1:◆RNkYQ8oSY6 2014/11/19(水) 07:01:02 ID:AaBJOdk.

『こんにちは』


公園でこどもが泣いていた


こどもの笑顔が見たかった


わたしは高く高く跳んでみせた


着地に失敗してわたしは転んだ


泥にまみれてからだが汚れた


こどもは笑った


春の陽ざしのなか


わたしも笑顔になった
ふらいんぐうぃっち

2: 2014/11/19(水) 07:01:55 ID:AaBJOdk.

『今日は暑いね』


鼻先でボールを回した


くるくると、くるくると


こどもは拍手をくれた


燃えるような夏の熱気のなか


わたしも笑顔になった

3: 2014/11/19(水) 07:02:35 ID:AaBJOdk.

『風が強いね』


夏が終わり秋が来た


わたしはボールを回した


ひゅるると冷たい風が吹いた


重力に引かれてボールは落ちる


こどもはため息をついた


ボールは地面を転がる


ころころと、ころころと

4: 2014/11/19(水) 07:03:45 ID:AaBJOdk.

『とっても寒いね』


そこに冷たい目をした


おとなたちがやってきた


ここを更地にするらしい


薄汚れた革靴で


公園を踏み荒らしていった

5: 2014/11/19(水) 07:04:32 ID:AaBJOdk.

わたしはこどもの目を見た


透き通った涙が、じわり


星の重力に引かれて、ぽたり


あたたかい涙がひとしずく


汚れた地面にとけていった

6: 2014/11/19(水) 07:05:09 ID:AaBJOdk.

おとなたちは遊具をこわした


金属は貴重なんだと言った


おとなたちは鉄棒をとかした


有効に活用するんだと言った


おとなたちが大嫌いだった


でもそこにはおとなたちしかいなかった

7: 2014/11/19(水) 07:05:48 ID:AaBJOdk.

『どうか、どうか、元気でね』


あの子が大好きだった


でもこの星は嫌いだった


もう公園は更地になった


わたしの居場所はどこにもない


ずっとずっと眠っていたかった

8: 2014/11/19(水) 07:06:20 ID:AaBJOdk.

おとなたちは宇宙船をつくった


おとなたちは犬をのせると言った


わたしは鎖に繋がれた犬の目を見た


『わたしをのせてください』


その子の鎖をくいちぎって、わんわんとわたしは吠えた

9: 2014/11/19(水) 07:07:08 ID:AaBJOdk.

誰もいない宇宙船のなか


わたしはようやくひとりになれた


誰の犬でもないわたし


窓の外は静かな宇宙


ふわふわとからだが浮いた

10: 2014/11/19(水) 07:07:44 ID:AaBJOdk.

その窓に鼻先をぺたり


そこに綺麗な地球が見えた


鼻先で地球はまわる


くるくると、くるくると


そのときあの子の笑顔が見えた

11: 2014/11/19(水) 07:08:21 ID:AaBJOdk.

わたしの目に、涙がじわり


決してこぼれることのない涙


決して地につかない足


着地の失敗もできなかった

12: 2014/11/19(水) 07:08:57 ID:AaBJOdk.

『地球にもどってくれませんか』


いいよ、と宇宙船は答えた


高く高く打ち上げられた宇宙船は


大気圏に再突入した


火の粉にまみれてからだが燃えた


燃え尽きる宇宙船のなか


わたしは笑顔になった

13: 2014/11/19(水) 07:09:33 ID:AaBJOdk.

なにもない更地に、こどもがひとり


「もう一度会いたいな」


それは寒い寒い冬のある日


空から降ったあたたかい雪が


更地を白く、きれいに染め上げていた




おわり

14: 2014/11/19(水) 17:08:18 ID:0OeTzmX6
幻想的な雰囲気ですね。乙。

15: 2014/11/19(水) 21:43:56 ID:RRZTBvVc

雰囲気が良かった

引用: 地球の道化師のおはなし