52: 2011/01/20(木) 04:41:24.82 ID:5bVEXwja0
「浜面」
風と共に聞き覚えのある言葉が通り抜けて、振り返る。
それは過去一番聞きたくなかった声でもあるし、現在一番聞きたかった声でもある。
「ここ、屋上だぞ麦野。歩いて来たのか?」
小さく頷く姿を視界の端で捉えた。
病室には絹旗か滝壺のどっちか……あるいは二人共……が居た筈だから、俺の場所を麦野に伝えたんだろう。
おそらく麦野を補助してここまで連れてきてくれたに違いない。
「浜面の顔、みたくて」
消え入りそうな声に、その身体を思わず抱きしめる。
「ちょ、浜面。バカ、苦しいっての」
「す、すまねぇ」
いつか自分を殺そうと向かってきた、あの麦野の身体とは思えないくらいに華奢で、少し力を入れてしまえば折れてしまいそうだった。
医者曰く麦野の右目は完全に消失してしまっていて、再生するにも元の形になるとは限らないらしい。
他にも体晶の影響で骨が溶けたり、内臓が融解してしまっていたり……。
とにかく尋常では考えられない状態になっている事だけは俺の頭でも理解できた。それじゃあ手術で……、滝壺も同意してくれた。
なんとか絹旗にも連絡をつけて、俺達が学園都市に戻った後にすぐ入院できる手はずを整えてもらった。
「と、とにかく座れよ、立ちっぱなしも体に悪いだろ?」
「ちょっと運動したくて」
「それで階段上がってきたのか?」
「うん」
「はは、そうか」
「……なんか、悪いわね。何から何まで手配してもらっちゃって」
溜息混じりの一言、白く濁るその息の中に一体何が混ざっているのか俺は知らないけれど。
おそらく学園都市の技術がなければこうして会話をしている事さえできなかっただろう。
「悪くなんかないさ、俺達は、新しいアイテムとしてやりなおすんだから」
風と共に聞き覚えのある言葉が通り抜けて、振り返る。
それは過去一番聞きたくなかった声でもあるし、現在一番聞きたかった声でもある。
「ここ、屋上だぞ麦野。歩いて来たのか?」
小さく頷く姿を視界の端で捉えた。
病室には絹旗か滝壺のどっちか……あるいは二人共……が居た筈だから、俺の場所を麦野に伝えたんだろう。
おそらく麦野を補助してここまで連れてきてくれたに違いない。
「浜面の顔、みたくて」
消え入りそうな声に、その身体を思わず抱きしめる。
「ちょ、浜面。バカ、苦しいっての」
「す、すまねぇ」
いつか自分を殺そうと向かってきた、あの麦野の身体とは思えないくらいに華奢で、少し力を入れてしまえば折れてしまいそうだった。
医者曰く麦野の右目は完全に消失してしまっていて、再生するにも元の形になるとは限らないらしい。
他にも体晶の影響で骨が溶けたり、内臓が融解してしまっていたり……。
とにかく尋常では考えられない状態になっている事だけは俺の頭でも理解できた。それじゃあ手術で……、滝壺も同意してくれた。
なんとか絹旗にも連絡をつけて、俺達が学園都市に戻った後にすぐ入院できる手はずを整えてもらった。
「と、とにかく座れよ、立ちっぱなしも体に悪いだろ?」
「ちょっと運動したくて」
「それで階段上がってきたのか?」
「うん」
「はは、そうか」
「……なんか、悪いわね。何から何まで手配してもらっちゃって」
溜息混じりの一言、白く濁るその息の中に一体何が混ざっているのか俺は知らないけれど。
おそらく学園都市の技術がなければこうして会話をしている事さえできなかっただろう。
「悪くなんかないさ、俺達は、新しいアイテムとしてやりなおすんだから」
53: 2011/01/20(木) 04:42:22.52 ID:5bVEXwja0
麦野沈利、学園都市に七人しかいないレベル五の第四位。
数度に渡り自分を殺そうと向かってきた相手と、今はこうして同じベンチに座っている。
「そう、そうだったわね」
「お前の手術が終わって、元気になったらさ。フレンダの墓参りに行こう」
「……ねぇ、浜面」
「ん?」
「やっぱり……この目、このままにしておくワケにはいかないかな……」
「フレンダの事、気にしてるのか?」
「……うん」
フレンダは俺が入る前からアイテムの正規メンバーで、麦野・絹旗・滝壺といくつもの依頼をこなしてきたらしい。
俺の中の印象じゃサバ缶が好きで「結局」と「訳よ」が口癖な人使いの荒い女……っていう印象。
第二位が所属する組織『スクール』に捕まった後、アイテムの情報を流失させて麦野の怒りを買い、抹殺された。
「言ったろ? フレンダを頃したのはお前の罪だ、でも、これからをやり直すなら、全部、綺麗に治してもらえ」
「……でも」
「過ちは消えない、それは絶対だ。麦野の罪は消えないけれど、だからってその目の傷を一生引きずっていかなきゃいけないなんて、そんな事はないんだよ」
「……」
「形じゃない、心だ。俺達がフレンダを忘れなければ、いつだって俺達はアイテムで居れる。だから、な? 麦野、ちゃんと手術を受けるんだ。いいな?」
「……わかった」
不安なのは誰だって同じだ、この先どうなるかなんて保証は一切無い。
明日を生きていけるかさえ不安定な身で、10年先の未来を見る事は愚かな事なのかもしれない。
ただ。
ただ、俺は。
俺には。
目の前で泣いてる女の子の未来までも奪ってしまう事なんかは、絶対、絶対できやしないから。
生きてこそ、生きてこそ変えられるものだってあるはずだ。
だから、その日が来るまでは、神が手招きしたって絶対そっちには行ってやらねえから。
「浜面ー、麦野ー。そろそろ冷えるんで超戻りますよー」
「風邪ひくよ、二人とも」
「わりー、すぐ行くわ。ほら、麦野、立てるか?」
「うん」
俺は、俺の日常を、アイテムを守る。
それだけだ。
数度に渡り自分を殺そうと向かってきた相手と、今はこうして同じベンチに座っている。
「そう、そうだったわね」
「お前の手術が終わって、元気になったらさ。フレンダの墓参りに行こう」
「……ねぇ、浜面」
「ん?」
「やっぱり……この目、このままにしておくワケにはいかないかな……」
「フレンダの事、気にしてるのか?」
「……うん」
フレンダは俺が入る前からアイテムの正規メンバーで、麦野・絹旗・滝壺といくつもの依頼をこなしてきたらしい。
俺の中の印象じゃサバ缶が好きで「結局」と「訳よ」が口癖な人使いの荒い女……っていう印象。
第二位が所属する組織『スクール』に捕まった後、アイテムの情報を流失させて麦野の怒りを買い、抹殺された。
「言ったろ? フレンダを頃したのはお前の罪だ、でも、これからをやり直すなら、全部、綺麗に治してもらえ」
「……でも」
「過ちは消えない、それは絶対だ。麦野の罪は消えないけれど、だからってその目の傷を一生引きずっていかなきゃいけないなんて、そんな事はないんだよ」
「……」
「形じゃない、心だ。俺達がフレンダを忘れなければ、いつだって俺達はアイテムで居れる。だから、な? 麦野、ちゃんと手術を受けるんだ。いいな?」
「……わかった」
不安なのは誰だって同じだ、この先どうなるかなんて保証は一切無い。
明日を生きていけるかさえ不安定な身で、10年先の未来を見る事は愚かな事なのかもしれない。
ただ。
ただ、俺は。
俺には。
目の前で泣いてる女の子の未来までも奪ってしまう事なんかは、絶対、絶対できやしないから。
生きてこそ、生きてこそ変えられるものだってあるはずだ。
だから、その日が来るまでは、神が手招きしたって絶対そっちには行ってやらねえから。
「浜面ー、麦野ー。そろそろ冷えるんで超戻りますよー」
「風邪ひくよ、二人とも」
「わりー、すぐ行くわ。ほら、麦野、立てるか?」
「うん」
俺は、俺の日常を、アイテムを守る。
それだけだ。
54: 2011/01/20(木) 04:43:51.13 ID:5bVEXwja0
以上です、乱文失礼。
アイテムSS増えたらいいなぁ。
アイテムSS増えたらいいなぁ。
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