752: 2013/12/30(月) 01:34:43.16 ID:GVwU+c2+0

少しだけズレた感ありますが、クリスマスネタです。

753: 2013/12/30(月) 01:35:10.39 ID:GVwU+c2+0
12月24日、クリスマスイブ。

その日は俺にとって特別な日であり、それはきっとあいつも同じことだろう。

今から丁度一年前、今までは特になんとも思わなかった日が、特別な日へと変わった。

そして今日はその日であり、俺は起きて早々に意識せずにはいられなくなっている。

京介「……ううむ」

ベッドの上に座り込み、考える。
俺の妹がこんなに可愛いわけがない

754: 2013/12/30(月) 01:35:50.29 ID:GVwU+c2+0
京介「普通に挨拶するべきか……? それとも、何か気が効いたことを言った方が良いのか……?」

朝の7時、窓から見える爽やかな青空とは違い、俺はどうしようも無く悩んでいた。

悩んでいることは一つ。 この『特別な日』である今日……その相手にどうやって挨拶をすればいいか、だ。

つい昨日までは普通に会話をしていたし、お互いに敢えて言い出さなかったのかもしれないが、この日に関してのことは何も話など無かったのだ。

あいつ……桐乃は今、俺と同じ様に悩んでいるのか?

……俺にどう挨拶すれば良いのか悩んでいる桐乃か。 妹ながら、ちょっと可愛く思えてくる。

まあ、俺があいつのことを可愛いと思っているのは今に始まったことでも無いけれど。

755: 2013/12/30(月) 01:36:17.04 ID:GVwU+c2+0
京介「……あーくそ! 悩んでいても埒が明かねぇ!」

……よっし。 めちゃくちゃ爽やかに挨拶してやろう。 俺はやれば出来る男のはずだからな。 へへ。

京介「……ふー」

一度深呼吸をし、立ち上がる。

目指す場所は我が家の一階。 桐乃は恐らく、ソファーで雑誌でも読んでいるだろう。 さっき下に向かっていく足音が聞こえたしな。

こうして俺、高坂京介の一日が始まった。

756: 2013/12/30(月) 01:36:43.21 ID:GVwU+c2+0
京介「……」

とりあえずは様子見も兼ねて、無言でリビングへと繋がる扉を開ける。

確か昨日の夜、お袋は近所の人らとどこかへ出掛けると言っていたっけか。 親父はいつものことだが、仕事で出ているだろう。

ってことは、この家に居るのは俺と桐乃だけで、ぶっちゃけて言うとそれはある意味好都合だったのかもしれない。

やがて視界が開かれ、リビングにいつも通り居る桐乃の姿が……。

757: 2013/12/30(月) 01:37:10.67 ID:GVwU+c2+0
京介「ねえ!?」

ちょ、ちょっと待て。 これはさすがに予想外だ。 なんでいねえんだよあいつ!?

京介「……落ち着け落ち着け。 どうせすぐに戻ってくるだろ」

多分、風呂にでも入っているのかもしれない。 ここで工口ゲの主人公だったら風呂場まで確認しに行く常識の無さを発揮するのだろうが、生憎俺は常識を弁えているからな。

決してびびっているわけではない!

758: 2013/12/30(月) 01:37:36.32 ID:GVwU+c2+0
それから待つこと数分。

京介「……来ないな」

もしかして、この日の出だしから俺は間違えたのか?

桐乃が居ない理由……か。 あり得るとしたら、あいつがやっているモデルの仕事ってところだろう。

……だけど、なんか釈然としない。

あいつが今日この日に限って、仕事を入れると思えない。 はっきりとした理由は分からないけど、なんとなくそう思うだけ。

759: 2013/12/30(月) 01:38:03.64 ID:GVwU+c2+0
京介「……ん。 ちょっと待てよ」

俺はこのリビングに来てから、ずっとソファーに座って桐乃のことを待っていたのだが……わざわざ家中を探すより、手っ取り早く桐乃が外出しているか否か分かる方法があったじゃねえか。

出掛ける時は当然靴を履くだろうから、玄関に桐乃の靴が無ければアウトで、あればセーフってこと。

京介「うっし」

そうと決まれば善は急げ、確認。

760: 2013/12/30(月) 01:38:31.29 ID:GVwU+c2+0
京介「……はぁ」

結果から言うと、靴は無かった。

つまり、あいつはどこかへ出掛けているということだ。

京介「くそ……」

気分的には、出鼻を挫かれた感じ。 俺のプランだともう既に、二人で今日のことを話しているはずだったのだが……。

それが未だに、挨拶すらできていない。 下手したらそれすらままならないまま、今日が終わってしまう可能性さえある。

……それは駄目だ! ていうか、それはあいつも分かっていると思うんだけどな。

761: 2013/12/30(月) 01:38:58.00 ID:GVwU+c2+0
一応、その、なんだ。 俺と桐乃の間には色々あったわけだし。

そんな感じで玄関前で、一人色々と想像してニヤついたり顔を赤くしているときだった。

桐乃「ただいま……って何してんの?」

俺が今一番会いたい奴が目の前に現れた。

京介「お、おう!?」

762: 2013/12/30(月) 01:39:23.87 ID:GVwU+c2+0
ええっと、つまりこれはどういうことだ。

桐乃はどこかへ出掛けていて、帰ってきたってことか? そうとしか考えられない状況だし。

それに、右手に持っている袋からなんとなくそれは分かるわけだし。

……よし、よし。 まずは落ち着け。 当初の目的を思い出そう。

つうか、俺はなんでこんな緊張しているんだ! 相手は妹だぞ!? そりゃまあ、俺にとっては色々思うところもあるのは事実だけども!

えーっと……。 そうだ。

まずはあれをするべきだろう。 最初に会ったときしようと思っていた挨拶。

763: 2013/12/30(月) 01:39:50.63 ID:GVwU+c2+0
京介「……桐乃」

一度咳払いをしてから、桐乃の名前を呼び、顔を正面に見据える。

何度見ても整った顔立ちで、外の寒さの所為なのだろうか。 頬の辺りが少しだけ赤くなっている。

当の桐乃は、俺が何を改まっているのか分かっていない様子で、きょとんとした目を俺に向けていた。

京介「桐乃、メリークリスマス」

こうして俺はその日にするべき挨拶を桐乃に向けてする。 これを言えば、こいつは今日の日のことを嫌でも考えなければいけないし、俺も後には引けなくなるから。

そんな意味も込めて、俺は言ったのだ。

764: 2013/12/30(月) 01:40:22.51 ID:GVwU+c2+0
んで。

それに対する桐乃だが、こいつが何て言ったか分かるか? よし、教えてやろう。

桐乃「その、京介」

桐乃「……クリスマス、明日だけど」

本当に、正しくその通りである。

765: 2013/12/30(月) 01:41:16.36 ID:GVwU+c2+0
京介「……で、それは?」

あれから少し経ち、俺と桐乃はリビングにあるテーブルを挟んで、向き合って座っている。

桐乃「これ? 朝ご飯」

京介「朝ご飯? ああ……それでお前、居なかったのか」

桐乃「お母さん出掛けるって言うからさ、なんか無いとあれだし」

ふうん。 冷蔵庫になんか無かったのかね? 朝飯くらい適当に作れば良い物を。

766: 2013/12/30(月) 01:41:42.70 ID:GVwU+c2+0
桐乃「冷蔵庫になんも無かったしね。 買ってきたってこと」

俺の考えを読んだかの様に、桐乃は言う。

なるほどね。 その辺りを事前にチェックするしっかり具合はさすがの桐乃ってところか。

てか……そういえばこいつ、料理の方はアレだったんだっけか?

桐乃「……なんか失礼なこと考えてない?」

京介「全然」

桐乃「……チッ」

767: 2013/12/30(月) 01:42:09.52 ID:GVwU+c2+0
そう睨むなよ。 もっと仲良くやろうぜ桐乃さんよぉ。

京介「つか、それなら俺もなんか買って来るかな……」

こんな寒い中、コンビニまで歩くのさえ苦痛だけども。 何も無いんじゃどうしようもないし。

俺は言いながら立ち上がり、扉へと手を掛ける。

桐乃「……ちょっと待って」

京介「ん?」

今から極寒の地へ繰り出すというのに、引き止めてくれるなよな。

768: 2013/12/30(月) 01:42:52.04 ID:GVwU+c2+0
桐乃「その、あるから」

京介「……ある? って、何が?」

桐乃「……あんたの分も、買っといた」

あれ?

もしかして、今日って4月1日だったりすんのか? 俺が勝手に12月24日だと思い込んでたのか?

いやでも寒いしな。 それに桐乃はさっき「クリスマスは明日」って言っていたし。

ってことは、だな。

769: 2013/12/30(月) 01:43:18.87 ID:GVwU+c2+0
京介「……お前が俺に!?」

桐乃「……そ、そんな変?」

俺の驚きっぷりが予想外だったのか、桐乃は少しおどおどと言う。 多分、俺が思うに恥ずかしさってのも混じっているんだろう。

京介「い、いや……変じゃねえけど」

桐乃「ふん。 あっそ」

つんと顔を逸らす桐乃。 そんな仕草も、今となっては大分可愛く見えてくる。

京介「むしろ嬉しいくらいだっての」

俺は桐乃の隣まで行くと、そう言いながら頭を撫でる。

対する桐乃は「手を退けろ」だの「気安く触らないで」だの言わずに、黙って顔を逸らし続けるのだった。

770: 2013/12/30(月) 01:43:45.24 ID:GVwU+c2+0
なんとなくの流れで二人一緒に朝飯を食い始め、食べている間に会話こそ無かった物の、悪くは無い雰囲気でもあった。

むしろ、どちらかと言うと心地良いくらいの。

ちなみに、俺の分と言い手渡された物は殆ど俺の好物だったのもあり、かなり上機嫌である。

京介「……ほんとありがとな、桐乃」

桐乃「ちょ、何泣きそうになってんの?」

京介「お前って、すっげえ優しい奴だったんだなって思ってさ」

771: 2013/12/30(月) 01:44:10.67 ID:GVwU+c2+0
桐乃「ば、馬鹿じゃん? ったく」

桐乃「……それくらいで一々喜ばないでよ」

京介「へへ。 次は桐乃の手料理が食いたいなあ」

桐乃「……ふ、ふうん」

さて、余談。

772: 2013/12/30(月) 01:44:36.70 ID:GVwU+c2+0
この日から数日後、具体的に言うと年が明けた頃の話だが……。

今日の様に両親が居ない時、桐乃が本当に飯を作ってくれたのだ。

俺はすっげえ嬉しくて、味なんか気にせずに食べきったんだよな。

ちなみにそれから数日間、俺はベッドの上から動けなくなってしまったが、それは桐乃の料理とは関係無いと言っておこう。 兄として。

773: 2013/12/30(月) 01:45:07.68 ID:GVwU+c2+0
桐乃「おっし」

桐乃は飯を食い終わると、後片付けをし、急に立ち上がる。

京介「どした?」

桐乃「あたし部屋戻るから、なんかあったら声掛けて。 って言っても緊急時以外は呼ばないでよ?」

京介「構わんが……部屋で何すんの?」

桐乃「ふっふっふ。 良くぞ聞いてくれた! ふひひ」

ああ、大体予想付いたわ。

774: 2013/12/30(月) 01:45:39.10 ID:GVwU+c2+0
桐乃「じゃーん! クリスマス新作工口ゲー! 『聖夜の願い、妹よ永遠に』!」

桐乃「これはね、ヒロインの夜ちゃんがもうすっごく可愛いの!! PVの時点でかなりやばかったの!」

桐乃「お兄ちゃんに対して素っ気無い態度を取ってるんだけどね、その裏ではずっっっっと! お兄ちゃんの為にって頑張ってるんだよ!? チョー健気じゃない!?」

興奮して力説しているところ悪いが、そのヒロインは多分氏ぬと思う。 タイトル的に。

桐乃「そんで、クリスマスの日に夜ちゃんの願いが届くかどうかってのが主題なワケ! あー、ヤバ。 鼻血出そう」

こんな桐乃は絶対に人前には出せんな……。

775: 2013/12/30(月) 01:46:11.10 ID:GVwU+c2+0
京介「へいへい。 分かったよ。 じゃあ、本当の緊急時以外は呼ばないでおく」

桐乃「一応言っとくケド、邪魔したらマジで許さないから。 プレイした後貸して欲しかったら、静かにしててね」

今から俺の部屋でライブでも開けば、そのゲームを貸して貰わないで済むかもしれんな。

京介「りょーかい。 大人しくしてればいいんだろ?」

桐乃「……ま、京介がどうしても一緒にやりたいっていうなら、トクベツに横で見てても良いけど?」

京介「……あー」

776: 2013/12/30(月) 01:46:37.38 ID:GVwU+c2+0
一緒にやって欲しいんだろうなぁ! 絶対そうだろうなぁ!

もうちょっと素直に言えば俺も喜んで二つ返事をするってのに、こう、変に回りくどくされると……。

京介「うーむ。 一緒にやりたいんだけど、大学のレポートあるしなぁ」

桐乃「そ、そか」

うわ、すげえ悲しそうな顔してやがる。 分かりやす!

京介「……ま、でも後回しでもいっか」

京介「よっしゃ桐乃、一緒にやろうぜ。 工口ゲー」

777: 2013/12/30(月) 01:47:03.31 ID:GVwU+c2+0
桐乃「マジ!? ひひ、もぉ~しょーがないなぁ~! そんなにやりたいならあたしも断れないしぃ? 一緒にやるのを許したげよっかなぁ!

桐乃「それじゃ京介! 紅茶淹れて、クッキーが棚に入ってるからそれも一緒に持ってきてね。 あたし部屋で待ってるから」

京介「おう。 すぐに行く」

俺がそう返すと、桐乃はニコニコと機嫌良さそうに笑って、二階に続く階段を上がっていった。

ま、悪くはない過ごし方だろう。

778: 2013/12/30(月) 01:47:29.52 ID:GVwU+c2+0
二階に上がる桐乃を見送って、俺は台所へと向かう。

京介「……あいつめ」

そこにあったのは二つのカップ、二つのおしぼり。

あーんなことを言っておきながら、最初から俺と一緒にやる気だったんじゃねえか。 全く憎めない奴だ。

こうして俺は、桐乃が用意していたカップに紅茶を淹れて、トレイに乗せて二階へと向かっていったのだった。


日常的クリスマス 前編 終

791: 2014/01/07(火) 15:53:51.03 ID:NUdeml070
こんにちは。
あけましておめでとうございます。

クリスマス後編投下致します。

792: 2014/01/07(火) 15:54:43.82 ID:NUdeml070
今俺は、桐乃の部屋の前でうずくまっている。

理由、か。 話せば長くなるな。 まあ、聞いてくれ。

遡ること約一年前……なんてことはない。 精々、遡って5分ほど前のことだ。

桐乃が可愛らしく「一緒に工口ゲーやろ?」なんて言うものだから、俺はそれに乗って、これから一緒に工口ゲーをプレイすることになっていたはずだ。

ちなみに今日、クリスマスイブである。 そんな日に兄貴と一緒に工口ゲーをやる妹なんて、例え話で聞いたとしても絶対に信じられないようなことだが……。 実際、俺の妹はそうであったのだ。

そりゃ、俺と桐乃の場合は色々と特殊かもしれんが。

ていうか、それはもうこの際どうでもいい。 とりあえず遡って話すとしよう。

一年前では無く、5分前に。

793: 2014/01/07(火) 15:55:26.94 ID:NUdeml070
京介「……しっかし、俺も上手いこと使われている気がするな」

何気無く兄貴をパシリにするとはな。 まあ、トレイに乗せて予め用意していた辺り、優しいと言えば優しいのか? でも、それなら自身で運んでくれても良いような。

俺も俺で、嫌ってわけでは無いからいいけどよ。

京介「今に始まったことでもないさ」

多分、それがいつからかなんてのは考えるだけ無駄だろう。

いつまで経っても俺は兄貴だし、あいつは俺の妹なのだから。 兄貴は黙って妹の言うことを聞いてりゃいいのさ。 聞いて、話して、分かり合えれば尚良い。

これがいつも通りで、変わらない物なのだろう。

そしてそれが俺にとっちゃ、一番だ。

794: 2014/01/07(火) 15:56:10.06 ID:NUdeml070
そんなことを考えながら階段を上がり、俺の部屋の前を通りすぎ、桐乃の部屋の前へ。

京介「……あ」

ノックは一応しようかと思ったんだけど、見事に両手が塞がっていて出来ない。

トレイを一旦下に置けば良かったし、何よりドアの外から桐乃に声を掛けるだけでも良かっただろう。

しかし、俺はどうやらものぐさなようである。 トレイを下に置くこともせず、声を掛けることもせずに「どうせ今更、いきなり開けてもいいだろ」なんて考え、肘を使って器用にドアを開くことにしたのだ。

795: 2014/01/07(火) 15:56:49.41 ID:NUdeml070
京介「おーい、桐乃。 持ってきた……」

部屋の中を見ると、まず目に入ったのはデスクトップが表示されているパソコン。 そのすぐ横には先ほど桐乃が持っていた工口ゲー。

そして、丁寧にベッドの上に畳んで置かれている桐乃が先ほどまで着ていた服。

……先ほどまで着ていた服。

桐乃「……っ!」

最後に、下着姿の妹が目に入った。

796: 2014/01/07(火) 15:57:38.76 ID:NUdeml070
京介「待て!! 今俺を殴ったり蹴ったりしたらこれが溢れる!!」

桐乃「く……!」

桐乃はその言葉に寸でで襲いかかろうとしていた動きを止めた。 そして睨み合い。

そう睨まれてしまっては俺も動けず、桐乃も桐乃で何もできずに俺のことを睨む。

……つうか怖すぎだろ。 こういう時は、何か気の聞いたことを言うべきなのだろうか。

京介「き、桐乃」

桐乃「……」

京介「……その下着、結構可愛いな」

797: 2014/01/07(火) 15:58:23.68 ID:NUdeml070
その後のことは想像に任せよう。

敢えて説明するならば、それを言われた桐乃は顔を赤くして「……そう?」と言って、最後に「ありがとね」と言った。

なんてことは当然無い。 そんな簡単に物事は進まないんだぜ。 辛いよな。

実際にあったことと言えば、桐乃は一瞬目を見開き、一度深呼吸をして、俺の腹に思いっきり蹴りを入れたってことだ。

トレイは桐乃が綺麗にキャッチして、一旦床へと置き、そして再度俺に襲いかかった。

まあ、あったことと言えばこれだけだ。 些細なもんだぜ。

798: 2014/01/07(火) 15:59:17.63 ID:NUdeml070
そんな感じで俺は現在、桐乃の部屋の前でうずくまっている。 ドアは閉められ、廊下には冷たい空気がただただ流れているだけだ。

……全く、せっかくのクリスマスイブに俺は何をやっているんだか。

俺は俺で、しっかりと声を掛けるなりしていればこうはならなかっただろうし、桐乃は桐乃でやりすぎた面もあるとは思う。

しかし、俺は兄貴で桐乃は妹。 そう考えれば、悪いのは俺ってことなのだろうか。

まあ、どっちが悪いかなんてのは正直どうでもいい。 問題は桐乃と仲直りできるかどうかだ。

こんな風に真っ先に考える辺り、俺もあの頃と比べたら大分変わったのだろう。

799: 2014/01/07(火) 15:59:43.26 ID:NUdeml070
そしてそれは、俺だけでは無かったようである。

唐突に目の前の扉が開き、少しだけしゅんとした桐乃の顔が視界へと入ってきた。

桐乃「……その、ごめん。 もう良いから、工口ゲーやろ」

ちくしょう。 どうやら先手を打たれてしまったらしい。

800: 2014/01/07(火) 16:00:11.24 ID:NUdeml070
桐乃「うっ……ひっぐ……」

あれから桐乃と二人で工口ゲーを始め、今現在、こいつは号泣している。

ゲーム自体は終盤で、案の定ヒロインの夜ちゃんとやらが不治の病で倒れ、今にも息を引き取ろうとしている場面である。

こんなことを考えるのは無粋かもしれんが……この夜ちゃんとやらは、つい昨日まで元気に飛んだり跳ねたり兄貴のことをぶっ飛ばしたりしていたんだけどな……。 まるで即効性な毒薬並みの病気だぜ。

夜『……お兄ちゃん』

夜『さいご……最後に、ひとつ、お願いがあるんだ……』

桐乃「や、やだよぉ……最後なんて言わないで……」

801: 2014/01/07(火) 16:01:07.92 ID:NUdeml070
京介「……」

工口ゲーと会話してるな、こいつ。

というか、のめり込みすぎだろう。 桐乃はよく俺に「現実と工口ゲーを一緒にするな」と言っていたけれど……こいつの方こそ大丈夫だろうか。

そんな心配とも困惑とも取れる視線を俺は桐乃に向けていた。

桐乃「……ちょっと。 なに「何でこいつは泣いているんだ」みたいな目向けてんの?」

それがどうやら桐乃にはそう見えていたらしい。

802: 2014/01/07(火) 16:02:17.71 ID:NUdeml070
京介「んなこと思ってねーよ」

桐乃「ウソ。 絶対ウソ」

京介「マジマジ。 俺がお前にそんなこと思うわけ無いだろ?」

桐乃「ふうん。 じゃ、証拠見せて」

京介「……証拠?」

桐乃「そ。 あんたが本当にそんなこと思ってないなら、あんたもしっかり泣きなさいよ」

マジか!? どんな証拠だよそれ!?

803: 2014/01/07(火) 16:03:06.49 ID:NUdeml070
京介「いやいや無理だって! お前だって、感動できない物に無理に感動しろって言われてもできないだろ!?」

桐乃「は? あんた、これが感動できないの?」

京介「……まあ、はい」

桐乃「チッ……ま、いいや。 分かる人にだけ分かれば良いし」

京介「そりゃすいませんでした」

桐乃「ふん……あ」

と、桐乃は何かを思いついたように声を漏らす。

804: 2014/01/07(火) 16:03:33.37 ID:NUdeml070
京介「ん? どした」

桐乃「あんたさ、その」

桐乃「……」

京介「……なんだよ?」

やけに歯切れが悪いな。 こいつは以外と思ったことをズバズバ言う奴だとは思うんだが。

こういう感じで言い淀みされてしまうと、なんだか変に緊張するぜ。

805: 2014/01/07(火) 16:04:08.19 ID:NUdeml070
桐乃「……その」

京介「だから、なんだってんだ?」

桐乃「あ、あたしのこと……好き、なんでしょ?」

……はぁ!? 唐突に何を言い出しているんだこいつは!? なんだ、知らない内に俺は工口ゲーの世界にでも迷い込んだのか!?

ありえない……よな? 工口ゲーの世界へ迷い込んだことでは無くて、桐乃がそんなことを言い出すなんてことが、だ。

いやいや、でもこいつは現に今そう言ったはずだし……待て、俺の聞き間違いか? はは、なんだ、その可能性がまだあったじゃねえか。

ったく、驚かせやがって。

806: 2014/01/07(火) 16:05:13.24 ID:NUdeml070
京介「もう一回良いか?」

俺はこうしてもう一度、桐乃が言った言葉を確認する為に聞き返したのだが……。

桐乃は俺のことをキッと睨むと、つんと顔を逸らしてしまう。

……ふむ。 この可愛い反応はともかくとして……ってことはあれか、こいつがさっき言った言葉は聞き間違いでは無い……ってことになるのか?

……どうすりゃ良いんだ、これ。

桐乃「……」

桐乃はどうやらその先を言うつもりは無いらしい。 未だに逸らしている顔は若干だが恥ずかしそうで、部屋の中は暖かいはずなのに、頬は赤く染まっていた。

808: 2014/01/07(火) 16:05:46.51 ID:NUdeml070
京介「……桐乃」

言わなければならないだろう。 こうなってしまっては、しっかりと。

京介「好きだよ、俺はお前のことが大好きだ」

桐乃はそれを聞き、俺の方に顔は向けずに口だけを動かす。

桐乃「……あっそ」

全く面倒な妹である。 ま、そこが良いんだけどな。

809: 2014/01/07(火) 16:06:33.55 ID:NUdeml070
京介「で、話を戻すけど」

それから少し経ち、お互いにある程度落ち着きを取り戻した頃合を見計らって、俺は切り出した。

京介「それで俺がお前のことを好きってのを確認して、どうするんだよ?」

桐乃「……あんま好き好きゆうな」

桐乃は一度息を短く吐くと、続ける。

810: 2014/01/07(火) 16:07:23.66 ID:NUdeml070
桐乃「ええっとね」

桐乃「だから、このヒロインをあたしに置き換えてみれば感動できるんじゃない?」

とんでもない発想だな。 ましてや工口ゲーのヒロインだぞ。 お前に置き換えて良いのかよ。

いや、工口ゲーのヒロインってのはある意味こいつの夢である可能性も否定できないから怖い。

京介「このヒロインがお前だったとしたらか」

811: 2014/01/07(火) 16:08:05.72 ID:NUdeml070
そして、俺もなんだかんだは思いつつも考える。 この夜ちゃんとやらが桐乃だったとしたら。

こうやって今は元気に工口ゲーをやっている桐乃が、クリスマス当日……つまり明日、いきなり倒れたとして。

病院に運ばれて、窓の外を見ながら言うんだ。

「大好きだったよ。 本当は、昔からずっと」

桐乃「ちょ、何泣いてんの!?」

京介「へ? あ、ああ……」

812: 2014/01/07(火) 16:08:31.67 ID:NUdeml070
桐乃「あたしに置き換えた瞬間に泣くとかさすがにキモイって……」

うるせえ。 そりゃ泣くに決まってるだろうが。 ニヤニヤ笑いやがって。

桐乃「……ま、感動できたなら良いや。 続きやろ」

桐乃はそう言い、マウスを握り、。

夜『……あのね』

そして言う。 その最後のお願いとやらを。

813: 2014/01/07(火) 16:08:57.50 ID:NUdeml070




『……私と一緒に、氏んでくれる?』



814: 2014/01/07(火) 16:09:24.41 ID:NUdeml070
桐乃「サイアク! ほんっとサイアク!!」

京介「お前が分岐間違えたんじゃねえのか!? それで俺に八つ当たりするのはやめてくれ!!」

桐乃「だってめちゃくちゃ良い雰囲気だったじゃん! ふっつーに正規ルートだと思うじゃん!!」

京介「分かったから落ち着けって! 俺を叩くのをやめろ!」

しかし、あの台詞と共に大きなSE音と画面いっぱいに夜ちゃんとやらの顔が表示される仕組みはヤバイだろ。 桐乃の驚きっぷりと来たら面白かったけどさ。

815: 2014/01/07(火) 16:10:05.50 ID:NUdeml070
桐乃「はぁあああ……氏ぬかと思った」

京介「お前、椅子から落ちそうになってたもんな」

桐乃「仕方無いでしょ。 あれは誰でも驚くって……。 まさかこんなルートがあるなんてさぁ……」

桐乃「こんなことになるんだったら、ちゃんと説明見とけば良かった。 あたしとしたことが……」

だいぶ落ち込んでやがるな。 大方、事前に情報を全て知ったら楽しめないだとか、そんな理由で見てないのだろう。

816: 2014/01/07(火) 16:10:39.87 ID:NUdeml070
桐乃「もう今日は終わり! お風呂入ってこよっと」

京介「一緒にか?」

俺が言うと、桐乃は体をびくっと反応させ、口を開く。

桐乃「なワケあるかッ! でてけっ!!」

酷い奴だ。 軽いジョークだってのに。

817: 2014/01/07(火) 16:11:28.44 ID:NUdeml070
京介「しっかし、なんだかなぁ」

部屋から追い出された俺は自分の部屋へと戻ると、ベッドの上に寝転び、一人呟く。

京介「なんつうか……」

何だろうか。 何か違う気がする。 折角のイブだってのに、やっていることと言ったらいつも通りのことだけだ。

去年は色々と事前に準備はしていた物の、今年は特にそういったことをしていないから仕方無いことかもしれんが。

818: 2014/01/07(火) 16:11:54.66 ID:NUdeml070
桐乃がどこかへ出かけようと言えば出かける準備はしてあったし、本当に何も考えていないわけじゃない。

俺から誘う選択肢も勿論あったが、あれは中々度胸が必要な物である。 去年は聖夜たんフィギアという口実もあったのですんなりとは出来たけど、今年はなぁ。

そしてそんな感じで今みたいに悩んでいる間に、今日がやってきてしまったということだ。

京介「……」

今更考えてもどうしようもないことを考えている内に、いつの間にか俺は眠りに就いていた。

819: 2014/01/07(火) 16:12:27.95 ID:NUdeml070
桐乃「いつまで寝てんの?」

鼻をつままれて、目が覚める。

京介「……っと、桐乃」

桐乃「どうすんの?」

京介「……どうするって、何が?」

桐乃「ご飯。 もう夜だし」

言われて、窓の外に顔を向ける。

……うむ。 確かに外は真っ暗だ。

820: 2014/01/07(火) 16:13:08.73 ID:NUdeml070
京介「あー」

京介「なんか買ってくるか。 朝はお前だったし……俺が買ってくるわ」

さすがの桐乃と言えば良いのか。 朝の時点で昼の分も買って置いたようで、昼飯は全く困らなかったしな。

京介「つか、お袋はいつ帰ってくるんだよ?」

桐乃「ひひ。 それがさ、お父さんと一緒にご飯食べるから、あんた達二人で何か適当にやっておいて。 だって」

……なんだそれ、すげえ面白そうな場面だな。 見に行きたい。

821: 2014/01/07(火) 16:13:37.42 ID:NUdeml070
桐乃「仲良いしね。 お母さんもお父さんも」

京介「はは……」

だからと言って俺と桐乃を放置するんじゃねえっての。

桐乃「……あんた、お母さんたちが居ないからってヘンなことしないでよ?」

京介「しねーよアホ!」

ていうかだな。 もし本当にそう思っているなら俺の部屋に『今お風呂から出てきました』みたいな格好で入って来るんじゃねえ。 そして俺の上に馬乗りになったまま話をするんじゃねえ。

822: 2014/01/07(火) 16:14:24.58 ID:NUdeml070
桐乃「ふうん? しないんだ?」

京介「お、お前なぁ……」

桐乃「ぷ。 なにマジな顔してんの? キモッ!」

と、大変いつも通りな我が妹だ。 もうこの「キモッ」って言葉は褒め言葉にも思えてくるぜ。

桐乃「ほら、いつまでも横になってないで行くよ」

京介「行くって……飯か?」

桐乃「そ。 あんた一人に任せても不安だし、あたしも一緒に行ったげる」

823: 2014/01/07(火) 16:14:59.62 ID:NUdeml070
京介「……へえ、珍しいな」

桐乃「……問題ある?」

京介「無い無い。 一緒に来てくれるなら何よりだっての」

桐乃「ふひひ。 でしょ?」

……あれ、まさかとは思うが。

京介「……てっきり、さっきの工口ゲーが怖くて、一人で家に残るのが嫌なのかと思った」

俺が言うと、桐乃は部屋から出ようとしていた動きをぴたりと止める。

桐乃「ち、違うし。 怖くないし」

……そういうことにしておこう。

824: 2014/01/07(火) 16:22:21.49 ID:NUdeml070
それから二人で準備をして、夜飯を買いに行く為に家を出て、街灯が照らす中を歩いている。

京介「……さっむ」

桐乃「家に引きこもってばっかいるからじゃん? あたしみたいに外に出れば良いのに」

京介「人を引きこもりみたいに言うんじゃねえよ……」

桐乃「事実っしょ?」

京介「全然事実ではない! つうか、引きこもってるって言うならお前だって休みの日は殆ど部屋で工口ゲーやってるじゃねえか!」

桐乃「あれは良いの。 あたしの生きる上での義務みたいな物だから」

とんでも無い義務を課せられているんだな、この妹様は。

825: 2014/01/07(火) 16:22:51.26 ID:NUdeml070
京介「なら寒さを感じるのは人としての義務だ。 日本の四季に対してな」

桐乃「……ふうん?」

京介「……なんだよ?」

桐乃「ふひひ。 なんか偉そうなことゆうわりには、耳まで真っ赤だなって思っただけ」

京介「ほっとけ」

俺が素っ気なく言うと、桐乃は俺の前に向き合うように立つ。

桐乃「あ~あ。 もう、仕方ないなぁ……」

826: 2014/01/07(火) 16:23:20.06 ID:NUdeml070
京介「……」

桐乃「ま、京介がどーしても寒いってゆうなら……仕方ないなぁ」

なんだこのわざとらしい演技は。 見ていて若干面白いぞ。

桐乃「……」

桐乃はそのまま手に持っていたカバンに手を入れ、中にあった物を外へと出す。

桐乃「……はい。 いちお、クリスマスプレゼント」

827: 2014/01/07(火) 16:23:45.33 ID:NUdeml070
京介「……へ。 お、俺に?」

桐乃「あんた以外いないでしょ。 良いから早く受け取ってよ」

京介「お、おう……」

そうやって桐乃から渡されたのは、マフラーだった。 暖かそうな、マフラー。

828: 2014/01/07(火) 16:24:16.55 ID:NUdeml070
桐乃「……黙って見てないで、付けたら?」

京介「あ、そ、そうだな」

驚きすぎて何がなんだか分からないぜ。 ええっと、マフラーってどうやって付けるんだっけか。

さすがにそこまで馬鹿にはなっていないらしく、体がしっかりと覚えていたようで、問題なくマフラーは巻けた。

桐乃「……お。 やっぱり良い感じ」

京介「やっぱり?」

桐乃「うん。 この前雑誌で見ててさ、京介に似合いそうだなーって思って買ったの。 さすがあたし!」

829: 2014/01/07(火) 16:24:52.17 ID:NUdeml070
京介「……そっか。 ありがとな、桐乃」

桐乃「ひひ。 京介みたいに冴えないのには、そのくらいが丁度良いよね~」

褒めるのか貶しているのか分からなくなってきた……。 俺も感覚が大分麻痺してきているかもしれん。

京介「……あ、そうだ」

桐乃「んー?」

京介「桐乃、ちょっとこっち来てくれ」

いきなり呼ばれ、桐乃は少し困惑した様子だったが、意外にもすんなりと俺の傍まで寄ってくる。

830: 2014/01/07(火) 16:25:21.47 ID:NUdeml070
京介「ほら」

俺は言い、桐乃の手を掴む。

桐乃「……」

桐乃は黙って、その手をしっかりと握り返した。

京介「夜飯だけどさ、どっか食べに行くか」

桐乃「良いケド……お金あるの?」

京介「おうよ。 任せとけって」

桐乃「ひひ。 じゃあお言葉に甘えて」

831: 2014/01/07(火) 16:25:52.15 ID:NUdeml070
京介「おっし。 んじゃあ行くか」

こうして、俺と桐乃が過ごしたイブは終わる。

そうだ。 これで良いんだ。

俺と桐乃の場合は、これで良い。 俺はただ、こいつと一緒に居たいだけなのだから。

無計画が良いとは言わない。 考え無しが良いとは言わない。

時にはそれも必要になっていくだろう。

832: 2014/01/07(火) 16:26:27.19 ID:NUdeml070
だけど、今はこれで良い。

明日は桐乃を誘って秋葉原にでも行くとしよう。 折角のクリスマスだしな。 何かしらあるだろうし。

並んで歩いて、同じ道を歩いて行こう。

決して楽な道では無いだろうが、それでもこいつと一緒なら大丈夫だと俺は思う。

なんつったって、俺の妹だしな。

833: 2014/01/07(火) 16:26:58.45 ID:NUdeml070
桐乃「なーに笑ってんの?」

京介「はは、何でもねえよ」

桐乃「ふーん」

京介「あー、つうかさ」

桐乃「んー?」

京介「俺、美味しい店とか知らないんだけど、お前知ってる?」

桐乃「……普通、それあたしに聞く? 雰囲気考えてよ、雰囲気」

知らない物は知らないんだよ! 悪かったな!

834: 2014/01/07(火) 16:27:26.91 ID:NUdeml070
桐乃「ま、良いや。 京介」

桐乃「あたしに任せて」

と、笑って桐乃は言うのだった。


日常的クリスマス 後編 終

引用: 京介「行ってきます」