1: 2012/07/25(水) 04:04:47.98 ID:4uW9Ft3k0
P「おはようみんな、今日も一日頑張ろう!」

春香「おはようございますプロデューサーさん!」

やよい「おはようございます! 張り切っていきましょー!」


プロデューサーさんが朝の挨拶をすると途端に事務所の空気が変わった。

華やかに色づいた少女達が彼の周りに吸い寄せられる。

公私混同はしないはずだ。

プロデューサーさんはそういうところはしっかりしていて、信用しているはずなのに、どうしようもなく胸が苦しくなった。


P「おはようございます、音無さん」

小鳥「おはようございます」

ひとしきり揉まれた後プロデューサーさんが爽やかに挨拶をしてくれた。


ちゃんと上手に笑えたかな?

お化粧崩れてないかな?

若いアイドルに叶うはずもないのに、私はむなしく自答した。
学園アイドルマスター GOLD RUSH 特装版 4 (4) (少年チャンピオン・コミックス)
7: 2012/07/25(水) 04:13:01.50 ID:4uW9Ft3k0
P「はい、そうですね。今企画しているのは健康的なイメージを使った……」


プロデューサーさんは精力的に仕事をこなしている。

袖をまくって意外とたくましい腕に目が行ってしまった。

帳簿は予定の半分も進んでいない。


ボールペンを握りなおして細かい数字と戦い始めようとするけれど、彼の声が邪魔をしてきた。


真美「兄ちゃーん! まだなのー!?」

P「あー、悪い。すぐ行くから!」

真美ちゃんが我慢しきれずに騒ぎ出した。

以前なら「プロデューサーさんも大変ですね」と、笑えたのに、今はなんだか焦りみたいなものを感じている。


ドンドンと大人っぽく綺麗になって行く真美ちゃんと、少しずつ枯れていく私。

バカみたいに一人で考えていると落ち込んでしまった。

どうしてこうなっちゃったのかな?

分かりきった質問を自分に投げかけた。 嫉妬してるだなんて思いたくなかったから。

8: 2012/07/25(水) 04:20:19.41 ID:4uW9Ft3k0
春香「プロデューサーさん」

領収書の処理に没頭していたはずだが、その単語聞いた瞬間に耳がダンボみたいになった。

ピクピクと動かしながら会話を拾う。


P「ん? どうした?」

春香「プロデューサーさんって、彼女さんとかいるんですか?」

さらに耳が大きくなった。イメージはパラボラアンテナだ。


P「いやぁ……、今はいないなぁ」

私が使うと「今もいないんですよ」としか聞こえないその言葉を、プロデューサーさんは文字通りの意味で使った。

春香「ふーん……。どんな人だったんですか? 今はってことは前はいたんですよね?」

P「え”」

春香「教えてくださいよー」

教えてくださいよー。

11: 2012/07/25(水) 04:24:10.01 ID:4uW9Ft3k0
P「妙に食いつくな……。いいけど」

春香「それでそれで?」

P「んと、一個上の先輩だよ。高校の」

春香「年上ですか……」

がっかりした春香ちゃんと希望の光を見つけた私。

プロデューサーさんは年上が好き!?

はしたなく色めきたった。


P「別に年上好きってワケじゃないんだけどね」

現象が逆転した。がっかりした私と希望の光を見つけた春香ちゃん。

春香「ほ、ほかには?」

P「そうだなぁ……、なんか変わった人で目はいいのにメガネかけてて、あとシモネタがすごかった」

春香「……そ、そうなんですか」

P「美人だったからな。その分ギャップがひどくて……」



その日の帰りに私はメガネを買った。

13: 2012/07/25(水) 04:28:26.32 ID:4uW9Ft3k0
P「おふぁよう……ございます」

私用で半休のプロデューサーさんが大きな欠伸をしながら入ってきた。

小鳥「おはようございます。うふふ……、もうお昼ですよ?」

P「いや、朝が早かったもん……で」

気がついてくれたのかしら。

緊張して頬が熱くなった。


P「小鳥さんって、メガネしてましたっけ?」

小鳥「え、えーと……」

どうしよう。伊達メガネだと正直に言ったほうがいいのかな。

でもなんだかあざとい気もするし……。


小鳥「ぶ、ぶ、ぶ……」

P「ぶ?」

小鳥「ブッカケ用です!」

コレで本当によかったのだろうか。私は下を向きながら思った。

15: 2012/07/25(水) 04:33:36.34 ID:4uW9Ft3k0
プロデューサーさんは何も言わなかった。

小鳥「な、なーんちゃって……」

最後に残った図太さを使ってリカバリーを試みた。


P「……似てる」

小鳥「え?」

P「い、今のもう一回お願いします!」

小鳥「え? え?」

P「お願いします!」

プロデューサーさんが直角に折れ曲がった。

18: 2012/07/25(水) 04:37:18.02 ID:4uW9Ft3k0
小鳥「こ、このメガネは……ブッカケ用なんですよ」

ちょっとアレンジしてみた。

P「…………いい」

小鳥「正気ですか?」

素になって突っ込んでしまった。

P「あの、小鳥さん」

小鳥「は、はい」

P「その……、実は俺、あけすけと言うか、オープンな人がけっこうタイプで……」

私は机に頭を3回ぶつけてみた。

ゴン ガン ドゴン

しっかりと痛んで夢じゃないことが分かった。

P「きょ、今日一緒に帰りませんか? 雰囲気のいいお店知ってるんですよ」

小鳥「は、はい!」


成功……なのだろうか。疑問符が頭の周りに飛び交っていた。

24: 2012/07/25(水) 04:56:11.02 ID:4uW9Ft3k0
P「いや……すいませんでした」

プロデューサーさんが心なしか小さくなって頭を下げる。

奮発してタクシーで来たお店の前には

【本日休業】

と、しっかりした作りのプレートがぶら下がっていたのだ。


小鳥「あはは……、しょうがないですよ」

残念なのはプロデューサーさん以上の私は、顔に出さず慰めた。 グスン。

P「どうしましょうか……」

小鳥「どうしましょうねぇ……」


河岸を変えればいいのだけど、今日に相応しいお店がパッと出てこない。

いつもの居酒屋さんは絶対に嫌だった。

25: 2012/07/25(水) 05:01:51.87 ID:4uW9Ft3k0
P「……あの、良かったらなんですけど」

小鳥「はい?」

P「俺の家で飲みませんか? ぜ、絶対に変なことしませんし!」

心はいつでもウェルカムだったけど、体はそういうわけにも行かずにちょっと詰まりながら返事をした。

小鳥「は、は、は、はい」

ちょっとじゃなかった。

26: 2012/07/25(水) 05:02:23.08 ID:4uW9Ft3k0
二人でディスカウントショップへ行く。

お昼の仕出し弁当が余ったので二人ともお腹は空いていなかったのだ。

並んでお酒を選ぶ姿は周りの人からどう見えるのだろうか?

防犯用に高く取り付けられた鏡を見ると、少々歪に曲がった私たちが見える。


うん……、大丈夫。のはず。

P「小鳥さん、ワインでいいですか?」

ワインはけっこうなお値段で、無理してるのが丸分かりだった。ちょっと嬉しい。

小鳥「そう……ですね」

プロデューサーさんの気持ちを無駄にしたくなくて、カゴにワインを丁寧に入れる姿を見守った。

どうせ味なんか分からないだろうけど、形から入るのも大事なんですよ?

29: 2012/07/25(水) 05:08:08.46 ID:4uW9Ft3k0
プロデューサーさんのお部屋は思ってたよりも綺麗だった。

伊達に一人暮らしはしていないと言うことなんだろうか?


P「散らかってて申し訳ないんですけど……」

小鳥「全然綺麗ですよ?」

私の部屋より綺麗だった。


持ち手の細いフルートグラスに真っ赤なワインが満たされていく。

いい香りが早くも部屋に漂ってうっとりとした。

P「乾杯」

小鳥「……乾杯」

チーンと澄んだ音がした。

一口含んで舌の上で転がすと、ブドウの甘みとしっかりしたボディが余韻を引き締めてくれる。

小鳥「美味しい……」

P「美味しいですね、これ」

いつの間にか流れ出したクラシックを枕に無言で飲み交わした。

32: 2012/07/25(水) 05:11:31.10 ID:4uW9Ft3k0
――――――――――――――――――

小鳥「zzzzzz」

P「あ、あの……」

小鳥さんは可愛らしく……その、いびきをかいていた。

真っ赤な顔で幸せそうに涎までたらしている。

残ったワインを流し込みながら、さてどうすんべえ、と思った。


起こしたくはない。

かといってこのまま寝かせておくわけにも行かない。

と、なれば残った手段は一つしかなかった。


P「よいしょっと……」

起きてたらたぶん怒られるような掛け声を一つかけて、小鳥さんを持ち上げる。

羽毛のように軽い……なんてことはなく、普通に重かった。

たぶん寝てるからだろう。

34: 2012/07/25(水) 05:16:53.07 ID:4uW9Ft3k0
ベッドに優しく寝かせると、小鳥さんの口からむにゃむにゃと寝言が漏れた。

なんとも無防備な人だと、つい笑ってしまう。

だけどここまで無警戒だと、男として見られていないんじゃないかと自信がなくなりそうだ。


P「いやいや、そんな訳ない……」

酔った頭を振りながら思い出す。

昨日春香に付き合っていた人のことを聞かれて、口からデマカセを言ったことだ。

どう考えても無理がある話なのに、小鳥さんは俺に合わせてくれてきたのだ。

多少はうぬぼれてもいいんじゃないだろうか?


空っぽのボトルを見ながら思った。

37: 2012/07/25(水) 05:21:10.48 ID:4uW9Ft3k0
クシュ……。

紙を丸めたような音に振り返る。

小鳥さんの鼻がクシュクシュと鳴っていた。

ちょっと寒かったかな。


客用の布団を押入れから引っ張り出すと思ったよりも湿っていた。管理方法が間違っていたようだ。

仕方ないので俺が普段使ってる布団を肩までかけてあげた。


規則正しい寝息と乱れた髪、うっすらと開いた唇は誘っているようで……。

P「…………はっ!」

じっと見てしまった。

危ない危ない。

46: 2012/07/25(水) 05:36:20.83 ID:4uW9Ft3k0
P「………………」

普段はめったに聞かないドビュッシーを止めた。
途端に部屋が静かになる。

なんとはなしに足音を忍ばせて、ベッドの横に座った。


小鳥「すー……、すー……」

薄い布団が胸の形に膨らんで上下していた。

アルコールで染まった頬はやたら色っぽくて、ついつい目が行ってしまう。

でも、それ以上に小鳥さんの寝顔を見ていると心が安らいだ。

短くそろえられた髪も、いつも優しい目元も、小ぶりな耳も、整った形の唇も
見ているだけで幸せになってくる。

邪な気持ちはなかった。誓ってもいい。

小鳥「ん……熱い……」

急な寝言にドキッとしたが、その後の行動にはもっとドキドキした。

布団を跳ね除けて、胸元を開いたのだ。

目線が外せない。

邪な気持ちはない。誓うことはちょっと難しいけれど。

52: 2012/07/25(水) 05:53:40.93 ID:4uW9Ft3k0
爆発寸前にまで膨れ上がった心臓が、小鳥さんを起こしてしまうんじゃないかと思うほど、大きく拍を打つ。

小鳥「すー……すー……」

額に浮かんだ汗をぬぐうとびっしょりだった。


目も大分慣れてきた。

それがいいのか悪いのかよく分からないけど、今度は失敗しないようにしっかりと目標を見定める。

下ちt……、南半球だ。

そう、あれは母なる地球の南半球なんだ。

暗示をかけて冷静さを取り戻す。

赤道には突起のような山があるけど、それは考えてはいけない。

色々と噴火する可能性があるからだ。


NASAの技術者はいつもこんな気持ちなんだろうかなんて、聞かれたらマシンガンをぶち込まれそうな疑問をもった。

慎重に手を伸ばす。慌てると変なところに不時着してしまうのだ。

ゆっくりと、ほんとうにゆっくりと布団をつまみあげると、大変なことに気がついた。


黒、なんですね。

53: 2012/07/25(水) 05:58:20.62 ID:4uW9Ft3k0
レースと黒が、脳内を占める。

さっきのくすり的な感触がフィードバックされて途端にエマージェンシーコールが鳴り響いた。

管制「危険です! このままでは脳内物質が限界地を越えます!」

偉い人「バカな! ついさっきまで安全値だったではないか!」

管制「ダメです! 閾値を越えます! 勃起まであと六秒をきります!」

偉い人「これが人類の限界なのか……! 神よ!」


黒い悪魔は一瞬で俺をダメダメにした。

鼻息は荒く、目の前がチカチカする。

情動は暴力的で性的だ。

興奮で震える手をゆっくりと伸ばして……

小鳥「プロデューサーさん……」

完全に停止した。


目算で3センチといったところだ。

54: 2012/07/25(水) 06:00:55.29 ID:4uW9Ft3k0
邪気が抜かれた俺は、何事もなかったかのように布団を肩にまで引っ張った。

ヘタレだろうと童Oだろうと好きに呼べばいい。

こんな形は誰も望んでいないのだから。


顔を洗おうと静かに立ち上がると

小鳥「むにゅ……」

意味のない寝言に釘付けにされた。


そのまま10分ほど待ったけど、ついぞ俺の名前が漏れることはなかった。

57: 2012/07/25(水) 06:05:07.47 ID:4uW9Ft3k0
――――――――――――――――――

私はプロデューサーさんが部屋を出たことを薄目で確認するとゆっくり溜息をついた。

小鳥「あと、ちょっとだったんだけどな……」

怖かったし、不安でもあったけど、それでも胸はドキドキしっぱなしで決して嫌ではなかった。


小鳥「意気地なしなんだから……」

お互い様なのに一方的に悪態をつく。

でも、プロデューサーさんはやっぱり優しくて

小鳥「そういうところが、きっと好きなんだろうなぁ……」

本音が自然とはみ出してしまった。


恥ずかしくなって布団に顔をうずめるとプロデューサーさんの匂いがした。

明日起きたら、どうやって話をすればいいんだろう?

答えが出ないままにプロデューサーさんが戻ってくるのを待っていた。

小鳥「待ってますからね……?」


おしまい

引用: 小鳥「プロデューサーさんがモテすぎて生きるのが辛い」