220: 2014/05/03(土) 01:15:18 ID:Amg9GnLU

【進撃の巨人】不思議の国のミーナ


それでは再開します

クロスはベルセルク27巻あたりからになります

221: 2014/05/03(土) 01:16:15 ID:Amg9GnLU
【不思議の国のミーナ・狂戦士編】


私とサシャは現実の世界から、ラプラスの魔が云う零の世界に迷い込み…

ラプラスの魔が棲む塒の一室から、私達が元居た世界に戻る為、世界と世界を繋ぐ“扉”を開いて進む事になった。

扉の先は薄暗くて、霧みたいな靄が掛かってる状態。

穴蔵みたいな通路は足場もあまり良くなくて、私とサシャは転ばない様に注意しながら…

遠くに見える、出口と思しき明かりを目指して歩き続けた。

オレンジ色の出口らしい明かりが近づくにつれ、靄が濃くなる。
進撃の巨人
222: 2014/05/03(土) 01:16:52 ID:Amg9GnLU
正直、霧で足を踏み外し、異世界に迷い込んだ身としては…

この濃い靄に良い印象が持てない。

サシャと堅く手を結びあい、オレンジ色の光に向かって歩み続けると…

突然って言って良いくらい、唐突に靄が晴れ、私達は夕日に染まる野外に居た。

私とサシャは辺りを見渡したけど、目の前に小さな丘があるだけで、辺りは見渡す限り広野が広がっている。

私とサシャは顔を見合わせた。

ミーナ「…どこだろ、ここ?」

サシャ「灰色の森ではないですから、普通の野外…ラプラスの魔が言ってた現実世界だと思いますけど…」

223: 2014/05/03(土) 01:17:29 ID:Amg9GnLU
ミーナ「…うん。問題はここが、私達が居た世界かどうかだね」

サシャ「ええ…それにしても、何も無い所ですね、ココ?」

ミーナ「見渡す限り、野原だもんね…」

サシャ「ミーナ、取り敢えず目の前の丘に登ってみませんか?」

ミーナ「うん。私もあの丘に登ってみようと思ってた」

小さな丘だから見晴らしは大して望めないけど、見えない丘の向こう側が気になる。

私達の背後には整地されていない広野が広がってて、遙か遠くに山々が見えるだけ。

民家の類は目に付かなかった。

224: 2014/05/03(土) 01:18:11 ID:Amg9GnLU
自分達が何処にいるか、どんな世界に居るか解らない以上、情報は多いにこした事ないわ。

丘の頂上を目指して歩きながら、不意に嫌な事態が頭を過ぎった。

ミーナ「あのさ…ちょっとヤな事が浮かんだんだけど…」

サシャ「ヤな事って?」

ミーナ「…こんな何にも無い所で、巨人が出たら最悪だなって…」

サシャ「あー、立体機動が出来ませんねぇ…」

サシャ「って、いきなりヤな事を言わないで下さいよ」

ミーナ「あのさ、ここが仮に私達の居た世界だとしても…」

ミーナ「私達の今いる場所が、壁の外だったら最悪だよねぇ…」

225: 2014/05/03(土) 01:18:47 ID:Amg9GnLU
サシャ「否定は出来ないですけど…止めて下さい、気が沈みますから」

ミーナ「…うん。ゴメン、ちょっとナーバスになってるわ、私」

サシャ「兎に角、ポジティブに行きましょう!それより、さっきからちょっと気になる事が…」

ミーナ「何?」

サシャ「ええ、ちょっと嗅ぎ馴れない匂いがするんですよね…さっきから」

ミーナ「あ、それ私も思ってたよ。何だろ、この匂い?」

サシャ「丘を登り始めてから、段々匂いが強くなってる気がするんですよねぇ?」

ミーナ「それ私も思ってた」

226: 2014/05/03(土) 01:19:22 ID:Amg9GnLU
サシャ「丘の頂上はもうすぐですから、じきに解るかも知れませんね」

夕日は丘の向こうにあるらしくて、私達は日陰の坂を登り、目の前の頂上を目指す。

やがて見えてきた夕日に目を細めながら、片手で強い夕日の光を遮る。

丘の頂上に辿り着いた私達は、沈む夕日の光景を見ながら…

その、生まれて初めて目にする光景に、暫く言葉を失ってしまった。

なだらかな丘を下った先には、見渡す限り“大きな水たまり”が広がってた。

その大きな水たまりから吹き上がってくる風は、妙に塩臭くてベタついた感じがする。

227: 2014/05/03(土) 01:19:58 ID:Amg9GnLU
砂の大地と、それに打ち寄せる白い波と、遙か遠くまで広がる水たまりと…

西の空と水たまりの境をオレンジ色に染めながら、水平線の向こうに沈み始めている夕日…

…綺麗…その文字だけが頭に浮かび、私とサシャは暫くの間、無言でこの景色に魅入ってしまった。

どれ位の時間が経ってからだろう?夕日が半分ほど水たまりに沈んだ頃、不意に以前、エレンとアルミンから聞いた事を私は思い出した。

“世界の大半は塩水で覆われてる、その塩水の名前は……”

ミーナ「…海?これが…」

サシャ「えっ?何か言いましたか、ミーナ?」

228: 2014/05/03(土) 01:20:51 ID:Amg9GnLU
ミーナ「あ、うん…サシャ、これ多分…海ってやつだよ」

サシャ「うみ?」

ミーナ「うん。アルミンが小さい時、外の世界が書かれてる本を読んだ事があって…」

ミーナ「その本に、世界の大半は塩水に覆われてて…」

ミーナ「その塩水の名前は、海って言うんだって…」

ミーナ「エレンやアルミンは、壁の外に出たら、この海を見てみたいって言ってたよ…」

サシャ「海…ですか、コレが。って事は、私達は壁の外に居るって事ですね…」

ミーナ「私達の世界に戻ってるなら、間違い無く壁外だね」

229: 2014/05/03(土) 01:21:37 ID:Amg9GnLU
私達は二人揃って、微妙な笑みを浮かべてしまった。

ま、はっきり言えば苦笑い。

元の世界に戻りたいけど、ココが私達の世界だとしたら…正直困りモノだわ。

壁内の人間で海を直接見たのは、おそらく私達が初めてだろう。その事自体は大いに自慢出来るだろうけど…

ココが私達の元いた世界だとしたら、正直、生きて壁内に帰り着く自信が無いわ…

つか、移動する為の馬さえ無いんだから、巨人に見つかった時点で一巻の終わりね。

つまる所、今となっては異世界である事を願うばかりだわ。

230: 2014/05/03(土) 01:22:44 ID:Amg9GnLU
ミーナ「取り敢えずさ…行ってみよっか、波打ち際まで?」

サシャ「あー、そうですね。本当にあの水が塩水で出来てるのか、凄く興味がありますから」

ミーナ「だよね?あの水が本当に塩水だったら、間違い無くアレが海って事だね?」

サシャ「じゃあ早速、行ってみましょう!」

ミーナ「そうしよう!」

私達は頷き合うと、緩やかな丘の斜面を、海に向かって駆け下りて行った。

サシャ「うわっ!何やこの砂、走りにくっ!?」

ミーナ「足が取られるね、コレ!?」

231: 2014/05/03(土) 01:23:27 ID:Amg9GnLU
はしゃぎながら砂の上を走って、私とサシャはザーザーと音がする波打ち際を目指した。

サシャ「うーわっ!しょっぱ!しょっぱい!」

ミーナ「本当に塩だ、この水、本当に塩水で出来てるよ!」

サシャ「海ですか?コレが海って奴なんですね?」

ミーナ「そう海!コレが海!」

サシャ「うーーーみーーー!」

サシャが口元に両手を当てて、突然大きな声で叫んだ。

ハシャぎまくってるなぁ、サシャ。

ミーナ「ナゼ沈む夕日に向かって叫ぶ?」

サシャ「何となく叫びたくなりました」

232: 2014/05/03(土) 01:30:16 ID:Amg9GnLU
飛びきりの笑顔で返事をするサシャに、私も笑顔を返して…

私も口元に、両手を当てて…

ミーナ「うーーーみーーー!」

取り敢えず叫んでみたら…うん、ちょっと楽しいかもしんない。

サシャ「凄いですねぇ、海って。初めて見るからかも知れませんけど、何か興奮してますよ、私」

ミーナ「何か解るわ、ソレ。私も興奮してるもん」

サシャ「無事に帰れたら、皆に自慢出来ますねぇ」

ミーナ「エレンとアルミンに自慢しない?きっと悔しがると思うから」

サシャ「そうしましょう!」

233: 2014/05/03(土) 01:30:52 ID:Amg9GnLU
私とサシャはそう掛け合って、お互いに笑い声をあげた。

暫くしてお互い落ち着いて来ると、今夜の寝床をどうするか?って、現実的な問題に向かい合う。

お互い決めかねていると、遙か遠くの、海岸沿いに切り立つ岩壁が私の目に入った。

ミーナ「サシャ。あっち、岩場があるね?」

サシャ「ありますねぇ?」

遠くまで続く砂浜。その遙か向こう、切り立つ岩壁にサシャが視線を向ける。

ミーナ「ここが私達の世界ではないにしても、ラプラスの魔は、巨人を10体送り込むって言ってたから…」

234: 2014/05/03(土) 01:31:30 ID:Amg9GnLU
ミーナ「ああいった岩壁の側で寝泊まりしてれば、もしもの場合、立体機動が使えるよね?」

サシャ「なるほど、良い提案です。早速移動しましょう!」

みなまで言わなくても、サシャが私の意図を察してくれた。

それから私達はすぐに、岩壁を目指して砂浜を歩き始めた。

右手には、夕日がだいぶ水平線に沈んでる…

オレンジ色の海が、息を飲む程に綺麗…

私達の注意の殆どは海へと向けられたまま、海岸をひたすらに歩き続けた。

今後の事で話し合わないといけないのは十分に解ってるけど…

235: 2014/05/03(土) 01:32:10 ID:Amg9GnLU
今だけは、初めて目にするこの美しい光景を静かに見ていたい…

それが私の…そして多分サシャの、本心からの気持ちだった。

夕日を見ながら、ほぼ無言で歩き続けた私達が、やっと岩壁がそびえる砂浜に辿り着くと…

その波打ち際で戯れる、数人の姿に気が付いた。

人がいる……多分、異世界の住人だ。

この世界の人間は、私達に害を与えたりしないだろうか?

正直に言えば、不安しかない。

今にして思えば、波打ち際で遊んでる場合じゃなかった。

異世界の人間とどうコミュニケーションを取るか?ここでの食料や水の調達とか…

236: 2014/05/03(土) 01:32:53 ID:Amg9GnLU
最優先で考えないといけない事が、一杯あったんだ……

自分の馬鹿さ加減に呆然と突っ立っていると、サシャが小さく声を掛けてきた。

サシャ「向こうも私達に気が付いたみたいですよ?」

サシャ「背格好から見て…大人が四人、子供が二人…みたいですね?」

サシャ「どうしますか、ミーナ?」

ミーナ「ちょっと想定外だったけど…無視は出来ないよね?」

ミーナ「情報を集めないといけないから…話し掛けてみよう」

サシャ「言葉、通じますかね?いきなり襲い掛かられたりしないでしょうか?」

237: 2014/05/03(土) 01:33:37 ID:Amg9GnLU
サシャが六人組みの一行に視線を向けたまま、少し震えた声を出した。

無理もないよ…あの一行の中の一人、かなり大柄な男の人が着てるのは……多分アレ、鎧だ。

私だって声を掛けに行くの、正直に言えば躊躇ってるよ。

けど、遠目に見ても子供が二人もいるし、よくよく見たら、大人四人の内の二人は女の人だ。

それが、私の背中を後押しした。

ミーナ「…万が一を考えて、直ぐに逃げられる心持ちでいよう」

ミーナ「最悪の場合でも岩壁に向かって逃げれば、私達なら岩壁を使って、立体機動で一気に逃げる距離を稼げるから」

238: 2014/05/03(土) 01:34:19 ID:Amg9GnLU
サシャ「分かりました…あの、声を掛けるのはミーナにお任せしても良いですか?私、こうゆうの苦手で…」

ミーナ「…いいよ、灰色の森ではサシャに頼りっ切りだったからね」

サシャ「すいません、お願いします」

ミーナ「適材適所だよ。私達は運命共同体。お互い助け合って、元の世界に帰らなきゃいけないんだから」

ミーナ「知恵と勇気で困難に立ち向かおう!私が知恵の担当で、勇気がサシャね?」

サシャ「はい?この場合、勇気の担当はミーナでは?」

239: 2014/05/03(土) 01:36:10 ID:Amg9GnLU
私の提案に、サシャが顔色を変える。やっぱりサシャは、少し臆病な所があるなぁ…

私は思わず、苦笑いが浮かんだ。

ミーナ「私にサシャくらいの実力があったら、迷わず私が勇気を担当してるよ…」

ミーナ「サシャの本当の実力は、ミカサにだって引けを取らないんだから、もっと自信を持って良いんだよ?」

サシャ「買いかぶりですよ!」

ミーナ「買いかぶりじゃない。私はあの灰色の森で、サシャの実力を間近で見たんだから…」

ミーナ「サシャが本気を出せば、ミカサにだって負けてない。だから自信を持って!」

240: 2014/05/03(土) 01:37:36 ID:Amg9GnLU
ミーナ「サシャが本当の実力を出すのには、勇気が要るんだよ」

ミーナ「怖がらないで、もっと自分に自信を持って、そして勇気を持って…」

ミーナ「サシャ…サシャの実力は凄いんだよ?私が保証してあげる。だから自信と勇気を持ってよね?」

サシャ「……解りました、ミーナの期待に添える様に頑張ってみます」

ミーナ「よーし、じゃあ行ってみよっか?」

サシャ「はい、お供します!」

サシャの声から怯えの色が消えて、幾らか元気の良い返事が返ってきた…

241: 2014/05/03(土) 01:38:50 ID:Amg9GnLU
うん、いい感じね。怖がってちゃ、実力なんて出せっこないもん。

よーし、じゃあ私も気合いを入れ直して、私の役目を果たさなくちゃ!

私は両手で、パンパンと軽く両の頬を叩いて、視線を波打ち際の一行に向ける。

さて、どうなるかしら?

そう考えながら、私とサシャは波打ち際の一行に向かって、歩き出して行った。

244: 2014/05/04(日) 16:22:17 ID:9jt01vIQ

それは剣と言うには、あまりにも大きすぎた…

大きく、ぶ厚く、重く、そして大雑把すぎた…

それは正に、鉄塊だった…



ミーナ「あ、あの…ちょっと宜しいですか?」

その男の人に、私はおずおずと声をかけた。

半身の姿勢のまま、視線だけを私とサシャに向けるその人は、私の問いかけに答えなかった。

…やっぱり言葉が通じないのかなぁ?

緊張もあって、思わずコクリと息を飲み込んで、改めてその人を見る。

第一印象は、黒尽くめの人だなぁ…だった。

245: 2014/05/04(日) 16:24:25 ID:9jt01vIQ
全身を覆う様な黒い甲冑を着て、ボロボロの黒マントを羽織った、短髪で黒髪のその人は…

背中に冗談みたいな大剣…私の背丈よりも大きな剣を背負って、まるで獣みたいな眼で私達を見下ろしてる。

正直……これは怖いわ。

言葉が通じないのか、或いは私達を品定めしているのか…無言の威圧感がとにかく半端ない。

チラリと横目でサシャを見たら、緊張のせいか顔が真っ白。

多分、私の顔色も似たようなもんだろうなぁ…そう考えながら、背中に嫌な汗が流れ落ちるのを感じつつ…

246: 2014/05/04(日) 16:25:07 ID:9jt01vIQ
もしもの場合は即逃げ出す事も頭に入れながら、私はもう一度、問いかける事にした。

ミーナ「あの、ちょっとお尋ねしたい事があるんですけど…」

???「…おい、セルピコ!」

黒尽くめの人は私の問いかけには答えずに、少し離れた所にいる男性を呼んだ。

その声に応える様にして、緑色のフードを被った男の人…少し線の細い感じの人が、私達の元へとやって来た。

長身で見るからに屈強な体つきの黒尽くめ男性に比べて…

呼ばれて来た男性は、開いてるかどうかも分からない細い眼をした、どこか優雅で柔らかい印象を持つ人だ。

247: 2014/05/04(日) 16:25:44 ID:9jt01vIQ
話し掛けるなら、断然こっちの人が話し掛け易そう。

そう思ってると、緑色のフードを被った人に、黒尽くめの人が低い声を掛けた。

???「何か用があるらしい…お前、聞いてくれ」

セルピコ「どちら様ですか?」

???「さあな…」

???「ガッツさん、セルピコさん、どうかなさいましたか?」

ガッツ「ああ、何か聞きだい事でもあるらしい」

黒尽くめの人…ガッツと呼ばれた男の人は、紺色のワンピースと紺色の幅広帽子、片手に木の杖を持った女の子にそう答えると…

ガッツ「セルピコ、シールケ、後は任せた」

248: 2014/05/04(日) 16:26:19 ID:9jt01vIQ
そう言って私達に背中を見せると、波打ち際で戯れる女性達の方に向かって足を進めた。

あからさまに私達には興味が無い感じ…まあ、あの人コワイから別に良いけど…

シールケ「もう!自分勝手なんだから…」

紺色のワンピースを着た女の子が、呆れた様な声を出した。

シールケと呼ばれた女の子は、ぱっと見で12~13才くらいかな?

私達の世界なら、訓練兵団に入る位の年頃に見えた。

セルピコ「失礼しました、代わってお話を伺いますよ」

柔らかい物腰で、セルピコと呼ばれた男性が、私とサシャに笑顔を向けた。

249: 2014/05/04(日) 16:26:59 ID:9jt01vIQ
良かった…どうやら言葉は通じるみたいだし、何より友好的な笑顔が私をホッとさせる…

私は内心、胸をなで下ろした。

ミーナ「あの、ちょっとお伺いしたい事があるんですけど」

セルピコ「何でしょう?」

ミーナ「えっと……」

……どういった聞き方をしたらいいんだろ?

変に思われたら困るけど…取り敢えず、最終的な確認で、先ずこれを聞かなきゃ…

ミーナ「あの、ここはドコですか?私達…その、道に迷っちゃって…」

セルピコ「…?」

シールケ「…」

私の質問に二人は黙り込み、眉をひそめた。

250: 2014/05/04(日) 16:27:46 ID:9jt01vIQ
そして、改める様に私とサシャの姿をジッと見る。品定めと言うか、不審者を見る目つきと言うか…

立体機動装置とブレードのフル装備姿なのよね…私達。見慣れない格好だろうし、そりゃ怪しいわよねぇ…

ミーナ「あ、あの……」

セルピコ「ああ、失礼しました。ここはミッドランドの辺境になりますね」

セルピコ「私達も旅の途中ですので、詳しい地名までは解りませんが…」

ミーナ「ミッド…ランド?」

セルピコ「失礼ですが、どちらからお出でになりましたか?」

ミーナ「……ウォール・シーナです」

251: 2014/05/04(日) 16:28:27 ID:9jt01vIQ
セルピコ「…聞いた事の無い国の名前ですねぇ…地名でしょうか?シールケさんはご存じですか?」

シールケ「…いえ、私も初めて耳にします」

ミーナ「じゃウォール・シーナの壁もご存じありませんか?」

セルピコ「壁…ですか?」

ミーナ「巨人は?ここに巨人は居ないんですか!?」

シールケ「巨人?」

二人の表情で確信しました…もう異世界で確定だわ。

つか、こんな浜辺で人間に出会ってるんだもん…この時点で異世界なのは分かり切ってたけどね…

ガッカリした様な、安心した様な…複雑な気分よ。

252: 2014/05/04(日) 16:30:05 ID:9jt01vIQ
私はサシャと顔を見合わせると、軽い溜め息を吐いた。

シールケ「何か…事情がおありの様ですね?」

ミーナ「えっと…まあ…うん…あ、はい」

こんな年下の子に心配そうな顔をされてもなぁ…

シールケ「道に迷われたと仰られてましたけど、良かったらお話しを伺いますよ?」

ミーナ「あ…ありがとう」

年下のワリに、随分としっかりした感じの女の子だ。

何か…微妙に情けない気分になって来るのはナゼだろ?

253: 2014/05/04(日) 16:30:39 ID:9jt01vIQ
不意に湧いた情けなさと落胆で、ちょっとだけヤケになった私は…

本来なら慎重に告げるべき事なのに、思わず口を滑らしてしまった。

ミーナ「実は私達、違う世界から零の世界ってワケの解らない世界に迷い込んで、ソコからこの世界に来ちゃたんですよ~…」

言った後で、しまった!と思った…

こんな事をイキナリ言って、信じて貰えるはずがない…

胡散臭さが倍増する台詞だし、下手すると気の触れた馬鹿な娘と思われるのが関の山だよ…

ミーナ「いやっ!えっと、違うんです!ちょっと説明すると長くなっちゃうんですけど!」

254: 2014/05/04(日) 16:32:07 ID:9jt01vIQ
ジーッと真剣な眼差しで私達を見つめる二人に、慌てて私が取り繕おうとすると…

女の子が、ニコリと優しい笑顔を浮かべた。

シールケ「それは大変でしたね?落ち着いて下さい、お話しなら私が伺いますから」

ミーナ「えっと…えっ?信じちゃうの?信じてくれるの?私の言ったこと?!」

シールケ「ええ、嘘を付かれている様には見えませんから」

シールケ「それに、あなたが先ほど言った…零の世界?それは恐らく幽界(かくりょ)の事でしょう」

シールケ「お困りの様ですし、私ならお力になれると思いますから」

255: 2014/05/04(日) 16:32:51 ID:9jt01vIQ
サシャ「ホント…ですか?!」

ミーナ「あなたが…私達の力になって…くれる…の?」

何か…エラく自信あり気?つか余裕あり気?な女の子に、私とサシャが半信半疑な声で問い掛けると…

セルピコ「シールケさんはこう見えても、立派な魔術士ですから」

ミーナ「ま、魔術士?」

サシャ「魔法使いさんですか?言われてみれば、そんな格好してますねっ?」

ずっと黙り込んでたサシャが、目を輝かせて女の子を見つめると…

女の子は少し頬を染めながら、小さく咳払いして見せた。

256: 2014/05/04(日) 16:36:47 ID:9jt01vIQ
シールケ「魔法使い…ではなく、正確には魔術士。大いなる謎を受け入れ、世界の内より万象を探究する者…それが魔術士です」

ミーナ「あのっ、私はミーナ・カロライナです。力を貸して下さい!」

サシャ「サシャ・ブラウスです、お願いします!」

シールケ「シールケです。お力になれるかまだ解りませんが、取り敢えずお話しを伺いますよ」

セルピコ「セルピコと言います。立ち話も何ですし、日も暮れましたから…」

セルピコ「今夜はあそこで海風をしのぎましょう」

257: 2014/05/04(日) 16:37:51 ID:9jt01vIQ
セルピコさんはそう言いながら、岸壁の中腹に建つ海小屋を指差した。

セルピコ「私達の連れも後で紹介します。取り敢えず私は夕飯の準備もありますので…」

セルピコ「先ずは皆と合流しましょう」

シールケ「さっ、行きましょう」

サシャ「はいっ!」

ミーナ「うん、ありがとう」

セルピコさんとシールケ…ちゃん?いや、さんの方がいいのかな?

二人は礼儀正しく人当たりが良くて、私とサシャの緊張を解きほぐしてくれた。

何より、シールケちゃんが本物の魔術士なら…もしかしたら…

この異世界から私達の世界に、直接送り返してくれるかもしれない。

僅かな期待を胸に膨らませながら、私達は魔術士の一行と夜を共にする事にした。

258: 2014/05/04(日) 16:38:34 ID:9jt01vIQ


つづく

259: 2014/05/05(月) 08:22:11 ID:4Fblhf1k
セルピコさんとシールケちゃんに誘われた私達は、その仲間の人達の元に連れて行かれ、改めて自己紹介をする事になった。

その際、シールケちゃんが私達の事を違う世界から来た人達だと紹介してくれたけど…

皆さん、ふ~ん…って感じで、幾らかは驚いてるけど、私が予想してたより、あんまり驚いてる感じがしない。

……何で?普通、もっと驚くもんじゃないの?それとも、信じてない?

大して驚きもされず、アッサリ納得されると…何か変な感じってゆーか、不気味。

ちょっと引っかかる気はしたけど、取り敢えず私は名乗る事にした。

260: 2014/05/05(月) 08:23:11 ID:4Fblhf1k
ミーナ「ミーナって言います」

サシャ「私はサシャです」

イシドロ「俺、イシドロ!よろしくなっ」

私達と同い年か、一つくらい下に見える男の子が、真っ先に手を挙げて名乗った。

ファルネーゼ「初めまして、ファルネーゼです」

次に金髪セミロングの、身形の良い女性がにこやかに自己紹介をしてくれた。

うーん、かなりの美人さんだ。

???「ウーアー…」

ガッツ「俺はガッツ。コイツはキャスカだ。キャスカは………今はちょっと、心が壊れちまってる」

キャスカ「うぎいっ!」

261: 2014/05/05(月) 08:23:45 ID:4Fblhf1k
黒尽くめの男性、ガッツさんがキャスカと紹介した女性の肩に手を置くと…

キャスカさんは言葉にならない悲鳴を上げて、ファルネーゼさんに駆け寄り抱き付いた。

ガッツさんを睨むキャスカさんの目には、強い敵意の色が見えていて…

そんな視線を受けるガッツさんには、少しだけ寂しげな表情が、ほんの一瞬だけ浮かんだ様に見えた。

自己紹介が終わったなぁ…と思った瞬間だった。私の下唇が、ムニッ!と何かに引っ張られた。

ミーナ「ふえっ!えっ!?な、何よ今のっ!?」

サシャ「あれ?何っ?何か髪が引っ張られてる!」

262: 2014/05/05(月) 08:24:20 ID:4Fblhf1k
シールケ「ちょっとイバレラ、止めなさい!」

私とサシャが、見えない何かからの悪戯に悲鳴を上げると、シールケちゃんが慌てて叫び声を上げた。

???「くふふっ、はーい!」

サシャ「あっ!……治まった」

シールケちゃんの制止に応える声がしたかと思うと…

どうやら悪戯が治まったらしく、サシャが不思議そうな顔で辺りを見渡してる。

サシャの方は悪戯が治まったみたいだけど、どうやら私の方は未だ続いているらしい。

不意を突く様にまた下唇が引っ張られたり、耳に息が吹き掛けられたりする。

263: 2014/05/05(月) 08:24:52 ID:4Fblhf1k
ミーナ「ちょっヤダ…キャッ!何?何これヤダ!」

悲鳴を上げて身を捩る私の元に、ガッツさんが歩き寄って来た。

私の目の前で足を止めると、両手を横に開く。

次にパンッ!と、まるで蚊でも叩く様に両手を合わせると…

叩き合わされた手の辺りから、“ウォンチュー!”って意味不明な叫び声が聞こえて来た。

ガッツさんは右手で何かを摘む様な仕草をして見せると、何も持ってない空の右手を、私の目の前に突き出す。

ガッツ「目を凝らして、よーく見てみな…」

ミーナ「はっ?……何が?」

ガッツ「…ま、虫みてーなモンだ」

264: 2014/05/05(月) 08:25:32 ID:4Fblhf1k
ミーナ「む、虫?」

何も見えないけど、ガッツさんの大きな手は、何かを掴んでるみたいな形をしてる。

虫?を掴んでるにしては、手の空間が大きい様な……

そんな事を考えながらガッツさん手をよくよく見ると…

薄ぼんやりと、何かが浮かび上がってきた。

ミーナ「何これ?羽が見えて来……人?小人?羽が生えた小…もしかしてコレ、妖精?」

サシャ「えっ!見せて見せて、私にも見せて下さい!」

ガッツさんから思い切り叩かれたせいか、泡を吹いてグッタリしてるけど…

265: 2014/05/05(月) 08:26:25 ID:4Fblhf1k
ガッツさんの手に掴まれているのは、子供の頃、絵本で見た妖精とソックリな姿をしてた。

何これ、マジで本物?!

ガッツ「余計な事してねーで、お前ぇもサッサと名乗れ」

パック「ぱ…パックでーす」

イバレラ「イバレラよ~ん♪」

瀕氏の男型の妖精の次に、女の子みたいな姿をした妖精が…

私とサシャの目の前に、スイ~ッと飛び回りながら現れる。

童話の中の生き物の登場に、私達は思わず目を見開いてしまった。

サシャ「可愛い!本物ですか?この子達、本物の妖精さんですか?」

266: 2014/05/05(月) 08:27:04 ID:4Fblhf1k
イバレラ「本物の妖精よ、会えて光栄に思いなさい!」

シールケ「お二人とも、ごめんなさい。エルフ達は悪戯好きなんです」

ミーナ「いや…いいけど……」

ミーナ「凄いですね、ここの世界は。こんなのが実在するんだぁ…」

ファルネーゼ「ええ、私も最初は驚きました」

ファルネーゼ「この世界には、私達の常識や想像を遙かに超えた存在があるんだって…」

ファルネーゼ「ですから、貴女方お二人が違う世界からやって来たのだとしても…」

ファルネーゼ「今さら驚いたり疑ったりなどしません。何より…」

267: 2014/05/05(月) 08:27:40 ID:4Fblhf1k
ファルネーゼ「魔女のシールケさんが、貴女方が違う世界から来たのだと仰ってますから」

イシドロ「ま、そーゆうこった。それにネーチャン達は人間なんだろ?」

イシドロ「なら俺らにしたら、別にビビるこっちゃねーよ!」

ミーナ「ああ、そーゆう事ですか…」

ナルホド、私達の言葉をアッサリ信じてくれるワケだわ。

何か…何でもアリなんだなぁ、この世界。

浜辺で自己紹介を終えた私達は、その後、揃って海小屋に移動する事になった。

268: 2014/05/05(月) 08:28:18 ID:4Fblhf1k
海小屋を目の前して歩いてると、イシドロ君がやたらと私とサシャのフル装備の事で質問をして来る。

どうやらかなり興味を持ったらしいので、説明をしながら歩いてたけど、なかなか理解が及ばないみたい。

いっそ見せた方が早いのでは?とサシャが言い出し…

彼女は海小屋への移動に、岸壁を利用して立体機動を皆に披露して見せた。

岸壁を利用して立体機動を使い、振り子の要領で、あっと言う間に海小屋へと辿り着く。

そのまま小屋で待ってれば良いのに、サシャは得意な気分になったらしく、また立体機動を使って坂を下りて来た。

269: 2014/05/05(月) 08:28:57 ID:4Fblhf1k
サシャが私達の元に舞い降りると、あの無表情なガッツさんを含めた皆さん達から、感嘆の声が上がる。

私とサシャが異世界から来たと紹介された時より、皆さんよっぽど驚いてる……変な感じだわ。

イシドロ君が直ぐに、俺にもやらせてくれと何度もせがんで来たけど…

立体機動の装備ベルトは個人の身体に合わせて調整してあるし…

立体機動は訓練だけでも氏者が出る危険なものなので、無闇に貸す事は出来ないと丁重に断った。

その後、海小屋に着いた私達は小屋の中をザッと片付け、各々が休息を取る事にした。

270: 2014/05/05(月) 08:34:59 ID:4Fblhf1k
セルピコさんは小屋に着いて直ぐ、夕飯の準備に取り掛かったので…

私は一応サシャに了解を得て、私の装具に入ってる食料を、皆さんに提供する事にした。

セルピコ「良いんですか、こんなに?」

ミーナ「はい、お世話になりますから。気にせず使って下さい」

シールケ「そんな、お気になさらなくても…」

ミーナ「いえいえ。私達、シールケ…さん?ちゃんが良いかな?呼び方だけど?」

シールケ「しっ、シールケで…呼び捨てで構いませんから」

ミーナ「…じゃあ、シールケちゃんで良い?」

271: 2014/05/05(月) 08:35:41 ID:4Fblhf1k
シールケ「あ…じゃあ、はい。呼びやすい様に呼んで貰って結構です」

ミーナ「なら、シールケちゃん…ねっ?」

ミーナ「私達、シールケちゃんに聞きたい事や聞いて欲しい事、もしかしたらお願いなんかするかも知れないから…」

ミーナ「この食料はギブ&テイクだと思って、受け取って欲しいの」

ミーナ「それで良いでしょっ?シールケちゃん?」

シールケ「…必ずお役に立てるとは限りませんよ?」

ミーナ「んー…まあ、今宵限りかも知れないけど、お互い協力するって事で、皆さん如何でしょうか?」

272: 2014/05/05(月) 08:36:14 ID:4Fblhf1k
ガッツ「いいんじゃねーの?損は無さそうだしな」

イシドロ「貰っとけ貰っとけ!今夜は豪華に行こうぜっ!」

サシャ「いいですねっ?今夜は記念に宴会って事でっ!」

ミーナ「サシャ、勝手言わない!つかアンタ、私ら提供する側でしょう?何をサラッと受け取り側に混じってるのよ?」

セルピコ「まあまあミーナさん。ではミーナさん達からの食料提供は喜んで頂く事にしましょう」

セルピコ「それで、今日は浜辺で海の幸も確保してますので、今晩は皆さんに腕を振るった海鮮料理を御馳走しますよ」

273: 2014/05/05(月) 08:36:46 ID:4Fblhf1k
サシャ「カイセン料理!?何ですかソレは!どんな料理ですかっ!美味しいんですかぁぁぁっ?!」

ミーナ「サシャ、恥ずかしいからヤメて。つか落ち着けっ!私まで変に思われるじゃない、みっともないでしょ?」

サシャ「…シツレイシマシタ」

イシドロ「ははっ!おんもしれぇネーチャンだなぁ!」

恥ずかしくはあったけど、サシャの彼女らしい発言のお陰で、私達を含めた一同は、かなり和んだ雰囲気になれた。

それから各々が自由に過ごす中、私とサシャは早速、シールケちゃんと話しをする事にした。

274: 2014/05/05(月) 08:37:24 ID:4Fblhf1k
先ずは自分達の身の上、訓練兵団に所属する訓練兵である事…

私達が兵士になる理由…私達の世界には、人間を食べる人類の天敵“巨人”が100年程前から存在する事…

全滅の危機に瀕した人類が、50mの高さの壁を作り上げ、その囲いの中で辛うじて生きながらえている事…

そして私達が零の世界に迷い込んだ切っ掛けと、紆余曲折の末、この世界に辿り着いた事…

中でも、ラプラスの魔には腹に据えかねる思いがあったので、募る愚痴を思い切りブチ撒けてしまった。

275: 2014/05/05(月) 08:37:56 ID:4Fblhf1k
シールケちゃんは私達が訥々と訴える間、偶に質問を交えながら話しを聞いてくれた。

話しを聞き終えた彼女は、暫く何かを考えた後、宝石みたいな瞳を私達に向けた。

シールケ「先ず、そのラプラスの魔と呼ばれる者は、ソレ自身が言った様に幽界の住人…某かの精霊なのでしょう」

シールケ「伺った能力から考えて、中位か…或いは高位に属する精霊の類ですね…」

シールケ「残念ですけど、現世(うつよ)の人間に手出しする事は不可能な存在だと思います」

ミーナ「…一発くらい、引っぱたいてやりたいんだけどねぇ…あの性悪ウサギ」

276: 2014/05/05(月) 08:38:34 ID:4Fblhf1k
ミーナ「つーか、次にあの塒に帰る事になったら、隙を突いてブン殴るし」

シールケ「だから無理ですよ、そんな事は」

性悪ウサギの事を思い出して、ムカつきながら左の掌を右の拳で叩いていると…

窓際に座り込んで、私達の会話を聞いていたらしいガッツさんが、フッと小さく笑った。

馬鹿にされたのかと思ってムッとしてると、ガッツさんと視線が合う。

ガッツさんは表情を僅かに緩めたまま、かすれ加減の低い声を出した。

ガッツ「嫌いじゃねぇぜ、そーゆーの」

ミーナ「…えっ?」

277: 2014/05/05(月) 08:39:53 ID:4Fblhf1k
ガッツ「そのウサギにムカついてんだろ?ブン殴ってやりゃイイんだよ」

ガッツ「精霊だの…中位だの高位だの、んなもん関係あるか」

ガッツ「次に会う機会があるなら、そん時はブン殴ってやれ」

ガッツ「俺は力にゃなってやれねーだろうが…まあ、お前さんの意気込みには賛成するぜ」

ミーナ「それは…どうも」

シールケ「あんまりムチャな事は勧めないで下さい!ミーナさんとガッツさんでは、力量に違いがあるんですから!」

私を煽る様なガッツさんを、シールケちゃんが窘める。

278: 2014/05/05(月) 08:40:53 ID:4Fblhf1k
シールケ「ミーナさん達のお話しが済んだら、ガッツさんの包帯を変えますので、今の内に甲冑は脱いでおいて下さいよ?」

ガッツ「…後でな」

短く答えて立ち上がる。ガッツさんは大剣を背中に担いだまま、小屋の外に出て行ってしまった…

281: 2014/05/06(火) 23:17:14 ID:.bPwEz72
夕食の前にガッツさんの包帯を取り替えるとの事で、私達とシールケちゃんのお話しは一旦中断する事になった。

ガッツさんは一月ほど前に怪我をしたらしくて、まだ完治には至っていないらしい…

でも正直、病み上がりには全然見えないけど?

包帯を取り替える際に治療もするらしくて、どうやらソレが霊薬やエルフ達の力を借りた治療法らしく、興味があったから、その様子を見てたんだけど…

鎧が外され、その下の包帯が全て外された時、私とサシャはガッツさんの裸体を見て、絶句してしまった。

282: 2014/05/06(火) 23:18:41 ID:.bPwEz72
畏怖さえ感じる鋼みたいな上半身には、それこそ隙間なく刀傷や裂傷…

更には、得体の知れない何かに咬まれた様な傷痕が刻まれていて…

左腕に至っては、肘から下が…無かった。

大胸筋にはまだ新しく見える、吃驚する位の大きな傷痕が、横一文字に走っていて…

正直、これだけの傷を負って、氏なずに生きていられるのが不思議にさえ思えた。

私とサシャの目が、ガッツさんに釘付けになってると…

ガッツ「お前等だって兵士の端くれだろ?傷痕がそんなに珍しいか?」

サシャ「いや……コレはちょっと…」

283: 2014/05/06(火) 23:24:21 ID:.bPwEz72
ミーナ「珍しいとか…珍しくない以前の問題かと…」

サシャ「一体、幾つ位の傷があるんですか、コレ?」

ガッツ「……さあな。俺はガキの頃から傭兵団に居たし、その頃の傷も混ざってんだろうからなぁ」

イシドロ「そーいやガッツの兄ちゃん、前に元傭兵だって言ってたよな?初陣って幾つ位の頃だったんだ?」

ガッツ「………」

ガッツさんはイシドロ君の質問には直ぐ答えず、静かに目を閉じた。

私とサシャ以外の皆さんは、ガッツさんの背中側に居るから解らなかったと思う…

目を閉じて何かを考えるガッツさんの表情は、光の加減かも知れないけど、とても暗い表情に見えた。

284: 2014/05/06(火) 23:27:12 ID:.bPwEz72
ガッツ「…俺は孤児で、傭兵団に拾われたからな……初陣はもう20年位前の話しだ」

セルピコ「…」

ファルネーゼ「に、20年前?」

イシドロ「20年位前って…それ幾つだよ?」

ガッツ「確か……六つか七つ…くれーだったかな?」

サシャ「な、七つぅ!?」

ミーナ「うそぉ……」

ガッツ「俺を拾ったのは傭兵団の団長だったからな…」

ガッツ「タダ飯は食わせられねーって事でよ。初陣でイキなりおっ氏に掛けたから、今でも良く覚えてる」

ミーナ「…酷い……」

ガッツ「元々、傭兵の命なんざ二束三文だ。特に酷ぇ話しじゃねぇよ」

285: 2014/05/06(火) 23:30:06 ID:.bPwEz72
ガッツ「物心つく頃から戦場に居たからなぁ…お陰さんでどんな酷ぇ負け戦でも、剣さえありゃあ俺は生き残る自信がある」

ガッツ「その代わり当然、生傷は絶えねえ…」

ガッツ「傷の上に傷を作って来たからな…今じゃ傷痕の数なんざ分かりゃしねーよ」

サシャ「あの、失礼ですけど…やっぱりその右眼や左腕も?」

ガッツ「……ま、そんな所だ」

シールケ「………」

シールケちゃんから霊薬、エルフ達からエルフの鱗粉を、傷痕だらけの広い背中に塗られながら、ガッツさんが訥々と答える。

こんな酷い話しがあるのかと、心底思ってると…

286: 2014/05/06(火) 23:30:58 ID:.bPwEz72
ガッツ「こんなのは珍しくもねぇよ。お前等の世界じゃ違うのか?」

ミーナ「私達の世界で、人間同士がそこまで大きな争い事をするのは無いですね…ちょっとした諍いくらいはあるでしょうけど」

ガッツ「へえ…そりゃ羨ましいこったな」

ミーナ「ええ、人間同士の戦争はありませんけど…私達の世界には、巨人がいます」

ガッツ「そういや言ってたな、天敵だとか…」

ミーナ「はい、巨人は私達人間を食べます。お陰で、私達の世界の人類は、全滅の危機に追い込まれてます…」

シールケ「その巨人とは、どれ位の大きさなんですか?」

287: 2014/05/06(火) 23:32:20 ID:.bPwEz72
ミーナ「小さいので3m程、大きいので15m程になるんですけど…」

ミーナ「数年前に過去最大の、50m級が出たんです…この50m級の出現のせいで、人類は一気に窮地へと追い込まれました」

セルピコ「…」

シールケ「そんなモノが…」

ファルネーゼ「…50m…」

イシドロ「マジかよ…」

ガッツ「通りで、お前らみたいな娘っ子まで戦場に引っ張られてんのか…」

ガッツ「相当“喰われた”ワケなんだろ、その巨人どもに?」

ミーナ「…巨人に奪われた領地奪還に、人類の二割が……」

288: 2014/05/06(火) 23:32:56 ID:.bPwEz72
ガッツ「人類の二割?おいおい、随分と豪快な人数だな?」

ミーナ「当時は、巨人の弱点や生態も解らない状態で、奪還作戦が行われたんです…」

ガッツ「作戦もクソもありゃしねえって事か?自殺行為だな」

ミーナ「数年前まで人類の領地は、50mの壁の囲で三重に分かれてました…」

ミーナ「その、一番外の壁の扉が破られて、人類は領地の四割近くを失ったんです…」

ミーナ「領地を追われた人間が、内側の壁内に大勢逃げ込んだんですけど…」

ミーナ「全ての人間を養う食料を、残された領地だけでは賄いきれなくて…」

289: 2014/05/06(火) 23:33:48 ID:.bPwEz72
ミーナ「仕方なく…強引な領地奪還作戦が行われたんです」

ガッツ「早い話が口減らしか」

シールケ「ガッツさん!」

シールケちゃんが慌ててガッツさんを窘めたけど…

ガッツさんの言った事は、紛れもない事実。そんな事は敢えて口にしないだけで、本当は誰だって解ってるの。

奪還作戦で親兄弟、愛しい人を失った人達は、それこそ数え切れない位にいるんだから。

イシドロ「ふーん…大変なんだな、ネーチャン達の世界も」

ガッツ「それでも、帰るつもりなんだな、お前らは?」

サシャ「はい、勿論です!」

290: 2014/05/06(火) 23:35:04 ID:.bPwEz72
ミーナ「物騒な世界ですけど、あそこには私達の仲間だっていますし…」

ミーナ「何より、捨てたもんじゃないんです、私達の世界だって」

ミーナ「それに、いつの日にか巨人を全て倒して、世界を取り戻してみせますから!」

ガッツ「……そこが、お前らの戦場って事か」

ガッツさんはそう言って、小さく笑った。

ガッツ「いい度胸だ。反骨心ってーのか?嫌いじゃねーぜ」

セルピコ「ガッツさんは反骨心の塊ですからねえ…共感する所も多いんでしょう」

シールケ「ガッツさんの場合、度の過ぎた意地っ張りって気もしますけど?」

291: 2014/05/06(火) 23:35:43 ID:.bPwEz72
シールケちゃんの言葉で皆が苦笑を洩らす。

“うるせーっつの…”って、小声で洩らしたガッツさんの言葉に…

強面なガッツさんの意外な一面を見た様な気がして、思わず私にも笑みが浮かんだ。



その後、治療と包帯が巻き終わり、セルピコさんが作った夕食を皆で食べる事になった。

夕餉は私達が提供したパンと、セルピコさん自慢のブイヤベース風磯鍋。

セルピコさんに、サシャは普通の女性の五倍は食べると念を押して言っていたので、かなりの量の磯鍋になったワケだけど…

292: 2014/05/06(火) 23:51:08 ID:.bPwEz72
通常通り旺盛な食欲を如何なく発揮するサシャに、他の皆さんは目を丸くしていた。

まあね…アレだけ食べればね…

ただサシャが食欲魔人なのは事実だし、彼女だってソレを自覚してるから、サシャがどれだけ奇異な目で見られても、そりゃ構わないけど…

私は違うのよ?慎ましさや恥じらいを知る乙女なの!

だから取り敢えず私は、私達の世界の、女性の名誉の為にも、こんなに食べる女性はサシャだけだと、かなり本気で釈明しておいた。

食事が終わると、私とサシャは食器の片付け等、セルピコさんのお手伝いをする事にした。

まあ…これ位はしないとね…女子力をアピールする為に…ね?

297: 2014/05/08(木) 00:49:17 ID:sG1mhm6c
私達とセルピコさんで後片付けをしていると、ファルネーゼさんがシールケちゃんに魔女の弟子入りを申し込んだらしくて、何か一騒動になってた。

シールケちゃんは見た目がまだ幼く見えるけど…実際は幾つ位なんだろう?

魔女の年齢なんて、見た目だけじゃ解らないしなぁ…

ただ彼女が物凄く博学なのは、話してて直ぐに解ったし、見た目にも不相応な落ち着きがある。

とは言っても……魔女としての実力?とゆーかコレっ!証拠を見たワケでもないから…

内心…実はまだ半信半疑ってーのが本心。当然、失礼だから口には出せないけどね?

298: 2014/05/08(木) 00:50:31 ID:sG1mhm6c
その一騒動が収まった後、シールケちゃんは帽子と杖を持って、月夜の浜辺へと一人で出て行った。

続いてガッツさんが鎧を着込み、大剣を背負って小屋を出て行く……重くないのアレ?本当に大っきいんだケド?

小屋に残った私達の内、セルピコさんとファルネーゼさんは、心が壊れてしまったらしいキャスカさんの面倒を見ている。

先ほど聞いた話しだと、ガッツさん達の旅は、そのキャスカさんが安全に暮らせる所を探す為の旅らしい…

きっと、大変なんだろうなって思う。

299: 2014/05/08(木) 00:51:17 ID:sG1mhm6c
私とサシャはイシドロ君の武勇伝?を聞いたり、逆にイシドロ君から私達の世界を聞かれたりしたけど…

最も私とサシャの興味を引いたのは、やっぱりエルフのパック君だった。

可愛いよ~エルフ!この子さ、マジで持って帰っちゃ駄目かな?マジで?

サシャと二人、目を輝かせてパック君と遊んでると、ファルネーゼさんがキャスカさんをトイレに連れて行く事なった。

ご一緒しますよと申し出たら、ファルネーゼさんから丁重に断られ、休んでいて下さいって言われたからそうしてたんだけど…

300: 2014/05/08(木) 00:52:00 ID:sG1mhm6c
…失敗だった。用足しに連れて行った先で、キャスカさんがいなくなっちゃったらしい…

慌てて帰って来たファルネーゼさんから事態を聞いて、私達もキャスカさんを探す事にした。

浜辺でキャスカさんが見つかった時には、本当にホッとしたよ…

なるほど、キャスカさんが安全・安心して暮らせる所を探すってのは、本当に重要で必要な事なんだって、コレ一発で理解出来たわ…。

キャスカさんを無事に保護できたから、皆で小屋に帰る事になったけど…

301: 2014/05/08(木) 00:52:36 ID:sG1mhm6c
何故か解らないけど、キャスカさんが見つかった時、迷子なのか追い剥ぎにでもあったのか、丸裸の男の子も一緒だった。

男の子の事は、明日にでも近くの村を訪ねて調べる事にして、今夜は小屋で皆と一緒に過ごす事になった。

小屋に帰ると、シールケちゃんが吉報があると言い出した。

ファルネーゼ「キャスカさんの心が…取り戻せる?」

シールケ「はい。私達の旅の目的地、パックさんの故郷であるスケリグ島には…」

シールケ「伝説に謳われる程の偉大な妖精王“花吹雪く王”が主として住まわれているそうです」

302: 2014/05/08(木) 00:53:18 ID:sG1mhm6c
シールケ「その力を持ってすれば、間違い無く…」

イシドロ「マジかよ!?」

シールケ「はい」

イシドロ「スゲーじゃん、お前んトコの王様!」

パック「…伝…説……」

パック「……」

イシドロ「…コイツ、もしかして自分トコの王様の事…知らなかったんじゃ…」

イバレラ「あ、コレ多分本当に知らなかったんだ…このお調子者が調子に乗ってないし…」

イバレラちゃんとイシドロ君がひそひそ話をしながら、信じられないって感じの目をパック君に向ける。

303: 2014/05/08(木) 00:54:10 ID:sG1mhm6c
知らん顔でフワリと宙を飛び、ガッツさんの頭に着地しようとしたパック君を、ガッツさんは無造作に右手で払い落とした…

私だったら乗せてあげるのに…

ガッツ「さっきは手間かけさせたな、すまねえ」

ミーナ「いえ。それより良かったですね、キャスカさん」

ガッツ「ん、ああ…」

…ん?アレ?今一ガッツさんの表情が浮かないような…?

ガッツ「それはそうと、お前等どうやったら自分らの世界に帰れるんだ?」

ミーナ「あっ!!」

しまった、シールケちゃんに大事な事を聞き忘れてる!

304: 2014/05/08(木) 00:55:12 ID:sG1mhm6c
ミーナ「ねえ!シールケちゃんって、魔術で私達を私達の世界に送ったり出来ないかなっ?」

シールケ「それは…流石にちょっと…」

シールケ「現世の全ては少なくとも、他に二つの世界と重なり合い、成り立っていて、これを三位一体と言うんですけど…」

シールケ「一つは幽界、俗に言う霊…精神(アストラル)の世界。もう一つは存在の根源である魂…本質(イデア)の世界」

シールケ「ミーナさんが出会ったラプラスの魔は、現世の世界が無数に存在すると言っていた訳ですが…」

305: 2014/05/08(木) 00:55:55 ID:sG1mhm6c
シールケ「残念ながら私は、現世と違う現世を結ぶ術を持っていません。ミーナさん達の世界を知らない、行った事が無い以上は…」

シールケ「例え花吹雪く王でも難しいのではないかと思いますよ…」

サシャ「て事は、やっぱり巨人を倒すしかないワケですか…」

ガッツ「巨人を倒す?」

ミーナ「うっ…はい、実は…」

私はラプラスの魔の塒で突き付けられたら罰ゲームの詳細を、詳しくガッツさん達に話した。

そして最後に、私達がこの世界に来てしまった事で、この世界の人達に掛かる迷惑についても、サシャと二人で謝る事にした。

306: 2014/05/08(木) 00:56:50 ID:sG1mhm6c
だって、私達が間違ってこの世界に来てしまったせいで、この世界に巨人が10体も送り込まれちゃうワケだからね…

何かもうホント、ご免なさい…

ガッツ「チッ!本気でフザケてやがるな、そのクソウサギ?」

ミーナ「ご免なさい…」

サシャ「すいません…」

ガッツ「…別に、お前等を責めるつもりはねえよ」

シールケ「ええ、本当に災難に遭われているのはミーナさん達ですから」

ガッツ「…で、今はあんのか?その巨人どもの対策ってのは?」

サシャ「あ、はい。巨人は夜には活動出来なくなりますから、夜はひとまず安全です」

307: 2014/05/08(木) 00:57:32 ID:sG1mhm6c
ミーナ「巨人を倒す為の対処法も確立してます。巨人には弱点があって、巨人の大小に限らず、項が弱点…氏滅させる為の急所なんです」

ミーナ「巨人を倒すには、項の中心、縦1m横10cmを一瞬で削ぎ落とさないといけません」

ミーナ「それ以外を攻撃しても氏滅させる事は出来ないし、傷はあっという間に塞がっちゃうんです」

ミーナ「例え頭を吹き飛ばしても、1~2分で再生するんですよ」

ガッツ「他に特殊能力は?」

サシャ「…特殊能力…って言えば、その再生する力で、後は…力が強いらしいですね」

308: 2014/05/08(木) 01:03:08 ID:sG1mhm6c
ミーナ「単純に、人間が巨大化して食人化したと思って貰えれば…」

サシャ「後は…全裸?ってのが特徴ですかねぇ?サイズは基本、3mから15mってトコですね」

サシャ「あ、それと巨人には殆ど知性が無くて、人を食べるって本能だけで動いてるみたいです。人間とは意志の疎通も出来ません」

ガッツ「…そんなもんか?なら何とかなるな」

サシャ「……えっ?何とかなっちゃうんですか?!」

ミーナ「そんなもんか…って…えっ?そんな簡単に…」

パック「ガッツは慣れてっからなっ、そーゆーバケモノを相手にすんの」

309: 2014/05/08(木) 01:04:01 ID:sG1mhm6c
私の隣、サシャの肩にフワリと腰を下ろしたパック君が、ごく普通の表情でそう告げる。

他の皆さんの顔を見渡しても、パック君の言葉にどこか納得した表情を浮かべてるし、シールケちゃんもガッツさんの言葉を窘めたりしない。

もう一度、私達がガッツさんの顔に視線を移すと、その隻眼の顔が、何処となく拍子抜けしてる様にさえ見える。

異世界へとやって来て、初めて訪れた夜は、こうして更けていった…。



その夜、皆が寝静まった頃になっても、私はずっと眠れないでいた。

310: 2014/05/08(木) 01:04:46 ID:sG1mhm6c
理由としては、ラプラスの魔の塒で目を覚ましてから、半日程度しか経っていないから。

ま、時差ボケみたいなモノかな?まだ全然眠くならない…

身体を慣らさなきゃいけないから、早く眠りに落ちたいのに…

そう思ってもなかなか睡魔はやって来ず、そのせいで余計な事を色々と考えてしまう。

零の世界で三日間、この世界で一日?過ごしたけど…

ここでの時間の流れって、私達が居た世界の時間の流れと、同じなのかな?

やっと帰れたら、100年経ってましたぁ…とか無いよね?

311: 2014/05/08(木) 01:05:23 ID:sG1mhm6c
あ、でも帰るのに10年掛かりました…も困るなぁ…

10年掛かって帰ってみたら、向こうの時間は10年前のままでした…なんてのも困る。

そんな取り留めもない事をボンヤリ考えていたら、シールケちゃんの小さな声が耳に入った。

シールケ「ガッツさん!」

セルピコ「どうしました?」

ガッツ「……霧に紛れて、何か来る」

ガッツさんの言葉に皆が起き上がり、暗かった室内に明かりが灯された。

ガッツさん達が、慌ただしく支度を始める。

私とサシャは、訳が分からずに顔を見合わせた。

312: 2014/05/08(木) 01:05:58 ID:sG1mhm6c
セルピコ「いつもの氏霊さん達でしょうか?」

シールケ「護符は完璧です、そんな事はあり得ないはず…」

シールケ「それにこの気(オド)は氏霊よりも、霊樹の館を襲った怪物達に近いです」

サシャ「氏、氏霊って何ですか氏霊って?!」

ミーナ「怪物って…一体何っ?今、何が起こってるの?」

訳が解らないけど、取り敢えず悪い予感だけはするので…

私とサシャも、慌ててフル装備の支度を始めた。

313: 2014/05/08(木) 01:06:45 ID:sG1mhm6c
ガッツ「悪いな、どうやら巨人より先に、この世界のバケモンがお出ましらしい…」

ガッツさんはそう言いながら、後ろ手の手ぶりで、私達に後ろに下がるよう指示を出してきた。

シールケ「来ますっ!」

シールケちゃんが鋭く短い声で叫ぶ。一瞬の緊張が走った後…

ガンッ!と強く叩かれた入り口のドアは、続いてけたたましく連打され…

最後には大きな破壊音と共に、扉は部屋の内側へと突き破られた…。

317: 2014/05/08(木) 22:20:35 ID:sG1mhm6c
突き破られ綺麗サッパリ無くなった扉、その入り口の向こうには、見た事も無い大きな爬虫類がいた。

一目見た感想は、何よこの馬鹿でかいトカゲ?

そのトカゲは、子供くらいなら一口で飲み込むんじゃないか?って位の大きな口を開いて、小屋の中に飛び込んで来た。

開いた口には、大人の親指大の、鋭い牙が無数に生えてる…

あんなのに噛みつかれたら、たまったもんじゃない!

慌てて後ろに飛び下がると、イシドロ君が大声を上げた。

イシドロ「何だこのバカでっけぇトカゲは?!ドラゴン!?」

318: 2014/05/08(木) 22:23:46 ID:sG1mhm6c
セルピコ「違います!これは鰐…異国の動物です!」

ワニ?何それ、この世界の動物?

こんな大っきいトカゲモドキ、生まれて初めて見るけど…爬虫類独特の皮膚が不気味過ぎるわ…

その鰐とやらはゆっくりと、後ろの二本足で立ち上がった。

やっばいよ…大っきいよ…鰐の頭、天井についてるじゃない…

つか、二足歩行が出来る生き物なの?

しかもこの鰐、右手に銛まで持ってるし…

猿並みの知能がある動物って事なのかな?

イシドロ「た、立ったぞ…凄ぇぜ、ワニ…」

セルピコ「あ…あれ?」

319: 2014/05/08(木) 22:25:52 ID:sG1mhm6c
イシドロ君やセルピコさんが驚いた声を上げると、鰐が右手に持ってた銛を、二人に向かって投げつける。

コイツッ!何か知らないけど、危ない奴だっ!

直ぐにでもブレードを抜きたいけど、小屋の中の人口密度が高すぎて…

下手に抜いたら、他の誰かを誤って怪我させちゃいそう…でも、一本だけでも抜いとかなきゃ!

そう考えた矢先に、ドドドッ!って弦が弾かれる音がした。

ほぼ同時に、鰐の側頭部に数本の矢が生え、鰐がドッと横倒しに倒れ込む。

ハッとガッツさんを見ると、ガッツさんは左腕を鰐に向かって伸ばしていて…

320: 2014/05/08(木) 22:27:47 ID:sG1mhm6c
その左腕をよく見ると、鉄製の義手には、連射可能な改造ボウガンが取り付けられていた。

流石は元傭兵だわ。反撃が速くて正確、何よりガッツさんは見た目通り強いみたい!

一瞬で鰐を倒した鮮やかな手並みに惚れ惚れしてると…

シールケ「これは動物に、何らかの霊を宿らせて造り出した魔道生命体…」

シールケ「所謂、使い魔の一種です。いったい何者が…?」

セルピコ「マズいです、ぞろぞろ来ましたよ!」

セルピコさんの一言で、小屋の中が慌ただしくなった。

321: 2014/05/08(木) 22:30:28 ID:sG1mhm6c
チラッと入り口から外を見たら…わっ!確かに坂道をあの鰐達がゾロゾロ登って来てる…

シールケ「今夜は満月、魔術の力が最も発揮される時です」

シールケ「ここが寺院や聖地でなくても“四方の王の陣”を張る事が出来ます」

シールケ「術の完成まで少しの間、時間を稼いで下さい!」

シールケ「ファルネーゼさんはキャスカさんと、その男の子をお願いします」

シールケちゃんが手早い指示を、私達二人以外の全員に出す。

この子、何か魔術士ってよりも指揮官って感じだ。しかも、やっぱり有能そう…

322: 2014/05/08(木) 22:32:51 ID:sG1mhm6c
おっと、私らもボケッとしてらんない!

ミーナ「シールケちゃん、私らも手伝うよ!」

サシャ「私も夕飯の恩をお返しします!」

シールケ「ですが…」

ミーナ「大丈夫よ?こう見えても二年以上、兵士になる為に毎日訓練してるんだから」

サシャ「私だってこう見えても、成績上位者です!ミーナより上ですよ?」

ミーナ「くっ…悔しいけど本当だよ?私達、それなりに役に立つから使って」

ミーナ「言ったでしょ?ギブ&テイクだって」

シールケ「…分かりました。では小屋の中で、私達の護衛をお願いします」

323: 2014/05/08(木) 22:35:27 ID:sG1mhm6c
サシャ「了解しました!」

ミーナ「うん、解った」

各々の役目が決まると、セルピコさんとイシドロ君が先に小屋から飛び出し…

最後に、右手と大剣を布でグルグルに巻き付けたガッツさんが、小屋の外に出て行く。

小屋の外からは、直ぐに乱戦の気配が伝わって来た。

鰐の吠える声と断末魔…

パンッ!と何かが弾ける音や、空気が唸る様なブオン!といった重い音…

小屋の中、シールケちゃんを庇う様に仁王立ちした私とサシャは、腰のブレードを両手で抜き放った。

この世界のバケモノ……ガッツさんは確かそう言った。

324: 2014/05/08(木) 22:37:16 ID:sG1mhm6c
この世界のバケモノって一体?…疑問に思ったけど、振り返って見たシールケちゃんは、まるで瞑想でもしてる様な状態で…

とても質問が出来るようには見えないし、実際、今はそれ所じゃない。

後で聞いてみよう…そう思って視線を入り口に戻したら…

鰐が一匹、入り口の前まで迫って来ていた。

イバレラ「きゃー!来た来た来ちゃった!何やってるのよ外の男どもは!」

エルフのイバレラちゃんが私の周りをグルグルと飛び回り…

イバレラ「アンタたち、何とかなさい!」

ペシペシと私の頭を叩く…何様だろ、このちっこい女エルフ?

325: 2014/05/08(木) 22:39:24 ID:sG1mhm6c
ちょっとイラッとしながらも、私はブレードを構えた。

ブレードを使った訓練は散々やってる。でも、あんな生き物を相手にするのは初めて…

ううん、そもそも命の掛かった実戦そのものが初めてだ…

胸の鼓動が凄い…体が熱いのか、冷たいのか解らない…喉が乾く…

入り口をくぐった鰐が、銛を片手にノソリと立ち上がった。

…マズイッ!

あの銛を投げられたら、避けるしか手立てがない…けど、私達が避けたらシールケちゃんに当たっちゃう!

先にあの銛をどうにかしなきゃ…

326: 2014/05/08(木) 22:42:52 ID:sG1mhm6c
一瞬だけ右隣のサシャに視線を向けたら、緊張のせいか真っ青になって、小さく震えてる…

鰐に対して右側になるサシャは、もとより鰐の右腕には遠い…

動くなら鰐の正面、右腕側に近い私だ…そう考えた矢先、銛を持つ鰐の右腕が持ち上がった。

もう考えてる暇はない!

私は半歩左に身を寄せ、左腰のアンカーを正面の壁に向かって射出した。

ミーナ「知恵と勇気っ!!」

大声で叫びながらアンカーを巻き上げ、前に向かって立体機動を開始!

鰐が銛を投げつける直前、鰐の体とすれ違いざまに、その右腕をバッサリと斬り落とした。

327: 2014/05/08(木) 22:46:02 ID:sG1mhm6c
次!壁にぶつかる寸前、左手のブレードを捨ててアンカー外し…

左手と左足で壁を蹴って、床…鰐の右斜め後ろに着地!

着地と同時にしゃがみながら、時計の逆回りに反転!右手のブレードで鰐の右足を狙う…

右手をしならせる様に全力で振り切ると、重い手応えを残して、鰐の右足を断ち斬る事に成功した。

右腕に続いて右足を失った鰐が、バランスを崩して倒れ込む。

ミーナ「やっt」

やったあ!と叫んだつもりが、丸太で横殴りにでもされた様な衝撃を受けて…

私は壁際へと床を転がっていった。

し…シッポの一撃?ヤバ…息が……

328: 2014/05/08(木) 22:57:18 ID:sG1mhm6c
サシャ「ミーナッ!!!」

私の名前を大声で叫んだサシャが、私に向かって床を這い寄る鰐に躍り掛かった。

サシャ渾身のブレードの一撃が、鰐の脳天に深く食い込む…

鮮血を撒き散らし、悶える鰐に二撃、三撃…

四撃目のブレードが鰐の頭部に振り下ろさせると、鰐はシッポだけを僅かに痙攣させて、漸く沈黙したみたい。

サシャは確実に仕留めた事を確認すると、荒い息を吐きながら私の元へとやって来て、右手を伸ばしてきた。

サシャ「大丈夫ですか?怪我はありませんか?」

ミーナ「…ちょっと息が出来なくなっただけ」

329: 2014/05/08(木) 22:59:18 ID:sG1mhm6c
ミーナ「……うん、骨折もして無さそうだし、大丈夫みたい」

サシャ「ヒヤッとしましたよ…派手に弾き飛ばされましたから」

私がサシャの右手を掴むと、彼女は私を引っ張り起こしてくれた。

ミーナ「私、体重軽いからね。踏ん張る前に身体ごと飛ばされちゃったよ」

サシャ「良かったんですよ、それで。ヘタに踏ん張ってたらモロにダメージを受けて、骨折してたハズです」

ミーナ「そっか…ま、何にしても…」

ミーナ「ナイス勇気。これで、サシャは討伐1だね?」

サシャ「……ミーナは凄いですね。討伐補佐1、ナイス知恵でした」

330: 2014/05/08(木) 23:03:40 ID:sG1mhm6c
ミーナ「もう緊張は取れた?」

サシャ「はい、もう大丈夫です」

ミーナ「あはっ…ヤバいよ私、今頃になって膝が震えてる」

フラつく足で床に捨てたブレードへと歩み寄り、それを拾い上げると…

片方のブレードを鞘に直して、入り口の方に視線を向けた。

まだ…油断は出来ない。

入り口へと近付いた私は、外の様子を窺い…

その凄まじい光景に、ゆっくりと自分の眼が見開いていくのを自覚した。

小屋の前、周辺は鰐の屍とその血溜まりで溢れてる。

その凄惨な庭先でセルピコさんの動き、存在は、凄惨な光景とはまるで真逆の印象を私に与えた。

331: 2014/05/08(木) 23:06:06 ID:sG1mhm6c
風のエレメンタルの加護を受けたフード…シルフェのフードを着たセルピコさんが、まるで立体機動をする様に…

ううん、立体機動の移動よりも遙かに優雅な感じで、ふわりふわりと宙を飛び回り…

同じく風の加護を授かったシルフェの剣…大鷲の羽を刃として作られた剣を一振りすると…

巻き起こった旋風がカマイタチを発生させて、遠く離れた鰐をバラバラに切り刻んでる…

大鷲の羽の剣に興味が湧いて、セルピコさんにシルフェの剣と、ついでにシルフェのフードの事を教えて貰ったけど…

332: 2014/05/08(木) 23:07:20 ID:sG1mhm6c
魔法の武具がこんなにも凄い力を持ってるなんて…本当に目を疑う思いだわ。

ふわりふわりと宙を飛ぶセルピコさんが着地した時…

その側でゴロゴロと地面を転げ回る存在…イシドロ君に、私はやっと気付いた。

………何やってんだろ、アレ?いや、戦ってるんだろうけど…

何か、コロコロコロコロと転げ回って攻撃してる…あ、パック君が“パックスパーク!”とか叫びながら光ってる。

光の目潰し?連携プレーなの、アレ?……わ、笑っちゃいけないけど…

333: 2014/05/08(木) 23:08:37 ID:sG1mhm6c
駄目だ、こんな命懸けの所で、あんなの見てたら何か場違いすぎて、変な笑いがこみ上げてくる…

笑っちゃ駄目だ、私っ!命懸けなんだからっ!!

下唇を噛みながら見てると、イシドロ君とパック君、そしてセルピコさんは三人で連携を組んでる事に、やっと気付いた。

ふと、ガッツさんは?そう思って辺りを見渡す…

……居た、たった一人だ。

右手の小道。浜辺に繋がる坂道の、頂上に位置する辺りで…

ガッツさんはただ一人、坂道を続々と登って来る鰐に立ち塞がる様にして、あの大剣を振っていた。

334: 2014/05/08(木) 23:14:11 ID:sG1mhm6c
イシドロ君を見ていて、不遜にも緩んでいた私の顔が…

自分でも、次第に固くなっていくのが解った。

何キロ…ううん、何十キロあるか解らない大剣…鉄塊が、まるで小枝みたいに振り回されてる…

大剣の一振りで、数匹の鰐達が、血飛沫を撒き散らして両断されていく…

そのデタラメな強さと、力……ううん、アレはもう暴力だ。

しかも、圧倒的で…一方的で…爆発的な暴力………何て凄い。

私達があれだけ苦労して倒した鰐が、たった一振りで数匹も…

ミーナ「………何て強いの」

サシャ「………まるで竜巻ですね」

335: 2014/05/08(木) 23:18:35 ID:sG1mhm6c
サシャ「さっきから聞こえてた重そうな風切り音…アレやったんや」

ミーナ「調査兵団にさぁ、人類最強の兵士長がいるって……サシャ、聞いた事ある?」

サシャ「はい…ありますよ」

ミーナ「……どっちが強いんだろうね、ガッツさんと」

サシャ「…分かりませんけど…例えミカサでも、流石に勝てないと思ます」

ミーナ「…うん。10m級以下の巨人なら、一人でも楽勝で倒しちゃいそうだよね?」

私とサシャが半ば呆れるとゆーか、そのデタラメな強さに圧倒されてると…

私達の背後、瞑想状態に見えてたシールケちゃんが、澄んだ声で何かを叫んだ。

336: 2014/05/08(木) 23:24:17 ID:sG1mhm6c
次の瞬間、シールケちゃんを中心に室内…いや違う、小屋を含めた周辺が一気に眩しい光に包まれる。

眼を細めながら外に出た私とサシャが、振り返って小屋を見ると…

赤色…緑色…水色…黄金色…四方から、四本の光の柱が空に向かって立ち上り…

オーロラみたいな明かりが、小屋とその周辺を包み込んでいた。

私とサシャが馬鹿みたいに大口を開けて、ただただ唖然と光の柱を見ていると…

シールケ「四方の王の陣が発動しました。これでひとまず、この小屋と光の周辺は安全です」

小屋から出て来たシールケちゃ…“さん”が私とサシャに声を掛ける。

私ことミーナ・カロライナは、生まれて初めて本物の魔女から、本物の魔法を拝ませて頂きました…。

339: 2014/05/11(日) 01:30:25 ID:Vb0cbtFE
シールケ「ミーナさん、サシャさん、護衛ありがとう御座いました」

シールケ「お二人のお陰で、無事に術を成功させる事が出来ました」

ミーナ「いやぁ…これが魔術なんだ…凄いねぇ…」

サシャ「あー…何だろ、この光の中にいると、不思議と力が湧いて来る気がしますねぇ」

ミーナ「あっ、そう言われれば…私もさっき鰐のシッポで叩かれた所が…」

痣になってるだろうなって思うくらい、ジンジンと痛んでた二の腕や鳩尾辺りが…

気が付いたら、殆ど痛みが引いてる。

340: 2014/05/11(日) 01:31:12 ID:Vb0cbtFE
シールケ「四方の王の陣は、高い治癒効果もありますから。無論、効果はこの光の範囲だけですけど」

ミーナ「はぁ~…本当に凄いんだね、シールケちゃんは。シッポで叩かれた所、もう殆ど痛みが無くなったよ。ありがとうねっ!」

シールケ「いえ、私は幽界の奥深くで、私達を慈しんで下さる偉大な存在から、力を借りたにすぎません」

シールケ「この聖なる光は、私個人の力ではないんです」

ミーナ「それでもさ、シールケちゃんのお陰に違いないんだから…ありがとう」

341: 2014/05/11(日) 01:31:48 ID:Vb0cbtFE
シールケ「こちらこそ、ミーナさんとサシャさんが身を挺してくれたお陰ですよ。ありがとう御座いました」

私からの感謝の言葉に、シールケちゃんが感謝の言葉を返す。

魔術の発動に幾らかの負担が掛かるのか、愛らしく笑う彼女の額には、うっすらと汗が滲んでいた。

サシャ「それにしても……凄いですね、この光の渦」

サシャ「……あ、そういえば、もうこれで安心って事なんですよねえ?」

シールケ「いえ…残念ですが、あの鰐達は歪ながらも肉体を持った存在です」

342: 2014/05/11(日) 01:32:25 ID:Vb0cbtFE
シールケ「獣鬼や巨鬼といった幽鬼であれば絶対にこの聖なる光の中に入る事は出来ませんが…」

シールケ「歪ながらも肉体、物質という皮膜に包まれた幽体は、霊的な感受性がかなり鈍るのです」

シールケ「奴らに対する防壁の効力には、限界があります。立て続けに押し寄せられたら、いずれは…」

ミーナ「えっ!効かなくなっちゃうの?」

驚いた私が、思わず大声を上げると…

シールケ「アストラルの住人であれば侵入を完全に防げますが…」

343: 2014/05/11(日) 01:32:59 ID:Vb0cbtFE
シールケ「奴らは動物に、何らかの霊を宿らせて造り出した魔道生命体…動きを制限させ鈍らせるのが精一杯…」

シールケ「光の障壁に入って来る水入り際を、叩くしかありません…そしてそれにも限界があるという事です」

サシャ「ど、どーするんですかソレ?ほっといたら危ないって事でしょ?」

シールケ「ええ。ですがこの類の使い魔は、各々が群体を越えて行動する程の強い“個我”は持ち合わせていません」

シールケ「必ず近くに、群体を操る術者が隠れているはずです。それを倒せば…」

344: 2014/05/11(日) 01:33:40 ID:Vb0cbtFE
シールケちゃんはそう言うと、木の杖を両手に持ち直し…

瘤みたいに膨らんだ杖の先端部分を、自分の額に押し当てた。

ミーナ「近くにこの鰐達を操ってる奴が居るの?!」

ガッツ「何処だそいつはっ!」

シールケ「今、オドの流れを辿って探しています!」

イシドロ「とっとと頼むぜ魔女様よぉ!」

シールケちゃんは杖の先端部分を額に押し当てたまま、眉間に皺を寄せ…

ガッツさん達は、光の障壁を突き破る様にして侵入して来る鰐達を斬り伏せてる。

私が両手にブレードを持って加勢に駆け出すと、サシャも同じ様に加勢に走った。

345: 2014/05/11(日) 01:34:25 ID:Vb0cbtFE
シールケ「………」

シールケ「………」

シールケ「………っ!」

シールケ「いましたっ、浜辺の岩陰!」

セルピコ「っ!」

シールケちゃんの言葉を耳にしたセルピコさんが、弾かれたみたいに飛び出す。

さっきまでの優雅な飛翔とは打って変わり、今度は立体機動並みのスピードで浜辺へと飛び去って行った…

……うーん。あのフード、マジで欲しいかも。

かなり本気でそう思いながら、光の障壁内に入ろうとする鰐を、追い払う様にして斬撃を加える。

障壁に殺到し、気持ち悪いくらい次々と顔を突っ込んで来る鰐達が…

346: 2014/05/11(日) 01:35:04 ID:Vb0cbtFE
ホント、急に統率の糸が切れたみたいに、動きがバラバラになり始めた。

光の障壁に入ろうとする鰐もまだいるけど、大半が右往左往し始め、中には浜辺に帰って行く鰐もいる。

ガッツ「片付いたみたいだな」

そう言って、セルピコさんの穴埋めに移動して来たガッツさんが、荒い息を吐いた。

これで…一息つける…。

幾らか安心した私は、後ろ向きのまま数歩下がって…

左腕の袖口で、額から流れる汗を拭いた。

流石に息切れがするわ……

私も荒い息を吐きながら、呼吸を整えるついでに夜空を見上げる。

347: 2014/05/11(日) 01:35:43 ID:Vb0cbtFE
………綺麗………オーロラって見たこと無いけど、本物もきっとこんな感じなんだろうなぁ…。

呼吸も整い始め、軽い達成感を感じながら時計回りに振り返ろうとした時…

視界に入った人物を見て、一瞬で背筋が凍り付いた。

小屋の入り口から左手になる光の壁内、光とその外の間際に…

まるで犬でも手招きする様なキャスカさんを見て、ブレードを投げ捨てた私は咄嗟に走り出した。

キャスカさんが手招きしてるのは、犬みたいに人間に従順な動物じゃない!

348: 2014/05/11(日) 01:36:25 ID:Vb0cbtFE
走りながらファルネーゼさんを視界の端で捉えると、彼女は浜辺で保護した男の子を抱いている。

多分、セルピコさんが術者を始末した事で、ホンの少し気が緩んだ…でもそれはみんな同じよ…

走り出した私に気付いて、そこでキャスカさんの事を気付いたらしく、ファルネーゼさんが悲鳴みたいな叫び声を上げる。

間に合えっ!!

ミーナ「だめえええええっ!」

叫びながら飛び込んで、その勢いでキャスカさんを思い切り突き飛ばした。

ドーンと突き飛ばされたキャスカさんが、1~2m先に倒れ込む。

349: 2014/05/11(日) 01:37:09 ID:Vb0cbtFE
そこに、鰐はいない。腹這いに倒れ込んだ私が、すぐに立ち上がってキャスカさんの元に行ことした時…

左足に、信じられない位の痛みが走った。

余りの苦痛に身を捩って左足を見たら、左膝辺りに鰐が喰い付いてる。

鰐の鋭い牙が、私の足の肉を裂く様に、ズブズブと深く食い込んでいく感覚…

同時に咬まれてる足首には、鰐の牙が骨に食い込み、牙と骨がゴリッと軋む感覚がハッキリと伝わってくる。

喰い千切られる!そう頭に浮かんだ瞬間…

ミーナ「きゃああああああああああああああっ!」

352: 2014/05/12(月) 19:16:43 ID:WSLj2/Mg
私の口から飛び出した、見も世もない悲鳴……殆ど無意識に出た絶叫が、月夜の浜辺に響いた。

痛い、痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いっ!

助けて助けて助けて助けて助けて助けてお願いお願いお願い!

一瞬で全身に広がる恐怖は、現実の様な重さを伴って私の心にのし掛かった。

喰い千切られる…その恐怖が、絶望へと変わろうとした刹那…

黒鉄の大剣が大地を裂く勢いで降ってきた。

鰐の頭部は一撃で真っ二つに両断され、駆け寄ったガッツさんは義手を鰐の上顎に突っ込み、ソレを跳ね上げると…

353: 2014/05/12(月) 19:19:50 ID:WSLj2/Mg
左足で下顎を踏みつけたガッツさんは、左手の義手を私の左足の下に回す。

シールケ「ガッツさん!ミーナさんを小屋の中に運んで下さい!」

ガッツさんはそっと、血塗れになった私の左足を持ち上げ、足に食い込んでた鰐の下顎が外れると…

左脇に私を抱え上げて、走り出した。

足…痛い……それと、この気持ち悪さは…何?

頭の方から、スーッと血の気が引いていくのが解る…

でもって吐き気を伴う気分の悪さときたら…最悪だわ、頭もクラクラして来た。

小屋の中に運び込まれ、床に寝かされた私を、皆が心配そうに覗き込んでる。

354: 2014/05/12(月) 19:20:25 ID:WSLj2/Mg
責任を感じてるのか、ファルネーゼさんの顔色は真っ白で…

ガッツさんも随時と難しい顔をしていた。

シールケ「出血が酷い…先に止血をします!イシドロさん、ミーナさんの左腿を紐で思い切り縛って下さい!」

イシドロ「おお、任せろ!」

シールケ「治療の為に、ズボンを切り外します。サシャさん、傷口から上の部分を切り外して、ブーツと一緒に脱がせて!」

サシャ「は、はいッ!」

イシドロ君が、私の左足の太腿にぐるぐると紐を巻き、力一杯縛り上げ…

355: 2014/05/12(月) 19:21:31 ID:WSLj2/Mg
サシャがグスグスと鼻を啜りながら、膝の上辺りの生地を、ナイフでザクザクと輪切りに切り離す。

ブーツの紐が解かれ、切り離されたズボンごと脱がされると…

噛みつかれた膝周りと足首付近の傷が露わになった。

…あ、見るんじゃなかったなぁ、コレ。余計に気分が悪くなっちゃった……

膝周りの傷は、動脈に傷でも付いたのか、結構な勢いで出血してるし…

足首の方は、ザックリいき過ぎて、少し骨が見えてるよ…

……終わっちゃたかなぁ、兵士になるのは。

サシャは半泣きで私の名前を繰り返し呼んでるし…

356: 2014/05/12(月) 19:22:06 ID:WSLj2/Mg
ファルネーゼさんも涙目で、ご免なさいを繰り返してる。

謝らなくてもいい、そう言おうとしたら、傷口にしみる様な痛みが走った。

ミーナ「いっ!~~っぅ」

シールケ「消毒用の霊水です。少し滲みますが、我慢して下さい」

ミーナ「~~~っ!目が覚めるわ…コレ……」

サシャ「ミーナ…」

私を心配してか、私の枕元…左手に膝を付いたサシャが、涙目で顔を覗き込んできた。

ミーナ「ごめん……ドジッた…」

ファルネーゼ「申し訳ありません…私が目を離してしまったばかりに…」

357: 2014/05/12(月) 19:22:43 ID:WSLj2/Mg
枕元の右手に跪いたファルネーゼさんが、謝罪の言葉を何度も繰り返す。

ミーナ「キャスカさん…怪我……ありませんか?」

ファルネーゼ「…はい」

ミーナ「良かった…」

私はそれだけ答えて、ファルネーゼさんに、あまり力の入らない笑顔を向けた。

気にしないで良いとか、色々と言ってあげたいけど…

無性に気分が悪くて、これ以上は喋る気力が湧いてこない。

ファルネーゼ「先生、ミーナさんの傷は治せますか?」

シールケ「幸いガッツさん用に作り貯めていた、傷薬と霊薬が余分にあります」

358: 2014/05/12(月) 19:23:22 ID:WSLj2/Mg
シールケ「万能薬の妖精の粉は、イバレラやパックさんが居ますし、何より今は四方の王の陣の中に居ますから…」

シールケ「傷口や出血を塞ぐ分には問題無さそうです」

シールケ「ただ……それまでの出血が多すぎです、暫くは動かせません」

ミーナ「…治るの?この足?」

シールケ「傷跡は……少し残りますが、これまで通り動かす分には、治してみせます」

ミーナ「……なら、安心だわ」

シールケちゃんがそう言ってくれるなら安心だ。

傷跡は……仕方ない。もとより兵士に志願したんだもん、それ位は覚悟の上だ。

359: 2014/05/12(月) 19:24:11 ID:WSLj2/Mg
あ、そうだ、お礼いわなくちゃ…

ミーナ「シールケちゃん…ありがと」

シールケ「いえ、お気になさらず」

ミーナ「ガッツさんも…助けてくれて…ありがとう御座いました…」

ガッツ「そりゃコッチの台詞だ……すまねぇ」

ガッツさんはそう言って、私に背中を見せた。

それと同時に、辺りが騒がしくなる。

小屋の外からは得体の知れない地鳴りと共に、セルピコさんの叫び声が聞こえて来た。

ガッツ「後は任せな…もう指一本、触れさせやしねぇよ」

360: 2014/05/12(月) 19:24:56 ID:WSLj2/Mg
小屋の外に向かって歩き出すガッツさんの背中…首の辺りの甲冑部分が盛り上がりはじめ…

ゆっくりとガッツさんの頭を包むみたいに、せり上がって行く。

シールケ「ガッツさん、駄目ですっ!」

ガッツ「どうやら新手のお出ましだ」

ガッツ「後で正気に戻してくれりゃいい……任せたぜ、シールケ」

外に向かって歩くガッツさん、その全身を、黒い甲冑が覆い尽くしていく。

二の腕までしかなかったはずの甲冑が、勝手に指の先まで包んでいく様は…

まるでガッツの身体を、生きた甲冑が飲み込んでゆくみたいに見え…

361: 2014/05/12(月) 19:25:37 ID:WSLj2/Mg
小屋の外に出た辺りでは、ガッツさんの頭部までもが、首からせり上がった鎧甲で完全に包み込まれた。

狂戦士「ロオオオオオオオオオオオオオッ!」

人間とは思えない雄叫びを上げて、ガッツさんが黒い疾風みたいに走り出す。

小屋の外からは、どんな生き物がいるのか見当もつかない鳴き声が上がり…

大地が揺れる様な振動と…

鰐達の断末魔…

地鳴り、鳴き声、雄叫び、振動が繰り返され…

そして、耳をつんざく断末魔の後…やっと辺りが静かになった。

…一体…外では何が起こってるんだろう?

362: 2014/05/12(月) 19:28:44 ID:WSLj2/Mg
シールケちゃんは私の足の止血をして、傷口に妖精の粉と霊薬を塗り、その上からガーゼと包帯を巻き上げると…

私の事をサシャに任せて、外へと駆け出して行く。

その後にイシドロ君やファルネーゼさん、キャスカさんと男の子が続いた。

返り血で血塗れになったガッツさんと、他の皆さんが小屋に帰って来るのには、結構な時間が掛かった。

帰るのが遅れた理由は、保護した男の子がいつの間にかいなくなってしまったらしく、手分けして探してたからみたい。

結局、男の子を見つけ出す事は諦めて、私の事を優先してくれたそうだ。

363: 2014/05/12(月) 19:30:11 ID:WSLj2/Mg
本来なら、あるかも知れない次の襲撃に備えて、ここ移動するべきなんだろうけど…

私の足の怪我を考慮して、この小屋に留まる事になった。

四方の王の陣の、高い治癒効果を私の治療に利用するらしい。

何でもこの術は、一両日間は治癒効果があるみたいだから…流石は魔術って感じよね。

この夜は、ガッツさんが朝まで見張りをしてくれる事になり…

他の皆さんや私達は、小屋の中で寝る事にした。

魔術の治癒効果と、シールケちゃんの霊薬のお陰か、傷口の痛みはかなり引いてる…

てゆーか、麻痺してるのかな?

ただ、それでも眠りに落ちるまで、左足にこもる熱が引く事は無かった…。

366: 2014/05/15(木) 08:41:54 ID:wh6Ofkxs
翌朝、目が覚めた私は、サシャに移動を手伝って貰いながら…

お花摘みへと浜辺まで行ったんだけど…コレが色々とツラかった。

まあ、詳しくは省くけど…膝が曲げられないってだけで、体を動かすのにかなりの制限がつく。

ホント、色々な意味でね。

霊薬やエルフの粉のお陰か、傷口の痛みはそんなでもないけど…

包帯で固定された左膝は曲げられないし、同じ様に固定された左足首は動かせない…ホント難儀するわ。

それでも、何とかお花摘みを済ませ…

サシャに肩を借りながら、浜辺から小屋を目指して坂道を登る。

367: 2014/05/15(木) 08:43:08 ID:wh6Ofkxs
時折ビリッと走る足首の痛みに、思わず眉をひそめた私は…

坂道の途中で、立ち止まった。

サシャ「ミーナ?」

ミーナ「っ~…ごめん、ちょっと待って…」

サシャ「足、痛みますか?」

サシャ「おんぶしましょうか?坂道も残り半分で、小屋までそんなに距離もありませんし」

ミーナ「ううん、平気平気」

サシャに心配かけない様に努めて明るく返事をした私は…

一息入れる感じで、視線を辺り一帯に向けた。

朝焼けと、潮風と、白い砂浜と、見渡す限りに広がる青い海…

眼下に広がる美しい風景…

368: 2014/05/15(木) 08:43:51 ID:wh6Ofkxs
そして、それらとは全く異なる光景…

大量に転がる鰐の氏骸と、正体不明の巨大魚?の氏体。

巨大魚は小山みたいに大きくて、全長は10m位はありそう…

コイツが、夜中ガッツさんが言ってた新手の敵だったのかな?

ミーナ「…私達、ホントに別の世界に来たんだね…」

サシャ「…そういえば、ラプラスの魔が言ってましたね?」

ミーナ「えっ、何?」

サシャ「巨人が居るのは私達の世界だけだけど…」

サシャ「それぞれの世界には、人類を脅かす何等かの存在があるって」

369: 2014/05/15(木) 08:44:33 ID:wh6Ofkxs
ミーナ「あー、ソレね?私も、最初は巨人が居ない世界ってのが妬ましく思えたけど…」

ミーナ「この世界の人達も大変だよねぇ…マジで」

サシャ「私らにとっては得体の知れない世界と化け物なだけに、余計に怖いですよねぇ…」

ミーナ「だよねぇ」

ため息混じりの返事を返して、水平線を眺める。

この世界は何て綺麗で、何て血生臭いんだろう…不思議な世界だよ、ココは。

そんな事を考えながら、視線を水平線の彼方から、誰もいない白い砂浜へと移す。

さっきまでは誰もいなかった浜辺に、気付いたら人影があった。

370: 2014/05/15(木) 08:45:21 ID:wh6Ofkxs
私達との距離は70~80m位かな?さっきまで誰も居なかったのに…

身長高いな?それに裸…全裸?

息が詰まった……巨人だっ!!私は走れない…

ミーナ「サシャ!ガッツさん達に知らせてっ!!」

サシャ「ミーナ走れます!?」

ミーナ「私はいいから、早く行ってっ!!」

巨人は私達に気付いたらしく、私達を目指して走り出してる。

立体機動装置もブレードも無い私達じゃ、太刀打ち出来ない!

私と巨人を見比べて逡巡するサシャの背中を、私は思い切り押しやった。

覚悟を決めたみたいに、サシャが走り出す。

371: 2014/05/15(木) 08:46:12 ID:wh6Ofkxs
ガッツさん達さえ呼んできてくれれば…

ガッツさんは強い。私が今まで出会ってきた人の中で…

間違い無く一番強い。圧倒的で、途轍もない強さ…

ただそれが、巨人に通用するかは分からない。

私も必氏に、坂道を登った。

右足だけの脚力で、けんけんでもする様に、必氏に走る。

…背中が冷たい…

振り返ると4m級の巨人が三体、私を凝視しながら走ってきてる…

捕食者の眼だ…全身に怖気が走る。

昨夜といい、今朝といい…マジで勘弁してよっ!

372: 2014/05/15(木) 08:46:53 ID:wh6Ofkxs
左足の痛みと、追い駆けて来る巨人に泣きそうになりながら、私は必氏に走った。

走るっていっても、スピードは当然出るはずもなく、せいぜい強歩程度の速さでしか進めない。

鼓動が、どんどん高鳴る。

振り返る都度に、巨人との距離が縮まってる…

その度に自分の顔が引き吊っていくのが分かる…

もう本当に距離が無い、捕まるっ!そう思ったのと同時に…

ガッツ「伏せろっ!」

大剣を片手に、ガッツさんが矢の様な勢いで飛んで来てくれた。

走り込みながら、剣を振る体勢になってるのが解る。

373: 2014/05/15(木) 08:47:29 ID:wh6Ofkxs
私が慌ててしゃがみ込むと、ゴッ!と頭上を大剣が通り過ぎた。

横一閃の斬撃が、一度に三体の巨人の上半身を斬り飛ばす。

それでも尚にじり寄る巨人の下半身を、坂の下に蹴り飛ばすと

ガッツさんは私に振り返った。

ガッツ「…無事か?」

ミーナ「は、はいっ!」

何て安心感……強い、頼もしい…素敵、格好いい!

安堵感で目が潤むし…頼もしすぎて、素敵で…何か胸がドキドキするわ。

比喩でも何でもなく体がジーンと痺れて、顔が熱くなってきたよ…

374: 2014/05/15(木) 08:48:08 ID:wh6Ofkxs
てゆっか4m級の巨人三体を、本当に一振りで行動不能にしちゃうんだ…

例え小型の巨人とはいえ、微塵の怖れも見せてないし、巨人三体を意にも介さないだなんて…

サシャ「ミーナっ!」

ブレードを手に、遅れて駆けつけたサシャが、私を助け起こしてくれた。

セルピコ「ミーナさん、ご無事ですか?」

ミーナ「…はい、大丈夫です」

イシドロ「コイツが…巨人ってヤツか?」

イシドロ「すげぇ…まだ生きてんのかよ?」

セルピコ「本当に人間そっくりですねぇ…」

375: 2014/05/15(木) 08:49:20 ID:wh6Ofkxs
セルピコ「しかし、上半身と下半身を切断されても、個々が別々に動くとは…不気味です」

シールケ「これが巨人ですか…幽界の住人でも無さそうですし…」

シールケ「変わったオドをしてますね…」

眉一つ動かさないガッツさんやシールケちゃんに比べて、イシドロ君とセルピコさんは…

復活の蒸気を上げながら地面を這い寄る巨人を見て、不気味そうに顔を歪めてる…

うん、それが当然な反応だと思う。

何か…良かった。みんながみんなガッツさんやシールケちゃんみたいな反応だったら…

完全に自信を無くす?所だったよ。

376: 2014/05/15(木) 08:50:09 ID:wh6Ofkxs
ガッツ「で、弱点があるっつってたな?どの辺りだ?」

ミーナ「サシャ、お願い」

サシャ「は、はい。項です、見てて下さい」

地面を這いずる巨人、その一体の背後に回り込んだサシャが…

両手のブレードを構え、少し緊張した面持ちで、スパッと巨人の項を削ぎ落とした。

すると、項を削ぎ落とされた巨人が動きを止め…

壊れた人形みたいに力無く地面に倒れ込むと、全身から蒸気を上げて体を崩していく。

セルピコ「なるほど…」

呟いたセルピコさんがトンと地面を蹴って宙を飛び…

377: 2014/05/15(木) 08:55:52 ID:wh6Ofkxs
巨人の背後に降り立つと、シルフェの剣を二振り…

首の辺りをバラバラにされ、項を斬り落とされた巨人は、先の巨人同様に崩れて蒸発を始めた。

ガッツ「つまり、首の部分を丸ごと本体から切り離しゃいいって事か?」

ミーナ「正確には項ですけど…要するに項ごとであれば、それでも良いかと…」

ガッツ「ふうん…なら、ちょいとコイツも試しとくか…」

ガッツさんはそう言って大剣を地面に突き立てると…

左腕を巨人に向かって、真っ直ぐに伸ばした。

……またボウガン?でもボウガンじゃ…?

378: 2014/05/15(木) 08:56:31 ID:wh6Ofkxs
サシャと私は不思議そうな表情を浮かべ、セルピコさんとイシドロ君、シールケちゃんの三人は何かを察した様に両耳を塞いだ。

ガッツ「サシャとミーナ…だったな?お前らも耳、塞いどきな」

サシャ「?…はい」

ミーナ「?…解りました」

何だろ?意味が解んないけど…

言われるままに軽く耳を塞ぐと、次の瞬間…

ズドオオオオオオンッ!

ガッツさんの左腕から爆音と硝煙が上がる。

同時に、生き残ってた巨人の頸部が吹き飛び、倒れ込んだ巨人が、蒸発しながら崩れ始めた。

……今の、大砲?!

379: 2014/05/15(木) 08:58:19 ID:wh6Ofkxs
ミーナ「その左腕の義手って……大砲?」

サシャ「に、人間兵器ですか?ガッツさんって!?」

あー、コレもう間違い無くこの世界じゃ人類最強でしょ?

私らの世界の人類最強リヴァイ兵士長でも…

1対1の勝負じゃ……ちょっと勝つには及ばない気がするわ。

ガッツ「三匹だけか?他は?」

セルピコ「…どうやら…見当たらないみたいですねぇ…」

イシドロ「ならメシにしよーぜ?ハラ減ったよ」

セルピコ「では、朝食の準備を始めますね」

な…何か、凄いフツーな会話の流れね?…驚きとか、戸惑いが全然無い。

380: 2014/05/15(木) 08:59:04 ID:wh6Ofkxs
巨人とか、初めて見たはずなのに…

この世界じゃ、昨日の夜の出来事や今朝の騒ぎなんかは、日常茶飯事なの?

色々な事で私が戸惑ってると…

ガッツ「…歩けるか?」

ミーナ「えっ?はい、よいしょ……っぅ~」

少し無茶をしたせいか、左足が起きた時より痛んでる。

まあ元々、まだまともには歩けなかったんだけどね?

私が顔をしかめると、私の傍らにしゃがみ込んだガッツさんが…

大剣を地面に置き、私を横抱きにして抱え上げた。

わっわっわっ!お姫様だっこ…恥ずかしいーっ!

ミーナ「あ、あ、あっ」

381: 2014/05/15(木) 09:02:14 ID:wh6Ofkxs
ガッツ「痛むか、足?そっと持ってるつもりだけどな?」

ミーナ「いえ、ヘーキです…」

ガッツ「なら、小屋まで運ぶぞ?」

ミーナ「…お願いします」

ヤバいよ、何か顔がますます熱くなってきたよ!

ちょっ、私、裏声とかになってないよね?

お父さん以外の男の人にダッコされるの、生まれて初めて!

私のドキドキなんか気付きもしないで、ガッツさんが歩き出す。

数歩あるいたその足が、背後からの引きずる様な音に反応して、ピタリと止まった。

ガッツ「…無理すんな、置いとけ。その剣、重てーだろ?」

382: 2014/05/15(木) 09:03:37 ID:wh6Ofkxs
サシャ「いえ…この大剣…私が運びますから…代わりにミーナを…お願いします…」

ガッツ「明らかに、俺の剣のが重いだろ?代わるか?」

なっ!サシャ、頑張れ!頑張って、サシャ!!

サシャ「いえ、ちょっと興味あったんですよ…この大剣…」

サシャ「それにしても…こんな重いの、あんな軽々と振り回してたんですか…凄いですね、ガッツさんは…」

大剣を肩に背負い、切っ先をズルズルと引きずりながら、サシャが坂道を登って行く。

いいよいいよサシャ!頑張れ!

383: 2014/05/15(木) 09:06:10 ID:wh6Ofkxs
ガッツ「……イシドロはその剣を盗もうとして、持ち上げられねーで引っくり返ってたけどなぁ」

ガッツさんは小さく笑って、歩き出した。

夜中に鰐の化け物に襲われて、左足に大怪我をして…

今朝は今朝で巨人に襲われて、随分と恐い目に遭わされた…

けど、今だけ…ちょっとだけ、幸せな気分。

私はガッツさんやサシャに気付かれない様に俯いて…

多分、赤くなってるだろう顔と、抑えきれずニマニマと浮かぶ笑みを…

小屋に辿り着くまでの間、どうにか元へ戻る様に努めた…。

386: 2014/05/17(土) 08:13:16 ID:ZFnEuScw
小屋に帰った私達は、セルピコさんが作った朝食を、皆で食べる事になった。

そして朝食が終わると、今度は移動の事でガッツさん達が話し合ってる。

話を聞いてみると、ガッツさん達は最終的に船に乗って、スケリグ島って島に向かいたいらしくて…

その為に、当面の目的地は船がある港町、ヴリタニスって貿易都市に移動中みたい。

本来なら直ぐにでもヴリタニスを目指して出発なんだろうけど…。

正直、ガッツさん達と別れて行動するのは心細い。

私のこの足じゃ、自由に動く事すらままならないし…

387: 2014/05/17(土) 08:15:36 ID:ZFnEuScw
何より私達にとって、この世界は不案内な上に危険極まりない。

だから、出来る事なら行動を共にしたい…それが私の本心。

多分、サシャも同じだと思う。

私の足の治療を終えたシールケちゃんが、少しだけ眉をひそめた。

シールケ「…やはりミーナさんの傷では、せめて今日一杯ここで動かずに、安静にしていた方が良いですね」

シールケ「四方の王の陣の治癒効果は今日まで保ちますし…」

シールケ「治療の事を考えたら、この小屋にもう一晩泊まるのが最善だと思います」

セルピコ「確かにその通りだとは思いますが…」

388: 2014/05/17(土) 08:18:31 ID:ZFnEuScw
セルピコ「ヴリタニスは現在、クシャーンに占領されたミッドランドの王都を奪還、解放するため…」

セルピコ「法王庁教圏の名誉ある鎮守府に選ばれたと聞いています」

セルピコ「戦争を間近に控え、あらゆる船が軍艦に徴用されるでしょう。船の確保は、出来るだけ早めに済ませた方が無難です」

セルピコ「…とはいえ、ミーナさん達を置いて行くわけにも…」

サシャ「戦争があるんですか?人間同士で?」

389: 2014/05/17(土) 08:25:36 ID:ZFnEuScw
セルピコ「あると言うか…既に真っ最中です。恐らく近隣諸国を巻き込んだ、大戦に発展するでしょう」

ミーナ「…随分と詳しいんですね?」

ファルネーゼ「私とセルピコは、元は法王庁の騎士団に所属してたんです」

ファルネーゼ「セルピコは紋章官で、私は…その…聖鉄鎖騎士団の団長でした」

サシャ「団長?!」

ミーナ「お偉いサンじゃないですか!」

ファルネーゼ「私は、お飾りの団長だったんです」

ファルネーゼ「聖鉄鎖騎士団自体、貴族の子弟の集まりで、単なる箔付けの騎士団でしたから」

390: 2014/05/17(土) 08:27:04 ID:ZFnEuScw
ファルネーゼ「それに、偉くもありません。私は、騎士団を脱走した脱落者ですし…」

しまった…聞くんじゃなかった…。

余計な事を聞いたと思って、私は顔色を悪くしたけど…

ファルネーゼさんは思いのほか、晴れやかな笑顔を浮かべた。

ファルネーゼ「でも私、少しも後悔していませんよ?」

ファルネーゼ「寧ろガッツさん達とご一緒できましたし、シールケ先生に弟子入りも出来て、とても嬉しく思ってますから」

ミーナ「それは…何よりでしたね?」

ファルネーゼ「はいっ」

391: 2014/05/17(土) 08:28:57 ID:ZFnEuScw
ファルネーゼさんが、凄く嬉しそうな笑顔を浮かべてる。

この笑顔を見るに、本当に嬉しいんだろうなぁ…。

てゆーか貴族の集まりの騎士団で、お飾りであれ団長だったって事は…

ファルネーゼさんって、もしかして凄いお嬢様だったりするのかな?

そういえば、セルピコさんはファルネーゼさんの事を様付け呼んでるし…

一体、二人はどんな関係なんだろ?ちょっと気になる…。

セルピコ「まあ、取り敢えず私達の事は置いておくとして…どうしますか、ガッツさん?」

ガッツ「船が手配できねぇ……じゃ話にならねぇしな」

392: 2014/05/17(土) 08:30:31 ID:ZFnEuScw
ガッツ「…セルピコだけでも、先にヴリタニスに行くか?」

セルピコ「私だけ…ですか?まあ、それでも構いませんが…」

セルピコ「出来ればファルネーゼ様もご一緒して貰えた方が…」

セルピコ「ヴリタニスにはファルネーゼ様のご実家がありますし…」

セルピコ「最悪、ヴァンディミオン家の力添えがあれば、船の手配は難なく済むでしょうから」

ファルネーゼ「でも…私まで先行すると、キャスカさんの面倒を見る人が…」

シールケ「セルピコさん、ちょっと良いですか?」

セルピコ「何でしょう?」

393: 2014/05/17(土) 08:32:00 ID:ZFnEuScw
シールケ「この場所からヴリタニスまで、どれ位の距離になります?」

セルピコ「そうですね…大人の足で、歩いて2~3日といった所でしょうか?」

シールケ「……ではミーナさん。残り七体の巨人ですが、いつ襲って来るかは解らないんですよね?」

ミーナ「うん。あの性悪ウサギの気分次第だと思う。まあ夜以外には間違いないけど…」

シールケ「そうですか…」

シールケちゃんはそう言った後、暫くの間、黙り込んだ。

俯きながら何かを考え込むシールケちゃんに、皆の視線が集まる。

394: 2014/05/17(土) 08:33:34 ID:ZFnEuScw
考えが纏まったのか、暫くしてシールケちゃんが顔を上げた。

シールケ「これは提案ですが…いいですか、ガッツさん?」

ガッツ「…ああ」

シールケ「まず現状ですが、この場所はとても危険です」

シールケ「危険と思われるのは、昨夜の魔道生命体と、ミーナさん達を目標に送り込まれる巨人、この二つの存在」

シールケ「巨人は日中、いつ送り込まれて来るか解りませんし…」

シールケ「魔道生命体も、いつまた襲って来るか解りません」

395: 2014/05/17(土) 08:36:16 ID:ZFnEuScw
シールケ「ただ魔道生命体は、群体を密やかに操らなければならない点を鑑みるに、襲撃があるとすれば恐らく深夜でしょう」

シールケ「満月の夜がすぎた以上、四方の王の陣は使えませんし、本来なら一刻も早くこの場を離れるべきです」

ガッツ「…正論だし、同感だ。本来ならな」

シールケ「はい、本来ならこの場を離れるべきですが…ミーナさんの足の怪我がありますから、今ここを離れる事は出来ません」

ガッツ「ああ、同感だ」

シールケ「ですので、先行する者と残る者、二手に分かれましょう。船の確保も重要ですから」

396: 2014/05/17(土) 08:43:14 ID:ZFnEuScw
ガッツ「…問題は組み分けか」

シールケ「…はい。その事で、ガッツさんにご理解して貰いたいんです」

シールケ「心苦しい言い方ですが、キャスカさんを庇って怪我をしたミーナさんを、優先してあげて下さい」

ガッツ「ああ…ハナからそのつもりだ」

シールケ「では、その事を踏まえた組分けですが…」

シールケ「先行組をセルピコさん、ファルネーゼさん、イシドロさん、キャスカさんの四人」

シールケ「私とガッツさん、イバレラ、パックさん、サシャさんが治療と護衛でここに残ります」

397: 2014/05/17(土) 08:45:35 ID:ZFnEuScw
シールケ「ガッツさんのお気持ちは理解してるつもりですが、私達も明日にはここを出発しますし…」

シールケ「私には念話もありますから、先行する皆さんと意志の疎通も出来ます」

シールケ「様々な危険性や合理性を考えると、これが最も最善の組み分けになりますので…」

シールケ「後はガッツさん次第です。どうですか?」

ガッツ「………」

シールケちゃんの提案を聞いたガッツさんは、かなり深刻な表情で考え込んでしまった。

何か…懊悩…って感じ。

言い方は悪いけど、多分、私とキャスカさんが天秤にかかってるんだと思う。

398: 2014/05/17(土) 08:47:12 ID:ZFnEuScw
本来なら、一も二も無くキャスカさんが優先されるんだろうけど…。

シールケちゃんが言った通り、この場所は危険なんだと思うし…

昼夜を問わず危険なこの場所に、キャスカさんを置いておくのは問題外だと私も思う。

そしてその危険の一端を、私達のせいで送り込まれて来る巨人が関係してると思うと…

何かもう、ガッツさんには本当に申し訳ないわ。

本当なら、ガッツさん達には…ガッツさんには迷惑を掛けたくない。

といっても、シールケちゃんの申し出を断って、私とサシャだけが残るなんて自殺行為みたいなもんだし…

399: 2014/05/17(土) 08:48:41 ID:ZFnEuScw
色々と思い悩んでも上手い考えが浮かばなくて…

浮かない気分でチラッと視線だけでガッツさんを見たら、思わず視線が合ってしまった。

ミーナ「あっ…」

ガッツ「………」

ガッツ「……解った。その組み分けでいい」

シールケ「…よかった」

ガッツ「先行組は荷物を纏めたら、ヴリタニスに向かってくれ」

ガッツ「セルピコ、ファルネーゼ、イシドロ。キャスカと船の事は頼んだぞ?」

セルピコ「承知しました」

ファルネーゼ「はい、今度こそ目を離したりしません。精一杯キャスカのお世話をさせて頂きます」

400: 2014/05/17(土) 08:50:29 ID:ZFnEuScw
イシドロ「心配すんなって、しっかり任されてやらぁ!」

ミーナ「すいません、ご迷惑を掛けてしまって…」

ガッツ「気にすんな、迷惑なんざお互い様だ。寧ろ感謝してるぜ、本当になっ」

イシドロ「そーそー、気にする事ねーって!ミーナねーちゃんは早いトコ、足の怪我を治しちまえばいいんだよ!」

イシドロ「ミーナねーちゃんの足の怪我には、パック達の妖精の粉が特効薬らしいからなっ」

イシドロ「虫みてーなヤツらだから、遠慮なくコキ使っていいぜ?」

ミーナ「虫って…」

401: 2014/05/17(土) 08:52:31 ID:ZFnEuScw
イシドロ君の意地の悪い笑顔と物言いに、思わず笑ってしまった。

そのイシドロ君に、イバレラちゃんとパック君が猛抗議を始めて…

終いには二対一のケンカにまで発展。

その微笑ましい様子に、私とサシャは更に笑った。

先行組の四人が私達を残して出発したのが、それから約一時間後。

こうして私達はもう一晩、この小屋で一夜を過ごす事になった…。

405: 2014/05/20(火) 23:22:07 ID:./5gWKlw
先行組が出発したその日の日中、巨人が再度出現する事は無かった。

といっても、巨人は自然と現れるワケじゃなくて、出現イコール性悪ウサギの差し金なワケだから…

ある意味、コレってあの性悪ウサギの嫌がらせって感じよね?

冷静に考えれば考える程、この罰ゲームが無茶苦茶だと実感するわ…

最初の巨人三体はサクッと倒せたけど、アレってガッツさん達のお陰だし…

仮にガッツさん達が一緒じゃなかったらって考えると…背筋が寒くなる。

まともに動けない私と、サシャの二人だけだったら…

406: 2014/05/20(火) 23:22:53 ID:./5gWKlw
…多分、今朝方の巨人に食べられて、私の人生は終わりだったと思う。

ガッツさん達にはホント、幾ら感謝しても足りないくらいだわ。

そしてそのガッツさんが日中に何をしていたかと云うと…

小屋の周りにゴロゴロと転がってる鰐、血臭を漂わせるコイツの氏骸を全て片付け…

“ついでに捌いて食料”にしてらっしゃいました…。

昼食と夕食に鰐の肉を焼いて、塩だけで味付けされたダイナミックな手料理を勧められたけど…

私とシールケちゃんの二人は、慎んで遠慮した。

ご免なさい、私にはアレを口に入れるのは無理です。

407: 2014/05/20(火) 23:23:48 ID:./5gWKlw
サシャも昼食の時にはドン引きして、性悪ウサギの所から持ち出した食料を食べてたけど…

夕食の時には、自分から進んでワニの肉を食べた…食べたのよ、あの娘…。

ガッツさんが昼食に鰐を食べて、その後も体調に問題が無かったから、興味を持ったみたい。

私とシールケちゃんは無理だったけど、味には興味あったから、お味を聞いてみたら…

曰わく、歯ごたえのある鳥肉?に近くて、特に臭みも無く、寧ろ淡泊で薄味?なお肉らしい…。

何らかの濃いめのソースで味付けしたら、かなりイケる?とか言ってたケド…うーん、やっぱ私には無理。

408: 2014/05/20(火) 23:24:29 ID:./5gWKlw
私の意見にはシールケちゃんも同じらしくて、私らが提供した食料を、随分と感謝しながら食べてた。

でも感謝してるのは、寧ろ私の方なのよね…シールケちゃん、私に付きっ切りで治療と看病してくれてるから。

シールケちゃんは私の左足の傷を、数時間おきに治療してくれた。

霊薬と妖精の粉、あと四方の王の陣の治癒効果のお陰で…

見るも無惨だった傷口が、嘘みたいな速さで塞がっていってるのよ。

ホント、シールケちゃん様々です。

シールケちゃんの見立てだと、完治には一週間ほどとの事。

409: 2014/05/20(火) 23:25:07 ID:./5gWKlw
ただそれは、シールケちゃんの治療と、栄養のある食事の摂取と…

十分な睡眠を取るのが前提との指導を受けたので、その晩は早めに寝る事になった。

私とサシャとシールケちゃんは、小屋の奥で眠る事になり…

ガッツさんは、入り口付近で寝る事になったんだけど…

ガッツさんはいつまでも横にはならないで、壁際に座り、壁に背中をもたれ掛けたままだった。

右手の側には大剣を置いて、鎧は着込んだままの姿…あれじゃロクに寝れないんじゃないかな?

ミーナ「…ガッツさん、寝ないんですか?」

410: 2014/05/20(火) 23:25:55 ID:./5gWKlw
ガッツ「ああ、今夜はな。つっても朝方、少しばかり寝させて貰うぜ」

ミーナ「でも……大変じゃ…」

ガッツ「どーって事はねぇよ。俺は最近まで夜通し起きてたんだ、気にすんな」

ミーナ「あの…ありがとう御座います」

ガッツ「そう改まって礼を言われる程の事じゃねぇ」

ガッツ「さっさと寝ちまいな。明日からは暫くの間、俺達と一緒に旅をする事になるからな」

ミーナ「はい、宜しくお願いします。それじゃお休みなさい、ガッツさん」

ガッツ「……ああ、お休み」

411: 2014/05/20(火) 23:27:13 ID:./5gWKlw
ガッツさんが夜通し見張りをしてくれる。申し訳ない気持ちになるけど…

同時に、この上ない安心感に包まれて、私は熟睡する事が出来た。




そして次に目が覚めたのは、朝日が昇って暫くした位の時間かな?

潮騒の音を遙かに上回る地響きと振動で、私は目を覚ました。

私の右隣で寝てたサシャも飛び起きて、寝ぼけ眼でキョロキョロと辺りを見渡してる。

ふと左隣を見たら、隣で寝てた筈のシールケちゃんが居ない…

ハッと入り口を見たらガッツさんの姿も無くて、入り口を出てすぐの辺りにシールケちゃんの姿を見つけた私は…

412: 2014/05/20(火) 23:28:12 ID:./5gWKlw
サシャの肩を借りて、立ち上がった。

シールケちゃんの所に行く前に、サシャも私も、手にはブレードを掴んでる。

小屋から出ると同時に、シールケちゃんの視線の方向に目をやると…

案の定、巨人と戦うガッツさんの姿があった。

巨人の数は昨日と同じで三体。ただ昨日と違うのは、その大きさ…今日は6m級!

ガッツさんとは三倍以上の体格差があるのに、ガッツさんは昨日と同じで、全く怯む様子が無い。

巨人の一体目は、左腕の大砲を使って易々と倒しちゃったし…

襲い掛かって来る残りの巨人からは、巧みに身をかわしてる。

413: 2014/05/20(火) 23:28:46 ID:./5gWKlw
ガッツさんはベルトルトと同じくらい背が高くて、ライナー以上に筋肉の塊なのに…動きに全く鈍重さが無い。

寧ろミカサやサシャ並みに俊敏だ。

ただ速いけど、洗練された動きとは少し違う…

…ああ、そっかコレ、飢餓状態に追い込まれて、能力全開になった時のサシャに似てるんだ…。

人間の反射速度を上回る様な動きと、竜巻みたいな剣風の前に…

巨人達の手足が、次々と斬り落とされていった。

ガッツ「サシャ手伝え!巨人が“ダルマ”になってる内に、項を削ぎ落とせっ!」

サシャ「は、ハイッ!」

414: 2014/05/20(火) 23:29:40 ID:./5gWKlw
6m級の巨人とガッツさんじゃ、まだ圧倒的にガッツさんの方が強い。

その強さに圧倒されてポカンと見てたけど…

巨人を完全に仕留めるとなると、三対一じゃ多少は手こずるのかな?

ガッツさん一人でも倒せそうな気はしたけど、確かに二人の方が手堅いし早い。

ガッツさんに呼ばれたサシャは、両手足を斬り落とされて芋虫みたいになった巨人の元へと走り…

難無く項を削ぎ落としてトドメを刺す。サシャが二体目を仕留めると…

残り一体となった巨人は、ガッツさんの大剣で容易く斬り刻まれた。

415: 2014/05/20(火) 23:30:32 ID:./5gWKlw
あー…ガッツさんの場合、巨人と平地で戦う不利とか関係ないね、コレ…。

大剣の攻撃範囲に入った物は、何でもかんでも斬り飛ばしちゃう…一刀両断だもん。

一昨日の夜も、一人、離れた所で鰐の相手をしてたけど…納得しました。

アレ、ヘタに近寄れないわ…。

昨日と合わせて6体の巨人を倒し、周囲にそれ以外の巨人がいないのを確認すると…

ガッツさんはサシャと一緒に、私とシールケちゃんの元へ帰って来た。

シールケ「お疲れ様です、ご無事で何よりでした」

ミーナ「お役に立てなくて、ご免なさい…」

416: 2014/05/20(火) 23:31:28 ID:./5gWKlw
ガッツ「気にすんな。あんな動きの鈍い木偶の坊、何体いたってヘでもねえ」

ガッツ「回復の具合を見るにゃ、丁度いい相手だ」

ミーナ「回復の具合?」

シールケ「ガッツさんは病み上がりなんです。一月ほど前に大怪我を負われて、まだとても万全とは言えません」

サシャ「嘘…あの速さでまだ病み上がりの動きなんですか?」

ミーナ「だったら、尚更無理をしない方がいいんじゃ…」

ガッツ「あれぐらいの相手なら朝飯前だ」

ガッツ「…それこそ丁度、朝飯前だしなっ」

417: 2014/05/20(火) 23:38:05 ID:./5gWKlw
サシャ「うわ!もしかして今の、冗談ですか?ガッツさんが冗談を?」

ガッツ「うるせーよ。こんぐらいの冗談、俺でも言うっつの」

サシャ「何か…お父さんに寒い冗談を言われた様な衝撃があります」

ガッツ「お父…オメーの親父は幾つだ?俺りゃまだ25だぞ?」

サシャ「25ッ!」

ミーナ「えっ!」

シールケ「っ!」

ガッツ「………何だよ?」

サシャ「……この世界に来て、一番驚いたかも知れません」

ガッツ「………」

ガッツ「メシ食って寝る。昼前には起こせ」

418: 2014/05/20(火) 23:38:44 ID:./5gWKlw
ぶっきらぼうに言い放つと、ぶ然した表情で、ガッツさんが小屋へと入って行った。

つか25?私も、もっと年上だと思ってたよ…

サシャ「ああっ!スイマセン!怒っちゃいましたか?!」

サシャが慌てて謝りながら、ガッツさんの後を追ってった。

シールケ「……正直、私も驚きました。もっと年上なんだとばかり…」

ミーナ「あ、シールケちゃんも知らなかったんだ?」

シールケ「はい。私がガッツさん達と出会ったのは、まだ一月ほど前の事ですから」

ミーナ「えっ!そうなの?」

419: 2014/05/20(火) 23:39:29 ID:./5gWKlw
サシャ「ミーナーッ!シールケちゃーん!朝ゴハンーッ!」

ミーナ「あー、詳しい話は後で聞かせて?お腹ん中に、得体の知れないペット飼ってる娘が呼んでるからさぁ」

シールケ「ふふっ、解りました。ガッツさんが寝てる間の暇潰しに、お話ししましょう」

それから朝食を食べ終えると、ガッツさんは仮眠をとり…

私もまた、シールケちゃんから足の治療をして貰う事になった。

ガッツさんが昼前に起きると、皆で移動の準備を済ませて昼食を取る。

出発前に最後の治療を終えると、いよいよヴリタニスに向かって旅立つ事になった。

420: 2014/05/20(火) 23:40:15 ID:./5gWKlw
ガッツ「ミーナ、ちょっとコイツに座れ」

ミーナ「はい?」

ガッツさんはそう言って、小屋にあった四脚の椅子を指さした。

低い背もたれ付きの四脚の椅子には、脚の部分に二本のロープが輪になる様に結び付けてあって…

椅子の脚そのものは、10cm程度の長さを残して切り落としてあった。

座るの?コレに?椅子の脚が切ってあるから、随分と低い椅子だけど?

つか、コレに座ってどうすんの?

はっきり言って意味が解らなかったけど、私は云われるままに、やたらと低い椅子に腰を下ろした。

421: 2014/05/20(火) 23:41:05 ID:./5gWKlw
私が椅子に座ると、ガッツさんは、椅子に結び付けてあったロープの輪…

私の足側のロープの輪に、私の足を通させる。

ガッツさんはその輪を自分の右肩に掛ける様にして腕を通し…

背もたれ側のロープの輪を、自分の左肩に掛ける様にして腕を通すと…

椅子ごと私の体を抱え上げた。

つまり椅子に座ったまま、お姫様抱っこをされてる感じ。

も、もしかして私…このままガッツさんに運ばれるって事なの?!

ミーナ「あのっ!」

ガッツ「足は痛まねぇか?」

ミーナ「えっ?あ、はい…いやそうじゃなくて!」

422: 2014/05/20(火) 23:41:46 ID:./5gWKlw
ガッツ「ならいい。出発だ」

ガッツ「シールケ、道のりは分かるのか?」

シールケ「はい。セルピコさん達が通った道のりは、念話と一緒に視覚情報として私の記憶に残ってますので、問題ありません」

ガッツ「なら行くぞ」

どきまぎする私の事なんか気にもしないで、ガッツさんが歩き出す。

ガッツ「今夜の宿には、日暮れまでに着きそうか?」

シールケ「セルピコさん達が泊まった村に、私達も泊まりましょう」

シールケ「山と海に挟まれた、小さな村です。少し急げば、日暮れには着くと思いますから」

423: 2014/05/20(火) 23:42:28 ID:./5gWKlw
ガッツ「…ってこった。ミーナ、お前は大人しく抱っこされてろ。でなけりゃ日暮れまで村に入れねぇ」

ミーナ「何かもう、ホントにスイマセン…」

サシャ「ミーナ、ここはガッツさんに甘えましょう。足の怪我ですし、仕方ないですよ」

私の分の荷物を全部背負ったサシャが、にこやかな笑顔を私に向けてきた。

ホント、サシャにもお世話になりっぱなしだわ、私。

ガッツ「そーゆうこった。大して重さも感じねぇし、苦にはならねぇ」

ミーナ「…恐縮です」

ガッツさんは私を軽々と抱えて、悠々と歩く。

424: 2014/05/20(火) 23:43:04 ID:./5gWKlw
ガッツさんは背中に大剣を背負ってるから、私を運ぶ為に、椅子を工夫してコレを作ってくれたんだ…。

感謝感激って、ホントにこの事だわ。

あと、嬉し恥ずかしって感じ。

取り敢えず、顔がニヤケたり、赤くなったりしない様に注意しなくちゃ。

そうして私達は、一路ヴリタニスを目指した。

道中は巨人に襲われる事も無くて、旅路は順調に進む。

私はガッツさんの腕の中で旅をしてる訳だけど、特に会話を交わす事はしなかった。

丁度、体が海側を向いてるから、私は飽きもせず海を眺め続けた。

425: 2014/05/20(火) 23:43:44 ID:./5gWKlw
時折、こっそりガッツさんの横顔を覗いたりはしたけどね?……てへへっ。

そして夕日が海に沈む頃、私達は山と海に挟まれた村に辿り着いた。

低い石壁で囲われた、小さな集落…

そこで私達を出迎えたのは…

見るも無惨に殺された、村人達の氏体だった…。

429: 2014/05/27(火) 01:52:08 ID:alFCZtyo
名前も知らない村、その集落を一通り見て回った結果…

どうやら生き残っている人はいないらしかった。

氏体はどれも、凄惨な殺され方をしていた。

斧や棍棒みたいな物で、体中を滅茶苦茶に叩き潰され…

殆どの氏体が、人の原型を留めていなくて…

そのあまりの惨たらしさに、サシャは胃の中の物をもどしてしまった。

私はギリギリ堪えているけど、いつ吐いてもおかしくない位、気分が悪い…本当に最悪の気分よ。

430: 2014/05/27(火) 01:52:42 ID:alFCZtyo
完全に参ってしまった私とサシャは、かろうじて氏体の無かった家で…

氏んでしまったであろう家主には無断で、休ませて貰う事にした。

ガッツさんとシールケちゃんの二人は、村の中を少し調べると言い残して、外出してる。

20分程してシールケちゃんが先に戻り、ガッツさんはその数分後に戻って来た。

戻って来たガッツさんの姿を見て、心底ホッとしたわ。

心細くて、仕方なかったから。

431: 2014/05/27(火) 01:53:14 ID:alFCZtyo
ガッツ「シールケの方は、目処はついたのか?」

シールケ「はい、殆ど特定できたかと。ガッツさんは?」

ガッツ「ま、あらかたな。多分、シールケと同じ考えだ」

ガッツ「幾ら寂れた村とはいえ、盗賊の類が昼間に事を起こすとは考えにくい」

ガッツ「仮に兵隊崩れだとするなら、村人を襲う時に使ったエモノがお粗末すぎる」

ガッツ「それに奴らが犯人だとするなら、村に火を放ってないのもおかしい」

ガッツ「奴ら、強盗と殺人の後は、必ず放火も同時にやるからな。テメェ等の痕跡を消すために」

432: 2014/05/27(火) 01:53:47 ID:alFCZtyo
ガッツ「あと、氏体は男ばっかりだ。女、子供が見当たらねぇ…」

ガッツ「多分、攫われたな……イーノック村の時に似てる。こいつぁ人の仕業じゃねぇな」

シールケ「遺体の側で、獣の様な体毛を見つけました」

シールケ「まず間違いなく、この村は獣鬼…トロールの群れに襲われたと思います」

ガッツ「だろうな」

433: 2014/05/27(火) 01:54:17 ID:alFCZtyo
ミーナ「あの、トロールって何ですか?」

シールケ「幽界の凶暴な生物です。本来は幽界の闇の領域、クリフォトに生息する獣鬼ですが…」

シールケ「通常はあり得ない事ですが、この所、現世と幽界がはっきりと重なってしまい…」

シールケ「トロールなどが現世で暴れまわる事件が増えています」

シールケ「私やガッツさんなら対処できますが、普通の村人達では…為す術も無かったのでしょう」

434: 2014/05/27(火) 01:54:59 ID:alFCZtyo
シールケ「トロールは雑食です。鶏や豚などの家畜だけでなく、人間すら捕食します」

シールケ「ここで殺されてしまった村人達は、どの遺体も身体の多くが欠損していました」

シールケ「攫われてしまった子供達は、トロールにとって食料にすぎません」

シールケ「攫われた村の女性は…その…トロール達に辱められ、慰み者にされているでしょう」

サシャ「えっ?辱め?慰み者って…トロールって、その幽界って所の生き物なんでしょ?人間の女性に、そんな事するんですか?」

435: 2014/05/27(火) 01:55:47 ID:alFCZtyo
シールケ「幽界には幾つかの領域があって、トロールはクリフォトに生息しています」

シールケ「暗く澱んだ心の群れ集う闇…それがクリフォト」

シールケ「その領域に集う生き物は、大半が生きた人間の魂や肉体を好物にしています」

ミーナ「うわ…ちょっと関わりたくないわ」

一生出会いたくないわ、そんな化け物。

亡くなった村人達には悪いけど、私らが村に着いた時、そのトロールと鉢合わせにならなくて本当に良かったわ…。

439: 2014/06/03(火) 18:47:04 ID:IXkWK/ys
ガッツ「…で、どうする?」

シールケ「どうする…って?」

ガッツ「もう陽は落ちちまったが、先に進むか?」

ガッツ「それとも、この村で一夜を明かすか?」

ガッツ「俺としちゃ、一刻も早く先行組に追いつきたいからな。夜通し歩いても問題ねぇが…」

ガッツ「お前ら、どうする?」

ガッツさんは二度、同じ問いかけをした後で…

私とサシャ、シールケちゃんの三人に視線を向けてきた。

正直、私はガッツさん次第の立場だから、ガッツさんが夜通し歩くって言うなら反対できる立場には無い。

440: 2014/06/03(火) 18:48:45 ID:IXkWK/ys
何しろ、自分で歩くワケじゃないから。

けど、サシャとシールケちゃんは違う。

先行組に追いつく為、今日はこの村までワリと強行軍で歩いて来た。

いくら魔女とはいえ、体力的な事に関して言えば、シールケちゃんの体力は年相応のものらしいし…

サシャは自分の荷物に加えて、私の荷物も背負ってこの村まで歩いてくれた。

二人からは、流石に疲労の色が見えてる。

本来なら当然、この村で一夜の休息を取るべきなんだけど…

この村の様相じゃ、ここで一泊するのは相当の覚悟がいる…と思う。

441: 2014/06/03(火) 18:50:40 ID:IXkWK/ys
ガッツさんの質問は、それを踏まえた上での事なんだろう。

ガッツさんの質問に、サシャが表情を歪めた。

サシャ「出来る事なら、今すぐこの村から出たいです…」

サシャ「けど、夜通し歩くのは……今の私には無理そうです」

シールケ「この村で一夜の宿を借りる気で、少し無理をして歩いて来ましたからね…」

シールケ「私も体力的に、夜通し歩くのは無理だと思います」

ガッツ「…ミーナは?」

ミーナ「私は、ガッツさん次第の立場ですから…」

ガッツ「…ま、そりゃそうか」

442: 2014/06/03(火) 18:52:17 ID:IXkWK/ys
ガッツ「だが、どうする?お前らが体力的に無理ってんなら、ここに一晩泊まるか?」

ガッツ「ここから少し進んで、野宿って手もあるけどよ?」

シールケ「野宿ですか…トロール達の存在を考えると…判断に迷いますねえ」

シールケちゃんはそう言った後、愛らしい顔の眉間に、小さな皺を作った。

まあ、確かに悩むよねぇ…

氏体だらけの村で一夜を明かすのは考え物だけど…

野宿してる所を、トロールって化け物に襲われるのは問題外だしなぁ…。

443: 2014/06/03(火) 18:54:34 ID:IXkWK/ys
てゆーか、この村に泊まってて、襲われないとは限らないけどね…実際に襲撃を受けた村だし。

正直、この世界の住人じゃない私とサシャじゃ、判断のしようが無いんじゃないかな、コレ?

…うん、ガッツさんかシールケちゃんの判断に従おう。

ミーナ「あの、私とサシャじゃ、トロールとかいう化け物に対応出来ませんから、ガッツさんかシールケちゃんの判断に従います」

ミーナ「サシャもそれで良いよね?」

サシャ「…はい、私もガッツさん達の判断に従います」

ガッツ「…そうか。なら、今夜はどうするかだなぁ」

シールケ「…」

444: 2014/06/03(火) 18:56:01 ID:IXkWK/ys
パック「ガッツが一緒ならどこで寝泊まりしても平気だろ?」

イバレラ「ラクショーよね?ラクショー!どっちが化け物だか解りゃしないんだから」

シールケ「イバレラ!」

イパレラ「事実じゃない。私こんな人間、見たこと無いよ?カイジュー並みの強さだしぃ~♪」

パック「これで人並みの優しさを持ってたら、言うこと無しなんだけどねー」

ケラケラと笑いながら、パック君がガッツさんの周りを飛び回る。

あ、パック君また調子に乗ってるな~と思った矢先に…

445: 2014/06/03(火) 18:58:02 ID:IXkWK/ys
お調子者のパック君は、ガッツさんから蚊でも叩く様に、パン!と両手で潰されてしまった…

パック君は声も無く床に落下する……だ、大丈夫かな?

ガッツ「俺一人ならどうとでもなるが…今はミーナ達も一緒だしな」

ガッツ「それに、トロール共の事で忘れちまってたが…」

ガッツ「ミーナ達は狙われてんだろ、巨人どもに?」

ミーナ「あっ…」

サシャ「すっかり忘れてました…」

シールケ「確かに…すっかり気を取られてしまってましたね」

ガッツ「ま、俺も忘れちまってたから、人の事は言えねぇけどな」

446: 2014/06/03(火) 18:59:54 ID:IXkWK/ys
シールケ「となると、野宿は余計に危険ですね?」

ガッツ「ああ。巨人どもは今んとこ、早朝にしか出て来てねぇからな」

ガッツ「夜通し歩いて体力を消耗したり、ヘタに野宿すんのは得策とは言えねぇみたいだ」

シールケ「では、今夜はここに泊まるのが最善ですね」

ガッツ「…だな。そうと決まれば、取り敢えず……晩飯にするか?」

サシャ「賛成です!」

サシャ「明日の活力を得る為にも、しっかりご飯を食べましょう!」

つい今し方まで弱り切ってたサシャが、別人みたいな元気の良い声を出した。

447: 2014/06/03(火) 19:01:27 ID:IXkWK/ys
村に着いて速攻で吐いちゃった分、お腹が空いてるんだと思う。

サシャ「今夜はとっておきの、ハムを出します!ハムステーキにしましょう、ハムステーキ!」

サシャ「この村に着いて、ちょっと気分が凹みましたから…ここは景気づけに、美味しい物を食べて元気を出しましょう!」

サシャ「美味しい物を食べれば元気が出ます!元気があれば何でも出来る!ねっ、ミーナ?」

ミーナ「まあ…否定はしないけどね」

サシャの言葉に、私は思わず笑顔が浮かんだ。

448: 2014/06/03(火) 19:04:48 ID:IXkWK/ys
シールケちゃんもクスクスと笑ってるし、あのガッツさんでさえ苦笑を浮かべてる。

サシャは本当、ムードメーカーとしては最高の存在だわ。

シールケ「夕食前に、ミーナさんは足の治療をしましょう」

シールケ「ガッツさんもミーナさんの次に包帯を替えます」

ガッツ「俺りゃもう殆ど治ってるよ」

シールケ「駄目です!まだ胸と背中の大傷と、右手の骨折は完治してません!」

シールケ「本来なら、剣を握る事すら許可できない状態なんですから!」

ガッツ「…解った解った、そうヤイヤイ言うな。大人しくミーナの治療が終わるの、待ってるからよ」

449: 2014/06/03(火) 19:07:13 ID:IXkWK/ys
シールケ「解って頂ければ結構です。イバレラ、パックさんも治療を手伝って」

パック「お…おっけい」

イバレラ「こうも毎日、鱗粉を使われちゃ…その内に干からびちゃうわ」

サシャ「では私、夕食の準備をしておきますねっ」

今晩の事も決まり、サシャとシールケちゃんがいそいそと動き始める。

私の治療が終わる頃には、香ばしく焼かれるハムの匂いが屋内に広がり…

ガッツさんの治療が終わると、皆で晩御飯にありつく。

性悪ウサギの塒から持ち出したハムに舌鼓を打つ頃には…

辺りはすっかり、夜の帳が降りていた…。

452: 2014/06/14(土) 02:59:57 ID:rwkJacM6
その夜、家主には悪いなぁと思いながらも、私とサシャとシールケちゃんの三人は、屋内のベッドを使わせて貰って眠る事にした。

魔女の治療と、栄養のとれた食事と、十分な休息が、私の左足を急速に完治へと向かわせる…

そんなシールケちゃんの言葉に従って、ベッドで眠るワケなんだけど…

一方のガッツさんは家の庭先に陣取って、村中からかき集めた薪で篝火を作り…

夜通し火を保つ為、寝ずの番をしてくれている。

今夜はトロールの夜襲に備えて…の見張りみたい。

453: 2014/06/14(土) 03:00:36 ID:rwkJacM6
篝火からパチパチと、薪の弾ける音があがり…

三ヶ所に作られた、篝火の明かりに照らし出されるガッツさんは…

積み上げた薪の一部に、腰を下ろしていた。

ガッツさんに感謝の気持ちを込めて、夜食を渡そうと表に出たんだけど…

その大きくて逞しい背中に、私は暫く見入ってしまった。

ガッツ「…まだ寝ねぇのか?」

人の気配に気付いたガッツさんが、振り返って私に声をかける。

454: 2014/06/14(土) 03:01:24 ID:rwkJacM6
パック君も言ってたけど、ガッツさんはお世辞にも愛想が良い…とは言えない。

見かけは、とちらかと言えば強面の部類に入るだろうし…

喋り方にしても、思った事を遠慮なくズバズバと口にする感じで…

人との接し方も、はっきり言っちゃえばぶっきらぼう。

そんなガッツさんだけど、私に対しては、接し方や言葉遣いの端々に気遣いが感じ取れて…

私はその事が、素直に嬉しかった。

仮にそれが“キャスカさんの件で感謝されているだけ”だとしても…ねっ。

455: 2014/06/14(土) 03:02:04 ID:rwkJacM6
ミーナ「…もう寝ます。その前に、お夜食を渡そうと思って」

左足をびっこしながらヒョコヒョコと歩き、ガッツさんに近寄る。

短い距離なら、一人で移動できる様になった…と言っても、多少の痛みと違和感はまだあるけどねっ。

ガッツ「悪りぃな」

ミーナ「いえ、ガッツさんにはご迷惑をお掛けしてますから」

トレイに乗せた水とパンを渡し…

沸き上がってくる緊張を抑える。

軽く深呼吸して…ごく自然に…

ミーナ「あの、寝る前に…ちょっと火にあたりたいかな~って……隣、良いですか?」

456: 2014/06/14(土) 03:03:26 ID:rwkJacM6
ガッツ「ああ、別にいいぜ」

っ~~やったぁ!

ミーナ「じゃ、ちょっとお邪魔します」

ガッツさんの隣、1m程に適当な薪を積んで腰を下ろす。

1m…これが、今の私がガッツさんに、自分から近寄れる精一杯の距離…

色んな意味で…ねっ。

ガッツ「…少しは歩けるようになったみたいだな?」

ミーナ「はい。まだ幾らか違和感と痛みがありますけど…」

ミーナ「それでも、二日で、ここまで良くなるなんて…シールケちゃんに感謝ですねっ」

ガッツ「ああ。実際、あんぐれーの年ってのを考えりゃ、大したもんだ、シールケは」

457: 2014/06/14(土) 03:04:20 ID:rwkJacM6
ガッツ「それに妖精の鱗粉は良く効くからな。鎮痛の即効性もあるし…俺も緒っ中つかってる。ま、便利だよな」

ミーナ「パック君様々ですね?」

ガッツ「バカ言うな、そんぐれーしか役に立たねえんだよ。でなけりゃタダの無駄飯食らいだ」

ミーナ「ふふっ、酷い言われ様ですね?」

ガッツ「事実だからな」

そう言って、ガッツさんがうっすら苦笑を浮かべる。

篝火に照らし出されるその横顔が、私にはとても素敵に見えて…



胸が凄くドキドキした。

458: 2014/06/14(土) 03:04:58 ID:rwkJacM6
顔が熱く感じるのは、篝火にあたってるせいだけじゃないと、自分でも自覚してる。

全身がむず痒い様な…心が沸き立つ様な気持ち。

ガッツさんとお話してる、ただそれだけで自然と顔がほころぶし…

嘘みたいに幸せな気分になれた。

ガッツ「つーか、お前も踏んだり蹴ったりだな、実際」

ガッツ「自分達の世界にゃ帰れねえわ、怪我はするわでよ」

ミーナ「あー…確かに言われてみたら、その通りですねぇ」

ガッツ「…おいおい、随分と他人事みてーな言い方だな?」

459: 2014/06/14(土) 03:06:28 ID:rwkJacM6
ミーナ「いえ、最初は私も理不尽に思ってたんですけど…何か…忘れてました」

ガッツ「…変なヤツだな?」

ミーナ「そうですか?…ううん、そうですよね」

ガッツさんの指摘に、今度は私が苦笑を浮かべる。

0の世界に紛れ込み、この世界にやって来てからも、ロクな目に遭ってない。

けど今の私は、思ったほど悪い気分じゃないのよね…

ま、理由は考えるまでも無いんだけどね?

460: 2014/06/14(土) 03:08:38 ID:rwkJacM6
ミーナ「この世界に来て、もしガッツさん達に出会っていなかったら…」

ミーナ「多分、凄く心細くなってたと思うし、ひょっとしたら…私とサシャは氏んじゃってたかもしれないし」

ミーナ「私達の荒唐無稽な話を信じて貰えて、私達を受け入れてくれて…ガッツさん達には、凄く感謝してます」

ガッツ「…ま、俺らもお伽話に出てくるみてーなバケモンや、悪霊氏霊とやりあってるからな」

ガッツ「普通は信じられねー話でも、慣れっつうか下地?みてーなモンが出来てる」

461: 2014/06/14(土) 03:09:20 ID:rwkJacM6
ガッツ「だからワリとアッサリ、お前らの話を信じる事が出来たんだろうな」

ガッツ「それに、感謝してんのもお互い様だ」

ガッツ「ミーナがあの時、キャスカを庇ってくれなかったら、今頃どうなってたか…」

ガッツさんはそう言って、ジッと私を見つめた。

隻眼…普段は獣みたいに鋭くて、ギラついてさえ見えるガッツさんの左目が…

今夜は…今この時は、とても暖かい光が宿ってる様に見える。

でも…ガッツさんの口から、私以外の女性の名前が出てきた事が…

私の心に、針を刺した様な痛みを与えた。

462: 2014/06/14(土) 03:10:34 ID:rwkJacM6
ガッツ「確か10匹だったな?」

ミーナ「えっ?」

ガッツ「巨人を10匹倒せば、この世界から抜け出せるんだろ?」

ミーナ「あ…はい。あの性悪ウサギはそう言ってましたけど…」

ガッツ「今で6匹倒してるんだったな。残りは4匹か…」

ガッツ「今んとこ、毎朝出てきてやがるからな。上手くすりゃ、明後日には全部倒せるかも知れねえな」

ミーナ「かも…知れませんね」

ガッツ「巨人の事は俺に任せろ。もうミーナやサシャには指一本、触れさせやしねえ」

463: 2014/06/14(土) 03:12:14 ID:rwkJacM6
ミーナ「…はい、ありがとう御座います」

ガッツさんがそう言うなら、恐らく私達は今後、無傷でいられるだろう…

ガッツ「安心しな。近い内、お前ら二人共この世界から送り出してやるぜ」

ミーナ「…」

ガッツさんの言葉に、私は返事を返さず、代わりに笑顔を返した。

口角を、意識して持ち上げる。

それまで自然と浮かんでいた笑顔とは違い…

意図して作った偽りの笑顔を、私はガッツさんに返すしか出来なかった…。

466: 2014/06/17(火) 21:42:34 ID:Nv6PZjrM
庭先で寝ずの番をしてくれるガッツさんにお夜食を渡し…

短い時間だったけど二人きりの会話を交わした私は、その後、民家に戻って睡眠を取ることにした。

でもベッドに潜り込んで寝ようとしたものの、ガッツさんの事を考えるとなかなか寝付けない。

正確には“ガッツさんとキャスカさんの事を考えると眠れない”なんだけどね……はぁ。

モヤモヤするのが嫌だったから、無理して眠りについたんだけど…

眠りに落ちたのは、ベッドに入ってから一時間…ううん、二時間近くかかったと思う。

467: 2014/06/17(火) 21:43:16 ID:Nv6PZjrM
やっと寝付いたのに、寝てる途中、ムカつく事に目が覚める…

肉体的には疲れてないけど、精神的に疲れてる感じ?

何かもう…どうなってんのよ、私っ!

イラッとしながら毛布を被り直し、もう一回寝直したんだけど…

また、なかなか寝付けなくなってる。

早く寝なきゃって思うほど眠れないし…本当にムカつくわ。

どれくらい時間が経ったか解らない頃、やっとウトウトし始め…

私の意識は、知らない内に途切れた。

それから次に私が目を覚ましたのは、大きな振動と地響きを感じたのが理由だった。

ミーナ「なっ何!?」

468: 2014/06/17(火) 21:43:53 ID:Nv6PZjrM
回らない頭と焦点の定まらない目でキョロキョロしてると…

ベッドから飛び起きたサシャが、ベッドの脇に立て掛けていたブレードを引っ掴んで、一目散に部屋から飛び出し…

続いて杖と帽子を手にしたシールケちゃんが、部屋から駆け出して行った。

ミーナ「…あっ巨人だ!」

もうっ!自分の反応の鈍さに、心底嫌気がさすよっ!

ミーナ「私のブレード!」

昨日ドコに置いたっけ……あっ居間だっ!

469: 2014/06/17(火) 21:45:12 ID:Nv6PZjrM
自分のみっともなさに舌打ちしながら、びっこを引きつつ居間へと駆け込み…

立体機動装置と一緒に、ひとまとめ置いていたブレードを両手で引き抜くと…

痺れる様に痛む左足を無視して、私は表に飛び出した。

家の外には案の定、巨人がいる…また三体だ。

ざっと見て7~8m級。その内の二体は既に“ダルマ”みたく、両手足がバッサリと斬り落とされていた。

ガッツ「今日は昨日よりデケェぞ、油断すんなっ、サシャ!」

サシャ「解ってます、ガッツさんこそ気をつけて下さいっ!」

ガッツ「どってこたぁねぇ!」

470: 2014/06/17(火) 21:46:50 ID:Nv6PZjrM
ガッツさんに両手足を切断され、地面で芋虫みたいにもがいてる巨人の項を、サシャがブレードで削ぎ落とす。

昨日の朝、即席で作られた連携攻撃。その再現だ。

そしてガッツさんは残り一体の巨人を相手に、力押しで斬りかかっていた。

ガッツさんに向かって伸びる巨人の腕や足は、その都度に、呻りを上げる大剣に斬り落とされ…

地面に這いつくばる事になった巨人は、ガッツさんの大剣で眼球を潰され、視界まで奪われてる。

あの状態の巨人なら、私だって…

ミーナ「加勢します!」

パック「ムチャだよ!」

471: 2014/06/17(火) 21:48:36 ID:Nv6PZjrM
イバレラ「行け行けー!」

シールケ「ダメですミーナさん、戻って下さい!」

ミーナ「大丈ぶ」

ガッツ「引っ込んでろ、ミーナっ!」

怒声みたいなガッツさんの大声に、無理に駆け出した私の足が止まり、全身が竦んだ。

ガッツさん………怒ったの?

顔や背中から血の気が引き、指先が冷たくなっていくのが解った。

立ち止まった私は、錆びた銅像みたいに身動きも出来ないまま…

ガッツさんと、ガッツさんを手伝うサシャの姿を呆然と眺める…

472: 2014/06/17(火) 21:50:45 ID:Nv6PZjrM
何の役にも立てない、ガッツさんの力になれない自分が歯痒くて…

ガッツさんと共に戦ってるサシャが、堪らなく羨ましかった。

ガッツ「…ふう。どうやら片付いたみてーだな?」

ガッツ「サシャ、怪我してねぇか?」

サシャ「はい、お陰様で」

ガッツ「…えらく御機嫌だな?」

サシャ「はい、これで討伐数が4になりましたから!」

ガッツ「討伐数?」

サシャ「私達の世界では、巨人を倒した数だけ、討伐数や討伐補助数が加算されるんです」

ガッツ「戦績みたいなもんか?」

サシャ「そんな感じです」

473: 2014/06/17(火) 21:52:47 ID:Nv6PZjrM
サシャ「討伐数が巨人にトドメを刺した数で、討伐補助が、討伐に助力貢献した数ってところです」

サシャ「ちなみに、ガッツさんは討伐数4、討伐補助8…」

サシャ「巨人9体中って事を考えると、流石と言わざるをえませんよ」

サシャ「ガッツさんがその気なら、私がトドメを刺した4体だって、独りで討伐出来てたハズなんですから」

ガッツ「手間を省く為に、サシャに手伝わせてんだ」

ガッツ「お前の手柄だ。胸張って、サシャの討伐数とやらにしとけ」

サシャ「少しは自信がつきます。ありがとう御座います、ガッツさん!」

474: 2014/06/17(火) 21:54:11 ID:Nv6PZjrM
サシャがにこやかに、元気良く、ガッツさんに感謝の言葉を告げた。

サシャは他人と馴染むのに、時間がかかるタイプのハズなのに…

いつの間にか、ガッツさんとはすっかり打ち解けてる感じがする…。

サシャ「は~…それにしても、すっかり目が覚めましたよ」

ガッツ「俺りゃいい加減、眠てぇ…」

サシャ「あと、すっかりお腹が空きました…」

ガッツ「…ふっ…そればっかしだな、お前」

サシャ「健康な証拠ですよ!」

ガッツ「…違ぇねぇ。朝飯にするか」

サシャ「大賛成です!」

475: 2014/06/17(火) 21:56:00 ID:Nv6PZjrM
サシャとガッツさんが仲良く会話しながら、蒸発する巨人を背に、私の方に向かって足を進める。

私の背丈より長い大剣を、右手一本で肩に担ぎ…

私の元までやって来たガッツさんは足を止めると、左手の義手で私の肩をポンと叩いた。

ガッツ「足の怪我、まだ治ってねーだろ?ムチャすんな」

ミーナ「……はい」

サシャ「無理しちゃダメですよ、ミーナ?巨人の事は、私とガッツさんに任せて下さい!」

ミーナ「……うん、ありがと」

サシャ「さっ、朝ご飯を食べに行きましょう!」

476: 2014/06/17(火) 21:58:08 ID:Nv6PZjrM
ガッツさんとサシャが私の横を通り過ぎた後…

どうしようも無い思いのせいで、緩慢にしか動けない私は、ノロノロと踵を返した。

思い出したみたいに、左足から痛みを感じる。

ノソノソと歩き出すと、先を行くサシャが足を止め、振り返った。

サシャ「あ、ミーナ。肩、貸しましょうか?」

ミーナ「…いい、全然ヘーキ」

サシャ「でも…」

ミーナ「平気だってっ!」

サシャ「!」

私の大声に、サシャが驚いた表情を浮かべた。

けど、驚いたのは私も同じだよ。自分でも、こんな強い声を出すつもりは無かったんだから。

477: 2014/06/17(火) 21:59:51 ID:Nv6PZjrM
私の声に、ガッツさんやシールケちゃんも足を止めて、振り返ってる。

ヤバい、何か誤魔化さなきゃ!

ミーナ「…ほ、ほら!サシャは早く戻って食事の準備してくれないと!」

ミーナ「食料だって私達の装具に入ってるんだから!」

サシャ「…あ、はい。そうですね…」

ミーナ「私ヘーキだから、ほら早く朝食朝食!」

サシャ「…解りました。朝食の準備に行きますけど、無理しないで下さいね、ミーナ?」

ミーナ「うん!」

シールケ「私が肩を貸しましょうか?」

478: 2014/06/17(火) 22:03:09 ID:Nv6PZjrM
ミーナ「平気、リハビリだよリハビリ!少しくらい自分で歩かないと。ねっ?」

シールケ「ですが、足の傷はまだ…」

ミーナ「私これでも兵士の端くれだから、ちょっと歩くくらい大丈夫だよ」

背中に嫌な汗をかきながら、私は必氏になって笑顔を浮かべた。

ガッツ「…シールケ、好きにさせてやれ」

ガッツ「独りで歩くっつっても、どうせ目と鼻の先程度だ」

シールケ「……解りました。でも部屋に帰ったら、朝食前に治療をしますからね?」

ガッツ「だとよ。それでいいな、ミーナ?」

ミーナ「はい…」

479: 2014/06/17(火) 22:03:59 ID:Nv6PZjrM
シールケ「ミーナさんの次は、ガッツさんの治療ですよ?」

ガッツ「…はいはい」

ガッツさんがシールケちゃんに返事をした後で、小さく肩を竦める。

三人が民家に向かって歩き出した後で…

私は小さく溜め息を吐き出し、皆には気付かれない様…

痛む左足を引きずる様にして、ゆっくりと歩き出した…。

483: 2014/06/20(金) 01:20:00 ID:WTGWh3Oo
シールケちゃんに朝の治療をして貰い、朝食を食べ終わると…

ガッツさんは仮眠を取るため、寝室に入った。

ヴリタニスに出発するのは、ガッツさんが起きてから。

多分、昼食後になるかな?

出発するまでの数時間の間で、シールケちゃんは薬草の補充の為に、すぐ側の山に行くと言い出し…

イバレラちゃんとサシャも、薬草集めに付き合うと言い出した。

その薬草は主に私やガッツさんの為の物だから、私も付き合うと言ったけど…

当然の様にシールケちゃんから止められる結果になった。

484: 2014/06/20(金) 01:21:06 ID:WTGWh3Oo
昼食までには戻ると言って出かける三人を見送った私は、パック君と二人で留守番をしてるワケだけど…

居間の椅子に座ってボンヤリしてると、寝不足のせいか物凄い眠気が襲って来る。

次第に目の焦点が合わなくなり、意識も朦朧…うつらうつらと舟を漕いでいた。

パック「…ミーナ、眠いの?」

ミーナ「…!」

ミーナ「あ、寝ちゃってた…」

パック「眠いならベッドで寝たら?出発まで時間もあるし」

ミーナ「やっ、ムリだよ!寝室はガッツさんが寝てるし…」

485: 2014/06/20(金) 01:21:45 ID:WTGWh3Oo
パック「寝室って寝る部屋だろ?ガッツだって寝てるのに、何が無理なんだ?」

ミーナ「ガッツさん、寝ずの番をしてたでしょ?それに巨人との戦闘で疲れてるだろうし…」

ミーナ「せめて寝てる時くらい、私は邪魔をしたくない…迷惑を掛けたくないの」

ミーナ「ゆっくり休んでほしいから」

偽りのない本心を、私はパック君に告げた。

私はキャスカさんの事でガッツさんに感謝されてるけど…

あれは、感謝されたくてやった事じゃない。

反射的に体が動いて、結果キャスカさんを助けた後、怪我を負った…それだけにすぎない。

486: 2014/06/20(金) 01:22:26 ID:WTGWh3Oo
だからガッツさんの私に対する感謝は嬉しい反面、私を複雑な気分にさせていた…

だって、その感謝の意味合いは“キャスカさんを助けた事”についてだもん。

まあ、早い話が嫉妬してるんだよ…キャスカさんに…ねっ…。

そして、キャスカさんの件を全て排除してしまうと、今の私は単なる足手纏いでしかない。

ガッツさんにはキャスカさんの件を抜きにして、私を見て欲しいのに…

怪我をしてる私は、サシャみたいに一緒に戦い、仲を深める事が出来ない。

そのせいで、さっきはサシャに八つ当たりまでしてしまった…

487: 2014/06/20(金) 01:23:24 ID:WTGWh3Oo
ミーナ「……不思議だなぁ」

パック「何が?」

ミーナ「……」

本当に不思議…この世界に来て、まだ三日しか経ってないのに…

出逢って三日しか経ってないのに…私、いつの間にガッツさんを好きになってたんだろ?

初めはこの世界にやって来たばかりの、あの満月の夜…

人外を思わせる圧倒的な強さ…途轍もない強さに、強烈な印象を持たされた。

488: 2014/06/20(金) 01:25:34 ID:WTGWh3Oo
次は対巨人戦…私達の世界で、立体機動も使わず、単身で巨人と戦える人間なんて居やしない。

剣と呼ぶには無骨すぎる鉄塊を片手に、怖れも無く立ち向かい、圧倒的な力でねじ伏せる…

その姿に、強い安心感と、頼り甲斐と、これまで感じた事も無い“憧れ”が生まれた。

そんなガッツさんに、昨日は何時間もお姫様抱っこされてたんだもん…

意識するなって方が無理な話だし、嫌が応にも恋心だって芽生えちゃうよ。

でも……これで、巨人は残すところ一体。あと一体を倒してしまえば…

ミーナ「…お別れ…かぁ…」

489: 2014/06/20(金) 01:27:26 ID:WTGWh3Oo
パック「お別れ?」

ミーナ「巨人をあと一体倒したら、この世界とお別れ…なのよね」

パック「あー、そうだったよな?良かったじゃん?」

ミーナ「……」

あと一体…この調子だと明日の朝には出て来てしまいそうだし…

下手をして今日中に出て来ちゃうと…今日でお終い?

そんな………嫌だっ!

お別れの瞬間を想像してしまった私は、あまりの悲しさに、テーブルに突っ伏してしまった。

パック「どうした、ミーナ?」

ミーナ「……あのね、パック君。聞いて欲しい事があるの」

滲み出る涙で、私の声は鼻声になってる。

490: 2014/06/20(金) 01:28:49 ID:WTGWh3Oo
パック「うん、聞いてやるよ」

ミーナ「…パック君って、秘密を守れる?」

パック「勿論さ!」

ミーナ「私がこの世界から居なくなったら言っても良いけど…私がこの世界に居る間は、誰にも言わないでね?約束だよ?」

パック「うん、約束する!」

ガッツさんには…私の気持ちは言えない。

けど、誰かにこの気持ちを知って欲しかった。

ミーナ「私ね……ガッツさんの事が…好きなの」

パック「…うん。でも、ガッツは」

ミーナ「言わないで…知ってるから」

パック「…」

パック「…そっか」

491: 2014/06/20(金) 01:31:29 ID:WTGWh3Oo
パック君は短くそう言った後…

小さな手で、私の頭を撫でてくれた。

パック「…ミーナ、ちょっと寝てきなよ。今朝は顔色も悪かったしさっ」

ミーナ「うん…ココで寝る」

パック「駄目だよ、ベッドで横になりなって」

ミーナ「無理っ!」

パック「何で?」

ミーナ「だって…ガッツさんと同じ部屋で寝るなんて……恥ずかしいし」

ミーナ「それに、ガッツさん寝てるだろうから、起こしたくないし…」

パック「あー、それなら平気」

パック「前からそうだけど、寝ずの番をした後のガッツは、ちょっと人が近寄った程度じゃ起きないよ?」

492: 2014/06/20(金) 01:32:48 ID:WTGWh3Oo
パック「邪気や殺気をちょっとでも感じたら、スグ起きるけどねっ」

ミーナ「……でも」

パック「言いたくないけど、ミーナ…目の下のクマ、酷いよ?」

ミーナ「うっそ!」

突っ伏してたテーブルから身を起こした私は、慌てて目の下に両手をやった。

パック「あー、ちょっと泣いちゃってるから、目も腫れぼったい」

ミーナ「マジでえっ!?」

パック「うん。一回顔洗って、ちゃんとベッドで寝た方がいいよ」

ミーナ「でも……」

パック「大丈夫!オレが起こしてやるよ。ガッツが起きるより先にねっ?」

493: 2014/06/20(金) 01:34:31 ID:WTGWh3Oo
ミーナ「…お願い出来る?」

パック「任せとけ!」

ミーナ「…じゃあパック君、お願いねっ」

パック君に起こして貰う事を約束すると、私は顔を念入りに洗い、ガッツさんが眠る寝室に静かに入った。

微かな寝息をたてて、ガッツさんがベッドで眠ってる…

何か……スゴい緊張するわ。

ガッツさん寝てる向かいのベッドに腰を下ろし、上着…訓練兵団のジャケットを脱ぐ。

考えに考えてシャツも脱ぎ、キャミ姿になったけど…

流石にズボンは脱げなかった。

494: 2014/06/20(金) 01:45:26 ID:WTGWh3Oo
まあ、私のいま穿いてるこのズボン…右足の方は元の長さのままだけど…

左足の方は応急処置の時に切っちゃって、左だけショートパンツみたいになっちゃってる。

治療の際、ズボンを脱がないで良いから楽だけど…

正直、何か…カッコ悪くて恥ずかしいのよね。

いっそ右も切って長さを揃えた方が良いかな?

ショートパンツにした方が可愛いだろうし、少しは色気が出るかも知れないし…

あっ、でも左足は包帯でグルグル巻だし、色気も何もあったもんじゃ無いか……はぁ。

495: 2014/06/20(金) 01:46:50 ID:WTGWh3Oo
小さく溜め息を漏らし、次いで髪留めを解くと…

ブーツを脱いで、ベッドに横になる。

寝る時のクセで体を右横に向けると…

当然だけど向かいで眠るガッツさんの横顔が、私の視界に入った。

ミーナ「…寝顔も素敵だなぁ」

ジンワリと、暖かい感情が込み上げて来る。

何も考えず、暖かい感情に包まれてガッツさんの横顔を眺めていると…

次第に瞼が重くなってきた。

496: 2014/06/20(金) 01:48:20 ID:WTGWh3Oo
ミーナ「おやすみ…なさい…」

小さくガッツさんに囁く。


“少しでも長く、傍にいたい…傍にいたいよ…”


それは願いなのか、祈りなのか、自分でも解らないけど…

眠りに落ちるまで、私はその言葉を…

胸の中で何度も繰り返した…。

498: 2014/06/22(日) 01:00:49 ID:57kbrw9Y
正午を回り昼食を食べた私達は、いよいよヴリタニスに向かって出発する事になった。

サシャはまた私の装具と自分の分の装具を背負って、シールケちゃんと並んで歩き…

当の私は、左足の完治にまだ三日程かかるみたいで、またガッツさんにお姫様抱っこして貰ってる。

嬉しいやら恥ずかしいやら申し訳ないやらで、ロクにガッツさんの顔を見る事が出来やしない。

今朝の事もあったからマトモに話も出来なくて随分と気まずかったけど…

幸いな事に、パック君が私の左肩にずっと座ってくれていたから、何とか場を保つ事が出来た。

499: 2014/06/22(日) 01:01:22 ID:57kbrw9Y
ホントありがとね、パック君!

ヴリタニスを目指す私達は、山肌を左手に、整備されていない海岸沿いの小道を進む。

嗅ぎ慣れない潮の香りが常に辺りに漂い、寄せては返す波の音が途切れる事もなく聞こえていた。

海の色は空を映した様に蒼く…

穏やかな潮風が私の髪をを靡かせ…

暖かい陽光が降り注ぐ中、私はガッツさんの腕の中にいる。

これ以上は望むべくもない、本当に幸せな状況よ…

うん、ホントに…凄い幸福なシチュエーションなんだけど…

今の私は、かなりヤバい状態に追い込まれていた。

500: 2014/06/22(日) 01:01:59 ID:57kbrw9Y
マジでヤバい……どうしよ……お花摘みに行きたい!

お馬鹿な私は出発前に行き損ねてた…超ピンチ!

ミーナ「が、ガッツさん。今日中にヴリタニスに着きます?」

ガッツ「いや、明日の夕方頃になるだろ」

ミーナ「って事は、今晩は?」

ガッツ「シールケ、今晩の宿はどうなってる?」

シールケ「セルピコさん達が泊まった宿に、私達も泊まる予定です」

ミーナ「そこへの到着って…後どれくらい時間がかかりそうなのかな?」

シールケ「そうですね…あと四時間ほどでしょうか?」

501: 2014/06/22(日) 01:02:52 ID:57kbrw9Y
ミーナ「あ~…」

無理っ!もたないです…。

ガッツさんに抱っこして貰ってる立場で、無理やり我慢して、結局お漏らしなんて氏んでも出来ないし…

だからってガッツさんに、直接、おトイレ行きたいなんて…ちょっと言い出せない。

とか何とか悩んでる間に、ますますピンチになってるし…

ちょっとホント、どうしよう、コレ…

せめてサシャがもうちょっと側を歩いててくれたら、小声で呼び掛けられるのに…。

502: 2014/06/22(日) 01:03:37 ID:57kbrw9Y
内股に力を入れて、微妙にフルフル震えながら最善策を考えてると…

左肩に座ってるパック君が、私の様子を不審に思ったのか、私の頬を軽く叩きながら問い掛けてきた。

パック「ミーナ、どうかした?」

ミーナ「やっ!別に………あ」

パック「ん?」

パック君がいる!ラッキー!

私は目一杯、パック君の方に顔を捻って、極力ちいさな声でパック君に話しかけた。

ミーナ『パック君お願いがあるの』

パック「えっ、何?」

ミーナ『しっ!小さな声で喋って、お願いだから…』

パック「え?」

パック『……解った』

503: 2014/06/22(日) 01:04:19 ID:57kbrw9Y
ミーナ『サシャの所に行って、私がお花摘みに行きたいって言ってるって伝えて』

パック『お花摘み?』

ミーナ『サシャに言えば解ってくれるから!バレない様にコッソリ伝えてね?』

パック『…けどさ、何でお花摘みなんか』

ミーナ『お願い、早くっ!』

パック『お、おっけい…』

パック君は意味が分からないみたいな顔をしたけど…

私の切羽詰まった表情を見て、慌てた様にサシャの元へと飛んでいってくれた。

パック君がサシャに耳打ちしてるのを見た後で、ソッと視線だけでガッツさんを覗き見る。

504: 2014/06/22(日) 01:04:58 ID:57kbrw9Y
ガッツさんは私とパック君の怪しげなやり取りに当然気付いていたらしく、奇妙な視線を私に向けたけど…

それはほんの少しだけの事で、直ぐにまた視線を前に向けた。

多分、私とパック君の会話の内容までは聞こえてない…ハズ。

だんだん顔が熱くなってくるのが解る…赤くなってきてるんだろうなぁ…私の顔。

何だか気恥ずかしくなって来たので俯いてると…

パック君から話を聞いたサシャが、私とガッツさんの元にやって来た。

サシャ「ガッツさん。ちょっとお花摘みに行ってきますから、ミーナを下ろしてください」

505: 2014/06/22(日) 01:06:02 ID:57kbrw9Y
ガッツ「あん?お花摘み?」

サシャ「いいですから、早くミーナを」

ミーナ「ごめんなさい、下ろしてください」

ガッツ「お花摘みって……何だそりゃ?」

ガッツさんが当惑しながらも、私を地面に下ろし…

サシャの肩を借りた私は、かなり下半身に気を使いながら立ち上がった。

ミーナ「さ、サシャがピンチみたいなんで急いで行ってきます!」

サシャ「…はっ?」

ミーナ「ホラ急ごうサシャ!」

サシャ「えっ?いや、ちょっ」

ガッツ「……ああ、小便か?さっさと行ってこい、サシャ」

サシャ「ええっ!?」

506: 2014/06/22(日) 01:06:46 ID:57kbrw9Y
シールケ「…ガッツさん、言葉遣いにはもう少し気を使って下さい…」

素っ頓狂な声を上げるサシャの手首を掴み、私は左手の山…木陰に向かってズンズンと歩き始めた。

左足は痛むけど、それ所じゃない!超ピンチなのよっ!

あとゴメン、サシャ…後でちゃんと謝るから今は許して!

心の中でサシャに謝りながら、私はサシャを引きずる様にして木陰へと突き進んで行った。

507: 2014/06/22(日) 01:07:23 ID:57kbrw9Y
木陰に入って10m以上、ガッツさん達からざっと30mは離れた場所まで来て、ようやくサシャの手を離し…

そっと振り返ってサシャを見ると、彼女はかなり機嫌を損ねたらしく…

ぶ然とした表情…半眼を私に向けてきた。

サシャ「…ミーナ?」

ミーナ「ゴメン、解ってる…」

サシャ「ちょっと酷くないですか?」

ミーナ「うん、ホントにご免なさい」

ミーナ「ただね、今、本気でピンチなの!」

ミーナ「お叱りも受けるし謝罪もするから、お願いだから先におトイレさせてっ!」

508: 2014/06/22(日) 01:08:08 ID:57kbrw9Y
サシャ「……解りました。後で覚悟しといて下さいね?」

ミーナ「うん、ゴメン……先にガッツさん達の所に行ってて良いよ」

サシャ「…そうします」

サシャはぶ然とした表情のまま、私に背中を見せると、元きた方へと歩き出した。

私は同時に手近な木の裏側に回り、ベルトに手をかける。

焦りながらベルトを外し、ズボンと下着を一緒に引き下げると…

左足の痛みに顔をしかめながらも、勢い良くしゃがみ込んだ…。


…………………………はぁ。


ちょっとした開放感に包まれるわ、コレ。

509: 2014/06/22(日) 01:08:52 ID:57kbrw9Y
……さて、サシャにどうやって謝ろう?

左足が痛まない様に気を使って立ち上がり、下着をいそいそと引き上げる。

さっきまでの切羽詰まった状態から、快い開放感へと気分が変わったせいか…

何だか気が抜けた様になってる。

ミーナ「あー…独りでガッツさん達の所に帰るの、恥ずかしいなぁ」

小さく溜め息を吐いて、膝辺りまで下ろしてたズボンをノロノロ引き上げてると…

いきなり、目の前にドサッと何かが降ってきた。

ミーナ「なっ!!」

目の前に降ってきたソレが何なのか、直ぐには解らなかった。

510: 2014/06/22(日) 01:13:35 ID:57kbrw9Y
ううん、こんなの判別しようにも、今まで見た事ないよ…。

人?違う……猿?違う……熊?違う…

背丈は私と同じか、少し低い…

二本足で立ってる…全身毛むくじゃら…

足は太くて短い…腕は太くて長い…

頭が大きい…顔は醜悪で異様に鼻と口が大きい…

顔は、強いて言えば牛をとんでもなく不細工にした感じ…

手には斧みたいな武器まで持ってる…

こんな気持ち悪い生き物、見たこと無い!

ミーナ「きゃあああああっ!」

511: 2014/06/22(日) 01:14:33 ID:57kbrw9Y
ソレから漂う言いようの無い不快な悪臭と、一目見ただけで全身に広がる怖気…

本能的な恐怖で悲鳴を上げた私は、ズボンもロクに上げずに逃げ出した。

でも、数歩も行かない内に、凄い力で引き倒される。

化け物は、地面に倒れた私に覆い被さってきた。

ミーナ「嫌ああああああっ!」

食べられる…食い殺される!

必氏に抵抗するけど、まるで力がかなわない!

ミーナ「離せっ、離してっ!」

力ずくで仰向けにされた私の目の前に、醜悪な化け物の顔が近付く。

512: 2014/06/22(日) 01:17:06 ID:57kbrw9Y
化け物は左手で私の顔を地面に押さえつけ…

右手で私のシャツの首元を掴むと、力任せに引き破った。

外気が直に肌に触れ、胸が露わになったのが解る…

まさか、この化け物!

そう思った次の瞬間、ズボンが引き裂かれ、下着が剥ぎ取られた。

ミーナ「嫌っ!嫌あああっ!」

どんなに泣き叫んでも、この化け物は止めようとはしない。

下着を剥ぎ取り、私を半裸にした化け物は、両手で私の両肩を押さえつけた。

ミーナ「たす、助け…」

泣きながら必氏に辺りを見渡した私は、更に絶望の底に追い落とされた。

513: 2014/06/22(日) 01:20:07 ID:57kbrw9Y
いつの間にか、私の周りは、何匹もの化け物に囲まれている状態だった。

そいつ等は大きく開いた口からダラダラと涎を垂らし…

更には……股間が……き…気持ち悪い…見たくない!

口から涎を垂らし、股間を屹立させた化け物達が、ゾロゾロと私に近寄ってくる。

ミーナ「ひっ!」

私を押さえつける化け物が、私のお腹の辺りから、胸、首筋へと、舌を這わせた。

ミーナ「やだ…やだ…」

私を取り囲んだ化け物達が、私の顔を…胸を…腋を…脇腹を…争う様にして舐め上げる。

ミーナ「やめ…ヒック…お願……止めて……」

514: 2014/06/22(日) 01:21:35 ID:57kbrw9Y
圧倒的な恐怖と絶望…全身を蟻が這い回る様な気持ち悪さ…

もう大声すら上げられず、泣く事しか出来ない。

身体のあちこちが、化け物達の不快な唾液で汚され…

私の下腹部…他の誰にも見せた事の無い部分に、熱を帯びた何かが押しつけられた。

ミーナ「嫌っ嫌っ嫌っ嫌ああああああっ!!」

516: 2014/06/30(月) 00:58:53 ID:p6DYyVGQ
こんな目に遭うなんて…こんな日が来るなんて、考えてもみなかった。

こんな恥辱を味わうくらいなら、いっそ頃して欲しかった。

こんな化け物に奪われるくらいなら………

絶望の中、喉が裂ける様な悲鳴を上げた……その瞬間、轟音と共に黒い風が吹き抜けた。


血飛沫が舞うのと同時に、私を押さえつけ、取り囲んでいた化け物達が一瞬で弾け飛ぶ。

周囲の木々が次々と薙ぎ倒される中…

私の傍で、フーッ!フーッ!と荒ぶる虎の様な息遣いが耳に届き…

化け物の返り血を浴びた私が、よろける様に身を起こすと…

517: 2014/06/30(月) 01:00:05 ID:p6DYyVGQ
私の傍らには、悪鬼みたいな形相で大剣を携える、ガッツさんの姿があった。

ガッツさんは素早く自分の黒マントを外すと、泣きじゃくる私を、マントで包んでくれた。

寸での所で、私はガッツさんに救われた…

なのに私は、ガッツさんに感謝の言葉も言えず…

それ所か目を合わす事も出来ず…

震えの止まらない我が身を抱き締めながら、嗚咽を漏らし続けた。

こんな姿を……ガッツさんには見られたくなかった…。

ガッツさんは獣の様な荒い息を吐きながら立ち上がり…

普段よりも更に低い、明らかに怒気を含んだ、ゾッとする声を出した。

518: 2014/06/30(月) 01:00:51 ID:p6DYyVGQ
ガッツ「…傷を庇う様なセコいのは無しだ」

ガッツ「腕がもげようが知ったことかっ」

ガッツ「てめえらの下らねえ真似のおかげで、久々に目の覚める思いだぜ」

ガッツ「思い出したよ、久しぶりに…最初の気持ちって奴を」

ガッツ「ありがとよ……最悪の気分だ」

ガッツ「おらっ、かかって来いよ?お前ら今すぐ…挽肉だっ!」

ガッツさんが左手の義手で手招きすると…

群をなす化け物達が、堰を切った様に押し寄せて来る。

大剣を振り上げたガッツさんは、生い茂る木もろとも、化け物達を叩き斬っていった…。

519: 2014/06/30(月) 01:01:30 ID:p6DYyVGQ
ガッツさんの戦う姿はこれまで何度か見たけど、今回は明らかに戦い方が違っていた。

超人的な反射神経と野性的なカンを武器に戦うガッツさんだけど、それでも根底には冷静な判断が見て取れたのに…

今は化け物達の反撃もお構い無し。回避や防御を完全に無視して…

怒りに身を任せて、全力で剣を振るってる。

時間の経過と共に、辺り一面は血の色に染まり…

ガッツさんは化け物達の返り血と、負傷した自分の血で全身を濡らしながらも…

まるで竜巻みたいに、大剣を振り回し続けた。

520: 2014/06/30(月) 01:02:12 ID:p6DYyVGQ
シールケ「ミーナさん、ご無事ですか?」

サシャ「ミーナ……」

気が付くと、シールケちゃんとサシャの二人が、私の元に来ていた。

二人とも、顔色が酷く悪い。サシャに至っては血の気が引きすぎて、顔が真っ白になってる。

サシャと視線が合った私は、やっと込み上げて来た安堵感のせいで、また嗚咽が止まらなくなってしまった。

そんな私を跪いたサシャが、ギュッと抱き締めてくれた。

彼女の胸に顔を埋めて、ひたすらに泣き続ける私の頭を…

サシャは無言で、優しく撫で続けてくれる。

521: 2014/06/30(月) 01:03:31 ID:p6DYyVGQ
サシャの匂いと、抱き締めてくれる温もりと、優しく撫でてくれる手つきが…

恐怖で冷え固まった私の身体と心を、少しずつ溶かしていった。

シールケ「…一旦、ここを離れて浜辺に向かいましょう」

シールケ「ミーナさんの身体を洗わなければいけませんし…」

シールケ「何よりここに居ては、ガッツさんの邪魔になります」

サシャ「…けど、周りは…」

シールケ「大丈夫です。簡易式とはいえ魔法陣を張っています。トロールごときが円陣の中にいる私達に、手出しする事は出来ません」

522: 2014/06/30(月) 01:04:08 ID:p6DYyVGQ
シールケ「背後のトロールは、ガッツさんに任せれば問題ありませんので…」

シールケ「私達は、浜辺の方に立ち塞がるトロールを片付けてから進みましょう」

サシャ「か、片付けるって言っても…」

私達の周り、浜辺の方角には、化け物達…トロールが私達の退路を断つ様に集まっている。

トロール達は各々、棍棒みたいな武器を手に持っていた。

シールケ「今朝、薬草を集めに山に行った際…」

シールケ「トロールの襲撃に備えて、聖別した木の実を集めておきました」

523: 2014/06/30(月) 01:05:14 ID:p6DYyVGQ
シールケ「この聖別した木の実をトロールにぶつければ、トロールを追い払う事が出来ます」

シールケ「サシャさん、この木の実をお渡しします」

シールケちゃんはそう言いながら、木の実が入っているらしい小さめの袋をサシャに渡した。

サシャ「えっ、私に全部渡すんですか?シールケちゃんは?」

シールケ「その木の実を投げつければ、トロール達を追い払えますが…」

シールケ「あくまで一時的な効果しかありません。直ぐにも追いかけて来るでしょう」

524: 2014/06/30(月) 01:06:13 ID:p6DYyVGQ
シールケ「それでは意味がありません。その木の実は、あくまで急場しのぎの品です」

シールケ「そこにいるトロール達は、私が相手をしますので…」

シールケ「サシャさんは、私に近付いて来るトロールや、サシャさん達に近付いて来るトロールにその木の実を投げつけて、牽制して下さい」

サシャ「えっと…はい、解りました」

サシャが返事をすると、シールケちゃんは私達を取り囲む魔法陣から、外側へと歩み出た。

私とサシャを取り囲む魔法陣から、真横に数メートルほど距離をとると足を止め…

525: 2014/06/30(月) 01:07:46 ID:p6DYyVGQ
その場で、また新たに魔法の円陣を作り上げる。

その間、シールケちゃんを目指して詰め寄るトロール達には…

サシャが聖別された木の実を投げつけて、一匹残らず追い払った。

シールケちゃんは魔法陣を作り終わると、その中で何か呪文みたいな言葉を呟き出す。

何かの魔法?らしいけど…どうやら時間がかかるみたい。

押し寄せるトロール達に、サシャが木の実を投げつけては押し返す…

まるで浜辺に寄せる波の様な事を、暫く繰り返していると…

不意に、シールケちゃんの周りだけ、闇に包まれた様に暗い影が差した。

526: 2014/06/30(月) 01:16:52 ID:p6DYyVGQ
その影をよく見ると、何かがシールケちゃんを取り囲む様にしているのが解る。

シールケちゃんの頭上には、まるで大木の切り株?太い根を幾十も伸ばす、切り株みたいな化け物が…

シールケちゃんに絡み付く様にして、空中に浮いていた。

シールケ『我が字は腐根の主』

シールケ『朽ちし木々と汚泥の長なり』

シールケ『この小さき者との盟約に従い…』

シールケ『我が体躯を這いずる獣鬼めらを…蛆どもの苗床と化さん』

527: 2014/06/30(月) 01:17:39 ID:p6DYyVGQ
シールケちゃんの口を借りて、“腐根の主”と名乗った化け物は…

スーッと消えるみたいに、シールケちゃんの体の中に入り込んでいく。

腐根の主を自分の中に受け入れたシールケちゃんは…

円陣の中で両手をついて跪くと、顔を地面に近付けていった。

シールケ『…腐れよ』

そう呟いたシールケちゃんの表情こそ見えなかったけど…

その言葉と僅かに見える口元が、普段の彼女からは想像もつかないくらい、ゾッとするほど禍々しい。

そしてその言葉の次には、彼女の小さな口から、黒い煙みたいな息が吐き出された。

528: 2014/06/30(月) 01:19:09 ID:p6DYyVGQ
大量に吐き出される黒煙の息は、広がりながら真っ直ぐトロール達に向かう。

地面を嘗める様にして進む黒煙の吐息は、青々と茂る雑草を見る間に腐らせ…

黒煙の吐息を正面から浴びたトロール達は、一瞬にして肉体が腐り落ちた。

二十匹ほどいたトロール達が、一瞬で氏滅しただけじゃなくて…

雑草も、生い茂る木々も、あっと言う間に腐れ果ててる…。

ガッツさんも凄いけど、シールケちゃんも…何て言うか…流石は魔女だわ。

腐臭の漂う中、もはや氏骸じゃなくて、単なる骨の集まりを呆然と眺めていると…

529: 2014/06/30(月) 01:19:48 ID:p6DYyVGQ
隣の魔法陣で跪いていたシールケちゃんが、スッと立ち上がった。

シールケ「…さっ、急いで浜辺に移動しましょう」

サシャ「……凄いですね、シールケちゃん。流石は魔女です」

シールケ「少し…いえ、かなり腹に据えかねていましたので」

ミーナ「えっ?」

シールケ「このトロール達は、私達が昨夜泊まった村を襲ったトロールです」

シールケ「村の女性を辱め、命を奪っただけでは飽きたらず、ミーナさんを襲いました」

シールケ「断じて赦せません」

ミーナ「……ありがと」

530: 2014/06/30(月) 01:20:30 ID:p6DYyVGQ
シールケ「…私より、ガッツさんの方が遥かに怒ってますよ」

シールケ「私はガッツさんと念話で会話する事も出来ますし…」

シールケ「ガッツさんの感情も、念話を通して解るんですけど…」

シールケ「ミーナさんを見つけた時、ガッツさんの心が、爆発する様な怒りに包まれたのが解りました」

ミーナ「………」

シールケ「ガッツさんにとって、その身に危険が及ぶ程の、激しい憎悪です」

シールケ「私の呼びかけなど、まるで届きませんでした」

シールケ「……本当に、狂戦士化しなかったのは奇跡と言えます」

531: 2014/06/30(月) 01:21:46 ID:p6DYyVGQ
サシャ「狂戦士化?」

シールケ「…それは…まあ、後ほどお話します。取り敢えず、今は浜辺に向かいましょう」

ミーナ「……うん」

サシャ「ミーナ、肩を貸します」

ミーナ「ありがと、サシャ」

私はサシャから肩を借りると、シールケちゃんと共に浜辺へと向かった。

浜辺へと向かう私達の背後からは、ガッツさんの怒声みたいな叫び声と、トロール達の断末魔…

肩越しに振り返ると、逃げ惑うトロール達に、ガッツさんが容赦なく大剣を振り下ろしているのが見えた……。

532: 2014/06/30(月) 01:23:09 ID:p6DYyVGQ