1: 2014/10/23(木) 20:09:16 ID:bQxJjA1.
これはある王国の物語──



遠い異国にいた独裁者の本を読み終えたある男が、目を輝かせていた。

男「素晴らしい……!」

男「これこそが俺が望んでいたものだ!」

男「独裁者になろう!」

男「よぉ~し、そうと決まればさっそく王様から政権奪取だ!」


2: 2014/10/23(木) 20:11:08 ID:bQxJjA1.
男は城に向かった。

国王「ふむ……何用かな?」

男「今日から俺が……王になる」

男「いや、王をも超えた独裁者になる!」

国王「なんと!」

国王「つ、ついにこの時が……!」

3: 2014/10/23(木) 20:13:02 ID:bQxJjA1.
男「というわけだ」

男「今日からお前は俺にひざまずくのだ」

国王「ああぁぁ~~~~~ん! ひざまずくぅ~~~~ん!」

国王「ああああぁぁぁ~~~~~~~~~ん!」

国王「あうあうああぁぁぁぁ~~~~~~~~ん!」

4: 2014/10/23(木) 20:15:26 ID:bQxJjA1.
男「いや……やはり処刑しよう」

男「家族もろともな!」

国王「首斬られちゃう~~~~~! ああぁ~~~~~~~~~~ん!」

王妃「くいぃぃぃぃぃん! 剣で斬首されちゃうのおおおおおおおおお!」…

王子「ボク、処刑されりゅぅぅぅぅぅ! まだ子供なのにぃぃぃぃぃぃぃ!」

王女「うら若き乙女なのに殺されちゃうのおおおおおおおおお!」…

ザシュッ!

5: 2014/10/23(木) 20:18:02 ID:bQxJjA1.
男「ついでに権力を一点に集中すべく、議会は廃止する」

議長「議会廃止されちゃうぅぅぅぅ! 問答無用しゅぎぃぃぃぃぃ!」

議員「圧倒的独裁パワーで廃止されちゃうのぉぉぉぉぉぉ!」

女議員「路頭に迷っちゃうのおおおおおおおおおおお!」

男「心配するな。全員、氏刑にする」

議長「ありがとうごじゃいましゅううううううううううう!」

議員「議員クビになって転職先はあの世なのおおおおおおおおおおお!」


ザシュッ!

6: 2014/10/23(木) 20:20:29 ID:bQxJjA1.
男「税率は……収入の1000%にする」

市民A「1000%ォォォォォ! 10倍ィィィィィ!」

市民B「搾取されちゃうのおおおおおおおおおお! らめぇぇぇぇぇ!」

男「払えない者は……氏だ」

市民C「氏ぬのぉぉぉぉ! 氏確定なのおおぉぉぉぉぉ!」

市民D「あはぁ~~~~ん、こんなムチャクチャ初めてぇ~~~ん!」

男「払えても……氏だ」

市民たち「しゅごいぃ~! しゅごしゅぎるのぉ~~~~~!」

7: 2014/10/23(木) 20:24:05 ID:bQxJjA1.
男「新しい宮殿と私の銅像を作れ。一週間以内にな」

工夫A「いっしゅうかんんんんんんんん!?」

工夫B「みじかいぃぃぃ! 期限みじかしゅぎぃぃぃぃぃぃ!」

男「作れなければ……氏刑」

工夫C「厳しいぃぃぃぃぃ! 厳しいのぉぉぉぉぉぉ!」

工夫D「事実上の氏刑せんこきゅううううううううう!」ラララ

男「もし完成できたとしても……氏刑だがな」

工夫たち「しゅごいぃぃぃぃぃ! 報われないのぉぉぉぉぉぉ!」

8: 2014/10/23(木) 20:26:03 ID:bQxJjA1.
男(宮殿は完成した……が、工事関係者はみな処刑した)

男「食事をしよう……うまい。コックは氏刑」

男「ワインを飲もう……うまい。ワイン職人も氏刑。ついでにウイスキー職人も」

男「食べすぎて胸やけがする……ので腹いせに執事とメイドも氏刑」

コック「まずいじゃなくおいしいのに、氏刑とか新しいぃぃぃぃぃ!」

ワイン職人「赤ワイン作ったら人生がレッドカードなのぉぉぉぉぉ!」

ウイスキー職人「巻き添えぇぇぇぇ! なにもしてないのにぃぃぃぃぃ!」

執事「こんな氏に方しちゃうなんて……執事冥利に尽きるぅぅぅぅぅぅ!」

メイド「冥土にいっちゃいましゅぅぅぅぅ、ご主人しゃああああっ!」ワァ…

9: 2014/10/23(木) 20:28:26 ID:bQxJjA1.
処刑人「処刑、終わりました!」

男「よくやった!」

処刑人「私だけは処刑要員として、ずっと生かして下さるのですよね?」

男「そんなわけないだろう」

男「よって、お前も氏ね」

処刑人「しょけえええええええええええええええ!」

ザシュッ!

10: 2014/10/23(木) 20:31:22 ID:bQxJjA1.
男「逆らう者は頃す」

男「逆らわなくても頃す」

男「老若男女、全て頃す!」

男「処刑人は自害させてしまったので、俺の手で処刑してやる!」

男「なぜそこまで人を頃すのか、だと?」

男「なぜなら俺は独裁者だからだ!」

男「俺は俺の夢のため、とてつもない独裁者にならねばならないのだ!」

11: 2014/10/23(木) 20:34:27 ID:bQxJjA1.
男「特に理由はないが、どんどん処刑してやる!」



老人「おっほぉぉぉぉぉぉう! 老い先みじかしゅぎぃぃぃぃぃ!」

老婆「たまらんのぉぉぉぉぉぉぉぉ! ぐらんどまざぁぁぁぁぁ!」

美女「いいわぁ~~~~~~~~ん! 美人はくめぇぇぇぇぇぇ!」

赤ん坊「おっぎゃああああああん」

青年「独裁されちゃってるのおおおおお、たまらないのおおおおお!」

幼女「ふえええええええええええええええ」



    … 

    ゥゥ… 

12: 2014/10/23(木) 20:37:12 ID:bQxJjA1.
男(ふふふ、我ながらみごとな独裁っぷりだ)

男(なにしろ独裁者とは、理不尽に国民を粛清するものだからな)

男(さて、そろそろ俺の夢が叶う時が──)

男「!」ハ

男「しまった! 国民全てを粛清してしまった!」

男「これでは俺の夢が叶えられないではないか!」





この男の夢とは──

13: 2014/10/23(木) 20:41:17 ID:bQxJjA1.
昔読んだ本──



『長年にわたり悪政を続けた独裁者はついに逮捕されました』

『国民から袋叩きにされ、氏体は晒し者にされ、皆から唾をかけられました』

『せっかく作った宮殿と銅像は破壊され、家族も処刑されてしまいました』

『今でもこの国では、この独裁者を国の恥として忌み嫌っています』



男『素晴らしい……!』

男『これこそが俺が望んでいたものだ!』

男『独裁者になろう!』



そう、男は重度のマゾだったのだ!

14: 2014/10/23(木) 20:44:04 ID:bQxJjA1.
男「くっそぉ~、なんでどいつもこいつも抵抗せずに処刑されるんだ!」

男「勢い余って、国民全てを処刑してしまったじゃないか!」

男「これでは俺を袋叩きにしたり、氏体を晒したりする奴がいないじゃないか!」



仕方のないことだった。

なぜならこの国の住民は、全員が例外なくマゾだった。

誰もが心の奥底で、男のような存在を待ちわびていたのだから……。

15: 2014/10/23(木) 20:47:11 ID:bQxJjA1.
男「自分で自分に苦痛を味わわせてもなにも面白くない!」

男「俺は俺の手で、俺に痛みを味わわせるはずの人々を消してしまった!」

男「痛みを味わえないということが、これほどの苦痛だったとは!」

男「つまり……これはこれで快感~~~~~~~~~~!」









全てを出し尽くした男も、やがて力尽きた。

こうしてマゾだらけの国の住民は一人残らず全滅した。

16: 2014/10/23(木) 20:49:53 ID:bQxJjA1.
滅亡後──

マゾだらけの国は解体され、土地や資源は周辺国に分配されることとなった。

元々大した国でもなかったので、分配はさほど揉めなかった。





一人のマゾが描いた愚かな夢で、一国が滅んでしまったのである。

17: 2014/10/23(木) 20:52:49 ID:bQxJjA1.
この亡国を、他国の知識人たちはこぞって非難・酷評した。



「自国民全員を粛清するなんて、独裁者というかただのバカだ!」

「こんな輩に権力を手渡した王もどうかしている! 見る目がなかった!」

「国民も国民だ! なぜまったく反抗しなかったのか!」

「指導者が狂人で、国民も自分で考える力を持たない、滅んで当然の国だった!」

「こんな国が長年存続できただけでも奇跡だ!」



どれももっともな意見であった。

18: 2014/10/23(木) 20:57:20 ID:bQxJjA1.
しかし、今やあの世で暮らす彼らにとっては──



国王「また現世でウチの国が酷評されてるのおおおおおおおおお!」

王妃「やったわああああああああああああああああああ」ワァ…

王子「気持ちいい! 気持ちいいよおおおおおおお!」

王女「もっともっとぉぉぉぉののしってええええええええええええ!」

処刑人「しょけええええええええええええええええええええ!」

19: 2014/10/23(木) 21:00:20 ID:bQxJjA1.
議員たち「ウチの国を茶化す演劇まで生まれたのおおおおん!」

市民たち「我々が酷評されてるんるんるんるんりゅぅ~~~~~~ん!」

工夫たち「銅像とか宮殿作ったのになんにも報われないのぉぉぉぉぉ!」



男「あっはぁ~ん! 独裁してよかったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」





最高の娯楽にすぎなかった。





~ END ~

引用: 男「独裁者になろう!」