305: 2014/07/30(水) 20:08:37 ID:L2A7OWP6
【出題編:壁に穴あり】

女「所長、この部屋って殺風景ですよね」

男「探偵事務所がきらびやかだったら気持ち悪いだろう?」

女「いや、きらびやかにする必要はありませんけどね、なんか飾りましょうよ」

男「絵とか? 壺とか?」

女「壺って……」

男「花とか?」

女「んー、なんか、探偵っぽいもので」

男「探偵っぽいものなんてあるか?」

女「聖書の中に銃を隠すとか」

男「テレビの見すぎだ」
江戸前エルフ(11) (少年マガジンエッジコミックス)
306: 2014/07/30(水) 20:14:13 ID:L2A7OWP6
女「壁に絵とか、いいかもしれませんね」

男「小さめで地味なやつなら、まあ」

女「なにか探してきましょうか?」

男「……知りあいに美術鑑定士がいるから、そいつに頼んでみようかな」

女「センスのいいやつ、頼みますよ」

男「金がかかるなあ」

女「安物でいいですから、ちょっと飾りましょうよ」

男「絵か……美術館の事件があったな、そういえば」

女「お、ということは、怪盗ですね?」

男「近いような違うような」

307: 2014/07/30(水) 20:39:13 ID:L2A7OWP6
女「どんな事件ですか?」

男「知り合いの刑事が、いてな」

女「はあ」

男「××って国出身の刑事なんだが、その国の名前、知ってるか?」

女「初めて聞きました」

男「まあ、小国だしな」

男「昔一緒に働いていた同僚で、日本語も得意だったんだが、その国に帰ることになったんだよ」

女「はあ」

男「そのタイミングで、研修をしてほしいと頼まれてな」

男「一か月ほどその国に行ってたんだ」

308: 2014/07/30(水) 20:48:00 ID:L2A7OWP6
男「他には日本語をしゃべれるやつがいないから、ほとんどその刑事から通訳してもらってたんだが」

女「実際にその国で起こった事件ですか?」

男「ああ、おれの目の前で起こった事件だ」

女「ほうほう」

男「ある郊外の美術館に、侵入者があったらしい」

男「夜中に不審な車が出てくるのを目撃した警備員が通報し、中を確認したんだ」

女「警報とかは鳴らないんですか?」

男「セキュリティについては、少々甘い美術館だった」

男「まあ、それほど最先端技術は使われていない国だからな」

女「ははあ」

309: 2014/07/30(水) 20:55:27 ID:L2A7OWP6
男「それで警察が中を調べてみると、一つの部屋の壁に『穴』が見つかった」

女「穴?」

男「直径が約10センチ、深さは約60センチ」

女「なるほど、『壁に穴あり』ですね」

男「は?」

女「障子に目はありましたか?」

男「障子なんてものがある国じゃないよ」

女「冗談です」

女「直径ってことは、円形ですか?」

男「ああ、円柱型の穴だ」

男「その穴の付近には水が流れており、壁際を濡らしていた」

女「その穴は美術館の外まで貫いていましたか?」

男「いや、壁の途中までしか開いていない」

310: 2014/07/30(水) 21:09:00 ID:L2A7OWP6
男「さて、侵入者がこの穴を開けたのはなぜだろうか」

女「……」

女「その穴は、部屋の内側に開いていたんですよね?」

男「ああ」

女「侵入の為の穴ではない、ということですよね?」

男「そうだ」

男「別の経路から侵入したのち、この部屋に入り、穴を開けている」

女「美術品をその中に隠すため?」

男「違う」

311: 2014/07/30(水) 21:21:19 ID:L2A7OWP6
女「あ、爆弾でも仕掛けようと思ったんじゃないですか?」

女「でも時間が足りなくて、穴を開けただけで逃げてしまった」

男「違う」

男「爆弾を仕掛けるなら柱の近くにするだろうが、この穴は壁の真ん中あたりにあった」

女「ううむ」

女「その部屋の美術品に、盗まれているものは?」

男「なかった。美術館の唯一の被害が、この穴だったんだ」

312: 2014/07/30(水) 21:31:46 ID:L2A7OWP6
女「その『水』ってのは重要ですか?」

男「うーん、重要ではないかな」

女「穴から出てきた水ですか?」

男「いや、違う」

女「穴を開けたのはドリルかなにかの機械ですか?」

男「そうだ」

女「あ、じゃあ、ドリルの刃を冷やす冷却水かなにかですか?」

男「そう、その通り」

男「トイレからホースで水を引いてきて、その水がこぼれていたんだ」

女「じゃあ結構大がかりですね?」

男「犯人は複数犯だった」

女「証拠品は残ってない?」

男「ああ、きれいに片づけて帰っている」

313: 2014/07/30(水) 21:38:32 ID:L2A7OWP6
女「えーと、犯人たちの目的は達成されていないんですか?」

男「いや、達成されているんだ」

女「でも、穴は途中までしか開いてないんですよね?」

男「ああ」

女「穴の外側の方の壁に異常は?」

男「特になかった」

女「壁自体、厚さはどれくらいですか?」

男「1メートルといったところかな」

女「そのうち60センチくらい掘って、目的は達成された?」

男「ああ」

314: 2014/07/30(水) 21:48:40 ID:L2A7OWP6
女「その穴を開けること自体が目的だったんですか?」

男「……少し違う」

女「その場所であることが重要?」

男「この建物、という意味なら正解だ」

男「この壁でなくても良かった。例えば隣の壁でも」

女「侵入でもない、脱出でもない」

男「ああ」

女「あ、がれきはどこに?」

男「犯人が持ち去っている」

女「ひとかけらも残さず?」

男「ああ、現場にはコンクリート片はほとんど残されていない」

315: 2014/07/30(水) 21:58:46 ID:L2A7OWP6
女「あの、ドリルって詳しくないんですけど、大きな音が出ますよね」

女「飛び散ったがれきと機械を片付けて出るのも、急がないと大変ですよね」

女「やっぱり作業中に中断して逃げてったって印象を受けるんですけど……」

男「一つ、この作業には、君が想像するような大きな音は出ていない」

女「え?」

男「二つ、機械はともかく、がれきを片付けるのにそれほど時間は取られない」

女「え?」

316: 2014/07/30(水) 22:08:38 ID:L2A7OWP6
男「コンクリートを粉々にするタイプのドリルだと、大きな音がする」

男「がれきの撤去も大変だ」

女「はあ」

男「しかし、ここで使われたタイプのドリルはそうではない」

男「つまり、粉々にするのではなく、そのまま取り出せるタイプの物だった」

女「はい?」

男「つまり、円柱形のコンクリートが作れるんだ」

女「……それを抱えて逃げればいいだけ、と」

男「ああ」

317: 2014/07/30(水) 22:14:01 ID:L2A7OWP6
女「え? でも貫通してなかったんですよね?」

女「奥でつながっているのでは?」

男「くさびを入れて叩けば、案外簡単にぽきっと折れるそうだ」

女「はあ」

男「このタイプの物は、音も小さめだそうだ」

女「はあ、じゃあ、一気にさっきの疑問は解決ですね」

男「ああ」

女「作業途中で逃げだしたのではなく、目的を果たして逃げた、と」

男「そう言っているじゃないか」

女「いえ、ちょっと納得できた、ということです」

318: 2014/07/30(水) 22:21:10 ID:L2A7OWP6
女「穴を開けるのが目的ではない」

女「ということは、このコンクリートの円柱を持ち出すことが重要だった?」

男「そうだ」

女「そのコンクリートの中に、高価な宝石でも埋まっていたのですか?」

男「いや、違う」

女「ただのコンクリート?」

男「ああ」

女「そのコンクリートに価値がある?」

男「む」

319: 2014/07/30(水) 22:26:44 ID:L2A7OWP6
男「価値とはなんだ?」

女「えっと、金銭的な価値」

男「それはない」

女「芸術的な価値?」

男「それもない」

女「でもなんらかの価値はあるわけですか?」

男「わざわざ侵入して持ち帰っているくらいだからな」

男「犯人たちにとって必要だったんだ」

320: 2014/07/30(水) 22:31:33 ID:L2A7OWP6
女「そのコンクリートを持って帰ることで、誰かが金を得る?」

男「いいや」

女「誰かが出世する?」

男「いいや」

女「それ自体を欲しがっている人がいる?」

男「それも難しい質問だな」

男「コンクリート自体ではなく、このコンクリートの中の情報が重要なんだ」

女「情報……ですか……」

男「それを欲しがっているやつがいたんだ」

321: 2014/07/30(水) 22:37:19 ID:L2A7OWP6
女「もしかしてその美術館というのは、最近できたものですか?」

男「ちょっと違う」

女「少し前までは、違う施設だったのを、作り変えた?」

男「そう、正解だ」

女「それは国の施設だった?」

男「ああ、どんどん近づいているな」

女「ある事実を隠そうとして、大急ぎで美術館に作り変えたものだった?」

男「ああ、そうだ」

322: 2014/07/30(水) 22:44:27 ID:L2A7OWP6
女「犯人は隣国のスパイ? あるいは国家転覆を企むものですね?」

男「そう、おそらく後者が正解だろう」

女「犯人を知らないのですか?」

男「すぐにその国にいられなくなったからな」

女「どうして?」

男「クーデターが起こったからさ」

女「……同じ事件が日本でも起こったら、大問題になりますね」

男「ああ、この国で起こったとしたら、確かにそうだろうな」

323: 2014/07/30(水) 22:52:45 ID:L2A7OWP6
さてさて、コンクリートを持ち去った理由はなんでしょか
また明日です ノシ

324: 2014/07/30(水) 23:14:51 ID:8rnD1.7.
むむむ
難しいぞ

325: 2014/07/30(水) 23:50:30 ID:MvZ1c4Cw
おつ!
耐震性とか違法建築的な捜査かと思ったけど…
なんかもっと規模でかい話のようですね

326: 2014/07/31(木) 01:35:47 ID:dbxl5sUo
国が極秘裏に行っていた人体実験、もしくはそれに類する虐殺とか?血液や毒物などの反応によって確証を得るため?
話がでかくなりすぎかな…

330: 2014/07/31(木) 20:35:20 ID:U0zRCLbo
【解答編:壁に穴あり】

女「その美術館は、もともと軍の施設だったんですね」

女「それも、極秘の核実験施設」

男「ああ」

女「それをどこからか嗅ぎ付けたグループが、核保有の証拠を掴もうとして侵入した」

男「そうだ、あんな小国がこっそり核開発をしていたと知られたら、問題になる」

女「だから隠そうとして、美術館にしてしまった」

331: 2014/07/31(木) 20:40:55 ID:U0zRCLbo
女「でも作り変えても意味はなく、犯人グループは美術館に侵入」

女「そして、証拠としてコンクリートの塊を持ち去った」

女「放射線の反応は、コンクリートに残りますもんね」

男「ああ、それを持ち去って調べれば、証拠が出ると考えたんだろう」

女「事実、その証拠が出たんですね」

男「ああ、それでクーデターが起こった」

女「怪盗かと思えば、とんでもない国家的事件じゃないですか」

男「ああ、その場に居合わせたのは運がいいのか悪いのか」

女「悪いに決まってますよ」

332: 2014/07/31(木) 20:51:48 ID:U0zRCLbo
男「やっぱり、核兵器など持たない国がいいな」

女「そうですね」

男「こんな話を知っているか?」

女「なんですか?」

男「宇宙人が地球にやってきてこう言うんだ」

男「この星は兵器を多く持ちすぎている」

男「それを使って宇宙を侵略しようと企んでいるんだろう」

男「危険なので、その前に滅ぼすことにした、と」

女「はあ」

333: 2014/07/31(木) 20:59:57 ID:U0zRCLbo
男「地球人は答える」

男「この兵器は国同士争い、牽制しあうために持っているのであって、宇宙侵略なんて考えていません」

男「宇宙人は一言、そんな話が信じられるか」

男「そして滅ぼされる地球、でしたとさ」

女「ブラックな話ですねえ」

男「客観的に見れば、確かにそうかもな、と」

女「明らかに量が多いですもんね」

334: 2014/07/31(木) 21:07:53 ID:U0zRCLbo
男「さて、平和な絵でも飾ることにしようか」

女「例えばどんな絵ですか?」

男「白鳥、あるいはハトが羽ばたいている」

女「ありがちですね」

男「地球に羽が生えている、とか」

女「学生の課題レベルですよ、それ」

男「夕日が沈む海辺……」

女「あ、それはロマンチックでいいかもですね」

男「じゃ、それで」

女「都合よくそんな絵が見つかるんですか?」

男「また今度来た時をお楽しみに」

335: 2014/07/31(木) 21:12:03 ID:U0zRCLbo
みなさんさすがです
眉唾ですが、コンクリートは1000年経っても放射線を発し続けるとか言いますもんね

ではまた ノシ

引用: 女「今日はどんな事件があったの?」