に電話が鳴った。
その画面からは…公衆電話?誰だろ急に…わからないまま電話に出た…
そこで聞いた一つ一つの言葉が信じられなかった…
電話の相手はキョンの妹ちゃんだった。凄く慌ててる様子で。
「あの…っ…ねっ……ハルにゃん…っ!今…私…っ…ねっ…お母さんからっ…」
明らかに様子がおかしい事を覚るのにそんなに時間はいらなかった。
「妹ちゃん!?どうしたの!?なにかあったの!?お母さんがどうしたの!?落ち着いて話して!?」
私も最初わけわかんなくてパニクってたわ。妹ちゃんのこんな声聞くのは初めてだったし…
そして…その幼い口から…ゆっくりと…そして…残酷な言葉を耳にした…
「あのねっ!キョンくんが…キョンくんが今お車に引かれてね!病院に運ばれたの!!」
…えっ………
今回ばかりは私は状況を理解するのに時間を要した。
キョンが?車に引かれて?…病院に…運ばれた…?
嘘だ。
こんなの嘘だ。妹ちゃんも演技が上手ね…本当、私騙されるところだったわ。
こんどからこんな縁起でもないことを冗談でも言わないようにキツく叱っておこう。
長い沈黙のち、また妹ちゃんが話し出した。
「なんかねっ…今赤い光が扉の上に光っててね?…変なお部屋に連れて行かれたままねっ…ずっと戻って来ないのっ…」
「ウソッ!妹ちゃん!こればっかしはさすがの私も怒るわよ!?」
「ううん…嘘じゃないの!本当なの!お父さんとお母さんはなんか手を前に組んでずっと動かないの。」
…ものすごく嫌だけど…この状況を認める以外なかった…キョンが…?そんな…
「妹ちゃん?その病院がどこだがわかる!?」
「んとね?車に乗ってるときね?お兄ちゃんが行ってる学校が見えたの。とっても大きな病院なの。」
学校の近くの病院…あそこか。
「ありがとう妹ちゃん!お姉ちゃん今から行くから!」
「うんっ!わかった!お兄ちゃん大丈夫だよね?」
私は断言するだけの自信はなかったが…
「大丈夫!キョンだもん!あなたのお兄ちゃんだもんねっ!」
「うんっ!じゃあねハルにゃん!待ってるから!」
私は挨拶を済ませるとすぐさま家を飛び出した。
途中タクシーを拾って場所を告げた。
しばらくして着いたのは妹ちゃんが言っていた病院。
私は走った。
そして見つけた。
妹ちゃんだ。
「ハルにゃん!ほんとに来てくれたんだ!」
妹ちゃんは抱きついてくる。
私は周りを見渡し、キョンの両親を見つけた。
そして…赤々と照らされる眩しいランプ。そこには「手術中」の文字。
…嘘なんかじゃない…
本当に…キョンは…
私は事故の状況をキョンのお母さんに尋ねた。失礼かもしれないが…聞かないと納得しないのだ。
キョンは赤信号ながらに突っ込んでくる車に引かれたらしい。現場にいた目撃者の証言だ。
しかし、そのはねた車はそのまま逃走し、現在警察が聞き込みなどからだいたいの車の車種などは特定出来てるようだ。
泣きながらもキョンのお母さんは話してくれた。
私はキョンの両親に謝罪を告げた。
それと同時に私に怒り念がわいてきた。
なんで…?なんでキョンなの?そもそもソイツが信号無視なんかしなければキョンはこんな所にいないし、お母さんも悲しい思いなんてしなかったはず。
これでキョンが助からなかったら…私はソイツを一生許さない。本当にキョンと同じ、苦しい思いにさせてやる…
私はSOS団のみんなに連絡するか悩んだ。
でも…いつかは知らなくちゃいけなくなる…伝えなきゃ…
私は病院の中でも電話が使えるスペースに行き、SOS団のメンバーに電話をかけた。
最初に古泉君に電話をかけた。
私は古泉君に説明してる内に嗚咽混じりの涙が出てきた。
最初は古泉君も信じられなかったみたい。だけどさすがは冷静な古泉君だ。すぐに状況を理解し、私を慰めてくれた。
「大丈夫です。キョンくんならきっと助かりますよ。僕もすぐに向かいます。他の方々への連絡は僕が引き受けましょうか?」
いいえ…いいの。これは団長として…それだけじゃないけど…私にやらせて。
「…わかりました。お気を確かに持って下さいね。それじゃ、お願いします。」
ありがとう古泉君。あなたのおかげで意識がはっきりしたわ。
次にみくるちゃんに連絡をした。
みくるちゃんも急に泣き出した。状況が理解出来ていない…認めたくないようだ…
今から直ぐに病院に来て。私も認めたくないけど…でも逃げないで。
「ひぐっ…わかりました…。今から急いで…ひくっ…行きますからっ…涼宮さんも…元気…だして下さいね…ひぐっ…」
そういって電話を切った。
次は有希に。
有希は驚いたのかもわからないような声で「そう…。」と呟いた。
「大丈夫。助かる。あなたは信じてあげて。…今から向かうから。」
一応SOS団のメンバー全員に連絡入れ終わり、ずっと待合室の椅子に座り、手を組んで祈っていた。
しばらくしてSOS団の他のメンバーと、鶴屋さんや、私のクラスの谷口と国木田君が到着した。
古泉君やみくるちゃんが連絡をとったそうだ。
「おい!キョンが車に引かれた!?なにしてんだよアイツ…犯人は誰だ?出てこい!ぶっ殺してやる!!」
「やめなよ谷口!ここは病院だ!…とにかく今は信じようよ…犯人探しは警察の仕事だ。」
国木田君は冷静に谷口を抑えた。
「ハルにゃん…辛いのはわかるけど…私も辛いけど…笑顔で信じようよっ!キョンくんだってさっ、ハルにゃんのそんな顔見たくないにょろよ?」
鶴屋さん…ありがとう。私…大丈夫だから。
嘘。
全然大丈夫なんかじゃない。今にも不安で私の心は破裂しそう…それと同時に谷口と同じことを考えちゃう…
犯人は誰?許さない…殺してやりたい…
だけど…みんなが居てくれてるから…今は信じる。
キョンが絶対に助かる事を…
…どのくらい経っただろう…その間みんなは話さずにひたすらに祈った。
そして…手術中の赤いランプが消えた。
キョンのお母さんが出てきた医者に駆け寄る。同じように、皆駆け寄っていった。
医者の…残酷で…揺るぎない事実の言葉がゆっくり語られた。
「私達は最善を尽くしました…だが、外部の損傷自体は大したものではないものの、頭部を直撃し、脳が著しく損傷したため…お亡くなりにはなっていませんが…いつ亡くなるかわかりません…。」
「いわいる、植物状態…といったものです…一時も油断出来る状態ではありません。私が院から代表して、謝罪致します。」
えっ…植物状態って…嘘だ…キョンが…
病院は一切悪くない。本当にそのお医者さんは申し訳なさそうに言ってくれた。だけど…そんなの認められる訳がないじゃない…!
気づくと、私はその医者の胸ぐらを掴んでいた。
ねぇ?嘘でしょ!?キョン今日あんな元気そうにしてたんだよ!?それなのに…それなのに!なにが最善を尽くしたの!?医者は人を救うものなんでしょ!?なんとか言いなさいよ!?ねぇ!!
そのお医者さんは何も言い訳…言い訳じゃない。本当は正論なんだ。それすら口にせず、私に胸ぐらを掴まれて上下に振られても黙って私の話を聞いてた。
「涼宮さん!」
「おい!涼宮!」
「ちょっと君!」
古泉君、谷口、キョンのお父さんが三人がかりで私を止めてくれた。
「これは現実なんだ!…認めてやってくれ…。……このバカ息子は本当にこんな女の子達を泣かせて…悪い奴だよ本当に…。」
お父さんは笑っていた。無理をしてだろう。
私はその場に力なく落ちて、大声を荒げて泣いた。
「なんて力なんだ…僕の力は…人を助ける事が出来ない力なんて…」
そういうと古泉君は壁を力強く殴った。
キョンのお母さんも、みくるちゃんも、普段涙とは無縁の鶴屋さんも泣いていた。そして、有希も…
ねぇ?キョン?
みんなアナタを思って泣いてあげてるのよ?
同情なんかじゃない。本当にアナタがいないと寂しいから。
アナタはみんなにとってかけがえない存在だから…
ほら!こんな美人が沢山泣いてくれてるのよ!普段は泣かない鶴屋さんだって…有希だって…涙を流してるの…
それはいけないことなのよ?女の子を泣かせるのは重罪よ!ちゃんと起きたらお仕置きしてやるから!
だから…起きなさいよ…キョン…起きて…あの笑顔で笑いなさいよ…
キョン…………
私は変わった…
アイツといたから笑えたのに…アイツがいたから笑えたのに…
私は一切笑うという感情を忘れた。
私はそれから毎日自分の真っ暗な世界で過ごした。
いつか前にキョンといた夢の世界…あの灰色の世界…周りが灰色で風景が真っ暗…そこで一人…自分の部屋の中でずっと過ごしていた。
夏休みが明け、私は学校にいる…
行きたくなんてなかった。でも事情を知っている親なりの配慮だ。そんなの痒いだけ…そのうち、痒さがうるさく感じるようになる…きっと。
私はひたすら前の席…キョンの席を見つめていた。
朝、担任が入ってきて話を始めた。
「えー、今日は暗い話から始まる。」
何?暗いって…
「実は、〇〇の事なんだが…夏休み中に事故に遭ってな…現在病院でいわいる植物状態となっている…先生は悲しく思う。」
悲しく思う?何いかにも他人事みたいに話してるのよ…アイツは今も苦しんでいるのに…
その心ない言葉に私の理性がなくなった。
何よ…あんた他人事みたいに言って…悲しく思う?本当に思ってないでしょ!?だけどね!今アイツは生か死かでさまよって苦しんでるの!
あんたにその気持ちが解らないでしょ!?知った口叩かないで!!
「涼宮ッ!止めろ!!」
止めたのは谷口だった。
止めて?!アイツ、キョンの気持ちも知らないで口から出任せのように言ってるのよ!?あんたはそんなの許せるの!?
「許せる訳ないだろう!!」
谷口が大声をあげた。その手は強く拳が握られていた。中学から知ってるけど、こんなところ見たことなかった…
「先生。涼宮は調子が悪いから早退するそうです。」
担任がわからなそうにしてると、
「行ってやれ。お前あれ以来全然見舞い行ってないだろ?アイツも寂しがってたぜ?やっぱりアイツにはお前がいないとダメなんだよ!」
「それに?お前が笑わない姿見たら、アイツかなり心配すると思うぜ?お前の笑顔見て笑ってたからなアイツは…」
「お前何言って…」
担任が言おうとした事を、
「先生!涼宮さんは実は今にも倒れそうなくらいの大熱で、病院に行かなきゃならないんです!」
国木田君がコッチを向いて微笑んだ。
谷口、国木田君、本当にありがとう。
私は二人に笑って礼を述べた。そして、教室を走って出ていった。
キョン、アナタ本当にいい友達持ってるわよ。
私は走った。まだ暑い九月の始め。
病院に着いた。部屋がどこか聞くと、すぐにその病室に向かった。
キョン――っ!
そこに眠るは相も変わらずマヌケな顔のまま寝ている…だけどいくら言っても返事などしてくれないキョンの姿だった。
キョン…今までごめんなさい…私、今まで現実から逃げてた。キョンがこんな姿だなんて信じたくなかった…
視界が滲んでるのがわかる。それでも返事のないキョンに話を続ける。
でもね…今日気づいたんだ!あのアホの谷口や国木田君がアナタが起きると信じてる…それなのに私は現実から背いてちゃ駄目だもんね…
あの谷口が私に気を使ってここに来させてくれたのよ?学校を無理やり早退させて…国木田君も先生を黙らせて。
あんた、本当にいい友達がいるんだから…早く起きなさいよ?私も…毎日来てあげるから…もちろん!SOS団の活動もちゃんとしてもらうわよ?
あんたの事信じてるから…起きたら伝えたい事もあるの。だから…早く…ね…
涙が頬を伝ってキョンの顔に落ちた。
それと同時に、キョンの目から涙が出ていた…
私はキョンの胸にうずくまって大声で泣いた。ごめんなさい。迷惑だよね…でも…もうちょっと泣かせて…。
それは、夏もまだ終わらぬ暑い日。
空が蒼くて…雲一つない、夏の暑い日。
キョンの前では笑っていようと決意した日。
私が笑わなかったら…キョンが悲しんじゃうから…
キョンの前では泣かずに笑おう………
そう決めた筈なんだけどな…………
季節は過ぎて…二度目の冬。
時の流れは残酷だ…。キョンくんの意識は依然として戻って来なかった…
僕はこの間だけでも酷く疲労し、そして力の無念さに嘆いた。
疲労した理由は…閉鎖空間の発生によるものだった。
夏休みの間はあの一件以来、毎日というほど発生していた。
しかし、それからはあまり発生することはなかった。だがたまに広範囲の閉鎖空間が発生する。
涼宮さんがキョンくんが起きなくて我慢できなくなる時、閉鎖空間が発生し、その中の神人はとても強力です。
仲間みんなの協力でなんとか場の収集がつく…といった次第です。
でも…閉鎖空間から読み取れる涼宮さんの心は…酷く荒んでいて…恨み、悲しみ、さらには自殺願望なんてのもありました。
それは一時的に収まったものの、いつ再発するかわかったものではありません。
でも世界がなくなるなんてことはありませんでした。
僕達が頑張っているから…とは違いますか。
やはり涼宮さんは心からキョンくんとの楽しい一時を心待ちにして信じているようです。
でも彼女のそんな心境を知ると、僕の力ではどうすることも出来ない事が悔やみます。
せめて、人一人を救える能力にしてくれれば…そう思うこともあります。
長門さんに相談したこともありました。
どうにかして、キョンくんを救えないものかと。
しかし、長門の長にあたる情報統合思念体は長門さんの力を使うわけにはいかないと判断したようです。
人間には人間の摂理があるのか…あるいは、それこそ涼宮ハルヒの行動などに興味があるのか…
そのことを長門さんから聞いたとき、彼女は泣いていました…。
あの時…キョンくんが植物状態だと告げられた時のように…
長門さんが言うには、
「あの時に大量にバグが溜まってしまった。なかなか取り除くことが出来ない。この涙も簡単には止まらない…」
…思うがままに泣くといいと思います。きっと…また考えることが出来るようになります。
「……そう…。」
彼女は泣き続けました。ずっと…声はあげずに…静かに…悲しげな顔をしながら…
もちろん僕も最善を尽くしました。
僕の知り合いから名医と呼ばれる名医をよんで調べてもらいました。
だが…すべての名医が残酷に
「今の状況以上は望めない。」
との答えでした。
それでも諦めずに調べさせましたが、涼宮さんが
「キョンは絶対起きてくるんだから!古泉君が心配することないわよ!ほら?アイツ寝ぼすけだからなかなか起きたくないのよ…」
と言って診察をやめさせました。
涼宮さんは信じているのですね…彼が絶対に起きるということを。
そして、今日は冬の寒い日…そして…いわゆるクリスマスというものでした。
去年もSOS団とお友達御一行でパーティーをやりました。
みんな楽しそうに鍋を取り囲んだり、催し物で楽しんだり…そこでキョンくんが心なしか笑っている気がしたのです。
そこで涼宮さんがまた今年も同じようにと、みんなを誘ってクリスマスを過ごすと提案しました。
病院にちゃんと許可を得て、僕達はキョンくんの病室をクリスマス風…なのかわかりませんが…派手な装飾を施しました。
皆さんが揃い、僕達はパーティーを始めました。
鍋を囲いました。相変わらずの食べっぷりの長門さんやそこに鶴屋さんや谷口君も加わり、鍋の周りは戦場と化してます。
涼宮さんは…前の食べっぷりに比べると勢いが劣るようでしたが、一時期よりも大分ましになったようですね。
僕はその戦場から離れ、キョンくんを見ていました。
どうですキョンくん?あなたが眠っている間も相も変わらずあの食べ物での戦争は変わっていませんよ?
「…あぁ…そのようだな…長門の食いっぷりは相変わらず凄いよ…」
でしょう?あなたも参加してみては?
「多分食い物食ったら気持ち悪くなるね。」
「それに…長門や谷口となると勝ち目がないな…」
弱気ですね?たまには目にもくれずに戦ってみては?
「それで本当に死んだら元も子もないだろ?それこそ世界が破滅するぜ?まぁ食いもんぐらいでは死なないだろうが」
そうですね…それは僕個人としても凄く寂しい思いをしますし…
「なぁ…本当に一度聞いてみたかったんだが…お前って…ゲ」
そんなこと言ってる前に涼宮さんの心配を解消させてはどうです?
「……俺も出来ることならしたいけどな…無理そうだな…」
あなたが望めば…あるいは。
「おいおい。俺はハルヒじゃねぇぜ?」
そうですね…だが前も言ったでしょう?あなたは超能力者と言っても過言ではないって?
「…それならとうの昔に起きてたさ…ハルヒの泣き顔なんて見たくもなかったからな…」
そうですか…少し残念です。機関には同年代の仲間がいなかったもので。
「…スマンな古泉。しばらくハルヒを頼む。」
えぇ。でも、ちゃんと起きて謝ってあげるのが王子様の役目ですよ?
「…あぁ。そこは任せとけよ。もう決心はしたからな。」
それはそれは…では…またあなたとオセロが出来ることを切に願いますよ。
「一回ぐらいは勝たせてやるからな?」
ふふっ…油断してると本当に負けますからね?
「あぁ…肝に命じとくさ。じゃあな…」
えぇ。ではまた。
「古泉君?ほら!早く食べないとなくなるわよっ?」
はい。ふふっ…でも彼の寝顔があまりにも楽しそうで…
みんながキョンくんを見ました。
そこにはあのキョンくんの微笑みが広がっていました。
「そうね…本当にあの頃の笑顔…そうよ!あんたはそれでいいのよ!あんたはずっと…笑っていればいいんだから…」
そして…キョンくんの微笑みの瞳から涙が流れてきました…
「なにあんた泣いてるのよ!笑いながら…変な顔ねっ!」
涼宮さんも笑いながらもその大きな瞳には大粒の涙が溜まっていました…
「…さぁ!コイツのためにももっと楽しませてやんなきゃ!そうだ!谷口!あんたなんか芸やりなさいよ!ほらさっさと!」
涼宮さんに芸を強いられる谷口君もまた涙が流れていましたが、その姿はとても楽しそうで…みんなにも笑顔がこぼれてきます。
「あっ…雪よ!ねぇキョン!みんな!雪が降ってきたわよ!」
空から降る神秘的な白く輝く雪。
それは僕らを祝福するように。キョンくんの早い回復を祈るように。
あるとても寒い日の出来事。
空から幾千…幾万もの雪の結晶が降ってきていて…それは冷たくとも暖かい…
僕達は笑いが零れながら、これがサンタクロースのプレゼントか…そう思っていました。
キョンくん…?この世界は…光に満ちていますよ?………
そして…また時は流れる…非情にも…
私は三年生になっていた。だからといっても学校なんかに興味はない。三年生になってもやることなんて大して変わらない。ただ周りは受験のことで頭がいっぱいのようだ…
もうキョンのことがどうという奴らは私たち以外いなくなった。
みんな忘れたように、名前を口にすることがなくなっていた。
そして私はそんな学校に嫌気が差しながらもひたすら窓の風景を眺めて授業をこなす。そうして授業が終わると古泉君や有希を連れ出し、病室に向かう。
みくるちゃんは卒業し、家政婦関係の専門学校に行っているようだ。
そして、その学校が終わる頃にこちらに来て、SOS団集合というわけだ。
これを約二年近く毎日…みんな色々都合がつかないときも、私だけは一度も欠かさずに毎日訪れた。
たまにアホの谷口や国木田君、鶴屋さんなどのいつもの面々も来る。
鶴屋さんはやはり家を継ぐようで、「色々こっちも大変なのさぁ~っ!」とかいつもの調子で経過を語ってくれた。いつも変わらず明るい鶴屋さんがたくましく見える。
そして今は七月の初め。
そろそろ夏休みだとウキウキしてくる時期である。
もう梅雨は終わったのかしら…いささか早すぎる気もする…すでにセミのウルサい声が聞こえていた。
そこでキョンにセミの話をした。私は感極まってしまったが…
急に私は二年前以来、忘れていたイベントがあることを思い出した。
―――七夕だ…
カレンダーを見ると、七夕の日である七月七日は明日に迫っていた。
キョンに早々に別れを告げると、みくるちゃんや有希や古泉君と一緒に買い物に来ていた。
明日は七夕でしょ?笹を買ってそこにみんな短冊付けてお祈りするの!
みんなは賛成した。久々に全員集まってなにかする…楽しみだわ。
最後にみんなが集合したのは…初詣に行った時か。みんなお賽銭をちゃんといれてお祈りしたわ。
私は――キョンが元気に起きてくれますように…――
みんなに問いかけたりもしたのだが、何故か教えてくれなかった。
そこでお守りを買って…中にはアレを入れておいた。キョンが起きたら見せようと決めているアレを…恥ずかしいけど、ちゃんと見せるの!
アイツ驚くかもなぁ~?顔真っ赤になったりして…
ちょっと楽しみである。
もちろん七夕にも同じ願いを書く。なんか、初詣より七夕の方が効きそうな気がするの!根拠はないんだけど…きっとそうなのよ!
彦星と織り姫がが一年に一回再会して、きっとその嬉しさのあまりに笹の葉にさげてある願い事を叶えてくれるの!
なんていい人達なのかしら…あなた達を私は尊敬するわね。
ホームセンターに行くと、さすがはシーズンだけあり、ちゃんと程よい長さに切られている笹の枝がある。
だけど、私はそれを流し、柄の長く大きい笹の枝…もう既に竹かもしれないわね…を買った。
そりゃデカくないとなかなか彦星達は気づいてくれないだろう。夜になったら病室のキョンの部屋から見える場所に配置させてもらいましょう。
それまでは古泉君が預かってくれるらしい。大きなトラックが来て、どこかへ運んで行った。
その他に、短冊や宴会用の食料、飾り付け用の装飾品などを買って今日の所は解散した。
その後もう一度キョンの所に行こうとも考えたんだけど…明日のために我慢だ!
そう考えてやめておいた。
久々にみんなで集まるのが楽しみだもん!キョンもみんなに会えるのが嬉しいだろうから、明日はうんと楽しませてやるんだ!
そうして私は家路に着きベッドで眠りについた。
………私は驚愕した…
そこはいつか見た灰色の世界。
全てが色という概念がなく、灰色で、空が黒い世界。
夢でキョンと二人でいた世界。
私は学校の真ん中で眠っていて、起きてまた夢かと思っていた。
今回はキョンがいなく、私は一人だった。
どこかにキョンがいる気がする…そんな気がする。
私は学校の校舎に入った。
まず教室。それは今私が行っている教室でなくて、一年のとき、キョンと一緒のクラスだった教室、一年五組。
そこにはキョンの姿は見えなかった。
昔のキョンの席の必ず一つ後ろ。私はいくら席替えをしても必ずその定位置にいた。
私がずっとそうであるように、と願ってはいたが、ここまで連続して偶然が重なるのは我ながら凄い事だと思ったわ。
私ってそういう能力者なのかしら―――でも…それならキョンは既に目が覚めている筈だし…偶然ね…
でもキョンの後ろの席でなければ私は学校に行くことを拒んでいたかもしれない。
毎日のキョンとの会話…今でもいくらたわいのない事でも覚えている。
あの会話のために毎日学校に行っているようなものだった。
もちろん!SOS団のみんなと会いたいのもあったけど。
私は自分の席に着いて、前の席を見つめた。
いつもならキョンが体を横に向けた状態で顔だけをこっちに向けて私の話を聞いてくれたものだった。
だけどそれはない。当たり前だと解っているけど…期待してしまっている。
せめて夢なんだから会わせてくれてもいいのに…でも…どこかにいる気がする。
私は学校中をまわってみた。グラウンド、体育館、講堂、職員室…全部まわってもどこにも居なかった。
最後に一番最後にとっておいた部室棟を探した。
追い詰めて、ここで見つけてやるの!そして見つけたらギャフンと言ってやるの!なんで起きないのこの寝ぼすけ!ってね!
そして…我がSOS団の部室のドアノブに手をかけた。
一度深呼吸。肺の限界まで息を溜め込んで、ゆっくりと息を吐く。
そして…ドアノブを回して勢いよく開けた。いつも、昔の私がやっていたみたく…キョンが「もう少し大人しく開けることは出来んのか?」って言ってくれる気がしたから…
だけど…それは叶わなかった…
そこにはキョンの姿は無かった…
期待していただけに、落胆の反動は大きかった…
やっぱり…私にはキョンと会わせてくれないのね…神様って本当に意地悪…
私は自分の団長と書いてある置物がある席に座ってみた。
懐かしい…キョンがあんな事になって以来ここに来ることはなくなっていた。ずっと病院でSOS団のみんなと過ごしていたから。
だけど…そこから見る風景は全く変わっていない。
本棚には沢山の本。全部有希が持ってきたもの。あの子、あんなに読んだのよね…凄いわ本当に…
ハンガーラックにはメイド服やナース服、バニーなどの衣装がそのままだ。そういえばみくるちゃんにコスプレなんて最近着せてなかったわね…今度着せてみることにする。
キョンが鼻の下伸ばしてたらぶっ叩いてやるんだから!私が来ても嬉しそうに鼻の下伸ばしてるのかしら…そうだったら私も着てみようとするわ。キョンが喜ぶんならね!
団長席の机の中を探ると腕章が出てきた。いっぱいあるわねぇ…団長、名探偵など一杯あるわ…よくもこんなに作ったわ。
他にも夏合宿の写真もある。ふふっ…キョンのマヌケな寝顔…毎日見ている寝顔とは違くて…こっちは前のありのままのキョンの顔。こんな顔してたわね…
他にも困った顔、必死な顔、泣きそうになった顔…
でも、一番笑っている顔がかっこよくもあり、可愛らしくもあり…私の好きなキョンの顔だ。
………外から物音が聞こえる…
足音?走っている…?こっちに向かってくるわ!
誰?この世界は私一人の筈なのに…
………もしかして………
扉が開いたその向こうには…私がずっと会いたかった…元気なキョンの姿だった。
キョン………?
キョンは驚いた様子で扉の前で立ちすくんでいた…その目には光が輝いていた…いつも見ている、目を閉じているキョンではなく、とても優しい目…
あぁ…キョンってこんな優しい目をしていたんだ………
キョン…嬉しい…。
私はなりふり構わず勢いよく抱きついた…それをキョンが受け入れてくれた…
キョンの大きな胸…
あぁ…男の人の胸ってこんなに大きいんだ…
私はギャフンと言ってやるのを忘れてずっと抱きしめていた…
そして…光が見えたの…急なとても眩しい光…周りは見えなくてもキョンの胸の温もりはそのままに…
目が覚めると自分の部屋にいた。
ちゃんと夜寝た状態のままだ。だけど…私にはまだ彼の温もりが残っている…
妙なリアルな夢…前もそう。前もキョンとキスして…その温もりが微かにだけど残っていた…
でも夢なのだろう…
今日は休日。集まるのは夕方から。なので昼間はもう一度寝てみた。もう一度キョンに会えるかも…そう思ったから。
だけど…今度はとても嫌な夢を見た。
そこはどこだかわからない…周りは緑が広がっていて…草原のようなものだろうか…
気づくと私がそこに立っていて…そして…キョンもいたの。
キョンは私に何か話しかけて…何かは聞こえなかったのに自然と私の目から涙が溢れだしてきて…その後私を抱きしめたの。
そして…またキスをした。とても暖かくて…キョンの鼓動を感じた。長い間…ずっとキスをしていた…
そして抱きしめあったまま、キョンが何かを呟いて…離れていっちゃって、追いかけたのに追いつかなくて…遠くて…
そして途中立ち止まってこっちを向いてこう言ったの…
「ハルヒ!俺はお前を愛している!この先どんな姿になっても、ずっと愛し続ける!
だから幸せになれ!俺はお前の幸せが一番なんだ。それで、大体七十年後に俺の所へ来てまた振り回してくれよ!その前じゃ絶対に許さん!
…じゃあな。たまには思い出せよ?
…元気でな…。」
ここだけはハッキリ聞こえて…
私は大声で泣きながら追いかけたのに…キョンはどこかに消えてしまった。
そこで目を覚ました。
鏡で見なくてもわかる。目が痛い。赤く腫れ上がっているだろう。泣いていたのか……
夢でよかった…本当に心底思った。
…二度寝なんてしなければよかった…だが起きてみればちょうどいい時間帯。
忘れよう!そう思い準備を始めた。顔をよく洗ってもなかなか腫れが引かない。
困ったものだ。よっぽど泣いていたのだろう。
こんな所キョンに見せたら…
私は少し引きずりながらも、病院へ向かった………
私は自分に素直になれなくて…キョンが心配してくれてたのを振り切って…私は一人家に帰った。
そこで私は凄く後悔したの…
なんで私はいつもこうなんだろう…って。
明日こそは素直になろう…。そして素直に謝ろう。そう考えてたの。
だけど…私の携帯に電話が鳴った。
その画面からは…公衆電話?誰だろ急に…わからないまま電話に出た…
そこで聞いた一つ一つの言葉が信じられなかった…
電話の相手はキョンの妹ちゃんだった。凄く慌ててる様子で。
「あの…っ…ねっ……ハルにゃん…っ!今…私…っ…ねっ…お母さんからっ…」
明らかに様子がおかしい事を覚るのにそんなに時間はいらなかった。
「妹ちゃん!?どうしたの!?なにかあったの!?お母さんがどうしたの!?落ち着いて話して!?」
私も最初わけわかんなくてパニクってたわ。妹ちゃんのこんな声聞くのは初めてだったし…
そして…その幼い口から…ゆっくりと…そして…残酷な言葉を耳にした…
「あのねっ!キョンくんが…キョンくんが今お車に引かれてね!病院に運ばれたの!!」
…えっ………
今回ばかりは私は状況を理解するのに時間を要した。
キョンが?車に引かれて?…病院に…運ばれた…?
嘘だ。
こんなの嘘だ。妹ちゃんも演技が上手ね…本当、私騙されるところだったわ。
こんどからこんな縁起でもないことを冗談でも言わないようにキツく叱っておこう。
長い沈黙のち、また妹ちゃんが話し出した。
「なんかねっ…今赤い光が扉の上に光っててね?…変なお部屋に連れて行かれたままねっ…ずっと戻って来ないのっ…」
「ウソッ!妹ちゃん!こればっかしはさすがの私も怒るわよ!?」
「ううん…嘘じゃないの!本当なの!お父さんとお母さんはなんか手を前に組んでずっと動かないの。」
…ものすごく嫌だけど…この状況を認める以外なかった…キョンが…?そんな…
「妹ちゃん?その病院がどこだがわかる!?」
「んとね?車に乗ってるときね?お兄ちゃんが行ってる学校が見えたの。とっても大きな病院なの。」
学校の近くの病院…あそこか。
「ありがとう妹ちゃん!お姉ちゃん今から行くから!」
「うんっ!わかった!お兄ちゃん大丈夫だよね?」
私は断言するだけの自信はなかったが…
「大丈夫!キョンだもん!あなたのお兄ちゃんだもんねっ!」
「うんっ!じゃあねハルにゃん!待ってるから!」
私は挨拶を済ませるとすぐさま家を飛び出した。
途中タクシーを拾って場所を告げた。
しばらくして着いたのは妹ちゃんが言っていた病院。
私は走った。
そして見つけた。
妹ちゃんだ。
「ハルにゃん!ほんとに来てくれたんだ!」
妹ちゃんは抱きついてくる。
私は周りを見渡し、キョンの両親を見つけた。
そして…赤々と照らされる眩しいランプ。そこには「手術中」の文字。
…嘘なんかじゃない…
本当に…キョンは…
私は事故の状況をキョンのお母さんに尋ねた。失礼かもしれないが…聞かないと納得しないのだ。
キョンは赤信号ながらに突っ込んでくる車に引かれたらしい。現場にいた目撃者の証言だ。
しかし、そのはねた車はそのまま逃走し、現在警察が聞き込みなどからだいたいの車の車種などは特定出来てるようだ。
泣きながらもキョンのお母さんは話してくれた。
私はキョンの両親に謝罪を告げた。
それと同時に私に怒り念がわいてきた。
なんで…?なんでキョンなの?そもそもソイツが信号無視なんかしなければキョンはこんな所にいないし、お母さんも悲しい思いなんてしなかったはず。
これでキョンが助からなかったら…私はソイツを一生許さない。本当にキョンと同じ、苦しい思いにさせてやる…
私はSOS団のみんなに連絡するか悩んだ。
でも…いつかは知らなくちゃいけなくなる…伝えなきゃ…
私は病院の中でも電話が使えるスペースに行き、SOS団のメンバーに電話をかけた。
最初に古泉君に電話をかけた。
私は古泉君に説明してる内に嗚咽混じりの涙が出てきた。
最初は古泉君も信じられなかったみたい。だけどさすがは冷静な古泉君だ。すぐに状況を理解し、私を慰めてくれた。
「大丈夫です。キョンくんならきっと助かりますよ。僕もすぐに向かいます。他の方々への連絡は僕が引き受けましょうか?」
いいえ…いいの。これは団長として…それだけじゃないけど…私にやらせて。
「…わかりました。お気を確かに持って下さいね。それじゃ、お願いします。」
ありがとう古泉君。あなたのおかげで意識がはっきりしたわ。
次にみくるちゃんに連絡をした。
みくるちゃんも急に泣き出した。状況が理解出来ていない…認めたくないようだ…
今から直ぐに病院に来て。私も認めたくないけど…でも逃げないで。
「ひぐっ…わかりました…。今から急いで…ひくっ…行きますからっ…涼宮さんも…元気…だして下さいね…ひぐっ…」
そういって電話を切った。
次は有希に。
有希は驚いたのかもわからないような声で「そう…。」と呟いた。
「大丈夫。助かる。あなたは信じてあげて。…今から向かうから。」
一応SOS団のメンバー全員に連絡入れ終わり、ずっと待合室の椅子に座り、手を組んで祈っていた。
しばらくしてSOS団の他のメンバーと、鶴屋さんや、私のクラスの谷口と国木田君が到着した。
古泉君やみくるちゃんが連絡をとったそうだ。
「おい!キョンが車に引かれた!?なにしてんだよアイツ…犯人は誰だ?出てこい!ぶっ殺してやる!!」
「やめなよ谷口!ここは病院だ!…とにかく今は信じようよ…犯人探しは警察の仕事だ。」
国木田君は冷静に谷口を抑えた。
「ハルにゃん…辛いのはわかるけど…私も辛いけど…笑顔で信じようよっ!キョンくんだってさっ、ハルにゃんのそんな顔見たくないにょろよ?」
鶴屋さん…ありがとう。私…大丈夫だから。
嘘。
全然大丈夫なんかじゃない。今にも不安で私の心は破裂しそう…それと同時に谷口と同じことを考えちゃう…
犯人は誰?許さない…殺してやりたい…
だけど…みんなが居てくれてるから…今は信じる。
キョンが絶対に助かる事を…
…どのくらい経っただろう…その間みんなは話さずにひたすらに祈った。
そして…手術中の赤いランプが消えた。
キョンのお母さんが出てきた医者に駆け寄る。同じように、皆駆け寄っていった。
医者の…残酷で…揺るぎない事実の言葉がゆっくり語られた。
「私達は最善を尽くしました…だが、外部の損傷自体は大したものではないものの、頭部を直撃し、脳が著しく損傷したため…お亡くなりにはなっていませんが…いつ亡くなるかわかりません…。」
「いわいる、植物状態…といったものです…一時も油断出来る状態ではありません。私が院から代表して、謝罪致します。」
えっ…植物状態って…嘘だ…キョンが…
病院は一切悪くない。本当にそのお医者さんは申し訳なさそうに言ってくれた。だけど…そんなの認められる訳がないじゃない…!
気づくと、私はその医者の胸ぐらを掴んでいた。
ねぇ?嘘でしょ!?キョン今日あんな元気そうにしてたんだよ!?それなのに…それなのに!なにが最善を尽くしたの!?医者は人を救うものなんでしょ!?なんとか言いなさいよ!?ねぇ!!
そのお医者さんは何も言い訳…言い訳じゃない。本当は正論なんだ。それすら口にせず、私に胸ぐらを掴まれて上下に振られても黙って私の話を聞いてた。
「涼宮さん!」
「おい!涼宮!」
「ちょっと君!」
古泉君、谷口、キョンのお父さんが三人がかりで私を止めてくれた。
「これは現実なんだ!…認めてやってくれ…。……このバカ息子は本当にこんな女の子達を泣かせて…悪い奴だよ本当に…。」
お父さんは笑っていた。無理をしてだろう。
私はその場に力なく落ちて、大声を荒げて泣いた。
「なんて力なんだ…僕の力は…人を助ける事が出来ない力なんて…」
そういうと古泉君は壁を力強く殴った。
キョンのお母さんも、みくるちゃんも、普段涙とは無縁の鶴屋さんも泣いていた。そして、有希も…
ねぇ?キョン?
みんなアナタを思って泣いてあげてるのよ?
同情なんかじゃない。本当にアナタがいないと寂しいから。
アナタはみんなにとってかけがえない存在だから…
ほら!こんな美人が沢山泣いてくれてるのよ!普段は泣かない鶴屋さんだって…有希だって…涙を流してるの…
それはいけないことなのよ?女の子を泣かせるのは重罪よ!ちゃんと起きたらお仕置きしてやるから!
だから…起きなさいよ…キョン…起きて…あの笑顔で笑いなさいよ…
キョン…………
私は変わった…
アイツといたから笑えたのに…アイツがいたから笑えたのに…
私は一切笑うという感情を忘れた。
私はそれから毎日自分の真っ暗な世界で過ごした。
いつか前にキョンといた夢の世界…あの灰色の世界…周りが灰色で風景が真っ暗…そこで一人…自分の部屋の中でずっと過ごしていた。
夏休みが明け、私は学校にいる…
行きたくなんてなかった。でも事情を知っている親なりの配慮だ。そんなの痒いだけ…そのうち、痒さがうるさく感じるようになる…きっと。
私はひたすら前の席…キョンの席を見つめていた。
朝、担任が入ってきて話を始めた。
「えー、今日は暗い話から始まる。」
何?暗いって…
「実は、〇〇の事なんだが…夏休み中に事故に遭ってな…現在病院でいわいる植物状態となっている…先生は悲しく思う。」
悲しく思う?何いかにも他人事みたいに話してるのよ…アイツは今も苦しんでいるのに…
その心ない言葉に私の理性がなくなった。
何よ…あんた他人事みたいに言って…悲しく思う?本当に思ってないでしょ!?だけどね!今アイツは生か死かでさまよって苦しんでるの!
あんたにその気持ちが解らないでしょ!?知った口叩かないで!!
「涼宮ッ!止めろ!!」
止めたのは谷口だった。
止めて?!アイツ、キョンの気持ちも知らないで口から出任せのように言ってるのよ!?あんたはそんなの許せるの!?
「許せる訳ないだろう!!」
谷口が大声をあげた。その手は強く拳が握られていた。中学から知ってるけど、こんなところ見たことなかった…
「先生。涼宮は調子が悪いから早退するそうです。」
担任がわからなそうにしてると、
「行ってやれ。お前あれ以来全然見舞い行ってないだろ?アイツも寂しがってたぜ?やっぱりアイツにはお前がいないとダメなんだよ!」
「それに?お前が笑わない姿見たら、アイツかなり心配すると思うぜ?お前の笑顔見て笑ってたからなアイツは…」
「お前何言って…」
担任が言おうとした事を、
「先生!涼宮さんは実は今にも倒れそうなくらいの大熱で、病院に行かなきゃならないんです!」
国木田君がコッチを向いて微笑んだ。
谷口、国木田君、本当にありがとう。
私は二人に笑って礼を述べた。そして、教室を走って出ていった。
キョン、アナタ本当にいい友達持ってるわよ。
私は走った。まだ暑い九月の始め。
病院に着いた。部屋がどこか聞くと、すぐにその病室に向かった。
キョン――っ!
そこに眠るは相も変わらずマヌケな顔のまま寝ている…だけどいくら言っても返事などしてくれないキョンの姿だった。
キョン…今までごめんなさい…私、今まで現実から逃げてた。キョンがこんな姿だなんて信じたくなかった…
視界が滲んでるのがわかる。それでも返事のないキョンに話を続ける。
でもね…今日気づいたんだ!あのアホの谷口や国木田君がアナタが起きると信じてる…それなのに私は現実から背いてちゃ駄目だもんね…
あの谷口が私に気を使ってここに来させてくれたのよ?学校を無理やり早退させて…国木田君も先生を黙らせて。
あんた、本当にいい友達がいるんだから…早く起きなさいよ?私も…毎日来てあげるから…もちろん!SOS団の活動もちゃんとしてもらうわよ?
あんたの事信じてるから…起きたら伝えたい事もあるの。だから…早く…ね…
涙が頬を伝ってキョンの顔に落ちた。
それと同時に、キョンの目から涙が出ていた…
私はキョンの胸にうずくまって大声で泣いた。ごめんなさい。迷惑だよね…でも…もうちょっと泣かせて…。
それは、夏もまだ終わらぬ暑い日。
空が蒼くて…雲一つない、夏の暑い日。
キョンの前では笑っていようと決意した日。
私が笑わなかったら…キョンが悲しんじゃうから…
キョンの前では泣かずに笑おう………
そう決めた筈なんだけどな…………
季節は過ぎて…二度目の冬。
時の流れは残酷だ…。キョンくんの意識は依然として戻って来なかった…
僕はこの間だけでも酷く疲労し、そして力の無念さに嘆いた。
疲労した理由は…閉鎖空間の発生によるものだった。
夏休みの間はあの一件以来、毎日というほど発生していた。
しかし、それからはあまり発生することはなかった。だがたまに広範囲の閉鎖空間が発生する。
涼宮さんがキョンくんが起きなくて我慢できなくなる時、閉鎖空間が発生し、その中の神人はとても強力です。
仲間みんなの協力でなんとか場の収集がつく…といった次第です。
でも…閉鎖空間から読み取れる涼宮さんの心は…酷く荒んでいて…恨み、悲しみ、さらには自殺願望なんてのもありました。
それは一時的に収まったものの、いつ再発するかわかったものではありません。
でも世界がなくなるなんてことはありませんでした。
僕達が頑張っているから…とは違いますか。
やはり涼宮さんは心からキョンくんとの楽しい一時を心待ちにして信じているようです。
でも彼女のそんな心境を知ると、僕の力ではどうすることも出来ない事が悔やみます。
せめて、人一人を救える能力にしてくれれば…そう思うこともあります。
長門さんに相談したこともありました。
どうにかして、キョンくんを救えないものかと。
しかし、長門の長にあたる情報統合思念体は長門さんの力を使うわけにはいかないと判断したようです。
人間には人間の摂理があるのか…あるいは、それこそ涼宮ハルヒの行動などに興味があるのか…
そのことを長門さんから聞いたとき、彼女は泣いていました…。
あの時…キョンくんが植物状態だと告げられた時のように…
長門さんが言うには、
「あの時に大量にバグが溜まってしまった。なかなか取り除くことが出来ない。この涙も簡単には止まらない…」
…思うがままに泣くといいと思います。きっと…また考えることが出来るようになります。
「……そう…。」
彼女は泣き続けました。ずっと…声はあげずに…静かに…悲しげな顔をしながら…
もちろん僕も最善を尽くしました。
僕の知り合いから名医と呼ばれる名医をよんで調べてもらいました。
だが…すべての名医が残酷に
「今の状況以上は望めない。」
との答えでした。
それでも諦めずに調べさせましたが、涼宮さんが
「キョンは絶対起きてくるんだから!古泉君が心配することないわよ!ほら?アイツ寝ぼすけだからなかなか起きたくないのよ…」
と言って診察をやめさせました。
涼宮さんは信じているのですね…彼が絶対に起きるということを。
そして、今日は冬の寒い日…そして…いわゆるクリスマスというものでした。
去年もSOS団とお友達御一行でパーティーをやりました。
みんな楽しそうに鍋を取り囲んだり、催し物で楽しんだり…そこでキョンくんが心なしか笑っている気がしたのです。
そこで涼宮さんがまた今年も同じようにと、みんなを誘ってクリスマスを過ごすと提案しました。
病院にちゃんと許可を得て、僕達はキョンくんの病室をクリスマス風…なのかわかりませんが…派手な装飾を施しました。
皆さんが揃い、僕達はパーティーを始めました。
鍋を囲いました。相変わらずの食べっぷりの長門さんやそこに鶴屋さんや谷口君も加わり、鍋の周りは戦場と化してます。
涼宮さんは…前の食べっぷりに比べると勢いが劣るようでしたが、一時期よりも大分ましになったようですね。
僕はその戦場から離れ、キョンくんを見ていました。
どうですキョンくん?あなたが眠っている間も相も変わらずあの食べ物での戦争は変わっていませんよ?
「…あぁ…そのようだな…長門の食いっぷりは相変わらず凄いよ…」
でしょう?あなたも参加してみては?
「多分食い物食ったら気持ち悪くなるね。」
「それに…長門や谷口となると勝ち目がないな…」
弱気ですね?たまには目にもくれずに戦ってみては?
「それで本当に死んだら元も子もないだろ?それこそ世界が破滅するぜ?まぁ食いもんぐらいでは死なないだろうが」
そうですね…それは僕個人としても凄く寂しい思いをしますし…
「なぁ…本当に一度聞いてみたかったんだが…お前って…ゲ」
そんなこと言ってる前に涼宮さんの心配を解消させてはどうです?
「……俺も出来ることならしたいけどな…無理そうだな…」
あなたが望めば…あるいは。
「おいおい。俺はハルヒじゃねぇぜ?」
そうですね…だが前も言ったでしょう?あなたは超能力者と言っても過言ではないって?
「…それならとうの昔に起きてたさ…ハルヒの泣き顔なんて見たくもなかったからな…」
そうですか…少し残念です。機関には同年代の仲間がいなかったもので。
「…スマンな古泉。しばらくハルヒを頼む。」
えぇ。でも、ちゃんと起きて謝ってあげるのが王子様の役目ですよ?
「…あぁ。そこは任せとけよ。もう決心はしたからな。」
それはそれは…では…またあなたとオセロが出来ることを切に願いますよ。
「一回ぐらいは勝たせてやるからな?」
ふふっ…油断してると本当に負けますからね?
「あぁ…肝に命じとくさ。じゃあな…」
えぇ。ではまた。
「古泉君?ほら!早く食べないとなくなるわよっ?」
はい。ふふっ…でも彼の寝顔があまりにも楽しそうで…
みんながキョンくんを見ました。
そこにはあのキョンくんの微笑みが広がっていました。
「そうね…本当にあの頃の笑顔…そうよ!あんたはそれでいいのよ!あんたはずっと…笑っていればいいんだから…」
そして…キョンくんの微笑みの瞳から涙が流れてきました…
「なにあんた泣いてるのよ!笑いながら…変な顔ねっ!」
涼宮さんも笑いながらもその大きな瞳には大粒の涙が溜まっていました…
「…さぁ!コイツのためにももっと楽しませてやんなきゃ!そうだ!谷口!あんたなんか芸やりなさいよ!ほらさっさと!」
涼宮さんに芸を強いられる谷口君もまた涙が流れていましたが、その姿はとても楽しそうで…みんなにも笑顔がこぼれてきます。
「あっ…雪よ!ねぇキョン!みんな!雪が降ってきたわよ!」
空から降る神秘的な白く輝く雪。
それは僕らを祝福するように。キョンくんの早い回復を祈るように。
あるとても寒い日の出来事。
空から幾千…幾万もの雪の結晶が降ってきていて…それは冷たくとも暖かい…
僕達は笑いが零れながら、これがサンタクロースのプレゼントか…そう思っていました。
キョンくん…?この世界は…光に満ちていますよ?………
そして…また時は流れる…非情にも…
私は三年生になっていた。だからといっても学校なんかに興味はない。三年生になってもやることなんて大して変わらない。ただ周りは受験のことで頭がいっぱいのようだ…
もうキョンのことがどうという奴らは私たち以外いなくなった。
みんな忘れたように、名前を口にすることがなくなっていた。
そして私はそんな学校に嫌気が差しながらもひたすら窓の風景を眺めて授業をこなす。そうして授業が終わると古泉君や有希を連れ出し、病室に向かう。
みくるちゃんは卒業し、家政婦関係の専門学校に行っているようだ。
そして、その学校が終わる頃にこちらに来て、SOS団集合というわけだ。
これを約二年近く毎日…みんな色々都合がつかないときも、私だけは一度も欠かさずに毎日訪れた。
たまにアホの谷口や国木田君、鶴屋さんなどのいつもの面々も来る。
鶴屋さんはやはり家を継ぐようで、「色々こっちも大変なのさぁ~っ!」とかいつもの調子で経過を語ってくれた。いつも変わらず明るい鶴屋さんがたくましく見える。
そして今は七月の初め。
そろそろ夏休みだとウキウキしてくる時期である。
もう梅雨は終わったのかしら…いささか早すぎる気もする…すでにセミのウルサい声が聞こえていた。
そこでキョンにセミの話をした。私は感極まってしまったが…
急に私は二年前以来、忘れていたイベントがあることを思い出した。
―――七夕だ…
カレンダーを見ると、七夕の日である七月七日は明日に迫っていた。
キョンに早々に別れを告げると、みくるちゃんや有希や古泉君と一緒に買い物に来ていた。
明日は七夕でしょ?笹を買ってそこにみんな短冊付けてお祈りするの!
みんなは賛成した。久々に全員集まってなにかする…楽しみだわ。
最後にみんなが集合したのは…初詣に行った時か。みんなお賽銭をちゃんといれてお祈りしたわ。
私は――キョンが元気に起きてくれますように…――
みんなに問いかけたりもしたのだが、何故か教えてくれなかった。
そこでお守りを買って…中にはアレを入れておいた。キョンが起きたら見せようと決めているアレを…恥ずかしいけど、ちゃんと見せるの!
アイツ驚くかもなぁ~?顔真っ赤になったりして…
ちょっと楽しみである。
もちろん七夕にも同じ願いを書く。なんか、初詣より七夕の方が効きそうな気がするの!根拠はないんだけど…きっとそうなのよ!
彦星と織り姫がが一年に一回再会して、きっとその嬉しさのあまりに笹の葉にさげてある願い事を叶えてくれるの!
なんていい人達なのかしら…あなた達を私は尊敬するわね。
ホームセンターに行くと、さすがはシーズンだけあり、ちゃんと程よい長さに切られている笹の枝がある。
だけど、私はそれを流し、柄の長く大きい笹の枝…もう既に竹かもしれないわね…を買った。
そりゃデカくないとなかなか彦星達は気づいてくれないだろう。夜になったら病室のキョンの部屋から見える場所に配置させてもらいましょう。
それまでは古泉君が預かってくれるらしい。大きなトラックが来て、どこかへ運んで行った。
その他に、短冊や宴会用の食料、飾り付け用の装飾品などを買って今日の所は解散した。
その後もう一度キョンの所に行こうとも考えたんだけど…明日のために我慢だ!
そう考えてやめておいた。
久々にみんなで集まるのが楽しみだもん!キョンもみんなに会えるのが嬉しいだろうから、明日はうんと楽しませてやるんだ!
そうして私は家路に着きベッドで眠りについた。
………私は驚愕した…
そこはいつか見た灰色の世界。
全てが色という概念がなく、灰色で、空が黒い世界。
夢でキョンと二人でいた世界。
私は学校の真ん中で眠っていて、起きてまた夢かと思っていた。
今回はキョンがいなく、私は一人だった。
どこかにキョンがいる気がする…そんな気がする。
私は学校の校舎に入った。
まず教室。それは今私が行っている教室でなくて、一年のとき、キョンと一緒のクラスだった教室、一年五組。
そこにはキョンの姿は見えなかった。
昔のキョンの席の必ず一つ後ろ。私はいくら席替えをしても必ずその定位置にいた。
私がずっとそうであるように、と願ってはいたが、ここまで連続して偶然が重なるのは我ながら凄い事だと思ったわ。
私ってそういう能力者なのかしら―――でも…それならキョンは既に目が覚めている筈だし…偶然ね…
でもキョンの後ろの席でなければ私は学校に行くことを拒んでいたかもしれない。
毎日のキョンとの会話…今でもいくらたわいのない事でも覚えている。
あの会話のために毎日学校に行っているようなものだった。
もちろん!SOS団のみんなと会いたいのもあったけど。
私は自分の席に着いて、前の席を見つめた。
いつもならキョンが体を横に向けた状態で顔だけをこっちに向けて私の話を聞いてくれたものだった。
だけどそれはない。当たり前だと解っているけど…期待してしまっている。
せめて夢なんだから会わせてくれてもいいのに…でも…どこかにいる気がする。
私は学校中をまわってみた。グラウンド、体育館、講堂、職員室…全部まわってもどこにも居なかった。
最後に一番最後にとっておいた部室棟を探した。
追い詰めて、ここで見つけてやるの!そして見つけたらギャフンと言ってやるの!なんで起きないのこの寝ぼすけ!ってね!
そして…我がSOS団の部室のドアノブに手をかけた。
一度深呼吸。肺の限界まで息を溜め込んで、ゆっくりと息を吐く。
そして…ドアノブを回して勢いよく開けた。いつも、昔の私がやっていたみたく…キョンが「もう少し大人しく開けることは出来んのか?」って言ってくれる気がしたから…
だけど…それは叶わなかった…
そこにはキョンの姿は無かった…
期待していただけに、落胆の反動は大きかった…
やっぱり…私にはキョンと会わせてくれないのね…神様って本当に意地悪…
私は自分の団長と書いてある置物がある席に座ってみた。
懐かしい…キョンがあんな事になって以来ここに来ることはなくなっていた。ずっと病院でSOS団のみんなと過ごしていたから。
だけど…そこから見る風景は全く変わっていない。
本棚には沢山の本。全部有希が持ってきたもの。あの子、あんなに読んだのよね…凄いわ本当に…
ハンガーラックにはメイド服やナース服、バニーなどの衣装がそのままだ。そういえばみくるちゃんにコスプレなんて最近着せてなかったわね…今度着せてみることにする。
キョンが鼻の下伸ばしてたらぶっ叩いてやるんだから!私が来ても嬉しそうに鼻の下伸ばしてるのかしら…そうだったら私も着てみようとするわ。キョンが喜ぶんならね!
団長席の机の中を探ると腕章が出てきた。いっぱいあるわねぇ…団長、名探偵など一杯あるわ…よくもこんなに作ったわ。
他にも夏合宿の写真もある。ふふっ…キョンのマヌケな寝顔…毎日見ている寝顔とは違くて…こっちは前のありのままのキョンの顔。こんな顔してたわね…
他にも困った顔、必死な顔、泣きそうになった顔…
でも、一番笑っている顔がかっこよくもあり、可愛らしくもあり…私の好きなキョンの顔だ。
………外から物音が聞こえる…
足音?走っている…?こっちに向かってくるわ!
誰?この世界は私一人の筈なのに…
………もしかして………
扉が開いたその向こうには…私がずっと会いたかった…元気なキョンの姿だった。
キョン………?
キョンは驚いた様子で扉の前で立ちすくんでいた…その目には光が輝いていた…いつも見ている、目を閉じているキョンではなく、とても優しい目…
あぁ…キョンってこんな優しい目をしていたんだ………
キョン…嬉しい…。
私はなりふり構わず勢いよく抱きついた…それをキョンが受け入れてくれた…
キョンの大きな胸…
あぁ…男の人の胸ってこんなに大きいんだ…
私はギャフンと言ってやるのを忘れてずっと抱きしめていた…
そして…光が見えたの…急なとても眩しい光…周りは見えなくてもキョンの胸の温もりはそのままに…
目が覚めると自分の部屋にいた。
ちゃんと夜寝た状態のままだ。だけど…私にはまだ彼の温もりが残っている…
妙なリアルな夢…前もそう。前もキョンとキスして…その温もりが微かにだけど残っていた…
でも夢なのだろう…
今日は休日。集まるのは夕方から。なので昼間はもう一度寝てみた。もう一度キョンに会えるかも…そう思ったから。
だけど…今度はとても嫌な夢を見た。
そこはどこだかわからない…周りは緑が広がっていて…草原のようなものだろうか…
気づくと私がそこに立っていて…そして…キョンもいたの。
キョンは私に何か話しかけて…何かは聞こえなかったのに自然と私の目から涙が溢れだしてきて…その後私を抱きしめたの。
そして…またキスをした。とても暖かくて…キョンの鼓動を感じた。長い間…ずっとキスをしていた…
そして抱きしめあったまま、キョンが何かを呟いて…離れていっちゃって、追いかけたのに追いつかなくて…遠くて…
そして途中立ち止まってこっちを向いてこう言ったの…
「ハルヒ!俺はお前を愛している!この先どんな姿になっても、ずっと愛し続ける!
だから幸せになれ!俺はお前の幸せが一番なんだ。それで、大体七十年後に俺の所へ来てまた振り回してくれよ!その前じゃ絶対に許さん!
…じゃあな。たまには思い出せよ?
…元気でな…。」
ここだけはハッキリ聞こえて…
私は大声で泣きながら追いかけたのに…キョンはどこかに消えてしまった。
そこで目を覚ました。
鏡で見なくてもわかる。目が痛い。赤く腫れ上がっているだろう。泣いていたのか……
夢でよかった…本当に心底思った。
…二度寝なんてしなければよかった…だが起きてみればちょうどいい時間帯。
忘れよう!そう思い準備を始めた。顔をよく洗ってもなかなか腫れが引かない。
困ったものだ。よっぽど泣いていたのだろう。
こんな所キョンに見せたら…
私は少し引きずりながらも、病院へ向かった………
622: 2006/08/20(日) 02:51:03.31 ID:/fU5DZdSO
エンディング分岐
ハッピーエンド
<悩みの種の潰えぬ世界>
私は病院に着いた。もう行くのも慣れたものだ。
腫れた目…みんなにバレないかしら?大分引いたものの、まだ腫れが残っていた。
キョンの病室に着くと、もうすでにみんなは揃っていた。
「涼宮さんが最後とは…ある意味、キョンくんも嬉しがっているかもしれませんよ?」
古泉くんが悪戯そうに言った。
「この人、今までずっと最後で奢り続けてましたからねえ…涼宮さんより早く来ることは願望だったようですし。ほら、僅差で涼宮さんが先だったときあるでしょう?あの時彼、かなり悔しがっていましたから。」
そうしてキョンを見ると、心なしか笑っているようにも見えた。
起きたら私が奢るわよ…負けちゃったしね!
私達は準備にかかった。宴会の準備や部屋の飾り付け…だけど今回の飾り付けはいつもと違った。
キョンが外が見れないため、その気分だけでもと、病室の中を真っ暗にするようにした。黒い紙を貼り付けたりと…真っ白な部屋が真っ黒な部屋に変わる。
それがある程度準備が一段落すると、短冊を取り出し、一人一人の思いのままに願い事を書く。
みんなの願い事は竹を立てるまで見ないようにした。
私の願いはもちろん!
―――キョンが目を覚ましますように…―――
それが今の私の一番の願いであることに一寸の迷いはない。それ以外欲しいものなどない。キョンがいれば私は…
そうして書きあがったみんなの短冊を外にある竹の笹にかけた。病院に許可をとったら快く承諾してくれた。
ここの病院は色々と融通が聞いて助かる。もうちょっとうちの生徒会もそういう所があってもいいと思うけど…
空を見上げると生憎の空模様…こんなんじゃ彦星と織り姫が感動の再開を果たせないじゃないの!どんな恋敵かしらね全く!
病室に戻り、宴会が始まった。
相変わらずの食いっぷりの有希などに遅れを取らないように必死に食らいつく。
いっぱい話たり、芸をやったり、ゲームをやったり…なにも変わらないこの風景。
私は幸せだった。でも…あいつがいないと完全な幸せとは言えないわ…
それからしばらく落ち着いたので、部屋の照明を落とした。
すると…真っ暗な天井に輝く天の川…
有希が簡易プラネタリウムを持ってきたのである。
綺麗…本物かと思い違うぐらい。
キョンどう?綺麗でしょう?こっちの世界にはこんな光が満ちているのよ?もっと探してみようと思わない?
だから早く探しに行きましょうよ!私と…いや、みんなと一緒に…
私はカーテンを開け外を見た。
…さっきまでの空模様は嘘のように綺麗に雲がなくなっており、そこには本物の天の川が流れていた…
みんな!綺麗に晴れているわよ!天の川が見えるの!
「そうですか…それじゃあ、そろそろ竹を立てますか。」
古泉君が電話で何か言うと、竹が立てあがった。その短冊を一つ一つ見る。
キョンくんが目を覚ましますように。 古泉
キョン…が目を覚ますように願う。 長門
キョンくんがすぐに目をさましますように。 みくる
なに…これ…?みんな…書いてる事同じじゃない?みんなキョンを想って…
「おや…みんな願いは同じのようですね…キョンくん?あなたはこんな素晴らしい仲間に恵まれて幸せ者ですね。」
涙がこぼれてきた。これは昼間泣いたものとは違う涙。嬉しさからでる涙。
あっ…流れ星…
私はとっさに願った。
キョンが…目を覚ましますように…。
…何も起きない…キョンが起きる事はない。そんな早く起きるわけないよね!自分に言い聞かせた。
そろそろお開きにしよう!そう思い、後片付けが終わり、最後にみんなで空に向かってお祈りした。
―――キョンが…キョンくんが…元気に起きてくれますように…―――
みんなは帰って行った。私だけまだ残っている。今日はずっとキョンのそばにいたい。
私はそれから空を眺めていたの。綺麗な星空。空に流れる無限の星。
空を見ながら言った。
ねぇキョン?今日彦星と織り姫、会えたのかな?愛し合ってた二人が急に引き離されて、だけど毎年一日の夜の間だけ感動の再開を果たせてくれるの!
なんかとってもロマンチックよね!?でもアンタのことだから私にはそんなロマンチックなんて言葉似合わないとか思ってるんでしょ?
…私も前までならこんなこっぱずかしいこと言えなかったわ。なんで言えるようになったかっていうと…
本当は起きたら言うつもりだったけど…今言いましょ。
私ね!キョンの事が好き!ずっと前から…実は二年前のあの日も…本当は私の想いを告げようと思ってたの。
だけどね…自分気持ちに素直になれなくて…キョンの優しさに素直になれなくて…突き放して…明日こそ素直になって謝ろうとしたら…
でもね!今は自分の気持ちに素直になれるの!なんでだろ…今言わないと後悔にしかならないように感じるの…
今日の夢のせいかな…あんな怖い夢見たから…キョンが遠くに行っちゃう夢…
本当にいなくならないわよね…?今とっても不安なの…あなたが本当に遠く知らない処へ行ってしまったら…
「………どこにも行くもんか………」
えっ………
「………俺はどこにも行かない。いつまでもお前のそばに居てやる。………」
キョンの声………まさか………
「俺は…ハルヒ、お前の事を愛している。俺も前からずっと…だけど素直になろうとしないで自分の気持ちを引っ込めてた。だけど今は言える。ハルヒを愛している。」
キョン…?キョンなの…?
後ろを振り返る。しかし視界が滲んで前が見えない。
だけど…急に体が引き寄せられる…それは紛れもない、キョンの広くて、暖かいぬくもりを感じるキョンの胸。
「ゴメンなハルヒ…俺はお前を泣かせたくなかったんだけどな…いくら謝っても謝り足んないよ…」
キョン…キョン!
キョンの胸にすがりついて話を聞いた。
「だから…責任とろうと思うんだ…」
キョンのせいじゃない!責任とかそういうのはいらない!キョンがそばにいればいいの!
「いや、悪いのは俺さ。だから責任をとる。ハルヒ。俺と結婚してください。」
………えっ………
「俺じゃお前を幸せにするには力不足かもしれない…けど、俺はハルヒに相応しい男になるから…それまで待ってくれるか?」
止めどない涙が溢れてきた。
ううん…今でも私にとってキョンは相応しい人よ…あなたがいるだけで…私は幸せなの…だから…私と結婚して下さい…
「ハルヒ…」
私はキョンの胸の中で大声で泣いた。キョンは泣いている私を力強く抱きしめてくれて…頭を撫でてくれて…その一つ一つにキョンの優しさと暖かさが伝わってきて…
あぁ…夢じゃないのよね…これって本当のキョンなのよね…
「ハルヒ…今までゴメンな。本当にゴメンな。」
ぐすっ…もうキョン謝るの禁止!謝ったら罰金!
「………俺さ?夢を見てたんだ。今まで。いつもの日常の夢。古泉がいて、朝比奈さんもいて…長門がいて。他にも谷口や国木田、鶴屋さんや妹もいて…ハルヒがいて。」
「それは現実かと思えるくらいにリアルで…こっちが現実かと思ったよ。だけどな?たまに何処からか声がきこえるんだよ…」
「谷口のバカな声や鶴屋さんのハイテンションな声…朝比奈さんの舌足らずの声…そして、ハルヒの楽しそうな声や泣き声、いつもの怒鳴り声とかな。」
「最初は俺も超能力者か?みたいな感じでそんなに気にもしてなかったんだよ。だけどハルヒの泣き声を聞いた時は凄く辛くて…」
「でも最近その声がハッキリ聞こえるようになってきたんだ…ハルヒ?昨日セミの話したろ?それで気づいたんだ…こっちは夢なんだ…あっちの世界では本物のハルヒが悲しんでいる。」
「早く起きなきゃと思ったんだが…どうにもならなくて…でも今日みんなの声が聞こえたんだ…俺が元気で起きてくれますように…ってな。」
「それで光が刺してきてな…その先にハルヒがいたんだ。そして気付いたらここにいて…ハルヒがいた。」
「夢の中でもハルヒに想いを告げようとしたのに何故か出来なかったな…つまり起きてからちゃんと本物のハルヒに言えって事だったんだな。」
私はずっと泣きながらうん、うん、と相づちを打っていた。
「本当に言えてよかったよ。言えないまま死んでたら幽霊になってたな。」
私は幽霊なキョンでも愛し続けるよ?
「そりゃよかった。ハルヒ?」
うん?と答える前に口を…キョンの唇で塞がれていた。嬉しかった。本当に夢じゃない…
キョンはここにいる。
私の目の前に。
相変わらずの間抜け面、だけどカッコよくて、可愛くて、笑った顔も…全てが愛おしい。
愛おし過ぎて…もう離さないからねっ!
「あぁ…俺も離さないよ…離したくても離せないからな?覚悟しとけ?」
うんっ!キョン専用の抱っこちゃんになるわ!
「アホかお前?それ人形だろ?」
いいのっ!なんでも!
二人で向き合い笑った。笑った顔は…やっぱりキョンで…あのキョンで…
ある夏のある日………
七月七日………
七夕の日………
織り姫と彦星が一年に一度再開を果たす日。
その日、織り姫と彦星…私とキョンが二年の時を経て再開を果たした。
でも織り姫と彦星には悪いけど、私達はもう離れないんだから!
織り姫と彦星が私達を見て祝福してくれているように…
空の無限の星は…眩い光で輝いていた…
だから言ったでしょ?こっちの世界には光が満ち溢れすぎているって…
ねぇ?キョン……っ!
七夕の日、俺が目覚めた日から1ヶ月が経った。
俺は脅威の回復力をみせ、無事退院する事が出来た。
この回復力の源は…やはりハルヒだろう。ハルヒが七夕の日祈ってくれたからと、ハルヒの笑顔を見たらどんな怪我や病気でもすぐ治っちまう。
この笑顔は神の力だな…なんとなくそう思う。ハルヒは本当に世界の創造神だっけ?そんなことはどうでもいい。
七夕の次の日、本当は起きたその日のうちにもみんなに会いたかったんだが…ハルヒがサプライズをみんなにしでかしてやろうと計画したのでその誘いにのった。
ハルヒの計画はこうだった。
怪談話でその話にはゾンビが出てきて、この病院にはゾンビが存在していたという噂があったという設定。
ハルヒがキョンにも聞かせてあげましょうということで病室内で怪談話をする。
合図があったら俺がゾンビの真似をして、よっしゃゃゃゃあぁぁぁぁ!THE ENDォォォォォ!っというバカらしいサプライズ。
朝比奈さん辺りが本当に失神するんじゃないか?って言ったがまぁ大丈夫でしょ!と相変わらずのハルヒ。二年経っても変わらないのな。
そして、作戦実行と来た。
カーテンで締め切って真っ暗になった部屋のベッドで準備する俺。
ハルヒが怪談話をし始めた。
しかしハルヒの奴耐えきれなくなって笑い始めやがった。あ~いるいるこういうの。先知ってるから笑い堪えられないやつ。
「もうキョン…私ムリ…あははっ!」
もう少し堪えろよ!言い出したのはお前のくせに!
みんながえっ?えっ?と顔を見合わせて状況を理解しようとしてる。これはこれで面白かったからいいか。
俺実は昨日起きたんだよ。みんな、心配かけてすまなかった。起きたの知ってるのハルヒと両親だけなんだよ。
空気が鋭くなった気がした。ヤバい。怒ってる?みんな怒ってる?キレてるんスか?
「このバカっ!心配かけといてそれかよ!」
『ゴメンね谷口!私が言い出したの!サプライズを仕掛けてみないかって!』
「…でもよかったですぅ!キョンくんが…ぐすっ…起きて…わぁーん!」
すいません朝比奈さん。泣かないでください。
『これでオセロの再戦が出来ますね?』
あぁ…一回ぐらい負けてやろうかと思ったがやっぱりやめだ。少しは強くなったんだろうな?
『それなりに鍛えましたよ?油断しないでくださいよ?』
でも古泉は古泉だからな。どうだか。
「私は…あなたが起きてくれることをずっと望んでいた。ありがとう。」
いやこっちがありがとうだよ。ありがとう、心配させて悪かったな。また図書館に連れて行くからな?
「……そう。」
そういう長門の目からは涙が流れていた。
おいおい長門まで泣かないでくれよ?
『あんた女の子を泣かせる事はどんな罪よりも重いのよ?』
わかってるよ。退院したらみんなに奢ってやる!
「さすがだねキョン!僕もずっと心配してたんだからね!ずっと信じてたけどね。」
さすがだな国木田。お前の勘はなかなか鋭いからな。
『キョンくんが起きてくれて私はめがっさ嬉しいよっ!お姉さんもおもわず泣きそうにょろよ…』
鶴屋さんは笑顔以外は似合いませんよ。
『そうかいっ?でも私の泣いている姿も大人の魅力があるにょろよ?』
いいえ。鶴屋さんは笑っている姿以外は鶴屋さんじゃありません。
『ありがとうよっ!んで、お姫様とはどうしたのかねぇ?』
あぁ、みんな聞いてくれ。俺とハルヒは将来結婚する。
みんな驚いた顔をしてたなぁ。特に谷口の驚き方は失神するんじゃないかってぐらいになってたな。
「ちょっとキョン!」
いいじゃないか。いつか知らせることだ。早いに越した事はないだろ?
「そうだけど…心の準備ってものがあるじゃない!」
いやなのか?…そうか…おれはふられたのかー(棒読み
「違うわよ!離れたくても離れられないって言ったのどっちよ!?」
ならいいだろ?
「う…うん…。」
みんなは俺を祝福してくれた。谷口は今にも倒れそうで、国木田に支えられてなんとか立っていられる様子だ。なんでだ?
そんなこんなで一ヶ月が過ぎ、無事退院した俺はSOS団の活動として恒例行事の市内探検に来ていた。
この行事自体が久し振りだ…街を見るのも久し振りで忘れているかもしれない。
集合場所はやはりいつもの駅前だ。
俺は駅前に向かいながらハルヒに渡されたものを思い出した。
「あんた、危なっかしいからこれ持っときなさい!中に私のパワーの源が入ってるから効果抜群よ!」
何だったんだろ?ふと思い、俺は中を見てみた。
…あのプリクラか!本当に持ってやがった!
落書きしてあるな…本当に俺の顔に落書きしてるのか?
…違った。俺とハルヒとのツーショットの写真には、ハルヒの方には「将来のお嫁さん」俺の方には「将来のお婿さん」と書かれていた。
…お前は予知能力者か?
俺は大事にまた御守りの中に入れた。
これがあればどんな事からも護ってくれそうだ。
そう思い、また駅前までの道を行った。
俺は集合一時間前に駅に来た。さすがに誰もいないだろう?
…甘かった。すでに俺以外の団員は揃っていた。お前ら何時から来てるんだよ…そんなに奢るのが嫌か…せめて退院祝いとして奢って欲しいものだね…
俺が勝には一日前から泊まるしかないのか?
そして俺の姿を捉えたハルヒがニィっと笑って
「遅い!罰金!」
はぁ…やれやれ…俺の【悩みの種】は尽きないよ…
みんなが笑っている。俺も笑う。
やっぱり―――俺にはこの世界がお似合いだ。―――
―――この世界にはこんなにも光が満ちているのよ?―――
確かにそうだな…
だがな?俺にとってお前が一番の光の源であり、悩みの種なんだよ…
そんな世界を俺は望んでいる。人間は悩む生き物だ。これから一生俺を悩ませ続けてくれよ………
………なぁ?ハルヒ………?
悩みの種【悩みの種の潰えぬ世界】
完
ハッピーエンド
<悩みの種の潰えぬ世界>
私は病院に着いた。もう行くのも慣れたものだ。
腫れた目…みんなにバレないかしら?大分引いたものの、まだ腫れが残っていた。
キョンの病室に着くと、もうすでにみんなは揃っていた。
「涼宮さんが最後とは…ある意味、キョンくんも嬉しがっているかもしれませんよ?」
古泉くんが悪戯そうに言った。
「この人、今までずっと最後で奢り続けてましたからねえ…涼宮さんより早く来ることは願望だったようですし。ほら、僅差で涼宮さんが先だったときあるでしょう?あの時彼、かなり悔しがっていましたから。」
そうしてキョンを見ると、心なしか笑っているようにも見えた。
起きたら私が奢るわよ…負けちゃったしね!
私達は準備にかかった。宴会の準備や部屋の飾り付け…だけど今回の飾り付けはいつもと違った。
キョンが外が見れないため、その気分だけでもと、病室の中を真っ暗にするようにした。黒い紙を貼り付けたりと…真っ白な部屋が真っ黒な部屋に変わる。
それがある程度準備が一段落すると、短冊を取り出し、一人一人の思いのままに願い事を書く。
みんなの願い事は竹を立てるまで見ないようにした。
私の願いはもちろん!
―――キョンが目を覚ましますように…―――
それが今の私の一番の願いであることに一寸の迷いはない。それ以外欲しいものなどない。キョンがいれば私は…
そうして書きあがったみんなの短冊を外にある竹の笹にかけた。病院に許可をとったら快く承諾してくれた。
ここの病院は色々と融通が聞いて助かる。もうちょっとうちの生徒会もそういう所があってもいいと思うけど…
空を見上げると生憎の空模様…こんなんじゃ彦星と織り姫が感動の再開を果たせないじゃないの!どんな恋敵かしらね全く!
病室に戻り、宴会が始まった。
相変わらずの食いっぷりの有希などに遅れを取らないように必死に食らいつく。
いっぱい話たり、芸をやったり、ゲームをやったり…なにも変わらないこの風景。
私は幸せだった。でも…あいつがいないと完全な幸せとは言えないわ…
それからしばらく落ち着いたので、部屋の照明を落とした。
すると…真っ暗な天井に輝く天の川…
有希が簡易プラネタリウムを持ってきたのである。
綺麗…本物かと思い違うぐらい。
キョンどう?綺麗でしょう?こっちの世界にはこんな光が満ちているのよ?もっと探してみようと思わない?
だから早く探しに行きましょうよ!私と…いや、みんなと一緒に…
私はカーテンを開け外を見た。
…さっきまでの空模様は嘘のように綺麗に雲がなくなっており、そこには本物の天の川が流れていた…
みんな!綺麗に晴れているわよ!天の川が見えるの!
「そうですか…それじゃあ、そろそろ竹を立てますか。」
古泉君が電話で何か言うと、竹が立てあがった。その短冊を一つ一つ見る。
キョンくんが目を覚ましますように。 古泉
キョン…が目を覚ますように願う。 長門
キョンくんがすぐに目をさましますように。 みくる
なに…これ…?みんな…書いてる事同じじゃない?みんなキョンを想って…
「おや…みんな願いは同じのようですね…キョンくん?あなたはこんな素晴らしい仲間に恵まれて幸せ者ですね。」
涙がこぼれてきた。これは昼間泣いたものとは違う涙。嬉しさからでる涙。
あっ…流れ星…
私はとっさに願った。
キョンが…目を覚ましますように…。
…何も起きない…キョンが起きる事はない。そんな早く起きるわけないよね!自分に言い聞かせた。
そろそろお開きにしよう!そう思い、後片付けが終わり、最後にみんなで空に向かってお祈りした。
―――キョンが…キョンくんが…元気に起きてくれますように…―――
みんなは帰って行った。私だけまだ残っている。今日はずっとキョンのそばにいたい。
私はそれから空を眺めていたの。綺麗な星空。空に流れる無限の星。
空を見ながら言った。
ねぇキョン?今日彦星と織り姫、会えたのかな?愛し合ってた二人が急に引き離されて、だけど毎年一日の夜の間だけ感動の再開を果たせてくれるの!
なんかとってもロマンチックよね!?でもアンタのことだから私にはそんなロマンチックなんて言葉似合わないとか思ってるんでしょ?
…私も前までならこんなこっぱずかしいこと言えなかったわ。なんで言えるようになったかっていうと…
本当は起きたら言うつもりだったけど…今言いましょ。
私ね!キョンの事が好き!ずっと前から…実は二年前のあの日も…本当は私の想いを告げようと思ってたの。
だけどね…自分気持ちに素直になれなくて…キョンの優しさに素直になれなくて…突き放して…明日こそ素直になって謝ろうとしたら…
でもね!今は自分の気持ちに素直になれるの!なんでだろ…今言わないと後悔にしかならないように感じるの…
今日の夢のせいかな…あんな怖い夢見たから…キョンが遠くに行っちゃう夢…
本当にいなくならないわよね…?今とっても不安なの…あなたが本当に遠く知らない処へ行ってしまったら…
「………どこにも行くもんか………」
えっ………
「………俺はどこにも行かない。いつまでもお前のそばに居てやる。………」
キョンの声………まさか………
「俺は…ハルヒ、お前の事を愛している。俺も前からずっと…だけど素直になろうとしないで自分の気持ちを引っ込めてた。だけど今は言える。ハルヒを愛している。」
キョン…?キョンなの…?
後ろを振り返る。しかし視界が滲んで前が見えない。
だけど…急に体が引き寄せられる…それは紛れもない、キョンの広くて、暖かいぬくもりを感じるキョンの胸。
「ゴメンなハルヒ…俺はお前を泣かせたくなかったんだけどな…いくら謝っても謝り足んないよ…」
キョン…キョン!
キョンの胸にすがりついて話を聞いた。
「だから…責任とろうと思うんだ…」
キョンのせいじゃない!責任とかそういうのはいらない!キョンがそばにいればいいの!
「いや、悪いのは俺さ。だから責任をとる。ハルヒ。俺と結婚してください。」
………えっ………
「俺じゃお前を幸せにするには力不足かもしれない…けど、俺はハルヒに相応しい男になるから…それまで待ってくれるか?」
止めどない涙が溢れてきた。
ううん…今でも私にとってキョンは相応しい人よ…あなたがいるだけで…私は幸せなの…だから…私と結婚して下さい…
「ハルヒ…」
私はキョンの胸の中で大声で泣いた。キョンは泣いている私を力強く抱きしめてくれて…頭を撫でてくれて…その一つ一つにキョンの優しさと暖かさが伝わってきて…
あぁ…夢じゃないのよね…これって本当のキョンなのよね…
「ハルヒ…今までゴメンな。本当にゴメンな。」
ぐすっ…もうキョン謝るの禁止!謝ったら罰金!
「………俺さ?夢を見てたんだ。今まで。いつもの日常の夢。古泉がいて、朝比奈さんもいて…長門がいて。他にも谷口や国木田、鶴屋さんや妹もいて…ハルヒがいて。」
「それは現実かと思えるくらいにリアルで…こっちが現実かと思ったよ。だけどな?たまに何処からか声がきこえるんだよ…」
「谷口のバカな声や鶴屋さんのハイテンションな声…朝比奈さんの舌足らずの声…そして、ハルヒの楽しそうな声や泣き声、いつもの怒鳴り声とかな。」
「最初は俺も超能力者か?みたいな感じでそんなに気にもしてなかったんだよ。だけどハルヒの泣き声を聞いた時は凄く辛くて…」
「でも最近その声がハッキリ聞こえるようになってきたんだ…ハルヒ?昨日セミの話したろ?それで気づいたんだ…こっちは夢なんだ…あっちの世界では本物のハルヒが悲しんでいる。」
「早く起きなきゃと思ったんだが…どうにもならなくて…でも今日みんなの声が聞こえたんだ…俺が元気で起きてくれますように…ってな。」
「それで光が刺してきてな…その先にハルヒがいたんだ。そして気付いたらここにいて…ハルヒがいた。」
「夢の中でもハルヒに想いを告げようとしたのに何故か出来なかったな…つまり起きてからちゃんと本物のハルヒに言えって事だったんだな。」
私はずっと泣きながらうん、うん、と相づちを打っていた。
「本当に言えてよかったよ。言えないまま死んでたら幽霊になってたな。」
私は幽霊なキョンでも愛し続けるよ?
「そりゃよかった。ハルヒ?」
うん?と答える前に口を…キョンの唇で塞がれていた。嬉しかった。本当に夢じゃない…
キョンはここにいる。
私の目の前に。
相変わらずの間抜け面、だけどカッコよくて、可愛くて、笑った顔も…全てが愛おしい。
愛おし過ぎて…もう離さないからねっ!
「あぁ…俺も離さないよ…離したくても離せないからな?覚悟しとけ?」
うんっ!キョン専用の抱っこちゃんになるわ!
「アホかお前?それ人形だろ?」
いいのっ!なんでも!
二人で向き合い笑った。笑った顔は…やっぱりキョンで…あのキョンで…
ある夏のある日………
七月七日………
七夕の日………
織り姫と彦星が一年に一度再開を果たす日。
その日、織り姫と彦星…私とキョンが二年の時を経て再開を果たした。
でも織り姫と彦星には悪いけど、私達はもう離れないんだから!
織り姫と彦星が私達を見て祝福してくれているように…
空の無限の星は…眩い光で輝いていた…
だから言ったでしょ?こっちの世界には光が満ち溢れすぎているって…
ねぇ?キョン……っ!
七夕の日、俺が目覚めた日から1ヶ月が経った。
俺は脅威の回復力をみせ、無事退院する事が出来た。
この回復力の源は…やはりハルヒだろう。ハルヒが七夕の日祈ってくれたからと、ハルヒの笑顔を見たらどんな怪我や病気でもすぐ治っちまう。
この笑顔は神の力だな…なんとなくそう思う。ハルヒは本当に世界の創造神だっけ?そんなことはどうでもいい。
七夕の次の日、本当は起きたその日のうちにもみんなに会いたかったんだが…ハルヒがサプライズをみんなにしでかしてやろうと計画したのでその誘いにのった。
ハルヒの計画はこうだった。
怪談話でその話にはゾンビが出てきて、この病院にはゾンビが存在していたという噂があったという設定。
ハルヒがキョンにも聞かせてあげましょうということで病室内で怪談話をする。
合図があったら俺がゾンビの真似をして、よっしゃゃゃゃあぁぁぁぁ!THE ENDォォォォォ!っというバカらしいサプライズ。
朝比奈さん辺りが本当に失神するんじゃないか?って言ったがまぁ大丈夫でしょ!と相変わらずのハルヒ。二年経っても変わらないのな。
そして、作戦実行と来た。
カーテンで締め切って真っ暗になった部屋のベッドで準備する俺。
ハルヒが怪談話をし始めた。
しかしハルヒの奴耐えきれなくなって笑い始めやがった。あ~いるいるこういうの。先知ってるから笑い堪えられないやつ。
「もうキョン…私ムリ…あははっ!」
もう少し堪えろよ!言い出したのはお前のくせに!
みんながえっ?えっ?と顔を見合わせて状況を理解しようとしてる。これはこれで面白かったからいいか。
俺実は昨日起きたんだよ。みんな、心配かけてすまなかった。起きたの知ってるのハルヒと両親だけなんだよ。
空気が鋭くなった気がした。ヤバい。怒ってる?みんな怒ってる?キレてるんスか?
「このバカっ!心配かけといてそれかよ!」
『ゴメンね谷口!私が言い出したの!サプライズを仕掛けてみないかって!』
「…でもよかったですぅ!キョンくんが…ぐすっ…起きて…わぁーん!」
すいません朝比奈さん。泣かないでください。
『これでオセロの再戦が出来ますね?』
あぁ…一回ぐらい負けてやろうかと思ったがやっぱりやめだ。少しは強くなったんだろうな?
『それなりに鍛えましたよ?油断しないでくださいよ?』
でも古泉は古泉だからな。どうだか。
「私は…あなたが起きてくれることをずっと望んでいた。ありがとう。」
いやこっちがありがとうだよ。ありがとう、心配させて悪かったな。また図書館に連れて行くからな?
「……そう。」
そういう長門の目からは涙が流れていた。
おいおい長門まで泣かないでくれよ?
『あんた女の子を泣かせる事はどんな罪よりも重いのよ?』
わかってるよ。退院したらみんなに奢ってやる!
「さすがだねキョン!僕もずっと心配してたんだからね!ずっと信じてたけどね。」
さすがだな国木田。お前の勘はなかなか鋭いからな。
『キョンくんが起きてくれて私はめがっさ嬉しいよっ!お姉さんもおもわず泣きそうにょろよ…』
鶴屋さんは笑顔以外は似合いませんよ。
『そうかいっ?でも私の泣いている姿も大人の魅力があるにょろよ?』
いいえ。鶴屋さんは笑っている姿以外は鶴屋さんじゃありません。
『ありがとうよっ!んで、お姫様とはどうしたのかねぇ?』
あぁ、みんな聞いてくれ。俺とハルヒは将来結婚する。
みんな驚いた顔をしてたなぁ。特に谷口の驚き方は失神するんじゃないかってぐらいになってたな。
「ちょっとキョン!」
いいじゃないか。いつか知らせることだ。早いに越した事はないだろ?
「そうだけど…心の準備ってものがあるじゃない!」
いやなのか?…そうか…おれはふられたのかー(棒読み
「違うわよ!離れたくても離れられないって言ったのどっちよ!?」
ならいいだろ?
「う…うん…。」
みんなは俺を祝福してくれた。谷口は今にも倒れそうで、国木田に支えられてなんとか立っていられる様子だ。なんでだ?
そんなこんなで一ヶ月が過ぎ、無事退院した俺はSOS団の活動として恒例行事の市内探検に来ていた。
この行事自体が久し振りだ…街を見るのも久し振りで忘れているかもしれない。
集合場所はやはりいつもの駅前だ。
俺は駅前に向かいながらハルヒに渡されたものを思い出した。
「あんた、危なっかしいからこれ持っときなさい!中に私のパワーの源が入ってるから効果抜群よ!」
何だったんだろ?ふと思い、俺は中を見てみた。
…あのプリクラか!本当に持ってやがった!
落書きしてあるな…本当に俺の顔に落書きしてるのか?
…違った。俺とハルヒとのツーショットの写真には、ハルヒの方には「将来のお嫁さん」俺の方には「将来のお婿さん」と書かれていた。
…お前は予知能力者か?
俺は大事にまた御守りの中に入れた。
これがあればどんな事からも護ってくれそうだ。
そう思い、また駅前までの道を行った。
俺は集合一時間前に駅に来た。さすがに誰もいないだろう?
…甘かった。すでに俺以外の団員は揃っていた。お前ら何時から来てるんだよ…そんなに奢るのが嫌か…せめて退院祝いとして奢って欲しいものだね…
俺が勝には一日前から泊まるしかないのか?
そして俺の姿を捉えたハルヒがニィっと笑って
「遅い!罰金!」
はぁ…やれやれ…俺の【悩みの種】は尽きないよ…
みんなが笑っている。俺も笑う。
やっぱり―――俺にはこの世界がお似合いだ。―――
―――この世界にはこんなにも光が満ちているのよ?―――
確かにそうだな…
だがな?俺にとってお前が一番の光の源であり、悩みの種なんだよ…
そんな世界を俺は望んでいる。人間は悩む生き物だ。これから一生俺を悩ませ続けてくれよ………
………なぁ?ハルヒ………?
悩みの種【悩みの種の潰えぬ世界】
完
706: 2006/08/20(日) 04:20:43.73 ID:/fU5DZdSO
超!
●b<グッジョーブ!
とてつもなく面白かった!
●b<グッジョーブ!
とてつもなく面白かった!
927: 2006/08/20(日) 18:33:45.84 ID:/fU5DZdSO
BADエンド注意
<悩みの種の潰えた世界>
病院に着き、病室を目指し歩いた。さすがになれたものだ。二年間毎日通ったんだ。
病室に着くと…なんだみんな揃ってるじゃない。でも何故かみんな病室の前で立ったままだ。
みんなどうしたの?中入らないの?
「あっ…あの…まだ診察中らしいのですよ…終わるまで入れないそうです。一度外へ…」
?いやいいわよ。ここのが涼しいし、ここで待ちましょう。
何故か古泉君の表情がおかしい。いつも爽やかスマイルを決めているのに…
私は待った…けどしばらくしても診察が終わった様子が見られなかった。
すると…突然みくるちゃんが泣き出した。大声で。
どうしたのみくるちゃん?
「キョンくんが…キョンくんが…!」
…ものすごい嫌な予感を感じた。
私は病室に入ろうとしたが、
「涼宮さん!まだ診察が…」
無理やり制止を振り切り、病室に入った。
そこで見た光景…そこには紛れもないキョンの姿だったが…何かが昨日とは違う…まるで…生気が感じられない…昨日まで鳴っていた機会音が聞こえない…
それに…キョンの顔に乗せられた白い布切れ。あれはなに?悪い冗談?まさかね…嘘よね?
なに?みんなで私をはめようとしてるの?寝ているキョンを使ってこんな事するのは許せない。
…誰?こんな悪戯したの?正直に言いなさい。
みんな泣いている…とことん私をはめようと陥れているわけ?
誰?誰なのよこんな事したの!!
私は古泉君の胸ぐらを掴んで問いかけた。
「涼宮さんやめて!」
みくるちゃんは黙ってて!キョンがこんな事されてるのよ!?許せない!
「涼宮さん!!」
古泉君は私の肩をしっかり持った。
「これから言うことは紛れもない事実です。認めて下さい。」
何?…嫌。聞きたくない。
「今日の昼頃、急に容態が悪化し、必死の延命作業も及ばず…」
嫌…嫌よ…それ以上言わないで…何も言えない…声が出ない…
「今日午後十二時三十四分…享年十八歳でお亡くなりになりました…」
キョンが…?…死んだ?
「これは嘘などではなく、偽り一つない事実です…受け入れたくない気持ちもわかりますが…認めて下さい。」
なんで?昨日までちゃんと寝息を立てて寝てたじゃない?それがなんで急に死ななきゃなんないの?
…あっ…
今朝方の夢を思い出した。
草原っぽい所で…キョンと抱き合って…キスして…愛してるって言ってくれて…元気でなって…遠くに行っちゃって…
私は悟った。キョンが死んだ。
だけど頭で理解しても、本心がそれを認めない。
キョン?早く起きてよ…ほら学校遅刻するよ?…まだ話すこともいっぱいあった。まだやりたいこともいっぱいあった。
なのに…ねぇ?なんで起きないの…?ねぇ!?私から気持ち伝えてないじゃない!?キョンからは言ってくれた!けど私の返事はまだじゃない!
私はキョンの亡骸を激しく揺さぶって言った。
今日のがお別れとでも言いたいの…?私はまだ別れたくないのよ!?なんで先に遠くに行こうとするの!?いい加減答えなさいよバカッ!!!
今回は誰も止めようとはしなかった。全員が泣きながら…私の行動を見ていた。
私もアンタのこと好きなのに…私のことも好きって…愛してるって言ってくれたのに…なんで別れなきゃいけないわけ!?おかしいじゃない!?
ねぇキョン!?キョンってば聞いてるの!?ねぇ…ねぇ!!!
「涼宮さん…」
古泉君が私を肩を掴み止めた。
「キョンくんは頑張ったんですよ。本当ならば二年も保ちそうにないほどだったんです。それでも、なるべく涼宮さんを泣かせたくない、その一心でここまで頑張って来たんです。」
「多分キョンくんも辛かったでしょう…キョンくんも涼宮さんを残していくのは本心じゃありません…だけど…せめて想いを告げようとあなたの夢の中に入ってきたのでしょう。」
「キョンくんの想いを受け継ぎ…生きていくのがあなたの想いでもあります。それを…忘れないようにしてください。」
私は泣くしかなかった。泣けばキョンが慰めてくれると思ったから…でも…それは叶わぬ夢…
キョンは…この光に満ちた世界にはもういない。どこか遠く…絶対に届かない遠くへ旅立ってしまった。
ある夏のある日………
七月七日………
七夕の日………
織り姫と彦星は再会することなく…
永遠に会えない程の距離を強いられた…
七月七日………
午後十二時三十四分………
享年十八歳………
キョンは………天の川の星の向こうへ………
その日の夜…空は綺麗に晴れていて…
綺麗な無数の星達が群をなして…
天の川を光輝かせていた………
次の日から通夜や葬式、告別式と順に行われていった。
私は行かない。キョンともう会うなんて出来ない…一人暗い自分の部屋でうずくまっていた。
母親からは最後の挨拶はちゃんとしなさいと言われたが…それをすぐ突っ張り返した。
頭では理解しても認めたくない現実…そして…少しでも生きていると信じてしまう現実逃避…
日程は順調に行われ、今日は告別式だそうだ。
私以外の面々はみんな参加しているらしい。
告別式ってなにやるんだっけ…あー…遺体を焼却するんだっけ…
これが本当にお別れか…でも行かない。そんな所見たら私………
ひたすらベッドの中に潜り込んで泣いていた。
そして、いつの間にか泣きつかれて眠っていたらしい。
起きたのは夜。目が痛い。顔を洗おう…
すると、インターホンが鳴った。誰だろう?私は誰にも会いたくない。
「ハルヒ!お客さんだ!」
親父の声。私は反応しない。
すると階段を上がってくる足音がする。私はまたベッドの中に潜り込んだ。
「涼宮さん…」
古泉君の声。私は反応しない。
「今日はキョンくんの告別式でした。どうして最後のお別れにも来なかったんですか?」
私は無視する。最低だ。心配してくれているのに…
「キョンくんに申し訳ないとは思いませんか?」
………
「…ふぅ…あなたがそんなにも分からず屋だとは思いませんでしたよ。」
わかっている。自分では…。こんな事を言ってくれている人を突き放す。キョンが言ってくれた時も…
古泉君は私が被っている布団を引き剥いだ。
「あなたには分かって欲しいのです。キョンくんの想いの全てを。分かってくれるものかと思いましたが…」
…わかってるわよ!わかってるけど…なんでも分かったような口効かないでよ!!
最低。なんで私とはこんなに最低なんだろう…
「涼宮さん…今日はあなたに届けるものがあって来ました。」
瓶詰めされた中に…白い塊と粉が入っている。
「これは…キョンくんの遺骨です…あなたはこれを持つべきです…」
これがキョン…?こんな白くて小さいのが?…嘘。キョンはもっと大きな胸をしていて…温かくて…優しい顔をしていて…
「あなたのキョンくんはもうこの世にはいません!…いい加減認めなさい…っ!」
………っ!!
「………僕はこれにて失礼させていただきます。あなたは…死のうなんて考えはよして下さいね…。」
古泉君は出ていった。
これが…キョン?
瓶詰めされたものを取り上げて見る。
嘘よね?こんな小さくなんてない…背は私より大きくて…それがなんでこんな小さく?
…そっか…キョン苦しんだよね?いっぱい苦しんで苦しんで…もう楽になったんだよね…
そうだよね…ねぇ?キョン?キョンはあと七十年後じゃないと許さないって言ったよね?でもね…とてもじゃないけどこれから七十年なんて待てそうにないの…
キョンもさ?その間ずっと退屈でしょ?だからさ…私も今から行くからさ…もう少しの辛抱だからね…?キョンが退屈なのは私の退屈だから…
ごめんなさい古泉君。私のこと色々心配してくれたのに…死ぬことなんて考えるなって言ってくれたのに…でもね?キョンが居ない世界は私の世界じゃないの…だから…ゴメンね?
みくるちゃん?またあなたには泣かせる思いをするかも知れないけど…私も泣きつかれちゃったの…ゴメンね…
有希…あなたはもう少し心を開くことを意識しなさい。もうそれしか言えないけど…ごめんなさい。
谷口、国木田、鶴屋さん、妹ちゃん…みんなキョンのこと心配してくれてありがとう。私があっちに行ったらみんな心配してくれてたって伝えとくから…ごめんなさいね…
じゃあねみんな…
じゃあね…光に満ちた世界…
じゃあね…私の大好きだった仲間達…
私はカッターを手に持って…左の胸に…
目が覚めたの…そこはいつもとなんら変わりのない風景。
私は学校にいて…その隣には…キョンがいた…
あの私の大好きな…優しくて…どこか間の抜けてて…時には強くて…そのキョンが目の前にいる。
私は抱きついた。思いっきり。この感触や温もり…夢じゃない。
だけど…周りにはキョンと私以外の誰がいる様子もない。
でもいいの!キョンがいれば…私はなにもいらない!キョンだけが私の望むものなの!
「ハルヒ…会いたかった…」
うん…!私も会いたかった…ずっと…ずっと!
「俺もずっと…ハルヒ。」
…うん?なに?
「俺…ハルヒのことが好きだ!一生…ずっと一緒だ!」
……私もよバカッ!もう絶対に手放したりしないんだから!
私は泣きながらしっかりとキョンの腕に抱かれていた。ずっと望んだこの温もり…
そして…キスをしたの。温かくて…キョンの暖かさが直接伝わって来て…嬉しい。
長い間…ずっとキスをしていた…ずっと…ずっと
もうキョン以外は何も望まない!だから…ずっとキョンと一緒に居させて?
ある夏のある日………
涼宮ハルヒが死ぬと同時に世界を再構築した………
その世界には今までの世界の概念が存在しなく…あるのは涼宮ハルヒとキョンの二人だけの世界。
涼宮ハルヒが望めばなんとにでもなる世界。
その世界で永遠に歳をとらないでずっと二人の生活を過ごしている。
―――ねぇ?キョン?私達…ずっと一緒だよね?―――
―――あぁ…ずっと一緒だ…もう悩む事などないぞ…―――
<悩みの種の潰えた世界>
END
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