221: 2013/12/19(木) 04:31:07 ID:2RUct2Vc

【IS】一夏「インフィニット・ストラトス」【前編】
【IS】一夏「インフィニット・ストラトス」【中編】

【廊下】

ラウラ「……………」スタスタ

ラウラ(くそう……前の休み時間に一夏とシャルロットの戯言を聞かされたせいで、また落ちつかない気分になってきたではないか!)

ラウラ(いや待て、この程度のことで精神が乱されるとは、まだ強かった私に戻りきっていないということだ。
    もっと冷徹になるんだ。甘さを捨てろ……)


ラウラ「…………」


―――守りたいものを持たないあなたには分からないでしょうね


ラウラ「くそう! 何故セシリアのあの言葉が耳から離れないんだ!?」

ラウラ「くそくそくそ! 訳が分からない! また割り切れない妙な気持ちになる!」

「ボーちゃん落ちついて~~」

ラウラ「!」

のほほんさん「や~や~ボーちゃん。あんまり苛立ってたら、周りに迷惑だよ~~?」
IS<インフィニット・ストラトス>2
222: 2013/12/19(木) 04:31:39 ID:2RUct2Vc
ラウラ「ぼ、ボーちゃ……な、何だ貴様は? 私に用でもあるのか!?」

のほほんさん「ボーちゃん、逆だよぉ。私が君に用があるんじゃなくて、君が私に用……あ、そうだ。言っちゃいけないんだった」

ラウラ「はあ? な、何を言って……?」

のほほんさん「こほん。とにかく、何か困ってるなら私が力を貸すよ~~」



箒「ラウラはもう先に行ってしまったのか」

簪「うん。篠ノ之さん、ちょっと遅かったね」

箒「すまん。ホームルーム後、先生に何か悩んでいないかと聞かれてな。
  無いことは無かったんだが、ラウラたちのことが心配で早々に切り上げたよ」

箒(ホームルームのあとに事情を一夏に話すことはできなかった……
  私は千冬さんに悩みは無いかと尋ねられているあいだに、また部活に貸し出されて行ってしまった)

箒(そう言えば何故千冬さんは私に声を掛けたのだろう? 私が一番変に見えたのだろうか……?)

223: 2013/12/19(木) 04:32:28 ID:2RUct2Vc
簪「ラウラさんが見えたよ……あ、本音。何をやっているの!?」

のほほんさん「あ~、かんちゃんだぁ。私は~~ボーちゃんのISを直してあげる使命を与えられているのです」フンスッ

簪「……そうなの」

簪(……一夏が他の知り合いにも頼んだって言ってたけど……本音のことだったんだ……)

箒(布仏も一夏から頼まれたのか……? いつ? 
  昼休みの次の休み時間か? 一夏はラウラから話を聞いてからでなければ頼めないはずなのに、その時点から予鈴がなるまでは私たちと一緒にいたぞ)

ラウラ「?」

箒(まあいい。今はラウラが先だ)

箒「こほん。おまえのISの損傷具合は途中から観客席で見た私たちにも伺えたんでな。修理に協力してやろうというということだ」

のほほんさん「わぁ。皆も手伝ってくれるんだ~~」

ラウラ「私がおまえたちに力を借りるだと……? いらんわ、そんなことしなくていい」

鈴「馬鹿。あんたのシュヴァルツェア・レーゲンがかわいそうでしょうが」

224: 2013/12/19(木) 04:32:58 ID:2RUct2Vc
ラウラ「!」

箒「おまえも機体を点検しなくてはいけないことは分かってるんだろう。さっさと行くぞ」グイッ ダッ

ラウラ「あっ、お、おい!」

簪「行こう行こう!」

のほほんさん「わぁ~~! 皆でゴーゴー!」

鈴「ちょっとは私らを頼りなさいよ!!」

ラウラ「う………うう………」

ラウラ(何故こいつらは私に構うんだ……孤高の道を歩みたいのに……)



【整備室】

ラウラ「……………………」

簪「機体全体の損傷レベルは低いよ。ワイヤーブレードを発射できなくなってるけど、すぐ直せる」

のほほんさん「ふむふむ。修理するところはあんまりないね~~」

ラウラ「…………」

225: 2013/12/19(木) 04:33:40 ID:2RUct2Vc
のほほんさん「そうだ~~! 機体修繕が終わったらもっと効率的に稼働できるようにしちゃおうよぉ」

箒「ふむ、それがいいな」

ラウラ「え?」

簪「うん。各種ブースターのバランスは改善の余地があるよ。シールドバリアー展開時のエネルギー効率ももっと見直せそう」

鈴「なら、機材を借りて来なきゃね。その役は私がやるわ」

ラウラ「そ、そこまでする必要はない」

箒「好意は受けておいた方がいいぞ?」

ラウラ「…………」

ラウラ「どうして……」

鈴「ん?」

ラウラ「どうしておまえらは私に纏わりついてくる!? 私はおまえらを糧にしようとしている人間なんだぞ!」

ラウラ「おまえたちとの安い繋がりを絶って、ドイツの冷氷という二つ名にふさわしい自分を取り戻そうとしているのに!」

ラウラ「そして私は……もっと……強くなりたかっただけなのに……どうして……こうも混乱しているんだ……」

226: 2013/12/19(木) 04:34:12 ID:2RUct2Vc

鈴「……………」

のほほんさん「ボーちゃんどしたの……」

箒(強くなりたい、か……)チクッ

ラウラ「くそう……ペースが乱される」

箒「…………」

箒「なあ、ラウラ。強くなるという目的なら、簪たちに機体を調整してもらうことで叶えられるではないか」

ラウラ「何?」

鈴「そうよ。あたしたちも暇なら模擬戦の相手ならできるし、お互いに気付いたところをアドバイスし合えばもっと成長できるじゃん」

ラウラ「!!」

箒「なあ、ラウラ。おまえに何があったかは知らない」

箒「偉そうに聞こえたら済まないが……おまえは自分が選びとった道を本当に納得しているのか?」

ラウラ「うぅ」

箒「割り切れていない様子だが、おまえの心の奥底では皆と結び付きたいと思っているのではないか」

ラウラ「結び付き……だと? 私が……?
    私は試験管から生まれた人造兵器。そんな俗なものとは縁が無いのだ……」

227: 2013/12/19(木) 04:35:04 ID:2RUct2Vc
鈴「そうかな? さっきも言ったように強くなりたかったら仲間の手を借りた方がいいじゃん。
  それに、あたしらと遊んでるときはそれなりに楽しそうだったけどねぇ」

ラウラ(手を借りたことでメリットが得られるのは確かにそうだ。
    しかし、こいつらと伍するのは悲しい未来を連れてくるだけなのではないか……)

簪「…………」

簪「ラウラさん。私も篠ノ之さんや鈴さんとの関係のことで悩んでいたことがあったの。自分なんかが今更輪の中に入ってきていいのかって」

鈴「そうなの?」

簪「うん。でも、篠ノ之さんが私を快く歓迎してくれて……今、こうして皆といられるの」

ラウラ「…………」

簪「ねえ、あなたならもう気付いているんじゃない? 私にだって篠ノ之さんたちの温かさが伝わったんだよ。
  付き合いの長いラウラさんなら、仲間として誇らしい人ばかりだってことを分かってるはずじゃあ……」

ラウラ「くっ…………」

ラウラ(私は元の冷徹さを取り戻したかったはず……しかし、今胸を騒がすものは何だ?)

228: 2013/12/19(木) 04:36:17 ID:2RUct2Vc
ラウラ(教官は守るものがあるから強いと言った……やはり……私が選び直した道の方が間違いなのか?)

ラウラ「こういうときはどうすればっ……!」

箒「ラウラ」

ラウラ「!」

箒「おまえがどう思っているかは分からんが、私は―――いや、私たちはおまえのことを今でも仲間だと思っているぞ」

ラウラ「仲間……」ドクンッ

箒「おまえの本心は何と言っている?」

ラウラ「!!」

ラウラ(私の本当の気持ち―――)


ポタッ……


箒「あっ」

229: 2013/12/19(木) 04:36:48 ID:2RUct2Vc
ラウラ「どうして……だろうな。こんな経験したことはなかったからか……」

ラウラ「試験管の中で生を受け、人を無力化――頃す技術を学び、ただ訓練に明け暮れていたのに」

ラウラ「教官と出会い、一夏やおまえたちと出会い、共に戦い、新しい世界を見て……胸の中に新たな芽が吹き出していたんだ」

鈴「ラウラ……」

ラウラ「わ……」

ラウラ「私だって皆と一緒にいたい!」

ラウラ「守るものを失った悲しみを知っても、守ろうとした気持ちは捨てられない!!」

鈴「ラウラ!」

ラウラ「もう嫌だぁ! こんなに頭を悩ませるのも、皆に酷いこと言うのも言われるのも……後で苦しくなってばかりだ!」ポロポロ

230: 2013/12/19(木) 04:37:34 ID:2RUct2Vc
ラウラ「悲しみによる胸の痛みから逃れようと皆を遠ざけて来たのに! そうしようとするとまた一層の苦しみに襲われる!」

ラウラ「ひくっ……ひくっ……どうしてだ……どうして……!!」

箒「おまえが優しいからだろう」

ラウラ「え!」

箒「何故おまえが私たちを遠ざけようとしたかは分からないが、酷い悲しみに包まれたことがきっかけらしいな」

鈴「……でもね、深く悲しむことができる心を持ってる人は、人のぬくもりを感じられるんだとあたしは思う。
  そして、ぬくもりを知った人間はそれを易々と手放すことができない」スッ


ギュゥッ


ラウラ「んっ」

鈴「こんな小さな体によく鬱積した想いを溜め込めたものね。ま、あたしも人のこと言えないか」

ラウラ「心……感じる心……」

ラウラ「私に……そんなものが……?」

簪「心は皆持ってるよ。ラウラさんが持ってないはずない」

231: 2013/12/19(木) 04:38:14 ID:2RUct2Vc
ツーーッ……


ラウラ「…………私は……飼っていたグッピーのクラインが氏んで……打ちのめされて……」

ラウラ「もう二度とあんな思いはしたくない。でも、悲しむことのできる自分を捨てることは、もっと難しかった」

鈴(ペットのグッピーの氏が原因かあ……ラウラ、すごく純粋で傷付きやすいのね)

鈴「急に抱きしめて驚かせちゃった? ごめんね、どうしてもやらなければならないような気がしたの」パッ

ラウラ「…………いや」

箒「ラウラ!」ニコッ

ラウラ「あ……!」

のほほんさん「ん?」ピクッ

ラウラ(箒の笑顔が一瞬一夏のそれと重なった……)

箒「私たちも少なからず悲しい思いをしてきたし、これからどうするべきか頭を抱えたこともあった。
  だからおまえの気持ちが全く分からないというわけじゃない」

箒「ラウラよ、私たちとまた一緒に集まろう。また共に進んでいこう」

鈴「あたしからもお願い」

簪「これ以上同じこと続けても苦しいだけだよ」

232: 2013/12/19(木) 04:38:48 ID:2RUct2Vc
ラウラ「…………!」

ラウラ「すまん。皆……心配を掛けた。鈴、昨日は邪険に扱って悪かったな」

鈴「あ、あたしはもういいけど……もっと謝らなきゃいけない人がいるんじゃない?」

ラウラ(シャルロット……セシリア……そして一夏……)

ラウラ「ああ。分かっている」

ラウラ「私の守りたいものはすぐそこにあったのに……! 自ら手放してしまうところだった。
    このまま行っていたら、もっともっと悲しい思いをしていたかも知れない」

ラウラ「すまん。今からシャルロットたちを探しに行きたいんだが、機体の修理・調整は頼めるか?」

簪「いいよ!」

のほほんさん「任せといて~~」

鈴「ほらほら、さっさと行ってきな」

ラウラ「ありがとう。本当にありがとう!」ペコッ

箒「しっかり謝るんだぞ! そうすればきっと許してくれるだろう」

233: 2013/12/19(木) 04:40:51 ID:2RUct2Vc
ラウラ「ああ。箒、すまんがおまえも付いてきてくれないか?」

箒「え、私がか?」

ラウラ「うむ。別に一緒に謝ってほしいと言うのではない。ただ、おまえがいてくれるとなんとなく心強くなるから……その……」

箒「!」

箒(…………今、胸に嬉しい気持ちが広がってきた……)キュウゥゥゥ

箒「構わんぞ。私も同行しよう。あ、でも途中で剣道部に行くことになるかも知れんが、それでもいいか?」

ラウラ「もちろん」

のほほんさん「いってらっしゃ~い」



~20分前~
【IS学園 廊下】

セシリア「…………」スタスタ

シャル「ねえ、セシリア……機嫌直してよ……」

セシリア「シャルロットさんも変わった方ですね……
     あなたとラウラさんとの間の不和はまだ解消されていないのに、何故そこまでなさるのです?」

234: 2013/12/19(木) 04:41:24 ID:2RUct2Vc
セシリア「彼女の傲岸不遜な態度はあなたも知っているはず。侮辱したまま謝らずに去るなんて不道徳もはなはだしいですわ」

シャル「ラウラは今ちょっと混乱してるんだよ! だからお願い、許してあげて」

セシリア「シャルロットさん、あなたもいい加減に―――はっ」

セシリア(先の休み時間で一夏さんに対して犯したミスをまた繰り返してしまうところでしたわ……)

セシリア(あのとき、苛立ちから『話しかけないでください』と強く怒鳴ってしまって……
     でも一夏さんは、皆には本音を言うのはいいがそういった攻撃的な態度は取らない方がいいと言われて……)

セシリア(全く、わたくしもどうかしていますわ)

セシリア「はあ……今日はテニス部の練習はお休みですから、じっくり本でも読もうかと思っていますの。
     シャルロットさんも私の邪魔をなさらないで頂きたいですわ」

シャル「ごめん……で、でも」

235: 2013/12/19(木) 04:42:17 ID:2RUct2Vc
セシリア「ともかく、我が誇り高き血統を踏みにじられたからには、相応の態度を見せて頂かねば許せません!」

シャル「………セシリアは家を本当に大切にしてるんだね。凄いなあ」

シャル「なんか……羨ましいよ」

セシリア「…………?」

セシリア「どうしましたの、シャルロットさん?」

シャル「セシリアはきっと自分のお父さんのことも尊敬できてるんだろうなって、ふっと思ってさ。
    ごめんね、急に変なこと言って」

セシリア(父?)ビクッ

セシリア「どういうことですの? あなたは自分のお父様のことを尊敬しておられないのですか?」

シャル「……うん。僕は多分、できていないと思う」

セシリア「どうして?」

238: 2013/12/19(木) 04:44:00 ID:2RUct2Vc
セシリア(ひょっとしてシャルロットさんも私と同じように父のことで悩みを……)

セシリア「シャルロットさん。少しそのことについてお聞かせ願いませんか?」

シャル「うん。あ、そうか。セシリアには話してなかったね。僕の出自と、今までの人生のことを」

セシリア「私『には』とは……皆さんはもう知っているのですか?」

シャル「そうだね。箒たちには話したよ」

シャル「生まれについて負い目を感じてさ、今まで言わなかったんだ」

セシリア「そうですの。ねえ、シャルロットさん。あなたのお父様は―――」

シャル「それも含めて今から話すよ。僕と父親の関係も、ね」


――――――

―――



セシリア「……………そうだったのですね。昨日シャルロットさんが珍しく余裕を欠いていたのはその手紙が原因でしたの」

シャル「うん」

シャル「ねえ、僕のこと幻滅しちゃった?」

セシリア「いいえ。あなたはラウラさんの代わりに私に謝りに来てくれました、シャルロットさんは誇るべき友人ですわ」

239: 2013/12/19(木) 04:45:14 ID:2RUct2Vc
セシリア「それよりわたくしが興味深かったのは、あなたへ酷い仕打ちをしたあなたの父親のことですわ」

シャル「うん……でも、この手紙の末尾の文は、本当か嘘か分からないの」

セシリア(……………まだ父親と和解できると思っているのですね……健気な……)

シャル「箒たちに話して、学園に残ることに決めたんだけどね。
    卒業後に本国に帰ることになっても、皆が協力して僕のこと助けてくれるって言ってさ」

セシリア「そうですの! もちろん私もあなたのことは援助しますわ」

セシリア(そう……生きているなら……まだどんな未来も希望はある……)

セシリア「……わたくしは父のことを見下していました」

シャル「え?」

セシリア「母の後ろに隠れ、母の顔色を伺い、母の言うことに逆らえない父のことを不甲斐なく思っていました」

セシリア「しかし、父は昔の私には分からなかった長所を持っていたと……
     わたくしの知らないところで静かな闘争を続けていたと思えるようになりました」

セシリア「でも、もう二度と父に謝ることはできないのです。もうはるか前に列車事故で母と共にこの世を去ってしまいました
     氏の間際に母と交わしたであろう言葉を知る術を永遠に失ってしまい、そのことを知ったとき、わたくしは……」ジワ

シャル「セシリア!!」

240: 2013/12/19(木) 04:45:52 ID:2RUct2Vc
セシリア「ね、ねえ、シャルロットさん。わたくしはあなたが黒い罠に絡め取られないよう力を貸すつもりです」

セシリア「しかし、それとは別に……あなたがあなたのお父様と笑って食卓を囲める日が来ることを、心の底から祈らせて頂きますわ!」ニコッ


ポタッ……


シャル(涙……)

セシリア「あ、あれ、なんでしょう? おかしいですわね。
     シャルロットさんが羨ましくなったのかしら? 嫉妬の涙というのもあるのですね」ポロポロ……

セシリア「最初はシャルロットさんがわたくしのことを羨ましがったのに、もう何が何だかわかりませんわね。ほほほほほ」ポロポロ……

シャル「えっと……」


「これを使ってくれ」


セシリア(ハンカチ?)

ラウラ「セシリア、これで涙を拭け」

セシリア「あっ!」

シャル「ラウラ!」

241: 2013/12/19(木) 04:46:24 ID:2RUct2Vc
箒「セシリア、大丈夫か?」

セシリア「あなたたち……」

シャル「ラウラ、謝る気になったの!?」

ラウラ「ああ。セシリア。おまえの大切な家のことを馬鹿にして本当に悪かった」

ラウラ「…………ごめんなさい」ペコッ

セシリア「えっと……」

箒「セシリア、今だけはラウラの言葉を聞いてやってくれ」

ラウラ「おまえは家を大切に思っていたんだな。私が軽々しく貶していいものではなかったんだ。
    友人が守りたかったものを私は傷付けてしまった。どれだけ頭を下げても許されるものではないだろうが、それでも謝らせて欲しい」

セシリア「…………」

ラウラ「思えば、私がおまえたち相手に瀬踏みをしていたのは、心のどこかで人との接触を求めていたのかも知れない……」

シャル「セシリア、ラウラは―――――――っていうことがあったんだ」

セシリア「大切にしていたグッピーを失って、もうそのときの感情を味わいたくなかった、と……なるほど。
     純粋なラウラさんらしいと言えばらしいですわね」

242: 2013/12/19(木) 04:47:07 ID:2RUct2Vc
ラウラ「すまん、セシリア。本当にすまん……」

セシリア「…………ラウラさん」

ラウラ「な、なんだ?」

セシリア「ハンカチ、お貸し頂けませんこと?」

ラウラ「あ、ああ! 使ってくれ!」シュビッ!!


フキフキ……


セシリア「ありがとうございました。ラウラさん」

ラウラ「お、おう! 礼には及ばん!」

シャル「ラウラ! 君、よく変われたね!」

ラウラ「ああ! 整備室で箒たちが私を後押ししてくれて、本当の私を見つけ出す手助けをしてくれたんだ!」

シャル「そうなんだ!」

243: 2013/12/19(木) 04:47:57 ID:2RUct2Vc
箒「ま、まあな……は、はは……」

シャル(そっかそっか! 僕が一人でぶつからなくても……他の仲間がフォローしてくれるんだ!)

セシリア(あのラウラさんが……人はこうも変われるものなのですね……)

セシリア「ラウラさん。今回の件は水に流します」

ラウラ「本当か!?」

セシリア「ええ。でも、もう二度とああいった真似をしてはいけませんわよ! 誰より自分を押し下げる行為ですからね!」

ラウラ「ああ、面目ない……」

ラウラ「本当に大事なものと、自分の奥底の気持ちに気付いたんだ。私は再び変わる」

箒「ラウラ、シャルロットはおまえに凄く目を掛けていたんだぞ」

ラウラ「そうだった! シャルロットよ、おまえにも心配掛けたな」

244: 2013/12/19(木) 04:48:33 ID:2RUct2Vc
シャル「うん。すっごく不安だったんだからね」

シャル「本当に……ぐすっ……良かった……」

ラウラ「私も辛かった……すまなかったな、シャルロット」

ラウラ(うう……『ハンカチを渡してやれ』という箒のアドバイスを聞いて良かった。うまく行った……)

シャル「僕もごめんね。そうだ! 今日の夜またココア淹れてあげるよ!」

ラウラ「本当か!」パアァァァ


セシリア「あらあら」

セシリア「…………」

箒「セシリア。おまえは父親に対する自分の認識の変化に戸惑っていたらしいな」

セシリア「あら、盗み聞きとは感心しませんね」

箒「すまん。入り込む隙が中々見つからなくてな……悪いと思ったが聞かせて貰った」

245: 2013/12/19(木) 04:49:05 ID:2RUct2Vc
セシリア「ふう……」

箒「もう悩んではいないのか?」

セシリア「どうでしょう。父に対して悪いことをしたという自責の念はまだ残っていますけれど」

セシリア「しかし、ラウラさんが自分を変えて必氏に謝ってきたのを見て……わたくしもいつまでもうつむいている訳にはいかないと思いました」

箒「そうか!」

セシリア「内に籠るのでなく、周りに目を向けることも必要でしょう。
     シャルロットさんが自分とまた違った父とのすれ違いを抱えていたことは、わたくしに大きな示唆を与えてくれました」

箒「ほう」

セシリア「恥ずべきと考えていた過去を打ち明けて貰えるほど、わたくしを信頼してくれている仲間がいたことに気付くことができ……
     そしてもっと思い返してみると、私の変化に目敏く気付いて心配してくれる仲間もいたのですね」

箒「そうだぞ! 皆おまえのことで気を揉んでいたんだ」

セシリア「ありがとう。そうでしたわね」

246: 2013/12/19(木) 04:49:38 ID:2RUct2Vc
箒「礼も良いが、周りの仲間を助けてやってくれた方がいいな。皆もおまえと同じように抱えているものを下ろせずに苦労していたんだ」

箒「また皆がつまづいたり悩みを抱えているように見えたときは……今度はおまえが力を貸してやって欲しい」

セシリア(わたくしが皆さんを……ですか。
     そうですわ、他の方が一生懸命動いてくれていると言うのに、このセシリアは傍観しているだけというのは、実家の沽券に関わりますわ)

セシリア「…………」

セシリア「わたくしも……これからどうするべきか見えてきた気がします」

セシリア「わたくしという一人の人間として両の足でしっかりと立ち、自分を磨き、仲間を助けられる家名に恥じない人間になること。
     それが私に見本を示してくれた母に対するわたくしからの精いっぱいの返礼であり、見下し続けた父への贖罪なのですわ」

箒「さすがだな、セシリア。立派な目標だ」ニコッ

セシリア(……………!)

セシリア(一瞬一夏さんを思い出しましたわ……)

箒「ふふ……あ! そうだった! 急いで剣道部に行かないと! すまんが私はここまでだ! じゃあな皆!」ダッ

ラウラ「ああ……箒、ありがとう」

249: 2013/12/20(金) 04:21:25 ID:TYmvh/C2
【放課後 整備室】

鈴「あ、時間だ。ごめん、あたしラクロス部行ってくるね」

簪「うん。手伝いありがとう」

のほほんさん「さよなら~~」


のほほんさん「ふ~ん♪ ふふ~ん♪」カチャカチャ

簪「…………」

簪「ねえ、本音。あなたはいつ一夏にラウラさんのISを修理するよう言われたの?」

のほほんさん「昼休みの次の休み時間ですよ~」カチャカチャ

のほほんさん「授業が終わってすぐ、わたしのところに来て~~真剣に頼まれちゃいましたぁ」

簪(一夏はその休み時間にラウラさんと話してるのを見たけど、そこで初めて事情を知ったんじゃなかったの……)

簪「……あなたの協力が得られて助かったわ」

のほほんさん「いえいえ~~。おりむーがねぇ、昼休みに私を励ましてくれたから~~そのお礼って訳じゃないですけどぉ」

250: 2013/12/20(金) 04:22:13 ID:TYmvh/C2
簪「一夏に励まされた……?」

のほほんさん「うん。私、進級したら整備課に入りたくて~~でもちょっと不安もあって……」

簪「あなたが不安を?」

のほほんさん「あ~~! 今、想像できないって顔した~~! む~~!」プンプン

簪「ご、ごめんごめん」

のほほんさん「もう……! おりむーはちゃんと汲み取ってくれたのに……」

簪「悪かったって。ねえ、良ければもっと聞かせてくれない?」

のほほんさん「はい。私、こないだ生徒会の仕事をとちっちゃってお姉ちゃんたちに迷惑掛けちゃったの」

のほほんさん「ほら、かいちょーは先の襲撃事件が起きてからしばらく療養してたじゃない?」

簪「……うん」

のほほんさん「その間にどんどん雑務が増えていってね~~お姉ちゃんと私とおりむーでいつも以上にがんばって働いてなんとか回してたんだけどぉ」

簪「あなた、足引っ張るから生徒会の仕事は手伝わないようにしてるんじゃなかったの?」

のほほんさん「でもぉ……何もせず見てるだけじゃ悪い気がして~~」

251: 2013/12/20(金) 04:22:53 ID:TYmvh/C2
のほほんさん「がんばってたんだけど、お仕事続けてると慣れない作業で疲れちゃって~~ちょっとの間居眠りしちゃったの~~」シュン

簪「もう……」

のほほんさん「お姉ちゃんには怒られちゃったけど~~私が寝てる間、おりむーは上着掛けてくれてたんだ~~」

のほほんさん「起きたあと、申し訳なさそうにしてた私にコーヒーも淹れてくれてね~~『良く眠れたか?』って笑い掛けてくれてさぁ」

のほほんさん「それがあってから、私もおりむーにはいろいろ話していいかなぁって思って……
       今日の昼休みに、私みたいなおとぼけが整備課に入れるか不安に思ってるって話したの」

簪(本音まで手を伸ばしてたんだ……一夏っていっつもそういうことをやってるのかな……?)

簪「一夏はどう答えたの?」

のほほんさん「それがねぇ……こほん」

のほほんさん「かんちゃん、打鉄弐式の調子はどうですかな?」

簪「……? 異常なしよ。まだまだ改善していかなきゃならなそうだけど」

のほほんさん「そ~~。良かった~~」

252: 2013/12/20(金) 04:23:24 ID:TYmvh/C2
のほほんさん「おりむーは~~かんちゃんのISを作るのに協力してくれた私に感謝すると言ってくれたよ~~」

のほほんさん「『のほほんさんがいなかったら簪が参戦できなくなって、皆助からなかったかも知れない』ってね~~」

簪「確かにそうね。実戦に投入できるレベルまで完成度を高められたのは、あなたや京子さんたちのおかげ」

のほほんさん「えへへ……『だから自信を持ってくれ』って笑顔で言われてね……
       私も、整備の腕を磨くことでおりむーたちをバックアップできたらいいなぁと思ってさ~~」

簪「うん。私もあなたを応援する。私もあなたに差を付けられないようにもっとがんばる」

のほほんさん「はい! やりたいことに向かって走って行きましょうお嬢様!」

簪「……そうだ、一夏の様子にどこか変なところはなかった?」

のほほんさん「うん? 私と話してるときは~~いつもの明るく優しいおりむーだったよ?」

簪「悩みを抱えてるように感じられなかったのかしら」

のほほんさん「う~~ん……そもそも~~おりむーが何かに思いわずらうことなんかあるのかな~~」

簪「どうだろう……」

253: 2013/12/20(金) 04:23:59 ID:TYmvh/C2
簪(あの日、私の席にきたお気楽そうな男子……交流を続けていくと、しっかりとした信念と意思を秘めていることは分かった)

簪(一夏は私に道を示してくれた。彼はおせっかいで無神経で鈍感で強引だけど、優しくてまっすぐで広い心を持ってる)

簪(そんな一夏が……ねえ……)

のほほんさん「おりむーは人の話に付き合うのが得意じゃない? 
       何か自分の内に抱えてるものがあったらそんな余裕はないと思う~~」

簪(確かに……午後の休み時間だって、ラウラさんに突っぱねられたあとで私たちにも話しかけてたし……)

のほほんさん「なんでそういうこと聞いてくるの~~?」

簪「いや、お姉ちゃんに頼まれてね。一夏の様子を探るようにって」

のほほんさん「ふーん……でも、大丈夫だと思うけどなぁ」

簪「そうだよね……」

簪(明日一夏に話しかけてみて、それで特に変わったところを見受けられなかったらお姉ちゃんに報告しよっと)

のほほんさん「さあ、ボーちゃんのISを徹底チューンアップしちゃおうよ~~」

簪「そうね! きっと仲直りしてくるでしょうし、私たちの調整が遅れたせいで笑顔を曇らせる訳にはいかないしね!」

254: 2013/12/20(金) 04:24:41 ID:TYmvh/C2
~消灯十分前~

【一夏の部屋】

一夏「箒や鈴には普通に話してもらえるようになって、ちょっと安心したぜ」

一夏「よーし。明日あいつらに事情を聞いてみよう。今日はもう休むか」

一夏(……………………)

一夏(ラウラとセシリアは、お互い相手への憎しみをかなり滾らせてたな)

一夏(あの戦いを止めたのは、箒たちだった……)

一夏(あいつらがほとんど顔を知らないはずの簪まで一緒にいたのはどういうことなんだろう? やっぱり箒が声を掛けたのかな?)

一夏(仮にそうだとしたら、別に俺が動き回ることないんじゃ……それならうっとおしがられることも無くなるだろうし)

一夏「………!」

一夏(いやいやダメダメ! 仲間たちを繋げるのが俺の役目だろうが!)

一夏「ふう……」

一夏「俺のやろうとしてることは……合ってるはずだよな」

一夏(もっと周りの仲間と助け合って行けるように、ラウラたちを誘導しなきゃ。
   俺は外のあいつらが世界を見る余裕を持てるよう、困ってる人の話を聞いたりして心の重荷を下ろす手伝いをするだけ)

255: 2013/12/20(金) 04:25:36 ID:TYmvh/C2
一夏「……これが俺の仕事」

一夏(そうだ……これが俺の価値なんだ……)

一夏(弾の言う通り、俺はたまたま恵まれてただけなんだ)

一夏(偶然ISを動かせて、良い機体を貰って、俺を鍛えてくれる人もいて。縁がなかった女の子たちと仲良くなれた)

一夏(でも俺である必要は―――「織斑一夏」でなければならない理由は無かったんだ。
   同じ環境に置かれたらもっとうまくやる男はたくさんいたはずだ。俺みたいに鈴たちを苦しめるような真似をすることはないだろう)

一夏(……何が『力がついたら誰かを守ってみたい』だ。
   俺一人で誰かを助けられたことなんか一度も無かった。それどころか皆を傷付けてちゃ世話ないぜ)

一夏(でも……確かに甘っちょろいけど、皆の力になりたいって考えは持ち続けなきゃ。周りの皆の笑顔を守りたいし)

一夏(ただでさえ皆には色々して貰ってるんだ。俺のせいで苦しめてしまったことの罪滅ぼしも兼ねてこれくらいは返していかないと)

256: 2013/12/20(金) 04:26:19 ID:TYmvh/C2
一夏(そうだ。今の行動を止めたら本当に無価値な人間になっちまう)

一夏(でも俺のせいで皆が苦しまないように。俺はあいつらから一歩引かなきゃな……
   できるだけ遠ざかって、今までのように変に出しゃばらないようにしないと)

一夏「…………」チクッ

一夏「できるんだろうか、俺は……ん?」


キラッ


一夏(白式のガントレットか)

一夏(IS……)

一夏「直訳すると『無限の成層圏』なんだよな……それが女性を守る機械仕掛けの鎧の名前……」

一夏「……!」

一夏「は、はは。そっか、何か見えて来たぜ……」

一夏「俺は『IS』になれば良いんだな……!」

257: 2013/12/20(金) 04:27:05 ID:TYmvh/C2
束「ふんふふ~ん♪」カタカタカタカタカタカタ

束「よーし! 他ISの起動妨害機能……搭載成功!」

束「今までは邪魔者がたくさん入って、いっくんと箒ちゃんの活躍の機会が奪われちゃってたからね」

束「前回は何体も投入したのに、ちーちゃんは出撃してくれないしー。仕方ないから今回は二人の実力を探るだけに目的を絞るよ」

開発中無人機「…………」

束「先に完成しそうなのは初期の鉄巨人タイプに近い方だね」

束「ふふふふふ……これら新型ゴーレムが完成し、二人の共闘を促すことができれば、更にいっくんと箒ちゃんの仲は進展するね!」

束「戦闘用AIの改善は当初の目論見通り自己進化機能に手を加えることで上手くいきそうだし、これはもう……」

束「束さんは世紀の大天才ってことかな!?」ターン&ブイサイン!

束「…………………」

束「さてと、作業に戻ろっと」カタカタカタカタ

束「うふふ……箒ちゃん……お姉ちゃんに任せときなさい」

258: 2013/12/20(金) 04:27:40 ID:TYmvh/C2
束(そう言えば、今も十分だけど昔の箒ちゃんも可愛いんだよね)ゴソゴソ

ピラッ

束(うふふ。いっくんとちーちゃんも写っているこの写真……いつ見てもいいものだねえ)

束(もう一回だけ……こういう写真撮りたいな。今は皆色々と忙しいしもんね、いつかはそんな日が来るのかな)

束(でも、箒ちゃんとはそろそろまともにお話できるかも知れない。昔みたいにお互い何の遠慮もせずに……)

束(箒ちゃん、ごめんね。私が振り回したせいでたくさん迷惑掛けちゃったね。
  小学校変えられて、いっくんと離れ離れになってさ。年端もいかない頃から固っ苦しい尋問を受けさせられてたのも把握してる)

束(箒ちゃんは心がか弱いところもあるから……学校を変えられるたびに色々傷付いてきたんだろうなあ。
  そうそう、高校も自分の意思で選べなかったんだよね。いっくんと会えたのはそりゃ嬉しかったんだろうけどさ)
  
束(………………)

束「でも安心して箒ちゃん。これからはたくさん埋め合わせをするからさ」チラッ

無人機「……」

束「箒ちゃんはとっても強い精神と肉体を備えているし、紅椿を上手く操れるようになってるからきっと倒せるよね」

束(今はこういう不器用な形で繋がることしかできないけど、また仲良く顔を合わせて笑いたい……)

束「ふう」

束「さてと、あと何体か調整しようかな」

259: 2013/12/20(金) 04:28:50 ID:TYmvh/C2
―――――――――――――――――――――――――――――

一夏「……」

一夏「ここは……」キョロキョロ

一夏「篠ノ之神社の道場か……」

一夏「懐かしいな。箒いるかな」

一夏「…………」

一夏「……いねえなあ。ちょっと見回してみよっと」

一夏「うーん……なんだか変だ。道場から掛け声は聞こえなくて妙に静かだし……ちくしょう、西日が眩しいな」

一夏「もう練習は終わったのか? それとも今日は休み?」

一夏「だとしたらここにいても意味は……ん?」



少年「…………」


一夏「井戸端に座ってるのは誰だ?」

260: 2013/12/20(金) 04:30:00 ID:TYmvh/C2
一夏「おいちょっと、君に聞きたいことがあるんだけど」

少年「………………」クルッ

一夏「!!」

一夏「え……!? ガキの頃の俺!?」

少年「……………」ジワッ

一夏(目尻に涙が……)

少年「うっ…………」

一夏「ど、どうした……?」

一夏(何だ? 凄く懐かしいような)

少年「…………」

一夏(でも触れるのが怖いような……)

少年「ど……」

一夏「?」

少年「どうしてっ………行っちゃったんだよ……!」

261: 2013/12/20(金) 04:31:41 ID:TYmvh/C2
一夏「へっ?」

少年「何も言わずどうして!? 俺が何かしたのか!?」

一夏「な、何を」

少年「う、うう……」

一夏「何でおまえはそんなに寂しそうに……あ」

一夏(夕暮れどき……閉まった剣道場……稽古で良く使った井戸に腰かける俺……)

一夏「………………………」

一夏「あ、ああ!」



ポタッ

262: 2013/12/20(金) 04:32:21 ID:TYmvh/C2
~次の日 昼休み~

【食堂】

箒「そうか。先生方に伝えることはせず、まず父親に手紙を送ると。その決定でいいんだな?」

シャル「うん。セシリアが昨日励ましてくれたてね。それでこうしようって思ったんだ。
    ただ帰国を断るだけじゃなくて、お父さんが本当は僕のことをどう考えているのか尋ねるつもり」

鈴「どうせ聞こえの良い言葉ばかり並べてくるんじゃないの?」

セシリア「でも、わたくしは良いと思いますわ。この期に及んで実の娘を騙そうとする親なら、オルコット家が直々に処断しますわ」

シャル「あはは。ありがとう」

ラウラ「そのときは私も力を貸そう。とんでもないのを敵に回したことを骨の髄まで分からせてやる!」

簪「はは……おっかないね」

ラウラ「そうだ、更識簪よ。昨日は私のレーゲンを修理してくれてありがとう。そのうえ動作を最適化してくれて……本当に感謝する!!」

簪「え!! い、いいよ。こっちが勝手にやり始めたことだし……」

セシリア(この方が更識簪さん……楯無生徒会長の妹さんということですが、ずいぶんと印象が違いますわね)

箒「…………」

箒「セシリア、そう言えばおまえはまともに簪と顔を合わせるのは今回が初めてか」

263: 2013/12/20(金) 04:33:19 ID:TYmvh/C2
簪「そうだね」

ラウラ「セシリア! 簪は良いやつだぞ! 見ず知らずの私のレーゲンを直してくれたんだ!」

シャル「そう言えば、僕が鈴とぎくしゃくしてたときに間を取り持ってくれたんだったね」

セシリア「そうですの」

セシリア(皆さんがそこまで言う人なら、きっと素晴らしい方なのでしょう)

簪「ええと……これからよろしくお願いします。セシリア……さん?」

セシリア「こちらこそ。あと、わたくしの名前は呼び捨てで構いませんわ」

簪「そ、そう?」

箒「皆そうしているしな」

セシリア「思えば、わたくしだけですわね……皆さんに敬称や敬語を使っているのは」

鈴「セシリアはそれでいいのよ! 今更キャラ変えされても困るし」

ラウラ「確かにな。まあ、セシリアの好きなようにすればいいと思う」

セシリア「ふふ、どうしましょうか……ねえシャルロット?」

シャル「え!?」

264: 2013/12/20(金) 04:34:04 ID:TYmvh/C2
セシリア「その反応……やっぱりわたくしが使うのは合わないようです」

シャル「な、何で僕を実験台に選んだの!?」

鈴「あんたが一番やりやすそうだもんねー」

ラウラ「うむ」

簪「……確かにそんな感じ……」

シャル「か、簪まで! もー!」

箒「おまえは大らかで親しみやすいからな。いいところだぞ」

シャル「むう……」

箒(なんだか嬉しいな……一時は繋がりにひびが入っていたセシリアたちとまた集まれるとは)チラッ

簪「ふふ」

箒(……そのうえ新しい仲間も加わった)

「ね~~一緒に食べていい~~?」

箒「ん?」

簪「本音……」

のほほんさん「いつも一緒に食べてる子たちが~~用事あってね~~」

265: 2013/12/20(金) 04:35:05 ID:TYmvh/C2
箒「もちろん構わんぞ!」

ラウラ「布仏本音か! 私の隣が空いているぞ!」

のほほんさん「ボーちゃんありがと~~」テクテク

ラウラ「礼には及ばん」

のほほんさん「チキン南蛮一個あげる~~」ヒョイ

ラウラ「お、おお。すまん」

シャル(ラウラって結構表情豊かなんだよね。こうして見ると分かるけど)

のほほんさん「かんちゃんもお仲間入りしたんだ~~やったね~~」

簪「う、うん。本音も良かったらこれからも一緒に食べようよ。お友達呼んでさ」

のほほんさん「いいの~~?」

鈴「もちろんよ!」

セシリア「構いませんわ!」

のほほんさん「わ~い! 皆、結構専用機持ちの子たちを知りたがってたから、喜ぶよ~~」

箒「そ、そうなのか」

266: 2013/12/20(金) 04:35:39 ID:TYmvh/C2
箒(ふむ……クラスメイトともっと近づけるチャンスだ。もっと輪を広げられるかも知れない)

箒「……皆と一緒に食べたいのは私も同じだ。他の生徒が何を思っているか、私も知りたい」

のほほんさん「分かった~~私も今度からも入れて貰うね~~」

ラウラ「うむ!」

箒「もう二学期も終わろうという時期だが、クラス内の事情については知らないことが多い。親交を深めるにはちょうどいい」

シャル「うん。実は僕もそれほど皆のこと分かってるわけじゃないし」

シャル(周りを見る余裕もできたし、ね)

セシリア「確かにもう冬休みですものね。にしても色々とありましたわね。クラス代表決定戦がもう遠い過去のように思えますわ」

鈴「うん。クラス対抗タッグマッチや臨海学校での事件は結構きつかったわね」

ラウラ「二学期に入ってからも慌ただしい生活は変わらなかったな。むしろ忙しくなった」

シャル「楯無生徒会長も加わって拍車が掛かった感があるよね」

ラウラ「むう……! あいつにはいつも迷惑を掛けられっぱなしだ! 
    気まぐれに部屋に勝手に忍び込んではこちらに被害を出して帰っていく!」

簪「……ごめんね」

267: 2013/12/20(金) 04:36:14 ID:TYmvh/C2
ラウラ「あ! か、簪! おまえが悪いわけではないぞ!」

箒「ははは。しかし早いものだな。冬休みか……」

のほほんさん「そうだ~~! お休みに入ったら皆で集まって騒ごうよ~~!」

箒「え?」

鈴「あ! それいいわね! 一回皆で遊びましょうよ!」

セシリア「ええ! 皆さんと一緒に余暇を過ごしたことは実のところあまりありませんし」

シャル「賛成!」

ラウラ「私も異論は無い!」

簪「…………えっと」ドキドキ

箒(簪はあまり皆で遊んだ経験がないのだろうか……?)

のほほんさん「しののんはどう?」

箒「あ、ああ。もちろん私も参加するぞ! 簪、おまえも来てくれると嬉しい!」

簪「う……」

268: 2013/12/20(金) 04:37:42 ID:TYmvh/C2
箒「簪!」ニコッ

簪「そうね……私も皆と一緒に遊ぶ!」

箒「良かった。細かい段取りは追々決めていこう」

鈴「ええ! あ、もうそろそろ鐘が鳴るじゃない。話し込んで気付かなかったわ」

シャル「本当に。じゃ、戻ろっか」

ラウラ「うむ」


――――――

―――



~放課後~

箒(抱えてるものを吐き出したら、皆の繋がりが一層深まったような気がするな)

箒(あいつらの嬉しそうな顔……ここへは自分の意思で入学した訳ではなかったが、今ならここに来て良かったと言える)

269: 2013/12/20(金) 04:38:23 ID:TYmvh/C2
鷹月「篠ノ之さん! 嬉しそうね!」

箒「静寐! セシリアたちとまた一緒に過ごせるようになってほっとしているんだ!」

鷹月「良かったじゃない! 昨日部屋に帰って来てからも話を聞いたけど、うまく関係修復できたみたいで何よりだわ」

箒「ああ。静寐があいつらのことを教えてくれたから私も動くことができたんだ。ありがとう」

鷹月「いいわよ、礼なんて。そうだ、織斑くんはどうだった?」

箒「そう言えば今日はあまり姿を見ていないな。朝昼と食堂にいなかったし、教室を空けることが多かった」

鷹月「え、じゃあ皆が織斑くんを避けてた事情を彼自身はまだ知らないってこと?」

箒「……! そ、そういうことになるな……」

箒(何故私は一夏のことを考えなかったんだ? 皆と一緒に過ごすのが楽しくて意識から外れていたのだろうか?)

箒(一夏……すまん)

270: 2013/12/20(金) 04:39:05 ID:TYmvh/C2
鷹月「そうなの……ま、織斑くんは大丈夫でしょ」

箒「ん?」

鷹月「私は織斑くんが一人でいるとき気落ちしてる姿を見たけど、それはあなたたちに避けられていたことが原因だったと思うの。
   篠ノ之さんの話だと皆元の優しさと快活さを取り戻しているし、これからは彼を無視することもないでしょ」

箒「ううむ、そうか……」

鷹月「よく考えたら織斑くんっていつまでも思いつめるような繊細な神経してなかったと思うし」

鷹月(……あの鈍感値ランキングなんかあったら世界ランカーに上り詰めるであろう織斑くんのことだしね)

箒「そうだな。神経はともかく、あいつは強い男だ。まっすぐで大らかで、困った人がいたら手を差し伸べずにはいられない心根の持ち主でもある」

鷹月「…………」

鷹月「篠ノ之さんって、本当は織斑くんのことをすごく認めてるのね。彼にはいつも手厳しい態度を取ってたように感じてたけどさ」

箒「……」

271: 2013/12/20(金) 04:40:09 ID:TYmvh/C2
箒(明日楯無さんに提案して一夏と私に特訓を付けて貰って、そのときに教えようか?……そろそろ一夏にあいつらの事情を話してやらなければ)

箒(きっと優しいあいつのことだ。笑って水に流してくれるに違いない)

箒(しかし、セシリアたちと話していてもほとんど一夏の話題が出ることが無かったな。意外だ……)

鷹月「どうしたの? 難しい顔して」

箒(そう言えば…………)

箒「一夏がいなければ、皆が出会うこともなかったんだな」

鷹月「え?」


山田「はーい! 授業ですよ! 皆さん席に戻ってくださいね!」

鷹月「あ……じゃあね」

箒「うむ」

鷹月(山田先生……織斑くんに悩み聞いて貰ってからより明るくなったわね。自信が付いてきたっていうか)

箒(…………一夏の後追いをしてるだけなのだな、私は……)

272: 2013/12/20(金) 04:40:49 ID:TYmvh/C2
続きはまた明日!

275: 2013/12/21(土) 23:56:18 ID:69kyuY5c
【第三アリーナ】

楯無「……………槍も使わせてもらうわよ。一夏くん」スッ

一夏「はい」

楯無「……行くわよ」


ビュン!


一夏(正面からの突撃……!)

楯無「…………」スッ

ボゥン!!

一夏(前方に爆発!? 攪乱か!)

【白式アラート:右方向からの襲撃】

276: 2013/12/21(土) 23:57:06 ID:69kyuY5c
一夏「こっちか!」クルッ

ギュウゥゥン!!

一夏(向かって来たのは水のナイフ!? こっちもブラフだ!)バシッ!!

ボゥン!

一夏(くっ―――! 爆発した!?)

一夏「…………」


ゴオォォォォ!


楯無「………!」

一夏「後ろ!」グルン! バシッ!

277: 2013/12/21(土) 23:57:51 ID:69kyuY5c
楯無「あっ!」

一夏(槍はいなした! 今だ!)

【雪羅 零落白夜発動】

楯無(でも……!)

一夏(右手の蒼流旋対処完了―――敵左手に異変―――優先的に破壊――!)

一夏「はあっ!」ブン!

楯無「!」サッ ギュゥウンッ!

一夏「っ…………」


ヒュゥゥ……


楯無「ふう」スタッ

一夏「剣は左手とヴェールにかすっただけですか」

楯無「……いやあ、段取り組んだ攻撃が全部防がれちゃうなんて思いもしなかったわ。驚いちゃった。
   最初の煙幕も効果なかったし」サッ フッ

278: 2013/12/21(土) 23:58:26 ID:69kyuY5c
一夏「?」

一夏(何か今楯無さんの纏っていた水のヴェールが変に動いたような……)ジーッ

楯無「すごいじゃない一夏くん」

一夏「楯無さんこそ。ナノマシンで形成した水のナイフを遠隔操作して布石に使ってくるなんて予想外でした」

一夏「弾いても小規模の水蒸気爆発が起きて、あやうく体勢を崩しそうになりましたよ」

楯無「はは……」

楯無(本当はそこで注意を逸らして、後ろからの突進に対応する余裕を奪えてたはずなんだけどね。
   水のナイフを見せるのは初めてだったのに……弾かれたときに爆発する二段攻撃のギミックまで通用しなかったか)

楯無(あの技も潰されちゃうし……)

一夏「どうかしました?」

楯無「うん。でもやるじゃない一夏くん。後方からの突撃への対処も完璧。防御時の基本動作はほぼ身についたみたいね」

一夏「はい! 相手が片手で繰り出した攻撃を両手を使って防いだ場合、もう片方の手の動きに対応できなくなるから極力こちらも片手で捌くんですよね。
   それについては自分でもある程度形になってきたと思います」

楯無「そうよ。君の白式は特性上人一倍エネルギー管理に気を付けなければいけないんだから、防御技術を上げて無駄なダメージを避けなきゃダメよ」

一夏「分かっています!」

279: 2013/12/21(土) 23:59:17 ID:69kyuY5c
楯無「攻撃の方も抜本的に見直したいって言ってたけど、それについては君が最初に提案した方向は間違ってはいないと思うわ」

一夏「本当ですか?」

楯無「白式は元々の燃費が悪い上に必殺の零落白夜はシールドエネルギーまで消費する。
   それだけでも大変なのに、雪羅になると追加されたバリアシールドやスラスターのせいで輪を掛けて活動限界時間が縮まってしまう」

楯無「その問題を解消するために一夏くんは一つのスタイルに辿り着いた。
   エネルギーを消費する動きを極力控え、カウンター時に一瞬だけ発動した零落白夜を叩きこむスタイルにね」

楯無「瞬間加速もどうしても必要なとき以外使わず、相手の動きの隙を捉えたらすかさず必殺の一撃を叩きこむ――完成したら強い戦法だと思うわ」

一夏「そうですよね!」

楯無「完成したら、の話ね。この方法は言うのは簡単だけど実現させるのはかなり難しいと私は感じるのよ」

一夏「そ、そうですか?」

楯無「相手の攻撃を最小限の動きでかわす、っていうのは相当の熟練と集中力が必要なのよ」

楯無「アラーム類がいくら高性能だからって言っても、実力が拮抗した相手から被弾を抑えることは難しいわ。
   各種武器の特性をもっともっと理解する必要もあるし、セシリアちゃんのビットみたいな多方向からの同時攻撃などにも対応できるようにならなきゃ」

一夏「う……」

280: 2013/12/22(日) 00:00:17 ID:Qf4gDG/M
楯無「もちろん俊敏さや察知能力、相手の癖を見抜く力も要求されるわね」

一夏「…………」

楯無「エネルギーを無駄遣いしないことを考えの中心に置いたのは良いと思うの。
   だからまずは零落白夜や雪羅の荷電粒子砲、瞬間加速を的確な場面に使えるようになれればいいんじゃないかな?」

一夏「そうですね」

楯無「……ま、全段防がれた私が偉そうに言うことじゃないかも知れないけど。私からのフィードバックはこれくらいかな。さ、そろそろ戻ろうか」

一夏「はい」

楯無(…………)

楯無(今日は一夏くんから話しかけられて身構えちゃったわ。
   一夏くんの方から特訓の申し出をしてくることなんて、あの一件の後だから当分無いかなって思ってたのに)

楯無(そうしてきたところを見るに、簪ちゃんが言っていた通り今の一夏くんは悩みに苦しんでなさそうね)

楯無(そう言えば、私に報告をしたあとの簪ちゃん、嬉しそうな顔してたっけ。
   どうしたのって聞いたら『友達ができたの』って満面の笑顔で答えてくれたなあ)

281: 2013/12/22(日) 00:16:54 ID:Qf4gDG/M
楯無(良かったわね……本当に……今までロクなことしてこなかった私の依頼を聞いたから、神様や仏様が取り計らってくれたのね)

一夏「楯無さん、簪のこと考えてるんじゃないですか?」

楯無「へっ!?」ドキッ

一夏「やっぱりそうですか」

楯無「ま、まあね」

一夏「俺も簪が箒たちと楽しそうに過ごしているのを見たんです。
   あいつ、あんまり笑わなかった記憶があるんですけど、最近は気持ちいい笑顔を見せてくれるようになりました」

楯無「そうよね。私も嬉しいわ」

一夏「あの、楯無さん。良かったら簪たちと一緒にご飯食べたらどうですか?」

楯無「私が……簪ちゃんと一緒にご飯?」

282: 2013/12/22(日) 00:17:58 ID:Qf4gDG/M
一夏「ええ! もう苦手意識は消えたでしょうし、隔てる壁はもはや無いじゃないですか」

楯無「…………」

一夏「きっと、簪も楯無さんのことを気遣ったり心配したりしてると思うんです。あいつ、不器用だけど優しい奴ですから」

楯無「そう、ね。でもたまに思うことがあるの……」

一夏「?」

楯無「確かに私たちの距離は縮まったわ。今ならお互いに思っていることを胸を割って話せるかもね。
   でもね、そうしたら私……もしかしたら簪ちゃんにもっと弱みを見せてしまうかも知れない」

一夏「え……」

楯無「実は言うとね、ええと……そっか、あのときに感じた気持ちを伝えるにはこっちの事情をばらさなきゃいけないか」

一夏「何を言っているんです?」

楯無「一夏くん。あなた三日ほど前に私に悩み相談を持ちかけてきたわよね?」

一夏「あ、あれはもういいんですよ!

283: 2013/12/22(日) 00:18:43 ID:Qf4gDG/M
楯無「あの日、私一夏くんの部屋を出たあと、簪ちゃんに一夏くんが本当に大丈夫か探って貰おうと思ったのよ。
   あのときの私は君と直接会うのが怖くなってたから、代役を立てた訳ね」

一夏「そんなことしてたんですか」

楯無「君は相談するほどのものじゃ無かったって言ってたけど、あの後の雰囲気じゃもし心に重荷を抱えてたとしても言いづらかったでしょうし。
   一夏くんに悪いことしちゃったっていう負い目もあって、とにかく何とかしようとしてたわね、私」

一夏「……あれは俺が……」

楯無「もう言いっこなしよ。それで、簪ちゃんに頼むとき精一杯お願いしたんだけど、気乗りしない風だったわ。
   当たり前よね、こんな私の責任を取らされるなんて」

一夏「でも簪は……受けたんでしょうね」

楯無「そう。でもね、それは―――」

一夏「……ありがとうございます。楯無さん」

楯無「え?」

一夏「先輩は本当に俺のことを心配してくれてたんですね」

284: 2013/12/22(日) 00:19:18 ID:Qf4gDG/M
一夏「きっと簪はそのときの楯無さんが抱えてる不安な気持ちを察したんでしょう。
   あいつ、こういったことは苦手そうだったのに、依頼を受けたということは楯無さんのことを助けたかったんですよ」

楯無「……そうだね」

一夏「きっと楯無さん、あいつに弱いところを見せてしまったんじゃないですか。あいつは楯無さんが困ってたから引き受けたはずです」

楯無「うん……それで簪ちゃんは見事依頼を果たしてくれたわ」

楯無「で、報告によると一夏くんは悩んだりしてないということだったから、私から君に声を掛けようと思ったんだけどね。
   放課後に君の方から笑顔で声を掛けられたもんだから調子崩されちゃった」

一夏「そうですか、すみません。俺も早いとこ関係修復したかったもんで」

楯無「考えてることは同じだったわけね。で、私は今更ながら簪ちゃんに迷惑掛けたことで後悔してるのよ」

一夏「え? 簪とはもう和解できたんじゃ―――」

楯無「うん。でも今回は反省の連続。頼んだときには必氏だったから気付かなかったけど一方的にこっちが余計な仕事押し付けただけだもんね」

285: 2013/12/22(日) 00:20:34 ID:Qf4gDG/M
一夏「簪はそんなこと思っていませんよ」

楯無「多分そうなんだろうけどね。でも、私の方は自分の行為に納得できない所が多いのよ」

一夏「納得できないとは?」

楯無「私は……そう。簪ちゃんと和解したときは、これからこの子をより近い距離で見守ってあげたいと思ったわ。
   もし危ない目にあったらすぐ飛んで行って助けてあげよう、今までの埋め合わせをたくさんしようって」

一夏(守る……か)

楯無「そのときの私は自分の問題を妹に押しつけてしまうことになるなんて思いもしなかった。
   私が描いていたイメージの中にはそういう絵は無かったの」

一夏「…………」
  
楯無「何だろう。自分を強く見せたいと思うのは生徒会長やってる職業病みたいなものなのかな。それとも姉特有の傲慢さから来るもの?
   勝手に助けたいと思って、弱いところを見せたくなかったのに……こっちが助けられてる」

一夏「楯無さん」

楯無「弱いところをもっと見せてしまうのを恐れてるのよ、私は。
   このままじゃ私の方が妹に苦手意識を持ってしまいかねないわ……」

一夏「誰だって完璧じゃありません」

楯無「でもそう見られたい欲求は消せないわ。特に今まで迷惑を掛けた妹に対しては。ああ、また尊大になってるかも」

286: 2013/12/22(日) 00:21:32 ID:Qf4gDG/M
一夏「っ…………」

一夏「そういう気持ちって、実は簪のことを信じ切れていない気持ちから来るんだと思います」

楯無「……え」

一夏「楯無さん、あいつはあなたが思っているより強いと思うんです。
   でも、あなたは自分がしっかりしていないと簪を不安にさせることになると考えているんじゃないですか……?」

楯無「そうよ、だから…………」

一夏「あなたはもう簪に強く見せようとする必要はありません。今のあいつには仲間がいます!」

楯無「!」

一夏「もしあなたの妹に辛いことが襲いかかったとしても、そのときに支えてくれる人間を簪は獲得してるんですよ。
   楯無さんだけががんばる必要はありません」

楯無「で、でも」

一夏「楯無さんだって……一人で奮闘していたらいつか限界が来るはずです。
   強くあろうとする生き方に疲れたときは簪たちに助けて貰えばいいんじゃないですか?」

楯無「え……?」

一夏「弱みを見せたって良いじゃないですか。姉妹なんだし。むしろ唯一の姉妹なんだからもっと打ち明けるべきです」

287: 2013/12/22(日) 00:22:12 ID:Qf4gDG/M
一夏「簪はあなたを支えられるほどの力は持っています。虚さんやのほほんさんにももっと心の内を見せていいでしょう」

楯無「…………」

一夏「俺だって、今みたいに及ばずながらアドバイスくらいはできると思いますし……身の程知らずだと受け取られるかも知れませんけど」

楯無「……………」

一夏(やべっ……生意気なこと言い過ぎたかな……?)

楯無「簪ちゃんを信じ切れてない、か…………言ってくれるじゃない」

一夏「……………す、すいません」

楯無「確かに……忘れてたわ。あの日、夕日色に染められた医療室で簪ちゃんに掛けた言葉のことを」

楯無「『あなたは、私の大切な妹よ。とても強い、私の妹――』って、ちゃんと、伝えた、はずなのにね……」

一夏「…………」

楯無「…………最近はさ、まみえた敵さんに出し抜かれたり、ボロボロになるほど追い込まれたりして、ちょっと自信失ってた所があったのかも」

楯無「だから、せめて妹に持たれてる良いイメージは崩したくないと思っちゃったんだろうね」

一夏「楯無さん、あなただって人間です。まだ成人もしてない女の子なんですよ。
   無類の強さと人徳があっても、人並みに人間関係や不調で悩んだりすることもきっとあるはずです」

楯無「そう……ね……」

一夏「…………そのときは…………力不足ながら俺も手を貸しますから」

288: 2013/12/22(日) 00:23:09 ID:Qf4gDG/M
楯無「うん。ありがと……」

一夏「な、何かごめんなさい! 勝手なことばっかり言って! 俺、今なんか猛烈に恥ずかしいです!!」

楯無「良いのよ。私たち姉妹のことを心配してくれたんでしょ? ありがとう、一夏くん」
   今私に話してくれたことを見ても、やっぱり君を簪ちゃんの元に派遣したのは正解だったと確信するわ」

一夏「…………」

楯無「さ、そろそろ戻りましょ。疲れたでしょ?」

一夏「は、はい!」

楯無(簪ちゃんともっと仲良くなりたかったけど、そうなるためには強い自分を演じてちゃいけないのよね。素の自分でぶつからなきゃ……)

一夏(いや―……うまく行ってよかった。俺の着想が形になる日もそう遠くないかも……)

楯無「話は変わるけど、一夏くん、今日の最後の立ち合いは見事だったわよ。おねーさん驚いちゃった」

一夏「そう言って頂けると励みになります。あ、そう言えば楯無さん、決着後に妙な動きをしてましたよね?」

楯無「え」ドキッ

一夏「あれは一体……」

一夏「………………………!」

一夏「分かった! 左手にアクア・ナノマシンを集中させてたんだ!」

楯無「!」

289: 2013/12/22(日) 00:24:49 ID:Qf4gDG/M
一夏「多分、ミストルテインの槍の小型版でしょう! そうか! 蒼流旋を右手だけで持ってたのはそのためですか!」

楯無「えっ……何しようとしたのか分かっちゃったの? 私、その技を使えなかったのに?」

一夏「水のヴェールが変にうごめいたのが気になったもんで……後ろからの突進に振り向いて対処したときも、ちらっと左手に違和感を持ったのもありますけど」

一夏「槍による突きが捌かれたとしても、左手を貫手の形にして刺し込めばダメージを負わせられる運びになってるんですね。
   煙幕から始まり、遠隔操作により投擲された水のナイフとその爆発、背後からの突進、それが止められたときのための秘密兵器、ですか……恐ろしい」

楯無「待って。一夏くんが零落白夜で私の左手を狙ったのは、こちらの狙いに気付いてたから?」

一夏「一瞬ですけど何かやばいな、と感じて咄嗟に左手を狙っただけですけど……具体的にどういった攻撃が用意されてるのかすぐに分かりませんでした。
   アクア・ナノマシンの移動もわずかでしたしね」

楯無「ふーん……す、すごいじゃない」

一夏「俺もちょっとはマシになりましたかね?」


――――――

―――


290: 2013/12/22(日) 00:25:43 ID:Qf4gDG/M
【IS学園 廊下】

一夏「今日もありがとうございました」ペコリ

楯無「はいお疲れ様」

一夏「明日もよろしくお願いしますね!」

楯無「うん。じゃあね」スタスタ

一夏「さようなら」スタスタ

一夏「ジュース買って行こうかな」

一夏(楯無さんも妹には不器用になるんだな。唯一の弱点と言えるか)

一夏(あの人も少しずつ変わってきたなあ。簪と気兼ねなく付き合えるようなれば良いんだけど―――)

291: 2013/12/22(日) 00:26:46 ID:Qf4gDG/M
「おい織斑」

一夏「!」

千冬「特訓の帰りか」

一夏「織斑先生。どうかしましたか」

千冬「いや……ちょっとおまえについて気になることがあってな」

一夏「と、言いますと」

千冬「ここ数日、山田先生の言動が妙なんだ」

一夏「え?」

千冬「私が職員室でおまえのできの悪さを嘆いていると、変に庇おうとしてな。元々甘いところはあったが、このところその傾向が顕著なんだ」

一夏(山田先生……)

292: 2013/12/22(日) 00:28:16 ID:Qf4gDG/M
千冬「しかし、上の空になることが無くなって前向きになっていることも伝えておくべきだろう」

千冬「織斑。おまえあいつに何かしたのか?」

一夏「いえ……」

千冬「…………」ジロッ

一夏「…………」

千冬「教師にすら手を出すようなら相応の処断を覚悟して貰うぞ」

一夏「な、何を言っているんですか」

千冬「ふん、まあいい。あーあと……こほん」

千冬「篠ノ之たちが悩んでいるとのことで話を聞いてくれと頼まれていた件だが、現時点ではそういった問題は無いように思われる」

一夏「え……」

千冬「確かにオルコットが注意散漫になっていたり、ボーデヴィッヒが不機嫌そうにしていたりといった歓迎できない変化は見られた」

千冬「しかし今日は元の自信を取り戻したり、布仏などとも話すようになっている。あいつらは昼休みには笑い合いながら食事をしていたぞ」

千冬「特に心配することは無いと思うが、今後も異変に敏感に気付けるように生徒の観察は続けていく」

一夏「はい……!」

293: 2013/12/22(日) 00:28:47 ID:Qf4gDG/M
千冬「私からは以上だ」クルッ

一夏「あ、あの……」

千冬「何だ?」

一夏「お仕事忙しいんでしょうが、無理はしないで下さいね」

千冬「おまえに心配されるまでもない」

一夏「………………」

千冬「そう言えばおまえの方は解決したのか。あいつらから無視されていたと聞いたが」

一夏「えっと……はい! 大丈夫です!」

千冬「そうか」

一夏「…………」

千冬「…………ではな」スタスタ



一夏「行ったか」

一夏「…………」

一夏「俺、楯無さんには姉妹だから自分のことを簪にもっと打ち明けても良いって言ったのに……俺は自分の姉に対して全然出来てないなあ……」

294: 2013/12/22(日) 00:30:46 ID:Qf4gDG/M
――――――

―――



~数十分後~

楯無「ふう…………」スタスタ

楯無「高校生の男の子って、皆一夏くんみたく成長早いものなのかな?」スタスタ

楯無「私、二つも隠し技使ったのに……全部いなされた」スタスタ

楯無「あはは……一夏くん、君、もしかしたらとんでもない男の子かも知れない」

楯無(一夏くんには驚かされたり支えられたりしてばっかりだわ……こんな子、今までいなかったわよ)

楯無(もしかしたら……来年には学園最強を譲る可能性もあるわね)

楯無(そうなったとき、私に付いてきてくれる人はどれくらいいるんだろう―――)

「お姉ちゃん!!」

楯無「!」

箒「楯無さん、こんばんわ。今からお食事ですか?」

楯無「まあね。今日はお休みの予定だったのに一夏くんが特訓に付き合ってくれないかって言ってきてね。
   しばらく前までアリーナで汗流して、今シャワー浴びて来たとこよ」

295: 2013/12/22(日) 00:33:06 ID:Qf4gDG/M
箒「た、楯無さん……!」

楯無「お願い聞いてくれてありがとね! 簪ちゃん!」

簪「お礼なんかいいよぉ……」カアァァァ

簪(お姉ちゃんになんかしてあげられて私も嬉しかったし……)ボソッ

楯無「何か言った~~? 簪ちゃん?」ギュウゥゥゥ

簪「きゃああっ!」

箒「楯無さん……」

簪「お姉ちゃん、ほら、箒が見てるよ……」

楯無「箒ちゃん! これからも妹と仲良くしてあげてね!」

箒「は、はい」

簪「…………」カアァァ

パッ

楯無「さ、行こうか♪」

296: 2013/12/22(日) 00:34:55 ID:Qf4gDG/M
簪「うん!」

箒「…………」

箒(仲の良い姉妹だ……簪も楯無さんも、お互いのことを想っているのがわかる。他人行儀ではなく、親しく気軽に付き合っている)

箒(性格は全く違うが、面貌の造りは似通っているな。自信が付けば簪も会長のような顔つきになるのだろうか)

箒(……………姉さん)

箒(私が意地を張っている限り、私たちがこうなれる日はずっと来ないのでしょうね……)

楯無「簪ちゃん、整備課の子たちから聞いてるわよ。凄い技術の持ち主だって驚いてたわ」

簪「う、うーん……」

箒「……」ジーッ

箒「そうだ、先に食堂に言っておいてください。私は一夏を誘ってきます」

簪「私たちも一緒に行くよ?」

297: 2013/12/22(日) 00:36:41 ID:Qf4gDG/M
箒「いや、いいんだ。楯無さん、席が込んでいるかも知れないので、スペースの確保をお願いします」

楯無「そっか」

簪「じゃあ、箒に任せて先に行こうかお姉ちゃん」

楯無「うん!」



箒「ふふ……」

箒(しばらくの間姉妹水入らずにしておこう………)

箒「さてと、あいつは何をしているかな?」

箒「……あ! きっと他の連中が部屋に誘いに来ているかも!」

箒「そうだ! 今までのパターンだとそうに違いない! くそう! 早く行かねば!」ダッ!

298: 2013/12/22(日) 00:38:03 ID:Qf4gDG/M
【一夏の部屋】

箒「一夏ー! いるか!?」コンコン

シーン……

箒「いないのかー?」

箒「…………」

箒「また入れ違いか……?」


「あれ、箒か」


箒「!」

一夏「俺の部屋の前で何して……あ、メシ誘いに来てくれたのか」

箒「あ、ああ」

一夏「おまえの方から来るなんて珍しいな……」

箒「そ、そうだろうか?」

299: 2013/12/22(日) 00:39:25 ID:Qf4gDG/M
一夏「ちょっとジュースを買いに部屋空けてたんだよ。待たせちまったか」

箒「いや、今来たばかりだが」

一夏「まだ俺シャワー浴びてないんだよ。ちょっと待って―――」

Prrrrrrrrrr

箒「あ、すまん。メールだ」カチカチ

一夏「誰からだ?」

箒「えーと……」カチカチ

箒「鈴からだ! 『皆食堂に集まってるから一緒に晩御飯食べましょうよ! もちろん簪と楯無先輩も入って貰ってるわ!』とあるな」

一夏「…………」

箒「そうか、急がなければ―――」

一夏「なあ」

箒「ん?」

一夏「最近特に仲良くなってるよな、おまえらって」

300: 2013/12/22(日) 00:42:11 ID:Qf4gDG/M
箒「わ、分かるか?」

一夏「どうしたんだよ? 簪まで輪に入ってたじゃないか、昼時に食堂で一緒にいるのを見たぜ?」

箒「いやな、皆悩みを抱えていたんだが、それを他の人間に打ち明ける勇気を出したら距離がずっと縮まったんだ」

一夏「へえ……じゃ、じゃあセシリアや鈴は自分から周りに助けを求めたのかな? 苦しいから手を貸してくれって……」

箒「う、うむ……それなんだが、恥ずかしながら私が声を掛け始めたことが、絆を深めるきっかけになったんだ」

一夏「!」

箒「あいつらの様子が普段と違うものだから心配になってしまってな。
  個人的な話を聞きに行くのは得意だとも思っていないが、運よくうまく行ってくれたよ」

一夏「そうか……おまえが聞いたから、皆話を打ち明けたってことか」

箒「まあそうなるが……」

301: 2013/12/22(日) 00:43:17 ID:Qf4gDG/M
一夏「……そうか」

箒「!」

箒(何だ? 一夏の不安と焦燥をないまぜにしたような目は……)

一夏「……………」

箒「ど、どうした? 一夏?」

一夏「なんでもないよ」

箒「おまえ……確かラウラの機体が損傷したことを何故か知っていたな。おまえはセシリアとラウラの戦いを見ていたのではないか?」

一夏「…………」

一夏「…………箒」

箒「何だ?」

一夏「早くあいつらの所へ行ってやったらどうだ? 待たせちゃ悪いぜ」

箒「!?」

302: 2013/12/22(日) 00:44:44 ID:Qf4gDG/M
一夏「来てもらって悪いけど俺はメシいいや。今から俺が身支度整えるを待っていたらもっと遅れちまうだろう? 
   どのみち今日は疲れちまったから、シャワー浴びて寝るつもりだったし」

箒「一夏!」

一夏「…………」

箒「専用機持ちから爪弾きにされていたと、静寐から聞いたぞ! その事情もおまえは知らないだろう!」

一夏「じゃあな。また明日」ガチャ

箒「皆に話すよう頼んでみるから! 安心してくれ! 私が最初におまえを遠ざけたいきさつも白状しよう!」

一夏「箒」

箒「何だ!?」

一夏「俺のことは気にしないでいいんだ。ほら、早く行けよ……」

箒「そういう訳にはいかない!」

一夏「っ……」

303: 2013/12/22(日) 00:45:48 ID:Qf4gDG/M
箒「どうしたんだ? なあ、一夏―――」

一夏「ごめん……今日はほっといてくれ……」

箒「!?」


バタン


箒「一夏…………」

箒「何だあの目は……ああいう表情は初めて見たかも知れない」

箒「…………」

箒「せっかく、セシリアたちと深い仲になることができたのに……心地よい気分を楽しんでいたのに……」

箒「おまえのそんな顔を見たらすっきりしないではないか……」

箒「っ…………」

箒「私がっ……皆の心中の重りを外す手伝いができたのは、おまえのおかげなんだぞ!」

304: 2013/12/22(日) 00:46:25 ID:Qf4gDG/M
箒「……どうしたと言うんだ? よく状況が飲み込めないぞ……?」

箒「おまえも食堂に来たらどうだ。話をしたいぞ」

箒「皆と一緒に過ごすのは好きだったはずだろう? 笑えない冗談をまた聞かせてくれ」

箒「……………」

箒「私たちのせいなのか?」


Prrrrrrrr


箒「……………………一夏」


Prrrrrrrr Prrrrrrrr


箒「優しく強かったおまえの心は……今どうなっているんだ?」


Prrrrrrrr Prrrrrrrr Prrrrrrrr ...

307: 2013/12/27(金) 03:58:14 ID:Ik0ARSkM
【食堂】


Prrrrrrrr ...


鈴「…………出ないわねぇ」

セシリア「どうしたのでしょうか?」

楯無「あっ、今一夏くんとお話してるんじゃない? 箒ちゃん、彼を誘ってくるって言ってたから」

シャル「え、一夏を誘いに行ってたんですか?」

楯無「うん。ごめんね、ここであなたたちに席を一緒にする誘いを受けてからずっとラウラちゃんで遊んでたから言いそびれちゃった」ナデナデ

ラウラ「あたまを……なでるなぁ……」

簪(可愛い……)

のほほんさん「猫みた~い」

鈴「そうだったのね。箒が後で来ると分かってたら、わざわざメールすること無かったのに……早とちりしちゃった」

308: 2013/12/27(金) 03:58:48 ID:Ik0ARSkM
Prrrrrrrrr ...

『もしもし』

鈴「あ、箒? さっきメールしたけど読んでくれた?」

『……ああ。今すぐ行く』

鈴「ならいいわ。一夏は誘えたの?」

『いや、疲れているらしくてな。もう休んでしまったようだ』

鈴「そう。なら早く私たちの所へ来なさいよ。皆待ってるわよ」

『分かった。わざわざ電話を掛けて貰ってすまないな』

鈴「いいっていいって」

ピ!

シャル「何て言ってた?」

鈴「一夏はもうベッドに入っちゃったんだって。箒は今から来るみたい」

セシリア「数日前の朝の食堂でも姿を見せませんでしたね」

簪「ちゃんと食べてるのかな……」

ラウラ「一夏は来ないのか」

309: 2013/12/27(金) 03:59:21 ID:Ik0ARSkM
ラウラ「…………」

鈴(そう言えばあたしまだ一夏に謝ってないし、事情を話してもないわ)

セシリア(わたくしがああいう対応を取った背景を彼は知らないのですね……)

シャル(一夏……あのときは八つ当たりみたいなことしちゃった……
    考えてみれば僕は一夏に正体ばれたときに国へ追い返されてたはずで、一夏はそうならないよう僕を支えてくれたのに……)

ラウラ「一夏に謝らなくては」

楯無「どしたの? ラウラちゃん」

ラウラ「私はあいつに酷いことをしてしまった。話し掛けてきた一夏を自分勝手な理由で突き離してしまったんだ」

楯無「え……」

シャル「僕だって。目の前に降りかかってきた問題に必氏になって、一夏と距離を置こうとしちゃった……」

セシリア「皆さんもですの……? 確かに、あの日、放課後の教室では一夏さんに対して素っ気ない態度を取られていましたね」

鈴「何だ。あたしとおんなじじゃん」

簪(私もうまく接することができなかったな……途中で話を切って逃げちゃったし……)

楯無「ちょっとちょっと、皆何を言っているの」

310: 2013/12/27(金) 04:00:27 ID:Ik0ARSkM
シャル「…………」

ラウラ「どうやら、私たちは同時に一夏を避けていたようだな……」

セシリア「一夏さんには悪いことをしましたわ」

楯無(そっか、私が最後に一夏くんの部屋へ行った日に彼が相談したかったことってそれについてだったんだ……)

楯無(…………! え、でも……)

楯無「ね、ねえ、どうも君たちは一夏くんに冷たく当たってたみたいだけど、そのことについてまだ本人に釈明してないの?」

ラウラ「ああ」

セシリア「はい……」

楯無「…………」

楯無「皆、個人的な話に踏み込むようで悪いけど……そのことについてちょっと聞かせてくれないかな?」

シャル「…………」

鈴「会長に、ですか……」

楯無(やっぱ言いにくいわよね……私は皆にたくさんちょっかい掛けたし、あんまり良く思われてないんだろうなあ……)

簪「ねえ……」

311: 2013/12/27(金) 04:01:10 ID:Ik0ARSkM
簪「私からも……お願いしていいかな? 私、皆のこともっと知りたいし……
  同じことで胸を痛めてるなら、それぞれのお話を聞けばきっと気分も楽になるよ……!

簪「鈴やシャルロットのことは分かってるんだけど……皆改めてお互いの事情を把握し直しといた方が……いいと思う!
  セシリアやラウラは皆の抱えてた問題についてほとんど知らないでしょうし……」

セシリア「簪さん……」

簪「じ、実はね……私も一夏との距離について悩んで、そのせいで一夏に対して失礼な対応しちゃったの」

簪「私もそのことについて皆に話すから……だから……ね?」

鈴「簪……あんたも似たようなことあったの?」

セシリア「それを私たちに話す、と」

簪「う、うん」

簪(ああ~~! 何か私すごく的外れなこと言ったような気がする……私の事情なんか聞かせても皆は何も得しないじゃない……)

シャル「そうだね。ねえ、皆……簪の言う通りいっそのこと共有しちゃおうよ」

簪(!)

鈴「ええ!」

セシリア「異論ありませんわ! わたくしも皆さんのことをもっと知りたいですわ」

312: 2013/12/27(金) 04:01:46 ID:Ik0ARSkM
ラウラ(皆のことを……信じるんだ)

ラウラ「わ……」

ラウラ「私も……賛成だ!」

シャル「ラウラ!」

簪(み……皆……!)

楯無(簪ちゃん……私に助け船を出してくれたのね)

楯無(それにしても驚いたわ。簪ちゃんが自分から周りに働きかけるなんて……成長したんだ。
   きっと一夏くんの言う通り、いい仲間に恵まれたからなんだろうね)

楯無(私の弱みを見せていい人はもしかしたら一夏くんと簪ちゃんだけじゃないかも知れないなあ……)

セシリア「では、わたくしから……思えば、あのときのわたくしの態度は皆さんに心配を掛けてしまいましたね……」

――――――

―――


313: 2013/12/27(金) 04:02:56 ID:Ik0ARSkM
楯無「そうなんだ……皆色々あったのね」

シャル「はい。でも僕らはもう大丈夫なんです。でも一夏が……」

楯無(一夏くん……簪ちゃんの報告だと平気そうにしてたって言ってたけど……
   私に特訓を申し出てきたときも元気そうだったから、てっきり悩みは解消されたのかと思ってたわ)

楯無(そもそも彼自身、相談するほどのことじゃなかったと撤回してたわね。
   できればアドバイスを受けたいくらいの気持ちで元々大して深刻に考えてなかったのかしら……)チラ

簪「…………」

楯無(簪ちゃんの視点からもそういう風に映ったんだから、私個人の狭い主観による独断じゃないわよね)

鈴「今、私たちあいつをハブったみたいになってるわね」

シャル「……何で忘れてたんだろうね。皆してさ」

楯無(私、皆が悩みを抱えているときものんきに一夏くんの部屋ではしゃいでたのよね……
   今更だけど、せめて彼女たちを元気付けてあげないと)

楯無「まあまあ、皆そんな暗い表情をすることないわよ。あなたたちは整った顔立ちしてるんだから、辛気臭さで台無しにしちゃもったいないわ!」

簪「お姉ちゃん……」

314: 2013/12/27(金) 04:04:21 ID:Ik0ARSkM
楯無「そうそう、一夏くんは今日私に特訓の申し出してきたのよ。そのときの彼はいつも通りで変わったところなんて無かったわよ!」

楯無「彼はあなたたちに遠ざけられたことをいつまでも抱え込んで悩んでないって。
   ちょっとフォローするのが遅れたからって気に病むことないわ!」

シャル「そうでしょうか……」

楯無「うん! 彼はきっと気にしてないし、そう重く受け止めることないよ!」

楯無(彼は私の妹への顕示欲について助言をくれたしね。悩んでる人間が他人の面倒なんか見れないって)

ラウラ「そう言えば一夏のやつ、あのときの私が何度も手酷い言葉を掛けたのに笑っていたな。私の席に来て話を振ってきた」

シャル「僕たちが集まってるときにラウラのISを修理してやってくれって頼んできたこともあったよ」

セシリア(教室の外で荒れていた私に柔らかい対応を見せてくれました……)

鈴「私たちも考え過ぎてたのかな?」

セシリア「でも、今まで一夏さんへはほとんどノータッチだったという点については罪悪感がありますわ」

楯無「ま、謝れば一夏くんも笑って流してくれるわよ。せっかく皆と一緒に食事できるんだから私も楽しみたいわ!」
 
簪「それにしても箒遅いね……あ、来たみたい」

楯無(箒ちゃん……? 少し思い悩んでるような顔をしてる?)

315: 2013/12/27(金) 04:05:17 ID:Ik0ARSkM
箒「すまん皆。すぐ行くって言ったのに遅れてしまった」

鈴「何してたの? 電話で話してから結構経ってるけど」

箒「いや、ここに向かう途中で本音と布仏虚先輩に出会ってな。少し立ち話をしてたんだ」

セシリア「そうだったのですか」

鈴「何の会話してたの?」

箒「…………」



~数分前~

【IS学園 廊下】

虚「最近お嬢様に何かあったのかしら? 前見かけたときは嬉しそうにしてたわ」

のほほんさん「ふふふ~~~それはね~~しののんたちのグループにかにゅーしたからだと思う~~」

虚「篠ノ之さんたちって……専用機持ちの一年生のことかしら?」

のほほんさん「そだよ~~」

虚「ふ~ん……」

316: 2013/12/27(金) 04:05:57 ID:Ik0ARSkM
のほほんさん「嬉しそうと言えば~~昨日お姉ちゃん何かはしゃいでたような~~」

虚「わ、私がはしゃいでたって!?」

のほほんさん「上機嫌で廊下歩いてたの見たよ~~なんかいいことあったんでしょ~~うりうり~~♪」

虚「ば、馬鹿! 忘れなさい………」

虚(多分、彼からの電話で話しこんでしまったあとの話よね……)

虚(あのとき、弾くんったらいつになく積極的に押してきてどきどきしちゃって、通話が終わったあとも心地いい興奮に包まれて……
  でも、見られてたなんて……あう……)カアァァァ

のほほんさん「……ん~~? あれ、しののんじゃ~ん!」

箒「あ……」

虚「あら、篠ノ之さん。こんばんは」

箒「え、ええ」

のほほんさん「どうかしたの~~? ちょっと雰囲気暗いよ~~」

箒「いや、ちょっとな。さっき一夏を夕食へ誘いに部屋へ行ったんだが、少し元気が無いようで心配しているんだ」

のほほんさん「おりむーが~~?」

317: 2013/12/27(金) 04:06:59 ID:Ik0ARSkM
箒「ああ」

箒(鈴からのメールの内容を知ったのが原因なのだろうか? 私たちが一夏を仲間外れにしているように思われたのでは……)

箒(いや、違う。あいつの顔色が曇っていったのはその後の会話でだ)

箒(そう考えると、これは私たちが一夏を遠ざけたことだけが原因で引き起こされた問題では無さそうだ)

のほほんさん「へえ~~意外~~おりむーも元気無くなることあるんだ~~」

虚「本音、織斑くんを自分と一緒にしないの」

のほほんさん「む、むぅ~~」

虚「まあ、きっと織斑くんは大丈夫よ。今まで元気だったんだし」

のほほんさん(かんちゃんとのお話でも言ったように、私はおりむーについてはいつもケロッとして優しいイメージがあるな~~
       元気なかったのはお腹でも痛かったんじゃ?)

箒「そうですよね……すみません、私は友人を待たせているのでこれで」

虚「ええ。さよなら」

のほほんさん「ばいば~い」

箒「…………」

318: 2013/12/27(金) 04:07:33 ID:Ik0ARSkM
箒(よし、食堂で待つあいつらに一夏に話しかけるよう言おう!)

箒(しかし、待たせてしまったから怒っているかも知れない……まず謝るのが先決か)

「ねえ、篠ノ之さん」

箒「ん?」

虚「織斑くんのことなんだけどね、ちょっと伝え忘れたことがあったわ」

箒「布仏先輩」

虚「実は昨日五反田弾くんと電話でお話ししてたんだけど、そのときの彼が織斑くんのことを探ろうとしてたような気がしたのよ」

箒「五反田と言えば、一夏の中学時代の男友達でしたね」

虚「ええ」

箒(そうか……前に一夏の誕生日会で二人が一緒にいるところを見たが、やはりそういう関係だったのか)

虚「篠ノ之さん……あんまりこのことを他言しないでね。気恥ずかしいから」

箒「は、はい。それで、五反田弾に一夏のことを聞かれたんですか?」

虚「うん。彼の最近の様子だとかを尋ねられたわ。変なことしてないかとか、焦ったり苛立ってたりしてないかとか……」

箒「どうして五反田がそういうことを聞いてくるんでしょう

319: 2013/12/27(金) 04:09:09 ID:Ik0ARSkM
虚「さあ……ただ、お喋りの話題作りに共通の知人を出したって感じじゃなかったの。
  真剣に織斑くんの動向を気にしてるみたいだったわ」

箒「…………」

虚「何か彼と一夏くんの間であったのかしら」

箒(五反田は何かに気付いたと言うことか……?)

虚「そのときはいつも通りよって答えといたけど……篠ノ之さん、一夏くんのことを気遣ってあげてね。
  同じ生徒会と言えど私じゃあ細かいところまで見切れないから」

箒「え、ええ」

虚「大丈夫だと思うけどね。今日も会長へ特訓の申し出してたし。
  夕食の誘いに乗らなかったって言ってたけど、単に疲れてただけなんじゃない?」

箒(そうだろうか……? それではあのとき見せた陰りのある表情は一体……)

虚「……ごめんなさい、時間とらせちゃって。一応報告しといた方が良いと思ったから」

箒「いえいえ。それでは失礼します」

虚「さようなら……」

虚(弾くんに一夏くん……あなたたちの間に何があったの?)

320: 2013/12/27(金) 04:09:41 ID:Ik0ARSkM
~~~~~~~~

箒「何の話……か。ここにいる皆に関係のある話だと答えれば分かるか?」

セシリア「……」

ラウラ「一夏のことか」

箒「ああ。そのことなんだがな」

シャル「はは。何となくそうかなって気はしてたよ」

鈴「あたしたちもさっき話してたとこよ」

簪「皆一緒に集まってたのに、中々一夏の話題が出なかったもんね」

箒「そうか。なら好都合だな」

楯無(仲間って良いものね。一人じゃ思い悩んでしまうような問題にぶつかっても、心の負担を分散できるから……)

箒「……食事を取りながら話そう。何だか腹が空いてしまった……」


――――――

―――


321: 2013/12/27(金) 04:10:48 ID:Ik0ARSkM
~十分後~

【IS学園廊下】

箒「あのまま待っていても出てこなかったから、もう食堂へ向かったのだろう」テクテク

箒(一夏……)

箒(私たちは今までおまえに心配を掛けてしまっていたな。
  安心しろ、昨日皆と話しておまえに一度きっちり事情を打ち明けることに決めたぞ)テクテク

箒(しかし、それで一夏の陰った顔は本当に晴れるんだろうか? 今になってそんな疑問が浮かんでしまう……)

箒(的外れなことをやると決めて喜んでいるような気もするが、このままあいつを遠ざけたままにしておくという訳にも行くまい……)

箒「……風にでも当たっていくか」

箒「やれやれ、セシリアたちの問題が片付いたと思ったらまた新しい問題が出てくる……」テクテク

箒「あ!」

一夏「よう箒。おはよう」

箒「お、おはようだな!」

一夏「今から朝飯か? ちょうどいい、一緒に行こうぜ!」

322: 2013/12/27(金) 04:11:28 ID:Ik0ARSkM
箒「あ、ああ」

箒(いつもの一夏だ……表情も昨日私に見せたものとは違う……)

一夏「どうした?」

箒「い、いや。そう言えば今までおまえは何をしていた? 部屋にはいなかったが」

一夏「……ほら、これ」スッ

箒「竹刀?」

一夏「いつもの箒との稽古がなくて体が寂しがってよ。中庭の目立たないところで基礎のおさらいと新戦術の練りこみやってたんだ」

箒「そうだったのか」

箒「…………」ジーッ

一夏「そんなまじまじ見つめられても困るぞ……俺の顔に何か付いてるか?」

箒「一夏。今まで心配を掛けてすまないな」

一夏「え?」

箒「昨日も言った、おまえは皆にいきなり距離を置かれていたんだな」

一夏「…………」

323: 2013/12/27(金) 04:11:59 ID:Ik0ARSkM
箒「皆と昨日の夕食の席で話しあってな。それぞれ抱えていたことをおまえに話そうと決めたんだ。無視したことを謝ろうともな」

一夏「ん、そうか。うーん……」

箒「聞きたくないのか?」

一夏「いやー……そういう訳じゃねえんだけどな。うん……」

箒「一夏。先日は話しかけないでくれと言って悪かった。ただでさえ私は自分を見失うことが多いのに、また迷惑を掛けてしまったな」

一夏「気にするなよ。俺は割とこういうことには慣れてるからさ」

箒「…………」

箒(一夏は普段通りに見える。私の考え過ぎだったか)

箒(しかし前に静寐が一夏が一人になっているときに疲れた表情をしているのを見たと言っていたような……)

「篠ノ之さんに織斑くん!」

箒「あ」

一夏「お」

鷹月「今から食事? 一緒に食べていいかな?

324: 2013/12/27(金) 04:13:24 ID:Ik0ARSkM

箒「私は構わないが……」

一夏「俺たちを待っててくれたのか?」

鷹月「待ってたって言うか……あなたたちの姿が見えないからちょっと心配になって入口を見てただけよ」

箒(静寐……思えば最初から私たちのことを気付き、心を砕いてくれていたな。ありがとう……)

鷹月「他の専用機持ちたちは今朝はバラバラで食べてるわよ。布仏さんや山田先生と同席してる子もいるわ。
   ラウラさんなんかあの楯無会長と一緒になってるみたい」

一夏「へえ……! 珍しいな」

箒「そう言えば一夏よ、布仏がラウラの機体の改善を行ってくれたことは知っているか?」

一夏「おう! ラウラは喜んでたって言う話だったな!」

鷹月「そう言えばラウラさんと会長、どっちも最近変わった気がするわ。ラウラさんは積極的に心を開くようになった。
   会長は楽しいことを追求し過ぎて問題を起こすこともあったけど、そういう昔の軽率さが薄れているような……」

一夏「本当かよ!! そうかそうか、良かったなあ!!」ニコニコ

箒(一夏……嬉しいのは分かるが、少しその反応大仰ではないか?)

一夏「よし、もう時間もギリギリだし、俺たちも早く食っちゃおうぜ!」

箒「あ、ああ」

鷹月「ええ」

325: 2013/12/27(金) 04:14:00 ID:Ik0ARSkM
【IS学園 食堂】

ザワザワ ザワザワ

山田「良いですか皆さん。今はたくさんの苦労があると思います。人から誤解を受けたり、中々結果が出ずに苦労することもあるでしょう」

相川「はい」

谷本(おお~~先生っぽい)

セシリア「……ええ」

山田「そういうときには気を落として自分を見失ってしまうこともあるでしょう。
   そうならないようにちょっとしたことでも周りに打ち明けるようにしてください。それだけでかなり救われるものです」

山田「がんばっている自分を見てくれている人はきっといますからね。そういう人のことを思い、毎日を過ごして下さいね」

相川「先生それ経験談~~? 何か力が篭ってるんですけど」

谷本「彼氏に悩みを聞いて貰ったりしたことあるんですか~~?」

山田「はれっ!?」ポッ

相川「あれ、ちょっと赤くなった!」

山田「こら!」

セシリア(見てくれている人がいる、ですか……分かっておりますわ。山田先生……)

326: 2013/12/27(金) 04:16:55 ID:Ik0ARSkM
箒「あっ。あそこにセシリアたちがいるぞ、入れて貰おうと……思ったら周りの席も先客で埋まっているな」

一夏「やっぱ混んでるんだな」

箒「…………」

箒「……一夏、話すのは昼休みにしようか?」

一夏「何の話?」

箒「だからおまえを無視した理由について私たちからの釈明だ」

一夏「いいよ、そんな改まらなくて。休み時間中に見つけてちょいちょい聞いていくよ」

箒「そうか……」

鷹月「…………」

鷹月(何だ。一夏くんやっぱりそれほど気にしてないみたいじゃない。もうすぐ事情を知れるらしいから前みたいに落ち込むこともないでしょう)

箒(おっと、一夏の観察に気を取られて自分のことを忘れていた。まず私が事情を打ち明けるべきだろう)

一夏「もうすぐ授業始まるじゃん! しかも俺は竹刀を部屋に戻してこないといけないからな~。もっと急がなきゃ」

鷹月「そうね」

箒(と言っても今はごたごたして無理そうか……)

327: 2013/12/27(金) 04:17:50 ID:Ik0ARSkM
~放課後~

箒「皆、一夏に言えたのか」

セシリア「はい」

鈴「ええ」

シャル「うん」

ラウラ「うむ」

簪「一応……」

箒「一夏の反応はどうだった?」

ラウラ「…………」


~~~~~~~~~~

「一夏よ」

一夏「ん?」

ラウラ「おまえに謝らなければならないことがある」

一夏「ラウラ……」

328: 2013/12/27(金) 04:19:29 ID:Ik0ARSkM
ラウラ「先日は冷たい態度を取ってしまって悪かった。私は手を伸ばしてくれたおまえにいきなり攻撃を加えてしまった」

ラウラ「まずそのことについて謝る……ごめんなさい」ペコリ

一夏「…………」

一夏「ラウラ。そのことだけどな、あのときのおまえに何があったんだ?」

ラウラ「……実はな、この前おまえに買ってもらったグッピーを氏なせてしまったんだ……」

一夏「え?」

ラウラ「私はあいつらを世話し、あいつらは私に心の安らぎをくれた。
    しかし、その中の一匹が氏んでしまったせいで、私は大いに混乱することになった」

一夏「ラウラ……」

ラウラ「クラインがもう帰ってこない事実を知ったとき、私の胸に今まで味わったことのない痛みが走った。
    ……もうそんな思いをしたくなかった私は心の豊かさを与えたおまえを憎み、はね付けることで元の自分に戻ろうとして……ああ、話すのが辛い」

一夏「……名前を付けるほど可愛がってたんだな。そりゃショックだったろ……」

ラウラ「クラインというのはドイツ語で『小さい』という意味だ。名前もそこから取ったんだ」

ラウラ「調べていくと、グッピーは観賞という人間の身勝手な理由で姿を変えられていった魚だと分かった。
    ……私も戦いという人間本位の目的のために試験管の中で生み出された存在だ。
    ヴォーダン・オージェを施された直後の無力だった自分を思い出し、クラインと重ねていたんだろうな」

一夏「そうだったのか。デパートで俺が買ってプレゼントしたやつだよな……」

329: 2013/12/27(金) 04:20:34 ID:Ik0ARSkM
一夏「……やっぱり俺が原因か……」ボソ

ラウラ「どうした……?」

一夏「いや、何もない。それで、おまえは周囲に迷惑を掛けてしまったんだったな。セシリアにバトル吹っ掛けたり」

ラウラ「……周りの皆は自分勝手な私に振り回されたのだろうな。ああ、私はなんてことを……見捨てないでいてくれた仲間だったのに……」

一夏「でも、ちゃんと謝ったんだろ? あいつらは皆いいやつらだから笑顔で迎えてくれたはずだ。違うか」

ラウラ「そうだが…………」

一夏「あの日、俺がラウラとシャルの部屋に事情を聞きに行ったときに俺が喋ったこと……覚えてるか?」

ラウラ「あのとき……ええと……」

一夏「ほら、おまえは皆を助けてやれるって言っただろ?」

ラウラ「あ……!」

一夏「本当に皆に対して悪いと思ってるなら、これからは皆が困っているときに力を貸してあげたら良いよ」

ラウラ「あ、ああ! そうする!」

一夏「そうそう。おまえはシャルと一緒にいることが多かったけど、最近は交流の輪が広まってきたように感じるよ。
   今日なんか食堂で楯無さんと二人で喋ってたじゃないか! あれ見たときはびっくりしたぜ?」

330: 2013/12/27(金) 04:21:25 ID:Ik0ARSkM
ラウラ「うむ……あの女もあれで私と同じようにどういった生き方をすればいいか頭を抱えることもあったようだ……
    あいつの強さと人心掌握術は私も認めるところであるし、この学園の生徒会長であることに異論は無い」

一夏「そっか。まあ、楯無さんもああ見えて楽しいことばっかり考えてる訳じゃないからよ」

ラウラ「……簪には世話になったし、な。今まで持っていた苦手意識は薄れているのは確かだし、あいつと交流を持つことも構わないと思っている」

一夏「ははは。まあ、最初の内は簪と仲良くするだけでも十分あの人は喜んでくれると思うぜ? だからさ―――」

ラウラ「その言い方は好きではないな」

一夏「へ?」

ラウラ「私は誰かに頼まれて簪と親交を結んでいるわけではない。敬意を払える仲間だと認められるから一緒に過ごしているんだ」

ラウラ「無論箒を始め他の仲間たちも同じだ。今回の件で私は却って強くなれた気さえする。タッグマッチでおまえに救われたときよりも更にな」

一夏「……!」

一夏「そうか。それはすまなかった。そうだよな、頼まれたから仲良くするなんて変だよな」

ラウラ「全く……」

一夏「そうそう、話は変わるけどよ。ラウラって楯無さんへの苦手意識は無くなったって言ってたよな。
   そんで簪やのほほんさんとも交流し始めてちょっと外向的にもなったと思うんだ」

ラウラ「うむ」

331: 2013/12/27(金) 04:21:57 ID:Ik0ARSkM
一夏「じゃあさ、もっと他の子たちと仲良くすることができたら今より更に楽しいと思うんだ!」

ラウラ「まあ、それは、な……しかし……」

一夏「おまえは特殊部隊出身だから他の生徒たちはISをファッションと勘違いしてると思ってそうだけどさ。
   今のラウラなら、周りが色々な事情を抱えていることや自分と考えや生い立ちが違う子も多くいることを理解できるだろ?」

ラウラ「…………」

ラウラ(確かに、昨日皆と話をして改めてそれぞれの事情を把握できたお陰で、自分の知らない世界が沢山広がっていることが分かった。
    親に利用されていたシャルロットや、両親を事故で亡くし、代々続いてきた誇り高い家を守ろうとするセシリア……)

ラウラ「うむ。そうだな。私も昔は世間知らずだったがな。今はそうでも無いぞ」

一夏「そうだろ? だから……例えば鷹月さんとか相川さんとかにも話しかけてみたらどうかなって思うんだ。皆良い子たちだしさ」

ラウラ「ん……? そう言えばこの前それと似たようなことを聞いたような……そうだ、食堂で他の生徒と一緒に食べようと計画したんだ!」

一夏「え、もうそういう話は進んでたのか……?」

ラウラ「ああ。時間の都合などでなかなか一緒の時間が取れなかったが、近いうちに箒たちと一緒に他のクラスメイトと食べようとは決めている」

一夏「へえ! それは良いことだ!」

ラウラ「う、うむ。それと、冬季休暇に入ったら一度皆で集まって遊ぼうという提案もあがっているぞ!」

一夏「そりゃ楽しそうだな! どういう風に遊ぶんだ?」

ラウラ「いや、それはまだ決まっていないが……」

332: 2013/12/27(金) 04:23:38 ID:Ik0ARSkM
一夏「そうかー。でもよ、ラウラがそういう風に変わってくれて……俺嬉しいぜ!」ニコニコ

ラウラ(一夏……本当に喜んでくれている……私のことなのに……)

ラウラ「ふふふ。新たなる私の門出を祝福してくれるのはありがたいが、授業の模擬戦で手を抜く気は無いぞ?」

一夏「こっちだって! 俺だって遊んでるばかりじゃねえぞ!」

――――――

―――



~~~~~~~~~~


ラウラ(一夏……ありがとう……)

ラウラ「……ああ。ちゃんと謝ったさ。許してくれたばかりか、あいつは私の新しい変化を祝ってくれたよ」

シャル「僕も、もう一回きちんと実家の事情を話したよ。あの日に起きたことをについてもね。
    そして皆が支えてくれたことと、もう大丈夫だってこともね」

セシリア「どうでした?」

シャル「うん、僕が『あのとき手を伸ばしてくれたのに自分勝手な理由で遠ざけてごめんね』って言ったんだけどさ。
    一夏はこっちの謝りの言葉にロクに答えずに僕のことを心配する言葉を掛けてきて、驚いちゃった」

333: 2013/12/27(金) 04:24:08 ID:Ik0ARSkM
箒「あいつめ……」

シャル「何ていうかさ、嬉しかったよ。許してもらえるかどうか分からなくて怖かったけど、こっちの身の安否をすごく気遣ってくれて……」

簪「へえ……」

鈴「あたしも似たようなもんね。あたしに降りかかった問題やら一夏を無視した理由やらを話してると、あいついちいち内容に合わせて一喜一憂するのよ。
  学校辞めようと思ったって言ったらショックを受けたり、箒たちに助けられて自分の道を歩こうと決めたって言ったら子供みたいに笑ったり」

セシリア「それで最後には皆さんともっと仲良くして欲しいと言われたのですか?」

鈴「うん」

シャル「言われた言われた」

ラウラ「うむ。交流を広めろともな」

セシリア「私の場合もそうでしたわ。鈴さんたちの話を伺うに、こっちが一夏さんを避けたことなんて彼自身はそれほど気にしていなかったみたいですわね」

鈴「そーね。楯無さんの言う通りだったわね。でも……あいつ、馬鹿にこっちの心配をしてたわ」

ラウラ「ああ。今更ながら不思議な男だな」

シャル「一夏はそういう人間なんだよ。きっとさ」

簪(そうかも知れない……私が一夏と出会ったのはつい最近なのに、もうこんなに大きな変化が私に起きてるし……)

334: 2013/12/27(金) 04:24:41 ID:Ik0ARSkM
セシリア「ふふ。それにしても皆と仲良くしろだなんて、言われるまでもありませんのに……ねえ?」

ラウラ「ああ」

シャル「うん!」

鈴「ええ!」

簪「そうよね」

箒「……………………」

セシリア「箒さん?」

箒「あ、いや。何でもない」

簪「?」

箒「それより、もうそろそろ夕食の時間だな。食堂に行くか!」


「「「「「おー!」」」」」


【IS学園 廊下】

箒(今朝のあいつの態度や皆の話から受ける印象からすると、昨日のあいつの顔が寂しそうに見えたのも私の思い過ごしか……?)テクテク

箒(静寐は一夏が一人でいるときに寂しそうにしているところを見たと言っていた。
  それは皆に無視された直後の話であって、今日皆から話を聞いたときには既に立ち直っていた―――そう考えるべきなのだろうか)テクテク

335: 2013/12/27(金) 04:25:42 ID:Ik0ARSkM
セシリア「一夏さんも誘いましょうか?」

鈴「あー、あたしと会ったとき今日は特訓疲れが溜まってるから早めに寝るって言ってたわ」

箒(そうさ。自分のことで悩んでいるときに他人を心配できる訳が無い。きっとそうだ……)

箒(しかし……)チク

箒(私が話しかけるなと言った理由を一夏にまだ話せていない……話そうと思っても見当たらなかったり、運悪く妨害に合ったりで中々機会が恵まれない)

箒(まあいい。時間はある……)

簪「箒。どうしたの」

箒「いや、大丈夫だ。すまない」

鈴「ねえ、今日は冬休みの集まる話進めよっか!」

シャル「いいね! 僕もこつこつプランを集めてきたんだ!」

ラウラ「夏季休暇は長かったが、冬季休暇はそれより短い分イベントは詰まっているからな。イベントの日に合わせて集まっても良いかも知れない」

セシリア「クリスマスの日などにですか? ふふ……それは楽しそうですわ!」

箒(そうだ。一夏を心配していたのは私が弱っているように見えただけの話。いつまでも心配していても仕方ない……)

箒「良いな! 本音なども呼んで盛大に騒ごう!」

339: 2013/12/30(月) 03:57:55 ID:UtGvsCLY
~数日後 日曜日~ 

箒(皆が一夏にそれぞれの事情を報告し合った日以来、私は専用機持ちたちやクラスメイトと親交を深めていっている)

箒(クラスメイトたちは気が良く、優しく、一緒に過ごしていて楽しかった。
  食堂で談笑しているとそのときの話題に関心を惹かれた先輩たちが寄ってきて、そこからよく会話するようになったこともある)

箒(しかし、私はタイミングになかなか恵まれず、未だに一夏に私が距離を取ろうとした理由を打ち明けられずにいた。
  ある日の昼休みに謝ろうと思って一夏に接触したのはいいものの、静寐たちからいきなり声を掛けられて言いそびれてしまったこともある)

箒(彼女たちの笑い声に囲まれて、段々と一夏のことを考える機会が減っていったのも関係しているかもしれない
  あの日奇妙な色に染まった一夏の目を見て私が心配したことすら、友人たちとの付き合いに押されていつしか記憶から薄れていった)

箒(しかし私はそれでいいと思っていた。一夏は平気そうだったし、もう誰も少し前の話を持ち出そうとはしなかった。
  恐らく私と同じように信頼できる仲間と楽しく日々を送るのに夢中になって、他のことを考える余裕が無くなっているのだろう)

箒(今だって楯無さんがセシリアと鈴に特別講義と称して模擬戦を行っている。
  生徒会長が率先して下級生と交流しているので、上級生たちの中には楯無さんのその姿勢に影響を受けた人もいるそうだ)

箒「………」

ダリル「よーよー箒ちゃーん。準備はできてるかー?」

箒「先輩」

フォルテ「今日は先輩が揉んであげるからなー。といっても胸じゃねえぞー」

340: 2013/12/30(月) 03:59:02 ID:UtGvsCLY
箒「あ、はい! お願いします」

ダリル「それにしても勤勉だねー。特訓付けてもらいたいなんてさ」

フォルテ「今年の一年はすごいとは聞いてるけどー。こんな向上心あるなら納得って感じかなー。ね、先輩?」

ダリル「おまえも見習えよ―」

フォルテ「先輩こそー。率先して後輩にあるべき姿を示さなきゃいけない立場じゃないんスか」

箒「あ、あの……」

ダリル「そーだ。もう一人いるって話じゃなかったな。ほら……」

簪「すいません。今来ました」

フォルテ「おー」

箒「ダリル先輩、フォルテ先輩……知り合ったばかりというのに特訓に付き合ってくれてありがとうございます」

ダリル「気にすんなって。後輩に胸を貸すのはウチらだって初めてじゃないんだからよ」

フォルテ「後輩があんなにがんばってる姿勢を見せてきたからには、エネルギー節約志向の私らでもちょっとは己を見つめ直すッスよねー」

簪「そうなんですか?」

フォルテ「聞いてねえのー? ほら話題の彼だよ彼」

箒「一夏……ですか」

341: 2013/12/30(月) 03:59:41 ID:UtGvsCLY
ダリル「おう。一昨日に私らがアリーナでだべってるところに声掛けて来てさー」

フォルテ「デートの誘いかって思ったッスよね、あのときは」

箒「へえ……」

ダリル「ちょっと手合わせしてくれって言う相談だったんだよ。で、興味半分で受けてみたら、ビックリだったね」

フォルテ「冷や汗かかせられましたよねー」

ダリル「ほらあれだ。会長にしごかれたらしいから、その成果が出たんだろ」

フォルテ「会長様々ッスよねー。そうだ、簪ちゃんはあの人の妹なんだよなー」

簪「はい」

フォルテ「まじ強いんだろなー。お手柔らかになー」

簪「い、いえ! 私なんて全然……!」ブンブン

ダリル「じゃいっちょアリーナ行くか―!」

箒「はい!」

簪「ええ!」

342: 2013/12/30(月) 04:02:53 ID:UtGvsCLY
簪(私も強くならなきゃ……もっともっと稼働時間を積んでいかなきゃダメ! 皆と一緒に戦いたいもの……)

箒(簪……気合いが入っているな。私も負けていられない)

ダリル「さーて……どれくらいの実力なのかなー」

フォルテ(『イージス』見せてやったら驚くだろうなー。披露するかどうかはこの子ら次第だね)

箒(ダリル先輩もフォルテ先輩もかなりの強さを誇っていると聞いている。相手にとって不足は無い!)

箒(ふふ……今日も充実した日になりそうだ。そうだ、特訓が終わったら先輩たちを遊びに誘ってみるのも良いかもしれない)


~その日の昼前~

【一夏が住んでいた町】

一夏「んー……さてと、さっさと買いに行くか。書店に戦術書とかおいてあるかな」

一夏「この一週間、休みが来るのが凄く遅かった気がする。目の前のことに夢中だったからかな」

一夏「…………」

一夏(俺がやろうとしていることは、多分間違ってないと思う。皆笑ってくれているし、話を聞く限りじゃあ悩みも解決したらしいし)

一夏(弾……あの日はおまえに厳しいこと言われたけど、俺は一つの答を掴みかけてるぞ)

一夏「…………ん?」

弾「お……」

343: 2013/12/30(月) 04:04:17 ID:UtGvsCLY
一夏「よう弾。出前の帰りか?」

弾「ああ、まあな」

一夏「そっか、大変だな」

弾「…………」ジロー…

一夏「どうしたよ」

弾「もう選んだのか」

一夏「……」

弾「分かってるんだろ。俺が何のこと言ってるか」

一夏「ああ」

弾「それならいいや。もうあの子たちに何があったか分かってるんだよな」

一夏「おう。今はすべて分かってる」

弾「そうか。で、今までの無責任な生き方を改める気になったって訳だな」

一夏「そのことなんだけどな、弾……俺前におまえに相談に行った帰り道で色々考えたんだ。
   箒たちの事情とか、自分の立場とか……今まで俺があいつらにやってきたことと、やりたいこともな」

弾「ふーん……」

344: 2013/12/30(月) 04:05:12 ID:UtGvsCLY
一夏「俺なりに頭回して、どうにかしてあいつら全員を幸せにする方法は無いか、考えてみたんだ」

弾「何?」ピクッ

一夏「え……」

弾「おまえ、さっき俺が『もう選んだのか』って聞いたら『ああ』って答えたじゃねえか。
  女の子たちの中から一緒にやっていく子を決めたんだろ?」

一夏「俺はどういう生き方をするかってことを尋ねられたと思って……」

弾「はあ……はいはい、まあいいや、うん。良くねえけど」

一夏「……俺、答の輪郭を掴めた気がするんだ」

弾「その前に聞いとくけどさ、おまえ、俺が言ったこと覚えてるか? おまえ一人で全員助けていくなんて無理だって」

一夏「分かってるさ」

弾「……一人を見ながら他の子たちにも気を向けるなんて最低野郎のすることだぞ」

一夏「そういうことも言われると分かってるさ。でも、皆を幸せにしたいんだよ……俺は」

弾(……何でこいつは「守る」とか「助ける」とかそういったことにここまで執着するのかね)

一夏「やるべきことが見えてきたんだ。今までのやり方と変えたんだけど、おまえには多分変わってないと言われるかもな」

弾「言ってみろよ」

345: 2013/12/30(月) 04:06:12 ID:UtGvsCLY
一夏「俺は皆の力になりたい。誘拐事件に巻き込まれたとき千冬姉に助けられたから、俺も誰かを助けたい気持ちを持つようになったのかも知れない」

一夏「その気持ちに則って色々やって、IS学園ではたくさん仲間ができた。
   でも、皆に接触を拒まれたときはすげえ不安になったんだ。それまでは知らず知らずの内に自分のやり方は正しいんだと考えてたからさ」

一夏「それこそ、自分の世界が壊れるような感覚にも襲われたよ。皆に残酷なことした罪悪感と自分の無力感に苛まされた」

弾「それなりに悩んだってことだな。で?」

一夏「俺は理想を少しずつ形にしようって思って、つまづきながらも行動を続けたんだ」

弾「そこだ。そこを詳しく聞かせろ。どういう行動を起こしたのか、それはどういう目的に基づいているのかをな」

一夏「皆を全員笑顔にできる方法なんだ。おまえが前言った通り、皆それぞれ俺には想像できない悩みを抱えていたよ。
   IS学園戻って皆に声を掛けていったんだけど、こっぴどくはねのけられちまった」

弾(だろうな。皆愛想尽かして当然だぜ)

一夏「皆に接触しようとしたのは一つの考えがあったからだ。皆を守るためには、皆の力を借りれば良いんだって」

弾「は?」

一夏「俺一人の力では限界がある。でも、皆が助け合う関係になってくれれば、結果的に全員の悩みを解決できるんだ」

一夏「そのために俺はあいつらに周りへ目を向ける余裕を持ってもらおうとした。あいつらの事情を聞いたり、仲間を頼るよう言ったりな。
   良いやつらなんだよ、本当に。仲が良くて結束力もあって……」

弾「…………」

346: 2013/12/30(月) 04:06:44 ID:UtGvsCLY
一夏「だから鈴たちが鬱屈した気持ちを持ってるなら、俺にそれを吐き出して欲しいと思った。
   友達同士で仲良くしていたあいつらの気持ちを信じて、交流を取り戻す後押しをしようってさ」

弾「それも全部あの子たちを守るために、か」

一夏「直接全員守るのは無理かも知れない。「誰か」一人を助けに向かうと別の「誰か」を無防備にしてしまうこともある」

一夏「でも、その「誰か」と「誰か」をお互いに心から助けたいと思える仲にする手伝いはできるかも知れない。
   助け合いのネットワークを際限無く広げ続けることはできるかも知れないんだ」

弾「……まあ大体分かった。おまえが考えてることはな」

一夏「俺も鈴たちが笑うところを見るまではかなり不安になったけどさ、間違いじゃ無かったって思うよ」

弾「ふう。おまえってやっぱり無責任な男だな」

一夏「……」

弾「肝心の悩みの解決は他の子に頼って、おまえがやることは結局裏からせこせこするだけかよ。楽なポジションだな」

一夏「俺が相談相手だと話しにくいことだってあるだろうからな。
   例えば、俺がしたことが原因で苦しんでいるときは、俺が行っても迷惑だろう。
   ま、そういう場合でもまず話は聞きに行って、悩みを話してくれとは言うけどな」

弾「そういうのが嫌な子だっているぜ。周りから干渉されることが重荷になることもある」

一夏「でもそういう人だって一人で抱え切むのが辛くなって外に助けを求めることがきっと来る。
   そのときのために想いを受け止める地盤を作っておくのは悪いことじゃないだろ?」

347: 2013/12/30(月) 04:07:31 ID:UtGvsCLY
弾「…………」

一夏「内に篭るのをやめて心を開いた人が二、三人いれば、少しくらい気難しい人がいても包み込んでやれる」

一夏「……事実、あいつらはそうしてくれた」

弾「おまえの考えはよく分かったよ」

弾「でも、少なくとも俺はごめんだな。俺はおまえが作る相互互助の輪に入りたくは無い」

一夏「…………!」

弾「気持ち悪いんだよ。俺は真正面から応えたい人がいるから、自分の身の回り以外のことに気を回せない」

一夏「弾……」

弾「鈴たちがおまえを遠ざけたのは、おまえが原因だったんだろ」

一夏「……ああ」

弾「やっぱり今回のは元を辿ればおまえの無責任さが引き起こした事態じゃねえか。それなのに愛想を振り撒くのを止めようとは思ってない。
  そんな奴が浅知恵で導き出して縋りついてる理想なんて、早晩穴が空いちまうに違いねえよ」

一夏「!!」

弾「こういう言葉を聞いたことがあるぜ。『八方美人の行く末は八方塞がり』だってな。今のおまえはこの言葉を重く受け取らないとダメだ」

弾(皆おまえに好意を持っている可能性がある以上、いつかは彼女たちはぶつかり合ってしまうはずだ。
  そうなったら仲良しの子に何かあったとき助ける余裕を無くしてしまう人も出るに違いねえ)

348: 2013/12/30(月) 04:08:34 ID:UtGvsCLY
一夏「……それも……分かってるさ……」

弾「いいや、分かってねえよ。今まで通り女の子をたぶらかしてるんだろ?」

一夏「……あいつらとは距離を取ってるよ。多分、鈴たちの中の俺の存在感は薄くなってると思う」

弾「あん?」

一夏「多分信頼できる仲間に囲まれてるってことが嬉しくて、俺のことなんか忘れちまってるさ」

一夏「あいつら、食堂で友達同士集まって凄く楽しそうにしててよ……あ、俺はもういらないんだって思っちゃったぜ」

一夏「…………」ジワッ

弾(え? こいつ泣きかけてんのか)

一夏「でも、そうなることは俺が追ってる理想にとって良いことなんだよな。鈴やセシリアがお互いの絆を深め合ってくれるなんて、願ったり叶ったりだよ。
   交流が深まれば自然と助け合おうと考えるようになるし……」

弾(こいつ……)

一夏「それ見たあとしばらく考えて、やっぱりああいう光景を守りたいっていう思いを強くしたよ」

弾「おまえさあ……何か無理してねえか?」

一夏「俺が無理を? 皆に無理させちまったのは俺だぜ……」

弾「自分に嘘ついてるっつーか、重要なことを全部言ってないって気がするぜ」

349: 2013/12/30(月) 04:09:17 ID:UtGvsCLY
一夏「…………!」ピクッ

弾「ま、いいや。おまえの描いた理想の世界が実現するとは思わねえが、目標を持って行動に移してること自体はいいんじゃねえのって思うしな」

一夏「弾……」

弾「でも言っとくが、俺はおまえの気持ち悪いヒロイズムなんて認めないからな。蘭にも近づかないでくれ」

一夏(! そこまで言わなくても……)

弾「そんな驚いた顔すんなよ。胡散臭い男に大切な妹を近づけたい兄なんていねえだろ」

弾「そもそも何でおまえはそこまで『全員の力になる』とか完全な自己満目標を追い掛けてるんだよ? ちょっと異常だぜ。
  自分のしたことがきっかけで苦しめても反省してねえし―――」

一夏「…………」プルプル

一夏「……じゃあ、どうすりゃ良かったんだよ!!」

弾「何だ急に?」

一夏「鈴が冬の日に凍えているのを見かけても、他人事だとして放っておくのが正解だったのかよ!?
   シャルの家の事情を知っても、無関係を決め込んでさっさと学園から追い出した方が良かったって言うつもりか!?」

弾「そう言う訳じゃねえよ。でも線引を早い内にやっとかねえといつかはとんでもねえことになるって話だよ」

一夏「諦められねえんだよ! 向こうの事情も分からず急にいなくなられるのは誰だって嫌なんだ!
   いきなり繋がりを断ち切られたときは辛くなるんだよ! 一人で辛い気持ちを抱え込んでたらダメになっちまうよ!」

弾「はあ……?」

350: 2013/12/30(月) 04:13:17 ID:UtGvsCLY
一夏「ふう……ふう……」

一夏「弾……おまえもIS学園に入ってみろよ。その上で俺よりうまいこと立ち回れるならやってみせてくれよ」

弾「……そんな話をしても意味ねえだろ」

一夏「さっきから好き勝手なこと言いやがるもんだからさ。いきなり放り込まれて、勉強を強制させられることなんか俺は望んでなかったんだぜ?
   生徒会に入れられたり無理に部活に貸し出されたり決められて……
   痛え思いも何回もして、骨が折れたこともある。俺が良い思いばっかりしてきたと思ってんのか?」

弾「っ……」ギリッ…

弾(こいつ……俺が持っていないものをどれだけ持ってると思ってやがる……!)

弾「その代わりおまえは羨まれる地位を持ってるだろうが! 世界で唯一ISを使えて、世界最強の姉いるんだろ!
  恵まれてる癖に苦労人面するんじゃねえ!」

一夏「それは……ぐ……」

弾(俺だって、ISを使えるなら使いたいさ……でも……男で動かせるのはこいつだけなんだ)

弾「この際だから教えといてやるよ。俺がおまえと今まで仲良くしてたのは、IS学園の女の子とお近づきになりたかったからだ」

一夏「え……」

弾「おまえはどうしてか分からねえがモテるからな。一夏くんの友達ポジションにいればおこぼれに預かれるだろうって計算してたんだよ」

一夏「弾……おまえ本気で……」

弾「でも、厄介事を持ち込まれるのは俺が望んでたことじゃない。今までは俺なりにおまえの問題に付き合ってやったが……内心うざいと思ってた」

351: 2013/12/30(月) 04:14:01 ID:UtGvsCLY
一夏「な……に……?」

弾「もう良いだろ。アドバイスもしてやったじゃねえか。消えろよ」

一夏「おまえ……俺に厳しいこと言ってたのも……」

弾「ああ。おまえに苦しんで貰おうと思っただけだよ。どうでも良かった」

一夏「……………!!」

弾「さっさと女の子の楽園に戻れよ。おまえほど恵まれた人間なら寄ってくる女も多いだろ? 選び放題じゃねえか。
  皆守りたいなんてガキみたいなこと言ってねえで、お気に入りと好きに遊びまくるっていうのも一つの道だぜ」

一夏「……」

一夏「おい、弾」

弾「……んだよ、その殺気に満ちた目は? 暴力事件でも起こそうってのか?
  あ、そうか。おまえ国から大事に扱われてるんだっけ。何しても保護して貰えるから―――」

一夏「……!」ブン!

弾「!」グアッ!


バギャッッ!!

352: 2013/12/30(月) 04:16:10 ID:UtGvsCLY
一夏「ぐ……」

弾「がはっ……」ヨロッ

一夏(痛え……こいつ、こんなに重いパンチを……)

弾「う……」ガクッ

弾「……てえ……くそ、同時に打ち込んだのに……」

一夏「…………」

一夏(俺は……何をしてるんだ……)

弾「流石に鍛えられてるな。専属コーチでもいるのか? それとも千冬さんの直伝か」

一夏「う……」

弾「ふん……よっと」ムクッ

一夏「あっ、弾……」

弾「…………」ギロッ

弾「一夏……俺はおまえのやり方を聞いてて、俺は違和感を捨てきれなかった。
  それは多分、おまえが何かを伏せて話したからだと思ってる」

一夏「え!?」

弾「……あばよ」スタスタ

353: 2013/12/30(月) 04:17:02 ID:UtGvsCLY
一夏「あ、ああ…………」

一夏「行っちまった……」

一夏「弾……」

一夏「俺だけかよ。友達と思ってたのは……」

一夏「厳さんの飯食わせてもらったり、蘭の遊び相手になったこともあるだろ。
   やっぱり、高校が違うとうまくいかなくなるもんなのか……」

一夏(あのとき、弾の言ってた言葉……俺が恵まれてるって言うのは、否定できねえ事実だ。
   俺だって分かってる……でもおまえがそう思ってたなんて……)

一夏(あいつが欲しかったのは『世界唯一の男性IS操縦者の友人』っていうポジションで、俺は利用されてただけだったって、本当か……)

一夏「はは……相棒みたいな奴だったのにな……」

一夏「…………」

一夏「うう……ううううう…………」


――――――

―――


354: 2013/12/30(月) 04:18:02 ID:UtGvsCLY

【五反田食堂前 道路】

弾(あーあ……何でカッとなっちまうかね、俺は)

弾(そりゃ、あいつに嫉妬していた面があるのは認める。でも、ここで問題なのは自分の中の悪意をかなり脚色してしまったことだ)

弾(…………)

弾(あいつが仲良くしてた女の子たちから無視されてるって話を聞かされたときも、そのことを喜ぶ気持ちが僅かにあった。
  俺はあいつに最低野郎みたいなこと言ったけど、友人が苦しんでるのを楽しんでしまった俺はもっと屑だな)

弾(でも、あいつに言ったアドバイスは俺なりにあいつのことを思って送ったつもりだ。後の方以外はまともに対応していたとも思う
  ……やれやれ、前に数馬と衝突したときといい、頭に血が上ると俺は人一倍喧嘩腰になっちまうのかもな)

蘭「あ、お兄! どうしたの、顔赤いよ! 殴られたみたい」

弾「蘭か。心配すんな」

蘭「大丈夫なの?」

弾「おー。でも物騒だからしばらく家出るのは止めとけ」グイッ

蘭「え、ちょ、ちょっとどういうこと? 何があったの」

弾「いいからいいから」

弾(今のあいつは知り合いには会いたくねえだろう……)

355: 2013/12/30(月) 04:18:44 ID:UtGvsCLY
【喫茶店】

一夏「弾……好き勝手言ってくれたけど、真に迫る意見も多かったんだよな」

一夏(そもそも、俺自身がまだ甘すぎるんだよな……くそ)

一夏(俺にだってエゴがあるのは知ってるさ。感じてしまうものは仕方ないだろ)

一夏「俺……解決策を思いついて、それを実行して、最初はつまづいたけど形になっていくのを感じられて、心に温かさが広がっていくのが感じられた」

一夏「でもあの日、飯に誘いに来た箒に知らされた。皆が一緒になって笑い合う様になったのは箒が俺がやろうとした役割を……
   『皆を結び付ける』行動を代わりにやってくれたからだって気付いて……」

一夏「その仕事まで取られたら俺がいる意味が無くなってしまうと恐怖しちまった。
   皆が食堂で他愛もない話題で盛り上がっている光景を見たときは嬉しかったのに、それが自分がもたらしたものではないと気付いたときはショックだったさ」

一夏「結局俺は『皆を助けたのは俺だ』って言いたかっただけなんだって思って、二重にダメージを受けた」

一夏「皆に遠ざけられてた理由を聞いたときもそうだ。皆それぞれ事情があったけど、やっぱり俺の存在が悩みの遠因になっていた。
   俺が良かれと思ってやったことが、苦しみの種になって、追い込んでしまったんだ……」

一夏(もう……関わるべきじゃないんだ。あいつらと深く付き合うことを、少しずつでもやめて行かなきゃいけない)

一夏(そんな難しいことじゃないさ。そもそも出会った最初から俺のことを好意的に見てくれたケースの方が少ないし。
   邪険されて、利用しようとされて、見下されてきたのが普通だったじゃないか)

一夏(大丈夫だよな、俺)

一夏「…………」

356: 2013/12/30(月) 04:19:16 ID:UtGvsCLY
一夏(うん。大丈夫だ。あいつらの笑顔を未来まで守ることができるんだ)

一夏(あいつらが集まって楽しそうにしてるのを見たときの、胸の奥から嬉しい気持ちがせり上がってきた感覚は強く残ってる)

一夏(山田先生だって、のほほんさんだって、楯無さんだって、俺は背中を押して外の世界に目を向けさせてきた。
   箒に朝食に誘われてとき、朗らかにして周りと交流している皆を見れて、凄く安心したんだ)

一夏(何が問題か? 俺の夢がどんどん形になっていってるんだぜ? 良いことじゃないか)


「うぇーい数馬! どうだった?」


一夏「ん?」



数馬「いけたぜ。アドレス教えてもらった」

学生A「へえ~! やったじゃん」

学生B「場数の違いが出るのかね、やっぱ」

数馬「まーな。モテるために話題のチョイスやら女子の流行やらを研究してたからな。論文発表くらいはできるぜ?」

学生A「言うねえ~」

学生B「ゲーセンでいきなり『女の子見つけたから仕掛けにいく』なんて言ったときはどうなるかと思ったけどな」

357: 2013/12/30(月) 04:20:12 ID:UtGvsCLY
一夏(あれは数馬だ! あの二人は友達か?)



学生A「モテるための努力かあー。そういや数馬、おまえ前ベース練習してるっつってなかったか?」

数馬「ああ、あれか。だるいからやめたよ」

学生B「もったいねえなあ。いつか聞かせて貰おうと思ってたのに」

数馬「いやあ、女にモテたくて始めたもんで俺も気楽にやってたんだよ。
   でも、一緒に練習してた奴がもっと真面目にやろうぜとか言い出して、そっから全部狂った」

学生A「ああ、いるよなあ。急に意識が高くなってうざいやつ。パッとしない奴だったのに宗教入ったみたいに急に豹変したやつも知ってるわ」

学生B「そういう奴見てるとイライラしてくるよな」

数馬「そうそう。俺は今まで通りでいいよって言ったんだけど、そいつは自分で勝手に練習するようになってさ」

数馬「何つーか、ノリが合わなくなったんだよ。変に努力せんでいいのによ」

学生B「まあ、あれだ。俺らみたいなのはある程度は頑張らんと女も手に入れられんからな」

学生A「そこら努力しようとする姿勢は見習おーかな。いや、うそうそ」

数馬「あいつの真剣さは理解できねえんだよ……」

学生A「……ほら、何て言ったっけ? IS動かせた奴。俺らと同じ高一の」

学生B「織斑だろ。織斑一夏」

358: 2013/12/30(月) 04:20:55 ID:UtGvsCLY
数馬「!」

学生A「そうそれ。何の努力もせずに女の子を手に入れたいならあいつと立場替わってもらうしかねえよ」

学生B「うんうん。一日でいいからマジで俺をあの学園に入れてくれとは、俺も何度も思ってる」

学生A「ま、でもあいつ絶対調子乗ってるよな」

学生B「めっちゃ羨ましいぜ。ネットニュースでIS学園は美女揃いだって言ってたし。
    唯一の男子学生ってことで周りからめっちゃ持て囃されてんだろうよ」

学生A「そういや、この前雑誌でモデルみたいなことやってたらしいしぜ。勘違いは確実にしてるな」

数馬「…………」

学生A「周りから気を遣われてるんだろうな。ああ、なんかムカついてきたわ。俺らは何も良いことないのに」

学生B「どうした数馬?」

数馬「あ、いや……」

学生A「なあ、数馬。織斑ってやつ腹立つよなあ」

数馬「え……」



一夏(数馬……)

359: 2013/12/30(月) 04:21:28 ID:UtGvsCLY
学生B「俺らは悲惨な境遇に甘んじてるっつーのに、不公平だよなあ」

数馬「…………」

学生A「なあ、どうした?」

数馬(やべえ、怪しまれてるな……)

数馬「……ま……」

数馬「まあ、な。確かに、俺らと何も変わらんのにあいつだけ良い思いをしてるっていうのは、許せねえよ」

学生A「だよなあ。さっき言ってたベース一緒に練習してた奴とどっちがムカつく?」

数馬「分からんな。でも、練習仲間だった方も出来の良い妹が居たり最近になって彼女できたり、恵まれてたな」

学生B「マジかよ」

数馬「まあ、どっちも大したことないぜ。織斑の方なんかたまたま運が良かっただけだし」

数馬「と言っても、向こうも俺らみたいな奴のこと見下してるだろうけどな。世間知らずの馬鹿だから」

学生A「あー、ありそうだわ」

数馬「と……済まん、ちょっとトイレ行ってくるわ」

学生B「ここに来る前に済まして来いよ~~!」

360: 2013/12/30(月) 04:22:08 ID:UtGvsCLY
【道路】

一夏「数馬が……そうか。俺はそう思われてたんだな」テクテク

一夏「そもそもが、俺が自分の都合の良いようにあいつらのことを捉えてたってことだな。
   弾や数馬が友人だと、疑い無しに信じてた俺が悪いってことなんだな」テクテク

一夏(そうだよ……高校が違えば付き合いも変わるし……中学時代の仲間といつまでもいられねえさ)

一夏「でも……くそ……だ、ダメだ」ジワ

一夏(喫茶店での話を聞いてるときは頭がかーっとしたけど、しばらくしたら悲しくなってきた)

一夏(そりゃ世間ではああいった声はあるだろう。それは良いんだ。でも、昔の友達にまで馬鹿にされるのってよ……
   ここまで……ショックなものなんだな……)

一夏(うう……)ポタッ

一夏「何でだよ。何で昔の友達が離れてくんだよ」

一夏「雑誌の取材だって、自分から行きたいと言った訳じゃねえよ」

一夏「俺はだってなあ、おまえら同じように遊びたいよ!
   やりたいこと探したり、それを見つけても実現できるか不安になったりしてるんだ!」

一夏「俺だって……俺だって……」

一夏「おまえらと変わんねえんだよっ……!」

361: 2013/12/30(月) 04:22:48 ID:UtGvsCLY
一夏「……………ん」

一夏(ここは……篠ノ之神社か。なんで足がここに向いたんだろう)

一夏(前に夢で見たからかな? それとも決意を新たにしたいから、自分の原点があるここを確認したかったのかな?)

一夏「…………はあ」

一夏(最近ちょっと疲れたな。どうしようもなく落ち込んだり、嬉しい出来事にわくわくしたり、またちょっと悩んだり……)

一夏(俺の生き方が悪いのかな。弾に否定されたせいか、皆を守るっていう決意がちょっと揺らいじまってる)

一夏(でも、俺みたいな境遇の人間なんていないしな。俺自身でどうにかしないとダメなんだ)

一夏(これで良いはずだとは思ってるんだけどな。
   ……皆が笑ってる姿を見て、それが嬉しくて、でもそれは俺じゃなく箒が頑張ってくれたことで、それでまた自分の価値が分からなくなって)

一夏(小学生時代の俺は、こういうことで苦しむことになるなんて想像もしたことなかったな……)


ヤアー! タアー!


一夏「うん……? 掛け声?」

一夏(聞こえてくる方向からすると……俺たちの秘密の場所か?)

362: 2013/12/30(月) 04:23:20 ID:UtGvsCLY

【篠ノ之神社近辺の林】

ブン! ブン! 

少年「やあー!」

ブン! ブン!

少年「面! 面!……ふー……ちょっと休憩」

少年(あいつが付いてきてないから集中できるなあ。ああ、もっと強くなりたい……)

「なあ、そこの君」

少年「へっ!?」ビクッ

一夏「ああ、ごめんごめん。掛け声が聞こえてきたもんだからちょっと気になってさ。剣道の練習?」

少年「はあ、その、えっと……そうです」

一夏「やっぱりか!」

少年(高校生くらい? ここは僕くらいしか知らない良い特訓場だと思ったけど、あんまり熱を入れると声でばれちゃうな……)

363: 2013/12/30(月) 04:24:47 ID:UtGvsCLY
一夏「ずっとここで自主錬してるの?」

少年「……一ヶ月くらい前から、道場が休みの日はここでやってます……」

一夏「道場って、この近くに昔からある篠ノ之道場?」

少年「はい」

一夏「…………そっか」フッ

少年(あんまり怖い人じゃ無さそうだ。目も優しいし、大らかな人なのかな?)

一夏「熱心なんだな。休みの日くらいゆっくりしてればいいのに」

少年「少しでも強くなりたいんですよ」

一夏「へえ……何で?」

少年「えっと……そ。それはですねー」

少年「っ…………」カアァァァァ

一夏「ごめんごめん、初対面なのに突っ込んだこと聞き過ぎちゃったな」

少年「いえ、こちらこそすみません……ところで、お兄さんはここの人なんですか?」

一夏「うん。俺も子供の頃はそこの剣道場通って稽古してたんだぜ」

少年「え! そうなんですか!?」

364: 2013/12/30(月) 04:25:30 ID:UtGvsCLY
一夏「おう。道場に行くことは無くなったけど、今でも特訓はしてるぜ」

少年(僕の大先輩ってことかあ……)

少年「へ、へえ~~。じゃ、じゃあ……あの、えっと……」

一夏「うん? 何?」

少年「よ、良かったら稽古の相手して貰えませんか? 
   ずっと一人で基礎ばっかり続けてて、気分転換に他のこともやりたいなって……その、思ってたんですけど……」

一夏「もちろん構わないぜ! こっちからはあんまり打ちこまないようにするから、安心してくれ」

少年「は、はい! ありがとうございます!」

一夏「よ~し、そうと決まれば手頃な折れた枝でも探してくるよ」

少年「分かりました」

少年(優しそうな人だとは思うけど、剣の腕はどれくらいなのかな?)ドキドキ


――――――

―――


365: 2013/12/30(月) 04:27:04 ID:UtGvsCLY
~一時間後~

少年「はあ……はあ……えい!」

一夏「っと! 上段か」バシ

少年「……胴!」ビシッ

一夏「うっ!」

少年「はあ……はあ……やった! やっとまともに入った」

一夏「ふうー……やられたやられた。よし、ここまでにするか」

少年「はい。今日はどうもありがとうございました」

一夏「いやいや。こっちもいきなり話しかけて悪かったな。びっくりさせただろう?」

少年「まあ、正直……でも、話してる内に良い人だっていうのが分かりましたから」

一夏「ははは。よし、アイスでもおごって……いや、今って見知らぬ児童に対してそういうことするのダメっぽいからなあ……
   今日みたいに、初めて会った子供の稽古に付き合うのもあんまり良いことじゃねえんだろうな」

少年「……」ショボン

一夏「ま、まあそこんとこはごまかすよ。俺が自分の分買って、君に押し付けたってことにしよう!
   もし誰かにばれたらそう答えるんだぞ! この言い分なら君は共犯にならないからな」

少年「す、すみません本当に……」

366: 2013/12/30(月) 04:27:56 ID:UtGvsCLY
一夏「いいって。でも今日俺が教えたことは忘れちゃダメだぞ?」

少年「はい。剣を振るときは竹刀を立てて打つんじゃなくて左手を攻撃するところより高く上げなきゃいけないんですよね?」

一夏「そう。基本だけどな。俺の経験だけど、左手の動きが素早くなれば自然と切る動作にもうまく繋がるようになる。
   ただ剣を伸ばすだけとか下ろすだけってやり方は早く直した方がいいって教わったな、俺は」

少年「はい……先生が言ってた気がします。僕、不器用なのか飲み込みが早い方じゃ無くて道場じゃいつも迷惑掛けて……」

一夏「でも君の剣は何ていうか気迫があったよ。確かに今は不格好かも知れないけど、そんなのいくらでも直していけるって。
   それより情熱を燃やして気持ちを込めて剣を打てるほうが大事だと思う」

少年「本当……ですか?」

一夏「おう!」

少年「へへ! じゃあ道具片付けますからちょっと待ってて下さい!」

一夏「よしよし」

一夏「…………」

367: 2013/12/30(月) 04:28:27 ID:UtGvsCLY
一夏(ガキの頃の俺も同じ道を通ったなあ。基本だからって重点的に教え込まれた記憶が残ってる)

一夏(……もし、あの出来事が無かったら……今も道場でこの子と一緒に稽古してたかも知れないんだな……弾たちとも付き合い保ててたかも)

一夏(今更自分の身の上についてどうこう言う気は無いけどさ。
   でも、今みたいに何でもない情景を見てありえたかも知れない未来をふっと思い浮かべてしまうことはある)

一夏(この子も子供の頃に良い出会いや教えに巡り合えれば良いな。その記憶さえあればこれからの人生でも結構やっていけるから……)

少年「終わりましたー! さあ、行きましょう……って、どうかしましたか?」

一夏「い、いや。大丈夫。ごめんごめん」

368: 2013/12/30(月) 04:29:38 ID:UtGvsCLY
――――――

―――



~夕方~

【IS学園 中庭】

一夏「…………」ボー

「こんなところで座り込んではいけないよ」

一夏「ん?」

用務員「もうじき紅葉ではなく霜が降るようになる。腰を落ち着けるなら自分の部屋があるだろう? 風邪をひいてしまうぞ」

一夏「…………」

用務員「どうしたのかね? 私の顔に何か付いているのかい?」

一夏「いえ。男の用務員さんに話しかけられたことにちょっと驚いて。ここは女の子ばっかりですから」

用務員「そうかい。驚かせてしまって済まなかったね」

一夏「いえ……」

用務員「ぼんやりとした眼差しを辺りに向けていたが、物想いに耽っていたのかな?」

369: 2013/12/30(月) 04:30:43 ID:UtGvsCLY
一夏「うーん、まあ、そんなところです」

用務員「ほっほ。青春は悩み多き時期だから仕方ないさ。どうだい織斑くん、考え事があるなら私に話してみるというのは」

一夏「ははは……いえ、お気持はありがたいんですが……」

用務員「君の活躍は聞いているよ。学園に迫る数々の危機を打ち払ってきたそうじゃないか」

一夏「……」

用務員「男がこんな環境にいるというのは嬉しいことかも知れんが、女の子には話せない問題も出てきてもおかしくないからねえ。
    相談事があるなら何でも言ってくれて構わないよ?」

一夏「…………」

用務員「まあ、気が進まないならそれもまた良し。でも、部屋に戻ったらうがいするように―――」

一夏「俺、今までのままじゃダメだって気付いたんです」

用務員「ん?」

一夏「俺、全然気付かなかった。皆にどんな酷いことをしてきたか、自分の勝手な行為で皆をどれだけ苦しめることになったか」

用務員「……織斑くん」

一夏「それを知ったとき、自分の世界が壊れてしまうような感覚に襲われたんです。
   今は皆を暗い世界から救いあげることは出来たんですけど、それでもまだ胸にすっきりしないものが残ってて」

370: 2013/12/30(月) 04:31:17 ID:UtGvsCLY
用務員「…………要領を得ないねえ。良ければ初めから詳しく教えてくれないかな」

一夏「……」

用務員「どうも君という人間は自分が苦しいときに気持ちを外に出さない気がするね」

一夏「そうでもありませんよ。先生や友人に頼ったりすることもあります」

用務員「はてさて、どこまで頼っているのやら。
    善後策の協議に付き合ってもらうことがあっても、君自身の深いところを明かしたことはとても少ないのでは?」

一夏「…………」

用務員「すまないな、年寄りの戯言として聞き流してくれ」

一夏「……ああ、思い出した。あなたが学園の良心と皆が噂してた人でしたか。
   何だか不思議な人ですね。器の大きな人って感じがする」

用務員「買い被りすぎだよ。私など歯牙無い一介の用務員さ」

一夏「…………俺って皆に……何ができるんでしょうか?」

用務員「ん?」

――――――

―――


371: 2013/12/30(月) 04:32:40 ID:UtGvsCLY

一夏「で、俺はまた不安に駆られているんです。俺の役割が箒に取られちゃって、自分の価値が分からなくなって……」

用務員(なるほど……大体の事情は分かった)

一夏「エゴなんですよ、結局……皆が助け合うようにしたいっていう目標の第一段階は叶ってるんです。
   それを形にする役目は俺じゃなくても良いはずなんです。喜ぶべきことなのに、下らないことで不満を溜めて」

用務員「…………」

一夏「鈍感だの朴念仁だの言われてきましたけど、今ほど自分のそういう特質を呪ったことはありませんよ。
   一度突き付けられるまで皆の苦しみに気付かなかったんですから」

用務員「一つ尋ねるが、君は何故人の助けにならなければいけないと思ってるのかね?」

一夏「それが俺の生き方なんですよ……」

用務員「答になっていないよ」

一夏「俺は皆を守らなきゃいけないんだ。それが俺の価値なんだ……」

用務員「?」

一夏「俺は恵まれまくってる!! でも、俺ができるもの、皆に返せるものはこれくらいしかないんだ!!」

用務員「返す?」

一夏「俺は貰ってばっかりだ。ISを動かせたのは偶然だし、操縦技術を身に付けられたのは、先生や周りの皆のおかげなんです」

372: 2013/12/30(月) 04:33:17 ID:UtGvsCLY
用務員「……」

一夏「あいつらは、俺みたいな人間に付き合ってくれました。皆悲しい過去を抱えているのに、いつも元気で前向きで……」

用務員「織斑くん」

一夏「……守らなくちゃ! 強くならなくちゃ! 求められるものに応えなきゃ!
   ―――それさえできなかったら…………俺なんか生きてる意味はねえんだよ!!」

用務員「君は……それで良いのか?」

一夏「俺は全部守り抜いて見せる! 誰一人傷付けず! 声が聞こえたらすぐ向かってやる! 倒れそうならすぐ支えてやる!
   皆には、もう皆には、ずっと幸せでいて欲しいんだ! あいつらは俺よりずっと喜びを周りに与えられるんだ!」

用務員「……誰か一人を選ぶつもりはないのかね……」

一夏「全員を助けるって決めたんだ!」

用務員「君はどうするんだ! そんな道、簡単に歩めるものじゃないぞ! 君みたいな若者がたった一人で……」

一夏「俺は……平気ですよ」

用務員「嘘を言うな。見たところ君は自分の理想を広げる一方で、自分の心の声を押し頃しているようにも見える」

一夏「…………」

用務員「そもそも人間ができることなのかね? 自分の気持ちを見せず助けも受けずに、ただただ人を救うために動くとは……まるで機械ではないか!
    周りが相互に助け合う環境を作れという命令をプログラミングされた……」

373: 2013/12/30(月) 04:33:50 ID:UtGvsCLY
一夏「じゃあ俺は『機械』でいい! 『システム』でいい!」

用務員「何?」

一夏「俺、周りの反応が変わっただけで不安になってしまって……
   壊れそうな自分の世界を護ろうとしてしまった! あいつらに差しだすことができた手を伸ばさず、自分を優先したんだ!」

一夏「その結果、皆の痛みを長引かせてしまった……」

用務員「むう」

一夏「へへ……朴念仁が機械に変わったところで、皆気にも留めませんよ」

用務員「…………」

一夏「俺は運が良くて、顔も姉と同じ遺伝子を持ってるんだから良い方なんでしょうね。
   接触したきっかけはどうあれ、出会った女の子は皆仲間になってくれましたし、自分を鍛えてくれる環境も揃ってました」

一夏「でも……『俺じゃなきゃダメだったのか』って思っちゃって……」

用務員「そんなことを今更言ったところで……」

一夏「たまたまIS動かせて……たまたま優秀な姉がいて……たまたま皆俺に目を掛けてくれて……
   ぶっちゃけると、ISさえ動かせたら誰でも良かったんですよ。それだけでちやほやされるでしょうし、強くなるためのプランも整備されるから」

一夏「ISが動かせなければ織斑一夏という人間単体には何にも価値が無い。どう考えてもそうだったんですが、俺は受け入れたくなくて……」

374: 2013/12/30(月) 04:34:41 ID:UtGvsCLY
用務員(そこまで思い詰めているのか……)

一夏「必氏になって、自分の価値を見出そうとして『皆を守るためのネットワークを作る』っていう発想が生まれたんです。
   これは俺のやりたかったこととその答えにも繋がってて、これしかないと思いました」

用務員「だが君自身は本当にそれでいいのかね? 辛くないのかい?」

一夏「俺という人間はいつも笑っていて、ことが起きれば敵に飛び込んでいくのが正しい姿なんです。
   皆が認めてくれたのはそういう俺だったはずです」

用務員「……」

一夏「強くて、明るくて、優しくて、でも鈍感で、変なところで意地っ張り。皆が求める俺の姿はそうだった……」

用務員「今の君とはどうも違った人物のように聞こえるね」

一夏「じゃあ、今が嘘なんですよ。本物は皆に見せてる方です」

用務員「そう思わせようと考えてるのだね。こんな弱気でふらついてる君なんか、誰も見たくないと。
    あの子たちの前ではお気楽そうに笑っているのは、そういう理由なのかね」

一夏「はい」

用務員「……過ちを反省して今後の生き方を改める。これは人間として必要なプロセスだが、君は考え過ぎではないか?」

用務員「専用機持ちの子たちに対して悪いことをしたと感じているようだが、それでもその時は君なりに精いっぱいやったんだろう?
    話を聞いていると、十五、六歳の若者には荷が重すぎる問題もいくつか出ていたぞ。
    特に彼女たちの生い立ちに関する事情は、君の判断能力を超える領域にあった」

一夏「何が言いたいんですか?」

375: 2013/12/30(月) 04:35:25 ID:UtGvsCLY
用務員「そこまで思い詰めなくて良いんじゃないか、ということだよ。
    高校生と言えば遊びたい盛りだろう? 君のことだ、皆に付き合ってばかりで自由な時間がなくなっているんじゃないのかね」

一夏「いえ……そんなことは……」

用務員「生徒会にも入っていて、様々な部活に貸し出されているという話だったが、そろそろお暇を頂くのもありかも知れないよ」

一夏「……」

用務員「今は皆の元気は戻っているんだろう? そんなときに君ばかり暗い顔をしてどうする」

一夏「すいません。もう部屋戻ります」

用務員「あ……」

一夏「話聞いてくれてありがとうございました。何故あなたに打ち明ける気分になったのか、自分でも分かりませんけど」

用務員「……何かあったら周りの先生に相談するんだぞ」

一夏(相談か……山田先生の事情を知ったあとじゃ、それもする気になれない……)

一夏「では」スタスタ



用務員「行ってしまったか」

用務員(ふむ。今聞いたことはどうしよう。楯無くんや千冬くんに話した方が良いのだろうか)

用務員(もしそうした場合、周りの織斑一夏くんへの接し方が少なからず変わるだろう。しかし、彼の自分の価値に対する疑問符まで取り除けるか分からない)

376: 2013/12/30(月) 04:36:00 ID:UtGvsCLY
用務員(何にせよ、彼が自分で問題の答を見つけ出すことが求められる。というより、それしかない。
    思春期というのは悩み多きものだが、彼の場合複雑な状況に身を置く羽目になったために誰にも苦しみを分かち合えないと考えているのだろう)

用務員(いや、苦しんでいることを悟られることすら許されないと思っている節がある)

用務員「……ふう」

用務員(……何故彼はああいう人間になってしまったのだろう。多くの人生を見てきたこの轡木十蔵も測りかねる)


――――――

―――



【IS学園 廊下】

一夏(妙に事情通な用務員さんだったな。話していないことも知っていた)テクテク

一夏(思えば、この学園に来てからは流されてばっかりだった)

一夏(そろそろ自分の意思で何か大きなことを決めて……そんで、もっと自分に出来ることを見つけよう)

一夏(そう言えば今日は秘密の場所で思いがけない出会いがあったな。あの少年に幻滅されるようなことはできない)

一夏(また来週練習に付き合うって勢いで約束しちまったしな……あの日の辛い記憶を上書きできるような良い思い出を作れるかも知れねえ……)

377: 2013/12/30(月) 04:36:50 ID:UtGvsCLY
【篠ノ之束の研究所】

束「これが完成していっくんたちと華々しい共闘をさせたら、いっくんたちの思い出に更なる一ページが加わるね♪」

束「そのために最終チェックをさっさと終わらせなきゃいけないんだけど、どうもISコアの反応が少しおかしいんだよね」

束(でも些細なもんだし……この程度ならもう出撃させてOKかな?)チラ

無人機「…………」

束「!」ゾワッ

束「無機質で怖い顔してるね~~我ながらちょっとびびっちゃったよ」

束「『自己進化機能』と『コア・ネットワーク』に手を加えた本機体は従来のものより段違いの性能を発揮するはず。
  その光景を見るのを隠れた楽しみにして開発をガンガン進めたのは良いんだけど、やっぱり無理し過ぎちゃったかな?」

束「ま、良いや。明日の朝調整し直すことにして今日はもう休もーっと。もう一機もあらかた出来上がってるし」テクテク

束「お休みー♪」バタン



無人機「………」

無人機「―――――!」ギロ キョロキョロ

無人機「………」ウィーン…

378: 2013/12/30(月) 04:37:27 ID:UtGvsCLY
――――――――――――――――

一夏「…………」キョロキョロ

少女「……」

一夏「ん?」

一夏(真っ白だな……帽子もそこから流れる長い髪も……簡素なワンピースも……)

一夏「君か。また会ったな。いつ以来かな? 臨海学校で俺がドジった後に会ったんだっけ」

少女「いつも一緒にいるんだよ」

一夏「? な、なあ、俺はどうしてまたここに?」

少女「あなたは私を分かろうとしてくれた」

少女「私もあなたを分かってきた」

一夏「???」

一夏「え……君は一体?」

少女「…………」

一夏「そう言えば、前は近くに騎士みたいな人がいたけど、今は一人なんだね」

379: 2013/12/30(月) 04:38:17 ID:UtGvsCLY
少女「あなたは私の質問に答えてくれた」

少女「どうして力が欲しいのか―――それは守るためだって」

一夏「!」

少女「それは今も変わらない」

一夏「ああ。もちろんだ」

少女「でも分からない。守るための力を与えるために私もがんばった。それがあなたの望みだったから」

少女「私は願いを叶えた。それなのに今、あなたはとても弱っているみたい」

一夏「!!」

少女「今のあなた、とっても不思議。望みを実現したあとも、更に力を付けるために他の子と競ってる」

少女「それは良いこと。夢にまた一歩近づく。でも、あなたの心は少し前から穴が空いたまま変わらない」

一夏「……」

少女「目標を実現させる行動をしているのに心は満たされていない。それどころか、暗闇がどんどん濃くなってるの」

一夏「…………!」

少女「もう一度質問させてね」

少女「『誰かを守ってみたい』―――それが今の一番の望みなの?」

380: 2013/12/30(月) 04:38:50 ID:UtGvsCLY
一夏「お……俺は―――」

一夏(皆には大きな負担を掛けて……昔からの友達もいなくなって…………)

少女「今もその考えは変わらないの?」

一夏「……そうだよ」

一夏「それが一番の望みさ!! 全員を守り切れるくらいの力が欲しい!! 前そう答えたときより強く願っているよ!!」

少女「本当なんだね?」

一夏「ああ!! 皆を守るためなら、この身を喜んで差し出せる!!」

少女「…………」

少女「―――あなたの望みがそうなら」

一夏「……」

少女「私も――――」パァァァァァ……

一夏(う……光り出した? な、何だ? 意識が―――)



―――あなたを守るためにがんばるよ、一夏

381: 2013/12/30(月) 04:43:03 ID:UtGvsCLY
―――覚えが遅いぞ! 裂迫の気合いを以て振り下ろせ!


束「……」


―――お父さん! もういいじゃないですか! 束が泣いていますよ!


束「……」


―――女だからと言って甘やかしてはならん! むしろ女だからこそ武術の理は必要とされるのだ!


束「……う」

束「もうやめ……」


―――苦しいだろうが今逃げてはならん! さあ剣を強く握れ! まだ30本残っているぞ!!


束「もう嫌だよっ……!!」

束「………はっ」

束「あはは………大分寝てたみたい……」

382: 2013/12/30(月) 04:43:52 ID:UtGvsCLY
束「……もう興味ないし、あの人のことなんか。箒ちゃんたちがいれば十分」


―――すごいです! こんなむずかしいほんわかるなんて!


束「箒ちゃん……」


―――ねえさんにまけないよう、わたしもがんばります! 


束「…………」

束「ISはあなたの明るい未来を作るためにあるんだよ」フッ

束「……さてと、仕上げちゃおうかな。開発プロジェクトもフィニッシュが近いね」

束「いっくん、箒ちゃん、気を付けてね。今回のゴーレムは少し手強いよ」ガチャ

無人機「――――――」

束「……………この子は手が掛かるなあ。調整にいつもの三倍くらいの時間を費やしてるよ」カタカタカタ……

束「―――よし、完了! 近いうちに試運転を―――」


ガチャン

383: 2013/12/30(月) 04:45:21 ID:UtGvsCLY
束「そうだ、後回しにしてた標的設定関連の処理が―――ん?」

束「何? 今の音」クルッ

ガチャ……ガチャ……

無人機「――――!」ゴゴゴ……

束「!!」

無人機「――――」

束(え? ゴーレムが動いてる?)

束「こ、こらこら! 困るなー君ー!! 束さんはまだ起動命令出してないよー!!」

無人機「――――」キョロキョロ

束「もう!!」カタカタカタカタカタ

束(早く内部プログラムを訂正しないと……どこでミスがあったんだろ?)カタカタカタカタカタ

無人機「――――――」

束(自己進化機能に手を入れたから? やばいよ! ここで止めないと私の意図を離れて暴れ出しちゃう!!)

384: 2013/12/30(月) 04:46:14 ID:UtGvsCLY
無人機「―――――」ガシャン!


《無人機 ウイングスラスター 展開》


束「あ、ああ……」

無人機「―――――」

ビュゥゥウン!!!

束「きゃっ!!」

束「!」ガバッ!

束「あ、ああ……行っちゃった……」

束「…………今後の行動……最初に入力した命令に沿うとしたら……」

束「行く先は……IS学園……」

395: 2014/01/14(火) 03:00:38 ID:pMuo7Nwo
【IS学園 廊下】

~昼休み~

山田「今日は冷えますねえ~~」

谷本「曇ってて陽の光も届かないですし……」

山田(午後からは実習ですが、織斑くんはこの寒さの下でも燃えているんでしょうね。
   少し前からぐっと真剣さが増してて、気圧されるときもあります……)


のほほんさん「さむさむ……」フルフル

ラウラ「本音、本音」チョンチョン

のほほんさん「な~に~? ボーちゃん?」

箒「ほら、前言った冬季休暇に皆で遊ぼうという計画の件だ。覚えているだろう?」

のほほんさん「忘れっこないよ~~」

ラウラ「今からそのことで話し合うんだが、おまえも来ないか?」

のほほんさん「行く行く~~!!」ピョンピョン

箒「よし!」

396: 2014/01/14(火) 03:01:11 ID:pMuo7Nwo
ラウラ「食堂に行くか! 既にシャルロット達も集まってるかも知れん」

箒「ああ」

のほほんさん「うきうきだね~~」



【食堂】

箒「もう皆来ているか」

鈴「待ってたわよ!」

シャル「早く座りなよ」

のほほんさん「は~い」

ラウラ「すまないな」

セシリア「もう休暇の計画についてのお話は始めさせて頂いておりますわ」

鈴「そうそう、おいしいご飯が食べられる場所を探した方が良いかなって意見が出てさ―――」

簪「大人数になるから早いうちに予約しておかなくちゃいけないと思うの」

箒「よし、今度の休みに探しに行ってみるか」

ラウラ「店選びか……わ、私も同行していいだろうか?」

397: 2014/01/14(火) 03:02:12 ID:pMuo7Nwo
箒「いいぞ!」

シャル「それ、僕も行こうかな」

簪(私も皆と一緒に歩きたいな……ついでにカップケーキの材料買いたいし……)

箒「じゃあ、行く日までに候補をリストアップしておこう」

セシリア「皆さん、それもよろしいですが、お弁当を持っていくという道もありましてよ」

シャル「!」ピクッ

セシリア「わたくしが全員の分を作って差し上げることもやぶさかではありませんわ!」

鈴「そ、それだけはやめて!」

箒「そうだ! おまえに負担を掛けることになるのは、私たちにとっても心苦しい!」

セシリア「わたくしは別に構わないのですけれど……」

シャル「み、皆! それについての話はひとまず置いといて、遊ぶ場所をそろそろ決めよっか!」

のほほんさん「私遊園地が良い~~!!」ピョンピョン

――――――

―――


398: 2014/01/14(火) 03:02:57 ID:pMuo7Nwo
一夏「…………」テクテク

一夏「…………ふう、目立たない場所探すのも大変だな」

一夏(……今朝見た夢に出てきたあの子はやっぱり……)チラ

ガントレットを見遣る一夏

一夏「……そうさ。想いは変わらない。皆を守るためにもっと力が欲しい」

一夏(ん? 待てよ………俺が誰かを守りたいって気持ちを持つようになったのはいつからだっけ?)

一夏(いつも自分を守ってくれてた千冬姉への憧れの気持ちを抱いていて、自分も他人を助けられる人間になりたいと思ったから―――)

一夏(そうだ。そのはずだ)

一夏「……」

一夏「分析は置いといて、そろそろやるか。あっという間に授業始まっちゃうしな」

一夏「今日は曇りか……肌寒い。特訓中に雨降ってこないだろうな?」

一夏「……ん?」

399: 2014/01/14(火) 03:03:56 ID:pMuo7Nwo
一夏(何だ? 雲から黒い影が落ちて――)

一夏「鳥か? いや、雲より高く飛ぶ鳥なんて……」

一夏「はっ!」

一夏「……来い! 白式!!」

《白式 展開 & 瞬間加速(イグニッションブースト)》


ドシュウゥゥゥゥ!!!



一夏(やっぱり……間違いない―――!)

一夏「……」ピタッ

「―――――」ギロ……

一夏(無人機……! 前に来た奴とはまた違うタイプ!)

無人機「―――――」グアッ!

400: 2014/01/14(火) 03:04:35 ID:pMuo7Nwo
一夏(いきなり突進!?)

ガキイィィィィ……!!

一夏「こいつ……馬力が……」ギリギリ

一夏(押されてる! やばい! 俺の後ろには学園がある!)

一夏「……!!」グググ… ゲシッ!

無人機「―――」ヒュン

一夏「蹴りを警戒して後ろに下がったか!」

無人機「―――」ジャキッ!!

一夏「腕部から飛び出し型のブレードか……いいぜ、やってやる!」

一夏「IS学園に踏み込めると思うなよ!!」

《雪片弐型 展開》

一夏(いつかまた来ると思って、鍛え直したんだぜ)

一夏(迂闊に飛び込んじゃダメだ。どんな武器を隠しているか分からない。警戒しないと)

401: 2014/01/14(火) 03:05:17 ID:pMuo7Nwo
一夏「ふうぅぅー……!」

一夏(こなした特訓を思い出すんだ! 楯無さんやダリル先輩たちとの対戦で気付いたことを活かせばきっと勝てる!)

無人機「―――」ギュン!!

一夏(来た! 慌てず、動きは最小限に……)


ガシイィィ!!


無人機「―――」

一夏(さっき組み合ったときの手応えで分かった。こいつはエネルギーの無駄遣いしてて勝てる相手じゃない!)

無人機「―――」グアッ

一夏「上段!」


ガキン!


一夏(剣道の基本は「見」! それはここでも通じるはず!)

無人機「――――」ギリギリ…

402: 2014/01/14(火) 03:06:47 ID:pMuo7Nwo
一夏(やばい!)ドガッ!!

無人機「――――!」グラッ

ドシュッッッ!!

一夏(鍔迫り合いのとき妙な気配を感じて何かと思えば、腹部ショートブレード飛び出しか。蹴り飛ばすのが一歩遅れてたら食らってたぜ)

一夏(……可能性を頭に入れておいてよかった。楯無さんのフィードバックが活きた)

無人機「―――」ギチチ ギチ…

グオォォォォォ!!!

一夏(また突進か! 力比べに持ち込まれたら勝ち目はねえ!! ここは距離を取る!)

《白式 瞬間加速 発動(後退)》

ギュゥン!!

一夏(距離を取ったところで―――)

《白式 荷電粒子砲 発射》

ドウゥゥゥン!!!  ……ヒュゥン!!

無人機「――――!!」バッ

403: 2014/01/14(火) 03:09:02 ID:pMuo7Nwo
一夏(バリアで塞いで突破か! なら―――!)

《白式 零落白夜 展開》

一夏「くらえ!」ブン!

無人機「―――」ヒュン!

一夏(急降下!? 回避された!)

無人機「―――!!」ギュゥウン!! グアッ

一夏(真下からの攻撃―――太刀筋は斜め左上から右下にかけての袈裟切り―――)

ブンッ!!!  ヒュッ……

一夏は無人機が空振った隙に鋭い突きを繰り出す!

一夏「……」

無人機「――――――」グラッ

無人機「ギッ――――」バチバチバチ……

一夏(見切れた……左肩に一発入れることができた!)

404: 2014/01/14(火) 03:09:53 ID:pMuo7Nwo

無人機「――――――」

《無人機 瞬間加速 発動(後退)》

一夏「逃がすか!」

《白式 瞬間加速 発動》

一夏(さっきの一撃で左腕の動きに障害が生じているはず! そこから攻める!)

無人機「――――――」ヒュウ……

一夏(速度が落ちた! 今だ!)

無人機「――――――」カチャッッ……


ドシュッッ!!


一夏(こめかみの箇所から棘が発射されただと!?)

一夏「くっ」バシッ


ドウゥン!!!

405: 2014/01/14(火) 03:10:27 ID:pMuo7Nwo
一夏(爆発した!? マイクロミサイルの一種か!)

一夏「視界が…………はっ!!」

無人機「―――」ギュィイン!!

一夏「ッ!」サッ


ズシャァッ!!


無人機「――――」ジジ…ジ…

一夏「…………」

一夏「入った……か」

右手で突きだした雪片の先に、無人機の胴が刺さっているのを確認する一夏

一夏「必殺を期すため氏角の方から打ち込んでくると思ってたぜ」

無人機「――――――」

一夏(よし、とどめを―――)


ガシッ!!

406: 2014/01/14(火) 03:14:15 ID:pMuo7Nwo
一夏「!?」

無人機「―――」

一夏「こいつ……雪片を掴んで離さねえ」ギチギチ……

一夏「ダメだ……力じゃ……」グググ……  バッ!!!

一夏「うわあっ!!」

無人機「――――――」

一夏「取られちまった………! くっ!!」

無人機「――――――」ブン!! ブン!!

407: 2014/01/14(火) 03:14:59 ID:pMuo7Nwo
一夏「!」ヒュン!

一夏「危ねえ! ギリギリで上に逃れることができた! くそ、何とかして取り返さねえと……!」

一夏(雪片は白式の武装……使いこなすことはできやしない。動きを見て冷静になって……)

無人機「―――――」スッ

一夏「?」


《無人機 零落白夜 展開》


ギュオォォォォォォオオォォオオ!!!


無人機「―――」ギロッ

一夏「なっ……!?」

408: 2014/01/14(火) 03:16:43 ID:pMuo7Nwo
【IS学園 廊下(教室前)】

セシリア「もう授業が始まりますわ」

のほほんさん「楽しみだね~~~冬休み」

鈴「……」


ザワザワ エッ ソラデ? コワーイ


鈴「何か周りが騒がしくない?」

簪「私も……そう思う」

ラウラ「様子がおかしいな」

相川「あっ! 皆!」

シャル「どうしたの? そんな慌てて」

相川「良かった! 一年の専用機持ち全員いるんだ!」

谷本「大変なのよ! 今、この学園の空でね―――」

409: 2014/01/14(火) 03:17:26 ID:pMuo7Nwo
【IS学園 廊下(職員室前)】

山田「はぁ……! はぁ……! お、織斑先生!」

千冬「もう聞いている」

山田「え!! じゃ、じゃあ」

千冬「今回の襲撃は単体。学園上空で織斑一夏と交戦中のところを何名もの生徒が目撃している」

山田「織斑くんが!? し、指令は!?」

千冬「既に他の教員に連絡を入れてある。生徒へのシェルター避難命令も間もなく伝えられるはずだ。
   戦闘教員をツーマンセルで二組派遣し、残りは内部の異常検査と避難のサポートに回す。
   敵の増援を警戒し、学園での任務に当たっている教員も生徒の安全を確保でき次第ISの出撃準備をさせるつもりだ」

千冬「山田。おまえも出撃班に当たっている。速やかに発ち、外敵を討て」

山田「はい!」

千冬「この学園に入れるなよ」

山田「分かっています!!」ダッ

千冬「……」

千冬(一夏……もう少しの間だけ一人で耐えてくれ……)ギュ…

410: 2014/01/14(火) 03:20:27 ID:pMuo7Nwo
箒「一夏は……どこだ」キョロキョロ

箒(最近一夏とまともに会話していない気がする……口数が減ったし、実習でも妙な必氏さを感じて話し掛けるのが憚られていた)

箒(皆との話し合いが一段落して、残り時間くらい久しぶりに二人で会いたいと思ったのだが……)

鷹月「…………」

箒「あ、静寐。一夏を見なかったか?」

鷹月「篠ノ之さん、あれ……」

箒「何だ? 空を指差して。珍しい鳥でもいるのか?」ヒョイ

箒「ん……あのISの輝きは……白式!? もう片方はなんだ!?」

鷹月「あっ……織斑くんの剣が」

箒「……奪われた!? い、一夏!!」

鷹月「ね、ねえ篠ノ之さん! 早く助けに行ってあげて!!」

箒「もちろんだ! 待っていろ一夏! 今、紅椿で―――」

「できないよ」

箒「!」

411: 2014/01/14(火) 03:21:00 ID:pMuo7Nwo
箒「そ、その声は……」

鷹月「あ……」

「久しぶりだね、箒ちゃん」

箒「な、なぜあなたがここに!?」

束「箒ちゃんが心配になってさ」

箒「くっ……すみませんが今はあなたと話している暇は無いんです! 早く一夏を助けに行かないと!」バッ

箒「来い! 紅椿!」


シーン……


箒「なっ! どうしてISが展開されない!?」

束「箒ちゃんが行くことないって。あんな怖い敵はいっくんに任せようよ」

箒「……まさかあなたが紅椿の起動を邪魔しているのではないでしょうね!?」

束「…………」

箒「何とか言ってください!」

412: 2014/01/14(火) 03:22:29 ID:pMuo7Nwo
《白式 瞬間加速 発動(後退)》

ギュンッ!!

一夏「こちらの武器を奪い取って自由自在に扱えるとは……くそ!」

一夏(頭を切り替えるんだ! 動揺を断て!!)

一夏(零落白夜は一撃必殺の切り札だ。腕部ブレードと共に振り回されたら間合いに入ることすらままならない。
   かといって、あまり距離をとると敵意の矛先が学園に向く危険性がある)

一夏(俺は消費エネルギーを抑えるために整備課に行ったり無駄を減らす運用法を考えたりして、燃費はぐっと良くなったが……
   相手はそんなの考えなくていいくらいにエネルギーを備えているかも知れない。悠長にガス欠を待ってたらあっという間にやられてしまう)

無人機「――――」

一夏(こちらができることは……やはり荷電粒子砲を相手に向けて放ち、隙が出来たところを奪い返すしかなさそうだ)

一夏(いや、待てよ……今相手の持ってる武器は―――)

無人機「――――」

《無人機 瞬間加速 発動》

一夏「!」

《白式 荷電粒子砲 発動》

ドゥゥウン!!

413: 2014/01/14(火) 03:23:12 ID:pMuo7Nwo
無人機「――――」バッ

バシャシャシャシャァッ!!

一夏(予想通り零落白夜で切り裂きつつ突進してきたな)

一夏(次の手は……)

無人機「―――」グアッ

一夏(相手の手元を狙って)ジン……

一夏(―――左の貫手!)ビュッ!!


ガシィィィィ!!


一夏(腹部の隠しショートブレードで受け止めるか……
   武器をとり戻そうとする相手からの手元への攻撃を読んでカウンターを食らわせる策か)

一夏「よし…………」


《白式 雪羅エネルギー爪 発動》

ビカッ!!!

無人機「――――!」グラッ

414: 2014/01/14(火) 03:23:45 ID:pMuo7Nwo
一夏「読めてたぜ!!」ブォン!

その場で大きな回し蹴りを放ち、無人機が握る雪片弐型を天高く弾き飛ばす

無人機「――――」

ヒュンヒュンヒュンヒュン……

一夏「よし!」パシッ

無人機「――――」ピク…ピク…

一夏(何だ? 様子が少しおかしいが……チャンスだ!)

《白式 零落白夜 発動》

一夏「くらえっ!!」

無人機「――――」ギャシンッ!!

一夏「!!」

《無人機 腕部ブレード 雪片弐型と同型に変換》

一夏(こいつ……武器が変化してる!?)

無人機「―――」ギロッ

415: 2014/01/14(火) 03:25:17 ID:pMuo7Nwo
一夏「な、何なんだ!」

《無人機 両腕部 零落白夜 発動》

ギュオォォォォォォ

一夏「げ!」

無人機「―――」ブン! ブン!

一夏「くっ!」キンキン!

一夏(こいつ……進化しやがった……! 戦闘経験を積んで新しい武装を生み出した! 紅椿と同じ無段階移行(シームレス・シフト)だ!)

無人機「―――」ブアッ

ガシィイン!!

一夏(しかも左右一本ずつ持ってやがる!)ドカッ!

無人機「――」グラッ

ヒュゥウン!!!

一夏(とにかく零落白夜を食らったらその時点でアウトだ。距離を取るか? 
   でも、あまり離れ過ぎると俺を相手するのを止めて学園の方に向かうかも知れねえから慎重に行こう)

一夏(敵は両手に雪片弐型と同系の剣を持ち、今はしまわれているが腹部にブレードを隠している。おまけに頭部にはマイクロミサイル……)

一夏(機体運用時のエネルギーの無駄を限りなく無くし、戦術を見直したのが効いてるのか、こっちは色々使ってエネルギー残量は70パーセント近く残ってるけど……

416: 2014/01/14(火) 03:25:59 ID:pMuo7Nwo
一夏(やれるか? 俺はこいつを倒せるのか?)

一夏「……」


―――でも言っとくが、俺はおまえの気持ち悪いヒロイズムなんて認めないからな


―――俺らと何も変わらんのにあいつだけ良い思いをしてるっていうのは、許せねえよ


一夏「……っ」ギリッ

一夏(何言ってるんだ! やらなきゃダメなんだよ!
  こんな状況が来たときのために技を磨いて読みを鍛えてきたんだろ!)

一夏(倒して見せるさ! この危機を打ち払ってやる! 俺の信念は強固で、ただ流されただけのボンクラじゃないってことを証明してやる!)

一夏「皆……!」チラッ

戦場と化した上空から、緊張の隙間をついてIS学園に目を落とす一夏

一夏(……負ける訳にはいかない)

一夏(安心してくれ。侵入は俺が食い止めるからな!!)

無人機「―――」ギロッ

417: 2014/01/14(火) 03:26:35 ID:pMuo7Nwo
一夏(今回の敵は攪乱やフェイントを多用して人間的な動きを見せる。相手の行動を読みきれなきゃ負けだ!)

無人機「―――」


《無人機 瞬間加速 発動》


一夏「!」

ガシィィィ!!!

一夏「そうだよな! おまえは俺よりパワーも手数も上回ってるんだ! 接近して打ち込みまくるだけで勝てるよなあ!」ギリギリ

無人機「―――」


《無人機 零落白夜 展開 ×2》ビカァァァァ!!!


無人機「―――」ブン! ブン!

一夏「っ!!」キン! キン!

一夏(二刀を持つ相手に対して両手持ちで挑むのは危険過ぎる。一方の剣を受け止めてももう一方の剣で脇腹を刺し貫かれるのがオチだ)ガキィン!!

418: 2014/01/14(火) 03:28:25 ID:pMuo7Nwo
一夏(しかし、対二刀流のセオリーを守ったところでこっちが先に限界が来るのは避けられない……よし、やってみるか)ヒュンッ!!

《白式 零落白夜 発動》

ギュオォォォォォ!!

一夏「でもって……」

《白式 瞬間加速 発動(後退)》

ドシュウゥゥゥ!!

無人機「―――」ギロッ

一夏「来やがれ!」ガチャ フィィィィィィィ……

無人機「―――」ガチャ フィィィィィィィ……


《無人機 瞬間加速 発―――


一夏(加速前の一瞬の隙! ここだ!)

《白式 瞬間加速 発動》

ドシュウゥゥゥゥ!!

無人機「―――」

419: 2014/01/14(火) 03:30:23 ID:pMuo7Nwo
加速の勢いを乗せて敵の胴を斬り付ける一夏

ザンッ!!

一夏(後退時の勢いが抜けきらないうちにいきなり加速するのはきつい……けど! 出し抜けた! 手応えもあった!!)

無人機「―――」

無人機「――――――――」ギロッ ヒュン

一夏「!」

一夏「……な……何でだよ……確かに斬ったはず……」

一夏(! 敵の腰の部分……切れているがまだ繋がってる! 慣れない戦法で僅かに手元が狂ったか!!)

無人機「―――」グアッ…… フィィィィ…

一夏(大上段に構えた!? くっ!!)

《白式 瞬間加速 発動(後退)》

無人機「――――」

《無人機 瞬間加速 発動》

一夏「!!」ガキィィィィイン!!

一夏(こいつ! 間髪いれずに俺を追撃してきた!? 剣を振り上げたのは後退を誘うエサだ!)ギリギリ……

420: 2014/01/14(火) 03:31:32 ID:pMuo7Nwo
一夏(………)ギリギリ

一夏「あ」

一夏(俺今雪片を両手持ちして受けてる……)

無人機「――――」キュイィィン…

一夏「しまっ……!」

無人機「――――!」ブゥン!!


ザシュゥゥゥッ!


一夏(! ここだ!)バッ


《零落白夜 発動》

ドスゥッ! バリバリバチバチッ!!

421: 2014/01/14(火) 03:32:22 ID:pMuo7Nwo
無人機「――――――」ジ…ジジ……

一夏「へ……へへ……」


一夏「どうだ。その腹にカウンター入れてやったぜ」

一夏(剣を振った後に一瞬の隙ができたな。ラッキーラッキー)

一夏「遂にコアが見えた。けど……」

一夏「……左腕……飛ばされちまった」フラッ


………ブシャァァァァ!!

424: 2014/01/16(木) 02:56:38 ID:54o4AHFM
【IS学園内 格納庫】

教員A「……原因は解明できた?」

教員B「まだ。整備不良だというわけではなさそうね」

山田「はぁ……はぁ……!! あ、み、皆さん! 早く出撃しましょう!」

教員C「……」チラッ

山田「どうしたんですか!? 学園の危機ですよ! 織斑くんがたった一人で応戦してるんです!」

教員A「分かっているわよ!」

山田「な、ならどうして!」

教員C「出来ないのよ」

山田「え!?」

教員D「起動できないの! ここに配備された機体全てが、凍りついたみたいに何の反応も見せてくれないの!!」

山田「……!!」

425: 2014/01/16(木) 02:57:36 ID:54o4AHFM
箒「一夏っ……!! う、腕が……!!」

束「いっくん!!」

箒「姉さん! これはどういうことですか!?」

箒「やはり、今までの事件も全部あなたが絡んでいたということですか!?」

束「…………」

束「そだよ。気付かなかったの?」

箒「……! そんな、じゃあ、私たちを攻撃して何をしようと……?」

束「どういう想像してるのかな。箒ちゃんは」

束「ここは勘違いして欲しくないんだけど、全部箒ちゃんといっくんのためにやったんだよ?
  二人が戦いを経て絆が生まれるように、共に強くなれるように取り計らったんだよ?」

箒「―――!」

束「いっくんとの距離を縮められて箒ちゃんも嬉しかったでしょ? 共に戦えるよう用意した紅椿も、破格の性能を発揮したでしょ?」

箒「紅椿は……」

束「ねえ。どうしてかな? どうしてこんなことになっちゃったのかな? 
  今いっくんの腕が切り飛ばされたの見た? くるくる血を飛び散らせながら海に落ちていっちゃったね」

426: 2014/01/16(木) 02:59:00 ID:54o4AHFM
箒「姉さん、あなたは」

束「どうして白式の生体再生機能が働かないのかな? あれだけの傷を負ったらまず操縦者の命を守るために回復に集中するはずなのに。
  絶対防御を妨害するシステムは組み込んだけど、その機能までカットするようには作ってないよ」

箒「ちょっと待ってください」

箒「私が喜ぶと思って一夏や仲間たちを危険な目に合わせたんですか。氏人が出るかも知れないのに」

束「考えられる原因はいくつかあるね。新ゴーレムの持つ自己進化機能が新たに再生妨害能力を発現させたという説が一つ」

箒「……姉さん」

束「二つ目は、白式のコアの自意識が操縦者であるいっくんの意識と同調し、回復より戦闘行為の続行を優先したという説」

箒「姉さん」

束「切断面の出血が少しずつ止まってることから見て回復機能は今も働いてるみたい。
  普通のISも裂傷の止血くらいはできるけど、白式は操縦者の腕が切断されてもなお戦いを続けようというのかな?」

箒「姉さん!!」

束「……何かな? 箒ちゃん」

箒(目が虚ろだ……事態を把握し切れていないのか……?)

箒「は、早くあの無人機を止めてください!」

427: 2014/01/16(木) 03:00:12 ID:54o4AHFM
束「そうできるものならとっくにそうしてるよ」

箒「え?」

束「内蔵された自己進化機能が、自分で外部干渉を排除するよう内部システムを作り変えちゃったみたい」

箒「ということは……」

束「そ。もう束さんの命令は受け付けないってこと」

箒「じゃ、じゃあ学校側のISにあの無人機からの命令をシャットアウトできるようにする措置はとれないんですか?
  姉さんならいくつかのISにそういった施しをすることは可能でしょう!?」

束「できるかも知れないけど現実的じゃない。超簡単に説明すると、新ゴーレムが白式以外のISの起動妨害を行えるのは、
  コア・ネットワークを介して他者のコアへ命令できるようにしてあるからなんだ」

束「で、新ゴーレムによって起動を封じられたISは、通常の待機形態とは違った状態に置かれるんだよ」

束「その状態はコアが眠っているって言うか、更なる外部の働きかけを受け付けなくなるんだ。
  パソコンもシャットダウンしたままでプログラム上の操作を行うことはできないでしょ? ざっくばらんに言えばそれと同じ」

箒「そんな……!」

束「がんばれば抜け道を見つけられるかも知れないけど、今からそれをしても時間が膨大に掛かるだろうから無駄だね」

箒「ああ……!!」

束「さっき新ゴーレムの状態解析をしてたんだけど、自己進化機能で内部機能まで勝手に改造しちゃってるみたいだったし。
  もしかしたら私が他のISを起動しても、すぐにまた停止させられちゃうことになるかも知れない」

428: 2014/01/16(木) 03:01:54 ID:54o4AHFM
箒「……ISの自己進化機能とはそもそも、戦いの経験からより強い形へ姿を変える特性を指すのではないですか?」

束「あのゴーレムが特別なんだよ。今作は無人機の動きに幅を持たせるのと、自己進化機能の改良及び適用範囲の拡大がテーマだったんだ」

束「当初は戦闘用AIだけを改善しようとしただけなんだけど……
  より効果的な行動を展開するためには内部機能も必要に応じて改良できるようにした方がいいと思ってさ」

箒「…………」

束「今いっくんが相手をしているのはハイスピードで状況に適応し、新装備を展開できるようになった前代未聞の超兵器だね。
  形態移行したときに過去の経験から武装が追加される特質は従来のISにもあるけど、あのゴーレムは紅椿みたいにそれをもっと高頻度に行うんだ」

箒「今は一夏しかISを動かせる者はいないんですか」

束「んー、コアロック機能適用の例外は白式だけ。命令コードに組めたのはそれだけだったし」

束「もちろん紅椿に対してもこの機能を使わせないようにするつもりだったよ。
  けど、AIの不備とか新機能と従来機能の噛み合わせだとか途中で他の問題がいくつも目に付いてさ。
  開発スケジュールを見直すことにして優先度を振り分けた結果、紅椿を除外するコード入力は機体機能調整後に持ってくることにしたんだ」

鷹月「待ってください! あなたは篠ノ之さんと織斑くんを大切に思ってるんでしょう!」

箒「!?」

束「箒ちゃんまで……殺されて欲しくないし」

箒「今更何を言っているんです!! そんなこと言うなら最初からやらないで下さい!」

429: 2014/01/16(木) 03:03:05 ID:54o4AHFM
箒「すぐに増援に行かなければ一夏が本当に氏んでしまいます!! 一夏のことはどうでもいいんですか!!」

束「行ってもどうせ勝てないよ!」

箒「一夏が倒れたら今度は学園が狙われるかも知れないでしょう!! 
  戦闘教員たちのISも使えないこの状況では、どの道私たちも助かりません!!」

束「うん。そうだね。だからこそ……」

束「最後くらい姉妹水入らずで過ごそうよ」

箒「姉さん!」

束「…………お願い、箒ちゃん。そんな睨むような目つきで見ないで」

鷹月「博士……」

束「最後の最後まで箒ちゃんに嫌われたままっていうのは、流石の束さんも辛いよ」

箒「あ、あなたは! いつも! いつも余計なことをして!」

束「……」

箒「勝手に掻き回して! 邪魔をして! 私の仲間まで傷付けて!!」

箒「ほ……本当に……こんな事態まで招いて……」

束「ごめんね。私が変な真似しなけりゃいっくんと一緒にいれたのにね」

430: 2014/01/16(木) 03:04:29 ID:54o4AHFM
箒「違います!!」

束「ん……?」

箒(確かに……一夏と離されたことは悲しかった……けど!)ジワ…

箒「わ……私の大切な友達まで巻き込んだっていうことも許せないんです!!」ポロッ

束「ともだち?」

箒「うっ……うううぅ……」

束「……」

鷹月「……」

鷹月「篠ノ之博士。妹さんの言っていることが本当に分からないんですか?」

束「君、誰?」

箒「静寐……」

鷹月「あなたは知らないでしょうけど、箒さんはこのIS学園でたくさんの友人を作ったんですよ」

鷹月「自分のISを手に入れた後は先輩に鍛えてもらうようになりましたし、悩んでいる友達に話を聞きに行って感謝されたこともあるんです」

431: 2014/01/16(木) 03:05:03 ID:54o4AHFM
箒「私の不備で作戦失敗したときも、彼女たちはフォローに回ってくれた……」

束「…………?」

箒「そ、そんな友人たちを姉妹間の問題に引き込んで、危ない目に合わせたことは……」

束「箒ちゃん……」

鷹月(こういう状況ってどうすれば良いのかしら……)

鷹月(さっき避難指示の校内放送が聞こえたけれど、篠ノ之さんは一夏くんの戦いを見ずにはいられないでしょう……)

鷹月(でも、織斑くんが戦っているのは皆を守るため……なら、彼の意思を無駄にする訳には)

束(箒ちゃん……何故そんなに悲しんでいるの? いっくんがやられてるから、だけじゃないよね?)

鷹月「篠ノ之さん、早く避難しましょ。博士も一緒に」

箒「……一夏を見捨てる訳にはいかない」

鷹月「気持ちは分かるけど! 早く行かなきゃあなたも危ないわよ!」

箒「私のために姉がしたことで、今一夏は苦しんでいるんだ。私だけ安全な場所で身を隠すのは許されない」

鷹月「しっかりしなさい! 今、あなたが傷付くことを、一夏くんが望んでいると思ってるの!?」

束(……………)

束(この子……関係ない癖に何でここまで……?)

432: 2014/01/16(木) 03:05:59 ID:54o4AHFM
【IS学園 上空】

一夏(シールドも荷電粒子砲も使えなくなっちまったな)

無人機「―――」ブン! ブン!

一夏「おっと」

キン! キン!

一夏(……今ので決められねえのか……!! くっ、片腕を失ったまま斬り合いを続けるのは危険だ!)

無人機「…………」

一夏(一旦引くぜ!)


《白式 瞬間加速 発動(後退)》

ギュゥン!!

一夏(……………あぶ……え?)


《無人機 瞬間加速 発動》 ギュゥン!!

433: 2014/01/16(木) 03:06:32 ID:54o4AHFM
無人機「―――」グアッ

一夏「な! 一瞬で詰めて……! くそ!」ブン!


ガシィィィ!


一夏(俺が引くのを見越してすぐ瞬間加速仕掛けてきた……)ギリギリ……

無人機「――――」グググ…

一夏(やばい!! 片手じゃ鍔迫り合いに勝てねえ!)ギリリ……!

無人機「―――」ギリギリ…… ザシュ!

一夏「ぐあっ!」

一夏(押し切られた……はっ!!)

434: 2014/01/16(木) 03:07:03 ID:54o4AHFM
無人機「―――」グアッ

一夏(蹴りが―――)


ドガアァァ!!


一夏「……っは」

一夏「が、か……かはっ……」


《無人機 零落白夜 発動》

一夏「え?」


ザシュゥゥゥゥ!!

435: 2014/01/16(木) 03:08:56 ID:54o4AHFM
一夏「…………」

一夏「斬られる瞬間体を引いたから、傷は浅目に留めることが出来た……でも……」

一夏(ダメだ……血を流し過ぎたか、右手にも力が入りにくくなってる……)

無人機「――――」

一夏「おまえ強いなあ……

一夏「へへ……」ガクッ フィィィィィィ……


《白式 スラスター稼働 停止》

 ヒュゥゥゥゥゥゥ……


無人機「―――――」キュィ…ィイン

一夏「…………」ヒュゥゥゥゥゥゥ……

436: 2014/01/16(木) 03:11:11 ID:54o4AHFM
一夏(……苦肉の策だ。片腕が無い今、力で勝る相手に斬り合ってもまともな勝負にならない)

一夏(攻撃を誘い、後ろに引いて反撃する方法は読まれてるかも知れない。これが決まらなかったら終わりだ―――)

一夏(皆、今までごめんな。迷惑掛けて、負担掛けて、余計に苦しませて)

一夏(これくらいしかできることないけど、こいつだけは俺が倒してみせるよ。皆の間に芽生えた絆を守ってみせる)

一夏(インフィニット・ストラトス―――無限の成層圏。女性を守る機械仕掛けの鎧。俺はそれでいい)

一夏「―――――――」


《無人機 瞬間加速&零落白夜 発動》


一夏「!」カッ


《白式 瞬間加速&零落白夜 発動》


一夏は高速で接近する敵機に正面から迎え撃とうと加速する

一夏「うおぉぉぉぉぉぉ!!!」

437: 2014/01/16(木) 03:15:09 ID:54o4AHFM
【IS学園 地下シェルターに続く道】

鈴「…………」

セシリア「一夏さんは大丈夫でしょうか?」

シャル「話を聞いてすぐ一夏を助けに行こうとしたけど、ISは何故か展開できないし……」

ラウラ「その後すぐ教官に見つかって、早く避難するよう諭されてしまった」

鈴「箒もいないじゃない……」

簪(……私たちだけ逃げてて良いのかな)

相川「皆……織斑くんのことが心配なのは分かるわ。私もよ」

のほほんさん「セッシーたちのISが起動できないってことは、もしかしたら戦闘教員が使う機体も動かせないってことかな……」

鈴「だとしたら……」

セシリア「一夏さんは今も一人で……?」

438: 2014/01/16(木) 03:17:25 ID:54o4AHFM
一夏「………」

一夏「っ………………」




無人機「―――」

無人機「―――――――――!」グラッ

一夏「………!」

一夏(突撃してきた俺の剣を左腕で受け止め、右腕に据えられた刃で俺を刺す―――)

一夏(そうやって咄嗟に対処されたせいで、俺はコアを破壊することができなかった)

無人機「―――」ヴゥ……ゥン

一夏(それだけじゃない。さっきの衝突の一瞬に、露出したコアを体のパーツで塞いでくるなんてことは予測してなかった)

一夏(左腕とパーツに阻まれコア破壊は失敗。でも……)

無人機「――――」

一夏「剣先が届いたのは俺が先だったな。こっちも傷は浅いながらも食らっちまった……」

439: 2014/01/16(木) 03:21:16 ID:54o4AHFM
一夏「はぁ……はぁ……」

一夏「敵はコアが破壊されなかったにしろ、かなりグロッキーにはなってるみたいだ」

一夏(にしても、空中で静止したままなのは、エネルギーがまだ完全にゼロになってないってことか?)

無人機「―――」ウィーン

一夏(とどめを……早く……)チャキ

無人機「―――」ガチャ……ガチャ……

一夏「ん?」

一夏「何だ……こいつ、スラスターの噴出孔を一方向に……?」

一夏「くそっ!! 逃げようってのか! この……!!」ジャキッ!!


                ビカッ
バチィッ!

一夏「…………ぐおっ!!」

一夏(何だ? 今、背後から光線が……)

440: 2014/01/16(木) 03:22:25 ID:54o4AHFM
一夏「くそっ! 何だ!」
          
                ビカっ


一夏「おっと!」サッ


                ギュンッッッ!!!

一夏「…………!」

一夏(あの細い体躯、バイザー型のライン・アイ……確かこの前学園に強襲して来た奴だ)

一夏「このタイミングで増援……!?」

女性型無人機「―――」キュイン

女性型無人機「――――」ドンドンドン!!



一夏「ぐっ……!! 乱射してきやがる!」

441: 2014/01/16(木) 03:23:13 ID:54o4AHFM
鷹月「織斑くん!」

箒「……!!」

束「ああ……!」

束「研究室で眠らせておいたゴーレムまで目覚めるなんて」

束(それに……あの機体に備わった機能は……)



一夏「はぁ……はぁ……!!」

一夏(もう一体居やがったのか……! 予想しておくべきだった……)

女性型無人機「――――」カチャ……

【女性型 腕部メーザーキャノン 発射】

ビィィィ!!

一夏「ぐあっ!!」

ビィィ!! ビィィ!!

一夏(出力も連射性能も上がってる! 飛び回らなきゃかわせない!)ビュン!!

442: 2014/01/16(木) 03:24:07 ID:54o4AHFM
ビィィィ!! ビィィィ!!

ビュン! ビュン!

一夏(あいつ、見たところ格闘能力に比重は置いてないのか、近接用の武装は据え付けられてないみたいだ。
   瞬間加速で一気に距離を詰めて切り込めば、隠し武器を仕込んでいたとしても使わせずに沈められるか……?)

女性型「―――」

ビィィィ!! ビィィィ!!

一夏(連射が途切れない! 被弾覚悟で突っ込むしかねえか!
  相手に向ける面積を最小にして超高速の矢になれば、致命傷は受けないはずだ)

ビィィィ!! ビィィィ!!

一夏(よし……)ジャキ コオォォ……

女性型「――!」

【白式 瞬間加速 発動】

ギュウゥゥゥゥオオォォォォ!!

一夏「食らえ! 」

女性型「――――――」

【女性型 スカート型シールドビット 展開】

443: 2014/01/16(木) 03:26:05 ID:54o4AHFM
一夏「!」


ガシィィィィ!

一夏(雪片が阻まれた……!?)

一夏「はっ! 敵は―――」


女性型「―――」ガチャ……

一夏(上に―――!)

【女性型 脚部マイクロミサイル群&腕部メーザーキャノン 一斉発射】

ドドドドドドドゥゥゥ!!

ビィィィィ! ビィィィ! ビィィィ!


一夏「ぐわぁぁぁぁ!!」

444: 2014/01/16(木) 03:27:07 ID:54o4AHFM
一夏「う……うう……」

一夏「はぁ……はぁ……くそ、かなり吹き飛ばされた」

一夏「ん…………?」

女性型「―――」

無人機「―――」

一夏(何だ……? さっき俺が倒した無人機に近寄ってる?)

女性型「―――」スアッ

無人機「―――」

【女性型 エネルギー転送 無人機へ】パァァァァァ……

無人機「―――」

一夏「えっ」

無人機「―――」ウィー……

一夏「嘘だろ……」

445: 2014/01/16(木) 03:27:49 ID:54o4AHFM
無人機「―――」カッ!

一夏「やばい!」

【無人機 エネルギー充填率100パーセント】

【無人機 零落白夜発動×2&瞬間加速発動】

ギュオォォォォォォ!!

一夏(……完全回復だと!?)

【白式 零落白夜 発動】

一夏「くっ!!」

無人機「―――」ブンッ!!

一夏「っ」サッ!

一夏(左側から襲ってくるなよ!)

無人機「―――」ブン! ブン!

一夏(接近戦は無理だ! 距離引いて隙を―――)ギュン!

一夏(こっちのエネルギーは半分くらいしか残ってねえ! 慎重に戦わないとガス切れで終わりだ!)

446: 2014/01/16(木) 03:29:09 ID:54o4AHFM
女性型「―――」キラッ

【女性型 腕部メーザーキャノン 発射】

ビィィィ!! ビィィィ!!

一夏「うわっ!!」

無人機「――――――」ギュィインッ!!

一夏「!!」

無人機は逃げ回る一夏の行く先に回り込み、斬撃を加える

ザシュゥゥゥゥ!!

一夏「――――――」

一夏(二体で掛かられたら……どうすれば……)グラッ

一夏「くっ……うっ……うぅぅ……!」

一夏(何とかするんだ……俺ができることはこれくらいしか、皆のために身を削ることしかできないんだからっ……)

456: 2014/01/25(土) 03:56:40 ID:Hwsq7wTU
鷹月「篠ノ之さん……」

箒「あ……ああ……」

鷹月(かなりショックなのは私も同じだけど、織斑くんと幼馴染だった篠ノ之さんは計り知れない衝撃でしょうね)

鷹月(でも……)

鷹月「篠ノ之さん! 早く逃げましょう!! 織斑くんが頑張ってくれてる間に!」

束「逃げても無駄だよ。現時点での目標であるいっくんを排除したあとは学園の破壊へ移るだろうからね。
  起動妨害の機能で学園内のISは飛べなくなってるけど、それを知らずに格納庫でうろたえてる戦闘教員たちが真っ先に犠牲になるかな」

鷹月「すぐシェルターに避難させれば!」

束「好きにすれば」

箒(一夏……あんなにボロボロになって、た、たった一人で立ち向かって……)

鷹月(どうしよう……先生たちを格納庫から出るように伝えなきゃいけないのに、かといって篠ノ之さんたちを放っておくわけにはいかない)

箒(一夏は最近様子がおかしかった。物憂げに佇んでいるときもあれば、いつも以上に明るく話しているときもあった)

束「いっくん……よく戦ってるねえ」

箒(この人さえいなければ、私は―――)

箒(ISが作られなければ、そもそもこういった状況になることは無かったのに!
  一夏が左腕を失うことは避けられたはずなのに……!)

457: 2014/01/25(土) 03:57:52 ID:Hwsq7wTU
ヒュン! ヒュン!


一夏「はあっ……! はあっ……!」

無人機「―――」バッ


ガシィィィィ!!! キンッキンッ!!


一夏(攻撃をいなし続けるのも辛くなってきた。その上、動きを止めると―――)


ビィィィ! ビィィィ!   ヒュゥンッ!


一夏(もう片方がすぐ光線を打ってきやがる……どうにかして打開策を開かないと)


できるのか 俺に?―――


一夏(接近タイプを倒しても遠隔タイプに回復させられちまうかも知れないんだ。
  作戦って言っても、あえて接近タイプを近づけさせてギリギリで瞬間加速で引き離し、
  遠隔タイプを一撃で仕留めにかかるくらいしか打つべき手が無いっ……)

458: 2014/01/25(土) 03:59:35 ID:Hwsq7wTU
無理だ 左腕が無いんだぞ? 


一夏(目の前のこいつはラッシュの圧力が強くて反撃を入れにくい。
  やっぱり、タイミングを図って遠隔タイプに突進するしか……)


エネルギー充分の格上二体を相手にそもそも勝てる訳ない―――


一夏「っ……」

一夏(頭の中で弱音が渦巻いてくる……! 接近タイプを倒せたと考えたとき、集中を一度途切れさせてしまったせいか)


またシールドビットに阻まれて終わりだ――― うまくいってもその後はどうするんだ―――


一夏(どっち道ここで俺が堕ちれば終わりなんだ! だったらやるしかねえだろ!!)

一夏「……………!」

無人機「―――」グアッ!

一夏(ここだ! ここで横薙ぎをかましてっ!!)

ガキィン!!!

無人機「―――」グラッ

459: 2014/01/25(土) 04:00:29 ID:Hwsq7wTU
【白式 瞬間加速 発動】

一夏「遠隔タイプを仕留めるっ!!」ギュオォォッ!!    

一夏(さっき防がれたとき、シールドビットの反応は早かったが挙動は単純だった……操作するAIがまだ不完全なのかも知れない。
  それに零落白夜を受けたダメージは、確実にビットに残ってる。打ち破れるはずだ―――)

女性型「――――」バッ

【女性型 スカート型シールドビット展開 障壁型】

一夏(前面部を全てを覆う楯か―――!)

【白式 零落白夜 発動】


ザシュゥゥゥゥゥゥ!!!


一夏「…………くっ!!」

女性型「―――」

一夏「浅いっ………!」

一夏の握る雪片はシールドビットを全て両断しきったものの、コアを守る外装に止められていた

460: 2014/01/25(土) 04:01:16 ID:Hwsq7wTU
一夏(パワーアシストが切れてきたんだ! くそ……この攻撃に賭けたのに仕留められないなんて……)

女性型「――――――」サッ

【女性型 腕部メーザーキャノン 発射―――

一夏「うおっ!! 止めろ!」ドガッ!

女性型「―――!」グラッ


ギュオォォォォ……

一夏「…………!」

【無人機 零落白夜×2 発動】

無人機「―――――!!」ギュオォォォォ!!!

一夏(もう来やがった!)チャキッ 


ザシュッッ!!

一夏は僅かに身をずらして無人機の突進をかわし、すれ違いざまに剣を振る

無人機「―――」ジジ…

一夏「うう……」

461: 2014/01/25(土) 04:02:12 ID:Hwsq7wTU
一夏(ダメだ……通らなかった……敵の右肩を少し斬っただけ)

無人機「――――」グアッ

一夏「!」

ドカァァァァ!

一夏は、無人機の前蹴りに大きく吹き飛ばされる

女性型「――――」キュイン

【女性型 腕部メーザーキャノン 発射】 ビィィィ! ビィィィ!

蹴り上げられた一夏に、幾条もの光線が次々と殺到する

バチバチバチ!!

一夏「――――うわぁぁぁぁ!!」

一夏「がっ………! ぐ、ぐううぅぅ……!」

一夏(勝てない……のか?)


束「……………いっくん、ほんとによく頑張ってるよね」

箒「……」

箒(この人さえいなければ……最初から存在していなければ!!)

462: 2014/01/25(土) 04:03:24 ID:Hwsq7wTU
箒「あなたのせいでしょう!! 何故そんなに他人事みたいに傍観していられるのですか!」

箒「いつもいつも邪魔ばかり! そもそもISの無いままの世界だったら、こんなことにはならなかった!」

束「……」

箒「あなたがISを作りさえしなければ―――」

鷹月「篠ノ之さん!」

箒「!」

鷹月「本当に言っているの!? 確かに、今織斑くんが氏闘を演じているのはあなたにとって悲しいことだし、私だって心配よ!」

鷹月「でも、あなたはこのIS学園で得たものを自分から否定するようなことは言ってはダメ!」

箒「得た……もの?」

鷹月「ISが作られなければ、この学校が出来なかったら出会わなかった人がたくさんいたはずよ。
   その中には、あなたが悩みから救った人もいる。誰よりあなたが知っているでしょう!」

箒「!」

束(まただ。この子、箒ちゃんを見る目が真剣だ……なんで?)

箒(簪……鈴……シャルロット……セシリア……ラウラ……)

箒(あいつらはずっと家族や生まれについて問題を抱えていて……それが原因で関係にヒビが入ったとき、私は……)

463: 2014/01/25(土) 04:04:34 ID:Hwsq7wTU
「箒!」


箒「え!」

ラウラ「探したぞ! 早く避難しろ!」

セシリア「あなたまで巻き込まれますわ!」

鷹月「あ、あなたたちも避難してなかったの!?」

シャル「箒と鷹月さんが見当たらなかったから探しに来たんだよ!」

鈴「先生にどやされるの覚悟でね」

箒「皆……」

簪「よ、良かった……無事だったんだ……」ポロ

箒「……」

箒(何だ……? こんな状況なのに、何故かほっとしている自分がいる)

束(あれ、箒ちゃんの目が……)

箒「……………おまえたち」

464: 2014/01/25(土) 04:05:32 ID:Hwsq7wTU
鷹月「篠ノ之さん! 分かったでしょ!? あなたがこの学園で何を得たか!」

箒「静寐……そうだった、私は……」

束(あ、分かった。この子たちを見る箒ちゃんの目って……)


―――ねえさん! きょうはめずらしいむしをみつけたんですよ!

―――あ、ねえさん。おかしくれるんですか!? ありがとうございます!

―――ねえさん……わたし、もっとつよくなりたいとおもいます!


束「…………」

束(子供の頃、私に向けてくれていた温かい視線とおんなじなんだ……)

鈴「あれ、束さんもいるの!?」

シャル「空では一夏が戦ってるよ! たった一人で!」

セシリア「どうしましょう! ISは起動できませんし……」

ラウラ「とにかく安全なシェルターまで撤回するのが先決だ!」

簪(一夏……! 左腕が無いよ……!?)

465: 2014/01/25(土) 04:06:35 ID:Hwsq7wTU
鷹月「篠ノ之さん! 早く避難しないとセシリアさんたちまで巻き込むことになるわよ! 博士も早く!」

箒「あ、ああ……分かった」

箒「ね、姉さん」チラッ

箒(危険を顧みず探しに来てくれる友人たちができたのは……姉さんがISを作ったからで……それと……)

束「…………」

束(そっか。そっかそっか)

束(私は妹を想ってISを作ったけど箒ちゃんを悲しませるだけに終わって、箒ちゃんは『友達』ができて私がいなくても平気になってたんだ)

束(剣道の才能が無くて親に失望されて、劣等感を埋めるように背伸びして難しい技術本読んで、
  慕ってくれる妹を応援するために培った知識を基にISを製作して……)

束(それは結局全部私のエゴで、馬鹿みたいに空回りし続けただけだったんだね)

束「…………………」

束「うっ……」ジワ・・・

束(じゃあ、私のやってきたことって何だったんだろう?)ポタッ

466: 2014/01/25(土) 04:08:24 ID:Hwsq7wTU
一夏「はあ……もう、エネルギー残量もわずかだ……
   でも、随分長持ちしたなあ。付き合ってくれてありがとうな、白式」

一夏(本当に相棒がおまえで良かったよ。ここまで戦い抜けたのは間違いなくおまえのおかげだ)

一夏(相手の連携だって、フォルテ先輩とダリル先輩の『イージス』ほどじゃないんだ。役割が明確に別れてるから対処できるはずなんだ)

無人機「―――」キュイン

一夏「蹴っ飛ばされて、メーザー砲浴びて、海面すれすれまで落ちちまったな……早く応戦しに戻らないと」ヒュンッ

一夏(ん? 中庭にいるのは……皆!? 避難する時間くらいは稼いだと思うのにどうして!?)

無人機「――――」キュイィィィィ…

一夏「くっ!」ジャキッ!!

一夏(俺は奴の戦法はこちらの左側から攻めた方が有利というデータを元に動いているはず。今回も確実にそうしてくる)

一夏(それを逆手にとってやる!)

ドシュゥゥゥ!!

鋼鉄の体を誇るように無人機は一夏に向けて突進する

一夏(ここだっ! 軌道に剣先を合わせる!)サッ!

【白式 零落白夜 発動】

467: 2014/01/25(土) 04:09:08 ID:Hwsq7wTU
無人機「―――」ギュワッッッ!

一夏(! 上に逃げ―――)

無人機「―――!」ドシュドシュドシュ!!

一夏(こめかみの針ミサイル!)

ドゥン! ドドゥン!

一夏「ぐっ―――」

無人機「―――」

【無人機 零落白夜×2 発動】バチバチバチバチバチ!!

無人機「―――」グアッッ!!

怯んだ隙に二振りの光剣を交差させるように切り付ける無人機

一夏「食らうかっ!」サッサッ!

468: 2014/01/25(土) 04:10:06 ID:Hwsq7wTU
一夏「せいっ!!」ブンッ!

ガシィィィィ!!

勢いよく振られた雪片が無人機の右肩に食い込む

一夏(よし、ここで零落白夜を―――!)

ガシッッッ!! 

一夏「お?」

ブンッ!

一夏「うわっ!!」

無人機「――――――」

一夏「この、また雪片を奪いやがって……返せっ!」ヒュンッ

469: 2014/01/25(土) 04:10:52 ID:Hwsq7wTU
ビィィィ! ビィィィ!

一夏「うわっ!」

女性型「――――」

一夏「くそ、あの野郎! 邪魔しやがって!」


ミシ…

一夏「!」

無人機「――――」グググ・・・

ミシミシミシ…

一夏(雪片を左腕で握りしめてやがる……まさか!)

一夏「おい! やめろ!」

470: 2014/01/25(土) 04:11:28 ID:Hwsq7wTU
ビィィィ! ビィィィ!

一夏「うわっ!」


ミシミシ……ピシッ……ピシシッ・・・!!!


一夏「やめろーーー!!」

無人機「――――」ググググッ……


ピシッ……バリィィィィン!

一夏「あっ……」

一夏「あっあっ……雪片が、唯一の武器が折られちまった……!」

471: 2014/01/25(土) 04:19:34 ID:Hwsq7wTU

引用: 一夏「インフィニット・ストラトス」