191: 2014/11/10(月) 03:13:28 ID:EY00Og22
投下量の調整の為に、少しですが投下していきます
悪魔『魔王の為に、死んどきや』【前編】

192: 2014/11/10(月) 03:14:13 ID:EY00Og22

―――――――――――――――――――――

魔王城 執務室

魔王「………」ペラ… カリカリカリ

従者「……」カリカリカリ

魔王「………」ペラ… ペラ… カリカリ

従者「……」カリカリカリ

魔王「………」ペラ… カリ、…ペラ…


従者「……どした、魔王」

魔王「え?」
葬送のフリーレン(14) (少年サンデーコミックス)

193: 2014/11/10(月) 03:14:47 ID:EY00Og22

従者「いや、なんや今日はおとなしゅう仕事してるさかい。いつもみたいな独り言もあらへんしな。元気ないんか?」

魔王「そんなことないよ?」ニッコリ

従者「そか、それならええんやけど」

魔王「従者こそ、今日は不満のひとつも言わずに仕事をしてるじゃないか。珍しいんじゃない?」

従者「そ・・・そーやったか?」

魔王「うん。精霊族の村…行かなくていいの? しばらく行ってないでしょう、本当は気になってるんじゃない?」

従者「……」

魔王「お、当たったかな」クスクス

従者「まあ、気にならんっちゅーたら嘘やけどな。今は関わらんほうがええやろ」

魔王「例の、精霊族の交易の件?」

従者「そ。魔王の領地で商売やる以上、ワイみたいに魔王城のモンが新規のヤツラに肩入れしとったら、余計な妬みや贔屓を買いかねんしな」

魔王「そうだねえ。下手に“魔王御用達”とか言われても困るしね」

従者「いや、それくらいならええんやけど…」

194: 2014/11/10(月) 03:15:45 ID:EY00Og22

魔王「じゃあどういうのが困るの?」

従者「これでも一応、ワイは“魔王の右腕”を名乗ってるしな。そのワイが肩入れしとるって他の種族のやつらにバレてみ」

魔王「ふむ。まあ、目立つのは利点だよね。“あの従者に気に入られるために、ウチも精霊族のとこと手を結んでおこう”って」

従者「せやな。多分やけどほとんどの種族はそうするやろな」

魔王「…従者は、デメリットをどう考えてる?」

従者「契約を結ぶには苦しい状況の種族も、大多数がそうしているっちゅー圧で、契約をするやろ。不本意でイヤイヤにな」

魔王「ほかには?」

従者「大多数が契約をとることになれば、立派な大手商人の仲間入りや。成金ちゃうけど、昔から地道にやっとるやつらはエエ顔せんやろ」

従者「それで自分のとこの商売の邪魔されるようになるやつもでてくるやろしな」

魔王「・・・・・・そうだね」

従者「せやし、ワイは関わらへんようにしてんのや。今は精霊族の村のほうに、他の商売屋がはいってくる可能性があるしな」

魔王「村の住人たちに少し聞けば、従者が村おこしに関わった事はすぐにバレてしまうんじゃないかな。突然現れた村だ、誰もが関心をもってるに違いないよ」

従者「もちろん手はうっとる。今の話をわかりやすう説明して、エノコロに村の連中以外のヤツらにワイのことをしゃべらへんようにゆっといたわ」

195: 2014/11/10(月) 03:16:33 ID:EY00Og22

魔王「ああ…なんていうか、アレだよね」

従者「なんや?」

魔王「従者は本当に、手が早いよね」ニッコリ

従者「せやろせやろ。先手必勝や。せやけど褒めてもなんもでーへんで」

魔王「褒めたりしないよ、そんな真面目な話をベッドトークでするような“右腕”のこと」

従者「」ブハッ


従者「……おい、魔王。またヒトの様子を盗み見しとったんかいな」

魔王「えー?」

従者「すっとぼけても無駄や! 説明しとったんを見てたなら、なんでこんなことわざわざ聞きなおすねん!!」

魔王「え? いや、本当に見てないよ。でもまあ今までの様子からして、そういう真剣な話になるといちゃついてるしさ。ちょっとカマかけてみた」

従者「な゛」

196: 2014/11/10(月) 03:17:10 ID:EY00Og22

魔王「本当に手が早いよね。正直こういうことって初めてだけどさ、予想外だったから俺びっくりだよ」

従者(……………コイツっ…!!)プルプル

魔王「やだなー。流石に“殺戮モード”に入るのは勘弁してねー? 怖いよー?」アハハ



魔王「でも… そっか。従者は精霊族の交易を本当に応援してるんだね」

従者「まあ、発展に力貸してる村やしな。賑わうようにしてやりたいわな」

魔王「うん… そうだね」ニッコリ

従者(……?)


・・・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・

197: 2014/11/10(月) 03:18:02 ID:EY00Og22

―――――――――――――――――――――


それから、精霊族は順調に交易の範囲を広げていった
商隊を4組に分け、それぞれ別方向に散っていくというやり方だった
地図で見ると、丁度 魔王の領地のはじにある魔樹の森から根を伸ばすように交易の範囲を広げていくつもりらしい

正直、商売としてはあまり利口ではない
売り物である商品も数に限りはあるし、それを分配してしまっては“品数”はさらに減る…需要に充分に対応できるとは思えない

さらに非力の種族だ。少人数で行動すれば、襲われた場合にはあっという間に全滅だろう。
荷を乗せる車を守る態勢すら取れないままに。連絡用の使いを逃がすことすらも出来ないままに…皆頃しにされてもおかしくない

だが、それは精霊族の知恵なのだという。そういわれてはこちらも口出しは出来ない

非力な種族で、さらに少人数だからこそ 相手も警戒を緩める。温厚で平和主義の一族は、そうして相手の懐にやわらかく溶け込むようにしていくのだと

もとより、争うことなど 視野に入れてはいないのだと…、笑って聞かされた。

198: 2014/11/10(月) 03:18:37 ID:EY00Og22

従者(単にエノコロがアホなだけかとおもっとったら、ほんまに商隊のにーちゃんも そーゆうしな。…精霊族っちゅーんは、ようわからん種族やで)


基本的に、好戦的なものが多い魔物達
戦いを嫌う物達は、だいたいは小心がゆえに隠れ住む物達、あるいは多種族を嫌う物達が多い


その中で、精霊族のやり方は間違いなく異例だった
そしてそれも当然かと思わせるような温かみを、従者は精霊族の村で体感していた

だから……
だからこそ。従者はそのイレギュラーの中で、その思考力を鈍らせたのだろう

・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・

199: 2014/11/10(月) 03:20:36 ID:EY00Og22

――――――――――――――――――――――

そして、しばらく経ったある日…

魔王城 執務室


魔王「………」カリ…カリ…

従者「………」カリカリカリカリ

魔王「……はぁ」カタン

従者「…………」カリカリカリカリ


魔王「今日は…いい天気だねー」ノビー

従者「あ? ああ・・・せやな。いい天気ゆーても、このあたりは瘴気で薄暗いけどなぁ」

魔王「こんな日はさ、仕事なんかしないで ゆっくり昼寝でもしてたいんだけどな」

従者「あほ。最近、魔王そんなんばっかりやん。仕事のペースおちてんのわかっとんで」

魔王「え。そんなにおちてるかな」

200: 2014/11/10(月) 03:21:26 ID:EY00Og22

従者「まあ、一日分はちゃんとやっとるけどな。時間はかかっとるやろ」

魔王「…そっかぁ。じゃあもうちょっと頑張ろうかな」

従者「……まあ、前に仕事かわってもらったしな。たまにはええで、休んできても。変わりにやっといたるさかい」

魔王「え、いいの?」

従者「すっかり忘れてたけどな、魔王に貸しなんかつくったままにしとくのイヤやし。思い出した以上は、さっさと返してまうに限る」

魔王「そんなことを言われると、もうすこし貸しを作ったままにしておきたいなぁ」アハハ

従者「ええから素直に返させぇ。ほれ、その書類束 こっちに寄越しーや」

魔王「うーん… じゃあ、お願いしようかな」ガサ

ピッ

魔王「痛っ」

従者「魔王? どないした?」

201: 2014/11/10(月) 03:22:10 ID:EY00Og22

魔王「あー… 紙で、指の腹んとこ切っちゃったー」

従者「なっ」

魔王「だいじょぶだよ、すぐ治るから」

従者「おい、魔王」

魔王「…ああほら、もう血が止まった」

従者「血、って・・・」

魔王「はい。傷口、ふさがった。ね、大丈夫だったでしょ?」ニコ

従者「・・・・・・どういうことや」


魔王「どういうことって。そりゃ、自己治癒能力のタマモノ…」

従者「そうやない!!!!」

魔王「……」

従者「なんで! 魔王が、紙なんかで指先を切って、ましてやそれで血ぃがでて!」

従者「そんでもって、なんでそれを癒すのに、十数秒も時間がかかるんや!!!」

202: 2014/11/10(月) 03:22:43 ID:EY00Og22

従者「ホンマやったら、そんなもんノーダメージやろ! ダメージあったとしても、傷を負ったんを確認する間もないうちに回復してるやろ!?」

従者「それがなんで! 血なんかだしとんねん!!!」

魔王「迂闊だったね」

従者「何が!」

魔王「こんなことでうっかり怪我なんかしなければ、従者に余計な心配をさせずに済んだのになぁって」ニッコリ

従者「…説明しぃ」

魔王「えー…せっかく お昼寝タイムもらったのに」

従者「仕事も昼寝も無しや! ちゃんと聞かせてもらうで!」



従者「魔王。なんでそんなに弱っとるんや…!!」

魔王「……」

・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・

203: 2014/11/10(月) 03:23:35 ID:EY00Og22

従者「精霊族が… 清き、存在?」

魔王「魔物として認知している以上、魔物という分類を書面上ではするけれどね。おそらくあれは、魔物ではない」

魔王「おそらく、というか・・・ まず、間違いなく」


従者「…なら、あれはなんやねん」

魔王「俺らとは、魔逆の存在かもしれない」

従者「魔逆?」

魔王「俺にだってよくはわからない。とても信じられないけれどね。たとえば、魔王がいるのならば… 神がいるとしてもかしくはないだろう?」

従者「は…? 精霊族が、神だとでもゆうんかいな」

魔王「あるいは、それに属する存在。たとえば… 魔王に仕える悪魔がいるようにね」

従者「神に仕える、天使…ってか」

魔王「天使のような微笑だしね、彼女」クスクス

従者「魔王、こないなときに冗談なんか…」

204: 2014/11/10(月) 03:24:44 ID:EY00Og22

魔王「正体はわからない。だが、そういう“魔”と対なす存在なのはどうやら確かなようでね…そうなると、神だの天使だのという空想話になるのも仕方ないよ」

従者「…“確か”なこと、なんやな?」

魔王「……彼女らの持つ、“シンキ”とやら。おそらく、あれのせいだろうね」

魔王「国中から集まるべき瘴気、魔力… そういうものが、遮断されていっている」

従者「!!」

魔王「おそらく、精霊族の交易路。あれが、障壁になってしまっていてうまく回収できていない。国中に、瘴気と魔力の淀みが生まれている」

従者「な……」

魔王「居心地のよい魔の土地が… 清き気によって、穢されている」

従者「いますぐに精霊族の村に行く。交易は、やめさせるわ」

魔王「いや、構わないよ」

従者「構わないわけあるかい!」

魔王「本当に、構わない。やらせておいていいよ」

205: 2014/11/10(月) 03:25:42 ID:EY00Og22

魔王「実際はどうであれ、俺は精霊族を“魔物”として迎え入れ、国内に村を作ることを許したんだ」

魔王「“この魔王の領地において、全ての魔物はその益と財産、法によって管理された自由を侵されない“」

従者「…・・・ちっ」

魔王「俺自身の決めた法だからね。破るわけには、いかない」

魔王「彼らが魔物で、俺の領地に住む限り。そして多種族に悪意を持って混乱を招き、騒動を広げない限り、その権利は保障される」

魔王「その権利が侵されるのは… 唯一」


魔王「魔王により、制裁が必要と判断された場合のみだ」

従者「……止めたら、それは制裁になるっちゅーんか…」

魔王「魔王による制裁を受けた種族は、村八分のようなものだ。多種族からは“関わりあいたくない”と避けられるだろうね」

206: 2014/11/10(月) 03:26:21 ID:EY00Og22

従者「……くっそ。なんでもっと早くいわんかってん、魔王」

魔王「ふふ。これくらいの魔力遮断があったって そうたいした問題じゃないからね」

従者「せやけど、実際に弱っててそーやって傷が…!」

魔王「これくらい、癒せるよ。俺を誰だと思うの?」

従者「……魔王や」

魔王「よく、できました」ニッコリ

従者「………」



魔王(従者が、応援したい者がいるというのなら。俺も、おまえくらいは応援してみたいんだよ)


・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・

207: 2014/11/10(月) 03:27:28 ID:EY00Og22

――――――――――――――――――――――――

魔樹の森 精霊族の村…の、はずれ


精霊「……え? 魔王様が?」

従者「せや…」


従者「そやさかい、交易について自重してくれるように、伝えてもらえへんか。これはもちろん正式なもんやない。ワイの…個人的な、エノコロへのお願いや」

精霊「も、もちろんです!! そんな、まさか私たちの交易で魔王様にご負担をおかけしているなんて、そんな、そんなことは私…!!」

従者「ワイかてそうや、魔王は何もいわへんかったし…気づかんかった」

精霊「なんて…なんて申し訳ないことをしてしまったのでしょう・・・! この村を興すに当たり、たくさんの協力をしていただいた恩人でもありますのに!!」

従者「いや、恩人ちゅーか、国主なんやけどね」

精霊「それで…、それで 魔王様のご様子はいかがなのですか?」

従者「大丈夫や、魔力供給が遮断されとるゆーても、ほんの一部やしな。血の巡りが悪いようなモンで、時間はかかるけどキチっと回復もしとるさかい」

精霊「そう、ですか・・・」ホッ

208: 2014/11/10(月) 03:28:24 ID:EY00Og22

従者「…魔王は、気にするなっちゅーけどな。交易も精霊族に与えた権利のひとつやーゆうてる」

精霊「魔王様・・・」

従者「せやからワイがこういったところで、それを絶対にしなアカンっちゅーよーなことでは無・・・」

精霊「いいえ! いいえ、それは違います、従者様!」

従者「え」

精霊「知らずとは言え、大変なお方にご迷惑をおかけしたのです。本来ならば、一族ごとその制裁とやらを浴びてもおかしくないのです!」

従者「まあ、そうやけど…」

精霊「私たち精霊族が、悪意をもってしたことではないと信頼していただいたがゆえのご処置であると思います」

従者「ああ…まあ、アホがつくほど平和な種族やて、ワイも魔王にゆーてるしなぁ…」

精霊「ぐっ。…そ、それでありますならなおさらです!」

従者「?」

209: 2014/11/10(月) 03:29:01 ID:EY00Og22

精霊「信頼とは築こうと思ってできることではないのです。一度失ってしまった信頼は、二度目は容易には築けないものだと思っております」

精霊「ですので、いただいた信頼は決して崩させはいたしません」

精霊「私たち精霊族は、平和主義の温厚な種族であると…そう信じていただけるのであれば。私たちは誠意を持ってお応えします、従者様」

従者「エノコロ…」

精霊「他を傷つけていると知りながら、自分たちの益を求めたりなどしない。知ってしまった以上、その過ちは悔い改めましょう。そう、お約束いたします」

従者「……堪忍な。ありがとう、エノコロ」

精霊「いいえ。こちらこそ、申し訳ありませんでした…」

従者「今回、ワイがきたのは 他のみんなには黙っといてな」

精霊「ですが、魔王様に きちんと謝罪をさせていただかないと…」

従者「ワイがつたえとく。エノコロは精霊族の代表や。代表と魔王の間で、遣いをはさんだ秘密裏のやりとりがあってもおかしゅうない」

精霊「……」

210: 2014/11/10(月) 03:32:03 ID:EY00Og22

従者「きちんと、ゆーとくよ」

従者「せやから。もーちょっと、安心しぃな…。あんま、ワイの心配事ふやさんといて」

精霊「え…?」

従者「顔色、真っ青や。魔王よりよっぽど体調わるそうやで、エノコロ」

精霊「…・・・私など」

従者「どれ、デコだしてみ」ピト

精霊「ひゃ…」

従者「…ひゃっこいなあ。ほんまに血の気が引いてもうてるやないか」

精霊「……従者様…」

211: 2014/11/10(月) 03:32:48 ID:EY00Og22

従者「すぐ帰るつもりやったけどな。魔王が無事でも、エノコロがこのまま倒れたら目覚め悪すぎや」

精霊「え?」

従者「血の気、もどるまで。エノコロが元気でるまで。もーちょっと、ここで看といたるわ」

精霊「……ありがとうございます、従者様…」

従者「……ん」




?「もうすこし。……もうすこしなんだ…! うまく、やってくれ…」


・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・

215: 2014/11/12(水) 12:29:05 ID:EP1AmvYA

―――――――――――――――――――――

精霊族の街

精霊「従者様。本日は、おいでいただきまして誠にありがとうございます!」ペコリ

従者「お、おう。って、なんやのこの様子は…。 なんや、催事やっちゅーのはきいとったけど」


ザワザワ…
ヨウコソ!精霊族ノマチヘ!
アクセサリーハ、イカガデスカ―?

精霊「ふふ。今日は、春祭りのお祝いをしているのですよ」

従者「春祭り?」

精霊「はい。年頃の子が上手く花をつけ、実をつけられるように…まだ幼い子たちは、夏に向け多くの若葉をつけられるように、と」

216: 2014/11/12(水) 12:31:06 ID:EP1AmvYA

従者「つーても、ここじゃほとんどが若者ばっかりやないか」

精霊「はい。本来はそれぞれの家庭でお祝いをする子供のためのお祭りなのですが…」

従者「なるほど。みんなして若いもんだらけやから、街中がお祭りになってもーたってことか」

精霊「そうなのです。皆とても張り切っておりまして…せっかくなので街中を解放してのお祭りになったのですよ」

従者「で、ワイにもお誘いの手紙を寄越したと」

精霊「魔王様のお城に手紙を出すのは、とても緊張しますね・・・」

従者「文字が書けるヤツがおるんやな、びっくりしたわ」

精霊「あ、そうなのです。商人の方々の中には、精霊族の古来の文字の他に、現在の文字を扱う方がいまして…」

従者「あ。もしかして、あのにーちゃんか?」

精霊「あ、従者様は彼に面識があるのでしたね」

従者「一回話したっきりやけどな。そうか、あの手紙を寄越したんはあいつやったんか」

精霊「彼は青年党のリーダーをしています。今回のお祭りの発案も主催も、彼なんですよ」ニコッ

従者「へぇ。たいしたもんやな」

217: 2014/11/12(水) 12:31:50 ID:EP1AmvYA

精霊「そう、ですね。この街の中では彼は古株ですから…賢い方ですし」

従者「古株て。どんだけ若い古株よ」

精霊「精霊族は年齢順にその地位を重ねるのですよ」クスクス

従者「ああ…。そやな、エノコロが一族の代表なくらいやしな。年功序列に文句言うつもりはないんやけど、あんま利口ともいいきれんなぁ」

精霊「ちなみに彼は“第二世代”といわれる世代のリーダーですが、その…」

従者「? どしたん」

精霊「……あの、従者様。覚えておいでですか? 私が若葉に捧げた祈りのことを」

従者「ああ、覚えとんで。精霊族として育てやすいように、っちゅーやつやろ」

精霊「あの時の若葉が、彼なのです」

従者「そうやったんか。それで?」

精霊「その前に私と従者様でお育てした若葉たちが、本来ならば“第一世代”でリーダーになるはずだったのに…」

従者「おお、あんときのがきんちょ共な。せや、そいつらはどうしてる?」

精霊「………」

従者「エノコロ?」

精霊「それは・・・」

218: 2014/11/12(水) 12:32:39 ID:EP1AmvYA

ガサ

?「こんばんは、ご使者様。それに猫さんも。こちらにいらっしゃいましたか」


精霊「あ…」

従者「ああ…噂をすればっちゅーやつやな。久しぶりやな、にいちゃん」

精霊「……」

従者「エノコロ?」

青年「すみません、ご使者様。猫さんも・・・お邪魔でしょうか?」

精霊「私をそう呼ぶのはやめてください、青年さん」

青年「猫じゃらしなのですから、猫さんと。可愛くていいでしょう? 族長と呼ぶべきなのでしょうが、似合わないですし」

従者「族長…。あかん、そんな風によばれてるエノコロ見たら わろてまうわ」クク

精霊「じゅ、従者様まで…」

青年「あはは。ですよね? それとも僕も、“エノコロ”とお呼びしてもいいでしょうか?」クス

精霊「絶対に イヤです!!!」キッパリ

219: 2014/11/12(水) 12:33:12 ID:EP1AmvYA

従者「えっ… すまん、いややったんか…。ほならワイもなんか呼び方は改めるさかい、堪忍してや…」

精霊「ち、ちがいますよ!? 従者様でしたら、いかようにもお呼びくださって結構なのです! むしろ今までどおりエノコロとお呼びください!?」ワタワタ

従者「お、おう…」

青年「ひどいなあ。どう思います? ご使者様。この通り、僕は猫さんに毛嫌いされていましてね」ハハ…

従者「エノコロが、毛嫌い?」

青年「婚約を申し込んだら、ふられてしまいまして。それ以来、こうして避けられているのですよ」

従者「え」

精霊「ち、違いますよ、従者様。私は婚約なんて絶対に…」

従者「い、いや。ええんちゃうか? 同じ精霊族同士だし、族長の若い娘と青年党のリーダー… 身分的にも問題はないやろし…」

精霊「っ」ズキ

青年「ふふ。さすがご使者様ですね。お話をわかっていただけて光栄です」

従者「あー…」

220: 2014/11/12(水) 12:33:46 ID:EP1AmvYA

従者「ま、まあ なんちゅーかな。もしかしてアレか? 兄ちゃん、それでワイらの話しとるとこに割ってはいってきたんか?」

青年「いえ! とんでもありません、そんなつまらないやきもちは焼きませんよ。あはは」

従者「そか。それならまあええけど… 精霊族には精霊族のやり方がある。ワイには、はいりこめへんような文化もあるやろさかい…」


従者「せやさかい…… 邪魔やったら、そう言ってな?」


精霊「従者様! そのようなこと!」

青年「お気遣いありがとうございます」ペコリ

青年「ご使者様のお話は猫さんからきいておりますので・・・この街にも、あまりおいでにならないようにしていただいている、と」

従者「…そやな。手紙もらってきたけど、ずいぶんと久しぶりやったわ」

青年「ええ。ですので、本日こちらにおいでいただいたのも“何かのついで”というわけでもありませんでしょうし」

従者「?」

青年「ですので、このような祭りにお呼び出しをしてしまったお詫びと感謝を伝えに、お邪魔させていただいたのですよ」ニコ

221: 2014/11/12(水) 12:34:19 ID:EP1AmvYA

従者「ああ、そやったか。気にせんでええのに、律儀なやっちゃな」

青年「ご挨拶をきっちりと。商人としてやっておりますので、そのあたりははずせない性分でして。ご歓談の最中に邪魔をしました」

精霊「……」

従者「おう、招待ありがとうな。街の様子なんかは魔王に報告させてもらうけど構わへんな?」

青年「ご使者様も、お仕事熱心な方ですね。もちろん構いませんよ、ごゆっくり見て回ってください」

従者「ん、あんがとさん」

青年「猫さん。ご使者様のご案内はお願いしていいですか?」

精霊「え?」

従者「……ええんか? ほんまは にーちゃんが…」

青年「振られた身で、猫さんと見て回ることもありませんし。かといって、猫さんを差し置いて 僕がご使者様をご案内しては…」チラ

精霊「~~~っ」

青年「ただの嫌がらせと思われて、余計に嫌われかねませんので」ハハ…

222: 2014/11/12(水) 12:34:56 ID:EP1AmvYA

従者「エノコロ… おまえ、大人になりーや・・・」

精霊「わ、私の問題なのでしょうか!?」

青年「すみません、ご使者様。そういった事情ですので、主催者である僕がご案内できない失礼をお許しください」

従者「おまえも苦労してんやなぁ・・・」

青年「ご、ご使者様に言われてしまうと…。困りましたね、嫌味ではないのでしょうが…」ポリポリ

従者「あー・・・ そ、そやな。 なんか、すまんな」

青年「あはは・・・。じゃあ、僕はそろそろ失礼します。今日は忙しくしておりますので、もしかしたらお帰りの際のご挨拶が間に合わないかもしれませんが…」

従者「ああ、ええで。気ぃつかわれんのも面倒やし、自分のことだけしといてや」

青年「ありがとうございます。では…」


青年「ごゆっくり、おたのしみくださいませ」ニッコリ


・・・・・・・・・
・・・・・・

223: 2014/11/12(水) 12:35:28 ID:EP1AmvYA

春祭り

精霊「おいしいですねー」モグモグ

従者「食いモン以外もえらいことになっとるな。精霊族は工芸品が得意なんか?」

精霊「自然に存在するものの細工が得意なのは確かですよ。でも、鉱石とかは苦手ですね」

従者「え、このあたりに売ってるアクセサリーとか… 石ちゃうんか? もしかして鼈甲?」

精霊「そのオレンジのやつですか?」

従者「オレンジサファイヤとかそういうもんちゃうんかいな」

精霊「それは琥珀です。樹液の化石とも言われるものです、特産品ですよー」

従者「へえ… これが琥珀か。絵写真とかではよう見るけどなあ、やっぱホンモンをみて区別するのは難しいな」

精霊「こういったものの色味や輝き・質感は 知識だけでは区別できないですよね」

従者「せやな。やし、こういうもんを見るのはわりと好きやねん。文字情報以外っちゅーのはいつだって新鮮や。頭んナカが補填されてく気がする」

精霊「ふふふ」

224: 2014/11/12(水) 12:36:01 ID:EP1AmvYA

従者「…なんやねん」

精霊「ウィンドウショッピング好きな、従者様。ちょっと意外で、おもしろいです」

従者「へんなことゆーなや…」

精霊「これは琥珀のブローチですね、ひとつ買い求めましょうか」

従者「エノコロがつかうんか? ええで、買ったるよ」

精霊「ふぇ!? い、いえ!! そんな!」

従者「なんや、おねだりでもしとるんかと思たわ」

精霊「おねだりだなんて/// じゅ、従者さまに、と思いまして!」

従者「は!? ワイがつけるんかいな!?」

精霊「きっと、お似合いですよ?」

従者「琥珀ねえ・・・ まあ、綺麗なもんやけどな。って なんやこれ」

225: 2014/11/12(水) 12:36:41 ID:EP1AmvYA

精霊「あ、気づきましたか?」

従者「なんかはいっとるな、この琥珀の中」

精霊「それが、精霊族特有の加工技術です。琥珀の中に、好きなものを閉じ込められるのですよ」ニコニコ

従者「これは… 水?」

精霊「ですかね? おそらく中が空洞になっていて、そこに水を入れてあるのでしょう。ほら… 光に当てると揺らめいて…」

従者「おお…すごいな。琥珀のカット自体だけでも光の反射に濃淡が出来るのに」

精霊「揺らめく水で、その濃淡すらも一定とならない」

従者「これは… なんや、ずっと見ていたくなるなあ・・・。買おかな」

店主「毎度! ありがとーございます!!」

従者「ああ、袋はええわ。そのままもってくさかい」

店主「はーい、ではお代金のほうが……」


・・・・・・・・・
・・・・

226: 2014/11/12(水) 12:37:12 ID:EP1AmvYA

従者「ほんまに買ってしもた… しっかし綺麗なもんやなあ…」

精霊「お買い上げ、ありがとうございます!」

従者「着けるっちゅーより、観賞用やけどな。アクセサリーとしては持ち腐れやわ」

精霊「ふふ。その琥珀が羨ましいですね」

従者「なんで羨ましい・・・? エノコロ、腐れたいんか?」

精霊「ちがいますよ!」

精霊「例え本来の用途ではなくとも・・・従者様にずっと見ていていただけるのなら、きっと嬉しいです。ちょっと、ヤキモチ…なんて?」ニコ

従者「…あほ」

精霊「えへへ…」

従者「ほな、こうしたろ」

精霊「?」

従者「このへんやろかね」カチャカチャ…プチ、パチ

精霊「じゅ、従者様? 何を…」

227: 2014/11/12(水) 12:38:13 ID:EP1AmvYA

従者「お、似合うとんで。やっぱアクセサリっちゅーのは女が着けへんとね」

精霊「従者様?」

従者「こないなことでヤキモチやかれてもかなわんしな。着けとき」

精霊「ですが、これは従者様がお気に召して買い求められたものですよ!」

従者「そや。おきにいりやね」

精霊「でしたら、私がいただくわけには!」

従者「あほ。誰もやるとはゆーとらんわ」

精霊「え? ええ?」

従者「着けとき。見に来るから」

精霊「え…」

従者「ずっと見てたくなるもん、あっちこちに増やしてもしゃーないしな。エノコロにつけときゃ、ちょうどええわ」

精霊「従者、さま… その、つまり、それって… わ、私のことも…?」

従者「知らんわ。ほれ、いくで」

精霊「あっ」

228: 2014/11/12(水) 12:38:44 ID:EP1AmvYA

従者「なんか飲みもんでも買って、休憩しよかー。ほれ、さっさとせんとおいてくでー」

精霊「ま、待ってくださいっ! いきます! いきますから!!」

従者「案内役が案内されててどーすんのや、ほんっまトロいなー」

精霊「!? 甘いムードっぽかったのにっ!?」

従者「ワイにそーゆーの求めんといてー 無理やわそんなん」

精霊「ぅぅぅ/// ちょっと意地悪ですよ…」

従者「悪魔やからね」

精霊「悪魔なんかじゃないですよっ」プンプン

従者「せやな。出来損ないの悪魔やったわ。しかも」ポフ

精霊「ひゃっ」

229: 2014/11/12(水) 12:39:18 ID:EP1AmvYA

従者「なんや最近、エノコロのせいで ほんまに駄目悪魔になっとる気するわ」ポフポフ

精霊「……えへへ。従者様は、悪魔なんかじゃないです。私が、させないです」ニコ

従者「営業妨害やわ」

精霊「ふふふ」


その日、祭りは朝まで続いた
賑わう露天、はしゃぐ若者
炎によって、仄暗い赤銅色に染め上げられた街並み
美しい歌声が、どこよりか響いて流れ去る


悪魔を幸福の渦中に堕としたものは
なんだったのだろうか


その罪は
その責は

どこにあるのだろうか


・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・

230: 2014/11/12(水) 12:40:00 ID:EP1AmvYA

―――――――――――――――――――

魔王城

魔王「おまつり、たのしかった?」ニコッ

従者「おう、えらい盛況しとったで」

魔王「うん、聞いてる。どうもいろいろな種族が参加していたみたいだよ」

従者「ああ…おったな、そういや。なんやコソコソしてるやつらいたわ」

魔王「新しい街だからね、偵察…ってとこかな」

従者「せやろな。きっと毒気ぬかれて帰ってったんちゃう? 褌で踊っとるアホとかおったしな」

魔王「驚くなかれ」

従者「何や?」

魔王「どうやら、あの攻撃的で警戒心の強いフェンリル君たちのところからも視察が出ていたようだよ」

従者「うっそやん!」

231: 2014/11/12(水) 12:40:33 ID:EP1AmvYA

魔王「ほんとー。少数部族で動かないのにね。あんな場所まで視察を出させちゃうなんて、注目度高すぎだよね」

従者「ワイ、フェンリルがきとるのに気付かへんかったわ…。よっぽど強いヤツをだしてたんやな、こりゃ…」

魔王「せ、精霊族が変なことするつもりだったら 街ごと焼いちゃう気だったのかもね?」

従者「うわ… ありうるから怖いわー…」

魔王「まあでも、なんか面白い話もあるみたいじゃないー?」

従者「なんもないで?」

魔王「えー? 精霊ちゃんの、マル秘・婚約話とかは?」

従者「」ブハ

魔王「いやー、なんかなかなか 頭のキレそうな青年だったねえ、彼。モテるんだろうなぁ」

従者「なにがいいたいねん…」

魔王「別に? あっさり乗り換えられなくてよかったねぇ、っておもって?」

従者「乗換えとかちゃうし!!!」

232: 2014/11/12(水) 12:42:10 ID:EP1AmvYA

魔王「えー? 贈り物とかして手堅くキープしてたじゃーん」

従者「おま… ちゃうわ!! あともういいかげんに見るのやめーや!!!!」

魔王「だからね、監督義務という言葉を…」

従者「先にプライバシーっちゅー言葉を覚えろゆーとるんやって!!!」

魔王「でもあれだね。あの青年・・・ ちょっと、気をつけn…… あ…れ?」 


魔王「っ!」ガクンッ

従者「魔王!?」


従者「どないした!」ガタッ

魔王「……っ、これ、は・・・・・・」グラ… フラッ


従者「魔王!」

魔王「あ… しまった、やられた…ね」ガクガク…

233: 2014/11/12(水) 12:42:46 ID:EP1AmvYA

従者「やられた…?」

魔王「うん…」



魔王「国中に 重複する巨大結界を張られた… 今、一斉に起動したようだ」

従者「!」

魔王「魔の領地が浄化されていく。これは…」


フラッ…


魔王「…・・・戦争に、なるよ」


ドサッ…


従者「魔王!!!」


・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・

234: 2014/11/12(水) 13:56:26 ID:EP1AmvYA

――――――――――――――――――――――

魔王城 魔王の寝室


魔王「……あ。あれ… 俺…?」

従者「…目、覚めたか」


魔王「あ、従者・・・ ごめん、俺 寝てた?」

従者「寝てたっちゅーか・・・ 倒れてたわ」

魔王「情けないねえ」アハハ


従者「……もう、大丈夫なんか?」

魔王「んー… どうだろう」

モワ… シュワワ…
パチパチ…

従者「一応、瘴気もだせるみたいやな」

魔王「うん、でもやっぱり入ってこないね。出したら出したっきりだ」

235: 2014/11/12(水) 13:56:57 ID:EP1AmvYA

従者「…結界ってやつか?」

魔王「うん。いきなり循環供給がとまったから、ちょっとバランス崩したみたい」

従者「……」


魔王「大丈夫だよ。俺の中だけでも十分すぎる量の瘴気が入ってる。少し力を使うのはセーブしないと、いつか使い果たしちゃうかもしれないけどね」

従者「精霊族・・・」

魔王「ふふ。決め付けちゃうの?」

従者「いや、決定や」

魔王「決定・・・?」

従者「精霊族より、魔王城に宣戦布告があったんや」

魔王「・・・・・・そっか。なんて?」


従者「『我等の領地を再び。全ての聖なる生き物に住み良い世界を。穢れた魔王に浄化を』……やて」

魔王「……」

従者「……」

236: 2014/11/12(水) 13:57:30 ID:EP1AmvYA

魔王「あはは・・・ 穢れた魔王、かー。ひどいなぁ」

従者「………何が、穢れや・・・ 魔物にとってはあいつらの言う浄化された世界なんてもんこそ氏地や・・・」


魔王「ほかの魔物達の反応は?」

従者「弱い魔物達は、それぞれの巣にこもってる。非常事態や、魔王城からも警戒のために何匹か動けそうなヤツを派遣しといた」

魔王「そう、ありがとう。浄気にあてられて、弱って氏んでしまう魔物がいないといいのだけれどね」

従者「それから… 戦闘力の強い魔物達が、各部族から数匹づつ。既にこっちに向かってきてるっちゅー連絡がはいっとる」

魔王「俺の護衛のつもりかな、必要ないのに・・・。まあ、直接 精霊族の村に殴りこまないだけマシかな」

従者「……氏にぞこないの小物どもは、もうドンパチやっとるみたいやわ」

魔王「そっか……」


魔王「もう、はじまっちゃってたんだ」

従者「ああ。 戦争や」

237: 2014/11/12(水) 13:58:07 ID:EP1AmvYA

魔王「・・・・・・そっか」

従者「・・・・・・」


魔王「やっぱり、こうなるか…」ハァ

従者「なんで…… なんで、こんなん…」

魔王「まあ、こうなっちゃうだろうなとは思ってたよ。……俺が手を出して止めない以上はね」

従者「予想しとったんか、魔王!」


魔王「うん。精霊族が増え始めた頃、いっただろう?“不穏な魔力反応がある”、と」

従者「…エノコロの、祈りのことやな」

魔王「新しく産まれて、新しく全てを創りだそうとしていれば、産まれなかったかもしれない未来」

魔王「でも彼女は、孤独の労に耐え兼ねて。一時の愛情を求めて…過去に、すがってしまった」

従者「過去・・・?」

魔王「衰退して滅びた、愚かな記憶」

238: 2014/11/12(水) 13:59:14 ID:EP1AmvYA

従者「あいつらは・・・なんで、滅びたんや?」

魔王「さてね。でも、彼らが魔物でないと確信したときにはもうこの予想はついていた」

従者「まさか… 魔物や、先代のどっかの魔王が…?」

魔王「その可能性は高いだろうね。浄気を吐き出す精霊族・・・ その正体は、よくわからないものだけど」


魔王「“魔”にとって、精霊族が 有毒な生物であることに間違いはないのだから」


従者「・・・・・・魔に族するもんに、滅ぼされた一族だったっちゅーんか・・・」

魔王「そうじゃないかなって。推測だよ」


魔王「ただ、生き残りの種族はその歴史をつむがなかった。平和な種族だからこそ、その血塗られた歴史を抹消しようとしたのかもしれないね」

従者「あるいは、弱いもんやから戦争には参加せず・・・ただ、事情もわからず逃げ隠れたヤツだけが生き残ったか」

魔王「事実は闇の中さ。全ては過去に置き去りだ」

239: 2014/11/12(水) 13:59:47 ID:EP1AmvYA

魔王「……でも、彼女はその過去を蘇らせてしまった」

従者「種子に残された・・・ 魂か、遺伝情報か。そこにのこされた『精霊族の記憶』、やね」

魔王「この戦争の主導者にでも聞けばわかるのだろうね。“前回の”精霊族の滅亡の理由は・・・」

従者「っ… 前回とか、ゆーてやんなや・・・」


魔王「…歴史を繰り返してしまうのは、あの時点で決まってしまったのかもしれない」

従者「なんや・・・。つまり、それは…」


従者「…ワイに会いたくて。寂しくってしたことが、あいつらの繁栄の未来を閉ざしたっちゅーことかい…」

魔王「……」


魔王「未来なんて不確かなものだよ、従者。あるのかないのかすらわからない」

従者「なんや、それ… どーゆー意味や」

240: 2014/11/12(水) 14:00:22 ID:EP1AmvYA

魔王「精霊族からの、一枚の申請書」

魔王「魔王城に送られてきた申請書。永年に眠るはずだった申請書」

魔王「・・・どうして、魔王城に送られたんだろうね。精霊族ならば、人間の王城に送ってもおかしくはないのに」

魔王「それに、俺はどうしてあそこまでして、ソレを選びたかったんだろうね」

魔王「それは、まだわからない。だから俺は手を出さずに・・・その行く末を見守りたかった。こうなることを予想しても、ね」


従者「その行く末ってやつが・・・ こんな、ひどい結果になるかもしれんっておもってても、沈黙したっちゅーんか」

魔王「逆だよ、従者」

従者「逆・・・?」

241: 2014/11/12(水) 14:00:52 ID:EP1AmvYA

魔王「もしかしたらさ。 一時的にでもあそこまで発展し、種族としての記録を後世に残せること自体、出来すぎた話かもしれないんだ」

魔王「その種族の記録を残せることが、俺たちにとって有意義なことなのかもしれないんだ」

従者「なにを・・・」

魔王「つまりね これが、精霊族にとっても俺たちにとっても…」 



魔王「“いまある未来の中で”、最良の結末かもしれないっていう話だよ」ニコリ

従者「………っ!」


・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・

242: 2014/11/12(水) 14:03:11 ID:EP1AmvYA

―――――――――――――――――――――

精霊族の街


バタバタバタ…

オイ!避難ハスンダノカ!
南区、警戒態勢完了!
ソノ箱、早クモッテコイ! ……


精霊「もうやめて! どうしてこんなことをするんですか!?」

青年「猫さん、あなたは奥へ。おそらくもうしばらくすれば、ほかの魔物達も攻め入ってくるでしょう。ここは危険です」

精霊「そうじゃないでしょ!? どうしてこんな、裏切るようなことをするのですか!?」

青年「裏切る?」

精霊「魔王様は、私たちを信頼してくれて、この街を興すのにもたくさんの協力をしてくれました!」

青年「信頼・・・」

243: 2014/11/12(水) 14:03:44 ID:EP1AmvYA

精霊「それに! 交易路で魔王様のお体にご負担をかけてしまったときも、快く許してくださいました! それなのに、それなのにどうして!!!」

青年「ご負担、ね」

精霊「精霊族は、信頼に応えるものだと!」

精霊「何よりも信頼を大切に思い、その信頼のもろさを知り! だからこそ信頼しあい、慈しみあうことの出来る種族なのだと、私は父に習いました!!」

青年「その通りですよ、猫さん」

精霊「だったら、なぜ!!」



青年「最初に裏切ったのは あいつらだから」


精霊「……っ」

244: 2014/11/12(水) 14:04:16 ID:EP1AmvYA

青年「どうして俺たちは、自分のことを魔物だなんて思っていたと思います?」

精霊「それは… 他に何も、判断できる資料も伝えも残されていないから…」

青年「違いますよ?」

精霊「え…?」

青年「騙されたのですよ。人間に追われ、住処を失った俺たちは 魔の領地と聖の領地の狭間で生きていた」

青年「そんなある日 当時の魔王が・・・ 魔物として領地に入ることを許したのです」

青年「そして僕らは、魔物になった」

青年「そして。当然のように、わかりきっていたことなのに・・・・・・」


青年「浄気を吐くという理由で。魔王の号令により、魔物達に殲滅されたのです」

精霊「!!」

青年「あっという間ですよね。僕の種子に残された記憶は今でも鮮明ですよ」

青年「ほんの少し、日帰りの商いで出掛けていただけでしたが、帰ってみれば氏体の山ですから。それはひどい景色でしたよ。思い出すことより、忘れるほうが難しい」

精霊「な・・・ なんで、そんな」

245: 2014/11/12(水) 14:04:49 ID:EP1AmvYA

青年「信頼を裏切った。裏切るほうは簡単ですよね、痛みも少ないでしょうし」

青年「それで、いまさら。裏切られたほうの気も知らずに 信頼しようだなんて・・・」


青年「そんな都合よく、成り立つようなものじゃないんですよ」ニッコリ


精霊「青年さん!」ガシッ

青年「猫さんから迫られるとは、嬉しいですね」

精霊「一体、一体 何をしたというのです!? 裏切られた過去を忘れられないのはわかります! ですが、どうしてこんなことになっているのです!?」

青年「簡単ですよ? 交易をしていただけです」

精霊「な・・・ だって、それは やめてくださるって・・・」

青年「ええ。それまでは堂々と結界を描きながら交易にでていましたからね。それはやめましたよ」

精霊「結界・・・?」

青年「ええ。まあ代わりに…」

246: 2014/11/12(水) 14:06:13 ID:EP1AmvYA

青年「国中に、結界の起動術式を 埋め込みましたけどね?」ニッコリ

精霊「それは… それは、一体・・・?」


青年「素直に防護結界だけ張らせておけばよかったのに。見逃すのか止めるのか、決めなくちゃいけなかったのにね」

青年「元々、交易路はその線だけで結界にできるはずだったのに」

青年「その結界の線が、大量の小さな結界によって編み上げられているなんて…… きっと、相当に、辛いんでしょうね?」クス


精霊「そ…んな・・・ そんな・・・」

247: 2014/11/12(水) 14:06:46 ID:EP1AmvYA

精霊「やめて! 今すぐ、その結界を止めてください!!」ガシッ、ギュウウ

青年「誰か! 猫さんを奥に連れて行ってください」

精霊「!?」

精霊族「はい」ガシ

精霊「いや!! やめてください、青年さん!!」

青年「全てが落ち着いたら。もう、婚約の心残りであるあの人も・・・いなくなってくれますよ」ニッコリ

精霊「!!!」ビクッ

・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・

248: 2014/11/12(水) 18:28:48 ID:EP1AmvYA

――――――――――――――

魔王城 魔王の寝室

魔王「……ここからでも、領内の混乱が見え始めたね」

従者「城下に、結構な数の魔物達が集まったようやで」

魔王「そう。じゃあ挨拶くらいはしないとまずいかな」ヨロ

従者「フラついとるやんけ・・・魔王、大丈夫なんか」

魔王「うーん…気が、浄化されていってるのが厳しいね。このままだと領地内の魔物達はちいさいものから氏んでいってしまう」

従者「魔王、もしかして・・・?」

魔王「うん。なるべく、瘴気を散らしてる」

従者「そんなん・・・!」

249: 2014/11/12(水) 18:29:44 ID:EP1AmvYA

魔王「多分、全部を出し切れば 領地だけでなく世界だって一瞬で瘴気に染め上げることも出来るんだろうけどね…ちょっと無駄も多いし」

従者「そんなん、すんなや!」

魔王「ま、さすがにそんなことまでしてあげられるほど、自己犠牲の精神は持ち合わせていないから安心して」クスクス

従者「~~そうやなくて。 今だって、調整の程度だとしても、瘴気を放ち続けていれば魔王のほうが…」

魔王「確かに、さ」


魔王「俺がいれば、俺さえ健在なら どんな魔物だって俺が新たに創り出すことはできるよ?」

従者「・・・・・・せや。せやさかい、みんなこうして魔王のことを守ろうと・・・」

250: 2014/11/12(水) 18:30:17 ID:EP1AmvYA

魔王「でもさ。いくら俺が魔物を創れるからって・・・ 氏んでしまう魔物達の痛みを取り除けるわけじゃないんだ」

魔王「氏んでしまう者の苦しみや恐怖、残された者の悲しみや恨み。そういうものは 俺ではどうしようもないんだ」

魔王「……ここで、そういったものの数を減らす。調整し、管理する。領土の気を整える。それが俺の 一番大切な“仕事”だからね」ニッコリ

従者「……そやな」


従者「支度を手伝う。行こう、魔王」

魔王「ありがとう」


・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・

251: 2014/11/12(水) 18:31:55 ID:EP1AmvYA

魔王城 城下

ザワザワ……
ザワザワ……


従者「控えろ!」

魔物達「「「!!」」」


従者「皆、集まっているな。ご苦労。魔王より宣旨がある。聞け」

魔物達「「「………」」」シーン…


魔王「やあ、みんな」

魔物A「魔王様… 魔王様だ」

魔物S「ご無事だったのだな、よかった・・・」

252: 2014/11/12(水) 18:42:14 ID:EP1AmvYA

魔王城 城下

ザワザワ……
ザワザワ……


従者「控えろ!」

魔物達「「「!!」」」


従者「皆、集まっているな。ご苦労。魔王より宣旨がある。聞け」

魔物達「「「………」」」シーン…


魔王「やあ、みんな」

魔物A「魔王様… 魔王様だ」

魔物S「ご無事だったのだな、よかった・・・」

253: 2014/11/12(水) 18:43:00 ID:EP1AmvYA

魔王「心配を掛けたね。領地内の気量の減少で、苦しい思いをした者も多かろう。みんな、無事?」

魔物達「「「魔王様に栄光を!! 魔王様に安寧を!!」」」

魔王「あはは・・・ 俺、それ苦手っていうか 嫌いなんだけど。まあ昔からの習慣だから仕方ないね」アハハ

魔王「さて、本題だ。精霊族による謀反行為だが… 皆、怒りもあることだろうとは思う」

魔物達 ザワザワ… ザワザワザワ…

従者「静粛に!!」


魔王「精霊族に対する、攻撃。魔王よりの指示は現時点で・・・無い」

従者「!?」

魔物E「魔王様!?」

魔物P「どういうことですか!」

魔物Z「精霊族に報復をしないというのですか!?」

魔王「ああ。申し訳ないね、君たち」

254: 2014/11/12(水) 18:44:19 ID:EP1AmvYA

魔王「精霊族は本来、浄気の中で生きる生物らしい。魔の領地で生きるのは辛く苦しいこともあるだろう。そしておそらくその困難な状況に引き込んだのは“魔王”だ」

魔王「一度くらい、目をつぶろうとおもってね。交渉の場を設けたい」

魔王「すでに渦中となってしまった現在で、どれだけ先方に話をつけられるかはわからないけれどね」

魔王「その交渉が成立し、この結界を解いてさえくれれば・・・全てを不問と処す」

魔物「「「!?!!?」」」


魔王「安心して、その交渉までは 俺が領地内の気量については調整する。辺境のあたりは少し息苦しいかもしれないから…そうしたらこちらに避難してほしい」

魔王「今は もうすこし。静観をしてほしいんだ」ニッコリ

魔物達「「「…………」」」

255: 2014/11/12(水) 18:44:52 ID:EP1AmvYA

従者(魔王の代になってはじめての、全領土・全種族を巻き込んでの全面戦争)

従者(魔物達の被害をおさえるんに、魔王が自分で手ぇ下すかとおもってたけど…まさか・・・)

魔物達「「「ザワ… ザワザワ…」

従者(こんだけの状況になってなお 静観する、なんちゅーんは…)


魔王「ごめんね?」ニッコリ

従者(とてもじゃないけど 抑えられるとは おもえへんで…)ハァ


?「ふざけるなあああああああああ!!!!!!!」

魔王「っ」

従者「チッ… なっ!?」スチャ

256: 2014/11/12(水) 19:24:00 ID:EP1AmvYA

精霊族「ふざけるな! 何がいまさら、静観だ!!」


魔物D「精霊族!?」ザッ

魔物R「精霊族だ! こいつ、ぬけぬけと入り込みやがって…!」チャキン!

魔王「皆! 手を出すな!!」

魔物達「「魔王様!?」」

魔王「……そこの精霊族。前へ」

従者「道を開けてやれ」


精霊族「くっ…舐めてるのか」

魔王「そこにいたのであれば、聞いたであろう。交渉の場を設けたい。お前らのところの首謀者に伝えてほしい」

従者(首謀者……たぶんやけど、あのにいちゃんやろな…)

257: 2014/11/12(水) 19:39:38 ID:EP1AmvYA

精霊族「交渉なんかするもんか! 俺は聞いたんだ!」

魔王「なんのことだ」

精霊族「お前らがいるせいで、俺らは昔 ひどい目にあわされたって! 魔王なんかいないほうが、世界は幸せなんだって!!」

魔物達「「こいつ!?」」

精霊族「俺らは本当は魔物なんかじゃなくて! もっと明るくて広くて綺麗な場所で、みんなで幸せに暮らしてたんだって! それを全部壊したのが魔王だって! 聞いたんだ!!」

魔王「聞いた聞いたって… おまえ自身の考えではないのか…?」

精霊族「知らない! 俺はそんな記憶は持ってない!!」

従者「まさか… おまえ」


精霊族「俺は精霊族・第一世代のリーダー! 一族代表のエノコログサ様に代わって、魔王を討伐する!!!」

従者「あんときの 若葉のガキンチョ…!!」

258: 2014/11/12(水) 19:40:29 ID:EP1AmvYA

精霊族「食らえ、魔王!!」キラリ

魔王「……それは、琥珀? え、投げるつもり?」

バシッ!

魔王「痛っ。 って、まさか 琥珀の投石とは…参ったね」クス

魔物L「貧弱な種族め、なんて無礼を…」

魔物K「待て、その琥珀 見覚えがあるぞ。それは確か…」


魔王「え?」

ジュワアアアアア!!!


魔王「!!!!」

従者「魔王!?」

精霊族「聖水入りの琥珀水晶だ! 穢れた身を清めるがいい!!」

従者「なんちゅーこと…!」

259: 2014/11/12(水) 19:41:45 ID:EP1AmvYA

魔王「っ、ぐ…。 いや、まいったね これ…は」

魔物H「貴様!!」

魔王「まて! ……みんな、大丈夫だから。 手を出すんじゃないよ?」ハハ

精霊族「どこまで人を侮辱すれば気が済むんだ 魔王…!!」

魔王「すまない。ただ、話し合いがしたいだけなんだけどね」

精霊族「その口! 二度ときけないようにしてやる!!」バッ

従者「なんちゅー数の琥珀を仕込んで…」

魔王「はは、あれ全部は流石に痛いなあ。万全だったらどうってこともないんだろうけど」

従者(というよりこれは…!)


精霊族「食らえ!!!!」


ザシュ

260: 2014/11/12(水) 19:42:21 ID:EP1AmvYA

精霊族「…が…… あ…?」

フェンリル『……グルルル…』

精霊族「あ… 俺、氏…?」

従者「おい! 大丈夫か!」

精霊族「エノコログサ様… おねー、ちゃ… ごめ…」

ガクン

従者「~~~~~ちっ」

従者「フェンリル、おまえ…! 魔王の命令を!?」

魔王「………」

フェンリル『このままでは こいつも引けぬだけであろう。魔王に一矢報いたのだ、こやつには十分すぎる』

従者「がきんちょ…」

261: 2014/11/12(水) 19:44:06 ID:EP1AmvYA

フェンリル『己の意思をも持たない、傀儡。少しは己の意思で、想う者もあったようだがな』

従者「エノコロのために…やったっちゅーんかい…」

従者「なんで、そんな風になてもうたんや…」


~~~
従者「エノコロに教える分には『知識』だからええねん。おまえらみたいに未熟なんに教えたら、それが『常識』になってまうやろ」
~~~

従者「…刷り込まれてしもうたのか」


魔王「……フェンリル」

フェンリル『はい。命令違反の御処罰でしたら、いかようにも』

魔王「……いや。俺を守ろうとしたことだし、緊急事態だった」

262: 2014/11/12(水) 19:45:45 ID:EP1AmvYA

フェンリル『……魔王、済まない。心痛は察する』

魔王「うん… ありがとう」ニコ

フェンリル『俺のしたことの意味は、わかっているつもりだ…』

魔王「……いや。仕方の無いことだったんだ。君は何も負い目を感じることは無い」

フェンリル『……ああ。必要だったと判断した。その上での行動だ、処罰は任せよう』


魔王「フェンリル候」

フェンリル『はっ』


魔王「魔王の緊急を手助けした事、感謝する。褒章をとらす、後日改めて参れ」

フェンリル『ありがたき、お言葉…』

263: 2014/11/12(水) 19:47:11 ID:EP1AmvYA

従者(……これで。精霊族制裁のための舞台は… 整ったっちゅーことや…)

魔王「精霊族を、魔王の目の前で殺処分してしまった。先ほどの交渉はもう決裂ということになるだろう。皆、心して待機せよ」


魔王「戦争となる。必要な休息と準備があれば、今のうちに整えておけ」

従者「……」グッ

魔王「追って、指示を出す。控えて待て」

魔物達「「「「うぉぉぉぉおおおお!! 魔王様万歳!! 魔王様に栄光あれ!!!」」」


従者「……」

魔王「……それは嫌いなんだって、言ってるんだけどね」ハハ…


・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・

264: 2014/11/12(水) 19:47:44 ID:EP1AmvYA
ハッシュドビーフ焦がしたから中断します

268: 2014/11/14(金) 03:27:39 ID:GScHx0lM

――――――――――――――――――

魔王城 玉座

魔王「さて…忙しくなるね」

従者「………」

魔王「従者、指示をひとつ出してもいいかな」

従者「ああ… ええで。なんや。“殲滅”か?」

魔王「まさか」クス


魔王「精霊族の街へ向かえ。首謀者及び一族代表に接触しろ」

従者「!」

魔王「話をしておいで。……号令を出してしまえば、もう間に合わない」

従者「っ……」グッ

269: 2014/11/14(金) 03:29:15 ID:GScHx0lM

魔王「従者…」

従者「……それは、指示なんか。なんの意味があるんや」

魔王「さぁね… “きまぐれ”かな」

従者「いつぐらいにおっぱじめるつもりや?」

魔王「夜。月が、真上に昇る頃… 瘴気の最も濃い時間帯だから。魔物達も動きやすいだろう」

従者「5時間もないやんけ…」

魔王「本気を出せば、行って帰ってこれるだろう? …悪魔・カーシモラル」

従者「ちっ… きっついこというわ」

魔王「うん… でも、このまま何も言わずにすれちがうのは…きっと、悲しいよ」

270: 2014/11/14(金) 03:29:53 ID:GScHx0lM

魔王「後悔を残さないようにね。きっちり、自分の中で物事の整理をつけてくるんだ。そうでないと…」

従者「わかっとる!!」

魔王「……」


従者「くっそ……。 いってくる」


魔王「うん。いってらっしゃい」ニコ…


・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・

271: 2014/11/14(金) 03:30:23 ID:GScHx0lM

――――――――――――――――――

魔樹の森 精霊族の村近く

ガササササッ!


従者「…………」

従者(ちっ… 結構な数になっとるな、精霊族。まあ非戦闘民族やし問題はないけど…)

従者(……エノコロ、がんばったんやな)


ガササッ!

従者「!」サッ!

精霊族R「……んだと!? 魔王が!?」

従者(……あれは。先走りの伝令か?)

272: 2014/11/14(金) 03:30:53 ID:GScHx0lM

精霊族L「ああ、やられた… くっそ、ふざけやがって…!」

精霊族R「ともかく、青年様に報告を。急げ!」

精霊族L「許さねえ…! あいつら、どこまで俺たちを馬鹿にしやがるんだ…!!!」


従者(がきんちょの他にも、魔王城にきとった精霊族はおったようやな。まあ、当然やけど…)

従者(だとしたら、きっと。あのがきんちょが一人でしでかしたことやないっちゅーんなら…)


従者(鉄砲玉に、されたんか)ギリッ…


従者「………」ソッ…

精霊族 キョロキョロ…


従者(行こう。まずは…エノコロの所や)


・・・・・・・・・・・
・・・・・・・

273: 2014/11/14(金) 03:31:28 ID:GScHx0lM

精霊族の街


精霊「………」ガクガク…

精霊(ああ…っ なんて、なんて恐ろしいことになってしまったのでしょう!?)ブルッ

精霊(私は、こうして奥の間に押し込められて… 何も出来ないのでしょうか…)

精霊(もうすこし、私に知恵があったのならば)

精霊(どうにか、どうにかできたのでしょうか…)


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
青年「婚約の心残りであるあの人も・・・いなくなってくれますよ」ニッコリ
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

精霊「っ!」ブルッ!

274: 2014/11/14(金) 03:31:59 ID:GScHx0lM

精霊「従者様… 従者様、従者さま… どうか、どうか」

精霊「どうか、ご無事でいてくださいませ…っ!!」


従者「呼んだか?」ヒョイ


精霊「!?きゃぁあああ!?」

従者「シッ!」ガシッ

精霊「~~~~~~っ!?」

従者「エノコロ… 無事やったんやな」ギュゥ

精霊「あ… じゅうしゃ、さま…? うそ…?」

従者「うそちゃうよ。……魔王に言われてな。密偵みたいなもんや」

精霊「密偵…。では、精霊族を…」ゴクリ

275: 2014/11/14(金) 03:32:52 ID:GScHx0lM

従者「……エノコロ、確認したい事があんねん。わかる範囲でええ。答えてや」

精霊「は、はい」

従者「今回の、魔王への謀反。首謀者は誰や」

精霊「………それ、は…」

従者「……あの、にいちゃんやな?」

精霊「……」

従者「エノコロ…?」

精霊「~~~っ」ポロ

精霊「う… うう… っく、ひっく」ポロポロ

従者「どうした、泣かんといて」

276: 2014/11/14(金) 03:33:35 ID:GScHx0lM

精霊「…っせ、精霊族の行いは、全て私… 一族代表を務める、私の責にあります…」

従者「……」

精霊「このような、このような事になっても… 精霊族代表として、その責を全うせずに仲間を売るような真似はできないのでございます…」ポロポロ…

従者「エノコロ……」

精霊族「誰が悪いのかと尋ねられれば。それはひとえに、私が及ばぬが故の事なのです…」

精霊「ごめんなさい… ごめんなさい、従者様…っ」

精霊「魔王様にも… 本当に… 申し訳のないことでございます……」ポロポロ…

従者「エノコロ…」

精霊「…っ、ひっく、う、うぇ、うぅぅ……」ボロボロボロ…

従者「もう、泣くなや… 今は責めてるわけとちゃうから…」

精霊「ひっく…っ。…う…く。とり…取り乱してしまい、申し訳ありませ…っ」ヒック

従者「ええよ… しゃーないことや」

精霊「……」グス

277: 2014/11/14(金) 03:34:09 ID:GScHx0lM

従者「そや……もう一個、大事なことが…」

精霊「はい、どのようなことでも…」

従者「あのな、エノコロ。 あの、ワイらで育てた若葉のことやけど…」

精霊「あ……。 ごめんなさ…っ 大切に育てると、お約束をしましたのに…っ!」

従者「なんや… もう、知っとんのか」

精霊「……」フルフル

従者「じゃぁ…?」

精霊「何をしたのか…どうなったのか……」ブルッ

精霊「い、今となると 恐ろしい考えばかりしか浮かばなくて…っ」

従者「……」

278: 2014/11/14(金) 03:34:40 ID:GScHx0lM

精霊「きっと、きっと 私の予想は当たっているのだとおもいます…」

従者「…ああ、そうかもしれんな」

精霊「お聞かせ、ください…。聞かねばならぬ立場でございます…」

従者「……魔王に単身でケンカ売ってな。聖水の入った琥珀を投げつけたわ。ようやるで」

精霊「!!」

従者「ほんま無茶しよったで。あんなことするんは、後にも先にもあいつくらいやろな」

精霊「それで… それで、彼は…?」

従者「……魔王が無抵抗なのに激情して大量の琥珀を次いで投げつけようとしたさかい…“処分”されたわ…」

精霊「ああっ!!」

従者「……無謀やけどな。あんな怖いものしらずやわかってたら、ウチでスカウトでもしとったらよかったわ…」ハハ

精霊「ごめんなさい…! ごめんなさい、ごめんなさい…!」

279: 2014/11/14(金) 03:35:13 ID:GScHx0lM

従者「あんな風なヤツちゃうかったと思ったけどな。まあ何があったんかは…聞かんでもわかるわ」

精霊「……ぅ」

従者「エノコロ?」

精霊「私は……ずっと、気づけなくて…」

従者「……」

精霊「いつの頃からだったかもはっきりとしない…。情けないことです…」


精霊「この平和な街で、『ねーちゃんは僕らで守ってやるからな』…なんて言うようになって。私はそれがおかしくて」

精霊「何から守るつもりなのかなんてことを、考えもしませんでした」

精霊「彼らが何を考え、何をするつもりだったのかなんて…」ポロ

精霊「~~~っ 本当は、気づけたはずなのに…っ!」ポロポロ

280: 2014/11/14(金) 03:35:48 ID:GScHx0lM

従者「エノコロ、落ち着きや… 悪いのはおまえやなくて…」

精霊「私のせいです!」

従者「ちがうやろ? エノコロはなんも知らんと、巻き込まれただけで…」

精霊「族長でありながら、何も知らないだなんて…! そんなことは許されないのです!」

従者「っ! 族長とか…!」

精霊「それが精霊族の業ならば、その全ては私の責でございます! 全て、私の落ち度が招いたことなのです…!」ヒック、ヒック…

従者「……そんなん…なんで…不条理すぎるやろ…」

精霊「全部… 全部、私のせいなのです……」ポロポロ……



従者「………古の種族、か」

281: 2014/11/14(金) 03:36:21 ID:GScHx0lM

従者(その文化は厳格で誇り高い。歴史の記憶をもたなくとも、その生き方は根付いとるんか…)

従者(……ほんま利口とはいえへんで。 そんなんは、美しいかもしれんけど残酷や)


従者(性善説が実現しよるような“理想郷”にでも生きないかぎり、うまくいきっこあらへん)

従者(ほんまに。 精霊族っちゅーんは、“天国”出身なのかもしれへんな)


ガヤガヤ・・・!
ザワザワッ!!!


従者「っ、なんや? 急に騒がしゅうなったな・・・?」

精霊「今度は、何が・・・」

282: 2014/11/14(金) 03:36:56 ID:GScHx0lM

バタバタ・・・

精霊「誰かがこちらに!?」

従者「ちっ」

従者「ともかく、静かに。落ち着いて。ワイが来てることを知られたら今は困るんや。黙っといてくれるか?」

精霊「は、はい・・・それは、必ず!」

従者「よし、ほなすまん。ちょぉ、ワイの事 隠してな」

精霊「え・・・?」

従者「」ポンッ


従者(犬)「邪魔するで」スルッ

精霊「ひゃ!? す、スカートの中に!?!?」

従者(犬)「さすがにこの状況でココをめくるやつはおらへんやろ」

精霊「~~~~そ、それはそうですがっ」

283: 2014/11/14(金) 03:37:30 ID:GScHx0lM

従者(犬)「なんや? バレそうか?」

精霊「~~~~~~な、中を見ないでくださいねっ!?」

従者(犬)「あほか。こんな時にパンツみたってなんとも思わへんっちゅーねん。それともフリか?」

精霊「ふ、フリ? よくわかりませんが見ちゃ駄目ですからね!? 絶対ですよ!? 絶対駄目ですからね!!」

従者「なんや、やっぱフリなんか。ほな… おお、まさかの…」

精霊「~~~~~っ//」

従者(犬)「って、つまらんことやらせんなや。はよ静かにしいや。バレてまうやろが」

精霊(~~~~~っ こんな気持ちはとても言葉に出来ません!!!)クッ


ドンドン!

精霊「は、はい!」

従者(犬)(……)

284: 2014/11/14(金) 03:38:04 ID:GScHx0lM

ガチャ

青年「失礼、猫さん。すみませんでした、長いこと閉じ込めるような真似をして…」

精霊「青年さんでしたか…」

青年「ああ…よかった。ずいぶん落ち着かれたようですね?」ニコリ

精霊「え?」

青年「お顔の血色もずいぶんよくなったようですし。…というより」

青年「…少し閉じこめすぎましたか。僅かに赤いくらいです。興奮していらしたようですし、暑かったのでしょうか」

精霊「~~~~~よ、余計な話は結構です!」

従者(? いやいや、真っ青な顔して泣いとったがな)

青年「そうでしたね」クス

285: 2014/11/14(金) 03:44:00 ID:GScHx0lM

青年「では本題に移らせていただきましょうか」

精霊「話とは…?」

青年「第一世代・リーダーが 魔王の手の者により殺されました」

精霊「……っ」

青年「おや、本当に落ち着かれたようですね。もっと取り乱すかと思っていました」

精霊「……続けてください」

青年「平気なのですか?」

精霊「私は全てを知る義務があり、全てを知る権利があります」

青年「確かに。一族代表であるエノコログサ様は 精霊族の全てに実権をお持ちでいらっしゃいますね」ニコリ

精霊「話してください。あなたが何をしているのか、何をするつもりなのか…!」

青年「ここまできて、ようやく決心が付いたようですね。嬉しい限りです」

286: 2014/11/14(金) 03:44:37 ID:GScHx0lM

ザワザワ…
ウォォオオ!! ワァァッ!!


精霊「…っ この、外の騒ぎは一体なんですか」

青年「現在、集会場では魔王城に偵察に行った者達の報告がされています」

精霊「!」

青年「第一世代のリーダーの氏を、皆が悼んでいるのでしょうね」ニコリ

従者(っ!!)

精霊「あなたは…! 仲間の氏を、このような戦を鼓舞するために利用しているのですかっ!!」

青年「利用だなんて人聞きの悪いことを。あくまで報告ですよ」

精霊「ですが!」


ワァァァァッ!


精霊「!」

287: 2014/11/14(金) 03:45:09 ID:GScHx0lM


倒セ! 倒セ! 倒セ! 倒セ!
世界ニ平和ヲ! 世界ノ浄化ヲ!!
払エ! 払エ! 払エ! 払エ!
世界ノ悪ヲ! 魔王ノ穢レヲ!


従者(……!)ギリッ

精霊「あ… なんて、こと…」

青年「みんな、とても仲間思いですからね。いい仲間たちに恵まれたと思います」


青年「ね。そんな仲間たちに慕われて… 猫さんも、幸せでしょう?」ニッコリ

精霊「―――っ」


・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・

288: 2014/11/14(金) 03:46:27 ID:GScHx0lM

――――――――――――――――

魔樹の森 出口

ザザザ…

従者「……ちっ、遅うなってもうたな」シュタッ 

従者「報告の時間、取れるやろか… せめて開戦の号令に間に合えばええんやけど…」

従者「……くそ。なんちゅーアホなやつらや…」


精霊の街は、異様な盛り上がりを見せていた
すっかり頭に血が上り、上気した顔で狂信的な雄たけびをあげる若者たち

その後、青年が集会場に出向き演説をして、それはピークを迎えた…

精霊族は、魔王に対して全面対決を挑む
もはやどのような言葉をかけようと、通じないのは明白だった

289: 2014/11/14(金) 03:46:58 ID:GScHx0lM

従者(馬鹿なことを。あいつらがどれだけ煮えたぎろうと、魔物全体を敵に回して勝てるはずもないやろが…)

従者(今は、魔王が指示を出していない。攻撃なんてしてへん状態なんや)

従者(もし… もしも、ワイや魔王の単身の制裁やなくて…魔物全体が攻撃態勢に出てしもうたら……)


想像するのも容易すぎる
攻撃性の強い獣たちが、無力な精霊族にその牙で食らいつく姿
空を舞う魔物共が、精霊族をその脚で掴み上げ、高所から叩き落す姿
豪腕を誇る魔物は武器を振り回し、近寄るそばから薙ぎ倒されるだろう

鋭い爪をもつものが、あの穏やかな森を切り倒し
炎を吐くものは、あの街を焼き払うのだ

幼い精霊も、花開いたばかりの娘たちも、にこやかな町人も
いまだ、精霊として目覚めてもいない若葉たちも…その全てが


従者(“魔物”のやり方で、制裁されてまう…)

290: 2014/11/14(金) 03:47:46 ID:GScHx0lM

従者「エノコロ…」

シュタッ…
ザザザ…


~~~~回想~~~~~~~~~~~~~~

精霊「―――…」

従者(犬)「……行ったか」

精霊「……もう…いくら謝ったところで…許されることでもないのでしょうね…」

従者(犬)「……」ボシュッ

従者「魔王は…精霊に対して、静観するつもりやった」

従者「その無抵抗な魔王に対して、執拗ともいえる精霊族のやり方や…。もう、魔物達もとまらへん」

精霊「……従者様…」

従者「……」

291: 2014/11/14(金) 03:48:22 ID:GScHx0lM

精霊「もう…謝ることですら。…許しを請うことですら、罪深いことのような気がします」

従者「……そか」

精霊「ただ、ひとつ… 許されるのであれば お伝えしたい言葉が」

従者「なんや…?」

精霊「私は 精霊族・一族代表 族長・エノコログサ…」

精霊「精霊族の総意は、全て私の意」

精霊「そして私の意もまた、精霊族の総意でございます」

従者「……」

292: 2014/11/14(金) 03:48:55 ID:GScHx0lM

精霊「魔王様と従者様よりいただいた恩義、私は決して忘れはいたしません。この大地に植物の根付く限り、感謝の礼を捧げます」

従者「……」

精霊「それから…」

従者「もう、ええよ… わかったから…」


精霊「いいえ… これは、従者様だけに…捧げます」

従者「……?」

精霊「…………従者様…」ソッ…


従者「ん…」

精霊「『――――――。』」ニコ

従者「………」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~


従者「………ちっ」

293: 2014/11/14(金) 03:49:34 ID:GScHx0lM

従者「んなもん、捧げられても…どないせえOちゅーんや」

従者「そないなもん… 受け取ってしもたら。あいつはどうなんのや」


従者「あんな変Oみたいに覗き見ばっかしとるやつやけど」

従者「ワイの知ってる中では、あいつが…あいつが、いつだって一番……」グッ


穏やかな笑顔と、あたたかく優しい手
人目を避けた真夜中に、寂しげに墓標に花を手向ける横顔
いつだって冗談交じりで、本音を語らない口
たくさんの魔物に慕われながらも、永遠の孤独に住まう、あの魂


従者「………そうや」ギリッ



従者「ワイは… 愛なんて、いらない」

従者「愛なんて選べないんや… んなもんに縋るなんちゅーのは…」



従者「創られた時点で、遅すぎんのや!!」バシュァッ!!

294: 2014/11/14(金) 03:51:22 ID:GScHx0lM

ズモモモモ…!


従者の身体から瘴気が噴出し、その姿を変貌させていく
学者まがいの人間じみた姿では無い
翼を持った犬の姿。だがそれは、可愛らしい小さな愛玩犬のそれではなく…


ソロモンの魔人72柱の内の、1柱
36の軍団を率いるとされる、序列25番の地獄の伯爵
巨大な翼をその背に抱く、虐殺の大総統… その、伝承通りの本来の姿であった



悪魔『ワイは、悪魔・カーシモラルや…』バサッ… 



頃すとしよう
壊すとしよう

愛を、信頼を、希望を、理想を、現実を

295: 2014/11/14(金) 03:55:42 ID:GScHx0lM

選んだ訳じゃない
どちらかに期待をしたわけでも、どちらかに偏ったわけでもない

殺人がしたいわけでもない
争いを好む悪魔をモデルにつくられてこそいるが、そんな性分ではない

いっそのこと、“そう”であれば、楽だったのかもしれないと何度思ったことだろう


悪魔『…ふん。まあ、そんなんやったらそれに悩むことも、悩まずにいられるっちゅーラッキーにも気づきもせぇへんやろがな』

悪魔『いや、まず。そんなんになれるくらいなら、ワイは生まれてへんかったか』クク


悪魔『なにしろ、ワイを創ったのは…』


~~~

魔王「でもさ。いくら俺が魔物を創れるからって・・・ 氏んでしまう魔物達の痛みを取り除けるわけじゃないんだ」

魔王「氏んでしまう者の苦しみや恐怖、残された者の悲しみや恨み。そういうものは 俺ではどうしようもないんだ」

魔王「……ここで、そういったものの数を減らす。調整し、管理する。領土の気を整える。それが俺の 一番大切な“仕事”だからね」ニッコリ

~~~

296: 2014/11/14(金) 03:56:15 ID:GScHx0lM

悪魔『なんて。そんな、“らしくないこと”を笑って言うような おかしい魔王やからな』


悪魔『そんな魔王に望まれて創られた悪魔やさかい…』

悪魔『ワイの一番大切な仕事は… 魔王の従者でありつづけることなんや』


空を蹴り、風を斬る
巨大な翼は風を受けて、その体躯を持ち上げる
はばたきは最小数
吹き上げる風と風の谷間に飛び込むと…

一直線に、魔王城へと滑り降りていった


・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・

297: 2014/11/14(金) 03:57:44 ID:GScHx0lM

―――――――――――――――――

魔王城・玉座


ザザザッ…… ドシャッ!


悪魔『………』バサッ…


魔王「やあ、おかえり」

悪魔『魔王… 自室で寝て無くても平気なんか?』

魔王『普段なら、あそこが一番回復するけれどね。供給がまともに動いていない以上、どこにいても同じだよ』

悪魔『そか… せやけど、あんま無理すんな。見た目でわかる程度に、消耗してるで 魔王』

魔王「そう? うん…結構とられてるかな。まだ、大丈夫だけど」

悪魔『大丈夫じゃなくなったら、困るからゆーてんのや』

魔王「あはは、そうだね。ありがと」

298: 2014/11/14(金) 03:58:15 ID:GScHx0lM

魔王「それにしても…遅いと思っていたら やけに派手に帰城してくれるね、従者」クス

悪魔『久しぶりに“本気”出してんやけどね』

魔王「名前も、姿も、伝承も。本当にいろいろあるヤツだよね、おまえは」

悪魔『それをそのまんま創ってもうたんは誰やねん』

魔王「そうしようと思ったわけではないんだけどね。いろいろあるっていうイメージが捨て切れなかっただけだよ」

悪魔『なんちゅー適当な一世一代や…』


悪魔『ところで… やっぱ、間にあわんかったか?』

魔王「……いや。時間は過ぎたけれど、おまえを待っていたよ」

悪魔『そか… わるいな。ほならもう、こっちには被害が出とるやろな』

魔王「どうかな。防戦はやりにくそうだけれどね、かえって“丁度いい力量差”なんじゃないかな…」

悪魔『ちっ。んなもん、長引かせて消耗させるだけのアホなやり方や』

魔王「うん… でも、どうしても従者を待ちたかったから」

299: 2014/11/14(金) 03:58:49 ID:GScHx0lM

悪魔『……すまん』

魔王「うん?」

悪魔『あんま、ええ話はもってかえってこれへんかった』

魔王「そっか」


魔王「そっか……。 …残念だね」

悪魔『…………ッ』


魔王「従者、来てごらん。ここの窓からは、領地がよく見えるよ」カタ・・・

悪魔『………ほんまやね』

魔王「どう思う? この景色」

悪魔『暴動が起きているのがようわかるわ。このあたりよりも、市街地のほうがよっぽど混乱しとるようやな』

魔王「そうだね、指揮系統の弱いところはすぐに混乱を起こすからね」

300: 2014/11/14(金) 03:59:34 ID:GScHx0lM

悪魔『…騒がしいもんやな』

魔王「うん。騒がしいほどに煌いて…美しい景色だ」

悪魔『……はは。さすが魔王やわ、そのセリフ』

魔王「そうかな。美しいと思わない?」

悪魔『……生命が燃えとる景色や』

魔王「そう。そしてその命は、信念に輝いている」

悪魔『精霊族の…信念、か』

魔王「…美しいね。炎の暖色に包まれて、このまま世界が生まれ変わってしまうかのようにも見えるよ」

悪魔『あほなだけや』

魔王「それが、美しい。生命とは 無我夢中で、何の計算もなく無謀に輝く。生命というランプの油を使い果たすことなど気にも掛けないんだ」

魔王「俺には、とても真似のできないことだよ」クス

301: 2014/11/14(金) 04:00:20 ID:GScHx0lM

悪魔『ランプは燃えるけど……ランプに火をつけるのは、いつだって夜を恐れる者や』

魔王「ふふ。そうだね、俺はすぐに火をつけたがる。怖いからね」

悪魔『そうしてひとつのランプの油を使い果たし、そのランプが暗くなったとして…』

悪魔『魔王が後悔をしないか 聞いておくわ』

魔王「………」


魔王「勘違いをしないで、従者。俺は今回、何をする気もないんだよ。このままでいれば、号令も出すつもりすらないんだ。本当はね」

悪魔『……』

302: 2014/11/14(金) 04:01:07 ID:GScHx0lM

魔王「それに…… 従者に、何かを“させる”気もない」

悪魔『何を…』


魔王「お前は、お前がやりたいことをすればいいんだ」


悪魔『はは……ははは』

魔王「何かおかしいかな」

悪魔『いや、それもそやな、と思って』

魔王「?」

悪魔『よう考えてみたら こんなこと、命令なんかで“させられて”たまるかいな』クルッ


バサッ…!!

303: 2014/11/14(金) 04:02:23 ID:GScHx0lM

魔王「行くの? 無理、してない?」

悪魔『俺を誰だと思っとんの?』ニヤ

魔王「…さあ? かわいい犬の魔物だと思ってたこともあったけどね」クス

悪魔『あほか』


悪魔『俺は、悪魔や。 契約者ですらその歯牙に掛ける悪魔を模ったイキモンや』

悪魔『指図なんかされて動かへん… これは俺が、決めていたことやからな』

魔王「決めていたこと…? 創生の時に与えた、使命のことか? でも、それは…」

悪魔『知らん。そんな使命の影響を受けてるかなんざ興味ないねん』

悪魔『ただ、ワイはな… 生を授かりし時より、この魂に誓いを立てた』

304: 2014/11/14(金) 04:03:16 ID:GScHx0lM

悪魔『“この世界の知識と知恵、過去と未来を 我が君主・魔王に捧げよう”』

悪魔『そして』

悪魔『“我が友、魔王に歯向かう愚かな生命。その全て、なぎ払おう”』


悪魔『精霊族… 魔王の為に、氏んどきや』


シュタンッ バサッ!
バサバサバサ…


魔王「……ごめんね」

魔王「ごめんね、従者……。 ありがとう…」


・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・

310: 2014/11/16(日) 10:06:52 ID:VNhZVmP.

魔王城 城下

ウォォ…
グルルル…

悪魔『……防戦、か。手ぇ出すななんちゅーんはキッツイやろな、精神的に』

不浄ノ生物メ!
聖水ヲ掛ケロ!
ギャゥゥア! ガルル!!

悪魔『なるほど、精霊族は“武器”が主戦力っちゅーワケやな』


悪魔『非力な癖に、小手先で生意気やわ』

311: 2014/11/16(日) 10:07:24 ID:VNhZVmP.

バサッ!
ビュォオオオオ!!

魔物「! 風ガ…」

精霊族1「なんだっ!?」

精霊族2「くっ、突風か……?!」


悪魔『すまんな。ワイの羽は、ちょっとデカすぎるみたいやわ』


精霊族1・2「「!!!」」

ビュッ… ザンッ!

精霊族1・2「「」」

悪魔『っと。さてはて……ちゃんと聞こえてたんやろか』クル

312: 2014/11/16(日) 10:07:54 ID:VNhZVmP.

魔物「……従者…サマ」

悪魔『おお。ご苦労やったな』

魔物「号令ガ、出タノカ?」

悪魔『いや、出とらんで。まだまだやわ、昼寝でもしとき』

魔物「ソレナラバ、従者 サマ…モ 殺スベキデ ナイ」

悪魔『なんでや?』

魔物「魔王サマ ノ 命令 ハ 守ルベキ…ダカラ」

悪魔『せやね。ちゃんと守ってや』


悪魔『せやけどワイは悪魔やからね。ご主人様なんかの命令、素直に聞くよーには創られてへんのや』ニヤ

スッ…

313: 2014/11/16(日) 10:11:09 ID:VNhZVmP.

魔物「……行ッテシマッタ」


魔物「……恐ロシイ。流石ハ 魔王ノ右腕。非力ナ精霊族トハイエ…」

魔物「通リ過ギテ 風ヲ斬ルダケデ ソノ首ヲ 刎ネテシマウトハ」


実力で言えば 殺戮の腕は国内一で間違いないだろう
国主であり創造主たる魔王に劣るとも思えない

この国で、魔王に歯向かって謀反を起こし
成功させることが出来る者がいるとするならば… それは、恐らくただ一人


魔物「アノ従者ガ 魔王様ニツイテイル限リ。誰モ歯向カウ事ナド出来ナイ」

魔物「魔王様ハ アノ悪魔ニ…… 何ヲ、願ウノダ」


・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・

314: 2014/11/16(日) 10:11:43 ID:VNhZVmP.

魔王領地 空中


悪魔『市街地の混戦は後回しやな。魔物も多すぎて、うっかり巻き込みかねへんわ』

悪魔『そやね、森からいこか』

悪魔『精霊族は植物の精。英気を養うためにも森は格好の休憩所やろうからね』

悪魔『何匹くらい隠れてるんやろか… すまんな、全部おわったら数えて報告書にまとめてやるさかい』


悪魔『いまはとりあえず、眠ってや』


大きすぎる翼は、闇に溶けて視認しがたい
翼の色のせいなのか、それともその素早さゆえなのか

ただ、その軽やかに空を駆ける体躯のみが月夜に舞うようで
最期の瞬間を、見蕩れたままに終えた者も多かったのではないだろうか

315: 2014/11/16(日) 10:12:24 ID:VNhZVmP.

空から舞い降りる一匹の犬
宵闇に紛れ、あまりにも遠くから一直線に駆け下りてくる

あるものは遠近感を狂わせ、大きさを見間違い
まるで手を差し伸べる天使ののようなソレに、自らの姿を晒すほどであった

その一匹の獣は 次の瞬間には視界を覆い
その差し出された爪で、喉元を一掻きしてしまうというのに


悪魔『ちっ… 惚けた顔したり、幸せそうな顔したりして逝きやがって』

悪魔『んな顔するヒマあったら、少しは逃げ隠れしろっちゅーねん』

悪魔『……おまえらは一瞬かもしれへんけどな。こちとら…』

血に濡れた爪
鮮度を失う間もなく濡れ続ける

その滴りは月明かりの元で美しく煌く
鮮やかな赤、白く尖る爪先を彩る宝飾品の輝き

滴り、悪魔の手先の豊かな毛に染み込んでいく煌きは
染み込んだそばから 鈍く輝きを失っていく


悪魔『こちとら、この感触は長いこと続きよるんやで…』グッ

316: 2014/11/16(日) 10:13:01 ID:VNhZVmP.

悪魔『くそ…』


悪魔『くっそがあああああああ!!!!!!!!!!』

大きく、一振り
その翼をはばたかせ、空を真上に駆け上る
森を上から見渡せる程度の高さで翼をバサリと広げ、急停止する


地獄の大総統に相応しき優美な姿
そしてそれに似つかわしくない、苦悶に満ちた大きな瞳
一息の間の後、ゆっくりと開いた口から漏れでた言葉は…


悪魔『阿呆が…… こんなこと しよって……』

317: 2014/11/16(日) 10:13:45 ID:VNhZVmP.

悪魔『ふざけんな!!!!』

悪魔『ふざけるなあああああああああああああああああああああ!!!!!!!』


全てを掻き斬り、竜巻のように払い飛ばす
目に触れたものは噛み砕き、悲鳴も嗚咽も断末魔をあげることすら許さない

恐怖も苦しみすらも“与える”ことはない


ただ、そこにいるものの全てを
悪魔は一瞬で“奪い去る”のだ


・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・

318: 2014/11/16(日) 10:15:10 ID:VNhZVmP.

――――――――――――――――

魔王城

魔王「…派手に、やるね。この世界ごと滅ぼしてしまうつもりかい? 従者」

魔王「それとも… 器用なお前が、その統制すらも取れなくなっているだけなのかな」


魔王「……生き残る者が居れば、責めを得て憎まれる」

魔王「こちらに憎しみの目を向け生きる彼らには、俺たちは花を手向けることも許されない」

魔王「ただいつまでも。向けられる憎しみを正面から受けるほかないんだ」


魔王「何故だろう」

魔王「咆哮のひとつも聞こえやしないのに… お前の遠吠えだけは聞こえる気がするよ」

魔王「こんな世界は俺たちにとって 辛く、苦しすぎるから」

魔王「魔性を払うように… お前の遠吠えが、それを払ってくれてる気がするよ…」


・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・

320: 2014/11/19(水) 00:34:26 ID:LnsOEPZA

―――――――――――――――

その後、悪魔は殺戮の限りを尽くした
事実を知る物達は、悪夢のような一夜だ、と夕闇に呟いた
それもそうだろう

もしもこの戦争に、全魔物が加担するような事態になっていなければ
寝ている間に気づかずに終わっていた、なんていう者もいたのかもしれない

実際、田舎村の警護をしていた魔物の一部は
「今日は風が強いな」などと話しているすぐ後ろの森で
精霊族狩りが行われていたことにも気づかなかったのだ


落ち着きを取り戻し、安堵し喚起する街の中で
時折 小声で呟き続けながら、身を震わすものの姿がある

喧騒が飛び交い、煌々とした炎も時間と共に薄れていく領地
気の狂うような雄たけびの数々はゆるゆるとその数を減らし、沈静化していく
何も知らなければ、時と共に収束していったのだと信じられたのに

321: 2014/11/19(水) 00:34:58 ID:LnsOEPZA

魔王の威厳か、あるいは何かの策が働き
それまで激しく争っていた相手たちは諦めて手を引き
逃げたのだと信じられたのに

ただ、偶然
一匹の悪魔の姿を見かけたばかりに…気づいてしまうのだ
 

全てはひっそりと 静かに奪われていただけだ、と……


その不運な彼らは、身を凍えさせて呟き続ける
『こんなもの、悪夢以外ありえない』

あまりに洗練された一方的な略奪
従者のそれは間違いなく、悪魔の手法であった

322: 2014/11/19(水) 00:35:31 ID:LnsOEPZA

それは例に漏れず、あの青年にも襲い掛かる
私怨を混ぜることもなく 皆から平等に 奪う

氏を意識した最期の瞬間もないまま
辞世の言葉すらも残さないまま
作業の途中で突然に奪われて、終わった


きっと青年は、氏のその瞬間まで 思っていたことだろう
自分は特別な終わりを迎えるのだと
他の者とは違う、自分だけのエピローグがあるのだと
そう、信じて生きていただろう

悪魔はそんな希望すらも 当然のように奪い去った


・・・・・・・・
・・・・・
・・・

323: 2014/11/19(水) 00:36:17 ID:LnsOEPZA

―――――――――――――――――――

精霊族の街


精霊族A「!?」

シュパッ… ドサッ
精霊族A「」

スッ…
悪魔『……』


ガサッ
精霊族B「! 貴様……!」

悪魔『!』 ビュッ!


精霊族B「」ドサ

悪魔『……ちっ』

324: 2014/11/19(水) 00:36:48 ID:LnsOEPZA

「……――」


悪魔『……?』


悪魔『あれ…』ハッ

悪魔『あ、あれ? おまえ 今、なんか言ったか?』

悪魔『…って、言えるわけないわな氏んどるのに…。何ゆってんのやろ、ワイ』ハハ

悪魔『はは……ほんま、何を…』


精霊族B「」


悪魔『……何しとんのや、ワイは…。すまん、話くらい聞いてやってもよかったな…』

悪魔『ここまでずっとヤり続けやったしな…。感覚が冴えすぎとるようや…神経過敏やね、堪忍してや?』

精霊族B「」

325: 2014/11/19(水) 00:37:25 ID:LnsOEPZA

悪魔『…聞こえるわけないわな。首がなけりゃ、耳もあらへんもんな…。それ以前に、堪忍するとか無茶ゆーなって話やわな…』

悪魔『はぁ… なんやの。これから敵陣突入って時に、冷静になってしもたわ…』

テクテク… 
テクテク…


悪魔『……さて…。なんや テンションが大分おかしゅうなってもうたけど…』ハァ


悪魔『あー… 誰かおらんか!』

悪魔『おい!! さすがにココに、これだけしかおらんちゅーこともあらへんやろ!!』

悪魔『それとも! 全員、戦いに駆り出されたとでもいうつもりか!!』


「はい… 全て、この街の物達は出払っております」


悪魔『!!』

326: 2014/11/19(水) 00:37:58 ID:LnsOEPZA

スッ……

精霊「……」

悪魔『おい。そんな、不用意に近づくんやないで…』

精霊「…ですが。お姿が私の知らないものではありますが…」

精霊「貴方様は、従者様…ですよね?」

悪魔『………エノコロ…』

精霊「やはり。 …なんて、立派な翼をお持ちなのでしょう」

悪魔『エノコロ… おまえ、ここで何を…?』

精霊「私は、一族代表。この森を、この住処を離れることの許される身であるがゆえ…」

悪魔『こんなとこに 残されてたっちゅーんか…』

精霊「…本当に情けないですよね。すぐそばの、ほんのしばらく歩いた場所では、戦火が立ち上っていたというのに」

精霊「私はここで、祈ることしか許されていないのです」

327: 2014/11/19(水) 00:38:50 ID:LnsOEPZA

悪魔『祈りって… まさか?』

精霊「そう、ですね。本来ならば精霊族の助けとなるはずの祈りなのですが」

精霊「恥ずかしながら、なんの魔力も篭っていなかったようです…。なんて無能な族長なんでしょうね、私は」

悪魔『何を祈ってたんや…?』

精霊「仲間の、安泰を」

悪魔『……』

精霊「…………」


精霊「私…… また、一人になってしまいました」

悪魔『エノコロ…。 一人って、おまえ… 他のチビ共はどないした?』

328: 2014/11/19(水) 00:39:22 ID:LnsOEPZA

精霊「精霊族は、植物の精。弱いものほど、多くの植物たちの住まう森の中に一番に逃がしたのですよ」

悪魔『あ…。 あの森に…みんなおったんか? ワイ…よう見もせえへんで…』

精霊「………」フルフル

精霊「ここまで事を大きくしておいて、一部のものだけを逃がすなど元より不可能だったのです。それは、従者様が一番ご理解しておられるはず」

悪魔『……っ』グッ

精霊「あ… ですが」

悪魔『……なんや。ええで、めちゃくちゃに罵ってくれても。…そんだけのことはしたからな』

精霊「いえ。……家屋の中にいるとよく聞こえなかった声も、こうして外にでるとよく聞こえるのだな、と思って」

悪魔『声…?』

精霊「ええ。森の樹木や… 氏して、ただの植物へと還っていった物達の声です」

329: 2014/11/19(水) 00:39:57 ID:LnsOEPZA

悪魔『はは… きっついな、それ。ワイには聞こえへんでよかったわ』

精霊「そうですか? …従者様に、聞かせてあげたいと私は思います」

悪魔『ひっどいこと言われてるんやろな』

精霊「ふふ… ここから聞こえるのは、そこの森にいた幼き精霊達の声ばかりですよ?」

悪魔『……ちびらか』

精霊「ええ… まだ、本当に幼い子供たちばかり。かわいい盛りでした」

悪魔『すまんな…。こないな風に終わるために、あいつらを目覚めさせたわけでも育てたわけでもあらへんのに…』

精霊「私たちは、植物ですから」

精霊「若葉のころは、身動きも取れぬまま…他の動植物に食まれて終えることは当然のようにあるのです。兄弟の食まれる様を見て育ったものも多いでしょう」

悪魔『うわ… なんやそれ、エラいハードなんやな』

330: 2014/11/19(水) 00:40:32 ID:LnsOEPZA

精霊「ですがやはり怖いのですよ。そうして むしゃりむしゃりと食まれていくのを眺めるのは。次は自分か、兄弟か…… そう思いながら怯えることも多いのです」

悪魔『……なんか…そんなんに、聞き覚えが…』

精霊「ふふ。そうですね、まるであの時の剪定のよう…。従者様は、一瞬で全てを斬りおとしてくださいましたから」

精霊「幼き子たちは、理由もわからぬまま…恐怖なども知らぬまま」

精霊「精霊族として終え、植物となった身をおもしろがり、森の中ではしゃいでいるんですよ。おかしいでしょう?」フフ

悪魔『………』

精霊「…不謹慎だとは思います。ですが今は… あの子らを苦しめずに還してくださった従者様に、感謝を…」ペコリ

悪魔『……』

精霊族「……」

331: 2014/11/19(水) 00:41:02 ID:LnsOEPZA

悪魔『植物となった精霊族は…どうなるんや?』

精霊「植物として生きるのみ。根をはり、受粉をし、花を咲かせ、種子を残し、枯れるのみでございます」

悪魔『……もう、精霊族にはなれへんのか』

精霊「精霊族は、その生命が特別な力を与えられ、本来以上の活動を許されるものでありますから…」

精霊「その力をなくしてしまえば、元の生命にもどるまでです」

悪魔『…他の、大人の精霊族も…そうなんか?』

精霊「ええ。…氏骸は、しばらくの時間の後に 元の植物の姿へと還ります。……ほら、ごらんください 従者様」

悪魔『え?』


精霊族B「」……シュゥゥ… シュッ 

パサ ポトンッ

332: 2014/11/19(水) 00:41:43 ID:LnsOEPZA

悪魔『こいつ… さっきの。 フキノトウやったんか…』

精霊「先ほどのお二人は、私の護衛の為に残されたものです。フキノトウとフクジュソウ。春告げの草の名そのままに、暖かく仲のよい二人組でした」

悪魔『……そか。そんなんも、なんも知らんと… ワイはみんな…』

精霊「そう…ですね。この街には間違いなく、もう私しかいませんね…」ニコ…

悪魔『…たった数時間で…元通り、か…』

精霊「……」

悪魔『そうやな… ゆうても、発展途上の一族やもんな。言うほども多くない、か…』

悪魔『すまん、エノコロ… おまえの仲間達を、ワイも育てるのに協力した仲間達を…ワイは…』

精霊「安らかに、逝かせてくださった」

悪魔『……っ』

精霊「申し訳ありませんでした…。本来ならばそれも私が行わねばならぬ責務。罰することもせず…励ますことも、見守ることも…私は、長でありながら 何も……」

悪魔『エノコロ…?』

333: 2014/11/19(水) 00:42:41 ID:LnsOEPZA

精霊「仲間の…」

精霊「仲間の、安泰を祈っておりますのに。どうしても、従者様のことを想わずにはいられなくて」

悪魔『っ』

精霊「私にとって、従者様はどうしても“敵”にはなれないのです」

精霊「ですので…おそらく、祈りと現実に矛盾が。魔力は全て、流れ出ては消えるばかり」

悪魔『エノコロ…』

精霊「仲間の安泰を、精霊族の皆のために祈れなかったのは…申し訳ないことですね」

悪魔『……』


精霊「ですが、先ほど… ようやく、祈りが通じたのです」

悪魔『……?』

334: 2014/11/19(水) 00:43:35 ID:LnsOEPZA

精霊「ほんの一瞬でしたが…祈りと共に、魔力が正しく流れゆくのを感じたのでございます」

悪魔『なんの、ことや…?』

精霊「矛盾が、解消されたのだと思います。届きませんでしたか? …フキノトウがなくなった後、私の祈りは届いたのではありませんか…?」

悪魔『……あの、声…』

精霊「届いていたんですね。やはり、私の気のせいではなかった…矛盾は解消されたのですね…」

悪魔『解消…って まさか…』

精霊「もう私が祈りを捧げる“仲間”は 従者様おひとりになったのでしょう」ニコ…

悪魔『っ!』

精霊「残された精霊族は、私ひとりでございます」


精霊「あ……」ポロ

悪魔『エノコロ… すまん、ワイは…』

335: 2014/11/19(水) 00:44:12 ID:LnsOEPZA

精霊「違… 違います、従者様…。 私は… 私は、とても口には出せない感情を 抱いてしまいました…それで、涙がこぼれでてしまったのです…」

悪魔『……どんな、感情や?』

精霊「……それ、は…」

悪魔『それは…?』

精霊「これで、板ばさみの苦しみから逃れたと… もう、これ以上の苦しみはないのだと…安堵してしまったようです…」ニコリ

悪魔『……っ』グッ


悪魔『エノコロ… エノコロ!』ギュー

精霊「従者様…」ソッ


精霊「私はもうこれで、長でもなんでもありません。私はようやく、個としてお話をすることができるのです…」

336: 2014/11/19(水) 00:44:44 ID:LnsOEPZA

精霊「何か、私にお詫びできることがありましたらお申し付けください。御為になることがありましたら、どうぞ御慈悲と思って教えてくださいませ」

精霊「それすらもないと仰るのでしたら、このまま潔く静かに逝きましょう…もはや、感謝も詫びも… 私には不相応ですから」ペコリ…

悪魔『……エノ、コロ…』


悪魔『き』

精霊「……?」

悪魔『…貴重な、種族やから。もはや無力となった今、“貴重な種族”としてお前を残すことも、可能かもしれん…』

精霊「……例え、魔王様がそれをお許しになったとしても。他の魔物の方々は快く思わないはず…私にはそれが最良とは思えません」フルフル

悪魔『……エノコロ… こんな時に、頭はたらかせんなや…』

精霊「たくさんの知識を、従者様に教えていただきましたから」クス

悪魔『ワイは… どうしても、おまえを殺さんとあかんのやろうか…』

精霊「……」

337: 2014/11/19(水) 00:45:23 ID:LnsOEPZA

悪魔『ほんま…やっぱりワイは、悪魔なんやね』

精霊「従者様…?」

悪魔『それまで守ってたもん、全部めちゃくちゃに壊して。掌返して、全部自分で頃してしまう』

悪魔『ほんまは、悪魔になんかなりたなかった… “悪魔もどき”なんやって、言い聞かせてきた…っ』

精霊「従者様…」

悪魔『でも、エノコロのことを頃してもうたら…きっと』

悪魔『もう自分が悪魔やとしかおもえへんくなるやろな…。きっと一生、悪魔や悪魔や思うたびに、おまえのこと思い出すんやろな…』

精霊「思い出してもらえるのなら、嬉しいです。ですが…悲しみと共に思い出されるのは、イヤですよ?」

悪魔『………っ でも』

338: 2014/11/19(水) 00:45:57 ID:LnsOEPZA

精霊「従者様にお借りしているこの琥珀… これに、その役目を変わってもらいましょう」

精霊「ずっと見ていたくなる、と 仰ってくださった」

精霊「ですから、この琥珀に… 私を重ねてくださいませ」

悪魔『それでも… それでも』

精霊「大丈夫ですよ。従者様…言ったじゃありませんか。精霊族は信頼を大切にする種族。約束事も、守るのですよ?」

悪魔『約束…?』

精霊「この琥珀を買い求めていただいた、精霊族の春のお祭りの時に…おぼえていらっしゃいませんか?」

精霊「『従者様は、悪魔なんかじゃないです。私が、させないです』」ニコッ

悪魔『あ… 』

精霊「ふふ。思い出していただけましたか?」

339: 2014/11/19(水) 00:49:16 ID:LnsOEPZA

悪魔『そないな雑談を…よう覚えてたな エノコロ…』

精霊「従者様とのお話は、ほとんどを覚えていますよ。最初に出会ったころのことまで…」

悪魔『ほんまかいな』

精霊「ふふ。信じてもらえないのですか? 信用と信頼がウリの種族なんですよ?」

悪魔『ほな、なんかゆーてみい』

精霊「そう、ですね… では」

―――――

精霊「きっと 従者様は 私では考えもつかないようなことをたくさんしっていらっしゃるのだろうな、と思ったのです」

従者「・・・・・・まあ 筆記道具もしらんかったようなヤツやしな。普通に知っとるやろな」

精霊「まるで、開けるたびに何かがはいっている 不思議な魔法の宝箱のようだな、と思ったのです」

――――

340: 2014/11/19(水) 00:49:47 ID:LnsOEPZA

悪魔『……ゆーてたな』

精霊「それから…あの時、私はこうも言ったのですよ。『一緒に居るだけで・・・ たくさんの宝物が増えていくみたいな気持ちになります』、と」


精霊「ふふ… あの時に伝えそこねた言葉を、こうしてもう一度お伝えできる機会があるなんて。私は本当に、幸い」

悪魔『はは…すごいな。ワイの言葉も、自分の言葉も、そっくり覚えとるんかい…』

精霊「はい。従者様と過ごした時間、交わした言葉。学んだ知識。それら全て 私の宝物なのです」

悪魔『……そないなええもんじゃ ないで…』

精霊「あの日の約束も、私の大切な宝物。必ず、かなえて見せましょう。従者様を…悪魔になんてさせません」ニコ

悪魔『エノコロ…? 何を』

341: 2014/11/19(水) 00:51:06 ID:LnsOEPZA

精霊「精霊の力の全てを、祈りに。どうか…」スッ…


精霊「『どうか、これ以上優しい人を傷つけないで済むように。どうか、この身を終わらせて』」


悪魔『な…!!』

精霊「~~~っ」シュパアアアア!!

悪魔『エノコロ!』ガシッ


精霊「あ… 祈りが… 成功、してる…」

悪魔『っ! 末端から植物に変化してく…!? なんで… なんで、そないなことを!』


精霊「苦しんでいる従者様に… 私を手にかけて、なんて言えませんから」クス…

342: 2014/11/19(水) 00:51:46 ID:LnsOEPZA

悪魔『せやけど自分で、なんて! ワイ、そんなつもりで言ったんとちゃうのに…!』

精霊「私の望んだことです…。全ては私の祈りの結果… その責は、祈りを持って終わらせるのが良いのでしょう…」

悪魔『そないなもんを…望むなや…! なんかちゃう望みがあるやろ!?』

精霊「ふふ… 秘密ですよ? 本当は…もうひとつ、望みがあったんです…」


精霊「従者様にも、一回くらいは『好きだ』って…」

精霊「嘘でも、言われたかったですね…」ニコ…

悪魔『!』


シュゥゥ・・・ 

パサ

悪魔『あ… 植物に… 還った…? 嘘やろ…? なんでそんな、あっけなくいけるんや…!』

343: 2014/11/19(水) 00:52:46 ID:LnsOEPZA

ユラ… ユラユラ

悪魔『エノコロ…』


悪魔『……おわったん、やな…』


シュウウウゥゥゥゥ・・・!!!

ポンッ!
従者「………」プハッ


ソッ…

従者「エノコロクサ…か」

従者「俗称、ねこじゃらし」

従者「そして… 別名、狗尾草」

344: 2014/11/19(水) 00:53:22 ID:LnsOEPZA

従者「…えのころってのはな。犬っころって言葉からきてるんやで。知らんかったやろ」

従者「犬の尻尾みたいやから、狗尾草。んで、犬っころ草や」

従者「教えてやらんかったけど、ワイと一緒やな。 な、エノコロ」

フサ・・ ユラ

従者「はは。ほんまに尻尾ふっとるみたいやん、やめてーな」

従者「こんなして、犬っころ同士でじゃれあってるとか。なんやそんなんアホみたいやん」


ユラ… ファサ

従者「……『好き』、か」


従者「んなもん… 言えるかいな」

345: 2014/11/19(水) 00:54:05 ID:LnsOEPZA

従者「言ったら、ほんまみたいやん」

従者「そりゃ、ワイやて思ったで? これってもしかしてそーゆーキモチなんちゃうのかなって」

従者「でもな、好きやなんてゆーたら、いざってときに殺せへんくなるやん」

従者「ワイは、魔王の右腕やし。何があるか、何を頃すかわからへんのが生業なんや。そやから『好き』とかよう言われへん」

従者「『好きや』いいながら、頃してまうことになったら…」


従者「ほんまに、悪魔になってまうやん…」


従者「こんな風にエノコロが終わるなんて思ってなかったさかい… そんな、小心で… 望みをかなえてやれへんくて…」

従者「…ごめんな、堪忍や」


従者「悪魔にも魔物にもなりきれんで、中途半端ばっかして……いっそ、はっきり断ってやったほうがよかったよな…?」

346: 2014/11/19(水) 00:55:07 ID:LnsOEPZA

従者「でもな」

従者「もう、聞こえてへんやろから。もう、終わったから。 …ゆーてもええかな」


従者「なあ、エノコロ… エノコロ。ありがとな」


従者「ワイな、悪魔じゃあらへんって おまえのおかげで思えるんや…」

従者「今まで、どんだけの魔物ころしてきたかわからん。この国や魔王にとって 必要な数を、必要なだけ、頃してきたんやわ」

従者「ワイは 殺戮の悪魔・カーシモラルやからな…」


従者「それなのに、たった一匹のイキモンの氏が…」

従者「おまえの氏が。それが、こんなに苦しくて 止まらへんのや。こんなに悲しむの、悪魔なんかちゃうって 思えるんよ…」

347: 2014/11/19(水) 00:57:49 ID:LnsOEPZA

従者「殺させてもうた…終わらせてもうた」

従者「ワイにとって必要なもんを、ワイを必要にしてくれるヤツを、終わりに追い込んでしもたわ…」

従者「やってることはやっぱり悪魔の仕事や…」

従者「それでも この…

叩きつけられるような痛みや、
苦しくて抉られるような心臓や、
お前だったモンを抱えたまま離せへん手や、
叫びだしたくて止まらへん口や、
震えて動けん脚や…

どないしても止まりそうにない涙が…」

従者「ワイの身の全てが…お前と同じ、悪魔なんかじゃない、ただのイキモンやって、確かめさせてくれるんや……」

348: 2014/11/19(水) 00:58:29 ID:LnsOEPZA

従者「エノコロ…なあ、聞いて」

従者「聞いてくれ、お願いや」



従者「好きや…」


従者「めちゃくちゃ好きや」

従者「大好きや、エノコロ」

従者「愛しとるで」


従者「愛してる、大好きや。やっぱり聞いてほしかった、言ってやりたかった」


従者「愛しとるんやで? ほんまに、愛しとってんで、なあ!」

従者「なあ、なあ… エノコロ……」

349: 2014/11/19(水) 00:59:02 ID:LnsOEPZA

ユラ…  
シュパァァ・・・

従者「………エノコロ…?」


パシュッ!

従者「え… 消え、た?」

琥珀 コロン… キラッ

従者「・・・あ」

従者「…琥珀の中に…?」


従者「そか…琥珀の中に、なんでも好きなものを閉じ込める事が出来る… それが精霊族の、技術」

350: 2014/11/19(水) 01:00:34 ID:LnsOEPZA

琥珀 キラキラ…

従者「はは… そか。植物も、意思はあるんやったな… ワイの言葉、聞こえてたんか…?」

琥珀 キラキラ…

従者「おまえの望み・・・ かなえてやれたんかなあ…」


従者「ただでさえ、ずっと見てたくなるっちゅー琥珀やったのに… どないすんねん」

従者「ほんま、エノコロは 思い込んだら突っ走りよる。好きやいうた途端に、ずっと見ててとでもいうつもりかいな」クク

従者「宝物庫にでもしまっとこかな。めっちゃ怒りそうやな」クックク…


…… 精霊『まるで、開けるたびに何かがはいっている
不思議な魔法の宝箱のようだな、と思ったのです』 ……

351: 2014/11/19(水) 01:01:47 ID:LnsOEPZA

従者「あ・・・・・・ なんでそんな言葉、思い出したんや…?」

従者「不思議な…・・・ 魔法の、宝箱…か」


従者「それは、ワイじゃなくて。おまえの方やわ…」ソッ

琥珀 キラ…

従者「もっと、開けておけばよかったなぁ…」

従者「知識の悪魔が知らんもんを、こんなにたくさん 詰めてある箱…こんなにいろんなもん 教えてくれる魔法の宝箱…」

従者「…愛なんて… そんな難しいもん、教えてくれるなんて。おまえは、すごいやつやったんやな」

琥珀 コロン…

352: 2014/11/19(水) 01:02:19 ID:LnsOEPZA

従者「ほんま…宝物庫にでもいれておいたら、よかったんかな?」

従者「大事に、手元に置いておいたら… 守れたんかなぁ…?」

従者「もしワイに、魔王みたいな強さや器用さや、賢さがあれば…守れたんやろか、大切なもん」


従者「それとも… こんな、インチキくさい方法でようやく出会えたような奇跡には…そんなにたくさんの未来は、用意されてへんのやろうか」

従者「『どうやったって守れへん未来しかない』なんてことも、あるんやろうか」

353: 2014/11/19(水) 01:02:51 ID:LnsOEPZA

従者「なぁ、エノコロ? ワイはいつか、この答えも…知る事が出来るやろか?」

従者「その時、もし どうやっても叶わんかったなんて答えをワイがだしてもうたら…少し、救われてしまうかもしれんワイを、赦してや」

従者「そん時は、堪忍な。それまではずっとずっと 答え探しつづけるから」

従者「なぁ、エノコロ…… お前とあのままいられた未来があったかどうか…探してみるから…」

従者「だから。堪忍な、エノコロ……っ」

琥珀 ユラ・・・ タプンッ


・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・

354: 2014/11/19(水) 01:05:35 ID:LnsOEPZA

――――――――――――――――

エピローグ


魔王城

魔王「おかえり、従者」

従者「あー…。 ただいま… 疲れたわ」

魔王「ふふ・・・ おつかれさま。おいで」

従者「なんやねん……。ほんまに、疲れてんねん、呼ばんといて」

魔王「お前が仕事をこなしたように、俺も仕事をこなさなければならない」

従者「なんやそれ。なんの仕事が残ってるっちゅーねん…」

355: 2014/11/19(水) 01:06:14 ID:LnsOEPZA

テクテクテク…

従者「で? なんや、魔王」

魔王「従者」

従者「なんや」


魔王「……よく、やってくれたね。ありがとう」

従者「…………っ」


魔王「酒でも、呑まない?」クス

従者「…ええな、それ」

356: 2014/11/19(水) 01:06:44 ID:LnsOEPZA

魔王「じゃあ はい。用意しておいたんだ」カチャカチャ

従者「ん……ほれ、グラス貸せ」

トクトクトク・・・


魔王「……じゃあ」

従者「ああ」


魔王・従者『献杯』 スッ


・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・

357: 2014/11/19(水) 01:07:23 ID:LnsOEPZA

従者「しっかし… なんや、ほんまに疲れたわ」

魔王「うん…お疲れ様。やっぱり予知は難しいね」

従者「……いっそのこと、ずっと先まで予知していたら…どうなってたんやろな」

魔王「ふふ。タイムパラドックスがひどいだろうね。それこそ世界崩壊に繋がるかもしれないよ」

従者「いっそ壊れてしもたらええんや、こんな世界」

魔王「そうだね。俺も…何度か、同じように思った事があるよ」クスクス

従者「魔王がゆーたら洒落にならへんわ」ゴクン

魔王「悪魔がいうのも似たようなものだよ」コクリ


従者「………」

魔王「……従者? どうしたのかな、ぼんやりして」

358: 2014/11/19(水) 01:07:56 ID:LnsOEPZA

従者「人生と幸せについて本気出して考えてみた」

魔王「また? なにそれ?」

従者「……気はすんだんかいな、と思って」

魔王「気?」

従者「“今“っちゅーんは、予知までさせて選びたかった“気になる未来”なんやろ。納得したんか」

魔王「もしかして怒ってる?」

従者「あほか。まあこれでおかしなことゆーたらシバくくらいするかもしれへんけど」

魔王「……んー… じゃあ、従者こそ覚えてるかな」

従者「なにをや?」

魔王「んっと

『ダンジョンを徹底攻略してボス倒して抜けてみたけど、どうも取りそびれた隠し宝箱がありそうで気になるような感じ』

って、俺が言ったヤツ」

従者「」ガクッ

359: 2014/11/19(水) 01:08:30 ID:LnsOEPZA

魔王「……だいじょうぶ?」クスクス

従者「そや… そーいやそんなアホくさいゲーム脳な理由やったわ…… しばらくゲーム禁止にしたろかな」

魔王「えー? 割と本気だったんだけどな」クス

従者「あほか!」

魔王「従者は…」

従者「ん? 次こそくだらないことゆーてたら…!」

魔王「取りそびれていた“宝箱”、見つけたんだね?」ニコ

従者「……」


従者「宝箱、か」

魔王「うん。こんな方法でしか見つけることが出来なかった “隠し宝箱“だ」

360: 2014/11/19(水) 01:09:12 ID:LnsOEPZA

従者「魔王。やっぱりいろいろ見てたやろ」ジロ

魔王「えー?」ケラケラ

従者「ほんっま、悪趣味なやつやで!」

魔王「魔王としては正当な趣味だと思うけどね。羨ましかったけど、手は出してないんだからいいじゃん」

従者「手だしてたら、ちょっとは変わってたんやろけどな」

魔王「でもまだ、蹴られて氏にたくはないよ」クス

従者「蹴られる?」

魔王「馬…じゃなくて。犬に」クスクス

従者「あほ。そーゆー意味ちゃうわ… ま、あいつに手出してたら いつかやりかえしたったかもわからんけどな」

361: 2014/11/19(水) 01:09:51 ID:LnsOEPZA

魔王「俺、そーゆーいいヒトいないんだけど?」

従者「いつか、ゆーとるやろ。 魔王をあんさんの代でおわらす気かいな」ハァ

魔王「ありえるかなーって思うんだけどね」

従者「……」

魔王「え だめ?」

従者「はあ……。 手ださへんかった魔王に免じて、ワイもそん時は手ださんといたるから、ちゃんと魔王を次代に継ぎや……」

魔王「ふふ。考えておくよ。ところで話、逸らしてる?」

従者「逸らしたもんを もどすなや」

魔王「えー? 直接ききたいじゃん。宝箱があったかどうかー」

従者「ほんまイヤなやつやなー! …あー、まあ あったよ」


従者「その“隠し宝箱”からしか見つけられへんような ええもんが入ってたわ」


魔王「よかったね、従者」クスクス

362: 2014/11/19(水) 01:10:35 ID:LnsOEPZA

従者「ん…。でもまあこんなん、ちょっとした呪いのアクセサリーとか そういう種類のもんなんかもしれへんけどな」

魔王「あはは。呪縛とかステータス異常とか、そんな呪い?」

従者「そんななかんじやね。そのくせに存外 嫌な気分じゃあらへんねん」

魔王「へえ?」

従者「せやからって、楽しいわけでもないんやで」


従者「なんやろな・・・。知識とか意識とか どーでもよなるよーな…
ワイにとって生存理由みたいな大切なもん、うっかり手放してもええんやろかなって思えてくんのや」

従者「深いのにゆるゆると流れる川に漂いながらおぼれて
苦しいような 心地いいような

見上げているときは、きらきら綺麗なもんが見えて幸せやのに
ほんの少し流されて 下向きになってまうと 暗くてゴツゴツした底しかなくて…不安で怖いような」

魔王「……」

従者「それでもな、嫌じゃないんや」

従者「そんなんすら… どっか、あったかいねん」

363: 2014/11/19(水) 01:11:10 ID:LnsOEPZA

魔王「……とても感傷的で、感覚的な話をするね 従者」

従者「ほんまやね。自分でも そう思ったところや」ハァ

魔王「それが、宝箱の中に入っていたものなんだね?」

従者「そ。 いっそ、もっと深く呪われてしまいたいような。そんなもんが、はいってたわ」

魔王「ふふ・・・ そっか」


魔王「ねえ、従者」

従者「ああもう!! しつっこいな、なんや。 しょーもないことゆったら噛みきるで!?」

魔王「悪魔は、愛されたいと願うだろうか?」

従者「……やなことばっかし聞くなや、魔王」

魔王「知識として得ることと、経験として知ることは違うしね」クス

魔王「人文知識を語る悪魔なんだから…“情報”がはいっていたとしたら“経験”のように語るかもしれないと、思っちゃって」クスクス

364: 2014/11/19(水) 01:11:43 ID:LnsOEPZA

従者「そこまで器用とちゃうわ」

魔王「従者は器用だよ。なんていっても俺の一世一代の最高傑作…『悪魔・カーシモラル』なんだから」

従者「……せやね」


従者「せやけどまー、悪魔やしなー? 誰かにもらう愛なんか、笑って食い散らかすんがせいぜいなんちゃう?」

魔王「おや。意外な答えだね」

従者「利用して嘲笑して突き落として楽しむのも 一興やろな」

魔王「ふーん…そんなもん?」

従者「愛されるだけ、やったらね」

魔王「愛してこそ、ってこと?」

従者「……」ゴクゴク

魔王「……」ジー

従者「……………」ゴクゴクゴクゴク

魔王「……………」ジーー

365: 2014/11/19(水) 01:12:46 ID:LnsOEPZA

従者「~~~~~っなんやもう! うっとうしいやっちゃな!」

魔王「いやー 愛されるより愛したい、なんて歌を思い出しちゃったよ」ケラケラ

従者「人間の歌やんけ… しかも古いで」

魔王「愛されるより、愛したほうが幸せなのかなーって。『幸せについて本気出して考えてみた』」

従者「真似すんな・・・・・・。 愛したところで なんや違うっちゅーこともないと思うで」

魔王「そうなの?」

従者「裏切りこそが性分や。結果は、変わらへん」

魔王「そっか……」


魔王「じゃあさ」

従者「もーえーやろ!! いーかげんにしーやほんまに!!!!!」


魔王「悪魔は、愛しあうことは…出来るのかな」ポツリ

従者「………」

366: 2014/11/19(水) 01:13:18 ID:LnsOEPZA

従者「知らん」

魔王「ふふ」

従者「あれちゃう?」

魔王「あれ? なに?」


従者「愛されたからそれに応えるなんて きっとできへんけど・・・愛しちゃいけないもんなら、愛せるんちゃう?」

従者「…そんなんに応えてもらえるかどーかは 知らへんけど」

魔王「ハードル高いなあ。いけないものなら、って限定なんだ。なんで?」

従者「裏切りこそが性分やしね。普通に幸せを手に入れたいなんていう自分自身のことも、裏切ってまうんやない?」


魔王「く」

従者「?」

367: 2014/11/19(水) 01:13:57 ID:LnsOEPZA

魔王「くっくっく… あは、はははははは!!」

従者「なにわろとんのや…。この話題で笑うとか、魔王こそ悪魔なんちゃうか」ハァ

魔王「いや。ク、クックック… お、俺以外にも、報われないやつはいるもんだなと思って」クスクス

従者「最低や、自分で創っといて」フン


魔王「ごめんごめん。悪魔の性分が裏切りだとするなら、魔王は我儘で残酷なのが性分だからね」

従者「タチわるすぎやろ」

魔王「悪魔と魔王、どっちがたち悪いだろうね?」

従者「どっちもどっちやな、そんなん… 同類や」

魔王「ふふ。うん、同類だね。俺たちは同類だ」

従者「同類……」ゴクン

魔王「ふふ。今度は、同類に“乾杯”しておく?」

368: 2014/11/19(水) 01:14:49 ID:LnsOEPZA

従者「いや、ちゃうわ。ワイらは同類ちゃうかったわ」ケロッ

魔王「え゛!?」


従者「ワイはもうええもん手に入れたからなー。まだもっとらん魔王とは同類ちゃうわ。せいぜい、ニアイコールや」アハハ

魔王「せっかく同類認定でほんわかムードだったのに!! 徹底して裏切るね!」

従者「あ」

魔王「なにかな!?」

従者「せやけどやっぱオカしない?」

魔王「そうだよね! やっぱおかしいよね、そんなことで同類じゃなくなるとかそんなこと・・・!」

従者「じゃなくて」

魔王「違うの!? フォローじゃないの!?」ガーン!

従者「落ち着け、魔王」

369: 2014/11/19(水) 01:15:24 ID:LnsOEPZA

従者「せやなくてな、宝箱は、ワイがとってもうたやん。それでよかったんか?」

魔王「ああ…うん」


魔王「“とりそびれた”って違和感は もうすっかり消えたよ。取れたってことなんだろうね」クス

従者「……なんで魔王が、ワイの宝箱のことを気にすんねん。あほ」

魔王「えー?」クスクス


魔王「ほんとにさ。俺たちは最低で最悪の、ベストパートナーだねえ」

従者「……なんやそれ、きっしょくわるいこと…… ゆー、な や……」

魔王「ん? どうしたの?」

従者「う……」

ケロケロケロケロ…

魔王「ひいっ!? 吐くほど俺のパートナーって気持ち悪いことなのかな!?」

370: 2014/11/19(水) 01:16:30 ID:LnsOEPZA

従者「そや、なくて… 飲みすぎた…あかん、これ  ……倒れる」

魔王「あ」

バッタン
ぼわんっ 

従者(犬)「」ぐでーん

魔王「・・・犬になった」

従者(犬)「……」ビローン


魔王「…ふふ。おつかれさま、従者」ナデナデ

魔王「心配しなくてもいいのに。俺はそんな間抜けじゃないし… 間抜けになれないよ」

魔王「言われなくても、俺はちゃんと、俺の“隠し宝箱”を見つけた」

魔王「そして俺のほうには、呪いのアイテムなんかじゃなく。素敵なものが入っていた」


魔王「悪いね、巻き込んでしまって。
我侭で残酷なのが、性分なんだ… そんなつもりがなくても、そうなってしまうんだ」

371: 2014/11/19(水) 01:17:05 ID:LnsOEPZA

魔王「悪魔・カーシモラル…悪魔になりきれない、優しい魔物。そして今は “愛をも知り、それを語る…悪魔もどき”」

魔王「悪魔が愛を学ぶって言うのは、大変なことなんだね。本来だったら、夢物語のようなものなのかもしれない」

魔王「知ってほしいと思うのなら…知りたいと願ったのならさ」

魔王「より悪魔のような誰かのきまぐれな思いつきと、より悪魔のような知略で。夢物語を見せるように…」 

魔王「悪夢の中でしか、知る事が出来ないようなものだったんだね」クス


魔王「でも、まあ悪魔ですら愛を学ぶのは不可能じゃないってのがわかった。それならきっと、いつか・・・」


魔王「…いつか。“魔王”である俺でも 愛を知り、得て、与える事が出来るかもしれない」

魔王「そんな希望が、俺の宝箱には入っていたんだよ」クス

372: 2014/11/19(水) 01:18:09 ID:LnsOEPZA

魔王「なんてゆーかな」

魔王「『奥にある本物の宝箱を取るためには、その手前にあるミミック入りの宝箱をあけて
ミミックを倒して手に入るアイテムを装備しないと進めないクエスト』みたいなもんだったんだね、うん」

魔王「あはは。こんなことをいうと、従者にめちゃくちゃ怒られるんだろうなあ」クスクス

魔王「怒らないって事は 狸寝入りでもなさそう。よかった」


魔王「まあでも 魔王が、他のイキモノと同じように… 情欲ではない愛を得るなんてさ」

魔王「そんなことが出来るようになったら、それこそ未来が変わるくらいすごいことなんだよ?」クスクス

魔王「そんな希望を魔王に持たせてしまうなんてすごいことだ。さすが悪魔、と誇っていいよ」

373: 2014/11/19(水) 01:21:56 ID:LnsOEPZA

魔王「きっと…そんなことができた時には 本当に未来が変わる」

魔王「子々孫々 ソレに呪われるような…我侭で、残酷な。暖かくて不幸な…」


魔王「そんな悪夢が、始まる」

魔王「こんな魔王を 誰が愛してくれるのかな。いや、それよりも そんなことになったら…」


魔王「いつか、『お前を愛している』なんて言っちゃう魔王が現れたりしてね?」クス


―――――――――――――――――――――――――――
そしてはじまる、魔王の物語


If you lost your lover, you will hugging your love.
If you lost your love, you will hugging your memories.
If you lost your memories, I will hugging your xxxxx......

It is endress loop. It never lost.

Even if not written down, this love will be never-ending story.
I wish xxx all the happiness in the world, With many thanks and love.

―――――――――――――――――――――――――――

374: 2014/11/19(水) 01:23:32 ID:LnsOEPZA
おわりです

最終的に一気投下になってしまいましたが
お付き合いくださった皆様には御礼申し上げます

引用: 悪魔『魔王の為に、死んどきや』