132: 2016/05/03(火) 20:57:07.82 ID:D694VJP/0
【河嶋桃の場合】
──河嶋先輩って、ボコみたいですよね。
「えっ? 西住さんに……そんなこと言われたの?」
「ああ、確か、選抜戦前の廃校舎だったかな。雑務を手伝ってもらっているときにな」
大学選抜との戦いと、その後の慌ただしい復学手続きでうやむやになっていたのを、今になって思い出したのだ。試しにと意見を聞いてみたところ、柚子はにわかに顔を曇らせている。
「……桃ちゃん、ボコってどんなのか知ってる?」
「包帯を巻いたクマのぬいぐるみだろう? 西住が好きな。詳しくは知らんが」
「……動画を見た方が早いかな」
柚子が押してよこしたノートパソコンのモニタを見た私は。
「な……なんだこれは……!」
ひたすらに、ボコられる。ようやくのことで立ち上がっても、またボコられる。何の逆転も救いもなく、そこでアニメ終了。
「こんなキャラクターに、私は例えられたのか……?」
「どう考えても、良い意味じゃないと思う……西住さんってめったに悪意を外に出したりする人じゃないのに……ってことはよっぽど桃ちゃんのことが嫌いで」
「や、やめてくれ! それ以上言うな!」
怖くなってくるじゃないか!
「いやー深読みしすぎだって」
会長席から齧っていた干しイモを離した角谷会長の声が掛かった。
そ、そうですよね! そんなことはないですよね!
「単に言葉通りの意味っしょ」
「言葉通り?」
「要するに、かーしまをボコしたい。それでも起き上がってくるようなら繰り返しボコしたい。そういうことっしょ」
「なっ!?」
──河嶋先輩って、ボコみたいですよね。
「えっ? 西住さんに……そんなこと言われたの?」
「ああ、確か、選抜戦前の廃校舎だったかな。雑務を手伝ってもらっているときにな」
大学選抜との戦いと、その後の慌ただしい復学手続きでうやむやになっていたのを、今になって思い出したのだ。試しにと意見を聞いてみたところ、柚子はにわかに顔を曇らせている。
「……桃ちゃん、ボコってどんなのか知ってる?」
「包帯を巻いたクマのぬいぐるみだろう? 西住が好きな。詳しくは知らんが」
「……動画を見た方が早いかな」
柚子が押してよこしたノートパソコンのモニタを見た私は。
「な……なんだこれは……!」
ひたすらに、ボコられる。ようやくのことで立ち上がっても、またボコられる。何の逆転も救いもなく、そこでアニメ終了。
「こんなキャラクターに、私は例えられたのか……?」
「どう考えても、良い意味じゃないと思う……西住さんってめったに悪意を外に出したりする人じゃないのに……ってことはよっぽど桃ちゃんのことが嫌いで」
「や、やめてくれ! それ以上言うな!」
怖くなってくるじゃないか!
「いやー深読みしすぎだって」
会長席から齧っていた干しイモを離した角谷会長の声が掛かった。
そ、そうですよね! そんなことはないですよね!
「単に言葉通りの意味っしょ」
「言葉通り?」
「要するに、かーしまをボコしたい。それでも起き上がってくるようなら繰り返しボコしたい。そういうことっしょ」
「なっ!?」
133: 2016/05/03(火) 20:58:52.27 ID:D694VJP/0
そ、それじゃあつまり、西住は……
私を“生きたボコ”として監禁して繰り返し容赦ない暴行を働き、ストレス解消のためにひたすら弄ぼうというつもりなのか!?
「そこまでは、言ってないけど……」
考えが口に出てしまっていたのか、柚子が苦笑する。
「し、しかしいくらなんでもそこまで憎まれるいわれはないぞ! 理不尽だっ!」
「そーかなー?」
「無理矢理脅迫して戦車道やらせたり」
「あ、あれは我々みんなで」
「自分で作戦立てといて姑息な作戦だとかケチつけたり」
「どんな近距離でも砲撃外すしね~」
「うぐ」
「すぐ威張るし」
「成績悪いし」
「水着はやたら攻め過ぎだし」
「そ、そんなぁぁ……」
そんなにたくさん憎まれる心当たりがあったなんて、今まで気づかなかった……!
「助けて柚子ちゃぁぁん! 西住に、あいつに生きたボコにされるぅぅ……!」
泣きわめく私の頭を柚子ちゃんが撫でてくれた。
「あはは……ごめんね桃ちゃん、言い過ぎちゃった」
「そんなに気になるなら、西住ちゃんに直接聞いてみればいいんじゃん?」
会長も、そんな貴重なアドバイスをくれたのだった。
私を“生きたボコ”として監禁して繰り返し容赦ない暴行を働き、ストレス解消のためにひたすら弄ぼうというつもりなのか!?
「そこまでは、言ってないけど……」
考えが口に出てしまっていたのか、柚子が苦笑する。
「し、しかしいくらなんでもそこまで憎まれるいわれはないぞ! 理不尽だっ!」
「そーかなー?」
「無理矢理脅迫して戦車道やらせたり」
「あ、あれは我々みんなで」
「自分で作戦立てといて姑息な作戦だとかケチつけたり」
「どんな近距離でも砲撃外すしね~」
「うぐ」
「すぐ威張るし」
「成績悪いし」
「水着はやたら攻め過ぎだし」
「そ、そんなぁぁ……」
そんなにたくさん憎まれる心当たりがあったなんて、今まで気づかなかった……!
「助けて柚子ちゃぁぁん! 西住に、あいつに生きたボコにされるぅぅ……!」
泣きわめく私の頭を柚子ちゃんが撫でてくれた。
「あはは……ごめんね桃ちゃん、言い過ぎちゃった」
「そんなに気になるなら、西住ちゃんに直接聞いてみればいいんじゃん?」
会長も、そんな貴重なアドバイスをくれたのだった。
134: 2016/05/03(火) 21:01:24.41 ID:D694VJP/0
その次の練習の後、私は早速西住に声を掛けることにした。
兵は拙速を尊ぶというし、何よりこんな問題放置していたら、怖くて夜眠れなくなっちゃうじゃないか!
「西住ぃ!」
「ひっ!? か、河嶋先輩……どうしたんですか、そんなに目を血走らせて」
「おまえと二人っきりで話がしたい。私と西住、二人の仲に関わる、非常に重大な案件だ。格納庫裏に行くぞっ」
「えっあの、急に何のお話で……そんなに引っ張らないでくださいぃ……!」
「うそっ……今のって……」「桃ちゃん先輩が、西住隊長のことを!?」「きゃーっ、みんな見てる中で声掛けるなんて大胆!」「いや、あれは単に周りが見えてないだけなんじゃないか」
などという声が聞こえた気がするが、私にとってはそれどころではない。
◇◇◇
「西住! 私がボコみたいとかいう、あの言葉の真意は何なんだ!? 教えてくれっ」
「へ? 河嶋先輩がボコ? あ、ああ……なるほど」
私に引っ張って来られて何故か顔を真っ赤にしていた西住は、それでようやく合点がいったかのように頷いた。
「や、やっぱり……私を生きたボコとして監禁するつもりなのか!? これまでのことは謝る! おまえに無責任なことを言ったり、重荷を背負わせたりして悪かった! だから許してくれぇぇ……!」
「なななんですか生きたボコって! あ、あの、取りあえず涙を拭いてください、そんなんじゃありませんから」
「うう……ぐすっ……じゃあどういう意味なんだよぅ……」
差し出されたハンカチで涙を拭いながら尋ねると、
「私、尊敬してるんです。河嶋先輩のこと」
そんな思いもよらない言葉が返って来たのだった。
兵は拙速を尊ぶというし、何よりこんな問題放置していたら、怖くて夜眠れなくなっちゃうじゃないか!
「西住ぃ!」
「ひっ!? か、河嶋先輩……どうしたんですか、そんなに目を血走らせて」
「おまえと二人っきりで話がしたい。私と西住、二人の仲に関わる、非常に重大な案件だ。格納庫裏に行くぞっ」
「えっあの、急に何のお話で……そんなに引っ張らないでくださいぃ……!」
「うそっ……今のって……」「桃ちゃん先輩が、西住隊長のことを!?」「きゃーっ、みんな見てる中で声掛けるなんて大胆!」「いや、あれは単に周りが見えてないだけなんじゃないか」
などという声が聞こえた気がするが、私にとってはそれどころではない。
◇◇◇
「西住! 私がボコみたいとかいう、あの言葉の真意は何なんだ!? 教えてくれっ」
「へ? 河嶋先輩がボコ? あ、ああ……なるほど」
私に引っ張って来られて何故か顔を真っ赤にしていた西住は、それでようやく合点がいったかのように頷いた。
「や、やっぱり……私を生きたボコとして監禁するつもりなのか!? これまでのことは謝る! おまえに無責任なことを言ったり、重荷を背負わせたりして悪かった! だから許してくれぇぇ……!」
「なななんですか生きたボコって! あ、あの、取りあえず涙を拭いてください、そんなんじゃありませんから」
「うう……ぐすっ……じゃあどういう意味なんだよぅ……」
差し出されたハンカチで涙を拭いながら尋ねると、
「私、尊敬してるんです。河嶋先輩のこと」
そんな思いもよらない言葉が返って来たのだった。
135: 2016/05/03(火) 21:03:25.75 ID:D694VJP/0
尊敬って、どういうことだ。
私は砲撃も当たらないし、会長たちに比べるとちょっとだけだけど成績も悪いし、何より今までさんざん西住には辛く当たってきたというのに……
「だって、河嶋先輩は……どんなときでも大洗を守ろうとして一生懸命だったじゃないですか。廃校が決まってみんなが希望を失ってた時も、最後まで諦めないで頑張ってたじゃないですか。私、そんな先輩を見て……」
──すっごく、格好いいなって思ったんです。
そんなことを言われた。
生まれて初めて、そんなことを言われた。
「ボコはアニメのキャラクターで、ぬいぐるみだから……いくらボコボコにされても、包帯巻くだけでまた立ち上がれるけど……私たちは人間だから。傷つけられたら、痛くて苦しい思いをしたら、もう起き上がりたくない、逃げちゃいたいと思うのが普通だと思うんです」
現に私もそうでしたし、と、西住は俯いてから。
「だから、先輩はすごいんです。私も先輩みたいに負けないで頑張りたいって、あの時思ったから。だからつい、そんなことを言っちゃって……」
誤解させてごめんなさい、と両手を合わせる西住の笑顔を、沈みゆく夕日が照らし出していて……なんだかとても眩しく見えた。
私は砲撃も当たらないし、会長たちに比べるとちょっとだけだけど成績も悪いし、何より今までさんざん西住には辛く当たってきたというのに……
「だって、河嶋先輩は……どんなときでも大洗を守ろうとして一生懸命だったじゃないですか。廃校が決まってみんなが希望を失ってた時も、最後まで諦めないで頑張ってたじゃないですか。私、そんな先輩を見て……」
──すっごく、格好いいなって思ったんです。
そんなことを言われた。
生まれて初めて、そんなことを言われた。
「ボコはアニメのキャラクターで、ぬいぐるみだから……いくらボコボコにされても、包帯巻くだけでまた立ち上がれるけど……私たちは人間だから。傷つけられたら、痛くて苦しい思いをしたら、もう起き上がりたくない、逃げちゃいたいと思うのが普通だと思うんです」
現に私もそうでしたし、と、西住は俯いてから。
「だから、先輩はすごいんです。私も先輩みたいに負けないで頑張りたいって、あの時思ったから。だからつい、そんなことを言っちゃって……」
誤解させてごめんなさい、と両手を合わせる西住の笑顔を、沈みゆく夕日が照らし出していて……なんだかとても眩しく見えた。
136: 2016/05/03(火) 21:06:41.68 ID:D694VJP/0
「ふう、それにしても安心したぞ……」
「あはは、でもヒドイです。私がそんな怖い人だって思われてたなんて」
「その、すまん。それについては謝罪するから……!」
「じゃあ、その罰と言うことで……1つお願い、聞いてもらっていいですか?」
「な、何だっ?」
こんどこそとんでもないお願いが来るのではないかと身構える私に、
「これからは河嶋先輩じゃなくって、桃ちゃん先輩って呼んでもいいですか?」
「何ぃ!?」
「だって、桃ちゃんって可愛い名前ですし♡ ……小山先輩や1年生が呼んでるの、うらやましかったんです」
西住は照れた表情で、そんな要求を突き付けてきたのだった。
◇◇◇
格納庫に戻ると、何故か隊員たちの視線が集中した。
「ええい、何をやっている! さっさと整備点検して撤収せんか!」
と一喝したのだが、逆に取り囲まれてしまった。
「広報殿、首尾はどうだったんだ!?」
「隊長とうまくいったんですか? いっちゃったんですか!?」
「気になって整備どころじゃないよ~!」
なんだなんだ。西住は西住で、あんこうの連中に囲まれて何やら詰問されているようだし。
「ええい、何だかわからんが、西住と私の仲には、何の問題もない! 順風満帆だ!」
騒ぎを鎮めるためにそう力強く宣言すると、何故かニヤニヤしている会長と頭を抱えている柚子を残して、ようやくその場は息を呑んだように静まり返ったのだった。
やれやれ、これで今日からは安心して眠れそうだ。一件落着、だな!
「あはは、でもヒドイです。私がそんな怖い人だって思われてたなんて」
「その、すまん。それについては謝罪するから……!」
「じゃあ、その罰と言うことで……1つお願い、聞いてもらっていいですか?」
「な、何だっ?」
こんどこそとんでもないお願いが来るのではないかと身構える私に、
「これからは河嶋先輩じゃなくって、桃ちゃん先輩って呼んでもいいですか?」
「何ぃ!?」
「だって、桃ちゃんって可愛い名前ですし♡ ……小山先輩や1年生が呼んでるの、うらやましかったんです」
西住は照れた表情で、そんな要求を突き付けてきたのだった。
◇◇◇
格納庫に戻ると、何故か隊員たちの視線が集中した。
「ええい、何をやっている! さっさと整備点検して撤収せんか!」
と一喝したのだが、逆に取り囲まれてしまった。
「広報殿、首尾はどうだったんだ!?」
「隊長とうまくいったんですか? いっちゃったんですか!?」
「気になって整備どころじゃないよ~!」
なんだなんだ。西住は西住で、あんこうの連中に囲まれて何やら詰問されているようだし。
「ええい、何だかわからんが、西住と私の仲には、何の問題もない! 順風満帆だ!」
騒ぎを鎮めるためにそう力強く宣言すると、何故かニヤニヤしている会長と頭を抱えている柚子を残して、ようやくその場は息を呑んだように静まり返ったのだった。
やれやれ、これで今日からは安心して眠れそうだ。一件落着、だな!



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