262: 2011/03/16(水) 01:23:28.35 ID:VXah+f6t0
今日の投下量すごいですね。
新刊効果?

新刊関係ないけど7レスもらいます。
木原と一方通行が仲良く一等賞を目指すお話
とある魔術の禁書目録 32巻 (デジタル版ガンガンコミックス)
263: 2011/03/16(水) 01:24:14.56 ID:VXah+f6t0
「返す? 何を」
「あの子供だ。お前が直接開発した反射能力の」
「返すってのは、ウチがまた引き取るってことですか」

上司の言葉に、木原は眉をひそめる。
確かに、覚えがあった。かなり前のことだ。
小学校にあがったばかり、といったようなまだあどけない少年の脳をいじくった。
結果かなりの高能力者になったが、すぐ他の機関に目を付けられて持って行かれた。
その後はたまに噂を聞く程度。
特力研、虚数研、etc……
よくもまあと感心するほど、悪質な施設ばかりたらい回しにされたらしい。

「で、そいつがどうして戻ってくるんすか」

面倒臭い、どうでもいいと顔に書いてある。
上司と正面から顔を合わせていても、礼をわきまえるだとか媚びるだとかいうことに関心がないのがこの男の特徴であった。
そんな態度に、上司は多少渋い顔をする。
しかし、文句は言わない。
この若き研究者・木原数多は、木原一族の一員であり、それなりの権力があり、何より多くの功績を持つ天才なのだ。

「……たらい回しの結果だよ。あの子供は確かにとんでもない能力者だが、とんでもなさすぎた」
「手に負えないって? ははっ! なっさけないねえ。ガキにビビって何が学園都市の裏の顔だか」
「ただのガキじゃない。この間の事件、聞いたか」
「たった一人で突っ立ったまんま武装した警備隊壊滅させたってやつ?」
「あれが決定打になったらしい。もうどこも引き取りたくないそうだ」
「だから親元に返しますってか。勝手に持ってっといて好き放題言ってくれるぜ」

木原は、芯を引っ込めたボールペンの先で鼻の上辺りをぽりぽりと掻いた。
一挙一動が不真面目さを引き立てている。

「手放すのは惜しかったのか?」
「そりゃね。下手すりゃレベル5の逸材でしょ」
「実はまだ測定できてないそうだ。本人が嫌がってな。その我がままが通ってしまうというのがすでに恐ろしいが」
「で? その測定不能のガキが何だって?」
「……喜べ。その逸材をお前に任せる」
「はあ!? 今更興味ねえよ」

だらしなく腰かけていた木原は、ガタリと音を立てて立ち上がった。
今日になって初めて木原を動揺させてやった。
それで上司は少し満足げになり、彼の元から離れて行く。

「親元に返しますってことだ」

そう言って、ドアを開ける中年の研究員。
やなこった、と言い返す前に、ドアは閉まった。
木原は一人取り残されていた。

椅子を蹴りあげる。
派手に飛んだ。


264: 2011/03/16(水) 01:24:55.81 ID:VXah+f6t0


真っ白な少年が黙って目の前に立っている。
異様な光景だ。
まず、子供のくせに白すぎる。
そして、子供のくせに黙りすぎる。
無表情なのにどこか不満げで、挑戦的で、寂しげだった。
十歳の子供にこんな表情を作らせるとは学園都市も相当病んでいるものだと、思いやりの乏しい木原にまでそんな感慨を覚えさせるような子供だ。

前に見た時はもっと黒かったし、多少は可愛げがあった気がする。
あれは何年前だったか。

「俺を覚えてるか?」

木原が声を掛けると、地面を見つめていた少年は顔を上げ、じろりと彼の顔を眺めた。

「……キハラ」

髪と肌は真っ白なのに、瞳の色だけは真っ赤。
気味の悪いガキだ、と木原は思った。実際口に出して言ったが、少年は気に留めた様子も無かった。

昔は髪も瞳も真っ黒で、少しは日に焼けた子供だった。
なぜ今はこんなに白いのかと言うと、他でもない木原が『開発』によって与えた能力で、無意識の内に紫外線を反射してしまうかららしい。

物だろうが音だろうが匂いだろうが核弾頭だろうが、向きのあるものなら全て跳ね返す能力。
軍隊を相手にしても平気な顔をしているだろうと言われるレベル5達と、本当に肩を並べてもおかしくない。

手中にできれば、面白い。
しかし手懐けられるか?

できる。
と、木原は判断した。

この子供は現在、自分は他人に拒絶されていると思っている。
事実、多くの人間が彼を拒絶している。手元に置きたくない、もういらない。
大勢で取り囲んで銃器で攻撃までされたくらいだ。

たった今が、ギリギリのライン。
人間不信になりかけの、絶望の底へ落ちかけの、最後の崖っぷちでフラフラ揺れているところ。

そこへ唯一、手を差し伸べる大人が現れたらどうなるか。
「わたしだけは信じていいんだよ」と言ってくれる人がいたら、どうするか。

その手にすがりついて、一生放せなくなるだろう。

そうなればもう言いなりだ。
人格丸ごと操ったも同然。レベル5の手綱を引ける。


(ガキ騙すなんざ簡単なもんだ)


木原は笑い、手を伸ばした。
誰からも、触れる事さえ拒まれてきた小さな少年の方へ。

265: 2011/03/16(水) 01:25:25.44 ID:VXah+f6t0


木原数多は非常に優秀だ。
頭がいい。器用である。格闘技のセンスも相当なものだ。
大抵の事は簡単にこなしてきたからこそ、知らなかった事がある。

自分には苦手な分野がある、という事実だ。


「氏ーねバァーカ。クソ木原」


それは、教育。

一方通行、十三歳。
木原に絶対服従になるはずだった少年は、たった三年で頃したくなるほど立派なクソガキに育っていた。
言われた事にはほぼ全部反抗する。
ちっとも年上を(というか木原を)敬わない。
よし、頃しちゃおうかな、と思った事は何度もあった。

「おい一方通行。今日会って始めに言う言葉がそれか……」

木原は少年の本名を知らない。能力名である「一方通行」を呼称としている。
名前は興味が無いから聞かなかったし、少年も名乗ろうとはしなかった。

「オマエ、また課題増やしたろ。宿題増えるとゲームできねェんですけど」
「当たり前だろ。この間のテストボロックソだったじゃねえかこのクソガキ。なんだ10℃の水と5℃の水合わせたら15℃って」

そしてこの子育てにおける木原の最大の誤算は、

「どォせ俺はバカですよォ」

一方通行は夢のレベル5どころか街を歩けばたまに見かけるレベル4ですらなく、ただのレベル3だったという事だった。

核弾頭を跳ね返すのは確かにすごい。
だが、彼に出来るのはそれだけだった。

真っすぐ飛んできたものを、そのまま同じ方向へ返す。
しかも、意識して相当集中しないと反射できない。
無意識で反射出来るのは紫外線が限度だ。

つまり、後ろから不意打ちで引っぱたかれたら、それだけで割とあっさり氏ぬのだ。
レベル5と肩を並べるような化け物ではない。
バカ正直に真正面から攻撃すれば返り討ちにされるが、放っておけば何の害もなかったのである。

266: 2011/03/16(水) 01:25:56.16 ID:VXah+f6t0

「ったく……何でこんなバカの世話焼かなきゃなんねえんだ」

一方通行はバカであった。
一応レベル3相当の頭脳があるはずなのに、勉強をしないので丸きり成績が上がらない。
やればできる子なのかもしれないが、これは確実にやらないで一生を終えるタイプだ。

本人より木原の方が気合を入れて勉強を見てやっているほどだ。
何せ努力すればレベルが上がるかも知れない。やれることは何でもやるのが木原家の流儀である。

しかし上がらない。何回言っても同じ事を間違える。
まさかと思うような勘違いをしている。
そして、出来ないのは教える側のせいだと思っている。

本当に、よし、頃しちゃおうかな、と何度思ったか分からない。

やろうと思えばやれた。子供の命を奪う事に抵抗を持つような人格者ではない。
いらないなら捨ててしまった方が、無駄な時間と出費も抑えられて得である。
それでも実行に移さなかったのは、わずかな可能性を捨て切れなかったせいか。

生意気でバカで何の取り柄もないレベル3。
それがいつか、レベル5の化け物になってくれるかもしれないという、ほとんど夢物語に近い可能性。

267: 2011/03/16(水) 01:26:29.98 ID:VXah+f6t0


「――暗闇の五月計画ゥ?」

いかにも興味のなさげな顔つきで、一方通行は聞き返した。
手に持ったゲームのコントローラーは放さない。
カチカチやりながらついでに木原の話を聞いている感じだ。

この態度、非常に腹が立つ。しかし思い返せば、自分も似たような事を他人にしまくって来た事に気が付く。
だから今度から反省するという思考回路は持ち合わせていないが。

「そうだ。学園都市にたった六人しかいない超能力者のさらに頂点、学園都市第一位である垣根帝督の演算パターンを脳みそにブチ込んで、無理やりレベルを上げようってプロジェクトだ」
「フーン。お、あぶね」

話を聞きながら、一方通行は器用にカメのモンスターの攻撃を避けている。

「そいつを受けろ、一方通行」
「ヤでェーす」

即答・速攻・大否定。

むかついたので、木原は殴ることにした。
不意打ちなら普通に通るのだ。

「いってェなクソ原! ブチ頃すぞ!!」
「テメェにできるわきゃねえだろ、レベル3の雑魚が」

派手にやられてゴロゴロ転がった一方通行が悪態を吐くが、木原に敵わないことはよく分かっていた。
ブツブツ言いながら座り直す。
テレビの中では主人公がキノコに殺されていた。

「何をやってもどん底底辺のお前が、何とか上に行けるとしたらもうそれしかねえ」
「でもォ、俺バカなンでェ、レベル5とかの天才サンの演算パターンとか埋め込まれても使いこなせませェン」
「んなこた分かってんだよ。最後の賭けだ。これでダメなら終わりだな」

木原の言葉を聞いて、一方通行は暗い顔になった。

追い出される。
レベルが低いから。

最後に自分を一瞥して去っていく木原の背中を見つめて、一方通行は考えていた。


(次の測定、レベル上げるか……)


268: 2011/03/16(水) 01:26:58.17 ID:VXah+f6t0


実を言うと、一方通行に出来るのは反射だけではない。
彼の能力の本領はベクトル操作。
あらゆる力の向きをあらゆる方向へねじ曲げる。
そして、その対象は例え未知の物であっても例外にはならない。
初見の力を即座に解析し、そのベクトルを掌握する。
無意識に反射できるものも紫外線に限らない。一度セットしてしまえば何でも有効である。

はっきり言って、相当すごい。

と、彼は自覚している。
実際本気になって測定した事がないのでどの階級になるのか分からないが、「下手すりゃレベル5」は間違っていないだろうと思っている。

しかし、彼は順位に興味がなかった。
興味がないというより、あえて下にいようと考えていた。

レベル5。超能力者。軍隊をも超越する化け物。
そんなものの一員になれば、周りの人間がどう接してくるか大体想像がつく。

腫れものに触るような。
恐ろしい物を見るような。
気持ち悪いモノを相手にしているような。

小学生のころに嫌というほど味わった気持ちを、もう一度経験したいとは思わなかった。
自分には今、気味悪がらずに接してくれる人がいる。
しかしレベル5になってしまえば、その人にとってただのモルモットになってしまう。

人としての居場所がなくなるのは恐ろしかった。


かといって、バカなままでいても追い出されるのは時間の問題である。
そのさじ加減が非常に面倒だった。

テストで毎回珍回答をして成績を下げるのは簡単だし、ちょっと面白いとさえ思っている。
だが、毎回のレベル測定で不自然にならない程度に測定器を騙すのは神経をすり減らす作業だ。
失敗するといきなりレベル1判定ということにもなりかねない。

(いきなりレベル4になるのは早すぎるか……)


269: 2011/03/16(水) 01:27:42.91 ID:VXah+f6t0


コントローラーを手に取り、ゲームを再開する。
ノーミスでクリアするのは周りに人がいない時限定だ。


(学園都市第一位、垣根帝督……ねェ)


最強の座には興味がない。
ただ、どんな人物なのだろうとは思う。

やはり人から恐れられ、妬まれ、お門違いな感情をぶつけられながら、人格をねじ曲げられて生きているのだろうか。

もしかしたら一方通行が背負っていたかもしれない悲惨な立場。

同情はしない。
そういう育てられ方をしていないから。


(まァ、ご愁傷様、くれェは思っておこォか)


三つ目のステージクリア。ここまでミス無し。

ゲームに飽きた一方通行は、コントローラーをその辺に投げ出して床に寝そべった。


(暗闇の五月計画か。そンな奴の思考パターンなンかもらいたくねェなァ……)


(……レベル4一歩手前くれェの成績出したら、許してもらえっかなァ)


考えていたら眠くなったので、


一方通行は寝た。

338: 2011/03/17(木) 02:35:53.34 ID:iw5KxnVX0


「木原さん」

誰だっけ。

同じ研究室の、多分新人かそこらの研究員が後ろから走って来た。
コスト削減で電灯が少なく、薄暗い廊下。妙に足音が響くので耳障りだ。

「あーっ? 走るんじゃねえよ。うるせえから」
「す、すみません」

新人は小走りをやめたが、木原はゆっくり歩き出した後輩を止まって待つでもなく、ずかずか歩き続ける。

仕方ないので、新人はすり足の早歩きで木原の隣まで追いついた。

「あの、一方通行の件ですが」
「めんどくせ。消えろ」
「え、あの……」

339: 2011/03/17(木) 02:36:56.20 ID:iw5KxnVX0

ここで、はい分かりましたと素直に消えない程度には、我の強い人間だったらしい。
新人研究員は多少申し訳なさそうにしながらも木原の横を歩き続ける。

「彼を暗闇の五月計画に渡すというのは本当ですか? 『未元物質』の演算パターンじゃ、『一方通行』には応用利かないと思うんですけど」

学園都市第一位の超能力者、垣根帝督の演算パターンを他の能力者に植えつけて能力の向上を図るプロジェクト。
それはつまり、他の能力者に垣根なりの『コツ』を分け与えるということになる。
畑違いの能力者に施しても、あまり意味がないだろうというのが彼の意見だ。
将棋の棋士にマジックのテクニックを教えてやるようなもので、多少は視野が広がるかもしれないが、その程度なら詰将棋でもしていた方が有意義である。

「相性が悪すぎます。それに、人格にも影響が出るって聞きましたよ。まあ、あれ以上悪くなることはなさそうですけど……でも、」
「あーあーあーもーうるっせえなあー」

歩きながらうんざりした声を吐き出す木原。声は廊下の向こう側まで届き、響き渡りながら耳に戻って来る。

「その件はなあ、あいつが次の測定でいい線行ってたら取り下げてやるからいいんだよ。あいつにはこれが最後のチャンスだと言ってある。次の測定でも暗闇の五月計画の後でもダメだったら追い出すぞってな」
「嫌ならがんばれって事ですか……根性論ですか? 木原さんらしくないです」
「ばぁーか。根性でレベルが上がるか、ばぁーか」

何故二回言った。
新人はむっとしたが、すぐにまた喋り出す。

「じゃあ、どういうつもりなんです?」
「俺のカンじゃ、あいつは次の測定でレベル4の一歩手前くらいの成績出してくるはずだ」
「無茶ですよ。この間測った時は『オマケで3』ってくらいの数値だったそうじゃないですか。頑張ったってレベル3の真ん中あたりでしょう」
「何をどう頑張るってんだバカ。さっきも言ったろ。根性でレベルは上がらねえよ」
「根性じゃないならどうやって上げてくるっていうんです? 測定日までに猛特訓っていうなら結局根性ですよね」
「はーっ、ここまで言って分からないかねえ」

木原は、改めて隣の若い男を眺めた。

本当に誰だっけ、こいつ。

「俺が相手するバカは一人で充分だ。本当にそろそろ消えろ」
「……」

新人はまだ何か言いたそうだったが、これ以上得るものはないと判断したらしい。
軽い会釈と挨拶の言葉を残して、薄暗い廊下を引き返して行った。

340: 2011/03/17(木) 02:37:23.54 ID:iw5KxnVX0


一人になった木原は考える。

先程言ったとおりただのカンだが、次回一方通行はレベルを上げてくると踏んでいる。
前々からそういったフシは見受けられたが、どうやら彼はわざと自分の評価を下げているらしいのだ。
つまり、その演技をやめればレベルは上がるという事。

(わざわざバカの振りをするとは、嫌味だねえ……)

何故彼がそんな事をするのかは、大体想像が付いている。
悪目立ちすると碌なことがないということを十歳の時すでに学んでいるからだろう。

それでも、それを押してもレベルアップしなければならない事情が、今度の彼にはあるはずだ。
木原はそう確信している。


最初に測定した時、一方通行はレベル2だった。
そして、木原が「こんな役立たずはさっさと余所へ処分するか」とぽろっと口にした直後の測定で、彼はレベル3に上がった。


生意気に反抗して見せているが、結局のところ、少年は木原に見捨てられることを何より恐れている。
どん底に落ちるぎりぎりの所で彼を引き上げたのは、手を差しのべたのは、木原数多ただ一人なのだから。
その手を放されたら戻って来られない。
他の誰に拾われようと、木原に捨てられたら生きては行けない。

三年掛けて木原が刷り込み、一方通行自身が信じ込んだ、強迫観念だった。


(あのガキが本当にレベル5の才能を秘めた化け物なら……面白いことになる)

レベル5の価値は、学園都市にとって絶大である。
そして、その精神を掌握しているとなれば、彼自身の力も一気に跳ね上がる。

(本性引きずり出してやるよ。何が何でもな)



次の測定で一方通行は律義に上げて来た。
予想通り、レベル4のギリギリ手前。


341: 2011/03/17(木) 02:38:02.74 ID:iw5KxnVX0


「木原くン木原くゥン、たらこスパゲティの海苔が偏ってオマエの顔の刺青みたいになってるンですけどォ」
「お前はバカだね~~~~、一方通行クン。食い物で遊んでる暇があったら勉強するか氏ね」
「すっげェ、このパスタ木原そっくり」
「氏ね」


ぎりぎりレベル4寄りのレベル3になってから二年。
少年は十五歳になっていた。相変わらず色は白い。

あれ以来、一方通行の成績は上がっていない。
同じように脅しつければ上がっただろうが、この二年は木原の方にその余裕がなかった。

何度考え直してもどういう理屈で決まったのか分からないが、暗部の小組織のリーダーに仕立て上げられてしまったのだ。
科学者を暗殺集団の指導者に据えて一体何の意味があるのか。
学園都市の発想はつくづくぶっ飛んでいる。
おかげでグレーゾーンで踏ん張って来た両足を、学園都市の暗部にどっぷり浸からせる羽目になった。


そして本日は、その真っ黒な世界に秘蔵っ子を巻き込もうという魂胆である。
自室のテーブルに置かれた一皿のスパゲティをフォークでつつく(顔に例えるなら丁度鼻の穴あたりを執拗に狙っている)一方通行の傍へ、木原は近寄った。

「おいクソガキ。お前バカだし暇だろ。ちょっと働け」
「バカは全然関係ねェだろ。面倒くせェからパス」
「説明するぞ。この間下っ端が大勢氏んじまって、新規クズの補充まで一週間かかる。その間にくだらねえ用事が来ちまった」
「俺はやンねェって……」
「絶対能力進化計画って知ってるか。知らねえよな、バカだから」
「いちいち再確認させンじゃねェよ。どォせバカですよ」
「そんな当たり前の事はどうでもいい。絶対能力進化計画ってのはつまり、能力者を前人未到のレベル6に引き上げる計画だ」
「……ハァ」

一方通行はあきらめたのか、フォークを置いて話を聞く姿勢に入る。

342: 2011/03/17(木) 02:39:20.28 ID:iw5KxnVX0

「レベル6だと? どォせ第一位様が頑張ってンだろ。レベル3の俺に何しろってンだ」
「後片付けだ」
「何の」
「氏体」

少年は押し黙った。
それでこそクズのお仕事だ。
もしいくら氏んでもいいような人間の氏体なら。

「……随分物騒な実験じゃねェか。最初から誰か氏ぬのが分かってンのか」
「頃すのが工程の一部だからな」
「そりゃヒドイ」
「今日の分は一体でいいはずだから、楽だぞ。お前はラッキーだ」
「今日の分? 一体でイイ? 何日掛けて何体出す気なンだよ、氏体」
「期間は知らね。出る氏体は全部で十万体」
「じゅゥまン!?」

流石に驚いて椅子を鳴らす。
口を開けて見上げてくる一方通行へ、木原は事務的な調子で説明を続ける。

「十万通りの戦闘環境で能力者を十万回殺害すると、経験値が溜まってピ口リ口リン♪ って事なんだとよ」
「十万人も黙って殺されてくれンのかよ。第一位のレベルアップのために? カルトの教祖様か」
「いいや、クローン人間だよ。感情なんかない。第二位の超電磁砲の遺伝子マップを使って、能力者を量産したんだ。もとはレベル5の大群を生み出す目的で作ったらしいが、せいぜいレベル2か3どまりの能力者しか製造できなかったんで頓挫したとか」
「十万人も無駄に作ったってのか?」
「量産計画で余った奴はみんな氏んだよ。垣根が実験に承諾してから追加製造中だ。第一位様がどんどん頃してくれるんで、製造のほうがおっつかなくてヒーヒー言ってるらしい」
「……引くわァ」
「全くだ。天才の考えることは分からないねえ。で、天才でも何でもないクズの出番だ。今日の予定は第一七学区の操車場で一体殺害。その氏体を回収して処分するのがお前の役目だ」
「ヤでェーす」
「行け」

一方通行は首根っこを掴まれ、外へ蹴り出された。


343: 2011/03/17(木) 02:39:58.09 ID:iw5KxnVX0



勝てなくはない、と思った。
一番最初に第一位に出会った、悪夢のようなあの日。

特に何の感慨もなさそうに、まるで目覚まし時計でも止めるかのように当たり前の調子で、自分と同じ顔の少女の頭を叩き潰した男。

垣根帝督。

学園都市最強の超能力者。


次点である第二位の御坂美琴は、その最強の座に君臨する男を見据えて立っていた。

第一位の向こうには力なく横たわる少女。
倒れる少女もまた、御坂のクローンだ。
肩が少し揺れている。
か細い息遣い。
今日殺される予定の少女がまだ生きている事を確認し、彼女はほんの少し安堵する。

まだ、助けられる。

私が勝てれば。


344: 2011/03/17(木) 02:40:44.10 ID:iw5KxnVX0


「それで? このクローンの命を救うため、俺に勝負を挑みたいというわけか――第二位」

「そういう事」

垣根は鼻で笑った。


以前、第一位と第二位の間には実力的に大きな差があると言われた事がある。

学園都市にたった六人しかいないレベル5の頂点と、その次。
他の能力者たちからすればどちらも雲の上の存在だが、頂上同士の間にも優劣は確かに存在するのだ。

しかし、届かない相手ではない。
手も足も出ないなんて事はない。
絶望的過ぎる差ではない。

出会ったその日に見た第一位の力の片鱗を思い出し、御坂美琴は小さく頷く。


「悪いけど、本気で行くから」

そう、本気なら。全力なら、どうにかなるかも。
ではなく、どうにかしなければ、勝たなければならない。
これ以上妹達を殺されてたまるか。

止めるのだ。
この実験を。


ポケットの中のコインを握り締める。
ゲームセンターから勝手にかっぱらって来た薄い金属。


「食らいなさいッ! ――――超電磁砲ッ!!!」


その華奢な手から弾かれた何の変哲も無いメダルゲームのコインは、音速を飛び越えて宙を走る。

鋭い光が辺りを照らし、一歩遅れて爆音が響く。

直撃。
ビル一つ倒壊させる程の威力を持つ超音速の弾丸が、垣根帝督の胸元へ向かって撃ち抜かれた。


345: 2011/03/17(木) 02:41:15.03 ID:iw5KxnVX0


ほんの数秒、御坂美琴は動きを止めていた。
辺りには砂煙が立ち込めていて、垣根がどうなったかはまだ分からない。

このくらいで氏ぬ相手ではない。
それは確信を持って言える事だった。

そもそも、今のは彼女の全力ではない。すぐそばに妹がいたのだ。
それを巻き込まないで、人間一人戦闘不能にする程度。

『未元物質』がどんな能力であるにせよ、これで第一位が倒れるとは思わなかった。

御坂は油断無く煙の中を見据える。
反撃が来てもすぐ対応できるように。


次の瞬間。


「――!?」

白く輝く「何か」が、真っ直ぐ直線を描いて彼女の肩を貫いていた。

「痛ぅっ……!」

思わず膝から崩れ落ちる。


「成程、まあまあやるんじゃねえか?」

曇った景色の向こう側から、余裕を感じさせる声が響いてきた。
続いて、垣根帝督が進み出る。スモークを演出にでも使っているかのように、悠然と。

「だが常識的過ぎる。科学でどうとでも説明がついてしまう。それじゃあ俺には適わない」
「あ、んた……一体……?」

第一位の背中からは、大きな白い翼が生えていた。
その翼で繭のように体を包み、彼は超電磁砲の衝撃から自分を守っていたのだ。

翼が広がり、整った顔が現れる。


「一つだけ教えてやる。俺の『未元物質』に、常識は通用しねえ」



その様子を見て。

(引くわァ)

と、一方通行は思っていた。

638: 2011/03/22(火) 01:54:23.83 ID:MTL8MVTE0

氏体があるから片づけて来いと言われて行ってみれば、
氏んでいるはずのクローンは生きているし、
学園都市最強とその次が頃し合いをしているし、
最強の人からは羽が生えているし、
常識は通じないらしい。


どうとも身動きが取れず、一方通行は頂点二人の闘いを物影に隠れて見守っていた。

正直なところ、氏体が無かったのは少し嬉しかった。

氏人を見るのは初めてではない。不可抗力とはいえ、彼自身が人を頃してしまった事もあるくらいだ。
しかし木原に引き取られてからは、そういった悲劇に直面する機会が無かった。

普通の学生よりは免疫があるし、それなりの覚悟はしていたが、実際に氏んだ少女を目の前にしたら後味の悪い思いをしただろう。

とはいえ、恐らくこのまま放っておけばあのクローンは氏ぬ。
そして彼は放っておくつもりである。
氏ぬ瞬間を見るくらいなら氏んだ後対面した方がましだったかもしれない。

複雑な気分だった。


639: 2011/03/22(火) 01:54:58.45 ID:MTL8MVTE0

覗き見している一方通行の前で、二人の闘いは激しさを増していた。

学園都市第二位の超能力者である御坂美琴は、暗部に関わらないいわゆる『表の世界』でも有名人で、その能力『超電磁砲』の特徴も知れ渡っていた。

電流を操る能力、『電撃使い』の最高位。
電撃使いというものを今まで見た事が無かった一方通行は、それまで何となくお気に入りのゲームに出てくる『イナヅマズドーン』という敵の頭上に雷を落とす魔法を思い浮かべていたのだが、彼女に出来るのはそれだけでは無かった。
流石レベル5と言うべきか、超電磁砲は電磁場やローレンツ力等も操り、電撃の槍を出したり、電磁派を生み出して攻撃したりと、多種多様の技を見せていた。

よくそンなに色々できンな、と驚くほどに。

それはつまり、それだけ色々手の内を晒しても相手を倒すには至らないという事。


対する垣根帝督は、向けられる攻撃の全てを軽々と防いでいた。
ある時は背中から生やした妙にメルヘンな羽を使い、ある時は不自然に相手の攻撃の軌道を曲げて。
おちょくっているのか彼なりの気遣いなのか、最初に肩に当てた一撃以来、垣根の方からは御坂に攻撃は仕掛けていなかった。

何もされていないのに、一人どんどん消耗していく。
第二位の表情に焦りといら立ちが見て取れた。


640: 2011/03/22(火) 01:55:56.58 ID:MTL8MVTE0


(窒素を操る能力者がいるってのを聞いたことがあるが、それに近いのかもしれねェ)

一方通行は、怪物二人のぶつかり合いを見ながら、垣根の正体不明の能力を観察し、知らず知らず分析していた。

(何か決まった物質があって、それを自在に操作してるワケだ……見た事ねェけどな、あンな白くてメルヘンな物質は)
(ただ、そこにある物を操るンじゃなくて、無から有を生み出すってのがぶっ飛んでやがる。流石はレベル5ってとこか)


異物。
それが、彼が『未元物質』に対して持ったイメージだった。

たった一滴で、カップの中の真っ黒なコーヒーを間抜けな茶色に変えてしまうミルクのような。

その異物が、レベル5の闘いの世界に一方通行の知らない物理法則を生み出している。

御坂は電気を操る能力者だ。その応用性は多岐に渡る。
だが、それはすべて科学の世界の枠組みの中で広がるものでしかない。

物理の常識に則って演算式を組み立てる御坂美琴を、垣根帝督というイレギュラーは完全に翻弄していた。


これが、『未元物質』。
これが、学園都市第一位・垣根帝督の実力。



――――  こ  れ  が  ?



肩すかしを食った気分になった。

641: 2011/03/22(火) 01:57:30.39 ID:MTL8MVTE0

一方通行が二人の戦闘を眺めていたのは十分かそこらだったが、それだけで粗方の解析は済んでしまった。

知らない物理法則がそこにあるなら、今まで知っていたものが間違っていたというだけの事である。
もう一度、垣根が生み出す得体の知れない『何か』が世界に存在するものとして自分の中の物理法則を構築し直せばいい。
恐らくあの物質を反射する事は可能だろう。
垣根の『未元物質』があの変な物質を操る以外に能が無いなら、対処法は普通の銃器と変わらない。
突っ立っていれば終わりである。

これが、学園都市を代表するレベル5の、さらに一番頂上にいる能力者だというのか。

確かに一方通行は、自分が本気を出せばレベル5になってもおかしくないだろうとは思っているが、それでもレベル5は六人もいるのだから、自分より上が三人くらいはいるはずだと考えていた。

しかし実際に頂上二人の闘いを見学してみれば、第二位はおろか第一位ですらこの体たらくである。
常識に沿って正々堂々と向かってくる相手にルール無視の反則技でぶっちぎるというやり方が、そもそもチャチな気がしてならない。ルール違反はお互い様のような気もするが、それはそれで置いておくとして。


喧嘩の勝敗で順位が決まるわけではないという事はよく分かってる。
だが、それを抜きにして考えてもこの第一位には。


どうも負ける気がしない。

642: 2011/03/22(火) 01:59:00.66 ID:MTL8MVTE0


と、半ば馬鹿にするような事を考えていたその時だった。
守り続けるのに飽きたのか、垣根の方から御坂へ軽い攻撃が仕掛けられた。

白い翼の先が分解され、分かれた羽根が彼女の方へと襲いかかる。

「――ッ!!」

御坂はこれを間一髪のところで避けた。
避けられた羽根はそのまま直進し、障害物にぶつかる。

一方通行が姿を隠すコンテナへ。

(しまった……ッ!)


コンテナが爆発する。
起爆するような荷物など入っていないはずの鉄の箱が、弾けるように八方へ引きちぎれて飛んだ。

一方通行は、咄嗟にその破片と衝撃波を反射した。

彼は、自分の能力に「来たものを来た方向へそのまま返す」用途にのみ使用するという縛りを掛けている。
コンテナから彼へ飛んだ破片は、そのまま真後ろへ軌道を変え――

「!?」

――背を向ける御坂の真横を通り過ぎ、垣根の顔面めがけて突進した。

「……誰だ」

簡単に首を振って避けた垣根は、破片の飛んできた方向へ、つまり弾け飛んだコンテナの方へ目を向ける。

643: 2011/03/22(火) 02:01:25.22 ID:MTL8MVTE0

そこには、肌も髪も真っ白な、異様な出で立ちの少年が立っていた。
もちろん知り合いでは無い。こんな白い人間に心当たりも無い。
突然の第三者の介入に、垣根は驚くと言うよりも面倒そうな顔をした。

「やれやれ……実験に関わってしまった一般人は口封じに消しましょうなんて事になるのか?」
「なっ……」

垣根の言葉を聞き、御坂が声を上げた。

「やめてよ! 関係ない人まで頃す事ないでしょ! そこのあんた、ぼーっとしてないで逃げなさい!」
「ま、わざわざ俺がやらなくても誰か下っ端が殺るだろうよ。って事で目の前で一般人殺戮ショーが展開される事は無いから安心しろ」

垣根はほとんど関心の無い様子で、頭をぽりぽりと掻いている。
鉄の破片が彼の方へ飛んだという事は、彼は突然現れた一般人から攻撃されたと認識しているはずだが、それすらどうでもいいらしい。

「おい、白髪。俺は今忙しいから一般人の相手をする気はねえ。巻き込まれて氏にたくなかったら消えろ」
「いやァ、俺は一応無関係の人間じゃねェンだよ」

一方通行は観念して進み出た
御坂が警戒心を顕にして彼を睨みつける。

「何ですって? 実験の関係者?」
「大層なモンじゃねェ。バイトだよ。俺はこの実験で出る氏体の回収係」

殺気立って見詰めてくる御坂を宥めるように手を振り、一方通行は続ける。

「隠れてたコンテナがブチ壊れた時に破片が来たンで弾き飛ばしはしたが、もともと邪魔をする気はねェよ。どっちが勝つンでもイイから、さっさと続けて終わらせろ」
「バイトだと? ……お前を雇ってる奴ってのはどこの誰だ」
「知らねェよ。実験の主導者だろ? オマエの方がよく知ってンじゃねェのか」
「そんなはずはねえな」
「……何?」

言いながら、垣根は白い翼の先端を一方通行へ向けた。
不穏な動きに白い少年は警戒するように眉をひそめる。

「この実験の氏体回収と現場の隠蔽係は決まってんだ。いちいちバイトなんか雇わねえ。まだ氏んでないクローン達がやるんだよ」
「……成る程ねェ、経済的だ」

聞きながら、一方通行は考えていた。

(木原の野郎、ハメやがったか。だが一体何のために……)

「今もそこら辺で待機してるはずだ。何せ大勢いるからなあ、人手に困るなんて事もありえねえ。つまり」

バサッ!! と音を立てて、翼が大きく広がる。

「その氏体を欲しがってる野郎ってのは、実験とは関わりのない外部の人間だ」

攻撃開始。
翼から離れた無数の白い羽根が、一方通行の方へと突進する。

644: 2011/03/22(火) 02:02:34.39 ID:MTL8MVTE0

「やめてッ――!!」

御坂が叫んだ。
何かしらの手を使って彼を助けようとしたようだが、未元物質を止めるには至らなかった。

バイト男は、ただ何をするでも無くその場に突っ立っている。
こんな真正面からの単純な攻撃にも対処できない程の素人なのだろうと垣根は思った。

だが次の瞬間、彼は自分の体を翼で守っていた。

バイトの方へ向けて撃った羽根が、真っすぐ自分の方へ返って来たからだ。

彼は未元物質を自在に操るが、彼自身も未元物質に貫かれれば氏んでしまう。
咄嗟に自分の前に翼の壁を作ると、そこへドドドッ! と無数の羽根が突き刺さった。

彼本体に傷は無いものの、精神的には多少なりとも衝撃を受けていた。
未元物質が跳ね返される等という事は今まで一度も無かったのだから。

翼を広げ、バイトの方を見る。
少年は、相変わらずそこに立っていた。
その白い肌には傷ひとつ無い。

「おいおい、そこは氏んでおかなきゃいけねえ所だろう」
「空気が読めなくてすンませンねェ、第一位サン」

薄笑いを浮かべてはいたが、垣根の脳内は十数メートル先に立つ人物の正体を探ろうと目まぐるしく動いていた。
そして、ある事件を思い出す。

「……お前、もしかして五年前に警備隊を壊滅させた反射能力者か」

645: 2011/03/22(火) 02:03:54.26 ID:MTL8MVTE0

学園都市第一位の頭脳を誇る垣根は、五年前に見た新聞の記事を覚えていた。
たった十歳の能力者が、完全武装した警備隊に攻撃されながらも生き残ったばかりか、返り討ちにしたという話。
当時はそれなりの規模のニュースになったが、五年の間に次々起こるニュースの波に流され、ほとんど人々の記憶には残っていない。

「確かその後の測定で、レベル2だか3判定されたはずだがな」
「お陰様でレベル3だよ」
「俺からすりゃ底辺って事に変わりはねえよ」
「そりゃどォも」

底辺呼ばわりされて、レベル3の少年は満足げに笑みを浮かべた。

「だが不自然だな」
「何がァ?」

続けて投げられる言葉に、一方通行はうんざりした調子で返答する。
垣根の方は、そして御坂の方も、彼がレベル3と聞いて解せない顔をしていた。

「俺の『未元物質』はこの世界には存在しない物質だ。『まだ見つかっていない』だの『理論上は存在するはず』だのってチャチな話じゃない。本当に、存在しないんだよ」
「……え」

たらり、と、一方通行の額から汗が流れる。

「無い、てのはどォいう意味だ?」
「言葉の通りよ。どんな教科書にだって載ってない。本来ならあってはならないはずの物質」

一方通行の疑問に、御坂が緊張した面持ちで答えた。

「この世界の物理法則に当てはまらない異物。それが俺の『未元物質』だ。それをたかがレベル3の反射能力者が跳ね返せるはずがねえ。跳ね返す物質は既知の物でなければならないはずだからな」
「……跳ね返せるはずが、ない……」

垣根帝督と御坂美琴には分からなかった。
なぜこのタイミングで、このレベル3が滝汗状態になるのかが。


(やっべェェェェ! アレ反射できちゃまずかったのかよォ!? 教科書にも載ってねェ物質って何だ! そンなトンでもねェモン出すンじゃねェよ第一位! クソォ、理科の勉強全然やってねェから知らなかった!!)


一方通行は焦っていた。
少なくともレベル3よりは上である事が、ばれた。

彼はあえてバカでいる事を選んだが、そのバカさが今裏目に出てしまった。

646: 2011/03/22(火) 02:05:04.57 ID:MTL8MVTE0


「……ハッ! おもしれえ。この第一位の『未元物質』どこまで反射し切れるか試してみるか」
「お断りしますゥ。実験はどォしたンだよ」
「そうだな……無駄な戦闘をすると肝心の実験の方に支障をきたすって話だが……」

垣根は再び、翼を広げる。

「ちょとレベル3の雑魚を頃すくらいなら、戦闘の内にも入らねえよ」

先程の十倍。
数え切れないほどの羽根の大群が、超電磁砲を越える速度で一方通行へ襲いかかった。

轟音が御坂のすぐ脇を通り過ぎる。

よろけた彼女が振り返ったその時、まったく同じ攻撃が、真逆の方向へ放たれていた。

反射。
来たものをそのまま同じ方向へ。

学園都市第一位の放ったものであろうと、この世に存在しない物質であろうと、数が十倍に増えようと、その反射能力者はそれを跳ね返して見せた。

第一位は、またしても自分で放った攻撃を自分で防ぐ羽目になる。


御坂は呆然とその様子を見守っていた。
恐らく、翼に隠された第一位の顔も、驚愕に染まっている事だろうと思いながら。


「……くっだらねェ」


ぽつり、と呟く声が聞こえた。


647: 2011/03/22(火) 02:06:50.22 ID:MTL8MVTE0

「あーあァ。終わるまで待っててやるつもりだったがよォ。話が逸れて全然進んでねェじゃねェか。さっさと氏体処分して帰ってゲームしよォと思ってたのによォ」

言いながら、倒れているクローンのもとへ歩いていく白い少年。

「やっぱ待ってンの無理。っつかコイツほとんど氏んでるし、イイんじゃねェの? 俺が処分しとくわ。後は勝手にやってろ」

その細腕のどこにそんな力があるのかと思うほど軽々と瀕氏の少女を抱え上げ、少年は操車場の出口へと歩き出した。

「ちょっと! その子をどこへ連れて行く気!?」

御坂が少年の前へ立ちふさがると、彼は面倒そうな調子で彼女を避け、すれ違いざまに小声で言った。

「……びょォいン」

口調が砕け過ぎていて一瞬分からなかった。
そう、彼は「病院」と言ったのだ。

後を追えなかった。

御坂はその得体の知れない白い生き物の後姿を、黙って見送る事しかできなかった。



「……おもしれえ……」
「!」

垣根は、自分の手を見つめて立っていた。

「跳ね返された。この俺の『未元物質』が。今までこんな事はただの一度も無かったのに。たかがレベル3の雑魚にだ」
「……あんたも大した事ないのかもね」

御坂の挑発を、垣根は完全に無視していた。
というよりも、目の前の事態に頭がいっぱいで、他の事は目に入らないようだ。

「奴を殺せば……クローンなんかをぷちぷち頃していくよりずっと高い経験値が得られるんじゃねえのか!? クローン千人分くらいの経験値が! それこそ実験の目的そのものだ」

第一位の整った顔が凶悪に歪む。
彼は笑っていた。
しかし穏やかさは一切ない、他人に恐怖心と嫌悪感しか与えないような笑み。

「ハッ! よかったな、第二位」
「……何?」

垣根はゆっくりと歩き出し、御坂のもとへ近寄り、そのまま彼女の横を通り過ぎた。

「もし奴を頃す経験値がクローン千人分だったら、クローン千人は俺に殺されずに済むって事だ」
「ッ……!! あんた……!」
「犠牲者が減るかも」

学園都市第一位の男は、ゆったりと散歩を楽しむかのように、操車場を出て行った。


648: 2011/03/22(火) 02:08:26.29 ID:MTL8MVTE0



「……クソッタレ。怪我人の治療くらい黙ってやりやがれ」

病院から出て来た一方通行は不機嫌だった。
夜中に血まみれの少女を抱えた白髪の少年が殴りこんできたら、どんな修羅場をくぐって来た病院のスタッフだろうと何事かと思うだろう。
とにかく少女はすぐに手術室へ運ばれたが、それで少年が解放される事は無かった。
質問攻めにあい、警備員まで呼ばれる始末。
隙をついて逃げて来たが、この風貌では指名手配でもされたらすぐに見つかってしまうだろう。
特に罪に問われるような事はしていないので、指名手配までは心配していなかったが。

どのルートを使って帰ろうかと辺りを見回していると、ふいにポケットの中の携帯電話が震え出した。
発信元を確認せず通話ボタンを押す。

『元気かなーん、一方通行。ぎゃははははっ!!』

予想通り過ぎてため息が出た。

「なァンの用かなァ、木ィ原くゥゥン?」
『おやおやご機嫌ナナメだねぇ。お仕事で問題でもあったかな?』
「別にィ? 誰かサンにハメられて第一位に殺されかけたくれェかなァ? あと帰りに野良猫に睨まれたンで蹴っ飛ばそォとしたら逃げられたくれェかなァ?」
『おいおい。お前バカのくせに何野良猫さんにご迷惑掛けてんだよ何様のつもりだ? 今から戻って謝って来い』
「あ、やっべェマジだ。木原オマエ代わりに行って野良猫サンに土下座しといて」
『特に理由はねぇけどお前今すぐ俺に土下座しろ』
「野良猫サン待たすンじゃねェよォ。行けよ早くゥ」
『このクッソガキ……』

電話越しに木原と軽口を叩き合う内に、どこか日常へ帰って来たような安心感を覚える。
自分で思っていたより緊張していたようだと自覚した。
そこへ、木原から思いもよらぬ事実が伝えられる。

『っつか、そこに第一位とか向かってねえ? まだだったら探してみろって。そろそろ追いつくころだからよぉ』
「はァ?」

そこへ。
背後から伸びた白い光線が一方通行の首を掠めて病院の塀を貫いた。

「よお。ちょっと殺させろ、レベル3」

振りかえると、そこには垣根帝督が立っていた。

「な……?」
『ぎゃははははッ!! 来たみてえだな! モテちゃって妬かせるねえ、一方通行!』
「な、なンであの野郎が俺の後を……」
『一個だけアドバイスしてやるよ、クソガキ』
「……?」


『普通の反射だけじゃ氏ぬぞ』


通話が切れた。

649: 2011/03/22(火) 02:09:32.46 ID:MTL8MVTE0


事態は再び非日常へ。
第一位が、どうやら自分を頃すために追って来た。

頃すために。

「……ってオイオイ。何だ今の? まともに当たってたら氏ンでたぞ」

一方通行が不機嫌に睨みつける。
垣根は平然としていた。

「そりゃそうだろ。頃すつもりで撃ったんだから」
「……は?」

本気で。

今更だが。

今の今まで、一方通行は相手が本気だとは認識していなかった。
何せ、態度があまりにフランクだ。普通すぎる。
第一位にしろ第二位にしろ、人が氏ぬか氏なないかのやり取りをするには表情が「まとも」過ぎたのだ。

だが背後からの攻撃で首筋を狙われて、やっと事態の深刻さを思い知った。
目の前に立っているのは、本気で十万人の人間を頃す事にためらいを持たない殺人鬼なのだ。
急に、全身からどっと汗が流れて来た。


「…………ッッ!!」


気が付くと、一方通行は逃げ出していた。
強大な力を持つ第一位に背を向けて。
叫び出さないのが精一杯。
普段運動しない体に無理を強いて、全速力で病院沿いの夜道を掛け出していた。

その様子を見て、垣根は考える。

(やっぱり、戦闘の経験はほとんど無い素人か……だがそれでも『未元物質』を反射して見せたってのは事実。むしろズブの素人状態で俺に攻撃されて生き延びているってのがとんでもねえんじゃねえか?)

おもしろい。
再びそう呟き、垣根は追跡を開始した。
羽を広げ、地面を蹴る。
『未元物質』の翼は、彼に乗用車を越える速度を与える。

650: 2011/03/22(火) 02:11:26.97 ID:MTL8MVTE0


『一方通行』と『未元物質』。
この二つの能力のどちらがより優れているにせよ、二人の人間にはそれとは無関係に大きな差があった。

精神的な経験値。

垣根はとっくに慣れており、他人の氏にいちいち驚いたり怯えたりしない。
しかし一方通行は、小学生の頃攻撃してきた人間をやむを得ず返り討ちにしてしまった時以来、人の氏に関わった事がなかった。

彼は五年間ぬるま湯につかって来た。
優しい温度に包まれて呑気に生きる事は、努力によって手に入れたレベル3の特権なのだ。
高位能力者の過酷な運命など願い下げだった。


(何だ? 何だよ? 何なンだよ!? 何でわざわざ頃すって方向に頭が行くンだよ!?)
(動けなくすりゃ勝ちとかでいいだろォが! 怪我すンのも嫌だけどよォ!)
(闘って工夫して降参させましたってンじゃ何でダメなンだ!?)
(分っかンねェ!! 分っかンねェ!!!)

彼はレベル3の判定を受けてから、相応の生活をしてきた。
無茶な事には巻き込まれず。
低レベルだとバカにされて道を踏み外すような事も無く。
多少特殊な扱いをされながらも、レベルに見合った平和な人生を送って来た。

学園都市に大きな闇がある事はずっと前に学んでいる。
十歳まではまさにその闇のど真ん中に立ちつくしていたのだし、現在一番近しい人間である木原は暗部のリーダーだ。
一方通行自身に関わりがなくとも、木原の周囲で人がバタバタ氏んでいるのは知っていた。

知識としては。

実感を持った事は無かった。
五年間、保護者の庇護のもとでまともに生きて来たのだ。
どんな才能を秘めていようが、急に都市の裏の顔だの負けたら氏ぬだのという現実を突き付けられてもピンと来ない。
ピンと来る前に、現象だけがじりじりと近寄って来る。

分からないのだ。
今自分がどんな事に巻き込まれているのか。
誰に喧嘩を売られてしまったのか。
そして、それが絶対に返品不可という事も。

何も理解しないままとにかく逃げ出し、転げるように走り回る。
何が何だかわけが分からなかった。



大量殺人犯が、笑いながら追いかけてくる(※白い翼が生えています)。


正直言って、これは怖い。



698: 2011/03/23(水) 04:18:10.05 ID:0XFRUnIL0


五十メートルで力尽きた。

そもそも運動など嫌いなのだ。彼は典型的なもやしっ子である。


飛んで追いかけてくる第一位から走って逃げて来た一方通行は、病院のブロック塀に寄りかかってぜえぜえと息をついた。

十秒もしない内に垣根が追い付いてくる。

「流石にへばるの早過ぎんじゃねえの……追い詰めがいのねえキツネだな。第二位のクローンですら逃げに徹した時はもうちょっと持ったぜ」

狩る側の気楽な態度。
垣根は腰に手を当てて過呼吸気味の一方通行を見物していた。

699: 2011/03/23(水) 04:19:30.01 ID:0XFRUnIL0


「どっちかって言えば……オマエの方が……キツネっぽいだろォ……」

呼吸を整えながら一方通行は必氏に考えを巡らせる。

(理屈で言やァ、俺がこいつに殺される事はねェはずだ。こいつの『未元物質』を反射できるって事は実証済みなンだから)

それでも、足がすくむ。

先程見て来たものがすべてとは限らない。
相手は広い学園都市の中でも最強なのだ。
他にどんな隠し玉を持っていてもおかしくない。

人を頃すための手段は、両手の指で足りないほど持っているに違いない。

そう思うと、途端に恐怖心が襲ってくる。
相手の余裕に満ちた顔がさらにそれを増幅させた。


(ちくしょォ……)



(帰りてェ……)


と、一方通行は思ったが、
とはいえ「帰りたいのですが」と頼んで喜んで帰してくれるほど垣根帝督が親切な人間だとは思わない。

反射できる。
その気になれば勝てる。

一方通行はとにかくそれだけを考えようと努めた。

701: 2011/03/23(水) 04:21:18.28 ID:0XFRUnIL0



垣根帝督は右の掌を上にして、『未元物質』を出現させた。
玉状に固めたそれをひょいとキャッチボールのように一方通行へパスする。
すると、放物線を描いて白い前頭部へ落ちていった未元のボールは、同じ起動を逆に辿って戻って来た。

一歩脇へ寄ってそれを避け、垣根帝督は考える。

(本当にきっちり返してきやがる。しかしこちらから何もしなければ無害、か)

かといって、何もせずに仲良くお別れ、などというつもりは丸きり無い。
頃してこそ意味がある。

(色々試してみればいいか)

翼を使って飛び上がり、標的めがけて『未元物質』の矢を降らせる。
放った瞬間にその場を離れて跳ね返ってくる矢を回避すると、そのまま相手の後ろに回りこんだ。


「チッ……!」

目の前の矢に注意を逸らされていた一方通行は、背後に降り立った垣根が放った白い羽根を、ぎりぎりの所でなんとか反射した。
震える足でよく出来たものだと、第一位は心の内で賞賛してやった。

身構える一方通行を前に、第一位は追撃をするでもなく腕組をして立っていた。
反撃される心配も逃げられる心配も、全くしていない。
暇つぶしのパズルを解いているような軽い調子で語り出す。

「なるほど。知覚できる物しか反射できないのか。不意打ちには弱いのか?」

(……正解だよ、クソッタレ)

レベル3であり続けるため、一方通行がわざわざ自分の能力に掛けている制限。
たった数分のやりとりで、垣根はその穴を的確に分析していた。

「だが意識して全方向へ反射を効かせていれば、どこからの攻撃にも対処できるだろうな。……レベル3にそんな演算が可能なら」
「!」

何の音もしなかった。
気が付くと、一方通行は八方から白い羽根に囲まれていた。

702: 2011/03/23(水) 04:23:55.66 ID:0XFRUnIL0
かぶったww

はじめちゃったのでさいごまで張っていいですか?

704: 2011/03/23(水) 04:25:25.63 ID:0XFRUnIL0


「上、下、右、左、前、後。これからお前をあらゆる方向から切り刻む。いくつ反射できるかな?」


ザザ!! っと、取り囲む『未元物質』が一斉に襲い掛かってきた。

その最初の一枚が肌に触れるか触れないかまでの一瞬で、一方通行は思案する。

レベル3の実力では、これをすべて反射するのは無理だろう。
一度解析はしてしまったものの相手は未知の物質だし、数も速度も方向も無数である。
能力で反射できるのは三割程度、二割くらいは根性で避けるとして、残り五割は食らうしかない。

もしすべて反射し切ってしまったら、流石に強能力者では通らなくなる。
垣根以外に目撃者はいないだろうが、その第一位に実力が知れるのはまずいのだ。
彼はどうやら好敵手を求めているらしい。あくまで狩る目的でだが。そしてそれは、能力が高ければ高いほど歓迎されるようだ。

これくらいの攻撃は彼本来の実力を持ってすれば楽に防げる。
しかしそれをすれば、さらなる面倒事が待っている。

受けるしかない。

五割。




(いや、痛ェのは無理だろ)



一方通行はすべて反射した。

705: 2011/03/23(水) 04:26:41.76 ID:0XFRUnIL0


流石に垣根も目を見張った。
まさかすべて弾き飛ばすとは思っていなかったのだ。
ざっと七割は食らって血まみれになるはずだと。

自分の方へ返された羽根を自分の翼で防ぎ、再び広げてレベル3の方を見る。


逃げていた。


「また五十メートル走か? その身体であまり無理はしない方がいいと思うけどな」
「あァ? ……ッ!!」

走りながら、掛けられた言葉に一方通行は首を傾げる。
その身体で無理をしない方がいい。
まるで病人に向けるような言葉。


と、

ドグンッ ……と。


突然、胸に締め付けられるような激痛を感じて、一方通行はその場に倒れこんだ。


「かっ……は……?」
「ハッ! やっぱ、知覚できる物しか反射できないってのは大きな弱点らしいな」

呼吸もままならない一方通行を愉快げに眺めて、学園都市最強の能力者は笑う。

「『未元物質』はどんな形状にも固められるもんだってのは、今まで見ていて何となくは分かっただろ? 集合させればいくらでも大きく出来るし――逆にどんな小さい状態でも操れる。それこそ、素粒子レベルまでな」

平伏す一方通行に近寄るその足取りは、相変わらず優雅に、余裕に満ちている。

706: 2011/03/23(水) 04:27:28.11 ID:0XFRUnIL0

「お前が羽根の方に気を取られている内に、大量の『小さな未元物質』を体内に潜り込ませた。で、内臓のど真ん中で集合させてしこりに変える、と。これで重病人の完成だ。反射してみるか? どの向きにしろ身体にめり込む事に変わりは無いけどな」

「う、う……」

勝ち誇った様子で種明かしする垣根に、一方通行は何も言い返せなかった。

声が出ない。

痛い。
苦しい。

怖い。


「氏ぬほど苦しい」というのは初めての経験だった。


「……さて、ちょっとは驚かされたが、案外あっけないもんだったな。こりゃクローン千人分はねえか。第二位に悪い事しちまったかな?」

氏。
生き物が動かなくなる事。

これ以上ないくらい恐ろしい事のはずなのに、それを目の前にしようとしている第一位は、驚くほど冷静で、冷徹だった。

(イカれてンのかよ……)

明滅する意識の中で、一方通行は思った。


(もォ帰りてェ……)


707: 2011/03/23(水) 04:28:09.48 ID:0XFRUnIL0


(……帰ったらやっぱ殴られンのかな。あいつ特に意味なく俺の事殴ンだよな)

もちろん殴られたいわけでは無い。
そして、命からがら帰ったからといって、あの男が「おかえりなさい、あーくん」とか言って抱き締めてくれるわけでもない。

(つゥかやられたら俺が殴るわ)

それでも。

帰って、研究室を訪ねて、「よォ」くらいの挨拶をしたら。
「おー」くらいは返してくれるだろう。


(……充分だ)

自分をここまで追い込んだ張本人の元へ、彼は帰る決意をした。
帰る場所はそこしかないのだし、別にそれでもいいと思っている。
五年前まではそんな最低な居場所すら持っていなかったから。

708: 2011/03/23(水) 04:28:55.93 ID:0XFRUnIL0


体内の『未元物質』のベクトルを掌握する。
固体の形にまで集合している『未元物質』を体組織に害のないレベルまで強制的に分解。
各個の『未元物質』にばらばらのベクトルを与えて体外へ排出。


レベル3どころかレベル4ですら難しいほどの、超緻密なベクトル操作。

「な、何……だ……?」

自分の能力の制御を乗っ取られて、垣根の表情に初めて、じとりと焦りのような物がにじみ出た。


「テメェ、一体何した!?」
「ゲホ、はっ……反射ァ」
「嘘をつくな!!」

(俺の『未元物質』を操った!? レベル3の反射能力者にそんな真似が出来るわけねえだろ)
(やっぱり何か隠してやがった……こいつの能力はただの反射だけじゃない! 強制的に向かう方向を変えられた。向きの変換……ベクトル操作?)

じり、と、垣根は不気味なレベル3から一歩離れる。

(だとしたら、反撃しかできねえってのは大ボラだ)

垣根が見つめる前で、白い少年は、地面に這いつくばったまま路面に右手を叩き付けた。

(こいつは、能動的に攻撃ができる――?)


地割れが起きた。

地面が、白い右手の当たった部分から裂け出したのだ。
裂け目は轟音と共に垣根へ向かってまっすぐ突き進んでくる。


垣根が横へ飛んでやり過ごすと、地割れはブロック塀まで突進し、外壁を倒壊させた。
四方へ派手に飛び散る破片。
夜の町にガラガラと大きな音を立てて、「突進」は終わった。

ただ手をついただけ。
それでこの圧倒的な破壊力。

知らず知らず、垣根は笑っていた。
それは、それまでのような余裕の笑みではなかった。


「ッ……テメェ、おもしれえよ。こりゃ本格的に殺」

ごん。


衝撃で上へ飛ばされたブロック塀の特大の破片が、学園都市第一位の後頭部にまともにぶち当たった。
白目をむいて崩れ落ちる垣根帝督。


「……ケッ」

口の中で血の味が広がっていた。
意識が朦朧とする。

一方通行は最後に一言呟くと、


「楽勝だ、超能力者」


気を失った。

709: 2011/03/23(水) 04:29:42.32 ID:0XFRUnIL0



木原数多は爆笑していた。

「ぎゃはははははっ!! マジかよ本当に勝ちやがんの!」


一部始終を撮影していた部下からの報告を聞いて、彼は大笑いしていた。
いつまでも笑い転げている上司にうんざりしているのを気取られないよう、『猟犬部隊』の隊員はこっそりと嘆息する。

「あ~あ、面白かった。で、あのガキはそのまま入院だって?」
「はい。腕のいい医者がいまして、普通なら全治二ヶ月のところ一週間だそうです。……あの、木原さん。もしかして一方通行が勝つと分かっていたんですか?」
「いやぁ、全然。十中八九氏ぬだろうと思ってたよ。残り一、二割でうまい事逃げ延びられたらもう少し様子見てやろうと思ってたんだがよ、まさか勝っちまうとはねえ……。ま、あれじゃ大勝利とは言えねえけどな。痛み分けって感じか」
「頃す気だったんですか? 五年一緒だった子供を」
「ば~か。五年も面倒見てやったのにちっとも成長しねえようなガキをいつまでも置いとけるか。氏ぬか強くなるかだろ。チャンスをやったんだよ」
「…………」

部下は、分からない、という顔をしていた。
木原としても彼に理解してもらいたいとは思っていない。
報告を終えて下がっていく下っ端にひらひらと手を振り、彼は一人で考える。


十中八九氏ぬだろうと思っていたというのは、本心ではない。
木原の予想はむしろ逆で、十中八九生き延びるだろうと思っていた。
第一位と対決して勝つかどうかは別として。

(あのガキ、やっぱり測定器騙してやがった。反射しか出来ませんだと? ナメた真似しやがって)

思っていたとおり、一方通行はレベル5相当の能力を隠し持っていた。
それどころか、学園都市第一位ですら凌駕する実力の持ち主であった。
つまらないトラウマに駆られてバカを演じているに過ぎなかったのだ。

しかし、それももう終わり。
彼は自らの能力を示してしまった。

猟犬部隊のカメラの前で、その本領を発揮してしまったのだ。


(言い逃れはできねえぞ、自称レベル3のクソガキ君)


(次の測定が楽しみだねえ……)

710: 2011/03/23(水) 04:30:43.40 ID:0XFRUnIL0



一方通行が退院してすぐに、能力の再測定が決行された。
今回は特別仕様。
あの学園都市最強の超能力者、垣根帝督を破った謎のレベル3の再測定に、多くの研究者達が興味津々で集まっていた。
測定器の精度も最高級だ。


「……つまりアレはこォいう事かよ。木ィ原くン?」

氏体回収のバイトの意味を理解し、赤い瞳で睨みつける一方通行。
普通の人間なら射すくめられて固まるか震えるかしてもおかしくない迫力だが、木原は全く動じない。

「もう後戻りはできねえぞ。お前は第一位に勝っちまったんだからな」
「…………」

ため息をひとつ。
測定器の前に立ち、一方通行は目を閉じた。

大人たちが遠巻きに彼を囲んで見守っている。
カメラも数台。

十歳までの記憶が蘇る。
遊んでくれるでもなく、ただ観察ために黙ってこちらを見つめる幾つもの目。


顔を上げる。


「――分かったよ」


「特別に見せてやる。これが、俺の実力だ」


711: 2011/03/23(水) 04:31:28.78 ID:0XFRUnIL0



「し、信じられない」
「こんな事があり得るのか……」
「木原、貴様……」

測定終了。

彼が叩きだした数値に、研究員たちは愕然とする。
ある者は言葉を失い、ある者はため息をついた。
皆、一方通行と木原を交互に見つめている。

学園都市第一位の垣根すら圧倒した、日蔭の能力者の底力。


耐久力  :10 kg・m/s2
対応入射数:3方向/1sec
反射誤差 :0.5°/1m

総合評価 :2



青筋とともに刺青が浮き上がった。

木原は切れた。

「ゴルァァァァアアアアアアア!!!! なぁぁに手抜きしてんだクソガキィィィ!!!!」

「いやァ? 俺バカなんでェ、こンくらいが限界だわ」


レベル3からめでたくレベル2にシフトした一方通行は、ニヤニヤ笑いながらそう言った。


712: 2011/03/23(水) 04:32:15.82 ID:0XFRUnIL0



帰所した途端、まず一発本気で顔をぶん殴られた。
そしてその後に、本気でぶん殴られた。
その次もまた、本気でぶん殴られた。

測定から木原の研究室へ帰って来た一方通行を待っていたのは、そんな感じの出来事だった。


おわり

713: 2011/03/23(水) 04:33:50.30 ID:0XFRUnIL0

以上です。

未元物質の解釈は、多分間違ってると思います
お話の都合上、とっても便利になってもらいました
垣根△

あと測定値ですが、完全に適当です
物理とか数学とかだめなんですよ
適当にネットで調べてコピっただけです
もっとイイ感じの項目・単位があると思うんですが…

そんなわけで、全然第一位つくれてないですけど
そこまで続けると流石に長すぎてこのスレには向かないので、ここで終わりにします
タイトル詐欺すまない

長々と失礼しましたー


というわけで>>700さん、上嬢通行よろしくお願いします

引用: ▽ 【禁書目録】「とあるシリーズSS総合スレ」-25冊目-【超電磁砲】